(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】圧粉成形体、圧粉磁心、圧粉成形体及び圧粉磁心の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20241108BHJP
H01F 27/255 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
H01F41/02 D
H01F27/255
(21)【出願番号】P 2022029747
(22)【出願日】2022-02-28
【審査請求日】2023-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】山田 将司
(72)【発明者】
【氏名】田村 泰治
(72)【発明者】
【氏名】石原 千生
(72)【発明者】
【氏名】大島 泰雄
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-243967(JP,A)
【文献】特開2013-026499(JP,A)
【文献】特開2002-057039(JP,A)
【文献】特開2019-186299(JP,A)
【文献】特開平07-254522(JP,A)
【文献】特開2003-224017(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0237532(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0271256(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/255
H01F 41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
延び方向が平行になるよう横並びに配置された複数の脚部と、
前記複数の脚部を連結するヨーク部と、
前記脚部の延び方向と直交し、かつ、前記脚部の横並び方向と直交する前記脚部の端面に設けられた凹み部と、
を備え、
前記脚部の延び先端面と、前記脚部と連結する前記ヨーク部の内周面と、前記内周面と反対側の端面である前記ヨーク部の背面とが、パンチで押圧されるプレス面であり、
前記脚部の延び方向と平行な前記ヨーク部の側面及び前記脚部の側面が
、前記パンチが摺動した痕が残る面である摺動面であり、
前記ヨーク部の厚みも含めた各脚部の延び方向の長さのばらつきが、0.57%以下であること、
を特徴とする圧粉成形体。
【請求項2】
前記長さのばらつきが、0.44%以下であること、
を特徴する請求項1に記載の圧粉成形体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の圧粉成形体を焼鈍して成ること、
を特徴とする圧粉磁心。
【請求項4】
軟磁性粉末を上パンチ及び下パンチによって加圧成形し、成形体を作製するプレス工程を含み、
前記成形体は、
延び方向が平行になるよう横並びに配置された複数の脚部と、
前記複数の脚部を連結するヨーク部と、
前記脚部の延び方向と直交し、かつ、前記脚部の横並び方向と直交する端面に設けられた凹み部と、
を備え、
前記プレス工程においては、前記脚部の延び方向がプレス方向であり、
前記プレス方向と平行な前記ヨーク部の側面及び前記脚部の側面が摺動面であり、
前記下パンチは、
前記脚部の延び先端面をプレスする延び先端面パンチと、
前記脚部と接続する前記ヨーク部の内周面をプレスする内周面パンチと、
を有し、
前記脚部の延び方向における前記ヨーク部を含めた各脚部の長さのばらつきが、0.57%以下であること、
を特徴とする圧粉成形体の製造方法。
【請求項5】
前記延び先端面パンチは、各脚部の延び先端面をプレスする複数の押圧部材を有し、
前記複数の押圧部材は一体化していること、
