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特許7584556波動歯車装置の波動発生器及び波動歯車装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】波動歯車装置の波動発生器及び波動歯車装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20241108BHJP
   F16C 23/08 20060101ALI20241108BHJP
   F16C 19/36 20060101ALI20241108BHJP
   F16C 33/48 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
F16H1/32 B
F16C23/08
F16C19/36
F16C33/48
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023059512
(22)【出願日】2023-03-31
(65)【公開番号】P2024146540
(43)【公開日】2024-10-15
【審査請求日】2024-03-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000139023
【氏名又は名称】株式会社リケン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100179947
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 晃太郎
(72)【発明者】
【氏名】神山 遼
(72)【発明者】
【氏名】石塚 一男
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第112431908(CN,A)
【文献】特開2007-239969(JP,A)
【文献】特開2021-101119(JP,A)
【文献】特開2020-016278(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第04080088(EP,A1)
【文献】独国特許出願公開第102018123915(DE,A1)
【文献】国際公開第2022/012712(WO,A1)
【文献】特開2022-154796(JP,A)
【文献】特開2011-190826(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
F16C 23/08
F16C 19/36
F16C 33/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非円形状の輪郭を有するカム部材と、前記カム部材の外周面に装着されたころ軸受と、を備えている、波動歯車装置の波動発生器において、
前記ころ軸受のころは、当該ころのころ外周面に、当該ころ外周面のころ軸線方向中心部を含んだころ摺動面を含んでおり、
前記ころ外周面を当該ころ外周面のころ軸線方向中心部が最大直径となるように径方向外側に向かって湾曲させることで、前記ころ摺動面は、前記ころ外周面のころ軸線方向中心部が最大直径となるように径方向外側に向かって凸となるように湾曲した曲面となっており、
前記ころ摺動面のうちの、前記ころ外周面のころ軸線方向中心部を挟んだ2つのころ摺動面領域のうちの少なくともいずれか一方は、前記ころのころ軸線方向端に向かって先細りしたころ縮径面を含んでおり、当該ころ縮径面は、径方向外側に向かって湾曲した曲面であり、
前記ころの基準直径φA1と、前記ころ縮径面のころ軸線方向端の直径φA2とは、60≦(φA2/φA1)×100≦99の条件を満たしており、
前記ころ軸線に対する前記ころ縮径面の傾斜角又は当該ころ軸線に対する前記ころ摺動面の傾斜角は、真円状態のフレクスプラインが前記カム部材の長軸側において、前記フレクスプラインの周壁の屈曲部を基点に径方向外側に張り出したときの、前記カム部材の長軸側での、前記ころ軸線に対する前記フレクススプラインの傾き角度よりも大きく、コーニングが前記フレクスプラインに発生し得るときには、当該フレクススプライン又は前記ころ軸受の外輪を前記ころ縮径面に沿って傾斜させられる、波動歯車装置の波動発生器。
【請求項2】
前記ころ軸受は、前記ころを保持する保持器を備えており、前記保持器は、前記ころ外周面のころ軸線方向端部を保持している、請求項1に記載された波動歯車装置の波動発生器。
【請求項3】
前記ころ軸受は、前記ころを保持する保持器を備えており、前記保持器は、前記ころ摺動面Fsの転動方向摺動部分を保持している、請求項1に記載された波動歯車装置の波動発生器。
【請求項4】
前記ころ軸受は、前記保持器を複数備える、請求項又はに記載された波動歯車装置の波動発生器。
【請求項5】
前記保持器は、樹脂又は軽金属によって形成されている、請求項又はに記載された波動歯車装置の波動発生器。
【請求項6】
前記ころ軸受は、内輪及び外輪の少なくともいずれか一方を備える構成である、請求項1に記載された波動歯車装置の波動発生器。
【請求項7】
前記ころ軸受は、前記ころを前記カム部材及びフレクスプラインに接触させる構成である、請求項1に記載された波動歯車装置の波動発生器。
【請求項8】
サーキュラスプラインと、フレクスプラインと、請求項1に記載された波動発生器と、を備える、波動歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波動歯車装置の波動発生器及び波動歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
波動歯車装置の寿命(耐久性)を支配しているのは、主として、当該波動歯車装置に波動運動を発生させる波動発生器の軸受の耐久性である。玉軸受の場合には、転動体が球形の玉であることから、当該玉の頂点部(支持部)に応力が集中し、耐久性を低下させる要因となる。
【0003】
そのため、従来から、転動体の支持部が線で接触することとなる、ころ軸受を採用することが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-190826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来のころ軸受には、コーニング(波動歯車装置のフレクスプラインに波動発生器を挿入することにより、当該フレクスプラインが楕円錐状に変形する現象。)の影響を大きく受けるという問題が存在している。コーニングの発生は、ころ軸受のころ軸線方向端部に大きな負荷を加えることから、ころの外周面(特に、ころの外周面のうちの、ころ軸線方向端部)に応力を集中させることになる。こうした応力集中は、例えば、波動発生器、ひいては波動歯車装置の耐久性の低下、エネルギーロスの増加(動力伝達効率の低下)等の要因となり得る。
【0006】
本発明の目的は、コーニングに起因する応力集中が軽減された、波動歯車装置の波動発生器及び波動歯車装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係る、波動歯車装置の波動発生器は、非円形状の輪郭を有するカム部材と、前記カム部材の外周面に装着されたころ軸受と、を備えている、波動歯車装置の波動発生器において、前記ころ軸受のころは、当該ころのころ外周面に、当該ころ外周面のころ軸線方向中心部を含んだころ摺動面を含んでおり、前記ころ摺動面のうちの、前記ころ外周面のころ軸線方向中心部を挟んだ2つのころ摺動面領域のうちの少なくともいずれか一方は、前記ころのころ軸線方向端に向かって先細りした縮径面を含んでいる。
【0008】
