(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】WC系超硬合金とその用途
(51)【国際特許分類】
C22C 29/08 20060101AFI20241108BHJP
C22C 1/051 20230101ALN20241108BHJP
【FI】
C22C29/08
C22C1/051 G
(21)【出願番号】P 2023548996
(86)(22)【出願日】2022-04-25
(86)【国際出願番号】 CN2022088923
(87)【国際公開番号】W WO2022262420
(87)【国際公開日】2022-12-22
【審査請求日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】202110675250.5
(32)【優先日】2021-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】516156075
【氏名又は名称】シアメン タングステン カンパニー リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】523150680
【氏名又は名称】シアメン ゴールデン イーグレット スペシャル アロイ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】XIAMEN GOLDEN EGRET SPECIAL ALLOY CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リュウ,チャオ
(72)【発明者】
【氏名】ウェン,シャオ
(72)【発明者】
【氏名】リュウ,ビン
(72)【発明者】
【氏名】ファン,チャオイン
(72)【発明者】
【氏名】ツァイ,シャオカン
(72)【発明者】
【氏名】チョン,ウェンチン
(72)【発明者】
【氏名】ウー,ソンイー
【審査官】田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-114469(JP,A)
【文献】特開2012-077353(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1827817(CN,A)
【文献】特開2005-220372(JP,A)
【文献】特開昭58-031060(JP,A)
【文献】特開2016-078136(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108060322(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 29/00-29/18
C22C 27/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
T相、WC相及びHEA相からなるWC系超硬合金であって、
前記T相は、Al
4
C
3
、TiC、ZrC、TaC、ZrB
2
及びTiB
2
からなる群から選択される少なくとも2種からなり、前記HEA相の組成式
は、Al
0.4
Hf
0.6
NbTaTiZr、AlNb
1.5
Ta
0.5
Ti
1.5
Zr
0.5
、AlCr
2
Mo
2
Nb
2
Ti
2
Zr、HfNbTaTiZr、CrMo
0.5
NbTa
0.5
TiZr、及びTiVNbMoTaWからなる群から選択される1種であり、前記T
相は元素Bを含み、
前記Bは遷移金属ホウ化物の形態で存在し、前記WC系超硬合
金は、
前記HEA
相の
含有量が0.5wt%~5wt%であり、前記T
相の含有量が35wt%以下であり、残りが
前記WC
相
及び不可避な不純物であり、前記元素Bの含有量は0.1wt%~3wt%
であることを特徴とす
る、WC系超硬合金。
【請求項2】
前記WC系超硬合金は、Bの含有量が1.5wt%~3wt%であり、
前記HEA
相の含有量が2.5wt
%~5wt%であることを特徴とする、請求項1に記載のWC系超硬合金。
