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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】ろう付方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 1/19 20060101AFI20241108BHJP
   B23K 1/002 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
B23K1/19 B
B23K1/002
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021161684
(22)【出願日】2021-09-30
(65)【公開番号】P2023051170
(43)【公開日】2023-04-11
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】390029089
【氏名又は名称】高周波熱錬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 勝博
(72)【発明者】
【氏名】小川 靖治
(72)【発明者】
【氏名】杉山 豊
(72)【発明者】
【氏名】浅野 裕次
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04562121(US,A)
【文献】特開昭60-191068(JP,A)
【文献】特開平05-097531(JP,A)
【文献】特開2016-098420(JP,A)
【文献】特開2009-259588(JP,A)
【文献】特開平09-308985(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 1/19
B23K 1/002
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄鋼材にセラミックス材をろう付するろう付方法であって、
前記鉄鋼材とセラミックス材との間にろう材を配置し、前記鉄鋼材のキュリー点を超える温度であり、かつ、前記ろう材の融点以上の温度である加熱温度まで昇温して誘導加熱するにあたり、
前記鉄鋼材のキュリー点を超える温度への調整は、前記誘導加熱における電流値及び周波数を調整することで行い、
前記周波数は、
下記式(1)
δ=5.03×10 (ρ/(μ・f)) 1/2 ・・・式(1)
ただし、δ:鉄鋼材の断面対辺距離(mm)、ρ:鉄鋼材のキュリー点における抵抗値(Ω・m)、μ:比透磁率(前記鉄鋼材のキュリー点を超えた温度では1)、f:周波数(Hz)で算出されるf値とするろう付方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼材にセラミックス材をろう付するろう付方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、フラックスろう付作業を簡略化できる高周波誘導加熱ろう付法として、 金属製被接合部材同士の接合部に、ろう材成分およびフラックス成分が配合されたフラックス含有ろう材を配置するとともに、高周波誘導加熱コイルを近接配置し、該コイルの誘導加熱作用により前記フラックス含有ろう材を溶融させて前記被接合部材を接合することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-9119号公報[請求項1][図1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら特許文献1には、鉄鋼材にセラミックス材をろう付するろう付方法については記載されていない。
そこで、本発明は、鉄鋼材にセラミックス材を有効にろう付できるろう付方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るろう付方法は、鉄鋼材にセラミックス材をろう付するろう付方法であって、前記鉄鋼材とセラミックス材との間にろう材を配置し、前記鉄鋼材のキュリー点を超える温度であり、かつ、前記ろう材の融点以上の温度である加熱温度まで昇温して誘導加熱することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、鉄鋼材にセラミックス材を有効にろう付できるろう付方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施形態に係るろう付方法を説明するための各工程における概念図である。
