(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】転がり軸受の異常診断方法
(51)【国際特許分類】
F16C 41/00 20060101AFI20241108BHJP
F16C 19/26 20060101ALI20241108BHJP
F16C 19/52 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
F16C41/00
F16C19/26
F16C19/52
(21)【出願番号】P 2023172969
(22)【出願日】2023-10-04
(62)【分割の表示】P 2023526566の分割
【原出願日】2022-03-01
【審査請求日】2023-10-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】木下 淳
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-111113(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 41/00
F16C 19/26
F16C 19/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と、前記外輪の内側に設けられた内輪と、前記外輪と前記内輪の間に転動自在に設けられた複数の転動体と、前記転動体が隣接する転動体との間隔を保ちつつ前記複数の転動体を保持する保持器を備える転がり軸受の異常を検知する転がり軸受の異常診断方法において、
前記外輪の内周面または前記内輪の外周面に沿って前記転がり軸受の回転軸方向の一方の第一側および他方の第二側に電気的絶縁されて設けられる検知部材の前記第一側の検知部材および前記第二側の検知部材の間の電気的特性
と前記電気的特性を計測した時刻とを含む計測情報を計測す
る計測工程と、
前記計測工程で計測した
前記計測情報に基づいて前記保持器が摩耗した際の前記検知部材と前記保持器との接触を検知して、前記計測情報から前記転がり軸受の状況を判断する診断工程とを備えた転がり軸受の異常診断方法。
【請求項2】
前記診断工程は、
前記計測工程にて計測した前記計測情報に基づき前記検知部材と前記保持器とが接触する時間の割合である接触割合を求め、前記
接触割合から前記保持器の摩耗の程度を判断する請求項1に記載の転がり軸受の異常診断方法。
【請求項3】
前記
接触割合は、前記外輪と前記内輪との相対回転が1回転する時間に対して、前記電気的特性の値が所定の閾値以上または未満の時間の割合である請求項
2に記載の転がり軸受の異常診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、転がり軸受の異常診断方法及び列車異常監視システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
回転機械で使用される転がり軸受は、長期連続使用によって保持器と転動体とが接触する接触部分に損傷が発生することがある。この損傷が発生した場合、保持器の振れ回りが起こり、さらに損傷が進行すれば軸受の大規模な故障へと繋がるおそれがある。大規模な故障を事前に発見するに、回転機械は一定期間使用した後に、軸受やその他の回転部品について、異常の有無が定期的に検査される。回転部品の異常の有無の検査は相当な時間、工数、コストがかかる問題があった。
【0003】
このため、従来、保持器外周面に径方向に向かって軸受構成部品と異なる材料を使用した複数の凸部を設けることによって、凸部と外輪の接触に起因する振動の検出と潤滑油中の凸部の材料の有無を検出し異常を診断することが行われていた(特許文献1)。
【0004】
また、保持器外周面と外輪の内周面との間の距離の変化量を検出する非接触式レーザー変位計を用いて、上記距離が予め設定した閾値を越えたとき、保持器が異常であると判断することが開示される(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-066311号公報
【文献】特開2014-066622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来は、振動の解析と摩耗粉の分析作業とを行うため時間を要する、非接触式変位計を用いても介在する油や環境により正確な判断ができないという問題があった。
【0007】
本開示は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、実稼働状態で迅速性、簡易性、正確性、形状制約、強度面を改善した転がり軸受の異常診断方法を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る転がり軸受の異常診断方法は、外輪と、外輪の内側に設けられた内輪と、外輪と内輪の間に転動自在に設けられた複数の転動体と、転動体が隣接する転動体との間隔を保ちつつ複数の転動体を保持する保持器を備える転がり軸受の異常を検知する。転がり軸受の異常診断方法は、外輪の内周面または内輪の外周面に沿って転がり軸受の回転軸方向の一方の第一側および他方の第二側に電気的絶縁されて設けられる検知部材の第一側の検知部材および第二側の検知部材の間の電気的特性と電気的特性を計測した時刻とを含む計測情報を計測する計測工程と、計測工程で計測した計測情報に基づいて保持器が摩耗した際の検知部材と保持器との接触を検知して、計測情報から転がり軸受の状況を判断する診断工程とを備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、保持器摩耗が進行し保持器が検知部材と接触し導通することで得られる電気的特性またはこれから求まる接触情報によって、保持器摩耗検知が可能になる。そのため、解析、分析作業を無くなり省時間化ができること、センサー類を設置するための軸受への精密な加工がないため簡素化することができる事、形状制約がなくなる事、強度低下を防ぐことができる事、また、グリースや油の影響受けないため、異常診断の正確性が上がる事、といった従来にない顕著な効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の実施の形態1の転がり軸受を示す回転軸に垂直な断面での断面図である。
【
図2】本開示の実施の形態1の転がり軸受の回転軸に平行な断面での部分断面図並びにこの図を用いた転がり軸受の異常検知装置および異常診断装置の構成図である。
【
図3】本開示の実施の形態1の転がり軸受の保持器の上面図の拡大図である。
【
図4】本開示の実施の形態1の転がり軸受の回転軸に平行な断面での検知部材の部分断面図である。
【
図5】本開示の実施の形態1の転がり軸受の異常検知装置の構成図である。
【
図6】本開示の実施の形態1の転がり軸受の異常診断装置の構成図である。
【
図7】本開示の実施の形態1の転がり軸受および異常検知装置を示す回転軸に垂直な断面での断面図である。
【
図8】本開示の実施の形態1の転がり軸受および別の異常検知装置を示す回転軸に垂直な断面での断面図である。
【
図9】本開示の実施の形態1の転がり軸受および別の異常検知装置を示す回転軸に垂直な断面での断面図である。
【
図10】本開示の実施の形態2の転がり軸受および異常検知装置を示す回転軸に垂直な断面での断面図である。
【
図11】本開示の実施の形態2の転がり軸受および別の異常検知装置を示す回転軸に垂直な断面図である。
【
図12】本開示の実施の形態3の列車異常監視システムの構成の例を示す図である。
【
図13】本開示の実施の形態3の別の列車異常監視システムの構成の例を示す図である。
【
図14】本開示の実施の形態3の別の列車異常監視システムの構成の例を示す図である。
【
図15】本開示の実施の形態3の別の列車異常監視システムの構成の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。ただし、本発明が以下に記載の形態に限定されるものではなく、適宜、組合せ、変更することができる。また、図面は、説明を分かりやすくするため、適宜、簡略化されている。
【0012】
実施の形態1.
