(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】ボイラ制御システムおよびボイラ制御方法
(51)【国際特許分類】
F22B 37/56 20060101AFI20241108BHJP
F22B 37/38 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
F22B37/56 A
F22B37/38 C
(21)【出願番号】P 2021064886
(22)【出願日】2021-04-06
【審査請求日】2023-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】田口 大樹
(72)【発明者】
【氏名】稲田 教介
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 晋也
【審査官】柳本 幸雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-031154(JP,A)
【文献】特開2009-139047(JP,A)
【文献】米国特許第04938174(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F22B 37/56
F22B 37/38
F22B 37/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイラ給水の水質情報を時間的に連続して測定するセンサーを備え、
前記センサーで得られた前記水質情報である測定水質情報及び前記測定水質情報から推定される推定水質情報に基づいて、時間的に連続してブロー率を設定
し、
前記測定水質情報が、pH、電気伝導度、全硬度、および酸消費量であり、
前記推定水質情報が塩化物イオン濃度であり、
前記pH、前記電気伝導度、前記全硬度、および前記酸消費量に基づいて、前記塩化物イオン濃度を推定する、ボイラ制御システム。
【請求項2】
前記ブロー率の設定に用いる前記測定水質情報及び前記推定水質情報の更新タイミングが、前記測定水質情報の種類毎に設定される、請求項1に記載のボイラ制御システム。
【請求項3】
前記電気伝導度および前記pHの測定間隔が、前記全硬度および前記酸消費量の測定間隔より短い、請求項
1に記載のボイラ制御システム。
【請求項4】
前記pH,前記電気伝導度、前記全硬度、および前記酸消費量から、前記ボイラ給水中のイオンの電荷量に関する式とボイラ給水の電気伝導度に関する式とを用い、前記塩化物イオン濃度を算出する、請求項
1に記載のボイラ制御システム。
【請求項5】
前記ボイラ給水中の前記全硬度に寄与する陽イオン以外の陽イオンである、その他陽イオンがすべてナトリウムイオンであり、
前記ボイラ給水中の前記酸消費量に寄与する陰イオン以外の陰イオンである、その他陰イオンが塩化物イオンおよび硫酸イオンとしたときに、下記(1)式と下記(2)式を用い、前記塩化物イオン濃度を推定する、請求項
4に記載のボイラ制御システム。
全硬度に寄与するイオンの電荷+その他陽イオンの電荷=酸消費量に寄与するイオンの電荷+その他陰イオンの電荷・・・・・(1)
ボイラ給水の電気伝導度=全硬度に寄与する陽イオンの電気伝導度+酸消費量に寄与するイオンの電気伝導度+その他陽イオンの電気伝導度+その他陰イオンの電気伝導度・・・・・(2)
ここで、上記(1)式中の各イオンの電荷は、各イオンの濃度(mg/L)/1当量(g/eq)であり、上記(2)式中の各イオンの電気伝導度は、各イオン濃度(mg/L)×1mg/L当たりの伝導率((μS/cm)/(mg/L))である。
【請求項6】
前記全硬度に寄与するイオンがカルシウムイオンのみとして、前記全硬度からカルシウムイオン濃度を算出し、
前記pHに基づきCO
3
2-、HCO
3
-、H
2CO
3の存在割合を決定し、
前記酸消費量に寄与するイオンはCO
3
2-およびHCO
3
-として、
前記存在割合と前記酸消費量とからCO
3
2-の濃度およびHCO
3
-の濃度を算出し、
ボイラ給水の塩化物イオンおよび硫酸イオンの濃度データを基に、前記塩化物イオンおよび前記硫酸イオンの割合を決定し、
下記(3)式と下記(4)式と前記塩化物イオンおよび硫酸イオンの割合とから前記塩化物イオン濃度を推定する、請求項
5に記載のボイラ制御システム。
Ca
2+の電荷+Na
+の電荷=CO
3
2-の電荷+HCO
3
-の電荷+Cl
-の電荷+SO
4
2-の電荷・・・・・(3)
ボイラ給水の電気伝導度=Ca
2+の電気伝導度+Na
+の電気伝導度+CO
3
2-の電気伝導度+HCO
3
-の電気伝導度+Cl
-の電気伝導度+SO
4
2-の電気伝導度・・・・・(4)
ここで、上記(3)式中の各イオンの電荷は、各イオンの濃度(mg/L)/1当量(g/eq)であり、上記(4)式中の各イオンの電気伝導度は、各イオン濃度(mg/L)×1mg/L当たりの伝導率((μS/cm)/(mg/L))である。
【請求項7】
前記塩化物イオンおよび前記硫酸イオンの割合を決定するための前記ボイラ給水の塩化物イオンおよび硫酸イオンの濃度データの測定間隔が、前記電気伝導度、前記pH、前記全硬度、および前記酸消費量のそれぞれの測定間隔よりも長い、請求項
6に記載のボイラ制御システム。
【請求項8】
前記全硬度が所定の閾値を超えたときに、メンテナンス情報を発する、請求項
1~
7のいずれか1項に記載のボイラ制御システム。
【請求項9】
前記ブロー率に応じて、前記ボイラ給水に対する薬注量を設定する、請求項1~
8のいずれか1項に記載のボイラ制御システム。
【請求項10】
ボイラ給水の水質情報を時間的に連続して測定するセンサーで得られた前記水質情報である測定水質情報及び前記
測定水質情報から推定される推定水質情報に基づいて、時間的に連続してブロー率を設定
し、
前記測定水質情報が、pH、電気伝導度、全硬度、および酸消費量であり、
前記推定水質情報が塩化物イオン濃度であり、
前記pH、前記電気伝導度、前記全硬度、および前記酸消費量に基づいて、前記塩化物イオン濃度を推定する、ボイラ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラ制御システムおよびボイラ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボイラの缶水は、蒸発に伴い、水中の不純物が濃縮する。濃縮が進むとスケール生成などの問題が生じるので、連続的もしくは間欠的に缶水の一部を排出するブローを行い、濃縮倍数(濃縮度)を低下させる必要がある。
【0003】
一般に、ボイラ給水量に対するブロー水流量の割合(ブロー率)が一定になるようにブロー水流量を調整する。ブロー率は一般にボイラ缶水の水質が一定になるように設定される。
【0004】
ブロー率を制御する方法として、特許文献1には、水質管理項目として、電気伝導率、塩化物イオン濃度、硫酸イオン濃度、及びシリカ濃度から選ばれる少なくとも1つについて、ボイラ水の管理基準値を設定しておき、補給水のNaイオン濃度、及び前記選ばれた水質管理項目の値を測定しておくと共に、給水のNaイオン濃度を測定し、この給水のNaイオン濃度と補給水のNaイオン濃度とから給水中における前記水質管理項目の値を演算し、その中から、最も低い濃縮倍数にて前記管理基準値を逸脱することになる1つの水質管理項目を選択し、ボイラ水中のこの選択された水質管理項目の値が前記管理基準値の範囲内となるようにブロー制御を行うことを特徴とするボイラ水系におけるブロー制御方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
