IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アマダの特許一覧

<>
  • 特許-レーザ切断方法 図1
  • 特許-レーザ切断方法 図2
  • 特許-レーザ切断方法 図3A
  • 特許-レーザ切断方法 図3B
  • 特許-レーザ切断方法 図4
  • 特許-レーザ切断方法 図5
  • 特許-レーザ切断方法 図6
  • 特許-レーザ切断方法 図7
  • 特許-レーザ切断方法 図8
  • 特許-レーザ切断方法 図9A
  • 特許-レーザ切断方法 図9B
  • 特許-レーザ切断方法 図10
  • 特許-レーザ切断方法 図11
  • 特許-レーザ切断方法 図12
  • 特許-レーザ切断方法 図13
  • 特許-レーザ切断方法 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】レーザ切断方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/38 20140101AFI20241108BHJP
   B23K 26/08 20140101ALI20241108BHJP
【FI】
B23K26/38 A
B23K26/08 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022126411
(22)【出願日】2022-08-08
(65)【公開番号】P2024022949
(43)【公開日】2024-02-21
【審査請求日】2023-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】390014672
【氏名又は名称】株式会社アマダ
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】高野 寛史
(72)【発明者】
【氏名】野村 拓史
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 颯乃花
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-069482(JP,A)
【文献】国際公開第2020/059533(WO,A1)
【文献】特開昭63-058506(JP,A)
【文献】特開2016-068144(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/38
B23K 26/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板金より切り出されるパーツの外周または内周の複数の箇所において、前記パーツの端部から前記パーツの外側に第1の距離だけ離隔した第1の点から、前記端部から前記パーツの外側に前記第1の距離より短い第2の距離だけ離隔し、かつ前記端部に沿った方向に第3の距離だけ離隔した第2の点まで、前記板金をレーザビームによって切断することにより、前記第1の点から前記第2の点に向かうに従って前記端部に近付く、前記端部に対して傾斜する一直線状の第1のスリットを形成し、
前記第2の点から前記端部に向かい、前記外周または前記内周を切断するときの切断溝が形成される切断溝形成領域に到達するよう、前記板金をレーザビームによって切断して第2のスリットを形成し、
前記切断溝形成領域に前記切断溝を形成するよう、前記端部に沿って前記板金をレーザビームによって切断する
レーザ切断方法。
【請求項2】
前記第2のスリットを形成するときのビームスポットの先端を前記切断溝形成領域内に位置させる請求項1に記載のレーザ切断方法。
【請求項3】
前記第1のスリット、前記第2のスリット、及び前記切断溝で囲まれた領域が押圧片を形成し、
前記切断溝が形成されると、前記押圧片の自由端が前記端部側に湾曲して前記パーツを押圧し、かつ、前記パーツに溶着される
請求項2に記載のレーザ切断方法。
【請求項4】
板金より切り出されるパーツの外周または内周の複数の箇所において、前記パーツの端部から前記パーツの外側に第1の距離だけ離隔した第1の点から、前記端部から前記パーツの外側に前記第1の距離より短い第2の距離だけ離隔し、かつ前記端部に沿った方向に第3の距離だけ離隔した第2の点まで、前記板金をレーザビームによって切断して第1のスリットを形成し、
前記第2の点から前記端部に向かい、前記外周または前記内周を切断するときの切断溝が形成される切断溝形成領域に到達するよう、前記板金をレーザビームによって切断して第2のスリットを形成し、