本実施の形態に係る転がり軸受の異常検知装置、異常診断装置について、
図1から6を用いて説明する。
【0013】
本実施の形態の転がり軸受1の異常検知装置100は、外輪4と、外輪4(固定輪と捉えることもできる)の内側に設けられた内輪7(回転輪と捉えることもできる)と、外輪4と内輪7との間に転動自在に設けられた複数の転動体8と、転動体8が隣接する転動体との間隔を保ちつつ複数の転動体8を保持する保持器9を備える転がり軸受1の異常を検知するものである。ここで、外輪4と内輪7とは、同一の回転軸回りに相対的に回転し、複数の転動体8は、外輪4の内周面2側の外輪軌道面3と、内輪7の外周面5側の内輪軌道面6との間を転がり自転しながら、上記同一の回転軸回りに公転する。
【0014】
転動体8と接触する外輪4の内周面2が、外輪軌道面3であり、転動体8と接触する内輪7の外周面5が、内輪軌道面6である。以下、上記同一の回転軸を回転軸と呼び、回転軸の軸方向を軸方向、回転軸の中心軸から半径方向を径方向、回転軸回りに回転させたときの回転方向を周方向と呼ぶ。
【0015】
転がり軸受の異常検知装置100は、外輪4の内周面2または内輪7の外周面5に沿って転がり軸受1の回転軸方向の一方の第一側および他方の第二側に電気的絶縁されて設けられる検知部材15と、第一側の検知部材および第二側の前記検知部材の間の電気的特性を計測した計測情報を出力する計測部16とを備える。ここで、第一側および第二側の検知部材は、保持器9が摩耗した際に保持器9と接触するように構成しても良い。なお、検知部材15は、外輪4または内輪7に嵌合するということもできる。
【0016】
図5には、転がり軸受の異常検知装置100の構成図を示す。転がり軸受の異常検知装置100は、検知部材15と、計測部16を備える。転がり軸受の異常検知装置100の第一側および第二側の検知部材は、保持器9が摩耗した際に保持器9と接触する。電気的に絶縁されている検知部材15の第一側および第二側が、保持器と接触すると、電気的に導通するから、第一側の検知部材および第二側の前記検知部材の間の電気的特性を計測する計測部16は、計測した計測情報を出力する。計測部16が出力する計測情報は、検知部材15と保持器とが接触する前と、接触した後とで、変化するから、計測部16が出力する計測情報を受け取る側で、変化を読み取り、保持器9の摩耗を検知する。
【0017】
図6には、転がり軸受の異常診断装置200の構成図を示す。転がり軸受の異常診断装置200は、上記の転がり軸受の異常検知装置100と、診断部19とを備える。転がり軸受の異常診断装置200は、転がり軸受の異常検知装置100の計測部16が出力する計測情報を受け取り、受け取った計測情報から転がり軸受1の状況を判断する診断部19を備える。
【0018】
図1において、転がり軸受の異常検知装置100、および転がり軸受の異常診断装置200の適用対象の例となる外側と内側が相対的に回転する回転部品について説明する。この例では、回転部品となる転がり軸受1は、円筒ころ軸受1である。
図1は、転がり軸受1を回転軸に垂直な断面での断面図を示す。なお、断面は、保持器9の軸方向外側の円環部10の中心をとおる面で断面図を作成している。以下、同様。
【0019】
円筒ころ軸受1は、外輪4と、内輪7と、転動体8となる円筒ころ8と、複数の円筒ころ8を転動自在に保持する保持器9を備える。円筒ころ軸受1の外輪4の内周面2に外輪軌道面3が形成される、内輪7の外周面5に内輪軌道面6が形成される。外輪軌道面3と内輪軌道面6との間に、複数の円筒ころ8が、転動自在に配置される。外輪軌道面3と内輪軌道面6との間は、グリースなどの潤滑油によって内部潤滑される。
【0020】
上記構造によって、円筒ころ軸受1は、外輪4が一方の部品と接続し、内輪7が他方の部品と接続して、外輪4と内輪7が、回転軸回りに相対的に回転可能な軸受となる。
図1、2、4では、外輪4側が固定されて、内輪7側が回転する。または、逆に、内輪7側が固定され、外輪4側が回転しても良い。これに限らず、相対的に回転することもできる。内輪7側が固定され固定輪となる例を
図7に示す。
図7の例は、外輪4が回転輪、内輪7が固定輪となる。
【0021】
保持器9は、回転軸回りに円環状の一対の円環部10と、周方向に所定の間隔で設けられ、一対の円環部10を軸方向に連結する複数(
図1の例では16個)の柱部11とを有する。保持器9は、一対の円環部10と複数の柱部11とによって画成される複数のポケット部12(
図1では16個)が、円筒ころ8をそれぞれ保持する。
【0022】
図3は、保持器9を外周側から内周側に見た拡大図を示す。上下の円環部10と隣接する2つの柱部11の間がポケット部12であり、この空間に転動体8(円筒ころ8)が、収まる。転動体8(円筒ころ8)は、回転軸の径方向は、外輪軌道面3と内輪軌道面6とに対して径方向の動きが規定され周方向に転がる。また、各転動体8(円筒ころ8)は、周方向に隣接する転動体8(円筒ころ8)と接触しないように、保持器9によって保持される。
【0023】
保持器9は、転動体8と周方向の同じ向きに回転し、径方向の外輪軌道面3と内輪軌道面6との間、および周方向の転動体8(円筒ころ8)との間は、常に接触するのではなく、余裕がある。保持器9は、転がり軸受1が回転することによって、摩耗することが知られている。摩耗が発生すると、初期より保持器9が径方向または周方向に大きく動くになり、転動体8と衝突して損傷することもある。
【0024】
図1、2において、検知部材15は、軸方向に絶縁された2つの導体であり、いずれも外輪4の内周面2に設けられる。検知部材15は、2導体を絶縁材料で接続して一体としても良いし、2導体が別体となっても良い。
【0025】
例えば、検知部材15は、軸方向の一方側と他方側とに分けて構成することができる。この場合、軸方向の一方側と他方側それぞれの側で、外輪4の内周面2に沿う形状として、外輪4の内周面2に軸方向外側から中心側へ嵌合させて、組み立てることができる。また、検知部材15を箔またはシート状に構成して、外輪4の内周面2に貼り付けるようにしても良い。
【0026】
図7の例は、外輪4が回転輪、内輪7が固定輪となる。この例では、検知部材15は、軸方向に絶縁された2つの導体であり、いずれも内輪7の外周にあたる内輪軌道面6に設けられる。上記と同様に検知部材15は、2つの導体を絶縁材料で接続して一体としても良いし、2導体が別体で、それぞれが外輪4または内輪7に接しても良い。
【0027】
図7の例でも、検知部材15は、軸方向の一方側と他方側とに分けて構成することができる。この場合、軸方向の一方側と他方側それぞれの側で、内輪7の外周面5に沿う形状として、内輪7の外周面5に軸方向外側から中心側へ嵌合させて、組み立てることができる。また、検知部材15を箔またはシート状に構成して、内輪7の外周面5に貼り付けるようにしても良い。
【0028】
検知部材15は、設ける外輪4または内輪7が導体である場合には、検知部材15を外輪4または内輪7と電気的に絶縁する。これには、検知部材15の外輪4または内輪7との接続面に絶縁シートを貼り付けるようにして絶縁しても良いし、検知部材15の外輪4または内輪7との接合面または、外輪4または内輪7の検知部材15の接合面に絶縁材を塗布しても良い。
【0029】
検知部材15は、外輪4に設ける場合には、外輪4の内周面2に沿うように嵌合する検知部材嵌合部14の他、外輪4の軸方向外側の側面に沿う検知部材側面部13を設けても良い。また、検知部材15を内輪7に設ける場合には、内輪7の外周面5に沿うように嵌合する検知部材嵌合部14の他、内輪7の軸方向外側の側面に沿う検知部材側面部13を設けても良い。検知部材嵌合部14だけでなく、検知部材側面部13を検知部材15に持たせることで、取り付けしやすく、検知部材15の強度を高めることもできる。
【0030】
検知部材15の軸方向に絶縁された2つの導体は、外輪4または内輪7の周方向の全周に亘って設けられても良いし、周方向の一部に設けられても良い。ただし、検知部材15が存在する周方向の位置では、軸方向の一方側と他方側の両側に検知部材15の導体があることが好ましい。これは、保持器9が摩耗したときに、検知部材15の2つの導体が、同時に保持器9に接触するようにするためである。軸方向に2つの導体が存在すれば、同時に保持器9に接触して、導通が生じることになる。
【0031】
図8は、検知部材15が、外輪4の内周面2に沿って全周に設けられる例である。外輪4を固定輪とし、内輪7を回転輪とした場合、
図8に示すように、固定輪である外輪4には、検知部材側面部13と検知部材嵌合部14とで構成される検知部材15が内周面2に沿って嵌合されている。ここで、検知部材15は、軸方向の一方側と他方側に絶縁された環状の部品となる。検知部材15は、軸方向の一方側と他方側に分かれて別体として構成され、検知部材15の一方側と他方側が、外輪4の内周面2の側面両側(軸方向外側)から軸方向(軸方向の軸受中心向き)に向かって嵌合するようにしても良い。
【0032】
図9は、検知部材15が、内輪7の外周面5に沿って全周に設けられる例である。外輪4を回転輪とし、内輪7を固定輪と場合、
図9に示すように、固定輪である内輪7には、検知部材側面部13と検知部材嵌合部14とで構成される検知部材15が外周面5に沿って嵌合されている。ここで、検知部材15は、軸方向の一方側と他方側に絶縁された環状の部品となる。検知部材15は、軸方向の一方側と他方側に分かれて別体として構成され、検知部材15の一方側と他方側が、内輪7の外周面5の側面両側(軸方向外側)から軸方向(軸方向の軸受中心向き)に向かって嵌合するようにしても良い。
【0033】
図8、
図9のように検知部材15を外輪4または内輪7の全周に亘って設けることによって、回転方向によらず、保持器9が摩耗したときに、検知部材15の2つの導体が、同時に保持器9に接触することになり、確実に摩耗を検知することができる。