を特徴とする請求項4に記載の圧粉成形体の製造方法。
【請求項6】
請求項4又は5の製造方法によって作製された圧粉成形体を熱処理する焼鈍工程を含むこと、
を特徴とする圧粉磁心の製造方法。
【請求項7】
前記焼鈍工程を経た後、前記脚部の延び先端面を研磨する研磨工程を更に含むこと、
を特徴する請求項6に記載の圧粉磁心の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧粉成形体、圧粉磁心、圧粉成形体及び圧粉磁心の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧粉磁心は、リアクトルなどのコイル部品のコアとして用いられる。例えば、リアクトルは、電気エネルギーを磁気エネルギーに変換して蓄積及び放出する電磁気部品であり、ハイブリッド自動車や電気自動車、燃料電池車の駆動システム等をはじめ、OA機器、太陽光発電システム、無停電電源といった各種の分野で使用されている。
【0003】
圧粉磁心は、軟磁性粉末又は表面に絶縁層を付着させた軟磁性粉末をプレス成形して圧粉成形体を作製し、この圧粉成形体を焼鈍したものである。一般的に、プレス成形時の押圧力は10~20ton/cm2という高い圧力がかけられる。
【0004】
図7は、従来の圧粉成形体のプレス方向を示す図である。
図7に示すように、圧粉成形体100としては、3つの脚部と3つの脚部を繋ぐヨーク部から成るE字型形状のものが使用されることがある。即ち、3つの脚部は延び方向が平行になるように横並びに配置され、ヨーク部は各脚部の端部と接続し、圧粉成形体は概略E字型形状となっている。このような圧粉成形体は、脚部の延び方向と直交し、かつ、脚部の横並び方向と直交する方向、即ち、E字型に見える面(E字面)がプレス面となり、このE字面の高さは同一平面に形成されている。つまり、3本の脚部は、脚部の延び方向と直交し、かつ、脚部の横並び方向と直交する方向の高さ(以下、「高さ方向」とも称する。)が同一である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
圧粉成形体の脚部にはコイルが巻回される。3本の脚部の高さ方向の長さが同一であると、コイルは、圧粉成形体の外側に線幅分突出し、コイル部品の大型化を招く。そこで、コイルが圧粉成形体の外側に突出しないようにコイルが巻回される脚部の高さ方向の長さを短くする形状が求められる。例えば、3つの脚部のうち、真ん中に位置する中脚にコイルが巻回される場合、中脚の高さ方向の長さを中脚の両端にある外脚よりも短くする。
【0007】
中脚の高さ方向の長さが短い場合、従来のように、E字面に直交する方向でプレスすると、中脚と外脚のプレス面は同一平面上にないため、中脚はプレス機によって押圧し難い。そのため、中脚、外脚、ヨーク部それぞれにかかる押圧力が異なる。その結果、中脚、外脚、ヨーク部に含まれる軟磁性粉末の密度差が発生し、密度差が大きい部分が破損する虞がある。
【0008】
コアが圧粉磁心ではなくフェライトコアの場合は、プレス工程における押圧の目的は、所望の形状にさせるのみである。そして、焼鈍によって粉末間が焼結作用により強固に結合されるので、コアとして十分な強度を得ることができる。そのため、押圧力も1~3ton/cm2と少ない圧力で押圧するので密度差が少ない。よって、フェライトコアの場合、脚部の延び方向と直交し、かつ、脚部の横並び方向と直交する方向の高さが異なる複雑な形状にすることが容易である。
【0009】