前記切断溝形成領域に前記切断溝を形成するよう、前記端部に沿って前記板金をレーザビームによって切断し、
前記第2のスリットを形成するときのビームスポットの先端を前記切断溝形成領域内に位置させ、
前記第1のスリット、前記第2のスリット、及び前記切断溝で囲まれた領域によって押圧片を形成し、
前記切断溝が形成されると、前記押圧片の自由端が前記端部側に湾曲して前記パーツを押圧し、かつ、前記パーツに溶着される
レーザ切断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板金をレーザビームによって切断するレーザ切断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工機によって板金を切断してパーツを作製するときに、パーツが板金より離れて落下しないように、パーツの外周の複数の箇所においてわずかな距離だけ未切断としたジョイントを形成することがある。このようなジョイントによって板金と連結した状態のパーツよりパーツを取り外すには工具によってジョイントを切断しなければならず、またパーツの外周にジョイントを切断した跡が残りやすい。
【0003】
特許文献1及び2には、上記のジョイントが有する問題点を解消する次のようなレーザ切断方法が記載されている。レーザ加工機は、板金より切り出すパーツの周囲の複数の箇所に、パーツの外周から所定の距離だけ離隔した外周に平行の第1のスリットと、第1のスリットの端部からパーツの外周に向かう第2のスリットとを含むL字状のスリットを形成し、次にパーツの外周を切断する。すると、L字状のスリットを形成することによる残留応力がパーツの外周を切断することによって解放され、L字状のスリットとパーツの外周を切断したスリットとで挟まれた矩形状の領域の自由端がパーツ側に湾曲してパーツを押圧する。即ち、パーツの周囲の複数の箇所の矩形状の領域はパーツを押圧する押圧片として作用して、パーツを板金に保持する。
【0004】
さらに、特許文献2には、第2のスリットとパーツの外周を切断することによって形成される切断溝とのオーバラップ量を調整することによって、押圧片の自由端をパーツに溶着させて、板金に対するパーツの保持力を大きくすることが記載されている。即ち、特許文献2に記載のパーツの周囲の複数の箇所の矩形状の領域は、パーツを押圧し、さらにパーツに溶着する押圧溶着片として作用して、パーツを板金に保持する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6524368号公報
【文献】特許第6638043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び2に記載のパーツの保持方法を用いると、パーツを板金より手作業または搬出装置による吸着によって取り外すことができる。ところが、パーツを板金より取り外すと、曲げモーメントは押圧片(または押圧溶着片)の板金と連結している根元部で最大となるため、押圧片は根元部から変形して、自由端側が起き上がってしまう。板金より複数のパーツを切断して取り外したスケルトンは、搬出のため複数枚が積み重ねられる。このとき、押圧片が起き上がっているため積み重ねることができるスケルトンの枚数をさほど多くすることができない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1またはそれ以上の実施形態の第1の態様は、板金より切り出されるパーツの外周または内周の複数の箇所において、前記パーツの端部から前記パーツの外側に第1の距離だけ離隔した第1の点から、前記端部から前記パーツの外側に前記第1の距離より短い第2の距離だけ離隔し、かつ前記端部に沿った方向に第3の距離だけ離隔した第2の点まで、前記板金をレーザビームによって切断することにより、前記第1の点から前記第2の点に向かうに従って前記端部に近付く、前記端部に対して傾斜する一直線状の第1のスリットを形成し、前記第2の点から前記端部に向かい、前記外周または前記内周を切断するときの切断溝が形成される切断溝形成領域に到達するよう、前記板金をレーザビームによって切断して第2のスリットを形成し、前記切断溝形成領域に前記切断溝を形成するよう、前記端部に沿って前記板金をレーザビームによって切断するレーザ切断方法を提供する。