【0034】
検知部材15は、転がり軸受1の回転中心を中心として前記転動体に最も力がかる位置から転動体8が回転する向きに180度回転させた方向までの範囲に少なくとも一部が配置される。または、検知部材15は、転がり軸受1の回転中心を中心として転動体8に最も力がかる位置の方向を0度とすると、180度以上360度未満の範囲に配置される。検知部材15が、外輪4の周方向の一部に設けられる場合、少なくとも、回転軸回りで転動体8に最大荷重がかかる基準の周方向位置から、外輪4を固定輪とした場合の内輪7の(絶対座標系における転動体8の)回転方向に回転角度を見たときに、内輪7の回転が反時計回りの場合、135°を中心にプラスマイナス90°以上の範囲に設けられると良い。または、内輪7の回転が時計回りの場合、225°を中心にプラスマイナス90°以上の範囲に設けられると良い。いずれの場合も、検知部材15が、周方向180°以上に設けられることになる。言い換えれば、基準の周方向位置から、回転方向に回転角度を見たときに、内輪7の回転が反時計回りの場合、135°を中心に少なくともプラスマイナス90°の範囲に設けられると良い。または、内輪7の回転が時計回りの場合、225°を中心に少なくともプラスマイナス90°の範囲に設けられると良い。さらに具体的には、検知部材15が設けられる範囲は、上記の中心からプラスマイナス90°の範囲より大きくプラスマイナス135°の範囲より小さい、より好ましくは、上記の中心からプラスマイナス90°の範囲より大きくプラスマイナス100°の範囲より小さくしても良い。
【0035】
ここで、基準位置、基準の周方向位置は、回転軸回りで転動体8に最大荷重がかかる基準の周方向位置である。加減速により基準の周方向位置は厳密には変わるが、回転軸の中心から静止状態での鉛直下向き周方向位置と考えてもよい。
【0036】
また、検知部材15が、内輪7の周方向の一部に設けられる場合、少なくとも、回転軸回りで転動体8に最大荷重がかかる基準の周方向位置から、内輪7を固定輪とした場合の外輪4の(絶対座標系における転動体8の)回転方向に回転角度を見たときに、外輪4の回転が反時計回りの場合、315°を中心にプラスマイナス90°以上の範囲に設けられると良い。または、外輪4の回転が時計回りの場合、45°を中心にプラスマイナス90°以上の範囲に設けられると良い。いずれの場合も、検知部材15が、周方向180°以上に設けられることになる。言い換えれば、基準の周方向位置から、回転方向に回転角度を見たときに、内輪7の回転が反時計回りの場合、315°を中心に少なくともプラスマイナス90°の範囲に設けられると良い。または、外輪4の回転が時計回りの場合、45°を中心に少なくともプラスマイナス90°の範囲に設けられると良い。さらに具体的には、検知部材15が設けられる範囲は、上記の中心からプラスマイナス90°の範囲より大きくプラスマイナス135°の範囲より小さい、より好ましくは、上記の中心からプラスマイナス90°の範囲より大きくプラスマイナス100°の範囲より小さくしても良い。検知部材15が、外輪4、内輪7のいずれに設けられる場合でも、回転方向が両方向に可能性がある場合には、検知部材15が、周方向の全周に設けることができる。
【0037】
検知部材15の2つの導体には、それぞれ導体と計測部16とを接続する電線17が設けられる。2つの導体の間の電気的特性は、保持器9が摩耗して回転時に径方向への移動量が大きくなったときに、保持器9が2つの導体に接触すると導通して変化する。計測部16は、2本の電線17から電気的特性の変化を計測して、この変化を含む情報を出力し、異常検知装置100の外部に伝える。
【0038】
計測部16に接続され、計測部16で計測した情報を伝達する伝送部18は、異常の有無の診断を行う診断部19に情報を伝達する。転がり軸受の異常を診断する転がり軸受の異常診断装置200は、異常検知装置100と、電気的特性の情報を伝える伝送部18と、電気的特性の情報から転がり軸受の異常を診断する診断部19とを含む。
【0039】
(転動体から保持器が受ける力による振れ周り)
次に、転がり軸受(円筒ころ軸受)1が、回転中に保持器9に作用する力について説明する。まず、転動体(円筒ころ)8は、内輪7または外輪4から荷重を受けるが、荷重を主として受ける。この荷重を受ける転動体(円筒ころ)8は、複数ある転動体(円筒ころ)8のうち、主として回転中心軸に対して荷重方向の向きの一定範囲である荷重負荷圏にある転動体(円筒ころ)である。内輪7と外輪4との相対回転に伴い、転動体(円筒ころ)8は、回転軸周りに回転して移動する。1つの転動体(円筒ころ)8に注目すると、転動体8は、荷重負荷圏外から荷重負荷圏に入り、荷重負荷圏を通過して、荷重負荷圏を脱出する。
【0040】
転動体8は、荷重負荷圏を通過して、脱出する際、荷重を受けていたことによりすべりが抑制されること及び圧縮から除荷へ変化する事で生じる開放方向へ向かう力によって、加速する。転動体8が、加速することによって、保持器9は、転動体8の負荷圏脱出位置における保持器9の径方向の幅の中心をとおる円周の接線方向に力を受ける。転動体8ととも回転する保持器9には、負荷圏脱出位置において、断続的に上記円周の接線方向の力を受ける。
【0041】
保持器9が受ける上記接線方向の力によって、保持器9は、回転軸回りの公転ではなく、回転軸から径方向に離れた位置で偏心公転(振れ回り)する。例えば、転動体8及び保持器9の回転方向が反時計周りの場合、回転軸回りで転動体8に最大荷重がかかる基準の周方向位置から、回転方向に回転角度を見たときに、135°の位置で回転軸から径方向に離れた位置で偏心公転(振れ回り)する。または、転動体8及び保持器9の回転方向が時計周りの場合、回転軸回りで転動体8に最大荷重がかかる基準の周方向位置から、回転方向に回転角度を見たときに、225°の位置で回転軸から径方向に離れた位置で偏心公転(振れ回り)する。
【0042】
保持器9は、負荷圏脱出位置での上記円周の接線方向の力によって、偏心するので、偏心方向は、負荷圏脱出位置での上記円周の接線方向となる。
【0043】
(保持器の摩耗による影響)
次に、転がり軸受1の使用によって、保持器9が摩耗する影響について説明する。保持器9と、転動体(ころ)8との接触によって、保持器9は、ポケット部12の転動体8と接触する面である、ポケット部側面12aが、摩耗する。ポケット部側面12aが摩耗すると、柱部11が、細くなり、ポケット部12の周方向の幅が広くなる。保持器9の摩耗によって、ポケット部12の周方向の幅が広くなった保持器9は、前述の転動体(ころ)8から負荷圏脱出位置での上記円周の接線方向の力を受けた時、前述の偏心公転(振れ回り)の偏心量が大きくなる。すなわち、この偏心公転(振れ回り)現象によって、保持器9と外輪4または内輪7との距離が変化する。
【0044】
保持器9の上記偏心公転(振れ回り)では、1公転周期の間で、外輪4と保持器9、および内輪7と保持器9の間の距離が最短になる位置が、保持器9の回転方向が反時計周りの場合、上記基準位置に対して、転動体8の回転方向に135°の位置となる。また、保持器9の回転方向が時計周りの場合、上記基準位置に対して、転動体8の回転方向に225°の位置となる。
【0045】
転がり軸受1は、外輪4または内輪7の転動体8がある内周側に検知部材15が設けられるため、上記のように、保持器9と外輪4または内輪7との距離が変化すると、当然に、保持器9と検知部材15との間の距離である保持器―検知部材距離Lも変化する。
【0046】
上記のように転がり軸受1の使用によって、保持器9のポケット部側面12aの摩耗量が増えると、保持器9の偏心公転(振れ回り)現象は、より顕著となり、保持器9と外輪4または内輪7との距離が、より大きく変化する。また、保持器―検知部材距離Lも、同様に、より大きく変化し、最短の保持器―検知部材距離Lも短くなる。すなわち、保持器9の摩耗に伴い、徐々に保持器―検知部材距離Lの変化量も増加し、やがて、保持器―検知部材距離Lはゼロになる。つまり、外輪4に検知部材15を設けた場合、保持器外周面9aと、検知部材15の異常検知接触部15aが接触するようになる。
【0047】
ここで、第一側および第二側の検知部材15は、保持器9が摩耗した際に保持器9と接触するように配置されるが、上記保持器9の摩耗時の偏心公転(振れ回り)現象を考慮して配置される。
【0048】
(検知部材の配置)
検知部材15は、外輪4または内輪7の全周に亘って設けても良いが、一部に設けても良い。一部に設ける場合は、上記保持器9の摩耗時の偏心公転(振れ回り)現象の特性から次のように設けるとよい。外輪4を固定輪とした時では、基準の周方向位置から内輪7の(絶対座標系における転動体8の)回転方向に回転角度を見たときに、内輪7の回転が反時計周りの場合、135°を中心に±90°以上の範囲に設けられると良い。または、内輪7の回転が時計周りの場合、225°を中心に±90°以上の範囲に設けられると良い。内輪7を固定輪としたときでは、基準の周方向位置から、外輪4の(絶対座標系における転動体8の)回転方向に回転角度を見たときに、外輪4の回転が反時計周りの場合315°を中心に±90°以上の範囲に設けられると良い。または、外輪4の回転が時計周りの場合、45°を中心に±90°以上の範囲に設けられると良い。
【0049】
検知部材15を設ける角度は、便宜上、90°とし、外輪4に検知部材15を設ける場合、基準の周方向位置から転動体8の回転方向に90°から180°の範囲、内輪7に検知部材15を設ける場合、基準の周方向位置から転動体8の回転方向に270°から360°の範囲としてもよい。検知部材15を設けた部分では、外輪4の内周面2または内輪7の外周面5から、保持器9の側に検知部材15が突出することになり、他の部分より、転がり軸受1が回転しないときには、保持器―検知部材距離Lが、小さくなる。すると、保持器9が摩耗したとき、上記接線方向の力によって、他の部分より検知部材15が存在する部分が先に接触する。
