(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】反射型フォトマスクブランク及び反射型フォトマスク
(51)【国際特許分類】
G03F 1/24 20120101AFI20241108BHJP
【FI】
G03F1/24
(21)【出願番号】P 2024131670
(22)【出願日】2024-08-08
(62)【分割の表示】P 2021002248の分割
【原出願日】2021-01-08
【審査請求日】2024-09-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522212882
【氏名又は名称】株式会社トッパンフォトマスク
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】山形 悠斗
(72)【発明者】
【氏名】合田 歩美
(72)【発明者】
【氏名】中野 秀亮
(72)【発明者】
【氏名】市川 顯二郎
【審査官】植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-118143(JP,A)
【文献】特開2011-35104(JP,A)
【文献】国際公開第2019/009211(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0146331(US,A1)
【文献】特開2020-197606(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
G03F 1/00~1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
極端紫外線を光源としたパターン転写用の反射型フォトマスクを作製するための反射型フォトマスクブランクであって、
基板と、
前記基板上に、前記基板と接して形成されて入射した光を反射する反射部と、
前記反射部上に、前記反射部と接して形成されて入射した光を吸収する低反射部と、を備え、
前記反射部は、多層反射膜とキャッピング層とを備え、
前記キャッピング層は、少なくともルテニウム(Ru)を含み、
前記低反射部は、白金(Pt)、及びニッケル(Ni)、並びにその酸化物、窒化物、弗化物、ホウ化物、酸窒化物、酸ホウ化物、及び酸窒化ホウ化物から選ばれる少なくとも1種類以上の材料を40at%以上含み、
前記低反射部の前記キャッピング層側から少なくとも厚さ2nmの領域には、ルテニウム(Ru)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ロジウム(Rh)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、レニウム(Re)、及びイリジウム(Ir)、並びにその酸化物、窒化物、弗化物、ホウ化物、酸窒化物、酸ホウ化物、及び酸窒化ホウ化物からなる第1の材料群から選ばれる少なくとも1種類以上の材料を25at%以上含む、または、
イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、パラジウム(Pd)、ハフニウム(Hf)、ベリリウム(Be)、及び亜鉛(Zn)、並びにその酸化物、窒化物、弗化物、ホウ化物、酸窒化物、酸ホウ化物、及び酸窒化ホウ化物からなる第2の材料群から選ばれる少なくとも1種類以上の材料を30at%以上含み、
前記低反射部の合計膜厚は、45nm以下であることを特徴とする反射型フォトマスクブランク。
【請求項2】
前記低反射部は、前記キャッピング層の上に形成された吸収層を備え、または、前記キャッピング層の上に形成された密着層と、その上に形成された吸収層とを備え、
前記吸収層は、白金(Pt)、及びニッケル(Ni)、並びにその酸化物、窒化物、弗化物、ホウ化物、酸窒化物、酸ホウ化物、及び酸窒化ホウ化物から選ばれる少なくとも1種類以上の材料を40at%以上含み、
前記吸収層及び密着層は、前記第1の材料群から選ばれる少なくとも1種類以上の材料を25at%以上含む、または、
前記第2の材料群から選ばれる少なくとも1種類以上の材料を30at%以上含むことを特徴とする請求項1に記載の反射型フォトマスクブランク。
【請求項3】
前記低反射部は、単一の層からなる場合であっても、その膜厚が45nm以下であり、
前記低反射部は、前記第1の材料群から選ばれる少なくとも1種類以上の材料を25at%以上含む、または、
前記第2の材料群から選ばれる少なくとも1種類以上の材料を30at%以上含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の反射型フォトマスクブランク。
【請求項4】
前記低反射部は、複数層に分割された場合であっても、その合計膜厚が45nm以下であり、
前記低反射部のうち前記キャッピング層側に設けられた密着層は、その膜厚が2nm以上20nm以下の範囲内であり、
前記密着層は、前記第1の材料群から選ばれる少なくとも1種類以上の材料を25at%以上含む、または、
前記第2の材料群から選ばれる少なくとも1種類以上の材料を30at%以上含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の反射型フォトマスクブランク。
【請求項5】
基板と、
前記基板上に、前記基板と接して形成されて入射した光を反射する反射部と、
前記反射部上に、前記反射部と接して形成されて入射した光を吸収する低反射部と、を備え、
前記反射部は、多層反射膜とキャッピング層とを備え、
前記キャッピング層は、少なくともルテニウム(Ru)を含み、
