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  • 特許-ポリエステルフィルム及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】ポリエステルフィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20241108BHJP
   B29C 55/14 20060101ALI20241108BHJP
   C08G 63/199 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
B29C55/14
C08G63/199
【請求項の数】 10
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023073404
(22)【出願日】2023-04-27
(65)【公開番号】P2024004454
(43)【公開日】2024-01-16
【審査請求日】2023-05-12
(31)【優先権主張番号】10-2022-0078915
(32)【優先日】2022-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】523061191
【氏名又は名称】エスケーマイクロワークス 株式会社
【氏名又は名称原語表記】SK microworks Co., Ltd.
【住所又は居所原語表記】84, Jangan-ro 309beon-gil, Jangan-gu, Suwon-si,Gyeonggi-do, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】イム、ビョンジェ
(72)【発明者】
【氏名】ホ、ヨンミン
(72)【発明者】
【氏名】キム、チョルキュ
(72)【発明者】
【氏名】ソン、ギヨン
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-186613(JP,A)
【文献】特開平02-196833(JP,A)
【文献】特表2015-507074(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J
C08G
B29C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂としてポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート樹脂のみを含み、
示差走査熱量計で測定された結晶化度が36%以下であり、
機械方向の引裂強度が240kg/cm以上350kg/cm以下であり、
幅方向の引裂強度が280kg/cm以上400kg/cm以下であり、
前記引裂強度は、ASTM D1004に準拠して測定された、二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項2】
前記結晶化度が33%以下であり、
前記機械方向の引裂強度が280kg/cm以上であり、
前記幅方向の引裂強度が307kg/cm以上である、請求項1に記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項3】
厚さが10μm~500μmである、請求項1に記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項4】
前記ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート樹脂は、ジカルボン酸系化合物由来の繰り返し単位、及びジオール系化合物由来の繰り返し単位を含み、
前記ジカルボン酸系化合物由来の繰り返し単位は、テレフタル酸残基80モル%~100モル%、及びイソフタル酸残基0モル%~20モル%を含み、
前記ジオール系化合物由来の繰り返し単位は、シクロヘキサンジメタノール残基85モル%~100モル%を含む、請求項1に記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項5】
樹脂としてポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート樹脂のみを含むフィルム製造用組成物を溶融させ、押出してシートを形成するシート形成ステップと、
前記押出して得たシートを機械方向に延伸するMD延伸ステップと、
前記MD延伸ステップが行われたシートを幅方向に延伸し、熱固定してポリエステルフィルムを製造するTD延伸ステップとを含み、
前記MD延伸ステップは、前記押出して得たシートを予熱する予熱過程、及び前記予熱が行われたシートを機械方向に延伸するMD延伸過程を含み、
前記予熱過程の温度は80℃~87℃であり、
前記MD延伸過程の延伸温度は80℃~89℃であり、
前記MD延伸ステップは、前記押出して得たシートに赤外線ヒーターを介して熱を加える加熱過程を含み、
前記ポリエステルフィルムは、
示差走査熱量計で測定された結晶化度が36%以下であり、
機械方向の引裂強度が240kg/cm以上350kg/cm以下であり、
幅方向の引裂強度が280kg/cm以上400kg/cm以下であり、