1またはそれ以上の実施形態の第2の態様は、板金より切り出されるパーツの外周または内周の複数の箇所において、前記パーツの端部から前記パーツの外側に第1の距離だけ離隔した第1の点から、前記端部から前記パーツの外側に前記第1の距離より短い第2の距離だけ離隔し、かつ前記端部に沿った方向に第3の距離だけ離隔した第2の点まで、前記板金をレーザビームによって切断して第1のスリットを形成し、前記第2の点から前記端部に向かい、前記外周または前記内周を切断するときの切断溝が形成される切断溝形成領域に到達するよう、前記板金をレーザビームによって切断して第2のスリットを形成し、前記切断溝形成領域に前記切断溝を形成するよう、前記端部に沿って前記板金をレーザビームによって切断し、前記第2のスリットを形成するときのビームスポットの先端を前記切断溝形成領域内に位置させ、前記第1のスリット、前記第2のスリット、及び前記切断溝で囲まれた領域によって押圧片を形成し、前記切断溝が形成されると、前記押圧片の自由端が前記端部側に湾曲して前記パーツを押圧し、かつ、前記パーツに溶着されるレーザ切断方法を提供する。
【0008】
1またはそれ以上の実施形態の一態様によれば、第2の距離より第1の距離が長いため、パーツを板金より取り外したときに、第1のスリット、第2のスリット、切断溝で囲まれた領域である押圧片の自由端側が起き上がる高さが低くなる。また、押圧片がパーツの内側に回転する捩れが低減され、押圧片上にスケルトンが重なることがほぼなくなる。よって、板金よりパーツを取り外したスケルトンを積み重ねる枚数を多くすることが可能となる。
【発明の効果】
【0009】
1またはそれ以上の実施形態に係るレーザ切断方法によれば、板金よりパーツを取り外したときに押圧片が起き上がる高さを低くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は加工プログラム作成装置と、1またはそれ以上の実施形態に係るレーザ切断方法を実行するレーザ加工機とを示すブロック図である。
図2図2は、レーザ加工機の具体的な構成例を示す図である。
図3A図3Aは、1またはそれ以上の実施形態に係るレーザ切断方法によって板金より切り出されるパーツの外周端部に複数の押圧片形成スリットが形成された状態を示す部分平面図である。
図3B図3Bは、1またはそれ以上の実施形態に係るレーザ切断方法によって板金より切り出されるパーツの外周端部に複数の押圧片が形成された状態を示す部分平面図である。
図4図4は、図3Aに示す押圧片形成スリットの部分を拡大した部分拡大図である。
図5図5は、図3Bに示す押圧片がパーツを押圧している部分を拡大した部分拡大図である。
図6図6は、1またはそれ以上の実施形態に係るレーザ切断方法によって板金に形成される第2のスリットとパーツの周囲の切断溝形成領域との詳細な位置関係を示す図である。
図7図7は、アプローチ用スリットを省略した押圧片形成スリットの部分を拡大した部分拡大図である。
図8図8は、矩形状の押圧片を形成するための押圧片形成スリットの部分を拡大した部分拡大図である。
図9A図9Aは、周囲に先細形状の押圧片が形成されたパーツを板金より取り外したときの押圧片の自由端が起き上がる高さを示す部分斜視図である。
図9B図9Bは、周囲に矩形状の押圧片が形成されたパーツを板金より取り外したときの押圧片の自由端が起き上がる高さを示す部分斜視図である。
図10図10は、先細形状の押圧片と矩形状の押圧片とで根元部の幅を変化させたときの保持力の変化を示す特性図である。
図11図11は、押圧片形成スリットの第1の変形例を示す部分拡大図である。
図12図12は、押圧片形成スリットの第2の変形例を示す部分拡大図である。
図13図13は、パーツの円弧状の端部に先細形状の押圧片を形成した部分を拡大した部分拡大図である。
図14図14は、1またはそれ以上の実施形態に係るレーザ切断方法によって板金より切り出されるパーツの内周端部に複数の押圧片が形成された状態を示す部分平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1またはそれ以上の実施形態に係るレーザ切断方法は、板金より切り出されるパーツの外周または内周の複数の箇所において、前記パーツの端部から前記パーツの外側に第1の距離だけ離隔した第1の点から、前記端部から前記パーツの外側に前記第1の距離より短い第2の距離だけ離隔し、かつ前記端部に沿った方向に第3の距離だけ離隔した第2の点まで、前記板金をレーザビームによって切断して第1のスリットを形成する第1の工程を含む。
【0012】
