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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】運行管制システムの経路計画装置
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/00 20060101AFI20241108BHJP
   B64C 27/08 20230101ALI20241108BHJP
   B64C 39/02 20060101ALI20241108BHJP
   G01C 21/34 20060101ALI20241108BHJP
   G08G 5/04 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
G08G1/00 D
B64C27/08
B64C39/02
G01C21/34
G08G5/04 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021100769
(22)【出願日】2021-06-17
(65)【公開番号】P2023000132
(43)【公開日】2023-01-04
【審査請求日】2024-02-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】松原 満
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 貴廣
(72)【発明者】
【氏名】板東 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】今本 健二
【審査官】佐々木 佳祐
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/121664(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/146516(WO,A1)
【文献】特開昭61-30000(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
G01C 21/00-25/00
B64C 27/08
B64C 39/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体に対してその航行に関する経路を提供する運行管制システムの経路計画装置であって、
経路計画装置は、機体の航行初期の経路計画において複数の機体の各機体の専有空間を機体の性能及び状態に基づき設計する専有空間設計部と、各機体の始点位置座標と、終点位置座標と、前記専有空間とに基づき、前記各機体の前記専有空間内に前記始点位置座標から前記終点位置座標へと航行する全ての時刻において、他の機体や障害物が侵入しないように前記始点位置座標から終点位置座標までの経路を経路計画して前記各機体に提供する経路計画部とを備え、
前記経路計画装置は、機体の航行初期以降に各機体の性能低下を検知し、性能低下した機体の現在位置座標、性能及び状態の情報に基づき、性能低下した前記機体の前記専有空間を再設計し、再設計された前記専有空間内に前記他の機体や前記障害物が侵入しないように前記複数の機体の経路を再計画して前記各機体に経路を提供することを特徴とする運行管制システムの経路計画装置。
【請求項2】
請求項1に記載の運行管制システムの経路計画装置であって、
前記経路計画装置は、前記機体が自己機体における性能低下を検知して送信する性能低下フラグ情報により、前記機体の航行初期以降に機体の性能低下を検知することを特徴とする運行管制システムの経路計画装置。
【請求項3】
請求項1に記載の運行管制システムの経路計画装置であって、
前記経路計画装置は、前記機体が送信する機体の現在位置座標、性能及び状態の情報を受信し、受信した情報に基づき、前記機体の航行初期以降に機体の性能低下を検知することを特徴とする運行管制システムの経路計画装置。
【請求項4】
請求項1に記載の運行管制システムの経路計画装置であって、
航行中の機体を地上もしくは別の飛行体から観測して、機体性能を推定する機体性能推定部を備え、前記経路計画装置は、前記機体性能推定部の推定結果により機体航行時に機体の性能低下を検知することを特徴とする運行管制システムの経路計画装置。
【請求項5】
請求項1に記載の運行管制システムの経路計画装置であって、
前記経路計画装置は、性能低下した前記機体の前記専有空間を性能低下の度合いに応じて拡大する方向に再設計することを特徴とする運行管制システムの経路計画装置。
【請求項6】
請求項1に記載の運行管制システムの経路計画装置であって、
前記経路計画装置は、
前記他の機体の現在位置座標、性能及び状態の情報に基づき前記他の機体の専有空間を再設計した上で、前記複数の機体の経路を再計画することを特徴とする運行管制システムの経路計画装置。
【請求項7】
請求項1に記載の運行管制システムの経路計画装置であって、
前記経路計画装置は、他の機体の終点を変更することを特徴とする運行管制システムの経路計画装置。
【請求項8】
請求項1に記載の運行管制システムの経路計画装置であって、
前記経路計画部は前記専有空間設計部に対して、前記各機体の専有空間の再設計を要求できることを特徴とする運行管制システムの経路計画装置。
【請求項9】
請求項1に記載の運行管制システムの経路計画装置であって、
前記経路計画装置は、性能低下した前記機体の現在位置座標、性能及び状態の情報を取得し、風況を観測可能な装置から風況情報を取得し、これらを基に性能低下した前記機体の安全レベルを評価するレベル判定部を備え、
