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  • 特許-電動ブレーキ装置及び駆動ユニット 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】電動ブレーキ装置及び駆動ユニット
(51)【国際特許分類】
   B60T 13/74 20060101AFI20241108BHJP
   F16D 65/18 20060101ALI20241108BHJP
   F16D 121/24 20120101ALN20241108BHJP
   F16D 125/40 20120101ALN20241108BHJP
   F16D 123/00 20120101ALN20241108BHJP
【FI】
B60T13/74 G
F16D65/18
F16D121:24
F16D125:40
F16D123:00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023556157
(86)(22)【出願日】2022-09-06
(86)【国際出願番号】 JP2022033353
(87)【国際公開番号】W WO2023074127
(87)【国際公開日】2023-05-04
【審査請求日】2023-12-18
(31)【優先権主張番号】P 2021174651
(32)【優先日】2021-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉津 力弥
(72)【発明者】
【氏名】崎元 広一
【審査官】久米 伸一
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-004646(JP,A)
【文献】特開2012-026461(JP,A)
【文献】特開2017-125534(JP,A)
【文献】特開2017-061203(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 13/74
F16D 65/18
F16D 121/24
F16D 125/40
F16D 123/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動ブレーキ装置であって、該電動ブレーキ装置は、
電動モータと、
前記電動モータの駆動により回転する回転部材と、
前記回転部材が回転することでディスクの軸方向に直動し、摩擦パッドを移動させる直動部材と、
該直動部材が前記ディスクに向かって前進し、前記ディスクからの反力によって前記回転部材が前記ディスク側とは反対側に後退したときに、前記回転部材と噛み合う噛合部と、
前記回転部材と前記噛合部とが噛み合った状態で、前記回転部材及び前記噛合部が共に回転することで弾性エネルギーが蓄えられる弾性部材と、を備える、電動ブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動ブレーキ装置であって、
前記弾性部材は、
前記電動モータの正回転によって、前記摩擦パッドを前記ディスクに押圧する方向に移動させる前進移動時に前記弾性エネルギーを蓄え、
前記電動モータの逆回転によって、前記摩擦パッドを前記ディスクから離間する方向に移動させる後退移動時に前記弾性エネルギーを解放することで前記回転部材に逆方向トルクを与える、電動ブレーキ装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電動ブレーキ装置であって、
前記弾性部材はトーションバネである、電動ブレーキ装置。
【請求項4】
請求項1に記載の電動ブレーキ装置であって、
前記弾性部材はセット荷重が付与された状態で設置されている、電動ブレーキ装置。
【請求項5】
請求項1に記載の電動ブレーキ装置であって、
前記回転部材を前記噛合部から離間させる方向に付勢する弾性体が設けられている、電動ブレーキ装置。
【請求項6】
請求項1に記載の電動ブレーキ装置であって、
前記回転部材と前記噛合部とが互いに凹凸係合することで、前記回転部材と前記噛合部とが噛み合う、電動ブレーキ装置。
【請求項7】
請求項6に記載の電動ブレーキ装置であって、
前記回転部材または前記噛合部には、凸部が180°ピッチで2箇所設けられる、電動ブレーキ装置。
【請求項8】
請求項1に記載の電動ブレーキ装置であって、
前記回転部材はスピンドルであり、
前記直動部材は、前記スピンドルと螺合するナット部材である、電動ブレーキ装置。
【請求項9】
請求項1に記載の電動ブレーキ装置であって、
前記回転部材はナット部材であり、
前記直動部材は、前記ナットと螺合するプッシュロッドである、電動ブレーキ装置。
【請求項10】
電動モータと、
前記電動モータと接続された回転部材と、
前記回転部材と螺合した直動部材と、
前記回転部材と所定の隙間をもって対向して配置され、前記直動部材が前進して、制動時の反力によって前記回転部材が後退したときに、前記回転部材と噛み合う噛合部と、
前記噛合部に対して相対回転自在に設けられる固定部と、
一端部が前記噛合部に接続され、他端部が前記固定部に接続されたトーションバネと、を備える、電動ブレーキ装置。
【請求項11】
ディスクブレーキのディスクに摩擦パッドを押圧させるための動力を与える駆動ユニットであって、該駆動ユニットは、
電動モータと、
前記電動モータの駆動により回転する回転部材と、
前記回転部材が回転することで直動する直動部材と、
前記直動部材が前記ディスクに向かって前進し、前記ディスクからの反力によって前記回転部材が前記ディスク側とは反対側に後退したときに、前記回転部材と噛み合う噛合部と、
