(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】構造体、製造方法、及び微細構造製造用ゲル
(51)【国際特許分類】
C08F 293/00 20060101AFI20241108BHJP
C08F 8/00 20060101ALI20241108BHJP
C08J 3/075 20060101ALI20241108BHJP
C08J 7/02 20060101ALI20241108BHJP
C08J 7/12 20060101ALI20241108BHJP
B82B 1/00 20060101ALI20241108BHJP
B82B 3/00 20060101ALI20241108BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20241108BHJP
【FI】
C08F293/00
C08F8/00
C08J3/075 CEY
C08J7/02 Z
C08J7/12 Z
B82B1/00 ZNM
B82B3/00
B82Y30/00
(21)【出願番号】P 2023500583
(86)(22)【出願日】2021-12-21
(86)【国際出願番号】 JP2021047244
(87)【国際公開番号】W WO2022176376
(87)【国際公開日】2022-08-25
【審査請求日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2021025680
(32)【優先日】2021-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】九内 雄一朗
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-531083(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0332869(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0131383(US,A1)
【文献】米国特許第06592991(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 293/00-297/08
C08F 8/30
C08J 3/075
C08J 7/02
C08J 7/12
B82Y 30/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ構造又はナノ構造を有し、
各々が1又は複数のブロックポリマーにより構成された第1セグメント及び第2セグメントであって
、疎水性を有する第1セグメント及び
親水性を有する第2セグメントが交互に結合されており、且つ、総セグメント数が3以上である多元ブロックコポリマーを含有し、
各多元ブロックコポリマーにおいて、前記第1セグメント又は前記第2セグメントには、色素が化学的に結合されている、
ことを特徴とする構造体。
【請求項2】
前記多元ブロックコポリマーは、総セグメント数が3であるトリブロックコポリマーであり、2つの前記第1セグメントと、当該2つの前記第1セグメントの間に介在する第2セグメントと、により構成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
マイクロ構造又はナノ構造を有し、
各々が1又は複数のブロックポリマーにより構成された第1セグメント及び第2セグメントであって
、疎水性を有する第1セグメント及び
親水性を有する第2セグメントが交互に結合されており、且つ、総セグメント数が3以上である多元ブロックコポリマーを含有し、
各多元ブロックコポリマーにおいて、前記第1セグメント又は前記第2セグメントには、色素と、ナノ粒子とがこの順番で結合されており、
前記ナノ粒子の屈折率は、前記第1セグメント及び前記第2セグメントを含むポリマーマトリクスの屈折率よりも大きい、
ことを特徴とする構造体。
【請求項4】
マイクロ構造又はナノ構造を有し、
各々が1又は複数のブロックポリマーにより構成された第1セグメント及び第2セグメントであって
、疎水性を有する第1セグメント及び
親水性を有する第2セグメントが交互に結合されており、且つ、総セグメント数が3以上である多元ブロックコポリマーを含有し、
各多元ブロックコポリマーにおいて、前記第1セグメント又は前記第2セグメントには、色素が結合されており、
少なくとも一部の多元ブロックコポリマー同士は、前記色素を介して架橋されている、
ことを特徴とする構造体。
【請求項5】
マイクロ構造又はナノ構造を有し、
各々が1又は複数のブロックポリマーにより構成された第1セグメント及び第2セグメントであって
、疎水性を有する第1セグメント及び
親水性を有する第2セグメントが交互に結合されており、且つ、総セグメント数が3以上である多元ブロックコポリマーを含有し、
各多元ブロックコポリマーにおいて、前記第1セグメント又は前記第2セグメントには、色素が結合されており、
前記色素が結合されている前記第1セグメント又は前記第2セグメントは、分子量分散が2以下である、
ことを特徴とする構造体。
【請求項6】
マイクロ構造又はナノ構造を有し、
各々が1又は複数のブロックポリマーにより構成された第1セグメント及び第2セグメントであって
、疎水性を有する第1セグメント及び
親水性を有する第2セグメントが交互に結合されており、且つ、総セグメント数が3以上である多元ブロックコポリマーを含有し、
各多元ブロックコポリマーにおいて、前記第1セグメント又は前記第2セグメントには、色素が結合されており、
前記色素が結合されている前記第1セグメント又は前記第2セグメントを構成するブロック成分の割合は、13C-NMRで測定した場合に、80%以上100%以下を満たす、
ことを特徴とする構造体。
【請求項7】
マイクロ構造又はナノ構造を有する構造体の製造方法であって、
各々が1又は複数のブロックポリマーにより構成された第1セグメント及び第2セグメントであって
、疎水性を有する第1セグメント及び
親水性を有する第2セグメントが交互に結合されており、且つ、総セグメント数が3以上である多元ブロックコポリマーであって、溶媒を含有することによりゲル化した多元ブロックコポリマーに色素を分散させる第1の工程と、
色素が分散された多元ブロックコポリマーを露光することによりパターニングする第2の工程と、
