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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】モータ制御方法、モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/08 20060101AFI20241108BHJP
   H02P 21/00 20160101ALI20241108BHJP
【FI】
H02P27/08
H02P21/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023532847
(86)(22)【出願日】2021-07-06
(86)【国際出願番号】 IB2021000455
(87)【国際公開番号】W WO2023281285
(87)【国際公開日】2023-01-12
【審査請求日】2023-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥山 祐加
(72)【発明者】
【氏名】ブアルファ アルカーディル
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-129575(JP,A)
【文献】国際公開第2019/016901(WO,A1)
【文献】特開2007-110781(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/08
H02P 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータに電力を供給する電力変換器に所定のキャリア周波数でPWM信号を送信して前記電力変換器をスイッチング制御することで前記モータを制御するモータ制御方法であって、
前記モータの回転数と前記モータのトルクを軸とし、前記回転数が第1所定回転数よりも高い領域を表す第1領域と、前記回転数が前記第1所定回転数以下であり、且つ前記トルクが所定トルクよりも高い領域を表す第2領域と、前記回転数が前記第1所定回転数以下であり、且つ前記トルクが前記所定トルク以下の領域を表す第3領域と、を包含する特性座標において、
現在の前記回転数及び前記トルクを表す動作点が前記第1領域に含まれる場合は、前記キャリア周波数を基準周波数に設定し、
前記動作点が前記第2領域に含まれる場合は、前記キャリア周波数を前記基準周波数、又は前記基準周波数よりも周波数の低い低周波数のいずれかを選択して設定し、
前記動作点が前記第3領域に含まれる場合は、前記キャリア周波数を前記低周波数に設定し、
前記動作点が前記第3領域の内側に配置された特定領域以外の領域に含まれる場合は前記PWM信号の変調方式を三相変調とし、
前記動作点が前記特定領域に含まれる場合は前記PWM信号の変調方式を二相変調とするモータ制御方法。
【請求項2】
前記動作点が前記第3領域に含まれる場合において、
前記低周波数を前記回転数に基づいて周波数が互いに異なる複数の前記キャリア周波数から選択し、前記回転数が低くなるほど前記低周波数として周波数の低い前記キャリア周波数を設定する請求項1に記載のモータ制御方法。
【請求項3】
前記第3領域は、前記回転数が前記第1所定回転数よりも低い第2所定回転数以下の第4領域と、前記回転数が前記第2所定回転数よりも高くなる第5領域と、を含み、
前記動作点が前記第4領域に含まれる場合に設定される前記低周波数を、前記動作点が前記第5領域に含まれる場合に設定される前記低周波数よりも低く設定する請求項1に記載のモータ制御方法。
【請求項4】
前記モータは巻線界磁式同期モータであり、
前記特定領域は、前記第5領域において高回転数側且つ低トルク側であってトルク値がゼロよりも高い位置に偏在している請求項3に記載のモータ制御方法。
【請求項5】
前記動作点が前記第2領域に含まれる場合において、
前記電力変換器の温度が所定の閾値温度以下の場合は、前記キャリア周波数を前記基準周波数に設定し、
前記電力変換器の温度が前記所定の閾値温度を超えた場合は、前記キャリア周波数を前記第3領域であって前記回転数に対応する前記低周波数に設定する請求項2から請求項4のいずれか1項に記載のモータ制御方法。