一方、圧粉磁心の場合、プレス工程における押圧の目的は、所望の形状にさせることに加えて、粉末間を近接させ、分子間力によって圧粉成形体を保持させる目的も兼ねているため、10~20ton/cm2という高い圧力によって圧粉成形体を圧縮する。そのため、圧粉磁心の場合、密度差が顕著に現れる。よって、脚部の延び方向と直交し、かつ、脚部の横並び方向と直交する方向の高さが異なる複雑な形状の圧粉成形体又は圧粉磁心を作製することは困難だった。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであり、その目的は、複雑な形状であっても密度差が抑制された圧粉成形体、圧粉磁心、圧粉成形体及び圧粉磁心の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の圧粉成形体は、延び方向が平行になるよう横並びに配置された複数の脚部と、前記複数の脚部を連結するヨーク部と、前記脚部の延び方向と直交し、かつ、前記脚部の横並び方向と直交する前記脚部の端面に設けられた凹み部と、を備え、前記脚部の延び先端面と、前記脚部と連絡する前記ヨーク部の内周面と、前記内周面と反対側の端面である前記ヨーク部の背面とが、パンチで押圧されるプレス面であり、前記脚部の延び方向と平行な前記ヨーク部の側面及び前記脚部の側面が、前記パンチが摺動した痕が残る面である摺動面であり、前記ヨーク部の厚みも含めた各脚部の延び方向の長さのばらつきが、0.57%以下であること、を特徴とする。
【0012】
上記圧粉成形体を焼鈍して成る圧粉磁心も本発明の一態様である。
【0013】
また、本発明の圧粉成形体の製造方法は、軟磁性粉末を上パンチ及び下パンチによって加圧成形し、成形体を作製するプレス工程を含み、前記成形体は、延び方向が平行になるよう横並びに配置された複数の脚部と、前記複数の脚部を連結するヨーク部と、前記脚部の延び方向と直交し、かつ、前記脚部の横並び方向と直交する端面に設けられた凹み部と、を備え、前記プレス工程においては、前記脚部の延び方向がプレス方向であり、前記プレス方向と平行な前記ヨーク部の側面及び前記脚部の側面が摺動面であり、前記下パンチは、前記脚部の延び先端面をプレスする延び先端面パンチと、前記脚部と接続する前記ヨーク部の内周面をプレスする内周面パンチと、を有し、前記脚部の延び方向における前記ヨーク部を含めた各脚部の長さのばらつきが、0.57%以下であること、を特徴とする。
【0014】
また、上記製造方法によって作製された圧粉成形体を熱処理する焼鈍工程を備えること、を特徴する圧粉磁心の製造方法も本発明の一態様である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、複雑な形状の圧粉成形体又は圧粉磁心であっても密度差を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図6】脚部の長さばらつきと密度差の関係を示すグラフである。
【
図7】従来の圧粉成形体の形状及びプレス方向を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(実施形態)
実施形態に係る圧粉成形体又は圧粉磁心について図面を参照しつつ説明する。各図面においては、理解容易のため、厚み、寸法、位置関係、比率又は形状等を強調して示している場合があり、本発明は、それら強調に限定されるものではない。
【0018】
図1は、圧粉成形体1の斜視図である。なお、
図1において、X方向が脚部2の延び方向であり、Y方向が脚部2の横並び方向であり、Z方向がX方向及びY方向と直交する方向である。X方向は、軟磁性粉末を加圧成形する際のプレス方向と称する場合もあり、Z方向は高さ方向と称する場合もある。
【0019】
圧粉磁心は、OA機器、太陽光発電システム、自動車などに搭載されるリアクトルなどのコイル部品のコアとして用いられる磁性体である。圧粉磁心は、圧粉成形体1を焼鈍して成る。圧粉成形体1は軟磁性粉末を含む。軟磁性粉末には、必要に応じて表面に絶縁層を形成させる。軟磁性粉末を金型に充填し、プレス成形することで圧粉成形体1は作製される。プレス成形を経ることで、所望の形状の圧粉成形体1に成る。最後に、この圧粉成形体1を焼鈍することで圧粉磁心は作製される。
【0020】
