(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】大環状ラクトン製剤、その調製方法、及び眼部寄生虫に続発する症状の治療における該製剤の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7048 20060101AFI20241108BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20241108BHJP
A61P 33/10 20060101ALI20241108BHJP
A61P 33/14 20060101ALI20241108BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20241108BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20241108BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20241108BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20241108BHJP
A61K 47/40 20060101ALI20241108BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20241108BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20241108BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20241108BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20241108BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20241108BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20241108BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20241108BHJP
A61K 31/365 20060101ALI20241108BHJP
A61K 47/30 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
A61K31/7048
A61K9/10
A61P33/10
A61P33/14
A61P29/00
A61P27/02
A61K9/14
A61K47/36
A61K47/40
A61K47/42
A61K47/34
A61K47/38
A61K47/32
A61K9/08
A61K9/06
A61K47/44
A61K31/365
A61K47/30
(21)【出願番号】P 2021545263
(86)(22)【出願日】2019-10-11
(86)【国際出願番号】 US2019055964
(87)【国際公開番号】W WO2020077284
(87)【国際公開日】2020-04-16
【審査請求日】2022-10-07
(32)【優先日】2018-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】PT
(73)【特許権者】
【識別番号】315015195
【氏名又は名称】ホビオネ サイエンティア リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】カーラ ボゾーネ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレイア フィリッパ ドス サントス コルデイロ ロベルト ロペス
(72)【発明者】
【氏名】ヒューゴ アルメイダ
(72)【発明者】
【氏名】コートニー ラウズ スミス
(72)【発明者】
【氏名】セルジオ シルバ
(72)【発明者】
【氏名】ジョージ マグラス
【審査官】井上 政志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/022066(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第103494833(CN,A)
【文献】Ivermectin-loaded microparticles for parenteral sustained release: in vitro characterization and effect of some formulation variables,Journal of Microencapsulation,2010年,Volume 27, 2010 - Issue 7,pages 609-617
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00-31/327
A61K31/33-31/80
A61K33/00-33/44
A61K 47/00-47/69
A61K 9/00- 9/72
A61P 1/00-43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アベルメクチン又はミルベマイシンが微溶又は不溶である液体又は半固体の担体中のアモルファスのアベルメクチン及び/又はミルベマイシンとポリマーとを含む粒子の形態の固体分散体の懸濁物を含む、睫毛、眼瞼、又は睫毛若しくは眼瞼の周囲の皮膚組織における寄生虫の寄生に続発する炎症症状及び眼症状を治療するための製剤であって、
該製剤が、該睫毛、眼瞼、又は睫毛若しくは眼瞼の周囲の皮膚組織に局所的に塗布されるように用いられ、
該アベルメクチン及び/又はミルベマイシンとポリマーとの粒子が、10ミクロン未満のD90粒度を有する、前記製剤。
【請求項2】
前記寄生虫の寄生が、ニキビダニ属の寄生を含む、請求項1記載の製剤。
【請求項3】
前記睫毛、眼瞼、又は睫毛の周囲の皮膚組織におけるニキビダニ属の寄生に関連する前記症状が、蒸発亢進型ドライアイ疾患を伴う又は伴わないマイボーム腺機能不全、後部眼瞼炎、前部眼瞼炎、眼周囲皮膚炎、霰粒腫、睫毛乱生又は睫毛欠損、及びニキビダニ属又は他の寄生虫の寄生に続発性であると分かった他の病態を含み、
該ニキビダニ属又は他の寄生虫の寄生に続発性であると分かった他の病態が、眼部毛包虫症;睫毛の喪失若しくは向きの異常(睫毛欠損又は睫毛乱生)、マイボーム腺機能不全、マイボーム腺の破壊、マイバムの変化、眼瞼の発赤の増加、霰粒腫形成、眼部酒さ、又は眼部表面の炎症を含み得る、請求項2記載の製剤。
【請求項4】
前記アベルメクチンが、イベルメクチンを含む、請求項1記載の製剤。
【請求項5】
前記固体分散体が
、800nmか
ら4ミクロンの間のD90粒度を有するイベルメクチンとポリマーとの粒子を含む、請求項4記載の製剤。
【請求項6】
前記ポリマーが、持続放出ポリマー、即時放出ポリマー、又はそれらの混合物を含む、請求項5記載の製剤。
【請求項7】
前記ポリマーが、天然又は合成の生分解性ポリマーを含む、請求項6記載の製剤。
【請求項8】
前記天然生分解性ポリマーが、多糖類、シクロデキストリン、キトサン、アルギン酸及び誘導体、ヒアルロン酸ナトリウム、キサンタンガム、ゲランガム、デンプン、タンパク質、アルブミン、ゼラチン、フィブリン、並びにコラーゲンのうちの1種以上を含む、請求項7記載の製剤。
【請求項9】
前記合成生分解性ポリマーが、ポリエステル、ポリエーテル、ポリ(無水物)、ポリ(ウレタン)、ポリ(シアノアクリル酸アルキル)(PACA)、ポリ(オルトエステル)、セルロース及び誘導体、ポリ(N-ビニルピロリドン)(PVP)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、並びにポリ(アクリルアミド)のうちの1種以上を含む、請求項7記載の製剤。
【請求項10】
前記ポリエステルが、ポリ(グリコール酸)(PGA)、ポリ(l-乳酸)(PLA)、及びポリ(ラクチド-co-グリコリド)(PLGA)のうちの1種以上を含み、前記ポリエーテルが、ポリ(エチレングリコール)及びポリ(プロピレングリコール)のうちの1種以上を含み、前記セルロース及び誘導体が、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、フタル酸ヒプロメロース、酢酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、セルロース、カルボキシメチルセルロース、微結晶セルロース、及びケイ化微結晶セルロースのうちの1種以上を含む、請求項9記載の製剤。
