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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】六方晶窒化ホウ素粉末
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/064 20060101AFI20241108BHJP
【FI】
C01B21/064 G
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021558344
(86)(22)【出願日】2020-11-12
(86)【国際出願番号】 JP2020042337
(87)【国際公開番号】W WO2021100617
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2019208514
(32)【優先日】2019-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】竹田 豪
(72)【発明者】
【氏名】築地原 雅夫
(72)【発明者】
【氏名】田中 孝明
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/101241(WO,A1)
【文献】特開2010-047450(JP,A)
【文献】特開2018-043899(JP,A)
【文献】特開2018-158862(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/00 - 21/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
純度が98質量%以上であり、比表面積が2.0m/g未満であり、
ナトリウム及びカルシウムの合計の含有量が50ppm未満である、六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項2】
ナトリウム及びカルシウムの合計の含有量が30ppm以下である、請求項1に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項3】
一次粒子の平均粒径が2.0~35μmである、請求項1又は2に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項4】
一次粒子の平均粒径が9.0~30μmである、請求項1~のいずれか一項に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、六方晶窒化ホウ素粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ホウ素は、潤滑性、高熱伝導性、及び絶縁性等に優れる。そのため、窒化ホウ素は、固体潤滑材、溶融ガス及びアルミニウム等に対する離型材、放熱材料用の充填材、並びに焼結体用の原料等の種々の用途に用いられている。
【0003】
窒化ホウ素粉末は、マグネシウム、アルミニウム、及びアルミニウム合金等の金型鋳造における離型材として使用されている。例えば、窒化ホウ素粉末を、分散剤と共に水と混合してスラリーを調製し、当該スラリーを金型表面に塗布し、焼き付けることで離型層を設けるために用いられている(例えば、特許文献1及び特許文献2等)。金型形状がますます複雑化、精密化しており、離型材として用いる窒化ホウ素粉末には離型性により優れることが求められている。
【0004】
窒化ホウ素粉末は、結晶性を向上させ放熱材料として使用されている。結晶性を向上させ粒成長させた窒化ホウ素の一次粒子は、鱗片形状を有している。このため、窒化ホウ素の一次粒子は、当該形状に由来した熱的異方性を有する。異方性の影響を低減する観点から、上記一次粒子を凝集させ、窒化ホウ素を凝集粒子として用いる場合がある。一次粒子の粒子径を小さく制御することで凝集粒子を製造する技術が知られている(例えば、特許文献3)。また、放熱材料用の充填材として用いる、球形度の高いサブミクロンの球状窒化ホウ素微粒子を製造する技術が知られている(例えば、特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭55-29506号公報
【文献】特開昭63-270798号公報
【文献】特開2016-60661号公報
