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特許7584349カラーフィルタ用顔料組成物の製造方法、及びカラーフィルタ用着色組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】カラーフィルタ用顔料組成物の製造方法、及びカラーフィルタ用着色組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 17/00 20060101AFI20241108BHJP
   C09B 67/20 20060101ALI20241108BHJP
   C09B 67/22 20060101ALI20241108BHJP
   C09B 48/00 20060101ALI20241108BHJP
   C09B 25/00 20060101ALI20241108BHJP
   G02B 5/20 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
C09D17/00
C09B67/20 H
C09B67/20 L
C09B67/20 F
C09B67/22 F
C09B48/00 Z
C09B25/00 B
G02B5/20 101
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021072235
(22)【出願日】2021-04-22
(65)【公開番号】P2022166873
(43)【公開日】2022-11-04
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】興津 寛幸
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-109487(JP,A)
【文献】特開2008-50420(JP,A)
【文献】特開2019-86753(JP,A)
【文献】特開2017-125085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D、C09B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キナクリドン系顔料と、スルホン化キノフタロン色素、スルホン化キノフタロン色素の金属塩、及びスルホン化キノフタロン色素のアミン塩からなる群より選択される少なくとも一種のキノフタロン色素誘導体とを、分散媒体に分散させた状態で混合する工程を有し、
前記分散媒体が、水の含有量が50質量%以上の液媒体であるカラーフィルタ用顔料組成物の製造方法。
【請求項2】
前記分散媒体に分散させた状態の前記キナクリドン系顔料と前記キノフタロン色素誘導体とを、0~100℃で混合する請求項1に記載のカラーフィルタ用顔料組成物の製造方法。
【請求項3】
前記キナクリドン系顔料とキナクリドン顔料誘導体をソルベントソルトミリング処理する工程をさらに有し、
前記キナクリドン顔料誘導体が、フタルイミドアルキル化キナクリドンである請求項1又は2に記載のカラーフィルタ用顔料組成物の製造方法。
【請求項4】
前記キナクリドン系顔料が、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド202、C.I.ピグメントレッド207、及びC.I.ピグメントレッド209からなる群より選択される少なくとも一種である請求項1~3のいずれか一項に記載のカラーフィルタ用顔料組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法によって製造されたカラーフィルタ用顔料組成物、前記キナクリドン系顔料を分散させるための高分子分散剤、バインダー樹脂、及び有機溶剤を含有する混合物を分散する工程を有するカラーフィルタ用着色組成物の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カラーフィルタ用顔料組成物の製造方法、カラーフィルタ用顔料組成物、及びカラーフィルタ用着色組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なカラー液晶表示装置では、液晶を駆動させるための透明電極が蒸着又はスパッタリングによってカラーフィルタの上に形成されているとともに、さらにその上に液晶を一定方向に配向させるための配向膜が形成されている。透明電極及び配向膜の性能を高めるには、カラーフィルタを形成する製造工程において、200℃以上、好ましくは230℃以上の高温で処理することが必要とされている。このため、カラーフィルタは、耐光性及び耐熱性に優れた顔料を使用し、このような顔料を顔料分散法と呼ばれる方法により分散させた着色剤を用いて形成することが主流となっている。
