IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ カンパニー ジェネラレ デ エスタブリシュメンツ ミシュランの特許一覧

特許7584493タイヤが走行する時の道路上の水位を推定する方法
<>
  • 特許-タイヤが走行する時の道路上の水位を推定する方法 図1
  • 特許-タイヤが走行する時の道路上の水位を推定する方法 図2a
  • 特許-タイヤが走行する時の道路上の水位を推定する方法 図2b
  • 特許-タイヤが走行する時の道路上の水位を推定する方法 図2c
  • 特許-タイヤが走行する時の道路上の水位を推定する方法 図3a
  • 特許-タイヤが走行する時の道路上の水位を推定する方法 図3b
  • 特許-タイヤが走行する時の道路上の水位を推定する方法 図4
  • 特許-タイヤが走行する時の道路上の水位を推定する方法 図5
  • 特許-タイヤが走行する時の道路上の水位を推定する方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】タイヤが走行する時の道路上の水位を推定する方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/02 20060101AFI20241108BHJP
   B60C 19/00 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
G01M17/02
B60C19/00 H
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022506625
(86)(22)【出願日】2020-07-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-14
(86)【国際出願番号】 FR2020051306
(87)【国際公開番号】W WO2021019148
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】1908820
(32)【優先日】2019-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】514326694
【氏名又は名称】コンパニー ゼネラール デ エタブリッスマン ミシュラン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100170634
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 航介
(72)【発明者】
【氏名】コテ レミ
(72)【発明者】
【氏名】ブレモンド フロリアン
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-505430(JP,A)
【文献】特開2004-168286(JP,A)
【文献】特開平06-174543(JP,A)
【文献】特開平08-298613(JP,A)
【文献】特開2002-323371(JP,A)
【文献】特開平08-184533(JP,A)
【文献】特開平06-138018(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0065640(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/00 - 17/10
G01H 1/00 - 17/00
B60C 19/00
B60W 40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の装着されたセットのうちのタイヤが走行している道路上の水位を推定する方法であって、
前記車両の装着されたセットは車両のホイールアーチに配置されており、
センサを車両の上に固定する段階と、
水位で覆われた道路上の速度Vでの車両の走行に対応する周波数信号を前記センサから取得する段階と、
F1がF2より低い2つの周波数F1及びF2によって囲まれ、水位に敏感である前記周波数信号の一部を分離する段階と、
前記周波数信号の前記一部にリンクされたエネルギベクトルを決定する段階と、
前記エネルギベクトルと前両の前記速度Vとを考慮する関数を使用して道路上の水位を取得する段階と、
を含み、
前記センサは、マイクロフォンであり、
前記周波数信号の前記一部は、全体的に4kHzを超えて延びる、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記周波数信号は、前記車両が走行している間に得られた前記マイクロフォンからの離散化時間信号のPSDと呼ばれるパワースペクトル密度であることを特徴とする請求項1に記載の装着されたセットのうちのタイヤが走行している道路上の水位を推定する方法。
【請求項3】
前記エネルギベクトルは、前記周波数F1及びF2間の前記PSDの積分関数を含むことを特徴とする請求項2に記載の装着されたセットのうちのタイヤが走行している道路上の水位を推定する方法。
【請求項4】
前記周波数信号の前記一部は、該周波数信号に対してその特性値が閾値の上である少なくとも1つのブロックに限定され、前記特性値は、最大値、平均値、又は、中央値である、ことを特徴とする請求項1から請求項3に記載の装着されたセットのうちのタイヤが走行している道路上の水位を推定する方法。
【請求項5】
前記周波数信号の一部を前記分離する段階は、該周波数信号と該周波数信号の特性曲線との間の比較としての整流周波数信号の構成を含むことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の装着されたセットのうちのタイヤが走行している道路上の水位を推定する方法。
【請求項6】
前記周波数信号の前記特性曲線は、4kHzを超えて連続的に減少することを特徴とする請求項5に記載の装着されたセットのうちのタイヤが走行している道路上の水位を推定する方法。
【請求項7】
前記周波数信号の前記少なくとも1つのブロックは、前記整流周波数信号による特定値の交差によって区切られることを特徴とする請求項4と組み合わされた請求項5及び請求項6のいずれか1項に記載の装着されたセットのうちのタイヤが走行している道路上の水位を推定する方法。
【請求項8】
前記周波数信号は、対数目盛で表され、前記閾値は、値3dBであることを特徴とする請求項4、及び、請求項4と組み合わされた請求項5から請求項のいずれか1項に記載の装着されたセットのうちのタイヤが走行している道路上の水位を推定する方法。
【請求項9】
前記水位に対する前記周波数信号の周波数帯域の感度段階が、前記マイクロフォンを装備した前記車両が、差別化することができる少なくとも2つの水位を有する道路上を走行する学習段階で達成されることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の装着されたセットのうちのタイヤが走行している道路上の水位を推定する方法。