前記低反射部は、白金(Pt)、及びニッケル(Ni)、並びにその酸化物、窒化物、弗化物、ホウ化物、酸窒化物、酸ホウ化物、及び酸窒化ホウ化物から選ばれる少なくとも1種類以上の材料を40at%以上含み、
前記低反射部の前記キャッピング層側から少なくとも厚さ2nmの領域には、ルテニウム(Ru)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ロジウム(Rh)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、レニウム(Re)、及びイリジウム(Ir)、並びにその酸化物、窒化物、弗化物、ホウ化物、酸窒化物、酸ホウ化物、及び酸窒化ホウ化物からなる第1の材料群から選ばれる少なくとも1種類以上の材料を25at%以上含む、または、
イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、パラジウム(Pd)、ハフニウム(Hf)、ベリリウム(Be)、及び亜鉛(Zn)、並びにその酸化物、窒化物、弗化物、ホウ化物、酸窒化物、酸ホウ化物、及び酸窒化ホウ化物からなる第2の材料群から選ばれる少なくとも1種類以上の材料を30at%以上含み、
前記低反射部の合計膜厚は、45nm以下であることを特徴とする反射型フォトマスク。
【請求項6】
前記低反射部は、前記キャッピング層の上に形成された吸収層を備え、または、前記キャッピング層の上に形成された密着層と、その上に形成された吸収層とを備え、
前記吸収層は、白金(Pt)、及びニッケル(Ni)、並びにその酸化物、窒化物、弗化物、ホウ化物、酸窒化物、酸ホウ化物、及び酸窒化ホウ化物から選ばれる少なくとも1種類以上の材料を40at%以上含み、
前記吸収層及び密着層は、前記第1の材料群から選ばれる少なくとも1種類以上の材料を25at%以上含む、または、
前記第2の材料群から選ばれる少なくとも1種類以上の材料を30at%以上含むことを特徴とする請求項5に記載の反射型フォトマスク。
【請求項7】
前記低反射部は、単一の層からなる場合であっても、その膜厚が45nm以下であり、
前記低反射部は、前記第1の材料群から選ばれる少なくとも1種類以上の材料を25at%以上含む、または、
前記第2の材料群から選ばれる少なくとも1種類以上の材料を30at%以上含むことを特徴とする請求項5または請求項6に記載の反射型フォトマスク。
【請求項8】
前記低反射部は、複数層に分割された場合であっても、その合計膜厚が45nm以下であり、
前記低反射部のうち前記キャッピング層側に設けられた密着層は、その膜厚が2nm以上20nm以下の範囲内であり、
前記密着層は、前記第1の材料群から選ばれる少なくとも1種類以上の材料を25at%以上含む、または、
前記第2の材料群から選ばれる少なくとも1種類以上の材料を30at%以上含むことを特徴とする請求項5または請求項6に記載の反射型フォトマスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外領域の光を光源としたリソグラフィで使用する反射型フォトマスク及びこれを作製するための反射型フォトマスクブランクに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造プロセスにおいては、半導体デバイスの微細化に伴い、フォトリソグラフィ技術の微細化に対する要求が高まっている。フォトリソグラフィにおける転写パターンの最小解像寸法は、露光光源の波長に大きく依存し、波長が短いほど最小解像寸法を小さくできる。このため、露光光源は、従来の波長193nmのArFエキシマレーザー光から、波長13.5nmのEUV(Extreme Ultra Violet:極端紫外線)領域の光に置き換わってきている。
【0003】
EUV領域の光は、ほとんどの物質で高い割合で吸収されるため、EUV露光用のフォトマスク(EUVマスク)としては、反射型のフォトマスクが使用される(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、ガラス基板上にモリブデン(Mo)層及びシリコン(Si)層を交互に積層した多層膜からなる反射層を形成し、その上にタンタル(Ta)を主成分とする吸収層を形成し、この吸収層にパターンを形成することで得られたEUVフォトマスクが開示されている。
【0004】
また、EUVリソグラフィは、前記のように、光の透過を利用する屈折光学系が使用できないことから、露光機の光学系部材もレンズではなく、反射型(ミラー)となる。このため、反射型フォトマスク(EUVマスク)への入射光と反射光とが同軸上に設計できない問題があり、通常、EUVリソグラフィでは、光軸をEUVマスクの垂直方向から6度傾けて入射し、マイナス6度の角度で反射する反射光を半導体基板に導く手法が採用されている。
このように、EUVリソグラフィではミラーを介し光軸を傾斜させることから、EUVマスクに入射するEUV光がEUVマスクのマスクパターン(パターン化された吸収層)の影をつくる、いわゆる「射影効果」と呼ばれる問題が発生することが知られている。
【0005】
現在のEUVマスクブランクでは、吸収層として膜厚60nm~90nmのタンタル(Ta)を主成分とした膜が用いられている。このマスクブランクを用いて作製したEUVマスクでパターン転写の露光を行った場合、EUV光の入射方向とマスクパターンの向きとの関係によっては、マスクパターンの影となるエッジ部分で、コントラストの低下を引き起こす恐れがある。これに伴い、半導体基板上の転写パターンのラインエッジラフネスの増加や、線幅が狙った寸法に形成できないなどの問題が生じ、転写性能が悪化することがある。
【0006】
