(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】静電容量検出装置、静電容量検出方法及び入力装置
(51)【国際特許分類】
G01R 27/26 20060101AFI20241108BHJP
G01R 35/00 20060101ALI20241108BHJP
H03K 17/955 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
G01R27/26 C
G01R35/00 J
H03K17/955 G
(21)【出願番号】P 2022579361
(86)(22)【出願日】2021-12-07
(86)【国際出願番号】 JP2021044856
(87)【国際公開番号】W WO2022168425
(87)【国際公開日】2022-08-11
【審査請求日】2023-05-30
(31)【優先権主張番号】P 2021016949
(32)【優先日】2021-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108006
【氏名又は名称】松下 昌弘
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【氏名又は名称】大窪 克之
(72)【発明者】
【氏名】篠井 潔
(72)【発明者】
【氏名】飯倉 昭久
【審査官】越川 康弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/116706(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/043443(WO,A1)
【文献】米国特許第09151792(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 27/26
G01R 35/00
H03K 17/955
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出電極に近接する対象物と前記検出電極との間の静電容量を検出する静電容量検出装置であって、
前記検出電極に近接して配置されたシールド電極に供給される第1交流電圧、及び、周波数と位相が前記第1交流電圧に等しく、かつ、振幅が前記第1交流電圧より小さい第2交流電圧を出力する交流電圧出力部と、
前記検出電極に接続された
第1ノードの電圧が前記第2交流電圧に近づくように前記
第1ノードから前記検出電極へ電荷を供給し、供給した前記電荷に応じた交流の検出信号を生成する検出信号生成部と、
前記検出信号に基づいて、前記静電容量の検出値を算出する算出部と、
前記シールド電極と前記検出電極との間の寄生容量であるシールド容量が変化することに伴う前記検出値の変化を補正する補正部とを有し、
前記交流電圧出力部は、
一定の振幅を有する前記第1交流電圧を発生する回路である第1交流電圧出力部と、
前記第1交流電圧の振幅を減衰させた交流電圧を前記第2交流電圧として出力する減衰回路によって構成された第2交流電圧出力部とを含み、
前記検出信号生成部は、
前記第1ノードに接続される反転入力端子と、前記第2交流電圧が印加された第2ノードに接続される非反転入力端子との電圧差を増幅し、当該増幅結果を第1信号として出力する演算増幅器と、
前記演算増幅器の前記第1信号の出力端子と前記反転入力端子との間の経路に設けられる帰還キャパシタと、
通常の動作モードにおいて前記検出電極に近接する前記対象物が存在しない場合に前記演算増幅器から出力される前記第1信号に相当する信号である基準信号を前記第1信号から減算し、当該減算結果を前記検出信号として出力する減算部とを含み、
前記補正部は、
前記通常の動作モードから補正モードに繰り返し移行し、
前記補正モードに移行した場合、前記第1交流電圧と前記第2交流電圧との振幅の差が変化するように前記
第2交流電圧出力部
の前記減衰回路を制御するとともに、前記振幅の差の変化に伴う前記検出値の変化に応じた補正値を取得し、
前記補正モードにおいて取得した前記補正値の変化に応じて前記検出値を補正する、
静電容量検出装置。
【請求項2】
前記補正部は、初期状態の前記補正モードにおいて取得した前記補正値である第1補正値と、前記初期状態より後の前記補正モードにおいて取得した前記補正値である第2補正値との差に比例した補正対象成分であって、前記シールド容量が変化することに伴う前記検出値の変化に応じた前記補正対象成分が相殺されるように前記検出値を補正する、
請求項1に記載の静電容量検出装置。
【請求項3】
前記補正部は、前記補正モードへ移行する度に前記補正対象成分を算出し、
前記通常の動作モードでは、直近の前記補正モードにおいて算出した前記補正対象成分に基づいて前記検出値を補正する、
請求項2に記載の静電容量検出装置。
【請求項4】
クロック信号に同期して、前記検出信号をデジタル信号に変換するアナログ-デジタル変換部を有し、
前記交流電圧出力部は、それぞれ第1周波数を持つ正弦波の前記第1交流電圧及び前記第2交流電圧を出力し、
前記算出部は、
前記クロック信号に同期し、前記第1周波数を持つ正弦波の同期信号と、デジタル信号に変換された前記検出信号とを乗算し、
当該乗算の結果から高調波成分を除去して得られる復調信号に応じた前記検出値を
算出する、
請求項1~3のいずれか一項に記載の静電容量検出装置。
【請求項5】
クロック信号に同期して、前記検出信号をデジタル信号に変換するアナログ-デジタル変換部を有し、
前記交流電圧出力部は、それぞれ第1周波数を持つ正弦波の前記第1交流電圧及び前記第2交流電圧を出力し、
前記算出部は、
前記通常の動作モードにおいて、前記振幅の差が第1振幅差となるように前記第2交流電圧出力部の前記減衰回路を制御し、
前記クロック信号に同期し、前記第1周波数を持つ正弦波の同期信号と、デジタル信号に変換された前記検出信号とを乗算し、
当該乗算の結果から高調波成分を除去して得られる復調信号に応じた前記検出値を算出し、
前記補正部は、
前記補正モードに移行した場合、前記振幅の差が
前記第1振幅差となるように前記
第2交流電圧出力部
の前記減衰回路を制御したときの前記検出値である第1検出値、及び、前記振幅の差が前記第1振幅差と異なる第2振幅差となるように前記
第2交流電圧出力部
の前記減衰回路を制御したときの前記検出値である第2検出値を取得し、前記第1検出値と前記第2検出値との差に応じた前記補正値
として、前記第1補正値及び前記第2補正値をそれぞれ取得する、
請求項2又は請求項3に記載の静電容量検出装置。
【請求項6】
前記補正部は、前記補正モードに移行した場合、前記第1周波数より低い第2周波数を持つ一定の振幅の変調信号により前記振幅の差が変調された前記第1交流電圧及び前記第2交流電圧を出力するように
、前記第2周波数の前記変調信号で変調された前記第1交流電圧を前記第1交流電圧出力部
から出力させるとともに、前記復調信号に含まれる前記第2周波数の交流成分の振幅に応じた前記補正値を取得する、
請求項4に記載の静電容量検出装置。
【請求項7】
クロック信号に同期して、前記検出信号をデジタル信号に変換するアナログ-デジタル変換部を有し、
前記交流電圧出力部は、それぞれ第1周波数を持つ正弦波の前記第1交流電圧及び前記第2交流電圧を出力し、
前記算出部は、
前記クロック信号に同期し、前記第1周波数を持ち、前記第1交流電圧に位相が近似した第1同期信号と、デジタル信号に変換された前記検出信号とを乗算し、
前記クロック信号に同期し、前記第1周波数を持ち、前記第1同期信号に対して位相が4分の1周期ずれた第2同期信号と、デジタル信号に変換された前記検出信号とを乗算し、
前記第1同期信号と前記検出信号との乗算結果から高調波成分を除去して得られる第1復調信号を実部とし、前記第2同期信号と前記検出信号との乗算結果から高調波成分を除去して得られる第2復調信号を虚部とする検出用複素数を取得し、
前記補正部は、
前記補正モードに移行した場合、前記振幅の差が変化するように前記
第2交流電圧出力部
の前記減衰回路を制御するとともに、前記振幅の差の変化に伴う前記検出用複素数の変化に応じた複素数を前記補正値として取得し、
初期状態の前記補正モードにおいて取得した前記補正値である第1補正値に対して、当該第1補正値の偏角がゼロに近づくように位相を補正する第1位相補正を施し、
前記初期状態より後の前記補正モードにおいて取得した前記補正値である第2補正値に対して、当該第2補正値の偏角がゼロに近づくように位相を補正する第2位相補正を施すとともに、前記検出用複素数に対して当該第2位相補正を施し、
前記第1位相補正が施された前記第1補正値の実部と、前記第2位相補正が施された前記第2補正値の実部との差に比例した補正対象成分であって、前記シールド容量が変化することに伴う前記検出用複素数の実部の変化に応じた前記補正対象成分が相殺されるように、前記第2位相補正が施された前記検出用複素数の実部を補正して得られる数値を、補正された前記検出値として取得する、
請求項1に記載の静電容量検出装置。
【請求項8】
前記算出部は、前記通常の動作モードにおいて、前記振幅の差が第1振幅差となるように前記第2交流電圧出力部の前記減衰回路を制御し、
前記補正部は、
前記補正モードに移行した場合、前記振幅の差が
前記第1振幅差となるように前記
第2交流電圧出力部
の前記減衰回路を制御したときの前記検出用複素数である第1検出用複素数、及び、前記振幅の差が前記第1振幅差と異なる第2振幅差となるように前記
第2交流電圧出力部
の前記減衰回路を制御したときの前記検出用複素数である第2検出用複素数を取得し、前記第1検出用複素数と前記第2検出用複素数との差に応じた前記補正値を取得する、
請求項7に記載の静電容量検出装置。
【請求項9】
前記補正部は、前記補正モードに移行した場合、前記第1周波数より低い第2周波数を持つ一定の振幅の変調信号により前記振幅の差が変調された前記第1交流電圧及び前記第2交流電圧を出力するように
、前記第2周波数の前記変調信号で変調された前記第1交流電圧を前記第1交流電圧出力部
から出力させるとともに、前記第1復調信号に含まれる前記第2周波数の交流成分の振幅に応じた前記補正値の実部と、前記第2復調信号に含まれる前記第2周波数の交流成分の振幅に応じた前記補正値の虚部とを取得する、
請求項7に記載の静電容量検出装置。
【請求項10】
前記補正部は、前記第1位相補正が施された前記第1補正値の実部と前記第2位相補正が施された前記第2補正値の実部との差に比例係数を乗算し、当該乗算の結果と、前記第2位相補正が施された前記検出用複素数の実部との和に基づいて、補正された前記検出値を取得する、
請求項7~9のいずれか一項に記載の静電容量検出装置。
【請求項11】
前記補正部は、
前記第2補正値に比例係数を乗じて得た複素数と前記検出用複素数との和に応じた中間補正値に対して、当該第2補正値の偏角に相当する位相角を回転させる前記第2位相補正を施し、
前記第1位相補正が施された前記第1補正値の実部に前記比例係数を乗じて得た値を、前記第2位相補正が施された前記中間補正値の実部から減算した結果に基づいて、補正された前記検出値を取得する、
請求項7~9のいずれか一項に記載の静電容量検出装置。
【請求項12】
前記補正部は、
前記補正モードへ移行する度に前記第2補正値を取得し、
前記通常の動作モードでは、前記第1位相補正が施された前記第1補正値と、直近の前記補正モードにおいて取得した前記第2補正値と、前記検出用複素数とに基づいて、補正された前記検出値を取得する、
請求項7~11のいずれか一項に記載の静電容量検出装置。
【請求項13】
前記交流電圧出力部は、
前記通常の動作モードにおいて前記検出電極に近接する前記対象物が存在しない場合に、前記