【請求項10】
前記タイヤは、識別ベクトルを含み、
方法が、前記タイヤの少なくとも1つの幾何学的特性を取得するために該タイヤの識別番号を取得する段階を含み、
前記水位を取得する前記関数は、前記タイヤの前記少なくとも1つの幾何学的特性を考慮に入れる、
ことを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の装着されたセットのうちのタイヤが走行している道路上の水位を推定する方法。
【請求項11】
方法が、前記タイヤの摩耗の状態を取得する段階を含み、
前記水位を取得する前記関数は、前記タイヤの前記摩耗の状態を考慮に入れる、
ことを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の装着されたセットのうちのタイヤが走行している道路上の水位を推定する方法。
【請求項12】
方法が、前記道路のテクスチャを取得する段階を含
ことを特徴とする請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の装着されたセットのうちのタイヤが走行している道路上の水位を推定する方法。
【請求項13】
前記センサを前記固定する段階は、前記ホイールアーチ内で行われることを特徴とする請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の装着されたセットのうちのタイヤが走行している道路上の水位を推定する方法。
【請求項14】
前記センサを前記固定する段階は、前記装着されたセットの平面OYZに対して前記ホイールアーチの後部で行われることを特徴とする請求項13に記載の装着されたセットのうちのタイヤが走行している道路上の水位を推定する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のタイヤが走行している道路上の水位をリアルタイムで推定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車安全性の分野では、高さ0.2ミリメートルの水の層で覆われた道路は、道路上のタイヤのグリップ条件を悪化する可能性があることは公知である。ある一定の条件では、乾いた道路と比較して約30%のグリップの低下が示されている。すなわち、濡れた道路上を走行する車両は、その制動距離がかなり長くなる。それにも関わらず、そのような薄い水の層が車両のグリップをそこまで低減するという事実を車両の運転者は必ずしも知っていない。実際に、0.5mm未満の厚みであれば、他の車両の背後に水しぶきが飛び散ることはない。この噴霧がない場合に、運転者は、完全に乾いた道路と同じ速度で車両が走行することを可能にするほど十分に道路が乾いているという感触を有する。
【0003】
更に、車両は、最近では危険な状況を運転者に警告すること又は運転者に取って代わることさえも目的とした多くの安全デバイスを装備している。例えば、ACC(適応クルーズコントロール)と呼ばれる自動速度制御デバイス又は前方車両に対する車両の安全距離を管理するデバイスさえも存在する。現在、道路の濡れを考慮するために、ACCタイプの安全デバイスは、それらの応答を道路の状態に適応させて前方車両との離間距離を長くするのにフロントガラス上の水しぶきの存在に基づいている。しかし、水位が0.5ミリメートル未満の濡れた地面を車両が走行している時に、水跳ねは、フロントガラスに到達しない。安全デバイスは、次に、グリップが既に大きく低下しているにも関わらず、あたかも乾いた道路上を走行しているかのように車両の走行を管理する。
【0004】
同じく公知であるのは、水の層を通過することによって屈折した後で道路のコーティングによって反射する赤外線の放射によって水位を測定するための他のセンサである。しかし、これらの測定デバイスは、道路のコーティングの色及び温度に非常に敏感であり、それらを日常的な用途にやや不正確なものにする。更に、マクロテクスチャに対応するミリメートルスケールでの地面の粗さに依存して、得られる水位の測定値は、この特性に影響される。
【0005】
同じく公知であるのは、濡れた道路上でのタイヤの動きによって発生する飛沫の衝突の下で振動するようにされた可撓性プレート上に配置された振動センサである。しかし、これらのデバイスは、その場所が走行時にタイヤによって発生する水飛沫の軌道に面しているために脆弱であり、タイヤがそのトレッドの窪みパターンを通じて砂利を捕捉して放出する可能性がある砂利道路上で特にそうである。これらのセンサは、水しぶきによって励振されるプレートの振動レベルに基づいている。振動解析は、例えばホイールアーチのような車両のパネルの変形に敏感な100と3000Hzの間の低及び中間周波数範囲である。次に、振動応答では、車両の励振によって発生するパネルの振動に起因するものを飛沫に由来するものから分離することが困難である。この問題を解決するために、センサは、専用プレート上で飛沫の近くに置かれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】WO2015092253A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、水位のミリメートルの10分1程度の差別化機能を有し、かつ車両の応答に感度が鈍くて車両に対して邪魔にならない信頼性があって正確であるタイヤが走行している道路上の水位を推定する方法からなる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、第1に、車両の装着されたセットのうちのタイヤが走行している道路上の水位を推定する方法に関し、装着されたセットは、車両のホイールアーチ、好ましくは車両の通常の前進方向に関して車両の第1の車軸にリンクされたホイールアーチに置かれる。本方法は、以下の段階を含む:
・センサを車両の上に固定する、好ましくは、ホイールアーチとリンクさせて固定する段階。
・水位によって覆われた道路上の速度Vでの車両走行に対応する周波数信号をセンサから取得する段階。
・F1がF2より低い2つの周波数F1及びF2で囲まれた水位に敏感な周波数信号の一部を分離する段階。
・周波数信号の当該部分にリンクしたエネルギベクトルを決定する段階。
・エネルギベクトルと車両の速度Vとを考慮した関数を使用して道路上の水位を取得する段階。
本方法は、センサがマイクロフォンであること、及び周波数信号の当該部分が少なくとも部分的に4kHzを超えて、好ましくは7kHzを超えて、特に好ましくは10kHzを超えて延びることを特徴とする。
【0009】
本明細書では、用語「水位」は、一方で水の層の空気との自由面によって及び他方で道路の外面によって区切られた水の層の平均厚みを意味すると理解される。従って、ミリメートル程度のマクロなスケールで完全に滑らかな道路上では、水位は、道路の外面上に均一に分布された水の層の厚みに対応する。マクロテクスチャと呼ばれるミリメートルスケールでの粗い道路に対して、水位は、道路の特定範囲にわたって道路の外面の上部上に位置する水の層の平均厚みに対応する。
