(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】ブレーキ装置の制御装置、ブレーキ装置の制御方法およびブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
B60T 8/00 20060101AFI20241108BHJP
B60T 13/74 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
B60T8/00 Z
B60T13/74 G
(21)【出願番号】P 2023522258
(86)(22)【出願日】2022-03-09
(86)【国際出願番号】 JP2022010271
(87)【国際公開番号】W WO2022244405
(87)【国際公開日】2022-11-24
【審査請求日】2023-05-15
(31)【優先権主張番号】P 2021085002
(32)【優先日】2021-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002457
【氏名又は名称】弁理士法人広和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木川 昌之
(72)【発明者】
【氏名】松崎 則和
(72)【発明者】
【氏名】山口 直
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-076479(JP,A)
【文献】特開2020-001523(JP,A)
【文献】特開2015-047945(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12-8/1769
B60T 8/32-8/96
B60T 13/00-13/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ装置の制御装置であって、
車輪とともに回転する回転部材に、液圧により摩擦部材を押圧することで車両に制動力を付与する液圧機構と、
コントロール部によって制御される電動モータにより前記制動力を保持するパーキングブレーキ機構と、を備え、
前記コントロール部は、
前記パーキングブレーキ機構の保持動作であるアプライ動作の際に、前記電動モータに通電される電流変化
の勾配である第1物理量を取得し、
前記第1物理量が所定の閾値を超える場合、前記第1物理量が前記閾値と同じ場合又は前記閾値より小さい場合と比較して、前記アプライ動作の完了を示す第2物理量を、小さくなるようにし、
前記アプライ動作を示す物理量が、前記第2物理量に達したら前記アプライ動作の完了とする、
ブレーキ装置の制御装置。
【請求項2】
請求項
1に記載のブレーキ装置の制御装置であって、
前記第2物理量は、前記アプライ動作の完了を示す電流値である、
ブレーキ装置の制御装置。
【請求項3】
請求項
2に記載のブレーキ装置の制御装置であって、
前記コントロール部は、
前記アプライ動作の際に、前記電動モータに流れる突入電流を検出した後の前記電流変化の勾配が前記閾値を超える場合、前記電流変化の勾配が前記閾値と同じ場合又は前記閾値より小さい場合と比較して、前記アプライ動作の完了を示す電流値を、小さくなるようにする、
ブレーキ装置の制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載のブレーキ装置の制御装置であって、
前記コントロール部は、
前記第1物理量が前記閾値を超える場合、前記車両の乗員によ
るブレーキペダルの踏み込み有りと判断する、
ブレーキ装置の制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載のブレーキ装置の制御装置であって、
前記コントロール部は、
前記車両の停車を判定した場合において、
前記第1物理量が前記閾値を超える場合、前記第1物理量が前記閾値と同じ場合又は前記閾値より小さい場合と比較して、前記アプライ動作の完了を示す第2物理量を、小さくなるようにし、
前記アプライ動作を示す物理量が、前記第2物理量に達したら前記アプライ動作の完了とする、
ブレーキ装置の制御装置。
【請求項6】
請求項1に記載のブレーキ装置の制御装置であって、
前記コントロール部は、
前記液圧の大きさに応じて、前記第2物理量を小さくする、
ブレーキ装置の制御装置。
【請求項7】
ブレーキ装置の制御方法であって、
前記ブレーキ装置は、車輪とともに回転する回転部材に、液圧により摩擦部材を押圧することで車両に制動力を付与する液圧機構と、電動モータにより前記制動力を保持するパーキングブレーキ機構と、を備え、
前記電動モータを制御するコントロール部により、
前記パーキングブレーキ機構の保持動作であるアプライ動作の際に、前記電動モータに通電される電流変化
の勾配である第1物理量を取得し、
前記第1物理量が所定の閾値を超える場合、前記第1物理量が前記閾値と同じ場合又は前記閾値より小さい場合と比較して、前記アプライ動作の完了を示す第2物理量を、小さくなるようにし、
前記アプライ動作を示す物理量が、前記第2物理量に達したら前記アプライ動作の完了とする、
ブレーキ装置の制御方法。
【請求項8】
ブレーキ装置であって、
車輪とともに回転する回転部材に、液圧により摩擦部材を押圧することで車両に制動力を付与する液圧機構と、
電動モータにより前記制動力を保持するパーキングブレーキ機構と、
前記電動モータを制御するコントロール部を備える制御装置であって、
前記コントロール部は、
前記パーキングブレーキ機構の保持動作であるアプライ動作の際に、前記電動モータに通電される電流変化
の勾配である第1物理量を取得し、
前記第1物理量が所定の閾値を超える場合、前記第1物理量が前記閾値と同じ場合又は前記閾値より小さい場合と比較して、前記アプライ動作の完了を示す第2物理量を、小さくなるようにし、
前記アプライ動作を示す物理量が、前記第2物理量に達したら前記アプライ動作の完了とする、
制御装置と、
を備えるブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ブレーキ装置の制御装置、ブレーキ装置の制御方法およびブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ディスクブレーキと、電動パーキングブレーキ機構と、電動倍力装置と、マスタシリンダとを備えたブレーキシステムが開示されている。ディスクブレーキは、電動倍力装置とマスタシリンダによって供給されたMC液圧に応じて、ブレーキパッドをディスクロータに押付けて、制動力を発生させる。電動パーキングブレーキ機構は、パーキングブレーキスイッチの操作に応じて、ディスクブレーキのWCピストンを動作させ、ディスクブレーキに駐車制動力を発生させる。ブレーキ操作中に電動パーキングブレーキ機構が作動すると、電動倍力装置は、液圧回路の内の液量が一定となるように、電動アクチュエータを制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術によれば、電動パーキングブレーキ機構によりブレーキパッドを押圧するピストンを進めた分の液圧変化を、電動倍力装置で補填することで、ブレーキペダル反力の違和感を抑制している。このため、負圧ブースタ等の電制(電動)ではない倍力装置を用いた場合に、ブレーキペダル反力の違和感を抑制できなくなるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の目的の一つは、ブレーキシステムの構成に関わらず、電動パーキングブレーキ機構を作動させたときのブレーキペダル反力の違和感を抑制できるブレーキ装置の制御装置、ブレーキ装置の制御方法、及びブレーキ装置を提供することにある。
【0006】
本発明の一実施形態は、ブレーキ装置の制御装置であって、車輪とともに回転する回転部材に、液圧により摩擦部材を押圧することで車両に制動力を付与する液圧機構と、コントロール部によって制御される電動モータにより前記制動力を保持するパーキングブレーキ機構と、を備え、前記コントロール部は、前記パーキングブレーキ機構の保持動作であるアプライ動作の際に、前記電動モータに通電される電流変化の勾配である第1物理量を取得し、前記第1物理量が所定の閾値を超える場合、前記第1物理量が前記閾値と同じ場合又は前記閾値より小さい場合と比較して、前記アプライ動作の完了を示す第2物理量を、小さくなるようにし、前記アプライ動作を示す物理量が、前記第2物理量に達したら前記アプライ動作の完了とする。
【0007】
また、本発明の一実施形態は、ブレーキ装置の制御方法であって、ブレーキ装置は、車輪とともに回転する回転部材に、液圧により摩擦部材を押圧することで車両に制動力を付与する液圧機構と、電動モータにより前記制動力を保持するパーキングブレーキ機構と、を備え、前記電動モータを制御するコントロール部により、前記パーキングブレーキ機構の保持動作であるアプライ動作の際に、前記電動モータに通電される電流変化の勾配である第1物理量を取得し、前記第1物理量が所定の閾値を超える場合、前記第1物理量が前記閾値と同じ場合又は前記閾値より小さい場合と比較して、前記アプライ動作の完了を示す第2物理量を、小さくなるようにし、前記アプライ動作を示す物理量が、前記第2物理量に達したら前記アプライ動作の完了とする。
【0008】
さらに、本発明の一実施形態は、ブレーキ装置であって、車輪とともに回転する回転部材に、液圧により摩擦部材を押圧することで車両に制動力を付与する液圧機構と、電動モータにより前記制動力を保持するパーキングブレーキ機構と、前記電動モータを制御するコントロール部を備える制御装置であって、前記コントロール部は、前記パーキングブレーキ機構の保持動作であるアプライ動作の際に、前記電動モータに通電される電流変化の勾配である第1物理量を取得し、前記第1物理量が所定の閾値を超える場合、前記第1物理量が前記閾値と同じ場合又は前記閾値より小さい場合と比較して、前記アプライ動作の完了を示す第2物理量を、小さくなるようにし、前記アプライ動作を示す物理量が、前記第2物理量に達したら前記アプライ動作の完了とする、制御装置と、を備える。
【0009】
本発明の一実施形態によれば、ブレーキシステムの構成に関わらず、パーキングブレーキ機構(電動パーキングブレーキ機構)を作動させたときのブレーキペダル反力の違和感を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態によるブレーキ装置が搭載された車両の概念図。
【
図2】
図1中の後輪側に設けられた電動パーキングブレーキ機能付の液圧式ディスクブレーキを拡大して示す縦断面図。
【
図3】
図1中の制御装置を後輪側ディスクブレーキ等と共に示すブロック図(回路構成図)。
【
図4】
図3中の制御装置を示すブロック図(制御ブロック図)。
【
図5】
図4中の突入電流検出部で行われる処理(突入電流検出処理)を示す流れ図。
【
図6】
図4中の車両停車判定部で行われる処理(車両停車判定処理)を示す流れ図。
【
図7】
図4中のペダル踏み有無検出部で行われる処理(ペダル踏み有無検出処理)を示す流れ図。
【
図8】
図4中のアプライ完了判定部で行われる処理(アプライ完了判定処理)を示す流れ図。