図2】本発明の実施形態に係る誘導加熱時における加熱コイルと被溶着体1Aとの位置関係を説明する概念図である。
図3】実施例における鉄鋼材にセラミックス材をろう付するろう付方法を説明するための概念図である。
図4】本実施例において、加熱温度測定箇所及び硬さ試験の評価箇所を説明するための概念図である。
図5】実施例1の誘導加熱時におけるS45C鋼材10aのろう付領域α1内の端部から10mmの位置と、35mmの位置の加熱時間(秒)に対する加熱温度(℃)の昇温傾向をプロットした図を示す。
図6】実施例1、比較例1及び比較例2で得られた試験体について硬さ測定(計5箇所)を行った結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
本発明に係るろう付方法は、鉄鋼材にセラミックス材をろう付するろう付方法であって、前記鉄鋼材とセラミックス材との間にろう材を配置し、前記鉄鋼材のキュリー点を超える温度であり、かつ、前記ろう材の融点以上の温度である加熱温度まで昇温して誘導加熱する。
【0009】
通常、鉄鋼材の中で磁界を発生させると鉄鋼材の外周に電流が流れ、これにより鉄鋼材は誘導加熱される。この電流(渦電流)の当該外周の表面からの深さ(以下、電流浸透深さという。)が小さいほど、鉄鋼材はよく加熱され、昇温により加熱温度を高くすることができる。しかしながら、昇温により加熱温度が高くなりすぎると、誘導加熱時、鉄鋼材やセラミックス材に悪影響(硬さ低下等)を及ぼしてしまう可能性がある。
そこで、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、前記鉄鋼材のキュリー点を超える温度であり、かつ、前記ろう材の融点以上の温度である加熱温度まで昇温して誘導加熱することで、鉄鋼材やセラミックス材に悪影響を及ぼすのを抑制しつつ、有効にろう付ができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
以下に、本発明の実施形態に係るろう付方法を説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るろう付方法を説明するための各工程における概念図である。
本実施形態に係るろう付方法は、最初に、鉄鋼材10のろう付範囲10A上にろう材30を配置すると共に、ろう付範囲10A上に配置したろう材30上にセラミックス材20のろう付範囲20Aを配置して、被溶着体1Aとする(図1(a))。
次に、少なくともろう材30を配置した鉄鋼材10及びセラミックス材20を含む領域(ろう付領域α)を誘導加熱45する(図1(b))。この誘導加熱45は、前記鉄鋼材10のキュリー点を超える温度であり、かつ、前記ろう材の融点以上の温度である加熱温度まで昇温して誘導加熱する。
以上の工程を経ることで、鉄鋼材10とセラミックス材20がろう付された溶着体1Bを得ることができる(図1(c))。
【0011】
なお、本発明でいう鉄鋼材とは、普通鋼(炭素鋼)および特殊鋼全体を包含し、例えば一般構造用圧延鋼材等の炭素鋼、低温用鋼、原子炉用鋼板材料等をいい、冷間圧延鋼材、熱間圧延鋼材、自動車構造用熱間圧延鋼板材、自動車加工用熱間圧延高張力鋼板材等の鉄鋼材である。また、本発明でいう鉄鋼材は上記鋼材に限らず、例えば、日本工業規格(JIS「SS400」)等で規格化されたあらゆる鉄鋼材が含まれる。
【0012】
また、本発明でいうセラミックス材とは、金属炭化物や金属酸化物を含有し、高温での熱処理により焼き固められたものとする。セラミックス材としては、炭化タングステン、アルミナ、マグネシア、チタニア、ジルコニアなどが例示できる。
また、本発明でいうろう材とは、一般的な銀ろう、金ろう、銅ろうやNiろうなどが例示できる。
また、本発明のろう材30を配置する方法は、鉄鋼材10とセラミックス材20のそれぞれのろう付範囲10A、20Aの形状等によって適時、周知の方法で行うことができる。
