(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】スクロール圧縮機用のバランス機構
(51)【国際特許分類】
F04C 18/02 20060101AFI20241108BHJP
【FI】
F04C18/02 311Z
(21)【出願番号】P 2023510381
(86)(22)【出願日】2021-08-04
(86)【国際出願番号】 EP2021071739
(87)【国際公開番号】W WO2022033934
(87)【国際公開日】2022-02-17
【審査請求日】2023-05-24
(31)【優先権主張番号】102020121442.1
(32)【優先日】2020-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】516382847
【氏名又は名称】オーエーテー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【氏名又は名称】森本 有一
(74)【代理人】
【識別番号】100227835
【氏名又は名称】小川 剛孝
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン ブッシュ
【審査官】山崎 孔徳
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04898520(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0292484(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2006-0022098(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクロール原理による容積式機械、特にスクロール圧縮機用のバランス機構であって、前記バランス機構は、駆動シャフト(10)と、第1のバランス要素(20)と、第2のバランス要素(30)とを有し、
前記第1のバランス要素(20)は、円筒状のハブ部(21)と第1の力伝達部(22)とを備え、第1の回転軸(11)を介して前記駆動シャフト(10)と回転可能に接触し、
前記第2のバランス要素(30)は、第2の回転軸(12)を介して前記駆動シャフト(10)と回転可能に接触し、
前記第1の力伝達部(22)は、前記第1のバランス要素(20)の前記第1の回転軸(11)周りの慣性モーメントを前記第2のバランス要素(30)に伝達し、第2の力伝達部(32)は、前記第2のバランス要素(30)の前記第2の回転軸(12)周りの慣性モーメントを前記第1のバランス要素(20)に伝達し、
前記駆動シャフト(10)の中心軸S及び円筒状の前記ハブ部(21)の中心軸Cは、第1の基準線CS上に配置され、
前記駆動シャフト(10)の軸方向に沿って見ると、前記第1のバランス要素(20)の重心J及び前記第2のバランス要素(30)の重心Kは、前記第1の基準線CSに対して前記第1の回転軸(11)の中心軸Pとは異なる側に配置され、
前記ハブ部(21)は、前記第1の回転軸(11)が係合するための偏心配置された嵌合孔(23)を有する、バランス機構。
【請求項2】
前記第2のバランス要素(30)は、前記第2の回転軸(12)が係合するための係合孔(33)を有することを特徴とする、
請求項1に記載のバランス機構。
【請求項3】
前記第1の回転軸(11)は、前記ハブ部(21)と固定的に、特にモノリシックに、かつ偏心して連結されて、前記駆動シャフト(10)の第1の袋孔(16)内で回転可能に支持されていることを特徴とする、
請求項1又は請求項2に記載のバランス機構。
【請求項4】
前記第2の回転軸(12)は、前記第2のバランス要素(30)と固定的に、特にモノリシックに連結されて、前記駆動シャフト(10)の第2の袋孔(17)内で回転可能に支持されていることを特徴とする、請求項1から
請求項3の何れか1項に記載のバランス機構。
【請求項5】
前記第2のバランス要素(30)は、前記第1のバランス要素(20)と駆動シャフト軸受(34)との間に配置されていることを特徴とする、請求項1から
請求項4の何れか1項に記載のバランス機構。
【請求項6】
前記第1のバランス要素(20)は、
前記第1の力伝達部(22)を有することを特徴とする、請求項1から
請求項5の何れか1項に記載のバランス機構。
【請求項7】
前記第2のバランス要素(30)は、前記第1の回転軸(11)の中心軸Pと前記第2の回転軸(12)の中心軸Qとを結ぶ第2の基準線PQに対して同じ側に配置されている質量部(31)と
前記第2の力伝達部(32)とを有することを特徴とする、請求項1から
請求項6の何れか1項に記載のバランス機構。
【請求項8】