【0003】
しかし、分散させた顔料を用いて形成したカラーフィルタについては、顔料による光の散乱等によって液晶が制御した偏光度合いを乱してしまうといった問題があった。すなわち、光を遮断するとき(OFF状態)に光が漏れたり、光を透過させるとき(ON状態)に透過光が減衰したりするので、ON状態とOFF状態における表示装置上の輝度の比(コントラスト比)が低下することがあった。
【0004】
近年、カラーフィルタの高輝度化及び高コントラスト化を実現すべく、微細化処理した顔料をフィルタセグメントに含有させることが多い。一般的な顔料は、化学反応によって得られた粒子径10~100μmのクルード状態のものを顔料化処理した、一次粒子と、一次粒子の凝集物である二次粒子との混合物である。このような顔料を種々の微細化処理方法によって微細化しても、微細化した顔料は一般的に凝集しやすい。そして、微細化しすぎた顔料の一次粒子や二次粒子は、巨大な塊状の顔料固形物を形成しやすくなる。さらに、樹脂等を含有する担体中に微細化した顔料を分散させ、可能な限り一次粒子にまで近づけて安定化させようとしても、分散安定性の良好な顔料組成物や着色組成物を得ることは困難であった。
【0005】
キナクリドン系顔料を含有する顔料分散体は、従来、カラーフィルタ用の赤色着色組成物に用いられており、近年、高色再現性の観点から再び注目を浴びている。但し、分散安定性を確保することが困難であったため、色素誘導体等を用いて分散安定性を改良する方法がこれまでに提案されていた(特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-38061号公報
【文献】特開2019-109487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1及び2で提案された方法であっても、得られる着色組成物の分散安定性は必ずしも優れているとはいえず、さらなる改善の余地があった。また、得られる着色組成物を用いて形成したカラーフィルタのコントラスト比についても必ずしも十分であるとはいえず、さらなる改良が要求されていた。
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、キナクリドン系顔料の分散安定性に優れているとともに、コントラスト比の高い赤色画素を形成しうるカラーフィルタ用の着色組成物を調製可能なカラーフィルタ用顔料組成物の製造方法を提供することにある。
【0009】
また、本発明の課題とするところは、上記の製造方法によって製造される、キナクリドン系顔料の分散安定性に優れているとともに、コントラスト比の高い赤色画素を形成しうるカラーフィルタ用の着色組成物を調製可能なカラーフィルタ用顔料組成物を提供することにある。さらに、本発明の課題とするところは、上記のカラーフィルタ用顔料組成物を用いて得られる、キナクリドン系顔料の分散安定性に優れているとともに、コントラスト比の高い赤色画素を形成しうるカラーフィルタ用着色組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明によれば、以下に示すカラーフィルタ用顔料組成物の製造方法が提供される。
[1]キナクリドン系顔料と、スルホン化キノフタロン色素、スルホン化キノフタロン色素の金属塩、及びスルホン化キノフタロン色素のアミン塩からなる群より選択される少なくとも一種のキノフタロン色素誘導体とを、分散媒体に分散させた状態で混合する工程を有し、前記分散媒体が、水を主成分とする液媒体であるカラーフィルタ用顔料組成物の製造方法。
[2]前記分散媒体に分散させた状態の前記キナクリドン系顔料と前記キノフタロン色素誘導体とを、0~100℃で混合する前記[1]に記載のカラーフィルタ用顔料組成物の製造方法。
[3]前記キナクリドン系顔料とキナクリドン顔料誘導体をソルベントソルトミリング処理する工程をさらに有し、前記キナクリドン顔料誘導体が、フタルイミドアルキル化キナクリドンである前記[1]又は[2]に記載のカラーフィルタ用顔料組成物の製造方法。
[4]前記キナクリドン系顔料が、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド202、C.I.ピグメントレッド207、及びC.I.ピグメントレッド209からなる群より選択される少なくとも一種である前記[1]~[3]のいずれかに記載のカラーフィルタ用顔料組成物の製造方法。
