(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】固形燃料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C10L 5/40 20060101AFI20241108BHJP
【FI】
C10L5/40
(21)【出願番号】P 2024008115
(22)【出願日】2024-01-23
【審査請求日】2024-01-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】506000128
【氏名又は名称】日鉄環境エネルギーソリューション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100212026
【氏名又は名称】中村 真生
(72)【発明者】
【氏名】笠嶋 友揮
(72)【発明者】
【氏名】森 英一朗
(72)【発明者】
【氏名】小脇 幸男
(72)【発明者】
【氏名】小林 淳志
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-099818(JP,A)
【文献】特開平06-166882(JP,A)
【文献】特表平10-501569(JP,A)
【文献】特開平02-073892(JP,A)
【文献】特開2008-239903(JP,A)
【文献】特開2000-096070(JP,A)
【文献】特開平11-302673(JP,A)
【文献】特開2020-111758(JP,A)
【文献】特開2019-131831(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10B 53/02
C10L 5/00-5/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無水無灰ベースで固定炭素が85質量%以上であるバイオマス炭化物と、乾燥状態におけるCaOの含有量が50質量%以上である無機バインダと、を含む、
ガス化溶融炉用又はキュポラ用の固形燃料。
【請求項2】
前記バイオマス炭化物の含有量が50質量%以上であり、前記無機バインダの含有量が15質量%以上である、請求項1に記載の固形燃料。
【請求項3】
空気中、1000℃で30分間加熱し冷却した後に測定される熱間強度が1000N以上である、請求項1又は2に記載の固形燃料。
【請求項4】
前記無機バインダがポルトランドセメントを含む、請求項1又は2に記載の固形燃料。
【請求項5】
前記バイオマス炭化物の粒子径が10mm以下である、請求項1又は2に記載の固形燃料。
【請求項6】
カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、澱粉、けい酸ナトリウム、及び粘土からなる群より選ばれる少なくとも一つをさらに含む、請求項1又は2に記載の固形燃料。
【請求項7】
粉コークスをさらに含む、請求項1又は2に記載の固形燃料。
【請求項8】
スラグの融点調整機能を有する、請求項1又は2に記載の固形燃料。
【請求項9】
無水無灰ベースで固定炭素が85質量%以上であるバイオマス炭化物と、乾燥状態におけるCaOの含有量が50質量%以上である無機バインダと、水と、を含む成形原料を混練し成形する工程を有する、
ガス化溶融炉用又はキュポラ用の固形燃料の製造方法。
【請求項10】
前記バイオマス炭化物の粒子径が10mm以下である、請求項9に記載の固形燃料の製造方法。
【請求項11】
前記無機バインダがポルトランドセメントを含む、請求項9又は10に記載の固形燃料の製造方法。
【請求項12】
前記固形燃料の熱間強度が1000N以上である、請求項9又は10に記載の固形燃料の製造方法。
【請求項13】
前記成形原料における、前記無機バインダに対する前記水の質量比が0.5以上である、請求項9又は10に記載の固形燃料の製造方法。
【請求項14】
前記成形原料は、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、澱粉、けい酸ナトリウム、及び粘土からなる群より選ばれる少なくとも一つをさらに含む、請求項9又は10に記載の固形燃料の製造方法。
【請求項15】
