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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】ロータリ圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04C 29/00 20060101AFI20241108BHJP
   F04C 18/356 20060101ALI20241108BHJP
   H02K 21/16 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
F04C29/00 T
F04C18/356 G
H02K21/16 M
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023574897
(86)(22)【出願日】2022-01-18
(86)【国際出願番号】 JP2022001568
(87)【国際公開番号】W WO2023139637
(87)【国際公開日】2023-07-27
【審査請求日】2023-11-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水田 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】枦山 盛幸
【審査官】大瀬 円
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-048912(JP,A)
【文献】特開2015-065758(JP,A)
【文献】特開2020-184836(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 29/00
F04C 18/356
H02K 21/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器と、
前記密閉容器内に設置された回転軸を有する電動機部と、
前記密閉容器内に設置され、前記回転軸の回転に連動して冷媒ガスを吸入および圧縮する圧縮機構部とを備えたロータリ圧縮機であって、
前記電動機部は、円筒状の固定子と、前記固定子の内周側に配置され前記回転軸と共に前記固定子に対して回転可能に支持された円柱状の回転子とを有し、前記回転子には径方向外側に向けて磁束を発生させる磁石と、径方向内側に向けて磁束を発生させる磁石とが周方向に交互に配置されており、
前記圧縮機構部は、円環状のシリンダと、前記回転軸の回転に連動して前記シリンダの内周面に接触しながら偏心回転するピストンと、前記ピストンを前記シリンダの内周面に向かって押さえつけるベーンとを有し、
前記回転軸と直交する方向の断面において、
前記固定子の一方向の形状異方性および前記固定子の一方向の磁気異方性の少なくとも一方に起因する前記固定子と前記回転子との間の周方向のパーミアンス分布に空間2次成分が存在すると共に、複数の前記磁石の配置に起因する前記固定子と前記回転子との間の周方向の起磁力分布に空間1次成分が存在しており、
前記回転軸の中心と前記ベーンの中心とを結ぶ直線と、前記回転軸の中心から前記パーミアンス分布の最も小さい方向に向かう直線とのなす角をαとし、前記回転軸の中心と前記起磁力分布の径方向外側に向かう磁束を発生させる前記磁石の中心とを結ぶ直線と、前記回転軸の中心と前記回転軸の中心から最も遠い前記ピストンの外径部の点とを結ぶ直線とのなす角をβとし、kを自然数としたときに、
135°+k×180°<α+β<205°+k×180°
が成り立つことを特徴とするロータリ圧縮機。
【請求項2】
前記固定子は固定子コアと固定子コイルとを有し、前記固定子コアの内径が楕円形状であることを特徴とする請求項1に記載のロータリ圧縮機。
【請求項3】
前記固定子は固定子コアと固定子コイルとを有し、前記固定子コアは同じ向きに圧延された電磁鋼板が積層されて構成されていることを特徴とする請求項1に記載のロータリ圧縮機。
【請求項4】
前記固定子コアは、円筒状のコアバックとこのコアバックの内周側から径方向内側に突出する複数のティースとを備えており、前記ティースの径方向内側の端部には、周方向に突出した鍔部が設けられていることを特徴とする請求項2または3に記載のロータリ圧縮機。
【請求項5】
前記回転子は、極数が2であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のロータリ圧縮機。
【請求項6】
前記回転子は、極数が6であり、180°対向した位置にある2つの前記磁石の起磁力が同じであり、少なくとも1つの前記磁石の起磁力が他の前記磁石の起磁力と異なることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のロータリ圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、ロータリ圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
ロータリ圧縮機は、回転機構を有する電動機部と、電動機部の回転に同期して冷媒の吸入、圧縮および吐出を行う圧縮機構部とで構成されている。圧縮機構部に必要なトルクは、冷媒の吸入時においては零に近く、冷媒の圧縮から吐出にかけて最大となる。電動機部は、圧縮機構部の負荷トルクの最大値で設計されている。そのため、電動機部が大型になる。
【0003】
