(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】レーザ加工装置及びレーザ加工方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/38 20140101AFI20241108BHJP
B23K 26/064 20140101ALI20241108BHJP
B23K 26/082 20140101ALI20241108BHJP
B23K 26/073 20060101ALI20241108BHJP
B23K 26/04 20140101ALI20241108BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20241108BHJP
【FI】
B23K26/38 A
B23K26/064 A
B23K26/082
B23K26/073
B23K26/04
B23K26/064 N
B23K26/00 Q
B23K26/064 G
(21)【出願番号】P 2023534564
(86)(22)【出願日】2021-07-16
(86)【国際出願番号】 JP2021026743
(87)【国際公開番号】W WO2023286265
(87)【国際公開日】2023-01-19
【審査請求日】2023-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】石川 恭平
(72)【発明者】
【氏名】瀬口 正記
(72)【発明者】
【氏名】河▲崎▼ 正人
(72)【発明者】
【氏名】山本 達也
(72)【発明者】
【氏名】藤井 健太
(72)【発明者】
【氏名】桂 智毅
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/012379(WO,A1)
【文献】特開2020-196036(JP,A)
【文献】特表2016-535675(JP,A)
【文献】国際公開第2012/164663(WO,A1)
【文献】特開2020-73284(JP,A)
【文献】特開2020-151725(JP,A)
【文献】特開平7-227686(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/38
B23K 26/064
B23K 26/082
B23K 26/073
B23K 26/04
B23K 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発振器指令に基づいてレーザ光を出力するレーザ発振器と、
前記レーザ光を集光光学系によって集光して加工対象物の照射位置に照射する加工ヘッドと、
駆動指令に基づいて前記加工対象物と前記加工ヘッドとの相対位置を変更して前記照射位置を切断方向に移動させる制御部と、
一つの軸に関して回転対称な強度分布変換特性を有する光学部品を含み前記レーザ光の強度分布を強度分布調整指令に基づいて変更する強度分布調整部と、
前記加工対象物の材質、前記加工対象物の板厚及び前記切断方向の一部又は全部に対応して前記強度分布調整部に入射する前記レーザ光の入射位置
と入射角度
とを変更する光軸調整部とを備え、
前記強度分布調整部は、前記光軸調整部によって光軸が調整された前記レーザ光の強度分布を調整し、
前記集光光学系は、前記強度分布調整部によって強度分布が調整された前記レーザ光を集光し、
前記制御部は、切断加工に関する数値パラメータである加工パラメータに基づいて前記発振器指令、前記駆動指令、前記強度分布調整指令、前記材質、前記板厚及び前記切断方向の一部又は全部に対応して前記光軸調整部を制御するための光軸調整指令を決定する
ことを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項2】
前記光軸調整部は、前記レーザ光が前記強度分布調整部に入射する位置と角度とを調整するガルバノスキャナ又はマイクロエレクトロメカニカルシステムミラーである
ことを特徴とする請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記光軸調整部は、
前記レーザ光が透過する平面基板と、
前記平面基板と前記レーザ光の光軸との相対角度を変更する機構と、
前記平面基板を、前記材質、前記板厚及び前記切断方向の一部又は全部に対応して前記光軸を中心に回転させる回転機構とを有する
ことを特徴とする請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記強度分布調整部は、前記光学部品を前記レーザ光の光軸に挿入する又は前記光軸から取り除く動作を行う光路切替え機構を更に含む
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
前
記光学部品は、アキシコンレンズである
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
前記光学部品は、球面収差を発生させ、最小錯乱円と近軸焦点との関係を変更することが可能である複数のレンズが組み合わされた光学部品である
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項7】
前記加工ヘッドは、前記集光光学系に入射する前記レーザ光のビーム径を変更することによって前記加工対象物に照射される前記レーザ光の集光径を変更する集光径変更部を有する
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項8】
前記切断加工の加工条件、前記発振器指令、前記駆動指令、前記強度分布調整指令、及び前記加工パラメータを含む状態量を取得するデータ取得部と、前記状態量に基づいて、前記加工条件のもとで良い加工を得る加工条件を学習する学習部とを有する機械学習器
を更に備えることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項9】
前記レーザ発振器は、ファイバレーザ発振器であることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項10】
発振器指令に基づいてレーザ光を出力するレーザ発振器と、前記レーザ光を集光光学系によって集光して加工対象物の照射位置に照射する加工ヘッドとを有するレーザ加工装置を用いるレーザ加工方法であって、
駆動指令に基づいて前記加工対象物と前記加工ヘッドとの相対位置を変更して前記照射位置を切断方向に移動させるステップと、
一つの軸に関して回転対称な強度分布変換特性を有する光学部品を用いて前記レーザ光の強度分布を強度分布調整指令に基づいて変更するステップと、
前記加工対象物の材質、前記加工対象物の板厚及び前記切断方向の一部又は全部に対応して、前記光学部品を含むと共に前記レーザ光の強度分布を変更する強度分布調整部に入射する前記レーザ光の入射位置
と入射角度
とを変更するステップと、
前記レーザ光の入射位置と入射角度とを変更するステップにおいて光軸が調整された前記レーザ光の強度分布を調整するステップと、
強度分布が調整された前記レーザ光を集光するステップと、