前記引裂強度は、ASTM D1004に準拠して測定された、二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記フィルム製造用組成物は、静電印加剤及び酸化防止剤をさらに含む、請求項5に記載の二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項7】
前記TD延伸ステップの延伸温度は100℃~125℃である、請求項5に記載の二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項8】
前記TD延伸ステップの熱固定温度は200℃~250℃である、請求項5に記載の二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項9】
前記MD延伸ステップの機械方向の延伸比率は2.5倍~3.5倍であり、
前記TD延伸ステップの幅方向の延伸比率は3.3倍~4.5倍である、請求項5に記載の二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項10】
前記加熱過程の赤外線ヒーターは、
前記シートの上部から所定距離離隔した上部ヒーター、及び前記シートの下部から所定距離離隔した下部ヒーターを含み、
前記上部ヒーターの表面温度は450℃~800℃であり、
前記下部ヒーターの表面温度は350℃~700℃である、請求項5に記載の二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
具現例は、耐破断性が改善されたポリエステルフィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムの製造過程の中で、延伸過程は、ガラス転移温度(Tg)以上の温度で行われる。但し、ポリエステルの一つであるポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート(PCT)は、結晶化が非常に速いため、フィルムとして活用する用途では結晶化度の調節が容易ではない。そのため、速い結晶の生成により延伸時に容易に破断する問題、ロールに巻き取る際にも破断する問題が発生することがある。
【0003】
したがって、PCTフィルムの製造において、結晶化度を調節し、耐破断性を確保することができる改善方案を考案する必要がある。
【0004】
前述した背景技術は、発明者が具現例の導出のために保有していた、または導出過程で習得した技術情報であって、必ずしも本発明の出願前に一般公衆に公開された公知技術であるとは限らない。
【0005】
関連する先行技術として、国際公開番号WO2015/046122に開示された"ポリエステルフィルムおよびポリエステルフィルムの製造方法、偏光板ならびに画像表示装置"などがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
具現例の目的は、耐破断性が改善されたポリエステルフィルムを提供することにある。
【0007】
具現例の他の目的は、破断の発生を最小化したポリエステルフィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、具現例に係るポリエステルフィルムは、
ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート樹脂を含み、
示差走査熱量計で測定された結晶化度が36%以下であり、
機械方向の引裂強度が240kg/cm以上350kg/cm以下であり、
幅方向の引裂強度が280kg/cm以上400kg/cm以下であり、
前記引裂強度は、ASTM D1004に準拠して測定されたものであってもよい。
【0009】
一具現例において、前記ポリエステルフィルムは、
前記結晶化度が33%以下であり、
前記機械方向の引裂強度が280kg/cm以上であり、
前記幅方向の引裂強度が307kg/cm以上であってもよい。
【0010】
一具現例において、前記ポリエステルフィルムは、厚さが10μm~500μmであってもよい。
【0011】
一具現例において、前記ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート樹脂は、ジカルボン酸系化合物由来の繰り返し単位、及びジオール系化合物由来の繰り返し単位を含み、
前記ジカルボン酸系化合物由来の繰り返し単位は、テレフタル酸残基80モル%~100モル%、及びイソフタル酸残基0モル%~20モル%を含み、
前記ジオール系化合物由来の繰り返し単位は、シクロヘキサンジメタノール残基85モル%~100モル%を含むことができる。
【0012】
上記の目的を達成するために、具現例に係るポリエステルフィルムの製造方法は、
ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート樹脂を含むフィルム製造用組成物を溶融させ、押出してシートを形成するシート形成ステップと、
前記押出して得たシートを機械方向に延伸するMD延伸ステップと、
前記MD延伸ステップが行われたシートを幅方向に延伸し、熱固定してポリエステルフィルムを製造するTD延伸ステップとを含み、
前記MD延伸ステップは、前記押出して得たシートを予熱する予熱過程、及び前記予熱が行われたシートを機械方向に延伸するMD延伸過程を含み、
前記予熱過程の温度は80℃~87℃であり、
前記MD延伸過程の延伸温度は80℃~89℃であり、