【文献】国際公開第2015/122379号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、汎用性の高い六方晶窒化ホウ素粉末を提供することを目的とする。本開示はまた、上述のような六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一側面は、純度が98質量%以上であり、比表面積が2.0m/g未満である、六方晶窒化ホウ素粉末を提供する。
【0008】
上記六方晶窒化ホウ素粉末は、高純度であり、且つ比表面積が2.0m/g未満であることから、種々の用途に使用できる。例えば、離型材として用いる場合、比表面積が小さいことから緻密な離型層の形成が可能であり、優れた離型性を発揮し得る。また例えば、放熱用フィラーとして用いる場合も、六方晶窒化ホウ素粉末への要求特性が離型材と共通しており、純度が高く、比表面積が低いことによって、充填性に優れ、優れたフィラー特性をも発揮し得る。さらに、化粧品用途に用いる場合であっても、同様に、六方晶窒化ホウ素としての純度がより高く、低い比表面積であることによって、信頼性に優れる好適な原料となり得る。
【0009】
上記六方晶窒化ホウ素粉末は、ナトリウム及びカルシウムの合計の含有量が50ppm未満であってよく、30ppm以下であってもよい。六方晶窒化ホウ素粉末中のナトリウム及びカルシウムの合計の含有量が上記範囲内であることで、例えば、製品への不純物金属の含浸等をより抑制することができることから、電子材料の製造に用いる離型材として有用である。六方晶窒化ホウ素粉末中のナトリウム及びカルシウムの合計の含有量が上記範囲内であることで、また熱伝導性をより向上させることができることから放熱材料としても有用である。
【0010】
上記六方晶窒化ホウ素粉末は、一次粒子の平均粒径が2.0~35μmであってよく、一次粒子の平均粒径が9.0~30μmであってもよい。一次粒子の平均粒径が上述の範囲内であることによって、より緻密な離型層を形成可能であることから離型材としてより有用である。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、汎用性の高い六方晶窒化ホウ素粉末を提供することができる。本開示によればまた、上述のような六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法を提供することができる。
【0012】
本開示によれば、例えば、離型材等に有用な六方晶窒化ホウ素粉末を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。
【0014】
本明細書において「○○~△△」で示される数値範囲は特に断らない限り、「○○以上△△以下」を意味する。本明細書における「部」又は「%」は特に断らない限り、質量基準である。また本明細書における圧力の単位は、特に断らない限り、ゲージ圧であり、「G」又は「gage」といった表記を省略する。
【0015】
本明細書において例示する材料は特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。組成物中の各成分の含有量は、組成物中の各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0016】
六方晶窒化ホウ素粉末の一実施形態は、純度が98質量%以上であり、比表面積が2.0m/g未満である。上記六方晶窒化ホウ素粉末は種々の用途に使用することができ、例えば、固体潤滑材、離型材、放熱材料用の充填材、化粧品用の原料、並びに焼結体用の原料等の種々の用途に用いることができる。
【0017】
六方晶窒化ホウ素粉末の純度の下限値は98質量%以上であるが、例えば、99質量%以上であってよい。六方晶窒化ホウ素粉末の純度が上記範囲内であることで、不純物による融点の低下などが抑制されることから、例えば、離型材として用いる場合、高温における使用であっても十分に離型性を維持することができる。六方晶窒化ホウ素粉末の純度は、本願明細書の実施例に記載の方法によって測定するものとする。
【0018】
六方晶窒化ホウ素粉末の比表面積の上限値は2.0m/g未満であるが、例えば、1.5m/g以下、又は0.8m/g以下であってよい。上記比表面積の下限値は、例えば、0.1m/g以上、0.2m/g以上、又は0.3m/g以上であってよい。上記比表面積は上述の範囲内で調整してよく、例えば、0.1m/g以上2.0m/g未満、又は0.2~1.5m/g以上であってよい。六方晶窒化ホウ素粉末の比表面積は、例えば、原料粉末を加熱処理して一次粒子を形成させる際の加熱温度及び加熱時間を調整すること等によって制御できる。
【0019】