【請求項3】
前記WC系超硬合金は、Bの含有量が0.1wt%~1.5wt%であり、
前記HEA
相の含有量が0.5wt%~2.5wt%であることを特徴とする、請求項
1に記載のWC系超硬合金。
【請求項4】
前記WC系超硬合金の
組成式は、ZrC-ZrB
2-WC-AlNb
1.5Ta
0.5Ti
1.5Zr
0.5であることを特徴とする、請求項1に記載のWC系超硬合金。
【請求項5】
前記WC系超硬合金は、常温での熱伝導率が72W/m・K以上である、請求項1~
4のいず
れか1項に記載のWC系超硬合金。
【請求項6】
光学ガラスに用いられる金型であって、前記金型の材料は請求項1~
4のいずれか1項に記載のWC系超硬合金であり、前記光学ガラスの材料は、シリカ、樹脂材料又はセレン化亜鉛のうちの1種を含み、前記樹脂材料は、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリカーボネート又はポリジアリルジグリコールカーボネートのうちの1種であることを特徴とする、光学ガラス用金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超硬合金、特にWC系超硬合金に関する。
【背景技術】
【0002】
超硬合金は、高硬度、耐摩耗性、耐食性、低熱膨張係数などの特長を有し、光学ガラス成形、金属展張などで製造される精密金型や耐摩耗・耐食部品に幅広く使用されている。超硬合金製の金型は、寿命が長く、鋼製金型の10倍以上、さらに数百倍に上り、さらに、製品の表面が非常に高性能で、製造されるガラスレンズなどの部品は光学的な表面品質の要求を満たすことができる。しかし、超硬合金は典型的な難加工材料であるため、光学的な表面品質を持つ、微小なプリズムや球面レンズなどの超硬合金製の金型を加工する際に、さらに高い超硬合金の特性が求められる。
WC系超硬合金は、硬脆材料であり、従来の切削加工では、脆性破壊の形で除去されている。如何に超硬合金の延性モード切削を実現し、超硬合金を塑性変形の形で除去して良好な加工表面品質を得ることは、超硬合金の分野における大きな課題である。
【発明の概要】
【0003】
本発明の目的は、従来技術の欠点を克服し、新しい合金系のWC系超硬合金を提供することであり、この合金に高エントロピー合金(High-entropy alloys)を加え、B元素の役割を十分に発揮させ、合金全体として優れた強度と靭性、高い熱伝導率と熱安定性、高密度を持たせ、加工して光学的な要求を満たす表面を実現することが可能である。
【0004】
本発明の一実施形態は以下の通りである。
分子式がT-WC-HEAであるWC系超硬合金であって、Tは炭化物、酸化物又はホウ化物の少
なくとも1種であり、HEAは高エントロピー合金であり、前記HEAは、Al、Cu、Nb、Ti、Zr
、Ge、Si、V、Ta、Cr、Mn、Ce、Mo、W、Hf元素から選択される少なくとも5種類であり、
前記Tは元素Bを含み、前記WC系超硬合金には、HEAの含有量が0.5wt%~5wt%であり、前
記Tの含有量が35wt%以下であり、残りがWC及び不可避な不純物であり、前記元素Bの含有量は0.1wt%~3wt%であり、前記HEAに含まれる各元素の原子の比は、エネルギースペク
トロメーター(EDS、Energy Dispersive Spectrometer)での測定値が0.33から1である。
前記HEAの融点は1850℃以下であり、好ましくは1700℃以下である。
【0005】
本発明者は長年にわたり研究を行い、5種類以上の特定の元素を選択し組み合わせて形
成されたHEAは、WC系超硬合金の硬度を高めるものではなく、焼結時にWC顆粒との濡れ性
を高めて靭性を向上させ、と同時に、WC顆粒の異常成長をある程度抑制することを分かった。しかし、WC-HEAシステムにおいて、WCとHEAの完全な固溶体を形成することは困難で