前記MD延伸ステップは、前記押出して得たシートに赤外線ヒーターを介して熱を加える加熱過程を含み、
前記ポリエステルフィルムは、
示差走査熱量計で測定された結晶化度が36%以下であり、
機械方向の引裂強度が240kg/cm以上350kg/cm以下であり、
幅方向の引裂強度が280kg/cm以上400kg/cm以下であり、
前記引裂強度は、ASTM D1004に準拠して測定されたものであってもよい。
【0013】
一具現例において、前記フィルム製造用組成物は、静電印加剤及び酸化防止剤をさらに含むことができる。
【0014】
一具現例において、前記TD延伸ステップの延伸温度は100℃~125℃であってもよい。
【0015】
一具現例において、前記TD延伸ステップの熱固定温度は200℃~250℃であってもよい。
【0016】
一具現例において、前記MD延伸ステップの機械方向の延伸比率は2.5倍~3.5倍であり、
前記TD延伸ステップの幅方向の延伸比率は3.3倍~4.5倍であってもよい。
【0017】
一具現例において、前記加熱過程の赤外線ヒーターは、
前記シートの上部から所定距離離隔した上部ヒーター、及び前記シートの下部から所定距離離隔した下部ヒーターを含み、
前記上部ヒーターの表面温度は450℃~800℃であり、
前記下部ヒーターの表面温度は350℃~700℃であってもよい。
【発明の効果】
【0018】
具現例に係るポリエステルフィルムは、比較的低い結晶化度を有し、耐破断性に優れるので様々な分野に適用することができる利点がある。
【0019】
具現例に係るポリエステルフィルムの製造方法は、機械方向の低温延伸及び予熱過程を通じて、結晶化度が低く、耐破断性に優れたポリエステルフィルムを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実験例の引裂強度の測定基準と関連する図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように、一つ以上の具現例について添付の図面を参照して詳細に説明する。しかし、具現例は、様々な異なる形態で実現可能であり、ここで説明する実施例に限定されない。明細書全体にわたって類似の部分に対しては同一の図面符号を付した。
【0022】
本明細書において、ある構成が他の構成を「含む」とするとき、これは、特に反対の記載がない限り、それ以外の他の構成を除くものではなく、他の構成をさらに含むこともできることを意味する。
【0023】
本明細書において、ある構成が他の構成と「連結」されているとするとき、これは、「直接的に連結」されている場合のみならず、「それらの間に他の構成を介在して連結」されている場合も含む。
【0024】
本明細書において、A上にBが位置するという意味は、A上に直接当接してBが位置するか、またはそれらの間に他の層が位置しながらA上にBが位置することを意味し、Aの表面に当接してBが位置することに限定されて解釈されない。
【0025】
本明細書において、マーカッシュ形式の表現に含まれた「これらの組み合わせ」という用語は、マーカッシュ形式の表現に記載された構成要素からなる群から選択される1つ以上の混合又は組み合わせを意味するものであって、前記構成要素からなる群から選択される1つ以上を含むことを意味する。
【0026】
本明細書において、「A及び/又はB」の記載は、「A、B、または、A及びB」を意味する。
【0027】
本明細書において、「第1」、「第2」又は「A」、「B」のような用語は、特に説明がない限り、同一の用語を互いに区別するために使用される。
【0028】
本明細書において、単数の表現は、特に説明がなければ、文脈上解釈される単数又は複数を含む意味で解釈される。
【0029】
ポリエステルフィルム
前記の目的を達成するために、具現例に係るポリエステルフィルムは、
ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート(polycyclohexylenedimethylene terephthalate)樹脂を含み、
示差走査熱量計で測定された結晶化度が36%以下であり、
機械方向(MD)の引裂強度が240kg/cm以上350kg/cm以下であり、
幅方向(TD)の引裂強度が280kg/cm以上400kg/cm以下であり、
前記引裂強度は、ASTM D1004に準拠して測定されたものである。
【0030】
前記ポリエステルフィルムのポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート(polycyclohexylenedimethylene terephthalate、PCT)樹脂は、ジカルボン酸系化合物及びジオール系化合物が共重合されたものであってもよく、その由来残基、繰り返し単位を含むことができる。
【0031】
前記ポリエステルフィルムは、ジカルボン酸系化合物由来の繰り返し単位の全体100モル%を基準として、テレフタル酸残基を80モル%以上または90モル%以上、100モル%以下または99モル%以下で含むことができ、イソフタル酸残基を20モル%以下または10モル%以下、0モル%以上、1モル%以上または2モル%以上で含むことができる。
【0032】
前記ポリエステルフィルムは、ジオール系化合物由来の繰り返し単位の全体100モル%を基準として、シクロヘキサンジメタノール残基を70モル%以上、80モル%以上または90モル%以上、100モル%以下で含むことができる。