前記回転部材と前記噛合部が噛み合った状態で、前記回転部材及び前記噛合部が共に回転することで弾性エネルギーが蓄えられる弾性部材と、を備える、駆動ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動ブレーキ装置及び駆動ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ピストンを移動させるための動力を提供する駆動ユニットを含む電動式ブレーキであって、駆動ユニットは、キャリパーハウジングに設置されたピストンに結合されて軸方向に移動することによってピストンが進退移動されるようにするナット部材と、ナット部材に螺合されて回転時にナット部材を軸方向に移動させるスピンドルと、スピンドルを回転させるための動力を提供する電気モータと、キャリパーハウジングに回転可能に設置され、スピンドルが接触して摩擦する時、摩擦力によってスピンドルと共に回転する摩擦部材と、キャリパーハウジング側と摩擦部材との間に設置され、制動中に摩擦部材の回転時に変形されて弾性エネルギーを貯蔵し、制動の解除時に弾性復原力を、摩擦部材を用いてスピンドルに逆方向トルクとして提供する弾性部材と、を含む電動式ブレーキが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6746469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されたものでは、スピンドルと摩擦部材との間に生じる摩擦力によって、弾性部材に弾性エネルギーを貯蔵させるので、伝達トルクを大きくするためには、スピンドルと摩擦部材の接触面積を大きくする必要があり、これにより装置が大型化してしまう虞がある。
【0005】
そこで、本発明の目的の一つは、大型化を抑制することができる電動ブレーキ装置及び駆動ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段として、本発明に係る電動ブレーキ装置は、電動モータと、前記電動モータの駆動により回転する回転部材と、前記回転部材が回転することでディスクの軸方向に直動し、摩擦パッドを移動させる直動部材と、該直動部材が前記ディスクに向かって前進し、前記ディスクからの反力によって前記回転部材が前記ディスク側とは反対側に後退したときに、前記回転部材と噛み合う噛合部と、前記回転部材と前記噛合部とが噛み合った状態で、前記回転部材及び前記噛合部が共に回転することで弾性エネルギーが蓄えられる弾性部材と、を備えることを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係る電動ブレーキ装置は、電動モータと、前記電動モータと接続された回転部材と、前記回転部材と螺合した直動部材と、前記回転部材と所定の隙間をもって対向して配置され、前記直動部材が前進して、制動時の反力によって前記回転部材が後退したときに、前記回転部材と噛み合う噛合部と、前記噛合部に対して相対回転自在に設けられる固定部と、一端部が前記噛合部に接続され、他端部が前記固定部に接続されたトーションバネと、を備えることを特徴とする。
【0008】
さらに、本発明に係る駆動ユニットは、ディスクブレーキのディスクに摩擦パッドを押圧させるための動力を与える駆動ユニットであって、電動モータと、前記電動モータの駆動により回転する回転部材と、前記回転部材が回転することで直動する直動部材と、前記直動部材が前記ディスクに向かって前進し、前記ディスクからの反力によって前記回転部材が前記ディスク側とは反対側に後退したときに、前記回転部材と噛み合う噛合部と、前記回転部材と前記噛合部が噛み合った状態で、前記回転部材及び前記噛合部が共に回転することで弾性エネルギーが蓄えられる弾性部材と、を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明の一実施形態によれば、大型化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態に係るディスクブレーキの要部断面図。
図2】本実施形態に係るディスクブレーキに採用されたフェールオープン機構の分解斜視図。
図3】本実施形態に係るディスクブレーキに採用されたフェールオープン機構の分解斜視図。
図4】本実施形態に係るディスクブレーキの作用を段階的に示した模式図。
図5】他の実施形態に係るディスクブレーキの模式図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本実施形態を図1図5に基づいて詳細に説明する。
本実施形態に係るディスクブレーキ1Aは、通常走行時、電動モータ32の駆動によって制動力を発生させる電動ブレーキ装置である。なお、以下の説明において、車両内側(インナ側)を一端側(カバー部材30側)と称し、車両外側(アウタ側)を他端側(ディスクロータD側)と称して、適宜説明する。つまり、図1において、右側を一端側と称し、左側を他端側として称して、適宜説明する。
【0012】
本実施形態に係るディスクブレーキ1Aは、図1に示すように、車両の回転部に取り付けられたディスクロータDを挟んで軸方向両側に配置された一対のインナブレーキパッド2及びアウタブレーキパッド3と、キャリパ4と、を備えている。本ディスクブレーキ1Aは、キャリパ浮動型として構成されている。なお、一対のインナブレーキパッド2及びアウタブレーキパッド3と、キャリパ4とは、車両のナックル等の非回転部に固定されたキャリア5にディスクロータDの軸方向へ移動可能に支持されている。なお、インナブレーキパッド2及びアウタブレーキパッド3が摩擦パッドに相当する。また、ディスクロータDがディスクに相当する。
【0013】