電動機部の大型化の問題に対処した従来のロータリ圧縮機として、補助磁気回路を備えたロータリ圧縮機が開示されている。この補助磁気回路は、1回転中の平均トルクが零で圧縮機構部の負荷トルクが最大となるときに正トルクが最大となるように構成されている(例えば、特許文献1参照)。このように構成されたロータリ圧縮機においては、圧縮機構部の負荷トルクと補助磁気回路のトルクとをキャンセルさせることで電動機部に必要な最大トルクを低減させている。また、別のロータリ圧縮機として、圧縮機構部を2シリンダ型としたロータリ圧縮機が開示されている(例えば、特許文献2および3参照)。このロータリ圧縮機においては、2つのシリンダで発生する負荷トルクの脈動を互いにキャンセルさせることで電動機部に必要な最大トルクを低減させている。さらに、別のロータリ圧縮機として、電動機部の回転子の磁石磁力および固定子コイルの巻き数を非対称にすることで意図的にトルク脈動を発生させるロータリ圧縮機が開示されている(例えば、特許文献4参照)。このロータリ圧縮機においては、電動機部で発生させたトルク脈動と圧縮機構部の負荷トルクの脈動とをキャンセルさせることで電動機部に必要な最大トルクを低減させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-215429号公報
【文献】特開2006-299809号公報
【文献】特許4118282号公報
【文献】特開2018-183021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のロータリ圧縮機は、電動機部の大型化を抑制することができる。しかしながら、補助磁気回路を備えたロータリ圧縮機においては、補助磁気回路を追加する必要があるためロータリ圧縮機全体が大型になるという問題がある。また、圧縮機構部を2シリンダ型としたロータリ圧縮機においては、圧縮機構部が大型になるためロータリ圧縮機全体が大型になるという問題がある。さらに、電動機部の回転子の磁石磁力および固定子コイルの巻き数を非対称にしたロータリ圧縮機においては、ロータリ圧縮機全体は大型にはならないが、電動機部の回転子が偏心した回転となるために振動および騒音が大きいという問題がある。
【0006】
本願は、上述のような課題を解決するためになされたもので、振動および騒音の発生を抑制すると共に、電動機部に必要なトルクを低減できる小型なロータリ圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願のロータリ圧縮機は、密閉容器と、密閉容器内に設置された回転軸を有する電動機部と、密閉容器内に設置され、回転軸の回転に連動して冷媒ガスを吸入および圧縮する圧縮機構部とを備えている。そして、電動機部は、円筒状の固定子と、固定子の内周側に配置され回転軸と共に固定子に対して回転可能に支持された円柱状の回転子とを有し、回転子には径方向外側に向けて磁束を発生させる磁石と、径方向内側に向けて磁束を発生させる磁石とが周方向に交互に配置されており、圧縮機構部は、円環状のシリンダと、回転軸の回転に連動してシリンダの内周面に接触しながら偏心回転するピストンと、ピストンをシリンダの内周面に向かって押さえつけるベーンとを有している。そして、回転軸と直交する方向の断面において、固定子の一方向の形状異方性および固定子の一方向の磁気異方性の少なくとも一方に起因する固定子と回転子との間の周方向のパーミアンス分布に空間2次成分が存在すると共に、複数の磁石の配置に起因する固定子と回転子との間の周方向の起磁力分布に空間1次成分が存在しており、回転軸の中心とベーンの中心とを結ぶ直線と、回転軸の中心からパーミアンス分布の最も小さい方向に向かう直線とのなす角をαとし、回転軸の中心と起磁力分布の径方向外側に向かう磁束を発生させる磁石の中心とを結ぶ直線と、回転軸の中心と回転軸の中心から最も遠いピストンの外径部の点とを結ぶ直線とのなす角をβとし、kを自然数としたときに、135°+k×180°<α+β<205°+k×180°が成り立つように構成されている。
【発明の効果】
【0008】
本願のロータリ圧縮機においては、上記の式が成り立つように構成されているので、振動および騒音の発生を抑制すると共に、電動機部に必要なトルクを低減することができる。また、本願のロータリ圧縮機においては、電動機部に必要なトルクを低減するための追加の部品を必要としないので装置が小型になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1に係るロータリ圧縮機の縦断面図である。
図2】実施の形態1に係るロータリ圧縮機の圧縮機構部の横断面図である。
図3】実施の形態1における回転軸の回転角度を定義するための説明図である。
図4】実施の形態1に係るロータリ圧縮機における負荷トルクを示す特性図である。
図5】実施の形態1に係るロータリ圧縮機の電動機部の横断面図である。
図6】実施の形態1に係るロータリ圧縮機における固定子と回転子との間のパーミアンス波形の説明図である。
図7】実施の形態1に係るロータリ圧縮機における電動機部と圧縮機構部とを重ねて示した説明図である。
図8】実施の形態1に係るロータリ圧縮機における電動機部と圧縮機構部とを重ねて示した説明図である。
図9】実施の形態1に係るロータリ圧縮機の定常運転における負荷トルク波形を示す特性図である。
図10】実施の形態1に係るロータリ圧縮機の負荷トルク、コギングトルクおよび負荷トルクからコギングトルクを差し引いたトルクを示す特性図である。
図11】実施の形態1に係る比較例のロータリ圧縮機の電動機部の横断面図である。
図12】実施の形態1に係る比較例のロータリ圧縮機の電動機部の横断面図である。