パターニング後の多元ブロックコポリマーから
前記多元ブロックコポリマーと結合していない色素を除去する第3の工程と、
前記多元ブロックコポリマーと結合していない色素が除去された多元ブロックコポリマーから前記溶媒を除去することにより当該多元ブロックコポリマーを収縮させる第4の工程と、を含む、
ことを特徴とする製造方法。
【請求項8】
前記色素には、架橋剤が結合されており、
前記架橋剤を用いて少なくとも一部の多元ブロックコポリマー同士を架橋する第5の工程を更に含み、
前記第5の工程は、前記第3の工程の後に実施される、
ことを特徴とする請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
マイクロ構造又はナノ構造を含む構造体を製造するための微細構造製造用ゲルであって、
各々が1又は複数のブロックポリマーにより構成された第1セグメント及び第2セグメントであって、
疎水性を有する第1セグメント及び
親水性を有する第2セグメントが交互に結合されており、且つ、総セグメント数が3以上である多元ブロックコポリマーを含有し、
各多元ブロックコポリマーにおいて、前記第1セグメント又は前記第2セグメントには、色素が化学的に結合されている、
ことを特徴とする微細構造製造用ゲル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ構造又はナノ構造を含む構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロメートルスケールの構造であるマイクロ構造、又は、ナノメートルスケールの構造であるナノ構造を有する構造体の製造方法として、Implosion Fabrication(以下において、ImpFab)法が知られている(特許文献1及び非特許文献1参照)。
【0003】
ImpFab法では、水を多く含み膨潤した状態のハイドロゲルを露光することによって、このハイドロゲルをパターニングし、パターニング後のハイドロゲルを脱水することにより収縮させる。脱水に起因するハイドロゲルの収縮率が例えば1/10である場合、パターニング後のハイドロゲルを収縮させることによって、パターニング時の解像度の10倍の解像度が理論的には得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許出願公開第2017/0081489号明細書
【非特許文献】
【0005】
【文献】Daniel Oran et. al.,Science 362, 1281-1285 (2018) 14 December 2018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のFIG.1A,1Bには、ハイドロゲルのポリマーマトリクスは、規則正しい編み目構造を有するように描かれている。しかし、実際のハイドロゲルのポリマーマトリクスの構造は、非特許文献1のFig.1の(A),(C),(E)に描かれているように不規則である。この不規則な構造は、特許文献1や非特許文献1で用いているハイドロゲルポリマーマトリクスがラジカル重合法により作製されていることに起因する。一般にハイドロゲルはこのラジカル重合法を用いて合成され、不均一な編み目構造を有する。
【0007】
ポリマーマトリクスの不規則な編み目構造に起因して、パターニング後のハイドロゲルを脱水することにより収縮させた場合、得られる構造体のパターンには、歪みが生じる(非特許文献1のFig.4の(A),(C)参照)。この歪みは、構造体が含む構造が小さくなればなる程顕著になる。このことは、マイクロ構造の一例であるFig.4の(A)の構造と、ナノ構造の一例であるFig.4の(C)とを比較すれば明らかである。
【0008】
本発明の一態様は、上述した課題に鑑み成されたものであり、その目的は、従来のImpFab法を用いて製造した構造体と比較して、歪みが抑制された構造体、及び、その製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る構造体は、マイクロ構造又はナノ構造を有し、各々が1又は複数のブロックポリマーにより構成された第1セグメント及び第2セグメントであって、各々が疎水性及び親水性を有する第1セグメント及び第2セグメントが交互に結合されており、且つ、総セグメント数が3以上である多元ブロックコポリマーを含有する。
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る製造方法は、マイクロ構造又はナノ構造を有する構造体の製造方法であって、各々が1又は複数のブロックポリマーにより構成された第1セグメント及び第2セグメントであって、各々が疎水性及び親水性を有する第1セグメント及び第2セグメントが交互に結合されており、且つ、総セグメント数が3以上である多元ブロックコポリマーであって、溶媒を含有することによりゲル化した多元ブロックコポリマーに色素を分散させる第1の工程と、色素が分散された多元ブロックコポリマーを露光することによりパターニングする第2の工程と、パターニング後の多元ブロックコポリマーから色素を除去する第3の工程と、色素が除去された多元ブロックコポリマーから溶媒を除去することにより多元ブロックコポリマーを収縮させる第4の工程と、を含む。
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る微細構造製造用ゲルは、マイクロ構造又はナノ構造を含む構造体を製造するための微細構造製造用ゲルであって、各々が1又は複数のブロックポリマーにより構成された第1セグメント及び第2セグメントであって、各々が疎水性及び親水性を有する第1セグメント及び第2セグメントが交互に結合されており、且つ、総セグメント数が3以上である多元ブロックコポリマーを含有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、従来のImpFab法を用いて製造した構造体と比較して、歪みが抑制された構造体、及び、その製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】(a)は、本発明の第1の実施形態に係る構造体の斜視図であり、(b)は、(a)に示した構造体の一部を拡大した模式図であり、(c)は、(a)に示した構造体が含有する2つのトリブロックコポリマーの模式図である。
【
図2】(a)は、