前記第2のバランス要素(30)の前記第2の力伝達部(32)は、前記第1のバランス要素(20)の前記第1の力伝達部(22)に力を伝達するように当接していることを特徴とする、
請求項7に記載のバランス機構。
【請求項9】
前記第1のバランス要素(20)と前記第2のバランス要素(30)とは、一体的に、特にモノリシックに形成されていることを特徴とする、請求項1から
請求項8の何れか1項に記載のバランス機構。
【請求項10】
前記駆動シャフト(10)は、前記第1の回転軸(11)の周りに延びるスペーサ要素(13)を有し、前記係合孔(33)の領域における前記第2のバランス要素(30)の厚さよりも大きい高さを有することを特徴とする、
請求項2に記載のバランス機構。
【請求項11】
前記第1のバランス要素(20)は、前記駆動シャフト(10)へ向けて隆起し、かつ、前記第2のバランス要素(30)の前記質量部(31)に対するストッパ(25)を形成するウェブ(24)を有することを特徴とする、
請求項7又は請求項8に記載のバランス機構。
【請求項12】
請求項1から
請求項11の何れか1項に記載のバランス機構を備える、スクロール原理による、特にスクロール圧縮機である容積式機械。
【請求項13】
前記ハブ部(21)は、可動容積式スパイラル(40)、特に作動中に公転運動する可動容積式スパイラル(40)と連結されたスクロール軸受(41)を支えており、前記可動容積式スパイラル(40)は固定容積式スパイラルに係合することを特徴とする、
請求項12に記載の容積式機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクロール原理による容積式機械、特にスクロール圧縮機用のバランス機構、及びそのようなバランス機構を備えたスクロール原理による容積式機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
先行技術から、入れ子状になった2つの容積式スパイラルの間に流体が案内され、その中で圧縮されることによって流体を圧縮するスクロール圧縮機が知られている。スクロール圧縮機は、固定容積式スパイラルと可動容積式スパイラル(特に公転運動する容積式スパイラル)を有しており、スパイラル壁の間に圧縮室が形成されていて、その容積は可動容積式スパイラルが動くことによって変化する。この容積変化によって、その中に案内された流体が圧縮される。
【0003】
良好な圧縮機能のために重要なのは、圧縮室を仕切る固定容積式スパイラル及び可動容積式スパイラルのスパイラル壁が互いに良好に密封当接していることである。しかし、実用においてはこの密封が困難を伴う。一方で、製造公差が漏れにつながる可能性がある。他方で又は加えて、圧縮される流体によって噛み合う両容積式スパイラルに及ぼされるガス力を考慮する必要がある。このガス力によって、かみ合う両容積式スパイラルのスパイラル壁が互いに引き離されて、圧縮室が十分密封されなくなることがある。それによって圧縮室からガスが逃げ、その結果ガス力が減退してスパイラル壁が再び互いに当接する。この相互作用により、好ましくない騒音が発生し、特に振動が引き起こされ、全体としてスクロール圧縮機の運転と効率を阻害することがある。
【0004】
可動容積式スパイラルは、通常は駆動シャフトによって駆動され、可動容積式スパイラルは駆動シャフトに偏心支持されている。駆動シャフトの回転は、可動容積式スパイラルの公転運動に変換される。このために駆動シャフトには、駆動シャフトの中心軸に対して離心配置された回転軸が設けられている。回転軸上に可動容積式スパイラルが支持されている。
【0005】
ガス力と製造公差によって発生する振動を低減し、スパイラル壁間の気密性を向上させるために、特許文献1はバランス機構を提案している。この公知のバランス機構は、可動容積式スパイラルの回転軸に偏心配置されて、回転軸を中心に振動できるバランス質量を含んでいる。遠心力に基づいて自動的に調整される振動運動によってガス力だけでなく製造公差も補正され、その結果として両容積式スパイラル間の圧縮室の密封性、ひいてはスクロール圧縮機の効率が改善される。しかしながら、この公知の解決策の短所は比較的大きいバランス質量であり、これは一方ではスクロール圧縮機内で多くの設置スペースを必要とし、他方ではアンバランスをもたらし、これが、特に種々の速度で運転されるスクロール圧縮機において、発生する振動により高い騒音の発生につながる可能性がある。
【0006】