【0050】
なお、軸受の相対的回転の向きが変わる場合には、保持器9の摩耗時の偏心公転(振れ回り)現象が逆向きになるため、検知部材15を基準位置から両方の回転方向の上記範囲の2箇所に設けることで、いずれの回転方向であっても、保持器9の摩耗を検知することができる。
【0051】
軸受の相対的回転の向きが変わる場合、かつ外輪4に検知部材15を設ける場合、基準の周方向位置から転動体8の一の回転方向に90°から270°の範囲、内輪7に検知部材15を設ける場合、基準の周方向位置から転動体8の一の回転方向に270°から360°の範囲として、製造、組み立てがしやすくすることができる。簡単に言えば、外輪4に検知部材15を付ける場合は、鉛直方向の上向き半分に、内輪7に検知部材15を付ける場合は、鉛直方向下向き半分に検知部材を設けても良い。
【0052】
また、転がり軸受1の回転方向が変わる場合には、それぞれ基準の周方向位置と回転軸の中心とを通る直線に対して線対称になるように検知部材15の周方向の範囲を設けることによって、回転方向がいずれの場合でも保持器9の摩耗検知の感度を高めることができる。
【0053】
検知部材15の外輪4の内周面2または内輪7の外周面5からの突出量は、外輪4の内周面2から保持器までの距離または内輪7の外周面5から保持器までの距離の10%より大きく、50%より小さくすると良い。
【0054】
また、
図4に示すように、異常検知接触部15aの保持器方向への厚みDを外輪4の内周面2から保持器までの距離または内輪7の外周面5から保持器までの距離の10%~50%の間で変化させてもよい。例えば、厚みDを厚く設定することにより保持器の損傷が小さく裕度がある状態で検知可能など、異常検知の閾値設定が可能となる。
【0055】
また、検知部材15の外輪4側または内輪7側に、1または複数の薄板やシートを着脱できるように構成して、検知部材15の外輪4の内周面2または内輪7の外周面5からの突出量を調整できるようにしても良い。例えば、前述のように検知部材15をシート状のもので構成した場合、突出量の調整のため1層ずつ脱着可能な積層シート構造とし、シートの積層枚数によって突出量を調整できるものでもよい。上記のような径方向の厚さを調整する調整部を設けることによって、実際の転がり軸受1の使用状況等に応じて、異常検知の閾値設定、感度の調整が可能となる。
【0056】
保持器外周面9aと、検知部材15の異常検知接触部15aが接触することによって、電気的に絶縁されていた検知部材15の両側が、保持器9によって導通し、検知部材15の両側に、それぞれ接続された電線17、および電線17に接続された計測部16が、導通状態になる。なお、検知部材15、保持器9は、導電部材である。
【0057】
計測部16は、2本の電線17の先に接続された絶縁された検知部材15の一方側と他方側の間の電気的特性を計測し、計測した電気的特性、またはこの電気的特性から求まる情報を計測情報として出力する。上述の保持器9と外輪4または内輪7とが接触するまでは、検知部材15の一方側と他方側との間は、絶縁されているので、電気的特性の電気抵抗値は無限大であり、また電圧をかけていれば、電気的特性の電流値はゼロである。保持器9と外輪4または内輪7とが接触すると、検知部材15の一方側と他方側との間は、導通し、電気抵抗値は、ゼロに近くなり、電流値は、大きくなる。
【0058】
計測部16は、計測した電気的特性として、電気抵抗値や、電流値を出力する。または、計測部16は、計測した電気抵抗値に対して、予め所定の閾値を設けて、電気抵抗値が所定の閾値以上あれば、非接触、閾値未満であれば、接触を意味する信号を出力するようにしてもよい。また、計測部16は、計測した電流値に対して、予め所定の閾値を設けて、電流値が所定の閾値未満であれば、非接触、閾値以上であれば接触を意味する信号を出力するようにしてもよい。上記電気抵抗値、電流値、信号が計測情報となり、計測部16が、計測情報を外部へ出力する。
【0059】
計測部16は、計測した電気的特性が接触を意味する値でない場合には、出力をせず、接触を意味する値を計測したときに、時刻とともに出力するようにしてもよい。また、接触を意味する値を計測した後、連続して接触を意味する値を計測する場合、次に接触していないとなる値を計測するまで出力をせず、次に接触していないとなる値を計測したときに接触が終了した信号を時刻とともに出力するようにしても良い。このようにすることで出力信号、またはデータを大幅に削減することができる。
【0060】
異常検知装置100は、計測部16が計測した計測情報と、計測した時刻の時刻情報とを関連付けて記憶する記憶部31を設けても良い。また、異常検知装置100は、異常検知装置100の外部からの指令によって、記憶部31に記憶された計測情報および時刻情報を出力する外部インタフェース部32を設けても良い。外部インタフェース部32は、有線または無線にて外部との送受信を行う。外部インタフェース部32は、ネットワークに接続して、送受信してもよく、ネットワークは、ローカルネットワーク、インターネットであっても良い。
【0061】
異常診断装置200の診断部19は、計測部16から出力される計測情報を受け取り、計測情報から転がり軸受1の状況を判断する。計測部16から伝送される計測情報の伝送路は、有線でも、無線でもよい。診断部19は、受け取った計測情報が電気抵抗値である場合には、計測情報が所定の閾値未満であれば、保持器9と外輪4または内輪7が接触したことになるので、保持器の摩耗が進んでいると判断する。また、診断部19は、受け取った計測情報が電流値である場合には、計測情報が所定の閾値以上であれば、保持器9と外輪4または内輪7が接触したことになるので、保持器の摩耗が進んでいると判断する。それまでは正常とする。
【0062】
さらに、診断部19は、計測情報が保持器9と外輪4または内輪7との接触の有無を示す信号である場合には、接触無しの信号であれば、正常と判断し、接触有の信号であれば保持器9の摩耗が進んでいると判断する。
【0063】
(接触割合、接触時間による保持器の摩耗度判断)
次に、保持器9の摩耗が進むほど、保持器―検知部材距離Lの変化量が大きくなり、保持器9と検知部材15が接触する時間が長くなることを利用した、保持器9の摩耗、または摩耗の程度の判断について説明する。
【0064】
上記で説明したように、保持器9が摩耗した際に、保持器9の摩耗時の偏心公転(振れ回り)現象によって、保持器9と検知部材15とが、最初は軸受の相対回転1回転につき1点で接触する。さらに保持器9が摩耗した際には、保持器9、転動体8、および検知部材15自体、並びにこれらの間の弾性変形によって、保持器9と検知部材15が接触する部分が増えて、軸受の相対回転1回転の間に、保持器9と検知部材15との接触時間が長くなる。
【0065】
すなわち、保持器9の摩耗が進行すると、軸受1回転中、保持器9と検知部材15とが接触する割合が増加する。したがって、軸受1回転中の保持器9と検知部材15とが接触する割合を計測することで、保持器9の摩耗の程度を知ることができる。
【0066】
計測部16は、外輪4と内輪7との相対回転が1回転する時間に対して、検知部材15と保持器9とが接触する時間の割合である接触割合を求めて、計測情報として出力するようにしても良い。ここで、計測部16が、計測した計測情報と、計測した時刻の時刻情報から、1回転の時間、および接触する時間を求めて、接触する時間を1回転に要する時間で除して、接触割合を求める。
【0067】
この際、計測情報と、時刻情報とを関連付けて記憶する記憶部31に記憶された情報を用いて、接触割合を求めても良い。また、外部インタフェース部32が、求めた接触割合を含む計測情報として外部に伝送しても良いし、外部からの要求に応じて、接触割合の信号を送信しても良い。ここで、接触割合の情報は、接触情報として計測情報に含めて捉えることもできる。
【0068】
また、計測情報の接触情報として、接触割合の他に連続的に接触した時間である接触継続時間を接触情報として計測情報に含めて捉えることもできる。保持器9の摩耗が進むと、保持器9と検知部材15とが接触した際に、1点だけで接触するのでなく、外輪4と内輪7とが相対回転中に、連続してある程度の相対回転角において接触する。これによって、計測部16は、ある程度の時間、接触する信号を得る。接触した信号が連続した時間が接触時間となる。
【0069】
保持器9の摩耗が進むと、接触時間は長くなる。転がり軸受1の回転速度、または転がり軸受1の設けられた移動体の移動速度と接触時間の関係から、上記の接触割合と同様の指標を得ることができるから、簡易的に摩耗の程度を判断できる。この際、予め、回転速度、移動体の移動速度ごと、保持器9の摩耗の程度ごとに接触時間の閾値を設けておき、回転速度、移動速度に応じて、接触時間が摩耗の程度の閾値を超えたか否かによって、転がり軸受1の異常を診断することもできる。なお、計測部16が、転がり軸受1の回転速度、または移動体の移動速度を接触時間とともに計測情報として出力するようにしても良い。
【0070】
診断部19は、計測部16からの計測情報を受け取り、外輪4と内輪7との相対回転が1回転する時間に対して、検知部材15と保持器9とが接触する時間の割合である接触割合に基づいて、転がり軸受1の状況、特に保持器9の摩耗の程度を判断しても良い。接触割合が大きいほど、保持器9の摩耗がより進行していると判断し、閾値以上の場合に、警報を出力するようにしても良い。なお、診断部19は、接触割合を含まない計測情報を受け取り、計測情報を上記と同様に診断部19にて求めても良い。