図1の(b)及び(c)に示したトリブロックコポリマーの構造式である。(b)は、
図1の(b)及び(c)に示した色素の構造式である。(c)は、
図1の(b)及び(c)に示した架橋材の構造式である。
【
図3】
図1に示した構造体の変形例の斜視図である。
【
図4】本発明の第2の実施形態に係るゲルの模式図である。
【
図5】本発明の第3の実施形態に係る製造方法のフローチャートである。
【
図6】(a)~(e)は、
図5に示した製造方法に含まれる各工程にけるゲル又は構造体の模式図である。
【
図7】
図4に示した製造方法の変形例のフローチャートである。
【
図8】(a)~(c)は、
図7に示した製造方法に含まれる各工程にけるゲル又は構造体の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔第1の実施形態〕
本発明の第1の実施形態に係る構造体10について、
図1及び
図2を参照して説明する。
図1の(a)は、構造体10の斜視図であり、
図1の(b)は、構造体10の一部を拡大した模式図であり、
図1の(c)は、構造体10が含有する2つのトリブロックコポリマー11の模式図である。
図2の(a)は、トリブロックコポリマー11の一具体例の構造式であり、
図2の(b)は、構造体10が含有する色素12の一具体例の構造式であり、
図2の(c)は、構造体10が含有する架橋材13の一具体例の構造式である。
【0015】
<構造>
本実施形態において、構造体10の形状は、立方体状である(
図1の(a)参照)。ただし、構造体10の形状は、これに限定されない。構造体10の形状は、第3の実施形態において後述する製造方法が含む露光工程(
図4及び
図5の(b)参照)において実施する露光のパターンに応じて、適宜定めることができる。また、構造体10は、
図1の(a)に示す様に3次元的な構造に限定されず、2次元的な構造であってもよい。
【0016】
本実施形態の構造体10においては、1辺の長さLとして、500nmを採用している。したがって、構造体10は、ナノメートルスケールの構造であるナノ構造を有する。ただし、構造体10が有する構造は、ナノ構造に限定されず、マイクロスケールの構造であるマイクロ構造であってもよい。ただし、既存のImpFab法を用いて構造体を製造する場合、構造体のサイズが小さくなればなるほど、脱水・焼結工程において生じる収縮に起因して、形状に歪みが生じやすい。したがって、構造体10及び後述する製造方法M10,M20(
図4~
図7参照)により得られる効果は、構造体10の大きさが小さくなればなるほど顕著になる。具体的には、構造体10及び製造方法10,20は、パターンの最小幅が10μm未満の場合に好適に用いることができ、パターンの最小幅が1μm未満の場合により好適に用いることができる。なお、ナノメートルスケールの構造とは、パターンの最小幅が1μm未満である構造を指し、マイクロメートルスケールの構造とは、パターンの最小幅が1mm未満である構造を指す。
【0017】
構造体10は、トリブロックコポリマー11と、色素12と、架橋材13とを含有している(
図1の(b)参照)。
図1の(c)においては、構造体10が含有する2つのトリブロックコポリマー11を拡大して、模式的に図示している。
【0018】
(トリブロックコポリマー)
多元ブロックコポリマーの一例であるトリブロックコポリマー11は、疎水性を有するセグメント111と親水性を有するセグメント112が交互に結合することによって構成されている(
図1の(c)参照)。セグメント111は、第1セグメントの一例であり、セグメント112は、第2セグメントの一例である。
【0019】
本実施形態において、セグメント111及びセグメント112の各々は、1つのブロックポリマーにより構成されている。ただし、セグメント111を構成するブロックポリマーは、疎水性を有し、セグメント112を構成するブロックポリマーは、親水性を有する。セグメント111及びセグメント112の一例については、
図2の(a)を参照して後述する。ただし、セグメント111は、疎水性を有する複数のブロックポリマーにより構成されていてもよいし、セグメント112は、親水性を有する複数のブロックポリマーにより構成されていてもよい。
【0020】
また、本実施形態において、トリブロックコポリマー11においては、セグメント111、セグメント112、及びセグメント111がこの順番で結合されている。換言すれば、トリブロックコポリマー11は、2つのセグメント111と、これら2つのセグメント111の間に介在するセグメント112と、により構成されている。したがって、トリブロックコポリマー11の総セグメント数は、3である。ただし、総セグメント数は、3に限定されず、3以上であれば適宜定めることができる。このように、構造体10は、トリブロックコポリマーでなく多元ブロックコポリマーであってもよい。なお、総セグメント数は、奇数であることが好ましく、3であることがより好ましい。
【0021】
後述する製造方法M10,M20においては、構造体10を製造するための中間体(以下において、微細構造製造用ゲルとも称する)としてトリブロックコポリマー11を溶媒(製造方法M10,M20においては水)中において膨潤させることによって得られるポリマーゲル(製造方法M10,M20においてはハイドロゲル)を用いる。総セグメント数が奇数であることによって、トリブロックコポリマー11の両端に同じ極性を有するブロックポリマーが位置する。したがって、ポリマーゲルを形成する場合に、複数のトリブロックコポリマー11の端部同士を容易に凝集させることができる。また、総セグメント数が3であることによって、複数のトリブロックコポリマー11の端部以外の部分が凝集することを防ぐことができる。したがって、ポリマーゲルを構成するポリマーマトリクスのピッチを均一にすることが容易になる。
【0022】
なお、本実施形態のトリブロックコポリマー11は、微細構造製造用ゲルを調製する場合に、溶媒として親水性を有する溶媒の一例である水を用いることを想定している。そのため、トリブロックコポリマー11として、両端にセグメント111が位置するトリブロックコポリマーを採用している。ただし、微細構造製造用ゲルを調製する場合に疎水性を有する溶媒を用いる場合には、トリブロックコポリマー11として、両端にセグメント112が位置するトリブロックコポリマーを採用すればよい。
【0023】
(色素及び架橋材)
