(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】治療のモニタリング方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/68 20180101AFI20241108BHJP
A61K 31/485 20060101ALI20241108BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241108BHJP
A61P 31/18 20060101ALI20241108BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20241108BHJP
C12N 15/54 20060101ALN20241108BHJP
C12N 15/53 20060101ALN20241108BHJP
C12N 5/0783 20100101ALN20241108BHJP
【FI】
C12Q1/68
A61K31/485
A61P35/00
A61P31/18
C12N15/12
C12N15/54
C12N15/53
C12N5/0783
(21)【出願番号】P 2021552878
(86)(22)【出願日】2020-03-06
(86)【国際出願番号】 EP2020056112
(87)【国際公開番号】W WO2020178446
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2022-12-09
(32)【優先日】2019-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519353064
【氏名又は名称】エルディーエヌ ファーマ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リュー,ワイ
【審査官】田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/178676(WO,A1)
【文献】特表2016-524602(JP,A)
【文献】BMC Genomics,2008年,Vol.9,225 (pp.1-16),doi:10.1186/1471-2164-9-225
【文献】INTERNATIONAL JOURNAL OF ONCOLOGY,2016年,Vol.49,pp.793-802,DOI: 10.3892/ijo.2016.3567
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
A61K 31/485
A61P 35/00
A61P 31/18
C12N 15/00-15/90
C12N 5/0783
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナルトレキソンまたはその代謝産物もしくは類似体である活性物質による治療法を受けている対象の治療をモニタリングするための方法であって、
治療を受けている対象から得られたCD3+細胞試料において、以下のa)またはb)に挙げられる遺伝子のいずれかの遺伝子発現プロファイルを測定すること、を含み:
a)
i. S100カルシウム結合タンパク質A6(mRNA);
ii. RASタンパク質活性化因子様3(mRNA);
iii. マイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼキナーゼキナーゼ1(mRNA);
iv. チロシン3-モノオキシゲナーゼ/トリプトファン5-モノオキシゲナーゼ(mRNA);
v. DR1関連タンパク質1(ネガティブコファクターα2)(mRNA);
vi. キャスタージンクフィンガー1、転写バリアント2(mRNA);
vii. アルデヒド脱水素酵素4ファミリー、メンバーA1(mRNA);
viii. フェニルアラニン水酸化酵素(mRNA);
ix. ミオシン、軽鎖ポリペプチドキナーゼ、転写バリアント5(mRNA);
x. 真核生物翻訳開始因子4B(mRNA);
xi. 嗅覚受容体、ファミリー10、サブファミリーA、メンバー6(mRNA);
xii. エズリン、転写バリアント1(mRNA);
xiii. アクチン、β(mRNA);
xiv. PRP8 RNA前駆体プロセシング因子8(S. cerevisiae)ホモログ(mRNA);
xv. インテグリン、β2(補体成分3受容体3および4)(mRNA);
xvi. ヒポカルシン様1、転写バリアント2(mRNA);
xvii. SPARC/オステオネクチン、cwcvおよびカザール様ドメインプロテオグリカン2(mRNA);
xviii. ポリオウイルス受容体関連2(ヘルペスウイルス侵入メディエーターB)(mRNA);
xix. ヌクレオバインディン(nucelobindin)1(mRNA);
または、
b)
i. WDリピートドメイン75(mRNA);
ii. バキュロウイルスIAPリピート含有3、転写バリアント(mRNA);
iii. CDKN2A相互作用タンパク質(mRNA);
iv. ダイニン、軽鎖、LC8-タイプ2(mRNA);
v. 真核生物翻訳開始因子2、サブユニット3γ(mRNA);
vi. SH3ドメイン、アンキリンリピート、およびPHドメイン1を有するArfGAP(mRNA);
vii. カリウムチャネル四量体化ドメイン含有6(mRNA);
viii. プロテアソーム(プロソーム、マクロペイン)活性化因子サブユニット2(mRNA);
ix. モータリティファクター4様1、転写バリアント2(mRNA);
x. 金属調節転写因子1(mRNA);
xi. ペルオキシソームD3、D2-エノイル-CoAイソメラーゼ、転写物(mRNA);
xii. プログラム細胞死4(腫瘍性形質転換換阻害物質)(mRNA);
xiii. ヒストンクラスター1、H4c(mRNA);
xiv. BCL2関連転写因子1、転写バリアント(mRNA);
xv. 真核生物翻訳開始因子3、サブユニットE(mRNA);
xvi. LSM5(S.cerevisiae)ホモログ、U6核内低分子RNA結合(mRNA);
xvii. H3ヒストン、ファミリー3A(mRNA);