1またはそれ以上の実施形態に係るレーザ切断方法は、第1の工程に続く、前記第2の点から前記端部に向かい、前記外周または前記内周を切断するときの切断溝が形成される切断溝形成領域に到達するよう、前記板金をレーザビームによって切断して第2のスリットを形成する第2の工程を含む。1またはそれ以上の実施形態に係るレーザ切断方法は、第2の工程に続く、前記切断溝形成領域に前記切断溝を形成するよう、前記端部に沿って前記板金をレーザビームによって切断する第3の工程を含む。
【0013】
以下、1またはそれ以上の実施形態に係るレーザ切断方法について、添付図面を参照して具体的に説明する。
【0014】
図1は、加工プログラム作成装置100と、1またはそれ以上の実施形態に係るレーザ切断方法を実行するレーザ加工機200とを示している。加工プログラム作成装置100は、レーザ加工機200によって板金を加工するための加工プログラムを作成する。加工プログラム作成装置100は、CAM(Computer Aided Manufacturing)プログラムを実行して加工プログラムを作成するコンピュータ機器によって構成することができる。レーザ加工機200は、NC(Numerical Control)装置201及び加工機本体202を備える。NC装置201は、加工プログラムに基づいて加工機本体202を制御する。
【0015】
加工プログラム作成装置100が作成した加工プログラムは図示していない加工プログラムデータベースに保存されて、NC装置201が加工プログラムデータベースより加工プログラムを読み出してもよい。
【0016】
図2は、レーザ加工機200の具体的な構成例を示している。図2において、レーザ加工機200は、図1では図示を省略しているレーザ発振器203及びアシストガス供給装置204を備える。レーザ発振器203はレーザビームを生成して射出する。典型的には、レーザ発振器203は、波長1060nm~1080nmのレーザビームを射出するファイバレーザ発振器である。
【0017】
加工機本体202は、加工対象の板金Wを載せる加工テーブル31、門型のX軸キャリッジ32、Y軸キャリッジ33と、Y軸キャリッジ33に固定されたコリメータユニット34及び加工ヘッド35、加工ヘッド35に取り付けられたノズル36を有する。
【0018】
レーザ発振器203より射出されたレーザビームは、プロセスファイバ205によってコリメータユニット34へと伝送される。コリメータユニット34はコリメートレンズを含み、発散光のレーザビームをコリメート光に変換する。加工ヘッド35は集束レンズを含み、集束レンズはコリメート光のレーザビームを集束させる。加工ヘッド35は、集束光のレーザビームをノズル36の先端に形成された円形の開口36aを介して板金Wに照射して、板金Wを切断する。
【0019】
X軸キャリッジ32は、加工テーブル31上でX軸方向に移動自在に構成されている。Y軸キャリッジ33は、X軸キャリッジ32上でX軸に垂直なY軸方向に移動自在に構成されている。X軸キャリッジ32及びY軸キャリッジ33は、加工ヘッド35を板金Wの面に沿って、X軸方向、Y軸方向、または、X軸とY軸との任意の合成方向に移動させる移動機構として機能する。X軸キャリッジ32及びY軸キャリッジ33が加工ヘッド35を板金Wの面に沿って移動させながら、加工ヘッド35がレーザビームを板金Wに照射することにより、板金Wより所定の形状のパーツを切り出すことができる。
【0020】
アシストガス供給装置204は、アシストガスとして窒素、酸素、窒素と酸素との混合気体、または空気を加工ヘッド35に供給する。板金Wの加工時に、アシストガスは開口36aより板金Wへと吹き付けられる。アシストガスは、板金Wの溶融金属を板金Wに形成された切断溝(スリット)より下方へと排出する。
【0021】
図3A図3B、及び図4を用いて、レーザ加工機200が板金Wを切断して正方形のパーツ10を作製する際に実行するレーザ切断方法を説明する。図3Aは、1またはそれ以上の実施形態に係るレーザ切断方法によって板金Wより切り出されるパーツ10の外周端部に後述する押圧片形成スリットSppが形成された状態を示す。図3Bは、1またはそれ以上の実施形態に係るレーザ切断方法によって板金Wより切り出されるパーツ10の外周端部に後述する押圧片11が形成された状態を示す。図4は、図3Aに示す押圧片形成スリットSppを拡大して示している。
【0022】
図3Aにおいて、レーザ加工機200は、パーツ10の周囲の例えば4か所に押圧片11が形成されるように、板金Wを次のように切断する。
【0023】