図1に示すように、キャリパ4は、キャリパ4の主体であるキャリパ本体8と、ディスクロータDにインナブレーキパッド2及びアウタブレーキパッド3を押圧させるための動力を与える駆動ユニット9と、を備えている。キャリパ本体8は、インナブレーキパッド2に対向する基端側に配置され、該インナブレーキパッド2に対向して開口する円筒状のシリンダ部13と、シリンダ部13からディスクロータDを跨いでアウタ側へ延び、アウタブレーキパッド3に対向する、先端側(他端側)に配置される一対の爪部14、14(一方は、図示省略)と、を備えている。
【0014】
キャリパ本体8のシリンダ部13内、すなわちシリンダ部13のシリンダボア16内に、ピストン18がシリンダ部13に対して相対回転不能に、且つ軸方向に移動可能に収容されている。ピストン18は、インナブレーキパッド2を押圧するものであって、有底のカップ状に形成される。該ピストン18は、その底部がインナブレーキパッド2に対向するように、シリンダボア16内に収容される。ピストン18は、その底部とインナブレーキパッド2との間の回り止め係合によって、シリンダボア16、ひいてはキャリパ本体8に対して相対回転不能に支持される。
【0015】
シリンダ部13のシリンダボア16には、その他端側の内周面にシール部材20が配置されている。そして、ピストン18は、このシール部材20に接触した状態で軸方向に移動可能にシリンダボア16に収容される。ピストン18の底部側の外壁部と、シリンダボア16の他端側の内周面との間にはダストブーツ21が介装されている。これらシール部材20及びダストブーツ21により、シリンダ部13のシリンダボア16内への異物の侵入を防ぐようにしている。
【0016】
シリンダ部13の底壁23側(一端側)に、ギヤハウジング28が一体的に連結される。シリンダ部13の底壁23には挿通孔25が設けられ、後述するスピンドル40が当該挿通孔25を介してギヤハウジング28内に延びる。ギヤハウジング28の一端側開口は、カバー部材30により気密的に閉塞される。ギヤハウジング28内、及びシリンダ部13のシリンダボア16内に駆動ユニット9が配置される。駆動ユニット9は、電動モータ32からの回転をシリンダ部13のシリンダボア16内のピストン18に伝達して、該ピストン18の推力により、インナブレーキパッド2及びアウタブレーキパッド3をディスクロータDに押圧させるためのものである。
【0017】
駆動ユニット9は、電動モータ32と、電動モータ32からの回転が伝達され、該電動モータ32からの回転トルクを増力する歯車減速機構33と、該歯車減速機構33からの回転を直線運動に変換して、ピストン18に推力を付与する回転直動変換機構34と、制動中、電源等の失陥により電動モータ32が正常に駆動できないときに、その制動力を解除するフェールオープン機構35と、を備えている。電動モータ32及び歯車減速機構33は、ギヤハウジング28内に収容される。歯車減速機構33は、電動モータ32からの回転トルクを増力して、回転直動変換機構34に伝達するものである。歯車減速機構33には、遊星歯車減速機構などが採用される。回転直動変換機構34及びフェールオープン機構35は、シリンダ部13のシリンダボア16内に収容される。
【0018】
回転直動変換機構34は、歯車減速機構33からの回転が伝達されるスピンドル40と、該スピンドル40と螺合されるナット部材41と、を備えている。なお、本実施形態では、スピンドル40が回転部材に相当して、ナット部材41が直動部材に相当する。図1図3に示すように、スピンドル40は、その一端側に設けられるスプライン軸部43と、その他端側に設けられる雄ねじ部44と、該雄ねじ部44より一端側の位置から径方向に向かって突設される環状支持部45と、が備えられる。スピンドル40のスプライン軸部43が、ギヤハウジング28内の歯車減速機構33の出力部材(図示略)と相対回転不能に接続されている。この結果、歯車減速機構33の出力部材とスピンドル40との間で互いに回転トルクを伝達することができる。なお、スピンドル40は、一対のインナ及びアウタブレーキパッド2、3の挟み付けによるディスクロータDからの反力により、軸方向に沿って移動可能である。
【0019】
図1を参照して、環状支持部45の一端面は、一端側に向かってその外径が階段状に徐々に小径に形成されて構成される。要するに、図2も参照して、環状支持部45の一端面は、他端側で最も外周に位置する大径一端面46Aと、大径一端面46Aよりも一端側に位置する中間径一端面46Bと、中間径一端面46Bよりも一端側に位置する小径一端面46Cと、を備えている。環状支持部45の大径一端面46Aの全域に、周方向に沿って係合凹凸部48が連続して形成される。当該係合凹凸部48は、後述するフェールオープン機構35の一構成である。
【0020】
図1に示すように、スピンドル40の環状支持部45と、シリンダ部13の底壁23との間には、スラストベアリング50が配置される。このスラストベアリング50により、スピンドル40がシリンダ部13の底壁23に回転自在に支持される。スラストベアリング50は、シリンダ部13の底壁23側に配置される環状の第1スラストプレート51と、スピンドル40の環状支持部45側に配置される環状の第2スラストプレート52と、第1スラストプレート51と第2スラストプレート52との間に転動自在に配置される複数のスラストボール53と、から構成される。
【0021】
第1スラストプレート51の他端面には、各スラストボール53が転動する転動溝51Aが形成される。第2スラストプレート52の一端面には、各スラストボール53が転動する転動溝52Aが形成される。そして、第1スラストプレート51の転動溝51Aと、第2スラストプレート52の転動溝52Aとの間に、複数のスラストボール53が転動自在に配置される。これら複数のスラストボール53は、リテーナ55によって周方向へ一定の間隔をあけて保持される。なお、スラストベアリング50の第1及び第2スラストプレート51、52内にスピンドル40が挿通される。
