IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 帝人株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】メタアラミドを含む繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/60 20060101AFI20241108BHJP
   D01F 6/80 20060101ALI20241108BHJP
   D01D 1/02 20060101ALI20241108BHJP
   D01D 5/06 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
D01F6/60 371D
D01F6/80 331
D01D1/02
D01D5/06 102Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022517998
(86)(22)【出願日】2020-10-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-09
(86)【国際出願番号】 IB2020059360
(87)【国際公開番号】W WO2021070042
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】19201719.2
(32)【優先日】2019-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ハネケ ブールストゥール
(72)【発明者】
【氏名】ヴィド ネイエンハイス
(72)【発明者】
【氏名】ラシド ギュネシュ
(72)【発明者】
【氏名】サイド ブデバー
(72)【発明者】
【氏名】山口 順久
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 悠介
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2010-0001782(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0075197(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F1/00-6/96;9/00-9/04
D01D1/00-13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
300mN/tex以上の破断強度を有するメタアラミドを含む繊維の製造方法であって、メタアラミドと80wt%以上の濃度を有する硫酸を含む紡糸原液を調製する工程と、紡糸口金を通して紡糸原液を凝固浴に送る工程とを含み、該紡糸原液が10wt%以上のメタアラミド濃度を有前記繊維が少なくとも1つの加熱工程で250~400℃の範囲の温度に加熱され、任意に続いてさらなる加熱工程で250~400℃の範囲の温度で加熱される、前記製造方法。
【請求項2】
前記メタアラミドを含む繊維の破断強度が350mN/tex以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記紡糸原液が10~30wt%の範囲のメタアラミド濃度を有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記メタアラミドが、m-フェニレン以外の芳香族部分を5モル%以下含むコポリ(m-フェニレンイソフタルアミド)である、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記紡糸原液がメタアラミドと硫酸を混合して調製される、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記紡糸原液が30~90℃の範囲の温度で調製される、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記紡糸原液が、紡糸口金を出た後、凝固浴に入る前に、気体の媒体を通過する、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記紡糸原液が、2~20mmの範囲の長さの気体の媒体を通過する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記硫酸が85wt%以上の濃度を有する、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタアラミドと硫酸を含む紡糸原液を調製し、当該紡糸原液を紡糸口金に通すことによりメタアラミド繊維を製造する方法、及び当該方法により得られたメタアラミド繊維に関する。さらに、本発明は、スルホン酸基含有量が1meq/kg以上のメタアラミド繊維、当該繊維を含むマルチフィラメント糸、および布帛と防護衣にも関する。
【0002】
アラミド繊維の紡糸法は周知である。
【0003】