【0010】
本方法は、3000Hz又は4000Hzに限定される飛沫の励振を受けたパネルの振動信号だけでなく、水の層とタイヤの間の相互作用の数千ヘルツまでの音響信号を記録するためにセンサとしてマイクロフォンを使用する。すなわち、この現象は、タイヤのトレッドの窪みパターンへの水の充填、窪みパターンからのその放出、空気中での水滴の噴霧、これら水滴のホイールアーチ壁面への衝突、及び振動させられるこのパネルの音響放射のような異なる事象を含む。更に、車速で変位するタイヤ前方の波面又はタイヤ側面の水放出波のような流動と大きい水位にわたってタイヤ後方に発生する逆流との両方である水の変位の音響シグナチャーも、この物理現象の音響源である。これらの現象は、全てタイヤとの相互作用によって動き出す水の量に依存し、それらは、道路上の水位に直接にリンクして本方法の精度を保証している。
【0011】
本方法は、ノイズの空中伝播が車両の固体伝播又は振動伝播に比べて支配的である少なくとも部分的に又は完全に4kHzを超える高周波数に位置する周波数帯域にフォーカスを当て、それにより、パネルの振動音響応答を最小にし、他の現象を際立たせる。高周波数での音響応答の感度は、低及び中間周波数での振動応答の感度よりも高い。更に、この周波数帯域は、タイヤと水の層の相互作用による音響事象を際立たせる。水の層とタイヤの相互作用による物理事象が創発的音響応答を有することになる水位に敏感な周波数帯域を選択することにより、本方法の信頼性と精度が補強される。しかし、高い周波数では、車両の音響レベルが周波数と共に低下するので、この物理現象がより際立つことになる。すなわち、最も周波数の高いブロックを分離することにより、本方法の感度が高められる。好ましくは、周波数帯域は、少なくとも部分的に又は完全に7kHzを超える高周波数に位置し、特に好ましくは10kHzを超える高周波数に位置する。
【0012】
F1がF2より低い2つの境界F1とF2の間に位置する周波数帯域が選択されるという事実により、音響応答を互いに比較すること及び従って道路上の水位を推定することが可能になる。
【0013】
しかし、車両の従来の減音の影響を抑制することで本方法の精度を補強するために、センサからの周波数信号を車両の周波数シグナチャーの減少を組み込む周波数信号の特性曲線と比較することにより、整流された周波数信号を構成することが有用である。
【0014】
車両上の及び特にホイールアーチ内のセンサの場所も本方法の信頼性を高める。実際に、ホイールアーチは、その形状、すなわち、凹面のために音響波を小さい体積に封じ込めることにより現象の音響源を増幅する役割を果たす。これに加えて、この限定された空間でこれらの波が反射することにより、この空間に音響エネルギが集中する。最後に、ホイールアーチは、例えば、走行時の車両周囲の空気の空力的な流れのような他の音響源に対するセンサの保護ゾーンである。
【0015】
道路上に水の層が存在すると、地面の粗い性質に関わらず、この面による音響波の類似の処理を保証する。従って、本方法の精度が補強される。更に、ホイールアーチの薄い壁を利用して電源接続のようなセンサの非アクティブ要素をホイールアーチの他の側に配置することができることにより、ホイールアーチ内へのマイクロフォンの侵入が容易になり、センサの大部分を水と接触させることが回避される。最後に、センサの場所は、車両の構造によって物理的に保護されながら、物理現象の音響源に可能な限り近接する。マイクロフォンをホイールアーチの背後に全体的に位置付けることができ、この場合に、受信信号はホイールアーチの遮音性によって減衰することになるので、マイクロフォンのアクティブ部品を壁の近くに位置付けることが好ましい。しかし、マイクロフォンのアクティブ部品は、装着アセンブリが位置するホイールアーチで区切られた体積に配置することもでき、次に、センサのアクティブ部品を多くの穿孔を有する壁の背後に隠すことが好ましい。これらの穿孔は、水滴に対してセンサのアクティブ部品を保護する一方、音響波が妨げられることなく通過することができるように寸法決めされる。使用される高周波数の範囲は、穿孔された壁のこの二重効果に有利である。
【0016】
ブロックの決定は、整流周波数信号を使用して行われる。この整流周波数信号の分析は、周波数信号を車両の周波数音響応答の特性曲線と比較することによってブロックを決定することを可能にする。次に、決定された各ブロックについて、そのブロックの特性値を評価しなければならない。最後に、この特性値は、ブロックに関連付けられた周波数帯域が周波数信号の当該部分に保持されているか否かを知るために、予め定められた閾値に関して単に評価すればよい。肯定的な場合に、周波数信号の当該部分のシーケンスを構成するように、ブロックの周波数帯域を選択してこの周波数帯域上の周波数信号を分離する。必然的に、周波数信号の当該部分は、整流周波数信号上で選択された周波数帯域の極値によって区切られる。
【0017】
区切られた周波数信号から、エネルギベクトルを与えることになる一連のエネルギ判断基準を決定することが可能である。このエネルギベクトルは、少なくとも1次元上で定められる。エネルギ判断基準の選択は、学習されることが求められる物理現象に起因するものである。物理現象が適用される高周波数の範囲では、エネルギが最も差別的なインジケータである。
【0018】
最後に、走行速度により、タイヤとの相互作用に起因して運動する水の量が増大する。同じく、車両の速度は、例えば、動き出す水の量又はタイヤから放出される水滴の伝播速度を増加させてホイールアーチの壁面への水飛沫の衝突エネルギを直接的に増大することにより、相互作用の物理的事象の条件も修正する。結果として道路上の水位を正確に推定するためには、車両の走行速度を考慮することが不可欠である。実際に、この速度は物理現象のいくつかの事象に直接に影響を及ぼす。
【0019】
水位の決定は、水位とエネルギベクトルと車両の速度を関連付ける関数、例えば、相関関数を通して得られ、これは、彫込みタイヤに関するタイヤの条件によらず、また道路のマクロテクスチャによらず、低い水位に対して適切なものである。この関数は、車両又は車両が関連する車両の群に関連付けられる。実際に、音響測定は、車両の外側で装着アセンブリの近くで行われる。どのような自動車であっても、ホイールアーチは存在し、その寸法は非常に類似している。しかし、廉価な車両に関する防音デバイスの欠如又はホイールアーチのラウドスピーカ効果に影響を与える最低地上高のようにそのホイールアーチに特定の特徴を有する車両もある。
【0020】
好ましくは、得られる周波数信号は、車両の走行中に得られたセンサからの時間的離散化信号のPSDと呼ばれるパワースペクトル密度である。
【0021】
有利なことに、エネルギベクトルは、周波数F1とF2の間でのDSPの積分関数、場合により整流された積分関数を含む。
【0022】