新興国などでは、原水の水質が安定しておらず、大きく変動する。加えて、低圧ボイラ設備用の軟水装置等の水処理設備の管理も十分ではない。そのため、ボイラ給水の水質が大きく変動する。
【0007】
ブロー率の算出に用いる一部のイオン(例えば、塩化物イオン)は、ボイラ給水中のイオンの干渉により、連続的に濃度計測することが難しい。原水の水質が安定しない新興国において、特許文献1の方法では、ブロー率の算出に用いる一部のイオン濃度の連続測定が困難であるため、ブロー率を精度高く算出しにくいという問題がある。
【0008】
また、通常、ボイラーブロー率(=1/濃縮倍率)は給水中の各種水質成分に基づき設定される。具体的には、1年間の毎月の測定データの中から、最も水質が悪化した際のデータに基づいて、ブロー率が決定される。原水の水質が安定していない新興国の場合、常時高いブロー率が設定されるため、熱ロスが大きく経済性が悪い運転となっている。
【0009】
本発明は、上記の課題を鑑みてなされた発明であり、原水の水質が安定しない場合においても、高い精度でブロー率を算出できる、ボイラ制御システムおよびボイラ制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の要旨は以下のとおりである。
<1> 本発明の一態様に係るボイラ制御システムは、ボイラ給水の水質情報を時間的に連続して測定するセンサーを備え、前記センサーで得られた前記水質情報である測定水質情報及び前記測定水質情報から推定される推定水質情報に基づいて、時間的に連続してブロー率を設定し、
前記測定水質情報が、pH、電気伝導度、全硬度、および酸消費量であり、
前記推定水質情報が塩化物イオン濃度であり、
前記pH、前記電気伝導度、前記全硬度、および前記酸消費量に基づいて、前記塩化物イオン濃度を推定する。
<2> 上記<1>に記載のボイラ制御システムは、前記ブロー率の設定に用いる前記測定水質情報及び前記推定水質情報の更新タイミングが、前記測定水質情報の種類毎に設定されてもよい。
<3> 上記<1>に記載のボイラ制御システムは、前記電気伝導度および前記pHの測定間隔が、前記全硬度および前記酸消費量の測定間隔より短くてもよい。
<4> 上記<1>に記載のボイラ制御システムは、前記pH,前記電気伝導度、前記全硬度、および前記酸消費量から、前記ボイラ給水中のイオンの電荷量に関する式とボイラ給水の電気伝導度に関する式とを用い、前記塩化物イオン濃度を算出してもよい。
<5> 上記<4>に記載のボイラ制御システムは、前記ボイラ給水中の前記全硬度に寄与する陽イオン以外の陽イオンである、その他陽イオンがすべてナトリウムイオンであり、前記ボイラ給水中の前記酸消費量に寄与する陰イオン以外の陰イオンである、その他陰イオンが塩化物イオンおよび硫酸イオンとしたときに、下記(1)式と下記(2)式を用い、前記塩化物イオン濃度を推定してもよい。
全硬度に寄与するイオンの電荷+その他陽イオンの電荷=酸消費量に寄与するイオンの電荷+その他陰イオンの電荷・・・・・(1)
ボイラ給水の電気伝導度=全硬度に寄与する陽イオンの電気伝導度+酸消費量に寄与するイオンの電気伝導度+その他陽イオンの電気伝導度+その他陰イオンの電気伝導度・・・・・(2)
ここで、上記(1)式中の各イオンの電荷は、各イオンの濃度(mg/L)/1当量(g/eq)であり、上記(2)式中の各イオンの電気伝導度は、各イオン濃度(mg/L)×1mg/L当たりの伝導率((μS/cm)/(mg/L))である。
<6> 上記<5>に記載のボイラ制御システムは、前記全硬度に寄与するイオンがカルシウムイオンのみとして、前記全硬度からカルシウムイオン濃度を算出し、前記pHに基づきCO3
2-、HCO3
-、H2CO3の存在割合を決定し、前記酸消費量に寄与するイオンはCO3
2-およびHCO3
-として、前記存在割合と前記酸消費量とからCO3
2-の濃度およびHCO3
-の濃度を算出し、ボイラ給水の塩化物イオンおよび硫酸イオンの濃度データを基に、前記塩化物イオンおよび前記硫酸イオンの割合を決定し、下記(3)式と下記(4)式と前記塩化物イオンおよび硫酸イオンの割合とから前記塩化物イオン濃度を推定してもよい。
Ca2+の電荷+Na+の電荷=CO3
2-の電荷+HCO3
-の電荷+Cl-の電荷+SO4
2-の電荷・・・・・(3)
ボイラ給水の電気伝導度=Ca2+の電気伝導度+Na+の電気伝導度+CO3
2-の電気伝導度+HCO3
-の電気伝導度+Cl-の電気伝導度+SO4
2-の電気伝導度・・・・・(4)
ここで、上記(3)式中の各イオンの電荷は、各イオンの濃度(mg/L)/1当量(g/eq)であり、上記(4)式中の各イオンの電気伝導度は、各イオン濃度(mg/L)×1mg/L当たりの伝導率((μS/cm)/(mg/L))である。
<7> 上記<6>に記載のボイラ制御システムは、前記塩化物イオンおよび前記硫酸イオンの割合を決定するための前記ボイラ給水の塩化物イオンおよび硫酸イオンの濃度データの測定間隔が、前記電気伝導度、前記pH、前記全硬度、および前記酸消費量のそれぞれの測定間隔よりも長くてもよい。
<8> 上記<1>~<7>のいずれか1つに記載のボイラ制御システムは、前記全硬度が所定の閾値を超えたときに、メンテナンス情報を発してもよい。
<9> 上記<1>~<8>のいずれか1つに記載のボイラ制御システムは、前記ブロー率に応じて、前記ボイラ給水に対する薬注量を設定してもよい。
<10> 本発明の一態様に係るボイラ制御方法は、ボイラ給水の水質情報を時間的に連続して測定するセンサーで得られた前記水質情報である測定水質情報及び前記測定水質情報から推定される推定水質情報に基づいて、時間的に連続してブロー率を設定し、
前記測定水質情報が、pH、電気伝導度、全硬度、および酸消費量であり、
前記推定水質情報が塩化物イオン濃度であり、
前記pH、前記電気伝導度、前記全硬度、および前記酸消費量に基づいて、前記塩化物イオン濃度を推定する。
<11> 上記<10>に記載のボイラ制御方法は、前記ブロー率の設定に用いる前記測定水質情報の更新タイミングが、前記測定水質情報の種類毎に設定されてもよい。
<12> 上記<10>に記載のボイラ制御方法は、前記電気伝導度および前記pHの測定間隔が、前記全硬度および前記酸消費量の測定間隔より短くてもよい。
<13> 上記<10>に記載のボイラ制御方法は、前記pH,前記電気伝導度、前記全硬度、および前記酸消費量から、電荷量に関する式と電気伝導度に関する式とを用い、前記塩化物イオン濃度を算出してもよい。
<14> 上記<13>に記載のボイラ制御方法は、前記ボイラ給水中の前記全硬度に寄与する陽イオン以外のその他陽イオンがすべてナトリウムイオンであり、前記ボイラ給水中の前記酸消費量に寄与する陰イオン以外のその他陰イオンが塩化物イオンおよび硫酸イオンとしたときに、下記(5)式と下記(6)式を用い、前記塩化物イオン濃度を推定してもよい。
全硬度に寄与するイオンの電荷+その他陽イオンの電荷=酸消費量に寄与するイオンの電荷+その他陰イオンの電荷・・・・・(5)
ボイラ給水の電気伝導度=全硬度に寄与するイオンの電気伝導度+酸消費量に寄与するイオンの電気伝導度+その他陽イオンの電気伝導度+その他陰イオンの電気伝導度・・・・・(6)