あるため、高温での耐酸化性が劣っている。また、焼結は核生成と成長の競合過程であり、HEA結晶粒は急速に成長しやすく、粗大な結晶粒が形成され、合金の機械的特性が劣化される。実験でわかるように、Bは合金系においてHEAと相乗効果を果たし、BはHEAの表面に積層した遊離金属元素と金属ホウ化物を生成し、合金系の結晶欠陥を低減又は除去し、合金相構造の完全性と高温での耐酸化性を向上させると共に、HEA結晶粒成長抑制剤の役割を果たし、粒度を改善することができる。
合金系においてHEAとBは相乗効果を果たし、得られるWC系超硬合金は、強度、靭性、高温での耐酸化性で従来のWC-Co系超硬合金よりはるかに優れる。本発明のWC系超硬合金は
、従来のWC-Mo2C-SiCやWC-TiC-TaCなどの非結合相超硬合金と比較すると、硬度について
優位性はないものの、靭性が明らかに向上される。また、研究でわかるように、HEAを添
加することは合金の熱伝導性向上、熱膨張量低減に有利であり、特に高い成形精度が求められる光学金型基材に対して、高温加工性能を大きく改善する。
【0006】
好ましい実施形態において、Tは、Al4C3、HfC、TiC、Cr3C2、VC、ZrC、NbC、TaC、SiC
、Mn3C、MoC、CuC、Mg2C3、W2C、CeO2、La2O3、MgO、ZrO2、Al2O3、ZrB2、CrB2、TiB2又
はMnB2のうち、少なくとも2種である。
【0007】
好ましい実施形態において、Bは、ZrB2、CrB2、TiB2又はMnB2のような遷移金属ホウ化
物の形態で存在する。
【0008】
好ましい実施形態において、HEAに含まれる各元素の原子の比は、エネルギースペクト
ロメーター(EDS、Energy Dispersive Spectrometer)の測定値は、0.5~1である。前記HEAに含まれる各元素の原子半径の最大差は0.33以下、好ましくは0.25以下、さらに好ましくは0.17以下である。原子の比と原子半径の差値は、高エントロピー合金の構成をある程度決定し、それの超硬合金における固溶体構造特性、さらに加工特性に影響を与える。HEAに含まれる各元素の原子半径差が大きすぎると、HEAの形成時に金属原子の一部が押し出されて遊離金属となり、合金の耐酸化性が低下する。一方、各原子の半径が同じ値に近ければ近いほど良いというわけではない。各元素の原子半径が同じ値に近づけると、合金中に面心立方相が多くなり、合金の硬度が若干低下し、摩擦・摩耗特性は影響される場合がある。
【0009】
好ましい実施形態において、HEAは、分子式Al0.4Hf0.6NbTaTiZr、AlMo0.5NbTa0.5TiZr
、AlNbTaTiV、AlNb1.5Ta0.5Ti1.5Zr0.5、AlCr2Mo2Nb2Ti2Zr、HfMoNbTiZr、HfNbTaTiZr、HfNbTiVZr、CrNbTiVZr、CrMo0.5NbTa0.5TiZr、TiZrHfNbCr、TiNbMoTaW、TiVNbMoTaW、HfMoTaTiZr又はHfMoNbTaTiZrから選択される少なくとも1種である。上記分子式は、原子半径がやや大きい1つの金属元素と原子半径が近いほかの元素を含んでおり、HEAが形成される時に、原子半径がやや大きい金属元素が格子に入り、格子の変形を促進し、面心立方相から体心立方相へ変換されやすい。選択された元素は焼結される際に原子間でより結合しやすくなり、規則的な固溶体が形成される。また、選択されたHEAは、WC系超硬合金の熱伝導率や熱安定性の向上に有効である。
【0010】
好ましい実施形態において、HEAには、BCC相の固溶体の含有量が80%以上である。HEA
は全体的にBCC相を主とすることは、WC系超硬合金の高硬度特性に適しており、加工時に
クラックや孔の発生を回避することができる。
【0011】
好ましい実施形態において、HEAにFCC相の固溶体の含有量は10%以上である。HEAはあ
る程度のFCC相を含むと、材料全体が若干柔らかくなり、加工時に塑性変形が起こりやす
く、表面に粘着や微細な砥粒の発生が避けられ、WC系超硬合金の加工性を向上させる。
【0012】
好ましい実施形態において、前記WC系超硬合金は、Bの含有量が1.5wt%~3wt%であり
、HEAの含有量が2.5wt%~5wt%である。実験で分かるように、Bの含有量とHEAの間に相