図13】実施の形態2に係るロータリ圧縮機の電動機部の横断面図である。
図14】実施の形態2に係るロータリ圧縮機における磁石の起磁力を示した特性図である。
図15】実施の形態3に係るロータリ圧縮機の電動機部の横断面図である
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本願を実施するための実施の形態に係るロータリ圧縮機について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一符号は同一もしくは相当部分を示している。
【0011】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係るロータリ圧縮機の縦断面図である。本実施の形態のロータリ圧縮機100は、密閉容器1と、この密閉容器1の内部に配置された電動機部10と、この電動機部10で駆動される圧縮機構部20とを備えている。このロータリ圧縮機100は、運転動作時に密閉容器1の内部空間が圧縮された高圧の冷媒で満たされる、いわゆる高圧シェル型のロータリ圧縮機である。
【0012】
電動機部10は、密閉容器1の内部に固定された円環状の固定子11と、固定子11の内周側に配置された円柱状の回転子12と、回転子12の中心に締結された回転軸13とを有している。回転子12は、固定子11に対して回転自在に配置されている。回転軸13は、電動機部10から圧縮機構部20まで延伸されている。これ以降、回転軸13の長手方向を軸方向、軸方向に直交する方向を径方向、回転軸13の回転する方向を周方向と称する。
【0013】
図2は、本実施の形態に係るロータリ圧縮機の横断面図である。図2は、図1のA-Aにおける圧縮機構部20の断面図である。圧縮機構部20は、密閉容器1の内部に固定された円環状のシリンダ21と、シリンダ21の内周側に配置された偏心軸部22と、偏心軸部22の外周に摺動自在に嵌め合わされた円環状のピストン23と、上軸受24と、下軸受25とを有している。シリンダ21の上面に接触して配置された上軸受24と、シリンダ21の下面に接触して配置された下軸受25とによりシリンダ21の内部に圧縮室26が形成されている。圧縮室26の内部には、偏心軸部22とピストン23とが配置されている。偏心軸部22は回転軸13に締結されており、回転軸13の回転で圧縮室26の内部を回転する。ピストン23は、偏心軸部22と一体で圧縮室26の内部を回転する。ピストン23は、回転軸13の中心から最も遠い位置のピストン23の外周面がシリンダ21の内周面と常に接した状態で回転する。
【0014】
密閉容器1の側面には、冷媒ガスを吸入するための吸入管2の一方の端部が接続されている。吸入管2の他方の端部は、吸入マフラー3に接続されている。冷媒ガスは、吸入マフラー3および吸入管2を経由して圧縮機構部20の圧縮室26に吸入される。密閉容器1の上部には、密閉容器1の内部で圧縮された冷媒ガスを吐出するための吐出管4が接続されている。
【0015】
上軸受24は、図1に示すように、断面が逆T字形状であり圧縮室26の上部開口を閉塞すると共に、回転軸13を回転自在に支持している。この上軸受24には、圧縮された高温高圧の冷媒ガスを圧縮室26から外部に吐出する吐出ポート24aが設けられている。また、上軸受24の上部には吐出ポート24aを覆う吐出マフラー27が取り付けられている。この吐出マフラー27は吐出ポート24aから間欠的に吐出される冷媒ガスの脈動音を低減させるために設けられている。この吐出マフラー27には、吐出マフラー27と上軸受24との間に形成された空間と密閉容器1内とを連通する吐出穴が設けられている。さらに、吐出ポート24aの吐出マフラー27側の出口には、開閉自在に吐出ポート24aを閉塞する吐出弁24bが設けられている。圧縮室26から吐出ポート24aを介して吐出される冷媒ガスは、吐出マフラー27と上軸受24との間に形成された空間に一旦吐出された後に、吐出穴から密閉容器1内へ放出される。下軸受25は、図1に示すように、圧縮室26の下部開口を閉塞すると共に、回転軸13を回転自在に支持している。
【0016】
シリンダ21には、図2に示すように、吸入管2から圧縮室26に冷媒ガスを吸入するための吸入口21aと、密閉容器1内の冷媒が流入する背圧室21bと、背圧室21bと圧縮室26とを連通するベーン溝部21cとが設けられている。ベーン溝部21cにはバネ部材で構成されたベーン28がシリンダ21の径方向に往復自在に挿入されている。ベーン28の圧縮室26側の端部は、バネ部材のピストン23側への押圧力と背圧室21bに流入する高温高圧の冷媒ガスの圧力とによって、ピストン23の外周面に押さえつけられている。このベーン28によって、圧縮室26が低圧側圧縮室26aと高圧側圧縮室26bとに分けられる。
【0017】
このように構成されたロータリ圧縮機の動作について説明する。
電動機部10が駆動され回転軸13が回転する。回転軸13の回転によって偏心軸部22が回転すると、圧縮室26内のピストン23が自転運動する。図2において矢印で示すように、ピストン23の自転運動は反時計回りとする。このピストン23の自転運動に伴って、ベーン28で仕切られた低圧側圧縮室26aの容積と高圧側圧縮室26bの容積とがそれぞれ増加または減少する。初めに低圧側圧縮室26aと吸入口21aとが連通し、低圧の冷媒ガスが低圧側圧縮室26aに吸入される。次に、ピストン23の自転運動により高圧側圧縮室26bの容積が減少し、それに伴い高圧側圧縮室26bの冷媒ガスが圧縮されて冷媒ガスの温度およびガス圧が上昇する。そして、高圧側圧縮室26bの高温高圧の冷媒ガスが所定の圧力に達したときに、上軸受24の吐出弁24bが開く。このとき、高温高圧となった冷媒ガスが吐出ポート24aから吐出マフラー27側に吐出され、吐出マフラー27の吐出穴を介して密閉容器1内に放出される。高圧側圧縮室26bの冷媒ガスが吐出されると、高圧側圧縮室26bと密閉容器1内との圧力差および吐出弁24bの弾性力によって吐出弁24bが閉じられる。密閉容器1内に放出された高温高圧の冷媒ガスは、密閉容器1内を上昇し、密閉容器1の上部に設けられた吐出管4から外部に吐出される。