KR20100001782には、アラミド繊維とその製造方法が記載されている。紡糸法では、各種パラアラミドポリマー(パラフェニレンテレフタルアミド、パラフェニレン-4,4′-ジフェニレンジカルボン酸アミド、パラフェニレン-2,6-ナフタレンジカルボン酸アミドなど)を使用することができ、ここで、パラアラミドを硫酸に溶解し、紡糸口金を通して紡糸原液を凝固浴に入れ、フィラメントを洗浄、乾燥して巻き取る。凝固浴の時間を調整して、フィラメントの断面の円形度を向上させてもよい。KR20100001782には、メタアラミドを硫酸に溶解するということは記述されていない。
【0004】
メタアラミド繊維の紡糸法が、US3094511に開示されている。本資料では、メタアラミドを有機溶媒に溶解し、紡糸口金から加熱した気柱を通す乾式紡糸法を開示している。後者の工程では、溶媒の蒸発が起こる。
【0005】
また、EP0226137などに記載されているように、紡糸口金から凝固浴に直接紡糸原液を通すメタアラミド湿式紡糸法も知られている。湿式紡糸法でも有機溶媒を使用する。
【0006】
有機溶媒の使用には、いくつかの欠点がある。法規制により、将来的には環境上の理由から、有機溶媒の使用禁止またはより厳しい条件でしか使用できなくなる可能性がある。また、有機溶媒を使用して紡糸した繊維は、溶剤を除去するために徹底した洗浄が必要であり、経済的ではない。有機溶媒から紡糸されたメタアラミド繊維は、徹底した洗浄にもかかわらず、有機溶媒を含んでいる。
【0007】
そのため、有機溶媒を使用しないメタアラミドの紡糸法が求められている。
【0008】
KR20140075197は、紡糸原液に酸化防止剤を添加して変色を防止するメタアラミド組成物に関する。KR20140075197には、濃度99%の硫酸にメタアラミド組成物を濃度20%溶解した後、メタアラミド繊維が製造されることが記載されている。紡糸口金を通した後、エアギャップを通さず、紡糸原液を直接凝固浴に入れ、フィラメントを洗浄、乾燥させ、巻き取る。KR20140075197は、300mN/tex以上の破断強度を有するメタアラミド繊維を開示していない。
【0009】
本発明の目的は、有機溶媒を実質的に含まず、良好な機械的特性、特に高い破断強度を有するメタアラミド繊維を提供することである。また、本発明の目的は、改良されたメタアラミド繊維を提供することであり、特に難燃性が向上し、断面の均一性が向上したメタアラミド繊維を提供することである。
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は、300mN/tex以上の破断強度を有するメタアラミドを含む繊維の製造方法を提供し、この製造方法は、メタアラミドと80wt%以上の濃度を有する硫酸とを含む紡糸原液を調製する工程と、紡糸口金を通してこの紡糸原液を凝固浴に入れる工程とを含み、ここで、紡糸原液は10wt%以上(紡糸原液の重量に対して)のメタアラミド濃度を有する。
【0011】
好ましくは、メタアラミドを含む繊維は、破断強度が350mN/tex以上、より好ましくは400mN/tex以上、さらに好ましくは450mN/tex以上である。また、本方法では、500mN/tex以上の破断強度を有するメタアラミドを含む繊維をもたらし得る。
【0012】
メタアラミドを含む繊維の破断強度は、マルチフィラメント糸についてはASTM D7269-17に、シングルフィラメントについてはASTM D3822に準じて測定する。
【0013】
また、メタアラミドを含む繊維をメタアラミド繊維と呼ぶこともある。
【0014】
本発明の目的のために、メタアラミドという用語は、芳香族部分の間に70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上のメタ配向結合を有する全芳香族ポリアミドポリマーおよびコポリマーの種類を意味する。一実施形態では、95%以上またはすべて(すなわち100%)の結合がメタ配向の結合である。そのため、芳香族部分の間のアミド結合は、芳香環のメタ配向またはほぼメタ配向の位置に実質的に配置されている(例えば、1,3-フェニレン基または1,3-ナフタレン基のように)。
【0015】
本発明のメタアラミドは、式IおよびIIの繰り返し単位であってもよい:
-[-NH-Ar1-NH-CO-Ar2-CO-]-(式I)
-[-NH-Ar1-CO-]-(式II)、
ここで、Ar1およびAr2は、同じであっても異なっていてもよい芳香族の2価のメタ配向ラジカルであり、Ar1およびAr2の少なくとも1つは、m-フェニレンラジカルである。
【0016】
メタアラミドは、メタ型芳香族アミンと(メタ)ジカルボン酸ハライドの重合により製作することができる。
【0017】
好適な芳香族(メタ)ジアミンは、メタフェニレンジアミン、3,4′-ジアミノジフェニルエーテル、および3,4′-ジアミノジフェニルスルホンであり;その芳香族環状構造に結合した、ハロゲン原子および/または1~3個の炭素原子を有するアルキル基などの置換基を有するそれらの誘導体、例えば2,4-トルイレンジアミン、2,6-トルイレンジアミン、2,4-ジアミノクロロベンゼン、および2,6-ジアミノクロロベンゼンを使用してもよい。好ましくは、メタフェニレンジアミンまたはメタフェニレンジアミンを85モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上含有する混合ジアミンを使用する。