評価結果を前記専有空間設計部および前記経路計画部に提供し、前記安全レベルの評価結果を基に、専有空間の設計、および経路の再計画を実施することを特徴とする運行管制システムの経路計画装置。
【請求項10】
請求項4に記載の運行管制システムの経路計画装置であって、
前記機体性能推定部は、性能低下した前記機体の性能及び状態を、地上もしくは別の飛行体に設けられたセンサ群から得られる情報と、前記機体から得られた前記機体の性能及び状態の情報とに基づき、性能低下した前記機体の性能及び状態を推定することを特徴とする運行管制システムの経路計画装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機の運行管制システムの経路計画装置に関する
【背景技術】
【0002】
近年、ドローン等の垂直離着陸が可能な航空機の社会利用に注目が集まっており、その一例として、農業、物流、人の移動等への利用が挙げられる。しかしながら航空機の安定・安全な操作・運行は高い技能と専門知識が必要で、コスト面を含め、容易に利用・運用できないのが現状である。
【0003】
他方、自動車の自動運転技術の発展も追い風に、航空機の自律航行技術の研究開発が精力的に進められており、自律航行可能な垂直離着陸機による空の活用が期待されている。自律航行可能な垂直離着陸機を安全かつ効率的に運行するには、これらと連携可能な離着陸ポート並びに離着陸運行管制システムが必要である。
【0004】
特に運用コスト低減のために、運行効率を高める必要があり、例えば物流のようなアプリケーションでは、複数の機体を同時に安全かつ空間効率良く離着陸させることが可能な離着陸ポート並びに離着陸運行管制システムが必要となる。なお、以降垂直離着陸機を単に機体と略記する場合がある。
【0005】
垂直離着陸機を空間効率良くかつ衝突なく離着陸させるには、単純には機体間の近接許容距離(各機体間の相対距離に関する許容値)を短く設定した上で、各機体の始点位置座標から終点位置座標までの経路を、各機体間の距離が全ての時刻において近接許容距離以上となるように、計画できればよい。
【0006】
しかしながら、例えば天候不良の強風下、あるいは他機体が発生するダウンウォッシュ(風の吹きおろし)の影響等で、機体の姿勢・飛行位置座標が乱される場合があり、近接許容距離はこれら外因リスクを考慮した十分な長さのものである必要がある。また、バードストライクの恐れがある。鳥の群といった飛行上の障害物が存在する場合は、機体と障害物との接触リスクを考慮した、経路計画を行う必要がある。
【0007】
このような機体の外環境起因のリスクを考慮した移動体の経路を計画する技術として、特許文献1が挙げられる。特許文献1は、所定目的を達成するための移動ロボットの経路を計画する移動ロボットの経路計画部を備えた移動ロボットシステムであって、計画した経路上のリスク潜在領域をセンサ群で認識し、リスク潜在領域でのリスクの発生を『可能性』として確率的に定量評価し、これに基づき移動ロボットの経路走破(所定目的達成)の可能性を評価し、可能性が低い場合には、所定目的達成の可能性が高くなるように、経路計画部は再度経路計画を実行することを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2017-010234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の技術を垂直離着陸機の離着陸経路の計画を担う離着陸運行管制システムに利用する場合、次のような課題が生じる。
【0010】
航空機は一般に、動力機械の故障や電源電圧低下等によるアクチュエータの性能低下・停止が発生した場合、機体の運動性能の低下は起こり得るものの、安全に航行の継続が可能なように冗長系が組まれており、すなわち一つのアクチュエータの停止の際も、他のアクチュエータを活用することで飛行継続が可能である。
【0011】
推力や旋回力といった機体の運動性能が低下した場合、例えば強風下では機体の姿勢・飛行位置座標が乱されやすくなり、近接する他機体が存在した場合、衝突する恐れがある。また障害物が近接して存在する場合は、障害物と接触する恐れがある。
【0012】
したがって運動性能が低下した機体と他機体との近接許容距離、および障害物との距離は、正常な機体におけるそれよりも十分長くする必要があり、この場合の各機体の経路はそのような近接許容距離に基づいて計画される必要がある。
【0013】
このような『機体の運動性能の低下』のリスクを、特許文献1の技術を利用して、『経路上で発生しうるリスク』として取り扱い、経路の再計画を行うアプローチでは、一般に航空機のアクチュエータの性能低下・停止が発生しうる確率は十分低く設計されているため、発生リスク低と判断され経路再計画のトリガになり得ない。したがって、『機体の運動性能の低下』の可能性を考慮した安全な経路計画を成し得るとは言い難い。
【0014】
他方、『機体の運動性能の低下』の恐れを事前に加味して、『機体の運動性能の低下』の場合でも他の機体や障害物に衝突することなく安全に飛行できるよう十分長い近接許容距離を設けた経路計画を行うと、各機体の専有する空間が大きくなり、離着陸ポート上空およびその周辺の空間の利用効率が低下し、運行効率を十分に高めることが難しい。
【0015】
本発明はこのような課題を鑑みてなされたものであり、顕著な機体の運動性能の低下が発生する場合においても、複数の機体を同時に安全かつ空間効率良く離着陸させることが可能な運行管制システムの経路計画装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