切断加工に関する数値パラメータである加工パラメータに基づいて前記発振器指令、前記駆動指令、前記強度分布調整指令、前記材質、前記板厚及び前記切断方向の一部又は全部に対応して前記強度分布調整部に入射する前記レーザ光の入射位置
と入射角度
とを変更する光軸調整部を制御するための光軸調整指令を決定するステップと
を含むことを特徴とするレーザ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ光を加工対象物に照射して加工対象物を加工するレーザ加工装置及びレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1が開示している加工方向にレーザビームを用いて材料を加工するための装置は、加工対象物へとレーザビームを集光させ光学軸を規定する集光光学系を有する。当該装置は、加工方向に垂直なレーザビームのパワー密度分布を非対称になるように調節するレーザビーム用の第1の調節装置を備える調節機構と、加工方向に垂直なガスジェットの密度分布を非対称になるように調節するガスジェット用の第2の調節装置との一方又は双方を更に有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1が開示している装置には、加工対象物に照射されるレーザビームのビームモードと加工方向に照射されるレーザビームのビーム断面内の強度分布のエネルギ比率とを切断加工の加工パラメータに対応して制御することができないという課題がある。
【0005】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、加工対象物に照射されるレーザ光のビームモードと加工方向に照射されるレーザ光のビーム断面内の強度分布のエネルギ比率とを切断加工の加工パラメータに対応して制御することができるレーザ加工装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係るレーザ加工装置は、発振器指令に基づいてレーザ光を出力するレーザ発振器と、レーザ光を集光光学系によって集光して加工対象物の照射位置に照射する加工ヘッドと、駆動指令に基づいて加工対象物と加工ヘッドとの相対位置を変更して照射位置を切断方向に移動させる制御部とを有する。本開示に係るレーザ加工装置は、一つの軸に関して回転対称な強度分布変換特性を有する光学部品を含みレーザ光の強度分布を強度分布調整指令に基づいて変更する強度分布調整部と、加工対象物の材質、加工対象物の板厚及び切断方向の一部又は全部に対応して強度分布調整部に入射するレーザ光の入射位置と入射角度とを変更する光軸調整部とを更に有する。強度分布調整部は、光軸調整部によって光軸が調整されたレーザ光の強度分布を調整する。集光光学系は、強度分布調整部によって強度分布が調整されたレーザ光を集光する。制御部は、切断加工に関する数値パラメータである加工パラメータに基づいて発振器指令、駆動指令、強度分布調整指令、加工対象物の材質、加工対象物の板厚及び切断方向の一部又は全部に対応して光軸調整部を制御するための光軸調整指令を決定する。
【発明の効果】
【0007】
本開示に係るレーザ加工装置は、加工対象物に照射されるレーザ光のビームモードと加工方向に照射されるレーザ光のビーム断面内の強度分布のエネルギ比率とを切断加工の加工パラメータに対応して制御することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1に係るレーザ加工装置の構成の概要を示す図
【
図2】実施の形態1に係るレーザ加工装置の具体的な構成の例を示す図
【
図3】レーザビームの位置の変位量を説明するための図
【
図4】
図2のレーザ加工装置の強度分布調整部が有する光学部品の例を示す図
【
図5】
図2のレーザ加工装置の強度分布調整部が有する光学部品の例を示す図
【
図6】
図2のレーザ加工装置の強度分布調整部が有する光学部品の例を示す図
【
図7】
図2のレーザ加工装置の強度分布調整部が有する光学部品の例を示す図
【
図8】実施の形態1に係るレーザ加工装置の具体的な使用方法の例を示す図
【
図9】実施の形態1に係るレーザ加工装置の具体的な使用方法の別の例を示す図
【
図10】光線追跡の計算結果の例を説明するための実施の形態1に係るレーザ加工装置の一部の構成を示す図
【
図11】実施の形態1に係るレーザ加工装置が有する平面基板とレーザビームの光軸とが成す角度が90°であって光学部品が光軸に挿入されていない場合の集光点付近のビーム強度分布を示す図
【
図13】実施の形態1に係るレーザ加工装置において強度分布調整部の凸アキシコンレンズが光軸に挿入された場合の集光点付近のビーム強度分布を示す図
【
図14】実施の形態1に係るレーザ加工装置において平面基板とレーザビームの光軸とが成す角度が45°である場合のレーザビーム強度分布を示す図
【
図15】実施の形態1に係るレーザ加工装置において平面基板の傾斜角とレーザビームの加工進行方向側の領域のピーク強度との関係を示す図
【
図16】実施の形態1に係るレーザ加工装置の機能を説明するための図
【
図17】実施の形態2に係るレーザ加工装置の構成の概要を示す図
【
図18】実施の形態3に係るレーザ加工装置が有する加工条件解析器の構成を示す図
【
図19】実施の形態3に係るニューラルネットワークモデルの構成を示す図
【
図20】実施の形態3に係る変形例のレーザ加工装置の構成を示す図
【
図21】実施の形態3に係るレーザ加工装置の加工条件解析器が有する加工結果判定部、特徴量抽出部、機械学習器及び加工条件変更部の一部又は全部がプロセッサによって実現される場合のプロセッサを示す図
【
図22】実施の形態3に係るレーザ加工装置の加工条件解析器が有する加工結果判定部、特徴量抽出部、機械学習器及び加工条件変更部の一部又は全部が処理回路によって実現される場合の処理回路を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、実施の形態に係るレーザ加工装置及びレーザ加工方法を図面に基づいて詳細に説明する。
【0010】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係るレーザ加工装置100の構成の概要を示す図である。レーザ加工装置100は、レーザ光を加工対象物Wに照射して加工対象物Wを加工する装置であって、発振器指令に基づいてレーザ光を発振して出力するレーザ発振器1を有する。以下では、レーザ発振器1が発振して出力するレーザ光は、レーザビームLと記載される場合がある。
図1には、加工対象物W及びレーザビームLも示されている。レーザビームLの波長は、例えば加工対象物WへのレーザビームLの吸収率と加工対象物Wに対するレーザビームLの反射率とが考慮されて適宜選択される。例えばレーザビームLの波長は、0.193μmから11μmまでのいずれかである。
【0011】
レーザ加工装置100は、レーザ発振器1から出力されたレーザビームLが供給される加工ヘッド2を更に有する。レーザ発振器1から出力されたレーザビームLは、光路を介して、加工ヘッド2に供給される。加工ヘッド2は、レーザ発振器1から出力されたレーザビームLを後述される集光光学系6によって集光して加工対象物Wの照射位置に照射する。照射位置は、加工対象物WにおいてレーザビームLが照射される位置である。加工ヘッド2の内部には、加工ガスも供給され、レーザビームLが加工対象物Wへ照射される際、加工ガスが加工対象物Wへ噴射される。