【0011】
また、本発明によれば、以下に示すカラーフィルタ用顔料組成物が提供される。
[5]前記[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法によって製造されたカラーフィルタ用顔料組成物。
【0012】
さらに、本発明によれば、以下に示すカラーフィルタ用着色組成物が提供される。
[6]前記[5]に記載のカラーフィルタ用顔料組成物を含有するカラーフィルタ用着色組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、キナクリドン系顔料の分散安定性に優れているとともに、コントラスト比の高い赤色画素を形成しうるカラーフィルタ用の着色組成物を調製可能なカラーフィルタ用顔料組成物の製造方法を提供することができる。
【0014】
また、本発明によれば、キナクリドン系顔料の分散安定性に優れているとともに、コントラスト比の高い赤色画素を形成しうるカラーフィルタ用の着色組成物を調製可能なカラーフィルタ用顔料組成物を提供することができる。さらに、本発明によれば、キナクリドン系顔料の分散安定性に優れているとともに、コントラスト比の高い赤色画素を形成しうるカラーフィルタ用着色組成物を提供することができる。本発明のカラーフィルタ用着色組成物は、例えば、カラー液晶表示装置、C-MOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor:相補型金属酸化膜半導体)、及びCCD(Charge Coupled Device:電荷結合素子)等に代表される固体撮像素子等に用いられるカラーフィルタを製造するための着色組成物として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<カラーフィルタ用顔料組成物の製造方法>
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明のカラーフィルタ用顔料組成物(以下、「CF用顔料組成物」とも記す)の製造方法の一実施形態は、キナクリドン系顔料と、キノフタロン色素誘導体とを、分散媒体に分散させた状態で混合する工程を有する。そして、キノフタロン色素誘導体として、スルホン化キノフタロン色素、スルホン化キノフタロン色素の金属塩、及びスルホン化キノフタロン色素のアミン塩からなる群より選択される少なくとも一種を用いる。以下、本実施形態のCF顔料組成物の製造方法の詳細について説明する。
【0016】
(混合工程)
本実施形態のCF用顔料組成物の製造方法(以下、単に「製造方法」とも記す)は、キナクリドン系顔料と、キノフタロン色素誘導体とを、分散媒体に分散させた状態で混合する工程(混合工程)を有する。分散媒体中に分散させた状態のキナクリドン系顔料とキノフタロン色素誘導体を混合することで、理由については必ずしも明らかではないが、キナクリドン系顔料の分散安定性に優れているとともに、コントラスト比の高い赤色画素を形成しうるカラーフィルタ用の着色組成物を調製可能なカラーフィルタ用顔料組成物を得ることができる。
【0017】
分散媒体としては、水を主成分とする液媒体を用いる。液媒体には、必要に応じて、水以外の液媒体や各種無機塩等が含まれていてもよい。水以外の液媒体としては、水溶性有機溶剤を用いることができる。但し、分散媒体中の水の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、95質量%以上であることが特に好ましい。なかでも、水を分散媒体として用いることが最も好ましい。
【0018】
分散媒体に分散させた状態のキナクリドン系顔料とキノフタロン色素誘導体とを、0~100℃で混合することが好ましく、加熱条件下で混合することがさらに好ましく、40~90℃で混合することが特に好ましい。加熱条件下で混合することで、キナクリドン系顔料の分散安定性がさらに向上するとともに、形成されるカラーフィルタのコントラスト比をより高めることができる。
【0019】
キナクリドン系顔料とキノフタロン色素誘導体を混合後、ろ過及び洗浄等するとともに、必要に応じて乾燥及び粉砕等することで、目的とするCF用顔料組成物を得ることができる。乾燥方法としては、乾燥機に設置した加熱源によって80~120℃に加熱する方法等がある。乾燥方法は、回分式及び連続式のいずれであってもよい。乾燥機としては、箱型乾燥機、バンド乾燥機、及びスプレードライヤー等を用いることができる。粉砕方法としては、乳鉢、ハンマーミル、ディスクミル、ピンミル、ジェットミル等を使用する粉砕方法等を挙げることができる。