本明細書において六方晶窒化ホウ素粉末の比表面積は、JIS Z 8803:2013に準拠し、測定装置を用い測定するものとする。当該比表面積は、窒素ガスを使用したBET一点法を適用して算出した値である。
【0020】
六方晶窒化ホウ素粉末における一次粒子の平均粒径の上限値は、例えば、35μm以下、30μm以下、25μm以下、又は20μm以下であってよい。一次粒子の平均粒径の上限値が上記範囲内であることで、例えば、離型材として用いる際に鋳型と離型層との密着性をより向上させることができる。また、一次粒子の平均粒径の上限値を小さくすることによって、放熱材料用の充填材として用いる際の取り扱い性を向上できる。上記一次粒子の平均粒径の下限値は、例えば、2.0μm以上、4.0μm以上、6.0μm以上、又は9.0μm以上であってよい。一次粒子の平均粒径の下限値が上記範囲内であることによって、例えば、離型材として用いる際により緻密な離型層を形成することができる。上記一次粒子の平均粒径は上述の範囲内で調整してよく、例えば、2.0~35μm、2.0~30μm、又は9.0~30μmであってよい。一次粒子の平均粒径は、例えば、原料粉末の組成、原料粉末の焼成時間等を調整することで制御できる。
【0021】
本明細書において一次粒子の平均粒径は、ISO 13320:2009に準拠し、粒度分布測定機(日機装株式会社製、商品名:MT3300EX)を用いて測定するものとする。上記測定で得られる平均粒径は、体積統計値による平均粒径であり、平均粒径はメジアン値(d50)である。粒度分布測定に際し、該凝集体を分散させる溶媒には水を、分散剤にはヘキサメタリン酸を用いる。このとき水の屈折率には1.33を、また、六方晶窒化ホウ素粉末の屈折率については1.80の数値を用いる。
【0022】
上記六方晶窒化ホウ素粉末は、ナトリウム及びカルシウムの含有量が低くてもよい。ナトリウム及びカルシウムの合計の含有量は、例えば、50ppm未満、40ppm以下、35ppm以下、30ppm以下、20ppm以下、又は10ppm以下であってよい。ナトリウム及びカルシウムの合計の含有量はまた、検出機器による検出限界以下であってよい。ナトリウム及びカルシウムの合計の含有量が上記範囲内であることで、例えば、離型材として用いる場合には製品表面における不純物金属の影響による色むらの発生、及び製品中への不純物金属の移行等による絶縁特性の低下の発生などを低減することができる。上記製品が電子材料などである場合、上述の六方晶窒化ホウ素粉末を用いることの効果がより顕著である。上記六方晶窒化ホウ素粉末におけるナトリウム及びカルシウムの含有量は、例えば、原料粉末の組成、及び酸洗浄等によって調整することができる。六方晶窒化ホウ素粉末の製造においては添加剤として、アルカリ金属又はアルカリ土類金属が用いられる場合が多く、その中でも、ナトリウム及びカルシウムが用いられる場合が多い。よってい、六方晶窒化ホウ素粉末中にこれらの元素が顕在化し易い。そのため、ナトリウム及びカルシウムの合計の含有量を低減することが上述のような効果をより向上させる観点から好ましい。また、ナトリウム及びカルシウムの合計を上記範囲に調整しつつ、ナトリウム含有量を30ppm以下、20ppm以下、又は10ppm以下にしてよく、カルシウム含有量を40ppm以下、30ppm以下、又は20ppm以下にしてよい。
【0023】
上記六方晶窒化ホウ素粉末は、製法等に応じて、ナトリウム及びカルシウムの他に、その他の金属元素を含み得る。その他の金属元素としては、例えば、マンガン、鉄及びニッケル等が挙げられる。上記六方晶窒化ホウ素粉末は、その他の金属元素の含有量も低いことが好ましい。上記六方晶窒化ホウ素粉末は、マンガン、鉄及びニッケルのそれぞれの含有量が、20ppm以下、10ppm以下、又は5ppm以下であってよい。マンガン、鉄及びニッケルそれぞれの含有量はまた、検出機器による検出限界以下であってもよい。
【0024】
本明細書において六方晶窒化ホウ素粉末中の金属含有量は、ICP発光分析法の加圧酸分解法によって測定するものとする。
【0025】
六方晶窒化ホウ素粉末は、製法等に応じて、複数の一次粒子が凝集した凝集塊を含有し得る。六方晶窒化ホウ素粉末が上記凝集塊を含有する場合、上記凝集塊の含有量は、六方晶窒化ホウ素粉末の全量を基準として、例えば、8質量%以下、5質量%以下、3質量%以下、又は1.5質量%以下であってよい。上記凝集塊の含有量が上記範囲内であることで、例えば、離型材として用いる場合、より一層均一性に優れる離型層を形成することができ、離型層の離型性を向上させることができる。六方晶窒化ホウ素粉末は、好ましくは上記凝集塊を含まない。