【0012】
レーザ加工装置100は、レーザ発振器1から出力されたレーザビームLをコリメートするコリメートレンズ3を更に有する。コリメートレンズ3は、一つ又は複数のレンズで構成される。レーザ加工装置100は、コリメートレンズ3によってコリメートされたレーザビームLの光軸を調整する光軸調整部4を更に有する。コリメートレンズ3及び光軸調整部4は、加工ヘッド2の内部に位置している。
【0013】
レーザ加工装置100は、光軸調整部4によって光軸が調整されたレーザビームLの強度分布を調整する強度分布調整部5と、強度分布調整部5によって強度分布が調整されたレーザビームLを集光する集光光学系6とを更に有する。集光光学系6によって集光されたレーザビームLは、加工対象物Wに照射される。強度分布調整部5及び集光光学系6は、加工ヘッド2の内部に位置している。
【0014】
例えば、レーザ加工装置100は、レーザビームLを集光してレーザビームLを加工対象物Wに照射することにより加工対象物Wを切断する。
図1には、切断方向を示す矢印も示されている。光軸調整部4は、加工対象物Wの材質、加工対象物Wの板厚及び切断方向の一部又は全部に対応して強度分布調整部5に入射するレーザビームLの入射位置又は入射角度を変更する。加工ヘッド2は、加工ノズル7を有する。加工ノズル7には、集光光学系6と加工対象物Wとの間の位置であってレーザビームLの光路の一部となる位置に開口部が形成されている。レーザビームL及び加工ガスは、当該開口部を通過する。
【0015】
レーザ加工装置100は、駆動指令に基づいて加工対象物Wと加工ヘッド2との相対位置を変更してレーザビームLが加工対象物Wに照射される位置である照射位置を切断方向に移動させる制御部8を更に有する。図示されていないモータ及びモータ駆動装置が、加工ヘッド2が設置される軸又は加工対象物Wが配置される加工テーブルに備えられ、制御部8による制御によってモータ駆動装置がモータを制御することにより、レーザ加工装置100は、加工ヘッド2と加工対象物Wとの相対位置を変更することができる。加工ヘッド2は、集光光学系6に入射するレーザビームLのビーム径を変更することによって加工対象物Wに照射されるレーザビームLの集光径を変更する集光径変更部3aをコリメートレンズ3に置き換えてもよい。
【0016】
レーザ発振器1の種類は、限定されない。レーザ発振器1の一例は、ファイバレーザ発振器である。レーザ発振器1は、ダイレクトダイオードレーザ、炭酸ガスレーザ、銅蒸気レーザ、各種イオンレーザ、又は固体レーザであってもよい。固体レーザの一例は、YAG(Yttrium-Aluminum-Garnet)結晶を励起媒体とするレーザである。レーザ加工装置100は、レーザ発振器1が出力したレーザ光の波長を変換する波長変換部を有してもよい。
【0017】
制御部8は、加工プログラムと加工条件を示す加工パラメータとにしたがって、レーザビームLが加工対象物Wの上の加工経路を走査するように、レーザ発振器1が出力するレーザ光の出力、パルス周波数、パルスデューティ及び発振のタイミングを指令する発振器指令と、モータ駆動装置の送り速度及び位置決めを指令する駆動指令とを制御する。使用されるレーザ光の種別及びレーザ加工装置100が有する機能に対応して、加工パラメータとしてどのようなものを用いるかが適宜決定される。
【0018】
光軸調整部4について説明を行う。光軸調整部4は、光学部品と、光学部品をレーザビームLの光軸に対して変位させる駆動部とを有する。
図2は、実施の形態1に係るレーザ加工装置100の具体的な構成の例を示す図である。
図2の例では、光軸調整部4の光学部品は平面基板4aであり、駆動部は中空回転ステージ4b及び角度調整機構4cである。レーザビームLは、平面基板4aを透過する。中空回転ステージ4b及び角度調整機構4cは、平面基板4aのレーザビームLの光軸に対する傾斜角を変更する構成要素である。中空回転ステージ4bは、平面基板4aを、加工対象物Wの材質、加工対象物Wの板厚及び切断方向の一部又は全部に対応してレーザビームLの光軸を中心に回転させる回転機構である。角度調整機構4cは、平面基板4aとレーザビームLの光軸との相対角度を変更する機構である。
【0019】
例えば、中空回転ステージ4bは、ダイレクトドライブモータである。回転ステージは変位ステージと比較して加速度が大きいため、レーザ加工装置100は、加工速度により追従してビームモードを変更することができる。平面基板4aがレーザビームLの光軸に対して傾斜することによって、強度分布調整部5に入射するレーザビームLの入射位置が変わる。
図2のレーザ加工装置100が有するレーザ発振器1は、ファイバレーザである。
図2のレーザ加工装置100は、レーザ発振器1から出力されたレーザビームLを加工ヘッド2に伝達するための光ファイバ9を有する。
【0020】
平面基板4aがレーザビームLの光軸に対して直交していて、中空回転ステージ4bの回転中心軸がレーザビームLの光軸と一致している場合、
図3に示されるように、平面基板4aの厚さがtであって、平面基板の屈折率がnであり、レーザビームLに対する平面基板4aの角度がαに変化するとき、レーザビームLの位置の変位量Δは下記の式(1)で表すことができる。
図3は、レーザビームLの位置の変位量Δを説明するための図である。
【0021】
【0022】
レーザ加工装置100は、レーザビームLに対する平面基板4aの角度αを変更することによって、レーザビームLの強度分布調整部5への入射位置を変更することができる。
【0023】
レーザ加工装置100は、直線だけでなく、円形又は角といった形状の加工を行う必要がある。レーザ加工装置100は、中空回転ステージ4bによって加工方向に対して平面基板4aを回転させることにより、加工方向に対してレーザビームLの強度分布調整部5に入射する位置の変位量Δを一定に保ったまま、当該位置の変位の方向を変更させることができる。
【0024】
レーザ加工装置100が形状加工を行う場合、光軸調整部4は、制御部8から加工方向の変更情報を加工中に受け取ってもよいし、加工前に加工方向を変更するタイミングを決定しておいてもよい。
【0025】
角度調整機構4cは、平面基板4aのレーザビームLの光軸に対する角度αを変更することができる構成要素であればよい。角度調整機構4cとして、傾斜ステージが用いられてもよいし、位置決めステージが用いられてもよい。平面基板4aのレーザビームLの光軸に対する角度αは、加工中に変更されてもよいし、加工前に設定されてもよい。
【0026】
光軸調整部4の光学部品は、平面基板4aに限定されない。光軸調整部4の光学部品は、ウェッジ基板又は複数のウェッジ角を持つ屈折光学素子であってもよいし、ウェッジ基板又は屈折光学素子と同様の機能を持つ反射光学素子であってもよい。
【0027】
光軸調整部4の中空回転ステージ4bの変位量と角度調整機構4cの傾斜角の値とを決定する光軸調整指令は、制御部8によって発せられる。
【0028】
強度分布調整部5についての説明を行う。
