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特許7584583曲げ加工機、及び曲げ加工機のテーブル制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】曲げ加工機、及び曲げ加工機のテーブル制御方法
(51)【国際特許分類】
   B30B 15/10 20060101AFI20241108BHJP
   B21D 5/02 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
B30B15/10 A
B21D5/02 L
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023113196
(22)【出願日】2023-07-10
【審査請求日】2024-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】390014672
【氏名又は名称】株式会社アマダ
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 眞孝
(72)【発明者】
【氏名】濱 信治
(72)【発明者】
【氏名】竹島 義人
(72)【発明者】
【氏名】平 浩之
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一也
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-200220(JP,A)
【文献】特開2012-222848(JP,A)
【文献】実開昭57-070714(JP,U)
【文献】特開平08-300048(JP,A)
【文献】特開昭62-183912(JP,A)
【文献】特開2000-015339(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B30B 15/10
B21D 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定テーブルに対して上下方向に対向して配置される可動テーブルと、
駆動用モータと、歯構造により互いに係合可能な複数の歯車要素を介して前記駆動用モータからの動力が伝達される駆動軸と、を含む駆動ユニットと、
前記駆動軸の回転運動を上下方向に沿った直線運動に変換することで、前記可動テーブルを上下方向に移動させる変換ユニットと、
前記可動テーブルを下方向に移動させる力に対して抵抗する力を付与するブレーキ機構と、
前記駆動ユニットを制御して、ワークに曲げ加工を行うための前記可動テーブルの昇降制御を行う制御装置と、を有し、
前記制御装置は、前記可動テーブルの昇降制御における制御の過程に応じて前記ブレーキ機構のオンオフを切り替え
前記ブレーキ機構は、
モータの端子間を、抵抗を介して短絡させることで制動力を発生するブレーキ用モータと、
前記ブレーキ用モータのモータ軸と、前記駆動ユニットの前記駆動軸との間に掛け渡されたタイミングベルトと、で構成される、曲げ加工機。
【請求項2】
固定テーブルに対して上下方向に対向して配置される可動テーブルと、
駆動用モータと、歯構造により互いに係合可能な複数の歯車要素を介して前記駆動用モータからの動力が伝達される駆動軸と、を含む駆動ユニットと、
前記駆動軸の回転運動を上下方向に沿った直線運動に変換することで、前記可動テーブルを上下方向に移動させる変換ユニットと、
前記可動テーブルを下方向に移動させる力に対して抵抗する力を付与するブレーキ機構と、
前記駆動ユニットを制御して、ワークに曲げ加工を行うための前記可動テーブルの昇降制御を行う制御装置と、を有し、
前記制御装置は、前記可動テーブルの昇降制御における制御の過程に応じて前記ブレーキ機構のオンオフを切り替え、
前記駆動ユニットは、
前記駆動用モータのモータ軸の回転を減速して前記駆動軸に伝達する減速機と、
前記減速機における減速比を切り替えるクラッチ機構と、を含み、
前記制御装置は、
前記可動テーブルを上端位置から下端位置へと下降させる途中で前記クラッチ機構の切り替えを行うとともに、前記可動テーブルを前記下端位置から前記上端位置へと上昇させる途中で前記クラッチ機構の切り替えを行い、
前記クラッチ機構の切り替えを行う切替期間で、前記ブレーキ機構をオンする、曲げ加工機。
【請求項3】
固定テーブルに対して上下方向に対向して配置される可動テーブルと、
駆動用モータと、歯構造により互いに係合可能な複数の歯車要素を介して前記駆動用モータからの動力が伝達される駆動軸と、を含む駆動ユニットと、
前記駆動軸の回転運動を上下方向に沿った直線運動に変換することで、前記可動テーブルを上下方向に移動させる変換ユニットと、
前記可動テーブルを下方向に移動させる力に対して抵抗する力を付与するブレーキ機構と、
前記駆動ユニットを制御して、ワークに曲げ加工を行うための前記可動テーブルの昇降制御を行う制御装置と、を有し、
前記制御装置は、前記可動テーブルの昇降制御における制御の過程に応じて前記ブレーキ機構のオンオフを切り替え、
前記制御装置は、
前記固定テーブルに装着された金型と前記可動テーブルに装着された金型との間で前記ワークの加圧を開始した後、下端位置に到達する前に前記可動テーブルを上方向に反転させて前記ワークに対する加圧を解除する除荷を行うとともに、前記可動テーブルの反転期間で、前記ブレーキ機構をオンし、
前記固定テーブルに装着された金型と前記可動テーブルに装着された金型との間で前記ワークを加圧しながら前記可動テーブルが下端位置に向かって減速する加圧減速期間で、前記ブレーキ機構をオンする、曲げ加工機。
【請求項4】
前記ブレーキ機構は、
前記可動テーブルに連結されて、前記可動テーブルを上方向に付勢する力を発生する流体圧シリンダと、
前記流体圧シリンダに対する流体の供給及び排出を制御する電磁弁と、で構成される請求項2又は3記載の曲げ加工機。
【請求項5】
前記制御装置は、前記固定テーブルに装着された金型と前記可動テーブルに装着された金型との間で前記ワークを加圧しながら前記可動テーブルが下端位置に向かって減速する加圧減速期間で、前記ブレーキ機構をオンする請求項1又は2記載の曲げ加工機。
【請求項6】
前記制御装置は、所定の禁止条件を満たす場合には、前記加圧減速期間であっても前記ブレーキ機構をオフのまま継続し、
前記制御装置は、前記可動テーブルに作用する圧力が圧力閾値を超えた場合に、前記禁止条件を満たすと判断する請求項記載の曲げ加工機。