【請求項11】
前記製剤が、油及びゲルを含む担体、並びに1種以上の医薬として許容し得る賦形剤をさらに含む、請求項1記載の製剤。
【請求項12】
前記ゲルが、高分子炭化水素ゲル化剤、ポロクサマー407、カルボマー、メチルセルロース、及びナトリウムカルボキシメチルセルロースのうちの1種以上を含む、請求項11記載の製剤。
【請求項13】
前記製剤が、鉱油をさらに含む、請求項1記載の製剤。
【請求項14】
前記製剤が
、30,000cP
~100,000
cPの粘度を有する、請求項1記載の製剤。
【請求項15】
40,000cP~90,000cPの粘度を有する、請求項1記載の製剤。
【請求項16】
粒子形態の固体分散体であって、本質的に、イベルメクチンと、該粒子中の該イベルメクチンを滅菌から保護しかつ該粒子からの該イベルメクチンの放出を制御するポリマーとからなり、該イベルメクチンが、アモルファス形態にあり、該粒子が
、10ミクロン未
満のD90粒度を有し、かつ該粒子中のイベルメクチン対ポリマーの比率が
、1:10
~10:
1である、前記固体分散体。
【請求項17】
前記粒子が、800nmから4ミクロンの間のD90粒度を有する、請求項16記載の固体分散体。
【請求項18】
前記粒子中のイベルメクチン対ポリマーの比率が、1:3~4:1である、請求項16記載の固体分散体。
【請求項19】
前記ポリマーが、PVP VA-64を含み、かつ該PVP VA-64が、イベルメクチン対PVP VA-64
が1:1である比率で存在する、請求項
16記載の固体分散体。
【請求項20】
前記ポリマーが、PVP K-30を含み、かつ該PVP K-30が、イベルメクチン対PVP K-30
が1:3である比率で存在する、請求項
16記載の固体分散体。
【請求項21】
前記ポリマーが、HPMC-E4Mを含み、かつ該HPMC-E4Mが、イベルメクチン対HPMC-E4M
が4:1である比率で存在する、請求項
16記載の固体分散体。
【請求項22】
前記粒子が、該粒子中に第1のイベルメクチン対ポリマー比率を含む第1の粒子集団と、該粒子中に第2のイベルメクチン対ポリマー比率を含む第2の粒子集団とを含み、かつ該第1の比率及び該第2の比率が、異なっており、これによって、該第1の粒子集団が、該第2の粒子集団より
も速く該イベルメクチンを放出する、請求項
16記載の固体分散体。
【請求項23】
前記第1の粒子集団のD90が、前記第2の粒子集団のD90とは異なる、請求項
22記載の固体分散体。
【請求項24】
前記粒子が、該粒子中に第1のポリマーを含む第1の粒子集団と、該粒子中に第2のポリマーを含む第2の粒子集団とを含み、かつ該第1のポリマー及び該第2のポリマーが、異なっており、これによって、該第1の粒子集団が、該第2の粒子集団よりも速く前記イベルメクチンを放出する、請求項
16記載の固体分散体。
【請求項25】
前記第1の粒子集団のD90が、前記第2の粒子集団のD90とは異なる、請求項
24記載の固体分散体。
【請求項26】
請求項
16記載の固体分散体と、該固体分散体が、不溶であるか、又は微溶である担体とを含む、ゲル形態の医薬製剤であって
、30,000cP
~100,000
cPの粘度を有する、前記医薬製剤。
【請求項27】
40,000cP~90,000cPの間の粘度を有する、請求項26記載の医薬製剤。
【請求項28】
前記担体が、炭化水素ゲル化剤と共に、ポロクサマー407、カルボマー、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、及び鉱油のうちの1種以上を含む、請求項
26記載の医薬製剤。
【請求項29】
前記炭化水素ゲル化剤が、エチレン/プロピレン/スチレンコポリマー及びブチレン/エチレン/スチレンコポリマーを含む、請求項
28記載の医薬製剤。
【請求項30】
前記製剤が、標準的な溶解試験方法によって最長で12時間の期間にわたり前記イベルメクチンを放出する、請求項
26記載の医薬製剤。
【請求項31】
ニキビダニ属のダニを死滅させるための請求項
26記載の医薬製剤であって、睫毛若しくは眼瞼周囲の皮膚組織に、かつ/又は睫毛若しくは眼瞼に局所的に塗布されるように用いられる、前記医薬製剤。
【請求項32】
前記医薬製剤の塗布が、結膜又は角膜との接触を避けることをさらに含む、請求項
31記載の医薬製剤。
【請求項33】
請求項
26の医薬製剤と、精密塗布装置とを含むキット。
【請求項34】
前記精密塗布装置が、前記製剤を睫毛、眼瞼の周囲の皮膚組織に、かつ/又は睫毛若しくは眼瞼に塗布するよう設計される、請求項
33記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の技術分野)
本発明は、大環状ラクトン殺寄生虫薬、特に、イベルメクチン及び他のアベルメクチン、例えば、ドラメクチン及びセラメクチンなど、並びにミルベマイシン、例えば、モキシデクチン及びミルベマイシンオキシムなどの、一般に、眼部寄生虫によって引き起こされる病態、特に、ヒト及び動物においてニキビダニ属のダニによって引き起こされる眼部の寄生虫感染を治療するのに有用な製剤を調製するための抗寄生虫薬としての使用に関する。本発明はまた、イベルメクチン及びポリマーを用いてアモルファス又は結晶性の固体分散体を調製する方法を提供する。本発明はまた、ヒト及び動物においてニキビダニ属のダニによって引き起こされる病態を治療するための該製剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
眼部毛包虫症は、宿主との片利共生関係から該宿主との寄生関係へと変化するニキビダニ科の寄生虫の病的異常増殖として確認されている。ニキビダニ(デモデクス・フォリキュロラム(Demodex folliculorum))及びコニキビダニ(デモデクス・ブレビス(Demodex brevis))は、完全な生活環が、睫毛、睫毛毛根、睫毛毛包、前側眼瞼、マイボーム腺、及び眼周囲皮膚組織の内部及び周囲にある偏性寄生虫である。これらの構造体におけるニキビダニ属のダニの寄生は、マイボーム腺及び眼部表面の炎症に繋がり、眼部表面及び眼瞼の炎症(それぞれ、角膜炎及び眼瞼炎)と関連する眼部徴候及び症状を引き起こし得、寄生の進行は、蒸発亢進型ドライアイ疾患、睫毛の喪失若しくは向きの異常(misdirection)、マイボーム腺の破壊、マイバムの変化、眼瞼の発赤の増加、霰粒腫形成、又は眼部酒さをもたらし得る。
【0003】
ニキビダニとコニキビダニとの間では、ニキビダニの方が大きく、長さは0.3~0.4mmであり、通常、睫毛毛根に見られる。睫毛毛包及び周囲皮膚組織に生息する場合、D・フォリキュラリス(D. follicularis)は、宿主の上皮を消費し破壊する。このことは、過角化、睫毛の喪失、並びに結果として生じる宿主の過敏症及び炎症に繋がり得る。睫毛毛根、睫毛毛包、及び眼周囲皮膚組織を含む前側眼瞼の破壊は、眼瞼及び眼部表面の炎症(眼瞼炎及び角膜炎)の徴候及び症状に繋がり得、これは、結果として生じる症状、例えば、蒸発亢進型ドライアイ疾患、マイボーム腺機能不全、眼瞼の発赤、霰粒腫形成、眼部酒さ、及び睫毛の喪失又は向きの異常(睫毛欠損又は睫毛乱生)などに繋がり得る。(Luo, X.らの文献(2017)「眼部表面炎症の原因である可能性のある眼部毛包虫症(Ocular Demodicosis as a Potential Cause of Ocular Surface Inflammation)」 Cornea 36 Suppl 1: S9-S14)。
【0004】
コニキビダニは、より小さく、長さは0.2~0.3mmであり、通常、皮脂腺内に潜伏している。眼瞼の周囲では、コニキビダニは、マイボーム腺内に潜伏している。コニキビダニによる寄生は、マイボーム腺の機械的閉塞、腺構造の喪失、又は該腺内の過敏症及び炎症に繋がり得る。これらの正常なマイボーム腺のホメオスタシスの撹乱は、眼瞼炎症、霰粒腫形成、マイボーム腺機能不全、及び眼部表面の炎症に繋がり得る。(Luo、X.らの文献(2017)「眼部表面炎症の原因である可能性のある眼部毛包虫症(Ocular Demodicosis as a Potential Cause of Ocular Surface Inflammation)」, Cornea 36 Suppl 1: S9-s14)。