関関係が存在し、両者の含有量が設定範囲を超えると、超硬合金中に過剰なホウ化物や炭化ホウ素などが発生し、焼結が困難になり、靭性が低下することがある。
【0013】
好ましい実施形態において、前記WC系超硬合金は、Bの含有量が0.1wt%~1.5wt%であ
り、HEAの含有量が0.5wt%~2.5wt%である。実験で分かるように、Bの含有量とHEAの間
にある相関関係が存在し、両者の含有量が設定範囲を超えると、HEAの安定した相構造の
形成に影響を与え、或いは、超硬合金における遊離金属量が増加し、耐酸化性が低下する可能性がある。
【0014】
好ましい実施形態において、前記WC系超硬合金の分子式は、ZrC-ZrB2-WC-AlNb1.5Ta0.5Ti1.5Zr0.5である。
【0015】
好ましい実施形態において、前記WC系超硬合金に、Tに含まれるB、及びBと結合して化
合物を形成した元素は、いずれもHEAに含まれるものである。このように構成されたWC系
超硬合金は、原料利用率が高く、微細構造が均一であり、コストが低い。
【0016】
好ましい実施形態において、前記WC系超硬合金におけるWCの平均粒径は100nm~400nmである。前記WC系超硬合金は高密度である。前記WC系超硬合金は、常温での熱伝導率が72W
/m・K以上である。
【0017】
本発明に言及されたwt%は重量%である。
なお、本発明で開示された数値の範囲には、この範囲内のすべての値が含まれている。
【0018】
本発明の他の実施形態は、上記WC系超硬合金を用いて作製された光学ガラス用金型を提供する。前記光学ガラスの材料は、シリカ、樹脂材料又はセレン化亜鉛のうちの1種を含む。
【0019】
本発明に記載された樹脂材料は、特に限定されず、例えば、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアリルスルフィド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂等であってもよく、また、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリカーボネート又はポリジアリルジグリコールカーボネート(Poly(allyl diglycol carbonate) )等
であってもよい。
【0020】
本発明の新規な合金系のWC系超硬合金は、光学ガラス用金型に適用され、加工性において優れた性能を示す。光学ガラスダイフォーミング(compression moulding)技術とは、高温で金型に圧力をかけ、金型表面のマイクロレンズアレイの形状を、加熱により軟化したガラス表面に再現し、アニーリング処理を経て冷却硬化し、所望のガラス製マイクロレンズアレイを得ることである。
本発明に係るWC系超硬合金は、従来の超硬合金に比べて優れた加工性を有し、熱伝導率≧72W/m・K、密度≧12g・cm-3、硬度HRA≧70、破壊靭性≧10 MPa・M1/2、曲げ強度≧1600
N・mm-2、酸化重量増加量≦1.16 mg・cm-2である。これはHEAの導入及びBとの相乗効果
により、WC系超硬合金において効果な分布が形成され、材料の均一性が良く、内部欠陥がなく、加工後の面粗さRa≦10 nmであると推測される。また、自身の熱伝導率の上昇によ
り、高温加圧や減圧アニールの際に素早く伝熱し、金型の熱膨張が非常に小さく、成形前後の金型変形はほぼゼロである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、実施例を参照しながら本発明をさらに詳しく説明する。
XRD:X線回折位相分析(phase analysis of xray diffraction)は、ドイツBruker社のD8 DISCOVER X線回折計で行われた。装置の技術仕様:放射線源としてCuを用い、グラフ
ァイトモノクロメーター、動作電圧40kV、電流250mA、自転式ターゲットである。走査ス
ピードは8°/minであり、選択される回折角の範囲は2θ=5~90°である。