【0022】
図1図3に示すように、スピンドル40の雄ねじ部44の径方向外側にナット部材41が配置される。ナット部材41は円筒状に形成される。ナット部材41の一端側の内周面には、雌ねじ部57が形成される。そして、スピンドル40の雄ねじ部44とナット部材41の雌ねじ部57とが螺合される。ナット部材41は、ピストン18に対して相対回転不能に支持されている。これにより、スピンドル40の回転に伴ってナット部材41が軸方向に沿って移動自在になる。図1及び図2から解るように、ナット部材41の外周面には、軸方向に延びる縦係合溝部59が周方向に沿って複数形成される。本実施形態では、縦係合溝部59は180°ピッチで2箇所形成される。
【0023】
図1に示すように、ナット部材41の径方向外側に、電源等の失陥時等に迅速に制動力を解除できるフェールオープン機構35が備えられている。図2及び図3も参照して、フェールオープン機構35は、固定部材64と、トーションバネ65と、噛合回転部材66と、ウェーブワッシャ67と、を備えている。図1図3に示すように、固定部材64は、全体として円筒状に形成される。固定部材64は、ナット部材41の外周面から径方向外方に環状隙間77を介して配置される。固定部材64は、一端側に配置される大径固定部69と、大径固定部69から他端側に連続して設けられる小径固定部70と、から構成される。
【0024】
大径固定部69の一端側の外周面には、周方向に沿う所定範囲に規制溝部72が周方向に沿って間隔を置いて複数形成される。本実施形態では、規制溝部72は、180ピッチで2箇所形成される。各規制溝部72に、後述する、噛合回転部材66に設けた各突起片80がそれぞれ係合される。なお、各規制溝部72は、その周方向端部から大径固定部69の一端面に向けて規制溝部72の底面と一致するように凹設されている。図3を参照して、小径固定部70には、その周壁部の周方向に沿う一部が径方向外方に向かって膨出する膨出部73が設けられる。該膨出部73は軸方向に延び、その内部に軸方向に延びる収容溝74が形成される。
【0025】
図1図3に示すように、固定部材64の小径固定部70の内周面には、内方に向かって突出される係合突起部76が周方向に間隔を置いて複数設けられる。係合突起部76は軸方向に延びる。本実施形態では、係合突起部76は、180°ピッチで2箇所形成される。そして、図1を参照して、固定部材64の小径固定部70に設けた各係合突起部76が、ナット部材41の外周面に設けた各係合縦溝部59に係合される。その結果、固定部材64は、ナット部材41に対して相対回転不能に、且つ軸方向に沿って相対移動可能に接続される。なお、本実施形態では、固定部材64が固定部に相当する。図1に示すように、固定部材64の一端側の径方向外方から一端側に向かって噛合回転部材66が配置されている。
【0026】
図1図3に示すように、噛合回転部材66は、全体として円筒状に形成されており、円筒状部78と、円筒状部78の一端から径方向内方に延びる環状フランジ部79と、を備えている。円筒状部78の他端側の周壁部には、内方に向かって突出する突起片80が周方向に間隔を置いて複数形成される。本実施形態では、突起片80は、180°ピッチで2箇所形成される。各突起片80は、円筒状部78の周壁部全体を内側に折り曲げて形成される。そして、図1を参照して、噛合回転部材66の円筒状部78の各突起片80が、固定部材64の大径固定部69の外周面に設けた各規制溝部72に係合される。これにより、噛合回転部材66は、固定部材64に対して、各規制溝部72の範囲内で相対回転自在に支持される。また、固定部材64は、噛合回転部材66に対して、固定部材64の規制溝部72の幅長(軸方向の長さ)と、突起片80の厚みとの差分だけ、軸方向に沿って相対移動可能となる。
【0027】
言い換えれば、噛合回転部材66と固定部材64との間には、互いの相対回転角度を規制する角度規制手段82が設けられる。本実施形態では、当該角度規制手段82は、固定部材64の大径固定部69に設けた各規制溝部72と、該各規制溝部72にそれぞれ係合される、噛合回転部材66の円筒状部78に設けた各突起片80と、を備えて構成される。図2及び図3に示すように、噛合回転部材66の円筒状部78の周壁部には、その他端から軸方向に延びるスリット83が形成される。環状フランジ部79の他端面には、係合凸部84、84が放射状に複数形成される。本実施形態では、係合凸部84、84は180°ピッチで2箇所形成される。係合凸部84、84を周方向に等間隔で3箇所以上備えてもよい。なお、本実施形態では、噛合回転部材66が噛合部に相当する。
【0028】
図1に示すように、トーションバネ65は、固定部材64の大径固定部69の内周面と、ナット部材41の外周面との間に設けられた環状隙間77に配置される。トーションバネ65が弾性部材に相当する。図2に示すように、トーションバネ65の一端は径方向外方に向かって突出しており、該一端が、噛合回転部材66に設けたスリット83に挿通される。一方、図3に示すように、トーションバネ65の他端は軸方向に延び、その他端が、固定部材64の小径固定部70に設けた収容溝74に挿通される。なお、電動モータ32が制動方向に回転する前の初期状態では、噛合回転部材66の各突起片80が、固定部材64(大径固定部69)の各規制溝部72の両端部のいずれか一方に位置した状態で、トーションバネ65の両端が、噛合回転部材66のスリット83及び固定部材64の収容溝74にそれぞれ挿通されて、当該トーションバネ65に所定のセット荷重が付与された状態となる。
【0029】