この短所に対処するために、特許文献2では、振動するバランス要素を、その重心が駆動シャフトと可動容積式スパイラルとの共通の中心面で、可動容積式スパイラルの回転軸の中心軸と同じ側に配置されているように配置する。このようにすると、運転中にバランス要素に追加のモーメントが発生して製造公差とガス力のバランスを生み出す。その結果、バランス要素のバランス質量を減らすことができ、それによって設置スペースと、スクロール圧縮機の種々の回転数における振動の発生が低減される。しかしながらここでも、特にバランス機構の良好な効果を保つために、最小限のバランス質量が必要であるという点で、限界があることがわかった。特に、広い回転数範囲で運転されるスクロール圧縮機では、依然として顕著な振動が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許第4824346号明細書
【文献】独国特許出願公開第102019108079号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、上述した先行技術から出発して、スクロール原理による容積式機械の効率向上を助長して、振動の発生をさらに低減する、スクロール原理による容積式機械、特にスクロール圧縮機用のバランス機構を提供することである、さらに、本発明の課題は、そのようなバランス機構を備えた、スクロール原理による容積式機械、特にスクロール圧縮機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題は、バランス機構に関しては請求項1の主題によって解決され、容積式機械に関しては請求項13の主題によって解決される。
【0010】
本発明は、具体的には、バランス機構が駆動シャフト、第1のバランス要素及び第2のバランス要素を有する、スクロール原理による容積式機械、特にスクロール圧縮機用のバランス機構を提供するという考えに基づいている。第1のバランス要素は、円筒状ハブ部と第1の力伝達部を備えて、第1の回転軸を介して駆動シャフトと回転可能に接触している。第2のバランス要素は、第2の回転軸を介して駆動シャフトと回転可能に接触している。駆動シャフトの中心軸Sと円筒状ハブ部の中心軸Cは、第1の基準線CS上に配置されている。第1のバランス要素の重心Jと第2のバランス要素の重心Kは、第1の回転軸の中心軸Pとは異なる側で第1の基準線CS上に配置されている。
【0011】
第1の回転軸及び第2の回転軸は、好ましくはそれぞれ駆動シャフトの中心軸Sに対して偏心若しくは離心配置されている。これらのバランス要素は、それぞれそれらに割り当てられた回転軸を介して駆動シャフトと間接又は直接に若しくは直接的又は間接的に接触若しくは連結することができる。したがって回転軸はそれぞれ、各バランス要素と駆動シャフトの間の連結を確立する連結リンクを形成することができる。しかしながら、連結が回転軸を介して間接的に行われること、即ち別の構成要素が連結に関与し、若しくは各バランス要素と駆動シャフトとの間に配置されることを排除するものではない。
【0012】
第1のバランス要素に関して、そのハブ部が第1の回転軸を介して駆動シャフトと接触若しくは連結されていることが好適である。
【0013】
本発明は、スクロール原理による容積式機械の運転中に同様に振動できる第2のバランス要素を使用する。このようにすると、別のモーメントが発生して、ガス力と製造公差を追加的に補正する。したがって、バランス質量と対応する重心の位置を適切に設計することにより、ガス力と製造公差の補正をはるかに精密に調整することができる。結果として、本発明によるバランス機構は、特に容積式機械が高い回転数差で運転される場合も、スクロール原理による容積式機械の動作円滑性を向上させる。これにより、容積式機械の容積式スパイラル間の密封、ひいては圧縮室の密封が広い回転数範囲で保証されるため、容積式機械の効率が向上する。
【0014】
駆動シャフトは端面に、円筒状ハブ部と第1の力伝達部を備えた第1のバランス要素を支持する第1の回転軸を有することができる。駆動シャフトは、第2のバランス要素を支持する第2の回転軸も有することができる。
【0015】
本発明の好適な実施形態では、第1のバランス要素のハブ部は、第1の回転軸が突入係合するための偏心配置された嵌合孔を有する。さらに、第2のバランス要素は、第2の回転軸が突入係合するための係合孔を有することができる。好ましくは、嵌合孔と第1の回転軸との間及び/又は係合孔と第2の回転軸との間にはそれぞれある程度の遊びがあって、ハブ部は第1の回転軸を中心として振動でき、第2のバランス要素は第2の回転軸を中心として振動できるようになっている。それゆえ第1の回転軸と嵌合孔との連結、並びに第2の回転軸と係合孔との連結は、いずれも形状結合によるものであり、力嵌合によるものではない。このようにして嵌合孔と第1の回転軸との間、及び係合孔と第2の回転軸との間には、実質的に回転すべり軸受が形成される。
【0016】