ここで、上記(5)式中の各イオンの電荷は、各イオンの濃度(mg/L)/1当量(g/eq)であり、上記(6)式中の各イオンの電気伝導度は、各イオン濃度(mg/L)×1mg/L当たりの伝導率((μS/cm)/(mg/L))である。
<15> 上記<14>に記載のボイラ制御方法は、前記全硬度に寄与するイオンがカルシウムイオンのみとして、前記全硬度からカルシウムイオン濃度を算出し、前記pHに基づきCO3
2-、HCO3
-、H2CO3の存在割合を決定し、前記酸消費量に寄与するイオンはCO3
2-およびHCO3
-として、前記存在割合と前記酸消費量とからCO3
2-の濃度およびHCO3
-の濃度を算出し、ボイラ給水の塩化物イオンおよび硫酸イオンの濃度データを基に、前記塩化物イオンおよび前記硫酸イオンの割合を決定し、下記(7)式と下記(8)式と前記塩化物イオンおよび硫酸イオンの割合とから前記塩化物イオン濃度を推定してもよい。
Ca2+の電荷+Na+の電荷=CO3
2-の電荷+HCO3
-の電荷+Cl-の電荷+SO4
2-の電荷・・・・・(7)
ボイラ給水の電気伝導度=Ca2+の電気伝導度+Na+の電気伝導度+CO3
2-の電気伝導度+HCO3
-の電気伝導度+Cl-の電気伝導度+SO4
2-の電気伝導度・・・・・(8)
ここで、上記(7)式中の各イオンの電荷は、各イオンの濃度(mg/L)/1当量(g/eq)であり、上記(8)式中の各イオンの電気伝導度は、各イオン濃度(mg/L)×1mg/L当たりの伝導率((μS/cm)/(mg/L))である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の上記態様によれば、原水の水質が安定しない場合においても、高い精度でブロー率を算出できる、ボイラ制御システムおよびボイラ制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るボイラ制御システムの模式図である。
【
図2】本発明の第2実施形態に係るボイラ制御システムの模式図である。
【
図3】本発明の第1実施形態に係るボイラ制御システムを用いて推定した塩化物イオン濃度と実際に測定された塩化物濃度とを比較した図である。
【
図4】本発明の第1実施形態に係るボイラ制御システムを用いて推定したブロー率と従来方法によるブロー率とを比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<第1実施形態>
図1に示すように、第1実施形態に係るボイラ制御システム100は、ボイラ給水センサー1、制御部2、ブロー水流量調整弁3、およびボイラ給水流量計4を備える。
【0014】
(ボイラ給水センサー)
ボイラ給水センサー1は、ボイラ給水の水質情報を時間的に連続して測定するセンサーである。ボイラ給水は、水処理設備20で原水を処理した後の水である。ここで、「時間的に連続して測定する」とは、ボイラ給水のpH、電気伝導度、全硬度、酸消費量などのパラメータをパラメータ毎(水質情報の種類毎)に連続して測定することを意味し、pHの測定後に、電気伝導度を測定するなど、パラメータを順番で測定することを意味しない。本発明における「時間的に連続して測定する」とは、所定の測定間隔で測定することを意味する。所定の測定間隔としては、例えば、1日以内である。晴天雨天などの天候等で水質が変動することがあるが、測定間隔を1日以内とすれば、このような天候の変化などによる水質変動に対応することが可能となる。また、潮の満ち引きなどで、1日の中で水質が変動する場合がある。このような潮の満ち引きなどによる水質変動に対応するため、測定間隔を1時間以下とすることが好ましい。ボイラ給水センサー1で得られた水質情報(以下、「測定水質情報」と称する場合もある)は、制御部2に送られる。
【0015】
ボイラ給水のサンプリング方法は、ボイラ給水の測定水質情報を測定することができるのであれば、特に限定されない。例えば、水処理設備20とボイラ30とを接続する配管21の途中で分岐する配管22から、ボイラ給水の一部をサンプリングしてもよい。
【0016】
ボイラ給水センサー1で測定されるボイラ給水の測定水質情報としては、例えば、pH、電気伝導度、全硬度、酸消費量などである。ボイラ給水センサー1で測定され、ブロー率の設定に用いるボイラ給水の測定水質情報の更新タイミングは、測定水質情報の種類に設定してもよい。測定水質情報の種類毎の更新タイミング(測定間隔)は、各センサの性能、分析に必要な時間、および水質の変動を考慮して設定することができる。測定水質情報の種類毎に測定間隔を決めることで、ボイラの水質変動により追従したリアルタイム制御が可能となる。以下、各パラメータの測定方法について、説明するが、本発明は以下の方法に限定されない。
【0017】
ボイラ給水のpHは、公知の方法で測定することができる。ボイラ給水のpHの測定方法は、特に限定されないが、例えば、水素電極法、キンヒドロン電極法、アンチモン電極法、およびガラス電極法など挙げられる。ボイラ給水のpHを測定するセンサーとしては、ガラス電極法を用いたセンサーが好ましい。ボイラ給水のpHの測定間隔は、1日以内であれば特に限定されないが、例えば、1秒毎に測定してもよい。
【0018】
ボイラ給水の電気伝導度は、公知の方法で測定することができる。ボイラ給水の電気伝導度の測定方法は、特に限定されないが、例えば、交流2電極法、電磁誘導法など挙げられる。電気伝導度の測定に用いるセンサーとしては、交流2電極法を用いるセンサーが好ましい。ボイラ給水の電気伝導度の測定間隔は、1日以内であれば特に限定されないが、例えば、1秒毎に測定してもよい。
【0019】
ボイラ給水の全硬度は、公知の方法で測定することができる。ボイラ給水の全硬度の測定方法は、特に限定されないが、カルマガイト等の色素を含む試薬を試料水に添加したときの呈色反応により、硬度を検出する比色法などが挙げられる。ボイラ給水の全硬度を測定するセンサーとしては、比色法を用いるセンサーが好ましい。ボイラ給水の全硬度の測定間隔としては、1日以内であれば特に限定されないが、例えば、10分毎である。
【0020】
ボイラ給水の酸消費量は、公知の方法で測定することができる。ボイラ給水の酸消費量の測定方法は、特に限定されないが、中和滴定法、比色法などが挙げられる。ボイラ給水の酸消費量を測定するセンサーとしては、中和滴定法を用いるセンサーが好ましい。ボイラ給水の酸消費量の測定間隔としては、1日以内であれば特に限定されないが、例えば、10分毎である。
【0021】
ボイラ給水の電気伝導度およびpHの測定間隔は、ボイラ給水の全硬度および酸消費量の測定間隔より短くてもよい。電気伝導度およびpHの測定間隔をボイラ給水の全硬度および酸消費量の測定間隔より短くすることで、測定間隔が長い全硬度および酸消費量を用いても高い精度で連続して後述する推定水質情報を推定することができる。測定間隔が短ければ短いほど、測定データを保存する記憶部の容量を大きくする必要性が生じたり、演算負荷が増えるなどの制御部2の処理負担が大きくなったりするが、測定水質情報の種類毎にその特色に応じて測定間隔を変えることで、制御部2の余分な負担なく、高い精度で連続して推定水質情報を推定することができる。
【0022】
(制御部)