【請求項8】
モータに電力を供給する電力変換器に所定のキャリア周波数でPWM信号を送信して前記電力変換器をスイッチング制御することで前記モータを制御するモータ制御装置であって、
前記モータの回転数と前記モータのトルクを軸とし、前記回転数が所定回転数よりも高い領域を表す第1領域と、前記回転数が前記所定回転数以下であり、且つ前記トルクが所定トルクよりも高い領域を表す第2領域と、前記回転数が前記所定回転数以下であり、且つ前記トルクが前記所定トルク以下の領域を表す第3領域と、を包含する特性座標において、
前記モータの現在の前記回転数及び前記トルクを表す動作点が前記第1領域に含まれる場合は、前記キャリア周波数を基準周波数に設定し、
前記動作点が前記第2領域に含まれる場合は、前記キャリア周波数を前記基準周波数、又は前記基準周波数よりも周波数の低い低周波数のいずれかを選択して設定し、
前記動作点が前記第3領域に含まれる場合は、前記キャリア周波数を前記低周波数に設定し、
前記動作点が前記第3領域の内側に配置された特定領域以外の領域に含まれる場合は前記PWM信号の変調方式を三相変調とし、
前記動作点が前記特定領域に含まれる場合は前記PWM信号の変調方式を二相変調とするモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、モータ制御方法、モータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータに電力を供給する電力変換器のPWM制御に関して、モータロック等の熱的に厳しい状況においては、電力変換器に温度保護機能を付与する必要があるが、より良い効率を得るため、常用域の損失(スイッチング回数等)を低減させることが望ましい。一方で、電流低減(トルク制限)不要の温度保護や効率向上として、キャリア周波数をより低いキャリア周波数に切り替える制御がある(JPH09-121595A参照)。
【発明の概要】
【0003】
しかし、当該制御では、電圧リプルや音振が悪化する。また、整った正弦波をPWMで生成することは困難であり、モータの回転数が低いとき以外はキャリア周波数を低周波側に切り替えできないという問題がある。
【0004】
そこで、本発明は、PWM制御の効率低下を回避しつつ電力変換器の温度保護が可能なモータ制御方法、及びモータ制御装置を提供することを目的とする。
【0005】
本発明のある態様によれば、モータに電力を供給する電力変換器に所定のキャリア周波数でPWM信号を送信して電力変換器をスイッチング制御することでモータを制御するモータ制御方法が提供される。本方法では、モータの回転数とモータのトルクを軸とし、回転数が第1所定回転数よりも高い領域を表す第1領域と、回転数が第1所定回転数以下であり、且つトルクが所定トルクよりも高い領域を表す第2領域と、回転数が第1所定回転数以下であり、且つトルクが所定トルク以下の領域を表す第3領域と、を包含する特性座標を用いる。そして、現在の回転数及びトルクを表す動作点が第1領域に含まれる場合は、キャリア周波数を基準周波数に設定し、動作点が第2領域に含まれる場合は、キャリア周波数を基準周波数、又は基準周波数よりも周波数の低い低周波数のいずれかを選択して設定し、動作点が第3領域に含まれる場合は、キャリア周波数を低周波数に設定する。さらに、動作点が第3領域の内側に配置された特定領域以外の領域に含まれる場合はPWM信号の変調方式を三相変調とし、動作点が特定領域に含まれる場合はPWM信号の変調方式を二相変調とする。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、本実施形態のモータ制御方法が適用されるモータ制御装置の概略図である。
図2図2は、本実施形態のモータ制御方法において設定されるPWM制御のキャリア周波数及び変調方式について、モータの回転数及びモータのトルクを軸とする特性座標を用いて表した図である。
図3図3は、本実施形態のモータ制御方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本実施形態の概要]
本実施形態のモータ制御方法、及びモータ制御装置100について説明する。
【0008】