図1の(b)及び(c)に示すように、複数のトリブロックコポリマー11のうち少なくとも何れかのトリブロックコポリマー11においては、両端の2つのセグメント111の間に介在するセグメント112に色素12が結合されている。そのうえで、色素12同士は、架橋材13により架橋されている。したがって、複数のトリブロックコポリマー11のうち少なくとも一部のトリブロックコポリマー11同士は、色素12を介して架橋されている。
【0024】
なお、トリブロックコポリマー11として、両端にセグメント112が位置するトリブロックコポリマーを採用する場合、色素12は、2つのセグメント112の間に介在するセグメント111に色素12が結合されていればよい。
【0025】
(ブロックポリマー、色素、及び架橋材の具体例)
トリブロックコポリマー11を構成するセグメント111及びセグメント112の各々を構成するブロックポリマーの一例としては、それぞれ、ポリ(ブチルメタクリレート)(PBMA)及びポリ(メタクリル酸)(PMMA)が挙げられる。
図2の(a)に示す具体例においては、左側のセグメント111の重合度nは、n=134であり、セグメント112の重合度mは、m=273であり、右側のセグメント111の重合度kは、k=192である。
【0026】
ただし、セグメント111セグメント112の各々を構成するブロックポリマーは、それぞれ、PBMA及びPMMAに限定されない。セグメント111を構成する他のブロックポリマーとしては、ポリ(ヘキシルメタクリレート)、ポリ(オクチルメタクリレート)などのアルキル鎖を有するメタクリレート類、アクリレート類などが好適に用いられるが、これに限定されず、脂環式の官能基やフッ化アルキル等、疎水性の側鎖を有するポリマー類を好適に用いることができる。セグメント112を構成する他のブロックポリマーとしては、ポリ(アクリル酸)などカルボン酸基を有するメタクリレート、アクリレート類が挙げられるが、これらに限定されず、所望の色素と反応することができる官能基を含有したポリマーであることができる。
【0027】
色素12が結合されているセグメントであるセグメント112は、GPC測定によりより測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)とポリスチレン換算の重量平均分子量(MW)の比(MW/Mn)である分子量分散が3以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましく、さらには1.2以下であることが最も好ましい。分子量分散が狭いほど、ブロックポリマーの鎖長分布が狭い範囲に収まっていることを意味するため、より均一な編み目構造のハイドロゲルを形成することが出来る。なお、セグメント112の分子量分散は、製造する構造体10が有するマイクロ構造又はナノ構造におけるパターンの最小幅の大小に応じて、適宜定めればよい。パターンの最小幅が小さければ小さいほど、セグメント112の分子量分散を小さくすることが好ましい。なお、セグメント112と同様に、セグメント111の分子量分散も小さいことが好ましい。セグメント111及びセグメント112は、例えばリビングラジカル重合などの精密重合法を用いて製造することができるので、分子量分散を小さくすることができる。
【0028】
また、セグメント112のブロック成分の割合は、13C-NMRで測定した場合に、80%以上100%以下を満たすことが好ましく、90%以上であることがより好ましい。ブロック成分の割合は、13C-NMR測定におけるTriadでのシーケンス情報から算出することができる。ここで、ブロック成分の割合は以下のように定義されたものであるとする。
(ブロック成分の割合)
=(すべて同じユニットであるフラクション)/(全フラクション)×100 (%)
【0029】
なお、ブロックポリマーが複数のモノマーから成る場合も、Triad成分がすべて同じであれば上記式の分子にカウントするものとする。例えば、A、Bの2種類のモノマーから成るブロックコポリマーの場合、“AAA”のフラクションと“BBB”のフラクション分子にカウントするが、それ以外の“BAB”や“ABA”など異なるユニットを含むフラクションは上記式の分子にはカウントしない。ブロック成分の割合が80%以上であることによって、より構造が制御された編み目構造のゲルを構築することができる。
【0030】
色素12の一例としては、蛍光色素の1つであるフルオレセイン、フルオレセインのカルボキシル基を置換基Rで置換したもの(
図2の(b)参照)が挙げられる。また、置換基Rとしては、後述する架橋材13が用いられる。なお、後述する構造体10の変形例のように、トリブロックコポリマー11同士を架橋しない場合には、置換基Rとしてアミノ基(NH
2)や、チオール基(SH)や、ビオチンなどを用いることができる。
【0031】
架橋材13は、水性樹脂用架橋材であり、その一例としては、水溶性の骨格を持つジアジドである、1,11-ジアジド-3,6,9-トリオキサウンデカンなどが挙げられる(
図2の(c)参照)。架橋剤としてジアジド類などを架橋反応に用いる場合は、色素12に導入する置換基は不飽和結合である二重結合や三重結合を有する官能基を導入することが好ましい。
【0032】
<構造体の変形例>
図1に示した構造体10の変形例である構造体10Aについて、
図3を参照して説明する。
図3は、構造体10Aの斜視図である。
【0033】
構造体10Aは、構造体10と同様に、ナノ構造を有する。また、構造体10Aは、構造体10と同様に、疎水性を有する第1セグメント111及び親水性を有する第2セグメント112が交互に結合されており、且つ、総セグメント数が3であるトリブロックコポリマーを含有する。
【0034】
ただし、構造体10Aが含有するトリブロックコポリマーは、構造体10が含有するトリブロックコポリマー11(
図1の(b)及び(c))と比較して、色素12に架橋材13ではなくナノ粒子が結合されている点が異なる。本変形例においては、ナノ粒子と、高屈折率部102とについて説明する。高屈折率部102は、トリブロックコポリマーの一部であって、色素12にナノ粒子が結合されている領域である。
【0035】
上述したように、構造体10Aが含有するトリブロックコポリマーにおいて、セグメント111及びセグメント112のうち一方のセグメントであって、両端の2つのセグメント111の間に介在するセグメント112には、色素12と、ナノ粒子とがこの順番で結合されている。
【0036】