xviii. 真核生物翻訳開始因子3、サブユニットM(mRNA);
xix. CDC42低分子エフェクター2、転写バリアント2(mRNA);
上記のa)中のいずれかの遺伝子の発現が対照と比較して
少なくとも25%増加している場合、またはb)に挙げられた遺伝子のいずれか
の発現が対照と比較して
少なくとも25%減少している場合、前記活性物質は有効なレベルで投与されているものとし、
前記対照が治療前の前記対象から得られた試料であり、
前記代謝産物または類似体が6-β-ナルトレキソール、ナロキソン、またはメチルナルトレキソンである、
方法。
【請求項2】
前記遺伝子のうちの3種以上の遺伝子発現プロファイルが決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
S100カルシウム結合タンパク質A6遺伝子(mRNA)、RASタンパク質活性化因子様3遺伝子(mRNA)、マイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼキナーゼキナーゼ1遺伝子(mRNA)、チロシン3-モノオキシゲナーゼ/トリプトファン5-モノオキシゲナーゼ遺伝子(mRNA)、およびDR1関連タンパク質1(ネガティブコファクターα2)遺伝子(mRNA)のうちの1または複数の発現プロファイルが決定される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
S100カルシウム結合タンパク質A6遺伝子(mRNA)、RASタンパク質活性化因子様3遺伝子(mRNA)、マイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼキナーゼキナーゼ1遺伝子(mRNA)、チロシン3-モノオキシゲナーゼ/トリプトファン5-モノオキシゲナーゼ遺伝子(mRNA)、およびDR1関連タンパク質1(ネガティブコファクターα2)遺伝子(mRNA)のそれぞれの発現プロファイルが決定される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
WDリピートドメイン75遺伝子(mRNA)、バキュロウイルスIAPリピート含有
3、転写バリアント遺伝子(mRNA)、CDKN2A相互作用タンパク質遺伝子(mRNA)、ダイニン、軽鎖、LC8-タイプ2遺伝子(mRNA)、および真核生物翻訳開始因子2、サブユニット3γ遺伝子(mRNA)のうちの1または複数の発現プロファイルが決定される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
WDリピートドメイン75遺伝子(mRNA)、バキュロウイルスIAPリピート含有3、転写バリアント遺伝子(mRNA)、CDKN2A相互作用タンパク質遺伝子(mRNA)、ダイニン、軽鎖、LC8-タイプ2遺伝子(mRNA)、および真核生物翻訳開始因子2、サブユニット3γ遺伝子(mRNA)のそれぞれの発現プロファイルが決定される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記活性物質がナルトレキソンまたは6-β-ナルトレキソールである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記活性物質が4.5mg以下の一日量のレベルで投与される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記活性物質が3~4.5mgの一日量のレベルで投与される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記対象ががんを有している、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記対象が乳がん、肺がん、メラノーマ、結腸がん、またはグリオーマを有している、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記治療ががん治療である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記がん治療が化学療法、放射線療法、ホルモン療法、または免疫療法である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記がん治療が化学療法である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記治療がHIV/エイズ治療である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記治療が抗レトロウイルス療法である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
治療の少なくとも24時間後に得られた試料において遺伝子発現プロファイルが決定される、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記試料が前記治療の少なくとも48時間後に得られた試料である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記CD3+細胞が前記対象の血液試料から得られるものである、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の遺伝子の発現プロファイルをモニタリングすることにより対象の治療をモニタリングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くのがん治療の成功は、がんを標的とする活性化合物の、アジュバント型の分子との同時投与に基づいている。独立した治療上の有用性はないが、アジュバントは、がんを標的とする活性化合物が最大の治療効果を達成できるように、対象の免疫系をプライミングする役割を果たす。
【0003】
アジュバントは、典型的には患者の免疫応答を調節するものであるため、最も多くはがんワクチンやヒト型化抗体医薬などの生物学的製剤と組み合わせて使用される。アジュバントは、患者の免疫系を強め、がんワクチンによるチャレンジに応答した抗体の産生を増加させるように、または、外来抗体医薬に対する患者の免疫原性を抑制もしくは低下させることにより、作用する。すなわち、アジュバントは、がん免疫療を成功の結果に導くために重要な役割を果たしている。