図1は、本実施形態のモータ制御方法が適用されるモータ制御装置100の概略図である。本実施形態のモータ制御装置100は、主に車両に搭載されるとともにモータ9に接続される。
【0009】
モータ9は、巻線界磁式の同期モータであり、ロータに磁界を発生せる励磁器91を備える。励磁器91は界磁巻線を備えるとともに界磁巻線に流れる界磁電流を低減させる構成、即ち弱め界磁制御を行うための構成を備えている。
【0010】
モータ制御装置100は、インバータ1(電力変換器)、蓄電器2、平滑コンデンサ3、界磁回路4、駆動回路5、駆動回路6、制御回路7により構成される。また図示は省略するが、モータ制御装置100は、モータ9の回転数を検知する回転数センサと、モータ9(ステータ)に流れる電流を検知する電流センサと、インバータ1(半導体素子11A,11B)の温度を検知する温度センサと、を備える。
【0011】
インバータ1は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等の半導体素子11A(ハイ側)と帰還ダイオード12Aとの並列回路と、半導体素子11B(ロー側)と帰還ダイオード12Bとの並列回路と、を直列に接続した直列回路(直列回路1U、直列回路1V、直列回路1W)が3個並列に接続された内部回路を備えるものである。ここで、半導体素子11A,11Bのゲートにハイ信号(高電圧)のゲート信号が印加されると半導体素子11A,11Bは導通(短絡)し、ロー信号(前記高電圧よりも電圧の低い低電圧)のゲート信号が印加されると半導体素子11A,11Bは不導通となる。
【0012】
直列回路1Uの接続中点1UMはモータ9のステータのU相コイルに接続され、直列回路1Vの接続中点1VMはモータ9のステータのV相コイルに接続され、直列回路1Wの接続中点1WMはモータ9のステータのW相コイルに接続されている。
【0013】
ここで直列回路1U,1V,1Wは、駆動回路5から駆動用のPWM制御信号を受信すると、蓄電器2から供給される直流電流を三相の交流電流に変換してモータ9に出力する。また、インバータ1は、モータ9が回生電流を発生させると、駆動回路5から回生電流抽出用のPWM制御信号を受信することで当該回生電流が入力され、これを単層の直流電流に変換して蓄電器2又は平滑コンデンサ3を充電する。
【0014】
蓄電器2は、車両の駆動時にインバータ1を介して電力をモータ9に供給するものである。また、車両の制動時において、蓄電器2には、モータ9で発生した回生電流がインバータ1を介して供給される。
【0015】
平滑コンデンサ3は、インバータ1から供給された回生電流(直流電流)を充電することで、当該直流電圧を平滑化(リプル電圧を低減)して蓄電器2に供給するものである。
【0016】
界磁回路4は、インバータ1と同様に、IGBT等の半導体素子41と帰還ダイオード42との並列回路(高電圧側)とダイオード43(低電圧側)との直列回路と、半導体素子44と帰還ダイオード45との並列回路(低電圧側)とダイオード46(高電圧側)との直列回路と、とが蓄電器2に対して並列に接続された回路である。
【0017】
半導体素子41と帰還ダイオード42との並列回路(高電圧側)とダイオード43(低電圧側)との接続中点47と、半導体素子44と帰還ダイオード45との並列回路(低電圧側)とダイオード46(高電圧側)との接続中点48が、それぞれ励磁器91に接続されている。半導体素子41のゲート及び半導体素子44のゲートは、界磁回路4に接続されている。界磁回路4は、駆動回路6から送信される界磁信号に基づいて界磁電流を発生させ、当該界磁電流を励磁器91に出力する。
【0018】
駆動回路5は、制御回路7から入力されたトルク指令値(基準正弦波の振幅に対応)及び回転数指令値(基準正弦波の周期に対応)に基づいて基準正弦波を生成し、当該基準正弦波と所定のキャリア周波数の三角波とをコンパレータに入力してその大小関係を表す信号としてPWM信号を生成し、当該PWM信号をインバータ1に出力する。
【0019】
駆動回路5は、後述のように(図2参照)、電流センサで検知した電流値に対応するトルク値、回転数センサが検知する回転数、温度センサが検知する温度に基づいて、PWM信号のキャリア周波数、変調方式(三相変調、二相変調)を切り替える。
【0020】