図2の例では、強度分布調整部5は、光学部品5aと、光学部品5aを駆動する光路切替え機構5bとを有する。光学部品5aは、光軸調整部4と集光光学系6との間に配置される。光学部品5aは、一つの軸に関して回転対称な強度分布変換特性を有する。強度分布調整部5は、光学部品5aを含みレーザビームLの強度分布を強度分布調整指令に基づいて変更する。
【0029】
例えば、光学部品5aは、アキシコンレンズと、球面収差を発生させて最小錯乱円と近軸焦点との関係を変更することが可能であるレンズとが組み合わせられた構成要素であって、加工対象物Wの付近でレーザビームLを一様な強度分布でないビーム強度分布にする構成要素である。「一様な強度分布でない」ビーム強度分布とは、例えばリングモードの分布である。光学部品5aとして、回折光学素子DOE(Diffractive Optical Element)が用いられてもよい。
【0030】
図4から
図7の各々は、
図2のレーザ加工装置100の強度分布調整部5が有する光学部品5aの例を示す図である。
図4は凸型のアキシコンレンズを示しており、凸型のアキシコンレンズは集光位置より加工ヘッド2の側にリングモードを生成することができる。
図5は凹型のアキシコンレンズを示しており、凹型のアキシコンレンズは集光位置より加工対象物Wの側にリングモードを生成することができる。
【0031】
図6は、球面収差を発生させ、最小錯乱円と近軸焦点との関係を調整することが可能である複数のレンズが組み合わされた光学部品を示している。
図6の光学部品は、レーザビームLの分布をビームモードの外側が内側より高い強度分布を持つような分布に変換することができる。
図7は、凹型のアキシコンレンズと凸型のアキシコンレンズとが組み合わせられた光学部品を示しており、
図7の光学部品は、集光点の前後のどちらにもリングモードのビーム強度分布を生成することができる。光学部品5aは、
図4から
図7までに示されている二つ以上の光学部品が組み合わせられた光学部品であってもよい。
【0032】
光学部品5aを光路に挿入するか否かの切替えを決定する強度分布調整指令は、制御部8によって発せられる。制御部8は、切断加工に関する数値パラメータである加工パラメータに基づいて発振器指令、駆動指令、強度分布調整指令、加工対象物Wの材質、加工対象物Wの板厚及び切断方向の一部又は全部に対応して光軸調整部4を制御するための光軸調整指令を決定する。
【0033】
光学部品5aへのレーザビームLの入射位置は、光軸調整部4によって調整される。光軸調整部4に入射する前のレーザビームLの光軸が強度分布調整部5の光学部品5aの光軸と同じである場合、光学部品5aへ入射するレーザビームLのビーム直径をdとし、強度分布調整部5の光軸中心に対するレーザビームLの強度分布の割合をkとすると、当該割合kは下記の式(2)で表すことができる。Δは、光軸調整部4によって調整されたレーザビームLの位置の変位量である。
【0034】
【0035】
レーザ加工装置100は、光軸調整部4によってレーザビームLの位置の変位量Δを調整することによって、加工方向に照射されるレーザビームLの強度分布のエネルギ比率を変更することができる。
【0036】
光軸調整部4の光軸は、強度分布調整部5の中心軸であってもよい。強度分布調整部5に入射するレーザビームLの光軸に対する位置又は光軸に対する角度は、変更されてもよい。
【0037】
レーザ加工装置100は、金属を溶接する加工又は切断する加工を行う場合、加工対象物Wの板厚及び材質毎に加工対象物Wに照射するレーザビームLのビーム径、ビーム強度及び発散角を調整して加工を行う。金属の例は、鉄である。レーザ加工装置100のユーザは、切断加工において切断したものを加工対象物Wから製品として取り出す必要がある。ビーム径が大きく、切断溝が拡げられて加工されると、製品を取り出しやすくなる。レーザビームLの断面の形状が加工対象物Wに対して対称なビーム形状である場合、レーザビームLの強度とビーム径とは一意に決まる。ビーム径を大きくして加工進行中のビーム強度を高くするためには、レーザ発振器1を高出力化しなければならない。
【0038】
レーザ加工装置100は、強度分布調整部5に入射するレーザビームLの入射位置の変位量を光軸調整部4によって調整することにより、加工対象物Wに照射されるレーザビームLの強度分布を調整するために非対称なレーザビームLの強度分布を生成することが可能になる。更に言うと、レーザ加工装置100は、同じレーザ出力及びビーム径において、レーザビームLの強度を変更することが可能になる。加えて、レーザ加工装置100は、加工進行方向にレーザビームLの強度を上げるような非対称なレーザビーム強度分布を生成することにより、レーザ発振器1の出力に対して対称なレーザビーム強度分布と比較して、高いレーザビーム強度で加工を行うことが可能になる。
【0039】
特許文献1は、コリメートレンズとビーム源との間に光学要素を配置する技術を開示しているが、実施の形態1では、光学要素はコリメートレンズと集光光学系6との間に配置されている。コリメート部分では、ビームの大きさが一定で距離を自由にとることが可能であるので、特許文献1より実施の形態1の方が光学要素を容易に配置することができる。
【0040】
実施の形態1では、光軸方向及び光軸と垂直な方向に光軸調整部4を変位させる必要がないため、光軸調整部4を光路から取り出す又は挿入する機構を加えることが容易である。同様に、光軸方向及び光軸と垂直な方向に強度分布調整部5を変位させる必要がないため、強度分布調整部5を光路から取り出す又は挿入する機構を加えることが容易である。
【0041】
加工対象物Wが3.2mm以上の厚みを有する板である場合、レーザ加工装置100は、加工対象物Wを加工するとき、強度分布調整部5に入射するレーザビームLの角度を光軸調整部4で変更することによって、加工方向へのレーザビーム強度及びエネルギ比率を調整して加工を行う。
【0042】
加工対象物Wが3.2mm以下の厚みを有する板である場合、レーザ加工装置100が加工対象物Wを加工するとき、加工速度が比較的速いので、中空回転ステージ4bの回転速度が加工速度に追従することは難しい。ユーザは、ビーム径を小さくして加工を行いたいため、光学部品5aを取り除いて加工を行いたい場合がある。その場合、
図8に示されるように、ユーザは、平面基板4aを傾斜させずに、すなわち平面基板4aとレーザビームLの光軸とが成す角度を90°と設定し、光路切替え機構5bを用いて光学部品5aを光路から取り除いて加工を行えばよい。
図8は、実施の形態1に係るレーザ加工装置100の具体的な使用方法の例を示す図である。光路切替え機構5bは、光学部品5aをレーザビームLの光軸に挿入する又は光軸から取り除く動作を行う構成要素である。
【0043】
ユーザは、
図9に示されるように、平面基板4aを傾斜させずに、すなわち平面基板4aとレーザビームLの光軸とが成す角度を90°と設定し、強度分布調整部5をレーザビームLの光路から取り除かずに加工を行ってもよい。
図9は、実施の形態1に係るレーザ加工装置100の具体的な使用方法の別の例を示す図である。
【0044】
厚みが異なる板についての加工方法は、上述の方法に限定されない。
【0045】