【
図9】WC圧(液圧)とアプライ完了閾値との関係の一例を示す特性線図。
【
図10】
図4中のモータ駆動信号算出部の処理(モータ駆動信号算出処理)を示す説明図。
【
図11】モータ駆動指令(モータ駆動信号)と駆動回路の動作との関係の一例を一覧として示す説明図。
【
図12】アプライ時とリリース時の電流の時間変化の一例を示す特性線図。
【
図13】「ペダル踏み無し」の場合と「ペダル踏み有り」の場合のアプライ時の電流の時間変化を示す特性線図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態による電動ブレーキの制御装置および電動ブレーキ装置を、4輪自動車に搭載した場合を例に挙げ、添付図面に従って説明する。なお、
図5-8に示す流れ図の各ステップは、それぞれ「S」という表記を用いる(例えば、ステップ1=「S1」とする)。
【0012】
図1において、車両のボディを構成する車体1の下側(路面側)には、例えば左右の前輪2(FL,FR)と左右の後輪3(RL,RR)とからなる合計4個の車輪が設けられている。車輪(各前輪2、各後輪3)は、車体1と共に車両を構成している。車両には、制動力を付与するためのブレーキシステムが搭載されている。以下、車両のブレーキシステムについて説明する。
【0013】
前輪2および後輪3が取付けられる部位には、それぞれの車輪(各前輪2、各後輪3)と共に回転する被制動部材(回転部材)としてのディスクロータ4が設けられている。前輪2用のディスクロータ4は、液圧式のディスクブレーキである前輪側ディスクブレーキ5により制動力が付与される。後輪3用のディスクロータ4は、電動パーキングブレーキ機能付の液圧式のディスクブレーキである後輪側ディスクブレーキ6により制動力が付与される。
【0014】
左右の後輪3に対応してそれぞれ設けられた一対(一組)の後輪側ディスクブレーキ6は、液圧によりブレーキパッド6C(
図2参照)をディスクロータ4に押圧して制動力を付与する液圧式のブレーキ機構(液圧ブレーキ)である。
図2に示すように、後輪側ディスクブレーキ6は、例えば、キャリアと呼ばれる取付部材6Aと、ホイルシリンダとしてのキャリパ6Bと、制動部材(摩擦部材、摩擦パッド)としての一対のブレーキパッド6Cと、押圧部材としてのピストン6Dとを備えている。この場合、キャリパ6Bとピストン6Dは、液圧によりピストン6Dが移動してブレーキパッド6Cをディスクロータ4に押圧することで車両に制動力を付与する液圧機構(シリンダ機構)を構成している。
【0015】
取付部材6Aは、車両の非回転部に固定されており、ディスクロータ4の外周側を跨いで配置されている。キャリパ6Bは、取付部材6Aにディスクロータ4の軸方向への移動を可能に設けられている。キャリパ6Bは、シリンダ本体部6B1と、爪部6B2と、これらを接続するブリッジ部6B3とを含んで構成されている。シリンダ本体部6B1には、シリンダ(シリンダ穴)6B4が設けられており、シリンダ6B4内にはピストン6Dが挿嵌されている。ブレーキパッド6Cは、取付部材6Aに移動可能に取付けられており、ディスクロータ4に当接可能に配置されている。ピストン6Dは、ブレーキパッド6Cをディスクロータ4に押圧する。
【0016】
ここで、キャリパ6Bは、ブレーキペダル9の操作等に基づいてシリンダ6B4内に液圧(ブレーキ液圧)が供給(付加)されることにより、ブレーキパッド6Cをピストン6Dで推進する。このとき、ブレーキパッド6Cは、キャリパ6Bの爪部6B2とピストン6Dとによりディスクロータ4の両面に押圧される。これにより、ディスクロータ4と共に回転する後輪3に制動力が付与される。
【0017】
さらに、後輪側ディスクブレーキ6は、電動アクチュエータ7と回転直動変換機構8とを備えている。電動アクチュエータ7は、電動機としての電動モータ7Aと、該電動モータ7Aの回転を減速する減速機(図示せず)とを含んで構成されている。電動モータ7Aは、ピストン6Dを推進するための推進源(駆動源)となるものである。回転直動機構である回転直動変換機構8は、ブレーキパッド6Cの押圧力を保持する保持機構(押圧部材保持機構)を構成している。
【0018】
この場合、回転直動変換機構8は、電動モータ7Aの回転をピストン6Dの軸方向の変位(直動変位)に変換すると共に該ピストン6Dを推進する回転直動部材8Aを含んで構成されている。回転直動部材8Aは、例えば、雄ねじが形成された棒状体からなるねじ部材8A1と、雌ねじ穴が内周側に形成された推進部材となる直動部材8A2とにより構成されている。回転直動変換機構8は、電動モータ7Aの回転をピストン6Dの軸方向の変位に変換すると共に、電動モータ7Aにより推進したピストン6Dを保持する。即ち、回転直動変換機構8は、電動モータ7Aによりピストン6Dに推力を与え、該ピストン6Dによりブレーキパッド6Cを推進してディスクロータ4を押圧し、該ピストン6Dの推力を保持する。回転直動変換機構8は、電動モータ7Aの通電をOFFしても、押圧状態を保持できるネジ機構等を用いることができる。
【0019】
回転直動変換機構8は、電動モータ7Aと共に、パーキングブレーキ機構(電動パーキングブレーキ機構)を構成している。パーキングブレーキ機構は、電動モータ7Aの回転力を減速機と回転直動変換機構8とを介して推力に変換し、ピストン6Dを推進(変位)することにより、ブレーキパッド6Cをディスクロータ4に押圧して車両の制動力を保持する。パーキングブレーキ機構(即ち、電動モータ7Aおよび回転直動変換機構8)は、液圧機構(即ち、キャリパ6Bおよびピストン6D)と後述の制動用制御装置17と共に、ブレーキ装置(電動ブレーキ装置)を構成している。パーキングブレーキ機構は、電動モータ7Aにより制動力を保持する。後述するように、電動モータ7Aは、制動用制御装置17のコントロール部(演算回路24)によって制御される。
【0020】
後輪側ディスクブレーキ6は、ブレーキペダル9の操作等に基づいて発生するブレーキ液圧によりピストン6Dを推進させ、ブレーキパッド6Cでディスクロータ4を押圧することにより、車輪(後輪3)延いては車両に制動力を付与する。これに加えて、後輪側ディスクブレーキ6は、後述するように、パーキングブレーキスイッチ23からの信号等に基づく作動要求に応じて、電動モータ7Aにより回転直動変換機構8を介してピストン6Dを推進させ、車両に制動力(パーキングブレーキ、必要に応じて走行中の補助ブレーキ)を付与する。
【0021】
即ち、後輪側ディスクブレーキ6は、電動モータ7Aを駆動し、回転直動部材8Aによりピストン6Dを推進することにより、ブレーキパッド6Cをディスクロータ4に押圧して保持する。この場合、後輪側ディスクブレーキ6は、パーキングブレーキ(駐車ブレーキ)を付与するためのアプライ要求となるパーキングブレーキ要求信号(アプライ要求信号)に応じて、ピストン6Dを電動モータ7Aで推進して車両の制動を保持する。これと共に、後輪側ディスクブレーキ6は、ブレーキペダル9の操作に応じて、液圧源(後述のマスタシリンダ12、必要に応じて液圧供給装置16)からの液圧供給により車両を制動する。
【0022】
このように、後輪側ディスクブレーキ6は、電動モータ7Aによりディスクロータ4にブレーキパッド6Cを押圧し該ブレーキパッド6Cの押圧力を保持する回転直動変換機構8を有し、かつ、電動モータ7Aによる押圧とは別に付加される液圧によりディスクロータ4にブレーキパッド6Cを押圧可能に構成されている。
【0023】
一方、左右の前輪2に対応してそれぞれ設けられた一対(一組)の前輪側ディスクブレーキ5は、パーキングブレーキの動作に関連する機構を除いて、後輪側ディスクブレーキ6とほぼ同様に構成されている。即ち、
図1に示すように、前輪側ディスクブレーキ5は、取付部材(図示せず)、キャリパ5A、ブレーキパッド(図示せず)、ピストン5B等を備えているが、パーキングブレーキの作動、解除を行うための電動アクチュエータ7(電動モータ7A)、回転直動変換機構8等を備えていない。しかし、前輪側ディスクブレーキ5は、ブレーキペダル9の操作等に基づいて発生する液圧によりピストン5Bを推進させ、車輪(前輪2)延いては車両に制動力を付与する点で、後輪側ディスクブレーキ6と同様である。即ち、前輪側ディスクブレーキ5は、液圧によりブレーキパッドをディスクロータ4に押圧して制動力を付与する液圧式のブレーキ機構(液圧ブレーキ)である。
【0024】
なお、前輪側ディスクブレーキ5は、後輪側ディスクブレーキ6と同様に、電動パーキングブレーキ機能付のディスクブレーキとしてもよい。また、後輪側ディスクブレーキを液圧式ディスクブレーキとし、前輪側ディスクブレーキを電動パーキングブレーキ機能付の液圧式ディスクブレーキとしてもよい。また、実施形態では、電動ブレーキ(電動パーキングブレーキ)として、電動モータ7Aを備えた液圧式のディスクブレーキ6を用いている。しかし、これに限定されず、電動ブレーキ(電動ブレーキ機構)は、例えば、電動モータによりシューをドラムに押付けて制動力を付与する電動式ドラムブレーキ、電動ドラム式のパーキングブレーキを備えたディスクブレーキ、電動モータでケーブルを引っ張ることによりパーキングブレーキをアプライ作動させるケーブルプラー式電動パーキングブレーキ等を用いてもよい。即ち、電動ブレーキ(電動ブレーキ機構)は、電動モータ(電動アクチュエータ)の駆動に基づいて摩擦部材(パッド、シュー)を回転部材(ロータ、ドラム)に押圧(推進)し、その押圧力の保持と解除とを行うことができる構成であれば、各種の電動ブレーキ(電動ブレーキ機構)を用いることができる。
【0025】
車体1のフロントボード側には、ブレーキペダル9が設けられている。ブレーキペダル9は、車両のブレーキ操作時に運転者(ドライバ)によって踏込み操作される。各ディスクブレーキ5,6は、ブレーキペダル9の操作に基づいて、常用ブレーキ(サービスブレーキ)としての制動力の付与および解除が行われる。ブレーキペダル9には、ブレーキランプスイッチ、ペダルスイッチ(ブレーキスイッチ)、ペダルストロークセンサ等のブレーキ操作検出センサ(ブレーキセンサ)10が設けられている。
【0026】
ブレーキ操作検出センサ10は、ECU(Electronic Control Unit)である制動用制御装置17に接続されている。ブレーキ操作検出センサ10は、ブレーキペダル9の踏込み操作の有無、または、その操作量を検出し、その検出信号を制動用制御装置17に出力する。ブレーキ操作検出センサ10の検出信号は、例えば、車両データバス20を介して伝送される(例えば、サスペンション制御用の制御装置等の他の制御装置に出力される)。
【0027】
ブレーキペダル9の踏込み操作は、倍力装置11を介して、油圧源(液圧源)として機能するマスタシリンダ12に伝達される。倍力装置11は、ブレーキペダル9とマスタシリンダ12との間に設けられた負圧ブースタ(気圧倍力装置)または電動ブースタ(電動倍力装置)として構成されている。倍力装置11は、ブレーキペダル9の踏込み操作時に、踏力を増力してマスタシリンダ12に伝える。このとき、マスタシリンダ12は、マスタリザーバ13から供給(補充)されるブレーキ液により液圧を発生させる。マスタリザーバ13は、ブレーキ液が収容された作動液タンクである。ブレーキペダル9により液圧を発生する機構は、上記の構成に限られるものではなく、ブレーキペダル9の操作に応じて液圧を発生する機構、例えば、ブレーキバイワイヤ方式の機構等であってもよい。