また、駆動回路5は、トルク指令値、回転数指令値、温度推定値(トルク指令値の積分量に相当)に基づいて、PWM信号のキャリア周波数、変調方式(三相変調、二相変調)を切り替えることができる。
【0021】
駆動回路6は、制御回路7から入力されたトルク指令値及び回転数指令値に基づいて界磁信号を生成して界磁回路4に出力する。
【0022】
制御回路7は、アクセル開度等の情報に基づいてトルク指令値及び回転数指令値を生成して駆動回路5及び駆動回路6に出力する。
【0023】
[トルク及び回転数とスイッチング周波数との関係]
図2は、本実施形態のモータ制御方法において設定されるPWM制御のキャリア周波数及び変調方式について、モータ9の回転数及びモータ9のトルクを軸とする特性座標を用いて表した図である。
【0024】
まず、図2に示す特性座標において、回転数NがN3(高回転数)(第1所定回転数)より高くなる特性領域(A)と、トルクTrがTr3(高トルク(所定トルク))より高く且つ回転数NがN1(低回転数)以下の特性領域(B)、トルクTrがTr3(高トルク)より高く、且つ回転数NがN1(低回転数)より高くなる特性領域(C)、トルクTrがTr3(高トルク)以下であり且つ回転数NがN1(低回転数)(第2所定回転数)以下である特性領域(D)、トルクTrがTr3(高トルク)以下であり且つ回転数NがN1(低回転数)より高くなり且つN3(高回転数)以下となる特性領域(E)を設定する。
【0025】
特性領域(A)において、駆動回路5は、PWM信号(三角波)のキャリア周波数FをF(高周波数(基本周波数))に設定する。
【0026】
特性領域(B)において、駆動回路5は、キャリア周波数FをF又はFより低い周波数のF=FL1(低周波数)に設定する。
【0027】
特性領域(C)において、駆動回路5は、キャリア周波数FをF又はF=FL2(中周波数)に設定する。
【0028】
特性領域(D)において、駆動回路5は、キャリア周波数FをF=FL1(低周波数)に設定する。
【0029】
特性領域(E)において、駆動回路5は、キャリア周波数FをF=FL2(中周波数)に設定する。ここで周波数F,FL1,FL2は、0<FL1<FL2<Fの関係を有する。
【0030】
また、特性領域(E)の内側において、回転数NがN2(中回転数)より高く、且つトルクTrがTr1(低トルク)<Tr≦Tr2(中トルク)の範囲を特性領域(G)(特定領域)設定する。そして、特性領域(G)におけるキャリア周波数Fは特性領域(E)と同様にFL2(中周波数)に設定する。
【0031】
なお回転数N1,N2,N3は、0<N1<N2<N3の関係を有する。同様にトルクTr1,Tr2,Tr3は、0<Tr1<Tr2<Tr3の関係を有する。
【0032】
特性領域(A)、特性領域(B)、特性領域(C)、特性領域(D)、及び特性領域(E)(特性領域(G)以外の領域)において、PWM制御の変調方式を三相変調に設定する。
【0033】
特性領域(G)において、PWM制御の変調方式を二相変調に設定する。
【0034】
PWM制御において、キャリア周波数Fを高周波である高周波数(F)に設定することで制御性(応答性)向上、電圧リップル低減、NVH(音振)向上を図っている。本実施形態では、高回転数域(N>N3)となる特性領域(A)でキャリア周波数Fを高周波数(F)に設定し、高トルク域(Tr>Tr3)となる特性領域(B)及び特性領域(C)において選択的にキャリア周波数Fを高周波数(F)に設定している。
【0035】
一方、電圧リプル及びNVHの影響が小さい低回転数域且つ低トルク域となる特性領域(D)では、キャリア周波数Fとして低周波数(F=FL1)を適用することにより、インバータ1のスイッチング損失低減、EMCノイズ低減を図ることができる。
【0036】
また、本実施形態では低回転数域と高回転数域との間に中回転数域(N1<N≦N3)を設定し、高トルク側であって中回転数域となる特性領域(C)と低トルク側であって中回転数域となる特性領域(E)を設定している。
【0037】
特性領域(E)においてキャリア周波数Fとして中周波数(F=FL2)を適用することにより高周波数(F)を適用する場合よりもインバータ1のスイッチング損失を低減することができる。なお、特性領域(E)においてキャリア周波数Fとして低周波数(F=FL1)を適用した場合は、インバータ1の出力電圧(正弦波)の歪みが大きくなり、好ましくない。
