(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】改修工法
(51)【国際特許分類】
B60M 1/28 20060101AFI20241108BHJP
H02G 1/02 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
B60M1/28 N
H02G1/02
(21)【出願番号】P 2022099316
(22)【出願日】2022-06-21
【審査請求日】2024-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】591048830
【氏名又は名称】日本電設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139114
【氏名又は名称】田中 貞嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100139103
【氏名又は名称】小山 卓志
(74)【代理人】
【識別番号】100214260
【氏名又は名称】相羽 昌孝
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 正幸
(72)【発明者】
【氏名】武田 宏樹
【審査官】加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】特公昭33-9502(JP,B1)
【文献】特開2015-56914(JP,A)
【文献】特開平2-250613(JP,A)
【文献】米国特許第6193215(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60M 1/28
H02G 1/00-1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビームを含み、所定間隔に複数設けられる構造物によって、ビームの上方側に配されている電線を、ビームの下方側に配するように改修する改修工法であって、
第1群の構造物のビームの上方側に配されている第1電線と、
前記第1電線と連続し、第2群の構造物のビームの上方側に配されている第2電線との間を切断する切断工程と、
前記切断工程の後、前記第1電線を、前記第2群の構造物のビームの下方側に配し、前記第2電線を、前記第1群の構造物のビームの下方側に配するように移設する移設工程と、
前記移設工程の後、前記第1電線と前記第2電線とを接続する接続工程と、有することを特徴とする改修工法。
【請求項2】
前記第1電線と前記第2電線の長さが等しいことを特徴とする請求項1に記載の改修工法。
【請求項3】
前記移設工程は、前記第1電線及び前記第2電線に張力が加えられた状態で実施されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の改修工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、き電線、ちょう架線、トロリー線等の電線をちょう架する構造物からなる電車用設備の改修工法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、部品点数の低減やメンテナンス性の向上のために、既設の電車用設備の改修が行われている。既設の電車用設備の一例と、従来の改修工法について、
図7乃至
図10を参照して説明する。
図7は既設の電車用設備の一例を電車(不図示)の進行方向から見た模式図である。
【0003】
また、
図8は既設の電車用設備の一例を電車(不図示)の進行方向側面側から見た模式図である。なお、
図8においては、進行方向側面側からは、ビーム3、き電線5、ちょう架線6、トロリー線7等の一部は電柱2、2’に隠れて、本来は視認することはできないが、本発明に係る改修工法においては、ビーム3の位置と上前記のような電線の位置関係が重要であるので、ビーム3、き電線5、ちょう架線6、トロリー線7を可視化して図示している。
【0004】
図7及び
図8に示すように、既設の電車用設備においては、き電線5、ちょう架線6、トロリー線7は、主として電柱2、2’とこれらの電柱2、2’間に渡されているビーム3とからなる構造物1によってちょう架されている。き電線5は碍子4を介して、ビーム3の上方側に配された状態でちょう架されており、ちょう架線6、トロリー線7は碍子4を介して、ビーム3の下方側に配された状態でちょう架されている。
【0005】
上記のような既設の電車用設備を改修した、新設される電車用設備においては、き電線5はビーム3の下方側に配された状態でちょう架されるレイアウトが採用されている。従来の改修方法について説明する。
【0006】
図9は従来の既設電車用設備の改修方法の工程を示す図である。なお、以下、本明細書に添付した図面においては、煩雑さを避けるために、電線としてき電線5のみを示し、ちょう架線6、トロリー線7については図示省略する。また、複数の構造物1の間の区別を図るために、P
nなどの表記を行うこととする。また、改修方法を実施する工程では、適宜シメラーや滑車といった工具を用いるが、これら工具類についても図示を省略する。
【0007】
電車用設備の改修においては、終電後から始発前までの短時間の工事しか行えないため、限られた区間の工事のみを行うこととなる。以下、本例では、P2~P6の間にちょう架されているき電線5を、ビーム3の上方側から、ビーム3の下方側に配設する例に基づいて説明する。
【0008】
図9に示す工程においては、まず新設するき電線8を、P
2~P
6の間の構造物1のビーム3の下方側にちょう架する工事を実施する。続く、
図10に示す工程では、P
2~P