【請求項7】
前記駆動ユニットは、
前記駆動用モータのモータ軸の回転を減速して前記駆動軸に伝達する減速機と、
前記減速機における減速比を切り替えるクラッチ機構と、を含み、
前記制御装置は、
前記可動テーブルを上端位置から下端位置へと下降させる途中で前記クラッチ機構の切り替えを行うとともに、前記可動テーブルを前記下端位置から前記上端位置へと上昇させる途中で前記クラッチ機構の切り替えを行い、
前記クラッチ機構の切り替えを行う切替期間で、前記ブレーキ機構をオンする請求項1又は3記載の曲げ加工機。
【請求項8】
前記制御装置は、
前記可動テーブルを急停止させる急停止期間で、前記ブレーキ機構をオンする請求項1から3いずれか一項記載の曲げ加工機。
【請求項9】
前記制御装置は、
前記可動テーブルを上端位置のままで維持するテーブル維持期間で、前記ブレーキ機構をオンする請求項1から3いずれか一項記載の曲げ加工機。
【請求項10】
前記制御装置は、
前記固定テーブルに装着された金型と前記可動テーブルに装着された金型との間で前記ワークの加圧を開始した後、前記下端位置に到達する前に前記可動テーブルを上方向に反転させて前記ワークに対する加圧を解除する除荷を行うとともに、
前記可動テーブルの反転期間で、前記ブレーキ機構をオンする請求項記載の曲げ加工機。
【請求項11】
曲げ加工機のテーブル制御方法であって、
駆動ユニットを制御して、固定テーブルに対して上下方向に対向して配置された可動テーブルを昇降させる昇降制御を行い、
前記可動テーブルの昇降制御における制御の過程に応じて、ブレーキ機構のオンオフを切り替える、ことを含み、
前記駆動ユニットは、
駆動用モータと、
回転運動を直線運動に変換することで前記可動テーブルを上下方向に移動させる変換ユニットに連結されており、歯構造により互いに係合可能な複数の歯車要素を介して前記駆動用モータからの動力が伝達される駆動軸と、を備え、
前記ブレーキ機構は、
モータの端子間を、抵抗を介して短絡させることで制動力を発生するブレーキ用モータと、
前記ブレーキ用モータのモータ軸と、前記駆動ユニットの前記駆動軸との間に掛け渡されたタイミングベルトと、で構成され、
前記可動テーブルを下方向に移動させる力に対して抵抗する力を付与する曲げ加工機のテーブル制御方法。
【請求項12】
曲げ加工機のテーブル制御方法であって、
駆動ユニットを制御して、固定テーブルに対して上下方向に対向して配置された可動テーブルを昇降させる昇降制御を行い、
前記可動テーブルの昇降制御における制御の過程に応じて、ブレーキ機構のオンオフを切り替える、ことを含み、
前記駆動ユニットは、
駆動用モータと、
回転運動を直線運動に変換することで前記可動テーブルを上下方向に移動させる変換ユニットに連結されており、歯構造により互いに係合可能な複数の歯車要素を介して前記駆動用モータからの動力が伝達される駆動軸と、を備え、
前記ブレーキ機構は、
前記可動テーブルを下方向に移動させる力に対して抵抗する力を付与し、
前記駆動ユニットは、
前記駆動用モータのモータ軸の回転を減速して前記駆動軸に伝達する減速機と、
前記減速機における減速比を切り替えるクラッチ機構と、を含み、
前記可動テーブルの昇降制御における制御の過程は、
前記可動テーブルを上端位置から下端位置へと下降させる途中で前記クラッチ機構の切り替えを行うとともに、前記可動テーブルを前記下端位置から前記上端位置へと上昇させる途中で前記クラッチ機構の切り替えを行うことを含み、
前記クラッチ機構の切り替えを行う切替期間で、前記ブレーキ機構をオンする、
曲げ加工機のテーブル制御方法。
【請求項13】
曲げ加工機のテーブル制御方法であって、
駆動ユニットを制御して、固定テーブルに対して上下方向に対向して配置された可動テーブルを昇降させる昇降制御を行い、
前記可動テーブルの昇降制御における制御の過程に応じて、ブレーキ機構のオンオフを切り替える、ことを含み、
前記駆動ユニットは、
駆動用モータと、
回転運動を直線運動に変換することで前記可動テーブルを上下方向に移動させる変換ユニットに連結されており、歯構造により互いに係合可能な複数の歯車要素を介して前記駆動用モータからの動力が伝達される駆動軸と、を備え、
前記ブレーキ機構は、前記可動テーブルを下方向に移動させる力に対して抵抗する力を付与し、
前記可動テーブルの昇降制御における制御の過程は、
前記固定テーブルに装着された金型と前記可動テーブルに装着された金型との間でワークの加圧を開始した後、下端位置に到達する前に前記可動テーブルを上方向に反転させて前記ワークに対する加圧を解除する除荷を行うこと、
前記固定テーブルに装着された金型と前記可動テーブルに装着された金型との間で前記ワークを加圧しながら前記可動テーブルを下端位置に向かって減速させること、を含み、
前記可動テーブルの反転期間で、前記ブレーキ機構をオンし、
前記可動テーブルの加圧減速期間で、前記ブレーキ機構をオンする、曲げ加工機のテーブル制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曲げ加工機、及び曲げ加工機のテーブル制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プレスブレーキは、ダイなどの金型が装着される固定テーブルに対して、パンチなどの金型が装着される可動テーブルを上下方向に移動させることにより、ワークに対して曲げ加工を行う。可動テーブルを駆動するテーブル駆動装置は、駆動用モータによって駆動軸を回転させる駆動ユニットと、駆動軸の回転運動を上下方向に沿った直線運動に変換することで、可動テーブルを上下方向に移動させる変換ユニットと、を備えている。駆動ユニットは、歯構造により互いに係合可能な複数の歯車要素を備えており、駆動用モータからの動力が複数の歯車要素を介して駆動軸に伝達されている。
【0003】
特許文献1には、回転駆動源によってボールねじ機構を回転させて、可動テーブルを上下方向に移動させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5531878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