4に示すように、レーザ加工機200は、パーツ10の端部10eから端部10eと直交する方向に所定の距離Daだけ離隔した点P0にレーザビームを照射してピアスPs0を形成する。図3Aに示すパーツ10の端部10eはパーツ10の外周端部である。続けて、レーザ加工機200は、点P0から、端部10eから端部10eと直交する方向に距離Db(第1の距離)だけ離隔した点P1まで、端部10eに直交する方向にレーザビームを移動させて板金Wを切断する。これによって、ピアスPs0から点P1までのアプローチ用スリットSa0が形成される。距離Dbは距離Daより短い距離である。アプローチ用スリットSa0の長さ(アプローチ長さ)はALである。
【0024】
次に、レーザ加工機200は、点P1から、端部10eから端部10eと直交する方向に距離Dc(第2の距離)だけ離隔し、かつ端部10eに沿った方向に距離L(第3の距離)だけ離隔した点P2まで、レーザビームを移動させて板金Wを切断する。これによって、点P1から点P2までの第1のスリットS1が形成される。距離Dcは距離Dbより短い距離である。第1のスリットS1は、端部10eと平行ではなく、点P1から点P2に向かうに従って端部10eに近付くよう傾斜している。図3A及び図3Bに示す第1のスリットS1は、端部10eに対して傾斜する一直線状のスリットである。
【0025】
レーザ加工機200は、点P2から端部10eに向かって、端部10eに直交する方向にレーザビームを移動させて板金Wを切断する。これによって、点P2から端部10eの近傍までの第2のスリットS2が形成される。端部10eの近傍とは、パーツ10の外周を切断するときの切断溝が形成される領域(以下、切断溝形成領域)である。後述するように、レーザ加工機200は、第2のスリットS2の先端が切断溝形成領域に到達するよう板金Wを切断する。アプローチ用スリットSa0、第1のスリットS1、第2のスリットS2の全体を、押圧片11を形成するための押圧片形成スリットSppと称することとする。
【0026】
図3Bに示すように、レーザ加工機200は、パーツ10の端部10eから離隔した位置にレーザビームを照射してピアスPs10を形成する。続けて、レーザ加工機200は、ピアスPs10から端部10eに向かってレーザビームを移動させて板金Wを切断する。これによって、アプローチ用スリットSa10が形成される。さらに、レーザ加工機200は、矢印で示す方向に、端部10eに沿ってレーザビームを移動させてパーツ10の外周全体を切断する。これによって、パーツ10の外周にはパーツ10の全体を囲うスリットである切断溝S10が形成される。切断溝S10を形成するときの矢印で示す切断方向は、第1のスリットS1を形成するときの切断方向における端部10eと平行方向のベクトル成分と同じ方向である。
【0027】
なお、押圧片形成スリットSppを形成するときの加工条件と切断溝S10を形成するときの加工条件とは同じ加工条件でよい。即ち、レーザ加工機200は、押圧片形成スリットSppを形成するときと切断溝S10を形成するときとで、同じ加工条件を指定する加工条件番号(E番号)を用いて板金Wを切断すればよい。
【0028】
図5は、図3Bに示す押圧片11がパーツ10を押圧している部分を拡大して示している。図3Bに示すようにレーザ加工機200がパーツ10の外周に切断溝S10を形成すると、図5に示すように、第1のスリットS1、第2のスリットS2、及び切断溝S10で挟まれた領域は、根元部111が板金Wを連結した先細形状の押圧片11となる。押圧片11の根元部111の幅は距離Dbで決まり、先端側の自由端112の幅は距離Dcで決まる。パーツ10の外周に切断溝S10が形成されると、第1のスリットS1及び第2のスリットS2を形成することによって生じた残留応力が解放され、自由端112がパーツ10側に湾曲してパーツ10を押圧する。
【0029】
図3Bにおいては、互いに対向する2対の押圧片11がパーツ10を互いに向き合う方向にパーツ10を押圧して、パーツ10を板金Wに保持する。
【0030】
図6は、第2のスリットS2の先端と切断溝形成領域(切断溝S10)との詳細な位置関係を示している。レーザ加工機200がパーツ10の端部10eを切断するとき、レーザ加工機200は、ビームスポットBsの中心が、端部10eから外側にビームスポットBsの半径である工具径補正量Crだけずらした線10Cr上を移動するよう制御する。パーツ10の端部10eと端部10eから外側にビームスポットBsの直径dBsだけずらした線10dBsとで挟まれた領域が切断溝形成領域Rs10である。
【0031】