制御部2は、ボイラ給水センサー1から送られたボイラ給水の測定水質情報に基づいて、推定水質情報を推定する。また、制御部2は、ボイラ給水センサー1で測定された測定水質情報および制御部2で推定された推定水質情報に基づいてブロー率を時間的に連続して設定する。本発明における「時間的に連続して設定する」とは、所定の設定間隔(更新タイミング)で設定することを意味する。前述の測定間隔と同様に、所定の設定間隔を1日以内とし、ブロー率の設定を行えば、天候の変化などによる水質変動に対応することが可能である。また、設定間隔を1時間以下にすることで、潮の満ち引きなどによる水質変動に対応することが可能となる。制御部2は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory),通信装置などによって構成される。また、制御部2は、プラントの管理システムのようなボイラ制御システムであってもよい。
【0023】
制御部2は、ボイラ給水の測定水質情報およびボイラ給水の流量の情報を受け取る情報取得部(図示しない)と、情報取得部で取得したボイラ給水の測定水質情報などを記憶する記憶部(図示しない)と、ボイラ給水の推定水質情報を推定する水質情報推定部(図示しない)と、ブロー率を算出するブロー率算出部(図示しない)と、ブロー水流量を調整するブロー水流量調整部(図示しない)と、を備える。
【0024】
制御部2の情報取得部は、ボイラ給水センサー1から送られてきた測定水質情報およびボイラ給水流量計4から送られてきたボイラ給水の流量を受け取り、記憶部に送る。
【0025】
制御部2の記憶部は、ボイラ給水センサー1から送られてきた測定水質情報、ボイラ給水流量計4から送られてきた流量を記憶する。制御部2の記憶部は、記憶した測定水質情報を水質情報推定部またはブロー率算出部に送る。また、制御部2の記憶部は、水質情報推定部で推定されたボイラ給水の推定水質情報を記憶し、ブロー率算出部に送る。制御部2の記憶部は、ブロー率を算出するための測定水質情報および推定水質情報の基準値を記憶し、これらの基準値をブロー率算出部に送る。また、制御部2の記憶部は、ボイラ給水の流量をブロー水流量調整部に送る。また、制御部2の記憶部は、必要に応じて、後述するボイラ給水の塩化物イオン(Cl-)および硫酸イオン(SO4
2-)の割合データを記憶し、水質情報推定部に送る。
【0026】
制御部2の水質情報推定部は、記憶部から送られたボイラ給水の測定水質情報から別の水質情報(推定水質情報)を推定する。推定水質情報は、特に限定されないが、例えば、塩化物イオン濃度である。水質情報推定部が、ボイラ給水中の塩化物イオン濃度を推定する場合、制御部2の水質情報推定部は、pH,電気伝導度、全硬度、酸消費量に基づいて、塩化物イオン濃度を推定してもよい。制御部2の水質情報推定部は、ボイラ給水センサー1で時間的に連続して測定される測定水質情報から時間的に連続して推定水質情報を推定してもよい。
【0027】
水質情報推定部がpH,電気伝導度、全硬度、酸消費量に基づいて、ボイラ給水中の塩化物イオン濃度を推定する方法は特に限定されない。例えば、ボイラ給水中のイオンの電荷量に関する式と、ボイラ給水の電気伝導度に関する式とを用いることで、塩化物イオン濃度を推定してもよい。
【0028】
「ボイラ制御システムにおける塩化物イオン濃度の推定方法」
以下、ボイラ給水中のイオンの電荷量に関する式と、ボイラ給水の電気伝導度に関する式とを用いて、塩化物イオン濃度を推定する場合について、以下、その一例を説明する。例えば、pH7~9では、電気的に陰イオンと陽イオンとが等しくなるため、給水ボイラ中の電荷量に関する式として下記(1)式を用いることができる。また、ボイラ給水中の各イオンの電気伝導度の総和は、測定された給水ボイラの電気伝導度と等しくなるので、電気伝導度に関する式として下記(2)式を用いることができる。水質情報推定部は、下記(1)式と下記(2)式とを用いることで、塩化物イオン濃度を推定してもよい。ここで、下記(1)式中の各イオンの電荷は、各イオンの濃度(mg/L)/1当量(g/eq)であり、下記(2)式中の各イオンの電気伝導度は、各イオン濃度(mg/L)×1mg/L当たりの伝導率((μS/cm)/(mg/L))である。各イオンの当量(eq)および各イオンの1mg/L当たりの伝導率(α(係数)×当量(eq))は公知のデータを用いることができる。
全硬度に寄与するイオンの電荷+その他陽イオンの電荷=酸消費量に寄与するイオンの電荷+その他陰イオンの電荷・・・・・(1)
ボイラ給水の電気伝導度=全硬度に寄与する陽イオンの電気伝導度+酸消費量に寄与するイオンの電気伝導度+その他陽イオンの電気伝導度+その他陰イオンの電気伝導度・・・・・(2)
【0029】
上記(1)式および(2)式において、ボイラ給水中の全硬度に寄与する陽イオン以外の陽イオンである「その他陽イオン」がすべてナトリウムイオン(Na+)であり、ボイラ給水中の酸消費量に寄与する陰イオン以外の陰イオンである「その他陰イオン」が塩化物イオンおよび硫酸イオンとしてもよい。
【0030】
上記(1)式および(2)式において、ボイラ給水の全硬度に寄与するイオンがカルシウムイオンのみであるとして、全硬度からカルシウム濃度を算出してもよい。
【0031】
上記(1)式および(2)式において、ボイラ給水の酸消費量に寄与するイオンを炭酸イオン(CO3
2-)の濃度および炭酸水素イオン(HCO3
-)としてもよい。また、pHおよび酸消費量から、CO3
2-の濃度およびHCO3
-の濃度を算出してもよい。pHおよび酸消費量からCO3
2-の濃度およびHCO3
-の濃度を算出する方法は、特に限定されない。例えば、制御部2の水質情報推定部は、pHに基づき、CO3
2-、HCO3
-、H2CO3の存在割合を決定し、酸消費量と、決定したCO3
2-、HCO3
-、H2CO3の存在割合と、からCO3
2-の濃度およびHCO3
-の濃度を算出してもよい。
【0032】
pHに基づき、CO3
2-、HCO3
-、H2CO3の存在割合を決定する方法は特に限定されないが、例えば、温度とpHとCO3
2-、HCO3
-、H2CO3の存在割合との関係を示したデータに基づいて決定する方法が挙げられる。温度とpHとCO3
2-、HCO3
-、H2CO3の存在割合との関係を示したデータとしては、例えば、日本化学雑誌第76巻第11号P.104に記載の表などが挙げられる。
【0033】
制御部2の水質情報推定部は、記憶部に記憶されたボイラ給水の塩化物イオンおよび硫酸イオンの濃度データを基に、塩化物イオンおよび硫酸イオンの割合を決定してもよい。ボイラ給水の塩化物イオンおよび硫酸イオンの濃度データは特に限定されないが、例えば、第1実施形態に係るボイラ制御システムとは別に、定期測定で測定される塩化物イオンおよび硫酸イオンの濃度データであってもよいし、公知のデータであってもよい。ボイラ給水の塩化物イオンおよび硫酸イオンの濃度データは、第1実施形態のボイラ制御システムに、これらのデータを取得するための測定設備を設け、当該測定装置を用いて測定して得たデータでもよい。塩化物イオンおよび硫酸イオンの濃度の測定間隔は特に限定されず、例えば、1月毎で行ってもよい。ボイラ給水の塩化物イオンおよび硫酸イオンの割合データの測定間隔は、ボイラ給水の電気伝導度、pH、全硬度、および酸消費量のそれぞれの測定間隔より長くてもよい。pH、電気伝導度などの一部のパラメータの測定間隔を短くすることで、ボイラ給水の塩化物イオンおよび硫酸イオンの割合データの測定間隔が長くても、高い精度で塩化物イオン濃度を推定することができる。なお、塩化物イオン濃度は、最新の各パラメータの測定値およびボイラ給水の塩化物イオンおよび硫酸イオンの割合データに基づいて推定してもよい。すなわち、測定された測定水質情報と塩化物イオンおよび硫酸イオンの割合データと、が更新タイミングで更新された後の最新データに基づいて、塩化物イオン濃度を推定してもよい。