図1に示すように、スラストベアリング50の第2スラストプレート52と、スピンドル40の環状支持部45の大径一端面46Aとの間に、噛合回転部材66の環状フランジ部79が配置される。すなわち、図2及び図3も参照して、スピンドル40の環状支持部45の大径一端面46Aに設けた係合凹凸部48と、噛合回転部材66の環状フランジ部79に設けた各係合凸部84、84とが対向するように配置される。図1及び図2に示すように、噛合回転部材66の環状フランジ部79から径方向内側であって、スラストベアリング50の第2スラストプレート52と、スピンドル40の環状支持部45の中間径一端面46B及び小径一端面46Cとの間にウェーブワッシャ67が配置される。
【0030】
このウェーブワッシャ67により、スピンドル40はスラストベアリング50から軸方向に沿って離れる方向に(他端側に向かって)付勢される。なお、ウェーブワッシャ67が弾性体に相当する。すなわち、電動モータ32による制動方向への回転が付与されていない状態、詳しくは一対のインナ及びアウタブレーキパッド2、3の挟み付けによるディスクロータDからの反力が付与されていない状態では、ウェーブワッシャ67により、スピンドル40はスラストベアリング50から軸方向に沿って離れる方向に付勢されるために、スピンドル40の環状支持部45の大径一端面46Aに設けた係合凹凸部48と、噛合回転部材66の環状フランジ部79に設けた各係合凸部84、84との間に軸方向に沿う隙間が生じることになる(図4(a)、(b)及び(d)参照)。
【0031】
図1に示す電動モータ32は、その駆動が制御装置(図示略)からの指令により制御される。制御基板は、通常走行における制動時において、例えば、運転者の要求に対応した検出センサ(図示略)や、ブレーキが必要な様々な状況を検出する検出センサ(図示略)からの検出信号、車輪速を検出する車輪速検出センサ(図示略)からの検出信号、電動モータ32の回転角度を検出する回転角検出手段(図示略)からの検出信号、及びインナ及びアウタブレーキパッド2、3からディスクロータDへの推力(押圧力)を検出する推力センサ(図示略)等からの検出信号など、様々な検出信号に基づいて、電動モータ32の回転(回転方向や回転速度等)を制御するものである。
【0032】
次に、本実施形態に係るディスクブレーキ1Aにおいて、通常走行における制動及び制動解除の作用を図4に基づいて、図1図3も参照しながら説明する。
通常走行における制動時には、図4(a)の状態から制御装置からの指令により、電動モータ32(図1参照)が駆動されて、その正方向、すなわち制動方向の回転が、歯車減速機構33を介してスピンドル40に伝達される。続いて、歯車減速機構33の回転に伴ってスピンドル40が回転すると、図4(b)に示すように、スピンドル40と螺合しているナット部材41が前進してピストン18が前進される。このピストン18が前進することで、インナブレーキパッド2をディスクロータDに押し付ける。そして、ピストン18によるインナブレーキパッド2への押圧力に対する反力により、キャリパ本体8がキャリア5に対してインナ側に移動して、各爪部14、14(一方は、図示省略)によってアウタブレーキパッド3をディスクロータDに押し付ける。なお、前述では爪部14、14を2つとして説明しているが、キャリパ本体8に備える爪部14は1つであってもよい。この結果、図4(c)に示すように、ディスクロータDが一対のインナ及びアウタブレーキパッド2、3により挟みつけられて摩擦力が発生し、ひいては、車両の制動力が発生することになる。
【0033】
この制動時、ディスクロータDが一対のインナ及びアウタブレーキパッド2、3に挟み付けられ、ディスクロータDが押圧され始めると、その反力がピストン18、ナット部材41及びスピンドル40に伝達されることで、図4(c)に示すように、スピンドル40がウェーブワッシャ67の付勢力に抗して後退する。すると、スピンドル40の環状支持部45に設けた係合凹凸部48と、噛合回転部材66の環状フランジ部79に設けた各係合凸部84、84とが噛み合う。この噛み合った時点から、スピンドル40の制動方向への回転と共に噛合回転部材66が同方向に回転する。そして、噛合回転部材66が、固定部材64に対して制動方向に相対回転することによって、噛合回転部材66と固定部材64との間に配置されたトーションバネ65がねじり方向に弾性変形されて、弾性エネルギーが蓄えられる。なお、本実施形態に係るディスクブレーキ1Aでは、制動力は、ウェーブワッシャ67及びキャリパ本体8のばね定数によって決定される。
【0034】
一方、制動解除時には、制御装置からの指令により、電動モータ32が逆方向、すなわち制動解除方向に回転すると共に、その逆方向の回転が歯車減速機構33を介してスピンドル40に伝達される。その結果、スピンドル40の逆方向への回転に伴って、スピンドル40と螺合しているナット部材41が後退して初期状態に戻り、ディスクロータDへの一対のインナ及びアウタブレーキパッド2、3による制動力が解除される。
【0035】
すなわち、この制動解除時、スピンドル40が制動解除方向に回転する初期段階では、図4(c)に示すように、スピンドル40の環状支持部45に設けた係合凹凸部48と、噛合回転部材66の環状フランジ部79に設けた各係合凸部84、84とが噛み合った状態であり、スピンドル40の制動解除方向への回転により、噛合回転部材66も同方向に回転すると共に、制動時に弾性変形されたトーションバネ65も復元する。このトーションバネ65の復元力が制動解除方向の回転トルクとして、制動解除方向に回転するスピンドル40に助勢されて、その制動力が速やかに減少される。続いて、図4(d)に示すように、一対のインナ及びアウタブレーキパッド2、3の挟み付けによるディスクロータDからスピンドル40への反力が減少されることで、ウェーブワッシャ67の付勢力により、スピンドル40は他端側に移動し、スピンドル40の環状支持部45に設けた係合凹凸部48と、噛合回転部材66の環状フランジ部79に設けた各係合凸部84、84とが軸方向に沿って離間して、その噛合状態が解除される。