ナノ粒子は、屈折率がセグメント111及びセグメント112を含むポリマーマトリクスの屈折率よりも大きくなるように構成されている。本変形例では、ナノ粒子として、金属の一例である金のナノ粒子を採用している。ただし、ナノ粒子を構成する金属は、金に限定されず、例えば、銀、銅、白金であってもよい。また、ナノ粒子の表面に更なる金属を成長させてもよい。また、ナノ粒子を構成する材料は、金属に限定されず、半導体や絶縁体、例えば、カーボンナノチューブ、フラーレン、酸化チタン、シリカ、及びダイアモンドなどであってもよい。また、これらを単体で用いる必要はなく、これらのブレンドやアロイであってもよい。
【0037】
その結果、トリブロックコポリマーのうち、セグメント112に色素12及びナノ粒子が結合された領域の屈折率は、セグメント112に色素12及びナノ粒子が結合されていない領域の屈折率よりも高くなる。以下において、セグメント112に色素12及びナノ粒子が結合されていない領域を低屈折率部101と称し、ナノ粒子に起因して屈折率が低屈折率部101よりも高い領域を高屈折率部102と称する。
【0038】
本変形例において、低屈折率部101の形状は、直方体状のブロックである。低屈折率部101のサイズは、一対の底壁の各辺の長さが4.5μmであり、厚みが1.5μmである。
【0039】
本変形例において、高屈折率部102の形状は、柱状のピラーである。高屈折率部102のサイズは、一対の底面の各辺の長さLが500nmであり、厚みが1.5μmである。高屈折率部102は、低屈折率部101の内部に、低屈折率部101の一対の底壁同士を貫通するように形成されている。このように構成された高屈折率部102は、ナノ構造の一例である。なお、本変形例においては、低屈折率部101の内部に16の高屈折率部102がマトリクス状に配置されている。また、
図3においては、16の高屈折率部102のうち1つの高屈折率部102のみに符号を付している。
【0040】
なお、低屈折率部101及び高屈折率部102の形状及びサイズは、本変形例に限定されず、適宜定めることができる。高屈折率部102は、本変形例のようにその一部が低屈折率部101から露出していてもよいし、低屈折率部101の内部に埋設されていてもよい。
【0041】
〔第2の実施形態〕
本発明の第2の実施形態に係るゲル10Gついて、
図4を参照して説明する。
図4は、ゲル10Gの模式図である。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0042】
ゲル10Gは、上述した構造体10又は構造体10Aを製造するための微細構造製造用ゲルの一例である。ゲル10Gは、各々が1又は複数のブロックポリマーにより構成された第1セグメント111及び第2セグメント112であって、各々が疎水性及び親水性を有する第1セグメント111及び第2セグメント112が交互に結合されており、且つ、総セグメント数が3であるトリブロックコポリマーと、水とを含有する。なお、トリブロックコポリマーは、上述したように多元ブロックコポリマーであってもよい。
【0043】
ゲル10Gは、セグメント111及びセグメント112を含み、且つ、色素12がセグメント112に結合していないトリブロックコポリマー11を、親水性を有する溶媒の一例である水中に分散させることによって膨潤させることによって得られる。
【0044】
トリブロックコポリマー11は、その両端が疎水性を有するセグメント111により構成されており、セグメント111同士の間に親水性を有するセグメント112が介在するように構成されている。このようなトリブロックコポリマー11を水中に分散させることによって、
図4に示すようなポリマーマトリクス14が形成される。ポリマーマトリクス14は、溶媒である水と、セグメント111が凝集することによって形成される擬似的な架橋点141と、2つの架橋点141同士の間に介在するセグメント112と、により構成される。なお、
図4においては、ポリマーマトリクスの構成を分かりやすくするためにポリマーマトリクス14を2次元的な構造として図示しているが、実際のポリマーマトリクス14は、3次元的な構造である。
【0045】
トリブロックコポリマー11を構成するセグメント111及びセグメント112は、上述したように、精密重合法を用いて製造可能である。そのため、セグメント111及びセグメント112を構成するブロックポリマーは、小さな分子量分散を有する。セグメント111及びセグメント112のブロックポリマーにおける分子量分散は、例えば、2以下であることが好ましく、1.2以下であることがより好ましい。このように、セグメント111及びセグメント112の各々の重合度が精密に制御されていることによって、ポリマーマトリクス14における架橋点141同士のピッチpにおいて生じ得るばらつきを抑制することができる。
【0046】
なお、本実施形態では、両端にセグメント111が位置し、セグメント111同士の間にセグメント112が介在するトリブロックコポリマーを用いてポリマーマトリクス14を形成しているため、溶媒として親水性を有する溶媒の一例である水を採用している。親水性を有する溶媒の水以外の例としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)及びジメチルホルムアミド(DMF)が挙げられる。
【0047】
また、両端にセグメント112が位置し、セグメント112同士の間にセグメント111が介在するトリブロックコポリマーを用いてポリマーマトリクス14を形成する場合には、溶媒として疎水性を有する溶媒を採用すればよい。疎水性を有する溶媒の一例としては、ノルマルヘキサン及びシクロヘキサンが挙げられる。
【0048】
〔第3の実施形態〕
本発明の第3の実施形態に係る製造方法M10であって、
図3に示した構造体10Aの製造に好適な製造方法M10について、
図5及び
図6を参照して説明する。
図5は、製造方法M10のフローチャートである。
図6は、製造方法M10に含まれる各工程におけるゲル10G又は構造体10Aの模式図である。
図6の(a)は、色素分散工程S12を実施したあとのゲル10Gの模式図であり、
図6の(b)は、露光工程S13におけるゲル10Gの模式図であり、
図6の(c)は、ナノ粒子添加工程S15を実施したあとのゲル10Gの模式図であり、
図6の(d)は、ナノ粒子成長工程S17を実施したあとのゲル10Gの模式図であり、