【0071】
また、診断部19は、計測部16が接触時間を計測情報に含める場合、外部から転がり軸受1の回転速度、または移動体の移動速度を取得し、受け取った計測情報に計測した接触時間と関連付けて回転速度、移動速度の情報を含めても良い。
【0072】
診断部19は、回転速度、移動体の移動速度ごと、保持器9の摩耗の程度ごとに接触時間の閾値を記憶しておき、外部から、転がり軸受1の回転速度、または移動体の移動速度に関する情報を取得して、取得した回転速度、移動速度に応じて、接触時間が摩耗の程度の閾値を超えたか否かによって、転がり軸受1の異常を診断するようにしても良い。
【0073】
なお、検知部材15を全周ではなく、一部に設けている場合には、当然検知部材15が存在しない部分での保持器9と検知部材15との接触はないので、当然、接触割合に上限がある。具体的には、(検知部材15を設けた範囲の角度)/360°が上限となる。
【0074】
なお、上述の実施形態においては、転がり軸受1として円筒ころ軸受1を挙げたが、本発明は、円錐ころ軸受や深溝玉軸受等、任意の転がり軸受に適用することが可能である。
【0075】
本実施の形態の構成によれば、外輪4の内周面または内輪7の外周面に沿って転がり軸受の回転軸方向の一方の第一側および他方の第二側に電気的絶縁されて設けられる検知部材15と、第一側の検知部材および第二側の検知部材の間の電気的特性を計測した計測情報を出力する計測部とを備えることによって、簡易な構成で保持器の摩耗状況を把握できる効果がある。なお、上記で外輪4を固定輪とする場合に、外輪4の内周面に検知部材15を設け、内輪7を固定輪とする場合には、内輪7の外周面5に検知部材15を設けると良い。
【0076】
また、本実施の形態の転がり軸受の異常検知装置100によれば、保持器9の摩耗時の偏心公転(振れ回り)現象を考慮して、外輪4または内輪7の周方向の特定の範囲に検知部材15を設けることによって、構造が簡素、また少ない部品で早期に保持器9の摩耗を検知することができる。
【0077】
また、検知部材15は、円筒形または、円筒の一部の形状を含むので、外輪4の内周面または内輪7の外周面に嵌合させて固定できる。よって、転がり軸受への穴あけなど切削加工が不要であり、転がり軸受1自体の強度を低下させる恐れがないという効果がある。
【0078】
さらに、検知部材15を外輪4または内輪7の全周ではなく、一部の角度に設ける場合は、検知部材15が薄板状となることから、外輪4の内周面より曲率大きく、または内輪7の外周面より曲率を小さく検知部材15を作成して、弾性変形させて嵌合させることで容易に外輪4または内輪7に固定できる。
【0079】
実施の形態2.
上述の実施の形態では、検知部材15の径方向の幅の変化については記載していなかったが、本実施の形態では、検知部材15の径方向の幅を変化させる例について、説明する。なお、本実施の形態において、上述の実施の形態と同じ文言、符号であるものは、特段の断りをしない限り、同様のものを意味する。
【0080】
本実施の形態の形態の転がり軸受の異常検知装置100は、外輪4の内周面2または内輪7の外周面5に沿って転がり軸受1の回転軸方向の一方の第一側および他方の第二側に電気的絶縁されて設けられる検知部材15と、第一側の検知部材および第二側の前記検知部材の間の電気的特性を計測した計測情報を出力する計測部16とを備える。ここで、第一側および第二側の検知部材は、保持器9が摩耗した際に保持器9と接触するように構成しても良い。なお、検知部材15は、外輪4または内輪7に嵌合するということもできる。
【0081】
異常検知装置100の第一側および第二側の検知部材は、保持器9が摩耗した際に保持器9と接触する。電気的に絶縁されている検知部材15の第一側および第二側が、保持器と接触すると、電気的に導通するから、第一側の検知部材および第二側の前記検知部材の間の電気的特性を計測する計測部16は、計測した計測情報を出力する。計測部16が出力する計測情報は、検知部材15と保持器とが接触する前と、接触した後とで、変化するから、計測部16が出力する計測情報を受け取る側で、変化を読み取り、保持器9の摩耗を検知する。
【0082】
転がり軸受の異常診断装置200は、計測部16が出力する計測情報を受け取り、受け取った計測情報から転がり軸受1の状況を判断する診断部19を備える。
【0083】
検知部材15は、外輪4の内周面2または内輪7の外周面5に沿って、360°全周に亘って設けられる。本実施の形態の検知部材15は、全周のうち、保持器9が摩耗した際に、保持器9と検知部材15との間の距離である保持器―検知部材距離Lが小さくなる部分の径方向の厚さを他より厚くする。すなわち、保持器9が摩耗した際に、保持器9の摩耗時の偏心公転(振れ回り)現象によって、保持器9と検知部材15とが接触しやすくなる部分の径方向の厚さを厚くして、保持器9と検知部材15との間隔を狭くする。
【0084】
第一側および第二側の検知部材は、転がり軸受1の回転中心を中心として転動体8に最も力がかる位置の方向を基準方向とすると、基準方向から転動体8が回転する向きに180度回転させた方向までの範囲の径方向の最大厚さが、前記基準方向から前記転動体が回転する向きと逆向きに180度回転させた方向までの範囲の径方向の最大厚さより厚い。保持器9は、上記実施の形態で説明した、転動体8の負荷圏脱出位置における保持器9の径方向の幅の中心をとおる円周の接線方向で回転の向きに力を受け、保持器9が摩耗すると、この力の方向に振れ回る。したがって、回転軸の中心から上記力の方向の保持器9と検知部材15との距離が短くなるように、検知部材15の径方向厚さを決める。このため、外輪4に検知部材15を設ける場合と、内輪7に検知部材15を設ける場合では、検知部材15の径方向厚さを厚くする位置が、180°違うことになる。また、少なくとも、上記力の方向の位置を含む範囲の検知部材15の径方向厚さを厚くする。検知部材15の径方向の厚さは、検知部材15の保持器9方向への厚みともいえる。
【0085】
検知部材15の径方向の厚さを厚くする周方向の部分は、外輪4に検知部材15を設ける場合、基準位置から転動体8の回転方向に90°から180°の範囲、内輪7に検知部材を設ける場合、基準位置から転動体8の回転方向に270°から360°の範囲とすると良い。ここで、基準位置は、回転軸回りで転動体8に最大荷重がかかる基準の周方向位置である。加減速により基準の周方向位置は厳密には変わるが、回転軸の中心から静止状態での鉛直下向き周方向位置と考えてもよい。
【0086】
また、検知部材15の径方向の厚さを厚くする周方向の範囲は、便宜上、90°とし、外輪4に検知部材15を設ける場合、基準の周方向位置から転動体8の回転方向に90°から180°の範囲、内輪7に検知部材15を設ける場合、基準の周方向位置から転動体8の回転方向に270°から360°の範囲としてもよい。
【0087】
図10には、外輪4を固定輪とし、外輪4の内周面2に沿って検知部材15を全周に設ける例を示している。紙面の手前から奥行き方向に見て、反時計回りに転動体8が回転するとして、基準の周方向位置から転動体8の回転方向に90°から180°の範囲の検知部材15の径方向厚さを厚くする例を示す。この場合、検知部材15は、基準の周方向位置から転動体8の回転方向に90°から180°の範囲で、回転軸側に突出する形になる。突出量は、検知部材15の異常検知接触部底面15bから保持器外周面9aまでの距離の50%とすることができる。
【0088】
図11には、外輪4を固定輪とし、内輪7の外周面5に沿って検知部材15を全周に設ける例を示している。紙面の手前から奥行き方向に見て、反時計回りに転動体8が回転するとして、基準の周方向位置から転動体8の回転方向に270°から360°の範囲の検知部材15の径方向厚さを厚くする例を示す。この場合、検知部材15は、基準の周方向位置から転動体8の回転方向に270°から360°の範囲で、回転軸から離れる方向に突出する形になる。
【0089】
さらに転動体8の回転方向が変わる場合には、外輪4に検知部材15を設ける場合、基準の周方向位置から転動体8の回転方向に90°から270°の範囲、内輪7に検知部材15を設ける場合、基準の周方向位置から転動体8の回転方向に0°から90°および270°から360°の合わせた範囲としてもよい。
【0090】
本実施の形態の転がり軸受の異常検知装置100は、保持器9が摩耗した際に、保持器9の摩耗時の偏心公転(振れ回り)現象によって、保持器9と検知部材15とが接触しやすくなる部分の径方向の厚さを厚くすることによって、保持器の損傷が小さく裕度がある状態で検知でき、検知の精度を高くすることが可能となる。また、保持器9の摩耗検知の感度を高めることができる。
【0091】
また、検知部材15の厚さを厚くする範囲は、回転軸中心から見て転動体8の負荷圏脱出位置における保持器9の径方向の幅の中心をとおる円周の接線方向の位置を含むようにするから、保持器9の摩耗検知の感度を高めることができる。
【0092】
さらに、検知部材15の径方向の厚さを厚くする周方向の範囲は、便宜上、90°とし、外輪4に検知部材15を設ける場合、基準の周方向位置から転動体8の回転方向に90°から180°の範囲、内輪7に検知部材15を設ける場合、基準の周方向位置から転動体8の回転方向に270°から360°の範囲として、製造、組み立てがしやすくすることができる。
【0093】
また、転がり軸受の回転方向が変わる場合には、それぞれ基準の周方向位置と回転軸の中心とを通る直線に対して線対称になるように検知部材15の径方向の厚さを厚くする周方向の範囲を設けることによって、回転方向がいずれの場合でも保持器9の摩耗検知の感度を高めることができる。
【0094】
実施の形態3.