【0004】
多くの場合、アジュバントは、放射線療法や化学療法などのより昔から存在するがん治療と併用され、これにより相乗的な治療がもたらされ、アジュバントの存在によって治療法の効力が顕著に増加することとなる。これにより、従来のがん治療の使用量を減らすことができ、このことは、多くのがん治療は高用量投与ではネガティブな副作用を伴うことから、有益である。
【0005】
患者の年齢、性別、身長、および体重、さらには環境要因など、治療法が身体に及ぼす効果に影響する要因は多種多様であるため、治療薬とアジュバントが有効なレベルで投与されているかどうかを知ることは困難である。さらに、従来のがん治療では、患者がネガティブな副作用を経験する結果となる場合が多く、これは最適でない用量によって悪化する可能性があり、この最適な用量も患者によって異なる可能性がある。
【0006】
以上から、治療法が個々の患者に対し及ぼしている効果をモニタリングすることを可能にし、患者に最適な治療量が投与されるようにする、新規の治療レジメンの開発が求められている。モニタリングにより最適な治療量が投与されていないことが明らかな場合、それに応じて治療薬の投与量を変更することで、当該治療法のネガティブな副作用を最小限にしつつ、当該治療を可能な限り有効なものとすることができる。
【発明の概要】
【0007】
化学療法剤単独の投与と比較して、ナルトレキソンと化学療法剤の同時投与はがん細胞の増殖を低減させることが知られている。しかしながら、化学療法剤によって引き起こされたがんの増殖をさらに低減するのに有効なレベルでナルトレキソンが投与されているかをモニタリングする簡単な方法は、現在のところ存在していない。
【0008】
本発明者らは以前に、低用量ナルトレキソンが、これまで使用されてきた高用量のレジメンに比べて、治療において有利であることを報告している。本発明者らはこの度、低用量のナルトレキソンまたはその代謝産物もしくは類似体である活性物質を用いて治療すると、適切なレベルで投与された場合、対象のCD3+細胞において、表1に挙げられる遺伝子の発現が増加し、表2に挙げられる遺伝子の発現が減少することを発見した。さらに、本発明者らは、上記各遺伝子が上記発現レベルであると、CD3+細胞の活性が増加し
ていることを発見した。しかし、高用量のナルトレキソン投与は、CD3+細胞におけるこれらの遺伝子の発現に対して、ひいてはCD3+細胞の活性に対して、逆の効果を与えるか、効果を全く示さない。従って、これらの遺伝子の発現レベルを測定しモニタリングすることで、上記活性物質が低用量かつ有効なレベルで投与されているかどうかを判定することができる。
【0009】
本発明の第一の態様において、ナルトレキソンまたはその代謝産物もしくは類似体である活性物質による治療法を受けている対象の治療をモニタリングするための方法であって、
治療を受けている対象から得られたCD3+細胞試料において、以下のa)またはb)に挙げられる遺伝子のいずれかの遺伝子発現プロファイルを測定すること、を含み:
a)
i. S100カルシウム結合タンパク質A6(mRNA);
ii. RASタンパク質活性化因子様3(mRNA);
iii. マイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼキナーゼキナーゼ1(mRNA);
iv. チロシン3-モノオキシゲナーゼ/トリプトファン5-モノオキシゲナーゼ(mRNA);
v. DR1関連タンパク質1(ネガティブコファクターα2)(mRNA);
vi. キャスタージンクフィンガー1、転写バリアント2(mRNA);
vii. アルデヒド脱水素酵素4ファミリー、メンバーA1(mRNA);
viii. フェニルアラニン水酸化酵素(mRNA);
ix. ミオシン、軽鎖ポリペプチドキナーゼ、転写バリアント5(mRNA);
x. 真核生物翻訳開始因子4B(mRNA);
xi. 嗅覚受容体、ファミリー10、サブファミリーA、メンバー6(mRNA);
xii. エズリン、転写バリアント1(mRNA);
xiii. アクチン、β(mRNA);
xiv. PRP8 RNA前駆体プロセシング因子8(S. cerevisiae)ホモログ(mRNA);
xv. インテグリン、β2(補体成分3受容体3および4)(mRNA);
xvi. ヒポカルシン様1、転写バリアント2(mRNA);
xvii. SPARC/オステオネクチン、cwcvおよびカザール様ドメインプロテオグリカン2(mRNA);
xviii. ポリオウイルス受容体関連2(ヘルペスウイルス侵入メディエーターB)(mRNA);
xix. ヌクレオバインディン(nucelobindin)1(mRNA);
または、
b)
i. WDリピートドメイン75(mRNA);
ii. バキュロウイルスIAPリピート含有3、転写バリアント(mRNA);
iii. CDKN2A相互作用タンパク質(mRNA);
iv. ダイニン、軽鎖、LC8-タイプ2(mRNA);
v. 真核生物翻訳開始因子2、サブユニット3γ(mRNA);
vi. SH3ドメイン、アンキリンリピート、およびPHドメイン1を有するArfGAP(mRNA);
vii. カリウムチャネル四量体化ドメイン含有6(mRNA);
viii. プロテアソーム(プロソーム、マクロペイン)活性化因子サブユニット2(mRNA);
ix. モータリティファクター4様1、転写バリアント2(mRNA);
x. 金属調節転写因子1(mRNA);
xi. ペルオキシソームD3、D2-エノイル-CoAイソメラーゼ、転写物(mR
NA);
xii. プログラム細胞死4(腫瘍性形質転換換阻害物質)(mRNA);
xiii. ヒストンクラスター1、H4c(mRNA);
xiv. BCL2関連転写因子1、転写バリアント(mRNA);
xv. 真核生物翻訳開始因子3、サブユニットE(mRNA);
xvi. LSM5(S.cerevisiae)ホモログ、U6核内低分子RNA結合(mRNA);
xvii. H3ヒストン、ファミリー3A(mRNA);
xviii. 真核生物翻訳開始因子3、サブユニットM(mRNA);
xix. CDC42低分子エフェクター2、転写バリアント2(mRNA);