以上のことから本発明においては、「機体に対してその航行に関する経路を提供する運行管制システムの経路計画装置であって、経路計画装置は、機体の航行初期の経路計画において、複数の機体の各機体の専有空間を機体の性能及び状態に基づき設計する専有空間設計部と、各機体の始点位置座標と、終点位置座標と、前記専有空間とに基づき、各機体の専有空間内に始点位置座標から終点位置座標へと航行する全ての時刻において、他の機体や障害物が侵入しないように各機体の始点位置座標から終点位置座標までの経路を経路計画して各機体に提供する経路計画部とを備え、経路計画装置は、機体航行時に機体の性能低下を検知し、性能低下した機体の現在位置座標、性能及び状態の情報に基づき、性能低下した機体の専有空間を再設計し、再設計された専有空間内に他の機体や障害物が侵入しないように複数の機体の各機体の経路を再計画して前記各機体に前記経路を提供することを特徴とする運行管制システムの経路計画装置。」としたものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、機体の運動性能の低下が未発生な場合は最小の近接許容距離で空間効率よく経路を計画でき、また機体の運動性能の低下が発生した場合でも、安全かつ効率的な経路の計画が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施例1に係る運行管制システムの構成例を示す図。
図2】機体Aが垂直離着陸機である場合の航行の様子を示す図。
図3】機体Aと機体Bが垂直離着陸機である場合の航行の様子を示す図。
図4】機体Aが強風によって経路9に追従できず逸脱する場合を示す図。
図5】機体の機能低下時におけるふるまいを説明するための図。
図6】経路計画装置2の処理フロー。
図7】他機体の終点変更を含む再計画を説明するための図。
図8】他機体の専有空間縮小を含む再計画を説明するための図。
図9】本発明の実施例3に係る運行管制システムの構成例を示す図。
図10】本発明の実施例4に係る運行管制システムの構成例を示す図。
図11】安全レベルの評価項目の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を適用した実施例について図面を参照しながら説明する。なお各図において、共通な機能を有する構成要素には同一の番号を付与し、その重複説明を省略することがある。
【実施例1】
【0020】
図1は本発明の実施例1に係る運行管制システムの構成例を示している。
【0021】
図1のシステムにおいて、複数の機体(垂直離着陸機等)の離着陸の運行管理・管制を行う運行管理システム1は、経路計画装置2を備え、複数の機体(垂直離着陸機等)の一例として
機体Aおよび機体Bを対象に機体の目的に合わせて離着陸の経路を計画・提供し、機体の誘導を行うものである。経路計画装置2は経路計画部3と専有空間設計部4とから成り、両者は通信部5を介して互いに情報を共有する仕組みを備える。
【0022】
運行管制システム1は、管理空域内の機体を運行管理の対象とし、経路計画装置2は、管理空域内の機体群に対して、経路を計画・提供する。
機体Aおよび機体Bが管理空域内にある場合、経路計画装置2は経路計画部3で計画した経路9及び経路10を、通信装置6を介して機体Aおよび機体Bにそれぞれ提供し、機体Aおよび機体Bは、提供された経路に準拠して航行する。
【0023】
経路計画部3は専有空間設計部4で設計された各機体の専有空間を基に、始点位置座標から終点位置座標までの経路を計画する。ここで機体の専有空間とは、各機体に紐付けた3次元空間である。
垂直離着陸機は多くの場合、垂直方向に推力を発生するロータを備える。具体的な垂直離着陸機としては、例えば、ロータブレードのピッチ角等の機構上可変な構造を伴わない簡素なロータを複数備え、ロータの回転数を制御することで機体の運動を制御し、また機体の運動制御に最低限必要なロータ数よりも多くを備える冗長系を構成する、ヘキサコプター等が挙げられる。
【0024】
この場合、仮に1つのロータが何らかの要因で推力を発生できなくなっても、他の5つのロータの回転数を適切に制御すれば、機体の運動制御を継続できる。航空機の多くは、安全航行の観点からこのようなアクチュエータに関する冗長系が構成されている。
【0025】
経路計画装置2は、管理空域内の機体(例えば機体Aおよび機体B)から図1に示すように通信装置6を介して、各機体の性能低下を示す性能低下フラグ情報11、及び機体位置、性能、状態などの航行情報12を受け取る機能を有する。なお、航行情報12と性能低下フラグ情報11を含めて機体情報13というものとする。
【0026】
性能低下フラグ情報11とは具体的には、機体の動力機械の故障や電源電圧低下等によるアクチュエータの性能低下・停止等により性能低下を来した機体が、経路計画装置2に経路の再計画を要請するための、機体側が発する通報信号である。
【0027】
図2は、機体Aが垂直離着陸機である場合の航行の様子を示したものである。図2において、機体Aの航行目的は、現在位置から地面29上の離着陸ポート28への着陸であり、すなわち、現在位置の始点位置座標26から離着陸ポート上の終点位置座標27への移動であり、始点位置座標26から終点位置座標27への経路9が経路計画装置2から提供された場合において、機体Aはこの経路9に準拠して航行することで、航行の目的を達成できる。
【0028】
図2において機体Aに紐づいた空間が機体Aの専有空間21であり、ここでは、シンプルな定義における専有空間21を示している。すなわち機体中心22を中心とし、半径23の球体を機体Aの専有空間21として定義したものである。この手法による定義は、機体Aの専有空間体積を半径23のみの1パラメータで設計できる簡素さが利点である。なお、専有空間21の定義は球体の他にも、立方体、直方体等、3次元空間を構成できる立体であればなんでもよい。
【0029】