6の間の既設のき電線5の撤去を行うと共に、新設のき電線8と、既設のき電線5との間を、X、Yの2箇所で電気接続する工事を実施する。
【0009】
基本的に以上に示すような工程を区間毎に実施することで、き電線をビーム3の下方側に配することが可能となる。ところで、
図9の工程を実施している間には、既設のき電線5の荷重に加え、新設のき電線8の荷重が、P
2~P
6の間の構造物1にかかることとなる。構造物1の耐荷重は、新設のき電線8の荷重が加えられた状態では裕度がなくなるケースが考えられ、
図9に示す工程で新設のき電線8をちょう架するためだけに、構造物1の補強を行ったり、或いは、場合によっては構造物1の建て替えをしたりする必要があった。例えば、特許文献1(特開2021-932号公報)には、鉄道軌道の左右に立設された2本の電柱と、前記2本の電柱のうち一方の電柱の上部と他方の電柱の上部との間に横架されたビームと、を備えた門型装柱を補強する技術についての記載がある。
【文献】特開2021-932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、構造物1の補強を行ったり、構造物1の建て替えをしたりする場合、コストや工期がかかるため、従来の改修方法を実施するためには、多大な費用が発生してしまう、という課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような課題を解決するために、本発明に係る改修工法は、ビームを含み、所定間隔に複数設けられる構造物によって、ビームの上方側に配されている電線を、ビームの下方側に配するように改修する改修工法であって、第1群の構造物のビームの上方側に配されている第1電線と、前記第1電線と連続し、第2群の構造物のビームの上方側に配されている第2電線との間を切断する切断工程と、前記切断工程の後、前記第1電線を、前記第2群の構造物のビームの下方側に配し、前記第2電線を、前記第1群の構造物のビームの下方側に配するように移設する移設工程と、前記移設工程の後、前記第1電線と前記第2電線とを接続する接続工程と、有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る改修工法は、前記第1電線と前記第2電線の長さが等しいことを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る改修工法は、前記移設工程は、前記第1電線及び前記第2電線に張力が加えられた状態で実施されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る改修工法は、第1群の構造物のビームの上方側に配されている第1電線と、前記第1電線と連続し、第2群の構造物のビームの上方側に配されている第2電線との間を切断する切断工程と、前記切断工程の後、前記第1電線を、前記第2群の構造物のビームの下方側に配し、前記第2電線を、前記第1群の構造物のビームの下方側に配するように移設する移設工程と、前記移設工程の後、前記第1電線と前記第2電線とを接続する接続工程と、有するものであり、このような本発明に係る改修工法によれば、構造物1の補強を行ったり、構造物1の建て替えをしたりする必要がなく、改修方法のための費用を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る既設電車用設備の改修方法の工程を示す図である。
【
図2】本発明に係る既設電車用設備の改修方法の工程を示す図である。
【
図3】本発明に係る既設電車用設備の改修方法の工程を示す図である。
【
図4】本発明に係る既設電車用設備の改修方法の工程を示す図である。
【
図5】本発明に係る既設電車用設備の改修方法の工程を示す図である。
【
図6】本発明に係る既設電車用設備の改修方法の工程を示す図である。
【
図7】既設の電車用設備の一例を電車(不図示)の進行方向から見た模式図である。
【
図8】は既設の電車用設備の一例を電車(不図示)の進行方向側面側から見た模式図である。
【
図9】従来の既設電車用設備の改修方法の工程を示す図である。
【
図10】従来の既設電車用設備の改修方法の工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。以下の本実施形態においても、P2~P6の間の構造物1にちょう架されているき電線5を、ビーム3の上方側から、ビーム3の下方側に配設する例に基づいて説明する。また、本実施形態の図法についても、これまで説明したものと同様とする。なお、き電線5は一条のものに基づいて説明するが、き電線5が2条以上のものであっても本発明は適用し得る。また、以下、隣り合う構造物1同士の間隔が同じである場合を例に説明を行うが、本発明に係る改修方法が対象とすることが可能な電車用設備がこのような場合に限定されるものではない。
【0017】
P
2~P
4の間の構造物1にちょう架されているき電線5は、特許請求の範囲では「第1電線」(
図2のF1)と表現され、P
4~P
6の間の構造物1にちょう架されているき電線5は、特許請求の範囲では「第2電線」(
図2のF2)と表現されるものである。また、P
2~P
4の構造物1は、特許請求の範囲では「第1群の構造物」と表現され、P
4~P
6の構造物1は、特許請求の範囲では「第2群の構造物」と表現されるものである。
【0018】
本発明のポイントは、F1で示す「第1電線」を、P4~P6の構造物1(「第2群の構造物」)のビーム3の下方側に移動させ、F2で示す「第2電線」を、P2~P4の構造物1(「第1群の構造物」)のビーム3の下方側に移動させることにある。
【0019】
以下、本発明に係る改修方法を、順を追って説明する。
【0020】
図1示す工程においては、P
1~P