加工ヘッド2は、凸のアキシコンレンズと凹のアキシコンレンズとのうちのどちらも有していてもよい。凸のアキシコンレンズと凹のアキシコンレンズとは、板厚と加工ガス種との一方又は双方に対応して使い分けられてもよい。
【0046】
例えば、加工ガスとして、酸素、窒素又はエアーが使用される。しかしながら、加工ガスは、酸素、窒素又はエアー以外のガスであってもよいし、2種類以上のガスを含んでいてもよい。
【0047】
図10は、光線追跡の計算結果の例を説明するための実施の形態1に係るレーザ加工装置100の一部の構成を示す図である。
図10の例では、レーザ発振器1はファイバレーザであり、レーザ出力は5kWである。ファイバコア径Φは0.1mmであり、NA(Numerical Aperture)は0.08である。コリメートレンズ3の焦点距離は100mmであり、集光光学系6が集光レンズであって、当該集光レンズの焦点距離は200mmであり、光軸調整部4の平面基板4aの厚さは10mmであり、強度分布調整部5の凸アキシコンレンズの頂角は179.5°である。
【0048】
図11は、実施の形態1に係るレーザ加工装置100が有する平面基板4aとレーザビームLの光軸とが成す角度が90°であって光学部品5aが光軸に挿入されていない場合の集光点付近のビーム強度分布を示す図である。
図12は、加工方向の中心軸XX’断面を示す図である。
図11は、
図12の加工方向の中心軸XX’断面のレーザビームLの強度分布を示している。
【0049】
光学部品5aが光軸に挿入されていない場合、
図11に示されるように、トップハットビームといわれる一様分布が形成される。
図13は、実施の形態1に係るレーザ加工装置100において強度分布調整部5の凸アキシコンレンズが光軸に挿入された場合の集光点付近のビーム強度分布を示す図である。強度分布調整部5の凸アキシコンレンズが光軸に挿入された場合、
図11のトップハットビームと比較すると、ビーム径が大きくなり、加工対象物Wにビーム強度がほぼ等しい二つのリングモード分布が形成されるため、断面図に二つの領域が存在する。
図13の加工方向は、
図12に示されているX軸のプラス方向である。
図13の領域aは、加工方向のレーザビームLの強度分布の領域であり、
図13の領域bは、加工方向の反対側に照射されるレーザビームLの強度分布の領域である。加工進行側の領域aのレーザビーム強度は、反対側の領域bのレーザビーム強度と等しい。
【0050】
図14は、実施の形態1に係るレーザ加工装置100において平面基板4aとレーザビームLの光軸とが成す角度αが45°である場合のレーザビーム強度分布を示す図である。
図14のレーザビーム強度分布では、加工方向に対するレーザビームLの二つのピーク強度が異なっている。つまり、加工進行方向の領域aは、領域bより大きい。
【0051】
図15は、実施の形態1に係るレーザ加工装置100において平面基板4aの傾斜角とレーザビームLの加工進行方向側の領域aのピーク強度との関係を示す図である。
図15から、平面基板4aをレーザビームLの光軸に対して傾けることによりレーザビーム強度を調整することができることが分かる。
図15は、平面基板4aの傾斜角が0°である場合に対してピーク強度を最大で1.8倍に変更させることが可能であることを示している。レーザ加工装置100は、平面基板4aの傾斜角度によってピーク強度を調整することができるので、強度分布調整部5に入射するレーザビームLのビーム径dを小さくする調整を行うことができる。ビーム径dは、コリメートレンズ3の焦点距離によって変更することが可能である。
【0052】
結像点のビーム径は、ファイバコア径と、コリメートレンズ3及び集光光学系6の焦点距離と、アキシコンレンズの頂角の角度との関係を変更すると変更することができる。
【0053】
図16は、実施の形態1に係るレーザ加工装置100の機能を説明するための図である。コリメートレンズ3が複数のレンズで構成されている場合、
図16に示されるように、レーザ加工装置100は、複数のレンズの各々を独立に駆動してコリメートレンズ3の有効焦点距離を変更させ、加工対象物Wに照射される集光径を変更させる集光径変更部3aを有してもよい。レーザ加工装置100は、当該集光径変更部を有する場合、集光光学系6の焦点距離が変化しないとき、加工対象物Wに照射するレーザビームLの集光径と発散角とを調整することが可能になり、ビーム強度を変更することが可能になる。レーザ加工装置100は、板厚に対応して、ビーム径と、発散角と、ビーム強度とを調整することが可能であるので、加工性能をより向上させることができる。
【0054】
レーザ加工装置100が板金を加工する場合、レーザ発振器1がファイバレーザであるとき、ファイバコア径は、100μmから300μmまでのいずれかである。実際の加工では、レーザ加工装置100は、集光点を加工対象物Wの表面にあわせてレーザビームLを加工対象物Wに照射して加工対象物Wを加工するだけでなく、集光点をz方向において変更することによって加工を行うこともあり、ビーム径は、0.1mmから2mmまでのいずれかであることが望ましい。アキシコン角度は、179.0°から179.9°までのいずれかであることが望ましい。上記のz方向は、加工対象物Wの厚さ方向である。
【0055】
光軸調整部4の平面基板4aが複数枚存在し、複数の平面基板4aの各々の傾斜角が独立して調整されてもよい。複数の平面基板4aの各々の傾斜角が独立して調整される場合、レーザ加工装置100は、レーザビームLの強度分布を複数の分布のいずれに調整することも可能になる。
【0056】
集光光学系6は、レーザビームLを集光することができればよいので、1枚のレンズで構成されていてもよいし、複数枚のレンズを組み合わせられた構成要素であってもよい。集光光学系6としては、球面収差を取り除いた非球面レンズが用いられてもよいし、反射型光学系が用いられてもよい。
【0057】
上述の通り、実施の形態1に係るレーザ加工装置100は、発振器指令に基づいてレーザビームLを出力するレーザ発振器1と、レーザビームLを加工対象物Wの照射位置に照射する加工ヘッド2と、駆動指令に基づいて加工対象物Wと加工ヘッド2との相対位置を変更して照射位置を切断方向に移動させる制御部8とを有する。レーザ加工装置100は、レーザビームLの強度分布を強度分布調整指令に基づいて変更する強度分布調整部5と、強度分布調整部5に入射するレーザビームLの入射位置又は入射角度を変更する光軸調整部4とを更に有する。制御部8は、切断加工に関する数値パラメータである加工パラメータに基づいて発振器指令、駆動指令、強度分布調整指令、加工対象物Wの材質、加工対象物Wの板厚及び切断方向の一部又は全部に対応して光軸調整部4を制御するための光軸調整指令を決定する。レーザ加工装置100は、加工対象物Wに照射するレーザビームLのビームモードと加工方向に照射するレーザビームLのビーム断面内の強度分布のエネルギ比率とを切断加工の加工パラメータに対応して制御することができる。レーザ加工装置100は、加工対象物Wに照射するレーザビームLのビーム強度を適切に調整することができる。レーザ加工装置100は、加工対象物Wの溝幅に照射するレーザビームLのビーム強度を適切に調整することができる。その結果、生産性が向上する。
【0058】
実施の形態2.