【0020】
[キナクリドン系顔料]
キナクリドン系顔料は、着色剤として機能する成分である。キナクリドン系顔料としては、C.I.ピグメントバイオレット19、42;C.I.ピグメントレッド122、202、206、207、209;C.I.ピグメントオレンジ48、49等を挙げることができる。なかでも、色相の観点から、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド202、C.I.ピグメントレッド207、C.I.ピグメントレッド209が好ましい。
【0021】
キナクリドン系顔料の平均一次粒子径は、10~50nmであることが好ましい。その平均一次粒子径が上記の範囲内にあるキナクリドン系顔料を用いることで、得られるカラーフィルタの明度及びコントラスト化をより高めることができる。本明細書における「平均一次粒子径」とは、透過型電子顕微鏡で観察して計測されるメジアン径(D50)を意味する。キナクリドン系顔料の平均一次粒子径が50nm超であると、カラーフィルタの明度やコントラスト比がやや低くなる場合がある。一方、キナクリドン系顔料の平均一次粒子径が10nm未満であると、分散させることがやや難しくなることがあるとともに、着色組成物としての流動性を確保することが困難になる場合があるので、カラーフィルタの明度やコントラスト比がやや低くなる傾向にある。
【0022】
[キノフタロン色素誘導体]
キノフタロン色素誘導体は、スルホン化キノフタロン色素、スルホン化キノフタロン色素の金属塩、及びスルホン化キノフタロン色素のアミン塩からなる群より選択される少なくとも一種である。キノフタロン色素誘導体は、例えば、下記一般式(1)で表される。
【0023】
(前記一般式(1)中、Xは、相互に独立にハロゲン原子を示し、m1及びm2は、相互に独立に0~4の数を示し、Mは水素原子、金属原子、アミノ基、有機アミノ基、又は第4級アンモニウム塩基を示し、nは1~2の数を示す)
【0024】
スルホン化キノフタロン色素の金属塩を構成する金属としては、ナトリウム、カリウム、カルシウム、バリウム、鉄、マグネシウム、アルミニウム、ニッケル、コバルト、ストロンチウム等を挙げることができる。なかでも、スルホン化キノフタロン色素のアルミニウム塩が好ましい。スルホン化キノフタロン色素のアルミニウム塩は、顔料分散剤としての分散性が良好であるとともに、製造時の単離性を向上させることができる。さらに、低粘度であるとともに、流動特性及び経時粘度安定性に優れた組成物を得ることができる。
【0025】
スルホン化キノフタロン色素のアミン塩を構成するアミンとしては、アンモニア、ジメチルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ヒドロキシエチルアミン、ジヒドロキシエチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、N,N-ジエチルアミノプロピルアミン、N,N-ジブチルアミノプロピルアミン等の低級アミン;ラウリルアミン、オレイルアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、ジメチルラウリルアミン等の長鎖アルキルアミン;ラウリルアンモニウム、ステアリルアンモニウム、ラウリルトリメチルアンモニウム、ジラウリルジメチルアンモニウム、ステアリルトリメチルアンモニウム、ジステアリルジメチルアンモニウム等の長鎖アルキル基を有する4級アンモニウムイオン;等を挙げることができる。なかでも、ラウリルアンモニウム、ステアリルアンモニウム等の炭素数12以上のアルキル基を有する4級アンモニウムイオンとの塩を用いると、分散安定性により優れ、保存安定性が特に高い着色組成物を得ることができる。
【0026】
CF用顔料組成物中のキノフタロン色素誘導体の含有量は、キナクリドン系顔料100質量部に対して、1~30質量部とすることが好ましく、5~30部とすることがさらに好ましい。
【0027】
(微細化工程)
キナクリドン系顔料を予め微細化処理して一次粒子径を小さくしておくことで、得られるカラーフィルタの明度及びコントラスト化をより高めることができる。微細化処理方法としては、顔料を機械的に粉砕する方法(磨砕法);顔料を良溶媒に溶解させた後に貧溶媒に投入して、顔料を析出させる方法(析出法);所望とする一次粒子径の顔料を製造する方法(合成析出法);等がある。
【0028】