軟磁性粉末は鉄を主成分とする。軟磁性粉末としては、純鉄粉、鉄を主成分とするパーマロイ(Fe-Ni合金)、Si含有鉄合金(Fe-Si合金)、センダスト合金(Fe-Si-Al合金)、又はこれら2種以上の粉末の混合粉などが使用できる。また、軟磁性粉末として、アモルファス合金、ナノ結晶合金粉末を使用してもよい。
【0021】
Fe-Si-Al合金粉末は、例えば、Feに対して、7wt%から11wt%程度のSiと、4wt%から8wt%程度のAlとを含有させている。Fe-Si-Al合金粉末には、例えば、Feに対して1wt%から3wt%程度のNiが含まれていてもよい。さらに、Fe-Si-Al合金粉末にはCo、Cr又はMnが含まれていてもよい。
【0022】
Si含有鉄合金には、Co、Al、Cr又はMnが含まれていてもよい。パーマロイ(Fe-Ni合金)を用いる場合、Feに対するNiの比率は50:50や25:75が好ましいが、他の比率であってもよい。例えば、Fe-80Ni、Fe-36Ni、Fe-78Ni、Fe-47Niでもよい。FeとNiの他にSi、Cr、Mo、Cu、Nb、Ta等を含んでいてもよい。Fe-Si合金粉末は、例えば、Fe-3.5%Si合金粉末、Fe-6.5%Si合金粉末が挙げられるが、Feに対するSiの比率は、3.5%や6.5%以外であってもよい。純鉄粉は、Feを99%以上含むものである。
【0023】
本実施形態の圧粉成形体1は、3つの脚部2とこの3つの脚部2を連結するヨーク部3から成り、Z方向から見ると、概略E字型形状となっている。脚部2は、ヨーク部3から延びている。3つの脚部2は、延び方向が平行になるように、横並びに配置される。脚部2は、真ん中に配置される中脚21と、中脚21の両隣に配置される一対の外脚22a、22bを有する。ヨーク部3は、プレス方向(X方向)と直交する端面で脚部2と接続する内周面31と、内周面31と反対側の端面である背面32を有する。
【0024】
脚部2は、延び先端面23を有する。延び先端面23は、脚部2の延び方向と直交し、ヨーク部3と接続する面とは反対側の面である。圧粉成形体1を焼鈍した圧粉磁心を2つ用意し、互いに延び先端面23で接合することで、閉じた環形状のコアと成る。
【0025】
ヨーク部3の厚みも含めた各脚部2の延び方向の長さのばらつきは、0.57%以下である。ばらつきを0.57%以下にすることで、脚部2とヨーク部3の密度差を低減できる。より密度差を低減するため、0.44%以下にすることが好ましい。なお、ここでいうヨーク部3の厚みも含めた各脚部2の延び方向の長さのばらつきとは、脚部2の延び方向の長さに、ヨーク部3の内周面31から背面32までヨーク部3の厚みを加えた長さを指す。この長さのばらつきは、下記式(1)から求める。
【0026】
(数式1)
長さのばらつき=(1-(最も短い脚部の長さ)/(最も長い脚部の長さ))×100・・(1)
【0027】
中脚21、外脚22a、22b及びヨーク部3の高さ方向(脚部2の延び方向と直交し、かつ、脚部2の横並び方向と直交する方向)の端面は同一平面になく、何れかの部材の上に凹み部4が形成されている。本実施形態では、中脚21の上面に凹み部4が形成されている。この凹み部4は、中脚21の上面全域に形成されている。換言すれば、中脚21の延び先端面23に向かう延び方向に対してアンダーカットにならない形状である。即ち、中脚21は、外脚22a、22bよりも高さ方向の長さが短い。具体的には、外脚22a、22bの高さ方向の長さはヨーク部3の高さ方向の長さと略同一であるが、中脚21の高さ方向の長さはヨーク部3の高さ方向の長さより短い。中脚21は、高さ方向のヨーク部3の一方端部には接しているが他方端部には接していない。なお、脚部2の並び方向(Y方向)の長さは、中脚21の方が外脚22a、22bよりも長い。
【0028】