更に、本発明の誘導加熱する方法は、磁界が導電性材料(鉄鋼材等)を横切って変化したとき、導電性材料の表面付近に渦電流が発生し、そのジュール発熱により被加熱体を加熱する加熱方法であればよく、例えば、加熱コイルを用いた周知の高周波誘導加熱で行うことができる。
【0013】
図2は、本実施形態に係る誘導加熱時における加熱コイルと被溶着体1Aとの位置関係を説明する概念図であり、(a)は側面図、(b)は(a)のA-A線で切った時の正面図をそれぞれ示す。なお、図2(a)において加熱コイル50内に入っている被溶着体1Aや固定機構100は、便宜上、点線で表している。
【0014】
本実施形態に係る鉄鋼材10とセラミックス材20との間にろう材30を配置し、誘導加熱する方法は、図1(b)及び図2に示すように、鉄鋼材10とセラミックス材20との間にろう材30を配置した被溶着体1Aの少なくとも前記ろう材30を配置した鉄鋼材10及びセラミックス材20を含む領域(ろう付領域α)が誘導加熱されるように被溶着体1Aを加熱コイル50内に配置する。
加熱コイル50内に配置される被溶着体1Aは、図2に示すように、固定機構100によって固定される。
【0015】
固定機構100は、被溶着体1Aの一端(ろう付領域α側)である鉄鋼材10、ろう材30及びセラミックス材20がこの順で積層して配置された前記セラミックス材20の上面を当該積層がずれないように支持する板状体である第1の支持部110と、前記被溶着体1Aの他端(前記ろう付領域αの反対側)を加熱コイル50外で図示しない固定手段により支持する工場等の床や壁などに固定して設置された固定治具である第2の支持部120と、前記第1の支持部110と前記第2の支持部120の上方に配置され、前記第1の支持部110と前記第2の支持部120とを位置決めするセラミックス部材である位置決め部材130とを備える。この位置決め部材130は、前記第1の支持部110と前記第2の支持部120の上方に配置された位置決め本体135と、前記位置決め本体135の一端(ろう付領域α側)を紙面上方から下方に貫通した図示しないねじ穴にねじ止め可能であり、先端140Aで前記第1の支持部110を支持し、かつ当該ねじ穴により支持荷重を調整可能な第1のネジ部材140と、位置決め本体135の他端(前記ろう付領域αの反対側)を紙面上方から下方に貫通した図示しないねじ穴にねじ止め可能であり、その先端150Aが第2の支持部120に固定される第2のネジ部材150とを備える。
【0016】
なお、固定機構100を構成している部品、形状及びその素材は、被溶着体1Aの少なくともろう付領域α側を加熱コイル50内に配置することができ、鉄鋼材10、ろう材30及びセラミックス材20の積層がずれないように当該セラミックス材20の上面から支持することができ、かつ、熱変形等なく前記誘導加熱45を行うことができれば特に限定されない。また、固定機構100についても、被溶着体1Aの少なくともろう付領域α側を加熱コイル50内に配置することができ、鉄鋼材10、ろう材30及びセラミックス材20の積層がずれないように当該セラミックス材20の上面から支持することができ、かつ、熱変形等なく前記誘導加熱45を行うことができれば特に限定されない。
【0017】
また、本実施形態に係る誘導加熱45においては、前記鉄鋼材10のキュリー点を超える温度であり、かつ、前記ろう材の融点以上の温度である加熱温度まで昇温して行う。
なお、本発明でいうキュリー点は、使用する鉄鋼材10の磁気変態温度のことをいう。また、本発明でいうろう材の融点は、使用するろう材30の融点のことをいう。
本実施形態に係る誘導加熱45においては、前記鉄鋼材10のキュリー点(後述する実施例では約760℃)を超える温度になると、上述した電流浸透深さが大きくなり、鉄鋼材10の表裏面の電流がキャンセルされて電流が少なくなり(加熱効率が著しく低下し)、昇温が抑制され、均熱化される(すなわち、図5に示すような昇温傾向を有して均熱化される)。
【0018】