上述の実施の形態の転がり軸受の異常検知装置100、および異常診断装置200は、鉄道車両の車軸、減速機、電動機軸に取り付けられた軸受の異常検知、異常診断に適用できる。本実施の形態は、上記実施の形態で説明した異常検知装置100、および異常診断装置200を用いた鉄道車両向けの列車異常監視システムについて説明する。なお、本実施の形態において、上述の実施の形態と同じ文言、符号であるものは、特段の断りをしない限り、同様のものを意味する。
【0095】
列車異常監視システム300は、鉄道車両20の車軸、減速機または電動機の回転軸を保持する転がり軸受1の異常を監視する異常監視システムである。列車異常監視システム300は、異常検知装置100を有する異常診断装置200と、転がり軸受1を複数有する鉄道車両20に設置され回転機器の動作状態をモニタする機能を含む列車統合管理装置21とを備える。列車統合管理装置21は、異常診断装置200の診断部19で異常と判断される場合に、鉄道車両20の運転台22へ転がり軸受1に異常があることを例えば運転台22に表示させる。列車異常監視システム300は、監視対象が鉄道車両の転がり軸受1であるので、鉄道車両の列車異常監視システムとも言える。
【0096】
異常検知装置100は、転がり軸受1の外輪4の内周面2または内輪7の外周面に沿って転がり軸受1の回転軸方向の一方の第一側および他方の第二側に電気的絶縁されて設けられる検知部材15と、第一側の検知部材および第二側の前記検知部材の間の電気的特性を計測した計測情報を出力する計測部16とを備える。ここで、第一側および第二側の検知部材は、保持器9が摩耗した際に保持器9と接触するように構成しても良い。
【0097】
転がり軸受の異常診断装置200は、計測部16が出力する計測情報を受け取り、受け取った計測情報から転がり軸受1の状況を判断する診断部19を備える。
【0098】
異常監視の対象となる鉄道車両20は、一両でも、複数両から構成される1つの編成23でも、複数の編成23でも良い。異常監視の対象となる転がり軸受1は、一両の鉄道車両20にも1または複数存在する。
【0099】
図12に、本実施の形態の列車異常監視システム300の構成図を示す。列車異常監視システム300は、鉄道車両20の車軸、減速機または電動機の回転軸を保持する転がり軸受1の異常を監視する列車の異常監視システムである。
【0100】
この例では、複数の車両から構成される一つの編成23に列車異常監視システム300を適用する場合を例に説明する。異常検知装置100は、検知部材15と計測部16とを備える。鉄道車両20の車軸、減速機または電動機の回転軸を保持する転がり軸受1(保持器9以外は、図示せず)の外輪4または内輪7に設けられた検知部材15は、転がり軸受1の軸方向の1方側と他方側に互いに絶縁されて設けられる。検知部材の一方側と他方側の間の電気的特性を計測する計測部16は、計測した計測情報を出力する。
【0101】
異常検知装置100の検知部材15は、上述の実施の形態と同様に、各転がり軸受1の軸方向両側に設けられる(両側で1セットと呼ぶ。)。計測部16は、各転がり軸受ごとに設けられても良いし、複数のセットの検知部材15を1つの計測部16で計測し、複数セット分の計測情報を出力するように構成しても良い。計測部16は、複数車両で構成される編成23の車両ごとに設けても良い。
【0102】
計測部16は、鉄道車両20に設置されている回転機器に使用される転がり軸受について、検知部材15と保持器9との接触の導通で得られる電気的特性またはこれから求まる接触情報および転がり軸受を識別する識別情報を出力する。
【0103】
計測部16が計測する計測情報は、検知部材15と保持器9と接触の導通で得られる電気的特性またはこれから求まる接触情報である。また、計測部16は、上記電気的特性を計測した時刻を、計測値と関連付けて、計測情報として、出力または記憶しても良い。
【0104】
さらに、計測部16は、保持器9と検知部材15との接触で得られる電流値または抵抗値、および計測した時刻から、転がり軸受1の相対回転、この場合、軸の1回転する時間当たり、保持器9と検知部材15とが接触した時間である接触時間の割合である接触割合を接触情報として、計測情報に含めて出力しても良い。
【0105】
各転がり軸受1は、それぞれを識別できる識別情報が与えられる。計測部16は、転がり軸受1の識別情報と、当該転がり軸受1の計測情報とを関連付けて、出力(外部へ伝送)したり、記憶部31に記憶したりしても良い。このように転がり軸受1の識別情報と、当該転がり軸受1の計測情報とをセットにするなどして、関連付けて出力、記憶することによって、計測情報から異常が検出された際、いずれの編成23、いずれの車両、いずれの台車、いずれの転がり軸受1で、摩耗などの異常が起こったかを特定できる。
【0106】
異常診断装置200は、診断部19を備える。診断部19は、異常検知装置100の計測部16から出力される計測情報を有線または無線にて受信して、計測情報である電気的特性、またはこれから求まる接触情報(接触割合)から、転がり軸受1の保持器9の摩耗などの異常を判断する。診断部19は、計測情報に含まる接触情報(接触割合)から、保持器9の摩耗の程度を判断し、閾値以上である場合に、異常と判断することもできる。
【0107】
なお、診断部19は、計測部16にて接触割合を求めない場合には、診断部19において受信した計測情報から、接触割合を求めるようにしも良い。
【0108】
診断部19は、計測情報に含まれる転がり軸受1の識別情報から、対象の転がり軸受1を特定でき、いずれの編成23、いずれの車両、いずれの台車、いずれの転がり軸受1で、摩耗などの異常が起こったかを出力することができる。これには、診断部19が、識別情報と、編成23、車両、台車、転がり軸受の配置場所との関連を記憶しておき、異常が起こった軸受の編成23、車両、台車、配置場所を特定して、表示器に表示させる信号を出力することができる。
【0109】
列車統合管理装置21は、診断部19で判断された結果を有線または無線伝送によって、受け取り、異常がある場合に、表示器に異常を表示させる。表示器は、列車統合管理装置21と接続される運転台22のものを用いても良い。この際、診断部19で、異常が起こった軸受の編成23、車両、台車、場所を特定し、これら情報を列車統合管理装置21が受け取り、グラフィカルに異常個所がわかる表示用の情報に変換して、表示器に出力しても良い。
【0110】
また、列車統合管理装置21は、診断部19から転がり軸受1の識別情報を受け取り、列車統合管理装置21で記憶される、識別情報と、編成23、車両、台車、転がり軸受の配置場所との関係を示す情報から、異常と判断された編成23、車両、台車、転がり軸受の配置場所を特定するようにしても良い。
【0111】
上記は、複数の鉄道車両20から構成される一つの編成23として説明したが、一つの編成23の複数の転がり軸受1の異常を監視する異常監視システムということもできる。
【0112】
図13に、本実施の形態の別の列車異常監視システム300の構成図を示す。
図12の例では、鉄道車両の一つの編成23内の転がり軸受1の状況を診断して診断結果を表示したが、複数の編成23の転がり軸受1の情報を保守サーバに集約して、収集した情報を記憶するようにしても良い。
【0113】
図12の列車異常監視システム300の例では、上述のように、鉄道車両の一つの編成23に、異常検知装置100を有する異常診断装置200と、転がり軸受1を複数有する鉄道車両20に設置され回転機器の動作状態をモニタする機能を含む列車統合管理装置21とを設けるだけでなく、複数の編成23それぞれに、異常診断装置200と、列車統合管理装置21とを設ける。さらに、列車異常監視システム300は、列車統合管理装置21と有線、または無線のネットワークによって接続され、列車統合管理装置21を有する複数の編成23の前記鉄道車両の転がり軸受1の情報を保持する保守サーバ25を備える。
【0114】
検知部材15、計測部16および診断部19は、上述の
図12の例と同様の構成である。
【0115】