曲げ加工機では、可動テーブルを上下に移動させる昇降制御を行う必要があるが、重量物である可動テーブルの自重が制御上の様々な問題に影響を及ぼす。そのため、可動テーブルの昇降制御を行うためには、可動テーブルの自重による影響を十分に考慮する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様の曲げ加工機は、固定テーブルに対して上下方向に対向して配置される可動テーブルと、駆動用モータと、歯構造により互いに係合可能な複数の歯車要素と、駆動用モータからの動力が複数の歯車要素を介して伝達される駆動軸と、を含む駆動ユニットと、駆動軸の回転運動を上下方向に沿った直線運動に変換することで、可動テーブルを上下方向に移動させる変換ユニットと、可動テーブルを下方向に移動させる力に対して抵抗する力を付与するブレーキ機構と、駆動ユニットを制御して、ワークに曲げ加工を行うための可動テーブルの昇降制御を行う制御装置と、を有し、制御装置は、可動テーブルの昇降制御における制御の過程に応じてブレーキ機構のオンオフを切り替える。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、ブレーキ機構のオンオフを切り替えることで、可動テーブルの自重による影響を考慮して可動テーブルの昇降制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本実施形態に係るプレスブレーキのテーブル駆動装置の要部を示す側面図である。
図2図2は、本実施形態に係るプレスブレーキの全体構成を示す正面図である。
図3図3は、減速機の要部を示す断面図である。
図4図4は、クラッチ機構の要部を拡大して示す側面図であって、高速モードの状態を示す図である。
図5図5は、クラッチ機構の要部を拡大して示す側面図であって、高トルクモードの状態を示す図である。
図6図6は、ブレーキ機構の変形例を示す説明図である。
図7図7は、上部テーブルの昇降制御における一連の過程を説明する図である。
図8図8は、高トルクモードで上部テーブルが下降するときの速度、トルク及び圧力の推移を示す図であって、ブレーキ機構をオンしないときの図である。
図9図9は、高トルクモードで上部テーブルが下降するときの速度、トルク及び圧力の推移を示す図であって、ブレーキ機構をオンしたときの図である。
図10図10は、高トルクモードで上部テーブルが下降するときの速度、トルク及び圧力の推移を示す図であって、ブレーキ機構をオンしたときの図である。
図11図11は、高速モードから高トルクモードへのモード切替時のクラッチ機構の状態を示す図である。
図12図12は、上部テーブルの急停止を説明する図である。
図13図13は、上部テーブルを急停止させたときの速度及びトルクの推移を示す図であって、ブレーキ機構をオンしないときの図である。
図14図14は、上部テーブルを急停止させたときの速度及びトルクの推移を示す図であって、ブレーキ機構をオンしたときの図である。
図15図15は、上部テーブルが上端位置から下降するときの速度及びトルクの推移を示す図であって、ブレーキ機構をオンしないときの図である。
図16図16は、上部テーブルが上端位置から下降するときの速度及びトルクの推移を示す図であって、ブレーキ機構をオンしたときの図である。
図17図17は、上部テーブルの昇降制御における一連の過程を説明する図である。
図18図18は、上部テーブルを反転させるときのクラッチ機構の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照し、本実施形態に係る曲げ加工機を、プレスブレーキを例示して説明する。
【0010】
図1は、本実施形態に係るプレスブレーキ1のテーブル駆動装置20の要部を示す側面図である。本明細書では、方向の定義として、左右方向、前後方向、及び上下方向を用いる。左右方向及び前後方向は水平方向において直交する2つの方向に対応し、上下方向は鉛直方向に対応する。これらの方向は、本実施形態に係るプレスブレーキを説明するために、便宜的に用いられるに過ぎない。
【0011】
本実施形態に係るプレスブレーキ1は、下部テーブル5に対して上下方向に対向して配置される上部テーブル7と、駆動用モータ25と、歯構造により互いに係合可能な複数の歯車要素と、駆動用モータ25からの動力が複数の歯車要素を介して伝達される駆動軸41と、を含む駆動ユニット24と、駆動軸41の回転運動を上下方向に沿った直線運動に変換することで、上部テーブル7を上下方向に移動させるボールねじ機構55と、上部テーブル7を下方向に移動させる力に対して抵抗する力を付与するブレーキ機構70と、駆動ユニット24を制御して、ワークに曲げ加工を行うための上部テーブル7の昇降制御を行う制御装置100と、を有する。制御装置100は、上部テーブル7の昇降制御における制御の過程に応じてブレーキ機構70のオンオフを切り替える。
【0012】
以下、図1及び図2を参照し、プレスブレーキ1の詳細について説明する。図2は、本実施形態に係るプレスブレーキ1の全体構成を示す正面図である。
【0013】
図2に示すように、プレスブレーキ1は、パンチなどの上金型Pと、ダイなどの下金型Dとの協働により、板金などの板状のワークに対して曲げ加工を行う。プレスブレーキ1は、左右のサイドプレート2と、固定テーブルである下部テーブル5と、可動テーブルである上部テーブル7と、左右のテーブル駆動装置20と、制御装置100と、を備えている。
【0014】
左右のサイドプレート2は、互いに対向するように、左右方向に離隔して配置されている。
【0015】
下部テーブル5は、左右方向に延在しており、左右のサイドプレート2の前側下部に支持されている。下部テーブル5の上側には、下金型Dを着脱可能に保持する下金型ホルダ6が、左右方向に沿って設けられている。
【0016】
上部テーブル7は、左右方向に延在しており、下部テーブル5に対して対向するように、左右のサイドプレート2の前側上部に支持されている。上部テーブル7は、左右のサイドプレート2に対して、上下方向に移動自在に構成されている。上部テーブル7の下側には、上金型Pを着脱可能に保持する上金型ホルダ8が、左右方向に沿って設けられている。
【0017】
左右のテーブル駆動装置20は、左右のサイドプレート2の上部にそれぞれ固定されている。個々のテーブル駆動装置20は、上部テーブル7を上下方向へ移動させる駆動装置である。図1に示すように、テーブル駆動装置20は、駆動ユニット24と、ボールねじ機構55と、ブレーキ機構70とを主体に構成されている。
【0018】
駆動ユニット24は、ボールねじ機構55を駆動する。駆動ユニット24は、駆動用モータ25と、減速機ユニット30とで構成されている。