磨砕法は、水溶性無機塩等の磨砕剤、及び磨砕剤を溶解しない水溶性有機溶剤とともに、ボールミル、サンドミル、及びニーダー等を使用して顔料を機械的に混練(いわゆる「ソルベントソルトミリング処理」)した後、磨砕剤及び水溶性有機溶剤を水洗除去して乾燥する方法である。なお、ソルベントソルトミリングする際に顔料が結晶成長する場合があるので、固形の樹脂や分散助剤等を水溶性有機溶剤に添加して、顔料の結晶成長を抑制することが好ましい。
【0029】
本実施形態の製造方法は、前述の混合工程の前に、キナクリドン系顔料とキナクリドン顔料誘導体をソルベントソルトミリング処理する工程(ソルベントソルトミリング処理工程)をさらに有することが好ましい。ソルベントソルトミリング処理工程は、キナクリドン系顔料、キナクリドン顔料誘導体、磨砕剤、及び水溶性有機溶剤等を混練機に入れて混練磨砕する工程である。混錬機としては、ニーダー、ミックスマーラー等を用いることができる。磨砕剤としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム等の水溶性の無機塩を用いることができる。無機塩の平均粒子径は、0.3~70μmであることが好ましい。
【0030】
水溶性有機溶剤としては、ジエチレングリコール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングルコール、液体ポリプロピレングリコール、2-(メトキシメトキシ)エタノール、2-ブトキシエタノール、2-イソペンチルオキシ)エタノール、2-(ヘキシルオキシ)エタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングルコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコール等を用いることができる。なお、ソルベントソルトミリング処理する際には、調色目的で、キナクリドン系顔料及びキナクリドン顔料誘導体以外のその他の有機顔料や顔料誘導体をさらに用いてもよい。
【0031】
無機塩や水溶性有機溶剤は、ソルベントソルトミリング処理の開始段階から全量を仕込んでもよいし、分割して仕込んでもよい。ソルベントソルトミリング処理時の温度は、150℃以下とすることが好ましく、50~120℃とすることがさらに好ましい。また、ソルベントソルトミリング処理の時間は、3~36時間とすることが好ましく、3~24時間とすることがさらに好ましい。
【0032】
ソルベントソルトミリング処理後は、無機塩等の磨砕剤及び水溶性有機溶剤を水洗又は湯洗して除去する。次いで、得られる固形物を乾燥及び粉砕等すればよい。なお、磨砕剤及び水溶性有機溶剤を除去した後にキナクリドン顔料誘導体を添加してもよい。カラーフィルタの画素部を製造するための材料として用いることを考慮すると、ろ液の比電導度が50μS/cm以下となるまで洗浄することが好ましく、20μS/cm以下となるまで洗浄することがさらに好ましい。
【0033】
[キナクリドン顔料誘導体]
キナクリドン顔料誘導体は、フタルイミドアルキル化キナクリドンである。キナクリドン顔料誘導体は、例えば、下記一般式(2)で表される顔料誘導体である。
【0034】
(前記一般式(2)中、Y及びZは、相互に独立に水素原子、メチル基、又は塩素原子を示し、sは1~3の数を示す)
【0035】
CF用顔料組成物中のキナクリドン顔料誘導体の含有量は、キナクリドン系顔料100質量部に対して、1~20質量部とすることが好ましく、3~20部とすることがさらに好ましい。
【0036】
<カラーフィルタ用顔料組成物>
本発明のカラーフィルタ用顔料組成物(CF用顔料組成物)の一実施形態は、前述のCF用顔料組成物の製造方法によって製造されたものである。本実施形態のCF用顔料組成物は、前述の製造方法によって製造されたものであることから、キナクリドン系顔料の分散安定性に優れているとともに、コントラスト比の高い赤色画素を形成しうるカラーフィルタ用の着色組成物を調製可能なものである。なお、前述の製造方法によって製造することで、例えば、得られるCF用顔料組成物中のキナクリドン系顔料の表面状態や分散状態、及び各成分の相互作用状態等が変化して、所期の特性を示すCF用顔料組成物が得られると推測される。但し、キナクリドン系顔料の表面状態や分散状態、及び各成分の相互作用状態等を分析して確認することは実質的に困難又は不可能である。
【0037】
<カラーフィルタ用着色組成物>
本発明のカラーフィルタ用着色組成物(以下、「CF用着色組成物」とも記す)一実施形態は、前述のCF用顔料組成物を含有するものである。このため、本実施形態のCF用着色組成物は、キナクリドン系顔料の分散安定性に優れており、コントラスト比の高い赤色画素を形成することが可能なものである。
【0038】