【0018】
好適な芳香族(メタ-)ジカルボン酸ジハライドは、イソフタル酸のハロゲン化物、例えばイソフタル酸クロリドおよびイソフタル酸ブロミドであり;置換基、例えばハロゲン原子および/または1~3個の炭素原子を有するアルコキシ基を有するそれらの誘導体、例えば3-クロロイソフタル酸クロリドおよび3-メトキシイソフタル酸クロリドを使用できる。好ましくは、イソフタル酸クロリドと、イソフタル酸クロリドを85モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上含有する混合カルボン酸ハライドが使用できる。
【0019】
本発明のメタアラミドは、メタ型芳香族ジアミンおよびメタ型ジカルボン酸ハライド以外に、さらにモノマーを含んでいてもよい。ジアミンおよびカルボン酸ハライドと組み合わせて使用できる好適な共重合成分としては、パラ-フェニレンジアミン、2,5-ジアミノクロロベンゼン、2,5-ジアミノブロモベンゼン、およびアミノアニシジンなどのベンゼン誘導体;および1,5-ナフチレンジアミン、4,4′-ジアミノジフェニルエーテル、4,4,-ジアミノジフェニルケトン、4,4′-ジアミノジフェニルアミン、および4,4′-ジアミノジフェニルメタンなどが挙げられる。好適なコモノマー芳香族ジカルボン酸ジハライドとしては、テレフタル酸ジクロリド、1,4-ナフタレンジカルボン酸ジクロリド、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジクロリド、4,4′-ジフェニルジカルボン酸ジクロリド、および4,4′-ジフェニルエーテルジカルボン酸ジクロリドなどが挙げられる。一実施形態では、本発明のメタアラミドポリマーは、このような共重合成分を15モル%以下、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下の含有量で含んでいてもよい。
【0020】
一実施形態では、本発明で使用されるメタアラミドは、m-フェニレン以外の芳香族部分を5モル%以下含むコポリ(m-フェニレンイソフタルアミド)である。別の実施形態では、メタアラミドは、ポリ(m-フェニレンイソフタルアミド)である。
【0021】
一実施形態では、紡糸原液はパラアラミドポリマーを含まない、すなわち、パラアラミドポリマーを5wt%未満、好ましくは1wt%未満、より好ましくは0.5wt%未満、最も好ましくは0.1wt%未満含む(紡糸原液の重量に対して)。
【0022】
一実施形態では、紡糸原液は、80wt%以上の濃度の硫酸とポリマーを含み、このポリマーは上で定義したメタアラミドをからなる。紡糸原液は、ポリマー、好ましくは上で定義したメタアラミドからなるポリマーと硫酸から構成されていてもよい。紡糸原液(および得られる繊維)には、添加物、特に酸化防止剤は含まれていなくてよい。
【0023】
紡糸原液は、紡糸原液の重量に対して、好ましくは10~30wt%、より好ましくは12~20wt%、さらに好ましくは14~16wt%の範囲のメタアラミド濃度を有することが好ましい。
【0024】
紡糸原液は、メタアラミドと硫酸を混合して調製してもよい。硫酸とポリマーの混合は、(二軸スクリュー)押出機や(二軸)混練機を用いて、好ましくは脱気を含めて行ってもよい。
【0025】
好ましくは、紡糸原液は30~90℃の範囲の温度で調製する。
【0026】
好ましくは、本発明の紡糸法は、ドライジェット湿式紡糸法である。これは、紡糸原液が紡糸口金を出た後、凝固浴に入る前に気体媒体を通過することを意味する。メタアラミドと硫酸を含む紡糸原液を、紡糸口金を通して凝固浴に入れて繊維へと処理する。スピニングマスを脱気し、紡糸温度まで加熱する。紡糸温度、すなわち紡糸原液が紡糸口金に導かれて通過する温度は、好ましくは110℃未満、より好ましくは25~80℃、または45~60℃の範囲内である。
【0027】
ドライジェット湿式紡糸法では、まず液状の紡糸原液が空気などの非凝固気体雰囲気を通過し、その直後に凝固浴に導かれる。スピニングマスが通過する気体ゾーン(エアギャップともいう)で、メタアラミドを延伸する。凝固後、形成されたフィラメントを凝固浴から取り出し、洗浄、乾燥してボビン上に取り込む。本発明の方法で使用される紡糸口金は、完全パラ-芳香族ポリアミドのドライジェット湿式紡糸法においてそれ自体周知のタイプのものであってもよい。気体の非凝固媒体は、好ましくは空気で構成される。
【0028】
気体媒体(またはエアギャップ)は、好ましくは2~20mm、より好ましくは3~15mm、さらに好ましくは5~10mmの範囲の長さを有している。
【0029】
本発明の方法では、紡糸口金の口を出たスピニングマスを、非凝固性の気体媒体中で延伸する。凝固浴を出たときのフィラメントの長さと、紡糸口を出たときのスピニングマスの平均長さの比である延伸度は、1.5~15、好ましくは2~6の範囲であってよい。