そこで、吸収層をタンタル(Ta)からEUV光に対する吸収性(消衰係数)が高い材料への変更や、タンタル(Ta)に吸収性の高い材料を加えた反射型フォトマスクブランクが検討されている。例えば、特許文献2では、吸収層を、タンタル(Ta)を主成分として50原子%(at%)以上含み、さらにテルル(Te)、アンチモン(Sb)、白金(Pt)、ヨウ素(I)、ビスマス(Bi)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)、タングステン(W)、レニウム(Re)、錫(Sn)、インジウム(In)、ポロニウム(Po)、鉄(Fe)、金(Au)、水銀(Hg)、ガリウム(Ga)及びアルミニウム(Al)から選ばれた少なくとも一種の元素を含む材料で構成した反射型フォトマスクブランクが記載されている。
【0007】
さらに、ミラーは、EUV発生による副生成物(例えば錫(Sn))や炭素(C)などによって汚染されることが知られている。汚染物質がミラーに蓄積することにより、ミラー表面の反射率が減少し、リソグラフィ装置のスループットが低下することがある。この問題に対し、特許文献3では、装置内に水素ラジカルを生成することで、水素ラジカルと汚染物質とを反応させて、ミラーからこの汚染物質を除去する方法が開示されている。
【0008】
特許文献3の方法では、装置内に水素ラジカルの他に水素イオンなども生成するが、これらの原子状水素は、フォトマスク中のキャッピング層と低反射部との間にも侵入し得る。侵入した原子状水素は層間に高濃度水素領域を形成し、この領域において原子状水素が互いに結合することで水素分子となり得る。このようにして生じた水素分子は気泡となって層間の空孔密度を増加させ、層間剥離を生じさせ得る。
【0009】
この問題に対して、層間剥離を生じうる層間に水素吸収層を設けることで層間剥離を予防する反射型フォトマスクブランクが検討されている。例えば、特許文献4に記載のフォトマスクブランクでは、多層反射膜とキャッピング層との間に水素吸収層を設けることで、層間剥離の原因となりうる原子状水素を水素吸収層に取り込む手法が開示されている。
しかしながら、特許文献4に記載の反射型フォトマスクブランクでは、キャッピング層と低反射部の層間剥離については記述されていない。そのため、EUV露光装置への導入によって吸収層に形成された転写パターン(マスクパターン)を安定的に維持できず、結果として転写性が悪化する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2011-176162号公報
【文献】特開2007-273678号公報
【文献】特開2011-530823号公報
【文献】特開2019-113825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は、極端紫外領域の波長の光を光源としたパターニング転写用の反射型フォトマスクの射影効果を抑制または軽減し、且つキャッピング層と低反射部との層間の密着性が高い反射型フォトマスクブランク及び反射型フォトマスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係るフォトマスクブランクは、極端紫外線を光源としたパターン転写用の反射型フォトマスクを作製するための反射型フォトマスクブランクであって、基板と、前記基板上に形成されて入射した光を反射する反射部と、前記反射部上に形成されて入射した光を吸収する低反射部と、を備え、前記反射部は、多層反射膜とキャッピング層とを備え、前記キャッピング層は、少なくともルテニウム(Ru)を含み、前記低反射部は、銀(Ag)、コバルト(Co)、インジウム(In)、白金(Pt)、錫(Sn)、ニッケル(Ni)、及びテルル(Te)、並びにその酸化物、窒化物、弗化物、ホウ化物、酸窒化物、酸ホウ化物、及び酸窒化ホウ化物から選ばれる少なくとも1種類以上の材料を40at%以上含み、前記低反射部の前記キャッピング層側から少なくとも厚さ2nmの領域には、ルテニウム(Ru)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、テクネチウム(Tc)、ロジウム(Rh)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、及びイリジウム(Ir)、並びにその酸化物、窒化物、弗化物、ホウ化物、酸窒化物、酸ホウ化物、及び酸窒化ホウ化物から
なる第1の材料群から選ばれる少なくとも1種類以上の材料を25at%以上含む、または、スカンジウム(Sc)、銅(Cu)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、パラジウム(Pd)、ランタン(La)、ハフニウム(Hf)、金(Au)、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、及びアルミニウム(Al)、並びにその酸化物、窒化物、弗化物、ホウ化物、酸窒化物、酸ホウ化物、及び酸窒化ホウ化物からなる第2の材料群から選ばれる少なくとも1種類以上の材料を30at%以上含み、前記低反射部の合計膜厚は、45nm以下である。