上記のa)中のいずれかの遺伝子の発現が対照と比較して増加している場合、またはb)に挙げられた遺伝子のいずれかが対照と比較して減少している場合、前記活性物質は有効なレベルで投与されているものとする、
方法が提供される。
【0010】
本発明の説明は添付の図面を参照して行う。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例2の結果を示している;LDN、NTX、またはDMSOと一緒に培養されたPBMCのCD69発現。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、活性物質であるナルトレキソンまたはその代謝産物もしくは類似体が、低用量でかつ有効なレベルで投与された場合、対象のCD3+細胞における、表1に挙げられる遺伝子の発現を増加させ、表2に挙げられる遺伝子の発現を減少させるという発見に基づく。これは、ナルトレキソン化合物によって例示されている。すなわち、ナルトレキソンまたはその代謝産物もしくは類似体による治療を受けながら、対象のCD3+細胞におけるこれらの遺伝子の発現レベルを測定することにより、上記薬剤が所望の低用量かつ有効なレベルで投与されているかどうかを、医師がモニタリングすることが可能となる。以上より、本発明者らは、表1または表2に挙げられた遺伝子の発現レベルを測定することにより治療をモニタリングするインビトロの方法を発明し、これによって投与されている活性物質であるナルトレキソンまたはその代謝産物もしくは類似体の量を、有効性および安全性が最大となるように変更させることができる。
【0013】
【0014】
【0015】
本発明者らは、低用量ナルトレキソン(LDN)が、免疫系に対して有益な「プライミング」効果を有することを発見した。すなわち、LDNは、さらなる薬剤/治療選択肢による治療前に免疫系の細胞をプライミングするのに使用されることとなる。
【0016】
さらなる薬剤の投与前の第一治療期の一部としてLDNでプライミングを行った場合、LDN期によるプライミングなしや継続的なLDN投与よりも、細胞の死滅が大きくなることが、以前の出願時に本発明者らによって示された。しかし、現在のところ、適切量のLDNが投与されたかどうか、ひいては、プライミング効果が存在しているかどうか、を判定する簡便な方法は存在していない。
【0017】
ナルトレキソンまたはその代謝産物もしくは類似体などの活性薬剤は、治療を受けている対象に投与された場合、対象の治療に用いられている抗がん剤の細胞毒性や細胞分裂阻害活性を増強する。理論に拘束されることを望むものではないが、表1の遺伝子の発現レベルの増加または表2の遺伝子の発現レベルの減少は、CD3+細胞が低用量の活性物質であるナルトレキソンまたはその代謝産物もしくは類似体の作用に応答しており、プライミングされて、CD3+活性が増大されたことを示すものである。CD3+細胞は、身体において病気と闘うための重要な役割を担う免疫細胞である。CD3+細胞が活性化すると、病気に対する生体防御において重要であるT細胞の増殖が増大する。そのため、免疫系が効果的にブーストされる。さらに、これらの細胞の活性が増加すると、全体的な細胞毒性が増加し、その後、さらなる治療薬の投与を含む治療レジメンの細胞毒性が増加する。従って、表1および表2の遺伝子は、投与中の活性物質の量が、さらなる治療薬の細胞毒性や細胞分裂阻害活性を増強する所望の低用量かつ有効なレベルであるかどうかを確認するために有用なマーカーであり、このさらなる治療薬は活性物質が有効なレベルである場合に続いて投与されることとなる。
【0018】
ある実施形態では、CD3+細胞における表1に挙げられるいずれかの遺伝子の発現を、対象において予想される通常の基礎レベルよりも増加させるのに十分な量の活性物質が与えられる。例えば、上記活性物質は、表1に挙げられたいずれかの遺伝子の発現レベルを、対象において予想される通常の基礎レベルと比較して、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも100%上昇させるのに十分な量で投与されてもよい。ある実施形態では、表2に挙げられるいずれかの遺伝子の発現を、対象において予想される通常の基礎レベルよりも低下させるのに十分な量の活性物質が与えられる。例えば、上記活性物質は、表2に挙げれたいずれかの遺伝子の発現レベルを、対象において予想される通常の基礎レベルと比較して、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも100%低下させるのに十分な量で投与される。各遺伝子の「通常の」基礎レベルは、上記活性物質の投与前の対象から得られた試料のCD3+細胞における各遺伝子の発現レベルを測定することで求められるものとしてもよい。
【0019】
上記遺伝子の発現レベルは、当業者が利用できる任意の数の分析方法を用いて、細胞集団で測定することができ、例えば、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法;リアルタイムPCR;ノーザンブロッティング、DNAマイクロアレイ、またはシークエンス法が挙げられるが、これらに限定はされない。市販されているこのようなものの一例として、全ヒトゲノム検査用チップを備えたイルミナ社製プラットフォームがある。遺伝子の発現レベルの増加または減少は、活性物質であるナルトレキソン、またはその代謝産物もしくは類似体の投与前後の当該遺伝子の発現レベルを比較することにより、求めることができる。
【0020】
ある実施形態では、上記方法で使用される対象から得られた生物試料は、血液、血漿、血清、リンパ液、組織、または組織試料由来の細胞であり、好ましくは血液試料である。上記生物試料のいずれかを対象から得るための従来技術は当業者に周知である。血液試料を使用できることで、遺伝子発現を測定し免疫系のプライミングが生じていたかどうかを確認するプラットフォームが便利で簡単なものとなる。
【0021】
上記方法で使用される「標準」値は、健常対象から得られた生物試料から求められた表1または表2の遺伝子の発現レベルとすることができる。本明細書で使用される場合、「健常対象」とは、がんや中枢神経系(CNS)障害を患っていない対象を指す。上記標準