代替として、第1の回転軸は第1のバランス要素と固定連結され、第2の回転軸は第2のバランス要素と固定連結することができる。特に回転軸は、それぞれ付属のバランス要素とモノリシックに形成することができる。それゆえバランス要素は、それぞれ各回転軸を形成するピン状突起を有することができる。第1のバランス要素に配置することができる第1の回転軸は、好ましくはハブ部若しくはその中心軸に対して偏心配置されて、ハブ部と固定連結されているか、又はハブ部とモノリシックに形成されている。バランス要素の回転運動若しくは揺動運動を可能にするために、駆動シャフトは回転軸が突入係合するための相応の袋孔を有することが好適である。したがって、第1の回転軸が突入係合する第1の袋孔を設けることができる。第2の袋孔は、第2の回転軸を受け入れることができる。好ましくは、回転軸はそれぞれ付属の袋孔に回転可能に支持されている。その限りで、好ましくは各回転軸と付属の袋孔との間に回転滑り軸受がある。
【0017】
全体として、第1のバランス要素は、第1の回転軸を介して駆動シャフトと回転可能に連結することができ、その際に第1の回転軸は、バランス要素とは回転不能に、そして駆動シャフトとは回転可能に連結されているか、又は逆に駆動シャフトとは回転不能に、そしてバランス要素とは回転可能に連結されている。第2のバランス要素についても同様であり、第2のバランス要素は、第1の回転軸を介して駆動シャフトと回転可能に連結されることができ、その際に第2の回転軸は、バランス要素とは回転不能に、そして駆動シャフトとは回転可能に連結されているか、又は逆に駆動シャフトとは回転不能に、そしてバランス要素とは回転可能に連結されている。
【0018】
バランス機構のコンパクトな構造の観点から、第2のバランス要素が第1のバランス要素とスクロール側の駆動シャフト軸受との間に配置されると好適である。この場合、駆動シャフトの長手方向で第1のバランス要素と第2のバランス要素の個々の部分が重なることができるので、バランス機構のサイズ若しくは全高はさらに低減されている。
【0019】
第1のバランス要素及び/又は第2のバランス要素は、それぞれ一体的若しくはモノリシックに形成されていることが好ましい。
【0020】
第1のバランス要素は、第1の力伝達部を有する。さらに、第2のバランス要素が質量部と第2の力伝達部を有してもよく、その際にさらに備え、質量部と第2の力伝達部は、第1の回転軸の中心軸Pと第2の回転軸の中心軸Qとを結ぶ第2の基準線PQの同じ側に配置されている。
【0021】
本発明の好適な変形例では、第2のバランス要素の第2の力伝達部は、第1のバランス要素の第1の力伝達部に力伝達的に当接している。そのため第1のバランス要素の遠心力による変位は、第2のバランス要素に良好に伝達される。このバランス要素の結合により、容積式機械の特に円滑な動作が保証される。
【0022】
駆動シャフトは、さらに第1の回転軸の周りに延びるスペーサ要素を有することができ、その高さは係合孔の領域における第2のバランス要素の厚さよりも大きい。このようにして、第1のバランス要素と第2のバランス要素はそれぞれ異なる高さにあり、互いに遮ることができない。
【0023】
第2のバランス要素の振動運動を制限するために、第1のバランス要素は、駆動シャフトに向かって隆起するウェブを有し、このウェブは第2のバランス要素の質量部に対するストッパを形成する。
【0024】
本発明の第2の態様は、上述したバランス機構を備えた、スクロール原理による容積式機械、特にスクロール圧縮機に関するものである。
【0025】
本発明による容積式機械は、好適な変形例において、ハブ部が、可動の、特に運転中に公転運動する容積式スパイラルと連結されたスクロール軸受を支えており、可動容積式スパイラルが静止した容積式スパイラルに突入係合するようにされている。
【0026】
以下に、本発明を実施形態例により、模式的図面を参照しながらより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、本発明によるバランス機構をスクロール原理による容積式機械内に取り付けた状態における縦断面図である。
【
図2】
図2は、取り付けた状態における
図1のバランス機構の透視平面図である。
【
図3】
図3は、容積式機械の可動容積式スパイラルのスクロール軸受が追加的に示されている、
図1のバランス機構の透視側面図である。
【
図4】
図4は、第2のバランス要素を見やすくするために第1のバランス要素を省略した、
図1のバランス機構の詳細な透視図である。
【
図5】
図5は、両バランス要素を有する
図1のバランス機構の透視図である。
【
図7】
図7は、発生する力も示されている、
図1のバランス機構の種々の構成要素の中心軸と重心の位置の幾何学的表現図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1に、本発明の実施形態によるバランス機構が断面図で示されている。バランス機構は駆動シャフト10を含んでおり、これは圧縮機ハウジングの隔壁42内でスクロール側の駆動シャフト軸受34を介して支持されている。駆動シャフト10は、さらに反対側の端部でもハウジング側のシャフト軸受に支持されているが、これは見やすくするために