【0018】
図3は、本実施の形態における回転軸の回転角度を定義するための説明図である。図3に示すように、回転軸13の中心13cと回転軸13の中心13cから最も遠いピストン23の外径部の点23cとを結ぶ直線と、回転軸13の中心13cとベーン28の中心28cとを結ぶ直線とのなす角を回転軸の回転角度と定義する。また、回転軸13の中心13cと、回転軸13の中心13cから最も遠いピストン23の外径部の点23cと、ベーン28の中心28cとが一直線上に並んだ位置における回転軸の回転角度を0°と定義する。回転軸の回転角度が0°の状態は、圧縮室26は低圧側圧縮室と高圧側圧縮室26bとに分けられていない状態である。これ以降、図3における回転軸13の回転角度は反時計回りを正とする。
【0019】
図4は、一般的なロータリ圧縮機における負荷トルクを示す特性図である。図4において、横軸は回転軸の回転角度、縦軸は圧縮機構部を駆動させるために電動機部に必要とされる負荷トルクである。負荷トルクは、回転軸を時計回りに回転させる向きを正としている。ロータリ圧縮機の動作について説明したとおり、ピストンの自転運動に伴って低圧側圧縮室への冷媒ガスの吸入と高圧側圧縮室の冷媒ガスの圧縮および吐出とが繰り返される。図4に示すように、冷媒ガスの吸入時は電動機部に必要な負荷トルクはほとんど零であるのに対し、高圧側圧縮室の冷媒ガスの圧縮過程に伴い電動機部に必要な負荷トルクは増加する。冷媒ガスの圧力が所定の圧力に到達すると吐出弁が開き、高温高圧の冷媒ガスが放出されるため、電動機部に必要な負荷トルクは減少する。このように、吸入、圧縮および吐出に伴い電動機部に必要な負荷トルクがピストンの回転に伴って大きく増減する。従来のロータリ圧縮機においては、電動機部は負荷トルクの最大値に合わせて設計されるため、負荷トルクの脈動がない場合に比べて電動機部が大型になる。
【0020】
図5は、本実施の形態に係るロータリ圧縮機の横断面図である。図5は、図1のB-Bにおける電動機部10の断面図である。電動機部10は、密閉容器1の内部に固定された円環状の固定子11と、固定子11の内周側に隙間を介して配置された円柱状の回転子12と、回転子12の中心に締結された回転軸13とを有している。回転子12は、電磁鋼板が軸方向に積層されて構成された磁性体の回転子コア12aと、回転子コア12aに埋設された複数の磁石12bとを有している。回転子コア12aは、焼き嵌めあるいは圧入などの方法で回転軸13に締結されている。図5において、白色矢印は磁石12bの着磁方向を示している。本実施の形態の回転子12においては、径方向外側に向けて磁束が発生するように着磁された磁石12bと、径方向内側に向けて磁束が発生するように着磁された磁石12bとが周方向に交互に配置されている。このような磁石の配置に起因する固定子と回転子との間の周方向の起磁力分布には空間1次成分が存在する。
【0021】
固定子11は、電磁鋼板が軸方向に積層されて構成された磁性体の固定子コア11aと、固定子コイル11bとを有している。固定子コア11aは、円筒状のコアバック11cとコアバック11cの内周側から径方向内側に突出する複数のティース11dとで構成されている。ティース11dの間には固定子コア11aの径方向内側に開放された空間である固定子スロット11eが形成されている。固定子スロット11eには固定子コイル11bが配置されている。固定子コイル11bはティース11dに集中巻きで巻かれている。それぞれのティース11dの径方向内側の端部には、周方向に突出した鍔部11fが設けられている。この鍔部11fを設けることでティース11dに起因する固定子11のパーミアンスの脈動を小さくすることができ、後述する2山成分以外のパーミアンス脈動を低減することができる。
【0022】
図5に示す固定子11の内径は、紙面の横方向を長軸とする楕円形状である。つまり、固定子11は、一方向の形状異方性をもつ。また、図5に示す回転子12の外径は真円形状である。したがって、回転子12の外周面と固定子11の内周面との径方向の距離である磁気ギャップは、周方向の位置で変化している。図5に示すように、磁石12bの着磁方向と、図3における回転軸13の中心13cとベーン28の中心28cを結ぶ直線とのなす角を回転子の回転角度と定義する。これ以降、反時計回りの方向を回転子12の回転角度を正とする。
【0023】
図6は、固定子と回転子との間のパーミアンス波形の説明図である。図6において、横軸は回転子の回転角度であり、縦軸はパーミアンスである。図6において、実線は図5に示す電動機部における固定子と回転子との間のパーミアンスである。パーミアンスは磁束の通り易さである。固定子の内径が楕円形状となっているために固定子と回転子との距離が短くなる位置においてパーミアンスは大きくなり、固定子と回転子との距離が長くなる位置においてパーミアンスは小さくなる。そのため、回転子の1回転の間に2つの山をもつパーミアンス波形となる。図6の破線は、固定子の内径が楕円形状であることに起因する2山成分の波形を示している。一方、固定子のティースが存在する位置においてパーミアンスは小さくなり、固定子のティースが存在しない位置においてパーミアンスは大きくなる。したがって、固定子のティースは3つであるため、回転子の1回転の間にティースに起因するパーミアンス波形は3つの山をもつことになる。したがって、固定子と回転子との間のパーミアンス波形は、2つの山をもつ波形と3つの山をもつ波形とが合成された波形となる。