【0028】
マスタシリンダ12内に発生した液圧は、例えば一対のシリンダ側液圧配管14A,14Bを介して、液圧供給装置16(以下、ESC16という)に送られる。ESC16に送られた液圧は、ブレーキ側配管部15A,15B,15C,15Dを介して各ディスクブレーキ5,6に供給される。ESC16は、各ディスクブレーキ5,6とマスタシリンダ12との間に配置されている。ESC16は、マスタシリンダ12からシリンダ側液圧配管14A,14Bを介して出力される液圧を、ブレーキ側配管部15A,15B,15C,15Dを介して各ディスクブレーキ5,6に分配、供給する。
【0029】
ここで、ESC16は、液圧ブレーキ(前輪側ディスクブレーキ5、後輪側ディスクブレーキ6)の液圧を制御する液圧制御装置である。このために、ESC16は、複数の制御弁(図示せず)と、ブレーキ液圧を加圧する液圧ポンプ(図示せず)と、該液圧ポンプを駆動する電動モータ16A(
図3参照)と、余剰のブレーキ液を一時的に貯留する液圧制御用リザーバ(図示せず)とを含んで構成されている。ESC16の各制御弁および電動モータ16Aは、制動用制御装置17と接続されており、ESC16は、制動用制御装置17を含んで構成されている。
【0030】
ESC16の各制御弁の開閉と電動モータ16Aの駆動は、制動用制御装置17により制御される。即ち、制動用制御装置17は、ESC16の制御を行うESC用コントロールユニット(ESC用ECU)である。制動用制御装置17は、マイクロコンピュータを含んで構成されており、ESC16(の各制御弁のソレノイド、電動モータ16A)を電気的に駆動制御する。この場合、制動用制御装置17は、例えば、ESC16の液圧供給を制御し、かつ、ESC16の故障を検出する演算回路24、電動モータ16Aおよび各制御弁を駆動するESC駆動回路27等が内蔵されている。
【0031】
後述するように、制動用制御装置17は、ESC16の制御を行うESC制御装置としてのESC用コントロールユニット(ESC用ECU)であることに加えて、後輪側ディスクブレーキ6(の電動モータ7A)の制御を行うパーキングブレーキ制御装置としてのパーキングブレーキ用コントロールユニット(パーキングブレーキ用ECU)でもある。即ち、実施形態では、ESC制御装置(ESC用コントロールユニット)とパーキングブレーキ制御装置(パーキングブレーキ用コントロールユニット)とを、一つの制動用制御装置17で構成している。制動用制御装置17は、ESC16(の各制御弁のソレノイド、電動モータ16A)を電気的に駆動制御することに加えて、後輪側ディスクブレーキ6の電動モータ7Aを電気的に駆動制御する。
【0032】
制動用制御装置17は、ESC16の各制御弁(のソレノイド)、液圧ポンプ用の電動モータ16Aを個別に駆動制御する。これにより、制動用制御装置17は、ブレーキ側配管部15A-15Dを通じて各ディスクブレーキ5,6に供給するブレーキ液圧(ホイールシリンダ液圧)を減圧、保持、増圧または加圧する制御を、それぞれのディスクブレーキ5,6毎に個別に行う。この場合、制動用制御装置17は、ESC16を作動制御することにより、例えば、制動力配分制御、アンチロックブレーキ制御(液圧ABS制御)、車両安定化制御、坂道発進補助制御、トラクション制御、車両追従制御、車線逸脱回避制御、障害物回避制御(自動ブレーキ制御、衝突被害軽減ブレーキ制御)を実行する。
【0033】
ESC16は、運転者のブレーキ操作による通常の動作時においては、マスタシリンダ12で発生した液圧を、ディスクブレーキ5,6(のキャリパ5A,6B)に直接供給する。これに対し、例えば、アンチロックブレーキ制御等を実行する場合は、増圧用の制御弁を閉じてディスクブレーキ5,6の液圧を保持し、ディスクブレーキ5,6の液圧を減圧するときには、減圧用の制御弁を開いてディスクブレーキ5,6の液圧を液圧制御用リザーバに逃がすように排出する。さらに、車両走行時の安定化制御(横滑り防止制御)等を行うため、ディスクブレーキ5,6に供給する液圧を増圧または加圧するときは、供給用の制御弁を閉弁した状態で電動モータ16Aにより液圧ポンプを作動させ、該液圧ポンプから吐出したブレーキ液をディスクブレーキ5,6に供給する。このとき、液圧ポンプの吸込み側には、マスタシリンダ12側からマスタリザーバ13内のブレーキ液が供給される。
【0034】
制動用制御装置17には、車両電源となるバッテリ18(ないしエンジンによって駆動されるジェネレータ)からの電力が、電源ライン19を通じて給電される。
図1に示すように、制動用制御装置17は、車両データバス20に接続されている。なお、ESC16の代わりに、公知のABSユニットを用いることも可能である。さらに、ESC16を設けずに(即ち、省略し)、マスタシリンダ12とブレーキ側配管部15A-15Dとを直接的に接続することも可能である。
【0035】
車両データバス20は、車体1に搭載されたシリアル通信部としてのCAN(Controller Area Network)を構成している。車両に搭載された多数の電子機器(例えば、制動用制御装置17を含む各種のECU)は、車両データバス20により、それぞれの間で車両内の多重通信を行う。この場合、車両データバス20に送られる車両情報としては、例えば、ブレーキ操作検出センサ10、イグニッションスイッチ、シートベルトセンサ、ドアロックセンサ、ドア開センサ、着座センサ、車速センサ、操舵角センサ、アクセルセンサ(アクセル操作センサ)、スロットルセンサ、エンジン回転センサ、ステレオカメラ、ミリ波レーダ、勾配センサ(傾斜センサ)、シフトセンサ(トランスミッションデータ)、加速度センサ(Gセンサ)、車輪速センサ、車両のピッチ方向の動きを検知するピッチセンサ等からの検出信号(出力信号)による情報(車両情報)が挙げられる。
【0036】
さらに、車両データバス20に送られる車両情報としては、ホイルシリンダ圧(WC圧)を検出するWC圧力センサ21からの検出信号、マスタシリンダ圧(MC圧)を検出するMC圧力センサ22からの検出信号も挙げられる。なお、実施形態では、WC圧力センサ21とMC圧力センサ22との両方を設ける構成としたが、例えば、MC圧力センサ22によりWC圧力を推定可能であれば、WC圧力センサ21を省略してもよい。また、MC圧力センサ22は、ESC16に設けてもよいし、WC圧力センサ21をESC16に設けてもよい。
図3に示すように、WC圧力センサ21および/またはMC圧力センサ22は、例えば、制動用制御装置17に直接的に接続することができる。
【0037】
次に、電動パーキングブレーキについて説明する。
【0038】
車体1内には、運転席(図示せず)の近傍となる位置に、電動パーキングブレーキのスイッチとしてのパーキングブレーキスイッチ(PKB-SW)23が設けられている。パーキングブレーキスイッチ23は、運転者によって操作される操作指示部である。パーキングブレーキスイッチ23は、運転者の操作指示に応じたパーキングブレーキの作動要求(保持要求となるアプライ要求、解除要求となるリリース要求)に対応する信号(作動要求信号)を、制動用制御装置17へ伝達する。即ち、パーキングブレーキスイッチ23は、電動モータ7Aの駆動(回転)に基づいてピストン6D延いてはブレーキパッド6Cをアプライ作動(保持作動)またはリリース作動(解除作動)させるための作動要求信号(保持要求信号となるアプライ要求信号、解除要求信号となるリリース要求信号)を、制動用制御装置17に出力する。なお、パーキングブレーキの作動要求信号としては、アクセルペダル操作情報等、通信ラインとなる車両データバス20を経由して入力される信号を用いてもよい。
【0039】
運転者によりパーキングブレーキスイッチ23が制動側(アプライ側)に操作されたとき、即ち、車両に制動力を付与するためのアプライ要求(制動保持要求)があったときは、パーキングブレーキスイッチ23からアプライ要求信号(パーキングブレーキ要求信号、アプライ指令)が出力される。この場合は、後輪側ディスクブレーキ6の電動モータ7Aに、該電動モータ7Aを制動側に回転させるための電力が、制動用制御装置17を介して給電される。このとき、回転直動変換機構8は、電動モータ7Aの回転に基づいてピストン6Dをディスクロータ4側に推進(押圧)し、推進したピストン6Dを保持する。これにより、後輪側ディスクブレーキ6は、パーキングブレーキ(ないし補助ブレーキ)としての制動力が付与された状態、即ち、アプライ状態(制動保持状態)となる。
【0040】
一方、運転者によりパーキングブレーキスイッチ23が制動解除側(リリース側)に操作されたとき、即ち、車両の制動力を解除するためのリリース要求(制動解除要求)があったときは、パーキングブレーキスイッチ23からリリース要求信号(パーキングブレーキ解除要求信号、リリース指令)が出力される。この場合は、後輪側ディスクブレーキ6の電動モータ7Aに、該電動モータ7Aを制動側とは逆方向に回転させるための電力が、制動用制御装置17を介して給電される。このとき、回転直動変換機構8は、電動モータ7Aの回転によりピストン6Dの保持を解除する(ピストン6Dによる押圧力を解除する)。これにより、後輪側ディスクブレーキ6は、パーキングブレーキ(ないし補助ブレーキ)としての制動力の付与が解除された状態、即ち、リリース状態(制動解除状態)となる。
【0041】
制御装置(電動ブレーキ制御装置)としての制動用制御装置17は、後輪側ディスクブレーキ6(キャリパ6B、ピストン6D、電動モータ7A、回転直動変換機構8)と共に、ブレーキ装置(電動ブレーキ装置)を構成している。制動用制御装置17は、電動モータ7Aの駆動を制御する。このために、
図3に示すように、制動用制御装置17は、マイクロコンピュータ等によって構成される演算回路(CPU)24およびメモリ25を有している。制動用制御装置17には、バッテリ18(ないしエンジンによって駆動されるジェネレータ)からの電力が電源ライン19を通じて給電される。演算回路24は、例えば、同じ処理を並列に行うと共に互いに処理結果に相違がないかを監視するデュアルコア(二重回路)とすることができる。この場合には、一方のコア(回路)が故障しても、他方のコア(回路)で制御を継続(バックアップ)することができる。また、図示は省略するが、ESC用の演算回路と電動パーキングブレーキ用の演算回路との2つの演算回路を設ける構成としてもよい。
【0042】
制動用制御装置17は、前述したように、ESC16の各制御弁の開閉と電動モータ16Aの駆動を制御し、各ディスクブレーキ5,6に供給するブレーキ液圧を減圧、保持、増圧または加圧する。これに加えて、制動用制御装置17は、後輪側ディスクブレーキ6,6の電動モータ7A,7Aの駆動を制御し、車両の駐車、停車時(必要に応じて走行時)に制動力(パーキングブレーキ、補助ブレーキ)を発生させる。即ち、制動用制御装置17は、左右の電動モータ7A,7Aを駆動することにより、ディスクブレーキ6,6をパーキングブレーキ(必要に応じて補助ブレーキ)として作動(アプライ・リリース)させる。このために、制動用制御装置17は、入力側がパーキングブレーキスイッチ23に接続され、出力側は各ディスクブレーキ6,6の電動モータ7A,7Aに接続されている。