経路計画部3は機体Aの目的に応じて、始点位置座標26および終点位置座標27を把握し、経路9を計画し、これを機体Aに提供するが、この時には機体Aの専有空間21を考慮の上で経路9を設計する。すなわち、機体Aが始点位置座標26から終点位置座標27へ移動する全時刻において、機体Aの専有空間21内に他の機体や鳥等の障害物が一切侵入することがないような経路を計画する。加えて、機体Aの運動性能で十分に追従できるような経路とする。なお経路計画部3で計画される経路は、機体の位置座標が時刻で管理される時系列データである。
【0030】
図3は、機体Aと機体Bが垂直離着陸機である場合の航行の様子を示したものである。経路計画部3は更に、図3に示すように、他機体(例えば機体B)の経路の計画を同時に実行する。このとき、機体Aの専有空間21および機体Bの専有空間32を把握している必要があり、経路計画部3は、各機体A、Bの専有空間21、32の各々に対して他の機体の侵入なきように経路を計画する。
【0031】
図3では、機体Aと機体Bの経路が、将来時点において交差する場合を示している。例えば、図3において、機体Aの進行方向34を伴う経路9と、機体Bの進行方向35を伴う経路10とは、互いに交点38にて交差するが、この場合においても時系列データとして経路を計画すれば、全時刻で一方の機体が他方の機体の専有空間に侵入しないような経路を計画できる。例えば、機体Aが経路の交点38を通過し交点38から十分離れた後に、機体Bが交点38を通るように経路を計画すればよい。
【0032】
図1に戻り、このような経路9、10の計画において、経路計画部3は各機体A、Bの専有空間21、32を把握している必要があり、各機体A、Bの専有空間21、32を設計し、これを経路計画部3に提供するする役割を担うのが専有空間設計部4である。
【0033】
専有空間設計部4は、単純には機体Aの半径23を時刻に依存しない所定値、として、特に他の機体との衝突リスクをほぼゼロにするために、半径23を著大に設計ことができる。
【0034】
しかしながら、そうすると、離着陸ポートおよびその周辺の上空は、機体Aの専有空間21で占められ、他の機体の離着陸はおろか、他の機体は離着陸ポート周辺も航行不可であり、運行効率を著しく低下させることになる。
【0035】
なお、ここで述べた運行効率は、離着陸可能な地上の単一機体のための所定のエリア(複数存在してもよい)に対して、単位時間あたりに何機の機体が着陸、離陸できたかを示すものとする。仮に、離着陸回数で利用者のペイメントが発生するとすれば、運行管制システム1の経路計画装置2には、ビジネス観点から運行効率の向上を要求される。
【0036】
運行効率を高めるには、各機体の専有空間を他機体との衝突や障害物との接触の恐れのない、必要最小なものに設計する必要がある。専有空間を設ける理由は安全性の担保が狙いである。例えば、機体Aが強風下を航行する場合、風の影響で機体姿勢が乱され、場合によっては、経路から逸脱する場合が考えられる。
【0037】
図4は機体Aが強風によって経路9に追従できず逸脱する場合を示す図である。図4では、機体Aの経路9、および機体Bの経路10が、各々の専有空間21および専有空間32に基づいて計画されており、各機体A、Bが経路9、10上を航行する場合においては、機体A、Bの衝突は発生しないものとして計画されている。
【0038】
これに対し、強風41の領域を航行する場合、機体Aは強風の影響で経路9を逸脱し、軌道43のように航行する場合が想定されるが、このような場合でも、経路計画部3は図4のように大きめに設定された専有空間21を考慮した経路9を計画することで、機体Aの機体Bへの衝突の恐れなく、安全な航行を促す経路を計画・提供できる。
【0039】
図4では、強風41の領域を含む経路9の全域で、機体Aの専有空間21の半径23は一定としているが、気象レーダ等で、航行領域毎の風量・風向を、運行管制システム1で把握できる場合は、風の影響が少なく安定に航行できる領域においては、専有空間21の半径23を短く設計することで機体の空間専有領域を狭められ、運行効率の向上に寄与できる。
【0040】
また図4において、機体Aの運動性能によっても、専有空間21の半径23の設計を変えることが考えらえる。例えば機体Aの発生できる推力・旋回力が高く、強風41により受ける抗力に十分対抗できる場合は、機体Aの専有空間21の半径23を強風領域であっても広く設計する必要がない、等である。
【0041】
またLiDAR(Laser Imaging Detection and Ranging)やカメラ等で鳥などの障害物を把握できる場合は、障害物近傍を航行する場合に、障害物との接触の恐れを低減させるために、専有領域を広く設計することが有効である。
【0042】
このような各機体の専有空間の設計は、機体の運動性能や、気象条件、障害物の有無によって専有空間を変化させることで、各機体の専有空間を必要最小限にとどめられ、運行効率向上に寄与できる。
【0043】
専有空間設計部4は、このような各機体の専有空間の設計を担うため、専有空間の設計は時系列データで与えるものとする。機体Aを例に挙げると、機体Aの専有空間21は半径23を時系列データとすればよい。以下、経路計画部3および専有空間設計部4における処理内容を、数式を用いて説明する。
【0044】
数式を用いる以下の説明においては、機体kの専有空間を定める半径rを、時刻tの関数としてrk(t)とし、機体kの経路pを位置座標ベクトルとしてpk(t)として、時系列で表現する。また機体kの運動性能をCk、機体周辺の気象条件をWk(t)、障害物情報をOkと表現する。
【0045】
このとき、ここまでの説明に基づけば、単純には、専有空間設計部4は、M機の機体に対して、各機体の運動性能、気象条件を考慮して専有空間を時系列として設計するものとして、(1)式として表現でき、専有空間設計部4はこのようなrk(t)、k=1~Mを経路計画部3に提供する。