【0038】
本実施形態では、特性領域(E)の内側にある特性領域(G)においてPWM制御の変調式として二相変調に設定している。二相変調は、周期方向の全区間において常にどこかの一相がハイ又はローに固定され、且つ常に残り二相が変調している方式である。二相変調では、常時いずれかの一相のスイッチング制御が停止しているので、インバータ1におけるスイッチング損失を2/3に低減することができる。しかし、二相変調の場合、トルクが大きくなると電圧リップルが発生しやすくなるため、上記のようにTr1(低トルク)<Tr≦Tr2(中トルク)を満たす範囲で適用する。
【0039】
中周波数域であって高トルク域の特性領域(C)では、キャリア周波数Fとして高周波数(F)を適用するが、低周波数(F=FL2)も適用することができる。これにより、インバータ1のスイッチング損失を低減してインバータ1(半導体素子11A,11B)の温度を低下させることができ、インバータ1の温度保護として、後述のようにトルク制限を掛けることなく、キャリア周波数Fの切り替えでインバータ1の性能を維持することができる。
【0040】
低周波数域であって高トルク域の特性領域(B)では、キャリア周波数Fとして高周波数(F)を適用するが、中周波数(F=FL1)も適用することができる。これにより、インバータ1のスイッチング損失を低減してインバータ1(半導体素子11A,11B)の温度を低下させることができ、インバータ1の温度保護として、後述のようにトルク制限を掛けることなく、キャリア周波数Fの切り替えでインバータ1の性能を維持することができる。
【0041】
なお、特性領域(A)では、PWM制御の変調率が向上し損失が低減するので、キャリア周波数Fを低周波数(F=FL1)、又は中周波数(F=FL2)に切り替える制御を行う必要はない。
【0042】
また、本実施形態では、低トルク域において、高回転数域(N>N3)、中回転数域(N1<N≦N3)、低回転数域(N≦N1)においてそれぞれキャリア周波数を設定したが、回転数が上昇するについてキャリア周波数が上昇するように設定してもよい。
【0043】
[制御フロー]
図3は、本実施形態のモータ制御方法のフロー図である。
【0044】
ステップS1において、駆動回路5はモータ9の回転数N(実測値、又は指令値、以下同様)がN3(高回転数)よりも低いか否かを判断し、YESであればステップS2に移行し、NOであればステップS6に移行する。
【0045】
ステップS2において、駆動回路5は、モータ9のトルクTr(実測値、又は指令値、以下同様)がTr3(高トルク)以下であるか否かを判断し、YESであればステップS4に移行し、NOであればステップS3に移行する。
【0046】
ステップS3において、駆動回路5はインバータ1の温度Te(実測値、又は推定値、以下同様)が所定の閾値温度Teth(実測値に対応する閾値、又は推定値に対応する閾値)以上か否かを判断し、YESであればステップS4に移行し、NOであればステップS6に移行する。
【0047】
ここで、インバータ1の温度Teとしては、通常、推定値を用い、閾値温度Tethも当該推定値用の値を適用する。推定値は、例えばモータ9の回転数及びトルクの積算(積分)量に基づいて推定する。一方、例えばモータ9等の冷却系に異常がある場合、インバータ1の温度Teは実測値(温度センサが検知する温度)を用い、閾値温度Tethも当該実測値に対応する値を適用する。
【0048】
インバータ1に対する温度保護としては、前記のようにキャリア周波数を高周波数から低周波数、又は中周波数に切り替える制御と、トルク制限(駆動トルク及び回生制動トルクに上限を設定する)を実行する制御がある。しかし、キャリア周波数を高周波数から低周波数、又は中周波数に切り替えるためのインバータ1の閾値温度Tethは、トルク制限を実行するためのインバータ1の温度閾値よりも所定温度低くなるように設定されている。
【0049】
したがって、実際には、インバータ1の温度が閾値温度Tethを超えるとキャリア周波数を高周波数から低周波数、又は中周波数に切り替える制御を行って温度保護を図るが、何らかの原因で温度がさらに上昇し、インバータ1の温度Teがトルク制限を実行するための温度閾値を超えるとトルク制限を実行するように構成されている。