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係るフォトマスクは、基板と、前記基板上に形成されて入射した光を反射する反射部と、前記反射部上に形成されて入射した光を吸収する低反射部と、を備え、前記反射部は、多層反射膜とキャッピング層とを備え、前記キャッピング層は、少なくともルテニウム(Ru)を含み、前記低反射部は、銀(Ag)、コバルト(Co)、インジウム(In)、白金(Pt)、錫(Sn)、ニッケル(Ni)、及びテルル(Te)、並びにその酸化物、窒化物、弗化物、ホウ化物、酸窒化物、酸ホウ化物、及び酸窒化ホウ化物から選ばれる少なくとも1種類以上の材料を40at%以上含み、前記低反射部の前記キャッピング層側から少なくとも厚さ2nmの領域には、ルテニウム(Ru)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、テクネチウム(Tc)、ロジウム(Rh)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、及びイリジウム(Ir)、並びにその酸化物、窒化物、弗化物、ホウ化物、酸窒化物、酸ホウ化物、及び酸窒化ホウ化物からなる第1の材料群から選ばれる少なくとも1種類以上の材料を25at%以上含む、または、スカンジウム(Sc)、銅(Cu)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、パラジウム(Pd)、ランタン(La)、ハフニウム(Hf)、金(Au)、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、及びアルミニウム(Al)、並びにその酸化物、窒化物、弗化物、ホウ化物、酸窒化物、酸ホウ化物、及び酸窒化ホウ化物からなる第2の材料群から選ばれる少なくとも1種類以上の材料を30at%以上含み、前記低反射部の合計膜厚は、45nm以下である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様によれば、極端紫外領域の波長の光を光源としたパターニングにおいて半導体基板への転写性能が向上し、フォトマスクの製造時、並びに使用時において外部環境に対し耐性を期待できる。つまり、本発明の一態様に係る反射型フォトマスクブランク及び反射型フォトマスクであれば、極端紫外領域の波長の光を光源としたパターニング転写用の反射型フォトマスクの射影効果を抑制または軽減し、且つ、キャッピング層と低反射部の層間で高い密着性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクブランクの構造を示す概略断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクの構造を示す概略断面図である。
【
図3】EUV光の波長における屈折率nと消衰係数kを示すマップである。
【
図4】本発明の実施形態の変形例に係る反射型フォトマスクの構造を示す概略断面図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクブランク及びに反射型フォトマスクに備わる吸収層(低反射部)における第1の材料群に属する材料の含有量(濃度)分布及び高消衰係数材料の含有量(濃度)分布の例を示す概念図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクブランク及びに反射型フォトマスクに備わる吸収層(低反射部)における第1の材料群に属する材料の含有量(濃度)分布及び高消衰係数材料の含有量(濃度)分布の例を示す概念図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクブランク及びに反射型フォトマスクに備わる吸収層(低反射部)における第1の材料群に属する材料の含有量(濃度)分布及び高消衰係数材料の含有量(濃度)分布の例を示す概念図である。
【
図8】本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクブランク及びに反射型フォトマスクに備わる吸収層(低反射部)における第1の材料群に属する材料の含有量(濃度)分布及び高消衰係数材料の含有量(濃度)分布の例を示す概念図である。
【
図9】本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクの構造を示す概略断面図である。
【
図10】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクブランクの構造を示す概略断面図である。
【
図11】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクの製造工程を示す概略断面図である。
【
図12】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクの製造工程を示す概略断面図である。
【
図13】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクの製造工程を示す概略断面図である。
【
図14】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクの構造を示す概略断面図である。
【
図15】本発明の実施例に係る転写評価用の線幅64nmLSパターンを示す概略平面図である。
【
図16】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクブランクの構造を示す概略断面図である。
【
図17】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクの構造を示す概略断面図である。
【
図18】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクブランクの構造を示す概略断面図である。
【
図19】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクの構造を示す概略断面図である。
【
図20】本発明の比較例に係る反射型フォトマスクブランクの構造を示す概略断面図である。
【
図21】本発明の比較例に係る反射型フォトマスクの構造を示す概略断面図である。
【