[数1]
rk(t)=G(Ck、Ok、Wk(t)、t)、k=1~M ・・・(1)
経路計画部3は、単純には、専有空間設計部4から提供されたrk(t)や障害物情報に基づいて、各機体の経路を(2)式として計画するものであり、機体kに対して、pk(t)、k=1~Mを提供するものである。
[数2]
pk(t)=F(rk(t)、Ok、t)、k=1~M ・・・(2)
具体的には任意の機体iおよび機体jの相対距離をEij(t)とし、機体iと障害物qとの相対距離をDiq(t)とした場合、全時刻、全機体、全障害物に対して(3)式と(4)式を満たすように経路pk(t)を設計すればよい。なお、||X||はXのノルムを、max(X、Y)はXとYの内大きい数を意味する演算子である。
[数3]
||Eij(t)-max(ri(t)、rj(t))||>0・・(3)
[数4]
||Diq(t)-ri(t)||>0 ・・・(4)
なお、専有空間の設計にあたり、例えば機体周辺の気象条件を考慮する場合、機体の位置座標が既知でなければならず、すなわち経路pk(t)の情報が必要である。
【0046】
したがって、専有空間設計部4は例えば経路計画部3から図1の通信部5を介して経路の候補を取得し、これに基づき専有空間を設計してもよい。また、機体kの経路は経路計画部3と専有空間設計部4とによる同時の計画問題により計画されるもの、でもよく、経路計画に所定の評価項目や制約を設けて、これらを満たすように、専有空間と経路の同時最適化を行ってもよい。なお、所定の評価項目とは、例えば、運行効率向上の観点から、経路長や始点位置座標から終点位置座標への移動時間の低減量、等である。また制約とは例えば、機体の乗り心地から、経路の曲率を所定値以下にすること、等である。
【0047】
ここまで述べた経路計画装置2において、しかしながら、例えば、動力機械の故障等によるロータ停止やバッテリ劣化によるロータ出力の低下、もしくはロータ運転継続時間の低下等の機体性能低下時における、安全かつ運行効率のよい経路計画の提供については十分とは言えない。なお、図1に示した性能低下を示す性能低下フラグ情報11とは、これらの要因が発生したことを示す情報である。
【0048】
機体の性能の著しい低下が発生した場合、例えば強風による抗力へ対抗する推力や旋回力が不十分であったり、飛行継続時間が十分残されていない場合、機体性能低下前の専有空間に基づく経路では、十分追従できず、他の機体や障害物への衝突の恐れや、終点位置座標に到達できない恐れが生ずる。
【0049】
仮に、専有空間設計部4が機体性能低下を事前に加味した専有空間を設計する場合、例えば機体の故障率を基に専有空間を設計することが考えらえるが、基本的に安全性重視で設計される航空機のアクチュエータやセンサ群、バッテリ等の装置の故障率は相当低く設計されているため、機体の故障率に基づく専有空間の設計では、専有空間の十分な確保の指標に足りえない。
【0050】
他方、機体性能が低下した場合でも安全なように、性能低下した機体を前提に専有空間を設計すると、専有空間を大きく取らなければならず、機体性能の低下をしていない状態においては、十分余剰な専有空間となってしまい、運行効率の低下を招く。
【0051】
図1に示す本実施例の経路計画装置2は、このような機体性能低下を考慮した、安全かつ運行効率のよい経路計画を提供するものである。
【0052】
図5は、機体の機能低下時におけるふるまいを説明するための図である。図1のように機体Aと機体Bを経路計画の対象とする場合を例に、図5に示すように、時刻t0から時刻teまでで両機体が始点位置座標から終点位置座標(終点51、終点52)へ、与えられた経路9、10に従って航行完了するケースにおいて、時刻taで機体Aに著しい機体性能低下が発生するケースを対象事例として、経路計画装置2の振る舞いを説明する。
【0053】
図6は経路計画装置2の処理フローである。なおこの処理フローは、機体A、Bの航行初期の段階であらかじめ経路9、10を作成して提供する事前処理の部分(処理ステップS61からS63)と、航行中の状況変化に応じて機体A、Bに修正経路を提供する航行時処理の部分(処理ステップS64からS71)とで構成されている。なお航行初期の段階とは、例えば機体が離着陸場から離陸する場合における離陸前であったり、運行管制システムの管理区域内に機体が進入し、着陸のための経路が必要となる場合等である。この処理フローの事前処理によれば、最初の処理ステップS61において、経路計画装置2は図5の時刻t0において、機体情報13として機体位置、性能、状態などの航行情報12、および目的を各機体A、Bから通信装置6を介して取得する。なお、機体情報13は性能低下フラグ情報11も含む概念であるが、この航行初期の段階では十分な機体整備がされており、航行情報12を用いればよいものとする。
【0054】
ここで、機体位置は3次元位置座標であり、性能は機体の運動性能や航行性能の諸元情報等であり、状態は、運動性能や航行性能の定格に対する低下度であり、具体的にはアクチュエータ、センサ群、バッテリ等の航行に関わる装置の健全レベル等のことを示す。また目的は、離陸・着陸に関する機体側の要求であり、例えば、何分以内にポートXに着陸したい、といった運行管制システム1に対する要求である。
【0055】
次に経路計画装置2は、処理ステップS62において、時刻t0での各機の機体位置と各機体の目的を基に、始点位置座標と終点位置座標(図5の終点51および終点52)と、