7の構造物1のビーム3の下方側に巻き取りロープ30をちょう架する。本実施形態では巻き取りロープ30は破線で示すこととする。ロープの重さは、き電線などの電線に比較して軽微であり、これが構造物1の耐荷重性に影響を与えることはない。
【0021】
続く
図2に示す工程においては、き電線5については、A(P
2の構造物1の箇所)、B(P
4の構造物1の箇所)、C(P
6の構造物1の箇所)の三箇所で切断し、巻き取りロープ30については、E(P
4の構造物1の箇所)の一箇所で切断する。
【0022】
図示するように、き電線5をAの箇所での切断した端部をa,a’で表し、き電線5をBの箇所での切断した端部をb,b’で表し、き電線5をCの箇所での切断した端部をc,c’で表すこととする。また、巻き取りロープ30をEの箇所での切断した端部をe,e’で表すこととする。また、巻き取りロープ30右端をdで表し、左端をfで表すこととする。
【0023】
F1として切り出されたa’―b間のき電線5と、F2として切り出されたb’―c間のき電線5とは長さが等しく設定されることが好ましい。
【0024】
図3に示す工程においては、それぞれロープ等の巻き取り、送り出しを行い得るドラムが搭載されている車両が導入される。ここで、本実施形態では、ドラムが搭載されている車両が導入される場合を例に説明を行うが、このような車両を用いることは必須ではなく、ドラム単体を用いることもできる。図示するように、本実施形態では、第1巻き取り車両11、第1ドラム車両12、第2巻き取り車両21、第2ドラム車両21の4台の車両が導入される。
【0025】
第1巻き取り車両11及び第2巻き取り車両21は、巻き取りロープ30を巻き取ることが想定されている車両である。一方、第1ドラム車両12は、第1送り出しロープ31を送り出し、第2ドラム車両22は、第2送り出しロープ32を送り出すことが想定されている車両である。以下、本実施形態では第1送り出しロープ31は一点鎖線で示し、また、第2送り出しロープ32は二点鎖線で示すこととする。
【0026】
図3において、F1として切り出されたき電線5については、第1ドラム車両12から送り出された第1送り出しロープ31と端部a’で接続される。また、F1として切り出されたき電線5の端部bは、巻き取りロープ30の端部e’と接続される。また、巻き取りロープ30の端部fは、第2巻き取り車両21に巻回されている巻き取りロープの端部と接続される。
【0027】
F2として切り出されたき電線5については、第2ドラム車両22から送り出された第2送り出しロープ32と端部cで接続される。また、F2として切り出されたき電線5の端部b’は、巻き取りロープ30の端部eと接続される。また、巻き取りロープ30の端部dは、第1巻き取り車両11に巻回されている巻き取りロープの端部と接続される。
【0028】
なお、き電線5の端部aはP2の構造物1に、また、き電線5の端部c’はP6の構造物1に、引き留められた状態が維持される。
【0029】
以上のような接続が実施された後、
図4に示す工程(図中白色矢印参照)で、第1ドラム車両12によって第1送り出しロープ31を送り出しつつ、第2巻き取り車両21で巻き取りロープ30を巻き取ることで、F1として切り出されたき電線1は、
図5に示すようにP
4~P
6の構造物1のビーム3の下方側に配された状態に移設される。
【0030】
また、
図4に示す工程(図中白色矢印参照)で、第2ドラム車両22によって第2送り出しロープ32を送り出しつつ、第1巻き取り車両11で巻き取りロープ30を巻き取ることで、F2として切り出されたき電線1は、
図5に示すようにP
2~P
4の構造物1のビーム3の下方側に配された状態に移設される。
【0031】
本発明の上記のような移設工程では、F1として切り出されたき電線1及びF2として切り出されたき電線1に、各巻き取りロープ及び送り出しロープによって、張力が加えられた状態で各き電線1の移設が行われる。
【0032】
以上のような工程によれば、F1として切り出されたき電線5は、P4~P6の構造物1(「第2群の構造物」)のビーム3の下方側に移動させられ、F2として切り出されたき電線5を、P2~P4の構造物1(「第1群の構造物」)のビーム3の下方側に移動させられることとなる。
【0033】
図6に示す工程では、巻き取りロープ30、第1送り出しロープ31、第2送り出しロープ32を撤去し、各車両を撤収させる。また、本工程では、F1として切り出されたき電線5の端部a’と、F2として切り出されたき電線5の端部cとを接続する。
【0034】
F1として切り出されたき電線5の端部bと、き電線5の端部c’とをXに示すように電気接続し、F2として切り出されたき電線5の端部b’と、き電線5の端部aとをYに示すように電気接続する。
【0035】
以上のように本発明に係る改修工法は、第1群の構造物のビームの上方側に配されている第1電線と、前記第1電線と連続し、第2群の構造物のビームの上方側に配されている第2電線との間を切断する切断工程と、前記切断工程の後、前記第1電線を、前記第2群の構造物のビームの下方側に配し、前記第2電線を、前記第1群の構造物のビームの下方側に配するように移設する移設工程と、前記移設工程の後、前記第1電線と前記第2電線とを接続する接続工程と、有するものであり、このような本発明に係る改修工法によれば、構造物1の補強を行ったり、構造物1の建て替えをしたりする必要がなく、改修方法のための費用を抑制することが可能となる。
【符号の説明】
【0036】
1・・・構造物
2、2’ ・・・電柱
3・・・ビーム
4・・・碍子
5・・・き電線(電線)
6・・・ちょう架線
7・・・トロリー線
8・・・新設き電線(電線)
11・・・第1巻き取り車両
12・・・第1ドラム車両
21・・・第2巻き取り車両
22・・・第2ドラム車両
30・・・巻き取りロープ
31・・・第1送り出しロープ
32・・・第2送り出しロープ