図22】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクブランク及びに反射型フォトマスクに備わる吸収層(低反射部)における第1の材料群に属する材料の含有量(濃度)分布及び高消衰係数材料の含有量(濃度)分布の例を示す概念図である。
【
図23】本発明の比較例に係る反射型フォトマスクブランク及びに反射型フォトマスクに備わる吸収層(低反射部)における第1の材料群に属する材料の含有量(濃度)分布及び高消衰係数材料の含有量(濃度)分布の例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明するが、本発明は以下に示す実施形態に限定されない。以下に示す実施形態では、本発明を実施するために技術的に好ましい限定がなされているが、この限定は本発明の必須要件ではない。
図1は、本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクブランク10の構造を示す概略断面図である。また、
図2は、本発明の実施形態に係る反射型フォトマスク20の構造を示す概略断面図である。ここで、
図2に示す本発明の実施形態に係る反射型フォトマスク20は、
図1に示す本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクブランク10の低反射部4をパターニングして形成したものである。
【0017】
(全体構造)
図1に示すように、本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクブランク10は、基板1と、基板1上に形成された多層反射膜2と、多層反射膜2の上に形成されたキャッピング層3を備えている。これにより、基板1上には多層反射膜2及びキャッピング層3を有する反射部5が形成されており、反射部5上に低反射部4を備えている。低反射部4は吸収層から構成されていてもよく、また、
図4に示すように、密着層と吸収層から構成されていてもよい。
【0018】
(基板)
本発明の実施形態に係る基板1には、例えば、平坦なシリコン(Si)基板や合成石英基板等を用いることができる。また、基板1には、チタン(Ti)を添加した低熱膨張ガラスを用いることができるが、熱膨張率の小さい材料であれば、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0019】
(多層反射膜)
本発明の実施形態に係る多層反射膜2は、露光光であるEUV光(極端紫外光)を反射するものであればよく、EUV光に対する屈折率の大きく異なる材料の組み合わせによる多層反射膜であってもよい。多層反射膜2としては、例えば、モリブデン(Mo)とシリコン(Si)、またはモリブデン(Mo)とベリリウム(Be)といった組み合わせの層を40周期程度繰り返し積層することにより形成したものであってもよい。
【0020】
(キャッピング層)
本発明の実施形態に係るキャッピング層3は、低反射部4に転写パターン(マスクパターン)を形成する際に行われるドライエッチングに対して耐性を有する材質で形成されており、低反射部4をエッチングする際に、多層反射膜2へのダメージを防ぐエッチングストッパとして機能するものである。キャッピング層3は、少なくともルテニウム(Ru)を含有する材料で形成されている。キャッピング層3におけるルテニウム(Ru)の含有量は、キャッピング層3全体の質量に対して、30質量%以上100質量%以下の範囲内であれば好ましく、50質量%以上100質量%以下の範囲内であればより好ましく、80質量%以上100質量%以下の範囲内であればさらに好ましい。ルテニウム(Ru)の含有量がキャッピング層3全体の質量に対して30質量%以上であれば、上述したエッチングストッパとしての機能がさらに向上する。
また、図示しないが、基板1の多層反射膜2を形成していない面に裏面導電膜を形成することができる。裏面導電膜は、反射型フォトマスク20を露光機に設置するときに静電チャックの原理を利用して固定するための膜である。
【0021】
(低反射部)
図2に示すように、反射型フォトマスクブランク10の低反射部4の一部を除去することにより、即ち低反射部4をパターニングすることにより、反射型フォトマスク20の低反射部パターン4aが形成される。EUVリソグラフィにおいて、EUV光は斜めに入射し、反射部5で反射されるが、低反射部パターン4aが光路の妨げとなる射影効果により、ウェハ(半導体基板)上への転写性能が悪化することがある。この転写性能の悪化は、EUV光を吸収する低反射部4の厚さを薄くすることで低減される。低反射部4の厚さを薄くするためには、従来の材料よりEUV光に対し吸収性の高い材料、つまり波長13.5nmに対する消衰係数kの高い材料を適用することが好ましい。
【0022】
図3は、一部の金属材料のEUV光の波長13.5nmに対する光学定数を示すグラフである。
図3の横軸は屈折率nを表し、縦軸は消衰係数kを示している。従来の低反射部4の主材料であるタンタル(Ta)の消衰係数kは0.041である。それより大きい消
衰係数kを有する材料であれば、従来に比べて低反射部4の厚さを薄くすることが可能である。
上記のような消衰係数kを満たす材料としては、
図3に示すように、例えば、銀(Ag)、プラチナ(Pt)、インジウム(In)、コバルト(Co)、錫(Sn)、ニッケル(Ni)、テルル(Te)がある。
【0023】
反射部5からの反射光の強度をRmとし、低反射部4からの反射光の強度をRaとし、反射部5と低反射部4の光強度のコントラストを表す指標である光学濃度(OD:Optical Density)値は、以下の式(1)で規定される。
OD=-log(Ra/Rm) ・・・式(1)