第2のスリットS2を形成するときのビームスポットBsの先端がパーツ10の端部10eに到達して、ビームスポットBsが切断溝形成領域Rs10の幅と完全に重なる状態をオーバラップ量100%とする。このときの第2のスリットS2の終点座標は線10Cr上に位置する。第2のスリットS2を形成するときのビームスポットBsの先端が線10Crに到達して、ビームスポットBsが切断溝形成領域Rs10の幅と半分だけ重なる状態をオーバラップ量50%とする。このときの第2のスリットS2の終点座標は線10dBs上に位置する。
【0032】
第2のスリットS2を形成するときのビームスポットBsの先端が線10dBsに到達して、ビームスポットBsが切断溝S10の幅と重ならない状態をオーバラップ量0%とする。このときの第2のスリットS2の終点座標は、線10dBsの手前側に、線10dBsからビームスポットBsの半径の距離だけずらした位置である。レーザ加工機200が、第2のスリットS2の先端が切断溝形成領域Rs10に到達するよう板金Wを切断するとは、第2のスリットS2を形成するときのビームスポットBsと切断溝形成領域Rs10とのオーバラップ量が0%以上、100%以下であることを意味する。
【0033】
押圧片11がパーツ10を押圧する作用のみを奏すればよいのであれば、第2のスリットS2と切断溝S10とのオーバラップ量は0%~100%のいずれのオーバラップ量でもよい。第2のスリットS2を形成するときのビームスポットBsの先端を切断溝形成領域Rs10内に位置させると、押圧片11の自由端112をパーツ10に溶着させることができ、板金Wに対するパーツ10の保持力を大きくすることができる。このとき、押圧片11は押圧溶着片として作用する。押圧片11の湾曲による押圧力に押圧片11の溶着による保持力を加えたパーツ10の保持力を最大とするために、オーバラップ量を100%とすることが好ましい。
【0034】
図7は、アプローチ用スリットSa0を省略した押圧片形成スリットSppを拡大して示している。図7に示すように、押圧片形成スリットSppは、アプローチ用スリットSa0を有さず、第1のスリットS1及び第2のスリットS2のみによって構成されていてもよい。レーザ加工機200は、パーツ10の端部10eから距離Dbだけ離隔した点P1にピアスPs1を形成し、点P1から点P2まで第1のスリットS1を形成する。ピアスPs1とパーツ10との距離が近いと、ピアスPs1を形成するときのスパッタがパーツ10に付着することがある。図4に示すように、パーツ10の端部10eから距離Daだけ離隔した点P0にピアスPs0を形成してアプローチ用スリットSa0を形成するのは、スパッタがパーツ10に付着しないようにするためである。
【0035】
先細形状の押圧片(押圧溶着片)11を形成するという目的を達成するには、アプローチ用スリットSa0を形成する必要はない。よって、レーザ加工機200は、板金Wを図7に示す押圧片形成スリットSppを形成してもよい。例えば、特許第6538911号公報に記載のスパッタを吹き飛ばす方向を制御する技術を採用すれば、アプローチ用スリットSa0を形成しなくても、スパッタがパーツ10に付着しないようにすることが可能である。
【0036】
図8は、特許文献1または2に記載の矩形状の押圧片11’を形成する押圧片形成スリットSpp’を拡大して示している。レーザ加工機200は、点P1’から点P2’まで端部10eと平行の第1のスリットS1’を形成する。レーザ加工機200は、点P2から端部10eの近傍に到達する第2のスリットS2’を形成する。図8においては、距離Daを図4における距離Daと同じとすれば、アプローチ長さはALより長いAL’であり、端部10eから点P1’までの距離は距離Dbより短い距離Db’であり、端部10eから点P2’までの距離は距離Dcより長い距離Dc’である。距離Dc’は距離Db’と同じである。
【0037】
図9Aは、図3Bに示すパーツ10を板金Wより取り外した状態を部分的に示している。板金Wよりパーツ10が取り外されて、開口10opが形成されている。図9Bは、比較のため、図8に示す矩形状の押圧片11’を形成したパーツを板金Wより取り外した状態を部分的に示している。板金Wよりパーツが取り外されて、開口10op’が形成されている。図9A図9Bとは、押圧片11または11’の長さである距離Lを同じとし、根元部111及び111’の幅のみを異ならせている。
【0038】