図6の(e)は、脱水・焼結工程S18を実施することによって得られた構造体10Aの模式図である。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。なお、製造方法M10は、非特許文献1に記載されたI
mpFab法をベースにし、トリブロックコポリマー11を含有するゲル10Gを用いるものである。
【0049】
図5に示すように、製造方法M10は、ゲル化工程S11と、色素分散工程S12と、露光工程S13と、色素洗浄工程S14と、ナノ粒子添加工程S15と、ナノ粒子洗浄工程S16と、ナノ粒子成長工程S17と、脱水・焼結工程S18とを含んでいる。
【0050】
ゲル化工程S11は、第1セグメント111及び第2セグメント112が交互に結合されており、且つ、総セグメント数が3であるトリブロックコポリマー11が水中にいて膨潤したゲル10Gを得る工程である。なお、本実施形態のゲル化工程S11では、トリブロックコポリマー11を用いてゲル10Gを調製するが、トリブロックコポリマー11の代わりに総セグメント数が4以上である多元ブロックコポリマーを用いてもよい。
【0051】
セグメント111及びセグメント112を含むトリブロックコポリマー11(例えば
図2の(a)参照)は、市販されているもののなかからセグメント111及びセグメント112の重合度を考慮して適宜購入することができる。また、精密重合法を用いて所望の重合度を有するセグメント111及びセグメント112を製造したうえで、それらを用いてトリブロックコポリマー11を製造してもよい。
【0052】
まず、トリブロックコポリマー11のN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)溶液を調製する。トリブロックコポリマー11の濃度は、特に限定されないが、例えば20重量%である。その溶液を、所定の形状(本実施形態では直方体状)を有する型(モールド)に充填する。次に、数分間に亘って上記溶液の表面を水蒸気にさらすことによってトリブロックコポリマー11の弱いゲルを得る。次に、この弱いゲルを3日間に亘って水中に浸すことによってゲル10Gを得る。
【0053】
所望のトリブロックコポリマー11を含有するゲル10Gが市販されている場合には、それを購入し、ゲル化工程S11を省略することもできる。
【0054】
色素分散工程S12は、第1の工程の一態様であり、ゲル10Gに色素12を分散させる工程である(
図6の(a)参照)。なお、
図6においては、トリブロックコポリマー11を構成するセグメント111を二重線で図示し、セグメント112を実線で図示している。また、符号111,112の図示は省略している。なお、本実施形態において用いる色素12は、
図2の(b)に示したフルオレセインのカルボキシル基をアミノメチル基で置換したものである。
【0055】
露光工程S13は、第2の工程の一態様であり、色素12が分散されたゲル10Gを構成するトリブロックコポリマー11の所定の領域を露光することによりパターニングする工程である(
図6の(b)参照)。
図6の(b)に図示した2点鎖線は、露光する領域を模式的に表す。この露光により照射された光のエネルギーを吸収することにより、色素12がセグメント112を構成するブロックポリマーに結合する(
図2の(b)参照)。直方体状であるゲル10Gにおいて、3次元的に所望の領域を露光するために、2光子吸収法の露光プロセスが好適である。なお、露光工程S13と、後述するナノ粒子添加工程S15、ナノ粒子洗浄工程S16、ナノ粒子成長工程S17、及び脱水・焼結工程S18とは、I
mpFab法として知られている工程である。したがって、本実施形態では、これらの工程については、簡単な説明に留める。
【0056】
色素洗浄工程S14は、第3の工程の一態様であり、パターニング後のゲル10Gを洗浄することにより、未反応であり、且つ、ゲル10G内に残存している色素12を除去する工程である。この工程を実施することにより、露光された領域内においてセグメント112に結合した色素12のみが構造体10の内部に残存する。すなわち、露光によりパターニングされた領域内にのみ色素12が残存する。
【0057】
ナノ粒子添加工程S15は、色素12にナノ粒子15(例えば金製)を修飾する工程である(
図6の(c)参照)。
【0058】
ナノ粒子洗浄工程S16は、色素12にナノ粒子15を修飾したあとのゲル10Gを洗浄することにより、色素12に結合しておらず、ゲル10G内に残存しているナノ粒子を除去する工程である。
【0059】
ナノ粒子成長工程S17は、色素12を修飾したナノ粒子15を更に成長させることによって、ゲル10Gにおける高屈折率材料の含有量を高める工程である(
図6の(d)参照)。
図6の(d)においては、ナノ粒子15を破線で示し、成長後の粒子16を実線で示している。
【0060】
脱水・焼結工程S18は、第4の工程の一態様であり、色素12が除去されたトリブロックコポリマー11から水を除去することにより、トリブロックコポリマー11を収縮させ、構造体10Aを得る工程である(
図6の(e)参照)。この工程を実施することにより、ゲル10Gは、脱水前のゲル10Gと相似な形状を保ったまま縮小される。なお、
図6の(e)においては、脱水によりゲル10Gのサイズが1/2になるように縮小率を便宜的に定めている。ただし、実際のゲル10Gにおける脱水に伴う縮小率は、トリブロックコポリマー11の構造と、ゲル10Gにおける水の含有率(換言すれば膨潤の程度)とに依存して定まる。例えば、本実施形態のトリブロックコポリマー11(
図2の(a)を参照)においてゲル10Gにおける水の含有率が約83%である場合、脱水に伴う縮小率は、1/10程度になる。
【0061】
このとき、
図4に示すようにゲル10Gを構成するポリマーマトリクス14における架橋点141同士のピッチpにおいて生じ得るばらつきが小さいため、ゲル10Gの収縮にともあに生じ得る歪みを抑制することができる。その結果、露光工程S13においてパターニングされた領域(
図6の(e)において2点鎖線で図示する領域)も、脱水前のパターニングされた領域と相似な形状を保ったまま縮小される。したがって、製造方法M10を用いて製造された構造体10Aにおいては、従来のI
mpFab法を用いて製造した構造体と比較して、歪みを抑制することができる。
【0062】