第1ノードから前記検出電極へ供給される前記電荷がゼロに近づくように振幅が調整された前記第2交流電圧、又は、前記検出信号の振幅がゼロに近づくように調整された前記第2交流電圧を出力する、
請求項1~12のいずれか一項に記載の静電容量検出装置。
【請求項14】
検出電極に近接する対象物と前記検出電極との間の静電容量を検出する静電容量検出装置において実行される静電容量検出方法であって、
前記静電容量検出装置は、
前記検出電極に近接して配置されたシールド電極に供給される第1交流電圧、及び、周波数と位相が前記第1交流電圧に等しく、かつ、振幅が前記第1交流電圧より小さい第2交流電圧を出力する交流電圧出力部と、
前記検出電極に接続された
第1ノードの電圧が前記第2交流電圧に近づくように前記
第1ノードから前記検出電極へ電荷を供給し、供給した前記電荷に応じた交流の検出信号を生成する検出信号生成部とを備え、
前記交流電圧出力部は、
一定の振幅を有する前記第1交流電圧を出力する第1交流電圧出力部と、
前記第1交流電圧の振幅を減衰させた交流電圧を前記第2交流電圧として出力する減衰回路によって構成された第2交流電圧出力部とを含み、
前記検出信号生成部は、
前記第1ノードに接続される反転入力端子と、前記第2交流電圧が印加された第2ノードに接続される非反転入力端子との電圧差を増幅し、当該増幅結果を第1信号として出力する演算増幅器と、
前記演算増幅器の前記第1信号の出力端子と前記反転入力端子との間の経路に設けられる帰還キャパシタと、
通常の動作モードにおいて前記検出電極に近接する前記対象物が存在しない場合に前記演算増幅器から出力される前記第1信号に相当する信号である基準信号を前記第1信号から減算し、当該減算結果を前記検出信号として出力する減算部とを含み、
前記検出信号に基づいて、前記静電容量の検出値を算出する算出工程と、
前記シールド電極と前記検出電極との間の寄生容量であるシールド容量が変化することに伴う前記検出値の変化を補正する補正工程とを有し、
前記補正工程は、
前記通常の動作モードから補正モードに繰り返し移行することと、
前記補正モードに移行した場合、前記第1交流電圧と前記第2交流電圧との振幅の差が変化するように前記
第2交流電圧出力部
の前記減衰回路を制御するとともに、前記振幅の差の変化に伴う前記検出値の変化に応じた補正値を取得することと、
前記補正モードにおいて取得した前記補正値の変化に応じて前記検出値を補正することとを含む、
静電容量検出方法。
【請求項15】
対象物の近接に応じて前記対象物との間の静電容量が変化する検出電極と、
前記検出電極に近接して配置されたシールド電極と、
前記対象物と前記検出電極との間の静電容量を検出する請求項1~13のいずれか一項に記載の静電容量検出装置と
を有する入力装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、静電容量検出装置とその静電容量検出方法、並びに、静電容量型の入力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
グランドに対する検出電極の静電容量を検出する自己容量型の静電容量検出装置では、グランドと検出電極との間に生じる寄生キャパシタによって検出感度や検出精度が低下する問題がある。従来、このような寄生キャパシタの影響を軽減するため、検出電極と同電位に駆動されたシールド電極(アクティブシールドとも呼ばれる。)を検出電極に近接して配置させる場合がある。シールド電極を設けることにより、検出電極が周囲の導体と静電結合を生じ難くなるため、寄生キャパシタの容量が減少する。また、シールド電極が検出電極と同電位であるため、アクティブシールドと検出電極との間の静電容量は検出結果に影響を与えない。
【0003】
他方、下記の特許文献1に記載される静電容量検出装置では、検出電極を駆動する交流電圧の振幅がシールド電極の交流電圧よりも小さくなるように調整される。すなわち、検出電極-グランド間の寄生キャパシタに供給される電荷が、検出電極-シールド電極間のキャパシタに供給される電荷によって相殺されるように、シールド電極の交流電圧の振幅が調整される。これにより、検出電極-グランド間の寄生キャパシタによる検出感度や検出精度への影響を更に低減させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載される静電容量検出装置では、検出電極とシールド電極との間の電圧差によって、検出電極-シールド電極間のキャパシタに電荷が供給されることから、検出電極-シールド電極間のキャパシタの容量値が変化すると、検出電極-グランド間の静電容量の検出結果に誤差が生じる。検出電極-シールド電極間のキャパシタの容量は、検出対象としている検出電極-グランド間の静電容量に比べて大きな容量であり、シールド電極が形成される回路基板の誘電率の温度特性等に起因した温度依存性を有することがある。そのため、検出電極-シールド電極間のキャパシタの容量が温度等の影響で変化した場合に、検出結果の誤差が生じるという問題がある。
【0006】
そこで本開示は、検出電極とシールド電極との間に形成されるキャパシタの容量の変化に起因した検出結果の誤差を低減できる静電容量検出装置とその静電容量検出方法、並びに、そのような静電容量検出装置を備えた入力装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の1つの側面に係る静電容量検出装置は、検出電極に近接する対象物と前記検出電極との間の静電容量を検出する静電容量検出装置であって、前記検出電極に近接して配置されたシールド電極に供給される第1交流電圧、及び、周波数と位相が前記第1交流電圧に等しく、かつ、振幅が前記第1交流電圧より小さい第2交流電圧を出力する交流電圧出力部と、前記検出電極に接続された第1ノードの電圧が前記第2交流電圧に近づくように前記第1ノードから前記検出電極へ電荷を供給し、供給した前記電荷に応じた交流の検出信号を生成する検出信号生成部と、前記検出信号に基づいて、前記静電容量の検出値を算出する算出部と、前記シールド電極と前記検出電極との間の寄生容量であるシールド容量が変化することに伴う前記検出値の変化を補正する補正部とを有し、前記交流電圧出力部は、前記第1交流電圧を出力する第1交流電圧出力部と、前記第1交流電圧の振幅を減衰させた交流電圧を前記第2交流電圧として出力する減衰回路によって構成された第2交流電圧出力部とを含み、前記検出信号生成部は、前記第1ノードに接続される反転入力端子と、前記第2交流電圧が印加された第2ノードに接続される非反転入力端子との電圧差を増幅し、当該増幅結果を第1信号として出力する演算増幅器と、前記演算増幅器の前記第1信号の出力端子と前記反転入力端子との間の経路に設けられる帰還キャパシタと、通常の動作モードにおいて前記検出電極に近接する前記対象物が存在しない場合に前記演算増幅器から出力される前記第1信号に相当する信号である基準信号を前記第1信号から減算し、当該減算結果を前記検出信号として出力する減算部とを含み、前記補正部は、前記通常の動作モードから補正モードに繰り返し移行し、前記補正モードに移行した場合、前記第1交流電圧と前記第2交流電圧との振幅の差が変化するように前記第2交流電圧出力部の前記減衰回路を制御するとともに、前記振幅の差の変化に伴う前記検出値の変化に応じた補正値を取得し、前記補正モードにおいて取得した前記補正値の変化に応じて前記検出値を補正する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、検出電極とシールド電極との間に形成されるキャパシタの容量の変化に起因した検出結果の誤差を低減できる静電容量検出装置とその静電容量検出方法、並びに、そのような静電容量検出装置を備えた入力装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る入力装置の構成の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る静電容量検出装置の構成の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、減算回路の構成の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、算出部の構成の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、第1の実施形態に係る静電容量検出方法の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図6】
図6は、
図5に示す静電容量検出方法における初期状態での補正モードの処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図7】
図7は、
図5に示す静電容量検出方法における初期状態より後の補正モードの処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図8】
図8は、
図5に示す静電容量検出方法において補正された検出値を取得する処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図9】
図9は、
図5に示す静電容量検出方法における初期状態より後の補正モードの処理の一変形例を説明するためのフローチャートである。
【
図10】
図10は、
図5に示す静電容量検出方法において補正された検出値を取得する処理の一変形例を説明するためのフローチャートである。
【
図11】
図11は、
図5に示す静電容量検出方法における初期状態での補正モードの処理の一変形例を説明するためのフローチャートである。
【
図12】
図12は、
図5に示す静電容量検出方法における初期状態より後の補正モードの処理の一変形例を説明するためのフローチャートである。
【
図13】
図13は、第2の実施形態に係る静電容量検出方法の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図14】
図14は、
図13に示す静電容量検出方法における初期状態での補正モードの処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図15】
図15は、
図13に示す静電容量検出方法における初期状態より後の補正モードの処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<概要>
はじめに、本開示に係る静電容量検出装置、静電容量検出方法及び入力装置の概要を説明する。
【0011】
本開示の第1の側面は、検出電極に近接する対象物と検出電極との間の静電容量を検出する静電容量検出装置に関する。この静電容量検出装置は、検出電極に近接して配置されたシールド電極に供給される第1交流電圧、及び、周波数と位相が第1交流電圧に等しく、かつ、振幅が第1交流電圧より小さい第2交流電圧を出力する交流電圧出力部と、検出電極に接続されたノードの電圧が第2交流電圧に近づくようにノードから検出電極へ電荷を供給し、供給した電荷に応じた交流の検出信号を生成する検出信号生成部と、検出信号に基づいて、静電容量の検出値を算出する算出部と、シールド電極と検出電極との間の寄生容量であるシールド容量が変化することに伴う検出値の変化を補正する補正部とを有する。補正部は、補正モードに繰り返し移行し、補正モードに移行した場合、第1交流電圧と第2交流電圧との振幅の差が変化するように交流電圧出力部を制御するとともに、振幅の差の変化に伴う検出値の変化に応じた補正値を取得し、補正モードにおいて取得した補正値の変化に応じて検出値を補正する。
【0012】
