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特許7584667加湿素子、加湿装置、換気装置および空気調和機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】加湿素子、加湿装置、換気装置および空気調和機
(51)【国際特許分類】
   F24F 6/04 20060101AFI20241108BHJP
【FI】
F24F6/04
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023542041
(86)(22)【出願日】2021-08-16
(86)【国際出願番号】 JP2021029912
(87)【国際公開番号】W WO2023021552
(87)【国際公開日】2023-02-23
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】平井 秀和
(72)【発明者】
【氏名】吉田 育弘
(72)【発明者】
【氏名】高田 勝
【審査官】杉山 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-134004(JP,A)
【文献】特開2002-048361(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 6/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いの間に隙間を設けるように並べられ保水する複数の加湿体と、
前記加湿体に水を供給する給水機構と、
を備え、
前記加湿体は、前記加湿体に送風される空気の流れ方向における風上側端部と風下側端部との中心よりも風上側に第1の加湿体部と、前記加湿体における前記第1の加湿体部以外の部分であって前記空気の流れ方向に前記第1の加湿体部と連続的に繋がる領域である第2の加湿体部と、を備え、
前記第1の加湿体部は、前記第2の加湿体部よりも相対的に乾燥時の水に対する接触角が大きい大接触角部であ
前記大接触角部は、前記空気の流れ方向における前記加湿体の風上側の端部において、高さ方向における全幅に設けられていること、
を特徴とする加湿素子。
【請求項2】
前記大接触角部は、乾燥時の水に対する接触角が前記加湿体において最も大きいこと、
を特徴とする請求項1に記載の加湿素子。
【請求項3】
前記大接触角部は、前記空気の流れ方向における前記加湿体の風上側の端部に設けられていること、
を特徴とする請求項1または2に記載の加湿素子。
【請求項4】
前記大接触角部の乾燥時の水に対する接触角は、0°より大、且つ90°未満であること、
を特徴とする請求項1からのいずれか1つに記載の加湿素子。
【請求項5】
前記大接触角部は、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンおよび水溶性多糖類のうちのいずれか一種以上がコーティングされていること、
を特徴とする請求項に記載の加湿素子。
【請求項6】
請求項1からのいずれか1つに記載の加湿素子と、
前記加湿素子に風を送る送風機と、
を備えることを特徴とする加湿装置。
【請求項7】
請求項に記載の加湿装置を備えること、
を特徴とする換気装置。
【請求項8】
請求項に記載の加湿装置を備えること、
を特徴とする空気調和機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、加湿空気を生成する加湿素子、加湿装置、換気装置および空気調和機に関する。
【背景技術】
【0002】
加湿空気を生成する加湿装置における加湿方式には、自然蒸発式、電熱式、水スプレー式および超音波式といった方式がある。自然蒸発式の加湿装置は、他の方式の加湿装置に比べてランニングコストを抑えやすい。このため、自然蒸発式の加湿装置は、特に長時間運転される場所での使用に有用である。
【0003】
一方、自然蒸発式の加湿装置では、水の蒸発に伴い、供給水に含まれるカルシウム、マグネシウムおよびシリカなどの不純物が濃縮し、スケールとして堆積しやすいという問題がある。スケールが堆積すると、スケール発生部分に水が染み込みにくくなることで加湿面積が減少して加湿性能が低下したり、スケール自体が風に乗じて加湿装置外に飛散する場合もある。このため、スケールの発生に対して種々の対策が検討されている。
【0004】
特許文献1には、透湿性チューブのうちスケール成分の析出量が部分的に偏るスケール析出領域に樹脂でコーティングを施すことにより、樹脂コーティング部分における透湿性を低下させて水の蒸発量を減少させる加湿器が開示されている。特許文献1に記載の加湿器は、透湿性チューブの表面を樹脂コーティング層で覆うことにより、水の蒸発自体を抑制し、スケールの発生を抑制している。
【0005】
また、特許文献2には、加湿フィルター基材の表面に、造膜性高分子を含有するアンカー層、親水層の順で層を構成し、スケール発生を低減する加湿素子が開示されている。特許文献2に記載の加湿素子は、親水層に小孔がほぼない面を形成することで、スケール成分の析出の抑制を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-155201号公報
【文献】特許第5270570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の透湿性チューブは、スケール析出箇所に樹脂コーティングを行っているため、透湿性チューブが本来有している加湿性能を低下させてしまう、という問題があった。また、特許文献1に記載の透湿性チューブでは、コーティングを施した部分ではスケールが発生しにくくなるものの、コーティング部分の直後の風下側に新たにスケールが発生しやすい領域が形成されるため、コーティング部と非コーティング部の界面において局所的にスケールが発生してしまう、という問題があった。
【0008】
また、特許文献2に記載の加湿素子は、親水層の表面性状を平滑にすることでスケール核の発生自体を抑制し、スケールの成長を防止しており、加湿運転中に加湿体内で水が濃縮する際に発生するスケールを防いでいる。しかしながら、この場合、加湿運転中には効果がある反面、加湿運転後に衛生性を確保するため加湿素子を完全乾燥させる場合には、加湿素子に保水された水に含まれる不純物が全てスケールとなって析出する。このため、親水層の表面性状を平滑にしても、乾燥時には加湿体表面にスケールが発生してしまう、という問題があった。すなわち、特許文献1および特許文献2の技術では、加湿性能を低下させることなく、スケールの発生を抑制することはできない。