図17は、実施の形態2に係るレーザ加工装置200の構成の概要を示す図である。レーザ加工装置200は、実施の形態1に係るレーザ加工装置100が有するすべての構成要素のうちの光軸調整部4以外の構成要素を有する。レーザ加工装置200は、実施の形態1に係るレーザ加工装置100が有する光軸調整部4の代わりにガルバノスキャナ4dを有する。ガルバノスキャナ4dは、光軸調整部の一例である。実施の形態1の光軸調整部4がガルバノスキャナ4dに置き換えられている点が、実施の形態2と実施の形態1との相違点である。実施の形態2では、実施の形態1との相違点を主に説明する。
【0059】
図17に示されるように、ガルバノスキャナ4dは、コリメートレンズ3と強度分布調整部5との間に挿入されて集光光学系6の入射瞳位置に配置されることが望ましい。
図17の矢印は、ガルバノスキャナ4dが回転可能であることを意味する。ガルバノスキャナ4dは、コリメートレンズ3によってコリメートされたレーザビームLを偏向する。これにより、強度分布調整部5の光学部品5aへのレーザビームLの入射位置と入射角度とが調整され、レーザ加工装置200は、加工対象物Wに対する加工方向におけるビーム強度分布を調整することが可能になる。加えて、レーザ加工装置200は、切断フロントに照射するレーザビームLの強度を調整することが可能になる。これにより、レーザ加工装置200は、レーザ出力が同じであっても加工の効率を向上させることができる。
【0060】
集光光学系6の焦点距離をfとすると共にガルバノスキャナ4dの偏向角をθとすると、レーザビームLの走査位置はf×tanθとなり、レーザ加工装置200は、数百Hz以上の周波数で走査を行えば、加工対象物Wに照射されるレーザビームLのビーム径を調整することが可能になる。その場合、レーザ加工装置200は、加工性能をより向上させることができる。
【0061】
ガルバノスキャナ4dはレーザビームLを偏向することができればよいので、ガルバノスキャナ4dとして、音響光学変調を利用した音響光学偏向器が用いられてもよい。ガルバノスキャナ4dは、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ミラーに置き換えられてもよい。ガルバノスキャナ4d又はMEMSミラーは、制御部8によって制御される。実施の形態2に係るレーザ加工装置200は、加工する溝幅を適切に調整することができる。その結果、生産性が向上する。
【0062】
実施の形態1で説明されたように、コリメートレンズ3が複数のレンズで構成されている場合、レーザ加工装置200は、複数のレンズの各々を独立に駆動し、コリメートレンズ3の有効焦点距離を変更させるズーム機能を有していてもよい。この場合、集光光学系6の焦点距離が変化しないとき、レーザ加工装置200は、加工対象物Wに照射するレーザビームLのビーム径、発散角及びビーム強度を調整することが可能になる。その結果、レーザ加工装置200は、加工性能の向上に寄与することが可能になる。
【0063】
図17には、ガルバノスキャナ4dは、一つしか記載されていないが、2次元での走査が必要である場合、二つのガルバノスキャナ4dを配置する必要がある。
【0064】
集光光学系6は、レーザビームLを集光することができればよいので、1枚のレンズで構成されていてもよいし、複数枚のレンズが組み合わせられた構成要素であってもよい。集光光学系6の焦点距離がfであってレーザビームLの偏向角がθであると定義された場合、集光光学系6の走査位置がfθとなる関係を維持するようなfθレンズが用いられてもよいし、反射光学系が用いられてもよい。
【0065】
実施の形態3.
実施の形態3に係るレーザ加工装置は、実施の形態1に係るレーザ加工装置100が有するすべての構成要素と、
図18に示される加工条件解析器12とを有する。
図18は、実施の形態3に係るレーザ加工装置が有する加工条件解析器12の構成を示す図である。実施の形態3では、実施の形態1との相違点を主に説明する。なお、実施の形態3に係るレーザ加工装置は、実施の形態2に係るレーザ加工装置200が有するすべての構成要素と、
図18に示される加工条件解析器12とを有するレーザ加工装置であってもよい。
【0066】
加工条件解析器12は、加工結果判定部13と、特徴量抽出部14と、機械学習器15と、加工条件変更部16とを有する。機械学習器15は、特徴量抽出部14により抽出された特徴量と、作業者が作成した評価値とを関連付けて学習する。作業者が作成した評価値は、作業者による評価値である。作業者による評価値は、例えば、図示されていない入力手段から入力されてもよいし、他の装置から送信されてもよい。
【0067】
機械学習器15は、学習部17と、データ取得部18とを有する。データ取得部18は、切断加工の加工条件、発振器指令、駆動指令、強度分布調整指令、及び加工パラメータを含む状態量を取得する。学習部17は、データ取得部18によって取得された状態量に基づいて、良い加工を得る加工条件を学習する。
【0068】
学習部17は、機械学習により、入力と結果との組を学習する。学習部17の機械学習のアルゴリズムとしては、どのようなものが用いられてもよいが、例えば、教師あり学習のアルゴリズムが用いられる。データ取得部18は、学習部17における入力として、特徴量抽出部14から特徴量を取得し、取得した特徴量を学習部17へ入力する。学習部17には、作業者による評価値も入力される。作業者による評価値は、加工結果の良否について判断された結果であり、段階的なレベルを示す値であってもよいし、連続した数値のいずれかであってもよい。すなわち、作業者による評価値は、加工不良項目の組み合わせパターンに相当するものを作業者が決定した値である。
【0069】
データ取得部18は、加工条件を学習部17への入力として取得してもよい。データ取得部18は、加工条件又は特徴量抽出部14から出力される特徴量を、状態変数として取得し、学習部17へ与える。学習部17は、状態変数と評価値とで構成されるデータセットを用いて、加工条件と加工結果とを、又は加工不良項目の良否結果を機械学習する。データセットは、状態変数と評価値とが関連付けられたデータである。
【0070】
例えば、加工条件とは、加工速度、レーザ出力、加工ガス圧、集光光学系6の集光位置と加工対象物Wとの位置関係、集光光学系6によって集光された後のレーザビームLのビーム径、レーザのパルス周波数、レーザのパルスのデューティ比、集光光学系6の倍率、ノズル径、加工対象物Wと加工ノズル7との距離、レーザビームモードの種類、ノズル穴の中心とレーザビームLとの位置関係、光軸調整部4によって変位された強度分布調整部5に入射するレーザビームLの位置の変位量Δ、加工方向の変更に対して光軸調整部4がレーザビームLの光軸を調整するタイミング、及びガルバノスキャナ4dの偏向角の一部又は全部を特定するための条件である。
【0071】
学習部17は、機械学習による学習済みモデルを用いて、特徴量に対応する加工条件を出力する。これにより、実施の形態3に係るレーザ加工装置は、より高精度に条件を調整することができる。学習部17は、加工結果の良否と加工条件との関係を機械学習する機能と学習済モデルとしての機能との両方を有してもよい。学習済モデルを用いて評価値を出力する推論部が、学習部17と別に設けられてもよい。すなわち、加工条件解析器12は、学習部17により学習が行われた学習済モデルを用いてデータ処理部で処理された加工条件の組み合わせパターンを算出する推論部を有してもよい。