これは、時間信号のサンプリング周波数が8kHzより高くなければならない現象の音響応答を迅速かつ廉価に取得する方法である。濡れた道路でのタイヤの走行は、一過性の現象ではなく、その走行時間は、時間信号の取得に関して長いものである。明らかに、この信号が長いほど、音響応答を乱す過渡現象を静的に切り捨てる可能性が高くなる。物理現象は絶えず周期的であり、時間信号の取得はこの物理現象の一部の抽出に過ぎないことを考えると、パワースペクトル密度は、信号から適切なエネルギ情報を抽出するための良いツールである。
【0023】
エネルギベクトルは、例えば、F1とF2の間に保持された音響応答の全ての離散値に関して、隣接する離散値間の周波数ピッチで離散化したPSDの振幅によって得られる積の総和を含む。当然のことながら、例えば、周波数信号の実部又は虚部に対して構成された又は物理現象の有限のサイクル数にわたる時間応答に対応する周波数信号から構成された他のより初等的なエネルギ判断基準を使用することができる。
【0024】
勿論、周波数信号の当該部分が区分的に定められている場合に、連続した各区分について分析を行い、全区分のエネルギを合計しなければならない。
【0025】
特定の実施形態により、周波数信号の当該部分は、特性値が周波数信号に対する閾値を超える少なくとも1つのブロックに限定される。
【0026】
音響応答の分析を特に1又は2以上のブロックに集中させることで本方法の感度が改善し、その結果、水位に対して最大の感度を有するブロックだけを保持することにより、本方法の差別化機能も改善する。当該ブロックのこの選択は、メトリック、すなわち、ブロックの特性値と、このメトリックとリンクする閾値とを使用して行われる。閾値は、周波数信号が一定でないために必然的に周波数信号とリンクする。それにより、車両の全体的な応答に関して有意な音響的重みを提供するブロックだけを保持することが可能になる。
【0027】
ブロックを選択することにより、例えば、車両のシグナチャーにリンクするスポット信号に水位の推定が影響されにくくなるので、本方法をロバストなものにすることが可能になる。更に、本方法は、分離しようとするものよりも広帯域である物理現象に対して一層感度が高い。従って、本方法の信頼性は明らかに改善する。
【0028】
特定の実施形態により、周波数信号の一部を分離する段階は、周波数信号と周波数信号の特性曲線との比較であるとして整流された周波数信号の構成を含む。
【0029】
周波数信号の当該部分を構成するブロックの選択を容易にするために、整流周波数信号を構成し、周波数に比例した車両の音響レベルの減少を考慮することで音響応答の様々なブロックに同等の重みを与えるようにすることが好ましい。測定された周波数信号は、車両の音響レベルの整流周波数スペクトルを取得するために、特徴的な減少曲線と比較しなければならない。この比較は、比較する2つの要素の差又は比のいずれかで行うことができる。
【0030】
非常に具体的な実施形態により、周波数信号の特性曲線は、4kHzを超えると周波数の関数として連続的に減少する曲線である。
【0031】
当該ブロックを識別するのに十分であり、かつ区分の境界の1つが4kHz付近であることを条件として周波数信号の単純な区分的線形回帰によって取得することができるのは初等的なモデルである。車両の音響信号が自然に減少することにより、特性曲線の傾きを識別することが容易になる。この評価は、乾いた道路での音響応答の特定で十分である。一方、特性曲線を完全に決定するためは、4kHz基準点と呼ぶことになる測定音響信号上の特徴点を識別しなければならない。実際は、この特徴点の音響振幅は、車両の走行速度だけでなく、水位にも、更に地面の性質にも依存する。この特徴点は、4kHzでの音響応答の値、又は4kHz付近の周波数帯域にわたる周波数信号の離散化値の平均とすることができる。
【0032】
非常に有利なことに、整流周波数信号の少なくとも1つのブロックは、整流周波数信号による特定値の交差によって区切られる。
【0033】
実際に、乾いた道路を走行するか又は水で覆われた道路を走行するかを問わず、車両の音響応答は周波数で減少する。車両の音響応答を対数目盛で表現した場合に、その特性曲線は、周波数4kHzを超えると線形又は区分的線形の曲線のようになる。この減少は、車両の音響応答に独特である。この特性曲線の傾きを識別するために、例えば、道路及びコーティングの湿れた又は乾いた性質に関係なく、走行条件下での車両の音響スペクトルにわたって線形回帰法を使用することが可能である。周波数信号に関連付けられた特性曲線を構成するために、次に、その曲線の始点を周波数信号上で位置合わせすることで十分である。
【0034】
整流周波数信号は、対数目盛では、周波数信号と周波数信号の特性曲線との差の形で得られる。対数目盛で表された整流周波数信号のゼロ特定値を2回連続して通過することにより、整流周波数信号のブロックが区切られる。周波数信号が線形目盛で表現される場合に、整流周波数信号の構成は、両方共に線形目盛で周波数信号と特性曲線との比によって行われる。整流周波数信号のブロックを区切る特定値は、値1である。
【0035】
特定の表現モードにより、その少なくとも1つのブロックの特性値は、最大値、中間値、中央値を含む群に位置する。
【0036】
周波数信号のブロックの周波数帯域を保持するために、その周波数信号のブロックを分類しなければならない。この分類は、最初に、周波数信号のブロックの特性メトリックの評価が伴う。周波数信号の最大値、ブロックの周波数帯域にわたるその平均値又は中央値のような簡単なメトリックは、ブロックを特徴付けるのに適している。この段階は、整流周波数信号に対して非常に有効である。
【0037】
これらの特性値は、線形目盛、対数目盛、又は周波数信号の表現に関する他のあらゆるタイプの表現で等しく表すことができる。
【0038】
非常に具体的実施形態により、周波数信号が対数目盛で表されている場合に、閾値は値3dB、好ましくは値4dB、特に好ましくは値5dBである。
【0039】
これらの閾値は、車両の音響応答に関してブロックの顕著な差を示している。その結果、車両応答の音響エネルギでは、このブロックの重みが大きくなる。従って、ブロックの特性値がこの閾値を超える場合に、このブロックの周波数帯域を保持して周波数スペクトルの当該部分のシーケンスを区切る必要がある。次に、エネルギベクトルは水位に対して感度の高いものになる。この段階は、整流周波数信号に対して非常に有効である。
【0040】
有利なことに、水位に対する周波数信号の周波数帯域の感度段階は、マイクロフォンを装備した車両が、差別化することができる少なくとも2つの水位を有する道路上を走行する学習段階で実行される。
【0041】
そのような差を検出する方法の機能を評価するために、10分の1ミリメートルの程度で区別することができ、かつ制御される水位に対して走行作動を行うことが有用である。車両は、同じ地面又は同等な性質の地面の上を線速度、車両の動的負荷、風、周囲温度のような類似の走行条件下で走行することが好ましい。更に、この感度段階は、様々な走行速度範囲にわたって実行しなければならない。この感度調査により、走行速度から及び水位に敏感な周波数信号の当該部分に関連付けられたエネルギ判断基準から水位を識別することができるようにする相関関数を識別することが可能になる。これは、周波数信号と、周波数信号の各周波数帯域に関連付けられたエネルギ判断基準とを道路上の水位に対して較正することに対応する。