(2)上記(1)の、波動歯車装置の波動発生器において、前記ころ縮径面は、径方向外側に向かって湾曲した曲面であることが好ましい。
【0009】
(3)上記(1)又は(2)の、波動歯車装置の波動発生器において、前記ころ摺動面は、前記ころ外周面のころ軸線方向中心部を最大直径とし、径方向外側に向かって凸となるように湾曲した曲面であることが好ましい。
【0010】
(4)上記(1)~(3)のいずれか1つの、波動歯車装置の波動発生器において、前記ころの基準直径φA1と、前記縮径面のころ軸線方向端の直径φA2とは、60≦(φA2/φA1)×100≦99の条件を満たしているものとすることができる。
【0011】
(5)上記(1)~(4)のいずれか1つの、波動歯車装置の波動発生器において、前記ころ軸受は、前記ころを保持する保持器を備えており、前記保持器は、前記ころ外周面のころ軸線方向端部を保持していることが好ましい。
【0012】
(6)上記(1)~(5)のいずれか1つの、波動歯車装置の波動発生器において、前記ころ軸受は、前記ころを保持する保持器を備えており、前記保持器は、前記ころ摺動面Fsの転動方向摺動部分を保持していることが好ましい。
【0013】
(6)上記(5)の、波動歯車装置の波動発生器において、前記ころ軸受は、前記保持器を複数備えるものとすることができる。
【0014】
(7)上記(5)又は(6)の、波動歯車装置の波動発生器において、前記保持器は、樹脂又は軽金属によって形成されているものとすることができる。
【0015】
(8)上記(1)~(7)のいずれか1つの、波動歯車装置の波動発生器において、前記ころ軸受は、内輪及び外輪の少なくともいずれか一方を備える構成であるものとすることができる。
【0016】
(9)上記(1)~(7)のいずれか1つの、波動歯車装置の波動発生器において、前記ころ軸受は、前記ころを前記カム部材及びフレクスプラインに接触させる構成であるものとすることができる。
【0017】
(10)本発明に係る、波動歯車装置は、サーキュラスプラインと、フレクスプラインと、上記(1)~(9)のいずれか1つの波動発生器とを備える。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、コーニングに起因する応力集中が軽減された、波動歯車装置の波動発生器及び波動歯車装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る波動歯車装置を軸線方向入力側から概略的に示す正面図であり、当該波動歯車装置は、本発明の第1実施形態に係る、波動発生器を備えている。
図2図1の波動歯車装置の一構成要素である、ころ軸受を概略的に示す正面図である。
図3図2のころ軸受のうちの、当該ころ軸受のころと、当該ころを保持する保持器との組付け状態が、当該保持器を平らに展開した状態で、部分的にかつ概略的に示された平面図である。
図4図3のX-X断面図である。
図5図3の正面図である。
図6A図1の波動歯車装置がカム部材の長軸を含む断面で概略的に示された断面図である。
図6B】従来の波動歯車装置がカム部材の長軸を含む断面で概略的に示された断面図である。
図7】本発明の第2実施形態に係る波動発生器のころ軸受のうちの、当該ころ軸受のころと、当該ころを保持する保持器との組付け状態が、当該保持器を平らに展開した状態で、部分的にかつ概略的に示された平面図である。
図8図7の正面図である。
図9図7のY-Y断面図である。
図10】本発明の第3実施形態に係る波動発生器のころ軸受のうちの、当該ころ軸受のころと、当該ころを保持する保持器との組付け状態が、当該保持器を平らに展開した状態で、部分的にかつ概略的に示された正面図である。
図11図10のX‐X断面図である。
図12図10の組付け状態が図7のY-Y断面相当で概略的に示された断面図である。
図13】本発明の第4実施形態に係る波動発生器のころ軸受を概略的に示す正面図である。
図14図13のころ軸受のうちの、当該ころ軸受のころと、当該ころを保持する保持器との組付け状態が、当該保持器を平らに展開した状態で、部分的にかつ概略的に示された平面図である。
図15図14のX-X断面図である。
図16図14の正面図である。
図17図14のY-Y断面図である。
図18】本発明の第5実施形態に係る波動発生器のころ軸受を概略的に示す正面図である。
図19図18のころ軸受のうちの、当該ころ軸受のころと、当該ころを保持する保持器との組付け状態が、当該保持器を平らに展開した状態で、部分的にかつ概略的に示された平面図である。
図20図19のX-X断面図である。
図21図19の正面図である。
図22図19のY-Y断面図である。
図23】本発明の第6実施形態に係る波動発生器のころ軸受のうちの、当該ころ軸受のころと、当該ころを保持する保持器との組付け状態が、当該保持器を平らに展開した状態で、部分的にかつ概略的に示された正面図である。
図24図23のX-X断面図である。
図25図23の正面図である。
図26図23のY-Y断面図である。
図27】本発明の第7実施形態に係る波動発生器のころ軸受のうちの、当該ころ軸受のころと、当該ころを保持する保持器との組付け状態が、当該保持器を平らに展開した状態で、部分的にかつ概略的に示された平面図である。
図28図27のX-X断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の、例示的な実施形態に係る、波動歯車装置の波動発生器及び波動歯車装置について説明を行う。
【0021】
ここで、軸線方向とは、軸線(中心軸線)が延在する方向をいう。また、「軸直方向」とは、軸線方向に対して直交する方向をいう。さらに、「軸直方向」は、軸線を基準(中心)とした場合、「径方向」ともいう。特に、径方向という場合、軸線に近い側を「径方向内側」といい、軸線に遠い側を「径方向外側」という。また、以下の説明において、実質的に同一の部分については、同一の符号を用いる。
【0022】
図1には、本発明の一実施形態に係る波動歯車装置1が軸線方向入力側から概略的に示されている。
【0023】
図1中、符号О1は、波動歯車装置1の中心軸線である。波動歯車装置1は、当該波動歯車装置1の中心軸線О1(以下、単に「軸線О1」ともいう。)において、軸線方向一方側からの入力を軸線方向他方側に出力する。本実施形態では、図面手前側を軸線方向一方側(軸線方向入力側)とし、図面奥側を軸線方向他方側(軸線方向出力側)とする。
【0024】
波動歯車装置1は、サーキュラスプライン2と、フレクスプライン3と、本発明の第1実施形態に係る波動発生器4と、を備えている。
【0025】
サーキュラスプライン2は、リング部材である。サーキュラスプライン2は、当該サーキュラスプライン2の中心軸線が軸線О1と同軸となるように配置されている。サーキュラスプライン2の内周には、軸線О1の周りで周方向に間隔を置いて配置された複数の内歯2aが形成されている。サーキュラスプライン2は、高い剛性を有する部材、例えば、剛体であることが好ましい。サーキュラスプライン2は、例えば、金属、エンジニアリングプラスチック等の樹脂によって形成することができる。本実施形態において、サーキュラスプライン2は、波動歯車装置1のケース(図示省略。)に固定されている。
【0026】
フレクスプライン3は、開口部A3を有するカップ状の部材である。フレクスプライン3もまた、当該フレクスプライン3の中心軸線が軸線О1と同軸となるように配置されている。フレクスプライン3の外周には、軸線О1の周りで周方向に間隔を置いて配置された複数の外歯3aが形成されている。フレクスプライン3は、変形可能な部材である。フレクスプライン3の外歯3aは、当該フレクスプライン3の変形によって、サーキュラスプライン2に形成された複数の内歯2aに対して局所的に噛み合わせることができる。フレクスプライン3もまた、例えば、金属、エンジニアリングプラスチック等の樹脂によって形成することができる。