前記成形原料は粉コークスをさらに含む、請求項9又は10に記載の固形燃料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、固形燃料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化対策のためのCO2削減の手段として、既存の化石燃料の代わりにバイオマスを利用する技術開発が進められている。特許文献1では、廃棄物溶融処理設備で用いられるコークスの代わりに、バイオマス炭化物にバインダを添加して成形し、乾留して得られる炭素分含有成形物を用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、炭素分含有成形物を燃料として用いる場合、有機バインダが好ましいとされている。しかしながら、有機バインダは一般に高価であるうえ、高温環境において強度を維持することが難しい。そこで、本開示は、高温環境で十分な強度を有する固形燃料及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一側面は、無水無灰ベースで固定炭素が85質量%以上であるバイオマス炭化物と、乾燥状態におけるCaOの含有量が50質量%以上である無機バインダと、を含む固形燃料を提供する。この固形燃料は、固定炭素が85質量%以上であるバイオマス炭化物と無機バインダを含んでいることから、高温環境で十分な強度を有する。
【0006】
本開示の一側面は、無水無灰ベースで固定炭素が85質量%以上であるバイオマス炭化物と、乾燥状態におけるCaOの含有量が50質量%以上である無機バインダと、水と、を含む成形原料を混練し成形する工程を有する固形燃料の製造方法を提供する。この製造方法では、固定炭素が85質量%以上であるバイオマス炭化物と、無機バインダを用いていることから、高温環境で十分な強度を有する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、高温環境で十分な強度を有する固形燃料及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】ガス化溶融炉とこれを備える廃棄物溶融処理設備の一例を模式的に示す図である。
【
図2】熱間強度及び冷間強度の測定方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、場合により図面を参照して、本開示の例示的な実施形態について説明する。以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。
【0010】
一実施形態に係る固形燃料は、無水無灰ベースで固定炭素が88質量%以上であるバイオマス炭化物と、乾燥状態におけるCaOの含有量が50質量%以上である無機バインダと、を含む。
【0011】
本明細書におけるバイオマスとは、化石燃料以外の生物由来の資源をいう。バイオマスとしては、間伐材、剪定枝、廃材、樹皮チップ、その他の木材、竹、草、やし殻、パームオイル残渣、野菜、果実、食品残渣、汚泥等、廃棄物を挙げることができる。バイオマスは、間伐材、剪定枝、廃材、樹皮チップ、その他の木材等の木質系バイオマスであってよい。バイオマス炭化物は、このようなバイオマスを乾留して得ることができる。
【0012】
バイオマス炭化物の固定炭素は無水無灰ベースで85質量%以上、88質量%以上、又は90質量%以上であってよい。固定炭素が高いバイオマス炭化物は揮発分が低いことから高温環境下においても揮発する成分が少ない。このため高温環境においても強度を十分に維持することができる。無水無灰ベースの固定炭素は、JIS M 8812:2006「石炭類及びコークス類-工業分析方法」の「8.固定炭素質量分率(%)算出方法」に準拠して測定される無水ベースの固定炭素の値を、無水無灰ベースの値に換算して求めることができる。
【0013】
バイオマス炭化物の粒子径は、10mm以下であってよく、2mm以下であってよく、0.5~2mmであってよく、0.8~1.5mmであってもよい。粒子径が大きくなり過ぎると、バイオマス炭化物の粒子同士の密着性が低下して強度が低下する場合がある。粒子径が小さくなり過ぎると、バイオマス炭化物の粒子同士の接触面積が増えすぎて強度が低下する場合がある。バイオマス炭化物の粒子径は、篩を用いて測定することができる。目開き2mmの篩を用いて篩分けした時の篩下の粒子径は2mm以下である。