第1の側面に係る静電容量検出装置において、検出電極とシールド電極との間に形成される寄生的なキャパシタ(以下、「検出電極-シールド電極間キャパシタ」と記す場合がある。)には、第1交流電圧と第2交流電圧との差に応じた電圧が加わり、この電圧に応じた電荷が検出信号生成部から検出電極-シールド電極間キャパシタへ供給される。検出電極-シールド電極間キャパシタの容量であるシールド容量が温度等の影響によって変化すると、検出信号生成部から検出電極-シールド電極間キャパシタへ供給される電荷が変化し、これに応じて検出信号が変化するため、検出信号に基づいて算出される静電容量の検出値に誤差が生じる。
そこで、補正部では、このシールド容量が変化することに伴う検出値の変化を補正する処理が行われる。すなわち、補正モードへの移行が繰り返し行われ、補正モードに移行した場合に、第1交流電圧と第2交流電圧との振幅の差(以下、「交流電圧振幅差」と記す場合がある。)が変化するように交流電圧出力部が制御されるとともに、交流電圧振幅差の変化に伴う検出値の変化に応じた補正値が取得される。交流電圧振幅差の変化に伴う検出値の変化は、シールド容量に応じた値を持つため、補正モードにおいて取得される補正値は、シールド容量に応じた値を持つ。この補正値の変化に応じて検出値が補正されることにより、シールド容量の変化に応じて検出値が補正されることになり、シールド容量が変化することに伴う検出値の変化が補正される。従って、温度等の影響によるシールド容量の変化に応じた検出値の誤差が低減する。
【0013】
好適に、補正部は、初期状態の補正モードにおいて取得した補正値である第1補正値と、初期状態より後の補正モードにおいて取得した補正値である第2補正値との差に比例した補正対象成分であって、シールド容量が変化することに伴う検出値の変化に応じた補正対象成分が相殺されるように検出値を補正してよい。
この構成によれば、初期状態の補正モードにおいて取得した第1補正値と、初期状態より後の補正モードにおいて取得した第2補正値との差に比例した補正対象成分が、シールド容量が変化することに伴う検出値の変化に応じた値を持つ。検出値は、この補正対象成分が相殺されるように補正される。これにより、初期状態からのシールド容量の変化に伴う検出値の変化が補正される。
【0014】
好適に、補正部は、補正モードへ移行する度に補正対象成分を算出し、通常の動作モードでは、直近の補正モードにおいて算出した補正対象成分に基づいて検出値を補正してよい。
この構成によれば、補正モードではない通常の動作モードの場合、直近の補正モードにおいて算出された補正対象成分に基づいて検出値の補正が行われる。これにより、検出値の算出の度に補正対象成分を算出する場合に比べて、補正対象成分を算出する処理の頻度が減るため、処理の負荷が軽減され易くなる。
【0015】
好適に、静電容量検出装置は、クロック信号に同期して、検出信号をデジタル信号に変換するアナログ-デジタル変換部を有してよい。交流電圧出力部は、それぞれ第1周波数を持つ正弦波の第1交流電圧及び第2交流電圧を出力してよい。算出部は、クロック信号に同期し、第1周波数を持つ正弦波の同期信号と、デジタル信号に変換された検出信号とを乗算し、当該乗算の結果から高調波成分を除去して得られる復調信号に応じた検出値を取得してよい。
この構成によれば、第1交流電圧及び第2交流電圧と同じ周波数を持つ同期信号と検出信号とが乗算され、この乗算結果から高調波成分を除去して得られる復調信号に応じた検出値が取得される。そのため、第1交流電圧及び第2交流電圧に応じて検出電極に供給される電荷に応じた精度の高い検出値が得られる。
【0016】
好適に、補正部は、補正モードに移行した場合、振幅の差(交流電圧振幅差)が第1振幅差となるように交流電圧出力部を制御したときの検出値である第1検出値、及び、振幅の差(交流電圧振幅差)が第1振幅差と異なる第2振幅差となるように交流電圧出力部を制御したときの検出値である第2検出値を取得し、第1検出値と第2検出値との差に応じた補正値を取得してよい。
この構成によれば、交流電圧振幅差を2通りの振幅差(第1振幅差、第2振幅差)に設定した場合に得られる2通りの検出値(第1検出値、第2検出値)の差に応じた補正値が取得される。
【0017】
好適に、補正部は、補正モードに移行した場合、第1周波数(同期信号)より低い第2周波数を持つ一定の振幅の変調信号により振幅の差(交流電圧振幅差)が変調された第1交流電圧及び第2交流電圧を出力するように交流電圧出力部を制御するとともに、復調信号に含まれる第2周波数の交流成分の振幅に応じた補正値を取得してよい。
この構成によれば、第2周波数を持つ一定の振幅の変調信号によって交流電圧振幅差が変調されることにより、復調信号には、変調信号に応じた第2周波数の交流成分が含まれる。この交流成分の振幅は、交流電圧振幅差の変化に伴う検出値の変化に応じた大きさを持つ。従って、復調信号に含まれる第2周波数の交流成分の振幅に基づいて、交流電圧振幅差の変化に伴う検出値の変化に応じた補正値が得られる。
【0018】
好適に、静電容量検出装置は、クロック信号に同期して、検出信号をデジタル信号に変換するアナログ-デジタル変換部を有してよい。交流電圧出力部は、それぞれ第1周波数を持つ正弦波の第1交流電圧及び第2交流電圧を出力してよい。算出部は、クロック信号に同期し、第1周波数を持ち、第1交流電圧に位相が近似した第1同期信号と、デジタル信号に変換された検出信号とを乗算し、クロック信号に同期し、第1周波数を持ち、第1同期信号に対して位相が4分の1周期ずれた第2同期信号と、デジタル信号に変換された検出信号とを乗算し、第1同期信号と検出信号との乗算結果から高調波成分を除去して得られる第1復調信号を実部とし、第2同期信号と検出信号との乗算結果から高調波成分を除去して得られる第2復調信号を虚部とする検出用複素数を取得してよい。補正部は、補正モードに移行した場合、振幅の差(交流電圧振幅差)が変化するように交流電圧出力部を制御するとともに、振幅の差(交流電圧振幅差)の変化に伴う検出用複素数の変化に応じた複素数を補正値として取得する。また、補正部は、初期状態の補正モードにおいて取得した補正値である第1補正値に対して、当該第1補正値の偏角がゼロに近づくように位相を補正する第1位相補正を施し、初期状態より後の補正モードにおいて取得した補正値である第2補正値に対して、当該第2補正値の偏角がゼロに近づくように位相を補正する第2位相補正を施すとともに、検出用複素数に対して当該第2位相補正を施す。そして、補正部は、第1位相補正が施された第1補正値の実部と、第2位相補正が施された第2補正値の実部との差に比例した補正対象成分であって、シールド容量が変化することに伴う検出用複素数の実部の変化に応じた補正対象成分が相殺されるように、第2位相補正が施された検出用複素数の実部を補正して得られる数値を、補正された検出値として取得してよい。
【0019】
この構成によれば、直交関係にある2つの同期信号(第1同期信号、第2同期信号)と検出信号とがそれぞれ乗算され、その乗算結果から高調波成分を除去することにより2つの復調信号(第1復調信号、第2復調信号)が取得され、2つの復調信号を実部及び虚部とする検出用複素数が取得される。この検出用複素数の偏角は、第1交流電圧に位相が近似した第1同期信号に対する検出信号の位相のずれを表す。補正モードに移行した場合、交流電圧振幅差が変化するように交流電圧出力部が制御され、この交流電圧振幅差の変化に伴う検出用複素数の変化に応じた複素数が補正値として取得される。交流電圧振幅差が変化しても検出用複素数の偏角は概ね一定であるため、補正値の偏角は検出用複素数の偏角と同様に、第1同期信号に対する検出信号の位相のずれを表す。
ここで、クロック信号の位相・周波数の変動(ジッター)が生じると、クロック信号に同期して生成される2つの同期信号(第1同期信号、第2同期信号)の周波数が変動するため、2つの同期信号に対する第1交流電圧、第2交流電圧の位相が変化し、2つの同期信号に対する検出信号の位相が変化する。他方、2つの同期信号(第1同期信号、第2同期信号)はそれぞれクロック信号に同期して生成されるため、これらの同期信号の相対的な位相は変動しない。従って、クロック信号のジッターが生じた場合、第1同期信号に対する検出信号の位相のずれが変化し、検出用複素数の偏角と補正値の偏角とがそれぞれ変化することになる。
そこで、補正部では、初期状態の補正モードにおいて取得された第1補正値に対して第1位相補正が施されるとともに、初期状態より後の補正モードにおいて取得された第2補正値に対して第2位相補正が施される。これにより、第1補正値及び第2補正値の偏角がそれぞれゼロに近づく。また補正部では、検出用複素数に対して、第2補正値と同じ第2位相補正が施される。第2補正値の偏角も、検出用複素数と同様に、第1同期信号に対する検出信号の位相のずれを表すことから、検出用複素数に対して第2位相補正が施されることにより、検出用複素数の偏角は概ねゼロに近づく。その結果、第1補正値、第2補正値及び検出用複素数の偏角がそれぞれゼロ付近に揃えられるため、これらの複素数の実部は、クロック信号のジッターによる影響が概ね除去された値となる。
そして補正部では、クロック信号のジッターによる影響が除去された第1補正値、第2補正値及び検出用複素数の実部に基づいて、シールド容量の変化に対する補正が行われた検出値が取得される。すなわち、第1位相補正が施された第1補正値の実部と、第2位相補正が施された第2補正値の実部との差に比例した補正対象成分が、シールド容量の変化に伴う検出値の変化に応じた値を持つことから、第2位相補正が施された検出用複素数の実部に対して、この補正対象成分が相殺されるように補正が行われる。
このようにして取得された検出値は、初期状態からのシールド容量の変化に伴う誤差と、クロック信号のジッターに伴う誤差とがそれぞれ補正されたものとなる。
【0020】
好適に、補正部は、補正モードに移行した場合、振幅の差(交流電圧振幅差)が第1振幅差となるように交流電圧出力部を制御したときの検出用複素数である第1検出用複素数、及び、振幅の差(交流電圧振幅差)が第1振幅差と異なる第2振幅差となるように交流電圧出力部を制御したときの検出用複素数である第2検出用複素数を取得し、第1検出用複素数と第2検出用複素数との差に応じた補正値を取得してよい。
この構成によれば、交流電圧振幅差を2通りの振幅差(第1振幅差、第2振幅差)に設定した場合に得られる2通りの検出要複素数(第1検出要複素数、第2検出要複素数)の差に応じた補正値が取得される。
【0021】
好適に、補正部は、補正モードに移行した場合、第1周波数より低い第2周波数を持つ一定の振幅の変調信号により振幅の差(交流電圧振幅差)が変調された第1交流電圧及び第2交流電圧を出力するように交流電圧出力部を制御するとともに、第1復調信号に含まれる第2周波数の交流成分の振幅に応じた補正値の実部と、第2復調信号に含まれる第2周波数の交流成分の振幅に応じた補正値の虚部とを取得してよい。
この構成によれば、第2周波数を持つ一定の振幅の変調信号によって交流電圧振幅差が変調されることにより、第1復調信号及び第2復調信号には、変調信号に応じた第2周波数の交流成分がそれぞれ含まれる。2つの復調信号(第1復調信号、第2復調信号)における交流成分の振幅は、交流電圧振幅差の変化に伴う検出用複素数(実部、虚部)の変化を示すため、これらの交流成分の振幅に基づいて、交流電圧振幅差の変化に伴う検出用複素数の変化に応じた補正値(実部、虚部)が得られる。
【0022】
好適に、補正部は、第1位相補正が施された第1補正値の実部と第2位相補正が施された第2補正値の実部との差に比例係数を乗算し、当該乗算の結果と、第2位相補正が施された検出用複素数の実部との和に基づいて、補正された検出値を取得してよい。