値は、本発明の方法を実施する際に健常人から得られた試料において表1または表2の遺伝子の発現レベルを測定することで求めてもよい。あるいは、上記標準値は、健常人から得られた同等の試料における表1または表2の遺伝子の発現レベルの事前の測定からあらかじめ決められた値であってもよい。表1または表2の遺伝子の発現を増加または減少させる上記活性物質の治療をモニタリングする場合、上記標準値は健常人から得られたものであってもよいし、あるいは、上記標準値は対象から事前に得られた試料において測定された表1または表2の遺伝子の発現レベルであってもよく、すなわち、上記標準値は上記活性物質の投与前の対象から得られた試料における表1または表2の遺伝子の発現レベルであってもよい。
【0022】
対象の表1または表2の遺伝子と標準を比較することで、投与中の活性物質の量が所望の低用量かつ有効なレベルであるかどうかが判定される。表1の遺伝子の発現が上記標準と比較して増加している場合、または、表2の遺伝子の発現が上記標準と比較して減少している場合、上記活性物質は所望の低用量かつ有効なレベルで投与されているということである。反対に、表1の遺伝子の発現が上記標準と比較して減少しているかもしくは同レベルである場合、または、表2の遺伝子の発現が上記標準と比較して増加しているかもしくは同レベルである場合、上記活性物質は所望の低用量かつ有効なレベルで投与されていないということである。このように、治療レジメン(treatment regime)で投与される活性物質の量は適宜調整することができ、すなわち、投与される活性物質の量は、高すぎる用量で投与されており、有効なレベルで投与されていない場合、減らされる。
【0023】
表1または表2の遺伝子の発現は、上記活性物質の投与の少なくとも24時間後に測定されることが好適であり、上記活性物質の投与の少なくとも48時間後に測定されることがより好適である。
【0024】
表1および表2のいずれかの遺伝子の遺伝子発現プロファイルが測定され、その標準値と比較されてもよい。しかしながら、測定され標準値と比較される遺伝子が多いほど、活性物質が有効なレベルで投与されているかどうかを判定するための結論に、当業者は自信を持つことができる。従って、いくつかの実施形態では、2種以上の遺伝子の遺伝子発現プロファイルが求められ、好適には3種以上の遺伝子、好ましくは4種以上の遺伝子、より好ましくは5種以上の遺伝子の遺伝子発現プロファイルが決定される。
【0025】
いくつかの実施形態では、表1のS100A6遺伝子、RASAL3遺伝子、MAP4K1遺伝子、YWHAZ遺伝子、およびDRAP1遺伝子のうちの1種以上、例えば2種以上、好適には3種以上、好ましくは4種以上、より好ましくは5種全ての遺伝子発現プロファイルが求められ、かつ/あるいは、表2のWDR75遺伝子、BIRC3遺伝子、CDKN2AIP遺伝子、DYNLL2遺伝子、およびEIF253遺伝子のうちの1種以上、例えば2種以上、好適には3種以上、好ましくは4種以上、より好ましくは5種全ての遺伝子発現プロファイルが決定される。特定の1つの実施形態では、表1の遺伝子の全てについて遺伝子発現プロファイルが求められ、および/または、表2の遺伝子の全てについて遺伝子発現プロファイルが決定される。
【0026】
上記活性物質は、低用量で、すなわち、上記活性物質の血漿中濃度を少なくとも0.34ng/mlに、または少なくとも3.4ng/mlに、または少なくとも34ng/mlに、または少なくとも340ng/mlに増加させるのに有効な量で、投与されることが好適である。ある実施形態では、上記活性物質は、上記活性物質の血漿中濃度を0.3ng/ml~3,400ng/mlの範囲内に増加させるのに有効な量で投与され、好ましくは34ng/ml~3,400ng/mlの範囲内に、より好ましくは340ng/ml~3,400ng/mlの範囲内に、増加させるのに有効な量で投与される。そのよ
うな量を達成するために有効な量は、当業者に公知の任意の数の従来手法を用いて求めることができる。例えば、当業者であれば、ある量の上記活性物質を投与した後の、試料中の上記活性物質の濃度の増加を求めるために、対象から得られた血漿試料に対し質量分析を実施することができる。有効量とは、血漿中濃度の所望の増加を引き起こすために求められた量である。
【0027】
1つの実施形態では、低用量、すなわち、上記治療法で使用される上記活性物質の1日当たりの有効量は、約0.01mgから最大10mgまでとしてよく、好ましくは約0.1mg~約8mg、最も好ましくは約1~約6mgの上記活性物質であり;例えば、約0.01mg、約0.05mg、約0.1mg、約0.3mg、約0.5mg、約1mg、約2mg、約3mg、約5mg、約10mgの上記活性物質が1日当たりに使用される。ある実施形態では、使用される上記活性物質の1日当たりの有効量は、4.5mg以下であり、例えば2mg~4.5mgまたは3mg~4.5mgであり、好ましくは3mg~4mgである。
【0028】
本明細書で使用される場合、用語「治療すること(treating)」および「治療(treatment)」および「治療すること(to treat)」および「治療法(therapy)」とは、1)診断された病的状態または障害を治癒、その進行を減速、および/または停止させる治療的処置、並びに、2)標的の病的状態または障害の発症を防止および/または遅延させる予防的(prophylactic)または抑制的(preventative)処置の両方を指す。すなわち、治療を必要としている者には、障害を既に有している者;障害を持ちやすい者;および障害が予防されるべきである者が含まれる。
【0029】
本明細書で使用される場合、「ナルトレキソン」は、モルフィナン-6-オン、17-(シクロプロピルメチル)-4,5-エポキシ-3,14-ジヒドロキシ-(5α)、並びにその薬剤的に許容される塩、溶媒和物、水和物、立体異性体、包接体、およびプロドラッグを指す。ナルトレキソンの構造類似体であるナロキソンの使用も本発明の範囲内であり、明細書および特許請求の範囲で使用される用語「類似体」に包含される。同様に、メチルナルトレキソンも、本発明の全ての態様における使用に適した類似体として企図される。
【0030】