【0030】
凝固浴の組成は様々である。全体または一部が水や、塩基、酸、塩、有機溶媒などの他の物質で構成される。凝固浴は、0~40wt%、好ましくは2~20wt%の濃度を持つ希硫酸水からなるのが好ましい。凝固浴が希硫酸水を含む実施形態では、凝固浴のpHは、7未満、好ましくは2未満のpHを有していてもよい。別の実施形態では、凝固浴は、0~10wt%、好ましくは0.05~5wt%、特に0.1~1wt%の範囲の濃度を持つ希釈された苛性水溶液、例えばNaOH水溶液で構成されていてもよい。凝固浴は、水、特に軟水または脱塩水で構成されていてもよい。
【0031】
凝固浴の温度は所望の任意の値でよい。他の紡糸条件に依存し、凝固浴の温度は一般的に-10℃~50℃、好ましくは0℃~25℃、より好ましくは2~10℃の範囲である。
【0032】
少量の残留酸は繊維の特性に悪影響を及ぼす可能性があるため、使用した硫酸は、特に洗浄または中和と洗浄によって、紡糸繊維から完全に除去しなければならない。中和は、凝固によって得られた繊維を、アルカリ性物質の溶液、例えばNaOH、NaHCOまたはNaCOの苛性溶液を用いて、室温または高温の処理で行ってもよい。一実施形態では、繊維は、0.1~2wt%、好ましくは0.3~1wt%の範囲のNaOH濃度を有する溶液で凝固後に処理する。好ましくは、中和溶液は9以上のpHを有し、より好ましくは11以上のpHを有する。
【0033】
一実施形態では、繊維は、凝固後に水(例えば、脱塩水または軟水)で処理するだけであり、特に1回、2回、3回、または3回を超えて(中和を行わずに洗浄のみ)処理する。好ましい実施形態では、繊維は洗浄し、中和し、再び洗浄する。洗浄した後、繊維を乾燥させる。これは、オンラインまたはオフラインのいずれかの便利な方法で行ってもよい。(中和と)洗浄の直後に、例えば、50~220℃、好ましくは75~200℃、より好ましくは100~175℃または125~150℃の範囲の温度を有する加熱ローラー上に繊維を通過させることにより、乾燥を行うことが好ましい。
【0034】
繊維の破断強度を向上させるために、任意に、本発明による方法で得られた繊維を湿式延伸工程に付すことができる。湿式延伸工程では、凝固した湿った繊維に張力をかけ、延伸率を1~2倍、好ましくは1.1~1.5倍にする。この方法のこの段階では、[湿式延伸工程後の繊維の長さ]÷[湿式延伸工程前の繊維の長さ]を延伸率とすることができる。連続的なオンライン法では、糸をガイドするゴデット(ガイドローラー)の湿式延伸の前後の速度に基づいて延伸率を決定してもよい。つまり、[湿式延伸工程後のゴデット(ガイドローラー)の速度]÷[湿式延伸工程前のゴデット(ガイドローラー)の速度]となる。好ましくは、湿式延伸の工程は、室温を超える温度で凝固と洗浄の間、洗浄中、または洗浄後に行う。
【0035】
繊維は、不活性または非不活性ガス中で張力下にて加熱する熱処理に付してもよい。熱処理は、乾燥工程の後(オンライン)に行ってもよいし、そうでなければ、繊維の巻き取り後(オフライン)に行ってもよい。熱処理は、1つまたは複数の張力下の加熱工程を含んでもよい。一実施形態では、本発明による方法は、少なくとも1つの加熱工程において、250~400℃、好ましくは280~350℃、好ましくは300~320℃の範囲の温度に繊維を加熱することを含む。
【0036】
繊維の熱処理は、少なくとも2つの段階で構成されていてもよい。本発明による1つの方法では、上述のような第1加熱工程で得られた繊維を、第2加熱工程で、250~400℃、好ましくは280~350℃、好ましくは300~320℃の範囲の温度に加熱する。
【0037】
好ましい実施形態では、少なくとも1つの加熱工程では、1.5~10、好ましくは1.5~2.5の範囲の延伸率になるような張力をかけ、他の加熱工程では、張力をかけない(弛緩)か、処理装置(ガイドロールなど)上を繊維が搬送できる程度の張力、または1.5以下の延伸率になるような張力をかける。第1加熱工程または第2加熱工程のどちらにでも、より高い張力をかけてもよい。第1加熱工程により高い延伸率をかけるのが好ましい。別の実施形態では、各加熱工程中に張力がかけられ、その結果、総延伸率が1.5~10、好ましくは1.5~2.5の範囲になる。この方法のこの段階では、[加熱工程後の繊維の長さ]÷[加熱工程前の繊維の長さ]を延伸率としてもよい。延伸率は1つの熱処理工程のものを指し、総延伸率は処理されたすべての熱処理工程で達成された延伸(累積)を指す。連続的なオンライン法では、糸をガイドするゴデット(ガイドローラー)の熱処理の前後の速度に基づいて延伸率を決定してもよい。つまり、[少なくとも1つの加熱工程後のゴデット(ガイドローラー)の速度]÷[少なくとも1つの加熱工程前のゴデット(ガイドローラー)の速度]である。
【0038】
この方法は、湿式延伸工程と熱処理を含んでもよい。
【0039】
本発明による方法は、溶剤ベースの方法である。メタアラミドポリマーの溶媒には濃硫酸を使用する。好ましくは、硫酸は85wt%以上、より好ましくは90wt%以上、さらに好ましくは95wt%以上の濃度である。98wt%以上または99wt%以上の濃度の硫酸が特に好ましい。