【0024】
しかしながら、本実施の形態のロータリ圧縮機においては、固定子のティースに鍔部が設けられているので、ティースに起因する3つの山のパーミアンス脈動を小さくすることができる。その結果、図6の実線に示すように、本実施の形態のロータリ圧縮機においては、固定子の内径が楕円形状であることに起因する2山成分が支配的なパーミアンス波形となる。すなわち、固定子と回転子との間の周方向のパーミアンス分布には、固定子11の一方向の形状異方性に起因する空間2次成分が存在する。なお、図6において、固定子の内径が楕円形状であることに起因するパーミアンスおよびティースの形状に起因するパーミアンスは、正弦波で近似している。
【0025】
図7は、図1のB-Bにおける電動機部10の断面図に、図1のA-Aにおける圧縮機構部20の偏心軸部、ピストン、背圧室およびベーンを重ねて示した説明図である。また、図8は、図7において固定子の内径が楕円形状であることを強調した説明図である。なお、図8においては、煩雑を避けるために、固定子の固定子コイルおよび固定子スロットは省略されている。図8において、回転軸の中心13cとベーン28の中心28cとを結ぶ直線を直線Cと定義する。直線Cは、図3で定義された回転軸の回転角度が0°の方向と一致する。そして、図8において直線Cから反時計回りの角度を正の方向とする。次に図6に示したパーミアンス波形において、パーミアンスが最も小さくなる回転角度の方向の直線を直線Dと定義する。この直線Dの方向は、固定子の内径が楕円形状であることから、その楕円の長軸方向と一致する。直線Cを基準として直線Cから直線Dへ向かう周方向の角度をαとする。
【0026】
次に、径方向外側に向けて磁束を発生する磁石12bの中心と回転軸の中心13cとを結ぶ直線を直線Eと定義する。また、回転軸の中心13cから最も遠いピストン23の外径部の点23cと回転軸の中心13cとを結ぶ直線を直線Fと定義する。そして、直線Eを基準として直線Eから直線Fへ向かう周方向の角度をβとする。図8において、直線Fは直線Eに対して反時計回り側に位置するためβは正の値となる。なお、直線Fが直線Eに対して時計回り側に位置する場合は、βは負の値となる。
【0027】
本実施の形態のロータリ圧縮機においては、次の式(1)が成り立つことを特徴としている。
【数1】
【0028】
なお、kは自然数とする。このような関係とすることで、電動機部のコギングトルクがピークとなる2つの山の回転角度と、圧縮機構部の負荷トルクがピークとなる回転角度とが一致する。そのため、本実施の形態のロータリ圧縮機においては、圧縮機構部の負荷トルクの一部を電動機部のコギングトルクが打ち消すことによって、電動機部に必要な最大トルクが低減される。その結果、本実施の形態のロータリ圧縮機は、振動および騒音の発生を抑制すると共に、電動機部に必要なトルクを低減することができる。
【0029】
これ以降、式(1)を満足することで、電動機部のコギングトルクがピークとなる2つの山の回転角度と圧縮機構部の負荷トルクがピークとなる回転角度とが一致するメカニズムについて説明する。以下の説明においては、コギングトルクの位相と負荷トルクの位相との関係が重要であるため、数式の一部において比例記号の∝を使用している。
【0030】
刻0のときに直線Eと直線Cとが一致しているとする。図8において、直線Cを0°として反時計回りの方向を正として周方向の位置を角度θで表す。回転子は反時計回りに角速度ωで回転するとする。時刻t、周方向の位置θにおける回転子の磁石による1極対分の起磁力F(θ、t)は、次の式(2)で表される。
【0031】
【数2】
【0032】
一方、パーミアンスP(θ)は、次の式(3)で表される。
【数3】
【0033】
ここで、C、DおよびEは定数である。磁気ギャップの磁束密度B(θ、t)は、起磁力とパーミアンスとの積であり、次の式(4)となる。
【数4】
【0034】
磁気エネルギーE(t)は、次の式(5)で与えられる。
【数5】
【0035】
式(4)を式(5)に代入したときに、式(5)の右辺の中でθの係数が1以上の項は積分した際に零となるのでその項は無視し、θの係数が0の項だけ残して記載すると、磁気エネルギーE(t)は次の式(6)となる。
【数6】
【0036】
コギングトルクT(t)と磁気エネルギーE(t)との間には次の式(7)の関係がある。
【数7】
【0037】
式(6)を式(7)に代入すると、次の式(8)の関係が得られる。
【数8】
【0038】
なお、コギングトルクについては、電動機部の回転子を反時計回りに回転させる向きを正としている。
【0039】
次に、圧縮機構部で発生する負荷トルクについて説明する。上述のとおり、負荷トルクについては電動機部の回転子を時計回りに回転させる向きを正としている。実際の負荷トルクは図4に示した波形となるが、便宜上負荷トルクの波形をDCオフセットを含んだ正弦波の波形で近似する。負荷トルクの大きさは、ベーンとピストンとの位相差、すなわち図8における直線Cと直線Fとの位相差によって決まるので、負荷トルクT(t)は、次の式(9)で近似することができる。
【数9】
【0040】