【0009】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、加湿性能を低下させることなく、スケールの発生を抑制することができる加湿素子を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示にかかる加湿素子は、互いの間に隙間を設けるように並べられ保水する複数の加湿体と、加湿体に水を供給する給水機構と、を備える。加湿体は、加湿体に送風される空気の流れ方向における風上側端部と風下側端部との中心よりも風上側に第1の加湿体部と、加湿体における第1の加湿体部以外の部分であって空気の流れ方向に第1の加湿体部と連続的に繋がる領域である第2の加湿体部と、を備える。第1の加湿体部は、第2の加湿体部よりも相対的に乾燥時の水に対する接触角が大きい大接触角部である。大接触角部は、空気の流れ方向における加湿体の風上側の端部において、高さ方向における全幅に設けられている。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、加湿性能を低下させることなく、スケールの発生を抑制することができる加湿素子が得られる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態1にかかる加湿装置の構成図
図2】実施の形態1にかかる加湿装置が備える加湿素子の斜視図
図3】実施の形態1にかかる加湿装置が備える加湿素子の拡大図
図4】実施の形態1にかかる加湿装置が備える加湿素子の分解斜視図
図5】実施の形態1にかかる加湿装置が備える加湿素子の正面図
図6】実施の形態1にかかる加湿装置が備える加湿素子の断面図
図7】実施の形態1にかかる加湿装置が備える給水機構の第1の変形例を示す図
図8】実施の形態1にかかる加湿装置が備える給水機構の第2の変形例を示す図
図9】実施の形態1にかかる加湿装置が備える加湿体の断面図
図10図9における第1の加湿体部および第2の加湿体部を拡大して示すイメージ図
図11】実施の形態1における比較例にかかる加湿体を拡大して示すイメージ図
図12】実施の形態2にかかる加湿装置が備える加湿素子の断面図
図13図12に示すXIII-XIII線に沿った断面図
図14図13における第1の加湿体部および第2の加湿体部を拡大して示すイメージ図
図15】実施の形態3にかかる加湿装置が備える加湿体の断面図
図16】実施の形態4にかかる換気装置の一例を示す図
図17】実施の形態4にかかる空気調和機の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、実施の形態にかかる加湿素子、加湿装置、換気装置および空気調和機を図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1にかかる加湿装置1の構成図である。加湿装置1には加湿素子2が組み込まれている。加湿装置1は、空気を取り込む吸気口1aと、空気を吐出する吐出口1bとを備えている。加湿素子2の通風風上側または通風風下側には、加湿素子2へ空気を送り込み、再び空気を吹出すための送風機5が組み込まれている。図1においては、加湿素子2の通風風上側に送風機5が組み込まれた状態を示している。送風機5は、吸気口1aから流入して吐出口1bから流出する気流を形成する。空気は、図1において白抜き矢印で示す方向に流れる。なお、送風機5は、本実施の形態1では加湿素子2よりも通風風上側に組み込まれているが、加湿素子2よりも通風風下側に組み込まれてもよい。
【0015】
加湿装置1は、加湿素子2と、不図示の水道設備といった給水源に接続されて加湿素子2に加湿用の水を送水する給水管3と、加湿素子2で加湿されずに残った水を外部に排出する排水管4と、加湿素子2に空気流を通過させる送風機5と、を備える。また、加湿装置1は、送風機5および給水系の電磁弁である給水弁3aといった機器の操作などを行う制御装置6と、排水を受容し外部に排水するドレンパン7と、を備える。
【0016】
図2は、実施の形態1にかかる加湿装置1が備える加湿素子2の斜視図である。加湿素子2は、ドレンパン7上に1個または複数個が直接設置される。各加湿素子2の天部構造の両側の稜角部は、仕切壁と本体箱体の正面側内壁面とに装架されたガイドレール等により抜き差し可能に保持されている。なお、仕切壁、本体箱体の正面側内壁面およびガイドレールについては図示を省略する。加湿素子2には加湿用の水を供給したり遮断したりする給水弁3aを備えた給水系がつながれている。ドレンパン7には、排水管4が接続されている。
【0017】
加湿素子2に加湿用の水を送水する給水系は、加湿素子2に給水する水の圧力と流量とを調整する給水弁3aのほか、給水系への塵の侵入を防ぐ不図示のストレーナおよび送水用の給水管3を含む水路として構成されている。給水源側との接続部を除く給水系の各接続部分は、全てドレンパン7内に集約されていることが好ましい。
【0018】
図3は、実施の形態1にかかる加湿装置1が備える加湿素子2の拡大図である。図4は、実施の形態1にかかる加湿装置1が備える加湿素子2の分解斜視図である。図5は、実施の形態1にかかる加湿装置1が備える加湿素子2の正面図である。図6は、実施の形態1にかかる加湿装置1が備える加湿素子2の断面図である。図6は、図5中のVI-VI線に沿った断面を示している。図6では、理解の容易化のため後述する加湿体20の第1の加湿体部23にハッチングを施すとともに、断面のハッチングを省略している。以下、加湿素子2の幅方向をX軸方向とし、加湿素子2の奥行方向をY軸方向とし、加湿素子2の高さ方向をZ軸方向とする。
【0019】
加湿素子2は、互いの間に隙間を設けるようにX軸方向に沿って並べられた複数の平板状の加湿体20を備える。複数の加湿体20は、互いの間に隙間を設けるように並べられることで、Y軸方向に沿って連続した風路をなす。すなわち、隣り合う加湿体20の間の隙間は、空気が通過可能な風路となる。
【0020】
送風機5が発生させる空気流は、加湿体20の間の隙間を、Y軸方向の-側から+側に向かう方向であるY+方向に流れる。つまり、図6においては図示の左側から右側に向かって空気流が流れる。したがって、図6においては、図示の加湿体20の左側が、風上側である。また、図6においては、図示の加湿体20の右側が風下側である。すなわち、送風機5は、加湿体20の風上側から風下側に向かう空気の流れを生成して、隣り合う加湿体20の間の隙間に空気を通過させる。
【0021】
図6に示すように、加湿体20の上部には、拡散部材30が接触されている。加湿体20の上部のうちY軸方向に沿った中央部には、加湿体20の上部における他の部位よりも下方に窪んだ凹部22が形成されている。拡散部材30は、凹部22内に配置されている。拡散部材30は、複数の加湿体20を並べる方向に対応するX軸方向に沿って延びるように配置され、1つの拡散部材30に加湿体20がまとめて接触する。
【0022】
図6に示すように、加湿体20の上方には、加湿体20に供給するための水を蓄える貯水槽12、給水管3からの水を貯水槽12へ注入する給水口11がある。加湿体20の下方には、加湿体20から加湿されずに残った水を受けて排水するための排水部13、および排水口13aがある。