【0026】
上述の六方晶窒化ホウ素粉末は、例えば、以下のような方法で製造することができる。六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法の一実施形態は、炭素含有化合物及びホウ素含有化合物を含む原料粉末を、構成元素として窒素原子を有する化合物を含むガス雰囲気、且つ0.25MPa以上5.0MPa未満の圧力下において、1600℃以上1850℃未満の温度で加熱処理して加熱処理物を得る第一の工程と、上記第一の工程よりも高い温度で、上記加熱処理物を焼成して六方晶窒化ホウ素粉末を得る第二の工程と、を有する。
【0027】
第一の工程は、原料粉末を、構成元素として窒素原子を有する化合物の存在下で、加圧及び加熱することで窒化ホウ素を生成させる工程である。原料粉末は、炭素含有化合物及びホウ素含有化合物を含む。
【0028】
炭素含有化合物は構成元素として炭素原子を有する化合物である。炭素含有化合物は、ホウ素含有化合物及び構成元素として窒素原子を有する化合物と反応して窒化ホウ素を形成する。炭素含有化合物としては、純度が高く比較的安価な原料を用いることができる。このような炭素含有化合物としては、例えば、カーボンブラック及びアセチレンブラック等が挙げられる。
【0029】
ホウ素含有化合物は構成元素としてホウ素を有する化合物である。ホウ素含有化合物は、炭素含有化合物及び構成元素として窒素原子を有する化合物と反応して窒化ホウ素を形成する化合物である。ホウ素含有化合物としては、純度が高く比較的安価な原料を用いることができる。このようなホウ素含有化合物としては、例えば、ホウ酸及び酸化ホウ素などが挙げられる。
【0030】
ホウ素含有化合物がホウ酸を含む場合、上述の製造方法は、例えば、原料粉末の調製工程を備えてもよく、当該原料粉末の調製工程は、更にホウ素含有化合物を脱水する工程を含んでいてもよい。ホウ素含有化合物を脱水する工程を有することで、第一の工程で得られる窒化ホウ素の収量を向上させることができる。
【0031】
原料粉末は、炭素含有化合物及びホウ素含有化合物に加えて、その他の化合物を含有してもよい。その他の化合物としては、例えば、核剤としての窒化ホウ素粉末等が挙げられる。原料粉末が核剤としての窒化ホウ素粉末を含有することで、合成される窒化ホウ素粉末の平均粒径をより容易に制御することができる。原料粉末は、好ましくは核剤を含む。原料粉末が核剤を含む場合、窒化ホウ素粉末の比表面積の調整が容易となり、比表面積が2.0m/g未満である窒化ホウ素粉末の製造がより容易となる。
【0032】
核剤としての窒化ホウ素粉末を使用する場合には、核剤としての窒化ホウ素粉末の含有量は、原料粉末100質量部を基準として、例えば、0.05~8質量部であってよい。上記核剤の含有量の下限値を0.05質量部以上とすることで、核剤を含むことの効果をより向上させることができる。上記核剤の含有量の上限値を8質量部以下とすることで、窒化ホウ素粉末の収量を向上させることができる。
【0033】
構成元素として窒素原子を有する化合物は、炭素含有化合物及びホウ素含有化合物と反応して窒化ホウ素を形成する化合物である。構成元素として窒素原子を有する化合物としては、例えば、窒素及びアンモニア等が挙げられる。構成元素として窒素原子を有する化合物は、ガス(窒素含有ガスともいう)の形で供給されてよい。窒素含有ガスは、窒化反応による窒化ホウ素の形成を促進する観点、及びコストを低減する観点から、好ましくは窒素ガスを含み、より好ましくは窒素ガスである。窒素含有ガスとして複数の気体の混合ガスを用いる場合、混合ガス中における窒素ガスの割合が、好ましくは95体積/体積%以上であってよい。
【0034】
第一の工程は加圧下で行われる。第一の工程における圧力の下限値は、0.25MPa以上であるが、例えば、0.30MPa以上、又は0.50MPa以上であってよい。第一の工程における圧力の下限値を上記範囲内とすることで、副生成物としての炭化ホウ素の生成を抑制することができ、また窒化ホウ素粉末の比表面積の増加を抑制することができる。第一の工程における圧力の上限値は、5.0MPa未満であるが、例えば、4.0MPa以下、3.0MPa以下、2.0MPa以下、1.0MPa以下、又は1.0MPa未満であってよい。第一の工程における圧力の上限値を上記範囲内とすることで、酸化ホウ素の揮発量が低下することを抑制し、焼成時間を短縮することができる。第一の工程における圧力は上述の範囲内で調整してよく、例えば、0.25MPa以上5.0MPa未満、0.25~1.0MPa、又は0.25MPa以上1.0MPa未満であってよい。