中脚21及び外脚22a、22bの延び先端面23と、ヨーク部3の内周面31及び背面32は、プレス面である。一方、中脚21及び外脚22a、22bのプレス方向と平行となる側面と、ヨーク部31のプレス方向と平行となる側面が摺動面となる。プレス面は、後述する上パンチ7又は下パンチ8で押圧された面であり、摺動面は、プレス成形の際に、上パンチ7又は下パンチ8が摺動した痕が残る面である。
【0029】
(製造方法)
次に、本実施形態に係る圧粉成形体1又は圧粉磁心の製造方法について説明する。圧粉成形体1の製造方法は、プレス工程を含む。圧粉磁心の製造方法は、プレス工程によって作製された圧粉成形体1を熱処理する焼鈍工程を含む。プレス工程は、軟磁性粉末を金型5に充填し、軟磁性粉末を押圧して圧粉成形体1を作製する工程である。
【0030】
ここで、金型5の構造について図面を参照しつつ説明する。
図2は、金型5の主要構成を示す斜視図である。なお、説明の都合上、ダイ6は透明化してある。金型5は、ダイ6、上パンチ7及び下パンチ8を有する。ダイ6の中に挿入された上パンチ7及び下パンチ8が、互いに軟磁性粉末を押し合うことで軟磁性粉末を押し固め、軟磁性粉末が圧粉成形体1として成形される。上パンチ7及び下パンチ8は、脚部2の延び方向(X方向)に沿って可動する。
【0031】
ダイ6は、円柱状の部材であり、円の中心部分にはヨーク部3の背面32と概略同形同大の開口が設けられている。開口は、プレス方向と直交する一方端面から他方端面まで延びており、貫通した孔となっている。この開口から軟磁性粉末をダイ6の内部に充填し、上パンチ7及び下パンチ8によって軟磁性粉末をプレスして、圧粉成形体1が成形される。
【0032】
図3は、上パンチ7の斜視図である。上パンチ7は、ヨーク部3の背面32をプレスする部材である。即ち、上パンチ7は、背面32をプレスするプレス面71を有する。プレス面71は、平坦面である。プレス面71は、ヨーク部3の背面32と概略同形同大である。
【0033】
図4は、下パンチ8の斜視図である。
図5は、下パンチ8の分解斜視図である。下パンチ8は、脚部2の延び先端面23及びヨーク部3の内周面31をプレスする部材である。下パンチ8は、延び先端面23をプレスする延び先端面パンチ81と、内周面31をプレスする内周面パンチ82に分割される。
【0034】
延び先端面パンチ81は、中脚21の延び先端面23をプレスする押圧部材811と、外脚22a、22bの延び先端面23をプレスする一対の押圧部材812とを有する。押圧部材811は、長板形状を有し、中脚21の延び先端面23をプレスするプレス面811aを有する。プレス面811aは、中脚21の延び先端面23と概略同形同大であり、平坦面である。
【0035】
一対の押圧部材812は、押圧部材811を挟んで対向に配置される。押圧部材812は、長板形状を有し、外脚22a、22bの延び先端面23をプレスするプレス面812aを有する。プレス面812aは、外脚22a、22bの延び先端面23と概略同形同大であり、平坦面である。押圧部材811のプレス面811aと押圧部材812のプレス面812aは、同一平面上に配置される。なお、プレス方向と直交し、かつ、押圧部材の並び方向と直交する方向の長さは、押圧部材811の方が押圧部材812よりも短い。
【0036】
延び先端面パンチ81は、根元部813を更に有する。根元部813は、円形の板状の部材である。根元部813は、プレス面811a、812aとは反対側の押圧部材811、812の端部と接続している。即ち、押圧部材811、812は、根元部813によって一体化されている。つまり、押圧部材811、812は、個別に動かず、一体可動となっている。根元部813は、内周面パンチ82が挿入される概略U字型の開口814が設けられている。
【0037】
内周面パンチ82は、プレス方向から見ると、概略U字型の部材である。即ち、内周面パンチ82は、対向に配置される一対の直線部と、一対の直線部を繋ぐ連結部から成る。内周面パンチ82は、ヨーク部3の内周面31をプレスするプレス面82aを有する。プレス面82aは、概略U字型形状の平坦面である。