OD値は大きいほうがコントラストは良く、高い転写性が得られる。パターン転写にはOD>1が必要であるが、上記従来との比較により、OD値は1.5以上であると、更に好ましい。
【0024】
従来のEUV反射型フォトマスクの低反射部4には、上述のようにTaを主成分とする化合物材料が適用されてきた。この場合、OD値で1以上を得るには、低反射部4の膜厚は40nm以上必要であり、OD値で2以上を得るには、低反射部4の膜厚は70nm以上必要であった。タンタル(Ta)の消衰係数kは0.041だが、
図3に示した材料のうち、銀(Ag)、プラチナ(Pt)、インジウム(In)、コバルト(Co)、錫(Sn)、ニッケル(Ni)、テルル(Te)はすべて消衰係数が0.041以上であるため、タンタル(Ta)を用いた場合に比べて薄膜化が可能であるが、特に、錫(Sn)とインジウム(In)の酸化物は塩素系ガスによるエッチング加工が可能であるため候補材料として望ましい。
【0025】
例えば、消衰係数kが0.06以上の錫(Sn)と酸素(O)とを含む材料、あるいはインジウム(In)と酸素(O)とを含む材料を低反射部4に適用することで、少なくともOD値が1以上であれば低反射部4の膜厚を17nmまで薄膜化することが可能であり、OD値が2以上であれば低反射部4の膜厚を45nm以下にすることが可能である。ただし、低反射部4の膜厚が45nmを超えると、従来のTaを主成分とした化合物材料で形成された膜厚60nmの低反射部4と射影効果が同程度となってしまう。
【0026】
そのため、本発明の実施形態における低反射部4は、銀(Ag)、コバルト(Co)、インジウム(In)、白金(Pt)、錫(Sn)、ニッケル(Ni)、テルル(Te)並びにその酸化物、窒化物、弗化物、ホウ化物、酸窒化物、酸ホウ化物、及び酸窒化ホウ化物から選ばれる少なくとも1種類以上の材料(以下、高消衰係数材料とも称する)を40at%以上含み、その膜厚が45nm以下であることを特徴とする。つまり、低反射部4の膜厚が45nm以下の範囲内であると、タンタル(Ta)を主成分とした化合物材料で形成された従来の低反射部4に比べて、射影効果を十分に低減することができ、転写性能が向上する。ここで、上述の高消衰係数材料の含有量が低反射部4全体の原子数に対して40at%以上であれば、低反射部4の膜厚を45nm以下にすることが容易になる。また、上述の高消衰係数材料の含有量が低反射部4全体の原子数に対して75at%以下であれば、キャッピング層3との密着性が向上する。なお、上述の高消衰係数材料の含有量は、低反射部4全体の原子数に対して45at%以上65at%以下の範囲内であれば好ましく、50at%以上60at%以下の範囲内であればさらに好ましい。
更に、微細なパターンを転写するためには、反射部5と低反射部4から反射した光の強度のコントラストは高い方が望ましい。よって、低反射部4のOD値は1.5以上であることが、より好ましい。
【0027】
後述する第1の材料群に属する材料、及び第2の材料群に属する材料は、キャッピング層3と低反射部4との密着性を高める材料としての条件を満たす。これは、第1の材料群
に属する材料、及び第2の材料群に属する材料が、キャッピング層3に含まれるルテニウム(Ru)の表面自由エネルギーの値に近い値をそれぞれ有するためである。特に、第1の材料群に属する材料は、第2の材料群に属する材料に比べて、ルテニウム(Ru)の表面自由エネルギーに近い値を持つため、キャッピング層3と低反射部4との密着性をより強固にする。
【0028】
第1の材料群に属する材料は、ルテニウム(Ru)の表面自由エネルギーを基準として±0.5[J/m2]未満の表面自由エネルギーを有する材料であり、第2の材料群に属する材料は、ルテニウム(Ru)の表面自由エネルギーを基準として±0.5[J/m2]以上±2[J/m2]未満の表面自由エネルギーを有する材料である。
このことより、低反射部4のキャッピング層3側から少なくとも厚さ2nm以上の領域に含有する材料は、第1の材料群に属する材料、または第2の材料群に属する材料の他に、別の材料を混合した材料を用いることができるが、キャッピング層3との密着性を低下させないために、第1の材料群から選ばれる少なくとも1種類以上の材料、または、第2の材料群から選ばれる少なくとも1種類以上の材料をそれぞれ少なくとも25at%以上、30at%以上含有する材料であることが好ましい。
【0029】
ここで、上述の第1の材料群とは、ルテニウム(Ru)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、テクネチウム(Tc)、ロジウム(Rh)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、及びイリジウム(Ir)、並びにその酸化物、窒化物、弗化物、ホウ化物、酸窒化物、酸ホウ化物、及び酸窒化ホウ化物からなる材料群をいう。
【0030】
また、上述の第2の材料群とは、スカンジウム(Sc)、銅(Cu)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、パラジウム(Pd)、ランタン(La)、ハフニウム(Hf)、金(Au)、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、及びアルミニウム(Al)、並びにその酸化物、窒化物、弗化物、ホウ化物、酸窒化物、酸ホウ化物、及び酸窒化ホウ化物からなる材料群をいう。
【0031】