【0036】
その後、引き続き、電動モータ32の制動解除方向への回転を継続することで、ナット部材41及ピストン18が初期位置まで後退して、インナブレーキパッド2及びアウタブレーキパッド3と、ディスクロータDとの間に所定のクリアランスが設けられ、完全に制動力が解除される。このとき、スピンドル40(環状支持部45)の係合凹凸部48と、噛合回転部材66(環状フランジ部79)の各係合凸部84、84とは軸方向に沿って離間した状態であるので、スピンドル40の制動解除方向への回転に伴って噛合回転部材66が回転することはない。
【0037】
また、制動中に電源等が失陥して、電動モータ32からの回転トルクが発生しない場合には、フェールオープン機構35が作動する。すなわち、制動中に電動モータ32が正常に駆動しない場合には、制動時に弾性変形されたトーションバネ65が復元する、すなわち、制動時に蓄えられた弾性エネルギーが解放される。すると、図4(c)に示すように、制動中は、スピンドル40の環状支持部45に設けた係合凹凸部48と、噛合回転部材66の環状フランジ部79に設けた各係合凸部84、84とが噛合状態であり、トーションバネ65の復元力により、噛合回転部材66と共にスピンドル40が固定部材64に対して制動解除方向に相対回転する。その結果、ナット部材41及びピストン18が後退して、ディスクロータDへの一対のインナ及びアウタブレーキパッド2、3による制動力が減少される。要するに、電動モータ32が正常に駆動できない場合には、フェールオープン機構35の作動により、制動時に弾性変形されたトーションバネ65の復元力によって、噛合回転部材66を回転させると共にスピンドル40を制動解除方向へ回転させて、制動力を減少させる。
【0038】
さらに、トーションバネ65の復元力により、スピンドル40の制動解除方向への回転が進み、制動力の減少が進むと、一対のインナ及びアウタブレーキパッド2、3の挟み付けによるディスクロータDからスピンドル40への反力が減少されることで、図4(d)に示すように、ウェーブワッシャ67の付勢力により、スピンドル40(環状支持部45)の係合凹凸部48と、噛合回転部材66(環状フランジ部79)の各係合凸部84、84との噛合状態が解除される。その結果、トーションバネ65の復元力がスピンドル40に伝達されなくなるため、ディスクロータDへの一対のインナ及びアウタブレーキパッド2、3による制動力が、ある程度付与された状態で維持され、車両を安全な場所に移動させて停車させることができる。
【0039】
以上説明したように、本実施形態に係るディスクブレーキ1Aは、特に、電動モータ32の駆動により回転するスピンドル40と、該スピンドル40が回転することでディスクロータDの軸方向に沿って移動し、インナ及びアウタブレーキパッド2、3を移動させるナット部材41と、ナット部材41が軸方向に前進して、インナ及びアウタブレーキパッド2、3のディスクロータDからの反力により後退したスピンドル40と噛み合う噛合回転部材66と、スピンドル40と噛合回転部材66とが噛み合った状態で、スピンドル40及び噛合回転部材66が共に回転することで弾性エネルギーが蓄えられるトーションバネ65と、を備えている。
【0040】
これにより、従来技術(特許文献1に記載の電動式ブレーキ)のように、スピンドルが接触してその摩擦力により、スピンドルと共に回転する摩擦部材を設けた形態と比較して、噛合回転部材66とスピンドル40との接触面積を小さくすることができ、シリンダ部13(シリンダボア16)の径方向に沿う大型化を抑制することができる。
【0041】
また、本実施形態に係るディスクブレーキ1Aでは、スピンドル40と噛合回転部材66との噛み合いにより、スピンドル40の回転に伴って噛合回転部材66を固定部材64に対して相対回転させて、トーションバネ65に弾性エネルギーを蓄積しているので、温度やコンタミ等による周囲環境の変動や、スピンドルと摩擦部材との間の摩擦部の経時変化などの影響を受けにくいため、噛合回転部材66の作動タイミングのばらつきを低減することができる。
【0042】
さらに、本実施形態に係るディスクブレーキ1Aでは、スピンドル40の環状支持部45に設けた係合凹凸部48と、噛合回転部材66の環状フランジ部79に設けた各係合凸部84、84とが噛み合った状態で、スピンドル40と噛合回転部材66との間でその回転を互いに伝達している。これにより、スピンドル40の係合凹凸部48及び噛合回転部材66の各係合凸部84、84には、軸方向に沿う推力が付与されず入力トルクが小さいので、スピンドル40の係合凹凸部48及び噛合回転部材66の各係合凸部84、84の小型化及び樹脂化(コスト低減)等が可能となる。すなわち、フェールオープン機構35のうち、固定部材64及び噛合回転部材66は合成樹脂等にて構成することができる。
【0043】
さらにまた、本実施形態に係るディスクブレーキ1Aでは、固定部材64と噛合回転部材66との間に角度規制手段82を設けることで、電動モータ32が制動方向に回転する前の初期状態において、トーションバネ65に所定のセット荷重が付与された状態で設置することができる。これにより、制動時、噛合回転部材66の回転に対するトーションバネ65の応答性(速やかな弾性変形)を向上させることができる。要するに、噛合回転部材66の僅かな回転においてもトーションバネ65が弾性変形して弾性エネルギーを蓄えることができ、トーションバネ65に対する応答性を向上させることができる。
【0044】