【0050】
ステップS4において、駆動回路5は、モータ9の回転数NがN1(低回転数)よりも高いか否かを判断し、YESであればステップS5に移行し、NOであればステップS7に移行する。
【0051】
ステップS5において、駆動回路5は、モータ9の回転数NがN2(中回転数)よりも高く、且つモータ9のトルクTrがTr1(低トルク)<Tr≦Tr2(中トルク)の関係を満たすか否かを判断し、YESであればステップS9に移行し、NOであればステップS8に移行する。
【0052】
ステップS6において、駆動回路5は、動作点(回転数、トルク)が特性領域(A)にある場合、動作点(回転数、トルク)が特性領域(B)にあり且つインバータ1の温度Teが閾値温度Teth未満である場合、動作点(回転数、トルク)が特性領域(C)にあり且つインバータ1の温度Teが閾値温度Teth未満である場合、のいずれかであると判断してキャリア周波数FをF(高周波数)に設定し且つPWM制御の変調方式を三相変調(3P.M.)に設定する。
【0053】
ステップS7において、駆動回路5は、動作点(回転数、トルク)が特性領域(D)にある場合、又は動作点(回転数、トルク)が特性領域(B)にあり且つインバータ1の温度Teが閾値温度Teth以上である場合のいずれかと判断してキャリア周波数FをFL1(低周波数)に設定し且つPWM制御の変調方式を三相変調(3P.M.)に設定する。
【0054】
ステップS8において、駆動回路5は、動作点(回転数、トルク)が特性領域(E)にある場合、又は動作点(回転数、トルク)が特性領域(C)にあり且つインバータ1の温度Teが閾値温度Teth以上である場合のいずれかと判断してキャリア周波数FをFL2(中周波数)に設定し且つPWM制御の変調方式を三相変調(3P.M.)に設定する。
【0055】
ステップS9において、駆動回路5は、動作点(回転数、トルク)が特性領域(G)にあると判断してキャリア周波数FをFL2(中周波数)に設定し且つPWM制御の変調方式を二相変調(2P.M.)に設定する。駆動回路5は、モータ9の動作中に上記のフローを繰り返し実行する。
【0056】
図2に示すように、各領域に基づいてキャリア周波数Fを設定する場合に、動作点(回転数、トルク)が互いに隣接する領域の間を高い頻度で行き来する場合が発生する。この場合、キャリア周波数Fが高い頻度で切り替わる制御(チャタリング)となり、制御に負担が掛かる場合がある。このため、本実施形態ではキャリア周波数を切り替える制御に関して、その制御の判断基準となるトルク及び回転数に対してヒステリシス幅を設定(各物理量において、値が下降するときの第1閾値と、値が上昇するときの第2閾値とを設定し、第2閾値を第1閾値よりも高い値に設定)し、チャタリングを防止している。
【0057】
本実施形態では、前記のようにモータ9は巻線界磁式の同期モータであるが、励磁器91に界磁電流を印加するとモータ9において逆起電力(界磁電流を妨げる方向の起電力(誘起電圧))が発生する。この逆起電力は、高回転数且つ高トルクの場合に顕著となる。
【0058】
図2に示すように、特性領域(A)は、高回転数となる領域であって逆起電力が高い領域を含んでいる。当該領域において、通常の制御では動作点(回転数、トルク)を設定できず、界磁電流を流すことができない。そこで、界磁電流を弱める制御(弱め界磁制御)を行い、モータ9の動作点(回転数、トルク)を逆起電力が弱くなった領域に移動させることで、モータ9の出力範囲を拡大している。なお特性領域(A)においては、三相変調の出力電圧・出力電流と、二相変調の出力電圧・出力電流は類似した特性を有する。
【0059】
特性領域(B)及び特性領域(D)(後述の特性領域(H)を除く)は、逆起電力が小さく弱め界磁制御は実行しない領域である。これらの領域では、例えば出力電圧・出力電流の品質が良く(例えば電圧リップルが小さい、又は許容範囲内である)、特に三相変調の方が二相変調よりも当該品質が良い。
【0060】
特性領域(E)(後述の特性領域(H)を除く)は、逆起電力がある程度発生しているが、弱め界磁制御を実行することなく動作点(回転数、トルク)を設定できる領域である。
【0061】