【0027】
本実施形態において、フレクスプライン3は、軸線О1を中心軸線とする円筒部3bを備えている。外歯3aは、円筒部3bの軸線方向入力側の外周に形成されている。さらに、フレクスプライン3は、図6Aに示すように、底部3cを備えている。フレクスプライン3は、円筒部3bの一端が底部3cによって閉じられることによってカップ状に形成されている。フレクスプライン3は、軸線方向において、底部3cと反対側に開口部A3が形成されている。開口部A3には、波動発生器4を収容することができる。本実施形態において、底部3cには、波動歯車装置1の出力軸(図示省略)が接続されている。
【0028】
波動発生器4は、軸線О1の周りで周方向に、フレクスプライン3に対して波動運動を生じさせる。図1に示すように、波動発生器4は、非円形状の輪郭を有するカム部材5と、カム部材5の外周面に装着されたころ軸受6と、を備えている。
【0029】
本実施形態において、カム部材5には、入力軸11が接続されている。入力軸11は、モータ(図示省略)などの動力が伝達される。これによって、カム部材5は、軸線O1を中心に回転することができる。入力軸11の中心軸線(回転軸線)は、軸線О1と同軸である。即ち、本開示において、波動発生器4は、軸線О1を中心軸線として当該軸線О1と同一の軸線上に配置されている。
【0030】
カム部材5は、軸線方向視(軸線О1の延在方向からみたとき)において、非円形の形状を有している。カム部材5は、サーキュラスプライン2と同様、高い剛性を有する部材、例えば、剛体であることが好ましい。カム部材5もまた、例えば、金属、エンジニアリングプラスチック等の樹脂によって形成することができる。カム部材5の外周面F5は、カム面として機能する。
【0031】
本実施形態において、カム部材5は、2ローブ(ツーローブ)形である。図1に示すように、2ローブ形は、軸線方向視において、楕円形の形状である。ただし、カム部材5は、2ローブ形に限定されるものではない。例えば、カム部材5は、複数ローブ形であればよい。カム部材5の具体例としては、例えば、三角形状の3ローブ形、四角形状の4ローブ形が挙げられる。
【0032】
本実施形態において、ころ軸受6は、ラジアルころ軸受である。ころ軸受6は、径方向に加わる力を受ける。ころ軸受6は、軸線О1の周りで周方向に配置された複数のころ7を備えている。ころ7は、高い剛性を有する部材、例えば、剛体である。ころ7は、例えば、金属、エンジニアリングプラスチック等の樹脂によって形成することができる。複数のころ7はそれぞれ、保持器8によって、軸線О1の周りで周方向に間隔を置いて配置されている。
【0033】
ころ軸受6は、ころ7を保持する保持器8を備えている。保持器8は、複数のころ7をそれぞれ、回転可能に保持している。ころ7は、保持器8によって、軸線О1の周りに一定の間隔で位置決めされている。保持器8は、変形可能な、終端を有しない、無終端の帯状の部材である。保持器8もまた、例えば、金属、エンジニアリングプラスチック等の樹脂によって形成することができる。
【0034】
図2には、ころ軸受6が波動歯車装置1から取り出された状態で示されている。本実施形態において、ころ軸受6は、内輪9及び外輪10を備える構成である。内輪9及び外輪10は、それぞれ、ころ7を転動可能に保持する、円形の軌道輪である。図2に示すように、内輪9及び外輪10は、それぞれ、ころ軸受6の初期状態において、同一の軸線(例えば、軸線О1)を中心軸線として同一軸線上に配置されている。さらに、本実施形態において、ころ軸受6は、後述する保持器8Aを備えている。
【0035】
図1に示すように、ころ軸受6は、内輪9をカム部材5の外周面F5に嵌合させることによって、当該外周面F5の輪郭形状(本実施形態では、楕円形状)に撓ませることができる。このため、フレクスプライン3もまた、当該フレクスプライン3の内周面をころ軸受6の外輪10に嵌合させることによって、カム部材5の外周面F5の輪郭形状(本実施形態では、楕円形)に撓ませることができる。
【0036】
波動発生器4は、フレクスプライン3を非円形に撓ませることによって、当該フレクスプライン3の外歯3aとサーキュラスプライン2の内歯2aとを噛み合わせることができる。本開示において、サーキュラスプライン2の内歯2aとフレクスプライン3の外歯3aとは、カム部材5の長軸部分の2か所の位置で噛み合っている。サーキュラスプライン2の内歯2aの歯数ZRと、フレクスプライン3の外歯3aの歯数ZFと、の間には、歯数差(本実施形態では、歯数差2)がある。図1中、符号Pは、サーキュラスプライン2の内歯2aとフレクスプライン3の外歯3aとの噛み合い部分を示す。図1に示すように、本実施形態において、噛み合い部分Pは、カム部材5の2つの長軸側に位置している。
【0037】
波動歯車装置1は、波動発生器4の回転運動を当該波動発生器4とサーキュラスプライン2との間に生じるフレクスプライン3の波動運動に変換する。これによって、波動歯車装置1は、波動発生器4からの入力回転を減速させたのち、その減速された入力回転をフレクスプライン3からの出力回転として出力させることできる。
【0038】
具体的には、カム部材5が入力軸11とともに軸線О1を中心に回転するとき、当該カム部材5は、ころ軸受6を介して、フレクスプライン3を、サーキュラスプライン2に対して相対回転させることができる。これによって、カム部材5を回転させたとき、噛み合い部分Pは、サーキュラスプライン2に対して、カム部材5の回転方向と反対方向に移動する。例えば、カム部材5が軸線О1の周りを時計回り方向に回転すると、噛み合い部分Pは、サーキュラスプライン2に対して、軸線О1の周りを反時計回り方向に移動する。本実施形態において、噛み合い部分Pは、カム部材5が軸線O1の周りを180度回転する毎に、サーキュラスプライン2に対してカム部材5の回転方向と反対方向に1噛み合いずつ移動する。したがって、波動歯車装置1によれば、入力軸11からの入力回転は、フレクスプライン3からの減速回転として反転出力される。
【0039】
ところで、従来の波動発生器には、耐久性の向上を目的に、ころ軸受を採用したものが知られている。しかしながら、波動歯車装置のころ軸受には、コーニングの発生時にころ軸線方向端部に応力が集中するという問題がある。具体的には、図1に示すように、波動歯車装置にころ軸受を用いた場合、フレクスプライン3には、コーニング(フレクスプライン3に、波動発生器4を挿入することにより、当該フレクスプライン3が楕円錐状に変形する現象)が生じる。コーニングは、ころの外周面の軸線方向端部に応力を集中させる傾向がある。こうした応力集中は、例えば、波動発生器、ひいては波動歯車装置の耐久性の低下、エネルギーロスの増加(動力伝達効率の低下)等の要因となり得る。
【0040】
図3には、ころ7と保持器8Aとの組付け状態が、当該保持器8Aを平らに展開した状態で、部分的にかつ概略的に示されている。
【0041】
図3に示すように、本実施形態において、ころ7は、当該ころ7の外周面71(以下、「ころ外周面71」ともいう。)に、当該ころ外周面71のころ軸線方向中心部Cを含んだころ摺動面Fsを含んでいる。ころ摺動面Fsのうちの、ころ外周面71のころ軸線方向中心部Cを挟んだ2つのころ摺動面領域RSのうちの少なくともいずれか一方は、ころ7のころ軸線方向端72(以下、単に「ころ軸線方向端72」ともいう。)に向かって先細りしたころ縮径面Frをを含んでいる。
【0042】