列車統合管理装置21においては、計測部16から出力される出力情報が、上記ネットワークを介して保守サーバ25に伝送される。また、保守サーバ25は、保守サーバ25の記憶装置に計測部16から出力される出力情報を記憶する。保守サーバ25は、鉄道車両20上ではなく、保守センター、保守基地などに設けてもよい。この場合、鉄道車両20の各編成23内に診断部19を設けなくても良い。したがって、診断部19を実行する能力、電力等を鉄道車両20の各編成23に設ける必要がなくなり、鉄道車両20、または各編成23の構成部品が減り、単純化できる。
【0116】
なお、診断部19または列車統合管理装置21が、各転がり軸受1の計測部16から出力される出力情報を一時的に記憶し、記憶した情報をいずれかのタイミングで保守サーバ25へ伝送する、または一時的に記憶した情報を記憶媒体に写し、記憶媒体によって保守サーバ25の記憶部に記憶させても良い。保守サーバ25へ伝送するタイミングは、駅、信号、車庫などでの停車時が考えられる。無線であれば、通信環境が良好となり、有線であれば、通信用の接続線を接続できるからである。
【0117】
列車統合管理装置21においては、異常診断装置200から出力される診断した結果である診断情報が、上記ネットワークを介して保守サーバ25に伝送される。診断情報は、各頃がり軸受1の健全、異常、要検査などの判断結果の情報である。また、保守サーバ25は、保守サーバ25の記憶装置に上記伝送された診断情報を記憶するようにしても良い。計測部16から出力される出力情報は、各転がり軸受1において秒単位で発生するから、複数の編成23では大量のデータとなるが、診断情報、しかも異常情報を伝送するようにすることで、伝送負荷を大幅に削減できる。
【0118】
図14に、本実施の形態の別の列車異常監視システム300の構成図を示す。
図13の例では、複数の編成23の転がり軸受1の情報を保守サーバ25に集約して、収集した情報を記憶するようにしたが、鉄道車両20の各一つの編成23には、診断部19を設けず、診断部19を保守サーバ25に接続するように設けて、保守サーバ25に記憶された計測部16から出力される情報を診断部19が各転がり軸受1の状況を診断するようにしても良い。また、保守サーバ25に、外部から転がり軸受の識別情報に対応する出力情報(計測情報)を含む保守情報を入力する入力部を設けてもよい。入力された保守情報をもとに以下に説明する判断基準を求めてもよい。この際、保守情報は、過去の計測した計測情報を含み、検査した結果として保守、または更新が必要と判断した結果の情報を含むこともできる。過去の計測情報と保守、または更新が必要とした結果の情報を用いて、判断基準、閾値を決めることができる。
【0119】
検知部材15、計測部16は、上述の
図12の例と同様の構成である。
【0120】
ここでは、検知部材15および計測部16によって構成される異常検知装置100が、鉄道車両20の転がり軸受1、または、鉄道車両に設けられる。計測部16は、鉄道車両20に設置されている回転機器に使用される転がり軸受1について検知部材15と保持器9と接触の導通で得られる電気的特性またはこれから求まる接触情報および転がり軸受を識別する識別情報を出力し、有線または無線のネットワークによって、保守サーバ25に伝送される。計測情報には、計測対象の転がり軸受1を識別する識別情報(編成23、車両、軸受を識別)の他、計測した時刻情報が含まれる。
【0121】
計測部16から保守サーバ25への伝送の間に、鉄道車両の各編成23の列車統合管理装置21にて、一時的に計測情報を保持して、保守サーバ25に伝送するようにしても良い。これは、鉄道車両20が、伝送路の環境が良好な箇所にて、伝送する場合に好適である。
【0122】
保守サーバ25は、複数の編成23の転がり軸受1の計測情報を受け取り、記憶部に保存する。
【0123】
診断部19は、保守サーバ25に保存された複数の編成23の転がり軸受1の計測情報を読み出し、各転がり軸受1の異常の有無の判断を行う。具体的には、診断部19は、保守サーバ25に保存された計測情報に含まれる、転がり軸受1の識別情報から、対象の転がり軸受1を特定し、いずれの編成23、いずれの車両、いずれの台車、いずれの転がり軸受1で、摩耗などの異常が起こったかを出力する。
【0124】
診断部19は、予め識別情報と、編成23、車両、台車、転がり軸受の配置場所との関連を記憶しておき、異常が起こった軸受の編成23、車両、台車、配置場所を特定して、表示器にグラフィカルに表示させる信号を出力することができる。
【0125】
上記のように構成することによって、鉄道車両20の各編成23においては、長時間にわたる計測情報を保持するための記憶装置、または診断するための計算装置を設ける必要がなく、保守サーバ25およびこれに接続する診断部19にて実施する為、システム全体の効率が良い。
【0126】
図15に、本実施の形態の別の列車異常監視システム300の構成図を示す。この例では、
図12の列車異常監視システム300の構成に加えて、保守サーバ25に接続する分析部26を備え、分析部26にて、分析した結果である異常の判断基準を診断部19に伝送し、各診断部19が、判断基準に基づき、異常を判断する。
【0127】
図15の例では、異常検知装置100、異常診断装置200、および保守サーバ25は、
図12の例と同様のものである。
【0128】
分析部26は、保守サーバ25に有線または無線にて接続され、保守サーバ25に保存された鉄道車両20の転がり軸受1の計測情報を読み出す。分析部26は、複数の編成23の複数の鉄道車両20の複数の転がり軸受1の計測情報を分析し、転がり軸受1の保持器9の摩耗が異常となる計測情報の値の判断基準を求める。判断基準は、閾値データまたは計測情報の値を変数とする不等式の関数として求めることができる。求めた判断基準は判断基準情報として、分析部26が、保守サーバ25および列車統合管理装置21を介して、または列車統合管理装置21を介して、または直接に診断部19に伝送する。
【0129】
診断部19は、判断基準情報を受け取り、判断基準情報を記憶、または既にある判断基準を受け取った判断基準情報の判断基準に更新して、計測情報の異常の判断に用いる。
【0130】
分析部26で行われる、診断部19の計測情報の異常の判断に用いる判断基準の求め方について説明する。
【0131】
(1)標準偏差を用いる
一定期間運転後、保存されている各転がり軸受1について、転がり軸受1が回転している総時間に対する、計測情報の保持器9と検知部材15との接触を意味する信号があった時間の割合を求め、この総時間に対する接触時間の割合の標準偏差を求め、例えば、3σの範囲を超える割合があった転がり軸受1を異常、または要検査と判断するようにしても良い。分析部26は、3σの範囲の上限の総時間に対する接触時間の割合を求め、判断基準を当該上限の割合を超えることとし、判断基準情報として、上記のように診断部19へ伝送する。
【0132】
診断部19は、判断基準情報を受け取り、上限の総時間に対する接触時間の割合を超えることを判断基準として、転がり軸受1を異常、または要検査を判断する。異常、または要検査を判断された転がり軸受1の情報は、列車統合管理装置21を介して表示され、または診断情報として保守サーバ25に送られる。保守員は、上記表示、保守サーバ25に送られる診断情報をモニタリングして、異常、または要検査と判断された転がり軸受1を実際に検査する。
【0133】
上記では、総時間に対する接触時間の割合を評価基準としたが、上述した接触割合を用いても良い。
【0134】
(2)実際の検査結果を用いる
一定期間運転後、上記の診断情報から実際に転がり軸受1を検査した結果、または、定期点検(走行距離ごとの点検を含む)によって実際に転がり軸受1を検査した結果を集計して、実際に交換または処置が必要となった転がり軸受1の情報を収集して、当該軸受1の計測情報を分析して判断基準を求めても良い。
【0135】
分析部26は、保守サーバ25が保存している計測情報から、実際に検査した結果、実際に交換または処置が必要となった転がり軸受1の計測情報を識別情報の入力により特定し、その旨を保守サーバ25に記録する。一定期間が経過すれば、特定された転がり軸受1の数は、増加する。分析部26は、複数の特定された転がり軸受1の計測情報から、上記の総時間に対する接触時間の割合または接触割合が最も小さい転がり軸受1、およびその総時間に対する接触時間の割合または接触割合を得る。分析部26は、こうして得た最小の総時間に対する接触時間の割合または接触割合以上の転がり軸受1が異常または要検査であると判断することを判断基準として、判断基準情報として、記憶するともに、上記のように診断部19へ伝送する。