【0033】
前記ジカルボン酸系化合物由来の繰り返し単位として、テレフタル酸残基及びイソフタル酸残基が前記のような含量で含まれる場合、相対的に高い融点特性及び低い結晶化特性を有することができる。
【0034】
前記ジオール系化合物由来の繰り返し単位は、前記シクロヘキサンジメタノール由来の繰り返し単位以外の次の化合物由来の繰り返し単位を含むことができる。例示的に、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-オクタンジオール、1,3-オクタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,1-ジメチル-1,5-ペンタンジオール及びこれらの由来残基などを含むことができる。
【0035】
前記ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート樹脂は、重量平均分子量(Mw)が30,000g/mol~50,000g/molであってもよく、または30,000g/mol~40,000g/molであってもよい。
【0036】
前記ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート樹脂は、重合反応の効率性の向上のために触媒を適用することができる。
【0037】
前記触媒は、ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート100重量部を基準として、0.1ppm~500ppm含まれてもよく、または0.5ppm~100ppm含まれてもよい。
【0038】
前記触媒は、チタン系化合物、アンチモン系化合物、ゲルマニウム系化合物、アルミニウム系化合物、またはこれらの混合物などが適用されてもよい。例示的に、前記触媒はチタン系化合物であってもよい。前記チタン系化合物はチタンテトライソプロポキシド(titanium tetraisopropoxide)を含むことができる。
【0039】
前記ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート樹脂の重合に酸化防止剤が適用され得る。前記酸化防止剤は、エステル化反応が進行する温度で熱酸化を抑制するための目的で必要に応じて適用され得る。但し、このとき、適用される酸化防止剤は、適正量を適用することが一般的である。重合時に酸化防止剤を過剰投入すると、反応を遅滞させる恐れがあり、製造された樹脂の固有粘度の下落を発生させることもある。樹脂の重合時に影響を及ぼす酸化防止剤は、重合過程で消耗され、後続のフィルムの製造時に添加される酸化防止剤とは区分され得る。
【0040】
前記酸化防止剤は、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤などを含むことができる。
【0041】
前記酸化防止剤は、前記ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート100重量部を基準として0.01重量部~1重量部含まれてもよい。
【0042】
前記ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート樹脂を通じてフィルムを製造する際に静電印加剤が適用され得る。前記静電印加剤は、アルカリ金属の塩、アルカリ土金属の塩などが適用され得、マグネシウム系化合物、カルシウム系化合物が適用されてもよく、例示的に酢酸マグネシウム、酢酸カルシウムなどが適用されてもよい。
【0043】
前記ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート樹脂100重量部を基準として、前記静電印加剤の金属または金属イオンの含量(重量)が300ppm~1000ppmになるように含まれてもよい。
【0044】
前記ポリエステルフィルムにおいて、機械方向(Machine Direction、MD)は、フィルム製膜工程時に移動が進行する方向と平行な長手方向であり、幅方向(Transverse Direction、TD)は、前記機械方向と垂直な方向である。
【0045】
前記ポリエステルフィルムは、示差走査熱量計で測定された結晶化度が36%以下であってもよく、34%以下であってもよく、33%以下であってもよく、または31.1%以下であってもよい。前記結晶化度は10%以上であってもよい。前記ポリエステルフィルムは、このような結晶化度を有することによって、巻取りや製品への適用時に容易に破断しないようにする。前記示差走査熱量計を通じて結晶化度を測定することは、後述する実験例の方法を通じて行われ得る。
【0046】
前記ポリエステルフィルムは、機械方向の引裂強度が240kg/cm以上であってもよく、250kg/cm以上であってもよく、270kg/cm以上であってもよく、または280kg/cm以上であってもよい。前記機械方向の引裂強度は350kg/cm以下であってもよく、または340kg/cm以下であってもよい。
【0047】
前記ポリエステルフィルムは、幅方向の引裂強度が280kg/cm以上であってもよく、290kg/cm以上であってもよく、300kg/cm以上であってもよく、307kg/cm以上であってもよく、または331kg/cm以上であってもよい。前記幅方向の引裂強度は、400kg/cm以下であってもよく、または390kg/cm以下であってもよい。