6-β-ナルトレキソールは、ナルトレキソンの主要な活性代謝物であり、明細書および特許請求の範囲で使用される用語「代謝産物」に包含される。本明細書で使用される場合、「6-β-ナルトレキソール」とは、17-(シクロプロピルメチル)-4,5-エポキシモルフィナン-3,6β,14-トリオール、並びにその薬剤的に許容される塩、溶媒和物、水和物、立体異性体、包接体、およびプロドラッグを指す。また、6-β-ナルトレキソールという用語は、本発明の各実施形態の6-β-ナルトレキソールの新規用途に関して、機能的に同等なその類似体および機能的同等性を保持する代謝産物をも包含する。ナルトレキソンまたはその代謝産物もしくは類似体の好ましい形態は塩酸塩形態である。
【0031】
本明細書で使用される場合、「細胞毒性」とは、細胞に対し毒性を有する薬剤の特性を指す。細胞毒性は従って、細胞と接触した際に細胞死を誘導する薬剤の能力を指す場合もある。細胞死をもたらす細胞毒性機構は、壊死またはプログラム細胞死(アポトーシス)によるものであってもよい。細胞毒性は、細胞集団において、任意の数の細胞生存アッセイを用いて測定されてもよいし、あるいはアポトーシスの開始に際し活性化されるタンパク質因子に特異的な抗体を用いて測定されてもよい。
【0032】
本明細書で使用される場合、「細胞分裂停止」とは、細胞の増殖(growth)およ
び増殖(multiplication)の阻害を指す。よって、細胞分裂阻害剤は、おそらくは細胞毒性を引き起こさずに、細胞の増殖(proliferation)または増殖(growth)を阻害する薬剤を指す場合がある。細胞分裂停止を引き起こす薬剤は、細胞集団内の個々の細胞のDNA含量を測定することにより決定することができる。増殖中の細胞集団は、DNA含量レベルが異なる細胞亜集団を含むこととなる。細胞内のDNA含量は、細胞が属している細胞周期の時期に依存することとなる。薬剤により細胞分裂停止が引き起こされた場合、細胞周期の各期に含まれる細胞集団のバランスは異常なものとなる。例えば、細胞分裂停止がS期またはG2期で生じた場合、異常な数の細胞が、体細胞で通常確認されるDNA含量の2倍の含量を含有することとなる。逆に、細胞分裂停止がG0期またはG1期で生じた場合、異常な数の細胞が、体細胞で通常確認されるDNA量を含有することとなる。
【0033】
本明細書で使用される場合、用語「対象」は、任意の動物(例えば、哺乳動物)を指し、例えば、ヒト、ヒト以外の霊長類、イヌ、ネコ、げっ歯類などが挙げられるが、これらに限定はされない。通常、用語「対象」および「患者」は、本明細書では同義的に使用され、ヒト対象を指す。
【0034】
対象はいくつかの障害に対し治療中のものであってもよく、LDNのプライミング効果は免疫系をブーストするものであるため、異なる疾患を標的とした一連の治療での使用においてLDNは有益である可能性がある。そのような例の1つとして、疾患それ自体(例えば、HIV/エイズ)または疾患に伴う治療(例えば、がん治療中の化学療法)によって免疫無防備状態となった患者が挙げられる。「免疫不全」または「免疫無防備状態」は、免疫系が弱まった、または損なわれたことで、感染症と闘う能力が低減した状態である。治療は、がんを治療、好ましくは乳がん、肺がん、メラノーマ、結腸がん、またはグリオーマの治療のための、レジメンとして、またはその一部として意図されたものであることが好ましい。
【0035】
本明細書で使用される場合、用語「HIV」とは、「ヒト免疫不全ウイルス」を指し、これは、免疫系の細胞に傷害を与え、日常の感染や疾患と闘う能力を弱めるウイルスである。「エイズ」とは、「後天性免疫不全症候群」を指し、免疫系がHIVウイルスによって重篤な傷害を受けた場合に生じる、生命にかかわる恐れのあるいくつかの感染および病気を述べている。
【0036】
典型的には、HIVは抗レトロウイルス薬により治療される。よって、LDNによるプライミング後に、抗レトロウイルス療法が施行されてもよい。抗レトロウイルス療法は、通常、3種の異なる薬剤分子を用いて処方される。例えば、ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤(アバカビル(Ziagen)、エムトリシタビン(Emtriva)、ラミブジン(Lamivudine RBX、Zefix、Zetlam)など)、非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤(デラビルジン(Rescriptor)、ドラビリン(Pifeltro)、エファビレンツ(Sustiva)など)、プロテアーゼ阻害剤(アタザナビル(Reyataz)、ダルナビル(Prezista)、ホスアンプレナビル(Lexiva、Telzir)など)、侵入阻害剤(エンフビルチド(Fuzeon)、マラビロック(Selzentry)など)、およびインテグラーゼ阻害剤(ドルテグラビル(Tivicay)、エルビテグラ(Vitekta)、ラルテグラビル(Isentress)など)が挙げられる。
【0037】
本明細書で使用される場合、用語「がん」とは、前がん病変を包含する、良性(非がん性)または悪性(がん性)の、過剰な細胞増殖(growth)、細胞増殖(proliferation)、および/または細胞生存の結果生じる、あらゆる組織塊を指す。本明細書で使用される場合、用語「がん細胞」とは、がん由来の細胞株または不死化細胞株
を指す。
【0038】
通常、がん治療は、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、または免疫療法のうちの1または複数を含む。従って、LDNによるプライミング後に、がん治療が施行されてもよい。本明細書で使用される場合、「化学療法」、「化学療法剤」、「放射線療法」、「ホルモン療法」、および「免疫療法」は、当該技術分野における通常の意味を有する。用語「抗がん剤」は、「化学療法剤」と同義的に使用される。併用療法を用いることで、複数の既知の治療法を使用してもよい。
【0039】
ある実施形態では、化学療法は、PI3-キナーゼ阻害剤、AKT阻害剤、タキサン、代謝拮抗剤、アルキル化剤、細胞周期阻害剤、トポイソメラーゼ阻害剤、および細胞傷害抗体からなる群から選択される抗がん剤を投与することを含む。
【0040】