【0042】
非常に具体的実施形態により、タイヤは識別ベクトルを含み、本方法は、タイヤの少なくとも1つの幾何学的特性を取得するために、タイヤのIDを取得する段階を含み、水位を取得する段階の関数は、当該タイヤの少なくとも1つの幾何学的特性を考慮に入れる。
【0043】
タイヤは、新品の条件では、例えば、ラベルを通して少なくとも1つの識別ベクトルを含む。タイヤまた、バーコード、QRコード(登録商標)のようなそれに取り付けられた物理的で目に見えるベクトルの形で、又はRFID(無線周波数認識の頭字語)タイプ又はTMS(タイヤ装着センサの頭字語)タイプの電子デバイスのような目に見えないベクトルの形でその耐用期間を通してそれを辿る識別ベクトルを含有することができる。これら全ての識別ベクトルの内容は、タイヤのIDである。同じく、このタイヤのIDは、これら様々なベクトルの手動入力、光学式入力、又は無線周波数入力により、車両上で直接利用することができる場合もある。このIDから,ある一定の数のタイヤ特性、特に幾何学的特性が入手可能である。従って、水滴の放出ゾーン及び衝突ゾーンの幅に直接影響を及ぼすタイヤの幅を含むタイヤの寸法を利用することが可能である。同じく、タイヤのトレッドに関する窪みパターンの形状を利用することができ、それにより、濡れた道路上を走行する時にタイヤの窪みパターンに閉じ込められた水滴の噴霧及び衝突ゾーンが修正されることにもなる。例えば、夏タイプのタイヤは、その主要な窪みパターンとして縦溝を有し、大抵はこの溝によって水滴の長手方向噴霧を発生させる。その一方、冬タイヤは、窪みパターンとして連続するV字形の窪みを有し、これも、45°に水しぶきを発生させるのでホイールアーチの壁面への水滴の衝突ゾーンが変わることになる。
【0044】
好ましい実施形態により、本方法は、タイヤの摩耗状態を取得する段階を含み、水位を取得する関数は、タイヤの摩耗状態を考慮に入れる。
【0045】
トレッドの窪みパターンに関連付けられた幾何学的特性を考慮する場合に、タイヤのトレッド高さの平均変動に反映されるタイヤの摩耗状態を扱うことも必要である。摩耗は、トレッドの外面を削ることによって必然的に始まる。摩耗は、例えば、新品の条件で最初は隠れていた窪みパターンの新たな要素の出現による水滴の放出ゾーンのような又はトレッドの摩耗によって利用可能な窪みパターンが飽和することによって放出される水量のような窪みパターンのような幾何学的特性に影響を与える可能性がある。
【0046】
このタイヤの摩耗状態は、例えば、トレッド内の抵抗センサ又は容量センサのようなタイヤ内に位置するデバイス、ドライブ-オーバースキャナのようなタイヤ外部のデバイス、又は車両の点検時の手動測定によって取得することができ、この情報は、車両に又はタイヤのIDに関連付けることによってサーバ上で伝達される。結果として道路上の水位を他のパラメータにリンクする関数に対して、タイヤの摩耗状態を考慮することは、例えば、トレッド内の隠れた窪みがタイヤの摩耗に伴って現れるような特定のタイヤの場合に必要である場合がある。次に、タイヤの摩耗による窪みパターンの変化は、物理現象の音響シグナチャーに影響を及ぼす。更に、タイヤの摩耗は、道路上の水位変動に対して時間的にゆっくりした動態を有する。従って、タイヤの摩耗状態を取得するこの段階は、道路上の水位を評価する測定のかなり前に実行することができる。
【0047】
別の好ましい実施形態により、本方法は、道路のテクスチャ、好ましくはミリメートルスケールでの地面のMTD(平均テクスチャ深さの頭字語)を取得する段階を含み、水位を取得する関数は、道路のテクスチャを考慮に入れる。
【0048】
これは、道路上の水位評価に影響を及ぼすことができるパラメータの1つである。この目的のために、地面のマクロテクスチャ、すなわち、ミリメートルスケールでのテクスチャは、水との相互作用に関して道路を認定するのに十分である。MTDは、規格NF EN 13036-1に従って評価することができる。
【0049】
道路のテクスチャは、例えば、GPS(全地球測位システム)表示を通して、車両の位置に関連付けられた道路のテクスチャマッピングを使用して取得することができる。同じく、車両上のマイクロフォンも含む特許出願WO2015092253A1に示すデバイスを使用することも可能であり、道路のテクスチャ状態をある階級に関連付けることができる。道路のテクスチャが水位の評価に及ぼす影響は2次的なものであるので、道路のテクスチャに関する定性的及び非定量的な情報は、水位の評価についてテクスチャの階級毎に一定の補正を組み込むことで十分である。最後に、道路のテクスチャを取得する段階は、道路に可能な限り近い車両上に例えばホイールアーチ又はバンパーに装着されたマイクロフォンにより、4kHzよりも低い周波数帯域、例えば、200~2000Hz又は500~1000Hzで記録されるノイズスペクトルの分析に対応することができる。このノイズスペクトルは、例えば、RMS(二乗平均平方根)値を使用して表される平均レベルで表現される。この平均レベルの定性的レベルと車両速度の知識とに応じて、濡れた地面でも道路テクスチャの階級をそれらから推測することが可能である。
【0050】
具体的実施形態により、センサの固定はホイールアーチ内で行われ、より具体的には、装着されたセットの平面OYZに関してホイールアーチの後部で、好ましくはタイヤの幾何学的座標系の軸Yに関して270°~315°にある角度セクターで行われる。
【0051】
OXYZと名付けたタイヤの幾何学的座標系という用語は、ここでは、タイヤの自然な回転軸とタイヤの正中面との交点に位置する中心Oから構成されるタイヤに関連付けられた座標系を意味すると理解される。この座標系は、タイヤが走行する地面に対して垂直方向に対応する軸Z、すなわち、垂直軸と、長手軸と呼ばれ、軸Zと直角を成して地面と平行な直線上を走行する時のタイヤの移動方向に向けられた軸Xと、軸X及びZと直角を成してタイヤに結合した固定直交座標系を含むタイヤの自然な軸に従って向けられたY軸、すなわち、横軸とを有する。
【0052】
マイクロフォンのこの好ましい位置決めは、水滴がホイールアーチの壁面に衝突するゾーンからマイクロフォンを遠くに位置決めする一方、この音響源及び他の音響源に近づけるという利点がある。この距離により、特に、トレッドの窪みパターンによって砂利又は固形物が放出された場合に、センサの物理的な一体性を保証することが可能になる。他の音響源と近接することにより、水滴の衝突に対してそれらの応答を覆い隠さないようにすることができる。
【0053】
本発明は、以下の説明を読めばより良く理解されるであろう。この出願は、単に一例としてかつ添付図面を参照して提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0054】