よって、本実施形態に係る誘導加熱45の加熱温度は、前記鉄鋼材10のキュリー点を超える温度及び前記ろう材30の融点以上の温度であるため、ろう付けを行うことができる。また、本実施形態に係る誘導加熱45の加熱温度は、図5に示すような昇温傾向を有して均熱化される温度(後述する実施例では約775℃)であるため、鉄鋼材10やセラミックス材20に硬さ低下等の悪影響を及ぼすのを抑制しつつ、当該ろう付を有効に行うことができる。
【0019】
前記鉄鋼材10のキュリー点を超える温度への調整は、前記誘導加熱45における電流値及び周波数を調整することで行い、前記周波数は、下記式(1)で算出されるf値とすることが好ましい。
δ=5.03×10 (ρ/(μ・f))1/2・・・式(1)
ただし、δ:鉄鋼材10の断面対辺距離(mm)、ρ:鉄鋼材10のキュリー点における抵抗値(Ω・m)、μ:比透磁率(前記鉄鋼材のキュリー点を超えた温度では1)、f:周波数(Hz)
【0020】
前記鉄鋼材10のキュリー点の温度及びろう材30の融点の温度は、ろう付する鉄鋼材10及びろう材30の材質等で確認することができる。鉄鋼材10の断面対辺距離とは、図3に示すような鉄鋼材10aのろう付範囲10aaの平面10a1を厚さ方向(積層方向β1)に平行に切ったときの断面における前記平面10a1と前記平面10a1に対向する裏面10a2との間の対辺距離10bbである。
【0021】
前記均熱化される温度は、上述したように鉄鋼材10の表裏面の電流がキャンセルされて電流が少なくなり、均熱化される現象を利用する。
すなわち、前記均熱化される温度は、δ:電流浸透深さ(mm)を、鉄鋼材10の断面対辺距離(mm)、ρを鉄鋼材10のキュリー点における抵抗値(Ω・m)、μを比透磁率(前記鉄鋼材のキュリー点を超えた温度では1)及びfを周波数(Hz)として、上記式(1)で算出される当該f値(周波数(Hz))と電流値を調整して誘導加熱45することで、上記現象を発生させることができる。
【0022】
すなわち、上記式(1)を満たすf値の電流を加熱コイル50に流したときに、鉄鋼材10の周囲(上下左右)を流れる電流が互いに干渉し、これらの電流同士が打ち消しあい誘導電流のキャンセルが発生する。その結果、誘導電流の減少に伴い極端に加熱効率が下がり、被加熱対象箇所(ろう付領域α)の均熱化を実現することができる。よって、誘導加熱45において、周波数を上記式(1)で算出されたf値とし、また、誘導加熱45における電流値を調整(電力値及び電圧値の両方を調整することを含む)することで、前記鉄鋼材10のキュリー点を超える温度、かつ、前記ろう材30の融点以上の温度である加熱温度まで昇温し、均熱化することができる。
なお、磁性を帯びた鉄鋼材を誘導加熱により所定の周波数で加熱した場合、当該鉄鋼材のキュリー点(磁気変態点)を超えた温度まで昇温すると、上記μ(比透磁率)は1となる。
【0023】
従来の誘導加熱を利用したろう付は、被加熱部材(被溶着体)の一部を加熱する場合に被加熱対象箇所(ろう付領域α)を均一に加熱することが困難であった。また、表皮効果により被加熱部材(被溶着体)の表面が集中的に加熱されやすい。しかし、本発明に係るろう付方法によれば、適切な周波数を設定することで、これらの問題の発生を抑制できる。
【実施例
【0024】
次に、実施例及び比較例を通じて、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例により何ら限定されるものではない。
(実施例1)
図3は、実施例における鉄鋼材にセラミックス材をろう付するろう付方法を説明するための概念図であり、詳しくは、実施例においてろう材を配置する態様を示すものである。
本実施例1では、図3に示すように、S45C鋼材10aのろう付領域10aa上に銀ろう(棒潰し/融点:650℃~760℃:符号30a)を積層方向β1に積層して配置し、更に、銀ろう30a上に超硬チップ20a(炭化タングステン製:セラミックス材)をろう付領域20aaの積層方向β1に積層して配置して、被溶着体1aとした。
次に、被溶着体1aの少なくともろう付領域α1を、図2に示すように、固定機構100に固定して、コイル50内に配置し、誘導加熱45を行った。
この誘導加熱45における加熱温度は、S45C鋼材10aのキュリー点を超える温度であり、かつ、使用するろう材30aの融点以上の温度まで昇温すべく、電力値、電圧値及び周波数(すなわち、電流値及び周波数)を下記の値に調整した。
【0025】
[加熱条件]