【0035】
第一の工程は加熱下で行われる。第一の工程における加熱温度の下限値は、1600℃以上であるが、例えば、1650℃以上、又は1700℃以上であってよい。第一の工程における加熱温度の下限値を上記範囲内とすることで、原料粉末の反応を促進させ、第一の工程で得られる窒化ホウ素の収量を向上させることができる。第一の工程における加熱温度の下限値を上記範囲内とすることでまた、原料粉末中に混入し得るナトリウム及びカルシウム等の金属元素(後に不純物金属元素となる金属元素)をより十分に系外に除去することができる。第一の工程における加熱温度の上限値は、例えば、1850℃未満であるが、例えば、1800℃以下、又は1750℃以下であってよい。第一の工程における加熱温度の上限値を上記範囲内とすることで、副生成物の生成を十分に抑制することができる。第一の工程における加熱温度は上述の範囲内で調整してよく、例えば、1650℃以上1850℃未満、1650~1800℃であってよい。第一の工程において、昇温速度は特に制限されるものでは無いが、例えば、0.5℃/分以上であってよい。
【0036】
第一の工程における加熱時間は、例えば、2時間以上、又は3時間以上であってよい。第一の工程における加熱時間はまた、例えば、12時間以下、10時間以下、又は8時間以下であってよい。第一の工程における加熱時間は上述の範囲内で調整してよく、例えば、2~12時間、又は2~10時間であってよい。なお、本明細書において加熱時間とは、加熱対象物の周囲環境の温度が所定の温度に到達してから当該温度で維持する時間を意味する。
【0037】
第二の工程は、第一の工程で得られた窒化ホウ素を含む加熱処理物を、構成元素として窒素原子を有する化合物の存在下で、更に加圧及び高温で加熱することによって、結晶性を高めた窒化ホウ素の一次粒子(六方晶窒化ホウ素の一次粒子)を成長させ、脱炭させる工程である。粒成長して得られる六方晶窒化ホウ素の一次粒子は、鱗片状の形状を有する。
【0038】
第二の工程は、加圧下で行われる。第二の工程における圧力は第一の工程と同じであっても、異なってもよい。第二の工程の圧力の下限値は、例えば、0.25MPa以上、0.30MPa以上、又は0.50MPa以上であってよい。第二の工程における圧力の下限値を上記範囲内とすることで、得られる六方晶窒化ホウ素粉末における純度をより向上させることができる。第二の工程における圧力の上限値は、特に制限されるものではないが、例えば、5.0MPa未満、4.0MPa以下、3.0MPa以下、2.0MPa以下、1.0MPa以下、又は1.0MPa未満であってよい。第二の工程における圧力の上限値を上記範囲内とすることで、六方晶窒化ホウ素粉末の製造コストをより低減することができ、工業的に優位である。第二の工程における圧力は上述の範囲内で調整してよく、例えば、0.25MPa以上5.0MPa未満、0.25~1.0MPa、又は0.25MPa以上1.0MPa未満であってよい。
【0039】
第二の工程における加熱温度は第一の工程よりも高い温度に設定する。第二の工程における加熱温度の下限値は、例えば、1850℃以上、又は1900℃以上であってよい。第二の工程における加熱温度の下限値を上記範囲内とすることで、六方晶窒化ホウ素の純度をより向上させると共に、一次粒子の成長を促進して、六方晶窒化ホウ素粉末の比表面積をより小さなものとすることができる。第二の工程における加熱温度の上限値は、例えば、2050℃以下、又は2000℃以下であってよい。第二の工程における加熱温度の上限値を上記範囲内とすることで、六方晶窒化ホウ素の黄変化を抑制することができる。第二の工程における加熱温度は上述の範囲内で調整してよく、例えば、1850~2050℃、又は1900~2025℃であってよい。
【0040】
第二の工程における加熱時間(高温焼成時間)は、例えば、0.5時間以上、又は1時間以上であってよい。第二の工程における加熱時間を上記範囲内とすることで、六方晶窒化ホウ素の純度をより向上させると共に、一次粒子の成長をより十分なものとすることができる。第二の工程における加熱時間はまた、例えば、30時間以下、又は25時間以下であってよい。第二の工程における加熱時間を上記範囲内とすることで、より安価に六方晶窒化ホウ素粉末を製造することができる。第二の工程における加熱時間は上述の範囲内で調整してよく、例えば、0.5~30時間、又は0.5~25時間であってよい。
【0041】