【0072】
図18に示される例では、機械学習器15は加工条件解析器12の内部に設けられているが、機械学習器15は加工条件解析器12とは別の装置であってもよい。例えば、加工条件解析器12と機械学習器15とが通信ネットワークを介して接続されてもよい。機械学習器15は、クラウドサーバに存在してもよい。
【0073】
上述したデータセットが用いられてある程度学習が進んだ後に加工結果判定部13による判定結果が修正された場合、学習部17は修正された判定結果を学習してもよい。例えば、加工結果判定部13が複数の加工不良を判定する項目の各々に対応する複数の評価値で構成される組み合わせパターンを算出し、作業者が評価値を修正し、修正された結果が機械学習器15へ入力される。この場合、加工結果判定部13における評価値を決定するためのアルゴリズムと、判定のための閾値とは、作業者により適宜変更可能であってもよい。
【0074】
加工不良を判定する項目の例は、レーザ切断中に溶融した金属が切断面に付着する症状で切断面の下端から発生するドロスという症状を示す項目、又は切断面の上部に周期的に発生する荒れを示す項目である。荒れが発生すると、荒れが発生しない場合に比べ、条痕の凹凸の深さが深くなる。条痕は切断に用いられる加工ガスが酸素である場合に生じ、条痕の凹凸は切断面に生じる酸化膜が剥れてしまう症状の有無で判定されてもよい。
【0075】
加工不良を判定する項目は、上述の例に限定されない。例えば、加工対象物Wの変色と、振動面の有無と、他の加工不良の項目とも含めて、加工不良は判定されてもよいし、上述した加工不良を判定する項目のうちの一部に替えて他の加工不良を判定する項目の判定が行われてもよい。レーザ出力、加工速度、加工板厚の組み合わせ、及び加工ガスの種類の一部又は全部の加工パラメータによって、加工不良を判定する項目は変更されてもよい。
【0076】
学習部17は、例えば、ニューラルネットワークモデルを用いて、いわゆる教師あり学習により加工条件と加工結果とを学習する。教師あり学習とは、入力と結果とのデータの複数の組である複数のデータセットにある特徴を学習し、入力から結果を推定する機械学習である。結果は、ラベルである。
【0077】
ニューラルネットワークは、複数のニューロンからなる入力層と、複数のニューロンからなり隠れ層とも呼ばれる中間層と、複数のニューロンからなる出力層とで構成される。中間層については、1層の中間層だけが存在してもよいし、2層以上の中間層が存在してもよい。
【0078】
図19は、実施の形態3に係るニューラルネットワークモデルの構成を示す図である。X1,X2及びX3は入力層のニューロンであり、Y1及びY2は中間層のニューロンであり、Z1,Z2及びZ3は出力層のニューロンである。
図19に示されるような3層のニューラルネットワークモデルであれば、X1,X2及びX3の各々に入力値が入力されると、各入力値は、対応する重みw11から重みw16までのいずれかが乗算されて中間層のニューロンであるY1及びY2の各々に入力される。
【0079】
Y1及びY2からの出力値は、対応する重みw21から重みw26までのいずれかが乗算されて、出力層のニューロンであるZ1,Z2及びZ3の各々に入力される。出力層は、入力された値を加算し、加算した結果を出力結果として出力する。例えば、Z1,Z2及びZ3の各々から出力される結果を、各加工不良を判定する項目に対応する評価結果に対応させることができる。出力結果は、重みw11から重みw16までの各値と重みw21から重みw26までの各値とによって変わる。
【0080】
実施の形態3では、上述のデータセットを用いて上述のニューラルネットワークの出力結果が正解である加工良否の評価結果に近づくように、重みw11から重みw16までの各値と重みw21から重みw26までの各値とが調整されることにより、学習が行われる。
図19は、ニューラルネットワークモデルの一例を示しており、ニューラルネットワークモデルの層数及び各層に属するニューロンの数は、
図19の例に限定されない。
【0081】
学習部17は、ニューラルネットワークモデルを用いて、いわゆる教師なし学習によって、加工条件と加工良否の評価結果とを学習することもできる。教師なし学習とは、大量の入力データのみに基づいて入力データがどのような分布をしているのかを学習し、対応する教師出力データが与えられなくても、入力データに対して例えば圧縮、分類及び整形の一部又は全部を行う方法を学習する手法である。
【0082】
例えば、教師なし学習では、入力データのなかの特徴が似ているデータ同士をクラスタリングすることができる。何らかの基準を設けてクラスタリングの結果を最適にするように、クラスタリングの結果に対して評価結果の割り当てを行うことで、評価結果の予測を実現することができる。
【0083】
教師なし学習と教師あり学習との中間的な問題設定として、半教師あり学習と呼ばれるものもある。半教師あり学習は、一部のみ入力と出力とのデータの組が存在し、残部は入力のみのデータである場合の学習である。学習部17は、半教師あり学習により機械学習を実現してもよい。
【0084】
機械学習器15は、複数の加工条件解析器12からデータセットを取得し、加工条件と加工結果との評価結果を学習してもよい。複数の加工条件解析器12の各々は、実施の形態3の加工条件解析器12と同じ機能を有していてもよい。機械学習器15は、同一の現場で使用される複数の加工条件解析器12からデータセットを取得してもよいし、異なる現場の各々で稼動する加工条件解析器12からデータセットを取得してもよい。データセットの取得元の加工条件解析器12が途中で追加されてもよいし、取得元の加工条件解析器12が途中で除去されてもよい。加工条件解析器12とは別に機械学習器が設けられ、当該機械学習器が、ある加工条件解析器12から取得したデータセットにより学習した後、別の加工条件解析器12と接続されて別の加工条件解析器12からデータセットを取得して再学習してもよい。
【0085】
データ取得部18は、学習部17の入力として、加工条件又は特徴量抽出部14から出力される特徴量だけでなく、例えば加工対象物Wの板厚を示す情報及び加工対象物Wの材質を示す情報の一方又は双方も入力として取得してもよい。
【0086】
学習部17で用いられる学習アルゴリズムとしては、特徴量そのものの抽出を学習する深層学習(Deep Learning)を用いることもでき、学習部17は、他の公知の方法、例えば遺伝的プログラミング、機能論理プログラミング、サポートベクターマシン、フィッシャー判別法、部分空間法又はマハラノビス空間を用いた判別分析にしたがって機械学習を実行してもよい。
【0087】
学習部17で用いられる学習アルゴリズムとして、例えば、決定木、ランダムフォレスト、ロジスティック回帰、k近傍法、部分空間法、CLAFIC法(CLAss-Featuring Information Compression method)、Isolation Forest、LOF(Local Outlier Factor)、ブースティング、AdaBoost、LogitBoost、One-Class SVM(Support Vector Machine)、又はGaussian Mixture Modeが用いられてもよい。
【0088】