【0005】
ニキビダニ属のダニは、多くの治療に抵抗性であるものの、ニキビダニ属のダニの寄生を局所ティーツリー油又は経口の抗寄生虫薬のいずれかで治療する試みが、眼瞼炎症の徴候を減少させるのに有効であると証明されている(Cheng, A. M.らの文献(2015)「ニキビダニ属のダニの眼部への寄生に対する最近の進歩(Recent advances on ocular Demodex infestation)」 Curr Opin Ophthalmol 26(4): 295-300)。最近の経口イベルメクチンの研究において、ニキビダニ属のダニの寄生及び眼部炎症の併発が確認された19名の対象が、経口イベルメクチンでの治療を受けた。全ての対象は、第3月の治療までにニキビダニ属のダニの根絶を達成した。2名を除く全ての対象は、症状が改善し、全ての対象は、眼部炎症の徴候が改善した(Filho、P. A.らの文献(2011)「ニキビダニ属の種について陽性であると試験された患者における慢性眼瞼炎の治療に関する経口イベルメクチンの有効性(The efficacy of oral ivermectin for the treatment of chronic blepharitis in patients tested positive for Demodex spp.)」 Br J Ophthalmol 95(6): 893-895.)。局所ティーツリー油で治療したニキビダニ属のダニが寄生した対象の別の研究では、ティーツリー油が、ニキビダニ属のダニを用量依存的に死滅させることが証明された。(Gao YYらの文献(2007)「ティーツリー油を用いて眼瞼洗浄による眼部毛包虫症の臨床治療(Clinical treatment of ocular demodicosis by lid scrub with tea tree oil)」 Cornea 26: 136-143)。作用機序は、完全には分かっていないものの、ティーツリー油が、睫毛毛根の表皮細片を取り除いて清浄化し、ニキビダニ属のダニを皮膚組織表面に来るように刺激し、抗炎症性、抗細菌性、及び抗真菌性の性質を有することが仮定されており、最近、テルピネン-4-オールが、ティーツリー油の作用を担う分子として確認された(Tighe、S.らの文献(2013)「テルピネン-4-オールは、ニキビダニ属のダニを死滅させるのに最も活性なティーツリー油の成分である(Terpinen-4-ol is the Most Active Ingredient of Tea Tree Oil to Kill Demodex Mites.)」 Transl Vis Sci Technol 2(7): 2.)。この寄生虫の根絶におけるティーツリー油の有効性にもかかわらず、眼部毛包虫症に対してFDAで承認された治療は未だ存在しない。
【0006】
本発明の一態様は、前側眼瞼、睫毛、睫毛毛根、睫毛毛包、眼周囲皮膚組織、及びマイボーム腺に送達されるイベルメクチンの局所用製剤である。本製剤は、手指先端を用いて又は塗布装置によって塗布され得る。該塗布装置は、作用部位への正確な塗布及び同時の睫毛及び睫毛毛根の清浄化の双方を可能とするものである。
【0007】
イベルメクチンは、よく使用されるニキビダニ属のダニ用の抗寄生虫薬であるが、ニキビダニ属のダニは、さまざまな抗寄生虫薬に対して比較的抵抗性であると考えられており、特に、獣医学の文献においては、十分な根絶を達成するには比較的高用量を必要としている。経口イベルメクチンは、眼瞼のニキビダニ属のダニを根絶することができると同時に、イベルメクチン又は類似のアベルメクチンの局所用製剤は、いくつかの利点を可能とし得る。第1に、経口イベルメクチンは、これらに限定されないが:発熱、そう痒、頭痛、皮疹、肝酵素の上昇、気管支喘息の悪化、並びに頻脈及び心電図検査での変化を含む多くの副作用を有する。経口用量は、肝又は腎疾患の患者、妊娠中又は授乳中の女性、及び小児では禁忌である。イベルメクチンは、プロトロンビン時間を延長することが知られており、イベルメクチンは、これらに限定されないが、クマジン及び他のクマリン並びにビタミンKを含む多くの薬物薬物相互作用を有している。第2に、イベルメクチンは、γ-アミノ酪酸(GABA)によって開閉されるものを含むリガンド開口型クロリドチャネルを調節する薬物、例えば、ベンゾジアゼピンと共に用いることは避けられるべきである。これは、抗寄生虫機構が、クロリドイオンの透過を介する神経及び筋肉細胞の過分極によって生じるためである。CYP3A4と相互作用する薬物は、イベルメクチンの代謝を変化させて、CYP3A4によって代謝される他の薬物の毒性を低い治療係数と共にもたらす可能性がある。第3に、そのラベルによれば、経口イベルメクチンは、朝食をとる1時間前の空の胃に服用されるべきであるか、又は投与の2時間前又は後に食品が摂取されるべきではない。これらの食品の制約は、活動的な患者の日常生活に制限を生じさせる(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmedhealth/PMHT0001011/; Homeida M. A. M.らの文献(1988)「イベルメクチンでのプロトロンビン時間の延長(Prolongation of Prothrombin time with Ivermectin)」 The Lancet 331(8598): 1346-1347.; Canga、A.G.らの文献「ヒトにおけるイベルメクチンの薬物動態及び相互作用-小総説(The Pharmacokinetics and Interactions of Ivermectin in Humans- A Mini-review)」、AAPS J 10(1): 42-46 (2008); Gilbert、B.W.らの文献「イベルメクチン誘発性ワルファリン毒性の症例:第1の公開報告書((A Case of Ivermectin-Induced Warfarin Toxicity: First Published Report))」 Hospital Pharmacy 001857871875897)。
【0008】
イベルメクチン及び他の抗寄生虫剤を前側眼瞼、睫毛、及びマイボーム腺に送達することができると、該医薬品に対する全身曝露を最小化し、従って、場合によっては、薬物副作用、毒性、及び薬物薬物相互作用のリスクを低減させる。さらに、前側眼瞼/睫毛及びマイボーム腺などのニキビダニ属のダニの生息場所に直接的送達すると、抗寄生虫薬の高い局所濃度が可能となり、これは、局所的な抵抗性を生じさせるリスクを低減し得る。また、塗布装置を用いるイベルメクチンの局所投与は、ケラチンの残骸を除去して清浄化すること、及び同時に寄生を根絶させることの双方の相乗効果を有するものである。最後に、抗寄生効果に加えて、イベルメクチンが、核内因子κB(NF-κB)を介してTNF-α、IL-1、及びIL-6(リポ多糖(LPS)誘発性サイトカイン)の低減を引き起こし、疾患の炎症性の対応物を改善することによって、抗炎症作用を有することが示されている(Zhang、X.らの文献(2008)「イベルメクチンは、マウスにおいて炎症性サイトカインのLPS誘発性産生を阻害し、LPS誘発性生存率を改善する(Ivermectin inhibits LPS-induced production of inflammatory cytokines and improves LPS-induced survival in mice)」 Inflamm Res 57(11):524-9)。
【0009】
米国特許第9,457,038B2号(及びその引例)は、本分野の従来技術を記載しており、局所用イベルメクチンが、眼部のニキビダニ属のダニの寄生の治療において未対処の医学的必要性を満足させ得るとともに、眼部症状の治療を顕著に向上させる可能性があるとの本明細書におけるものと類似の結論を得ている。注目すべきこととして、米国特許第9,457,038B2号及び引用されたパテントファミリーは、眼の表面への直接的なイベルメクチンの送達を提案しており、結膜又は角膜に隣接する組織にではなく結膜及び角膜に直接投与することのみに言及している。眼へ送達すると、ニキビダニ属のダニの寄生の場の近くにイベルメクチンが配置されるが、この塗布では、眼を無駄に高レベルのイベルメクチンに曝露させてしまい、抗寄生虫剤を寄生の場に直接的送達することはない。一態様において、本発明は、イベルメクチンの無菌(sterile)/無菌(aseptic)半固体局所用製剤を用いて、好ましくは、イベルメクチンの用量をニキビダニ属のダニが住む場に向かわせて眼及び体の残りの部分へのイベルメクチン曝露を最小化する精密塗布装置によって、イベルメクチン又は他の大環状ラクトース殺寄生虫薬を、前側眼瞼、睫毛、睫毛毛根、眼周囲皮膚組織、及びマイボーム腺に直接塗布することを提案する。