CF用着色組成物には、CF用の画素を形成するための従来公知の着色組成物に含まれる各種成分をさらに含有させることができる。具体的には、顔料を分散させるための高分子分散剤、バインダー樹脂、各種有機溶媒等をCF用着色組成物に含有させることができる。
【0039】
[高分子分散剤]
高分子分散剤としては、キナクリドン系顔料を分散させるための従来公知のポリマーを用いることができる。なかでも、顔料の表面に吸着する、単量体Aに由来する構成単位を有するアクリル系共重合体が好ましい。単量体Aとしては、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸1-ナフチル、(メタ)アクリル酸2-ナフチル、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の炭化水素系の環状構造を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体が好ましい。また、アクリル系共重合体は、顔料の表面に吸着して分散安定化効果を発揮する、単量体Bに由来する構成単位をさらに有することが好ましい。単量体Bとしては、(メタ)アクリル酸単量体や、グリシジル(メタ)アクリレート及びアシッドホスホオキシエチルメタクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル単量体が好ましい。
【0040】
アクリル系共重合体は、単量体A及び単量体B以外の単量体(その他の単量体)に由来する構成単位をさらに有していてもよい。その他の単量体としては、(メタ)アクリル酸エステル等を挙げることができる。高分子分散剤の含有量は、キナクリドン系顔料100質量部に対して、0.5~10質量部(但し、不揮発分として)とすることが好ましい。
【0041】
キナクリドン系顔料は、高分子分散剤として用いるポリマーで被覆されていることが好ましい。ポリマーでキナクリドン系顔料を被覆する方法としては、例えば、ポリマーをCF用顔料組成物に添加して析出させる方法;ポリマーのエマルジョンをCF用顔料組成物に添加する方法;キナクリドン系顔料をポリマーとともに混練磨砕する方法;等がある。なお、前述のソルベントソルトミリング処理の際に、キナクリドン系顔料の結晶成長を有効に抑制するには、キナクリドン顔料誘導体の優れた結晶成長抑制作用を利用することが好ましい。このため、高分子分散剤として用いるポリマーが、キナクリドン系顔料に対するキナクリドン誘導体の吸着を阻害しないようにすることが好ましい。結晶成長の抑制が終了した後には、キナクリドン系顔料及びキナクリドン顔料誘導体はポリマーで被覆されてもよい。
【0042】
本実施形態のCF用着色組成物を用いれば、顔料分散法等の従来公知の方法にしたがって、カラーフィルタ画素部、なかでもコントラスト比の高い赤色画素を形成することができる。
【実施例
【0043】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0044】
<キノフタロン色素誘導体の製造>
(製造例1)
C.I.ピグメントイエロー138(商品名「Paliotol Yellow K0960HD」、BASF社製)30部を101%硫酸300部中に溶解し、70℃で8時間撹拌してスルホン化反応を行った。氷水3,000部中に反応溶液を注入し、析出物をろ過して得た。得られた析出物を水洗及び乾燥して、スルホン化キノフタロン色素誘導体を得た。
【0045】
<顔料組成物の製造>
(製造例2)
C.I.ピグメントレッド202(商品名「Cinquasia Magenta K4535FP」、BASF社製)100部、フタルイミドメチル化キナクリドン5部、塩化ナトリウム1,000部、及びジエチレングリコール250部をステンレス製のニーダー(井上製作所社製、容量5L)に入れ、60℃で7時間混練するソルトミリング処理を行って混練物を得た。得られた混練物を温水3Lに投入し、70℃に加熱しながら1時間撹拌してスラリー状とした。ろ過及び水洗を繰り返して、塩化ナトリウム及びジエチレングリコールを除去してプレスケーキを得た。得られたプレスケーキ、及びスルホン化キノフタロン色素誘導体5部を水3Lに解膠し、70℃に加熱しながら1時間撹拌した。ろ過及び水洗を繰り返した後、80℃で一昼夜乾燥して、顔料組成物(A-1)106部を得た。
【0046】
(製造例3)
スルホン化キノフタロン色素誘導体の量を10部としたこと以外は、前述の製造例2と同様にして、顔料組成物(A-2)110部を得た。
【0047】
(製造例4)