【0034】
上記(1)式及び(2)式において、ボイラ給水の全硬度に寄与するイオンがカルシウムイオンのみであるとし、ボイラ給水中の全硬度に寄与する陽イオン以外の陽イオンである「その他陽イオン」がすべてナトリウムイオンとし、ボイラ給水の酸消費量に寄与するイオンをCO3
2-の濃度およびHCO3
-とし、ボイラ給水中の酸消費量に寄与する陰イオン以外の陰イオンである「その他陰イオン」が塩化物イオンおよび硫酸イオンとすることで、下記(3)式および下記(4)式が得られる。制御部2の水質情報推定部は、下記(3)式および下記(4)式と、塩化物イオンおよび硫酸イオンの割合とから塩化物イオン濃度を算出してもよい。下記式(3)および下記(4)式の連立方程式を解くことで、高い精度で塩化物イオンの濃度を算出することができる。
Ca2+の電荷+Na+の電荷=CO3
2-の電荷+HCO3
-の電荷+Cl-の電荷+SO4
2-の電荷・・・・・(3)
ボイラ給水の電気伝導度=Ca2+の電気伝導度+Na+の電気伝導度+CO3
2-の電気伝導度+HCO3
-の電気伝導度+Cl-の電気伝導度+SO4
2-の電気伝導度・・・・・(4)
ここで、上記(3)式中の各イオンの電荷は、各イオンの濃度(mg/L)/1当量(g/eq)であり、上記(4)式中の各イオンの電気伝導度は、各イオン濃度(mg/L)×1mg/L当たりの伝導率((μS/cm)/(mg/L))である。
【0035】
制御部2のブロー率算出部は、ボイラ給水センサー1で得られた測定水質情報および水質情報推定部で推定された推定水質情報に基づいて、測定水質情報毎および推定水質情報毎のブロー率を算出する。その後、制御部2のブロー率算出部は、最もブロー率が高くなる場合を選択し、ブロー率を設定する。設定されたブロー率は、ブロー水流量調整部に送られる。ブロー率の算出に用いる、ボイラ給水の測定水質情報は、例えば、電気伝導度(μS/cm)および酸消費量(mg/L)である。また、ブロー率の算出に用いるボイラ給水の推定水質情報は、例えば、塩化物イオンである。ブロー率は、記憶部に記憶された測定水質情報および推定水質情報の基準値に基づいて算出される。例えば、電気伝導度を基に計算する場合であれば、電気伝導度の測定値を電気伝導度の基準値で割ったものが電気伝導度を基にしたブロー率となる。パラメータ毎に算出されたブロー率の中で最も値が高いものをブロー率として設定する。
【0036】
制御部2のブロー率算出部は、ボイラ給水センサー1で時間的に連続して測定される測定水質情報および水質情報推定部で推定される推定水質情報に基づいて、時間的に連続してブロー率を設定してもよい。
【0037】
制御部2のブロー水流量調整部はボイラ給水流量計4で測定されたボイラ給水の流量と、ブロー率算出部で設定したブロー率に基づいて、ブロー水流量(ボイラ給水流量×ブロー率)を計算し、ブロー水流量調整弁3の開度を制御する。
【0038】
ブロー水流量調整弁3は、制御部2のブロー水流量調整部の制御によって、開度が調整される。ブロー水流量調整弁3は、ボイラ30と接続される配管31の途中に設けられる。ブロー水流量調整弁3は、公知のものを使用することができる。ブロー水流量調整弁3を通った水は配管31を通り、ブロー水として排出される。
【0039】
ボイラ給水流量計4は、ボイラ給水の流量を測定し、制御部2に送る。ボイラ給水流量計4は、水処理設備20とボイラ30とを接続する配管21の途中に設けられる。ボイラ給水の流量の測定は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。ボイラ給水流量計4としては、例えば、超音波式流量計などが挙げられる。
【0040】
<ボイラ制御方法>
以下、第1実施形態に係るボイラ制御方法について、説明する。第1実施形態に係るボイラ制御方法は、ボイラ給水の測定水質情報を時間的に連続して測定するセンサーで得られたボイラ給水の測定水質情報及びボイラ給水の測定水質情報から推定される推定水質情報に基づいて、時間的に連続してブロー率を設定する。例えば、第1実施形態に係るボイラ制御方法は、ボイラ給水センサー1によって、測定水質情報を測定する水質情報測定工程と、ボイラ給水流量計4を用いてボイラ給水の流量を測定するボイラ給水流量測定工程と、水質情報測定工程で得られた測定水質情報から推定水質情報を推定する推定水質情報推定工程と、ボイラ給水の測定水質情報及び推定水質情報からブロー率を設定するブロー率設定工程と、設定されたブロー率とボイラ給水の流量とからブロー水流量を調整するブロー水流量調整工程と、を備える。以下、各工程について説明する。
【0041】
(水質情報測定工程)
水質情報測定工程では、原水を水処理設備20で処理した後のボイラ給水の測定水質情報をボイラ給水センサー1で測定する。例えば、ボイラ給水の配管21から分岐した配管22からボイラ給水の一部を取得し、各種測定を行う。測定で得られる測定水質情報としては、例えば、pH、電気伝導度、全硬度、および酸消費量である。
【0042】
(ボイラ給水流量測定工程)
ボイラ給水流量測定工程では、原水を水処理設備20で処理した後のボイラ給水の流量をボイラ給水流量計4で、測定する。
【0043】
(推定水質情報推定工程)
推定水質情報推定工程では、ボイラ給水センサー1で測定された水質情報に基づいて、推定水質情報を推定する。推定水質情報は、特に限定されないが、例えば、塩化物イオン濃度である。ここでは、推定水質情報として塩化物イオン濃度を算出する方法についての一例を説明する。
【0044】
ボイラ給水中の塩化物イオン濃度を推定する場合、例えば、ボイラ給水のpH,電気伝導度、全硬度、酸消費量に基づいて、塩化物イオン濃度を推定する。ボイラ給水センサー1で時間的に連続して測定される測定水質情報から時間的に連続して推定水質情報を推定してもよい。
【0045】
推定水質情報推定工程において、ボイラ給水のpH,電気伝導度、全硬度、酸消費量に基づいて、ボイラ給水中の塩化物イオン濃度を推定する方法は特に限定されない。例えば、ボイラ給水中のイオンの電荷量に関する式と、ボイラ給水の電気伝導度に関する式とを用いることで、塩化物イオン濃度を推定してもよい。
【0046】
「ボイラ制御方法における塩化物イオン濃度の推定方法」
以下、ボイラ給水中のイオンの電荷量に関する式と、ボイラ給水の電気伝導度に関する式とを用いて、塩化物イオン濃度を推定する場合について、以下、その一例を説明する。例えば、pH7~9では、電気的に陰イオンと陽イオンとが等しくなるため、給水ボイラ中の電荷量に関する式として下記(5)式を用いることができる。また、ボイラ給水中の各イオンの電気伝導度の総和は、測定された給水ボイラの電気伝導度と等しくなるので、電気伝導度に関する式として下記(6)式を用いることができる。水質情報推定部は、下記(5)式と下記(6)式とを用いることで、塩化物イオン濃度を推定してもよい。ここで、下記(5)式中の各イオンの電荷は、各イオンの濃度(mg/L)/1当量(g/eq)であり、下記(6)式中の各イオンの電気伝導度は、各イオン濃度(mg/L)×1mg/L当たりの伝導率((μS/cm)/(mg/L))である。各イオンの当量(eq)および各イオンの1mg/L当たりの伝導率(α(係数)×当量(eq))は公知のデータを用いることができる。