【0010】
好ましくは、精密塗布装置を用いてニキビダニ属のダニの場所に直接イベルメクチンを塗布することによって、本発明は、作用部位へのイベルメクチンの用量を最大化し、イベルメクチンへの全身曝露及び眼部曝露の双方を最小化する。本発明の一態様において、イベルメクチン製剤は、ニキビダニ属のダニを効率的に標的としつつ眼部への曝露を低減させるイベルメクチンの固体アモルファス分散体を含む。4μm未満の粒度分布と組み合わせされると、本製剤は、ニキビダニ属のダニが住む睫毛毛根の浸透の増加を可能とし、眼部での機械的刺激を防ぐ。天然の寄生部位におけるニキビダニ属のダニの根絶は、眼部毛包虫症を根絶しこの病態の患者の症状を改善する能力を向上させる。
【0011】
イベルメクチンアモルファス固体分散体は、(a)非経口持続放出用イベルメクチン担持微粒子:インビトロキャラクタリゼーション及びいくつかの製剤変数の効果(Ivermectin-loaded microparticles for parenteral sustained release: in vitro characterization and effect of some formulation variables)(J Microencapsul. 2010;27(7):609-17) 3;(b)皮下送達用持続放出イベルメクチン担持固体脂質分散体:インビトロ及びインビボ評価(Sustained release ivermectin-loaded solid lipid dispersion for subcutaneous delivery: in vitro and in vivo evaluation) (Drug Deliv., 2017; 24(1): 622-631);及び(c)イベルメクチンアモルファス固体分散体が、マイクロフルイダイザター(microfluidizator)/マイクロ反応器内での安定化剤との共沈によって調製されるWO2016016665A1に開示されている。
【発明の概要】
【0012】
(発明の概要)
ある一般態様において、本発明は、睫毛、眼瞼、又は睫毛若しくは眼瞼の周囲の皮膚組織に、イベルメクチンとポリマーとの固体分散体の粒子を含む溶液、半固体、懸濁物、又はゲルを含む製剤を、局所的に塗布することによって、該睫毛、眼瞼、又は睫毛若しくは眼瞼の周囲の皮膚組織における寄生虫の寄生に続発する眼症状を治療する方法に関する。
【0013】
本方法の実施態様は、以下の特徴のうちの1つ以上を含み得る。例えば、製剤は、10ミクロン未満、好ましくは、約800nmから約4ミクロンの間のD90粒度を有するイベルメクチンとポリマーとの粒子を含んでいてもよい。ポリマーは、持続放出ポリマー、即時放出ポリマー、又はそれらの混合物を含んでいてもよい。ポリマーは、天然又は合成の生分解性ポリマーであってもよい。
【0014】
天然生分解性ポリマーは、多糖類、シクロデキストリン、キトサン、アルギン酸及び誘導体、ヒアルロン酸ナトリウム、キサンタンガム、ゲランガム、デンプン、タンパク質、アルブミン、ゼラチン、フィブリン、並びにコラーゲンのうちの1種以上であり得る。
【0015】
合成生分解性ポリマーは、ポリエステル、ポリエーテル、ポリ(無水物)、ポリ(ウレタン)、ポリ(シアノアクリル酸アルキル)(PACA)、ポリ(オルトエステル)、セルロース及び誘導体、ポリ(N-ビニルピロリドン)(PVP)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、並びにポリ(アクリルアミド)のうちの1種以上を含む。
【0016】
ポリエステルは、ポリ(グリコール酸)(PLA)、ポリ(l-乳酸)(PLA)、及びポリ(ラクチド-co-グリコリド)(PLGA)のうちの1種以上を含み得る。前記ポリエーテルは、ポリ(エチレングリコール)及びポリ(プロピレングリコール)のうちの1種以上を含み得る。前記セルロース及び誘導体は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、フタル酸ヒプロメロース、酢酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、セルロース、カルボキシメチルセルロース、微結晶セルロース、及びケイ化微結晶セルロースのうちの1種以上を含み得る。
【0017】
イベルメクチンとポリマーとの粒子は、アモルファスイベルメクチン若しくは結晶性イベルメクチン又はイベルメクチンを含む共結晶を含み得る。
【0018】
製剤は、高分子ゲル化剤などの液体又は半固体の医薬として許容し得る担体及び1種以上の医薬として許容し得る賦形剤をさらに含み得る。該担体は、イベルメクチンとポリマーとの固体分散体を溶解しないように選択され、鉱油、ポロクサマー407、カルボマー、メチルセルロース、及びナトリウムカルボキシメチルセルロースのうちの1種以上であり得る。
【0019】
製剤は、約30,000cP~約100,000cP、好ましくは、30,000~90,000cPの粘度を有し得る。
【0020】
製剤を塗布する場合、前記方法は、該製剤が結膜又は角膜に接触するのを避けることをさらに含む。
【0021】
別の一般態様において、本発明は、本質的に、イベルメクチンと、該粒子中の該イベルメクチンをγ線照射、熱滅菌、又は電子線照射滅菌などの最終滅菌プロセスから保護し、薬物のバイオアベイラビリティを増加させ、かつ該粒子からの該イベルメクチンの放出を制御するポリマーとからなる粒子形態の固体分散体を含む。イベルメクチンは、アモルファス又は結晶性の形態にあり、粒子は、10ミクロン未満、好ましくは、約800nmから約4ミクロンの間のD90粒度を有し、かつ該粒子中のイベルメクチン対ポリマーの比率は、約10:1~約1:10、好ましくは、1:3~約4:1である。
【0022】
固体分散体の実施態様は、以下の特徴のうちの1つ以上を含み得る。例えば、ポリマーは、PVP VA-64であってもよく、該PVP VA-64は、イベルメクチン対PVP VA-64が約1:1である比率で存在する。ポリマーは、PVP K-30であってもよく、該PVP K-30は、イベルメクチン対PVP K-30が約1:3である比率で存在する。ポリマーは、HPMC-E4Mであってもよく、該HPMC-E4Mは、イベルメクチン対HPMC-E4Mが約4:1である比率で存在する。
【0023】
固体分散体の粒子は、第1の粒子中イベルメクチン対ポリマー比率を含む第1の粒子集団、及び第2の粒子中イベルメクチン対ポリマー比率を含む第2の粒子集団を含んでいてもよい。第1の比率及び第2の比率は、異なっており、これによって、該第1の粒子集団が、該第2の粒子集団よりも速く該イベルメクチンを放出する。
【0024】
前記固体分散体は、第2の粒子集団のD90とは異なる第1の粒子集団のD90を有し得る。
【0025】
前記固体分散体の粒子は、粒子中に第1のポリマーを含む第1の粒子集団と、粒子中に第2のポリマーを含む第2の粒子集団とを含んでいてもよい。第1のポリマー及び第2のポリマーは、異なっており、これによって、該第1の粒子集団が、該第2の粒子集団よりも速く該イベルメクチンを放出する。
【0026】
前記固体分散体は、第2の粒子集団のD90とは異なる第1の粒子集団のD90を有し得る。
【0027】
別の一般態様において、本発明は、油中に懸濁させた固体分散体と、高分子炭化水素ゲル化剤とを含むゲル、軟膏、又は溶液の形態の医薬製剤に関する。該製剤は、約30,000cP~約100,000cP、好ましくは、40,000~90,000cPの粘度を有する。
【0028】
製剤の実施態様は、以下の特徴のうちの1つ以上を含んでいてもよい。例えば、前記担体は、高分子炭化水素ゲル、ポロクサマー407、カルボマー、メチルセルロース、及びナトリウムカルボキシメチルセルロースのうちの1種以上であり得る。高分子炭化水素ゲルは、任意の適当なゲル化剤のものとすることができ、好ましくは、油及びゲル化ポリマーを含む任意のゲルである。
【0029】
医薬製剤は、標準的な溶解試験方法によって12時間の期間にわたってイベルメクチンを放出するよう構成され得る。
【0030】
医薬製剤は、該医薬製剤及び精密塗布装置を含むキットの一部であってもよい。