例えば、深層学習又は畳み込みニューラルネットワーク(Convolution Neural Network)のように、画像から特徴量を抽出する学習が行われる場合、特徴量抽出部14は設けられなくてもよい。機械学習器15は加工不良を判定する項目毎に設けられてもよいし、一つの機械学習器15が複数の加工不良を判定する項目に対応していてもよい。強化学習又はベイズ探索の探索アルゴリズムを用いたパラメータの探索が行われてもよい。
【0089】
実施の形態3に係るレーザ加工装置が光軸調整部4を有することにより従来のレーザ加工機と比較すると加工パラメータが多くなるが、実施の形態3に係るレーザ加工装置は、機械学習を行って加工パラメータを探索することによって加工パラメータを比較的高精度に調整することができる。
【0090】
加工の良否判定は、加工後に作業者によって行われてもよい。
図20に示されるように、加工中に加工状態を監視する加工状態監視センサ19が設けられて監視結果が加工結果判定部13に入力されてもよい。
図20は、実施の形態3に係る変形例のレーザ加工装置300の構成を示す図である。例えば、加工状態監視センサ19として、加工光を検知する光センサ、加工点の画像をとらえるCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)カメラ、又は加工音を検知する音センサが用いられてもよい。光センサの例はフォトダイオードであり、音センサの例はマイクである。
【0091】
レーザ加工装置300は、加工中に加工状態を検知することが可能なので加工中の状態変化に応じて加工条件を調整することが可能である。更に言うと、レーザ加工装置300は、加工状態を判定して加工条件を調整することが可能であり、加工不良を抑制する効果を得ることができる。
【0092】
1種類の加工状態監視センサ19が用いられてもよいし、2種類の加工状態監視センサ19が用いられてもよい。加工状態監視センサ19は、加工ヘッド2の内部に配置されてもよいし、加工ヘッド2の外部に配置されてもよい。加工状態監視センサ19が取得した時系列のデータは、特徴量抽出部14に入力されてもよい。
【0093】
図21は、実施の形態3に係るレーザ加工装置の加工条件解析器12が有する加工結果判定部13、特徴量抽出部14、機械学習器15及び加工条件変更部16の一部又は全部がプロセッサ91によって実現される場合のプロセッサ91を示す図である。つまり、加工結果判定部13、特徴量抽出部14、機械学習器15及び加工条件変更部16の一部又は全部の機能は、メモリ92に格納されるプログラムを実行するプロセッサ91によって実現されてもよい。プロセッサ91は、CPU(Central Processing Unit)、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、又はDSP(Digital Signal Processor)である。
図21には、メモリ92も示されている。
【0094】
加工結果判定部13、特徴量抽出部14、機械学習器15及び加工条件変更部16の一部又は全部の機能がプロセッサ91によって実現される場合、当該機能は、プロセッサ91と、ソフトウェア、ファームウェア、又は、ソフトウェアとファームウェアとの組み合わせとによって実現される。ソフトウェア又はファームウェアは、プログラムとして記述され、メモリ92に格納される。プロセッサ91は、メモリ92に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、加工結果判定部13、特徴量抽出部14、機械学習器15及び加工条件変更部16の一部又は全部の機能を実現する。
【0095】
加工結果判定部13、特徴量抽出部14、機械学習器15及び加工条件変更部16の一部又は全部の機能がプロセッサ91によって実現される場合、実施の形態3に係るレーザ加工装置は、加工結果判定部13、特徴量抽出部14、機械学習器15及び加工条件変更部16によって実行される複数のステップの一部又は全部が結果的に実行されることになるプログラムを格納するためのメモリ92を有する。メモリ92に格納されるプログラムは、加工結果判定部13、特徴量抽出部14、機械学習器15及び加工条件変更部16の一部又は全部をコンピュータに実行させるものであるともいえる。
【0096】
メモリ92は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(登録商標)(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)等の不揮発性若しくは揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク又はDVD(Digital Versatile Disk)等である。
【0097】
図22は、実施の形態3に係るレーザ加工装置の加工条件解析器12が有する加工結果判定部13、特徴量抽出部14、機械学習器15及び加工条件変更部16の一部又は全部が処理回路93によって実現される場合の処理回路93を示す図である。つまり、加工結果判定部13、特徴量抽出部14、機械学習器15及び加工条件変更部16の一部又は全部は、処理回路93によって実現されてもよい。
【0098】
処理回路93は、専用のハードウェアである。処理回路93は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化されたプロセッサ、並列プログラム化されたプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又はこれらを組み合わせたものである。加工結果判定部13、特徴量抽出部14、機械学習器15及び加工条件変更部16の一部は、残部と別個の専用のハードウェアによって実現されてもよい。
【0099】
加工結果判定部13、特徴量抽出部14、機械学習器15及び加工条件変更部16の複数の機能について、当該複数の機能の一部がソフトウェア又はファームウェアで実現され、当該複数の機能の残部が専用のハードウェアで実現されてもよい。このように、加工結果判定部13、特徴量抽出部14、機械学習器15及び加工条件変更部16の複数の機能は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、又はこれらの組み合わせによって実現することができる。
【0100】
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、実施の形態同士を組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略又は変更することも可能である。
【符号の説明】
【0101】
1 レーザ発振器、2 加工ヘッド、3 コリメートレンズ、3a 集光径変更部、4 光軸調整部、4a 平面基板、4b 中空回転ステージ、4c 角度調整機構、4d ガルバノスキャナ、5 強度分布調整部、5a 光学部品、5b 光路切替え機構、6 集光光学系、7 加工ノズル、8 制御部、9 光ファイバ、12 加工条件解析器、13 加工結果判定部、14 特徴量抽出部、15 機械学習器、16 加工条件変更部、17 学習部、18 データ取得部、19 加工状態監視センサ、91 プロセッサ、92 メモリ、93 処理回路、100,200,300 レーザ加工装置、L レーザビーム、W 加工対象物。