化学療法剤がPI3-キナーゼ阻害剤である場合、好適な例としては、ワートマニン、LY294002、デメトキシビリジン、IC87114、NVP-BEZ235、BAY80-6946、BKM120、GDC-0941、GDC-9080;並びにこれらの組み合わせ;並びに上記のいずれかの薬剤的に許容される塩、溶媒和物、水和物、立体異性体、包接体、およびプロドラッグが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0041】
抗がん剤がAKT阻害剤である場合、好適な例としては、MK-2206、GSK690693、ペリホシン、PHT-427、AT7867、ホオノキオール、PF-04691502;並びにこれらの組み合わせ;並びに上記のいずれかの薬剤的に許容される塩、溶媒和物、水和物、立体異性体、包接体、およびプロドラッグが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0042】
抗がん剤がタキサンである場合、好適な例としては、パクリタキセルおよびドセタキセル;並びにこれらの組み合わせ;並びに上記のいずれかの薬剤的に許容される塩、溶媒和物、水和物、立体異性体、包接体、およびプロドラッグが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0043】
抗がん剤が代謝拮抗物質である場合、好適な例としては、メトトレキサート、5-フルオロウラシル、カペシタビン(capecitabin)、シトシンアラビノシド(cytosinarabinoside)(シタラビン(Cytarabin))、ゲムシタビン、6-チオグアニン(6-thioguanin)、ペントスタチン、アザチオプリン(azathioprin)、6-メルカプトプリン(6-mercaptopurin)、フルダラビン(fludarabin)、およびクラドリビン(cladribin);並びにこれらの組み合わせ;並びに上記のいずれかの薬剤的に許容される塩、溶媒和物、水和物、立体異性体、包接体、およびプロドラッグが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0044】
抗がん剤がアルキル化剤である場合、好適な例としては、メクロレタミン、シクロホスファミド、イホスファミド、トロホスファミド、メルファラン(L-サルコリシン)、クロラムブシル、ヘキサメチルメラミン、チオテパ、ブスルファン、カルムスチン(BCNU)、ストレプトゾシン(ストレプトゾトシン)、ダカルバジン(DTIC;ジメチルトリアゼノイミダゾールカルボキサミド(dimethyltriazenoimidazol ecarboxamide))テモゾロミド、およびオキサリプラチン;並びにこれらの組み合わせ;並びに上記のいずれかの薬剤的に許容される塩、溶媒和物、水和物、立体異性体、包接体、およびプロドラッグが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0045】
抗がん剤が細胞周期阻害剤である場合、好適な例としては、エポチロン(Epothi
lone)、ビンクリスチン(Vincristine)、ビンブラスチン(Vinblastine)、UCN-01、17AAG、XL844、CHIR-124、PF-00477736、CEP-3891、フラボピリドール(Flavopiridol)、ベルベリン、P276-00、テラメプロコル、イソフラボン ダイゼイン、BI2536、BI6727、GSK461364、シクラポリン(Cyclapolin)、ON-01910、NMS-P937、TAK-960、イスピネシブ(Ispinesib)、モナストロール(Monastrol)、AZD4877、LY2523355、ARRY-520、MK-0731、SB743921、GSK923295、ロナファーニブ(Lonafarnib)、proTAME、ボルテゾミブ(Bortezomib)、MLN9708、ONX0912、CEP-18770;並びにこれらの組み合わせ;並びに上記のいずれかの薬剤的に許容される塩、溶媒和物、水和物、立体異性体、包接体、およびプロドラッグが挙げられるが、これらに限定はされない。細胞周期阻害剤の特に好適な例としては、ヘスペラジン(Hespaeradin)、ZM447439、VX-680、MLN-8054、PHA-739358、AT-9283、AZD1152、MLN8237、ENMD2076、SU6668;並びにこれらの組み合わせ;並びに他のオーロラキナーゼ阻害剤;並びに上記のいずれかの薬剤的に許容される塩、溶媒和物、水和物、立体異性体、包接体、およびプロドラッグが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0046】
チェックポイント阻害剤は、CTLA4分子、PD-1分子、およびPD-L1分子を標的とする現在承認されている阻害剤によるがん免疫療法の形態である。
【0047】
別の実施形態では、上記治療法は、上記対象にビタミンDを投与することを含んでよい。ビタミンDと上記活性物質は、並行してもしくは同時に、逐次的に、または個別に、投与されてよく、好ましくは同時に投与される。
【0048】
本明細書で使用される場合、「ビタミンD」とは、ビタミンD、および上記活性物質の細胞分裂阻害効果をブーストすることが可能な代謝産物をもたらすビタミンDの代謝経路の任意の中間体または生成物を指す。代謝産物とは、ビタミンD前駆物質を指していてもよく、これを対象内の天然のビタミンD合成経路に組み入れることで、本発明の治療法を実施することができる。あるいは、代謝産物は、ビタミンDを利用する同化プロセスまたは異化プロセスから生じた分子を指す場合がある。ビタミンD代謝産物の非限定的な例としては、エルゴカルシフェロール、コレカルシフェロール、カルシジオール、およびカルシトリオール、1a-ヒドロキシコレカルシフェロール、25-ヒドロキシコレカルシフェロール、1a,25-ヒドロキシコレカルシフェロール、24,25-ヒドロキシコレカルシフェロールが挙げられる。「活性」代謝産物は、本発明と絡めて使用することができる代謝産物である。ビタミンDまたはその活性代謝物の投与レジメン(dosage regime)は、当業者に周知のものとする。ビタミンDという用語は、上記のいずれかの薬剤的に許容される塩も包含する。本発明での使用に特に好適なビタミンDの代謝産物はカルシトリオールである。