第1の材料群から選ばれる少なくとも1種類以上の材料の含有量が、低反射部4のキャッピング層3側から少なくとも厚さ2nm以上の領域を構成する材料全体の原子数に対して25at%以上であれば、キャッピング層3と低反射部4との密着性がさらに強固になる。なお、第1の材料群から選ばれる少なくとも1種類以上の材料の含有量は、低反射部4のキャッピング層3側から少なくとも厚さ2nm以上の領域を構成する材料全体の原子数に対して40at%以上であればより好ましく、50at%以上であればさらに好ましい。
【0032】
第2の材料群から選ばれる少なくとも1種類以上の材料の含有量が、低反射部4のキャッピング層3側から少なくとも厚さ2nm以上の領域を構成する材料全体の原子数に対して30at%以上であれば、キャッピング層3と低反射部4との密着性がさらに強固になる。なお、第2の材料群から選ばれる少なくとも1種類以上の材料の含有量は、低反射部4のキャッピング層3側から少なくとも厚さ2nm以上の領域を構成する材料全体の原子数に対して45at%以上であればより好ましく、55at%以上であればさらに好ましい。
【0033】
上述した実施形態では、第1の材料群から選ばれる少なくとも1種類以上の材料の含有量が、低反射部4のキャッピング層3側から少なくとも厚さ2nm以上の領域を構成する材料全体の原子数に対して25at%以上である場合や、第2の材料群から選ばれる少な
くとも1種類以上の材料の含有量が、低反射部4のキャッピング層3側から少なくとも厚さ2nm以上の領域を構成する材料全体の原子数に対して30at%以上である場合について説明したが、本発明はこれに限定させるものではない。
例えば、第1の材料群から選ばれる少なくとも1種類以上の材料の含有量は、吸収層のみで構成された低反射部4全体を構成する材料の原子数に対して25at%以上であってもよいし、第2の材料群から選ばれる少なくとも1種類以上の材料の含有量は、吸収層のみで構成された低反射部4全体を構成する材料の原子数に対して30at%以上であってもよい。
【0034】
つまり、第1の材料群から選ばれる少なくとも一種類以上の材料の含有量が、低反射部4全体の原子数に対して25at%以上であれば、キャッピング層3と低反射部4との密着性がさらに強固になる。また、第一の材料群から選ばれる少なくとも一種類以上の材料の含有量が、低反射部4全体の原子数に対して60at%以下であれば、射影効果に悪影響を与える可能性が少ない。なお、第1の材料群から選ばれる少なくとも1種類以上の材料の含有量は、低反射部4全体の原子数に対して30at%以上55at%以下の範囲内であれば好ましく、35at%以上50at%以下の範囲内であればさらに好ましい。
さらに、低反射部4全体における第2の材料群の組成は30at%以上60at%以下であれば好ましく、35at以上55at%以下の範囲であればさらに好ましく、40at%以上50at%以下の範囲であれば最適である。
【0035】
また、第1の材料群から選ばれる少なくとも1種類以上の材料の含有量は、後述する密着層と吸収層とで構成された低反射部4全体を構成する材料の原子数に対して25at%以上であってもよいし、第2の材料群から選ばれる少なくとも1種類以上の材料の含有量は、後述する密着層と吸収層とで構成された低反射部4全体を構成する材料の原子数に対して30at%以上であってもよい。
【0036】
(第1の形態)
本実施形態における第1の形態を、
図2を参照しつつ説明する。
エッチング加工性を容易なものとするためには、低反射部4を構成する吸収層を均一な組成の膜とすることが有効である。
そのため、吸収層は、エッチング加工性を容易なものとするために、吸収層全体の原子数に対して、銀(Ag)、コバルト(Co)、インジウム(In)、白金(Pt)、錫(Sn)、ニッケル(Ni)、テルル(Te)並びにその酸化物、窒化物、弗化物、ホウ化物、酸窒化物、酸ホウ化物、及び酸窒化ホウ化物から選ばれる1種類以上の材料(高消衰係数材料)を少なくとも40at%以上含み、且つ第1の材料群から選ばれる1種類以上の材料を少なくとも25at%以上含む、または、第2の材料群から選ばれる1種類以上の材料を少なくとも30at%以上含む、均一な組成を持つ構造体であることが好ましい。
【0037】
また、本実施形態に係る吸収層は、複数層で構成されていてもよく、吸収層上にエッチングマスクとなるHM(ハードマスク)層、検査光コントラスト向上のためのAR(反射防止)膜などを設けてもよい。その場合であっても、吸収層を構成する各層の膜厚を合計した総膜厚は、45nm以下であることが好ましい。つまり、低反射部4は、単一の層からなる場合であっても、その膜厚が45nm以下であることが好ましく、また、複数層に分割された場合であっても、その合計膜厚が45nm以下であることが好ましい。
【0038】
(第2の形態)
本実施形態における第2の形態を、
図4を参照しつつ説明する。
射影効果を低減させ、且つ原子状水素がキャッピング層と吸収層との層間に侵入することを予防するためには、
図4に示すように、消衰係数kの高い材料を吸収層542に添加
し、且つキャッピング層3と吸収層542とをより強固に密着させるための密着層541を設けることが有効である。密着層541を形成する材料は、
図1に示す吸収層(低反射部4)を形成する材料と同じであって、キャッピング層3を形成するルテニウム(Ru)の表面自由エネルギーに近い値を持つ材料であることが望ましい。
そのため、密着層541は、2nm以上20nm以下の膜厚を有し、上述の第1の材料群から選ばれる1種類以上の材料を25at%以上含む、または、上述の第2の材料群から選ばれる1種類以上の材料を30at%以上含むことが好ましい。
密着層541の膜厚が2nm以上であれば、市販されているXPS装置を用いた構成元素の分析(構成元素の含有量測定)が可能となる。また、密着層541の膜厚が20nm以下であれば、低反射部54全体の厚さとしては十分に薄く、転写性能を悪化させる可能性(射影効果に悪影響を与える可能性)が低くなる。
【0039】