さらにまた、本実施形態に係るディスクブレーキ1Aでは、スピンドル40の係合凹凸部48を、噛合回転部材66の各係合凸部84、84から軸方向に沿って離間させる方向に付勢するウェーブワッシャ67が設けられている。これにより、例えば、スピンドル40と噛合回転部材66とを共に回転させる必要が無くなったときなど、ウェーブワッシャ67により、スピンドル40の係合凹凸部48と噛合回転部材66の各係合凸部84、84との噛合状態を速やかに解除することができ、スピンドル40を噛合回転部材66に対して相対回転させることができる。
【0045】
その結果、電源等が失陥して電動モータ32が正常に駆動できないとき、ディスクロータDへの一対のインナ及びアウタブレーキパッド2、3による制動力を、ある程度付与された状態で維持することができるなど、意図した作用を奏することができる。要するに、ディスクロータDへの一対のインナ及びアウタブレーキパッド2、3による反力(押圧力)に対するウェーブワッシャ67の弾性力(付勢力)を適宜設定、すなわち、ディスクロータDへの一対のインナ及びアウタブレーキパッド2、3による押圧力(反力)に対して、スピンドル40の係合凹凸部48と噛合回転部材66の各係合凸部84、84とを噛合状態とするタイミング、またはその噛合状態を解除するタイミングを適宜設定することで、その他様々な意図した作用を奏することができる。
【0046】
さらにまた、本実施形態に係るディスクブレーキ1Aでは、スピンドル40の係合凹凸部48と、噛合回転部材66の各係合凸部84、84とが係合することで、スピンドル40と噛合回転部材66とが噛み合う構成であるので、従来技術(特許文献1に記載の電動式ブレーキ)のように、伝達トルクを増加させるべく、スピンドルと摩擦部材との間の接触面積を増加させる必要がないので、シリンダ部13(シリンダボア15)の径方向に沿って小型化することができる。
【0047】
なお、本実施形態では、スピンドル40の環状支持部45の大径一端面46A全域にその周方向に沿って係合凹凸部48を連続して設け、噛合回転部材66の環状フランジ部79の他端面に放射状に複数の係合凸部84、84(本実施形態では2箇所の係合凸部)を設けているが、スピンドル40の環状支持部45の大径一端面46Aに放射状に複数の係合凸部84、84を設け、噛合回転部材66の環状フランジ部79の他端面全域に、その周方向に沿って係合凹凸部48を連続して設けてもよい。
【0048】
要するに、スピンドル40の環状支持部45の大径一端面46Aと、噛合回転部材66の環状フランジ部79の他端面との間に、両者が接触すると、スピンドル40と噛合回転部材66とが共に回転するための、凹凸係合等の相対回転不能係合手段を設ければよい。当該相対回転不能係合手段は、スピンドル40の環状支持部45の大径一端面46Aと、噛合回転部材66の環状フランジ部79の他端面とを、互いに接触した際に相対回転不能に、係合、噛合、嵌合または引っ掛かるように構成すればよい。
【0049】
さらにまた、本実施形態に係るディスクブレーキ1Aでは、噛合回転部材66の環状フランジ部79の他端面に係合凸部84、84が180°ピッチで2箇所設けられている。このように、凸部84、84を径方向で対向するように最低2箇所配置することで、スピンドル40と噛合回転部材66とが共に回転する際、両者がその回転方向でバランス良く回転トルクを伝達することができる。言い換えれば、スピンドル40(噛合回転部材66)が回転する際、スピンドル40(噛合回転部材66)からの回転をバランス良くスムーズに噛合回転部材66(スピンドル40)に伝達することができる。
【0050】
次に、他の実施形態に係るディスクブレーキ1Bを図5に基づいて説明する。当該他の実施形態に係るディスクブレーキ1Bを説明する際には、図1図4に示す本実施形態に係るディスクブレーキ1Aとの相違点のみを説明する。
他の実施形態に係るディスクブレーキ1Bでは、回転直動変換機構34としてのナット部材100が歯車減速機構33の出力部材と相対回転不能に接続される。その結果、歯車減速機構33の出力部材とナット部材100との間で互いに回転トルクを伝達する。ナット部材100にはプッシュロッド101が螺合される。プッシュロッド101は、シリンダ部13内に相対回転不能で、且つ軸方向に沿って移動自在に支持される。そして、ナット部材100の回転に伴って、プッシュロッド101が軸方向に沿って移動する。なお、他の実施形態では、ナット部材100が回転部材に相当して、プッシュロッド101が直動部材に相当する。
【0051】
ナット部材100の他端には、径方向外方に向かって環状フランジ部105が突設される。環状フランジ部105の一端面でその外周には、その周方向全域に係合凹凸部48が連続して設けられる。環状フランジ部105における係合凹凸部48よりも内側の部位と、スラストベアリング50との間にウェーブワッシャ67が配置される。当該ウェーブワッシャ67により、ナット部材100はスラストベアリング50から軸方向に沿って離れる方向に(他端側に向かって)付勢される。ナット部材100の環状フランジ部105の一端側に、噛合回転部材66が配置される。噛合回転部材66は、全体として円筒状に形成される。噛合回転部材66は、円筒状部107と、円筒状部107の他端から径方向内方に延びる環状フランジ部108と、を備えている。円筒状部107の周壁部には、その一端面から軸方向に延びるスリット(図示略)が形成される。環状フランジ部108の他端面に、係合凸部84、84が放射状に複数形成される。係合凸部84、84は180°ピッチで2箇所形成される。
【0052】
電動モータ32による制動方向への回転が付与されていない状態では、ウェーブワッシャ67により、ナット部材100はスラストベアリング50から軸方向に沿って離れる方向に(他端側に向かって)付勢されるために、ナット部材100の環状フランジ部105に設けた係合凹凸部48と、噛合回転部材66の環状フランジ部108に設けた各係合凸部84、84との間に軸方向に沿う隙間が生じる。