【0014】
固形燃料におけるバイオマス炭化物の含有量は、50質量%以上であり、60質量%又は65質量%以上であってよい。バイオマス炭化物の含有量を大きくすることによって、固形燃料の発熱量を十分に高くすることができる。固形燃料におけるバイオマス炭化物の含有量は、90質量%以下、85質量%以下、80質量%以下、又は75質量%以下であってよい。このような固形燃料は、高温環境における強度を一層高くすることができる。
【0015】
無機バインダは、バイオマス炭化物の粒子同士を結着させる機能を有する無機物である。無機バインダは、乾燥状態においてCaOの含有量が50質量%以上である。乾燥状態において、無機バインダにおけるCaOの含有量は55質量%以上、又は60質量%以上であってよい。このような無機バインダであれば、ガス化溶融炉又はキュポラ炉の固形燃料として用いたときに、スラグの融点を低減することができる。これらの設備では、副資材として石灰石が用いられる場合があるが、当該石灰石の一部又は全部を、無機バインダのCaOが代替することができる。
【0016】
図1に、ガス化溶融炉の一例であるコークスベッド式の溶融炉40を備える廃棄物溶融処理設備100を示す。本実施形態の固形燃料は、このような溶融炉40におけるコークスを代替し得る。
図1の廃棄物溶融処理設備100は、溶融炉40と溶融炉40の上部に設けられた装入装置50とを備えている。溶融炉40は、シャフト部42と該シャフト部42の下端に設けられる朝顔部44と、朝顔部44の下部に設けられる炉底部46と、を有する。シャフト部42から炉底部46には、上から順に、熱分解帯用の上段羽口45と、燃焼溶融帯用の下段羽口47とが設けられている。上段羽口45及び下段羽口47は、それぞれ複数段で設けられていてもよい。
【0017】
廃棄物、固形燃料及び副資材は、装入装置50によって、溶融炉40に装入される。廃棄物としては、一般廃棄物、産業廃棄物、これらに乾燥、焼却、破砕等の処理を施して得られた焼却灰等の処理物、及び、これらを一度埋め立て処理した後、再度掘り起こした土砂分を含む埋め立てごみ等が挙げられる。副資材は、石灰石、鉄鉱石、マグネシア、ペリクレース、クドカンラン石、及びジャモン石等から選ばれる少なくとも一つを含んでよい。このような副資材を用いることによって、溶融炉40の内部において、廃棄物48を十分に溶融させることができる。本実施形態の固形燃料とともに、石炭、コークス又は成型炭等を用いてもよい。
【0018】
装入装置50から溶融炉40に廃棄物、固形燃料及び副資材が装入される。下段羽口47からは酸素又は酸素富化空気が供給され、上段羽口45からは燃焼支持ガスとして空気が供給される。溶融炉40に装入された固形燃料は、下段羽口47から供給された酸素又は酸素富化空気によって燃焼され熱源として機能する。溶融炉40に装入された副資材を含む廃棄物48は、固形燃料の燃焼によって例えば1600℃以上にまで加熱されて、熱分解残渣43となる。熱分解残渣43は、主に上段羽口45から供給された空気によって燃焼される。
【0019】
溶融炉40で生成した熱分解ガスは、シャフト部42を上昇し、装入装置50の下部に接続された排ガス管52から燃焼室へ導入される。燃焼排ガスは可燃ガスとして燃焼された後、ボイラで廃熱回収される。その後、排ガスは、減温塔で温度が調整された後、集塵機及び触媒反応塔を通過して、煙突から排出される。
【0020】
溶融炉40の内部は、固形燃料等の燃焼によって温度勾配が生じている。具体的には、溶融炉40は、上方から下方に向けて乾燥・予熱帯40a、熱分解帯40b、及び燃焼・溶融帯40cを有する。装入装置50から溶融炉40に導入された副資材は、廃棄物及び固形燃料とともに、乾燥・予熱帯40a、熱分解帯40b及び燃焼・溶融帯40cに、この順に到達する。固形燃料の無機バインダに含まれるCaO等は燃焼・溶融帯40cに到達する。
【0021】