【0038】
内周面パンチ82は、根元部813の開口814から延び先端面パンチ81に挿入される。内周面パンチ82は、プレス面811a及びプレス面812aよりもプレス面82aが突出するように挿入される。この突出長さが脚部2の延び方向の長さになる。また、プレス面パンチ82の連結部は、一対の押圧部材812の間に配置される。この連結部によって、中脚21の上面に凹み部4が形成される。内周面パンチ82は、延び先端面パンチ81とは独立して摺動する。
【0039】
このような金型5においてプレス工程を行う。まず下パンチ8(延び先端面パンチ81及び内周面パンチ82)をダイ6の一方端面の開口から挿入し、他方端面の開口から軟磁性粉末をダイ6内に充填し、当該開口から上パンチ7を挿入する。そして、上パンチ7及び下パンチ8(延び先端面パンチ81及び内周面パンチ82)によって加圧する。この時の成形圧力は、10~20ton/cm2である。このようにして圧粉成形体1が作製される。脚部2とヨーク部3の内周面31の境界部分が金型の分割面となる。
【0040】
焼鈍工程は、プレス工程を経て作製された圧粉成形体1を熱処理する工程である。焼鈍工程では、窒素ガス中、窒素と水素の混合ガス、酸素濃度が0.01%等の低酸素雰囲気等の非酸化雰囲気中又は大気中において、600℃以上900℃以下の温度で熱処理を行う。この焼鈍工程を経ることで圧粉磁心が作製される。焼鈍工程を経ることで、圧粉成形体1に含まれる歪み及び残留応力を除去する。また、軟磁性粉末の表面に絶縁樹脂による絶縁層を形成させる場合や軟磁性粉末間を決着させる樹脂から成るバインダを添加している場合、焼鈍工程を経ることで、絶縁樹脂やバインダに含まれる有機成分が熱分解される。即ち、焼鈍工程を経る前に絶縁樹脂やバインダに含まれていた有機溶媒は、焼鈍工程後には含まれていない状態になる。
【0041】
なお、焼鈍工程の後、脚部2の延び先端面23を研磨する研磨工程を経てもよい。研磨工程は、やすりなどで作業者が手作業で研磨してもよいし、研磨機を用いて研磨してもよい。研磨工程を経ることで各脚部2の延び方向の長さを同一になる。なお、上述した各脚部2の延び方向の長さのばらつきを0.57%以下にするというのは、研磨工程を経る前の段階のものである。
【0042】
また、プレス工程を行う前に、軟磁性粉末を熱処理する粉末熱処理工程や軟磁性粉末の表面に絶縁層を形成させる絶縁層形成工程を経てもよい。
【0043】
粉末熱処理工程では、窒素ガス中、窒素と水素の混合ガス、酸素濃度が0.01%等の低酸素雰囲気等の非酸化雰囲気中又は大気中において1~6時間加熱する。熱処理温度としては、450℃以上900℃以下である。
【0044】
絶縁層形成工程は、軟磁性粉末に絶縁樹脂を添加・混合し、乾燥させることで軟磁性粉末の表面に絶縁層を形成させる。軟磁性粉末の各粒子を被覆する絶縁層は、粒子全表面を覆うように付着していてもよいし、粒子の一部の表面を覆うように付着していてもよいし、これらの両方の態様が混在していてもよい。また、この絶縁層は、軟磁性粉末の各粒子に付着していてもよいし、粒子の凝集体の表面に付着していてもよいし、これらの両方の態様が混在していてもよい。粒子や凝集体の一部表面を覆うとき、絶縁層は、点状に分散して付着していてもよいし、塊状に分散して付着していてもよいし、これらの態様が混在していてもよい。
【0045】
絶縁樹脂としては、シランカップリング剤、シリコーンオリゴマー若しくはシリコーンレジン、又はこれら2種以上の混合物が含まれる。複数種の絶縁樹脂を用いる場合、その複数種の絶縁樹脂により成る絶縁層は、種類ごとに各層に分かれていてもよいし、各種類が混合された単層であってもよい。
【0046】