電力:47kW
電圧:180V
周波数:3000Hz(式(1)により算出)
δ:9.29mm
ρ:1.02×10-6
μ:1
出力制御方式:電力一定制御
加熱時間:10秒
【0026】
本実施例1では、上述した条件を経て得られた溶着体1bを試験体とした。
図4は、本実施例において、加熱温度測定箇所及び硬さ試験の評価箇所を説明するための概念図である。
なお、実施例1では、誘導加熱45時に、S45C鋼材10aのろう付領域α1内の端部から10mmの位置TH1と35mmの位置TH2のそれぞれの接合面に溶接したクロメルアルメル(K型)熱電対により加熱温度を測定することで、誘導加熱45におけるS45C鋼材10aの加熱時間(秒)に対する加熱温度の昇温傾向を確認した。また、得られた試験体に対して、以下に示す硬さ試験を行った。
硬さ試験は、得られた試験体について、マイクロビッカースにより硬さ測定を実施した。なお、ビッカース硬さHvは、試験体を図4(a)に示すB-B線で切断し、この切断した断面を研磨して平滑にした後に、図4(b)に示すように、ろう材30aの界面から上方に0.5mmピッチで計5点(超硬チップ20a内)、ビッカース硬さ試験機(測定荷重1kgf)を用いて測定した。
【0027】
(比較例1)
比較例1では、ろう材としてリン銅ろう(市販品/融点:730℃~815℃)を用いた他、周波数を除いて実施例1と同じ条件で試験体を作製した。なお、周波数は、誘導電流のキャンセルが発生しない周波数(1000Hz)で行った。
そして、実施例1と同様に、硬さ試験を行った。
【0028】
(比較例2)
比較例2では、ろう材として銀ろう(箔ろう/融点:650℃~760℃)を用い、誘導加熱ではないガス溶接によるろう付けを行った。
そして、実施例1と同様に、硬さ試験を行った。
【0029】
(結果及び評価)
図5は、実施例1の誘導加熱時におけるS45C鋼材10aのろう付領域α1内の端部から10mmの位置と、35mmの位置の加熱時間(秒)に対する加熱温度(℃)の昇温傾向をプロットした図を示す。
図5に示すように、実施例1では、電力一定制御であるにも関わらず、S45C鋼材10aの端部から10mmの位置と、35mmの位置共に、加熱温度の昇温が抑制され、均熱化される傾向があることが確認できる。これは、S45C鋼材10aの表裏面の電流がキャンセルされて電流が少なくなり、加熱効率が著しく低下しているためと考えられる。
【0030】
また、実施例1において、均熱化される加熱温度である約770℃から775℃は、S45C鋼材10aのキュリー点(760℃)を超えた温度であり、銀ろう30aの融点(650℃~760℃)以上の温度であった。
一方、比較例1及び比較例2では、図5に示すような、加熱効率が著しく低下するような昇温傾向は確認されず、加熱開始から終了まで常に昇温している傾向が確認された。
【0031】
図6は、実施例1、比較例1及び比較例2で得られた試験体について硬さ測定(計5箇所)を行った結果を示すグラフである。
図6の結果からわかるように、実施例1では、硬さの低下が確認されなかった。従って、実施例1は、比較例1及び比較例2に比べて、S45C鋼材10aに超硬チップ20aを有効にろう付できることが確認され、また、超硬チップ20aの硬さの低下(すなわち、超硬チップ20aへの悪影響)も確認されなかった。
【0032】
一方、比較例1及び比較例2では硬さの低下が確認された。そのため、比較例1及び比較例2は、実施例1及び実施例2に比べて、S45C鋼材10aに超硬チップ20aを有効にろう付しにくく、また、ろう付する超硬チップ20aに硬さ低下等の悪影響が生じていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明に係るろう付方法によれば、鉄鋼材にセラミックス材を有効にろう付できる。従って、本発明に係るろう付方法にろう付された鉄鋼材-セラミックス材溶着体は、工作機械の旋盤の切削工具等に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0034】
1A 被溶着体
1B 溶着体
10 鉄鋼材
10A ろう付範囲
20 セラミックス材
30 ろう材
45 誘導加熱
50 加熱コイル
図1
図2
図3
図4
図5
図6