【0031】
本発明はまた、本明細書に記載される医薬製剤を睫毛や眼瞼の周囲の皮膚組織へ、かつ/又は睫毛若しくは眼瞼へ局所的に塗布することによってニキビダニ属のダニを死滅させる方法に関する。前記医薬製剤を塗布する場合、方法は、製剤が結膜又は角膜に接触するのを避けることをさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0032】
(図面の説明)
【
図1】
図1は、実施例1(イベルメクチン及びPVP-VA-64)のアモルファス固体分散体(ASD)の走査電子顕微鏡写真である。
【
図2】
図2は、実施例2(イベルメクチン及びPVP K-30)のアモルファス固体分散体の走査電子顕微鏡写真である。
【
図3】
図3は、実施例3(イベルメクチン及びHPMC E4M)のアモルファス固体分散体の走査電子顕微鏡写真である。
【
図4】
図4は、示差走査熱量測定によって得られる実施例1のASDのサーモグラムである。
【
図5】
図5は、示差走査熱量測定によって得られる実施例2のASDのサーモグラムである。
【
図6】
図6は、示差走査熱量測定によって得られる実施例3のASDのサーモグラムである。
【
図10】
図10は、イベルメクチン、ポリマーPVP VA-64、及び両者の混合物のラマンスペクトルである。
【
図11】
図11は、イベルメクチン、ポリマーPVP K-30、両者の混合物のラマンスペクトルである。
【
図12】
図12は、イベルメクチン及びPVP-VA-64のASDのXRPD回折図である。
【
図13】
図13は、イベルメクチン及びPVP K-30のASDのXRPD回折図である。
【
図14】
図14は、イベルメクチン及びHPMC E4MのASDのXRPD回折図である。
【
図15】
図15は、人工皮脂での溶解性試験の結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
(発明の説明)
一態様において、本発明は、イベルメクチンなどのアベルメクチン及び/又はミルベマイシン並びにポリマーの固体分散体に関する。イベルメクチンは、アモルファス又は結晶性であり得る。例えば、アモルファス固体分散体(amorphous solid dispersion)又はASDは、アモルファスイベルメクチン(構造は下記)又はミルベマイシン(構造は下記)、及び医薬として許容し得るポリマーを含んでいてよく、該分散体は、眼部薬物送達を意図する製剤において用いられる。アモルファス固体分散体は、活性成分としてのイベルメクチン、及び合成又は天然の生分解性ポリマーを含む。
【0034】
イベルメクチンは、約80:20の比の22,23-ジヒドロC-076 B1a及びB1bの混合物である。
【化1】
【0035】
本発明は、種々のイベルメクチン:ポリマー比で形成することができるイベルメクチン及びポリマーを用いるアモルファス固体分散体(ASD)の製造方法を含む。本プロセスは、溶媒中のイベルメクチン及び少なくとも1種のポリマーの溶液を噴霧乾燥する単離工程を含む。好ましくは、溶媒は、有機溶媒若しくは有機溶媒の混合物、又は水若しくはその混合物、例えば、エタノール又はメタノールなどである。ASDの製造は、第1に、イベルメクチンを溶媒中に溶解させること、及び次いで、完全な溶解が達成されるまで該溶液へポリマーを添加することにある。溶媒は、噴霧乾燥、気体貧溶媒技術、溶媒蒸発法、溶媒法、ホットメルト押出、エレクトロスピニング法、回転法、流動床薬物層形成(fluid bed drug layering)、融解法、低温粉砕法、機械的活性化法、凍結乾燥、超臨界流体、フィルム凍結、及び撹拌造粒法などの溶媒蒸発方法によって除去され、好ましくは、該溶液を噴霧乾燥機に供給し、固体分散体の粒子を集めることによって除去される。ASDは、室温で保管することができ、少なくとも2か月の保管後に安定なままである。
【0036】
より詳細には、前記ASDを調製する方法は、溶媒中のイベルメクチン及びポリマーの溶液を噴霧乾燥することによってイベルメクチン粒子をポリマーマトリックス中に組み入れることを含む。さまざまなイベルメクチン濃度を、アモルファス固体分散体を調製するのに用いることができる。例えば、一態様において、該溶液中で0.01%~30%(W/W)のイベルメクチンの濃度が好ましく、より好ましくは、0.1%~30%又は0.5%~10%であり、最も好ましくは、1%~5%である。
【0037】
ASD中で用いられるポリマーは、天然又は合成の生分解性ポリマーであり得る。用いられる該天然生分解性ポリマーとしては、シクロデキストリン、キトサン、アルギン酸及び誘導体、ヒアルロン酸ナトリウム、キサンタンガム、ゲランガム、及びデンプンなどの多糖類、並びにアルブミン、ゼラチン、フィブリン、及びコラーゲンなどのタンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。
【0038】
用いられる合成生分解性ポリマーとしては、ポリ(グリコール酸)(PGA)、ポリ(l-乳酸)(PLA)、ポリ(ラクチド-co-グリコリド酸)(PLGA)などのポリエステル;ポリ(エチレングリコール)、ポリ(プロピレングリコール)などのポリエーテル;ポリ(カプロラクトン)(PCL);ポリ(無水物);ポリ(ウレタン);ポリ(シアノアクリル酸アルキル)(PACA);ポリ(オルトエステル);ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、フタル酸ヒプロメロース、酢酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、セルロース、カルボキシメチルセルロース、微結晶セルロース、及びケイ化微結晶セルロースなどのセルロース及び誘導体;ポリ(N-ビニルピロリドン)(PVP);ポリ(ビニルアルコール)(PVA)並びにポリ(アクリルアミド)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
2種のそのようなポリマー、ポリ(ビニルピロリドン)(PVP)及びヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)の構造を以下に示す:
【化2】
【0040】
用いられる溶媒は、有機溶媒若しくは有機溶媒の混合物若しくは水、又はそれらの混合物とすることができる。アモルファスイベルメクチン固体分散体を調製する方法は、実験室スケールの噴霧乾燥機などの適当な噴霧乾燥機を用いることからなる。より詳細には、本発明の噴霧乾燥技術によってアモルファスイベルメクチン固体分散体を調製するための方法は、以下の工程を含む:
1.溶媒中にイベルメクチン及びポリマーを含有するスプレー溶液を調製すること。
2.工程1)の溶液をノズルを通じて噴霧して固体分散体を得ることによって、固体分散体を生成させること。
3.工程2)において調製された固体分散体を集めること。
【0041】
アモルファス固体分散体(ASD)は、任意の適当な噴霧乾燥機又は市販の噴霧乾燥機によって得ることができる。設備のパラメーター、すなわち、空気式噴霧ノズルオリフィス、微粒化気体流、溶液の流速、乾燥温度、及び出口温度を調整して、該ASDを得ることができる。
【0042】
空気式噴霧ノズルオリフィスは、例えば、0.7mmとすることができ、別の微粒化方法では、回転式、圧力式、又は超音波式のノズルを用いてもよい。
【0043】
任意の適当な乾燥温度を使用することができ、出口温度範囲は、20℃~100℃、好ましくは、30℃~50℃、より好ましくは、40℃~45℃としてもよい。
【0044】
小スケールの噴霧乾燥機の乾燥ガス流速は、約20kg/時~約120kg/時、好ましくは、約40kg/時~約80kg/時、最も好ましくは、約40kg/時とし得る。
【0045】
優先的な微粒化気体流は、毎時150~300mlとすることができ、用いられる設備に合わせて調整することができる。
【0046】
この方法は、僅か1つの工程で、イベルメクチンをポリマー中に組み入れ、眼科製剤に適した粒度を達成するプロセスを可能とすることができる。さらに、この方法は、マイクロメートル及びサブマイクロメートル範囲の粒度の、より具体的には、10マイクロメートル未満、好ましくは、4マイクロメートル未満のd90の安定な固体アモルファスイベルメクチン分散体を生じさせる。マイクロメートル及びサブマイクロメートル範囲の粒度によって、ポリマーとイベルメクチンとの固体分散体の粒子は、マイクロメートルからサブマイクロメートル範囲のものであることが意味される。固体分散体が、ポリマーの固体マトリックス中のイベルメクチン粒子の分散体を指すことを理解すべきである。