ここで、G、Hは定数である。γは負荷トルク波形の位相項であり、後述のとおり運転条件によって負荷トルクのピークとなる回転角度がばらつく範囲を示すパラメータである。式(8)と式(9)とを比較して、T(t)のピークとT(t)のピークとが一致するためには、次に示す式(10)および式(11)が成り立つことが必要である。
【数10】
【数11】
【0041】
式(10)と式(11)とを合わせると、次の式(12)が得られる。
【数12】
【0042】
ここで、n、m、kは自然数である。
図9は、シミュレーションによる定常運転における負荷トルク波形を示す特性図である。図9において、横軸は回転軸の回転角度、縦軸は圧縮機構部の負荷トルクである。定常運転として、定格条件での運転と中間条件での運転との例を示す。例えば、定格条件においては低圧側圧縮室のガス圧に対する高圧側圧縮室のガス圧が350%以上であり、中間条件においては低圧側圧縮室のガス圧に対する高圧側圧縮室のガス圧が200%~300%である。なお、シミュレーションにおいては、β=0°としている。
【0043】
図9に示すように、中間条件での運転では比較的小さい回転角度で吐出弁が開口するが、定格条件での運転ではそれより大きい回転角度で吐出弁が開口する。図9からわかるように、負荷トルク波形の位相項であるγは、定常運転においては180°より大きく250°より小さい範囲となる。したがって、式(12)で与えられるγの範囲を次の式(13)のように設定すれば、定常運転において電動機部のコギングトルクと圧縮機構部の負荷トルクとが打ち消し合って、電動機部に必要な最大トルクを低減することができる。
【0044】
【数13】
式(13)を書き換えると、上述の式(1)となる。
【0045】
図10は、α=90°、β=65°としたときの圧縮機構部の負荷トルク、電動機部のコギングトルクおよび負荷トルクからコギングトルクを差し引いたトルクを示す特性図である。図10において、横軸は回転子の回転角度、縦軸はトルクである。図10において、破線は圧縮機構部の負荷トルクを、一点破線は電動機部のコギングトルクを、実線は負荷トルクからコギングトルクを差し引いたトルクをそれぞれ示している。負荷トルクからコギングトルクを差し引いたトルクが電動機部に必要なトルクである。α+β=155°となるので、k=0であれば式(1)を満足する。図10に示すように、負荷トルクからコギングトルクを差し引いたトルク波形のピークは、負荷トルクの波形のピークより減少している。すなわち、式(1)の条件を満足することで、電動機部のコギングトルクと圧縮機構部の負荷トルクとが打ち消し合って、電動機部に必要な最大トルクを低減することができる。
【0046】
次に、回転子の磁石磁力および固定子コイルの巻き数を非対称にした電動機部を備えた比較例のロータリ圧縮機との違いについて説明する。
図11は、本実施の形態に係る比較例のロータリ圧縮機の電動機部の断面図である。図11に示す比較例の電動機部10は、極数が6であり、固定子スロット数が9である。図11において、回転子12の右側を領域A、左側を領域Bとする。また、固定子11の右側を領域C、左側を領域Dとする。回転子12の回転によって、領域Aおよび領域Bは回転移動する。この比較例のロータリ圧縮機においては、回転子12の領域Aに存在する磁石12bの磁力に対して領域Bに存在する磁石12bの磁力が小さくなっている。また、固定子11の領域Cに存在する固定子コイル11bの巻き数に対して、領域Dに存在する固定子コイル11bの巻き数が少なくなっている。回転子の磁石磁力および固定子コイルの巻き数を非対称にしたこの電動機部においては、1回転に付き1回のトルク脈動が発生する。このような構成とすることで、電動機部に発生するトルク脈動で圧縮機構部の負荷トルクの脈動を打ち消すことができるので電動機部に必要な最大トルクを低減することができる。
【0047】
しかしながら、この比較例のロータリ圧縮機の電動機部は、騒音および振動が大きいという問題がある。図11に示す固定子と回転子との位置関係では、回転子の領域Aと固定子の領域Cとが対向しており、回転子の領域Bと固定子の領域Dとが対向している。この位置関係においては、領域Aと領域Cとの間に働く吸引力または反発力よりも領域Bと領域Dとの間に働く吸引力または反発力が小さくなる。そのため、この位置関係のときは、回転軸13に対して紙面の横方向に偏心させる力が発生する。一方、図12に示すように回転子12が180°回転した場合、回転子の領域Aと固定子の領域Dとが対向しており、回転子の領域Bと固定子の領域Cとが対向している。この位置関係においては、領域Aと領域Dとの間に働く吸引力または反発力と、領域Bと領域Cとの間に働く吸引力または反発力とがほぼ同じとなる。そのため、この位置関係のときは、回転軸13に対して紙面の横方向に偏心させる力はほとんど発生しない。したがって、比較例のロータリ圧縮機の電動機部においては、回転軸を偏心させる力が周期的に発生することになり、これが騒音および振動の発生要因となる。
【0048】
これに対して本実施の形態のロータリ圧縮機の電動機部においては、180°対向した位置にある2つの磁石の起磁力は大きさおよび方向が同じである。そして、固定子と回転子との間のパーミアンスは、図6に示したとおり、2つの山の波形となっている。そのため、一方の磁石に吸引力が働いた場合、その180°対向した位置にある磁石には同じ力の吸引力が働く。同様に、一方の磁石に反発力が働いた場合、その180°対向した位置にある磁石には同じ力の反発力が働く。その結果、本実施の形態のロータリ圧縮機の電動機部においては、回転軸を偏心させる力は発生しないので、騒音および振動の発生を抑制することができる。
【0049】