押圧片11及び11’は、それぞれ、根元部111及び111’から変形して自由端112及び112’側が起き上がる。根元部111の幅の広い押圧片11を用いると、根元部111の断面二次モーメントを増加させることができるので、押圧片11が起き上がる高さを抑えることができる。図9Aに示す押圧片11を用いたときの押圧片11が起き上がる高さをHa、図9Bに示す押圧片11’を用いたときの押圧片11’が起き上がる高さをHbとする。本発明者による検証によって、高さHaは高さHbよりも格段に低くなることが確認されている。また、図9Aに示す押圧片11を用いると、押圧片11がパーツの内側に回転する捩れが低減され、押圧片11上にスケルトンが重なることがほぼなくなる。
【0039】
よって、押圧片11を用いると、板金Wよりパーツ10を取り外した後のスケルトンを積み重ねて配置するときの枚数を、押圧片11’を用いる場合よりも多くすることができる。
【0040】
さらに、本発明者による検証によって、次のことが確認されている。距離Dcを距離Dc’より短くすると、押圧片11のパーツ10への溶着による保持力を大きくすることができる。距離Dbと距離Db’とが同じ距離であるとすれば、距離Dcが距離Dc’より短い押圧片11を用いる方が、保持力を大きくすることができる。
【0041】
図10は、先細形状の押圧片11と矩形状の押圧片11’とで、距離DbまたはDb’を変化させたときに、保持力がどのように変化するかを示している。板金Wを冷間圧延鋼板(SPCC:Steel Plate Cold Commercial)とし、板金Wの板厚を1.6mm、距離Dcを0.6mmとしている。ここでは、図3Bと同様に、正方形のパーツを対向する2対の押圧片11または11’で保持した状態で、パーツを取り外すのに要する力を保持力としている。図10より分かるように、距離Dbと距離Db’とが同じであれば、先細形状の押圧片11の方が矩形状の押圧片11’よりも保持力が大きい。
【0042】
また、目標とする保持力を15Nとすると、押圧片11’を用いた場合では距離Db’は2.25mmとなり、押圧片11を用いた場合では距離Dbは3.25mmとなる。同じ保持力を得るために、根元部111の幅を1mm広くすることができる。根元部111の幅が広くなれば、図9Aに示すように、押圧片11が起き上がる高さHaを低くすることができる。なお、目標とする保持力とは、板金Wの加工時に吹き付けられるアシストガスによって複数の押圧片11によるパーツ10の保持が外れない程度の力である。
【0043】
図11は押圧片形成スリットSppの第1の変形例を拡大して示しており、図12は押圧片形成スリットSppの第2の変形例を拡大して示している。第1の変形例において、押圧片形成スリットSppは、第1のスリットS1の代わりに、点P1から点P11までの端部10eと平行のスリットS11と、点P11から点P2までの傾斜したスリットS12とを含む。第2の変形例において、押圧片形成スリットSppは、第1のスリットS1の代わりに、点P1から点P11までの端部10eと平行のスリットS11と、点P11から点P12までの端部10eに向かうスリットS13と、点P12から点P2までの端部10eと平行のスリットS14とを含む。
【0044】
図示しないが、押圧片形成スリットSppは、第1のスリットS1の代わりに、点P1からの傾斜したスリットと、その傾斜したスリットに続く端部10eと平行のスリットとを含んでもよい。
【0045】
第1または第2の変形例でも、押圧片11のパーツ10への溶着による保持力を大きくすることができ、パーツ10を板金Wより取り外したときの押圧片11が起き上がる高さを抑えることができる。但し、パーツ10の端部10eに対して傾斜した一直線状の第1のスリットS1を用いる方が、板金Wの切断が簡略であるので好ましい。一直線状の第1のスリットS1を用いると、加工プログラムを簡略にでき、押圧片形成スリットSppの形成時間を短くすることができる。
【0046】
図3A及び図3Bに示すパーツ10は端部10eが直線のパーツである。図13は、パーツの円弧状の端部に先細形状の押圧片Sppを形成した部分を拡大して示している。図13に示すように、パーツが円弧状の端部10eacを有する場合でも、押圧片11と同様の押圧片11acを形成することが可能である。図13において、図4と実質的に同一部分には同一符号を付し、その説明を省略することがある。図13に示す押圧片形成スリットSppは、点P1から点P2まで円弧状のスリットS1acを含む。スリットS1acの曲率半径は、パーツの半径Rよりも大きい(R+Db)である。
【0047】
図14は、1またはそれ以上の実施形態に係るレーザ切断方法によって板金Wより切り出されるパーツ20の内周端部に後述する押圧片21が形成された状態を示している。図14に示すように、レーザ加工機200は、板金Wに例えば正方形の開口を形成し、開口の外側をパーツ20とするよう板金Wを加工する場合がある。図14において、図3Bと実質的に同一部分には同一符号を付し、その説明を省略することがある。