廃棄物48中の可燃分と固形燃料に含まれるバイオマス炭化物はガス化して溶融炉40内を上昇し、排ガス管52を経由して燃焼室に導入される。一方、灰分は、熱分解残渣43を経て溶融スラグとなる。無機バインダに含まれるCaO及びシリカ源は、溶融スラグの融点調整剤及び塩基度調整剤として機能する。融点及び塩基度が調整された溶融スラグは、炉底部46のコークス充填層41を流下して出滓口49から排出される。
【0022】
溶融炉40の最高温度は、例えば、燃焼・溶融帯40cにおいて1600℃以上となってもよい。装入装置50から装入される固形燃料は高温環境で十分な強度を有することから、溶融炉40に導入された後、暫くの間、形状を保持することができる。この間、固形燃料が粉化することが抑制されるため、無機バインダが飛散することが抑制される。これによって、固形燃料の無機バインダに含まれるCaOは溶融スラグの融点調整剤及び塩基度調整剤として十分に機能する。溶融炉40の出滓口49から出滓される溶融スラグの塩基度(CaO/SiO2)が例えば0.7~1.0となるように、装入装置50から装入される固形燃料の組成及び副資材の量を調節してもよい。これによって、出滓口49から、流動性に優れる溶融スラグが排出される。
【0023】
出滓口49からの溶融スラグの出滓は、連続的に行ってもよいし(連続出滓)、間欠的に行ってもよい(間欠出滓)。間欠出滓の際の出滓の間隔は、例えば30分間以上であってよく、1時間以上であってもよい。出滓口49から出滓される溶融スラグは、例えば、冷却水が収容された水砕槽に導入され水砕されてよい。
【0024】
キュポラ炉においては、炉体に積むコークスの代わりに本実施形態の固形燃料を用いることができる。一定の高さまで積んだ固形燃料の上方から、銑鉄、鋼屑等の地金と固形燃料とを所定の比率で装入する。炉体の下部に設けられた羽口から空気を送りつつ固形燃料を燃焼させ、その燃焼熱によって地金を溶解する。地金は炉体の中央部における溶解帯で溶解され、最下部の出湯口から導出される。固形燃料は高温環境において十分な強度を有することから、炉体内において安定的にベッドを形成することができる。固形燃料に含まれるCaOが融点調整剤として機能するため、石灰石等の副資材の使用量を低減することができる。
【0025】
無機バインダは、JIS R 5210:2009で規定されるポルトランドセメントを含んでよい。このような固形燃料は、高温環境で十分に高い強度を有することが可能であるとともに、製造コストを十分に低減することができる。ポルトランドセメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、及び耐硫酸塩ポルトランドセメントが挙げられる。ポルトランドセメントに含まれるCaOの含有量は、JIS R 5202:2010の「セメントの化学分析法」に準拠して測定することができる。無機バインダがポルトランドセメントを含むことによって、固形燃料の熱間強度を十分に高くすることができる。
【0026】
無機バインダは、ポルトランドセメント以外の成分を含んでもよい。例えば、粘土、及びけい酸ナトリウム等が挙げられる。粘土としては、ベントナイト(モンモリロナイト)、及びカオリン等が挙げられる。無機バインダが複数種類の成分を含む場合、無機バインダ全体としてCaOの含有量が上述の範囲にあればよい。
【0027】
固形燃料における無機バインダの含有量は、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、又は25質量%以上であってよい。このような固形燃料は、高温環境で一層高い強度を有する。固形燃料における無機バインダの含有量は、45質量%以下、40質量%以下、又は35質量%以下であってよい。無機バインダの含有量を小さくすることによって、バイオマス炭化物の含有量を大きくして固形燃料の発熱量を十分に高くすることができる。
【0028】
固形燃料は、バイオマス炭化物及び無機バインダ以外の成分を含んでもよい。そのような成分として、粉コークス、及び有機バインダが挙げられる。固形燃料が粉コークスを含むことによって、粉コークスを熱源として有効活用することができる。有機バインダとしては、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、及び澱粉が挙げられる。有機バインダを含むことによって、固形燃料(成形体)の冷間強度を高くすることができる。これによって成形直後のハンドリング性を向上することができる。