【0023】
図4に示すように、加湿体20は、開口が設けられたケーシング10に収容されて固定される。ケーシング10は、2つの部品であるケーシング10aとケーシング10bとに分かれている。ケーシング10は、ケーシング10aとケーシング10bとで加湿体20を挟み込み、ケーシング10aおよびケーシング10bの係合部15を合わせることにより、ケーシング10aとケーシング10bとが一体化し、加湿体20を収納する構造となっている。なお、ケーシング10は加湿体20を収納できればよく、金属からなるもの、または金属およびプラスチックからなるものでもよい。
【0024】
ケーシング10aおよびケーシング10bにはそれぞれ、排水口13aとなる部分と、加湿体20へ被加湿空気を導入する開口部10cとが設けられている。
【0025】
また、ケーシング10bには、貯水槽12へ水を供給するための給水口11が設けられている。すなわち、給水口11および排水部13は、ケーシング10に形成される。ケーシング10の内側には、加湿体20を収納する収納空間が設けられている。ケーシング10には、上部構造としての貯水槽12と下部構造としての排水部13とを接続する構造壁14が形成される。
【0026】
図4に示すように、加湿体20の上方には、加湿体20に供給するための水を蓄える貯水槽12が設置される。貯水槽12には、給水口11を通じて給水管3から水が注入される。ここで、加湿素子2に給水された水を、加湿体20に伝える一連の構造を、給水機構50と呼ぶ。実施の形態1にかかる加湿装置1では、給水口11、貯水槽12および拡散部材30が給水機構50をなす。
【0027】
ケーシング10は、ABS(Acrylonitrile Butadiene Styrene)樹脂、ポリスチレン(polystyrene:PS)樹脂、またはポリプロピレン(polypropylene:PP)樹脂を含む熱可塑性のプラスチックを材料として、射出成型といった成型法によって形成されている。
【0028】
ケーシング10のうち加湿体20と接触する部分には、加湿体20の位置を規制するための位置決め用の突起10dが設けられている。加湿体20は含水時に軟化し、水の重さで変形するものもあるため、ケーシング10と接触する加湿体20の外周部分で加湿体20の位置を規制することによって、加湿体20間の流路の寸法を確保し、均一に空気が流れるようにすることができる。
【0029】
これにより、加湿素子2の圧力損失の低下が抑えられ、加湿体20の全面が有効に加湿面として使用されるので、加湿体20が歪んだ場合に比べて加湿量が増加する効果が期待できる。
【0030】
図6に示すように、貯水槽12は、拡散部材30の上方に設けられる。貯水槽12の底面には拡散部材30へ水を滴下するための複数の注水孔12aが形成されている。貯水槽12と拡散部材30とは、一体部品として組み合わされて、ケーシング10aとケーシング10bとの間に挟まれて保持されている。また、貯水槽12内に貯水槽12の水位を検知する水位検知センサー8が設置されてもよい。水位検知センサー8によって検知された水位をフィードバックして、図1に示す制御装置6によって給水弁3aの開閉を制御してもよい。
【0031】
貯水槽12は、ABS樹脂、PS樹脂またはPP樹脂を含む熱可塑性のプラスチックを材料として、射出成型といった成型法によって形成されている。貯水槽12は、材料に樹脂材料を使用しているため、表面が平滑であれば水における接触角は大きく、概ね90度以上あり、表面は疎水性である。したがって、貯水槽12は、内表面には水が残りにくく、衛生性に優れている。
【0032】
なお、ここでは、疎水性は接触角が90度以上、親水性は接触角が40度以上90度未満、超親水性は接触角が40度未満とする。本実施の形態1では、貯水槽12の表面における接触角が概ね90度以上となるように設定している。これにより、貯水槽12の表面が疎水性となるため、貯水槽12の表面に水が残りにくくなり、貯水槽12内の衛生性に優れるという利点がある。なお、貯水槽12は水を貯めて加湿体20に水を供給できればよく、円管または矩形管で形成されていても機能上問題ない。また、材料は金属でも問題ない。
【0033】
給水口11は、貯水槽12へ水を供給するため、加湿素子2の上部であって、加湿体20より上方に設けられる。給水口11の形状は、給水管3に合わせた形状とし、容易に抜けないように凸状の帯、いわゆるかえし構造を形成したり、給水口11と給水管3とをホースバンドで縛ったりしてもよい。給水口11は、加湿体20の上部から水を供給できる構造であれば位置等に制約はないが、給水管3と給水口11とのつなぎ目から水漏れが発生した場合を考慮すると、空気流の風上側に配置することが好ましい。
【0034】
空気流の風上側に給水口11を配置することで、給水管3と給水口11とのつなぎ目から漏れた水は、気流に乗り、風下側、すなわち加湿素子2側へ導かれて加湿体20に吸収されるため、加湿体20の風下側への水の飛散を少なくすることができる。
【0035】
加湿体20の表面からの加湿量に対して給水量が過剰な場合、加湿されずに排水部13から流れてゆく水の水量が多くなり、無駄な水量が増大する。このため、給水口11には、水量を絞るための機構を設けて、貯水槽12へ供給する水の水量を調整することが好ましい。実施の形態1にかかる加湿装置1においては、水量を絞るための機構は、例えば図6に示すオリフィス部40である。オリフィス部40は、給水口11の内周面の一部を他の部位よりも狭めて形成されている。水量調整の際には、加湿素子2の最大加湿量より多い水量を供給できるようにする必要がある。なお、オリフィス部40は、流量調整が可能であればよく、金属メッシュまたは多孔質材料を用いて水量を調整するものでも機能上問題ない。
【0036】
拡散部材30は、多孔質の板材で形成される。拡散部材30は、注水孔12aの直下に配置されている。拡散部材30は、貯水槽12から滴下した水を吸収し、加湿体20へ水を送るため、素材の表面は極力親水性が高いほうが、浸透性が良好になり通水できる流量が増加する。また、拡散部材30は、常に水に触れるため、水によって劣化しにくい材料で形成されることが好ましい。
【0037】
水によって劣化しにくい材料で形成された拡散部材30には、樹脂であるポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalate:PET)樹脂といったポリエステル、アクリル樹脂およびセルロース等の樹脂によって形成された織布または不織布のほか、チタン、銅およびステンレスなどの金属製の多孔質板が挙げられる。また、拡散部材30の表面の親水度を増すため、拡散部材30に親水化処理を施してもよい。
【0038】