成分の測定:電気誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-OES)を用いて、ノーガス
元素の不純物を測定した。
形態分析:走査型電子顕微鏡(SEM)及び後方散乱回折プローブ(EBSD、electron back-scattered diffraction)により、超硬合金の結晶粒形態、結晶相に対して表面観察と解析が行われた。
硬度試験:GB/T 7997-2014「超硬合金のビッカース硬さ試験方法」を参照する。
曲げ強度:CMT5305マイクロコンピュータ制御万能試験機で測定を行ない、GB/T 3851-2015「超硬合金の横方向破壊強度の測定方法」を参照する。
靭性試験:GB/T 33819-2017「超硬合金の低温靭性試験」を参照する。
熱伝導率:ドイツNETZSCH社製のLFA457レーザー熱伝導率計を用いた。標準GB/T 22588-2008を参照する。
密度:米国マイク社製のAccuPyc II 1340真密度アナライザーで測定が行われた。
耐酸化性:GB/T 13303-1991「鋼材の耐酸化性の測定方法」を参照する。
表面粗さ:シャドーリテンション法で測定が行われた。GB/T 15056-2017「鋳造表面粗
さ評価法」を参照する。
本発明に記載されたボールミルは、遊星型ボールミルPULVERISETTE 5を用いた。
本発明に記載された焼結は、PVSGgr20/20/島津製作所の真空焼結炉及び/又はAgilent 1260Lnifntiy放電プラズマ焼結炉及び/又はErinvicor HP20-36熱間静水圧圧縮成形焼結(Hot Isostatic Pressing Sintering)炉を用いて行われた。
【0022】
本発明の新規な合金系のWC系超硬合金は、任意の方法で製造してもよく、その製造方法に特に制限はなく、粉末焼結法でも合金溶融法でもよい。ただ、経済的な観点から、原料準備、粉末調合、ボールミル、プレス、焼結からなる工程を含むことが好ましい。原料として、WC粉末、HEAを構成する単体粉末、炭化物、酸化物、ホウ化物からなるセラミック
粉末などが含まれる。
上記WC粉末は、特に限定されず、必要に応じて適切に選択すればよい。例えば、粒径0.1μm~3μmのWC粉末を使用してもよい。
上述HEAを構成する単体粉末は、特に限定されず、必要に応じて適切に選択すればよい
。例えば、粒径0.5μm以下の単体粉末を用いてもよく、前記単体粉末は、真空溶解、リアルエアアトマイズによる粉末化、篩分けなどの操作が順次に行われる。
上記炭化物、酸化物又は硼化物からなるセラミック粉末は、特に限定されず、必要に応じて適切に選択すればよい。例えば、粒径0.5μm~5μmの粉末を選択すればよい。
上記ボールミル工程は特に制限されず、乾式でも湿式でもよい。合金中へのCの侵入を
低減する観点から、乾式ボールミル法が好ましい。
上記プレス加工は特に制限されず、ドライプレス、冷間等方圧プレス成形(cold isostatic pressing molding)、又は射出成形のいずれ選択してもよい。
【0023】
実施例I
表1の実施例Iに示された組成のWC系超硬合金は、以下の手順で調製されて得られた。
(一)原料の準備
平均粒径0.1μmのWC粉末、HEAを構成する5種類の金属単体粉末(Al、Nb、Ta、Ti、Zr)は、いずれも粒径0.5μmであり、炭化ホウ素、炭化チタン、炭化タンタル又はアルミナからなるセラミックス粉末は粒径0.5μmである。
(二)ボールミル
a.HEAを構成する単体粉末に対する高エネルギーボールミリング(high-energy ball milling、HEBM)は、不活性雰囲気の下に行い、ボールと材料の比率(ball to powder weight ratio)が15:1、回転数が400r/min、ボール粉砕媒体として超硬合金ボールを用い、24時間、HEA合金粉末が得られた。
b.WC粉末とセラミック粉末を加え、真空でボールミル、ボールと材料の比率が5:1、回転数100r/rpm、40時間とした。
(三)プレス加工