全硬度に寄与するイオンの電荷+その他陽イオンの電荷=酸消費量に寄与するイオンの電荷+その他陰イオンの電荷・・・・・(5)
ボイラ給水の電気伝導度=全硬度に寄与する陽イオンの電気伝導度+酸消費量に寄与するイオンの電気伝導度+その他陽イオンの電気伝導度+その他陰イオンの電気伝導度・・・・・(6)
【0047】
上記(5)式および(6)式において、ボイラ給水中の全硬度に寄与する陽イオン以外の陽イオンである「その他陽イオン」がすべてナトリウムイオンであり、ボイラ給水中の酸消費量に寄与する陰イオン以外の陰イオンである「その他陰イオン」が塩化物イオンおよび硫酸イオンとしてもよい。
【0048】
上記(5)式および(6)式において、ボイラ給水の全硬度に寄与するイオンがカルシウムイオンのみであるとして、全硬度からカルシウム濃度を算出してもよい。
【0049】
上記(5)式および(6)式において、ボイラ給水の酸消費量に寄与するイオンをCO3
2-の濃度およびHCO3
-としてもよい。また、pHおよび酸消費量から、CO3
2-の濃度およびHCO3
-の濃度を算出してもよい。pHおよび酸消費量からCO3
2-の濃度およびHCO3
-の濃度を算出する方法は、特に限定されない。例えば、制御部2の水質情報推定部は、pHに基づき、CO3
2-、HCO3
-、H2CO3の存在割合を決定し、酸消費量と、決定したCO3
2-、HCO3
-、H2CO3の存在割合と、からCO3
2-の濃度およびHCO3
-の濃度を算出してもよい。
【0050】
pHに基づき、CO3
2-、HCO3
-、H2CO3の存在割合を決定する方法は特に限定されないが、例えば、温度とpHとCO3
2-、HCO3
-、H2CO3の存在割合との関係を示したデータに基づいて決定する方法を用いることができる。
【0051】
推定水質情報推定工程において、ボイラ給水の塩化物イオンおよび硫酸イオンの濃度データを基に、塩化物イオンおよび硫酸イオンの割合を決定してもよい。ボイラ給水の塩化物イオンおよび硫酸イオンの濃度データは特に限定されないが、例えば、第1実施形態に係る制御システムとは別に、定期測定で測定される塩化物イオンおよび硫酸イオンの濃度データであってもよいし、公知のデータであってもよい。ボイラ給水の塩化物イオンおよび硫酸イオンの濃度データは、第1実施形態の制御システムに、これらのデータを取得するための測定設備を設け、当該測定装置を用いて測定して得たデータでもよい。塩化物イオンおよび硫酸イオンの濃度の測定間隔は特に限定されず、例えば、1月ごとで行ってもよい。ボイラ給水の塩化物イオンおよび硫酸イオンの割合データの測定間隔は、ボイラ給水の電気伝導度、pH、全硬度、および酸消費量のそれぞれの測定間隔よりも長くてもよい。pH、電気伝導度などの一部のパラメータの測定間隔を短くすることで、ボイラ給水の塩化物イオンおよび硫酸イオンの割合データの測定間隔が長くても、高い精度で塩化物イオン濃度を推定することができる。なお、塩化物イオン濃度は、最新の各パラメータの測定値およびボイラ給水の塩化物イオンおよび硫酸イオンの割合データに基づいて推定してもよい。すなわち、測定された水質情報と塩化物イオンおよび硫酸イオンの割合データと、が更新タイミングで更新された後の最新データに基づいて、塩化物イオン濃度を推定してもよい。
【0052】
上記(5)式及び(6)式において、ボイラ給水の全硬度に寄与するイオンがカルシウムイオンのみであるとし、ボイラ給水中の全硬度に寄与する陽イオン以外の陽イオンである「その他陽イオン」がすべてナトリウムイオンとし、ボイラ給水の酸消費量に寄与するイオンをCO3
2-の濃度およびHCO3
-とし、ボイラ給水中の酸消費量に寄与する陰イオン以外の陰イオンである「その他陰イオン」が塩化物イオンおよび硫酸イオンとすることで、下記(7)式および下記(8)式が得られる。制御部2の水質情報推定部は、下記(7)式および下記(8)式と、塩化物イオンおよび硫酸イオンの割合とから塩化物イオン濃度を算出してもよい。下記式(7)および下記(8)式を用いることで、高い精度で塩化物イオンの濃度を算出することができる。
Ca2+の電荷+Na+の電荷=CO3
2-の電荷+HCO3
-の電荷+Cl-の電荷+SO4
2-の電荷・・・・・(7)
ボイラ給水の電気伝導度=Ca2+の電気伝導度+Na+の電気伝導度+CO3
2-の電気伝導度+HCO3
-の電気伝導度+Cl-の電気伝導度+SO4
2-の電気伝導度・・・・・(8)
ここで、上記(7)式中の各イオンの電荷は、各イオンの濃度(mg/L)/1当量(g/eq)であり、上記(8)式中の各イオンの電気伝導度は、各イオン濃度(mg/L)×1mg/L当たりの伝導率((μS/cm)/(mg/L))である。
【0053】
(ブロー率設定工程)
ブロー率設定工程において、水質情報測定工程で得られた測定水質情報および推定水質情報推定工程で推定された推定水質情報に基づいて、測定水質情報毎および推定水質情報毎のブロー率を算出する。各ブロー率を算出した後は、最もブロー率が高くなる場合を選択し、ブロー率を設定する。ブロー率の算出に用いる、ボイラ給水の測定水質情報は、例えば、電気伝導度(μS/cm)および酸消費量(mg/L)である。また、ブロー率の算出に用いるボイラ給水の推定水質情報は、例えば、塩化物イオンである。ブロー率は、測定水質情報および推定水質情報の基準値に基づいて算出される。例えば、電気伝導度を基に計算する場合であれば、電気伝導度の測定値を電気伝導度の基準値で割ったものが電気伝導度を基にしたブロー率となる。
【0054】
(ブロー水流量調整工程)
ブロー水流量調整工程では、ボイラ給水流量測定工程で測定したボイラ給水の流量と、ブロー率設定工程で設定したブロー率に基づいて、ブロー水流量(ボイラ給水流量×ブロー率)を計算し、ブロー水流量調整弁3の開度を制御し、ブロー水流量を調整する。
【0055】
(作用効果)
以上説明した第1実施形態においては、ボイラ給水の水質に応じて、連続してブロー率を精度高く設定できるので、ボイラ給水の水質変動が大きい場合にも対応できる。これによって、経済性に優れたブロー水流量の制御が可能となる。
【0056】
以上、第1実施形態について詳説した。第1実施形態は、更に、全硬度が所定の閾値(例えば1mg/L)を超えたときに、メンテナンス情報(例えば原水を水処理する水処理設備のメンテナンスが必要なことを示す情報)を発する、通知部を備えていてもよい。メンテナンス情報は、例えば、メンテナンス時期などである。
【0057】
第1実施形態の水処理設備20およびボイラ30は公知のものを使用することができる。
【0058】
第1実施形態は、ブロー水のpHおよび電気伝導度を測定するブロー水センサー(図示しない)を配管31の途中に設けてもよい。ブロー水センサーを備えることで水質を連続的に監視することができる。ブロー水のpHおよび電気伝導度は、ブロー水流量調整弁3を通った後のブロー水を測定することが好ましい。
【0059】
<第2実施形態>
図2に示すように、第2実施形態に係るボイラ制御システム110は、ボイラ給水センサー1、制御部2a、ブロー水流量調整弁3、ボイラ給水流量計4、および薬注設備5を備える。以下の説明では、互いに同一又は類似の機能を有する構成に、同一の符号を付す。互いに同一又は類似の機能を有する構成については、繰り返し説明しない場合がある。