図1】水位を取得する方法の段階のブロック図である。
図2a】特性が異なるタイヤを装備して同じ水位の上を走行する同じ車両の音響応答を示す図である。
図2b】摩耗状態が異なるタイヤを装備して同じ水位の上を走行する同じ車両の音響応答を示す図である。
図2c】同一のタイヤを装備するが2つの異なる地面を走行する同じ水位の上を走行する同じ車両の音響応答を示す図である。
図3a】同じタイヤを装備して2つの異なる走行速度で同じ水位を走行する車両の音響応答を示す図である。
図3b】同じタイヤを装備して同じ走行速度で異なる水位を走行する車両の音響応答を示す図である。
図4】ブロックの識別と共に整流周波数信号を示す図である。
図5】整流周波数スペクトルにわたってブロックを認定する方法を示す図である。
図6】音量から道路のテクスチャの階級を取得する段階を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
図1は、道路上の水位を評価する方法1000のブロック図を示している。これは、3つの主要なフェーズに分けられる。第1の学習フェーズは、ある一定のパラメータの識別を行うことにある。車両に関する測定の第2のフェーズは、車両が走行している道路上の水位の評価に有用な情報を取り出すことにある。最後に、評価の第3のフェーズは、前の2つのフェーズで収集された情報から水位を決定することにある。
【0056】
学習フェーズは、第1に、車両の音響応答での水位に敏感な周波数帯域を識別することにある1001。この段階は、基準装着セットを有する車両が様々な既知の水位を有する道路上を走行する時に、車両に固定されたマイクロフォンで測定されたノイズスペクトルを取得することにある。水位を知るためには、ベンチマークとして寄与することになる最新技術から公知の実験室タイプの測定手段を使用すれば十分である。車両が走行する道路の粗い性質は、特にミリメートルスケールでは重要ではない。車両が装備しているタイヤの性質及び状態も重要ではない。実際に、これらのパラメータは、道路上の水位に対する車両の音響応答に関して2次的なものである。
【0057】
これらの様々なスペクトルは、最初にかつ任意的に、段階1002に従って4kHzを超える特性曲線の傾きを決定することを可能にする。この決定に関して、スペクトルの完全な周波数帯域にわたって又は周波数帯域の区分毎にスペクトルの単純な線形回帰が実行される。この決定は、車両の単一走行条件に従って又は試験された様々な走行条件に応じた平均によって実行することができる。
【0058】
様々な水位条件下での測定が行われることにより、道路上の水位に依存する特に音響応答の振幅レベルに対する強い応答感度を示す周波数帯域を識別することができる。この段階1001の結果は、評価フェーズのために保持されることになる。
【0059】
最後に、水位に応じた変動だけでなく、主として走行速度に応じた変動も共に観測されることにより、段階3003のエネルギ判断基準を使用することによって段階1003に従って各感応周波数帯域のこれら2つのパラメータに対する感度を認定することが可能である。第2に、より精緻な水位評価モードでは、タイヤの特性及びタイヤの摩耗状態に応じて周波数帯域の感度を認定することは有用である。第3に、理想的なモードでは、タイヤが走行する道路のテクスチャに応じて周波数帯域の感度を評価することが有用である。
【0060】
次に、段階3003のエネルギベクトルを連続的に説明する水位及び走行速度を少なくとも含み、かつこの段階1003で測定された点を通る各種パラメータの多重線形関数が生成される。この関数は、段階3006では、道路上の水位を車両の走行速度と車両の音響応答に関連付けられたエネルギベクトルとの関数として決定するのに使用されることになる。
【0061】
最後に、段階1003では、分析に有用なブロックを選択するために段階3003のエネルギ判断基準の条件を定めることが要求される。結果として、車両の周波数信号に関して例えばこの後の整流周波数信号について様々なブロックの特性値及び閾値を選択することにある段階1004が実行され、それらは、探索モードでの評価フェーズに使用されることになる。
【0062】
第2のフェーズは、水位が既知ではない濡れた状態のいずれかの道路上を走行している時に車両の情報を取得することにある。
【0063】
最初の任意的な段階2002では、車両が装備しているタイヤを識別し、その摩耗状態に関する情報を取得することが望ましい。しかし、これらのデータは補助的なものであり、水位の最終的な評価の精度を高めるのに必要であるに過ぎない。その一方、段階2001に従って濡れた道路に関する測定の瞬間での車両の走行速度を評価することが必要である。音響信号の取得時間にわたる速度の平均値で十分である。
【0064】
第3のフェーズは、メモリ空間とマイクロフォン又は車両の他の部材、特にタイヤとの通信手段とを有するプロセッサを通して車両に埋め込まれて行われる評価フェーズである。これらの通信手段はまた、例えば、タイヤに関連付けられたRFIDタグ、タイヤに設けられたTMSセンサ、又は装着セットに設けられたTPMSセンサと通信するための無線周波数送受信機であるとすることができる。同じく、これらの通信手段は、マイク又は車両のCANバスとの有線リンクとすることができる。従って、プロセッサは、一方で、例えば、敏感な周波数帯域、特性曲線の傾き、特性値、及び感度の高い各周波数帯域の閾値のような学習フェーズでの有用な情報を全て引き出すことができる。他方で、プロセッサは、車両の走行速度だけでなく、車両が装備しているタイヤのID又は幾何学的特性と共に、例えば、タイヤが走行した走行距離によるタイヤの摩耗状態も潜在的に引き出すことができる。
【0065】
評価フェーズの最初の任意的な段階は、整流周波数信号を生成することにある。そのためには、測定フェーズの周波数信号を車両の特性曲線と組み合わせることが好ましい。しかし、特性曲線は、2つのパラメータによって定められる。一方で、特性曲線は、水位及び走行速度の関数である周波数4kHzの振幅レベルを通過し、他方で、特性曲線の傾きは、水位に依存しない。この第2のパラメータは、段階1002の学習フェーズで評価されたものである。従って、段階2003で得られた周波数信号から、例えば、4kHzのような所与の周波数での振幅レベルを定めることが適切である。そのためには、1つの方法は、周波数信号のサンプリング周波数付近で周波数信号を線形化することにある。別の方法は、4kHzというターゲット周波数付近の周波数帯域にわたる周波数信号の平均値としてこの振幅を定めることにある。
【0066】
作業が線形目盛で行われるか対数目盛で行われるかに応じて、その比較は、周波数信号と特性曲線との比率を確立すること、又は2つの曲線間の差を確立することのいずれかにある。すなわち、段階3001に従って整流周波数信号が得られる。
【0067】