【0029】
固形燃料は、圧縮成形して得られる成形体である。個々の成形体のサイズに制限はなく、例えば、1~800cm3、3~600cm3、又は50~200cm3であってよい。このようなサイズの固形燃料は、ガス化溶融炉及びキュポラの燃料として用いると適度に火格子を形成して、炉内の燃焼状態を十分安定的にすることができる。
【0030】
固形燃料の熱間強度は、好ましくは300N以上、より好ましくは500N以上、さらに好ましくは800N以上、特に好ましくは1000N以上である。このような固形燃料は、高温環境で十分に高い強度を維持することができる。例えば、ガス化溶融炉及びキュポラ用の固形燃料として用いると適度に火格子を形成して、炉内の燃焼状態を十分安定的にすることができる。
【0031】
本明細書の熱間強度及び冷間強度は、以下の手順で測定される。固形燃料を、電気炉を用いて、空気中、1000℃で30分間加熱する。その後、窒素雰囲気にして常温(約20℃)まで冷却する。固形燃料が円柱形状である場合、冷却後に、
図2に示すように、固形燃料(試料10)を測定台20の上に載置し、矢印方向(径方向)に荷重を加える。試料10に亀裂又は割れが生じた時点の荷重を熱間強度(N)とする。熱間強度が高い固形燃料は高温環境で十分に高い強度を有する。また、別の試料10を用い、電気炉を用いた加熱を行うことなく、
図2に示すように荷重を加えて試料10に亀裂又は割れが生じた時点の荷重を冷間強度(N)とする。
【0032】
本実施形態の固形燃料はバイオマス炭化物を含むことから、化石燃料の消費量を低減して二酸化炭素の排出量を低減することができる。ガス化溶融炉及びキュポラ等の燃料として用いることによって、スラグの融点を調整することができる。また、副資材として用いる石灰石の量を低減することができる。
【0033】
一実施形態に係る固形燃料の製造方法は、バイオマスを乾留して炭化して無水無灰ベースで固定炭素が85質量%以上であるバイオマス炭化物を得る乾留工程と、バイオマス炭化物を粉砕する粉砕工程と、粉砕したバイオマス炭化物と、乾燥状態におけるCaOの含有量が50質量%以上である無機バインダと、水と、を含む成形原料を混練して成形する成形工程と、成形体を養生する養生工程と、を有する。この製造方法で得られる固形燃料は、上記実施形態で説明した固形燃料であってよい。したがって、固形燃料で説明した内容はこの製造方法にも適用される。
【0034】
乾留工程は、無酸素雰囲気中において、バイオマスを200℃以上の乾留温度に加熱して行ってよい。バイオマスの炭化の進行し易さは、樹種及び樹木の部位等によって異なる。バイオマスの樹種及び樹木の部位等によらず、炭化を安定的に且つ円滑に進行させる観点から、乾留は、バイオマスを250℃以上に加熱して行ってよく、320℃以上に加熱して行ってもよい。炭素材の収率を高くする観点から、乾留工程はバイオマスを900℃以下、又は700℃以下に加熱して行ってもよい。すなわち、乾留温度の一例は、200~900℃である。
【0035】
乾留工程において、上記温度範囲に加熱する時間は、バイオマスを十分に炭化させる観点から、20分間以上であってよく、30分間以上であってもよい。乾留工程において、上記温度範囲に加熱する時間は、バイオマス炭化物の生産性を向上する観点から、3時間以下であってよく、2時間以下であってよい。乾留温度及び乾留時間を変えることでバイオマス炭化物の固定炭素を調整することができる。
【0036】
粉砕工程ではバイオマス炭化物の粒子径を調整する。粉砕は、粉砕ミルを用いて行ってよい。バイオマス炭化物の粒子径を上述の範囲に調整してよい。乾留工程後に粉砕工程を行うことによって、粉砕を円滑に行うことができる。
【0037】
成形工程では、バイオマス炭化物、無機バインダ、水、及びその他の任意の成分を配合して混練して成形原料を調製する。任意成分としては、粉コークス、有機バインダ、無機バインダとは異なる無機物が挙げられる。成形原料において、無機バインダに対する水の質量比は、0.5以上、0.7以上、又は1.0以上であってよい。これによって、固形燃料の強度を十分に高くすることができる。同様の観点から、無機バインダに対する水の質量比は、3.0以下、2.5以下、又は2.0以下であってよい。同様の観点から、バイオマス炭化物及び無機バインダの合計に対する水の質量比率は、15~65%、20~60%、又は25~55%であってよい。これによって、バイオマス炭化物が水の一部を吸収しても無機バインダを十分に硬化させることができる。混練後、成形原料を成形して成形体を得る。成形は、一軸加圧成型機、又はブリケットロール等の通常の成型機を用いることができる。