【0019】
駆動用モータ25は、電気エネルギーによって駆動する駆動源であり、軸線周りで回転する駆動用モータ軸26(図3参照)を備えている。駆動用モータ25は、例えばサーボモータである。
【0020】
減速機ユニット30は、歯構造により互いに係合可能な複数の歯車要素と、駆動用モータ25からの動力が複数の歯車要素を介して伝達される駆動軸41と、を含んでいる。複数の歯車要素の作用により、減速機ユニット30の駆動軸41の回転は、駆動用モータ軸26の回転に対して所定の減速比で減速される。減速機ユニット30の詳細については後述する。なお、以下の説明では、必要に応じて、減速機ユニット30の駆動軸41を、駆動ユニット24の駆動軸41ともいう。
【0021】
ボールねじ機構55は、駆動ユニット24の駆動軸41の回転運動を直線運動に変換することで、上部テーブル7を上下方向に移動させる変換ユニットである。ボールねじ機構55は、ボールねじナット56と、ボールねじ軸57と、を含んでいる。ボールねじナット56は、ボールねじ機構55の筐体内部に軸受部を介して支持されている。ボールねじナット56は、駆動ユニット24の駆動軸41と連結されており、出力部の回転に応じて回転する。ボールねじ軸57は、ボールねじナット56に螺合しており、ボールねじナット56が正逆回転することにより、上下方向に移動する。
【0022】
駆動ユニット24とボールねじ機構55とは、駆動ユニット24の駆動軸41(回転軸)とボールねじ機構55のボールねじナット56(回転軸)とが平行となるように、前後方向に並べて配置されている。駆動ユニット24の駆動軸41とボールねじ機構55のボールねじナット56との間はタイミングベルト43で繋がれ、このタイミングベルト43を介して動力が伝達されている。
【0023】
ボールねじ機構55の下端、具体的にはボールねじ軸57の下端には、接続ブロック60が連結されている。接続ブロック60の下端には、上下方向に沿って垂下する吊りボルト61が取り付けられており、吊りボルト61は、上部テーブル7を前後方向に貫通する支持軸62を支持している。ボールねじ軸57は、吊りボルト61及び支持軸62を含む接続ブロック60を介して、上部テーブル7に連結されている。すなわち、接続ブロック60は、ボールねじ機構55と上部テーブル7とを連結し、ボールねじ機構55の上下方向の直線運動によって上部テーブル7を上下方向に移動させる。
【0024】
図1に示すように、ブレーキ機構70は、ブレーキ用モータ71と、タイミングベルト73とを主体に構成されている。ブレーキ用モータ71は、例えばサーボモータである。ブレーキ用モータ71には、図示しないモータ駆動回路が設けられている。モータ駆動回路は、制御装置100から供給されるブレーキ信号がオンの場合、すなわちブレーキ機構70のオンが指示された場合、モータの端子間(相間)を抵抗を介して短絡させる。この短絡により、ブレーキ用モータ71の駆動軸41の回転エネルギーが抵抗により熱消費され、ブレーキ用モータ軸72の回転を制止する制動力が発生する。一方、モータ駆動回路は、ブレーキ信号がオフの場合、すなわちブレーキ機構70のオフが指示されている場合、上記の制御を行わない。この場合、ブレーキ用モータ軸72に制動力は発生しない。
【0025】
タイミングベルト73は、ブレーキ用モータ軸72と、駆動ユニット24の駆動軸41との間に掛け渡されている。
【0026】
このような構造のブレーキ機構70は、ダイナミックブレーキと呼ばれている。上部テーブル7を下方向に移動する際に、ブレーキ機構70がオンすることで、ブレーキ用モータ71の制動力が、駆動ユニット24の駆動軸41に対して抵抗として作用する。すなわち、駆動ユニット24には、上部テーブル7を下方向に移動させる力に対して抵抗する力が与えられる。
【0027】
左側のサイドプレート2には、プレスブレーキ1の動作を制御するNC(Numerical Control)装置などの制御装置100が接続アームを介して支持されている。制御装置100は、駆動ユニット24、ブレーキ機構70などを制御する。
【0028】
図3から図5を参照し、減速機ユニット30について説明する。図3は、減速機ユニット30の要部を示す断面図である。図4は、クラッチ機構45の要部を拡大して示す側面図であって、高速モードの状態を示す図である。図5は、クラッチ機構45の要部を拡大して示す側面図であって、高トルクモードの状態を示す図である。なお、説明の便宜上、図3に示す減速機ユニット30は、図1に示す減速機ユニット30の状態と比較して、上下を反転した状態で描かれている。また、図4及び図5に示すクラッチ機構45は、図3に示すクラッチ機構45に準じて描かれている(以下同じ)。
【0029】
図3に示すように、減速機ユニット30は、減速機31と、クラッチ機構45とから構成されている。減速機31は、駆動用モータ軸26の回転を、第1減速比及び第1減速比よりも大きい第2減速比のいずれか一方の減速比で減速して駆動軸41に出力する。クラッチ機構45は、減速機31における減速比を第1減速比と第2減速比とで切り替える。
【0030】
減速機31は、不思議遊星歯車機構を含んでいる。具体的には、減速機31は、太陽歯車32と、複数の遊星歯車ユニット33と、遊星キャリア34と、第1内歯車38と、第2内歯車40と、駆動軸41とを備えている。
【0031】
太陽歯車32は、駆動用モータ軸26の外周面に外嵌されている。太陽歯車32は、駆動用モータ軸26と一体となって回転する。
【0032】
複数の遊星歯車ユニット33は、太陽歯車32の周囲に設けられており、周方向にかけて等間隔で配置されている。個々の遊星歯車ユニット33は、第1遊星歯車33aと、第2遊星歯車33bとで構成されている。第1遊星歯車33aは、太陽歯車32と噛み合っており、太陽歯車32の回転によって回転する。第2遊星歯車33bは、第1遊星歯車33aと同軸上に設けられており、第1遊星歯車33aと一体となって回転する。本実施形態では、第1遊星歯車33aと第2遊星歯車33bは、上下方向にかけて一体化された2段構造であり、第1遊星歯車33aと第2遊星歯車33bとは同一の軸上で回転する。
【0033】
遊星キャリア34は、駆動用モータ軸26に外嵌された軸受部35などを介して、駆動用モータ軸26周りで回転する。遊星キャリア34には、複数のユニット軸36が周方向に沿って設けられている。個々のユニット軸36には軸受部37が外嵌されており、軸受部37を介して遊星歯車ユニット33が取り付けられる。遊星キャリア34は、複数の遊星歯車ユニット33をそれぞれ自転可能に支持する。