図1では示されていない。隔壁42は通常、容積式機械、好ましくはスクロール原理による容積式機械、特にスクロール圧縮機の外側ハウジング内に固定配置されている。隔壁42は、容積式機械内部で圧縮機領域を駆動領域から仕切っている。駆動領域には、駆動シャフト10の大部分が配置されていて、駆動シャフト10は機械的又は特に好ましくは電気的に、とりわけ電動モータによって駆動される。電動モータも駆動領域に配置されていることが好ましい。
【0029】
駆動領域において、駆動シャフト10はその他に2つのバランスウエイト14、15を有している。第1のバランスウェイト14は、駆動シャフト10の圧縮領域とは反対側の端部に配置されて、駆動シャフト10と固定連結されている。第2のバランスウェイト15は、駆動シャフト10の圧縮領域に面する側に、特に隔壁42の直近に配置されている。第2のバランスウェイト15も同様に駆動シャフト10と固定連結されている。したがって、バランスウエイト14、15は、運転中に駆動シャフト10と一緒に回転して、アンバランスを補正する。
【0030】
駆動シャフト軸受34は、隔壁42内に保持されている。特に駆動シャフト軸受34は、この目的のために対応する凹部を有する隔壁42とプレス連結することができる。さらに、駆動シャフト10を駆動シャフト軸受34に圧入することも可能である。駆動シャフト軸受34は、ボール軸受として形成されていることが好ましい。
【0031】
駆動シャフト10の圧縮領域に面する端部には、2つの袋孔16、17が設けられている。第1の袋孔16は、第1の回転軸11を受け入れる。第2の袋孔17は、第2の回転軸12を受け入れる。第1の袋孔16は、好ましくは第2の袋孔17よりも大きい断面直径を有する、回転軸11、12はそれぞれ各袋孔16、17に圧入されている。そのため各回転軸11、12と付属の袋孔16、17との間には、回転不能な力連結が存在する。
【0032】
図1ではその他に、袋孔16、17若しくは回転軸11、12が駆動シャフト10の中心軸に対して中心から離れて配置されていることも明確に確認できる。つまり回転軸11、12は、駆動シャフト10と同軸に位置合わせされておらず、駆動シャフト10の中心軸に対して実質的に偏心してずれている。
【0033】
駆動シャフト10は、さらに第1の回転軸11の領域に延長部を有し、これがスペーサ要素13を形成している。スペーサ要素13は、駆動シャフト10と一体的に形成されている。スペーサ要素13は、特に環状突起として形成することができる。袋孔16は、スペーサ要素13を貫通して延び、好ましくは袋孔16の全長にわたって一定の内部断面直径を有する。
【0034】
第2の回転軸12は、駆動シャフト10の長手方向の端部を超えて突出している。しかしながら、第2の回転軸12の第2の袋孔17を越えて突出する部分の高さは、好ましくはスペーサ要素13の高さよりも小さい。両回転軸11、12はそれぞれ、以下に詳述するバランス要素20、30に収容されている。
【0035】
第1の回転軸11上には、第1のバランス要素20が配置されている。第1のバランス要素20は、第1の回転軸11上に揺動可能に支持されている。具体的には、第1のバランス要素20は、実質的に円筒状に成型されたハブ部21を有する。ハブ部21は、第1の回転軸11が突入係合する嵌合孔23を含んでいる。第1の回転軸11と嵌合孔23との間には遊びがあり、そのためハブ部21若しくは第1のバランス要素20は、概して第1の回転軸11を中心に回転若しくは揺動することができる。その限りで、嵌合孔23と第1の回転軸11との間には、実質的に滑り軸受がある。
【0036】
ハブ部21は、スクロール軸受41内に延びている。ハブ部21は、好ましくはスクロール軸受41とプレス連結されている。スクロール軸受41は可動容積式スパイラル40のスクロール軸受収容部に配置されている。スクロール軸受41はボール軸受によって形成されていることが好ましい。スクロール軸受41は、好ましくは可動容積式スパイラル40とプレス連結されている。
【0037】
図1では、可動容積式スパイラル40を部分的にしか示していない。いずれにしても、可動容積式スパイラル40がスパイラル壁44を有していることは見て取れるが、これも
図1では略示されているにすぎない。通常、スパイラル壁44の高さは、ここで模式的に示した高さよりも大きい。スパイラル壁44は、反対側に配置されている固定した、特に位置固定した容積式スパイラルの対応するスパイラル壁に突入係合するが、これも見やすさの理由から
図1には示されていない。