【0047】
上述のように形成されたASDは、ゲル形態のビヒクルの懸濁物中に組み込まれて、眼軟膏に製剤化される。得られたASD製剤は、好適な薬物送達系であり、イベルメクチンの制御放出、イベルメクチンのバイオアベイラビリティの増加、及び作用部位でのイベルメクチンの安定性を可能とする。
【0048】
本発明者は、眼科製剤は、滅菌されなければならないが、濾過によって懸濁物を滅菌することはできないために、γ線照射法、電子線滅菌法、又は熱滅菌法が、最も適切な方法であることを確認している。有利なことに、ASD中のポリマーは、イベルメクチンを照射プロセスの間の分解から保護する。従って、滅菌された製剤(ASD、ビヒクル、及び必要に応じて他の賦形剤)は、有利には、塗布装置を用いて、眼瞼に及び睫毛の基部で塗布され得る。一実施態様において、該製剤を塗布する際に、使用者は、該製剤が結膜又は角膜と接触するのを回避し得る。製剤のそのような特定の局所的塗布によって、患者を、ニキビダニ属のダニの寄生によって引き起こされる眼部病態について治療することができる。
【実施例】
【0049】
イベルメクチンとポリマーとのアモルファス固体分散体を形成する方法。以下の表1は、異なるポリマーとイベルメクチンのアモルファス固体分散体の組成の例を3つ提供する。実施例1は、PVP VA-64とイベルメクチンのASDであり、実施例2は、PVP K-30とイベルメクチンのASDであり、実施例3は、HPMC E4MとイベルメクチンのASDである。
【0050】
ASDの形成における第1の工程は、噴霧乾燥装置用のフィード溶液の調製である。初めに、イベルメクチンを、溶媒に溶解させる。実施例1及び2においては、イベルメクチンを、無水エタノールに溶解させ、実施例3においては、イベルメクチンを、エタノール及び水の混合物に溶解させた。本工程において、イベルメクチンは、実施例1については無水エタノール中に1%(W/V)の質量比で溶解させ、実施例2については無水エタノール中に2%(W/V)の質量比で溶解させ、実施例3においてはエタノール/水の混合物中に0.88%(W/V)で溶解させた。
【0051】
イベルメクチンをそれぞれの溶媒に溶解させて、次に、ポリマーを、イベルメクチン及び溶媒の溶液中に溶解させた。実施例1においては、PVP VA-64を、イベルメクチン対PVP VA-64が1:1である比率で添加した。実施例2においては、PVP K-30を、イベルメクチン対PVP K-30が1:3である比率で添加した。実施例3においては、HPMC-E4Mを、イベルメクチン対HPMC-E4Mが4:1である比率で添加した。本工程においては、溶媒中でのイベルメクチンの完全な溶解後に、ポリマーを、クリアな溶液が形成されるまで、実施例1については1%(W/V)の質量比で添加し、実施例2については6%(W/V)で添加し、実施例3については0.22%(W/V)で添加した。イベルメクチン及びポリマーの溶解は、室温で行われた。
(表1.フィード溶液組成の概要)
【表1】
【0052】
アモルファス固体分散体の製造における次の工程は、フィード溶液の噴霧乾燥である。実施例1~3の製剤化において、実験室用BUCHI(商標)B-290 Mini噴霧乾燥機を用いて、アモルファス固体分散体を調製した。噴霧乾燥機には、二流体ノズルを取り付け、オープンサイクルモードで運転した。上で調製した溶液を、蠕動ポンプによってノズルに供給し、該ノズルの先端で微粒化させた。生成した粒子を、窒素の並流によって乾燥し、サイクロンの底部で集めた。表2は、3つの製剤それぞれに使用された噴霧乾燥機のパラメーターを報告する。
(表2.実施例1、2、及び3の主な運転条件の概要)
【表2】
【0053】
従来型の噴霧乾燥プロセスによって調製した実施例1~3の噴霧乾燥されたアモルファスイベルメクチン固体分散体の固体キャラクタリゼーションを、走査型電子顕微鏡(SEM)(Phenom ProX SEM)、回転式フィーダー及びR1レンズを採用する示差走査熱量測定(DSC)(TA Instruments)、レーザー回折(Sympatec HELOS/RODOS、ドイツ)、X線粉末回折(Pan Analytical)、ラマン分光法(Witec)、及び高速液体クロマトグラフィー(Waters)によって評価した。
図1は、実施例1(イベルメクチン及びPVP-VA-64)のアモルファス固体分散体の走査電子顕微鏡写真である。
図2は、実施例2(イベルメクチン及びPVP K-30)のアモルファス固体分散体の走査電子顕微鏡画像である。
図3は、実施例3(イベルメクチン及びHPMC E4M)のアモルファス固体分散体の走査電子顕微鏡写真である。
図1~3は、6000倍の倍率のものである。
図4~6は、示差走査熱量測定によって得た実施例1~3のASDのサーモグラムである。
図7~9は、実施例1~3のASDの回折図である。これらの回折図は、実施例1~3において調製されたASDが、アモルファスであることを示す。
図10及び11は、イベルメクチン、PVP VA-64ポリマー、及び両者の混合物(
図10)、並びにイベルメクチン、PVP K-30ポリマー、並びに両者の混合物(
図11)のラマンスペクトルである。ポリマーのスペクトルをイベルメクチン及びポリマーの混合物と比較することによって、混合物のピークが、該ポリマーのスペクトルと同一であることが示され、これは、イベルメクチンの該ポリマー中への良好な組み入れを表している。
図10は、1:1及び1:2の比率であるイベルメクチン対PVP VA-64の比率を含み、
図11は、1:1、1:3、及び、2:3の比率であるイベルメクチン対PVP K-30の比率を含む。
【0054】
また、本発明者らは、イベルメクチンのアモルファス固体分散体中でのポリマーの使用が、γ線照射、熱滅菌、又は電子線滅菌の間に起こる分解から該イベルメクチンを保護することを確認した。眼科製剤は、滅菌されなければならず、γ線照射、熱滅菌、又は電子線滅菌が、好適な滅菌方法である。これは、濾過などの他の方法が、懸濁製剤に適していないためである。ポリマーが、γ線照射の間にイベルメクチンを保護する程度を決定するために、実施例1~3のアモルファス固体分散体を試験した。予備試験のために、アモルファスイベルメクチン固体分散体を、Precisa 22装置内でγ線照射によって25kGyで22時間滅菌した。ASDを、XRPD及びHPLCで分析して、γ線照射が、イベルメクチン多形体及び分解を変化させるかどうかをそれぞれ決定した。
【0055】
ASDを、1か月の照射の前後にXRPDによってキャラクタリゼーションした。
図12は、イベルメクチンとPVP-VA-64とのASDの回折図である。
図13は、イベルメクチン及びPVP K-30のASDの回折図である。
図14は、イベルメクチンとHPMC E4MとのASDの回折図である。
図12~
図14は、実施例1~3のASDが、γ線照射の1か月後にアモルファスのままであることを示す。このことは、ASDが、製剤中で用いられること及び多形体の変化を伴わずにγ線照射によって滅菌されることを可能とする。
【0056】
表3は、HPLCから得た結果を示す。アモルファス固体分散体上のイベルメクチンのアッセイを、γ線照射適用の前、1週間後、及び1か月後に行った。γ線照射による滅菌の予備的試験は、イベルメクチン単独及びASDの固体材料で成功裏に完了した。ASDのアモルファス形態は、γ線照射によって影響を受けなかったが、表3は、γ線照射の間のイベルメクチンに対するポリマーの保護的な作用を示す。注目すべきことに、PVP K-30は、γ線照射後により低いレベルのAPI分解を示した。
(表3.γ線照射の前、1週間後、及び1か月後のイベルメクチン分解)
【表3】
【0057】
表4は、照射前及び照射後のイベルメクチン並びに実施例1(PVP-VA 64)、実施例2(PVP K-30)、及び実施例3(HPMC E4M)のアモルファス固体分散体のキャラクタリゼーション(HPLC、XRPD、及び粒度)の概要を提供する。γ線照射による滅菌の予備的試験は、イベルメクチン単独及びASDの固体材料で成功裏に完了した。ASDのアモルファス形態は、γ線照射によって影響を受けなかった。表4において提供される結果は、異なるレベルのAPIのポリマー保護作用を示し、PVP K-30は、より低いAPI分解を示す。
(表4. イベルメクチン並びに実施例1(PVP-VA 64)、実施例2(PVP K-30)、及び実施例3(HPMC E4M)のASDのアモルファス固体分散体のキャラクタリゼーションの概要)