また、脱水・焼結工程S18は、ナノ粒子成長工程S17を実施したあとのゲル10Gをオーブン中で加熱することによって実施される。脱水工程の温度は用いるポリマーの耐熱温度や溶媒の沸点よりも低めに設定することが良好な形状維持のためには好ましく、例えば水とアクリル酸系のハイドロゲルの場合は60℃~95℃の温度で30分~120分程度乾燥させることが好ましい。また、ある程度、乾燥および収縮が進んでから真空乾燥させるのも効率的である。焼結温度はナノ粒子の融点よりもやや低い温度で、ナノ粒子の表面だけを溶かすように、できるだけ短時間で加熱するのが好ましい。長時間、高熱にさらすとゲルへのダメージや金属ナノ粒子の酸化などを引き起こす不具合を生じやすい。金属ナノ粒子の酸化を防ぐためには、不活性雰囲気下や真空中での焼結が好ましい。さらには、脱水・焼結工程は複数の加熱条件の組み合わせであってよく、例えば、脱水工程前半では大気圧下にてオーブンの加熱温度を90℃、加熱時間を1時間に設定することによってトリブロックコポリマー11からおおむねの脱水をし、ついで、同温度設定のまま真空ポンプにて真空引きをしながらさらに30分間乾燥させる。続く焼結工程では真空引きを継続したまま、オーブンの加熱温度を400℃、加熱時間を3分に切り替えることでトリブロックコポリマー11に含まれる粒子16同士が焼結される。その結果、トリブロックコポリマー11に含まれる粒子16同士が固着するので、構造体10Aにおける高屈折率部102(
図3参照)の強度を高めることができる。また、焼結工程については、加熱方式によるナノ粒子の溶融に限らず、レーザーやフラッシュキセノンランプ等の照射による瞬間的な焼結方法を採用しても良い。
【0063】
<製造方法の変形例>
製造方法M10の変形例である製造方法M20について、
図7及び
図8を参照して説明する。
図7は、製造方法M20のフローチャートである。
図8は、製造方法M20に含まれる各工程にけるゲル又は構造体の模式図である。
図8の(a)は、架橋工程S25を実施したあとのゲルの模式図であり、
図8の(b)は、ゲル除去工程S26を実施することによって得られたゲルの模式図であり、
図8の(c)は、脱水工程S28により得られた構造体10の模式図である。
【0064】
図7に示すように、製造方法M20は、ゲル化工程S11と、色素分散工程S22と、露光工程S13と、色素洗浄工程S14と、架橋工程S25と、ゲル除去工程S26と、脱水工程S28とを含んでいる。製造方法M20に含まれるゲル化工程S11、露光工程S13、及び色素洗浄工程S14は、製造方法M10に含まれるゲル化工程S11、露光工程S13、及び色素洗浄工程S14と同じ工程である。したがって、本変形例では、これらの工程の説明を省略し、色素分散工程S22、架橋工程S25、ゲル除去工程S26、及び、脱水工程S28について説明する。
【0065】
色素分散工程S22は、製造方法M10に含まれる色素分散工程S12と同様にゲル10Gに色素12を分散させる工程であるが、用いる色素12が色素分散工程S12の場合と異なる。本変形例では、色素12として、
図2の(b)に示したフルオレセインのカルボキシル基を架橋材13(
図2の(c))で置換したものを採用している。
【0066】
架橋工程S25は、第5の工程の一態様である。架橋工程S25は、セグメント112に色素12と架橋材13とがこの順番で結合されているゲル10Gに対して紫外線を照射することによって、異なるセグメント112に結合された架橋材13同士を結合させる工程である。この工程により、トリブロックコポリマー11同士は、色素12及び架橋材13を介して架橋される(
図8の(a)参照)。
【0067】
ゲル除去工程S26は、疎水性を有する溶媒にゲル10Gを浸す、あるいは、疎水性を有する溶媒の蒸気にゲル10Gをさらすことによって、色素12及び架橋材13を介して架橋されていない領域のゲル10Gを分解する工程である。この工程により、色素12及び架橋材13を介して架橋されているゲル10G’が得られる(
図8の(b)参照)。
【0068】
脱水工程S28は、製造方法M10の脱水・焼結工程S18と同様に、第4の工程の一態様であり、色素12が除去されたトリブロックコポリマー11から水を除去することにより、トリブロックコポリマー11を収縮させ、構造体10を得る工程である(
図6の(e)参照)。
【0069】
製造方法M20においても、製造方法M10と同様に、トリブロックコポリマー11を含有するゲル10Gを用いている。したがって、製造方法M20を用いて製造された構造体10においては、従来のImpFab法を用いて製造した構造体と比較して、歪みを抑制することができる。
【0070】
また、製造方法M20は、ゲル除去工程S26を実施することにより、ゲル10Gのうち色素12及び架橋材13を介して架橋されなかった領域のゲル10Gを分解することができる。その結果、ゲル10Gのうち露光工程S13においてパターニングされた領域のみを構造体10として得ることができる。したがって、製造方法M20は、従来のImpFab法では製造することができなかった構造体10を製造することができる。
【0071】
本発明の第1の態様に係る構造体は、マイクロ構造又はナノ構造を有し、各々が1又は複数のブロックポリマーにより構成された第1セグメント及び第2セグメントであって、各々が疎水性及び親水性を有する第1セグメント及び第2セグメントが交互に結合されており、且つ、総セグメント数が3以上である多元ブロックコポリマーを含有する。
【0072】
第1の態様に係る構造体は、非特許文献1に記載されたImpFab法を適用して製造することができる。ブロックポリマーは直鎖状の形態を有するが、疎水性、親水性を有するセグメントが交互に結合され、且つ、総セグメント数が3以上であることによって、親水性、または、疎水性の溶媒中に分散させた際に、溶媒とは極性が反対となるセグメント同士が溶媒中で凝集するため、この部位が物理的な架橋点となり、膨潤ゲル形態とすることが出来る。例えば、疎水性セグメント/親水性セグメント/疎水性セグメントの3セグメントからなるブロックポリマーを水中に分散させた場合には、複数のブロックポリマーの両端にある疎水性のセグメントが集まって凝集し、物理架橋点となることでゲル状形態となることができる。ところで、第1セグメントを構成するブロックポリマー及び第2セグメントを構成するブロックポリマーは、精密重合法を用いて製造することによって、それぞれのブロックポリマーの重合度を精密に制御することができる。そのため、溶媒を用いて多元ブロックコポリマーを膨潤させることによって得られるゲルにおいて、ポリマーマトリクスにおける架橋点同士のピッチにおいて生じ得るばらつきを抑制することができる。したがって、本構造体10は、従来のImpFab法を用いて製造した構造体と比較して、歪みを抑制することができる。