【0043】
制動用制御装置17は、ESC16の液圧供給の制御、電動パーキングブレーキのアプライ、リリースの制御を行うための演算回路24と、ESC16の電動モータ16A等を制御するためのESC駆動回路27と、電動パーキングブレーキの電動モータ7A,7Aを制御するためのモータ駆動回路28,28とを内蔵している。
【0044】
制動用制御装置17は、運転者のパーキングブレーキスイッチ23の操作による作動要求(アプライ要求、リリース要求)、パーキングブレーキのオートアプライ・オートリリースの判定による作動要求等に基づいて、左右の電動モータ7A,7Aを駆動し、左右のディスクブレーキ6,6のアプライ(保持)またはリリース(解除)を行う。このとき、後輪側ディスクブレーキ6では、各電動モータ7Aの駆動に基づいて、回転直動変換機構8によるピストン6Dおよびブレーキパッド6Cの保持または解除が行われる。このように、制動用制御装置17は、ピストン6D(延いてはブレーキパッド6C)の保持作動(アプライ)または解除作動(リリース)のための作動要求信号に応じて、ピストン6D(延いてはブレーキパッド6C)を推進するべく電動モータ7Aを駆動制御する。
【0045】
図3に示すように、制動用制御装置17の演算回路24には、記憶部としてのメモリ25に加えて、パーキングブレーキスイッチ23、車両データバス20、電圧センサ部26,30,30、ESC駆動回路27、モータ駆動回路28,28、電流センサ部29,29等が接続されている。車両データバス20からは、ESC16の制御、および、パーキングブレーキの制御(作動)に必要な車両の各種状態量、即ち、各種車両情報を取得することができる。また、制動用制御装置17は、車両データバス20を介して各種ECUに情報や指令を出力することができる。
【0046】
なお、車両データバス20から取得する車両情報は、その情報を検出するセンサを制動用制御装置17(の演算回路24)に直接的に接続することにより取得する構成としてもよい。また、制動用制御装置17の演算回路24は、車両データバス20に接続された他の制御装置(ECU)からオートアプライ・オートリリースの判定による作動要求が入力されるように構成してもよい。この場合は、オートアプライ・オートリリースの判定の制御を、制動用制御装置17に代えて、他の制御装置で行う構成とすることができる。
【0047】
制動用制御装置17は、例えばフラッシュメモリ、ROM、RAM、EEPROM等からなる記憶部としてのメモリ25を備えている。メモリ25には、ESC16の制御に用いる処理プログラム、パーキングブレーキの制御に用いる処理プログラムが格納されている。この場合、メモリ25には、例えば、後述の
図5-8に示す処理フローを実行するための処理プログラム、
図9に示すアプライ完了閾値とWC圧との関係(マップ、テーブル)等が格納されている。また、実施形態では、メモリ25として、不揮発性メモリとしてのEEPROMを備えている。不揮発性メモリには、アプライ時およびリリース時の各種情報、各種信号を記憶する。各種情報、各種信号を記憶する不揮発性メモリとしてフラッシュメモリを用いてもよい。
【0048】
なお、実施形態では、ESC16(電動モータ16A、各制御弁)を制御するESC制御装置とパーキングブレーキ(電動モータ7A,7A)を制御するパーキングブレーキ制御装置とを1つの制動用制御装置17により構成している。しかし、これに限らず、例えば、ESC制御装置とパーキングブレーキ制御装置とをそれぞれ別体に構成してもよい。また、制動用制御装置17は、左右で2つの後輪側ディスクブレーキ6,6を制御するようにしているが、ESC制御装置とパーキングブレーキ制御装置とを別体にすると共に、パーキングブレーキ制御装置を左右の後輪側ディスクブレーキ6,6毎に設けるようにしてもよい。この場合には、それぞれのパーキングブレーキ制御装置を後輪側ディスクブレーキ6に一体的に設けることもできる。さらに、制動用制御装置、ESC制御装置またはパーキングブレーキ制御装置は、制動以外の制御を行う制御装置(例えば、パワーステアリング用制御装置等、制動用ECU以外の各種のECU)と一体に構成してもよい。
【0049】
図3に示すように、制動用制御装置17には、電源ライン19からの電圧を検出する電源電圧センサ部26、ESC16の電動モータ16Aおよび各制御弁(のソレノイド)を駆動するESC駆動回路27、パーキングブレーキの左右の電動モータ7A,7Aをそれぞれ駆動する左右のモータ駆動回路28,28、左右の電動モータ7A,7Aのそれぞれのモータ電流を検出する左右の電流センサ部29,29、左右の電動モータ7A,7Aのそれぞれのモータ電圧(端子間電圧)を検出する左右の電圧センサ部30,30等が内蔵されている。
【0050】
電源電圧センサ部26、ESC駆動回路27、左右のモータ駆動回路28,28、左右の電流センサ部29,29、左右の電圧センサ部30,30は、それぞれ演算回路24に接続されている。制動用制御装置17(演算回路24)は、電流センサ部29,29および電圧センサ部30,30により電動モータ7Aへの供給電圧と流れる電流をモニタ(監視)する。モータ駆動回路28は、電動モータ7Aへの通電をON(アプライ、リリース)/OFF/短絡できる。
【0051】
制動用制御装置17(演算回路24)は、駐車ブレーキのアプライまたはリリースを行うときに、電流センサ部29,29により検出される電動モータ7A,7Aの電流値(モニタ電流値)等に基づいて、電動モータ7A,7Aの駆動の停止の判定(アプライ完了の判定、リリース完了の判定)等を行うことができる。なお、図示の例では、「電源ライン19の電圧を検出する電源電圧センサ部26」と「左右の電動モータ7A,7Aの端子間電圧を検出する左右の電圧センサ部30,30」との両方を設けているが、いずれか一方を省略してもよい。
【0052】
図12は、電動パーキングブレーキの基本的な動作概要、即ち、アプライ時とリリース時の電流の時間変化の一例を示している。制動用制御装置17(演算回路24)は、ドライバ(運転者)の操作等に応じて、モータ駆動回路28,28で電動モータ7Aに対する通電をON/OFF/短絡することで、アプライ、リリース、モータブレーキを行う。なお、
図12のアプライとリリースの電流波形は、両方とも液圧が加わっていない(ブレーキペダルが踏まれていない)場合を示している。また、基本的に、電流と発生推力は比例する。
【0053】
例えば、アプライのときは、通電ON操作により、次のように動作する。即ち、電動モータ7Aを駆動することで突入電流が流れ、その後、回転直動変換機構8がピストン6Dに当接するまでは、回転直動変換機構8を動作(直動部材8A2をピストン6D側に推進)させるために必要な電流が流れる。回転直動変換機構8(直動部材8A2)がピストン6Dに当接することで負荷が増加し、ブレーキパッド6Cがディスクロータ4に当接することでさらに負荷が増加し、ブレーキパッド6Cとディスクロータ4の剛性なりに電流も増加する(電流勾配が大きくなる)。電流が一定以上増加したこと(例えば、予め設定した電流値に到達したこと)で、車両停車に必要な制動力を発生していると判断し、アプライを完了する。
【0054】
これに対して、リリースのときは、通電ON操作により、次のように動作する。ブレーキパッド6Cがディスクロータ4から離脱することで、回転直動変換機構8にかかる負荷が減少し、電流が減少する。回転直動変換機構8がピストン6Dから離脱することで負荷がさらに減少し、電流は回転直動変換機構8を動作させるために必要な値まで減少する。回転直動変換機構8(直動部材8A2)がピストン6Dから離脱し、一定以上のクリアランスを確保したらリリースを完了する。
【0055】
また、短絡操作により、次のように動作する。アプライまたはリリース完了した際は、モータ駆動回路28でモータ端子間を短絡(モータブレーキ状態)し、誘起電圧による逆方向の電流が生じることで、電動モータ7Aを止める向きのトルク(モータブレーキ)が発生する。なお、実施形態では、アプライ完了、リリース完了は、電流を用いて判定するが、推力センサやストロークセンサを用いて判定してもよい。ただし、コストを抑える面からは、電流を用いることが好ましい。
【0056】
ところで、「運転者がブレーキペダルを踏むことで発生する液圧により押圧される部材」と「パーキングブレーキ機構(以下、PKB機構ともいう)により押圧される部材」とが同じ場合(例えば、同じピストンの場合)を考える。この場合、ブレーキペダルを踏んでいる間にPKB機構が動作すると、PKB機構の動作によりピストンが進むことでホイルシリンダ内の液量(液圧)が変化し、この変化がブレーキペダルに伝達される。これにより、運転者は、ペダル反力(ブレーキペダル反力)の変化を感じ、違和感を覚える可能性がある。
【0057】
これに対して、前述の特許文献1の技術は、PKB機構が作動した際の電流変化から、PKB機構によりピストンを進めたストローク量を算出し、算出したストロークから液圧変化を算出する。この上で、特許文献1の技術は、算出した液圧変化分、電動倍力装置のブースタピストンをストロークさせることにより、ペダル反力を一定にし、運転者の違和感を抑制している。即ち、特許文献1の技術は、電動倍力装置のブースタピストンを用いてPKB機構の作動による液圧変化を抑制する。
【0058】
しかし、特許文献1の技術は、PKB機構によりピストンを進めた分の液圧変化を電動倍力装置で補填するため、負圧ブースタ等の電動式でない倍力装置を用いた場合に、運転者の違和感を抑制できない可能性がある。例えば、ESC(液圧供給装置)を用いて液圧変化を抑制することも考えられるが、この場合は、ESCのポンプにより昇圧するため、音振が悪化する可能性がある。また、仮に、電動倍力装置を用いるシステム構成だとしても、PKB機構に流れる電流を電動倍力装置に入力する必要があり、システム構成が複雑になる可能性がある。
【0059】
そこで、実施形態では、PKB機構の直動部材8A2とピストン6Dとが当接したときの電流勾配の変化に基づいて、運転者のペダル踏みを検出する。そして、運転者のペダル踏みが検出された場合は、アプライ動作を完了させる電流値を小さくする。
図13は、「ペダル踏み無し」の場合と「ペダル踏み有り」の場合のアプライ時の電流の時間変化を示している。
図13中の実線は、液圧によりピストン6Dが進んでいない場合(「ペダル踏み無し」の場合)の電流の時間変化に対応する。
図13中の破線は、液圧によりピストン6Dが進んでいる場合(「ペダル踏み有り」の場合)の電流の時間変化の一例に対応する。
【0060】
図13中に実線で示すように、液圧によりピストン6Dが進んでいない場合は、ピストン6Dを押し進め、ブレーキパッド6Cとディスクロータ4が当接し押圧していくと、電流は、ブレーキパッド6Cとディスクロータ4の剛性なりに増加する。一方、
図13中に破線で示すように、液圧によりピストン6Dが進んでいる場合は、PKB機構の直動部材8A2とピストン6Dが当接した際にはブレーキパッド6Cとディスクロータ4も当接しているため、電流は、液圧によりブレーキパッド6Cとディスクロータ4とを押圧している反力に打ち勝つまで急上昇する。このため、ペダル踏みの有無により、電流増加開始時の電流変化の勾配が異なる。