【0038】
養生工程では、成形体に含まれる無機バインダを硬化させて固形燃料を得る。無機バインダの種類に応じて適切な養生条件を選定すればよい。例えば、無機バインダがポルトランドセメントである場合、20~50℃で、4時間以上、6時間以上、10時間以上又は24時間以上保持して養生を行ってよい。
【0039】
養生工程の後、乾燥工程を行ってよい。乾燥は、養生工程よりも高い温度の雰囲気中で行ってよい。これによって、無機バインダに含まれる水分を低減し、一層高い強度を有する固形燃料を得ることができる。
【0040】
本実施形態の製造方法で得られる固形燃料は、高温環境で十分な強度を有する。したがって、例えば、ガス化溶融炉用又はキュポラ用の燃料として有用である。この場合、スラグの融点を調整することができる。また、副資材として用いる石灰石の量を低減することができる。また、バイオマス炭化物を用いていることから、化石燃料の消費量を低減して二酸化炭素の排出量を低減することができる。
【0041】
以上、本開示の例示的な実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。固形燃料の用途はガス化溶融炉用及びキュポラ用に限定されるものではない。本開示は、以下の実施形態を含む。
【0042】
[1]無水無灰ベースで固定炭素が85質量%以上であるバイオマス炭化物と、乾燥状態におけるCaOの含有量が50質量%以上である無機バインダと、を含む、固形燃料。
[2]前記バイオマス炭化物の含有量が50質量%以上であり、前記無機バインダの含有量が15質量%以上である、[1]に記載の固形燃料。
[3]空気中、1000℃で30分間加熱し冷却した後に測定される熱間強度が1000N以上である、[1]又は[2]に記載の固形燃料。
[4]前記無機バインダがポルトランドセメントを含む、[1]~[3]のいずれか一つに記載の固形燃料。
[5]前記バイオマス炭化物の粒子径が10mm以下である、[1]~[4]のいずれか一つに記載の固形燃料。
[6]カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、澱粉、けい酸ナトリウム、及び粘土からなる群より選ばれる少なくとも一つをさらに含む、[1]~[5]のいずれか一つに記載の固形燃料。
[7]粉コークスをさらに含む、[1]~[6]のいずれか一つに記載の固形燃料。
[8]ガス化溶融炉用又はキュポラ用であり、スラグの融点調整機能を有する、[1]~[7]のいずれか一つに記載の固形燃料。
[9]無水無灰ベースで固定炭素が85質量%以上であるバイオマス炭化物と、乾燥状態におけるCaOの含有量が50質量%以上である無機バインダと、水と、を含む成形原料を混練し成形する工程を有する、固形燃料の製造方法。
[10]前記バイオマス炭化物の粒子径が10mm以下である、[9]に記載の固形燃料。
[11]前記無機バインダがポルトランドセメントを含む、[9]又は[10]に記載の固形燃料の製造方法。
[12]前記固形燃料の熱間強度が1000N以上である、[9]~[11]のいずれか一つに記載の固形燃料の製造方法。
[13]前記成形原料における、前記無機バインダに対する前記水の質量比が0.5以上である、[9]~[12]のいずれか一つに記載の固形燃料の製造方法。
[14]前記成形原料は、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、けい酸ナトリウム、及び粘土からなる群より選ばれる少なくとも一つをさらに含む、[9]~[13]のいずれか一つに記載の固形燃料の製造方法。
[15]前記成形原料は粉コークスをさらに含む、[9]~[14]のいずれか一つに記載の固形燃料の製造方法。
【実施例】
【0043】
以下、実施例及び比較例を参照して、本開示の内容をより詳細に説明する。ただし、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