【0060】
(制御部)
制御部2aは、ボイラ給水センサー1から送られたボイラ給水の測定水質情報に基づいて、推定水質情報を推定する。また、制御部2aは、ボイラ給水センサー1で測定された測定水質情報および制御部2aで推定された推定水質情報に基づいてブロー率を時間的に連続して設定する。制御部2aは、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory),通信装置などによって構成される。
【0061】
制御部2aは、ボイラ給水の測定水質情報およびボイラ給水の流量を受け取る情報取得部(図示しない)と、情報取得部で取得したボイラ給水の測定水質情報などを記憶する記憶部(図示しない)と、ボイラ給水の推定水質情報を推定する水質情報推定部(図示しない)と、ブロー率を算出するブロー率算出部(図示しない)と、ブロー水流量を調整するブロー水流量調整部(図示しない)と、薬注量を設定する薬注量調整部(図示しない)とを備える。
【0062】
制御部2aの情報取得部は、ボイラ給水センサー1から送られてきた測定水質情報およびボイラ給水流量計4から送られてきたボイラ給水の流量を受け取り、記憶部に送る。
【0063】
制御部2aの記憶部は、ボイラ給水センサー1から送られてきた測定水質情報、ボイラ給水流量計4から送られてきた流量を記憶する。記憶した測定水質情報を水質情報推定部またはブロー率算出部に送る。また、制御部2aの記憶部は、水質情報推定部で推定されたボイラ給水の推定水質情報を記憶し、ブロー率算出部に送る。制御部2aの記憶部は、ブロー率を算出するための測定水質情報および推定水質情報の基準値を記憶し、これらの基準値をブロー率算出部に送る。制御部2aの記憶部は、ボイラ給水の流量をブロー水流量調整部に送る。また、必要に応じて、ボイラ給水の塩化物イオンおよび硫酸イオンの割合データを記憶し、水質情報推定部に送る。
【0064】
制御部2aの水質情報推定部は、記憶部から送られたボイラ給水の測定水質情報から別の水質情報(推定水質情報)を推定する。推定水質情報は、特に限定されないが、例えば、塩化物イオン濃度である。水質情報推定部が、ボイラ給水中の塩化物イオン濃度を推定する場合、制御部2aの水質情報推定部は、pH,電気伝導度、全硬度、酸消費量に基づいて、塩化物イオン濃度を推定してもよい。制御部2aの水質情報推定部は、ボイラ給水センサー1で時間的に連続して測定される測定水質情報から時間的に連続して推定水質情報を推定してもよい。
【0065】
水質情報推定部がpH,電気伝導度、全硬度、酸消費量に基づいて、ボイラ給水中の塩化物イオン濃度を推定する方法は特に限定されない。例えば、ボイラ給水中のイオンの電荷量に関する式と、ボイラ給水の電気伝導度に関する式とを用いることで、塩化物イオン濃度を推定してもよい。塩化物イオン濃度の推定には、前述のボイラ制御システムにおける塩化物イオン濃度の推定方法を用いることができる。
【0066】
制御部2aのブロー率算出部は、ボイラ給水センサー1で得られた測定水質情報および水質情報推定部で推定された推定水質情報に基づいて、測定水質情報毎および推定水質情報毎のブロー率を算出する。その後、制御部2aのブロー率算出部は、最もブロー率が高くなる場合を選択し、ブロー率を設定する。設定されたブロー率は、ブロー水流量調整部に送られる。ブロー率の算出に用いる、ボイラ給水の測定水質情報は、例えば、電気伝導度(μS/cm)および酸消費量(mg/L)である。また、ブロー率の算出に用いるボイラ給水の推定水質情報は、塩化物イオンである。ブロー率は、記憶部に記憶された測定水質情報および推定水質情報の基準値に基づいて算出される。例えば、電気伝導度を基に計算する場合であれば、電気伝導度の測定値を電気伝導度の基準値で割ったものが電気伝導度を基にしたブロー率となる。パラメータ毎に算出されたブロー率の中で最も値が高いものをブロー率として設定する。
【0067】
制御部2aのブロー率算出部は、ボイラ給水センサー1で時間的に連続して測定される測定水質情報および水質情報推定部で推定される推定水質情報に基づいて、時間的に連続してブロー率を設定する。
【0068】
制御部2aのブロー水流量調整部はボイラ給水流量計4で測定されたボイラ給水の流量と、ブロー率算出部で設定したブロー率に基づいて、ブロー水流量(ボイラ給水流量×ブロー率)を計算し、ブロー水流量調整弁3の開度を制御する。
【0069】
制御部2aの薬注量調整部は、濃縮後のボイラ缶水において要求される薬品濃度を満たすように、設定されたブロー率に応じて、ボイラ給水中の薬品濃度を算出する。制御部2aの薬注量調整部は、算出した薬品濃度にボイラ給水の水流量を乗じることにより、ボイラ給水に対する薬注量を設定する。制御部2aの薬注量調整部は、設定した薬注量に応じ、薬注設備5を制御する。
【0070】
ブロー水流量調整弁3は、制御部2aのブロー水流量調整部の制御によって、開度が調整される。ブロー水流量調整弁3は、ボイラ30と接続される配管31の途中に設けられる。ブロー水流量調整弁3は、公知のものを使用することができる。ブロー水流量調整弁3を通った水は配管31を通り、ブロー水として排出される。
【0071】
ボイラ給水流量計4は、ボイラ給水の流量を測定し、制御部2aに送る。ボイラ給水流量計4は、水処理設備20とボイラ30とを接続する配管21の途中に設けられる。ボイラ給水の流量の測定は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。ボイラ給水流量計4としては、例えば、超音波式流量計などが挙げられる。
【0072】
薬注設備5は、制御部2aの薬注量調整部の制御によって、配管22aを介しボイラ給水に薬剤を投入する。薬注設備5は公知のものを使用することができる。
【0073】
<ボイラ制御方法>
以下、第2実施形態に係るボイラ制御方法について、説明する。第2実施形態に係るボイラ制御方法は、ボイラ給水の測定水質情報を時間的に連続して測定するセンサーで得られた前記水質情報及び前記水質情報から推定される推定水質情報に基づいて、時間的に連続してブロー率を設定し、ブロー水流量を調整する。また、第2実施形態に係るボイラ制御方法は、ボイラ給水センサー1によって、測定水質情報を取得する水質情報測定工程と、ボイラ給水流量計4を用いボイラ給水の流量を測定するボイラ給水流量測定工程と、水質情報測定工程で得られた測定水質情報から推定水質情報を推定する推定水質情報推定工程と、ボイラ給水の測定水質情報及び推定水質情報からブロー率を設定するブロー率設定工程と、設定されたブロー率とボイラ給水の流量とからブロー水流量を調整する、ブロー水流量調整工程と、設定されたブロー率とボイラ給水の流量とから薬注量を設定する薬注量設定工程と、を備える。以下、各工程について説明する。
【0074】
(水質情報測定工程)
水質情報測定工程では、原水を水処理設備20で処理した後のボイラ給水の測定水質情報をボイラ給水センサー1で測定する。例えば、ボイラ給水の配管21から分岐した配管22からボイラ給水の一部を取得し、各種測定を行う。測定で得られる測定水質情報としては、例えば、pH、電気伝導度、全硬度、および酸消費量である。
【0075】
(ボイラ給水流量測定工程)
ボイラ給水流量測定工程では、原水を水処理設備20で処理した後のボイラ給水の流量をボイラ給水流量計4で、測定する。
【0076】
(推定水質情報推定工程)