本実施形態において、ころ7は、ころ軸線O7に沿って延在する円柱形状の部材である。ここで、「ころ軸線O7」とは、ころ外周面71に取り囲まれた、ころ7の中心軸線である。また、「ころ軸線方向」とは、ころ軸線O7が延在する方向をいう。また、「径方向」とは、ころ軸線Oに対して直交する方向をいう。さらに、「径方向内側」とは、ころ軸線O7に近い側をいい、「径方向外側」とは、ころ軸線O7から遠い側をいう。
【0043】
本実施形態において、ころ外周面71は、ころ軸線O7を中心軸線とする円筒面である。ころ7は、ころ軸線O7を中心に回転させることができる。本実施形態において、ころ7は、ころ軸線方向に間隔を置いて2つのころ軸線方向端72を有している。本実施形態において、ころ軸線方向端72は、ころ軸線O7を中心とする円形状である。本実施形態において、ころ外周面71は、2つのころ軸線方向端72のそれぞれに連なっている。
【0044】
ここで、上述の「ころ軸線方向中心部C」とは、ころ外周面71のうちの、2つのころ軸線方向端72の間の中心に位置する部分である。本実施形態において、ころ軸線方向中心部Cの直径φ1は、ころ7の最大直径である。また、本実施形態において、ころ軸線方向端72の直径φ2は、ころ7の最小直径である。なお、本実施形態において、2つのころ軸線方向端72の直径φ2は同一である。
【0045】
本実施形態において、ころ摺動面Fsは、ころ外周面71である。また、本実施形態において、ころ縮径面Frは、ころ軸線方向中心部Cを除く摺動面Fsである。具体的には、ころ縮径面Frは、2つのころ摺動面領域RSの摺動面Fsのいずれか一方のころ摺動面Fsである。言い換えれば、本実施形態において、ころ7は、2つのころ縮径面Frを有している。
【0046】
図3には、終端を有しない無終端の、帯状の保持器8Aの一部が平らに展開された状態で示されている。保持器8Aは、ころ7を部分的に露出させるための開口部A8を備えている。開口部A8は、保持器8Aを貫通する開口部である。保持器8Aは、複数の開口部A8を備えている。複数の開口部A8は、保持器8Aの周方向に間隔を置いて配置されている。
【0047】
保持器8Aは、幅方向に間隔を置いて配置された、2つの、無終端帯状の、周方向延在部分8aと、当該2つの周方向延在部分8aを幅方向に連結するとともに周方向に間隔を置いて配置された複数の掛け渡し部分8bと、を備えている。本実施形態において、開口部A8は、図3のように平面視において、2つの周方向延在部分8aと、当該2つの周方向延在部分8aと結合する2つの掛け渡し部分8bと、によって区画された四角形状の開口部である。
【0048】
本実施形態において、ころ外周面71は、ころ摺動面Fsと一致している。本実施形態において、ころ摺動面Fsは、保持器8A、内輪9及び外輪10のそれぞれに対して摺動可能に接触させることができる面である。
【0049】
本実施形態において、ころ7は、2つのころ縮径面Frを有している。2つのころ縮径面Frは、それぞれ、ころ軸線方向端72に向かって先細りしている。
【0050】
本実施形態において、ころ7は、ころ外周面71を径方向外側に膨出させた、いわゆる、エンタシス形の円柱形状部材である。本実施形態において、ころ外周面71は、当該ころ外周面71のころ軸線方向中心部Cが最大直径となるように径方向外側に膨出している。言い換えれば、本実施形態において、ころ摺動面Fsは、ころ外周面71のころ軸線方向中心部Cが最大直径となるように径方向外側に膨出している。このため、本実施形態において、2つのころ摺動面領域RSのころ摺動面Fsはそれぞれ、ころ軸線方向端72に向かって先細りしている。言い換えれば、本実施形態において、ころ7は、ころ外周面71のころ軸線方向中心部Cを挟んで2つの縮径面Frを有している。
【0051】
また、本実施形態において、保持器8Aは、ころ外周面71のころ軸線方向端部を保持している。本実施形態において、ころ外周面71のころ軸線方向端部は、ころ摺動面Fsのころ軸線方向端部である。言い換えれば、本実施形態において、ころ外周面71のころ軸線方向端部は、ころ縮径面Frのころ軸線方向端部73である。即ち、本実施形態において、保持器8Aは、ころ摺動面Fsのうちのころ縮径面Frを保持している。
【0052】
また、本実施形態において、保持器8Aは、ころ7を回転可能に保持するポケット81を備えている。本実施形態において、保持器8Aは、1つのころ7に対応するように、2つのポケット81を備えている。2つのポケット81は、保持器8Aの幅方向に間隔を置いて配置されている。2つのポケット81は、開口部A8と連なっている。本実施形態において、ポケット81は、保持器8Aの周方向延在部分8aに形成されている。これによって、本実施形態において、保持器8Aは、1つのころ7に対して、ころ外周面71のころ軸線方向端部、即ち、2つのころ縮径面Frを保持している。
【0053】
図4は、図3のX-X断面図である。X-X断面は、ころ軸線O7を含む断面である。図4中、符号Cは、ころ軸線方向中心部Cを示している。
【0054】
本実施形態において、ころ縮径面Frは、径方向外側に向かって湾曲した曲面である。
【0055】
本実施形態において、ころ外周面71は、いわゆる、エンタシス形の外形形状を有している。本実施形態において、ころ外周面71は、当該ころ外周面71のころ軸線方向中心部Cが最大直径となるように径方向外側に向かって湾曲している。言い換えれば、本実施形態において、ころ摺動面Fsは、ころ外周面71のころ軸線方向中心部Cが最大直径となるように径方向外側に向かって湾曲した曲面である。本実施形態において、ころ縮径面Frは、ころ軸線方向中心部Cを挟んだころ軸線方向の2か所の位置に配置されている。これによって、本実施形態に係る、1つのころ7において、2つのころ縮径面Frは、それぞれ、径方向外側に向かって湾曲したお椀形の曲面となっている。本実施形態において、ころ縮径面Frは、ころ外周面71のころ軸線方向中心部Cを基点に、当該ころ外周面71のころ軸線方向中心部Cからころ軸線方向端72に向かうにしたがってころ軸線O7に接近するように先細っている。
【0056】
本実施形態において、ころ摺動面Fsは、ころ外周面71のころ軸線方向中心部Cを最大直径とし、径方向外側に向かって凸となるように湾曲した曲面である。図4を参照すれば、本実施形態において、ころ摺動面Fsを形作る断面輪郭線は、ころ軸線O7を含むX-X断面において、ころ外周面71のころ軸線方向中心部Cが最大直径となるように径方向外側に向かって湾曲した曲線である。具体的には、ころ摺動面Fsを形作る断面輪郭線は、図4に示すように、ころ軸線O7に対して直交するとともにころ外周面71のころ軸線方向中心部Cを通る径方向軸線上に中心ORを有する曲率半径R7の曲線である。なお、曲線形状としては、円以外にも、2次、3次等の多項式関数、楕円、三角関数、双曲線、対数曲線であっても良い。さらに、一実施形態として、曲率半径R7が無限大(つまり、直線)も含む。これによって、本実施形態において、ころ摺動面Fsは、外周面71のころ軸線方向中心部Cを最大直径とし、径方向外側に向かって凸となるように湾曲した曲面、あるいは多角形の面となる。
【0057】
本実施形態において、外周面71のころ軸線方向中心部Cは、ころ軸線O7の周りを環状に延在する線状の部分である。ただし、ころ外周面71は、当該ころ外周面71のころ軸線方向中心部Cからころ軸線方向端72の途中までの一定の範囲をストレートとなるように同径面として構成し、当該同径面のころ軸線方向端からころ軸線方向端72にわたってころ縮径面Frとして構成することができる。
【0058】
保持器8Aは、2つの周方向延在部分8aにそれぞれ、ころ7を回転可能に保持するためのポケット81を備えている。本実施形態において、ポケット81は、保持器8Aの内周面(カム部材5の側の周面)に形成されている。さらに、ポケット81は、保持器8Aに形成された開口部A8に幅方向で連なっている。即ち、ポケット81は、保持器8Aの幅方向において、保持器8Aの開口部A8に開放された凹部である。