180MPaの圧力でプレスし、保持時間120秒、原料ビレットが得られた。
(四)焼結
上記原料ビレットを焼結炉に入れ、10Pa以上の真空で、温度1600℃、焼結圧力60Mpaで
、30分間に放電プラズマ焼結が行われ、冷却した後にWC系超硬合金が得られ、ナノダイヤモンドグラインドペーストを用いて表面を研磨した。
【0024】
表1の、比較例3に示される組成のWC系超硬合金の製造方法における、実施例1との相違点は、原料にHEAの単体粉末を含めないことである。
表1の、比較例4に示される組成のWC系超硬合金の製造方法における、実施例1との相違点は、原料に炭化物、酸化物又は硼化物からなるセラミックス粉末を含まないことである。
【表1】
実施例IにおけるHEAの分子式がAlNb
1.5Ta
0.5Ti
1.5Zr
0.5であると測定された。
各実施例と比較例の超硬合金について性能テストと表面粗さRaの測定を行い、その結果を表2に示す。
【表2】
【0025】
実施例1~7において、各実施例の合金は、熱伝導率≧72W/m・K、密度≧12 g・cm-3、
硬度HRA≧70、破壊靭性≧10 MPa・M1/2、曲げ強度≧1600 N・mm-2、酸化重量増加量≦1.16 mg・cm-2、各実施例における超硬合金を研磨した表面粗さRa≦10nmであり、いずれも光学レンズ製造用の合金金型の条件を満たしている。
【0026】
実施例1~7に比べて、実施例8における合金の靭性が明らかに低く、また、実施例9における合金の耐酸化性が明らかに低い。これは、Bの含有量とHEAの間に何らかの相関関係があるからであり、HEAの含有量が2.5wt%~5wt%である場合、Bの好ましい配合量が1.5wt
%~3wt%であるのに対し、HEAの含有量が0.5wt%~2.5wt%である場合、Bの好ましい配合
量が0.1wt%~1.5wt%である。実施例8及び実施例9のHEAとBの含有量は好ましい配合量と一致しない場合、合金系におけるHEAとBの両者は協働作用を発揮できず、合金の特性をさらに向上させることができない。
実施例1に比べて、比較例1は、HEAが5wt%より高いので、その結果、硬度HRAが70以下
となり、酸化重量増加量が1.16 mg・cm-2以上になり、得られた合金の研磨面粗さRaが10nm以上であり、光学レンズ製造用金型の要件を満たさないことは明らかである。
実施例4に比べて、比較例2は、Bが3wt%より高いので、その結果、破壊靭性が10 MPa・M1/2以下となり、酸化重量増加量が1.16 mg・cm-2以上になり、得られた合金の研磨面粗
さRaが10nm以上であり、光学レンズ製造用金型の要件を満たさないことは明らかである。
5wt%のHEAを添加した実施例1に比べて、比較例3におけるHEAは0であり、破壊靭性が10
MPa・M1/2以下となり、酸化重量増加量が1.16 mg・cm-2より明らかに高く、得られた合
金の研磨面粗さRaが10nmより明らかに大きいため、光学レンズ製造用金型の要件を満たさないことは明らかである。
実施例1に比べて、比較例4にはBを添加せず、合金の硬度HRAが70以下となり、酸化重量増加量が1.16 mg・cm-2以上になり、得られた合金の研磨面粗さRaが10nm以上であり、光
学レンズ製造用金型の要件を満たさないことは明らかである。
【0027】
実施例II
実施例8~12のWC系超硬合金の製造方法と実施例1との相違点は、原料におけるHEA粉末
の組成が完全に一致していないことである。WC系超硬合金における組成は表3に示す通り
である。
【表3】
各実施例の超硬合金について性能テストを行い、その結果を表4に示す。
【表4】
実施例8~12において、各合金の熱伝導率、密度、硬度、破壊靭性、曲げ強度、酸化重
量増加率は、いずれも光学レンズ製造用合金型の要件を満たしている。即ち、熱伝導率≧72W/m・K、密度≧12 g・cm
-3、硬度HRA≧70、破壊靭性≧10MPa・M
1/2、曲げ強度≧1600 N・mm
-2、酸化重量増加量≦1.16 mg・cm
-2、合金を研磨した表面粗さRa≦10nmである。
【0028】