【0023】
好適に、補正部は、第2補正値に比例係数を乗じて得た複素数と検出用複素数との和に応じた中間補正値に対して、当該第2補正値の偏角に相当する位相角を回転させる第2位相補正を施し、第1位相補正が施された第1補正値の実部に比例係数を乗じて得た値を、第2位相補正が施された中間補正値の実部から減算した結果に基づいて、補正された検出値を取得してもよい。
【0024】
好適に、補正部は、補正モードへ移行する度に第2補正値を取得し、通常の動作モードでは、第1位相補正が施された第1補正値と、直近の補正モードにおいて取得した第2補正値と、検出用複素数とに基づいて、補正された検出値を取得してよい。
この構成によれば、補正モードではない通常の動作モードの場合、第1位相補正が施された第1補正値と、直近の補正モードにおいて取得された第2補正値と、検出用複素数とに基づいて、補正された検出値が取得される。これにより、第2補正値の取得に関わる処理を検出用複素数が取得される度に実行する場合に比べて、処理の負荷が軽減され易くなる。
【0025】
好適に、交流電圧出力部は、通常の動作モードにおいて検出電極に近接する対象物が存在しない場合に、ノードから検出電極へ供給される電荷がゼロに近づくように振幅が調整された第2交流電圧、又は、検出信号の振幅がゼロに近づくように調整された第2交流電圧を出力してよい。
この構成によれば、通常の動作モードにおいて検出電極に近接する対象物が存在しない場合に検出信号の振幅が小さくなる若しくはゼロに近づくため、検出信号生成部の出力のダイナミックレンジを確保し易くなる。
【0026】
本開示の第2の側面は、検出電極に近接する対象物と検出電極との間の静電容量を検出する静電容量検出装置において実行される静電容量検出方法に関する。この静電容量検出方法において、静電容量検出装置は、検出電極に近接して配置されたシールド電極に供給される第1交流電圧、及び、周波数と位相が第1交流電圧に等しく、かつ、振幅が第1交流電圧より小さい第2交流電圧を出力する交流電圧出力部と、検出電極に接続されたノードの電圧が第2交流電圧に近づくようにノードから検出電極へ電荷を供給し、供給した電荷に応じた交流の検出信号を生成する検出信号生成部とを備える。静電容量検出方法は、検出信号に基づいて、静電容量の検出値を算出する算出工程と、シールド電極と検出電極との間の寄生容量であるシールド容量が変化することに伴う検出値の変化を補正する補正工程とを有し、補正工程は、補正モードに繰り返し移行することと、補正モードに移行した場合、第1交流電圧と第2交流電圧との振幅の差が変化するように交流電圧出力部を制御するとともに、振幅の差の変化に伴う検出値の変化に応じた補正値を取得することと、補正モードにおいて取得した補正値の変化に応じて検出値を補正することとを含む。
【0027】
本開示の第3の側面に係る入力装置は、対象物の近接に応じて対象物との間の静電容量が変化する検出電極と、検出電極に近接して配置されたシールド電極と、対象物と検出電極との間の静電容量を検出する上記第1の側面に係る静電容量検出装置とを有する。
【0028】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の実施形態に係る入力装置の構成の一例を示す図である。
図1に示す入力装置は、センサ部1と、静電容量検出装置2と、処理部3と、記憶部4と、インターフェース部5を有する。
【0029】
本実施形態に係る入力装置は、指やペンなどの対象物6がセンサ部1に近接した場合に、センサ部1に設けられた電極と対象物との間の静電容量を検出し、この検出結果に基づいて、対象物6の近接に応じた情報を入力する。例えば入力装置は、センサ部1に対する対象物6の近接の有無や、センサ部1と対象物6との距離などの情報を、静電容量の検出結果に基づいて取得する。入力装置は、例えばタッチセンサやタッチパッドなどのユーザーインターフェース装置に適用される。なお、本明細書における「近接」とは、近くにあることを意味しており、近接する物同士の接触の有無を限定しない。
【0030】
センサ部1は、指やペンなどの対象物6の近接を検出するための検出電極Esと、検出電極Esに近接して配置されたシールド電極Eaを有する。検出電極Esは、センサ部1において対象物が近接する領域に配置される。例えば、対象物6の検出領域の表面が絶縁性のカバー層で覆われており、カバー層より下層側に検出電極Esが配置される。シールド電極Eaは、対象物6以外の導体と検出電極Esとの静電結合を防止するための静電シールドである。シールド電極Eaは、例えば、対象物6の検出領域において検出電極Esよりも下層側に配置される。
【0031】
図1に示すように、検出電極Esと対象物6との間には、静電容量の検出対象であるキャパシタCrgが形成される。シールド電極Eaと検出電極Esとの間には、キャパシタCrsが形成される。また、検出電極Esとグランドとの間にはキャパシタCrglが形成され、シールド電極Eaとグランドとの間にはキャパシタCsgが形成される。
【0032】
静電容量検出装置2は、対象物6と検出電極Esとの間に形成されるキャパシタCrgの静電容量を検出し、その検出結果を示す検出値Dsを出力する。
【0033】
処理部3は、入力装置の全体的な動作を制御する回路であり、例えば、記憶部4に格納されるプログラムの命令コードに従って処理を実行するコンピュータや、特定の機能を実現するように構成されたハードウェア(例えばASIC、FPGAなどのロジック回路)を含む。処理部3における処理は、コンピュータにおいてプログラムに基づいて実現してもよいし、少なくとも一部を専用のハードウェアで実現してもよい。
【0034】
処理部3は、静電容量検出装置2にから出力される静電容量の検出値Dsに基づいて、対象物6がセンサ部1に近接しているか否かの判定や、対象物6とセンサ部1との距離の算出を行う。なお、センサ部1は複数の検出電極Esを含んでいてもよく、静電容量検出装置2は複数の検出電極Esの各々についてキャパシタCrgの静電容量の検出を行ってもよい。処理部3は、各検出電極Esについて得られた静電容量の検出値Dsに基づいて、センサ部1における対象物6の近接位置や、対象物6の大きさなどを算出してもよい。
【0035】
記憶部4は、処理部3を構成するコンピュータのプログラムや、処理部3において処理に使用されるデータ、処理の過程で一時的に保持されるデータなどを記憶する。記憶部4は、例えばDRAM、SRAM、フラッシュメモリ、ハードディスクなどの任意の記憶装置を用いて構成される。
【0036】
インターフェース部5は、入力装置と他の装置(例えば入力装置を搭載する電子機器のホストコントローラなど)との間でデータをやり取りするための回路である。処理部3は、静電容量検出装置2の検出結果に基づいて得られた情報(対象物6の有無、対象物6の近接位置、対象物6との距離、対象物6の大きさなど)を、インターフェース部5によって図示しない上位装置に出力する。上位装置では、これらの情報を用いて、例えばポインティング操作やジェスチャ操作などを認識するユーザーインターフェースが構築される。
【0037】
次に、静電容量検出装置2の構成について説明する。
図2は、本実施形態に係る静電容量検出装置2の構成の一例を示す図である。
図2に示す静電容量検出装置2は、交流電圧出力部20と、検出信号Vmを生成する検出信号生成部23と、アナログ-デジタル変換部24と、算出部25と、補正部26とを有する。なお、以下の説明では、「アナログ-デジタル変換」を「A/D変換」と略記し、「デジタル-アナログ変換」を「D/A変換」と略記する場合がある。
【0038】
交流電圧出力部20は、シールド電極Eaに供給される第1交流電圧V1と、第1交流電圧V1に比べて振幅が小さい第2交流電圧V2とを出力する。第1交流電圧V1と第2交流電圧V2は、それぞれ同じ周波数f1を持ち、互いの位相が概ね等しい。例えば、第1交流電圧V1及び第2交流電圧V2は正弦波の交流電圧であり、一定の直流バイアス(例えば電源電圧に対して半分の直流電圧)が加算されている。
【0039】
図2の例において、交流電圧出力部20は、第1電圧出力部21と第2電圧出力部22を含む。
【0040】
第1電圧出力部21は、正弦波の第1交流電圧V1を発生する回路である。第1電圧出力部21は、例えば
図2に示すように、正弦波信号生成部211と、D/A変換部212と、ローパスフィルタ213と、増幅器214とを含む。正弦波信号生成部211は、クロック信号CKに同期した正弦波のデジタル信号(正弦波の数値データのデータ列)を生成し、D/A変換部212に入力する。D/A変換部212は、正弦波のデジタル信号に応じたアナログ信号を出力する。ローパスフィルタ213は、D/A変換部212から出力されるアナログ信号に含まれた高域成分を除去し、周波数f1の正弦波信号を出力する。増幅器214はバッファアンプであり、ローパスフィルタ213から出力される正弦波信号に応じた第1交流電圧V1を出力する。
【0041】
第2電圧出力部22は、周波数と位相が第1交流電圧V1に等しく、かつ、振幅が第1交流電圧V1より小さい第2交流電圧V2を出力する回路であり、例えば、第1交流電圧V1の振幅を減衰させる減衰回路によって構成される。
【0042】
図2の例において、第2電圧出力部22は、キャパシタCa及びキャパシタCbの直列回路を含む。第1電圧出力部21は、この直列回路の両端に第1交流電圧V1を印加する。第1交流電圧V1がキャパシタCa及びキャパシタCbにより分圧されることで、キャパシタCbに第2交流電圧V2が生じる。キャパシタCaの一方の端子が第1電圧出力部21の出力に接続され、キャパシタCaの他方の端子がキャパシタCbの一方の端子に接続され、キャパシタCbの他方の端子がグランドに接続される。
【0043】
一例において、キャパシタCaが一定の静電容量を持ち、キャパシタCbの静電容量が調整可能となっている。第2交流電圧V2の振幅は、キャパシタCbの静電容量に応じて調整される。この場合、キャパシタCbは、可変容量のディスクリート部品でもよいし、IC内部の半導体チップ等に形成される部品でもよい。後者の場合、例えばキャパシタCbは、並列に接続された複数のキャパシタにより構成されており、スイッチ等で並列接続されるキャパシタの数を変更することにより静電容量が調整される。
【0044】
第2交流電圧V2の振幅は、例えば、後述する補正モードではない通常の動作モードにおいて検出電極Esに近接する対象物6が存在しない場合(キャパシタCrgの静電容量がゼロに近い場合)に、検出信号生成部23から検出電極Esへ供給される電荷Qsが概ねゼロになるように調整される。
図2に示す第2電圧出力部22では、検出信号生成部23から検出電極Esへ供給される電荷Qsが概ねゼロになるように、キャパシタCaとキャパシタCbとの静電容量比が調整される。キャパシタCrgがゼロの状態で電荷Qsがゼロになると、キャパシタCrsに供給される電荷と寄生キャパシタCrglに供給される電荷とが相殺される。従って、電荷Qsが概ねゼロになるように第2交流電圧V2の振幅が調整されることによって、検出信号生成部23の後述する検出信号Vmに含まれる寄生キャパシタCrglの成分が微小になるため、寄生キャパシタCrglに起因する検出感度及び検出精度の低下が抑制され易くなる。
【0045】
あるいは、第2交流電圧V2の振幅は、検出信号Vmの振幅がゼロに近づくように調整されてもよい。検出電極Esに近接する対象物6が存在しない場合の検出信号Vmの振幅がゼロに近くなることで、検出対象の静電容量(キャパシタCrgの静電容量)に対する検出信号Vmのダイナミックレンジが広がるため、検出感度を高め易くなる。
【0046】