第2の段階3002は、4kHzを超える周波数信号、任意的に整流周波数信号のブロックを識別することにある。そのためには、周波数信号がサンプリングされるので、サンプルの各々をある値と比較しなければならない。整流周波数信号については、線形目盛で作業が行われる場合に、この特定値は値1である。対数目盛で作業が行われる場合に、この特定値はゼロ値である。連続するサンプル間の単純な比較子により、整流周波数信号のこの特定値に対する通過を識別することが可能になる。この通過が特定値を超えるオーバシュートによって反映される場合に、それはブロックの最初の点に対応する。ブロックの最終点は、整流周波数信号が特定値よりも下を新たに通過することで決定される。すなわち、特定値を超える整流周波数信号の応答である整流周波数信号のブロックを全て識別することが可能である。
【0068】
次に、段階3003は、識別されたブロックを認定することにある。その目的は、水位に対して強い感度を有し、かつ車両の音響応答に関してその音響応答が有意であるブロックだけを保持することである。明らかに、この第2の態様については、高周波数のブロックを除外しないように整流周波数信号に着目することがより容易である。
【0069】
この段階3003は、最初に、周波数範囲内の非常に局所的な現象を過度に際立たせることを回避しながら、ブロックの音響エネルギを代表するメトリックをブロックに割り当てることにある。このためには、ブロックの周波数帯域にわたるブロックの最大値が第1のインジケータである。しかし、それは必ずしもブロックの形状を十分に反映するものではなく、そういう理由で、特定の実施形態ではブロックの平均値又は中央値がそれよりも優先される。
【0070】
次に、車両の音響応答への寄与が強いブロックだけを選択するために、このメトリックを閾値に対して位置決めする必要がある。それにより、本方法の感度を高め、本方法の分離機能を増大させることが可能になる。このためには、車両の音響応答の表現が対数目盛で行われる場合に、少なくとも、ブロックの音響出力の2倍を表す3dBという値を閾値として使用することが有用であり、かつこれは重要である。明らかに、この閾値を更に増加させて分析を音響応答の少数ブロックに低減し、本方法の分離機能又は差別化機能を増大させることができる。
【0071】
次の段階3004は、段階1001で識別された水位に敏感な周波数帯域に関連付けられた音響出力の観点で段階3003からの最も有意なブロックの選択である。従って、車両の応答に関して可聴であると共に、水位に敏感なブロックの周波数帯域だけが保持される。理想的には、単一ブロックだけが保持されるが、複数のブロックを選択することも完全に可能である。この段階3004の終わりに、水位を決定するのに使用される信号の当該部分が選択されている。
【0072】
段階3005は、前の段階で選択された信号の当該部分からエネルギベクトルを生成することにある。本発明のフレームワークでは、パワースペクトル密度は、周波数信号の観点から完全に十分に表される。エネルギベクトルは、次に、これがマイクロフォンから得られる周波数信号であろうと、整流周波数信号であろうと、信号の当該部分にわたってこのパワースペクトル密度の積分関数を含む。実際に、この積分関数は、音響応答の周波数帯域に関連付けられた音響エネルギのインジケータである。明らかに、周波数信号の当該部分がいくつかの区分に細分化されている場合に、周波数が連続する各区分に対して各区分を区切る周波数の帯域にわたって音響応答の積分関数を計算することが可能である。次に、各積分関数をエネルギベクトルの要素とすることができる。同じく、単一要素だけを生成するために、エネルギベクトルの様々な要素にそれぞれ特定の重みを割り当ててそれらを組み合わせることも可能である。周波数信号の当該部分の積分関数は、線形目盛での音響信号の表現で評価されることになる。
【0073】
最後に、段階3006は、段階3005のエネルギベクトル及び段階2001で得られた車両の走行速度から車両が走行している道路上の水位を評価することにある。実際に、段階1003では、水位に敏感な様々な周波数帯域の定量化は、いずれかの道路に対して少なくとも水位と車両の走行速度とを変化させることによって行われ、段階3005で識別されたエネルギベクトルを連続的に説明する関数を識別することを可能にする。この学習フェーズの段階1003により、走行速度及び段階3005で識別されたエネルギベクトルから少なくともエネルギベクトル及び走行速度パラメータの双線形関数を使用して道路上の水位を評価することが可能になる。
【0074】
図2aは、決められた水位を有する道路を移動速度、タイヤ圧、積載荷重のような走行条件を等しく安定化させて走行する車両の音響応答を示している。点線の曲線2101は、V設計という「オールシーズン」タイプのトレッド窪みの特殊パターンを特徴とする第1のタイヤの応答を表している。連続線の曲線2102は、トレッドの幅にわたって4本の縦溝を有する「夏」タイプの設計により、その窪みパターンが第1のタイヤと異なる第2のタイヤの音響応答を表している。この2つのタイヤの音響応答は非常に類似している。しかし、周波数帯域に基づくと、2つのタイヤの間には異なる挙動が観察される。実際に、4~15kHzの広い周波数帯域では,夏タイプのタイヤは、オールシーズンタイプのタイヤよりも多いノイズを発している。次に、15kHzを超えると、オールシーズンタイプのタイヤは、夏タイプのタイヤよりもノイズが大きくなる。2つのタイヤの音響挙動に関するこれらの変動は明確であるが、走行速度又は道路上の水位が変化しても無視することができる程度に留まる。
【0075】
図2bは、同じ濡れた地面を等しい走行条件下で走行する同じタイヤに対するトレッドの摩耗レベルの影響を表している。点線の曲線2201は、第1の摩耗状態の応答を表している。連続線の曲線2202は、タイヤの第2の摩耗状態に関する音響応答を表している。ここでもまた、タイヤの摩耗レベルにリンクする動態は小さい。更に、周波数帯域の関数としての感度は、特に15kHz付近で逆転している。
【0076】
図2cは、同じ水位上を等しい走行条件下で走行する同じタイヤに対する音響応答への地面の影響を表している。点線の曲線2301は、第1の地面に対するタイヤの応答を表している。連続線の曲線2302は、第2の地面を走行するタイヤの音響応答を表している。今回は、地面の性質にリンクする動態は小さい。
【0077】
図3aは、同じタイヤ、特にその摩耗レベルが同じタイヤを装備した車両が同じ濡れた道路、すなわち、同じ水位上を走行した場合の音響応答を示している。しかし、連続線の曲線3101及び3102は、車両が2つの異なる水位上を30km/hで走行する場合の車両の音響応答を示している。一方、点線の曲線3103及び3104は、同じ2つの水位上を100km/hで走行した場合の音響応答を示している。可変走行速度の関数としてのこれら音響応答の間には、水位変化の場合よりも更に有意な非常に激しい差が認められ、それにより、道路上の水位を推定するために少なくともこのパラメータを考慮することが不可欠になる。
【0078】