拡散部材30の下端と加湿体20の上端とは、一部分が接触して設置されている。拡散部材30と加湿体20とが接触していれば、加湿体20の毛細管力の作用により水が淀みなく加湿体20に流下する。拡散部材30と加湿体20との組み立て時のばらつき、及び輸送中の振動の影響を加味し、拡散部材30の下端と加湿体20の上端とを互いに差込むようにして、拡散部材30と加湿体20とを連結してもよい。
【0039】
図7は、実施の形態1にかかる加湿装置1が備える給水機構50の第1の変形例を示す図である。図8は、実施の形態1にかかる加湿装置1が備える給水機構50の第2の変形例を示す図である。給水機構50の構成は、加湿体20に水を供給できれば特に制限されない。
【0040】
給水機構50は、例えば、図7に示すように注水孔12aの内部および加湿体20の内部に拡散部材30が挿入されていても機能上問題ない。この場合には、拡散部材30が、加湿体20へ水を注水する注水部になる。
【0041】
また、給水機構50は、例えば、図8に示すように拡散部材30を貯水槽12の内部に伸ばすことにより、拡散部材30で貯水槽12内の水を吸い上げて加湿体20に水を流下させる構造でも機能上問題ない。図8に示す貯水槽12は、加湿体20のY軸方向における中心よりも給水口11寄りにずれて配置されている。図8において、拡散部材30は、貯水槽12内に挿入される吸上部31と、Y軸方向において吸上部31の上端から給水口11と反対側に向けて水平に延びる延出部32と、延出部32の延出端から加湿体20に向けて下方へ延びる流下部33と、を有する。流下部33の下端は、加湿体20の内部に挿入されている。この場合には、流下部33が、加湿体20へ水を注水する注水部になる。
【0042】
また、あるいは、貯水槽12を不図示の水密のヘッダー部として形成し、ヘッダー部に空けた複数の注水孔12aから拡散部材30に水を滴下してもよい。
【0043】
なお、拡散部材30は、上方に位置する貯水槽12から滴下する水をX軸方向に均等に拡散するために設けられている。すなわち、拡散部材30は、X軸方向に並べて配置された複数の加湿体20に均一に水を供給するために設けられている。したがって、複数の加湿体20が一体化されて、複数の加湿体20同士の間でX軸方向に水を拡散できる場合、または加湿体20の上部を折り曲げて隣り合う加湿体20同士を接触させる場合には、加湿体20自体が拡散部材30と同様の水の拡散機能を有することになる。
【0044】
この場合には、図7に示す拡散部材30の代わりに、加湿体20を注水孔12aの内部に直接挿入させることもできるし、図6に示す拡散部材30の代わりに、加湿体20を貯水槽12の内部に伸ばすこともできる。このような構造にすることで、加湿体20自体が、拡散部材30と同様の水の拡散機能を有することになる。このような構造は、拡散部材30を用いずに、貯水槽12から直接加湿体20に水を流すことができるため、比較的安価に給水機構50を形成することができる点で優れる。
【0045】
この場合には、例えば、図7に示す拡散部材30に代えて、加湿体20の一部を注水孔12a内に直接挿入させることができる。また、図8に示す拡散部材30に代えて、加湿体20の一部を貯水槽12の内部に伸ばすこともできる。これらの場合には、加湿体20の本体部へ水を注水する、加湿体20の一部が、注水部になる。このような構造では、拡散部材30を用いずに、貯水槽12から加湿体20の本体部に直接水を滴下させることができる。
【0046】
加湿体20は、拡散部材30と同様に、親水性の多孔質の板材で形成される。加湿体20は、拡散部材30から供給された水を吸水し、保水することで、加湿体20の間を通る風に加湿を行う。このため、加湿体20は、拡散部材30と同様に、水によって劣化しにくい材料で形成されることが好ましい。また、加湿体20は、全体的に親水性が極力高いことが好ましい。加湿体20の親水性が高い場合には、加湿体20を構成する多孔質体の内部の毛細管力が大きくなり、加湿体20の吸水性が良好になる。細管における親水性と、細管の毛細管力による水の吸い上げ高さとの関係は、以下の式(1)によって示される。
【0047】
H=(2×T×cоsθ)÷(ρ×g×r) ・・・(1)
【0048】
上記式(1)において、H:水の吸い上げ高さ(m)、T:表面張力(N/m)、θ:接触角(°)、ρ:液体の密度(kg/m)、g:重力加速度(m/s)、r:細管の半径(m)、である。式(1)より、細管の親水性が高く細管と液体との接触角が小さいほど、細管の毛細管力による液体の吸水性が高まるといえる。このことより、加湿体20の親水性が高く加湿体20の水との接触角が小さいほど、加湿体20の毛細管力による水の吸水性が高まるといえる。
【0049】
加湿体20の吸水性が高いと、乾燥した加湿体20に水を滴下したり乾燥した加湿体20に水を吸上げさせて加湿体20を湿らせる際に、加湿体20が均一に湿ることができる。また、湿った加湿体20に送風した際、加湿体20における加湿量の多い部分では、局所的に乾燥が始まる。吸水性が高い加湿体20では、当該加湿体20において乾燥した部分に水を補おうとする力が働き、加湿体20全体が乾燥せずに湿り続けることができる。
【0050】
加湿体20の表面には、凸部21が設けられている。凸部21によって、隣り合う加湿体20同士の間隔の保持が図られる。凸部21は、加湿体20に冶具を押し当て、冶具を押し当てた部分を塑性変形させることで形成することができる。加湿体20上の凸部21の配列位置が異なる2種類の加湿体20を交互に配列することで、加湿体20の間隔を一定に保つ機能が得られる。
【0051】
なお、加湿体20は、X軸方向に沿って加湿体20の間隔が一定に保たれていればよい。複数の加湿体20は、例えば、一定間隔に加湿体20の板厚分の間隔で歯が形成された櫛が複数の加湿体20に噛み合わされることで間隔が保持される構造であってもよい。また、複数の加湿体20は、波状に成形された加湿体20をハニカム状に積層することで間隔が保持される構造であってもよい。また、複数の加湿体20は、スペーサーが隣り合う加湿体20の間に入れられることで間隔が保持される構造であってもよい。
【0052】
図6に示すように、加湿体20には、送風機5が発生させる空気の流れ方向における風上側を向く側の端部である風上側端部20aと、空気の流れ方向において風上側端部20aと反対側を向く側の端部である風下側端部とがある。すなわち、加湿体20においては、図6においてY軸方向における風上側を向く風上側端部20aと、Y軸方向において風上側端部20aと反対側を向く風下側端部とが存在する。送風機5が発生させる空気の流れ方向は、Y軸方向に沿った方向であり、Y+方向に対応する。
【0053】
加湿体20の表面では、加湿体20間を流れる空気と、加湿体20に保水された水との間の水蒸気分圧差により、空気への加湿が行われている。空気の流れ方向における加湿体20の加湿量は、風上側ほど大きく、風下側ほど小さい。これは、風上側で水蒸気分圧差が大きいこと、および加湿体20の風上側端部20aで風が剥離して加湿が促進されることによる。したがって、風上側端部20aでの加湿量は、加湿体20の風上側端部20a以外の部位での加湿量よりも大きい。