上述の製造方法は、第一の工程及び第二の工程の他に、その他の工程を有していてもよい。その他の工程としては、例えば、上述の原料粉末の調製工程、原料粉末の脱水工程及び原料粉末の加圧成形工程等が挙げられる。上述の製造方法が原料粉末の加圧成形工程を有する場合、原料粉末が高密度に存在する環境で焼成を行うことができ、第一の工程で得られる窒化ホウ素の収量を向上させることができる。
【0042】
上述の六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法は、いわゆる炭素還元法を応用した製造方法といえる。上述の製造方法によることで、一次粒子の平均粒径、及び比表面積が調製された六方晶窒化ホウ素粉末を容易に得ることができる。得られる六方晶窒化ホウ素の一次粒子は、他の製法を用いた場合に比べて、肉厚な一次粒子が得られる傾向にあり、比表面積の調整が容易となるのはこのような事情によるものと推測する。
【0043】
以上、幾つかの実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。また、上述した実施形態についての説明内容は、互いに適用することができる。
【実施例
【0044】
以下、本開示について、実施例及び比較例を用いてより詳細に説明する。なお、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)
[六方晶窒化ホウ素粉末の調製]
ホウ酸(株式会社高純度化学研究所製)100質量部と、アセチレンブラック(デンカ株式会社製、グレード名:HS100)25質量部と、をヘンシェルミキサーを用いて混合して混合粉末(原料粉末)を得た。得られた混合粉末を250℃の乾燥機に入れ、3時間保持することでホウ酸の脱水を行った。脱水後の混合粉末200gをプレス成型機の直径100Φの型に入れ、加熱温度:200℃及びプレス圧:30MPaの条件にて成型を行った。このようにして得られた原料粉末の成型体を焼成に用いた。
【0046】
上記成型体をカーボン雰囲気炉内に静置し、0.8MPaに加圧された窒素雰囲気において昇温速度:5℃/分で1800℃まで昇温し、1800℃にて3時間保持して上記成型体の加熱処理を行った(第一の工程)。その後、カーボン雰囲気炉内を昇温速度:5℃/分で2000℃まで更に昇温し、2000℃にて7時間保持して上記成型体の加熱処理物を高温で焼成した(第二の工程)。焼成後の緩く凝集した窒化ホウ素をヘンシェルミキサーで解砕し、目開き:75μmの篩を通し、篩を通過した粉末を得た。このようにして、六方晶窒化ホウ素粉末を調製した。
【0047】
[六方晶窒化ホウ素粉末の性状]
上述のようにして得られた六方晶窒化ホウ素粉末について、粉末の純度、粉末の比表面積、一次粒子の平均粒径、及び粉末中のカルシウム及びナトリウムの合計含有量の測定を行った。具体的には、後述する方法によって測定を行った。結果を表1に示す。
【0048】
<六方晶窒化ホウ素粉末の純度>
六方晶窒化ホウ素粉末の純度を、次の方法によって求めた。具体的には、まず、試料を水酸化ナトリウムでアルカリ分解させ、水蒸気蒸留法によって分解液からアンモニアを蒸留して、ホウ酸水溶液に捕集した。この捕集液を対象として、硫酸規定液で滴定することによって、上記試料中の窒素原子(N)の含有量を求めた。その後、以下の式(1)に基づいて、試料中の六方晶窒化ホウ素(hBN)の含有量を決定し、六方晶窒化ホウ素粉末の純度を算出した。
【0049】
試料中の六方晶窒化ホウ素(hBN)の含有量[質量%]=窒素原子(N)の含有量[質量%]×1.772・・・(1)
【0050】
なお、六方晶窒化ホウ素の式量は24.818g/mol、窒素原子の原子量は14.006g/molを用いた。
【0051】
<六方晶窒化ホウ素粉末の比表面積>
一次粒子の凝集体を含む六方晶窒化ホウ素粉末の比表面積を、JIS Z 8803:2013に記載の方法に準拠し、測定装置を用いて測定した。当該比表面積は、窒素ガスを使用したBET一点法を適用して算出した値である。
【0052】
<一次粒子の平均粒径:メジアン径(d50)>
六方晶窒化ホウ素粉末中の一次粒子の平均粒径を測定した。六方晶窒化ホウ素の一次粒子の平均粒径を、ISO 13320:2009に記載の方法に準拠し、粒度分布測定機(日機装株式会社製、商品名:MT3300EX)を用いて測定した。なお、得られた平均粒径は、体積統計値による平均粒径であり、メジアン値(d50)である。粒度分布測定に際し、該凝集体を分散させる溶媒には水を、分散剤にはヘキサメタリン酸を用いた。このとき水の屈折率には1.33を、また、六方晶窒化ホウ素粉末の屈折率については1.80の数値を用いた。
【0053】
<六方晶窒化ホウ素粉末中のカルシウム及びナトリウムの合計含有量>