【0059】
本実施形態において、ポケット81は、底面81aと側面81bとによって形成されている。ポケット81の底面81aは、ころ外周面71を摺動可能に保持している。本実施形態において、ポケット81の底面81aは、ころ縮径面Frのころ軸線方向端部73を摺動可能に保持している。ころ縮径面Frのころ軸線方向端部73は、ころ軸線方向端72に連なっている。また、ポケット81の側面81bは、ころ軸線方向端72を摺動可能に保持している。これによって、保持器8Aは、ころ7を保持器8Aの幅方向外側に脱落させることを抑制しつつ、ころ縮径面Frのころ軸線方向端部73を除いた摺動面Fsを、開口部A8を通して、保持器8Aの外周面(フレクスプライン3の側の周面)に回転可能に突出させることができる。
【0060】
図5には、図3の正面図が示されている。ここで、図3の正面図とは、ころ7と保持器8Aとの組付け状態を保持器8Aの幅方向から示す図である。図4の実線及び図5の破線で示すように、ポケット81は、ころ縮径面Frのころ軸線方向端部73の外形形状に合わさる曲面形状を有している。これによって、ころ7は、ポケット81の内部で、ころ軸線O7の周りでスムーズに回転することができる。
【0061】
本実施形態において、ころ縮径面Frのころ軸線方向端部73は、ころ7がころ軸線O7の周りで回転できるように、保持器8Aのポケット81の内面に摺動させることができる。また、本実施形態において、ころ外周面71のうち、保持器8Aの開口部A8から突出する部分は、ころ摺動面Fsとして、或いは、ころ縮径面Frの一部として、外輪10の内周面に対して摺動可能に接触させることができる。さらに、本実施形態において、ころ外周面71のうち、保持器8Aによって保持された側と反対側の部分は、ころ摺動面Fsとして、或いは、ころ縮径面Frの一部として、内輪9の外周面に対して摺動可能に接触させることができる。これによって、本実施形態において、ころ7は、保持器8A、内輪9及び外輪10のそれぞれに対して接触しながら、内輪9と外輪10との間を摺動可能に転動させることができる。
【0062】
図6Aは、波動歯車装置1が概略的に示された断面図である。図6Aは、図1の波動歯車装置1が軸線O1及びカム部材5の長軸を含む断面で示されている。ただし、図6Aにおいて、保持器8は省略している。
【0063】
波動歯車装置のフレクスプライン3は、開口部A3を有するカップ状の部材である。図6Aを参照すれば、フレクスプライン3の周壁3bは、組み付け後の状態において、ころ軸受6を保持する部分3b1を形成するように、屈曲部3pを基点に屈曲している。
【0064】
ところが、ストレートな外周面を有する一般的なころを使用した場合、図6Bに示すように、ころ軸受6のころ軸線方向端部のうち、フレクスプライン3の底部3c側の軸線方向端部に、軸線O1の径方向内側に向かう大きな負荷を与える。このため、コーニングが発生すると、ころ外周面71の2つのころ軸線方向端部のうちの、フレクスプライン3の底部3c側のころ軸線方向端部には、大きな応力を集中する。こうした応力集中は、例えば、波動発生器、ひいては波動歯車装置の耐久性の低下、エネルギーロスの増加(動力伝達効率の低下)等の要因となり得る。
【0065】
これに対し、本実施形態において、ころ外周面71のころ軸線方向端部は、ころ軸線方向端72に向かって先細りしたころ縮径面Frによって構成されている。この場合、フレクスプライン3は、ころ7に対してころ縮径面Frに沿って変形することができる。言い換えれば、本実施形態に係るころ7は、図6Aの領域Zに示すように、フレクスプライン3の形状を組み付け前の状態に近い状態に維持させる。即ち、本実施形態に係るころ7によれば、コーニングの発生に起因してころ外周面71のころ軸線方向端部に生じ得る応力集中が軽減される。したがって、本実施形態に係る、ころ7によれば、例えば、波動発生器4、ひいては波動歯車装置1の耐久性が向上し、エネルギー効率(動力伝達効率)が向上する。
【0066】
その一方で、図6Bは、従来の波動歯車装置が概略的に示された断面図である。図6Bは、従来の波動歯車装置が軸線O1及びカム部材5の長軸を含む断面で示されている。ただし、図6Bもまた、ころ70を保持する保持器が省略されている。
【0067】
ころ70は、当該ころ70のころ外周面がころ軸線O7に沿ってストレートな外周面(ころ軸線O7に沿って等しい直径の外周面)を有する円柱部材である。この場合、図6Bの領域Zに示すように、フレクスプライン3の周壁3bは、ころ70のストレートな外周面によって、カム部材2の長軸側で、当該フレクスプライン3の屈曲部3pを基点に径方向外側に張り出してしまう。したがって、従来の波動発生器、ひいては、従来の波動歯車装置には、例えば、コーニングに起因して生じ得る応力集中を要因とする、波動発生器、ひいては波動歯車装置の耐久性の低下、エネルギーロスの増加(動力伝達効率の低下)等が生じる。
【0068】
また、本実施形態に係る波動発生器4、ひいては、本実施形態に係る波動歯車装置1において、ころ縮径面Frは、径方向外側に向かって湾曲した曲面である。この場合、コーニングに起因する応力集中の軽減により効果的である。
【0069】
特に、本実施形態に係る波動発生器4、ひいては、本実施形態に係る波動歯車装置1において、ころ摺動面Fsは、ころ外周面71のころ軸線方向中心部Cを最大直径とし、径方向外側に向かって凸となるように湾曲した曲面である。この場合、コーニングに起因する応力集中の軽減により一層効果的である。
【0070】
ところで、波動発生器、ひいては、波動歯車装置にころ軸受を採用する場合、当該ころの個数を増やすとともに当該ころを密集させることによって、限られたスペース内で大きな負荷容量を得ることができる。
【0071】
しかしながら、従来の波動発生器、ひいては、波動歯車装置の場合、ころの個数を増やすための、ころの配置に改善の余地がある。また、従来の波動発生器、ひいては、波動歯車装置の場合、ころを保持器によって保持するときにも、ころの個数を増やすための、ころの配置に改善の余地がある。例えば、従来の保持器は、ころ外周面の転動方向端部を保持するため、ころ同士の間隔を一定以上に空けておく必要がある。
【0072】
これに対し、本実施形態の波動発生器4、ひいては、本実施形態の波動歯車装置1によれば、保持器8Aは、ころ縮径面Frのころ軸線方向端部73を保持している。ころ縮径面Frのころ軸線方向端部73を保持する場合、ころ外周面71の転動方向端部を保持する必要が無い。この場合、軸線О1の周りで周方向に隣接するころ7同士の転動方向の間隔を狭め、当該ころ7同士を、互いに転動方向近くの位置に配置することができる。したがって、波動発生器4、ひいては、波動歯車装置1によれば、ころ7を効率的に密集させることによって、当該ころ7の個数を効率的に増やすことができる。これによって、本実施形態の波動発生器4、ひいては、本実施形態の波動歯車装置1によれば、限られたスペース内で大きな負荷容量を得ることができる。また、波動発生器4、ひいては、波動歯車装置1によれば、保持器8Aを設けたことから、スキュー(ころの傾き)の発生を抑制することができる。
【0073】
ころ7の基準直径φA1と、ころ縮径面Frのころ軸線方向端の直径φA2とは、以下の条件(1)を満たしていることが好ましい。
【0074】
[数1]
60≦(φA2/φA1)×100≦99・・・(1)
【0075】
ここで、基準直径φA1は、ころ7の最大直径である。本実施形態において、基準直径φA1は、ころ外周面71のころ軸線方向中心部Cの直径φ1である。また、本実施形態において、ころ縮径面Frの軸線方向端の直径φA2は、ころ7のころ軸線方向端72の直径φ2である。