検出信号生成部23は、検出電極Esに接続されたノードN1の電圧が第2交流電圧V2に近づくようにノードN1から検出電極Esへ電荷Qsを供給し、供給した電荷Qsに応じた交流の検出信号Vmを生成する。
【0047】
図2の例において、検出信号生成部23は、チャージアンプ231と減算部232を含む。チャージアンプ231は、ノードN1の電圧がノードN2に印加される第2交流電圧V2に近づくようにノードN1から検出電極Esへ電荷Qsを供給するとともに、供給した電荷Qsに応じた信号Voを出力する。チャージアンプ231は、例えば
図2に示すように、演算増幅器OP1と、帰還キャパシタCagと、帰還抵抗Ragとを含む。演算増幅器OP1は、ノードN1に接続される反転入力端子とノードN2に接続される非反転入力端子との電圧差を増幅し、この増幅結果を信号Voとして出力する。帰還キャパシタCagは、演算増幅器OP1の信号Voの出力端子と反転入力端子との間の経路に設けられる。帰還抵抗Ragは、帰還キャパシタCagと並列に接続される。
【0048】
図2の例において、帰還キャパシタCagの静電容量値及び帰還抵抗Ragの抵抗値はそれぞれ調整可能である。これらの素子の値を調整することにより、第1交流電圧V1及び第2交流電圧V2と信号Voとの位相差や、キャパシタCrgの静電容量に対する信号Voの振幅のゲインが調整される。帰還キャパシタCag及び帰還抵抗Ragは、例えば素子値の調整が可能なディスクリート部品でもよいし、レーザートリミング等によって素子値の調整が可能なIC内部の部品でもよい。
【0049】
また
図2の例において、チャージアンプ231は、ノードN1と検出電極Esとを接続する経路に設けられた抵抗Rsを有する。チャージアンプ231は、抵抗Rsを有することにより、対象物6からキャパシタCrgを介して入力される信号に対してローパスフィルタを構成する。そのため、対象物6が接地されるグランドと静電容量検出装置2のグランドとの間に交流のノイズ電圧が重畳しても、チャージアンプ231が構成するローパスフィルタによってノイズ電圧が減衰する。抵抗Rsは、例えば可変抵抗であり、第1交流電圧V1及び第2交流電圧V2の周波数f1に応じて調整される。
【0050】
減算部232は、所定の基準信号を信号Voから減算する。基準信号は、補正モードではない通常の動作モードにおいて検出電極Esに近接する対象物6が存在しない場合に演算増幅器OP1から出力される信号Voに相当する信号である。信号Voから基準信号を減算することにより、キャパシタCrgの静電容量に概ね比例した振幅を持つ交流の検出信号Vmが得られる。減算部232は、例えば全差動増幅器を含んでおり、信号Voから基準信号を減算して得られる差動信号を検出信号Vmとして出力する。
【0051】
図3は、減算部232の構成の一例を示す図である。
図3の例において、減算部232は、全差動増幅器233と、抵抗R1~R7と、キャパシタC1~C3を有する。キャパシタC1は、全差動増幅器233の反転入力端子と非反転出力端子との間に接続される。キャパシタC2は、全差動増幅器233の非反転入力端子と反転出力端子との間に接続される。全差動増幅器233の反転入力端子には、直列に接続された抵抗R3及び抵抗R4を介してチャージアンプ231の信号Voが入力される。抵抗R3の一端に信号Voが入力され、抵抗R4の一端に全差動増幅器233の反転入力端子が接続される。抵抗R3及び抵抗R4の接続中点は、抵抗R1を介して全差動増幅器233の非反転出力端子に接続される。全差動増幅器233の非反転入力端子には、直列に接続された抵抗R5及び抵抗R6を介して第1交流電圧V1が入力される。抵抗R5の一端に第1交流電圧V1が入力され、抵抗R6の一端に全差動増幅器233の非反転入力端子が接続される。抵抗R5及び抵抗R6の接続中点は、抵抗R2を介して全差動増幅器233の反転出力端子に接続される。キャパシタC3は、抵抗R3及び抵抗R4の接続中点と抵抗R5及び抵抗R6の接続中点との間に接続される。また、抵抗R5及び抵抗R6の接続中点には、抵抗R7を介して直流のバイアス電圧Vr1が入力される。
【0052】
図3に示す減算部232では、2つの入力(信号Vo,第1交流電圧V1)に対するゲインが異なっている。すなわち、抵抗R7が接続された経路に入力される第2交流電圧V2に対するゲインが、信号Voに対するゲインに比べて小さい。減算部232は、第1交流電圧V1に比べて減衰した交流電圧(基準信号)と信号Voとの差を増幅し、その増幅結果を差動信号(検出信号Vm)として出力する。また、減算部232はローパスフィルタを構成しており、対象物6からキャパシタCrgを通じて入力される高周波成分を除去する。このローパスフィルタ機能により、後述するA/D変換部24における折り返し雑音が低減する。
【0053】
図2に戻る。
A/D変換部24は、検出信号生成部23から出力されるアナログの検出信号Vmをデジタルの検出信号Dmに変換する。検出信号Vmが差動信号である場合、A/D変換部24には、例えば差動入力方式のΔΣ型A/D変換部などを用いることができる。
【0054】
算出部25は、検出信号VmをA/D変換して得られた検出信号Vmに基づいて、静電容量の検出値を算出する。
【0055】
例えば算出部25は、クロック信号CKに同期し、周波数f1を持ち、第1交流電圧V1に位相が近似した第1同期信号U1と、デジタル信号に変換された検出信号Dmとを乗算する。また算出部25は、クロック信号CKに同期し、周波数f1を持ち、第1同期信号U1に対して位相が4分の1周期ずれた第2同期信号U2と、デジタル信号に変換された検出信号Dmとを乗算する。そして、算出部25は、第1同期信号U1と検出信号Dmとの乗算結果から高調波成分を除去して得られる第1復調信号Iを実部とし、第2同期信号U2と検出信号Dmとの乗算結果から高調波成分を除去して得られる第2復調信号Qを虚部とする検出用複素数Daを取得する。
【0056】
ここで、第1交流電圧V1に位相が近似した第1同期信号U1と検出信号Dmとの乗算結果から高調波成分を除去して得られる第1復調信号I(検出用複素数Daの実部)は、検出信号Vmの振幅に応じた値を持っていることから、検出対象とするキャパシタCrgの静電容量の検出値に相当する。ただし、この検出値(第1復調信号I)には、キャパシタCrsの静電容量(以下、「シールド容量Crs」と記す場合がある。)が変化することに伴う誤差や、クロック信号CKの位相・周波数の変動(ジッター)に伴う誤差が含まれる。そのため、後述する補正部26では、これらの誤差を補正する処理が行われる。
【0057】
2つの正弦波の同期信号(U1、U2)は位相が4分の1周期ずれた直交関係にあるため、検出信号Dmと2つの同期信号(U1、U2)とをそれぞれ乗算して高調波成分を除去した2つの復調信号(I、Q)は、同期信号(U1、U2)に対する検出信号Dmの相対的な位相を表す。すなわち、正弦波の第1同期信号U1と検出信号Dmとの乗算結果から高調波成分を除去した第1復調信号Iを実部とし、正弦波の第2同期信号U2と検出信号Dmとの乗算結果から高調波成分を除去した第2復調信号Qを虚部とする検出用複素数Daの偏角は、第1同期信号U1に対する検出信号Dmの位相のずれを表す。従って、検出用複素数Daは、検出信号Dmの振幅の情報と、第1同期信号U1に対する検出信号Dmの位相の情報とを含んでいる。
【0058】
図4は、算出部25の構成の一例を示す図である。算出部25は、例えば
図1に示すように、第1復調部251及び第2復調部254を含む。
第1復調部251は、第1同期信号生成部257において生成される正弦波の第1同期信号U1と検出信号Dmとを乗算し、この乗算の結果から高調波成分を除去した第1復調信号Iを生成する。
図4の例において、第1復調部251は、検出信号Dmと第1同期信号U1を乗算する乗算部252と、乗算部252の乗算結果から高調波成分を除去するローパスフィルタ253とを含む。
第2復調部254は、第2同期信号生成部258において生成される正弦波の第2同期信号U2と検出信号Dmとを乗算し、この乗算の結果から高調波成分を除去した第2復調信号Qを生成する。
図4の例において、第2復調部254は、検出信号Dmと第2同期信号U2を乗算する乗算部255と、乗算部255の乗算結果から高調波成分を除去するローパスフィルタ256とを含む。
【0059】
第1同期信号生成部257及び第2同期信号生成部72は、それぞれクロック信号CKに同期した周波数f1の正弦波である第1同期信号U1及び第2同期信号U2を生成する。一例において、第1同期信号生成部257は周波数f1のCOS波を第1同期信号U1として生成し、第2同期信号生成部258は第1同期信号U1に対して位相が4分の1周期遅れたSIN波を第2同期信号U2として生成する。
【0060】
図2に戻る。
補正部26は、シールド電極Eaと検出電極Esとの間に形成されるキャパシタCrsの静電容量(シールド容量Crs)が変化することに伴う算出部25の検出値の変化を補正する。この補正処理において、補正部26は、補正モードに繰り返し移行する。補正部26は、補正モードへ移行した場合、第1交流電圧V1と第2交流電圧V2との振幅の差(V1-V2:交流電圧振幅差)が変化するように交流電圧出力部20を制御するとともに、交流電圧振幅差(V1-V2)の変化に伴う算出部25の検出値の変化に応じた補正値を取得する。そして、補正部26は、補正モードにおいて取得した補正値の変化に応じて算出部25の検出値を補正し、補正結果の検出値Dsを取得する。
【0061】
ここで、シールド容量Crsが変化することに伴う信号Voの振幅の変化について説明する。チャージアンプ231において出力される信号Voの電圧振幅は、以下の式で表される。
【0062】
【0063】
式(1)において、「Vo」、「V1」、「V2」はそれぞれ信号Vo、第1交流電圧V1、第2交流電圧V2の電圧振幅を示し、「Crg」、「Crgl」、「Crs」、「Cag」はそれぞれキャパシタCrg、Crgl、Crs、Cagの静電容量を示す。
【0064】
ここで、第1交流電圧V1の振幅を一定とし、第2交流電圧V2の振幅を「ΔV」だけ変化させたとする。各キャパシタ(Crg、Crgl、Crs、Cag)の静電容量が変化しないものとすると、信号Voの振幅の変化ΔVoは次の式で表される。
【0065】
【0066】
初期状態におけるシールド容量Crsを「Crs_ref」とすると、初期状態において第2交流電圧V2の振幅を「ΔV」だけ変化させた場合の信号Voの振幅の変化ΔVo_refは次の式で表される。
【0067】
【0068】
初期状態からのシールド容量Crsの変化ΔCrsは、式(2)及び式(3)より、次の式で表される。
【0069】
【0070】
ただし、式(4)において、シールド容量Crsの変化ΔCrsの変化に比べてキャパシタCrg、Crgl、Cagの静電容量の変化は十分に小さく無視できるものと仮定している。
【0071】
他方、シールド容量Crsの変化ΔCrsの変化に伴う信号Voの振幅の変化ΔVo_crsは、次の式で表される。
【0072】
【0073】
この式(5)においても、シールド容量Crsの変化ΔCrsの変化に比べてキャパシタCrg、Crgl、Cagの静電容量の変化は十分に小さく無視できるものと仮定している。
【0074】
式(4)を式(5)に代入すると、シールド容量Crsの変化ΔCrsの変化に伴う信号Voの振幅の変化ΔVo_crsは、次の式で表される。
【0075】
【0076】
式(6)における比例係数αは、次の式で表される。
【0077】
【0078】
シールド容量Crsが初期状態に比べて「ΔCrs」だけ変化している場合、このシールド容量Crsの変化に起因して、信号Voの振幅には式(6)の「ΔVo_crs」に相当する変化(誤差)が含まれている。そのため、この「ΔVo_crs」を振幅「Vo」から減算することにより、シールド容量Crsの変化ΔCrsに伴う信号Voの振幅の変化(誤差)が補正される。補正後の信号Voの振幅は、次の式で表される。