【0048】
前記ポリエステルフィルムは、このような機械方向、幅方向の引裂強度を有することによって、巻取りや製品への適用時に容易に破断しないようにし、優れた耐久性を確保することができる。
【0049】
前記引裂強度は、ASTM D1004に準拠して測定され得、後述する実験例の方法を通じて測定され得る。
【0050】
前記ポリエステルフィルムの厚さは、10μm~500μmであってもよく、または20μm~300μmであってもよい。
【0051】
前記ポリエステルフィルムは、下記の製造方法において特有の低温延伸工程を通じて製造されることで、耐破断性に優れるという利点がある。
【0052】
ポリエステルフィルムの製造方法
前記の目的を達成するために、具現例に係るポリエステルフィルムの製造方法は、
ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート樹脂を含むフィルム製造用組成物を溶融させ、押出してシートを形成するシート形成ステップと、
前記押出して得たシートを機械方向に延伸するMD延伸ステップと、
前記MD延伸ステップが行われたシートを幅方向に延伸し、熱固定してポリエステルフィルムを製造するTD延伸ステップとを含み、
前記MD延伸ステップは、前記押出して得たシートを予熱する予熱過程、及び前記予熱が行われたシートを機械方向に延伸するMD延伸過程を含み、
前記予熱過程の温度は80℃~87℃であり、
前記MD延伸過程の延伸温度は80℃~89℃であり、
前記MD延伸ステップは、前記押出して得たシートに赤外線ヒーターを介して熱を加える加熱過程を含むことができる。
【0053】
前記シート形成ステップのフィルム製造用組成物は、静電印加剤及び酸化防止剤を含むことができる。前記静電印加剤、酸化防止剤などは、先のポリエステルフィルムで説明したものと同一であるので、重複説明は省略する。
【0054】
前記フィルム製造用組成物は、溶融前に乾燥処理され得、前記乾燥は、150℃以下の温度で行われ得、70℃~148℃の温度で行われてもよい。
【0055】
前記フィルム製造用組成物の乾燥は、全体に対して水分の含量が100ppm以下、または50ppm以下になるように行われてもよい。前記乾燥工程が150℃超の温度で行われる場合、樹脂自体に意図しない色変化が発生する恐れがある。
【0056】
前記フィルム製造用組成物は、チップ、ペレット、プレートなどの形態を有することができ、フィルムの製造工程に投入し易く、効果的に混合され得る形態を有することができる。
【0057】
前記フィルム製造用組成物のポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート樹脂は、通常の重合方法により製造され得、例示的に、チタン、アンチモンなどの金属含有触媒下で重合反応されたものが適用されてもよい。
【0058】
前記フィルム製造用組成物のポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート樹脂は、上述したように、ジカルボン酸系化合物及びジオール系化合物が共重合されたものであり得、それに由来の繰り返し単位を含むことができる。
【0059】
前記シート形成ステップの押出は、230℃~300℃の温度で行われてもよく、または250℃~290℃の温度で行われてもよい。
【0060】
前記MD延伸ステップの予熱過程は、前記シートを80℃~87℃の温度で0.5秒~2分間熱処理してもよく、または80℃~86℃の温度で前記と同じ時間の間熱処理してもよい。
【0061】
前記MD延伸ステップのMD延伸過程は、前記予熱過程が行われたシートを、80℃~89℃の温度で機械方向に2.5倍~3.5倍延伸処理してもよく、または80℃~87℃の温度もしくは80℃~85℃の温度で前記と同じ倍率で機械方向に延伸処理してもよい。
【0062】
前記MD延伸ステップは、予熱過程が行われた未延伸シートの上部及び/又は下部から30mm~200mm離隔した位置に赤外線ヒーターを備えて加熱処理する過程を含むことができる。前記未延伸シートの上部に備えられた赤外線ヒーターの表面温度は、450℃~800℃であってもよく、または500℃~700℃であってもよい。
【0063】
前記MD延伸ステップは、このような予熱過程及びMD延伸過程を通じて、製造されるフィルムが目的とする耐破断性を満たすようにすることができる。
【0064】
前記TD延伸ステップの延伸は、100℃~125℃の温度で幅方向に3.3倍~4.5倍延伸処理してもよく、または102℃~115℃の温度もしくは105℃~112℃の温度で前記と同じ倍率で幅方向に延伸処理してもよい。
【0065】
前記TD延伸ステップは、延伸前に予熱する過程をさらに含むことができる。前記TD延伸ステップの予熱は、90℃~108℃の温度で0.5秒~5分間行われてもよく、または0.1℃~5℃の温度を上昇もしくは下降調整して複数回行われてもよい。
【0066】
前記TD延伸ステップの熱固定は、200℃~250℃の温度で5秒~600秒間行われてもよく、または10秒~200秒間行われてもよい。
【0067】
前記TD延伸ステップが行われたフィルムは、長手方向及び/又は幅方向に所定の弛緩処理が行われ得、弛緩時の温度は150℃~250℃であってもよく、弛緩率は1%~10%、または3%~7%であってもよい。