それを結ぶ経路(図5の経路9および経路10)を計画する。この際、専有空間設計部4は各機体の性能、状態を基に各機体の運動性能Ckを算出し、(1)式で各機体専有空間rk(t)を算出する。経路計画部3は、rk(t)に基づき、(2)式で各機体の経路を計画する。次に処理ステップS63において、時刻t0(+Δt)で通信装置6を介して、各機体に経路9、10を提供する。これに応じて各機体は時刻t0(+Δt)で設計された始点位置座標から終点位置座標までの経路に準拠し航行可能となる。
【0056】
経路9、10の情報を得た機体A、Bは、時刻t0(+Δt)以降に航行が可能であり、航行状態においては、経路計画装置2は処理ステップS70に示すように、一定時間間隔で機体A、Bから機体情報13として航行情報12と性能低下フラグ情報11を入手している。なお処理ステップS70において、経路計画装置2は一定時間間隔で機体A、Bから性能低下フラグ情報11のみを入手するものとしてもよい。
【0057】
これにより経路計画装置2は、処理ステップS64において、各機体から性能低下フラグ11の通報があるか否かを随時チェックする。もし通報なき場合は、図6の処理ステップS68で、経路計画の継続・終了を判断する。これは例えば、図5の終了時刻teを経過した状態であることを検知して、処理ステップS69の計画終了とするものであり、時刻te以前であれば、処理ステップS70の処理に戻り、航行状態ではこれを繰り返し実行する。
【0058】
図5の事例では、時刻taにおいて機体Aに著しい機体性能低下が発生したことを想定しており、この時図6のフローでは、処理ステップS65において時刻taで、機体Aから著しい機体性能低下の通報が通信装置6を介して、性能低下フラグ情報11として経路計画装置2に提供され、経路計画装置2は、機体Aの機体位置、性能、状態を含む航行情報12を取得し、確認する。ここで、機体位置は時刻taでの機体Aの3次元位置座標であり、性能は機体の運動性能や航行性能等の諸元情報であり、状態は、運動性能や航行性能の定格に対する低下度である。
【0059】
専有空間設計部4は、処理ステップS66において機体Aの性能低下の度合いに応じて、図5の時刻ta以降に示すように、機体Aの専有空間21の半径23が十分大きなものとなるよう、設計する。すなわち機体Aの性能、状態を基に機体Aの性能低下の度合いに応じて機体Aの運動性能Ck(k=A)を算出し、(1)式で機体Aの専有空間rk(t)(k=A)、t=ta~teを算出し、機体Aが安全な航行を継続できることを保証する。
【0060】
また経路計画部3は、処理ステップS66において専有空間設計部4で設計された機体Aの専有空間21に基づき、機体Aの経路を再設計する。すなわち、rk(t)(k=A)に基づき、式(2)で機体Aの経路pk(t)(k=A)、t=ta~te(図5の経路55)を再設計する。この際、再設計された経路55は性能の低下した機体Aでも十分追従できる、例えば風の影響を受けにくい、曲率が低い、距離が短い、等を考慮したものである。
【0061】
再度計画された経路55は、処理ステップS67において通信装置6を介して機体Aに提供される。
【0062】
ここまでは、性能低下した機体Aの経路9の再設計について説明したが、しかしながら、機体Aの性能低下度合いに合わせて、十分大きい半径23を設けた場合、既に提供した経路(例えば図5の経路10)に準拠して航行する他機体Bが機体Aの専有空間へ侵入する恐れが発生する場合が考えうる。逆にいえば、経路計画装置2は時刻taで機体Aの経路を再設計する際に、他の機体Bが機体Aの専有空間に侵入する恐れのない経路を再計画できない場合が起こり得る。
【0063】
そのような事態を鑑みて、経路計画装置2は、時刻taで少なくも機体Aから所定の距離以内に存在する機体(例えば機体B)の性能、状態も取得し、これら機体(k=1~nとする)の経路を再計画する。
【0064】
すなわち、経路計画装置2は、処理ステップS65において機体Aの機体の機体位置、性能、状態などの航行情報12と合わせて、機体(k=1~n)(例えば機体B)の機体位置、性能、状態などの航行情報12を、通信装置6を介して取得する。
【0065】
専有空間設計部4は、機体Aの性能低下の度合いと機体(k=1~n)の性能、状態などの航行情報12に基づいて、各機体の運動性能Ckを算出し、機体Aの専有空間21、および機体(k=1~n)の専有空間を(1)式に基づき設計しており、この際、機体Aの専有空間21は、十分大きく設計され安全な航行を継続できることを保証する。
【0066】
また経路計画部3は、専有空間設計部4で設計された各機体の専有空間rk(t)、k=1~n、A、t=ta~teに基づき、各機体の経路pk(t)k=1~n、A、t=ta~teを再設計し、この際、再設計された経路55は性能の低下した機体Aでも十分追従できる、例えば風の影響を受けにくい、曲率が低い、距離が短い、等を考慮したものであり、他機体の経路は、機体Aの専有空間21への侵入の恐れがないような経路に再設計されたものである。
【0067】
しかしながら、図5に示した再計画では、このような他機体の経路の再計画において、他機体の終点位置座標(例えば機体Bの終点52)を変更しないような経路としたものであり、依然として他機体が機体Aの専有空間21に侵入する恐れのある場合が存在しうる。このため、処理ステップS65、S66、S67の処理を実行するときには、さらに以下の点を考慮した対応を行うのがよい。
【0068】
図7は、他機体の終点変更を含む再計画を説明するための図である。このような場合に対処できるよう、経路計画装置2は、図7に示すように、機体Aの安全な航行を最優先し、他機体(機体B)の終点位置座標を終点52から終点72に変更した上で、他機体の経路を設計する機能を備えるのがよい。この際の終点位置座標の変更は、例えば、着陸するポート(地上エリア)の変更等である。
【0069】