上述のように、本実施の形態のロータリ圧縮機においては、固定子と回転子との間の周方向のパーミアンス分布に空間2次成分が存在すると共に、磁石によって発生する周方向の起磁力分布に空間1次成分が存在する。そして、本実施の形態のロータリ圧縮機においては、回転軸と直交する方向の断面において、回転軸の中心とベーンの中心とを結ぶ直線と、回転軸の中心からパーミアンス分布の最も小さい方向に向かう直線とのなす角をαとし、回転軸の中心と回転軸の中心から最も遠いピストンの外径部の点とを結ぶ直線と、回転軸の中心と起磁力分布の径方向外側に向かう磁束を発生する磁石の中心とを結ぶ直線とのなす角をβとし、kを自然数としたときに、135°+k×180°<α+β<205°+k×180°が成り立つように構成されている。そのため、本実施の形態のロータリ圧縮機は、振動および騒音の発生を抑制すると共に、電動機部に必要なトルクを低減することができる。その結果、電動機部の大型化を抑制することができる。さらに、本実施の形態のロータリ圧縮機においては、電動機部に必要なトルクを低減するための追加の部品を必要としないので装置が小型になる。
【0050】
なお、本実施の形態のロータリ圧縮機において電動機部の構造は極数が2であり、固定子スロット数が3であるが、この構造に限定されるものではない。また、本実施の形態の回転子は、回転子コアに磁石が埋設されたいわゆる埋め込み磁石型回転子であるが、表面磁石型回転子であってもよい。
【0051】
実施の形態2.
実施の形態2に係るロータリ圧縮機の構成は、実施の形態1で示したロータリ圧縮機の構成と同様であるが、電動機部の構成が異なっている。図13は、本実施の形態に係るロータリ圧縮機の横断面図である。図13は、電動機部の断面図である。
【0052】
図13に示すように、本実施の形態に係るロータリ圧縮機の電動機部10は、極数が6であり、固定子スロット数は9である。固定子11の内径は楕円形状であり、回転子12の外径は真円形状である。したがって、回転子12の外周面と固定子11の内周面との径方向の距離である磁気ギャップは、周方向の位置で変化している。6極の磁石12bは周方向に均等に配置されている。それぞれの磁石12bを反時計回りに磁石A、磁石B、磁石C、磁石D、磁石Eおよび磁石Fとする。また、それぞれの磁石の起磁力をM、M、M、M、MおよびMとする。図13において、白色矢印は磁石12bの着磁方向を示している。すなわち、本実施の形態の回転子12においては、径方向外側に向けて磁束が発生するように着磁された磁石12bと、径方向内側に向けて磁束が発生するように着磁された磁石12bとが周方向に交互に配置されている。そして、磁石Aの起磁力と磁石Aと180°対向する位置の磁石Dの起磁力とが同じであり、それ以外の磁石の起磁力が同じでかつ磁石Aおよび磁石Dの起磁力よりも小さくなっている。すなわち、次の式(14)の関係が成り立っている。
【0053】
【数14】
【0054】
図14は、本実施の形態における磁石の起磁力を示した特性図である。図14において、横軸は周方向の位置、縦軸は磁石の起磁力である。縦軸の起磁力は、起磁力の方向が径方向外側を正としている。図14において、実線は各磁石による起磁力分布を示している。各磁石の起磁力分布は、矩形波で近似している。磁石Aおよび磁石Dの起磁力は、他の磁石の起磁力より大きくなっている。そのため、各磁石による実際の起磁力分布は2極相当の起磁力分布となる。図14において、破線は2極相当の起磁力分布を示している。すなわち、各磁石による実際の起磁力分布の形状は、破線に示す2極相当の起磁力分布と同じ形状となる。その結果、本実施の形態の電動機部においても、磁石の配置に起因する固定子と回転子との間の周方向の起磁力分布には空間1次成分が存在する。
【0055】
実施の形態1のロータリ圧縮機においては、極数を2として2極の起磁力分布を発生させていた。本実施の形態のロータリ圧縮機のように、極数を6としても2極相当の起磁力分布を発生させることは可能である。このように構成されたロータリ圧縮機においても、実施の形態1と同様に式(1)の条件を満足することで、電動機部のコギングトルクと圧縮機構部の負荷トルクとが打ち消し合って、電動機部に必要な最大トルクを低減することができる。
【0056】
なお、実施の形態1の図8で説明したβを定義するためには、回転子の構造に係る直線Eを定義する必要がある。本実施の形態の回転子においては、図14に示すように、2極相当の起磁力分布において径方向外側に向かう磁束を発生する磁石Aの中心と回転軸の中心13cとを結ぶ直線が直線Eとなる。
【0057】
本実施の形態のロータリ圧縮機においては、6極の回転子において式(14)の関係を満足することで2極相当の起磁力分布を発生させている。6極の回転子において2極相当の起磁力分布を発生させるためには、少なくとも1つの極の起磁力が他の極の起磁力と異なっていればよい。例えば、図13に示す回転子と同様な6極の回転子において、次の式(15)が成り立っていれば2極相当の起磁力分布を発生させることができる。
【0058】
【数15】
【0059】
また、別の6極の回転子において、次の式(16)が成り立っていれば2極相当の起磁力分布を発生させることができる。
【0060】
【数16】
【0061】
ただし、2極相当の起磁力分布を発生させるためには、径方向外側に向けて磁束を発生する1つの磁石の起磁力と、180°対向する位置に配置された磁石の起磁力とが同じである必要がある。これらの磁石の起磁力が異なる場合、回転子に対して回転軸を偏心させる力が周期的に発生する。また、全ての磁石の起磁力が同じ場合は、2極相当の起磁力分布を発生させることができない。
【0062】
実施の形態3.