【0068】
以下、具体的な実施例を通じて本発明をより具体的に説明する。下記実施例は、本発明の理解を助けるための例示に過ぎず、本発明の範囲がこれに限定されるものではない。
【0069】
実施例1
ジオール系化合物としてシクロヘキサンジメタノール(cyclohexanedimethanol、CHDM)100モル%、及びジカルボン酸系化合物としてテレフタル酸(terephthalic acid、TPA)96モル%とイソフタル酸(isophthalic acid、IPA)4モル%の単量体混合物を撹拌機に投入し、チタン触媒を、前記混合物100重量部を基準として1ppm投入した後、285℃でエステル交換反応を行った。
【0070】
エステル交換反応された物質を、真空設備が備えられた別途の反応器に移送した後、290℃で160分間重合してポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート(PCT)樹脂を得た。
【0071】
前記PCT樹脂を含むチップ98重量%、及び酸化防止剤、静電印加剤を含むチップ2重量%と共にマスターバッチチップに加工し、140℃の温度で乾燥処理した。その後、原料を押出機に投入し、約295℃の温度でシート状に押出し、キャスティングロールにキャスティングした。
【0072】
前記押出されたシートを80℃の温度で10秒間予熱処理した後、80℃の温度で機械方向(MD)に3.2倍延伸処理した。機械方向への延伸時に、フィルムの上部、下部からそれぞれ80mm離隔した上段及び下段に備えられた赤外線ヒーターを介して加熱する過程を追加するが、上段ヒーターの表面温度は500℃、下段ヒーターの表面温度は400℃として適用した。その次に、110℃の温度で幅方向(TD)に3.5倍延伸した。その後、延伸されたシートを、約30秒間230℃の温度で熱固定し、弛緩して、40μmの厚さのPCTフィルムを製造した。
【0073】
実施例2
前記実施例1において、上段ヒーターの表面温度は700℃、下段ヒーターの表面温度は600℃に変更して適用し、PCTフィルムを製造した。
【0074】
実施例3
前記実施例1において、機械方向への延伸前の予熱温度及び延伸温度を85℃に変更して適用し、PCTフィルムを製造した。
【0075】
実施例4
前記実施例1において、上段ヒーターの表面温度は700℃、下段ヒーターの表面温度は600℃に変更して適用し、機械方向への延伸前の予熱温度及び延伸温度を85℃に変更して適用し、PCTフィルムを製造した。
【0076】
比較例1
前記実施例1において、機械方向への延伸前の予熱温度及び延伸温度を95℃に変更して適用し、PCTフィルムを製造した。
【0077】
比較例2
前記実施例1において、機械方向への延伸前の予熱温度及び延伸温度を95℃に変更して適用し、上段ヒーターの表面温度は700℃、下段ヒーターの表面温度は600℃に変更して適用し、PCTフィルムを製造した。
【0078】
実験例1-結晶化度の測定
前記実施例及び比較例で設けられたフィルムに対して、示差走査熱量計(Differential Scanning Calorimetry、TA instruments社のDSC-Q2000)を通じて結晶化度を測定した。具体的に、各実施例及び比較例で得たフィルムのうち5mgの試料をアルミニウムパンに入れ、圧着後に密封させた。これを、反応炉で常温から350℃まで10℃/minの速度で昇温させて加熱した後、-70℃に冷却した後、再び10℃/minの速度で常温まで昇温させた。反応炉の白金抵抗体センサを介して、試料の相転移が発生したとき、熱吸収、熱放出の程度を電流の量で確認し、エンタルピーを下記式に適用して結晶化度を計算し、表1に示した。
【0079】
結晶化度(%)=(△H/△HO)×100%
ここで、△Hは、製造されたPCT共重合体の融解熱(J/g)であり、△HOは、100%の結晶化度を有するPCT樹脂の融解熱である。
【0080】
実験例2-引裂強度の測定
前記実施例及び比較例で設けられたフィルムから、ASTM D1004規格に合うように試料をそれぞれ製造した。試料の形態は、図1に示されたように、101.6mm×19.0mmのサイズを満たすようにし、中央に直角の溝があるようにした。この試料を、Instron社のUTM4520装置を通じて100mm/minの引張速度で引裂強度を測定し、その結果を表1に示した。
【0081】
実験例3-破断性の測定
前記実施例及び比較例の製造過程において、幅方向への延伸時の破断の程度を、良好であれば○、破断が存在すれば×と示し、ワインダー(winder)に巻取り時の耐破断性を、10点満点を基準として巻取りの回数毎に破断の発生時に0.5点を差し引いて点数を測定し、その結果を表1に示した。
【0082】
【表1】
【0083】
表1を参照すると、比較的低温で機械方向の予熱及び延伸工程が行われた実施例は、低い結晶化度を有すると同時に、機械方向及び幅方向の引裂強度に優れることを確認することができ、複数回の巻取り時にも耐破断性も良好であることが分かる。
【0084】
以上、本発明の好ましい実施例について詳細に説明したが、本発明の権利範囲は、これに限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲で定義している本発明の基本概念を利用した当業者の様々な変形及び改良形態もまた本発明の権利範囲に属する。
図1