【0054】
したがって、風上側端部20aは、送風機5が発生させる空気流が流れてくる側に位置し、加湿体20において局所的に加湿量が多い部分である。加湿体20において風上側端部20aの加湿量が局所的に多い理由としては、上述したように、加湿体20間を流れる空気と、加湿体20に保水された水との間の水蒸気分圧差が大きいこと、および加湿体20における風上側の端部のエッジ部分で気流が乱れて加湿が促進されることが影響している。加湿体20における風上側の端部は、風上側端部20aにおける風上側の端部である。
【0055】
また、加湿体20には、図6に示すように、Y軸方向における風上側端部20a側に、第1の加湿体部23が局所的に形成されている。第1の加湿体部23は、加湿体20において被膜60がコーティングされた領域である、弱毛細管力部である。弱毛細管力部は、加湿体20において表面および内部に被膜60がコーティングされた領域であり、加湿体20における他の領域よりも毛細管力が弱い領域である。なお、加湿体20において第1の加湿体部23である弱毛細管力部以外の部分を、第2の加湿体部24と呼ぶ。第2の加湿体部24は、加湿体20において第1の加湿体部23から連続的に繋がる領域である。
【0056】
第1の加湿体部23は、加湿体20において、Y軸方向における風上側端部20a側、すなわち加湿体20に送風される空気の流れ方向における中央位置よりも風上側に形成されている。中央位置は、加湿体20における、風上側端部20aと風下側端部との中央位置である。したがって、第1の加湿体部23は、加湿体20において、Y軸方向における一部分のみに形成されている。
【0057】
また、第1の加湿体部23は、X軸方向において、加湿体20の全幅に形成されている。すなわち、第1の加湿体部23は、加湿体20の厚さ方向における全幅に形成されている。また、第1の加湿体部23は、Z軸方向において、加湿体20の全幅に形成されている。すなわち、第1の加湿体部23は、加湿体20の高さ方向における全幅に形成されている。
【0058】
図9は、実施の形態1にかかる加湿装置1が備える加湿体20の断面図である。図9は、図6中のIX-IX線に沿った断面を示す。図10は、図9における第1の加湿体部23および第2の加湿体部24を拡大して示すイメージ図である。図10は、加湿体20が保水している場合を示す。図10に示すように、加湿体20は、複数の構造体20cの集合からなる。構造体20cは、細長い繊維状の構造体である。すなわち、加湿体20は、細長い繊維状の構造体20cが3次元的に繋がって板状に構成された、多孔質の構造体である。そして、第1の加湿体部23である弱毛細管力部では、構造体20cの表面に被膜60がコーティングされている。
【0059】
また、図10に示すように、保水している加湿体20は、構造体20cの毛細管力および被膜60の毛細管力により、構造体20cおよび被膜60以外の部分である空隙部分に水70が満たされている。すなわち、図10において、保水している加湿体20は、中太点線で示す加湿体20の領域内において、構造体20cおよび被膜60以外の部分である空隙部分に水70が満たされている。構造体20cは、親水性を向上させるために親水化処理が施されることが好ましい。
【0060】
図10に示すように、第1の加湿体部23は、加湿体20の構造体20cに親水性の水溶性高分子の被膜60がコーティングされている。すなわち、第1の加湿体部23では、構造体20cの表面に、水溶性高分子の被膜60が形成されている。被膜60の表面は、親水性である。また、被膜60の表面の親水性は、構造体20cの表面の親水性よりも低い。具体的に、構造体20cの表面の接触角と、被膜60の表面の接触角との関係は、以下の式(2)によって示される。したがって、乾燥時の水70に対する第1の加湿体部23の接触角は、0°より大、且つ90°未満とされる。
【0061】
0°<θs<θm<90° ・・・(2)
【0062】
上記式(2)において、θs:構造体20cの表面の接触角、θm:被膜60の表面の接触角である。
【0063】
上記式(2)より、被膜60の表面は、接触角θmが90°未満であるため、濡れやすい状態であるといえる。一方で、被膜60の表面の接触角θmは、構造体20cの表面の接触角θsよりも大きい。このため、被膜60の表面は、構造体20cの表面よりは濡れにくい状態であるといえる。したがって、第1の加湿体部23は、接触角が小さく濡れやすい状態ではあるものの、第2の加湿体部24に比べると接触角が大きく毛細管力が弱い。
【0064】
したがって、第1の加湿体部23は、加湿体20において、相対的に乾燥時の水70に対する接触角が大きい領域であり、相対的に親水性が小さい領域であり、相対的に毛細管力が弱い領域である、といえる。すなわち、第1の加湿体部23は、加湿体20に送風される空気の流れ方向における風上側端部20aと風下側端部との中心よりも風上側に設けられた、加湿体20において連続的に繋がる領域よりも相対的に乾燥時の水70に対する接触角が大きい大接触角部である、といえる。また、大接触角部は、乾燥時の水70に対する接触角が加湿体20において最も大きい領域である、といえる。
【0065】
また、第1の加湿体部23は、加湿体20に送風される空気の流れ方向における風上側端部20aと風下側端部との中心よりも風上側に設けられた、加湿体20において連続的に繋がる領域よりも相対的に親水性が小さい小親水性部である、といえる。また、第1の加湿体部23は、加湿体20に送風される空気の流れ方向における風上側端部20aと風下側端部との中心よりも風上側に設けられた、加湿体20において連続的に繋がる領域よりも相対的に毛細管力が弱い弱毛細管力部である、といえる。
【0066】
また、第2の加湿体部24は、加湿体20において、相対的に乾燥時の水70に対する接触角が小さい領域であり、相対的に親水性が大きい領域であり、相対的に毛細管力が強い領域である、といえる。
【0067】
なお、第1の加湿体部23の接触角を大きくし過ぎた場合には、第1の加湿体部23の濡れが不十分となり、加湿性能が損なわれるおそれがある。すなわち、被膜60の表面の接触角を大きくし過ぎた場合には、濡れが不十分となり、加湿性能が損なわれるおそれがある。このため、加湿装置1の加湿能力に対応して第1の加湿体部23の毛細管力を設計する必要がある。
【0068】
被膜60の材料は、上記式(2)を満足する親水性材料を用いることができる。また、被膜60の材料は、できるだけ水70に溶け出しにくく、安全性が高い材料であることが好ましい。具体的に、被膜60の材料は、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol:PVA)、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルピロリドンに代表されるビニル系の水溶性高分子、ポリアクリル酸ソーダに代表されるポリアクリル系の水溶性高分子、およびポリエチレンオキサイドに代表されるその他の合成系水溶性高分子が挙げられる。