また、他機体の終点の変更以外にも、性能低下した機体Aの終点位置座標(終点51)を変更する機能を備えるのがよい。例えばバッテリ故障で補助電源しか残されないような、航続距離が十分でなく、終点51に到達が難しいような場合への対応を鑑みてのものである。
【0070】
図8は、他機体の専有空間縮小を含む再計画を説明するための図である。また、他機体の再計画については、図8のように、時刻ta以降、他機体の専有空間(機体Bの専有空間32)を他機体の機体位置、性能、状態に応じて狭めることで、性能低下した機体Aの安全な航行を保証する経路を設計する機能を備えるのがよい。例えば、性能低下した機体A以外の他機体の定格以上の性能を駆使して、他機体が機体Aの安全な航行の妨げにならないように協調して航行する必要があるような場合を鑑みてのものである。
【0071】
本実施例の、複数の機体に対して離着陸に関する経路を提供する運行管制システム1の経路計画装置2によれば、機体の運動性能の低下が未発生な場合は複数の機体を最小の近接許容距離で空間効率よく経路を計画でき、また機体の運動性能の低下が発生した場合でも、安全かつ効率的な経路の計画が可能である。
【0072】
なお、本実施例の経路計画装置2が対象とする機体は、垂直離着陸機以外の航空機であってもよく、また、自律飛行が可能な航空機に限らず、パイロットが操縦する航空機であってもよい。
【0073】
また本実施例の経路計画装置2は航空機以外にも、3次元の移動自由度を有するモビリティ(宇宙機や潜水艇等)や、自動車やロボット、鉄道といった地上を走行するモビリティを対象とすることも可能である。
【0074】
また、本実施例の経路計画装置2における経路の再設計は機体の性能低下をトリガとするが、既に設計された経路からの顕著な逸脱、をトリガに再設計の要求を受ける構成としてもよい。
【0075】
また本実施例の経路計画装置2が対象とする航空機は、機種、型式やスペックが単一のものに限らない。経路計画装置2『性能』として、機体の諸元情報等を得る仕組みを備えるため、このような機体差にも対応可能である。
【実施例2】
【0076】
実施例2では、機体性能が低下したことの検知手法について言及する。実施例1の図1では機体Aが性能低下フラグ情報11を発信し、図6の処理ステップS64では性能低下フラグ情報11の有無を経路修正の条件としていた。
【0077】
この点に関し、実施例1における性能低下フラグ情報11は、機体の動力機械の故障や電源電圧低下等によるアクチュエータの性能低下・停止が発生したという重篤な場合を主として想定したものである。これに対し、機体における各種諸元や性能の中には、数値把握されるものもあり、例えば電源電圧の低下などはそのレベルによっては今すぐに対策を講じなければならない事態である場合もあるが、多くの場合にはより軽微な段階で予兆的に性能低下を判断可能なものもある。
【0078】
図1によれば、経路計画装置2が入手可能な機体情報13の中には性能低下フラグ情報11以外に、機体位置、性能、状態などの航行情報12も含まれており、特に性能、状態などの航行情報12に着目し、そのレベル監視を行うことにより、予兆的な意味合いが濃いものにはなるが、処理ステップS64における「性能低下フラグ情報11の有無」に代替可能な、経路修正の条件とし得るものである。
【0079】
このように本発明における性能低下の検知条件には、重篤なものばかりではなく、予兆的な軽微なものも含んで論理構成されるのがよい。これらの性能低下の検知条件が、機体情報13として、機体側から送信されてくる情報を利用しているのが実施例1、実施例2である。
【実施例3】
【0080】
実施例3も、機体性能が低下したことの検知手法について言及するものであるが、実施例1、2では機体側から情報発信していたに対し、機体側からの情報発信に限界がある場合も想定されることから、実施例3では、機体を外界からみて性能評価することについて説明する。
【0081】
図9は実施例3に係る経路計画装置2の構成例を示すものである。本実施例は実施例1、2の運行管制システム1の経路計画装置2において、機体の性能低下の把握手段が異なる場合である。
【0082】
性能低下した機体が、必ずしも機体の性能低下の度合いを全て自己把握できるとは限らず、最悪ケースとしては性能低下したことを経路計画装置2に通信装置6を介して報じられない場合も想定される。
【0083】
実施例3では、このような場合に対応できる経路計画装置2を備えた運行管制システム1を提供する。本実施例の運行管制システム1は、経路計画装置2と観測装置93とにより構成され、経路計画装置2は、経路計画装置2に、機体性能推定部92を加えた構成である。
【0084】
図9に示すように、経路計画装置2に関して、機体Aおよび機体Bの経路を計画する場合を例に説明する。
【0085】
観測装置93は、運行管制システム1の管理空域内に属する全ての機体、もしくは観測装置93の観測可能領域内の機体の航行の様子を外部から観測し、観測し得た情報を機体性能推定部92に通信路95を介して提供する。
【0086】
機体Aが既に経路計画装置2により計画された経路に準拠し航行している最中に、機体Aの性能が低下したにも拘らず、経路計画装置2が、通信装置6を介して機体Aから機体性能の低下の情報を一切得られない場合、経路計画装置2は機体性能推定部92から得られる情報を基に経路の再設計を行う。
【0087】
機体性能推定部92は、観測装置93から得た機体群の航行の様子から、各機体の性能低下の度合いを推定する役割を担う。
【0088】
ここで、観測装置93は、地上に設けられた、数百メートル~数千メートル先までの機体の位置情報、その時間微分から速度情報を取得可能なセンサ群のことであり、例えばLiDAR、レーダー(Radio Detection and Ranging)、ステレオカメラ等である。なお機体群の位置、速度情報は、地上以外にも飛行体に設けられたセンサ群から取得されものであってもよい。