【0048】
レーザ加工機200は、パーツ20の開口を形成する領域側の端部20eに沿って、押圧片形成スリットSppを形成する。パーツ20の端部20eはパーツ20の内周端部である。レーザ加工機200は、開口を形成する領域側にピアスPs20及びアプローチ用スリットSa20を形成して、パーツ20の内周全体を切断する。図14における切断溝形成領域は図6に示す切断溝形成領域Rs20である。これによって、パーツ20の内周には切断溝S20が形成され、パーツ20を押圧する押圧片21が形成される。
【0049】
図14においても、押圧片形成スリットSppの形状を図11に示す第1の変形例または図12に示す第2の変形例と同様の形状としてもよい。
【0050】
ところで、パーツ10または20の押圧片として矩形状の押圧片11’を用い、パーツ10または20を取り外したときに自由端112’の起き上がりが問題となるのは、板金Wが所定の板厚までの薄板である場合である。所定の板厚は例えば1.6mmである。そこで、板金Wの板厚が所定の板厚までであれば、先細形状の押圧片11を用い、板厚が所定の板厚を超えれば、矩形状の押圧片11’を用いてもよい。先細形状の押圧片11を用いるときの自由端112の幅(距離Dc)は、根元部111の幅(距離Db)とは無関係に例えば0.6mmとすればよい。矩形状の押圧片11’を用いるときの自由端112’の幅(距離Dc’)は根元部111’の幅(距離Db’)と同じである。
【0051】
以上説明した1またはそれ以上の実施形態に係るレーザ切断方法を実現するには、加工プログラム作成装置100が、次の第1~第3の機械制御コードを含む加工プログラムを作成して、NC装置201がその加工プログラムに基づいて加工機本体202を制御すればよい。
【0052】
第1の機械制御コードは、板金Wより切り出されるパーツ10(20)の外周(内周)の複数の箇所において第1のスリットS1を形成するためのコードである。第1のスリットS1は、板金Wを第1の点P1から第2の点P2までレーザビームによって切断するスリットである。第1の点P1は、パーツ10(20)の端部10e(20e)からパーツ10(20)の外側(内側)に第1の距離Dbだけ離隔した位置の点である。第2の点P2は、端部10e(20e)からパーツ10(20)の外側(内側)に第1の距離Dbより短い第2の距離Dcだけ離隔し、かつ端部10e(20e)に沿った方向に第3の距離Lだけ離隔した位置の点である。
【0053】
第2の機械制御コードは、第2のスリットS2を形成するためのコードである。第2のスリットS2は、第2の点P2から端部10e(20e)に向かい、外周(内周)を切断するときの切断溝S10(S20)が形成される切断溝形成領域Rs10(Rs20)に到達するよう、板金Wをレーザビームによって切断するスリットである。
【0054】
第3の機械制御コードは、切断溝形成領域Rs10(Rs20)に切断溝S10(S20)を形成するよう、端部10e(20e)に沿って板金Wをレーザビームによって切断するコードである。
【0055】
加工プログラム作成装置100は、板金Wが上記の所定の板厚を超えるとき、図4または図7に示す第1のスリットS1を形成するための第1の機械制御コードに代えて、図8に示すパーツ10の端部10eと平行の第1のスリットS1’を形成するための第4の機械制御コードを含む加工プログラムを作成してもよい。
【0056】
本発明は以上説明した1またはそれ以上の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。板金Wは冷間圧延鋼板または熱間圧延鋼板(SPHC:Steel Plate Hot Commercial)である軟鋼板であってもよいし、ステンレス鋼板であってもよい。正方形または長方形のパーツの外周または内周の複数の箇所に形成される押圧片形成スリットSppは、パーツの大きさによっては1対であってもよい。円形のパーツの外周または内周の複数の箇所に形成される押圧片形成スリットSppは、等角度間隔で配置された2つ、3つ、または4つであってもよい。
【符号の説明】
【0057】
100 加工プログラム作成装置
200 レーザ加工機
201 NC装置
202 加工機本体
203 レーザ発振器
204 アシストガス供給装置
W 板金
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13
図14