六方晶窒化ホウ素粉末中のカルシウム及びナトリウムの含有量を、ICP発光分析法の加圧酸分解法によって測定した。カルシウム及びナトリウムの合計値を合計含有量とした。なお、表1及び表2中、「N.D.」は、測定対象の元素が検出限界値以下であったことを示す。
【0054】
[六方晶窒化ホウ素粉末を用いた離型材としての評価]
上述のようにして得られた六方晶窒化ホウ素粉末の離型材として評価(離型性の評価)を行った。まず、離型材を塗布する対象となる成型体を以下のとおり調製した。酸素量:1.0%且つ比表面積:10m/gの窒化珪素粉末に、イットリアを2.5mol%添加し、メタノールを加えて湿式ボールミルで5時間湿式混合し混合物を得た。得られた混合物を濾過し、濾集物を乾燥することによって混合粉末を得た。上記混合粉末を金型に充填し、20MPaの成形圧で金型成形した後、200MPaの成形圧でCIP成形することによって板状の成形体(5mm×50mm×50mm)を調製した。
【0055】
次に、上述のようにして得られた六方晶窒化ホウ素粉末をノルマルヘキサン溶液に分散させ、濃度:1質量%のスラリーを調製した。調製したスラリーを上述の成形体上に厚み10μmとなるように上記成型体の両面に塗布し、乾燥して離型層を設けた基材を調製した。同様の方法で30枚の基材を調製し、当該基材を30枚重ねたブロックを用意した。当該ブロックを、カーボンヒータを有する電気炉内に静置し、1900℃及び0.9MPaの条件下で、6時間焼成した。焼成後の上記基材同士のはく離面を目視観察して、下記の基準で離型性を評価した。Aが最も離型性に優れることを意味する。
【0056】
A:いずれの基材同士も自然と離型し、かつ基材のはく離面に不純物由来の黒点等が見受けられなかった。
B:いずれの基材同士も自然と離型し、かつ基材のはく離面に不純物由来の黒点等が少し見受けられた。
C:基材同士が離型しない、又は基材のはく離面に不純物由来の黒点等が見受けられた。
【0057】
(実施例2)
実施例2では、第二の工程における加熱温度を1900℃にしたこと以外は実施例1と同様にして六方晶窒化ホウ素粉末を製造した。実施例2の六方晶窒化ホウ素粉末の評価結果を表1に示した。
【0058】
(実施例3)
実施例3では、第一の工程及び第二の工程における圧力を0.3MPaにしたこと以外は実施例1と同様して六方晶窒化ホウ素粉末を製造した。実施例3の六方晶窒化ホウ素粉末の評価結果を表1に示した。
【0059】
(実施例4)
実施例4では、実施例1の原料粉末に、核剤として六方晶窒化ホウ素(デンカ株式会社製、グレード名:GP)1質量部を更に配合したこと以外は実施例1と同様して六方晶窒化ホウ素粉末を製造した。実施例4の六方晶窒化ホウ素粉末の評価結果を表1に示した。
【0060】
(実施例5)
実施例5では、実施例1で得られた六方晶窒化ホウ素粉末を、ジェット粉砕機(第一実業株式会社製、商品名:PJM-80)を用いて、粉砕圧力:0.2MPaの粉砕条件で更にジェットミル粉砕したこと以外は実施例1と同様して六方晶窒化ホウ素粉末を製造した。実施例5の六方晶窒化ホウ素粉末の評価結果を表1に示した。
【0061】
(実施例6)
実施例6は、実施例1の原料粉末に、核剤として六方晶窒化ホウ素(デンカ株式会社製、グレード名:SGP)10質量部を更に配合したこと、及び第二の工程における加熱時間を40時間にしたこと以外は実施例1と同様して六方晶窒化ホウ素粉末を製造した。実施例6の六方晶窒化ホウ素粉末の評価結果を表1に示した。
【0062】
(比較例1)
市販品の六方晶窒化ホウ素粉末を比較例1とした。比較例1の六方晶窒化ホウ素粉末の評価結果を表2に示した。
【0063】
(比較例2)
比較例2は、第二の工程における加熱温度を2000℃から1800℃に変更したこと以外は実施例1と同様して六方晶窒化ホウ素粉末を製造した。比較例2の六方晶窒化ホウ素粉末の評価結果を表2に示した。
【0064】
(比較例3)
比較例3は、第一の工程及び第二の工程における圧力を0.2MPaにしたこと以外は実施例1と同様して六方晶窒化ホウ素粉末を製造した。比較例3の六方晶窒化ホウ素粉末の評価結果を表2に示した。なお、比較例3の製造条件の下では、実施例1に比べ炉内の汚染の程度が大きかった。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0067】
本開示によれば、汎用性の高い六方晶窒化ホウ素粉末を提供することができる。本開示によればまた、上述のような六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法を提供することができる。