【0061】
そこで、実施形態では、電流変化の勾配の差異からペダル踏みの有無を判断する。そして、ペダル踏み有と判断した場合は、ペダル踏み無のときに比べて、アプライ完了の電流を小さくする。このとき、運転者のペダル踏みで車両は停止(停車)しているため、ペダル踏み有と判断した場合にアプライ完了の電流を小さくすることで、PKB機構による停止保持とペダル反力変化による違和感の抑制とを両立することができる。即ち、実施形態では、運転者のペダル踏みがある状態でPKB機構が作動した場合のペダル反力変動による違和感を抑制できる。また、PKB機構のみで違和感を抑制できるため、システム構成を簡素化でき、かつ、電制品(電動制御装置)はPKB機構のみでよいため、システム全体のコストを低減できる。
【0062】
以下、実施形態の制動用制御装置17、より具体的には、制動用制御装置17のうち電動ブレーキ(電動モータ7A)の制御に関する処理を行う部分(以下、当該部分をパーキングブレーキ制御装置31という)について、
図4ないし
図11を参照しつつ説明する。
【0063】
電動ブレーキ制御装置としてのパーキングブレーキ制御装置31は、制動用制御装置17の一部を構成している。
図4に示すように、パーキングブレーキ制御装置31は、車体1の左側に位置する電動モータ7Aに関する処理を行う左側制御部31Aと、車体1の右側に位置する電動モータ7Aに関する処理を行う右側制御部(図示せず)とを備えている。左側制御部31Aと右側制御部は、左右が相違する以外、同様の構成であるため、以下、左側制御部31Aについて説明し、右側制御部に関しては図示および説明を省略する。
【0064】
図4は、実施形態の制御構成の全体を示している。制御構成は、5つの制御ブロック(突入電流検出部32、車両停車判定部33、ペダル踏み有無検出部34、アプライ完了判定部35、モータ駆動信号算出部36)で構成されている。図示は省略するが、左右で同じ制御を行う。ただし、左右同時に電動モータ7A,7Aを駆動すると、電気負荷が大きくなるため、左右でタイミングをずらして電動モータ7A,7Aを駆動することが好ましい。即ち、左右で突入電流が重なることによる電圧降下を抑制するために、左右で電動モータ7A,7Aの駆動開始のタイミングをずらす(例えば、数十ms程度ずらす)ことが好ましい。
【0065】
図4に示すように、パーキングブレーキ制御装置31(左側制御部31Aおよび右側制御部)は、突入電流検出部32と、車両停車判定部33と、ペダル踏み有無検出部34と、アプライ完了判定部35と、モータ駆動信号算出部36とを備えている。本制御構成の各ブロックは、所定の制御周期、例えば10ms周期で処理が実行される。パーキングブレーキ制御装置31は、突入電流検出部32と車両停車判定部33とペダル踏み有無検出部34によりアプライ完了の判定を行ってよいか判定する。さらに、アプライ完了判定部35内の電流による判定で、アプライを完了してよいか判定する。モータ駆動信号算出部36は、これらの判定結果をもとに、モータ駆動回路28への指令値(モータ駆動信号)を算出する。以下、それぞれの制御ブロックで行われる具体的な処理について説明する。
【0066】
突入電流検出部32には、「モータ駆動信号算出部36からのモータ駆動信号」と「電流センサ部29からの電流(モニタ電流)に対応する信号(センサ信号)」とが入力される。突入電流検出部32は、モータ駆動信号と電流(電流値)とに基づいて突入電流を検出し、この検出結果である突入電流検出フラグ(ON/OFF)をペダル踏み有無検出部34とアプライ完了判定部35に出力する。突入電流検出部32は、電動モータ7Aの始動時の電流で後述するペダル踏み有無検出フラグがONとならないよう、突入電流を検出する。
【0067】
即ち、突入電流検出部32では、アプライ開始直後の突入電流を検出する。この場合、突入電流検出部32は、アプライ中であり、かつ、突入電流検出前に、電流が前回値よりも小さい状態が一定時間継続するまでは、突入電流検出フラグをOFFとする。これに対して、アプライ中であり、かつ、突入電流検出前に、電流が前回値よりも小さい状態が一定時間経過した場合、突入電流検出フラグをONとする。そして、突入電流検出フラグON後は、モータ駆動信号(前回値)が「アプライ」の間は、ONの状態を継続し、モータ駆動信号(前回値)が「アプライ」から遷移するとOFFとする。
【0068】
図5は、突入電流検出部32で行われる突入電流算出の処理を示している。
図5に示す処理は、所定の制御周期(例えば、10ms)で繰り返し実行される。
図5の処理が開始されると、S1では、モータ駆動状態に対応するモータ駆動信号(前回値)がアプライであるか否かを判定する。モータ駆動信号(前回値)は、モータ駆動信号算出部36から突入電流検出部32に入力される。S1で「NO」、即ち、モータ駆動信号(前回値)がアプライでないと判定された場合は、S2に進む。S2では、突入電流検出フラグを「OFF」とする。「OFF」は、「突入電流を検出していない」に対応する。S2で突入電流検出フラグを「OFF」としたら、エンドに進む。
【0069】
これに対して、S1で「YES」、即ち、モータ駆動信号(前回値)がアプライであると判定された場合は、S3に進む。S3では、突入電流検出フラグが「ON」でないか否かを判定する。即ち、S3では、突入電流検出フラグが「OFF」であるか否かを判定する。S3で「YES」、即ち、突入電流検出フラグが「ON」でない(「OFF」である)と判定された場合は、S4に進む。S3で「NO」、即ち、突入電流検出フラグが「ON」である(「OFF」でない)と判定された場合は、S5に進む。
【0070】
S4では、今回の制御周期の電流値である今回値と前回の制御周期の電流値である前回値とを比較する。具体的には、電流の今回値が前回値よりも小さい状態が一定時間経過したか否かを判定する。「一定時間」は、前回値と今回値の電流の比較に基づいて突入電流(より具体的には、突入電流のピークを過ぎて電流が低下していること)を正確に検出できる時間として設定することができる。電流値は、電流センサ部29から突入電流検出部32に入力される。S4で「NO」、即ち、電流の今回値が前回値よりも小さい状態が一定時間経過していないと判定された場合は、S2に進む。
【0071】
これに対して、S4で「YES」、即ち、電流の今回値が前回値よりも小さい状態が一定時間経過したと判定された場合は、S5に進む。S5では、突入電流検出フラグを「ON」とする。「ON」は、「突入電流を検出した」に対応する。S5で突入電流検出フラグを「ON」としたら、エンドに進む。なお、突入電流の検出は、アプライ開始直後の電流増加勾配でも検出が可能である。しかし、アプライ時は、回転直動機構によりピストンを押し進め、パッドとロータを押圧する。即ち、アプライ時は、電動モータ7Aの負荷が増加し、電流は増加していく。このため、電流の増加勾配で突入電流を検出すると、突入電流検出直後に、後述のペダル踏みを誤検出する可能性がある。そこで、S4では、誤検知を防止するために、突入電流後の電流が減少する勾配にて、突入電流を検出している。
【0072】
次に、車両停車判定部33について説明する。
図4に示すように、車両停車判定部33には、車輪速センサにより検出される車輪速が、例えば、車両データバス20を介して入力される。車輪速センサは、左右の前輪2(FL,FR)および左右の後輪3(RL,RR)にそれぞれ対応して設けられており、対応する車輪2,3の車輪速を検出する。車両停車判定部33は、各車輪2,3の車輪速に基づいて車両が停止しているか否かを判定し、この判定結果である停車判定フラグ(ON/OFF)をアプライ完了判定部35に出力する。車両が停車していない場合に、PKB機構の作動要求(アプライ要求)があった場合は、運転者への違和感抑制よりも、車両が安全に停車することを優先するため、車両停車判定部33で車両が停車しているか否かを判定する。
【0073】
車両停車判定部33は、4輪全ての車輪速がInvalid値(無効値)でなく、かつ、ゼロの状態を一定時間経過した場合に、停車と判定する。即ち、車両停車判定部33は、4輪の車輪速が全てゼロの状態を一定時間経過している場合に、車両が停車していると判断し、停車判定フラグをONとする。車輪速が1輪でもゼロでない場合、または、全てゼロの状態を一定時間経過する前は、走行中と判断し、停車判定フラグをOFFとする。また、車輪速が1輪でもInvalid値の場合は、停車しているか否かを判断できないため、停車判定フラグをOFFとする。
【0074】
図6は、車両停車判定部33で行われる車両停車判定の処理を示している。
図6に示す処理は、所定の制御周期(例えば、10ms)で繰り返し実行される。
図6の処理が開始されると、S11では、4輪のすべての車輪速がInvalid値(無効値)でないか否かを判定する。Invalid値(無効値)は、例えば、正常時の値から乖離した値、車輪速センサ等の故障により車輪速を正常に取得できないときの値等に対応する。S11で「NO」、即ち、4輪の車輪速のうちの少なくとも何れかの車輪速がInvalid値(無効値)であると判定された場合は、S12に進む。S12では、停車判定フラグを「OFF」とする。「OFF」は、「車両が停止していない(走行中)」に対応する。S12で停車判定フラグを「OFF」としたら、エンドに進む。
【0075】
これに対して、S11で「YES」、即ち、4輪のすべての車輪速がInvalid値(無効値)でないと判定された場合は、S13に進む。S13では、4輪のすべての車輪速が0の状態を一定時間経過したか否かを判定する。「一定時間」は、4輪の車輪速から停車していることを正確に判定できる時間として設定することができる。S13で「NO」、即ち、4輪のすべての車輪速が0の状態を一定時間経過していないと判定された場合は、S12に進む。一方、S13で「YES」、即ち、4輪のすべての車輪速が0の状態を一定時間経過したと判定された場合は、S14に進む。
【0076】
S14では、停車判定フラグを「ON」とする。「ON」は、「車両が停止した(停車中)」に対応する。S14で停車判定フラグを「ON」としたら、エンドに進む。なお、停車判定は、例えば、PKB機構が取り付けられている輪(例えば後輪3)の車輪速、車輪速平均値等を用いて行ってもよい。しかし、例えば、車輪がロックしたときの誤判定を防止するためには、4輪の車輪速を用いることが望ましい。また、車輪速ではなく、車輪速パルスを用いて停車の判定を行ってもよい。
【0077】
次に、ペダル踏み有無検出部34について説明する。
図4に示すように、ペダル踏み有無検出部34には、「突入電流検出部32からの突入電流検出フラグ」と「モータ駆動信号算出部36からのモータ駆動信号」と「電流センサ部29からの電流(モニタ電流)に対応する信号(センサ信号)」とが入力される。ペダル踏み有無検出部34は、突入電流検出フラグとモータ駆動信号と電流(電流値)とに基づいてペダル踏みの有無、即ち、ブレーキペダル9が踏まれているか否かを検出し、この検出結果であるペダル踏み有無検出フラグ(ON/OFF)をアプライ完了判定部35に出力する。ペダル踏み有無検出部34は、「ペダル踏みによる液圧によってピストン6Dが進みブレーキパッド6Cとディスクロータ4を押圧したときの電流勾配」と「PKB機構によりピストン6Dを進めてブレーキパッド6Cとディスクロータ4を押圧したときの電流勾配」との差異からペダル踏み有無を検出する。