[バイオマス炭化物の固定炭素の影響]
(実施例1~4、比較例1~4)
バイオマスとしてアカシア及びパインのチップを準備した。各チップを、電気炉を用いて、無酸素の雰囲気中において、約700℃で30分間加熱して乾留し、窒素ガス雰囲気下で冷却した。このようにして、固定炭素の含有量が互いに異なる、8種類のバイオマス炭化物を得た。粉末ミル(CGOLDENWALL製、型番:HC-2500)を用いて各バイオマス炭化物を粉砕し、粒子径を1mm以下に調整した。
【0045】
JIS M 8812:2006「石炭類及びコークス類-工業分析方法」に準拠して、各バイオマス炭化物の工業分析を行った。結果は表1に示すとおりであった。固定炭素及び揮発分の測定結果は、無水無灰ベースの値である。
【0046】
粒子径を1mm以下に調整した各バイオマス炭化物と市販の早強ポルトランドセメント(株式会社トクヤマ製)とを、70:30の質量比率で配合し、水を加えて混練した。早強ポルトランドセメントのCaOの含有量は65質量%であった。このとき、早強ポルトランドセメントに対する水の質量比(水添加率)は、1.1とした。混練後、一軸加圧成型機を用いて円柱形状の成形体(直径×高さ=50mm×50mm)を作製した。この成形体を、40℃で1日間養生して固形燃料を得た。
【0047】
固形燃料を電気炉内に配置し、空気中、1000℃で30分間加熱した。その後、窒素雰囲気下で約20℃まで冷却した。この固形燃料(試料10)を、
図2に示すように測定台20の上に載置し、矢印方向(径方向)に荷重を加えて亀裂又は割れが生じた時点の強度を測定した。測定結果を、表1の「熱間強度」の欄に示す。
【0048】
【0049】
表1に示すとおり、固定炭素が高いバイオマス炭化物を用いることによって、高い熱間強度を有する固形燃料が得られることが確認された。
【0050】
[無機バインダの含有量の影響]
(実施例5~7)
各バイオマス炭化物と市販の早強ポルトランドセメントとの配合比率を、表2に示すとおりに変更したこと以外は、実施例2と同様にして固形燃料を作製し、固形燃料の熱間強度を測定した。結果を表2に示す。表2には、比較のため実施例2の結果も併せて示す。
【0051】
(実施例8~10)
各バイオマス炭化物と市販の早強ポルトランドセメントとの配合比率を、表2に示すとおりに変更したこと以外は、実施例4と同様にして固形燃料を作製し、固形燃料の熱間強度を測定した。結果を表2に示す。表2には、比較のため実施例4の結果も併せて示す。
【0052】
【0053】
表2に示すとおり、無機バインダ(早強ポルトランドセメント)の比率を大きくすることで、熱間強度を高くできることが確認された。固形燃料における無機バインダの含有量を15質量%以上にすることで、固形燃料の熱間強度を1000N以上にすることができた。
【0054】
[バイオマス炭化物の粒子径の影響]
(実施例11~14)
バイオマス炭化物の篩分けに用いた篩を変更し、表3に示すような粒子径のバイオマス炭化物を用いたこと以外は、実施例2と同様にして固形燃料を作製し、固形燃料の熱間強度を測定した。結果を表3に示す。表3には、比較のため実施例2の結果も併せて示す。
【0055】
(実施例15~18)
粉末ミルによる粉砕時間を変えて、表3に示すような粒子径のバイオマス炭化物を調製した。このような粒子径のバイオマス炭化物を用いたこと以外は、実施例4と同様にして固形燃料を作製し、固形燃料の熱間強度を測定した。結果を表3に示す。表3には、比較のため実施例4の結果も併せて示す。
【0056】
【0057】
表3に示すとおり、バイオマス炭化物の粒子径を変えることによって固形燃料の熱間強度の値を調整できることが確認された。バイオマス炭化物の粒子径が1mm以下の場合に最も高い熱間強度を有する固形燃料を得ることができた。
【0058】
[水添加率の影響]
(実施例19~23)
早強ポルトランドセメントに対する水の質量比(水添加率)を、表4に示すとおりに変更したこと以外は、実施例13と同様にして固形燃料を作製し、固形燃料の熱間強度を測定した。結果を表4に示す。表4には、比較のため実施例13の結果も併せて示す。
【0059】
(実施例24~28)