【0038】
可動容積式スパイラル40は、圧縮機のハウジングと固定連結されたガイドピン43によって案内されている。ガイドピンは、可動容積式スパイラル40の対応するガイドスペース45に突入係合して、可動容積式スパイラル40が回転するのを妨げる。むしろ可動容積式スパイラル40は公転運動する、つまり所定の周回運動軌道を辿るようになっている。
【0039】
図2は、バランス機構の平面図である。
図2における視線方向は、実質的に圧縮機の圧縮室から圧縮機の駆動室に向かっている。特に、駆動シャフト軸受34が圧入している隔壁42が見える。駆動シャフト軸受34のさらに上方にある隔壁42内のスペースに、バランス要素20、30が配置されている。第1のバランス要素20はハブ部21を有し、その中に嵌合孔23が形成されている。嵌合孔23は、明らかにハブ部21の中心から離れて位置合わせされている。つまり第1の回転軸11の中心軸は、円筒状ハブ部21の中心軸と一致して延びておらず、むしろハブ部21の中心軸に対して距離を有している。ハブ部21の高さは、好ましくは第1の回転軸11が第1の袋孔16上に突出する部分の高さに対応している。
【0040】
第1のバランス要素20は、さらに、ハブ部21と一体的に連結された第1の力伝達部22を含んでいる。第1の力伝達部22は、第1の凹部22aを有する。この第1の凹部22aは、実質的に三角形の形状、特に直角三角形をしている。その限りで第1の凹部22aは第1の力伝達部22の肉厚が減少した領域を形成して、第1の力伝達部22を軽量化する働きをしている。第1の力伝達部22は、全体として実質的にL字形をしており、ハブ部21の半径方向外側に突出する腕のように延びている。第1のバランス要素20は、全体として一体的に形成されている。
【0041】
第2の力伝達部32に、周方向において第1の力伝達部22が接触している。第2の力伝達部32は、第2のバランス要素30の一部である。第2のバランス要素30はその他に質量部31を含んでおり、これは駆動シャフト軸受34の周方向において第2の力伝達部32から離間して配置されている。つまり、質量部31と第2の力伝達部32は、第2の回転軸12に対して互いに鈍角に配置されている。第2のバランス要素30も同様に、全体として一体的に形成されている。
【0042】
図2では、駆動シャフト10の長手軸方向で駆動シャフト軸受34と第1のバランス要素20との間に、第2のバランス要素30が配置されていることも見て取れる。しかしながら、少なくとも力伝達部22、32において、駆動シャフト10の長手軸方向に重なりがあるため、両バランス要素20、30の力伝達部22、32は互いに当接できる。この場合、力伝達部22、32は、周方向若しくは駆動シャフト10の回転方向で互いに当接する。バランス要素20、30の間には、駆動シャフト10の長手軸方向において接触がないことが好ましい。むしろバランス要素20、30は、各回転軸11、12を中心に互いに独立に振動できるようになっている。
【0043】
図2ではさらに、第2のバランス要素30の質量部32が、実質的に厚肉部を形成し、これも長手軸方向で第1のバランス要素20と少し重なっていることが見て取れる。これにより、第2のバランス要素20を省スペースで設置することが可能になると同時に、アンバランスの補正に必要な質量を質量部31に挿入できる。
【0044】
第2の力伝達部32との連結アームは、第2の凹部32aを含んでおり、これも同様に第2のバランス要素30の肉厚が減少した領域を形成している。このようにして、第2の力伝達部32の領域で材料、ひいては質量が節約され、バランス機構の改善された運転を保証する。
【0045】
図3は、再びバランス機構を透視側面図で示したものである。その中で、特にバランスウエイト14、15の形状とその位置、及び駆動シャフト10における位置合わせがよく見て取れる。駆動シャフト10の一方の長手方向端部に、バランス要素20、30が配置されている。その他にバランス要素20、30の後に駆動シャフト10の長手方向端部に続くスクロール軸受41が示されている。
【0046】
図4による詳細図では、第2のバランス要素30の形状と位置がよく見える。第2のバランス要素30は、好ましくは貫通孔として形成された係合孔33を有する。係合孔33は、第2の回転軸12を受け入れる。好ましくは係合孔33と第2の回転軸12の間に遊びがあり、そのため第2の回転軸12と係合孔33との間には実質的に滑り軸受連結が存在する。このようにすると、第2のバランス要素30は、第2の回転軸12を中心に振動することができる。
【0047】
質量部31の領域には、その他に第3の凹部31aが見て取れる。第3の凹部31aは、一部の領域で質量部31の材料を減少させ、それによって質量部31における質量分布が改善される。この質量分布は、スクロール圧縮機の振動の低減に特に有利であることがわかっている。また、