【0079】
【0080】
式(1)と式(8-2)とを比較して分かるように、信号Voの振幅に対して式(8-1)の補正を行うことにより算出される振幅は、初期状態から変化したシールド容量Crsを初期状態のシールド容量Crs_refへ戻した場合に得られる信号Voの振幅と等価になっている。
【0081】
補正部26は、式(8-1)の補正を行うために、式(8-1)の「ΔVo_ref」、「ΔVo」に相当する補正値を各補正モードにおいて取得する。この補正値は、交流電圧振幅差(V1-V2)の変化ΔVに伴う算出部25の検出値の変化に応じた値である。「ΔVo_ref」は、初期状態の補正モードにおいて取得される補正値(第1補正値)に対応し、「ΔVo」は、初期状態より後の補正モードにおいて取得される補正値(第2補正値)に対応する。「ΔVo_ref」、「ΔVo」に対応する2つの補正値を取得すると、補正部26は、「Vo」に対応する算出部25の検出値に対して、式(8-1)に相当する補正を行う。すなわち、式(8-1)において「ΔVo_ref」に対する「ΔVo」の変化(ΔVo-ΔVo_ref)に応じて「Vo」を補正しているように、補正部26は、補正モードで取得した補正値の変化(第2補正値-第1補正値)に応じて算出部25の検出値を補正する。これにより、補正部26は、シールド容量Crsの変化に起因する算出部25の検出値の変化(誤差)を補正する。
【0082】
また補正部26は、シールド容量Crsの変化に起因する検出値の誤差の補正に加えて、クロック信号CKのジッターに起因する検出値の誤差の補正も行う。
【0083】
クロック信号CKのジッターによって第1交流電圧V1及び第2交流電圧V2と第1同期信号U1及び第2同期信号U2との相対的な位相が変化すると、この位相の変化に応じて、算出部25が取得する検出用複素数Daの偏角が変化する。検出用複素数Daの偏角の変化すると、その実部(第1復調信号I)も変化する。そのため、算出部25が算出する静電容量の検出値に相当する検出用複素数Daの実部(第1復調信号I)は、クロック信号CKのジッターの影響を受けて誤差を生じる。
【0084】
補正部26は、クロック信号CKのジッターによる検出値の誤差を補正するため、上述した補正モードにおいて、位相の情報を含んだ複素数を補正値として取得する。すなわち、補正部26は、補正モードに移行した場合、交流電圧振幅差(V1-V2)が変化するように交流電圧出力部20を制御するとともに、交流電圧振幅差(V1-V2)の変化に伴う検出用複素数Daの変化に応じた複素数を補正値として取得する。
【0085】
補正部26は、初期状態の補正モードにおいて取得した補正値である第1補正値B1に対して、その第1補正値B1の偏角θ1がゼロに近づくように位相を補正する第1位相補正を施す。第1位相補正は、位相角を「-θ1」だけ回転させる補正である。
また、補正部26は、初期状態より後の補正モードにおいて取得した補正値である第2補正値B2に対して、その第2補正値B2の偏角θ2がゼロに近づくように位相を補正する第2位相補正を施す。第2位相補正は、位相角を「-θ2」だけ回転させる補正である。
更に、補正部26は、第2補正値B2と同じ第2位相補正を検出用複素数Daに対して施す。交流電圧振幅差(V1-V2)が変化しても検出用複素数Daの偏角は概ね一定になることから、交流電圧振幅差(V1-V2)に変化に伴う検出用複素数Daの変化に応じた第2補正値の偏角θ2は、検出用複素数Daの偏角に近い値を持つ。そのため、第2位相補正を検出用複素数Daに対して施すと、検出用複素数Daの偏角もゼロに近づく。
従って、第1補正値B1、第2補正値B2、検出用複素数Daの偏角は、それぞれ位相補正よってゼロに近くなり、クロック信号CKのジッターに起因した検出用複素数Daの偏角の変化が解消される。第1補正値B1、第2補正値B2、検出用複素数Daの偏角がゼロに近くなると、これらの虚部はそれぞれゼロに近くなる。第1補正値B1、第2補正値B2、検出用複素数Daの実部は、それぞれ式(8-1)の「ΔVo_ref」、「ΔVo」、「Vo」に対応した値を持つ。
【0086】
補正部26は、第1位相補正が施された第1補正値B1の実部(ΔVo_ref)と、第2位相補正が施された第2補正値B2の実部(ΔVo)との差(ΔVo-ΔVo_ref)に比例した補正対象成分(ΔVo_crs、式(6))であって、シールド容量Crsが変化することに伴う検出用複素数Daの実部の変化に応じた補正対象成分が相殺されるように、第2位相補正が施された検出用複素数Daの実部を補正する(式(8-1))。これにより、補正部26は、シールド容量Crsの変化ΔCrsによる誤差と、クロック信号CKのジッターによる誤差とがそれぞれ補正された検出値Dsを取得する。
【0087】
補正部26は、初期状態の後、補正モードへ移行する度に第2補正値B2を取得する。補正モード以外の通常の動作モードにおいて、補正部26は、第1位相補正が施された第1補正値B1と、直近の補正モードにおいて取得した第2補正値B2と、検出用複素数Daとに基づいて、補正された検出値Dsを取得する。
【0088】
次に、上述した構成を有する入力装置の静電容量検出装置2における静電容量検出方法についてフローチャートを参照して説明する。
図5は、第1の実施形態に係る静電容量検出方法の一例を説明するためのフローチャートである。
【0089】
例えば電源を立ち上げたときの起動時や初期状態に設定する指示を処理部3から入力した場合に、静電容量検出装置2は初期状態での補正モードに移行する(ST100)。
【0090】
図6は、
図5に示す静電容量検出方法における初期状態での補正モード(ST100)の処理の一例を説明するためのフローチャートである。
まず補正部26は、第2交流電圧V2の振幅が通常の値となるように交流電圧出力部20(第2電圧出力部22)を制御する(ST200)。ここでは、第2交流電圧V2の通常の振幅を「V2」とする。第1交流電圧V1の振幅と第2交流電圧V2の振幅との差である交流電圧振幅差は「V1-V2」となる。以下、「V1-V2」の交流電圧振幅差を「第1振幅差」と記す場合がある。この場合、補正部26は、交流電圧振幅差が第1振幅差「V1-V2」となるように交流電圧出力部20を制御したことになる。
【0091】
算出部25は、初期状態の補正モードにおいて第2交流電圧V2が通常の振幅「V2」であるとき(交流電圧振幅差が第1振幅差「V1-V2」であるとき)の検出用複素数Daを、「第1検出用複素数Da_ref(V2)」として取得する(ST205)。第1検出用複素数Da_ref(V2)の実部は「I_ref(V2)」であり、第1検出用複素数Da_ref(V2)の虚部は「Q_ref(V2)」である。
【0092】
次に補正部26は、第2交流電圧V2の振幅が通常の値より「ΔV」だけ高くなるように交流電圧出力部20(第2電圧出力部22)を制御する(ST210)。交流電圧振幅差は「V1-(V2+ΔV)」となる。以下、「V1-(V2+ΔV)」の交流電圧振幅差を「第2振幅差」と記す場合がある。この場合、補正部26は、交流電圧振幅差が第2振幅差「V1-(V2+ΔV)」となるように交流電圧出力部20を制御したことになる。
【0093】
算出部25は、初期状態の補正モードにおいて第2交流電圧V2の振幅が「V2+ΔV」であるとき(交流電圧振幅差が第2振幅差「V1-(V2+ΔV)」であるとき)の検出用複素数Daを、「第2検出用複素数Da_ref(V2+ΔV)」として取得する(ST215)。第2検出用複素数Da_ref(V2+ΔV)の実部は「I_ref(V2+ΔV)」であり、第2検出用複素数Da_ref(V2+ΔV)の虚部は「Q_ref(V2+ΔV)」である。
【0094】
補正部26は、初期状態の補正モードにおいて、交流電圧振幅差の変化ΔVに伴う検出用複素数Daの変化に応じた第1補正値B1を取得する(ST220)。補正部26は、第2検出用複素数Da_ref(V2+ΔV)から第1検出用複素数Da_ref(V2)を減算した複素数を第1補正値B1として取得する。
【0095】
補正部26は、第1補正値B1の偏角θ1がゼロに近づくように位相を補正する第1位相補正に用いられる係数を取得する(ST250)。第1位相補正は、位相角を「-θ1」だけ回転させる回転変換である。第1位相補正が施される前の第1補正値B1の実部と虚部をそれぞれ「Re{B1}」、「Im{B1}」とし、第1位相補正が施された後の第1補正値B1_Rの実部と虚部をそれぞれ「Re{B1_R}」、「Im{B1_R}」とした場合、第1位相補正による回転変換は次の式で表される。
【0096】
【0097】
式(9)における「A1」は、第1位相補正の回転変換の行列を示す。補正部26は、この行列A1の要素である「COS(θ1)」「SIN(θ1)」を取得する。「COS(θ1)」及び「SIN(θ1)」は、それぞれ次の式で表される。
【0098】
【0099】
補正部26は、第1補正値B1に対して第1位相変換を施した第1補正値B1_Rを取得する(ST255)。第1補正値B1_Rの実部Re{B1_R}は次の式で表される。
【0100】
【0101】
図5に戻る。
静電容量検出装置2は、補正モードへ移行するタイミングか否か判定する(ST105)。例えば静電容量検出装置2は、予め定めた周期で補正モードに移行するタイミングであると判定する。また静電容量検出装置2は、補正モードへの移行指示を処理部3から入力した場合に、移行のタイミングであると判定してもよい。ステップST105において移行のタイミングであると判定して補正モードに移行すると(ステップST110)、静電容量検出装置2は、
図7に示す処理を実行する。
【0102】
図7は、
図5に示す静電容量検出方法における初期状態より後の補正モード(ST110)の処理の一例を説明するためのフローチャートである。
まず補正部26は、第2交流電圧V2が通常の振幅「V2」となるように交流電圧出力部20(第2電圧出力部22)を制御する(ST300)。すなわち、補正部26は、交流電圧振幅差が第1振幅差「V1-V2」となるように交流電圧出力部20を制御する。
【0103】
算出部25は、初期状態より後の補正モードにおいて第2交流電圧V2が通常の振幅「V2」であるとき(交流電圧振幅差が第1振幅差「V1-V2」であるとき)の検出用複素数Daを、「第1検出用複素数Da(V2)」として取得する(ST305)。第1検出用複素数Da(V2)の実部は「I(V2)」であり、第1検出用複素数Da(V2)の虚部は「Q(V2)」である。
【0104】
次に補正部26は、第2交流電圧V2の振幅が通常の値より「ΔV」だけ高くなるように交流電圧出力部20(第2電圧出力部22)を制御する(ST310)。交流電圧振幅差は「V1-(V2+ΔV)」となる。すなわち、補正部26は、交流電圧振幅差が第2振幅差「V1-(V2+ΔV)」となるように交流電圧出力部20を制御する。
【0105】
算出部25は、初期状態より後の補正モードにおいて第2交流電圧V2の振幅が「V2+ΔV」であるとき(交流電圧振幅差が第2振幅差「V1-(V2+ΔV)」であるとき)の検出用複素数Daを、「第2検出用複素数Da(V2+ΔV)」として取得する(ST315)。第2検出用複素数Da(V2+ΔV)の実部は「I(V2+ΔV)」であり、第2検出用複素数Da(V2+ΔV)の虚部は「Q(V2+ΔV)」である。
【0106】
補正部26は、初期状態より後の補正モードにおいて、交流電圧振幅差の変化ΔVに伴う検出用複素数Daの変化に応じた第2補正値B2を取得する(ST320)。補正部26は、第2検出用複素数Da(V2+ΔV)から第1検出用複素数Da(V2)を減算した複素数を第2補正値B2として取得する。