【0076】
上記条件(1)を満たす場合、ころ軸線O7(軸線O1)に対するころ縮径面Frの傾斜角又はころ軸線O7(軸線O1)に対するころ摺動面Fsの傾斜角は、真円状態のフレクスプライン3がカム部材5の長軸側において、周壁3bの屈曲部3pを基点に径方向外側に張り出したときの、カム部材5の長軸側での、軸線O1(ころ軸線O7)に対するフレクススプライン3の傾き角度よりも大きくなる。このため、上記条件(1)を満たす場合、コーニングがフレクスプライン3に発生し得るときには、フレクススプライン3又は外輪10をころ縮径面Frに沿って傾斜させることができる。その結果、本実施形態によれば、コーニングに起因する応力集中を容易且つ効率的に抑制することができる。
【0077】
図7は、本発明の第2実施形態に係る波動発生器4のころ軸受のうちの、当該ころ軸受のころ7と、当該ころ7を保持する保持器8Aとの組付け状態が、当該保持器8Aを平らに展開した状態で、部分的にかつ概略的に示された平面図である。図8は、図7の正面図である。図9は、図7のY-Y断面図である。
【0078】
本実施形態において、保持器8Aは、第1実施形態において説明済みの保持器8Aの変形例である。本実施形態において、保持器8Aは、ころ縮径面Frのころ軸線方向端部73に加え、ころ摺動面Fsの転動方向摺動部分74を保持している。ここで、ころ摺動面Fsの転動方向摺動部分74は、ころ外周面71のころ軸線方向中心部Cを含んだ、ころ幅方向に延在する径方向部分である。本実施形態において、ころ摺動面Fsの転動方向摺動部分74は、図7に示すように平面視において、保持器8Aの周方向における、ころ軸線O7を挟んだ二か所の位置に配置されている。本実施形態において、2つのころ外周面71の転動方向摺動部分74は、それぞれ、保持器8の掛け渡し部分8bによって保持されている。この場合、軸線О1の周りで周方向に隣接するころ7同士をより効率的に密集させることによって、当該ころ7の個数をより効率的に増やすことができる。これによって、本実施形態の波動発生器4、ひいては、本実施形態の波動歯車装置1によれば、限られたスペース内でより大きな負荷容量を得ることができる。
【0079】
なお、図7中、符号ΔCは、軸線О1の周りで周方向に隣接するころ7同士の間隔である。ころ7同士の間隔ΔCは、それぞれ、同一とすることができ、或いは、異ならせることができる。符号L8は、掛け渡し部分8bの周方向長さを示す。ころ7同士の間隔ΔCは、例えば、掛け渡し部分8bの周方向長さL8を適宜設定することによって調整することができる。例えば、ころ7同士の間隔ΔCは、図8に示すように、隣接するころ7同士が接しないギリギリの間隔まで調整することができる。
【0080】
また、図9に示すように、本実施形態において、ころ摺動面Fsの転動方向摺動部分74は、ころ摺動面Fsのころ軸線方向中心部Cである。したがって、本実施形態において、ころ外周面71の転動方向摺動部分74は、保持器8Aの掛け渡し部分8bの周方向端縁のうちの径方向内側縁部と点接触している。ただし、ころ摺動面Fsの転動方向摺動部分74は、後述のとおり、ころ軸線O7に沿って線接触させることができる。或いは、後述のとおり、保持器8Aの掛け渡し部分8bに形成したポケット82に回転可能に収容することによって、面接触させることもできる。
【0081】
上述の第1及び第2実施形態に係るころ軸受6では、ころ7をフレクスプライン3の側からカム部材5の側に保持する、1つの保持器8Aのみの構成で説明したが、ころ軸受6は、複数の保持器8を備える構成とすることができる。
【0082】
図10は、本発明の第3実施形態に係る波動発生器4のころ軸受の、当該ころ軸受のころ7と、当該ころ7を保持する保持器8A,8Bとの組付け状態が、当該保持器8A,8Bを平らに展開した状態で、部分的にかつ概略的に示された正面図である。図11は、図10のX‐X断面図である。図12は、図10の組付け状態が図7のY-Y断面相当で概略的に示された断面図である。
【0083】
本実施形態に係る、ころ軸受は、ころ7をフレクスプライン3の側からカム部材5の側に保持する保持器8Aに加えて、当該ころ7をカム部材5の側からフレクスプライン3の側に保持する保持器8Bを備えている。
【0084】
図11に示すように、保持器8Bにおいて、ポケット81は、保持器8Bの外周面(フレクスプライン3の側の周面)に形成されている。さらに、保持器8Bにおいて、ポケット81は、保持器8Bに形成された開口部A8に幅方向で連なっている。即ち、ポケット81は、保持器8Bの幅方向において、保持器8Bの開口部A8に開放された凹部である。保持器8Bもまた、保持器8Aと同様に、ころ7を保持器8Bの幅方向外側に脱落させることを抑制しつつ、ころ縮径面Frのころ軸線方向端部73を除いた摺動面Fsを、開口部A8を通して、保持器8Bの内周面(カム部材5の側の周面)に回転可能に突出させることができる。
【0085】
本実施形態において、ころ軸受は、複数の保持器8A、8Bを備える構成としている。この場合、スキューの発生をさらに抑制することができる。
【0086】
なお、図12に示すように、本実施形態において、保持器8Aは、ころ摺動面Fsの転動方向摺動部分74を、保持器8Aの掛け渡し部分8bの周方向端縁のうちの径方向内側縁部と点接触させている。さらに、本実施形態において、保持器8Bもまた、ころ摺動面Fsの転動方向摺動部分74を、保持器8Bの掛け渡し部分8bの周方向端縁のうちの径方向外側縁部と点接触させることができる。これによって、本実施形態によれば、保持器8が1つの場合と同様に、ころ7をより効率的に密集させることによって、当該ころの個数をより効率的に増やすことができる。さらに、本実施形態によれば、ころ7は、2つの保持器8A及び8Bとともに1つのユニットとして取り扱うことができる。
【0087】
図13は、本発明の第4実施形態に係る波動発生器4のころ軸受6を概略的に示す正面図である。図14は、図13のころ軸受のうちの、当該ころ軸受のころ7と、当該ころ7を保持する保持器8Cとの組付け状態が、当該保持器8Cを平らに展開した状態で、部分的にかつ概略的に示された平面図である。図15は、図14のX-X断面図である。図16は、図14の正面図である。図17は、図14のY-Y断面図である。
【0088】
図13に示すように、保持器8Cの周方向延在部分8aは、ころ7のころ軸線方向側を環状に覆う壁のように構成されている。保持器8Cの掛け渡し部分8bは、図14に示すように、当該保持器8Cの幅方向において、2つの周方向延在部分8aの間を延在し、当該2つの周方向延在部分8aのそれぞれに接続されている。
【0089】
保持器8Cのポケット81は、当該保持器8Cの周方向延在部分8aに形成された貫通孔によって構成されている。前記貫通孔は、保持器8Cの周方向延在部分8aを当該保持器8Cの幅方向に貫通している。本実施形態において、ポケット81は、図15に示すように、ころ縮径面Frのころ軸線方向端部73の外形形状に合わさる曲面形状を有している。これによって、ころ7は、ポケット81の内部で、ころ軸線O7の周りでスムーズに回転することができる。
【0090】
図16に示すように、本実施形態において、ころ外周面71のうち、開口部A8から径方向外側に突出する部分は、外輪10の内周面に対して摺動可能に接触させることができる。また、本実施形態において、ころ外周面71のうち、開口部A8から径方向内側に突出する部分は、内輪9の外周面に対して摺動可能に接触させることができる。本実施形態において、保持器8Cの掛け渡し部分8bは、図17に示すように、径方向外側(フレクスプライン3の側)の位置と、径方向内側(カム部材5の側)の位置とに、それぞれ、周方向に間隔を置いて配置されている。径方向外側に配置された掛け渡し部分8bは、当該掛け渡し部分8bの周方向間に、径方向外側の開口部A8を区画する。径方向内側に配置された掛け渡し部分8bは、当該掛け渡し部分8bの周方向間に、径方向内側の開口部A8を区画する。