また、プレス工程を経る前に潤滑剤を添加してもよい。潤滑剤の添加は、金型5に充填する前に軟磁性粉末に添加・混合してもよいし、ダイ6の開口からダイ6の内周面に塗布してもよい。潤滑剤は、軟磁性粉末の表面又は軟磁性粉末を被覆した絶縁層の表面を被覆する。潤滑剤としては、これに限定されないが、例えば、ステアリン酸及びその金属塩並びにエチレンビスステアルアミド、エチレンビスステアロアマイド、エチレンビスステアレートアミドなどが挙げられる。潤滑剤の添加量は、軟磁性粉末に対して、0.2wt%~0.8wt%程度であることが好ましい。この範囲にすることで、軟磁性粉末間の滑りを向上させることができる。
【0047】
(効果)
以上のとおり、本実施形態の圧粉成形体1は、脚部2の延び方向と直交し、かつ、脚部の横並び方向と直交する各部材21、22a、22b、23の端面は同一平面になく、中脚21の上に凹み部4が形成されている。そのため、E字型に見える向きをプレス方向とすると、中脚21を押圧し難く、密度差により圧粉成形体1にクラックが生じる虞がある。
【0048】
そこで、本実施形態では、プレス方向を脚部2の延び方向にして、上パンチ7でヨーク部3の背面32を押圧し、延び先端面パンチ81で中脚21及び外脚22a、22bの延び先端面23を押圧し、内周面パンチ82でヨーク部3の内周面31を押圧した。そして、複数設けた脚部21の長さのばらつきが0.57%以下になるようにした。これにより、各脚部2及びヨーク部3の密度差を抑制でき、凹み部4が形成された複雑形状の圧粉成形体1であってもクラックの発生を防止することができる。また、この圧粉成形体1を焼鈍して成る圧粉磁心も密度差が抑制できるので、圧粉成形体1同様、複雑な形状の圧粉磁心であっても、クラックの発生を防止することができる。
【0049】
また、圧粉磁心を環形状のコアとして用いる場合、2つの圧粉磁心の延び先端面23を接合することで環形状を形成する。延び先端面23は摺動面になると、パンチが摺動した際に延び先端面23が削れ、予期しないギャップが生じ、また、絶縁層を破損して絶縁破壊を起こすなど磁気特性が低下する虞がある。しかし、本実施形態では、接合面となる延び先端面23はプレス面となるため、磁気特性の低下を防止できる。
【0050】
延び先端面パンチ81は、中脚21及び外脚22a、22bの延び先端面23をプレスする複数の押圧部材811、812を有し、押圧部材811、812は、根元部813と接続し、一体に構成されている。そのため、中脚21及び外脚22a、22bにかかる押圧力を均一にすることができ、各押圧部材811、812が個別に可動して押圧する場合に比べて、脚部2の長さばらつきを抑制でき、より密度差のない圧粉成形体1又は圧粉磁心を作製することができる。
【0051】
また、焼鈍工程を経た後、延び先端面23を研磨する研磨工程を含めてもよい。上述のとおり、2つの圧粉磁心を延び先端面23を接合することで、環形状のコアを形成する。脚部2の長さが異なると、長さが短い脚部2の間にわずかに隙間が生じてしまい、磁気特性が低下する虞がある。そのため、延び先端面23を研磨して各脚部2の長さを同一にすることで、磁気特性の低下を防止することができる。
【0052】
(実施例)
次に、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。実施例1~5及び比較例1~5の圧粉成形体を以下のとおり作製した。なお、実施例1~5及び比較例1~5は、脚部2の延び方向の長さのばらつきが異なるのみで、作製方法は同一である。
【0053】
まず、軟磁性粉末としてFe-Si合金を用意した。この軟磁性粉末に対し、絶縁樹脂としてシリコーンレジンを2.2wt%添加・混合し、大気雰囲気で2時間乾燥させた。
【0054】
凝集を解消する目的で軟磁性粉末を目開き500μmの篩に通し、潤滑剤(ステアリン酸系)を0.5wt%添加した。潤滑剤を添加した軟磁性粉末を金型5に充填し、上パンチ7及び下パンチ8(延び先端パンチ81及び内周面パンチ82)によって、10ton/cm
2でプレス形成し、