早強ポルトランドセメントに対する水の質量比(水添加率)を、表4に示すとおりに変更したこと以外は、実施例2と同様にして固形燃料を作製し、固形燃料の熱間強度を測定した。結果を表4に示す。表4には、比較のため実施例2の結果も併せて示す。
【0060】
【0061】
表4の「水分」は、バイオマス炭化物及び早強ポルトランドセメントの合計に対する水の質量比率である。表4に示すとおり、水添加率が1.1、水分が33質量%程度にまで増えるにつれて、熱間強度が上昇することが確認された。
【0062】
[無機バインダの種類と養生条件の影響]
(実施例29~31)
40℃における成形体の養生時間を表5に示すとおりに変更したこと以外は、実施例2と同様にして固形燃料を作製し、固形燃料の熱間強度を測定した。結果を表5に示す。表5には、比較のため実施例2の結果も併せて示す。
【0063】
(実施例32~34)
早強ポルトランドセメントの代わりに市販の普通ポルトランドセメント(株式会社トクヤマ製)を用いたこと、及び、40℃における成形体の養生時間を表5に示すとおりに変更したこと以外は、実施例2と同様にして固形燃料を作製し、固形燃料の熱間強度を測定した。結果を表5に示す。
【0064】
【0065】
表5の結果から、無機バインダが普通ポルトランドセメントであっても、養生時間を長くすれば、高温環境で十分な強度を有する固形燃料が得られることが確認された。
【0066】
[添加物の効果]
(実施例35~41)
以下の添加物を準備した。いずれも市販品である。
・ポリビニルアルコール
・カルボキシメチルセルロース
・澱粉
・ベントナイト
・カオリン
・蛙目粘土
・けい酸ナトリウム
【0067】
実施例2で用いたバイオマス炭化物と市販の早強ポルトランドセメントとを、70:30の質量比率で配合し、水を加えて混練した。このとき、上記添加物を、表6に示す添加割合で添加した。表6に示す添加割合は、バイオマス炭化物と早強ポルトランドセメントの合計に対する質量比率である。早強ポルトランドセメントに対する水の質量比(水添加率)は、1.1とした。このような成形原料を用いたこと以外は、実施例2と同様にして固形燃料を作製し、固形燃料の熱間強度を測定した。結果を表6に示す。表6の実施例2Aは、添加物を添加せずに実施例2と同じ手順で固形燃料を調製したものである。
【0068】
各実施例において、成形直後、40℃で1日間養生する前の成形体の強度も測定した。この強度の測定結果を「冷間強度」として表7に示す。表6及び表7の数値の単位は「N」である。
【0069】
冷間強度は、加熱処理を行うことなく、成形直後に測定される強度である。冷間強度も、熱間強度と同様に、成形体(試料10)を
図2に示すように測定台20の上に載置し、矢印方向(径方向)に荷重を加えて亀裂又は割れが生じた時点の強度を測定した。
【0070】
【0071】
【0072】
表6に示すとおり、添加物を加えても、熱間強度に大きな変化はなかった。一方、表7に示すとおり、添加物を含むことによって、冷間強度を大幅に向上できることが確認された。これによって、無機バインダが硬化するまでのハンドリング性を改善することができる。特に、有機バインダの一種であるポリビニルアルコールを加えた場合に、冷間強度が特に高くなることが分かった。
【符号の説明】
【0073】
10…試料、20…測定台、40…溶融炉、40a…乾燥・予熱帯、40b…熱分解帯、40c…燃焼・溶融帯、41…コークス充填層、42…シャフト部、43…熱分解残渣、44…朝顔部、45…上段羽口、46…炉底部、47…下段羽口、48…廃棄物、49…出滓口、50…装入装置、52…排ガス管、100…廃棄物溶融処理設備。
【要約】
【課題】高温環境で十分な強度を有する固形燃料及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】無水無灰ベースで固定炭素が85質量%以上であるバイオマス炭化物と、乾燥状態におけるCaOの含有量が50質量%以上である無機バインダと、を含む、固形燃料を提供する。無水無灰ベースで固定炭素が85質量%以上であるバイオマス炭化物と、乾燥状態におけるCaOの含有量が50質量%以上である無機バインダと、水と、を含む成形原料を混練し成形し、固形燃料を得る工程を有する、固形燃料の製造方法を提供する。
【選択図】
図1