【0034】
第1内歯車38は、第1遊星歯車33aと噛み合う内歯車である。第1内歯車38は、軸受部39を介して、減速機ユニット30のハウジングの内周面に設けられており、駆動用モータ軸26を中心に回転することができる。
【0035】
第2内歯車40は、第1内歯車38と異なる歯数を備え、第2遊星歯車33bと噛み合う内歯車である。第2内歯車40は、軸受部42を介して、減速機ユニット30のハウジングの内周面に設けられており、駆動用モータ軸26を中心に回転することができる。
【0036】
駆動軸41は、第2内歯車40と一体に形成されており、第2内歯車40と一体となって回転する。駆動軸41は、上述したボールねじ機構55のボールねじナット56と連結されている。
【0037】
クラッチ機構45は、固定クラッチ歯46と、第1クラッチ歯47と、第2クラッチ歯48とを備えている。固定クラッチ歯46、第1クラッチ歯47、及び第2クラッチ歯48は、それぞれ環状の部材であり、後述するような歯構造が形成されている。第1クラッチ歯47と第2クラッチ歯48は、互いの歯構造が向き合うように、上下に対向して配置されている。固定クラッチ歯46は、第1クラッチ歯47と第2クラッチ歯48との間に設けられている。
【0038】
図4及び図5に示すように、固定クラッチ歯46は、第1クラッチ歯47と第2クラッチ歯48との間で移動する。固定クラッチ歯46は、上下方向以外の移動が規制されている。固定クラッチ歯46には、複数の第1係合歯46aが周方向に沿って設けられるとともに、複数の第2係合歯46bとが周方向に沿って設けられている。第1係合歯46aのそれぞれは、第1クラッチ歯47側に向かって突出し、第2係合歯46bのそれぞれは、第2クラッチ歯48側に向かって突出している。
【0039】
第1クラッチ歯47は、減速機31に含まれる第1内歯車38と連結され、この第1内歯車38と一体に回転する(図3参照)。第1クラッチ歯47には、複数の第3係合歯47aが周方向に沿って設けられている。第3係合歯47aのそれぞれは、固定クラッチ歯46側に向かって突出している。
【0040】
第2クラッチ歯48は、減速機31に含まれる遊星キャリア34と連結され、この遊星キャリア34と一体に回転する(図3参照)。第2クラッチ歯48には、複数の第4係合歯48aが周方向に沿って設けられている。個々の第4係合歯48aは、固定クラッチ歯46側に向かって突出している。
【0041】
図3に示すように、クラッチ機構45は、図示しない押圧部材と、ソレノイド49とを備えている。押圧部材は、例えば圧縮コイルばねであり、固定クラッチ歯46を第1クラッチ歯47側へと押圧する。すなわち、固定クラッチ歯46は、押圧部材の押圧力を受けるので、通常、第1クラッチ歯47側へ移動している。一方、ソレノイド49は、電磁力で吸着することにより、固定クラッチ歯46を第2クラッチ歯48側へと移動させる。すなわち、ソレノイド49を動作させて電磁力で吸着すると、固定クラッチ歯46は、押圧部材の押圧力に抗して、第2クラッチ歯48側へ移動する。
【0042】
固定クラッチ歯46は、切り替え可能な動作モードとして、少なくとも2つの動作モードを備えている。2つの動作モードは、高トルクモード、高速モードを含んでいる。
【0043】
図4に示すように、高速モードは、固定クラッチ歯46が第2クラッチ歯48のみと歯合するモードである。固定クラッチ歯46が第2クラッチ歯48と歯合することで、第2クラッチ歯48が固定されるので、遊星キャリア34の回転が規制される。この場合、減速機31は、第2減速比よりも小さい減速比(第1減速比)で動作する。
【0044】
図5に示すように、高トルクモードは、固定クラッチ歯46が第1クラッチ歯47のみと歯合するモードである。固定クラッチ歯46が第1クラッチ歯47と歯合することで、第1クラッチ歯47が固定されるので、第1内歯車38の回転が規制される。この場合、減速機31は、大きい減速比(第2減速比)で動作する。
【0045】
以上の説明の通り、プレスブレーキ1が構成されている。上述した実施形態では、ブレーキ機構70としてダイナミックブレーキによる例を示した。しかしながら、ブレーキ機構70は、これに限定されず、上部テーブル7を下方向に移動させる力に対して抵抗する力を、駆動ユニット24に対して付与するものであればよい。
【0046】
図6は、ブレーキ機構70の変形例を示す説明図である。変形例に係るブレーキ機構70は、エアシリンダ75と、図示しない電磁弁と主体に構成されている。エアシリンダ75は、空気圧作動式のアクチュエータであり、流体圧シリンダの一例である。このエアシリンダ75内には、上下方向に沿ってスライド自在なピストンが設けられている。ピストンにはロッド76が接続されている。ロッド76は、ピストンの移動に応じて進退する。エアシリンダ75は、左右のサイドプレート2の間に跨がる上部フレーム3に対して、固定部材77を介して固定されている。ロッド76の上端は、上部テーブル7に対して、固定部材78を介して固定されている。
【0047】
電磁弁は、制御装置100から供給されるブレーキ信号に応じてエアシリンダ75に対するエアの供給及び排出を制御する(給排制御)。制御装置100から供給されるブレーキ信号がオンである場合、電磁弁は第1給排制御を行う。この第1給排制御に従い、エアシリンダ75は、ロッド76を介して上部テーブル7を上方向へと持ち上げる力Fcを発生する。一方、ブレーキ信号がオフの場合、電磁弁は第2給排制御を行う。この第2給排制御の場合、エアシリンダ75は上記の力Fcを発生させることなく、ロッド76の自由な移動を許容する。
【0048】
このような構造のブレーキ機構70によれば、ブレーキ機構70がオンすることで、上部テーブル7に対して上向きの力Fcが作用する。したがって、この上向きの力Fcは、駆動ユニット24に対して、上部テーブル7を下方向に移動させる力に抵抗する力として作用する。
【0049】
以下、図7も参照し、ワークに曲げ加工を行うための上部テーブル7の昇降制御を説明する。図7は、上部テーブルの昇降制御における一連の過程を説明する図である。プレスブレーキ1を用いてワークの加工を行う場合、まず、下金型D上にワークが位置決めされる。このとき、上部テーブル7は、予め定められた上端位置P1に支持されている。
【0050】