【0069】
できるだけ水70に溶けだしにくい高分子とは、水溶性高分子のなかでも、水溶液の粘度が高い物性を有する水溶性高分子を意味する。被膜60を構成する水溶性高分子の水溶液の粘性が低い場合には、加湿体20に水70を供給した際に、水溶性高分子からなる被膜60の層は、構造体20cから剥がれ易くなる。このため、被膜60を構成する水溶性高分子の水溶液の粘性が低い場合には、加湿体20に水70を供給した際に、水70に混じって水溶性高分子が第2の加湿体部24に流れ出てしまうリスクがある。また、被膜60を構成する水溶性高分子の水溶液の粘性が低い場合には、加湿体20に供給されて加湿されずに残った水70に混じって水溶性高分子が排水管4から加湿体20の外部に流れ出てしまうリスクがある。
【0070】
一方、被膜60を構成する水溶性高分子の水溶液の粘性が高い場合には、加湿体20に水70を供給した際に、水溶性高分子からなる被膜60の層は、構造体20cから剥がれ難くなる。このため、被膜60を構成する水溶性高分子の水溶液の粘性が高い場合には、加湿体20に水70を供給した際に、水70に混じって水溶性高分子が第2の加湿体部24に流れ出てしまうリスクが低減する。また、被膜60を構成する水溶性高分子の水溶液の粘性が高い場合には、加湿体20に供給されて加湿されずに残った水70に混じって水溶性高分子が排水管4から加湿体20の外部に流れ出てしまうリスクが低減する。
【0071】
すなわち、被膜60を構成する水溶性高分子の水溶液の粘性が高い場合には、被膜60の長期使用が可能になるというメリットが得られる。
【0072】
また、安全性が高い材料とは、毒性、人体への有害性、可燃性、爆発性などがなく、化学的に安定した材料を意味する。
【0073】
上記の材料の中でも被膜60に好適な材料としては、ポリエチレングリコール(polyethylene glycol:PEG)、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、および水溶性多糖類が挙げられる。分子量が大きい材料は、粘性が高く、水に溶け出しにくいため、被膜60に好適である。このため、被膜60の材料には、できるだけ分子量が大きい材料を用いることが好ましい。なお、第1の加湿体部23の構造体20cの1本1本に被膜60が形成されているため、第1の加湿体部23と第2の加湿体部24との境目は、明確に直線状にあるわけではなく、グラデーション状に形成されている。
【0074】
すなわち、第1の加湿体部23には、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンおよび水溶性多糖類のうちのいずれか一種以上がコーティングされている。上記の材料を被膜60に用いることにより、安価に被膜60を実現でき、また第1の加湿体部23の効果を確実に得られる。
【0075】
構造体20cの表面に被膜60をコーティングする方法としては、水に溶かした水溶性高分子を、第1の加湿体部23が形成されていない加湿体の構造体20cの表面に刷毛等の塗布用具で直接塗布する方法が挙げられる。また、構造体20cの表面に被膜60をコーティングする他の方法としては、水に溶かした水溶性高分子を、第1の加湿体部23が形成されていない加湿体の構造体20cの表面にスプレーする方法が挙げられる。また、構造体20cの表面に被膜60をコーティングする他の方法としては、水に溶かした水溶性高分子を貯留した槽に、第1の加湿体部23が形成されていない加湿体をディッピングする方法が挙げられる。
【0076】
次に、第1の加湿体部23のスケール発生抑制効果について説明する。まず、スケール発生現象は、第1のスケール発生現象と、第2のスケール発生現象とに大別できる。第1のスケール発生現象は、加湿装置1の加湿運転中のスケール発生現象である。第2のスケール発生現象は、加湿装置1の加湿運転後における加湿体20の乾燥中のスケール発生現象である。以下、第1のスケール発生現象および第2のスケール発生現象の各スケール発生現象について、特徴と、求められる風上側端部20aの特性について説明する。
【0077】
第1のスケール発生現象でのスケール発生は、加湿装置1の加湿運転中に、加湿量の多い風上側端部20aにおいて、加湿体20の内部を流れる水70が加湿体20による加湿により濃縮されてスケール80の核であるスケール核が生成され、スケール核が成長してスケール80が発生する現象である。第1のスケール発生現象でのスケール発生は、風上側端部20aへの給水が不足する場合に発生しやすい。
【0078】
したがって、第1のスケール発生現象でのスケール発生については、風上側端部20aの乾燥に対して風上側端部20aに素早く水70が供給されて、風上側端部20aをスケール80の核が発生しない程度に常に湿った状態に保てるように加湿装置1を設計することで、スケール発生防止を図ることができる。風上側端部20aをスケール80の核が発生しない程度に常に湿った状態に保つ方法としては、例えば、風上側端部20aへの給水流量を増やすことが挙げられる。また、風上側端部20aをスケール80の核が発生しない程度に常に湿った状態に保つ他の方法としては、できるだけ接触角が小さく親水性が高い材料を風上側端部20aに使用することが挙げられる。
【0079】
一方、第2のスケール発生現象でのスケール発生は、加湿装置1の加湿運転後に加湿体20が保水している水70が全て蒸発することにより、水70に含まれているスケール成分が全てスケール80となって析出する現象である。加湿体20は、常時湿った状態とされると、雑菌が繁殖して異臭の原因となる。このため、衛生性の観点からは、加湿体20を定期的に乾燥させることが好ましい。
【0080】
つまり、加湿体20および加湿装置1の衛生性を確保するために加湿体20を頻繁に乾燥させると、第2のスケール発生現象でのスケール発生の頻度が高くなる。また、第2のスケール発生現象でのスケール発生の頻度を低減するために加湿体20を乾燥させる頻度を下げると、加湿体20および加湿装置1の衛生性が悪化するリスクが高まる。したがって、加湿体20を頻繁に乾燥させても、スケール80の局所的な発生および成長を防止することが重要である。
【0081】
次に、第2のスケール発生現象における水70の挙動について説明する。本実施の形態1にかかる加湿体20の効果の理解の容易化のために、比較例にかかる加湿体90について説明する。図11は、実施の形態1における比較例にかかる加湿体90を拡大して示すイメージ図である。図11は、比較例にかかる加湿体90についての、図10に対応する図である。図11は、加湿体90が保水している場合を示す。
【0082】