図4では、スペーサ要素30の高さが、駆動シャフト10の延在領域における第2のバランス要素30の厚みよりも大きいことがわかる。こうすることにより、第1の回転軸11上に着座してスペーサ要素13に当接する第1のバランス要素20が、駆動シャフト10の長手軸方向において第2のバランス要素30との間隔を維持することが確保されている。
【0048】
さらに
図5と
図6において、第1のバランス要素20は、駆動シャフト10の長手軸方向において駆動シャフト10に向かって延びるウェブ24を有することが見て取れる。ウェブ24は、第1のバランス要素20の外側に配置されて、実質的にハブ部21の間隔で第1の力伝達部22まで延びている。ウェブ24は、第1の力伝達部22に対向する領域においてストッパ25を形成している。ストッパ25は、駆動シャフト10の長手軸方向において第2のバランス要素30の質量部31と重なり、質量部31がストッパ25に突き当たることができるようにされている。それにより第1のバランス要素20と第2のバランス要素30との間の相対振動が制限される。実質的に、第2のバランス要素30は第1のバランス要素20に対して相対的に、一方ではストッパ25によって、他方では第1の力伝達部22によって制限された範囲でのみ振動することができる。
【0049】
容積式機械、特にスクロール圧縮機の、本発明において特に有利な動作円滑性にとって非常に重要なのは、バランス機構の種々の構成要素の中心軸と重心の位置である。この中心軸若しくは回転軸と重心の特別の配置について、以下に
図7に示す幾何図を用いて詳しく説明する。
【0050】
図7に、駆動シャフト10、第1の回転軸11、第2の回転軸12、及びハブ部21の断面が円で示されている。別の2つの円は、力伝達部22、32のそれぞれの質量を示している。
【0051】
駆動シャフト10は、中心軸Sを有する。ハブ部21は、中心軸Cを有する。
図7では、ハブ部21の中心軸Cが、駆動シャフト10の中心軸Sに対して偏心配置されていることが見て取れる。駆動シャフト10とハブ部21の中心軸C、Sを結ぶ線を、第1の基準線CSと称する。
【0052】
第1の回転軸11は、中心軸Pを有する。第2の回転軸12は、中心軸Qを含んでいる。第2の基準線PQは、回転軸11、12の中心軸P、Qを通って延びている。
【0053】
第1のバランス要素20は、
図7に示す重心Jを有する。重心Jに作用する遠心力F
CJも示されている。
【0054】
第2のバランス要素30は重心Kを有しており、
図7には重心に作用する遠心力F
CKと共に示されている。第1の基準線CSを見ると、第1の回転軸11の中心軸Pが第1の基準線CSの一方の側に配置されているのに対し、バランス要素20、30の重心J、Kが第1の基準線CSの他方の側に配置されていることがわかる。したがって、この配置は、バランス要素の重心とその回転中心が第1の基準線の同じ側に配置されている、特許文献2による先行技術とは本質的に異なっている。即ち、この先行技術では、中心軸Pと重心Jとは第1の基準線CSの同じ側に位置している。
【0055】
回転軸11、12の中心軸を結ぶ第2の基準線PQに関して、第2のバランス要素30の重心Kが第2の基準線PQの一方の側に配置されているのに対し、第1のバランス要素20の重心Jは第2の基準線PQの他方の側に配置されていることが見て取れる。しかしながら、第1のバランス要素20のハブ部21の中心軸は、第2の基準線PQに対して、第2のバランス要素30の重心Kと同じ側に配置されている。これに対し、駆動シャフト10の中心軸Sは、第2の基準線PQの第1のバランス要素20の重心Jと同じ側に配置されている。
【0056】
換言すれば、第1のバランス要素20のハブ部21と駆動シャフト10の中心軸は、第2の基準線PQの異なる側に位置する。同様に、バランス要素20、30の重心J、Kは、第2の基準線PQの異なる側に位置する。駆動シャフト10の中心軸Sと第1のバランス要素20の重心Jは、第2の基準線PQの一方の側に位置するのに対し、ハブ部21の中心軸Cと第2のバランス要素30の重心Kは、第2の基準線PQの他方の側に配置されている。
【0057】
図7では、第2のバランス要素30の重心Kは第2の基準線PQに対して、第1のバランス要素20の重心Jよりも著しく大きい距離を有することも見て取れる。第1の基準線CSに関しても同様である。第2のバランス要素30の重心Kは第1の基準線CSに対して、第1のバランス要素20の重心Jよりも大きい距離を有する。このことは、好ましくは、第2のバランス要素30の質量部31と力伝達部32が、第2の基準線PQの同じ側に配置されることによって実現される。第2のバランス要素30の質量部31と第2の力伝達部32は、完全に第2の基準線PQの一方の側に配置されるように、互いに位置合わせされて配置されている。