【0136】
(機械学習)
さらに、各編成23の運行情報を計測情報とともに保守サーバ25で収集し、保存し、分析部26が、これら運行情報、総時間に対する接触時間の割合または接触割合、および実際の検査の結果を学習データとして保守サーバ25に保存し、これを機械学習して学習済みモデルを作成するようにしても良い。
【0137】
ここで、各編成23の列車統合管理装置21が、転がり軸受1の計測情報を伝送する際、運行情報として、時刻ごとの当該編成23の加減速を表す、電流、ブレーキの情報をともに保守サーバ25へ伝送し、保守サーバ25は、これらの編成23の識別情報、時刻、電流、加減速を表す情報を保存するようにしても良い。このようにして複数の編成23から収集したデータを上記学習データとすることができる。
【0138】
分析部26は、運行情報、総時間に対する接触時間の割合または接触割合、および実際の検査の結果を学習データとして、機械学習を行い、学習済みデータを作成する。分析部26は、作成した学習済みモデルを上記のように診断部19へ伝送する。この場合、画集済みモデルが、判断基準情報と捉えることができる。
【0139】
診断部19は、受け取った学習済みモデルに、計測部16で計測した各転がり軸受1の計測情報(接触時間または接触割合を含む)、列車統合管理装置21からの加減速を表す情報を適用すると、異常または要検査か否かの判断結果を得る。さらに診断部19は、列車統合管理装置21に判断結果をおくり、他の形態と同様に、判断結果を表示したり、保守サーバ25に伝送したりして、運転員、保守員がモニタリングできるように構成することができる。
【0140】
以上をより上位概念としてとらえると、列車異常監視システム300は、鉄道車両20の転がり軸受1の外輪4または内輪7と保持器9との間隔が所定閾値以下となる近接時間を計測して近接時間の割合を表す近接時間割合として出力する近接時間計測部と、近接時間割合の情報を受け取り、接触割合が閾値を超えると異常と判断する診断部とを備えると捉えることができる。ここで、近接時間割合は、計測した総時間に対する近接時間の割合、または転がり軸受1の外輪4と内輪7の相対回転1回転時間のうちの近接時間の割合である。
【0141】
上記概念は、上述の実施の形態に記載の転動体8の負荷圏脱出位置における円周の接線方向の力によって保持器9に振れ回りが生じる現象から考案されたものである。上記上位概念の近接時間割合を用いて転がり軸受1の状態を判断すると、保持器9の摩耗の程度までを判断できる。
【0142】
上記の検知部材15および計測部16で計測する、外輪4または内輪7に設けた検知部材15と保持器9との接触においては、検知部材15が、外輪4の内周面2または内輪7の外周面5から保持器9側に突出していることから、この突出量が上記所定閾値に相当する。したがって、上記検知部材15および計測部16で計測する、計測した総時間に対する接触時間の割合または接触割合は、上記近接時間割合に含まれる概念である。よって、上記上位概念は、上述した列車異常監視システム300のいずれをも含む概念といえる。
【0143】
また、検知部材15および計測部16に代えて、他の手段によって、近接時間割合を計測することも考えられる。例えば、外輪4の内周面2または内輪7の外周面5と、保持器9の外周との距離を計測する非接触式変位計(例えば、レーザ変位計、渦電流変位計など)を周方向に複数設け、複数の非接触式変位計で計測した距離の内、閾値以下となった変位計の数を求めて、周方向に設けた非接触式変位計の数で除算することで、簡易的に接触割合を求めるようにすることもできる。
【0144】
先の上位概念として表現した列車異常監視システムは、上記のような非接触式変位計を用いても、上述の検知部材15を用いても、実現できる。具体的には、本実施の形態のいずれの例(
図12―15)でも、検知部材15および計測部16に代えて、非接触式変位計(例えば、レーザ変位計、渦電流変位計など)を周方向に複数設けて、実現可能といえる。ただし、適用の際には、非接触式変位計は、非接触であるので、接触を近接と読み替え、接触時間を近接検知した非接触変位計の箇所数に読み替える必要がある。
【0145】
本実施の形態の列車異常監視システム300は、上記実施の形態の異常検知装置100、および異常診断装置200を用いるものであるから、これらの効果を有するほか、以下の効果を有する。
【0146】
本実施の形態の列車異常監視システム300は、転がり軸受1を複数有する鉄道車両20に設けられ、異常診断装置200の診断部19が異常と判断した転がり軸受1に異常があることを回転機器の動作状態をモニタする列車統合管理装置21に表示させるから、鉄道車両20に設けられた複数の軸受の保持器9の異常を監視できる(
図12)。異常診断装置200の異常検知装置100は、簡易な構造であり、強度も強いので、多数の転がり軸受1があり、長年使用する鉄道車両の列車異常監視システムに好適である。
【0147】
列車異常監視システム300は、計測情報から外輪4と内輪7との相対回転が1回転する時間に対して検知部材15と保持器9とが接触する時間の割合である接触割合に基づいて判断するから、保持器9の摩耗の程度まで鉄道車両の多数の転がり軸受1ごとに把握できるので、保守、点検、交換の時期がわかり、保守計画ができ、効率が良い。
【0148】
本実施の形態の列車異常監視システム300は、複数の編成30の転がり軸受1の異常検知装置100で収集した計測情報、または診断部19で異常または要検査を判断した結果を保守サーバ25に集約して、検索等ができるので、保守員が、転がり軸受1の種類による検知感度の違いを把握し、検査タイミングなどを補正することができる(
図13)。
【0149】
本実施の形態の列車異常監視システム300は、複数の編成30の転がり軸受1の異常検知装置100で収集した計測情報、または診断部19で異常または要検査を判断した結果される保守サーバ25に診断部19を直接接続するように構成したので、車両に直接搭載よりも地上側に診断部を集約させることで、異常検知アルゴリズムなどのアップデートが容易になる。検知部材15の形状等により診断部19の判断基準を変更する際に、一括して変更できる(
図13)。
【0150】
本実施の形態の列車異常監視システム300は、複数の編成30の転がり軸受1の異常検知装置100で収集した計測情報、または診断部19で異常または要検査を判断した結果される保守サーバ25に分析部26を接続したので、保守サーバ25に保存されている計測情報、および保守、検査、更新した情報を分析して、判断基準を更新し、診断部19の判断基準を更新して、診断精度を高めることができる(
図14)。特に、計測した総時間に対する接触時間の割合または接触割合を収集して分析することで、接触時間の割合または接触割合の閾値を実測、検査結果から求めて診断部19の判断基準として、診断精度を高めることができる。
【0151】
本実施の形態の列車異常監視システム300は、鉄道車両20の転がり軸受1の外輪4または内輪7と保持器9との間隔が所定閾値以下となる近接時間を計測して近接時間の割合を表す近接時間割合として出力する近接時間計測部と、近接時間割合の情報を受け取り、接触割合が閾値を超えると異常と判断する診断部とを備えるから、保持器9の摩耗の程度まで鉄道車両の多数の転がり軸受1ごとに把握できるので、保守、点検、交換の時期がわかり、保守計画ができ、効率が良い。
【符号の説明】
【0152】
1 転がり軸受(円筒ころ軸受)、2 外輪の内周面、4 外輪、5 内輪の外周面、7 内輪、8 転動体(円筒ころ)、9 保持器、9a 保持器外周面、10 円環部、11 柱部、12 ポケット部、15 検知部材、15a 異常検知接触部、15b 異常検知接触部底面、16 計測部、17 電線、18 伝送部、19 診断部、20 鉄道車両、21 列車統合管理装置、22 運転台、23 編成、31 記憶部、32 インタフェース部、100 転がり軸受の異常検知装置、200 転がり軸受の異常診断装置、300 列車異常監視システム。