図3bは、同じタイヤを装備した車両に関して走行条件が等しい場合の音響応答を示している。しかし、車両が走行する道路は、様々な音響応答の間で300~1500マイクロメートルの範囲で異なる水位を有する。これらの水位は、実験室タイプの測定デバイスを使用して測定されたものである。これは、例えば、LUFT社からのMARWIS 8900.U03デバイスである。
【0079】
3201から3204の間の応答曲線の付番の増加順は、300から1500マイクロメートルの間の約375マイクロメートルステップごとの道路上水位の増加順に対応する。これらの曲線は、道路上の水位に応じた振幅レベルの観点から分類されることに注意されたい。曲線間の偏差は、4kHzから有意である。音響応答の観測周波数が高くなるほど、応答間の偏差が大きくなり、特に7~10kHzのレベルの交差が注目される。実際に、4~7kHzでは、水位に応じた動態は5dB未満、7~10kHzでは、5dBを超えて7dB未満である。10kHzを超えると、10dBに達してそれを超える可能性がある極限曲線間の動態が得られる。
【0080】
図4は、第1の好ましい実施形態に従った周波数信号からの整流周波数信号の構成を示している。段階1002に従って車両の音響応答の特性曲線の傾きを識別した後で、段階2003で記録された周波数信号から走行速度に関連付けられた周波数信号の特性曲線が構成される。そのためには、この特性曲線の基準点又はそれが区分的に定められる場合は複数の点を識別しなければならない。この基準点は、走行速度に関連付けられた特性曲線の所与の周波数に対する値に該当する。低い周波数に対して応答動態が低いので,この点を7kHzよりも低い周波数帯域に取ることが好ましい。更に、学習フェーズの段階1001で識別された水位に対して感度の鈍い周波数帯域にわたって周波数信号の平均値を取ることも可能である。グラフは、最初に、段階2003で測定された周波数信号である曲線4101と周波数信号に関連付けられた点線の特性曲線4102とを示し、後者は、ここでは段階1002で4kHz~22kHzの周波数帯域にわたる傾きが識別された線形曲線であり、それに対して段階1001に従って4kHzの基準点は、4kHz付近の水位に対して感度の低い周波数帯域にわたる中央値として評価された。太い灰色線の曲線4103で表される整流周波数信号は、周波数信号4101と特性曲線4102の対数目盛での差によって得られる。
【0081】
図5は、整流周波数信号5101を表している。後者は、対数表現でゼロ値を中心に振動している。最初の段階は、この整流周波数信号での正のブロック5102を識別することにある。実際に、これらのいわゆる正のブロックは、音響応答の重要なエネルギ寄与物である。このためには、ゼロ値交差5103に対応する2つの周波数で区切られたゼロ値の上に位置する各ブロックが分離される。次に、分離されたブロックは、ブロックの音響エネルギを代表する単純なメトリック5104を通して認定しなければならない。この目的のために、分離されたブロックの平均値又は中央値は、ブロックの形状に全く懸念されない音響エネルギの良好な推定子である。ブロックの最大値は、実施しやすいエネルギのインジケータであるが、ブロックの総エネルギとの相関はあまり良くない。最後に、このブロックの推定子は、最もエネルギの高いブロックだけを保持するために閾値と比較しなければならない。この目的のために、ゼロ値よりも3dB高い閾値は、少数のブロックだけを保持することを可能にする良いインジケータである。これらのブロック5105だけを保持することにより、分類に対して強い動態を有するという保証があり、それにより、本方法の差別化機能が高まる。
【0082】
最もエネルギの高いブロックを識別した後で、この選択を水位に最も感度の高いブロックと組み合わせる必要がある。これら2つのブロックの組合せは、水位に対して最も感度が高いものになると同時に本方法の差別化機能を確実に改善するので、地面の水位を識別するのに最も有望なブロックを識別することを可能にする。しかし、このブロックは、完全な音響スペクトルを識別することを可能にする最もエネルギの高いブロックの1つともなる。すなわち、特に1.5mm未満の水位に対して道路上の水位を識別するための実効メトリックが構成される。この実効メトリックは、最もエネルギが高いと共に水位に対して感度の高いブロックの周波数帯域で区切られた線形目盛での周波数信号の該当部分の積分である。
【0083】
最後に、このメトリックを評価し、周波数信号が得られた車両の走行速度を識別した状態で、この段階1003で識別された道路上の水位と周波数信号の実効メトリックと車両の走行速度とをリンクする双線形関数を使用して道路上の水位を識別しなければならない。この双線形関数は、例えば、独立パラメータを有する2つの関数の積である。その独立パラメータは、一方では走行速度であり、他方では周波数信号の当該部分を線形目盛で積分した実効メトリックである。この積の結果は、直接的に道路上の水位である。
【0084】
図6は、数十ヘルツの周波数ピッチを使用してデシベル目盛で表された音響レベルの表現である。このタイプの表現により、車両であるか装着セットであるかを問わず、機械部品から分離されたモードを限定しながら全体の音響レベルを際立たせることが可能になる。この事例では、記録は直進する車両の同じ走行速度に対応する。道路上の水の影響を制限するために、マイクロフォン測定は車両の後部、例えば、車両の第2の車軸のホイールアーチで行われる。この場合に、車両の第1の車軸の通過後に道路上に残る水位が制限され、このパラメータがマイクロフォンで記録される音響レベルに与える影響力は無視することができる程度になる。勿論、道路上の水位が妥当なものでありさえすれば、前車軸での測定も意図している。道路のテクスチャの認定は、2ミリメートル未満の低い水位の場合に適切である。
【0085】
曲線6101から6104は、MDT(平均テクスチャ深さの頭字語)が滑らかな地面に対応する0.1mm未満から非常に粗い地面に対する2.6mmに至るまで、2つの中間段階を経て変化する様々な地面の音響シグナチャーに対応している。低周波数では、これらの曲線は強く区別される。2kHzからは、道路の音響シグナチャーは、全体的に道路のテクスチャによってより影響される。
【0086】
各曲線に対して、音響シグナチャーのRMS(二乗平均平方根)値が、道路のテクスチャに敏感な周波数帯域にわたって計算される。すなわち、所与の速度に対して、RMS値は、MTDによって定められる道路のテクスチャの階級に関連付けられる。ここでは、200Hz~2kHzの広いウィンドウと500Hz~1kHzの狭いウィンドウとの2つの周波数帯域にわたってRMS値が評価される。どの分析周波数帯域でも、RMS値による音響シグナチャーの分類は不変のままである。同じく、RMS値間の偏差は有意であり、かつ十分に差別化可能である。
【符号の説明】
【0087】
1001 敏感な周波数帯域の識別
1002 特性曲線の傾きの決定
1003 各周波数帯域の感度の認定
1004 特性値及び閾値の選択
2001 走行速度の取得
図1
図2a
図2b
図2c
図3a
図3b
図4
図5
図6