比較例にかかる加湿体90は、第1の加湿体部23を有していないこと以外は、実施の形態1にかかる加湿体20と同じ構成を有する。比較例にかかる加湿体90は、加湿体20の代わりに加湿装置1に装着して使用可能である。図11においては、加湿体20の代わりに加湿装置1に比較例にかかる加湿体90を装着して加湿装置1を運転させた後について示している。
【0083】
図11において、比較例にかかる加湿体90の乾燥が始まった直後の、加湿体90に保水された水70のY軸方向における液面の位置は、位置Aである。位置Aは、風上側端部20aの風上側の端面の位置である。加湿体90の乾燥が進むにつれて、加湿体90に保水された水70のY軸方向における液面の位置は、位置A→位置B→位置C→位置Dへと、Y軸方向において風下側に後退する。
【0084】
この際、第1のスケール発生現象でのスケール発生を低減するために、接触角が小さく親水性が高い素材を加湿体90の構造体20cの材料に使用すると、第2のスケール発生現象での水70の乾燥挙動において、加湿量の多い風上側端部20aにおいて蒸発した水70を補うように、風下側から風上側に向かって加湿体90の内部を水70が移動する。すなわち、加湿体90の内部の水70は、Y軸方向において風上側端部20aに向かって移動する。
【0085】
このため、加湿体90では、風上側端部20aにおいて、連続的に水70が蒸発する。この結果、加湿体90に保水された水70のY軸方向における液面が位置Aから位置Bに移動するまでに時間がかかり、風上側端部20aに局所的にスケール80が発生し、さらにスケール80が成長する。そして、最終的には、風上側端部20aにおいて局所的に大粒化したスケール80が発生し、当該大粒化したスケール80が送風機5から送風される風を受けて飛散しやすくなる。
【0086】
したがって、加湿量が多く、スケール80が発生しやすい風上側端部20aに求められる特性としては、以下の第1の特性および第2の特性が求められる。第1の特性は、第1のスケール発生現象に対応して、加湿装置1の加湿運転中にスケール成分が濃縮しない程度に毛細管力が高いことである。第2の特性は、第2のスケール発生現象に対応して、乾燥中に風上側端部20aよりも風下側の他の部位からの水70を集めない程度に毛細管力が低いことである。
【0087】
実施の形態1にかかる加湿体20では、上述したように、被膜60の表面の親水性が構造体20cの表面の親水性に比べて低いことで、第1の加湿体部23は第2の加湿体部24に比べて毛細管力が弱い。これにより、加湿体20では、第2のスケール発生現象において、加湿体20の内部の水70の液面が位置Aから位置Bに移動する速度がくなる。この結果、加湿体20では、風上側端部20aにおいてスケール80が局所的に成長することがなく、スケール80の発生が分散化される。そして、加湿体20では、スケール80の発生が分散化することで、風上側端部20aにおいて大粒に成長したスケール80が送風機5から送風される風を受けて飛散するリスクが、低減する。したがって、加湿体20は、スケール80の分散化によるスケール飛散リスクの低減に有効である。
【0088】
すなわち、実施の形態1にかかる加湿体20では、加湿体20に送風される空気の流れ方向における風上側端部20aと風下側端部との中心よりも風上側に、空気の流れ方向において連続的に繋がる領域よりも相対的に乾燥時の水70に対する接触角が大きい大接触角部が形成されている。これにより、風上側端部20aに水70を供給する力が小さくなり、加湿装置1の乾燥運転中に、加湿体20に保水された水70の蒸発界面の風下側への後退が早くなる。これにより、加湿体20に保水された水70の蒸発界面で連続的にスケール80が成長しなくなるため、風上側端部20aにおいてスケール80が局所的に成長しなくなる。したがって、加湿体20では、風上側端部20aにおいて局所的に大粒化したスケール80が送風機5から送風される風を受けて飛散することを防止できる。
【0089】
実施の形態1にかかる加湿体20では、第1の加湿体部23が、スケール80が発生しやすい風上側端部20aに設けられている。これにより、加湿体20では、加湿装置1の乾燥運転中における、加湿体20に保水された水70の蒸発界面の風下側への後退によるスケール低減効果を、風上側端部20aに直接作用させることができる。また、加湿体20の風上側端部20aにおける水70の保水量が加湿体20におけるその他の領域である第2の加湿体部24に比べて少ないため、発生するスケール80の量が減少する。
【0090】
また、加湿体20では、第1の加湿体部23の被膜60を水溶性高分子により形成することにより、被膜60の水溶性高分子が溶出した第1の加湿体部23の内部の水70の粘性の面からも風上側端部20aに水70が移動することを防止でき、第2のスケール発生現象におけるスケール発生の分散効果が得られるという利点がある。すなわち、加湿体20の第1の加湿体部23では、加湿体20が乾燥する際に、水70の蒸発とともに被膜60中の水溶性高分子の濃度が増加する。そして、水溶性高分子が溶出した第1の加湿体部23の内部の水70の粘性が高くなることで、被膜60の内部での水70の移動が制限される。この結果、加湿体20では、風上側端部20aで水70が連続的に蒸発してスケール80が局所的に成長することを防止できる。
【0091】
また、第1の加湿体部23を水溶性高分子により形成していることで、保水量の面からも、第2のスケール発生現象におけるスケール80の抑制効果が得られるというメリットもある。すなわち、水溶性高分子の影響で第1の加湿体部23の毛細管力が低下するため、構造体20cの空隙内に完全には水70が充填されない状態となり、局所的に保水量が低下し、スケール発生材料が減り、発生するスケール80の量が少なくなるという効果も得られる。
【0092】
第1の加湿体部23のY軸方向の長さは、極力短いことが好ましい。加湿体20のY軸方向の長さに対する第1の加湿体部23のY軸方向の長さは、0%より大、且つ50%以下の範囲のうち、できるだけ短くすることが好ましい。
【0093】
なお、上記においては、第1の加湿体部23が、X軸方向およびZ軸方向において加湿体20の全幅に形成されている場合について説明したが、第1の加湿体部23の形成領域はこれに限定されない。第1の加湿体部23は、X軸方向またはZ軸方向において加湿体20の一部に形成されてもよい。この場合、加湿装置1は、効果の度合いは低減するが、上述した効果を得ることができる。
【0094】
また、第1の加湿体部23は、乾燥時の水70に対する被膜60の表面の接触角が0°より大、且つ90°未満であり、親水性自体が確保されている。このため、給水が十分な量だけ加湿体20に供給されている加湿中には、風上側端部20aにも水70が供給されるため、加湿装置1の加湿性能は悪化しない。
【0095】
上述したように、本実施の形態1にかかる加湿素子2および加湿装置1によれば、加湿性能を低下させることなく、スケール80の局所的な成長を抑制してスケール80の発生を抑制し、スケール80の飛散を防止することができる、という効果を奏する。
【0096】
実施の形態2.