【0091】
本実施形態に係る保持器8Cは、矩形断面形状のチューブ状の保持器である。保持器8Cによれば、当該保持器8Cの内部に複数のころ7を回転可能に収容することができる。この場合、ころ7と保持器8Cとは、ころ7が保持器8Cの内部に収容された1つのユニットとして取り扱うことができる。
【0092】
ところで、保持器8のポケット81は、当該保持器8の周方向に配置することもできる。
【0093】
図18は、本発明の第5実施形態に係る波動発生器4のころ軸受6を概略的に示す正面図である。図19は、図18のころ軸受のうちの、当該ころ軸受のころ7と、当該ころ7を保持する保持器8Dとの組付け状態が、当該保持器8Dを平らに展開した状態で、部分的にかつ概略的に示された平面図である。図20は、図19のX-X断面図である。図21は、図19の正面図である。図22は、図19のY-Y断面図である。
【0094】
図18に示すように、保持器8Dは、開口部A8の軸線方向一方側が開放されている。本実施形態において、開口部A8は、図19に示すように、保持器8Dの幅方向一方側に開放されている。2つのころ軸線方向端72の一方は、図20に示すように、保持器8Dの周方向延在部分8aの幅方向内側面83によって、幅方向に保持されている。
【0095】
本実施形態では、保持器8Dは、ころ摺動面Fsの転動方向摺動部分74を保持している。この場合、保持器8Dの保持力は、ころ摺動面Fsのころ軸線方向端部73を保持するときに比べて大きい。また、一般的に、ころの軸長は、ころの直径に比べて大きい。このため、保持器8Dのように、当該保持器8Dの2つの周方向延在部分8aのうちの片側が解放されていても、ころ摺動面Fsの転動方向摺動部分74を保持した方が保持力が大きいという優位性のため、結果的に保持力は、ころ摺動面Fsのころ軸線方向端部73を保持するときと比べて向上する。したがって、本実施形態によれば、保持器8Dは、その他の実施形態と比較して、ころ7の距離はそのままに、ころ摺動面Fsの保持面積を大きくなることで、ころ7の保持力が高まる構成とすることができる。
【0096】
保持器8Dは、例えば、図21に示すように、ころ7を回転可能に保持するポケット82を備えている。本実施形態において、ポケット82は、保持器8Dの内周面(カム部材5の側の周面)に形成されている。本実施形態において、ポケット82は、ころ摺動面Fsの転動方向摺動部分74を保持している。ポケット82は、保持器8Dの周方向に間隔を置いて配置されている。本実施形態において、保持器8Dは、1つのころ7に対して、開口部A8を挟んで周方向に、一対のポケット82を備えている。一対のポケット82はそれぞれ、同一の開口部A8と連なっている。本実施形態において、ポケット82は、保持器8Dの掛け渡し部分8bの内面(カム部材5の側の面)に形成されている。
【0097】
図21に示すように、本実施形態において、ころ外周面71のうち、保持器8Dの径方向外側から突出する部分は、ころ摺動面Fsとして、或いは、ころ縮径面Frの一部として、外輪10の内周面に対して摺動可能に接触させることができる。また、本実施形態において、ころ外周面71のうち、保持器8Dの径方向内側から突出する部分は、ころ摺動面Fsとして、或いは、ころ縮径面Frの一部として、内輪9の外周面に対して摺動可能に接触させることができる。
【0098】
図22に示すように、ポケット82は、ころ摺動面Fsの転動方向摺動部分74の外形形状に合わさる曲面形状を有している。これによって、ころ7は、ポケット81の内部で、軸線O7の周りでスムーズに回転することができる。
【0099】
なお、ポケット82は、保持器8Dの幅方向に形成された開放部分を閉じることによって構成とすることができる。この場合、保持器8Dの幅方向に形成された開放部分は、保持器8Dの2つの周方向延在部分8aによって閉じることができる。また、ころ軸受は、複数の保持器8Dを備える構成とすることができる。
【0100】
図23は、本発明の第6実施形態に係る波動発生器のころ軸受のうちの、当該ころ軸受のころ7と、当該ころ7を保持する保持器8Eとの組付け状態が、当該保持器8Eを平らに展開した状態で、部分的にかつ概略的に示された平面図である。図24は、図23のX-X断面図である。図25は、図23の正面図である。図26は、図23のY-Y断面図である。
【0101】
図23に示すように、保持器8Eの開口部A8は、2つの周方向延在部分8aと、2つの掛け渡し部分8bとによって区画された、矩形の開口部である。本実施形態において、開口部A8は、ころ7のころ軸線方向端72よりも周方向長さが短い。本実施形態において、ころ7の、2つのころ軸線方向端72はそれぞれ、図24に示すように、保持器8Eの周方向延在部分8aの幅方向内側面83によって、幅方向に保持されている。
【0102】
本実施形態に係る、ころ軸受は、ころ7をフレクスプライン3の側からカム部材5の側に保持する保持器8E(以下、「径方向外側保持器8E」ともいう。)に加えて、当該ころ7をカム部材5の側からフレクスプライン3の側に保持する保持器8E(以下、「径方向内側保持器8E」ともいう。)を備えている。
【0103】
図25に示すように、径方向外側保持器8Eにおいて、ポケット82は、径方向外側保持器8Eの内周面(カム部材5の側の周面)に形成された、開口部A8の幅方向輪郭線を形作る、当該保持器8Eの掛け渡し部分8bの周方向側縁部である。図26に示すように、径方向外側保持器8Eの掛け渡し部分8bの周方向側縁部は、保持器8Eの幅方向視(保持器8Eの幅方向からみたとき)において、傾斜面によって構成されている。
【0104】
図26に示すように、径方向外側保持器8Eのポケット82は、径方向外側から径方向内側に向かうしたがって開口部A8の周方向長さが拡大するように傾斜する傾斜面である。径方向外側保持器8Eにおいて、ポケット82は、掛け渡し部分8bの内周面側で、ころ摺動面Fsの径方向部分74と幅方向に沿って線接触することによって、ころ8を回転可能に保持する。
【0105】
また、径方向内側保持器8Eにおいて、ポケット82は、径方向内側保持器8Eの外周面(フレクスプライン3の側の周面)に形成された、開口部A8の幅方向輪郭線を形作る、当該保持器8Eの掛け渡し部分8bの周方向側縁部である。図26に示すように、保持器8Eの掛け渡し部分8bの周方向側縁部は、保持器8Eの幅方向視において、傾斜面によって構成されている。
【0106】
図26に示すように、径方向内側保持器8Eのポケット82は、径方向外側から径方向内側に向かうしたがって開口部A8の周方向長さが縮小するように傾斜する傾斜面である。径方向内側保持器8Eにおいて、ポケット82は、掛け渡し部分8bの外周面側で、ころ摺動面Fsの径方向部分74と幅方向に沿って線接触することによって、ころ8を回転可能に保持することができる。
【0107】
図27は、本発明の第7実施形態に係る波動発生器のころ軸受のうちの、当該ころ軸受のころ7と、当該ころ7を保持する保持器8Fとの組付け状態が、当該保持器8Fを平らに展開した状態で、部分的にかつ概略的に示された正面図である。図28は、図27のX-X断面図である。
【0108】