制御装置100は、ソレノイド49を吸着動作させる。これにより、固定クラッチ歯46が第2クラッチ歯48側へと移動するので、固定クラッチ歯46は、第2クラッチ歯48のみと歯合する高速モードとなる(図4)。
【0051】
制御装置100は、駆動用モータ軸26を正回転させる。高速モードでは、遊星キャリア34は固定されているが、第1内歯車38は解放されている。遊星キャリア34が固定されているため、第1内歯車38と噛み合っている第1遊星歯車33aは、公転することなく、駆動用モータ軸26と一体で回転する太陽歯車32の回転に合わせて自転する。一方、第1遊星歯車33aの回転は、これと一体の第2遊星歯車33bも回転させるため、第2遊星歯車33bの回転によって第2内歯車40も回転する。これにより、第2内歯車40と結合された駆動軸41も同期して回転する。このとき、駆動用モータ軸26の回転は、不思議遊星歯車機構によって減速されることなく、単純な遊星歯車機構として駆動軸41へ出力される。すなわち、減速機31の減速比は、第1減速比となる。したがって、高速低トルクの状態で駆動軸41が回転し、上部テーブル7が高速で下降する。
【0052】
上部テーブル7が低速切替位置P2まで下降した場合、制御装置100は、駆動用モータ軸26の回転を停止させる。その後、制御装置100は、ソレノイド49の吸着動作を終了する。これにより、固定クラッチ歯46が第1クラッチ歯47側へと移動するので、固定クラッチ歯46は、第1クラッチ歯47のみと歯合する高トルクモードとなる(図5)。
【0053】
制御装置100は、駆動用モータ軸26を逆回転させる。高トルクモードでは、第1内歯車38が固定されているが、遊星キャリア34は解放されている。したがって、第1内歯車38と噛み合っている第1遊星歯車33aは、自転しつつ、駆動用モータ軸26と一体で回転する太陽歯車32の周りを公転する。第1遊星歯車33aの回転は、これと一体の第2遊星歯車33bも回転させるため、第2遊星歯車33bの回転が、第1内歯車38とは歯数が異なる第2内歯車40も回転させる。これにより、第2内歯車40と結合された駆動軸41も同期して回転する。このとき、駆動用モータ軸26の回転は、不思議遊星歯車機構によって大幅に減速され、駆動軸41へと出力される。すなわち、減速機31の減速比は、第1減速比よりも大きな第2減速比となる。したがって、低速高トルクの状態で駆動軸41が回転し、上部テーブル7が低速で下降する。
【0054】
上部テーブル7が所定の下端位置(ストローク位置)P3まで到達すると、制御装置100は、駆動用モータ軸26の逆回転を停止し、一定期間だけ停止した状態を保持する。ワークは上金型Pと下金型Dとの間で加圧され、所望の角度まで折り曲げられる。
【0055】
つぎに、制御装置100は、駆動用モータ軸26を正回転させる。このとき、駆動用モータ軸26の回転は、不思議遊星歯車機構によって大幅に減速され、駆動軸41へと出力される。これにより、上部テーブル7は、低速で上昇する。
【0056】
上部テーブル7が所定の高速切替位置P4まで上昇すると、制御装置100は、駆動用モータ軸26の回転を停止させる。その後、制御装置100は、ソレノイド49を吸着動作させる。これにより、固定クラッチ歯46が第2クラッチ歯48側へと移動するので、固定クラッチ歯46は、第2クラッチ歯48のみと歯合する高速モードとなる。
【0057】
制御装置100は、駆動用モータ軸26を逆回転させる。このとき、駆動用モータ軸26の回転は、不思議遊星歯車機構によって減速されることなく、単純な遊星歯車機構として駆動軸41へ出力される。これにより、上部テーブル7は、高速で上昇する。上部テーブル7が上端位置P1へ移動すると、制御装置100は、駆動用モータ軸26の回転を停止させ、ソレノイド49の吸着動作を終了する。
【0058】
以上説明した通り、プレスブレーキ1では、上部テーブル7の昇降制御における一連の過程を経て、ワークに対する曲げ加工が行われる。
【0059】
本実施形態に係るプレスブレーキ1の特徴の一つは、上部テーブル7の昇降制御における制御の過程に応じて、ブレーキ機構70のオンオフを切り替えることにある。具体的には、制御装置100は、加圧減速期間Ta、クラッチ切替期間Tb、テーブル維持期間Tc、急停止期間Te(図12参照)のそれぞれでブレーキ機構70をオンしている。以下、それぞれの期間について、ブレーキ機構70の作用を説明する。
【0060】
<加圧減速期間Ta>
図8から図10を参照し、加圧減速期間Taにおけるブレーキ機構70の作用について説明する。ここで、図8から図10は、高トルクモードで上部テーブル7が下降するときの速度、トルク及び圧力の推移を示す図である。このうち、図8は、ブレーキ機構70をオンしない場合の図であり、図9及び図10は、ブレーキ機構70をオンした場合の図である。「速度」は上部テーブル7の速度を示し、「トルク」は駆動用モータ25のトルクを示し、「圧力」は上部テーブル7に作用する圧力を示している(以下同じ)。
【0061】
加圧減速期間Taは、上金型Pと下金型Dとの間でワークを加圧しながら、上部テーブル7が下端位置P3(図7参照)に向かって減速する期間をいう。図8に示すように、上部テーブル7が低速切替位置P2から動きだし、一定速度で下降している場合、駆動用モータ25には、上部テーブル7を下側に押す方向のトルク(負側のトルク)が作用する。そして、下端位置P3に接近し、減速トルクが働くことで、上部テーブル7が減速する。このとき、図8の領域Aで示すように、減速トルクが正側に現れてしまうことがある。減速トルクが正側に現れてしまう現象は、(1)薄板に対する曲げ加工のように低負荷での曲げ加工、(2)左右の駆動軸41のうち一方の駆動軸41側が低負荷となるオフセット曲げ加工、などおいて顕著となる。
【0062】
減速トルクが正側に現れてしまう要因としては、駆動ユニット24を構成する歯車要素の摩擦力のみでは重量物である上部テーブル7の自重を支えきれなくなり、上部テーブル7の自重を受け止めようとする力が駆動用モータ25に発生するからである。このとき、互いに係合した歯同士の間にある隙分だけ歯車要素が回転してしまい、上部テーブル7が下方向へと移動してしまう。このため、制御装置100が下端位置P3に合わせて駆動ユニット24を停止させてとしても、上部テーブル7が下端位置P3からずれてしまうという問題が発生する。この問題は、駆動ユニット24に含まれる様々な歯車要素において想定されるが、以下、クラッチ機構45の歯構造を例に説明する。
【0063】