【表4】
【0058】
別の態様において、本発明は、局所用製剤を含み、ニキビダニ属のダニの寄生によって引き起こされる眼部病態の治療における使用のために該製剤及び塗布装置を含むキットを利用できることを含む。該局所用製剤キットを使用して、塗布装置を用いて製剤を眼以外の表面に塗布することができ、これには、塗布装置によって前側眼瞼、睫毛、睫毛毛根、睫毛毛包、眼周囲皮膚組織、及びマイボーム腺に塗布することが含まれる。該塗布装置は、作用部位への精密塗布、並びに同時の睫毛及び睫毛毛根の清浄化の双方を可能とする。
【0059】
本発明者らは、精密塗布装置を用いてニキビダニ属のダニの部位に直接イベルメクチンを塗布することによって、本発明のこの態様が、作用部位へ塗布されるイベルメクチンの量を最大化し、かつイベルメクチンへの全身曝露及び眼部曝露の双方を最小化することを確認している。前記キットは、前記製剤及び前記塗布装置を含む。該塗布装置は、無菌でなければならず、使い捨てのものとすることができる。該イベルメクチン製剤は、粒度分布が10ミクロン以下である上述のイベルメクチンの固体アモルファス分散体を含む。該キット及び製剤は、眼部への曝露を低減しつつ、効率的にニキビダニ属のダニを標的とすると考えられている。10ミクロン未満の粒度分布は、ニキビダニ属のダニが住む睫毛毛根の浸透性の増加を可能とし、眼における機械的刺激を防止する。天然の寄生の部位におけるニキビダニ属のダニの根絶は、眼部毛包虫症を根絶する能力を向上させ、この病態の患者の症状を改善する。本発明の利点は、該病態の治療におけるイベルメクチンの抗炎症作用であり得る。このように、イベルメクチンを抗炎症薬として用いることができる。
【0060】
ニキビダニ属のダニの寄生を治療する局所用製剤は、アモルファスイベルメクチン固体分散体、担体、及び他の賦形剤を含む。具体的には、この局所用医薬製剤は、Versagel(登録商標)などのゲル(担体)中に懸濁されたアモルファスイベルメクチン及び天然又は合成の生分解性ポリマー、並びに以下の要素:鉱油USPグレード;塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、過ホウ酸ナトリウム、安定化オキシクロロ複合体、酢酸クロルヘキシジン(CHA)、及び硝酸フェニル水銀又は酢酸フェニル水銀などの防腐剤:ビタミンE及び誘導体、ビタミンC、ベータカロテン、亜鉛、ルテイン、アントシアニン及びカロテノイドなどの抗酸化剤;塩化ナトリウム;及び/又はpHを調節する塩酸のうちの少なくとも1種以上を含有するアモルファス固体分散体を含む。
【0061】
Versagel(登録商標)は、Versagen MC、Versagel MD、Versagel ME、Versagel MG、Versagel ML、Versagel MN、Versagel MP、Versagel M、Versagel P、Versagel S、及びVersagel SQを含むゲル化組成物の市販混合物である。Versagel MC、MD、ME、MG、ML、MN、MP、及びMシリーズは、エチレン/プロピレン/スチレンコポリマー、ブチレン/エチレン/スチレンコポリマー、ペンタエリスリチル テトラ-ジ-t-ブチルヒドロキシヒドロシンナメート、ジブチルラウロイルグルタミドのうちの1種以上と共に、イソヘキサデカン(MC)、イソドデカン(MD)、水添ポリイソブテン(ME)、水添ポリ(C16~14オレフィン)(MG)、安息香酸C12~15アルキル(ML)、イソノナン酸イソノニル(MN)、パルミチン酸イソプロピル(MP)、鉱油(M)、ワセリン(P)、水添ポリイソブテン(S)、又はスクアレン(SQ)を含む。Versagel(登録商標)シリーズは、幅広い粘度で入手可能である。
【0062】
前記製剤において、イベルメクチンの範囲は、0.001%~5%、より好ましくは、0.01%~3%とすることができる。イベルメクチンは、0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.7%、0.8%、0.9%、1%、1.5%、2%、2.5%、3%などの中間の量で存在し得る。ポリマーの範囲は、0.01%~5%、より好ましくは、0.02%~3%とすることができる。粒度は、10μm未満、好ましくは、眼刺激を避けるd90<4μmから毛包内部での吸収を避けるd90>800nmの間とすべきである。
【0063】
用いられる担体は、ゲル、半固体、液体、又は軟膏とすることができる。ゲルは、無水ゲル、ポロクサマー407、カルボマー、メチルセルロース、及びナトリウムカルボキシメチルセルロースなどのゲル材料から選択され得る。理想的には、製剤の粘度は、約30,000~約100,000cPとすべきであり、好ましくは、約40,000~約90,000cPとすべきである。この粘度の目的は、塗布可能となるよう十分に薄いが、局所用製剤を塗布した組織上に留まるほど十分に濃くすることである。
【0064】
実施例4は、ゲル中のイベルメクチンのアモルファス固体分散体の局所用製剤の一製剤化例である。該製剤は、上述の通り調製されたイベルメクチンのアモルファス固体分散体を用いて調製される。該製剤は、慣用の製剤技術を用いて調製される。
(表5.実施例4-ASD局所用製剤)
【表5】
【0065】
実施例4は、ゲル中のイベルメクチンのアモルファス固体分散体の局所用製剤の一製剤化例である。該製剤は、上述の通り調製されたイベルメクチンのアモルファス固体分散体を用いて調製される。該製剤は、慣用の製剤技術を用いて調製される。
【0066】
上記のものの変形形態が想定される。例えば、アモルファスイベルメクチン固体分散体を、結晶性イベルメクチン固体分散体の形態としてもよい。
【0067】
アモルファスであろうと結晶性であろうと、固体分散体は、噴霧乾燥、又は押出球形化並びに共沈、気体貧溶媒技術、溶媒蒸発、溶媒法、ホットメルト押出、エレクトロスピニング法、回転法、流動床薬物層形成(fluid bed drug layering)、融解法、低温粉砕法、機械的活性化法、凍結乾燥、超臨界流体、フィルム凍結、及び撹拌造粒法などの他のプロセスによって形成され得る。
【0068】
製剤を、ニキビダニ属のダニが寄生している睫毛に塗布することによって試験して、その有効性を決定し得る。製剤を塗布する前に、睫毛の試料を採取し、顕微鏡法によって分析して、ニキビダニ属のダニのベースライン数を得ることができる。1週間~1か月間の製剤の塗布の後に、睫毛の試料を採取し、顕微鏡法によって再び分析して、治療後のニキビダニ属のダニの数を得ることができる。目標は、睫毛上のニキビダニ属のダニのレベルを正常なレベルまで減少させることであろう。
【0069】
本発明はまた、製剤からのイベルメクチンの放出プロファイルに関する。本発明者らは、製剤が、イベルメクチンの初期バーストを放出し、イベルメクチンの連続的な放出がそれに続く場合に、治療が最も効果的となることを確認している。いくつかの方法が、この2重放出プロファイルを提供するのに用いられ得る。例えば、2種類のイベルメクチン-ポリマー粒子:比較的速く放出するポリマーを含む第1の粒子集団及び比較的ゆっくり放出するポリマーを含む第2の粒子集団を製造し得る。速く放出するポリマー粒子は、イベルメクチンの初期の放出を提供するものであり、ゆっくり放出するポリマー粒子は、イベルメクチンの連続的な放出を提供するものである。第2の態様として、該2種類の粒子は、各粒子内でのイベルメクチンに対するポリマーの比率に基づいて異なっていてもよい。より高いイベルメクチンの比率を有する粒子は、初期バーストを提供するものであり、低いイベルメクチンの比率を有する粒子は、イベルメクチンの連続的な放出を提供するものである。第3の態様として、噴霧乾燥を、より高いイベルメクチンに対するポリマーの比率を有する内層及びより高いポリマーに対するイベルメクチンの比率を有する外層を生じさせるよう変化させた単一の粒子集団を利用することができる。外層が、イベルメクチンの初期バーストを提供し、内層が、イベルメクチンの連続的な放出を提供する。
【0070】
一部のポリマーは、局所的な塗布領域おけるイベルメクチンの溶解性を向上させる能力を有する。皮脂(ダニは、通常、皮脂が媒体である睫毛毛包内に生息する)におけるイベルメクチンの溶解性を向上させるために、実施例5(表7)に見られるように、いくつかのポリマーを試験した。この実施例においては、イベルメクチンは、皮脂中に溶解して、ダニを死滅させるのに効力を発揮するはずである。人工皮脂は、文献に従い製剤化された。成分を、表6に列挙する。