特性領域(G)は、特性領域(E)において、高回転数側且つ低トルク側であってトルク値がゼロ以上となる位置に偏在して配置されている。
【0062】
特性領域(G)では二相変調の方が三相変調よりも高い効率(損失が小さく電圧リップルが許容範囲内)が得られるため、二相変調が適用される。なお、特性領域(E)は後述の特性領域(H)とは重なっていない。
【0063】
特性領域(H)は、特性領域(D)及び特性領域(E)に亘って分布する。特性領域(H)は特性領域(D)の低トルク側と特性領域(E)の低トルク側に分布する。
【0064】
特性領域(D)において、特性領域(H)の境界は横軸とほぼ平行となっている。特性領域(E)において特性領域(H)の境界は回転数の上昇とともに単調に減少し、例えば回転数NがN2とN3の間においては横軸とほぼ平行となっている。特性領域(H)は、出力電流・出力電圧の基本波に対するリップルが増加する傾向となる領域である。よって特性領域(H)では、NVH、EMC等へ影響を及ぼすため、二相変調は適用しない。
【0065】
[本実施形態の効果]
本実施形態のモータ制御方法によれば、モータ9に電力を供給する電力変換器(インバータ1)に所定のキャリア周波数でPWM信号を送信して電力変換器(インバータ1)をスイッチング制御することでモータ9を制御するモータ制御方法であって、モータ9の回転数(N)とモータ9のトルク(Tr)を軸とし、回転数(N)が第1所定回転数(N3)よりも高い領域を表す第1領域と、回転数(N)が第1所定回転数(N3)以下であり、且つトルク(Tr)が所定トルク(Tr3)よりも高い領域を表す第2領域と、回転数(N)が第1所定回転数(N3)以下であり、且つトルク(Tr)が所定トルク(Tr)以下の領域を表す第3領域と、を包含する特性座標において、現在の回転数(N)及びトルク(Tr)を表す動作点(回転数、トルク)が第1領域(特性領域(A))に含まれる場合は、キャリア周波数(F)を基準周波数(F)に設定し、動作点(回転数、トルク)が第2領域(特性領域(B)、特性領域(C))に含まれる場合は、キャリア周波数(F)を基準周波数(F)、又は基準周波数(F)よりも周波数の低い低周波数(F)のいずれかを選択して設定し、動作点(回転数、トルク)が第3領域(特性領域(D)、特性領域(E))に含まれる場合は、キャリア周波数(F)を低周波数(F)に設定し、動作点(回転数、トルク)が第3領域(特性領域(E))の内側に配置された特定領域(特性領域(G))以外の領域に含まれる場合はPWM信号の変調方式を三相変調とし、動作点(回転数、トルク)が特定領域(特性領域(G))に含まれる場合はPWM信号の変調方式を二相変調とする。
【0066】
上記方法により、モータ9の回転数及びトルクに応じて適切なキャリア周波数を設定するとともに、三相変調のPWM制御よりも二相変調のPWM制御が有利となる領域(例えば、スイッチング損失が小さく且つ電圧リップルが低く抑えられる領域)において二相変調のPWM制御を適用することで、(回転数、トルク)で表される特性座標のあらゆる位置に対応して効率的なスイッチング制御を実現できる。
【0067】
本実施形態において、動作点(回転数、トルク)が第3領域(特性領域(D)、特性領域(E))に含まれる場合において、低周波数(F)を回転数(N)に基づいて周波数が互いに異なる複数のキャリア周波数(F)から選択し、回転数(N)が低くなるほど低周波数(F)として周波数の低いキャリア周波数(F)を設定する。
【0068】
上記方法により、回転数(N)に対応して最適化された低周波数(F)が選択されるので、スイッチング制御の効率性をより高めることができる。
【0069】
第3領域(特性領域(D)、特性領域(E))は、回転数(N)が第1所定回転数(N3)よりも低い第2所定回転数(N1)以下の第4領域(特性領域(D))と、回転数(N)が第2所定回転数(N1)よりも高くなる第5領域(特性領域(E))と、を含み、動作点(回転数、トルク)が第4領域(特性領域(D))に含まれる場合に設定される低周波数(F=FL1)を、動作点(回転数、トルク)が第5領域(特性領域(E))に含まれる場合に設定される低周波数(中周波数)(F=FL2)よりも低く設定する。
【0070】