【0049】
本明細書で使用される場合、用語「並行して(concurrently)」もしくは「同時に(simultaneous)」、「逐次的な(sequential)」、または「個別の(separate)」とは、上記活性物質およびビタミンD生成物(vitamin D product)の投与が、同じ治療レジメンの一部として行われることを意味する。
【0050】
本明細書で定義される、「同時」投与は、上記活性物質およびビタミンD生成物を、互いに約2時間以内または約1時間以内またはそれ以下の時間以内に投与することを包含し、同じ時間における投与がさらにより好ましい。
【0051】
本明細書で定義される、「個別」投与は、上記活性物質およびビタミンD生成物を、約12時間超、または約8時間超、または約6時間超、または約4時間超、または約2時間超離して投与することを包含する。
【0052】
本明細書で定義される、「逐次」投与は、上記活性物質およびビタミンD生成物のそれぞれを、複数のアリコートでおよび/または複数回投与でおよび/または別個の機会に、投与することを包含する。上記活性物質は、患者に、ビタミンD生成物の投与の前に投与されてもよいし、後に投与されてもよい。あるいは、ビタミンD生成物は、上記活性物質による治療が終わった後、患者に適用され続ける。
【0053】
CD69は、他と相互作用する細胞の能力の一部として発現されるようになる表面マーカーである。これは、当該細胞が活性化している、または活性化しつつあることのサインである。すなわち、CD69発現は、CD3+細胞およびT細胞などの免疫細胞において、それらが活性化される際に増加する。よって、第二の態様において、ナルトレキソンまたはその代謝産物もしくは類似体である活性物質による治療法を受けている対象の治療をモニタリングするための方法であって、治療を受けている対象から得られたCD3+細胞試料におけるCD69発現を測定すること;を含み、上記CD69発現が対照と比較して増加していた場合、上記活性物質は有効なレベルで投与されているものとする、方法が提供される。
【0054】
CD69の発現レベルは、細胞集団において、当業者が利用できる任意の数の分析法を用いて測定することができ、例えば、ゲル電気泳動およびウエスタンブロット解析、2D-PAGE、カラムクロマトグラフィー、リボソームプロファイリング、または質量分析が挙げられるが、これらに限定はされない。第1の態様について記載された他の全ての実施形態は第二の態様に適用できる。
【実施例】
【0055】
実施例1:ナルトレキソンおよび低用量ナルトレキソンの投与後に発現され活性化している遺伝子により判定される細胞の状態
10nMの低用量ナルトレキソン(LDN)または10μMの従来の高用量ナルトレキソン(NTX)を用いて4時間培養したCD14-ve末梢血単核細胞(PBMC)から、CD3+細胞を回収した。その後、Trizol、次いでイソプロパノールを用いて、細胞からRNAを抽出した。イルミナ社製プラットフォームと全ヒトゲノム検査用のバイオチップとを用いて、遺伝子の発現を測定した。ナンセンス遺伝子と、非存在とコールされた遺伝子がフィルタリングされ、19,571種の、存在するとコールされた遺伝子が残り、これらをその後の解析対象とした。治療:未治療の比を算出し、未治療からの25%の変化を関連性があるとみなした。次に、データをパターンに基づいてソートした。LDNまたはNTXの効果は、遺伝子発現の増加、減少、または変化なしのいずれかとすることができる。LDNによって特異的な変化を受けた遺伝子は、その機能に関連した遺伝子を表している場合があり、例えば、223種の遺伝子がLDNによってアップレギュレートされたが、NTXによる変化は受けなかった。これらの遺伝子の一部を表3に示し、それと共に、LDN投与後にそれらの発現が上昇し、NTX投与後にそれらの発現が低下または変化なしであることを示す関連データを示す。また同様に、表3に、上記遺伝子の一部と、LDN投与後にそれらの発現が低下し、NTX投与後にそれらの発現が変化を受けなかったことを示す関連データを示す。
【0056】
【0057】
実施例2:LDN投与後のCD3+活性化
Histopaque-1077を用いて、病理学的に健常なドナーから得られた全血から、または全血の白血球除去(leucoreduction)の残留物から、末梢血単核細胞を単離した。単核画分を回収し、低張塩化アンモニウム溶液中でのインキュベーションにより赤血球混入物を除去した。細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、10分間200gで遠心分離することで血小板混入物を除去し、RPMI-1640培地中1×106個 mlの濃度で再懸濁した。これらの細胞に、ナルトレキソンを、10μMの従来の高用量ナルトレキソン(NTX)または10nMの低用量ナルトレキソン(LDN)のいずれかの濃度で添加し、37℃の空気中、5%CO2を含む加湿雰囲気下で、48時間インキュベートした。末梢血単核細胞を、洗浄用緩衝液(1%(v/v)FBSおよび0.09%(v/v)NaN3を含有するPBS)で2回洗浄し、関連抗体および標記抗体で4℃で30分間染色し、免疫細胞プロファイルの評価を行った。細胞を洗浄用緩衝液で洗浄し、4%パラホルムアルデヒド中、4℃で20分間固定した。BDサイエンス社(BD Science)製LSR II Flow Cytometerと専用のプロプライエタリソフトウェアを用いて、表面マーカーの発現を解析した。
【0058】
結果
CD3+細胞の活性化状態はCD69発現によって示され;CD69の発現レベルが高いほど、それに相関して、CD3+の活性化が増大する。CD3+細胞は、細胞傷害性T細胞(CD8+ナイーブT細胞)およびヘルパーT細胞(CD4+ナイーブT細胞)の両方の活性化を助けるT細胞コレセプターである。
図1に示されているように、CD3+/CD8+細胞(キラーT細胞)におけるCD69発現は、LDNとの培養後に増加したが、NTXまたは溶媒対照(DMSO)との培養後では、CD69発現は増加しなかった。このように、LDNのプライミングが完了し、遺伝子発現が実施例1で定量されたようになると、免疫系は好適にブーストされる。