実施の形態3に係るロータリ圧縮機の構成は、実施の形態1で示したロータリ圧縮機の構成と同様であるが、電動機部の構成が異なっている。図15は、本実施の形態に係るロータリ圧縮機の横断面図である。図15は、電動機部の断面図である。
【0063】
図15に示すように、本実施の形態に係るロータリ圧縮機の電動機部10は、極数が2であり、固定子スロット数は3である。固定子11の内径は真円形状であり、回転子12の外径も真円形状である。したがって、回転子12の外周面と固定子11の内周面との径方向の距離である磁気ギャップは、周方向の位置で一定である。
【0064】
本実施の形態のロータリ圧縮機の固定子コア11aは、図15の紙面横方向の圧延された電磁鋼板が積層されて一体化されている。圧延された電磁鋼板において、圧延方向の比透磁率は、圧延方向と直交する方向の比透磁率に比べて大きいことが知られている。したがって、図15に示す固定子コア11aにおいては、紙面横方向の比透磁率が大きく、紙面縦方向の比透磁率が小さくなっている。つまり、固定子11は、一方向の磁気異方性をもつ。このように構成されたロータリ圧縮機の電動機部においては、固定子11と回転子12との間に2つの山をもつパーミアンス脈動を発生させることができる。すなわち、本実施の形態のロータリ圧縮機の電動機部においては、固定子と回転子との間の周方向のパーミアンス分布には、固定子の一方向の磁気異方性に起因する空間2次成分が存在する。したがって、このように構成されたロータリ圧縮機においても、実施の形態1と同様に式(1)の条件を満足することで、電動機部のコギングトルクと圧縮機構部の負荷トルクとが打ち消し合って、電動機部に必要な最大トルクを低減することができる。
【0065】
なお、実施の形態1の図8で説明したαを定義するためには、固定子の構造に係る直線Dを定義する必要がある。直線Dは、パーミアンスが最も小さくなる回転角度の方向の直線である。本実施の形態の固定子においては、図15に示すように、電磁鋼板の圧延方向と直交する方向が直線Dとなる。
【0066】
本実施の形態において、固定子コアに用いる電磁鋼板は、無方向性電磁鋼板および方向性電磁鋼板のいずれであってもよい。圧延方向の比透磁率と圧延方向と直交する方向の比透磁率との差は、無方向性電磁鋼板に比べて方向性電磁鋼板の方が大きい。そのため、固定子コアに方向性電磁鋼板を用いた方が2つの山をもつパーミアンス脈動が大きくなり、電動機部に必要な最大トルクを低減する効果が大きくなる。
【0067】
また、本実施の形態において、固定子11の内径は真円形状としているが、楕円形状でもよい。固定子11の内径を楕円形状とする場合は、楕円の短軸方向と電磁鋼板の圧延方向とを同じ方向とすることが好ましい。楕円の短軸方向と電磁鋼板の圧延方向とを同じ方向とすることで、2つの山をもつパーミアンス脈動がさらに大きくなり、電動機部に必要な最大トルクを低減する効果が大きくなる。
【0068】
本願は、様々な例示的な実施の形態が記載されているが、1つまたは複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、および機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。
したがって、例示されていない無数の変形例が、本願に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0069】
1 密閉容器、2 吸入管、3 吸入マフラー、4 吐出管、10 電動機部、11 固定子、11a 固定子コア、11b 固定子コイル、11c コアバック、11d ティース、11e 固定子スロット、11f 鍔部、12 回転子、12a 回転子コア、12b 磁石、13 回転軸、20 圧縮機構部、21 シリンダ、21a 吸入口、21b 背圧室、21c ベーン溝部、22 偏心軸部、23 ピストン、24 上軸受、24a 吐出ポート、24b 吐出弁、25 下軸受、26 圧縮室、26a 低圧側圧縮室、26b 高圧側圧縮室、27 吐出マフラー、28 ベーン。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15