【0107】
補正部26は、第2補正値B2の偏角θ2がゼロに近づくように位相を補正する第2位相補正に用いられる係数を取得する(ST350)。第2位相補正は、位相角を「-θ2」だけ回転させる回転変換である。第2位相補正が施される前の第2補正値B2の実部と虚部をそれぞれ「Re{B2}」、「Im{B2}」とし、第2位相補正が施された後の第2補正値B2_Rの実部と虚部をそれぞれ「Re{B2_R}」、「Im{B2_R}」とした場合、第2位相補正による回転変換は次の式で表される。
【0108】
【0109】
式(12)における「A2」は、第2位相補正の回転変換の行列を示す。補正部26は、この行列A2の要素である「COS(θ2)」「SIN(θ2)」を取得する。「COS(θ2)」及び「SIN(θ2)」は、それぞれ次の式で表される。
【0110】
【0111】
補正部26は、第2補正値B2に対して第2位相変換を施した第2補正値B2_Rを取得する(ST355)。第2補正値B2_Rの実部Re{B2_R}は次の式で表される。
【0112】
【0113】
図5に戻る。
静電容量検出装置2は、静電容量の検出を行うタイミングか否か判定する(ST115)。例えば静電容量検出装置2は、予め定めた周期で静電容量の検出を行うタイミングであると判定する。ステップST105において判定する補正モードへの移行のタイミングは、このステップST115において判定する静電容量の検出のタイミングに比べて周期が長くなるように設定される。これにより、補正モード(ST110)へ移行する頻度が静電容量の検出を行う頻度より少なくなるため、処理の負荷が軽減され易くなる。
【0114】
ステップST115において静電容量の検出を行うタイミングであると判定すると、算出部25は、第2交流電圧V2を通常の振幅「V2」に設定し(交流電圧振幅差を第1振幅差「V1-V2」に設定し)、この状態で生成される検出信号Dmに基づいて、検出用複素数Da(V2)を取得する(ST120)。補正部26は、この取得した検出用複素数Da(V2)と、第1位相補正が施された第1補正値B1_R(ST255、
図6)と、直近の補正モードにおいて取得した第2補正値B2_R(ST355、
図7)とに基づいて、補正された検出値Dsを取得する(ST125)。
【0115】
図8は、
図5に示す静電容量検出方法において補正された検出値を取得する処理(ST125)の一例を説明するためのフローチャートである。
補正部26は、直近の補正モードの第2補正値B2により取得された第2位相補正用の係数「COS(θ2)」「SIN(θ2)」(ST350、
図7)に基づいて、検出用複素数Da(V2)に対して第2位相補正を施す(ST400)。第2位相補正が施された検出用複素数Da_R(V2)の実部は、次の式で表される。
【0116】
【0117】
補正部26は、第1位相補正が施された第1補正値B1_Rの実部「Re{B1_R}」と第2位相補正が施された第2補正値B2Rの実部「Re{B2_R}」との差に比例係数βを乗算し、当該乗算の結果と、第2位相補正が施された検出用複素数Da_R(V2)の実部「Re{Da_R(V2)}」との和に基づいて、補正された検出値Dsを取得する。補正された検出値Dsは、次の式で表される。
【0118】
【0119】
静電容量検出装置2は、上述したステップST105~ST125の処理を、処理部3から終了の指示を受けるまで反復する(ST135)。また静電容量検出装置2は、初期状態へ戻るように処理部3から指示を受けた場合、ステップST100に戻って、ステップST100以降の処理を繰り返す。
【0120】
以上説明したように、本実施形態によれば、補正モードへの移行が繰り返し行われ、補正モードに移行した場合に、第1交流電圧V1と第2交流電圧V2との振幅の差(交流電圧振幅差)が変化するように交流電圧出力部20が制御されるとともに、交流電圧振幅差の変化に伴う算出部25の検出値の変化に応じた補正値(B1、B2)が取得される。交流電圧振幅差の変化に伴う算出部25の検出値の変化は、シールド容量Crsに応じた値を持つため(式(2)、式(3))、補正モードにおいて取得される補正値(B1、B2)は、シールド容量Crsに応じた値を持つ。この補正値の変化(B2-B1)に応じて検出値が補正されることにより、シールド容量Crsの変化に応じて算出部25の検出値が補正されることになる。従って、シールド容量Crsが変化することに伴う算出部25の検出値の変化を補正することが可能となり、静電容量の検出誤差を低減できる。
【0121】
また、本実施形態によれば、初期状態の補正モードで取得される第1補正値B1、初期状態より後の補正モードで取得される第2補正値B2及び検出用複素数Da(V2)の偏角がそれぞれ位相の補正によってゼロ付近に揃えられるため、これらの複素数の実部(式(11)、式(14)、式(15))は、クロック信号CKのジッターによる影響が概ね除去された値となる。そして補正部26では、クロック信号CKのジッターによる影響が除去された第1補正値B1_R、第2補正値B2_R及び検出用複素数Da_R(V2)の実部に基づいて、シールド容量Crsの変化に対する補正が行われた検出値Dsが取得される。すなわち、第1位相補正が施された第1補正値B1_Rの実部と、第2位相補正が施された第2補正値B2_Rの実部との差に比例した補正対象成分が、シールド容量Crsの変化に伴う検出値の変化(式(6))に応じた値を持つことから、第2位相補正が施された検出用複素数Da_R(V2)の実部に対して、この補正対象成分が相殺されるように補正が行われる(式(16))。このようにして取得された検出値Dsは、初期状態からのシールド容量Crsの変化に伴う誤差と、クロック信号CKのジッターに伴う誤差とがそれぞれ補正されたものとなるため、静電容量の検出誤差を更に低減できる。
【0122】
次に、本実施形態に係る静電容量検出方法の幾つかの変形例について説明する。
【0123】
[変形例1]
図9は、
図5に示す静電容量検出出方法における初期状態より後の補正モードの処理(ST110)の一変形例を説明するためのフローチャートである。
【0124】
この変形例1では、第2補正値B2対する第2位相補正(式(14))と、検出用複素数Da(V2)に対する第2位相補正(式(15))とが、第2補正値B2及び検出用複素数Da(V2)に基づく中間補正値M(式(17))に対する第2位相補正へ等価的に置き換えられる。そのため、
図7に示すフローチャートにおける第2補正値Bの第2位相補正の処理(ST355)は、
図9に示すフローチャートにおいて省略される。
図9に示すフローチャートにおけるその他の処理は、
図7に示すフローチャートと同じである。
【0125】
図10は、補正された検出値を取得する処理(ST125、
図5)の一変形例を説明するためのフローチャートである。
補正部26は、補正された検出値Dsを取得する処理(ST125、
図5)において、まず中間補正値Mを算出する(ST450)。中間補正値Mは、次の式で表される。
【0126】
【0127】
式(17)において、検出用複素数Da(V2)はステップST120(
図5)で取得されたものであり、第2補正値B2はステップST320(
図9)で取得されたものである。
【0128】
補正部26は、算出した中間補正値Mに対して、ステップST350(
図9)で取得された係数「COS(θ2)」「SIN(θ2)」に基づく第2位相補正を施す(ST455)。すなわち、補正部26は、第2補正値B2に比例係数βを乗じて得た複素数と検出用複素数Da(V2)との和に対して、当該第2補正値の偏角θ2に相当する位相角を回転させる第2位相補正を施す。第2位相補正が施された中間補正値M_Rの実部は、次の式で表される。
【0129】
【0130】
補正部26は、第1位相補正が施された第1補正値B1_Rの実部(ST255、
図6)に比例係数βを乗じて得た値を、第2位相補正が施された中間補正値M_Rの実部(ST455)から減算した結果に基づいて、補正された検出値Dsを取得する(ST460)。この計算により得られる検出値Dsは、次の式で表される。
【0131】
【0132】
式(19)から分かるように、中間補正値Mを用いて計算される検出値Dsは、式(16)により計算される検出値Dsと等価である。
【0133】
[変形例2]
この変形例2では、交流電圧振幅差(V1-V2)の変化に伴う検出用複素数Daの変化に応じた複素数の補正値(第1補正値B1、第2補正値B2)を取得する際に、交流電圧振幅差(V1-V2)が変調信号によって変調される。
【0134】
図11は、
図5に示す静電容量検出方法における初期状態での補正モードの処理(ST100、
図5)の一変形例を説明するためのフローチャートである。
補正部26は、補正モードへ移行した場合、周波数f2(f2<f1)を持つ一定の振幅の変調信号により交流電圧振幅差(V1-V2)が変調されるように交流電圧出力部20を制御する。例えば、補正部26は、周波数f2の変調信号により振幅が変調された周波数f1の正弦波信号を正弦波信号生成部211(
図2)において生成させることにより、周波数f2の変調信号で変調された第1交流電圧V1を第1電圧出力部21から出力させる。第2電圧出力部22から出力される第2交流電圧V2は、第1交流電圧V1の振幅を減衰させたものであるため、第2交流電圧V2の変調度は第1交流電圧V1と同じになる。従って、交流電圧振幅差(V1-V2)は、周波数f2の変調信号により変調された周波数f1の交流電圧となる。
【0135】
交流電圧振幅差(V1-V2)が上記のように変調された場合、算出部25から出力される検出用複素数Daの実部(第1復調信号I)と虚部(第2復調信号Q)には、それぞれ変調信号に起因する周波数f2の交流成分が含まれる。補正部26は、検出用複素数Daの実部に含まれる周波数f2の交流成分の振幅を検出し、検出した振幅を第1補正値B1の実部「Re{B1}」として取得する(ST235)。また補正部26は、検出用複素数Daの虚部に含まれる周波数f2の交流成分の振幅を検出し、検出した振幅を第1補正値B1の虚部「Im{B1}」として取得する(ST240)。交流成分の振幅は、例えば、交流成分の上下のピーク値を検出してその差を平均化する処理などにより検出することができる。第1補正値B1の実部と虚部をそれぞれ取得すると、補正部26は、
図6のフローチャートのステップST250及びST255と同様の処理により、第1位相補正が施された第1補正値B1_Rの実部を取得する。
【0136】
図12は、
図5に示す静電容量検出方法における初期状態より後の補正モードの処理(ST110、
図5)の一変形例を説明するためのフローチャートである。
この場合も、補正部26は、周波数f2の一定振幅の変調信号によって交流電圧振幅差(V1-V2)を変調させる(ST330)。交流電圧振幅差(V1-V2)を変調させた状態で、補正部26は、検出用複素数Daの実部に含まれる周波数f2の交流成分の振幅を検出し、検出した振幅を第2補正値B2の実部「Re{B2}」として取得する(ST335)。また補正部26は、検出用複素数Daの虚部に含まれる周波数f2の交流成分の振幅を検出し、検出した振幅を第2補正値B2の虚部「Im{B2}」として取得する(ST340)。そして、補正部26は、
図7のフローチャートのステップST350及びST355と同様の処理により、第2位相補正用の係数「COS(θ2)」「SIN(θ2)」を取得するとともに、第2位相補正が施された第2補正値B2_Rの実部を取得する。
【0137】
この変形例2の静電容量検出方法においても、交流電圧振幅差(V1-V2)の変化に伴う検出用複素数Daの変化に応じた複素数の補正値(第1補正値B1、第2補正値B2)を取得できるため、上述した実施形態と同様に、補正された検出値Dsを取得することが可能である。