【0040】
この方法からメタアラミド繊維、好ましくはマルチフィラメント糸が得られる。また、本発明は、上記のいずれかの実施形態に開示されているように、本発明の方法によって得られるメタアラミド繊維にも関する。
【0041】
本発明の範囲において、繊維は、幅に対する長さの比率が高い柔軟な物質の単位と理解される(幅は、繊維の長さに垂直な断面積を横切って定義される)。繊維には、特に長さ制限のないフィラメント、1本以上の撚り混繊または無撚りフィラメントを含むフィラメント糸(モノフィラメントおよびマルチフィラメント糸)、実質的に撚りをかけずに束ねた多数のフィラメントの集まりから成るトウなど、通常のあらゆる種類の繊維が含まれる。紡糸中に形成される実質的に長さ制限のないフィラメントは、必要に応じて切断してステープルファイバーにしてもよく、順番に紡績糸へと処理することができる。フィラメント糸は、切断してさらに小さな長さのフロックと呼ばれるものにしてもよい。さらに、フィラメント糸は処理してパルプにしてもよい。これらの繊維の変形は「繊維」という言葉に包含される。マルチフィラメント糸は、本発明による繊維と他の材料の繊維を含む可能性がある。本発明の繊維またはフィラメントの断面は、どのような形状でもよいが、典型的には円形(丸い)である。
【0042】
また、本発明は、300mN/tex以上の破断強度を有し、スルホン酸基含有量が0.001wt%(質量/繊維質量)以上であるメタアラミド繊維にも関する。一般に、スルホン酸基の含有量は1wt%以下、好ましくは0.5wt%以下、より好ましくは0.3wt%以下である。また、ppmで表してもよく、そうするとスルホン酸基の含有量は>1ppm、好ましくは5~300ppm、より好ましくは10~100ppmとなる。スルホン酸基は、メタアラミドの溶媒として硫酸を使用した結果として形成される。芳香族では、芳香族基の水素部分がスルホン酸基に置き換わる芳香族置換反応がある程度起こる。これらの基が中和されていることが好ましい。
【0043】
スルホン酸基の含有量は、熱処理をしていない未処理の糸の試料で、核磁気共鳴分析(NMR)、特にH-NMRによって測定される。スルホン酸基含有量の測定方法を、実施例の項に記載する。
【0044】
また、繊維のスルホン化度を得るために、硫黄分を測定することもできる。一実施形態では、本発明による繊維の硫黄含有量は、0.025wt%以上、好ましくは0.05wt%以上(繊維の重量に対して)である。硫黄含有量は、得られたメタアラミド繊維(熱処理した繊維を含む)について測定してもよい。硫黄含有量は、実施例の項で詳述するように、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES)によって測定してもよい。
【0045】
メタアラミド繊維のスルホン化は、メタアラミド繊維の難燃性や耐炎性の向上に有利なようである。特に、本発明の繊維のLOI(限界酸素指数)は、有機溶媒から紡糸したメタアラミド繊維よりも高い。好ましくは、本発明によるメタアラミド繊維のLOIは、有機溶媒から紡糸した繊維と比較して、10%以上増加している。LOIは、実施例の項で詳述するように、ASTM D2863に準じて測定する。
【0046】
好ましくは、メタアラミド繊維は、破断強度が350mN/tex以上、より好ましくは400mN/tex以上、さらに好ましくは450mN/tex以上である。メタアラミド繊維は、500mN/tex以上の破断強度を有していてもよい。
【0047】
メタアラミド繊維の破断強度は、マルチフィラメント糸についてはASTM D7269-17、シングルフィラメントについてはASTM D3822に準じて測定する。
【0048】
本発明のメタアラミド繊維の利点の一つは、有機溶媒の含有量が少ないことである。一実施形態では、メタアラミド繊維は、250ppm未満、好ましくは100ppm未満、より好ましくは50ppm未満の有機溶媒含有量を有し、これは0.025wt%未満(糸の重量に対して)、好ましくは0.01wt%未満、より好ましくは0.005wt%未満の有機溶媒含有量に相当する。これは、有機溶媒、特にNMP(N-メチルピロリドン)、THF(テトラヒドロフラン)、DMAc(ジメチルアセトアミド)の合計含有量が250ppm未満、好ましくは100ppm未満、より好ましくは50ppm未満であることを意味する。なお、有機溶媒含有量が100ppm未満のメタアラミド繊維を「実質的に有機溶媒を含まない」と言うことがある。残留有機溶媒の含有量が非常に少ないのは、メタアラミドの重合時に使用された溶剤の影響かもしれない。
【0049】
有機溶媒の含有量は、具体的な有機溶媒に応じて種々の方法で測定してもよい。繊維中の有機溶媒の含有量、例えばNMPやDMAcの含有量を測定するには、一般的にガスクロマトグラフィー(GC)、NMR(核磁気共鳴)、MS(質量分析)が適している。本発明の文脈では、有機溶媒の含有量は、実施例の項で詳述するように、ガスクロマトグラフィーによって測定する。
【0050】