本実施形態において、ころ7は、ころ軸線O7を中心に回転させることができる。本実施形態において、ころ7は、ころ本体7aと、ころ本体7aのころ軸線方向端に連なる、2つの軸7bとを備えている。本実施形態において、ころ7のころ外周面71は、ころ本体6aのころ本体外周面75と、2つの軸7bの軸外周面76とによって構成されている。ころ本体外周面75及び軸外周面76は、それぞれ、ころ摺動面Fsを構成している。本実施形態において、ころ本体外周面75は、ころ外周面71のころ軸線方向中心部Cをを径方向外側に膨出させた、いわゆる、エンタシス形の円柱形状を有している。本実施形態において、ころ本体外周面75は、ころ外周面71のころ軸線方向中心部Cが最大直径となるように径方向外側に膨出している。言い換えれば、本実施形態において、ころ本体7aのころ摺動面Fsは、ころ外周面71のころ軸線方向中心部Cが最大直径となるように径方向外側に膨出している。このため、本実施形態において、ころ本体7aの2つのころ摺動面領域RSのころ摺動面Fsはそれぞれ、ころ軸線方向端72に向かって先細りしている。言い換えれば、本実施形態において、ころ7もまた、他の実施形態と同様に、ころ外周面71のころ軸線方向中心部Cを挟んで2つの縮径面Frを有している。
【0109】
図28中、符号φ1は、ころ本体外周面75のころ軸線方向中心部の直径である。本実施形態において、直径φ1は、ころ7の外周面71のころ軸線方向中心部Cの直径である。また、符号φ2は、ころ7のころ軸線方向端72の直径である。本実施形態において、ころ7のころ軸線方向端72は、軸7bのころ軸線方向端である。また、本実施形態において、符号φ3は、ころ本体7aのころ軸線方向端の直径である。本実施形態において、ころ本体7aの2つのころ軸線方向端の直径φ3は、同一である。さらに、本実施形態において、ころ7の2つのころ軸線方向端72の直径φ2は、同一である。
【0110】
本実施形態において、保持器8Fのポケット81は、ころ外周面71のころ軸線方向端部として、軸7bの軸外周面76を保持している。これによって、保持器8Fは、ころ7を保持器8Fの幅方向外側に脱落させることを抑制しつつ、軸7bの軸外周面76を除いたころ本体7aのころ摺動面Fsを、開口部A8を通して、保持器8Fの外周面(フレクスプライン3の側の周面)に回転可能に突出させることができる。
【0111】
本実施形態に係るころ軸受において、ころ本体外周面75のころ軸線方向端部は、ころ軸線方向端72に向かって先細りした縮径面Frによって構成されている。この場合も、フレクスプライン3は、ころ7に対して、ころ本体7aのころ縮径面Frに沿って変形することことができる。言い換えれば、本実施形態に係るころ7は、図6Aの領域Zに示すのと同様に、フレクスプライン3の形状を組み付け前の状態に近い状態に維持させる。即ち、本実施形態に係るころ7によれば、コーニングの発生に起因してころ外周面71のころ軸線方向端部に生じ得る応力集中が軽減される。したがって、本実施形態に係る、ころ7によれば、軸7bを有しない他の実施形態に係るころ7と同様に、例えば、波動発生器4、ひいては波動歯車装置1の耐久性が向上し、エネルギー効率(動力伝達効率)が向上する。
【0112】
なお、本実施形態によれば、ころ摺動面Fsは、軸7bの軸外周面76に設けることも可能である。
【0113】
ところで、本実施形態において、保持器8は、樹脂又は軽金属によって形成されている。保持器8は、例えば、アルミニウム合金、マグネシウム合金、チタン合金、それらの単体などの、可撓性を有する軽金属合金または軽金属単体、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、POM(ポリオキシメチレン)などのエンジニアリングプラスチックなどの樹脂材によって形成することができる。保持器8を樹脂又は軽金属によって形成する場合、波動発生器4、ひいては、波動歯車装置1は、既存の材料を用いることによって容易に製造することができる。
【0114】
本実施形態において、ころ軸受6は、内輪9及び外輪10を備える構成である。即ち、本実施形態において、ころ軸受6は、内輪9及び外輪10のレース(軌道輪)を備えている、いわゆる、レース付きの軸受である。ころ軸受7が内輪9を備える場合、ころ7の径方向内側(カム部材5の側)の部分は、内輪9の内周面(軌道面)を転動する。この場合、ころ7を、カム部材5の側においてスムーズに転動させることができる。また、ころ軸受7が外輪10を備える場合、ころ7の径方向外側(フレクスプライン3の側)の部分は、外輪10の内周面(軌道面)を転動する。この場合、ころ7を、フレクスプライン3の側においてスムーズに転動させることができる。特に、ころ軸受6は、内輪9及び外輪10を備える構成である場合、当該ころ軸受6は、独立した1つのころ軸受として容易に取り扱うことができる。ただし、ころ軸受6は、内輪9及び外輪10の少なくともいずれか一方を備える構成とすることができる。
【0115】
その一方で、ころ軸受6は、ころ7をカム部材5及びフレクスプライン3に接触させる構成とすることもできる。この場合、ころ軸受6は、内輪9及び外輪10のレース(軌道輪)を備えていない。こうした構成のころ軸受6は、例えば、レース無しの軸受と呼ばれる。この場合、波動発生器4、ひいては、波動歯車装置1の小型化を図ることができる。
【0116】
上述したところは、本発明に係る、例示的な実施形態を示したにすぎず、特許請求の範囲に従えば、様々な変更が可能となる。例えば、縮径面Frは、ころ外周面71のころ軸線方向中心部Cを挟んだ2つのころ摺動面Fsのうちの少なくとも一方であればよい。例えば、縮径面Frは、ころ外周面71のころ軸線方向中心部Cを挟んだ2つのころ摺動面Fsのうちの、フレクスプライン3の底部3cに近い側のみとすることができる。また、上述した各実施形態では、ころ縮径面Frは、径方向外側に向かって湾曲した曲面としたが、ころ軸線方向端72に向かって一定の傾きで直線的に先細りした平らな面(いわゆる、テーパ面)とすることができる。上記説明では、波動歯車装置1の動力伝達経路は、波動発生器4を入力とし、フレクスプライン3を出力としたが、これに限定されるものではない。例えば、波動歯車装置1の動力伝達経路は、フレクスプライン3を入力とし、波動発生器4を出力としてもよい。また、上述の各実施形態に用いられる構成(事項)は、互いに付加し、置き換えることができる。
【符号の説明】
【0117】
1:波動歯車装置, 2:サーキュラスプライン, 2a:内歯, 3:フレクスプライン, 3a:外歯, 3b;円筒部, 3c:底部, 4:波動発生器, 5:カム部材, 6:ころ軸受, 7:ころ, 7a:ころ本体, 7b:軸, 71:ころ外周面(ころの外周面), 72:ころのころ軸線方向端, 73:ころの外周面のころ軸線方向端部, 74:ころ摺動面の転動方向摺動部分,75:ころ本体のころ本体外周面, 76:軸の軸外周面, 8:保持器, 8a:周方向延在部分, 8b:掛け渡し部分, 8A~8F:保持器, 81:ポケット, 82:ポケット, 83:保持器の周方向延在部分の幅方向内側面, 9:内輪, 10:外輪, 11:入力軸, C:ころの外周面のころ軸線方向中心部, A8:保持器の開口部, Fr:ころ縮径面, Fs:ころ摺動面, О1:波動歯車装置の中心軸線, O7:ころの中心軸線, φA1:ころの基準直径, φA2:縮径面のころ軸線方向端の直径, φ1:ころの外周面のころ軸線方向中心部の直径, φ2:ころのころ軸線方向端の直径, φ3:ころ本体の外周面のころ軸線方向端の直径
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
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図9
図10
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図15
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図27
図28