【0078】
ペダル踏み有無検出部34は、突入電流検出後の一定時間の電流勾配からペダル踏み有無を判定する。即ち、ペダル踏み有無検出部34では、突入電流検出後のブレーキパッド6Cとディスクロータ4を押圧している際の電流増加勾配を用いて、ブレーキペダル9が踏まれているか否か(ペダル踏みの有無)を検出する。ペダル踏み有無検出部34は、アプライ中であり、かつ、ペダル踏み検出前の突入電流検出以降の電流において電流変化の傾き、即ち、電流勾配を算出し、閾値より大きい場合は、ペダル踏み有無検出フラグをONとする。
【0079】
これに対して、電流変化の傾き(電流勾配)が閾値以下の場合は、ペダル踏み有無検出フラグをOFFとする。突入電流検出フラグがOFFの場合は、誤判定を防止するため、ペダル踏み有無検出フラグをOFFとする。ペダル踏み有無検出フラグがONになった後は、モータ駆動信号(前回値)が「アプライ」の間はONの状態が継続し、モータ駆動信号(前回値)が「アプライ」から遷移するとOFFとなる。
【0080】
ここで、電流勾配の閾値について説明する。ブレーキペダル9が踏まれていない場合、電流は、ブレーキパッド6Cをディスクロータ4に押圧する際の剛性なりに増加する。これに対して、ブレーキペダル9が踏まれている場合、液圧によりブレーキパッド6Cをディスクロータ4に押圧しているため、電流は、液圧により押圧している力の反力に打ち勝つまでは急激に増加する。このため、電流勾配の閾値、即ち、ブレーキペダル9が踏まれているか否かを判定するための閾値は、例えば、モノのばらつき、温度、パッドの摩耗量を加味したブレーキパッド6Cおよびディスクロータ4の最も高い剛性での電流勾配を設定することができる。
【0081】
図7は、ペダル踏み有無検出部34で行われるペダル踏み有無検出の処理を示している。
図7に示す処理は、所定の制御周期(例えば、10ms)で繰り返し実行される。
図7の処理が開始されると、S1では、モータ駆動状態に対応するモータ駆動信号(前回値)がアプライであるか否かを判定する。このS1の処理は、
図5のS1の処理と同様の処理である。
図7のS1で「NO」、即ち、モータ駆動信号(前回値)がアプライでないと判定された場合は、S21に進む。S21では、ペダル踏み有無検出フラグを「OFF」とする。「OFF」は、「ペダル踏み無し」に対応する。S21でペダル踏み有無検出フラグを「OFF」としたら、エンドに進む。
【0082】
これに対して、S1で「YES」、即ち、モータ駆動信号(前回値)がアプライであると判定された場合は、S22に進む。S22では、ペダル踏み有無検出フラグが「ON」でないか否かを判定する。即ち、S22では、ペダル踏み有無検出フラグが「OFF」であるか否かを判定する。S22で「YES」、即ち、ペダル踏み有無検出フラグが「ON」でない(「OFF」である)と判定された場合は、S23に進む。S22で「NO」、即ち、ペダル踏み有無検出フラグが「ON」である(「OFF」でない)と判定された場合は、S26に進む。
【0083】
S23では、突入電流検出フラグが「ON」であるか否かを判定する。突入電流検出フラグは、突入電流検出部32からペダル踏み有無検出部34に入力される。S23で「YES」、即ち、突入電流検出フラグが「ON」と判定された場合は、S24に進む。S23で「NO」、即ち、突入電流検出フラグが「ON」でないと判定された場合は、S21に進む。S24では、電流勾配を算出する。電流勾配は、例えば、前回の制御周期の電流値と今回の制御周期の電流値との差分とすることができる。電流値は、電流センサ部29からペダル踏み有無検出部34に入力される。
【0084】
S24に続くS25では、S24で算出した電流勾配(例えば、電流値の差分)と閾値とを比較する。具体的には、電流勾配(例えば、電流値の差分)が閾値よりも大きいか否かを判定する。閾値は、ブレーキペダル9が踏まれている(液圧によりピストン6Dが進んでいる)ことを正確に判定できる勾配(例えば、電流値の差分)として設定することができる。この場合、閾値は、例えば、ブレーキペダル9が踏まれていない状態(液圧の付与がない状態)で、かつ、ブレーキパッド6Cとディスクロータ4の剛性が最大の状態での電流勾配(例えば、電流値の差分)として設定することができる。この場合、ブレーキパッド6Cとディスクロータ4の剛性は、モノのばらつき、温度、パッドの摩耗量を加味した上での最大となるように設定する。
【0085】
S25で「NO」、即ち、電流勾配(例えば、電流値の差分)が閾値よりも大きくないと判定された場合は、S21に進む。これに対して、S26で「YES」、即ち、電流勾配(例えば、電流値の差分)が閾値よりも大きいと判定された場合は、S26に進む。S26では、ペダル踏み有無検出フラグを「ON」とする。「ON」は、「ペダル踏み有り」に対応する。S26でペダル踏み有無検出フラグを「ON」としたら、エンドに進む。
【0086】
なお、電流勾配は、前回値と今回値との差分としてもよいが、リップル等のノイズでの誤判定を防止するために、例えば、一定時間の電流差分としてもよい。閾値は、誤判定を防止するため、上述のように剛性の最大として求めた値に余裕代を加味した値としてもよい。また、閾値は、メカのばらつき、温度、摩耗量により決定するが、放熱時の特性から温度を推定し、温度により可変としてもよい。
【0087】
ペダル踏み有無の判定は、電流勾配ではなく、液圧を用いて行ってもよい。また、ペダル踏み有無の判定は、ブレーキスイッチ、ペダルストローク、踏力等の荷重で判定してもよい。しかし、この場合は、システム構成が複雑になる可能性があることに加えて、使用するセンサが増える可能性がある。このため、ペダル踏み有無の判定は、電流を用いることが好ましい。また、運転者がブレーキペダル9の踏み上げや踏み戻しをしている場合は、電流勾配が閾値以上とならない場合がある。しかし、このようなブレーキペダル操作中は、違和感を与えにくく、安全に停車することを優先すべきであるため、ペダル踏みを検出できなくてもよい。
【0088】
次に、アプライ完了判定部35について説明する。
図4に示すように、アプライ完了判定部35には、「突入電流検出部32からの突入電流検出フラグ」と「ペダル踏み有無検出部34からのペダル踏み有無検出フラグ」と「電流センサ部29からの電流(モニタ電流)に対応する信号(センサ信号)」と「車両停車判定部33からの停車判定フラグ」と「WC圧力センサ21からのWC圧に対応する信号(センサ信号)」が入力される。アプライ完了判定部35は、突入電流検出フラグとペダル踏み有無検出フラグと電流(電流値)と停車判定フラグとWC圧とに基づいてアプライが完了したか否かを判定し、この判定結果であるアプライ完了フラグ(ON/OFF)をモータ駆動信号算出部36に出力する。WC圧は、例えば、電動モータ7Aを駆動する側のディスクブレーキ6のWC圧、即ち、左側制御部31Aのアプライ完了判定部35であれば左側のディスクブレーキ6のWC圧に対応する。
【0089】
アプライ完了判定部35では、ペダル踏み有無検出フラグ、WC圧等を用いて電動モータ7Aの駆動を停止する電流値の閾値(アプライ完了閾値)を算出し、アプライを完了してよいか否かを判定する。即ち、アプライ完了判定部35は、突入電流検出結果と車両停車判定結果とペダル踏み有無検出結果とWC圧とに基づいて、電動モータ7Aの駆動を停止する電流値の閾値(アプライ完了閾値)を算出する。アプライ完了判定部35は、算出した閾値と電流値との関係からアプライを完了してよいか判定する。アプライ完了判定部35は、その判定結果(アプライ完了フラグ)をモータ駆動信号算出部36に出力する。
【0090】
ここで、車両停車と判定され、かつ、ペダル踏み有りと判定された場合は、運転者のペダル踏みによって発生している液圧により、即ち、この液圧に基づく制動力により、車両が停止(停車)していると考えられる。そこで、この場合は、運転者が感じる違和感を抑制するため、WC圧をもとに、アプライを完了させる電流閾値を小さくし、この小さくした電流閾値でアプライ完了を判定する。これに対して、上述の判定が成立していない場合、例えば、車両停車と判定されていない、または、ペダル踏み有と判定されていない場合は、路面勾配を加味した停車を維持できる制動力を発生できる電流閾値に達したときに、アプライ完了と判定する。
【0091】
アプライ完了判定部35は、電動モータ7Aの駆動を停止する電流の閾値であるアプライ完了閾値を、次のように設定する。即ち、突入電流検出後であり、停車判定フラグがONであり、ペダル踏み有無検出フラグがONであり、かつ、WC圧がInvalid値(無効値)でない場合は、WC圧をもとに算出した値をアプライ完了閾値として設定する。一方、停車判定フラグがOFF、ペダル踏み有無検出フラグがOFF、または、WC圧がInvalid値(無効値)のときは、固定値をアプライ完了閾値として設定する。そして、電流がアプライ完了閾値より大きくなったときに、アプライ完了フラグをONとする。一方、電流がアプライ完了閾値以下、または、突入電流検出フラグがOFFの場合は、アプライ完了フラグをOFFとする。
【0092】
図8は、アプライ完了判定部35で行われるアプライ完了判定の処理を示している。
図8に示す処理は、所定の制御周期(例えば、10ms)で繰り返し実行される。
図8の処理が開始されると、S23では、突入電流検出フラグが「ON」であるか否かを判定する。S23は、
図7のS23と同様の処理である。
図8のS23で「NO」、即ち、突入電流検出フラグが「ON」でないと判定された場合は、S31に進む。S31では、アプライ完了フラグを「OFF」とする。「OFF」は、「アプライ完了ではない」に対応する。S31でアプライ完了フラグを「OFF」としたら、エンドに進む。
【0093】
これに対して、S23で「YES」、即ち、突入電流検出フラグが「ON」と判定された場合は、S32に進む。S32では、停車判定フラグが「ON」であるか否かを判定する。停車判定フラグは、車両停車判定部33からアプライ完了判定部35に入力される。S32で「NO」、即ち、停車判定フラグが「ON」でないと判定された場合は、S33に進む。S33では、閾値(アプライ完了閾値)を固定値とする。固定値については、後述する。S33で閾値(アプライ完了閾値)を固定値としたら、S37に進む。これに対して、S32で「YES」、即ち、停車判定フラグが「ON」であると判定された場合は、S34に進む。
【0094】
S34では、ペダル踏み有無検出フラグが「ON」であるか否かを判定する。ペダル踏み有無検出フラグは、ペダル踏み有無検出部34からアプライ完了判定部35に入力される。S34で「NO」、即ち、ペダル踏み有無検出フラグが「ON」でないと判定された場合は、S33に進む。これに対して、S34で「YES」、即ち、ペダル踏み有無検出フラグが「ON」であると判定された場合は、S35に進む。
【0095】
S35では、WC圧(左側のWC圧)がInvalid値(無効値)でないか否かを判定する。Invalid値(無効値)は、例えば、正常時の値から乖離した値、WC圧力センサ21等の故障によりWC圧を正常に取得できないときの値等に対応する。S35で「NO」、即ち、WC圧がInvalid値(無効値)であると判定された場合は、S33に進む。これに対して、S35で「YES」、即ち、WC圧がInvalid値(無効値)でないと判定された場合は、S36に進む。