【0073】
また、本発明の第2の態様に係る構造体においては、上述した第1の態様に係る構造体の構成に加えて、前記多元ブロックコポリマーは、総セグメント数が3であるトリブロックコポリマーであり、2つの前記第1セグメントと、当該2つの前記第1セグメントの間に介在する第2セグメントと、により構成されている、構成が採用されている。
【0074】
上記の構成によれば、多元ブロックコポリマーを膨潤させるための溶媒として親水性を有する溶媒(例えば水)を用いることができる。
【0075】
また、本発明の第3の態様に係る構造体においては、上述した第1の態様又は第2の態様に係る構造体の構成に加えて、各多元ブロックコポリマーにおいて、前記第1セグメント又は前記第2セグメントには、色素と、ナノ粒子とがこの順番で結合されており、前記ナノ粒子の屈折率は、前記第1セグメント及び前記第2セグメントを含むポリマーマトリクスの屈折率よりも大きい、構成が採用されている。
【0076】
上記の構成によれば、構造体の内部において、ナノ粒子が含まれておらず低い屈折率を有する領域と、ナノ粒子が含まれており高い屈折率を有する領域と、を任意に作り分けることができる。
【0077】
また、本発明の第4の態様に係る構造体においては、上述した第1の態様~第3の態様の何れか一態様に係る構造体の構成に加えて、各多元ブロックコポリマーにおいて、前記第1セグメント又は前記第2セグメントには、色素が結合されており、少なくとも一部の多元ブロックコポリマー同士は、前記色素を介して架橋されている、構成が採用されている。
【0078】
上記の構成によれば、本構造体を製造する過程において、多元ブロックコポリマーを膨潤させて得られたゲルのうち、色素を介して架橋されなかった領域のゲルを分解することができる。その結果、ゲルのうち色素を介して架橋された領域(すなわちパターニングされた領域)のみを構造体として得ることができる。
【0079】
また、本発明の第5の態様に係る構造体においては、上述した第1の態様~第4の態様の何れか一態様に係る構造体の構成に加えて、各多元ブロックコポリマーにおいて、前記第1セグメント又は前記第2セグメントには、色素が結合されており、前記色素が結合されている前記第1セグメント又は前記第2セグメントは、分子量分散が2以下である、構成が採用されている。
【0080】
上記の構成によれば、溶媒を用いて多元ブロックコポリマーを膨潤させることによって得られるゲルにおいて、ポリマーマトリクスにおける架橋点同士のピッチにおいて生じ得るばらつきを更に抑制することができる。したがって、本構造体は、従来のImpFab法を用いて製造した構造体と比較して、歪みを更に抑制することができる。
【0081】
また、本発明の第6の態様に係る構造体においては、上述した第1の態様~第5の態様の何れか一態様に係る構造体の構成に加えて、各多元ブロックコポリマーにおいて、前記第1セグメント又は前記第2セグメントには、色素が結合されており、前記色素が結合されている前記第1セグメント又は前記第2セグメントを構成するブロック成分の割合は、13C-NMRで測定した場合に、80%以上100%以下を満たす、構成が採用されている。
【0082】
上記の構成によれば、ブロック成分の割合が80%以上であることによって、より構造が制御された編み目構造のゲルを構築することができる。
【0083】
本発明の第7の態様に係る製造方法は、マイクロ構造又はナノ構造を有する構造体の製造方法であって、各々が1又は複数のブロックポリマーにより構成された第1セグメント及び第2セグメントであって、各々が疎水性及び親水性を有する第1セグメント及び第2セグメントが交互に結合されており、且つ、総セグメント数が3以上である多元ブロックコポリマーであって、溶媒を含有することによりゲル化した多元ブロックコポリマーに色素を分散させる第1の工程と、色素が分散された多元ブロックコポリマーを露光することによりパターニングする第2の工程と、パターニング後の多元ブロックコポリマーから色素を除去する第3の工程と、色素が除去された多元ブロックコポリマーから溶媒を除去することにより多元ブロックコポリマーを収縮させる第4の工程と、を含む。
【0084】
第1セグメントを構成するブロックポリマー及び第2セグメントを構成するブロックポリマーは、精密重合法を用いて製造することによって、それぞれのブロックポリマーの重合度を精密に制御することができる。そのため、溶媒を用いて多元ブロックコポリマーを膨潤させることによって得られるゲルにおいて、ポリマーマトリクスにおける架橋点同士のピッチにおいて生じ得るばらつきを抑制することができる。したがって、本製造方法は、従来のImpFab法と比較して、構造体に生じ得る歪みを抑制することができる。
【0085】
また、本発明の第8の態様に係る製造方法は、上述した第7の態様に係る製造方法の構成に加えて、前記色素には、架橋剤が結合されており、前記架橋剤を用いて少なくとも一部の多元ブロックコポリマー同士を架橋する第6の工程であって、前記第3の工程の後に実施する第5の工程を更に含む、構成が採用されている。
【0086】
上記の構成によれば、本発明の第4の態様に係る構造体と同様の効果を奏する。
【0087】
本発明の第9の態様に係る微細構造製造用ゲルは、マイクロ構造又はナノ構造を含む構造体を製造するための微細構造製造用ゲルであって、各々が1又は複数のブロックポリマーにより構成された第1セグメント及び第2セグメントであって、各々が疎水性及び親水性を有する第1セグメント及び第2セグメントが交互に結合されており、且つ、総セグメント数が3以上である多元ブロックコポリマーを含有する。
【0088】
本微細構造製造用ゲルは、ImpFab法を適用してマイクロ構造又はナノ構造を有する構造体を製造するために好適に用いることができる。
【0089】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0090】
10,10A 構造体
10G ゲル(微細構造製造用ゲルの一例)
101,102 低屈折率部,高屈折率部
11 トリブロックコポリマー(多元ブロックコポリマーの一例)
111,112 セグメント(第1セグメント及び第2セグメントの一例)
12 色素
13 架橋材
14 ポリマーマトリクス
141 架橋点