スルホン化キノフタロン色素誘導体の量を20部としたこと以外は、前述の製造例2と同様にして、顔料組成物(A-3)120部を得た。
【0048】
(製造例4)
スルホン化キノフタロン色素誘導体を用いなかったこと以外は、前述の製造例2と同様にして、顔料組成物(A-4)101部を得た。
【0049】
(製造例5)キナクリドン微細化顔料(A-5)
フタルイミドメチル化キナクリドン及びスルホン化キノフタロン色素誘導体を用いなかったこと以外は、前述の製造例2と同様にして、顔料組成物(A-5)96部を得た。
【0050】
<着色組成物(顔料分散液)の調製>
(実施例1)
以下に示す成分を混合して均一になるまで撹拌した後、ペイントコンディショナーを使用し、直径0.5mmのジルコニアビーズを用いて3時間分散して分散液を得た。フィルタでろ過した分散液96部にプロピレングリコール-1-モノメチルエーテル-2-アセテート24部を添加した。ペイントコンディショナーを使用し、直径0.1mmのジルコニアビーズを用いて3時間分散した後、フィルタでろ過して、着色組成物(DA-1)を得た。
・顔料組成物(A-1):15部
・分散剤溶液(商品名「BYK LPN-6919」、ビックケミー社製):10部
・バインダー樹脂溶液(商品名「SPC-2000」、昭和電工社製):17.1部
・プロピレングリコール-1-モノメチルエーテル-2-アセテート:57.9部
【0051】
(実施例2及び3)
顔料組成物(A-1)に代えて、顔料組成物(A-2)及び(A-3)をそれぞれ用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして、着色組成物(DA-2)及び(DA-3)を得た。
【0052】
(比較例1)
以下に示す成分を混合して均一になるまで撹拌した後、ペイントコンディショナーを使用し、直径0.5mmのジルコニアビーズを用いて3時間分散して分散液を得た。フィルタでろ過した分散液96部にプロピレングリコール-1-モノメチルエーテル-2-アセテート24部を添加した。ペイントコンディショナーを使用し、直径0.1mmのジルコニアビーズを用いて3時間分散した後、フィルタでろ過して、着色組成物(DA-4)を得た。
・顔料組成物(A-4):14.3部
・スルホン化キノフタロン色素誘導体:0.7部
・分散剤溶液(商品名「BYK LPN-6919」、ビックケミー社製):10部
・バインダー樹脂溶液(商品名「SPC-2000」、昭和電工社製):17.1部
・プロピレングリコール-1-モノメチルエーテル-2-アセテート:57.9部
【0053】
(比較例2)
顔料組成物(A-4)の量を13.7部とするとともに、スルホン化キノフタロン色素誘導体の量を1.3部としたこと以外は、前述の比較例1と同様にして、着色組成物(DA-5)を得た。
【0054】
(比較例3)
顔料組成物(A-4)の量を12.6部とするとともに、スルホン化キノフタロン色素誘導体の量を2.4部としたこと以外は、前述の比較例1と同様にして、着色組成物(DA-6)を得た。
【0055】
(比較例4)
顔料組成物(A-4)に代えて顔料組成物(A-5)13.6部を用いるとともに、スルホン化キノフタロン色素誘導体の量を1.4部としたこと以外は、前述の比較例1と同様にして着色組成物(DA-7)を得た。
【0056】
<評価>
(コントラスト比)
スピンナーを使用して着色組成物をガラス基板に塗布し、90℃で2分間乾燥させた後、230℃で30分間加熱して塗膜を形成した。スピンナーの速度を変えて形成した3枚の塗膜の明輝度及び暗輝度を、コントラストメーター(壺坂電機社製)を使用して測定し、コントラスト比(明輝度/暗輝度)を算出した。また、分光光度計(商品名「U-3310」、日立製作所社製)を使用して塗膜の色度xを測定した。色度xとコントラスト比をグラフにプロットして近似直線を作成し、色度x=0.500におけるコントラスト比の値を読み取った。そして、比較例1の着色組成物で形成した塗膜のコントラスト比の値を100%とする相対値(%)をそれぞれ算出した。結果を表1に示す。
【0057】
(粘度(分散安定性))
E型粘度計を使用し、着色組成物の調製直後(初期)の粘度(mPa・s)、及び45℃で1週間放置後の粘度(mPa・s)を測定した。測定条件は、温度:室温(25℃)、ローターの回転数:60rpmとした。結果を表1に示す。
【0058】
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のCF用顔料組成物は、カラー液晶表示装置、C-MOS、及びCCD等の固体撮像素子等に用いられるカラーフィルタ製造用の着色組成物を得るための材料として有用である。