実施例III
実施例13のWC系超硬合金の製造方法と実施例1との相違点は、焼結工程である。実施例13の焼結工程は以下のとおりである。
上記原料ビレットを熱間静水圧圧縮成形焼結炉に入れ、10Pa以上の真空条件で、温度1600℃に、焼結圧力60Mpaに、1.5時間に熱間静水圧圧縮成形焼結が行われ、冷却した後にWC系超硬合金が得られる。
【0029】
実施例14のWC系超硬合金の製造方法と実施例1との相違点は、ボールミル工程である。
実施例14のボールミル工程は以下のとおりである。
a.HEAを構成した単体粉体に対して、不活性雰囲気で、高エネルギーボールミリングを行い、ボールと材料の比率が18:1、回転数が500r/min、ボールミル媒体として超硬合金ボ
ールを用い、45時間に行い、HEA合金粉末が得られる。
b.WC粉末とセラミック粉末を加え、真空で、ボールと材料の比率が5:1、回転数150r/min、60時間。
【0030】
実施例15のWC系超硬合金の製造方法と実施例1との相違点は、焼結された合金に対して
アニール処理が行われる。実施例15のアニール処理は以下のとおりである。
焼結後に得られたWC系超硬合金を熱間静水圧圧縮成形焼結炉に入れ、10Pa以上の真空条件で、200℃まで加熱して2時間保温、その後、焼結炉と共に室温まで冷却し、合金を取り出して試験に用いる。
【0031】
測定の結果、実施例1及び実施例13~15のHEA相の構成を表5に示す。
【表5】
各実施例の超硬合金について性能テストを行い、その結果を表6に示す。
【表6】
【0032】
実施例13~15において、各実施例における合金の熱伝導率、密度、硬度、破壊靭性、曲げ強度、酸化重量増加率は、いずれも光学レンズ製造用合金型の要件を満たしている。即ち、熱伝導率≧72W/m・K、密度≧12 g・cm-3、硬度HRA≧70、破壊靭性≧10MPa・M1/2、曲げ強度≧1600 N・mm-2、酸化重量増加量≦1.16 mg・cm-2、合金を研磨した表面粗さRa≦10nmである。
【0033】
実施例13と実施例1とを比べて、熱間静水圧圧縮成形焼結炉における合金の相含有量(BCC+FCC)は0.7%増加したため、合金の硬度、破壊靭性、曲げ強度及び耐酸化性などの特性が向上した。
実施例14と実施例1とを比べて、ボールミリング工程の変更、回転速度の増加、ボール
ミリング時間の延長により、より十分なHEA及びWC系超硬合金粉末が得られ、焼結後、合
金の相含有量(BCC+FCC)は0.9%増加し、合金の熱伝導率、硬度、破壊靭性、曲げ強度
及び耐酸化性などの特性が明らかに向上した。
実施例15と実施例1とを比べて、アニール処理により合金構成が均一化され、HEAの固溶効果が弱くなり、即ち、BCC+FCCの相含有量は0.8%減少し、合金の密度、硬度、曲げ強
度などの特性が劣化したが、熱伝導率、破壊靭性、及び耐酸化性などの特性が向上した。
【0034】
実施例IV
実施例1、8、9、13、15及び比較例1~4で得られたWC系超硬合金を、ポリカーボネート
光学ガラス加工用金型に適用した。金型の表面をコーティングした後、コーティングされた金型を用いて光学レンズをプレス成形し、光学レンズを光源の前方にある四角形の穴の手前に3cm下げて置き、レンズを少し傾けて測定を行った。光源は20Wの蛍光灯又は100Wの電球を用いた。測定環境の前、上、下、左、右、いずれも無反射の黒色とし、拡大鏡(4
倍)を用いて#60又は#60以下の傷を検査する。
実施例1、8、9、13、15のWC系超硬合金を材料とした金型を用いて製造した光学ガラス
は、外観が良好で、良品である。
比較例1~4の材料を用いた金型で製造した光学ガラスは、外観は良好ではなく、不良品である。
【0035】
以上、本発明の好ましい実施例を説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。本発明の技術的思想に属する様々な実施形態は本発明の保護範囲に属する。当業者は、本発明の技術的思想から逸脱しない範囲で、以上の実施例に対して行った変更又は修正は、本発明の保護範囲に属する。