上部テーブル7が切替位置P2から下端位置P3まで移動する場合、クラッチ機構45は高トルクモードで動作している。上部テーブル7を下側に押す方向のトルク(負側のトルク)が駆動用モータ25に作用している場合、図5に示すように、固定クラッチ歯46と歯合する第1クラッチ歯47は、図中右側に向かう方向へと固定クラッチ歯46を押している。一方、駆動用モータ25のトルクが正側に現れる場合、第1クラッチ歯47に作用する力が反転し、これにより、第1クラッチ歯47が間隙Gpの分だけ移動してしまう。この第1クラッチ歯47の移動により、上部テーブル7に位置ずれが起きてしまうのである。
【0064】
そこで、加圧減速期間Taにおいてブレーキ機構70をオンすることで、図9に示すように、減速時には、上部テーブル7を下方向に移動させる力に対して抵抗する力が駆動ユニット24に対して付与される。駆動用モータ25の減速トルクは、上部テーブル7を下側に押す方向の成分となる。図5に示すように、第1クラッチ歯47には、図中右側に向かう力が常に作用するために、第1クラッチ歯47の移動を抑制することができる。これにより、上部テーブル7の位置ずれを抑制し、下端位置P3に対して上部テーブル7を精度よく位置決めすることができるのである。
【0065】
なお、上述したように、減速時にトルクが正側に現れてしまうケースは、一定の加工条件に限られる。そこで、制御装置100は、一定の実行条件を満たす場合にのみ、加圧減速期間Taにおいてブレーキ機構70をオンしてもよい。したがって、制御装置100は、実行条件を満たさない場合、すなわち、禁止条件を満たす場合には、加圧減速期間Taにおいてもブレーキ機構70をオフのまま継続してもよい。
【0066】
制御装置100は、加工条件に基づいて、実行条件を満たすか否かの判断をおこなってもよい。また、図9に示すように、予め判断基準となる圧力閾値Thを定めておく。制御装置100は、上部テーブル7に作用する圧力が圧力閾値Thに到達しない場合には実行条件を満たすと判断する一方、上部テーブル7に作用する圧力が圧力閾値Thを超えた場合には禁止条件を満たすと判断してもよい。
【0067】
また、ブレーキ機構70をオンする期間は、少なくとも加圧減速期間Taを含めばよい。よって、図10に示すように、上部テーブル7を減速させるタイミングよりも一定時間だけ前からブレーキ機構70をオンしてもよい。或いは、上部テーブル7が停止した後一定時間だけ継続してブレーキ機構70をオンしてもよい。
【0068】
<クラッチ切替期間Tb>
クラッチ切替期間Tbにおけるブレーキ機構70の作用について説明する。クラッチ切替期間Tbは、固定クラッチ歯46を上下させてクラッチ機構45の切り替えを行う期間である。図7に示すように、制御装置100は、上部テーブル7を上端位置P1から下端位置P3へと下降させる途中で(具体的には低速切替位置P2)、高速モードから高トルクモードへとクラッチ機構45の切り替えを行っている。同様に、制御装置100は、上部テーブル7を下端位置P3から上端位置P1へと上昇させる途中で(具体的には高速切替位置P4)、高トルクモードから高速モードへとクラッチ機構45の切り替えを行っている。
【0069】
図11は、高速モードから高トルクモードへのモード切替時のクラッチ機構45の状態を示す図である。図11の「状態A1」は、モード切替前のクラッチ機構45の状態を示している。固定クラッチ歯46を高トルクモードへと遷移させるとき、第1クラッチ歯47と固定クラッチ歯46との位置関係によっては、第1クラッチ歯47における第3係合歯47aの歯先と、固定クラッチ歯46における第1係合歯46aの歯先とが干渉してしまう場合がある。固定クラッチ歯46を高トルクモードへと遷移させることができない状況が発生する。
【0070】
そこで、制御装置100は、高速モードから高トルクモードへの切り換えに先立ち、駆動用モータ軸26を回転させて、第1クラッチ歯47を方向R1へと所定の回転角度だけ回転させる制御を行う。これにより、第1クラッチ歯47と固定クラッチ歯46との位相がずれるため、第1クラッチ歯47における第3係合歯47a同士の歯間に対して、固定クラッチ歯46における第1係合歯46aの歯先とが対応する(状態B1)。その結果、固定クラッチ歯46を高トルクモードへと遷移させることができる。
【0071】
しかしながら、第1クラッチ歯47を高トルクモードへと移動中、駆動ユニット24を構成する部品の摩擦力のみでは重量物である上部テーブル7の自重を支えきれなくなり、第1クラッチ歯47が回転してしまう。この場合、第1クラッチ歯47における第3係合歯47aの歯先と、固定クラッチ歯46における第1係合歯46aの歯先とが干渉してしまう場合がある(状態C11)。クラッチ機構45によるモード切替の成功率が低下してしまう。
【0072】
しかしながら、図9に示すように、クラッチ切替期間Tbにおいてブレーキ機構70をオンする。これにより、上部テーブル7を下方向に移動させる力に対して抵抗する力が、駆動ユニット24に対して付与される。ブレーキ機構70が上部テーブル7の自重を負担することになるので、第1クラッチ歯47の回転を抑制することができる(状態C12)。したがって、クラッチ機構45によるモード切替の成功率を高めることができる。
【0073】
なお、図11では、高速モードから高トルクモードへのモード切替時のクラッチ機構45の状態を示したが、高トルクモードから高速モードへのモード切替時であっても同様である。また、ブレーキ機構70をオンする期間は、少なくともクラッチ切替期間Tbを含めばよい。よって、クラッチ切替期間Tbよりも一定時間だけ先行して、或いは、クラッチ切替期間Tbから一定時間だけ継続してブレーキ機構70をオンしてもよい。
【0074】
<急停止期間Te>
図12は、上部テーブル7の急停止を説明する図である。上部テーブル7の昇降制御において、制御装置100は、アラーム発生などの所定の条件をトリガーとして上部テーブル7を急停止させる。このとき、制御装置100は、上部テーブル7を急停止させる急停止期間Teで、ブレーキ機構70をオンしてもよい。
【0075】
図13及び図14は、上部テーブル7を急停止させたときの速度及びトルクの推移を示す図である。このうち、図13は、ブレーキ機構70をオンしないときの図であり、図14は、ブレーキ機構70をオンしたときの図である。
【0076】