【0058】
バランス要素20、30の間に機械的相互作用があることを明確にするために、
図7には、力伝達部22、32の接触によって発生する力F
Nも示している。つまり、バランス機構の作動中に、第1の力伝達部22は第2の力伝達部32に力を伝達し、第2の力伝達部32は対応する反力を発生する。力伝達部22、32は、力と反力が互いにバランスするように形成されていることが好ましい。
態様(1)において、スクロール原理による容積式機械、特にスクロール圧縮機用のバランス機構であって、前記バランス機構は、駆動シャフト(10)と、第1のバランス要素(20)と、第2のバランス要素(30)とを有し、前記第1のバランス要素(20)は、円筒状のハブ部(21)と第1の力伝達部(22)とを備え、第1の回転軸(11)を介して前記駆動シャフト(10)と回転可能に接触し、前記第2のバランス要素(30)は、第2の回転軸(12)を介して前記駆動シャフト(10)と回転可能に接触し、前記駆動シャフト(10)の中心軸S及び円筒状の前記ハブ部(21)の中心軸Cは、第1の基準線CS上に配置され、前記第1のバランス要素(20)の重心J及び前記第2のバランス要素(30)の重心Kは、前記第1の基準線CSに対して前記第1の回転軸(11)の中心軸Pとは異なる側に配置されている。
態様(2)において、前記ハブ部(21)は、前記第1の回転軸(11)が係合するための偏心配置された嵌合孔(23)を有することを特徴とする。
態様(3)において、前記第2のバランス要素(30)は、前記第2の回転軸(12)が係合するための係合孔(33)を有することを特徴とする。
態様(4)において、前記第1の回転軸(11)は、前記ハブ部(21)と固定的に、特にモノリシックに、かつ偏心して連結されて、前記駆動シャフト(10)の第1の袋孔(16)内で回転可能に支持されていることを特徴とする。
態様(5)において、前記第2の回転軸(12)は、前記第2のバランス要素(30)と固定的に、特にモノリシックに連結されて、前記駆動シャフト(10)の第2の袋孔(17)内で回転可能に支持されていることを特徴とする。
態様(6)において、前記第2のバランス要素(30)は、前記第1のバランス要素(20)と駆動シャフト軸受(34)との間に配置されていることを特徴とする。
態様(7)において、前記第1のバランス要素(20)は、第1の力伝達部(22)を有することを特徴とする。
態様(8)において、前記第2のバランス要素(30)は、前記第1の回転軸(11)の中心軸Pと前記第2の回転軸(12)の中心軸Qとを結ぶ第2の基準線PQに対して同じ側に配置されている質量部(31)と第2の力伝達部(32)とを有することを特徴とする。
態様(9)において、前記第2のバランス要素(30)の前記第2の力伝達部(32)は、前記第1のバランス要素(20)の前記第1の力伝達部(22)に力を伝達するように当接していることを特徴とする。
態様(10)において、前記第1のバランス要素(20)と前記第2のバランス要素(30)とは、一体的に、特にモノリシックに形成されていることを特徴とする。
態様(11)において、前記駆動シャフト(10)は、前記第1の回転軸(11)の周りに延びるスペーサ要素(13)を有し、前記係合孔(33)の領域における前記第2のバランス要素(30)の厚さよりも大きい高さを有することを特徴とする。
態様(12)において、前記第1のバランス要素(20)は、前記駆動シャフト(10)へ向けて隆起し、かつ、前記第2のバランス要素(30)の前記質量部(31)に対するストッパ(25)を形成するウェブ(24)を有することを特徴とする。
態様(13)において、態様(1)から態様(12)の何れか1の態様に記載のバランス機構を備える、スクロール原理による、特にスクロール圧縮機である容積式機械。
態様(14)において、前記ハブ部(21)は、可動容積式スパイラル(40)、特に作動中に公転運動する可動容積式スパイラル(40)と連結されたスクロール軸受(41)を支えており、前記可動容積式スパイラル(40)は固定容積式スパイラルに係合することを特徴とする。
【符号の説明】
【0059】
10 駆動シャフト
11 第1の回転軸
12 第2の回転軸
13 スペーサ
14 第1のバランスウェイト
15 第2のバランスウェイト
16 第1の袋孔
17 第2の袋孔
20 第1のバランス要素
21 ハブ部
22 第1の力伝達部
22a 第1の凹部
23 嵌合孔
24 ウェブ
25 ストッパ
30 第2のバランス要素
31 質量部
31a 第3の凹部
32 第2の力伝達部
32a 第2の凹部
33 係合孔
34 駆動シャフト軸受
40 可動容積式スパイラル
41 スクロール軸受
42 隔壁
43 ガイドピン
44 スパイラル壁
45 ガイドスペース