また、本発明は、このメタアラミド繊維を含むメタアラミドマルチフィラメント糸にも関する。メタアラミドマルチフィラメント糸は、メタアラミド繊維からなっていてもよい。
【0051】
好ましくは、メタアラミドマルチフィラメント糸は、350mN/tex以上、より好ましくは400mN/tex以上、さらに好ましくは450mN/tex以上の破断強度を有する。好ましくは、メタアラミドマルチフィラメント糸は、15%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは25%以上の破断伸度を有する。一実施形態では、メタアラミドマルチフィラメント糸は、350mN/tex以上の破断強度と、25%以上の破断伸度を有する。メタアラミド糸の機械的特性は、ASTM D7269-17に準じて測定する。
【0052】
一実施形態では、本発明は、個々のフィラメントの50%以上が、[最大内接円の直径]に対する[最小外接円の直径]の比率の平均値が1.3以下、好ましくは1.1以下であるような丸い断面を有するマルチフィラメント糸に関する。
【0053】
「最小外接円」とは、マルチフィラメント糸の1本のフィラメントの断面の輪郭と少なくとも2点で外接し、1本のフィラメントの断面の全領域を含む最も小さいまたは最小の円を意味する。「最大内接円」とは、前記断面の輪郭と少なくとも2点で内接し、かつ前記断面の輪郭内に収まる最も大きいまたは最大の円を意味する。[最大内接円の直径]に対する[最小外接円の直径]の比率の平均値は、マルチフィラメント糸の断面を用意し、50本の別個のフィラメントについて最小外接円の直径、最大内接円の直径、および対応する比率を求め、その平均値を算出することで求められる。完全な円形の場合、最小の外接円と最大の内接円が重なり、直径が同じになるため、比率は1.0になる。
【0054】
この丸い断面は、先行技術のメタアラミド繊維に対する本発明のメタアラミド繊維のもう一つの利点である。
【0055】
本発明のメタアラミド繊維は、先行技術のメタアラミド繊維よりも空隙率が低い。空隙率が低いため、本発明の繊維はより優れた機械的特性を持つかもしれない。特に有利なのは、本メタアラミド繊維の特性の組み合わせである。この繊維は、均一で丸い断面を持ち、難燃性が向上し、空隙率が低くなっている。
【0056】
また、本用途は、本発明のメタアラミド繊維および/またはメタアラミドマルチフィラメント糸を含む布帛にも関する。布帛は、織った、編んだ、または組んだ布帛、または織物または不織の布帛の形態を有していてもよい。
【0057】
本発明のメタアラミド繊維は、例えば、編物や織物を含む布帛、またはホースの補強に用いられる紐における用途、または防護衣、特に耐火性用途におけるテキスタイル用途に用いてもよい。本発明のメタアラミド繊維は、メタアラミド繊維やその繊維を含む織物が直接肌に触れるテキスタイル用途に特に適している。
【0058】
また、本発明は、本発明の布帛を含む防護衣にも関する。防護衣は、例えば、手袋、ジャケット、ズボン、シャツなどであってよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
図1】フィラメントの断面を撮影した顕微鏡写真。
【0060】
本発明は、以下の実施例を参照してより詳細に説明されるが、これらは本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例
【0061】
測定方法
1.機械的特性
メタアラミドマルチフィラメント糸の破断強度、破断伸度、破断靭性は、ASTM D 7269-17に準じて測定する。
【0062】
2.スルホン酸基含有量
スルホン酸基の含有量はH-NMRによって測定する。未処理の糸の非熱処理試料20mgを1mLのDMSO-d6に溶解し、その550μLを5mmのNMR試料管に移す。H NMRスペクトルは、BBFO-plus 5mmブロードバンドプローブを装備したBruker Avance III 400MHz NMRスペクトロメーターを用いて、300Kで記録する。スペクトルは、プリスキャンディレイ6秒およびアクイジションタイム4秒を用い、30°の励起パルスで、64回の積算スキャンを記録する。得られたH NMRスペクトルは、DMSO-d6の残留溶媒シグナルを2.5ppmに設定して規準とした。スルホン酸基の含有量は、下記式で算出し、meq/kg(mmol/kg)で表す。
sMPD=integral(singlet@8.97ppm)[mol]
meta aramid=(integral8.86-7.08ppm-(6*AsMPD))/8[mol]
sMPD=(AsMPD*186.1844)[mg]
meta aramid=(Ameta aramid*238.2414)[mg]
S=(sMPD/(sMPD+meta aramid))*(32.065/186.1844)*100%
スルホン酸基含有量=106*(S/100)/32.065[meq/kg]
【0063】
3.硫黄含有量