【0053】
噛合回転部材66の一端側に固定部材64が配置される。噛合回転部材66と固定部材64との間には互いの相対回転角度を規制する角度規制手段(図示略)が設けられる。固定部材64は、全体として円筒状に形成される。固定部材64には、その一端から内方に向かって延びる環状固定部110が形成される。該環状固定部110には、その内壁面から径方向に沿って延びるスリット(図示略)が形成される。固定部材64はシリンダ部13に対して、相対回転不能に支持される。なお、他の実施形態では、固定部材64が固定部に相当する。
【0054】
トーションバネ65の他端は径方向外方に向かって突出しており、該他端が、噛合回転部材66に設けたスリットに挿通される。一方、トーションバネ65の一端は軸方向に延び、その一端が、固定部材64の環状固定部110に設けたスリットに挿通される。
【0055】
そして、他の実施形態に係るディスクブレーキ1Bでは、通常走行における制動時には、制御装置からの指令により、電動モータ32が駆動されて、制動方向の回転が、歯車減速機構33を介してナット部材100に伝達される。続いて、歯車減速機構33の回転に伴ってナット部材100が回転すると、該ナット部材100と螺合しているプッシュロッド101が前進してピストン18を前進させる。このピストン18が前進することで、インナブレーキパッド2及びアウタブレーキパッドによりディスクロータDに挟み付けて制動力が発生する。
【0056】
この制動時、ディスクロータDが一対のインナ及びアウタブレーキパッド2、3に挟み付けられ、ディスクロータDが押圧され始めると、その反力がピストン18、プッシュロッド101及びナット部材100に伝達されることで、ナット部材100がウェーブワッシャ67の付勢力に抗して後退する。すると、ナット部材100の環状フランジ部105に設けた係合凹凸部48と、噛合回転部材66の環状フランジ部108に設けた各係合凸部84、84とが噛み合う。この噛み合った時点から、ナット部材100の制動方向への回転と共に噛合回転部材66が同方向に回転する。そして、噛合回転部材66が、固定部材64に対して制動方向に相対回転することによって、噛合回転部材66と固定部材64との間に配置されたトーションバネ65がねじり方向に弾性変形されて、弾性エネルギーが蓄えられる。
【0057】
一方、制動中に電源等が失陥して、電動モータ32からの回転トルクが発生しない場合は、フェールオープン機構35が作動する。すなわち、制動中に電動モータ32が正常に駆動しない場合には、制動時に弾性変形されたトーションバネ65が復元して、制動時に蓄えられた弾性エネルギーが解放される。すると、制動中は、ナット部材100の環状フランジ部105に設けた係合凹凸部48と、噛合回転部材66の環状フランジ部110に設けた各係合凸部84、84とが噛合状態であり、トーションバネ65の復元力により、噛合回転部材66と共にナット部材100が、固定部材64に対して制動解除方向に相対回転する。その結果、プッシュロッド101及びピストン18が後退して、ディスクロータDへの一対のインナ及びアウタブレーキパッド2、3による制動力が減少される。すなわち、電動モータ32が正常に駆動できない場合には、トーションバネ65の復元力によって、噛合回転部材66を固定部材64に対して相対回転させると共にナット部材100を制動解除方向へ回転させて、制動力を減少させる。
【0058】
そして、一対のインナ及びアウタブレーキパッド2、3の挟み付けによるディスクロータDからナット部材100への反力が減少されることで、ウェーブワッシャ67の付勢力により、ナット部材100(環状フランジ部105)の係合凹凸部48と、噛合回転部材66(環状フランジ部110)の各係合凸部84、84との噛合状態が解除される。その結果、トーションバネ65の復元力がナット部材100に伝達されなくなるため、ディスクロータDへの一対のインナ及びアウタブレーキパッド2、3による制動力が、ある程度付与された状態で維持され、車両を安全な場所に移動させて停車させることができる。
【0059】
以上説明した、他の実施形態に係るディスクブレーキ1Bでは、図1図4に示す実施形態に係るディスクブレーキ1Aと同様の作用効果を奏することができる。また、他の実施形態に係るディスクブレーキ1Bでは、図1図4に示す実施形態に係るディスクブレーキ1Aよりも軸方向において小型化することができる。
【0060】
尚、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0061】
本願は、2021年10月26日付出願の日本国特許出願第2021-174651号に基づく優先権を主張する。2021年10月26日付出願の日本国特許出願第2021-174651号の明細書、特許請求の範囲、図面、及び要約書を含む全開示内容は、参照により本願に全体として組み込まれる。
【符号の説明】
【0062】
1A、1B ディスクブレーキ(電動ブレーキ装置),インナブレーキパッド(摩擦パッド),3 アウタブレーキパッド(摩擦パッド),9 駆動ユニット,32 電動モータ,34 回転直動変換機構,35 フェールオープン機構,40 スピンドル(回転部材),41 ナット部材(直動部材),48 係合凹凸部,62 フェールオープン機構,64 固定部材(固定部),65 トーションバネ(弾性部材),66 噛合回転部材(噛合部),67 ウェーブワッシャ(弾性体),84 係合凸部(凸部),100 ナット部材(回転部材),101 プッシュロッド(直動部材),D ディスクロータ(ディスク)
図1
図2
図3
図4
図5