【0138】
<第2の実施形態>
次に、第2の実施形態に係る静電容量検出装置とその静電容量検出方法について説明する。上述した第1の実施形態では、シールド容量Crsの変化に起因する誤差の補正と、クロック信号CKのジッターに起因する検出値の誤差の補正がそれぞれ行われていたが、第2の実施形態では、シールド容量Crsの変化に起因する検出値の誤差の補正のみが行われる。この第2の実施形態では、位相補正に関わる処理が行われないため、検出用複素数Daの実部(第1復調信号I)のみが処理に使用される。従って、第2の実施形態に係る静電容量検出装置2の算出部25は、第2復調信号Qの生成に関わる部分(第2復調部254、第2同期信号生成部258)を含まなくてもよい。第2の実施形態に係る静電容量検出装置2の他の構成は、
図1~
図4に示す静電容量検出装置2の構成と概ね同じでよい。
【0139】
図13は、第2の実施形態に係る静電容量検出方法の一例を説明するためのフローチャートである。
【0140】
例えば電源を立ち上げたときの起動時や初期状態に設定する指示を処理部3から入力した場合に、静電容量検出装置2は初期状態での補正モードに移行する(ST500)。
【0141】
図14は、
図13に示す静電容量検出方法における初期状態での補正モードの処理(ST500)の一例を説明するためのフローチャートである。
まず補正部26は、第2交流電圧V2が通常の振幅「V2」を持つように交流電圧出力部20(第2電圧出力部22)を制御する(ST600)。すなわち、補正部26は、交流電圧振幅差が第1振幅差「V1-V2」となるように交流電圧出力部20を制御する。
【0142】
算出部25は、初期状態の補正モードにおいて第2交流電圧V2が通常の振幅「V2」であるとき(交流電圧振幅差が第1振幅差「V1-V2」であるとき)の検出値(第1復調信号I)を、「第1検出値Da_ref(V2)」として取得する(ST605)。
【0143】
次に補正部26は、第2交流電圧V2の振幅が通常の値より「ΔV」だけ高くなるように交流電圧出力部20(第2電圧出力部22)を制御する(ST610)。すなわち、補正部26は、交流電圧振幅差が第2振幅差「V1-(V2+ΔV)」となるように交流電圧出力部20を制御する。
【0144】
算出部25は、初期状態の補正モードにおいて第2交流電圧V2の振幅が「V2+ΔV」であるとき(交流電圧振幅差が第2振幅差「V1-(V2+ΔV)」であるとき)の検出値(第1復調信号I)を、「第2検出値Da_ref(V2+ΔV)」として取得する(ST215)。
【0145】
補正部26は、初期状態の補正モードにおいて、交流電圧振幅差の変化ΔVに伴う検出用値(第1復調信号I)の変化に応じた第1補正値B1を取得する(ST620)。補正部26は、第2検出値Da_ref(V2+ΔV)から第1検出値Da_ref(V2)を減算して得られる値を第1補正値B1として取得する。
【0146】
図13に戻る。
静電容量検出装置2は、補正モードへ移行するタイミングか否か判定する(ST505)。例えば静電容量検出装置2は、予め定めた周期で補正モードに移行するタイミングであると判定する。また静電容量検出装置2は、補正モードへの移行指示を処理部3から入力した場合に、移行のタイミングであると判定してもよい。ステップST505において移行のタイミングであると判定して補正モードに移行すると(ステップST510)、静電容量検出装置2は、
図15に示す処理を実行する。
【0147】
図15は、
図13に示す静電容量検出方法における初期状態より後の補正モードの処理(ST510)の一例を説明するためのフローチャートである。
まず補正部26は、第2交流電圧V2が通常の振幅「V2」となるように交流電圧出力部20(第2電圧出力部22)を制御する(ST700)。すなわち、補正部26は、交流電圧振幅差が第1振幅差「V1-V2」となるように交流電圧出力部20を制御する。
【0148】
算出部25は、初期状態より後の補正モードにおいて第2交流電圧V2が通常の振幅「V2」であるとき(交流電圧振幅差が第1振幅差「V1-V2」であるとき)の検出値(第1復調信号I)を、「第1検出値Da(V2)」として取得する(ST705)。
【0149】
次に補正部26は、第2交流電圧V2の振幅が通常の値より「ΔV」だけ高くなるように交流電圧出力部20(第2電圧出力部22)を制御する(ST710)。交流電圧振幅差は「V1-(V2+ΔV)」となる。すなわち、補正部26は、交流電圧振幅差が第2振幅差「V1-(V2+ΔV)」となるように交流電圧出力部20を制御する。
【0150】
算出部25は、初期状態より後の補正モードにおいて第2交流電圧V2の振幅が「V2+ΔV」であるとき(交流電圧振幅差が第2振幅差「V1-(V2+ΔV)」であるとき)の検出値(第1復調信号I)を、「第2検出値Da(V2+ΔV)」として取得する(ST715)。
【0151】
補正部26は、初期状態より後の補正モードにおいて、交流電圧振幅差の変化ΔVに伴う検出値(第1復調信号I)の変化に応じた第2補正値B2を取得する(ST720)。補正部26は、第2検出値Da(V2+ΔV)から第1検出値Da(V2)を減算して得られる値を第2補正値B2として取得する。
【0152】
補正部26は、初期状態の補正モードにおいて取得した第1補正値B1(ST620、
図14)と、初期状態より後の補正モードにおいて取得した第2補正値B2(ST720)との差に比例した補正対象成分P=-β・(B2-B1)を算出する(ST750)。補正対象成分Pは、式(6)の「ΔVo_crs」に対応するものであり、シールド容量Crsが変化することに伴う検出値(第1復調信号I)の変化に応じた値を持つ。
【0153】
図13に戻る。
静電容量検出装置2は、静電容量の検出を行うタイミングか否か判定する(ST515)。例えば静電容量検出装置2は、予め定めた周期で静電容量の検出を行うタイミングであると判定する。ステップST505において判定する補正モードへの移行のタイミングは、このステップST515において判定する静電容量の検出のタイミングに比べて周期が長くなるように設定される。これにより、補正モード(ST510)へ移行する頻度が静電容量の検出を行う頻度より少なくなるため、処理の負荷が軽減され易くなる。
【0154】
ステップST515において静電容量の検出を行うタイミングであると判定すると、算出部25は、第2交流電圧V2を通常の振幅「V2」に設定し(交流電圧振幅差を第1振幅差「V1-V2」に設定し)、この状態で生成される検出信号Dmに基づいて、検出値Da(V2)を取得する(ST520)。補正部26は、この取得した検出値Da(V2)を、ステップST750(
図15)で算出した補正対象成分Pに基づいて補正する。すなわち、補正部26は、シールド容量Crsが変化することに伴う検出値(第1復調信号I)の変化に応じた補正対象成分Pが相殺されるように、検出値Da(V2)から補正対象成分Pを減算し(Da(V2)-P)、その減算結果を補正後の検出値Dsとして取得する(ST525)。
【0155】
静電容量検出装置2は、上述したステップST505~ST525の処理を、処理部3から終了の指示を受けるまで反復する(ST535)。また静電容量検出装置2は、初期状態へ戻るように処理部3から指示を受けた場合、ステップST500に戻って、ステップST500以降の処理を繰り返す。
【0156】
以上説明したように、本実施形態においても、既に説明した第1の実施形態と同様に、シールド容量Crsの変化に起因する検出値の誤差を効果的に低減できる。
【0157】
なお、第2の実施形態においても、上述した第1の実施形態の変形例2と同様に、補正モードにおいて交流電圧振幅差を変調させた状態で補正値(第1補正値B1、第2補正値B2)を取得することが可能である。
【0158】
図16Aは、
図13に示す静電容量検出方法における初期状態での補正モードの処理(ST500)の一変形例を説明するためのフローチャートである。
補正部26は、初期状態において補正モードへ移行した場合、周波数f2(f2<f1)を持つ一定の振幅の変調信号により交流電圧振幅差(V1-V2)が変調されるように交流電圧出力部20を制御するとともに(ST630)、検出値(第1復調信号I)に含まれる周波数f2の交流成分の振幅を検出し、検出した振幅を第1補正値B1として取得する(ST635)。
【0159】
図16Bは、
図13に示す静電容量検出方法における初期状態より後の補正モードの処理(ST510)の一変形例を説明するためのフローチャートである。
補正部26は、初期状態より後の補正モードへ移行した場合、周波数f2(f2<f1)を持つ一定の振幅の変調信号により交流電圧振幅差(V1-V2)が変調されるように交流電圧出力部20を制御するとともに(ST730)、検出値(第1復調信号I)に含まれる周波数f2の交流成分の振幅を検出し、検出した振幅を第2補正値B2として取得する(ST735)。そして、補正部26は、
図15のフローチャートのステップST750と同様に、補正対象成分P=-β・(B2-B1)を算出する。
【0160】
この変形例の静電容量検出方法においても、交流電圧振幅差(V1-V2)の変化に伴う検出値(第1復調信号I)の変化に応じた補正値(第1補正値B1、第2補正値B2)を取得できるため、上述した実施形態と同様に、補正された検出値Dsを取得することが可能である。
【0161】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、種々のバリエーションを含んでいる。
【0162】
上述した実施形態では、交流電圧振幅差(V1-V2)を変化させるために、第1交流電圧V1の振幅を一定に保ったまま第2交流電圧V2の振幅を変化させる例を挙げたが、本実施形態の他の例では、第2交流電圧V2の振幅を一定に保ったまま第1交流電圧V1の振幅を変化させることにより交流電圧振幅差(V1-V2)を変化させてもよい。また、本実施形態の更に他の実施形態では、第1交流電圧V1の振幅と第2交流電圧V2の振幅とをそれぞれ変化させることによって交流電圧振幅差(V1-V2)を変化させてもよい。いずれの場合においても、温度等によるシールド容量Crsの変化に比べてキャパシタCrg、Crgl、Cagの静電容量の変化が十分に小さく無視できるものと仮定することで式(4)及び式(5)が成立するため、シールド容量Crsの変化に起因する検出値の誤差を補正することが可能である。
【0163】
本実施形態に係る入力装置は、指等の操作による情報を入力するユーザーインターフェース装置に限定されない。すなわち、本発明の入力装置は、人体に限定されない種々の物体の近接に応じて変化する検出電極の静電容量に応じた情報を入力する装置に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0164】
1…センサ部、2…静電容量検出装置、3…処理部、4…記憶部、5…インターフェース部、6…対象物、20…交流電圧出力部、21…第1電圧出力部、211…正弦波信号生成部、212…D/A変換部、213…ローパスフィルタ、214…増幅器、22…第2電圧出力部、23…検出信号生成部、231…チャージアンプ、232…減算部、233…全差動増幅器、24…A/D変換部、25…算出部、251…第1復調部、252…乗算部、253…ローパスフィルタ、254…第2復調部、255…乗算部、256…ローパスフィルタ、257…第1同期信号生成部、258…第2同期信号生成部、26…補正部、Rag…帰還抵抗、Rs…抵抗、Cag…帰還キャパシタ、Ca,Cb,Crg,Crgl,Crs,Csg…キャパシタ、OP1…演算増幅器、Es…検出電極、Ea…シールド電極、N1,N2…ノード