硫黄の含有量は、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES)で測定してもよい。繊維100mgに濃硝酸(70wt%)9mlを加える。この混合物を、Ultrawave(Milestone社製)中で、透明な液体が得られるまでマイクロ波に曝し分解する。MilliQ水を加えて容量を25mlに調整する。ろ過によってこの溶液から析出物を除去する。澄んだ濾液をPerkin Elmer Optima 8300 DV装置中でICP-OESによって分析する。硫黄含有量の測定には、181,972nmと180,669nmの波長の輝線を使用する。
【0064】
4.有機溶媒含有量
有機溶媒の含有量はガスクロマトグラフィーで測定する。約l.0mgの繊維を採取し、電気炉で500℃以上に加熱した。ガスクロマトグラフィー(株式会社島津製作所、型式:GC-2010)を用いて、繊維から蒸発したアミド溶媒量を測定した。その後、アミド系溶媒を標準試料として作成した検量線を用いて、繊維中の残留溶媒濃度を算出した。
【0065】
5.相対粘度
ポリマー試料を50℃の真空オーブン中で2時間乾燥させ、水分を除去する。その後、乾燥した試料を室温で一晩かけて硫酸に溶解する。続いて、96%(w/w)硫酸に溶解した0.25%(w/V)の試料溶液を、ウベローデ型粘度計(Schott AVS370など)中において25℃で流出時間を測定した。同じ条件で、溶媒の流出時間も測定した。観察された2つの流出時間の比として相対粘度を算出した。
【0066】
6.顕微鏡観察
溶かしたパラフィン中に糸を埋め込み、約5分間放置して固める。その後、埋め込んだ試料をミクロトームで繊維軸に垂直に切断し、厚さ5~7μmの切断片を得る。その後、切断片をスライドグラスに乗せ、加熱してパラフィンを溶かす。その後、キシレンとエタノールで溶けたパラフィンを除去した。次に、光学顕微鏡(株式会社ニコン製、商品名”ECLIPSE”LV100N)を用いて繊維の断面を観察・撮影し、断面写真を得る。倍率は100~1000の範囲で必要に応じて選択する。
【0067】
7.LOI
限界酸素指数(LOI)は、ASTM D2863に準じて測定する。各試料から、必要な本数の糸を組み合わせて168000dtexの糸試料を作成する。糸の公称線密度に基づいた、5±3mN/texの巻き取り時糸張力で、糸を高精度なリールに巻き取る。この試料は、細い銅線で囲まれている。各試験片は、長さ約150mm、幅約10±0.5mm、厚さ約3±0.25mmである。試験片には、点火する端から約50mmの位置に印をつける。試験の直前に、試験片を23±2℃、相対湿度50±5%に88時間以上馴染ませる。試験片は,ASTM D2863のオプションA(上面点火)に準じて試験した。
【0068】
実施例1
相対粘度1.55のm-アラミドポリマー(ポリ(m-フェニルイソフタルアミド))を含む紡糸原液から繊維を紡いだ。Theysohn社製20mm二軸押出機中で、このm-アラミドポリマーに99.8wt%の硫酸をポリマー濃度18w/w%になるように加え、温度85℃、回転数300rpmで混合し紡糸原液を得た。この紡糸原液を、55℃でフィルター、85℃で紡糸口金、エアギャップを通して静止凝固浴に入れて、フィラメントへと処理した(表1に示す条件化下)。凝固浴の温度は3℃であった。
【0069】
【表1】
【0070】
凝固後に得られたマルチフィラメント糸を、続いて水、0.4%NaOH、および再度水の槽を通し、洗浄と中和を行った。その糸を150℃で乾燥させ、ボビン上に巻いた。
【0071】
乾燥後に得られた糸(「未処理の糸」とも表記)の特性を測定した。
【表2】
【0072】
試料1-1のスルホン酸基含有量を測定し、116meq/kgであった。試料1-1は、2段階のプロセスで熱処理を行った。糸をボビンから引き出し、延伸率1.6を適用した第1オーブンと、延伸率を1、温度333℃に保った第2オーブンを通した。延伸率とは、オーブン後の速度をオーブン前の速度で除したものとして定義される。両方のオーブンでの滞留時間(オーブン間の速度に基づく)は18.8秒であった。
【0073】
【表3】
【0074】
実施例2
相対粘度1.55のm-アラミドポリマーを含む紡糸原液から繊維を紡いだ。Theysohn社製20mm二軸押出機中で、このm-アラミドポリマーに99.8wt%の硫酸をポリマー濃度16wt/wt%または17.5wt/wt%になるように加え、温度55℃(2-1、2-3)または60℃(2-2、2-4)、回転数450rpmで混合し、紡糸原液を得た。この紡糸原液を、フィルター、紡糸口金、延伸率3.41を適用した5mmのエアギャップを通して静止凝固浴に入れて、フィラメントへと処理した(表4に示す条件下)。凝固浴の温度は5℃であった。
【0075】
【表4】
【0076】
凝固後に得られたマルチフィラメント糸を、続いて水、0.25%NaOH、および再度水の槽を通し、洗浄と中和を行った。その糸を150℃で乾燥させ、ボビン上に巻いた。乾燥後に得られた糸(「未処理の糸」とも表記)の特性を測定した。
【0077】
【表5】
【0078】
【表6】
【0079】