ブレーキ機構70を使用しない場合、図13に示すように、制御装置100は、駆動用モータ25の回転を制御することで上部テーブル7を急減速させることができる。しかしながら、ブレーキ機構70をオンした場合には、ブレーキ機構70が発生する力によって、上部テーブル7の自重を支えることができる。したがって、駆動用モータ25が発生する制動力に、ブレーキ機構70の力がアシストされる。これにより、上部テーブル7に対して大きな制動力が与えられるので、上部テーブル7を速やかに停止させることができる。
【0077】
なお、ブレーキ機構70をオンする期間は、少なくとも急停止期間Teを含めばよい。よって、急停止期間Teから一定時間だけ継続してブレーキ機構70をオンしてもよい。
【0078】
<テーブル維持期間Tc>
図15及び図16を参照し、テーブル維持期間Tcにおけるブレーキ機構70の作用について説明する。ここで、図15及び図16は、上部テーブル7が上端位置P1から下降するときの速度及びトルクの推移を示す図である。このうち、図15は、ブレーキ機構70をオンしない場合の図であり、図16は、ブレーキ機構70をオンした場合の図である。
【0079】
テーブル維持期間Tcは、上部テーブル7を上端位置P1(図7参照)のまま維持する期間である。ブレーキ機構70を使用しない場合、図15に示すように、上部テーブル7を上端位置P1(図7参照)に維持するために、駆動用モータ25を動作させて上部テーブル7を停止させておくための静止トルクを発生させる必要がある。しかしながら、テーブル維持期間Tcで、ブレーキ機構70をオンし、ブレーキ機構70が力を発生することで、上部テーブル7の自重を支えることができる。これにより、図16に示すように、大出力の駆動用モータ25を動作させる必要がないので、省電力化を期待することができる。
【0080】
(プレスブレーキ1の変形例)
図17は、上部テーブル7の昇降制御における一連の過程を説明する図である。プレスブレーキ1には様々な機種が存在するが、その中には、ワークの曲げ角度を自動的に計測するセンサユニットを搭載するものがある。このようなセンサユニットを搭載するプレスブレーキでは、ワークの加圧を開始した後、下端位置P3に到達する前に上部テーブル7を上方向に反転させてワークに対する加圧を解除する(除荷)。そして、ワークにスプリングバックが生じた状態で、センサユニットによりワークの曲げ角度が計測される。計測されたワークの曲げ角度は制御装置100によって処理されて、必要に応じて下端位置P3が補正される。その後、補正された下端位置P3に従ってワークの加圧が行われる。
【0081】
このような除荷の過程を備える場合、制御装置100は、上部テーブル7を反転させる期間である反転期間Tfで、ブレーキ機構70をオンしてもよい。
【0082】
図18は、上部テーブル7を反転させるときのクラッチ機構45の状態を示す図である。状態A2で示すように、上部テーブル7を下降させているとき、駆動用モータ25の回転に伴い、第1クラッチ歯47には、方向R2に向かう力が作用している。
【0083】
一方、除圧を行うためには上部テーブル7を上方向に移動させる必要があるため、制御装置100は、駆動用モータ軸26の回転を停止した後に、回転方向を逆転させる。このとき、第1クラッチ歯47には、駆動用モータ25から方向R1に向かう力が作用し、第1クラッチ歯47と固定クラッチ歯46との間隙が詰まることとなる(状態B21)。第1クラッチ歯47と固定クラッチ歯46との間隙が詰まると、上部テーブル7の移動が開始する。
【0084】
一方、上部テーブル7の反転時にブレーキ機構70がオンしている場合には、上部テーブル7を下方向に移動させる力に対して抵抗する力が、駆動ユニット24に対して付与される。このため、ブレーキ機構70が発生した力によって、第1クラッチ歯47が移動し、第1クラッチ歯47と固定クラッチ歯46との間隙が詰まることとなる。すなわち、駆動用モータ25からの力を受けることなく、第1クラッチ歯47と固定クラッチ歯46との間隙を詰めることができる(状態B22)。これにより、上部テーブル7の反転動作時の応答性の向上を図ることができる。
【0085】
なお、可動テーブルの反転時に合わせて前記ブレーキ機構をオンする場合には、図7に示すような流体圧シリンダを用いたブレーキ機構70を用いることで、上記の作用を適切に得ることができる。また、上部テーブル7の反転期間Tfよりも一定期間だけ先行して、ブレーキ機構70のオンを開始してもよい。
【0086】
以上、本実施形態によれば、上部テーブル7の自重による作用を十分に考慮して、上部テーブル7の制御を行うことができる。これより、上述した通り、各過程において特有の効果を得ることができる。また、上述したような、プレスブレーキ1(曲げ加工機)のテーブル制御方法も本実施形態の一部として機能する。
【0087】
上記のように、本実施形態を記載したが、この実施形態の一部をなす論述及び図面はこの実施形態を限定するものであると理解すべきではない。この実施形態から当業者には様々な代替の実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【符号の説明】
【0088】
1 プレスブレーキ
2 サイドプレート
5 下部テーブル(固定テーブル)
7 上部テーブル(可動テーブル)
20 テーブル駆動装置
24 駆動ユニット
25 駆動用モータ
26 駆動用モータ軸
30 減速機ユニット
31 減速機
41 駆動軸
45 クラッチ機構
46 固定クラッチ歯
47 第1クラッチ歯
48 第2クラッチ歯
55 ボールねじ機構(変換ユニット)
56 ボールねじナット
57 ボールねじ軸
70ブレーキ機構
71 ブレーキ用モータ
72 ブレーキ用モータ軸
73 タイミングベルト
75 エアシリンダ
76 ロッド
100 制御装置
【要約】
【課題】可動テーブルの自重による作用を考慮して可動テーブルの昇降制御を行う。
【解決手段】プレスブレーキ1は、下部テーブル5に対して上下方向に対向して配置される上部テーブル7と、駆動用モータ25からの動力が複数の歯車要素を介して伝達される駆動軸41を含む駆動ユニット24と、駆動軸41の回転運動を上下方向に沿った直線運動に変換するボールねじ機構55と、上部テーブル7を下方向に移動させる力に対して抵抗する力を付与するブレーキ機構70と、ワークに曲げ加工を行うための上部テーブル7の昇降制御を行う制御装置100と、を有する。制御装置100は、上部テーブル7の昇降制御における制御の過程に応じてブレーキ機構70のオンオフを切り替える。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18