(表6.人工皮脂の成分)
【表6】
【0071】
表7のデータは、各分散体において同じ量のイベルメクチンを用い、人工皮脂中でPVP-K30、PLA、及びPLGAポリマー、アモルファス及び結晶性イベルメクチンを用いた、3種のアモルファス固体分散体の目視での溶解性を示す。アモルファスイベルメクチン分散体があると、マグネチックスターラーを用いる室温での24h時間の混合の後に、皮脂は、透明なままであり(可溶化された)、ポリマーがないと、皮脂は、双方の形態のイベルメクチン(結晶性又はアモルファス)の添加(addiction)後に不透明なままであった(懸濁物中のイベルメクチン-可溶化されず)。従って、これは、ポリマーが、皮脂におけるイベルメクチンの溶解性を大きく向上させて、ダニが寄生している場所(毛包)に直接イベルメクチンの送達を提供することを示す。
(表7:人工皮脂中のイベルメクチンの形態双方のASDの目視溶解性)
【表7】
【0072】
別の態様において、製剤は、鉱油担体、又は鉱油とゲル化剤との混合物中に懸濁させた結晶性又はアモルファスイベルメクチンを含み得る。
本件出願は、以下の態様の発明を提供する。
(態様1)
睫毛、眼瞼、又は睫毛若しくは眼瞼の周囲の皮膚組織に、アベルメクチン又はミルベマイシンが微溶又は不溶である液体又は半固体の担体中のアベルメクチン及び/又はミルベマイシンとポリマーとの固体分散体の懸濁物を含む製剤を局所的に塗布することによって、該睫毛、眼瞼、又は睫毛若しくは眼瞼の周囲の皮膚組織における寄生虫の寄生に続発する炎症症状及び眼症状を治療する方法。
(態様2)
前記寄生虫の寄生が、ニキビダニ属のダニの寄生を含む、態様1記載の方法。
(態様3)
前記睫毛、眼瞼、又は睫毛の周囲の皮膚組織におけるニキビダニ属のダニの寄生に関連する前記症状が、蒸発亢進型ドライアイ疾患を伴う又は伴わないマイボーム腺機能不全、後部眼瞼炎、前部眼瞼炎、眼周囲皮膚炎、霰粒腫、睫毛乱生又は睫毛欠損、及びニキビダニ属のダニ又は他の寄生虫の寄生に続発性であると分かった他の病態を含む、態様1記載の方法。
(態様4)
前記アベルメクチンが、イベルメクチンを含む、態様1記載の方法。
(態様5)
前記製剤が、約10ミクロン未満、好ましくは、約800nmから約4ミクロンの間のD90粒度を有するイベルメクチンとポリマーとの粒子を含む、態様4記載の方法。
(態様6)
前記ポリマーが、持続放出ポリマー、即時放出ポリマー、又はそれらの混合物を含む、態様5記載の方法。
(態様7)
前記ポリマーが、天然又は合成の生分解性ポリマーを含む、態様6記載の方法。
(態様8)
前記天然生分解性ポリマーが、多糖類、シクロデキストリン、キトサン、アルギン酸及び誘導体、ヒアルロン酸ナトリウム、キサンタンガム、ゲランガム、デンプン、タンパク質、アルブミン、ゼラチン、フィブリン、並びにコラーゲンのうちの1種以上を含む、態様7記載の方法。
(態様9)
前記合成生分解性ポリマーが、ポリエステル、ポリエーテル、ポリ(無水物)、ポリ(ウレタン)、ポリ(シアノアクリル酸アルキル)(PACA)、ポリ(オルトエステル)、セルロース及び誘導体、ポリ(N-ビニルピロリドン)(PVP)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、並びにポリ(アクリルアミド)のうちの1種以上を含む、態様7記載の方法。
(態様10)
前記ポリエステルが、ポリ(グリコール酸)(PGA)、ポリ(l-乳酸)(PLA)、及びポリ(ラクチド-co-グリコリド)(PLGA)のうちの1種以上を含み、前記ポリエーテルが、ポリ(エチレングリコール)及びポリ(プロピレングリコール)のうちの1種以上を含み、前記セルロース及び誘導体が、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、フタル酸ヒプロメロース、酢酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、セルロース、カルボキシメチルセルロース、微結晶セルロース、及びケイ化微結晶セルロースのうちの1種以上を含む、態様9記載の方法。
(態様11)
前記イベルメクチンとポリマーとの粒子が、アモルファスイベルメクチンを含む、態様5記載の方法。
(態様12)
前記イベルメクチンとポリマーとの粒子が、結晶性イベルメクチンを含む、態様5記載の方法。
(態様13)
前記製剤が、油及びゲルを含む担体、並びに1種以上の医薬として許容し得る賦形剤をさらに含む、態様1記載の方法。
(態様14)
前記ゲルが、高分子炭化水素ゲル化剤、ポロクサマー407、カルボマー、メチルセルロース、及びナトリウムカルボキシメチルセルロースのうちの1種以上を含む、態様13記載の方法。
(態様15)
前記製剤が、鉱油をさらに含む、態様1記載の方法。
(態様16)
前記製剤が、約30,000cP~約100,000cP、好ましくは、約40,000cP~約90,000cPの粘度を有する、態様1記載の方法。
(態様17)
粒子形態の固体分散体であって、本質的に、イベルメクチンと、該粒子中の該イベルメクチンを滅菌から保護しかつ該粒子からの該イベルメクチンの放出を制御するポリマーとからなり、該イベルメクチンが、アモルファス形態にあり、該粒子が、約10ミクロン未満、好ましくは、約800nmから約4ミクロンの間のD90粒度を有し、かつ該粒子中のイベルメクチン対ポリマーの比率が、約1:10~約10:1、好ましくは、約1:3~約4:1である、前記固体分散体。
(態様18)
前記ポリマーが、PVP VA-64を含み、かつ該PVP VA-64が、イベルメクチン対PVP VA-64が約1:1である比率で存在する、態様17記載の固体分散体。
(態様19)
前記ポリマーが、PVP K-30を含み、かつ該PVP K-30が、イベルメクチン対PVP K-30が約1:3である比率で存在する、態様17記載の固体分散体。
(態様20)
前記ポリマーが、HPMC-E4Mを含み、かつ該HPMC-E4Mが、イベルメクチン対HPMC-E4Mが約4:1である比率で存在する、態様17記載の固体分散体。
(態様21)
前記粒子が、第1の粒子中イベルメクチン対ポリマー比率を含む第1の粒子集団と、第2の粒子中イベルメクチン対ポリマー比率を含む第2の粒子集団とを含み、かつ該第1の比率及び該第2の比率が、異なっており、これによって、該第1の粒子集団が、該第2の粒子集団よりもよりも速く該イベルメクチンを放出する、態様17記載の固体分散体。
(態様22)
前記第1の粒子集団のD90が、前記第2の粒子集団のD90とは異なる、態様21記載の固体分散体。
(態様23)
前記粒子が、粒子中に第1のポリマーを含む第1の粒子集団と、粒子中に第2のポリマーを含む第2の粒子集団とを含み、かつ該第1のポリマー及び該第2のポリマーが、異なっており、これによって、該第1の粒子集団が、該第2の粒子集団よりも速く該イベルメクチンを放出する、態様17記載の固体分散体。
(態様24)
前記第1の粒子集団のD90が、前記第2の粒子集団のD90とは異なる、態様23記載の固体分散体。
(態様25)
態様17記載の固体分散体と、該固体分散体が、不溶であるか、又は微溶である担体とを含む、ゲル形態の医薬製剤であって、約30,000cP~約100,000cP、好ましくは、約40,000cP~約90,000cPの粘度を有する、前記医薬製剤。
(態様26)
前記担体が、炭化水素ゲル化剤と共に、ポロクサマー407、カルボマー、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、及び鉱油のうちの1種以上を含む、態様25記載の医薬製剤。
(態様27)
前記炭化水素ゲル化剤が、エチレン/プロピレン/スチレンコポリマー及びブチレン/エチレン/スチレンコポリマーを含む、態様26記載の医薬製剤。
(態様28)
前記製剤が、標準的な溶解試験方法によって最長で12時間の期間にわたり前記イベルメクチンを放出する、態様25記載の医薬製剤。
(態様29)
睫毛、眼瞼周囲の皮膚組織に、かつ/又は睫毛若しくは眼瞼に、態様25記載の医薬製剤を局所的に塗布することによって、ニキビダニ属のダニを死滅させる方法。
(態様30)
前記医薬製剤を塗布することが、結膜又は角膜との接触を避けることをさらに含む、態様29記載の方法。
(態様31)
態様25の医薬製剤と、精密塗布装置とを含むキット。
(態様32)
前記精密塗布装置が、前記製剤を睫毛、眼瞼の周囲の皮膚組織に、かつ/又は睫毛若しくは眼瞼に塗布するよう設計される、態様31記載のキット。