図12は、実施の形態2にかかる加湿装置1が備える加湿素子2の断面図である。図12は、図6に対応する断面図である。図13は、図12に示すXIII-XIII線に沿った断面図である。図14は、図13における第1の加湿体部23および第2の加湿体部24を拡大して示すイメージ図である。図14は、加湿体20が保水している場合を示す。実施の形態2にかかる加湿素子2は、加湿体20における第1の加湿体部23の位置が異なる他は、実施の形態1にかかる加湿素子2と同様の構成を有するため、同様の構成である部分については同一符号を付して説明を省略する。
【0097】
実施の形態2にかかる加湿素子2では、加湿体20の第1の加湿体部23が、図13中のY軸方向において、加湿体20の風上側端部20aから風下側に離間した位置に形成されており、風上側端部20aは第2の加湿体部24とされている。このような構成を有する実施の形態2にかかる加湿体20の場合でも、第2のスケール発生現象において風上側端部20aに集まろうとする水70の流れを第1の加湿体部23が阻害する。
【0098】
これにより、実施の形態2にかかる加湿体20でも、風上側端部20aにおいてスケール80が局所的に成長することがなく、スケール80の発生が分散化される。そして、実施の形態2にかかる加湿体20でも、スケール80の発生が分散化することで、風上側端部20aにおいて大粒に成長したスケール80が送風機5から送風される風を受けて飛散するリスクが、低減する。したがって、実施の形態2にかかる加湿体20も、スケール80の分散化によるスケール飛散リスクの低減に有効である。
【0099】
一方、実施の形態2にかかる加湿体20は、風上側端部20aに第1の加湿体部23が設けられていない。このため、実施の形態2にかかる加湿体20は、第1の加湿体部23を水溶性高分子により形成することによる、前述の粘性および保水量の面での効果が少なくなるため、実施の形態1にかかる加湿体20に対して、第2のスケール発生現象に対応するスケール低減能力は小さくなる。
【0100】
ただし、実施の形態2にかかる加湿体20は、実施の形態1にかかる加湿体20に対して風上側端部20aの親水性が高くなる。これにより、実施の形態2にかかる加湿体20は、第1のスケール発生現象におけるスケール発生を重要視する場合に有効であるというメリットがある。第1のスケール発生現象におけるスケール発生を重要視する場合は、24時間加湿運転など、加湿停止により加湿素子2が乾燥に晒される頻度が少ない場合が挙げられる。
【0101】
実施の形態3.
図15は、実施の形態3にかかる加湿装置1が備える加湿体20の断面図である。図15は、図10に対応する図である。実施の形態3にかかる加湿体20は、第1の加湿体部23の構造が異なる他は、実施の形態1にかかる加湿体20と同様の構成を有するため、同様の構成である部分については同一符号を付して説明を省略する。
【0102】
実施の形態3にかかる加湿体20は、第1の加湿体部23の構造体20cが被膜60によってコーティングされていない。実施の形態3にかかる加湿体20では、構造体20c自体の親水性を直接低下させることによって第1の加湿体部23が形成されている。具体的に、実施の形態3にかかる加湿体20は、上述した比較例にかかる加湿体90と同様に第1の加湿体部23が形成されていない加湿体を、酸性水溶液、アルカリ性水溶液および高温雰囲気のいずれかの環境下に晒して、構造体20cを当該環境下に晒し、構造体20cの親水材を部分的に劣化させることにより、第2の加湿体部24に比べて親水性が低下した第1の加湿体部23が形成される。すなわち、実施の形態3にかかる加湿体20は、酸性水溶液、アルカリ性水溶液および高温雰囲気のいずれかの環境下に構造体20cを晒し、構造体20cの親水材を部分的に劣化させることにより、第2の加湿体部24に比べて親水性が低下した第1の加湿体部23が形成される。
【0103】
実施の形態3にかかる加湿体20は、上述した実施の形態1にかかる加湿体20および実施の形態2にかかる加湿体20に比べて、材料を付加する必要がないため、安価に第1の加湿体部23を形成できるというメリットがある。
【0104】
実施の形態4.
図16は、実施の形態4にかかる換気装置200の一例を示す図である。図17は、実施の形態4にかかる空気調和機300の一例を示す図である。換気装置200および空気調和機300は、上述した実施の形態1にかかる加湿装置1を備える。実施の形態1にかかる加湿装置1を換気装置200または空気調和機300に設けることで、スケール80の飛散が防止され、長期間に亘って安定した加湿能力を発揮できる換気装置200または空気調和機300を得ることができる。
【0105】
図16に示されるように、換気装置200は、家屋250の外部ODの空気を家屋250の室内IDに取り込む。換気装置200の空気取入口210は、加湿装置1の吸気口1aに接続される。吸気口1aから加湿装置1に流入した外部ODの空気は、加湿装置1によって加湿される。加湿された外部ODの空気は、吐出口1bから室内IDに供給される。このように、加湿装置1を備えた換気装置200は、外部ODの空気を加湿して家屋250の室内IDに供給することができる。
【0106】
図17に示されるように、空気調和機300は、室外機301と室内機302と、加湿装置1とを有する。室外機301は家屋250の外部ODに設置され、室内機302は家屋250の室内IDに設置される。室内機302は、加湿装置1を備える。室外機301からは、室内機302の熱交換器303に冷媒が供給される。室内機302の送風機304は、空気取入口305から室内IDの空気を取り入れて、熱交換器303に送る。熱交換器303を通過して熱交換した空気の供給先は、切替器306によって、加湿装置1と、空気放出口307に直接接続される通路308とのいずれか一方に切り替えられる。図17は、熱交換器303を通過した空気の供給先が加湿装置1である場合、すなわち熱交換器303を通過した空気を加湿している状態を示している。
【0107】
熱交換器303を通過した空気は、加湿装置1の吸気口1aに流入した後、加湿装置1によって加湿される。加湿装置1を通過して加湿された空気は、吐出口1bから加湿装置1の外へ吐出され、空気放出口307から室内IDに供給される。熱交換器303を通過した空気を加湿する必要がない場合、切替器306は、熱交換器303を通過した空気の供給先を、通路308とする。熱交換器303を通過した空気は、通路308を通過した後、空気放出口307から室内IDに供給される。このように、空気調和機300は、室内IDの空気を加湿して家屋250の室内IDに供給することができる。また、空気調和機300は、加湿の必要がない場合は、熱交換器303を通過した空気を、加湿せずに室内IDに供給することができる。
【0108】
なお、上記の説明においては、換気装置200および空気調和機300が実施の形態1にかかる加湿装置1を備える例を説明したが、換気装置200および空気調和機300は、実施の形態2および実施の形態のいずれか一方の加湿素子2を用いた加湿装置1を備えてもよい。
【0109】
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、実施の形態同士を組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0110】
1 加湿装置、1a 吸気口、1b 吐出口、2 加湿素子、3 給水管、3a 給水弁、4 排水管、5,304 送風機、6 制御装置、7 ドレンパン、8 水位検知センサー、10,10a,10b ケーシング、10c 開口部、10d 突起、11 給水口、12 貯水槽、12a 注水孔、13 排水部、13a 排水口、14 構造壁、15 係合部、20,90 加湿体、20a 風上側端部、20c 構造体、21 凸部、22 凹部、23 第1の加湿体部、24 第2の加湿体部、30 拡散部材、31 吸上部、32 延出部、33 流下部、40 オリフィス部、50 給水機構、60 被膜、70 水、80 スケール、200 換気装置、210,305 空気取入口、250 家屋、300 空気調和機、301 室外機、302 室内機、303 熱交換器、306 切替器、307 空気放出口、308 通路、ID 室内、OD 外部、θm 被膜の表面の接触角、θs 構造体の表面の接触角。
図1
図2
図3
図4
図5
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図16
図17