【0096】
S36では、
図9に示すWC圧とアプライ完了閾値との関係(マップ)に基づいて、閾値(アプライ完了閾値)を設定する。ここで、液圧に応じたアプライ完了閾値について説明する。ブレーキペダル9が踏まれている場合は、液圧によりブレーキパッド6Cをディスクロータ4に押圧している。このため、液圧により押圧している力の反力に打ち勝つまでは、電流が急激に増加する。反力に打ち勝つための電流値は、WC圧と、ブレーキパッド6C、ディスクロータ4のメカばらつき、温度、パッド摩耗量から計算できる。さらに、温度は放熱特性から推定できるため、推定温度とWC圧を用いて、随時上昇する電流値を算出してもよい。
【0097】
しかし、処理負荷を考えると、
図9に示すようなテーブル値(マップ)を用いることが好ましい。なお、アプライ完了閾値は、固定値として設定する値まで電流値が上昇すれば、路面勾配を加味しても停車状態を維持できる。このため、固定値よりも大きくならないよう設定する。即ち、S32ないしS35のいずれかで「NO」と判定された場合は、アプライ完了閾値を
図9の固定値とする。これに対して、S35で「YES」と判定された場合は、
図9に実線で示すWC圧とアプライ完了閾値の特性(関係)に基づいて、そのときのWC圧(今回の制御周期のWC圧)に対応するアプライ完了閾値を閾値として設定する。即ち、車両停車判定が成立し、かつ、ペダル踏み有と判定された場合は、車両は安全に停車できているため、発生しているWC圧に応じて、アプライ完了閾値をペダル踏み無しの場合に対して小さくする。
【0098】
S36でそのときのWC圧に対応するアプライ完了閾値を閾値としたら、または、S33で固定値を閾値としたら、S37に進む。S37では、今回の制御周期の電流値とS36またはS33で設定した閾値(アプライ完了閾値)とを比較する。具体的には、S37では、電流値が閾値(アプライ完了閾値)よりも大きいか否かを判定する。S37で「NO」、即ち、電流値が閾値(アプライ完了閾値)以下であると判定された場合は、S31に進む。これに対して、S37で「YES」、即ち、電流値が閾値(アプライ完了閾値)よりも大きいと判定された場合は、S38に進む。S38では、アプライ完了フラグを「ON」とする。「ON」は、「アプライ完了」に対応する。S38でアプライ完了フラグを「ON」としたら、エンドに進む。
【0099】
なお、アプライ完了閾値として使用する固定値は、路面勾配を加味しても停車状態を維持可能な推力に相当する電流値とする。ブレーキペダル9が踏まれていても、車両が停車していない場合、または、WC圧が不明の場合は、車両を安全に停車させることを優先すべきである。このため、停車判定フラグがOFFの場合、または、WC圧がInvalid値(無効値)の場合は、アプライ完了閾値として固定値を用いる。また、実施形態では、WC圧を用いたが、例えば、MC圧または推定した液圧を用いてもよい。しかし、実際にキャリパに発生しているWC圧を用いることが好ましい。また、実施形態では、電流によりアプライ完了と判定しているが、例えば、PKB機構に加わる荷重、PKB機構のストローク、電動モータの駆動時間、WC圧の変化に基づいて、ペダル踏み以上にピストンが進んだと判断し、アプライ完了と判定してもよい。
【0100】
次に、モータ駆動信号算出部36について説明する。
図4に示すように、モータ駆動信号算出部36には、「パーキングブレーキスイッチ23からの信号、オートアプライ・オートリリースの判定による信号等に基づくアプライ・リリース要求(PKB作動要求)」と「アプライ完了判定部35からのアプライ完了フラグ」が入力される。モータ駆動信号算出部36は、アプライ・リリース要求とアプライ完了フラグとに基づいて、モータ駆動回路28に出力する指令信号、即ち、モータ駆動回路28に対する通電ON(電動モータ駆動)/通電OFF(電動モータ停止)/短絡を要求する指令信号を算出する。この場合、モータ駆動信号算出部36は、各種判定が意図しないシーンで成立するのを防止し、かつ、駆動回路へ指令を出すために、モータ駆動信号を算出する。モータ駆動信号算出部36は、算出したモータ駆動信号をモータ駆動回路28に出力する。また、モータ駆動信号算出部36は、算出したモータ駆動信号を突入電流検出部32およびペダル踏み有無検出部34に出力する。
【0101】
即ち、モータ駆動信号算出部36では、各種判定での駆動状態を確認し、モータ駆動回路28への指令値として用いるモータ駆動信号を算出する。この場合、モータ駆動信号算出部36は、アプライ・リリース要求、アプライ完了判定結果、リリース完了判定結果、モータ回転速度を用いて、モータ駆動信号を算出する。このために、図示は省略するが、モータ駆動信号算出部36には、リリース完了判定部からのリリース完了判定結果(リリース完了フラグ)およびモータ回転速度も入力される。
【0102】
図10に示すように、モータ駆動信号算出部36は、モータ駆動信号が「停止」の状態でアプライ・リリース要求がアプライとなった場合は、モータ駆動信号を「アプライ」とする。モータ駆動信号算出部36は、モータ駆動信号が「停止」の状態でアプライ・リリース要求がリリースとなった場合は、モータ駆動信号を「リリース」とする。
【0103】
モータ駆動信号算出部36は、モータ駆動信号が「アプライ」の状態でアプライ完了フラグがONとなった場合は、モータ駆動信号を「アプライ後モータブレーキ」とする。モータ駆動信号算出部36は、モータ駆動信号が「リリース」の状態でリリース完了フラグがONとなった場合は、モータ駆動信号を「リリース後モータブレーキ」とする。
【0104】
モータ駆動信号算出部36は、モータ駆動信号が「アプライ後モータブレーキ」または「リリース後モータブレーキ」の状態で、モータ回転速度が閾値以下の状態を一定時間継続した場合は、モータ駆動信号を「停止」とする。モータ駆動信号は、モータ駆動回路28、突入電流検出部32およびペダル踏み有無検出部34に出力される。
図11は、モータ駆動信号に対するモータ駆動回路28の動作を示している。
【0105】
以上のように、実施形態では、後輪側ディスクブレーキ6と制動用制御装置17(パーキングブレーキ制御装置31)は、ブレーキ装置を構成している。後輪側ディスクブレーキ6は、液圧機構(キャリパ6B、ピストン6D)と、パーキングブレーキ機構(電動モータ7A、回転直動変換機構8)とを備えている。制動用制御装置17(パーキングブレーキ制御装置31)は、電動モータ7Aを制御するコントロール部(演算回路24)を備えている。液圧機構は、車輪(後輪3)と共に回転する回転部材(ディスクロータ4)に、液圧により摩擦部材(ブレーキパッド6C)を押圧することで車両に制動力を付与する。パーキングブレーキ機構は、コントロール部(演算回路24)によって制御される電動モータ7Aにより制動力を保持する。
【0106】
制動用制御装置17(パーキングブレーキ制御装置31)のコントロール部(演算回路24)は、パーキングブレーキ機構の保持動作であるアプライ動作の際に、電動モータ7Aに通電される電流変化、液圧、又はブレーキペダルのストロークに関する物理量、を示す第1物理量(例えば、電流変化の勾配)を取得する。コントロール部(演算回路24)は、第1物理量(例えば、電流変化の勾配)が所定の閾値(例えば、
図7のS25の「閾値」)を超える場合、第1物理量(例えば、電流変化の勾配)が閾値又は閾値より小さい場合と比較して、アプライ動作の完了を示す第2物理量(例えば、
図8のS37の「閾値」)を、小さくなるようにする。コントロール部(演算回路24)は、アプライ動作を示す物理量(例えば、電流値)が、第2物理量(例えば、
図7のS37の「閾値」)に達したらアプライ動作の完了とする。
【0107】
ここで、実施形態では、第1物理量は、電流変化の勾配である。第2物理量は、アプライ動作の完了を示す電流値である。即ち、コントロール部(演算回路24)は、アプライ動作の際に、電動モータ7Aに流れる突入電流を検出した後の電流変化の勾配が所定の閾値(例えば、
図7のS25の「閾値」)を超える場合、電流変化の勾配が閾値又は閾値より小さい場合と比較して、アプライ動作の完了を示す電流値(例えば、
図8のS37の「閾値」)を、小さくなるようにする。また、コントロール部(演算回路24)は、
図7のS25の処理により、第1物理量(例えば、電流変化の勾配)が所定の閾値を超える場合、
図7のS26の処理により、車両の乗員によるブレーキペダル9の踏み込み有り(ペダル踏み有無検出フラグON)と判断する。
【0108】
また、コントロール部(演算回路24)は、車両の停車を判定した場合、即ち、
図6のS14で停車判定フラグONとなり、
図8のS32で「YES」と判定された場合において、第1物理量(例えば、電流変化の勾配)が所定の閾値(例えば、
図7のS25の「閾値」)を超える場合、第2物理量(例えば、
図8のS37の「閾値」)を小さくなるようにする。この場合、
図9に示すように、コントロール部(演算回路24)は、液圧(WC圧)の大きさに応じて、第2物理量(例えば、アプライ完了電流値であるアプライ完了閾値)を小さくする。
【0109】
実施形態による4輪自動車のブレーキシステムは、上述の如き構成を有するもので、次に、その作動について説明する。
【0110】
車両の運転者がブレーキペダル9を踏込み操作すると、その踏力が倍力装置11を介してマスタシリンダ12に伝達され、マスタシリンダ12によってブレーキ液圧が発生する。マスタシリンダ12内で発生したブレーキ液圧は、シリンダ側液圧配管14A,14B、ESC16およびブレーキ側配管部15A,15B,15C,15Dを介して各ディスクブレーキ5,6に供給され、左右の前輪2と左右の後輪3とにそれぞれ制動力が付与される。
【0111】
この場合、各ディスクブレーキ5,6では、キャリパ5A,6B内のブレーキ液圧の上昇に従ってピストン5B,6Dがブレーキパッド6Cに向けて摺動的に変位し、ブレーキパッド6Cがディスクロータ4,4に押し付けられる。これにより、ブレーキ液圧に基づく制動力が付与される。一方、ブレーキ操作が解除されたときには、キャリパ5A,6B内へのブレーキ液圧の供給が解除されることにより、ピストン5B,6Dがディスクロータ4,4から離れる(後退する)ように変位する。これによって、ブレーキパッド6Cがディスクロータ4,4から離間し、車両は非制動状態に戻される。
【0112】
次に、車両の運転者がパーキングブレーキスイッチ23を制動側(アプライ側)に操作したときは、制動用制御装置17(パーキングブレーキ制御装置31)から左右の後輪側ディスクブレーキ6の電動モータ7Aに給電が行われ、電動モータ7Aが回転駆動される。後輪側ディスクブレーキ6では、電動モータ7Aの回転運動が回転直動変換機構8により直線運動に変換され、回転直動部材8Aによりピストン6Dが推進する。これにより、ブレーキパッド6Cによりディスクロータ4が押圧される。このとき、回転直動変換機構8(直動部材8A2)は、例えば、螺合による摩擦力(保持力)により制動状態を保持される。これにより、後輪側ディスクブレーキ6は、パーキングブレーキとして作動(アプライ)される。即ち、電動モータ7Aへの給電を停止した後にも、回転直動変換機構8により、ピストン6Dは制動位置に保持される。