図1に示す概略E字型形状の圧粉成形体を作製した。このようにして下記表1に示すように、延び方向の長さのばらつきが異なる圧粉成形体を作製した。
【0055】
作製された圧粉成形体の中脚及び外脚の延び方向の長さを測定し、長さのばらつきを上記式(1)により算出した。下記表1に示す第1外脚が外脚22aを指し、第2外脚が外脚22bを指す(
図1参照)。また、中脚、外脚及びヨーク部の密度を測定した。密度は見掛け比重/体積であり、中脚、外脚、ヨーク部を切り出したサンプルをアルキメデス法により測定した。具体的には、下記のように測定した。
【0056】
(1)サンプルを110℃の恒温槽の中で乾燥させ、乾燥後室温まで冷却したときの質量(乾燥重量)を測定する。
(2)乾燥重量を測定後、サンプルを水中に沈め飽水させ、針金で水中に吊るしたままの状態の質量(水中重量)を測定する(針金などの治具の質量は除く)。
(3)下記式(2)にて計算した見掛け比重を計算する。
(数式2)
見掛け比重=乾燥重量/(乾燥重量-水中重量)・・・(2)
(4)見掛け比重とサンプルの体積から密度を計算する。
【0057】
さらに、測定された各部の密度のうち、最も低い密度値と最も高い密度値に基づいて下記式(3)によって密度差を算出した。なお、表1の外脚の密度は、2本の外脚の平均値である。
【0058】
(数式3)
密度差=(1-(最も低い密度値)/(最も高い密度値))×100・・・(3)
【0059】
測定結果及び算出結果を表1に示す。また、
図6は、脚部の長さばらつきと密度差の関係を示すグラフである。
【表1】
【0060】
表1や
図6に示すように、長さばらつきが大きくなるほど密度差が大きくなることが確認された。また、長さばらつきが0.61%となる比較例1は、外脚とヨーク部の密度差が大きくなり、外脚とヨーク部の接続部分にクラックが入り、最終的には破断した。一方で、長さばらつきが0.57%となる実施例1は、比較例1よりも密度差が0.5%以上小さくなり、外脚とヨーク部の接続部分にクラックは見受けられなかった。そのため、長さばらつきの上限値としては0.57%であることが確認された。
【0061】
また、実施例1~3を見ると、外脚の密度は何れも6.2(g/cm3)を超えている。そのため、実施例1~3の密度差は、実施例4の密度差よりも0.5%以上小さくなり、長さばらつきが0.44%以下にすると、より密度差を低減できることが確認された。
【0062】
(他の実施形態)
本明細書においては、本発明に係る実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図していない。上記のような実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0063】
上記実施形態では、中脚21の上部に凹み部4が設けられていたが、これに限定されず、脚部2の延び方向と直交し、かつ、複数設けられた脚部2の並び方向と直交する方向の端面に凹み部4が設けられていればよい。例えば、高さ方向の長さは、中脚21の方が長く、外脚22a、22bの方が短く、外脚22a、22bの各上部に凹み部4が形成されていてもよい。
【0064】
また、複数の脚部2の全ての上部に凹み部4が設けられていてもよい。即ち、高さ方向の長さは、ヨーク部3が最も高く、何れの脚部2もヨーク部より低くてもよい。
【0065】
上記実施形態では、圧粉成形体1及び圧粉磁心はE字型形状であったが、複数の脚部2を備えていればよく、U字型形状であってもよい。
【符号の説明】
【0066】
1 圧粉成形体
2 脚部
21 中脚
22a、22b 外脚
23 延び先端面
3 ヨーク部
31 内周面
32 背面
4 凹み部
5 金型
6 ダイ
7 上パンチ
71 プレス面
8 下パンチ
81 延び先端面パンチ
811 押圧部材
811a プレス面
812 押圧部材
812a プレス面
813 根元部
814 開口
82 内周面パンチ
82a プレス面
100 圧粉成形体