上記方法により、回転数(N)に対応して最適化された低周波数(F=FL1(低周波数)、FL2(中周波数))が選択されるので、スイッチング制御の効率性をより高めることができる。
【0071】
本実施形態において、モータ9は巻線界磁式同期モータであり、特定領域(特性領域(G))は、第5領域(特性領域(E))において高回転数側且つ低トルク側であってトルク値がゼロよりも高い位置に偏在している。
【0072】
上記方法により、二相変調の方が三相変調よりも高い効率(損失が小さく電圧リップルが許容範囲内)となる特定領域(特性領域(G))に二相変調を設定することで、高い効率で出力電圧・出力電流を出力することができる。
【0073】
本実施形態において、動作点(回転数、トルク)が第2領域(特性領域(B)、特性領域(C))に含まれる場合において、電力変換器(インバータ1)の温度(Te)が所定の閾値温度(Teth)以下の場合は、キャリア周波数(F)を基準周波数(F)に設定し、電力変換器(インバータ1)の温度(Te)が所定の閾値温度(Teth)を超えた場合は、キャリア周波数(F)を第3領域(特性領域(D)、特性領域(E))であって回転数(N)に対応する低周波数(F)に設定する。
【0074】
変換器(インバータ1)の温度保護としては、トルク制限を行う制御があるが、これを行うとドライバーに不快感を与える虞がある。しかし、上記方法により、トルク制限を行うことなく(トルク制限を行う前に)電力変換器(インバータ1)の温度保護を行うことができ、且つドライバーに不快感を与えることもない。
【0075】
本実施形態において、電力変換器の温度を、回転数及びトルクに基づいて推定する。
【0076】
上記方法により、電力変換器(インバータ1)の温度を電力変換器(インバータ1)の実温度を検知するよりも迅速に推定することができる。
【0077】
本実施形態において、動作点(回転数、トルク)を、モータ9の回転数指令値及びモータ9のトルク指令値に基づいて設定する。これにより、動作点(回転数、トルク)を迅速に特定することができ、制御を迅速に行うことができる。
【0078】
また、本実施形態のモータ制御装置100によれば、モータ9に電力を供給する電力変換器(インバータ1)に所定のキャリア周波数でPWM信号を送信して電力変換器(インバータ1)をスイッチング制御することでモータ9を制御するモータ制御装置100であって、モータ9の回転数(N)とモータ9のトルク(Tr)を軸とし、回転数(N)が第1所定回転数(N3)よりも高い領域を表す第1領域と、回転数(N)が第1所定回転数(N3)以下であり、且つトルク(Tr)が所定トルク(Tr3)よりも高い領域を表す第2領域と、回転数(N)が第1所定回転数(N3)以下であり、且つトルク(Tr)が所定トルク(Tr)以下の領域を表す第3領域と、を包含する特性座標において、現在の回転数(N)及びトルク(Tr)を表す動作点(回転数、トルク)が第1領域(特性領域(A))に含まれる場合は、キャリア周波数(F)を基準周波数(F)に設定し、動作点(回転数、トルク)が第2領域(特性領域(B)、特性領域(C))に含まれる場合は、キャリア周波数(F)を基準周波数(F)、又は基準周波数(F)よりも周波数の低い低周波数(F)のいずれかを選択して設定し、動作点(回転数、トルク)が第3領域(特性領域(D)、特性領域(E))に含まれる場合は、キャリア周波数(F)を低周波数(F)に設定し、動作点(回転数、トルク)が第3領域(特性領域(E))の内側に配置された特定領域(特性領域(G))以外の領域に含まれる場合はPWM信号の変調方式を三相変調とし、動作点(回転数、トルク)が特定領域(特性領域(G))に含まれる場合はPWM信号の変調方式を二相変調とする。
【0079】
上記構成により、モータ9の回転数及びトルクに応じて適切なキャリア周波数を設定するとともに、三相変調のPWM制御よりも二相変調のPWM制御が有利となる領域(例えば、スイッチング損失が小さく且つ電圧リップルが低く抑えられる領域)において二相変調のPWM制御を適用することで、(回転数、トルク)で表される特性座標のあらゆる位置に対応して効率的なスイッチング制御を実現できる。
【0080】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。また、上記実施形態は、適宜組み合わせ可能である。
図1
図2
図3