推定水質情報推定工程では、ボイラ給水センサー1で測定された測定水質情報に基づいて、制御部2aは、推定水質情報を推定する。推定水質情報は、特に限定されないが、例えば、塩化物イオン濃度である。ここでは、推定水質情報として塩化物イオン濃度を算出する方法についての一例を説明する。
【0077】
ボイラ給水中の塩化物イオン濃度を推定する場合、例えば、ボイラ給水のpH,電気伝導度、全硬度、酸消費量に基づいて、塩化物イオン濃度を推定する。ボイラ給水センサー1で時間的に連続して測定される測定水質情報から時間的に連続して推定水質情報を推定してもよい。
【0078】
推定水質情報推定工程において、ボイラ給水のpH,電気伝導度、全硬度、酸消費量に基づいて、ボイラ給水中の塩化物イオン濃度を推定する方法は特に限定されない。例えば、ボイラ給水中のイオンの電荷量に関する式と、ボイラ給水の電気伝導度に関する式とを用いることで、塩化物イオン濃度を推定してもよい。塩化物イオン濃度の推定には、前述のボイラ制御方法における塩化物イオン濃度の推定方法を用いることができる。
【0079】
(ブロー率設定工程)
ブロー率設定工程において、水質情報測定工程で得られた測定水質情報および推定水質情報推定工程で推定された推定水質情報に基づいて、制御部2aは、ブロー率を算出する。ブロー率を算出した後は、最もブロー率が高くなる場合を選択し、ブロー率を設定する。ブロー率の算出に用いる、ボイラ給水の測定水質情報は、例えば、電気伝導度(μS/cm)および酸消費量(mg/L)である。また、ブロー率の算出に用いるボイラ給水の推定水質情報は、塩化物イオンである。ブロー率は、測定水質情報および推定水質情報の基準値に基づいて算出される。例えば、電気伝導度を基に計算する場合であれば、電気伝導度の測定値を電気伝導度の基準値で割ったものが電気伝導度を基にしたブロー率となる。
【0080】
(ブロー水流量調整工程)
ブロー水流量調整工程では、ボイラ給水流量測定工程で測定したボイラ給水の流量と、ブロー率設定工程で設定したブロー率に基づいて、制御部2aは、ブロー水流量(ボイラ給水流量×ブロー率)を計算し、ブロー水流量調整弁3の開度を制御し、ブロー水流量を調整する。
【0081】
(薬注量設定工程)
薬注量設定工程では、要求される薬品濃度を満たすように、ブロー率設定工程で設定したブロー率から制御部2aは、薬品濃度を算出する。制御部2aは、算出した薬品濃度に給水水量を乗じることで、投入する薬注量を算出する。制御部2aは、算出した薬注量に応じて、薬注設備5を制御し、ボイラ缶水中の薬品濃度が要求される濃度を満たすようにする。
【0082】
(作用効果)
以上説明した第2実施形態のボイラ制御システムおよびボイラ制御方法においては、ボイラ給水の水質に応じて、連続してブロー率を精度高く設定できるので、ボイラ給水の水質変動が大きい場合にも対応できる。これによって、経済性に優れたブロー水流量の制御が可能となる。また、連続して設定されたブロー率に基づいて、経済性に優れた薬注量の設定も可能となる。
【0083】
以上、本実施形態に係るボイラ制御システムおよびボイラ制御方法について詳述した。本開示に係るボイラ制御システムおよびボイラ制御方法は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨に対して、種々の変形および変更が可能である。
【実施例】
【0084】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0085】
(塩化物イオン濃度の推定)
ボイラ給水のpH(ガラス電極法、測定間隔1秒)、電気伝導度(交流2電極法、測定間隔1秒)、全硬度(比色法、測定間隔10分)、酸消費量(中和滴定法、測定間隔10分)をパラメータ毎に時間的に連続して測定し、上記(3)式および(4)式と、別途得た塩化物イオン濃度と硫酸イオン濃度のデータ(タイ国の工場の軟水水質分析で得た1月毎のデータ、すなわち測定間隔1月)と、から時間的に連続して塩化物イオン濃度を推定した。推定して得られた塩化物イオン濃度を
図3に示す。また、実際に測定された塩化物イオン濃度を
図3に示す。ここで、上記(3)式および(4)式において、全硬度からカルシウム(Ca
+)イオン濃度を算出した。また、日本化学雑誌第76巻第11号P.104に記載の表を用い、pHと温度とから、CO
3
2-、HCO
3
-、H
2CO
3の存在割合を決定し、得られた各存在割合と酸消費量とから、CO
3
2-濃度およびHCO
3
-濃度を求めた。塩化物イオン濃度と硫酸イオン濃度の割合から、硫酸イオン濃度を塩化物イオン濃度に換算し、上記(3)式と上記(4)式を満足するナトリウムイオンと塩化物イオンとを求めた。また、カルシウムイオンの当量を22g/eq、カルシウムイオンの1mg/L当たりの伝導率を2.70((μS/cm)/(mg/L))とした。塩化物イオンの当量を35.46g/eq、塩化物イオンの1mg/L当たりの伝導率を2.15((μS/cm)/(mg/L))とした。硫酸イオンの当量を48.03g/eq、硫酸イオンの1mg/L当たりの伝導率を1.67((μS/cm)/(mg/L))とした。炭酸イオンの当量を30.01g/eq、カルシウムイオンの1mg/L当たりの伝導率を2.40((μS/cm)/(mg/L))とした。炭酸水素イオンの当量を61.02g/eq、炭酸水素イオンの1mg/L当たりの伝導率を0.73((μS/cm)/(mg/L))とした。ここで、ナトリウムイオンの当量を23g/eq、ナトリウムイオンの1mg/L当たりの伝導率を2.18((μS/cm)/(mg/L))とした。
【0086】
(ブロー率の算出)
ブロー率の算出は、連続して測定される酸消費量および電気伝導度と、連続して推定される塩化物イオン濃度に基づいて算出した。具体的には、酸消費量のブロー率は、ボイラ給水の酸消費量の測定値/酸消費量の基準値から求めた。電気伝導度のブロー率は、ボイラ給水の電気伝導度の測定値/電気伝導度の基準値から求めた。塩化物イオン濃度のブロー率は、ボイラ給水の塩化物イオン濃度の推定値/塩化物イオン濃度の基準値から求めた。これらのうち、最も値が高いものをブロー率として設定した。得られた結果を
図4に示す。また、従来法で設定した場合のブロー率を
図4に示す。
【0087】
図3に示すように、本開示のボイラ制御システムを用いて推定された塩化物イオン濃度は、実際に測定された塩化物イオン濃度と高い精度で一致した。また、
図4に示したように、従来のブロー率は、1年以上にわたって最も高い値で設定され続けていた。本開示のボイラ制御システムでは、高い精度で推定水質情報(ここでは、塩化物イオン濃度)を算出しているので、ブロー率を時間的に連続して精度よく算出することができる。以上より、本開示のボイラ制御システムは、従来よりもブロー率を連続的に精度高く設定することができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本開示のボイラ制御システムおよびボイラ制御方法によれば、原水の水質が安定しない場合においても、高い精度でブロー率を算出できるので、産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0089】
1 ボイラ給水センサー、2 制御部、3 ブロー水流量調整弁、4 ボイラ給水流量計、5 薬注設備、20 水処理設備、21,22 配管、30 ボイラ、31 配管 100 ボイラ制御システム。