【0113】
一方、運転者がパーキングブレーキスイッチ23を制動解除側(リリース側)に操作したときには、制動用制御装置17(パーキングブレーキ制御装置31)から電動モータ7Aに対してモータが逆転するように給電される。この給電により、電動モータ7Aがパーキングブレーキの作動時(アプライ時)と逆方向に回転される。このとき、回転直動変換機構8による制動力の保持が解除され、ピストン6Dがディスクロータ4から離れる方向に変位することが可能になる。これにより、後輪側ディスクブレーキ6は、パーキングブレーキとしての作動が解除(リリース)される。
【0114】
ここで、実施形態によれば、制動用制御装置17(パーキングブレーキ制御装置31)のコントロール部(演算回路24)は、アプライ動作の際に、運転者がブレーキペダル9を踏むことにより第1物理量(電流変化の勾配)が所定の閾値を超える場合、即ち、
図7のS25で「YES」と判定された場合、
図8のS36の処理により、アプライ動作を完了する閾値となる第2物理量(アプライ完了閾値)を小さくできる。これにより、アプライ動作の際に、例えば電動倍力装置を用いて液圧の変化を補填しなくても、液圧の変化を抑制することができる。この結果、ブレーキシステムの構成に関わらず、PKB機構を作動させたときのブレーキペダル反力の違和感を抑制できる。
【0115】
実施形態によれば、第1物理量が電流変化の勾配である。このため、アプライ動作の際に、電流変化の勾配に基づいて、第2物理量(アプライ完了閾値)を小さくできる。この場合、電流変化の勾配に基づいて、液圧の状態、即ち、ブレーキペダル9が踏まれているか否かを精度よく取得できる。これにより、アプライ動作の際に、ブレーキペダル9が踏まれているときに、第2物理量を小さくすることができ、ブレーキペダル反力の違和感を抑制できる。
【0116】
実施形態によれば、第2物理量は電流値(アプライ完了閾値)である。このため、第1物理量(電流変化の勾配)が所定の閾値を超える場合は、
図9に示すように、アプライ動作の完了を示す電流値(アプライ完了閾値)が小さくなる。これにより、小さくなった電流値(アプライ完了閾値)でアプライ動作を完了することができ、アプライ動作の際の液圧の変化を抑制することができる。
【0117】
実施形態によれば、コントロール部(演算回路24)は、
図5のS5の処理および
図7のS23の処理を行う。このため、突入電流を検出した後の電流変化の勾配が所定の閾値を超える場合、アプライ動作の完了を示す電流値(アプライ完了閾値)を小さくできる。このため、突入電流の電流変化の勾配に基づいて第2物理量(アプライ完了閾値)を小さくすることを抑制できる。
【0118】
実施形態によれば、コントロール部(演算回路24)は、第1物理量(電流変化の勾配)が所定の閾値を超える場合、即ち、
図7のS25で「YES」と判定された場合に、S26でペダル踏み有無検出フラグをONすることにより、車両の乗員によるブレーキペダル9の踏み込み有りと判断する。このため、
図7のS25およびS26の処理により、第1物理量(電流変化の勾配)に基づいてブレーキペダル9の踏み込み有りと判断した場合に、
図8のS34の処理により、アプライ動作の完了を示す第2物理量(アプライ完了閾値)を小さくできる。
【0119】
実施形態によれば、コントロール部(演算回路24)は、
図6の処理を行うことにより、アプライ動作の際に、車両の停車を判定する。この上で、コントロール部(演算回路24)は、
図8のS32の処理により「YES」と判定され、かつ、
図8のS34の処理により「YES」と判定された場合に、S36の処理により、アプライ動作の完了を示す第2物理量(アプライ完了閾値)を小さくする。このため、車両が停車していないとき、即ち、車両が走行しているときは、第2物理量(アプライ完了閾値)を小さくしないようにできる。これにより、車両走行中にPKB機構による制動力が必要なときは、ブレーキペダル反力の違和感の抑制よりも、制動力を大きくすることを優先できる。
【0120】
実施形態によれば、コントロール部(演算回路24)は、
図9に示す通り、液圧(WC圧)の大きさに応じて、第2物理量(アプライ完了閾値)を小さくする。このため、液圧(WC圧)が大きいときも小さいときも、そのときの液圧(WC圧)に応じた第2物理量(アプライ完了閾値)に調整することができる。これにより、液圧(WC圧)が大きいときも小さいときも、ブレーキペダル反力の違和感を抑制できる。
【0121】
なお、実施形態では、アプライ動作の際の第1物理量(液圧に関連する物理量)として、電動モータ9Aに通電される電流変化(電流変化の勾配、傾き、より具体的には、所定時間の電流値の変化量となる差分)を用いる場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、第1物理量として、例えば、ブレーキペダルのストロークに関する物理量を用いてもよい。また、第1物理量として、直接的に液圧を用いてもよい。
【0122】
実施形態では、アプライ動作の際の第2物理量(アプライ動作の完了に関連する物理量)として、電動モータ9Aに通電される電流(アプライ完了電流値)を用いる場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、第2物理量として、例えば、電動モータの駆動時間、回転量、PKB機構(直動部材)の変位量(ストローク量)、ピストンのストローク量、または、ピストンの推力(荷重)を用いてもよい。この場合、第2物理量となる駆動時間、回転量、PKB機構(直動部材)の変位量(ストローク量)、ピストンのストローク量、またはピストンの推力(荷重)を小さくすることができる。
【0123】
実施形態では、後輪側ディスクブレーキ6を電動パーキングブレーキ機能付の液圧式ディスクブレーキとすると共に、前輪側ディスクブレーキ5を電動パーキングブレーキ機能が付いていない液圧式ディスクブレーキとした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、後輪側ディスクブレーキ6を電動パーキングブレーキ機能が付いていない液圧式ディスクブレーキとすると共に、前輪側ディスクブレーキ5を電動パーキングブレーキ機能付の液圧式ディスクブレーキとしてもよい。さらに、前輪側ディスクブレーキ5と後輪側ディスクブレーキ6との両方を、電動パーキングブレーキ機能付の液圧式ディスクブレーキとしてもよい。要するに、車両の車輪のうち少なくとも左右一対の車輪のブレーキを電動パーキングブレーキにより構成することができる。
【0124】
実施形態では、電動ブレーキ(電動ブレーキ機構)として、電動パーキングブレーキ付の液圧式ディスクブレーキ6を例に挙げて説明した。しかし、ディスクブレーキ式のブレーキ機構に限らず、ドラムブレーキ式のブレーキ機構として構成してもよい。さらに、ディスクブレーキにドラム式の電動パーキングブレーキを設けたドラムインディスクブレーキ、電動モータでケーブルを引っ張ることによりパーキングブレーキの保持を行う構成等、電動パーキングブレーキの構成は各種のものを採用することができる。
【0125】
以上説明した実施形態によれば、コントロール部は、アプライ動作の際に、第1物理量が所定の閾値を超える場合、アプライ動作の完了を示す第2物理量を小さくし、アプライ動作を示す物理量が第2物理量に達したら、アプライ動作の完了とする。このため、例えば運転者がブレーキペダルを踏むことにより、第1物理量が所定の閾値を超える場合に、アプライ動作を完了する閾値となる第2物理量を小さくできる。これにより、アプライ動作の際に、例えば電動倍力装置を用いて液圧の変化を補填しなくても、液圧の変化を抑制することができる。この結果、ブレーキシステムの構成に関わらず、パーキングブレーキ機構(電動駐車ブレーキ機構)を作動させたときのブレーキペダル反力の違和感を抑制できる。
【0126】
実施形態によれば、第1物理量が電流変化の勾配である。このため、アプライ動作の際に、電流変化の勾配に基づいて、第2物理量を小さくできる。この場合、電流変化の勾配に基づいて、液圧の状態、即ち、ブレーキペダルが踏まれているか否かを精度よく取得できる。これにより、アプライ動作の際に、ブレーキペダルが踏まれているときに、第2物理量を小さくすることができ、ブレーキペダル反力の違和感を抑制できる。
【0127】
実施形態によれば、第2物理量は電流値である。このため、第1物理量(例えば、電流変化の勾配)が所定の閾値を超える場合は、アプライ動作の完了を示す電流値が小さくなる。これにより、小さくなった電流値でアプライ動作を完了することができ、アプライ動作の際の液圧の変化を抑制することができる。
【0128】
実施形態によれば、コントロール部は、突入電流を検出した後の電流変化の勾配が所定の閾値を超える場合、アプライ動作の完了を示す電流値を小さくする。このため、突入電流の電流変化の勾配に基づいて第2物理量を小さくすることを抑制できる。
【0129】
実施形態によれば、コントロール部は、第1物理量が所定の閾値を超える場合、車両の乗員によるブレーキペダルの踏み込み有りと判断する。このため、第1物理量に基づいてブレーキペダルの踏み込み有りと判断した場合に、アプライ動作の完了を示す第2物理量を小さくできる。
【0130】
実施形態によれば、コントロール部は、アプライ動作の際に、車両の停車を判定する。即ち、コントロール部は、車両の停車を判定し、かつ、第1物理量が所定の閾値を超える場合に、アプライ動作の完了を示す第2物理量を小さくする。このため、車両が停車していないとき、即ち、車両が走行しているときは、第2物理量を小さくしないようにできる。これにより、車両走行中にパーキングブレーキ機構による制動力が必要なときは、ブレーキペダル反力の違和感の抑制よりも、制動力を大きくすることを優先できる。
【0131】
実施形態によれば、コントロール部は、液圧の大きさに応じて第2物理量を小さくする。このため、液圧が大きいときも小さいときも、そのときの液圧に応じた第2物理量に調整することができる。これにより、液圧が大きいときも小さいときも、ブレーキペダル反力の違和感を抑制できる。
【0132】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0133】
本願は、2021年5月20日付出願の日本国特許出願第2021-085002号に基づく優先権を主張する。2021年5月20日付出願の日本国特許出願第2021-085002号の明細書、特許請求の範囲、図面、および要約書を含む全開示内容は、参照により本願に全体として組み込まれる。
【符号の説明】
【0134】
3:後輪(車輪)、4:ディスクロータ(回転部材)、6:後輪側ディスクブレーキ(ブレーキ装置、液圧機構、パーキングブレーキ機構)、6B:キャリパ(液圧機構)、6C:ブレーキパッド(摩擦部材)、6D:ピストン(液圧機構)、7A:電動モータ(パーキングブレーキ機構)、8:回転直動変換機構(パーキングブレーキ機構)、17:制動用制御装置(制御装置)、24:演算回路(コントロール部)、31:パーキングブレーキ制御装置(制御装置)