試料2-3は、2段階のプロセスで熱処理を行った。糸はボビンから引き出し、温度305℃で様々な延伸率を適用した第1オーブンと、延伸率を1、温度333℃に保った第2オーブンを通した。延伸率とは、オーブン後の速度をオーブン前の速度で除したものとして定義される。両オーブンの滞留時間は、両オーブン間の速度から算出した。試料2-3の硫黄含有量を測定し、0.18wt%であった。
【0080】
【表7】
【0081】
実施例3
相対粘度1.58のm-アラミドポリマーを含む紡糸原液から繊維を紡いだ。Clextral社製53mm二軸押出機中で、このm-アラミドポリマーに99.8wt%の硫酸をポリマー濃度12wt/wt%になるように加え、温度45℃、回転数250rpmで混合し、紡糸原液を得た。
【0082】
この紡糸原液を、50℃でフィルター、50℃で直径65μmの毛細管1000本を有する紡糸口金、エアギャップを通し、ここでフィラメントを2.9倍に延伸し、フォーリングジェット凝固浴に入れて、フィラメントへと処理した(表1に示す条件下)。凝固浴の温度は5℃であった。凝固後に得られたマルチフィラメント糸を、続いて水、0.35%NaOH、および再度水の槽を通し、洗浄と中和を行った。その糸を160℃のゴデット(ガイドローラー)上で乾燥させた。また、加熱したゴデット(ガイドローラー)上で糸を熱延伸し、ボビンに巻いてもよかった。
【0083】
【表8】
【0084】
得られた糸の特性を測定し、表9に示す。
【0085】
【表9】
【0086】
実施例4
相対粘度1.55のメタアラミドポリマーを含む紡糸原液から繊維を紡いだ。Theysohn社製20mm二軸押出機中で、このm-アラミドポリマーに99.8wt%の硫酸をポリマー濃度16wt/wt%になるように加え、温度60℃、回転数450rpmで混合し、紡糸原液を得た。この紡糸原液を、フィルター、紡糸口金、延伸率2.08を適用した5mmのエアギャップを通し、動的凝固浴に入れて、フィラメントへと処理した(表10に示す条件下)。凝固浴の温度は5℃であった。凝固浴の後、糸を2つのローラーセットの間で湿式延伸した。
【0087】
【表10】
【0088】
凝固と湿式延伸後に得られたマルチフィラメント糸を、続いて水、0.25%NaOH、および再度水の槽を通し、洗浄と中和を行った。その糸を150℃で乾燥させ、ボビン上に巻いた。
【0089】
乾燥後に得られた糸(「未処理の糸」とも表記)の特性を測定した。
【0090】
【表11】
【0091】
試料4-2は、2段階のプロセスで熱処理を行った。糸をボビンから引き出し、温度315℃で延伸率1が適用された第1オーブンと、温度315℃で延伸率を変化させた第2オーブンを通した。延伸率とは、オーブン後の速度をオーブン前の速度で除したものとして定義される。
【0092】
【表12】
【0093】
実施例5
相対粘度1.55のメタアラミドポリマーを含む紡糸原液から繊維を紡いだ。Theysohn社製20mm二軸押出機中で、このm-アラミドポリマーに99.8wt%の硫酸をポリマー濃度16wt/wt%になるように加え、温度50℃、回転数300rpmで混合し、紡糸原液を得た。この紡糸原液を、フィルター、温度約75℃に保たれ直径65μmの毛細管106本を有する紡糸口金、延伸率1.95が適用された10mmのエアギャップを通し、動的凝固浴に入れて、フィラメントへと処理した。凝固浴の後の速度は40m/minであった。凝固浴の後、糸は2つのローラーセットの間で1.4倍に湿式延伸した。凝固および湿式延伸後に得られた糸を、続いて水、0.25%NaOH、および再度水の槽を通し、洗浄と中和を行った。その糸を220℃に設定したローラー上で乾燥させた。糸は2つの連続したローラーセットに移動し、その設定を表13に示す。
【0094】
【表13】
【0095】
糸をボビン上に巻いた。この糸の機械的特性を表14に示す。
【0096】
【表14】
【0097】
実施例6 - 有機溶媒の含有量
市販のTeijinConex(登録商標) B、Nomex(登録商標)およびYantai Tayho Advanced Materialsのメタアラミド糸のNMPおよびDMAcの含有量をガスクロマトグラフィーで測定した。その結果を表13に示す。本発明による糸は、有機溶媒を含まない。
【0098】
【表15】
【0099】
実施例7 - フィラメントの断面図
比較試料1~3(実施例6で使用したもの)と本発明によるメタアラミド糸を埋め込んだバンドルの顕微鏡写真を作成した。フィラメントの断面を撮影した顕微鏡写真を図1に示す。パネルa)は比較例1のフィラメント、パネルb)は比較例2のフィラメント、パネルc)は比較例3のフィラメント、およびパネルd)は本発明によるメタアラミド糸のフィラメントの断面を示す。
【0100】
この比較からわかるように、本発明のフィラメントは均一な円形の断面を有しているが、比較例のフィラメントは長円形の断面や、直径が異なる断面を有している。
【0101】
実施例8 - 限界酸素指数
本発明によるメタアラミド糸と、市販のメタアラミド糸のLOIを測定した。その結果を表14に示す。
【0102】
【表16】
【0103】
このデータは、本発明による試料が、先行技術による比較試料よりも高いLOI値を有することを示している。
図1a)】
図1b)】
図1c)】
図1d)】