【0089】
機体性能推定部92は、観測装置93から得た各機体の位置、速度情報と、経路設計時に既に得ている各機体の性能、状態とを基に、各機体の性能低下の度合いを常時推定し、性能低下の度合いが著しいと判断する場合において、性能低下フラグを性能低下した機体に代わって提供し、これを受けて、経路計画装置2は経路計画部3および専有空間設計部4にて経路再設計を実施する。
【0090】
本実施例の、複数の機体に対して離着陸に関する経路を提供する運行管制システム1の経路計画装置2によれば、機体の運動性能の低下が未発生な場合は複数の機体を最小の近接許容距離で空間効率よく経路を計画でき、また機体の運動性能の低下が発生しその機体から性能、状態が得られない場合においても、安全かつ効率的な経路の計画が可能である。
【0091】
なお、本実施例の経路計画装置2の機体性能推定部92は、性能低下した機体から、性能、状態に関する情報の一部が得られる場合、もしくは得られた性能、状態に関する情報の一部のみを活用する場合に、観測装置93から得た各機体の位置、速度情報と統合して、各機体の性能低下の度合いを推定するものであってもよい。
【0092】
性能低下した機体が自身の性能、状態に関する情報を全て正しく把握できるとは限らず、またそもそも、性能、状態を全て把握する機能を持ち合わせない機体を経路計画の対象にする場合も想定される。
【0093】
このような場合、経路計画装置2側から、性能、状態を把握する手段を提供し、機体から提供される情報と統合し、機体性能の低下度合いを総合的に判断する仕組みを備える機体性能推定部92は、より高信頼に機体性能の低下を検知し、性能低下フラグを提供することができる。結果として、高安全な経路計画装置2の提供が可能となる。
【実施例4】
【0094】
図10は本発明の実施例4に係る運行管制システム1の経路計画装置2の構成を示すものである。本実施例は実施例3の運行管制システム1の経路計画装置2に、レベル判定部102が追加された構成である。
【0095】
レベル判定部102は、各機体の機体位置、性能および状態などの航行情報12を基に、各機体の安全レベルを判定する。実施例3において、機体の性能の著しい低下が発生した場合、経路計画部3および専有空間設計部4は、性能低下した機体の機体位置、性能および状態などの航行情報12を基に、専有空間を再設計し、経路を再計画するが、定量的に評価された安全レベルに準拠して再計画が実施されるほうが、安全性が明確になる利点がある。レベル判定部102はこのような目的で経路計画装置2に設けられる。
【0096】
したがって、本実施例の経路計画部3および専有空間設計部4は、レベル判定部102から提供される安全レベルに基づき、専有空間を再設計し、経路の再計画を行うものである。なお、レベル判定部102は、機体性能推定部92から得られる、各機体の性能低下の度合いを加味して安全レベルを判断してもよい。
【0097】
また、本実施例の運行管制システム1は観測装置105を備え、観測装置105は実施例2の観測装置93に加えて、風況を把握できる例えばドップラLiDAR等のセンサを含み、レベル判定部102は、これら情報を通信路106を介して取得し、これら情報を加味して安全レベルを判定してもよい。
【0098】
安全レベルは、例えば、図11に示すような機体性能に関する推力、旋回力、航行可能時間、風況の4項目で定量的に算出する。図11は機体Aの性能が低下した場合であり、機体Aの定格性能に対して、一部のロータが完全停止し、推力および旋回力が50%以下に低下し、風況が強く、かつ航行可能時間には余裕がある場合である。
【0099】
このような場合、経路計画部3および専有空間設計部4は、レベル判定部102から図11に示した4項目の安全レベルを通信路103および通信路104を介して取得し、これに基づき性能低下した機体Aが安全に航行できるよう、専有空間を大きくし、終点位置座標までの経路を、経路長を短くするよりも風況の良く(弱い)、曲率の低い経路であることを優先し、計画する。
【0100】
また、機体Aの推力・旋回力は低下しており、機体Aの経路の計画自由度は高くないため、必要に応じて、経路計画部3および専有空間設計部4は、機体Aの経路の再設計の自由度を高められるよう、機体A以外の他機体の経路を同時に再設計する。
【0101】
本実施例の、複数の機体に対して離着陸に関する経路を提供する運行管制システム1の経路計画装置2によれば、レベル判定部102による安全レベルの定量化により、機体の運動性能の低下が発生した場合においても、明解な指針に基づく、安全かつ効率的な経路の計画が可能である。
【0102】
なお、安全レベルの評価項目は、図11に示した4項目の他にも、雨量や気圧、気温といった気象条件に関するものや、鳥の群れ等の障害物に関するものを含んでもよい。
【0103】
また安全レベルは、図11に示したような各項目の重み付き和として、スカラ値で算出し、安全レベルの代表値として、経路計画部3および専有空間設計部4に提供してもよい。この際、経路計画部3および専有空間設計部4は安全レベルが図11のものより簡素化されているため、推力、風況、航続時間等を各々考慮したきめ細かい経路再計画はできない一方で、経路再計画ロジックを簡素化できる利点がある。
【符号の説明】
【0104】
1:運行管制システム
2:経路計画装置
3:経路計画部
4:専有空間設計部
21、32:専有空間
9、10:経路
11:性能低下フラグ情報
12:航行情報
13:機体情報
26:始点位置座標
27:終点位置座標
92:機体性能推定部
93:観測装置
102:レベル判定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11