(第3の形態)
本実施形態における第3の形態を、
図2を参照しつつ説明する。
吸収層(低反射部4)をパターニング処理した後の吸収層(低反射部4)の断面側壁角度は、キャッピング層3の表面に対して垂直に近い矩形形状が望ましく、吸収層(低反射部4)の断面側壁が段差形状やテーパー形状となった場合は、露光光の意図しない減衰増幅やパターン端部の反射光強度の変化が転写性能を悪化させる懸念がある。そのため、吸収層(低反射部4)のパターニング後における吸収層(低反射部4)の断面には、段差がないことが望ましい。
【0040】
よって、キャッピング層3を形成するルテニウム(Ru)の表面自由エネルギーに近い値を持つ材料を低反射部4のうちキャッピング層3側の領域に多く含み、その材料の組成比は低反射部4のうちキャッピング層3と反対側の領域(最表面側)に向かって少なくなるように連続的に変化することで、層の境界を形成せずに組成を変化させることが望ましい。
そのため、低反射部4のうちキャッピング層3側は、少なくとも2nm以上の膜厚(領域)において、第1の材料群から選ばれる1種類以上の材料を25at%以上含む、または第2の材料群から選ばれる1種類以上の材料を30at%以上含み、低反射部4のうちキャッピング層3と反対側の領域(最表面側)は、キャッピング層3側より第1の材料群あるいは第2の材料群の組成比が少なくなるように連続的に変化する構造体であることが好ましい。
【0041】
以下、低反射部4において、上記「連続的に変化する」第1の材料群に属する材料の含有量(濃度)及び高消衰係数材料の含有量(濃度)の各分布について説明する。なお、本実施形態において、第1の材料群に属する材料の含有量(濃度)の分布と、第2の材料群に属する材料の含有量(濃度)の分布とは、定性的に同じである。そのため、ここでは、第2の材料群に属する材料の含有量(濃度)の分布についての説明は省略する。
本実施形態では、第1の材料群に属する材料の含有量は、キャッピング層3側から低反射部4の最表面側に向かって、直線的(線形)、曲線的(例えばS字カーブ)、または指数関数的に減少していることが好ましい。
また、本実施形態では、高消衰係数材料の含有量は、キャッピング層3側から低反射部4の最表面側に向かって、直線的(線形)、曲線的(例えばS字カーブ)、または指数関数的に増加していることが好ましい。
【0042】
また、第1の材料群に属する材料及び高消衰係数材料の少なくとも一方は、キャッピング層3側及び低反射部4の最表面側の少なくとも一方の領域において組成が均一であることが好ましい。なお、本実施形態において「キャッピング層3側の領域」とは、キャッピング層3全体における下層10%の領域を意味し、「最表面側の領域」とは、低反射部4全体における上層10%の領域を意味する。
また、第1の材料群に属する材料の含有量(濃度)と、高消衰係数材料の含有量(濃度)とが同じになる点(箇所)は、低反射部4を厚さ方向に2等分した場合に、キャッピング層3側に位置していてもよいし、低反射部4の最表面側に位置していてもよい。
また、キャッピング層3側の領域(低反射部4全体における下層10%の領域)は、第1の材料群に属する材料のみで構成されていなくてもよいし、最表面側の領域(低反射部4全体における上層10%の領域)は、高消衰係数材料のみで構成されていなくてもよい。つまり、キャッピング層3側の領域には、高消衰係数材料が含まれていてもよいし、最表面側の領域には、第1の材料群に属する材料が含まれていてもよい。
【0043】
以下、低反射部4における第1の材料群に属する材料の含有量(濃度)及び高消衰係数材料の含有量(濃度)の各分布について、
図5から
図8を参照して説明する。
図5から
図8は、第1の材料群に属する材料の含有量分布(濃度分布)、及び高消衰係数材料の含有量分布(濃度分布)を示した概念図である。
図5から
図8の各図における縦軸は、低反射部4全体における第1の材料群に属する材料及び高消衰係数材料の各含有量(%)をそれぞれで示し、横軸は、低反射部4全体の深さ方向をそれぞれ示している。
図5は、第1の材料群に属する材料の含有量(実線)が、キャッピング層3側から低反射部4の最表面側に向かって直線的(線形)に減少し、且つ高消衰係数材料の含有量(破線)が、キャッピング層3側から低反射部4の最表面側に向かって直線的(線形)に増加する形態を示している。
【0044】
図6は、第1の材料群に属する材料の含有量(実線)が、キャッピング層3側から低反射部4の最表面側に向かって直線的(線形)に減少し、且つ高消衰係数材料の含有量(破線)が、キャッピング層3側から低反射部4の最表面側に向かって直線的(線形)に増加する形態であって、第1の材料群に属する材料の含有量(濃度)と高消衰係数材料の含有量(濃度)とが同じになる点(箇所)が、低反射部4を厚さ方向に2等分した場合に、キャッピング層3側に位置しており、且つ、キャッピング層3側の領域には高消衰係数材料が含まれており、最表面側の領域には第1の材料群に属する材料が含まれている形態を示している。
【0045】
図7は、第1の材料群に属する材料の含有量(実線)が、キャッピング層3側から低反射部4の最表面側に向かって指数関数的に減少し、且つ高消衰係数材料の含有量(破線)が、キャッピング層3側から低反射部4の最表面側に向かって指数関数的に増加する形態であって、キャッピング層3側の領域及び最表面側の領域は、それぞれ組成が均一となっており、且つ、第1の材料群に属する材料の含有量(濃度)と高消衰係数材料の含有量(濃度)とが同じになる点(箇所)が、低反射部4を厚さ方向に2等分した場合に、最表面側に位置している形態を示している。
【0046】
図8は、第1の材料群に属する材料の含有量(実線)が、キャッピング層3側から低反射部4の最表面側に向かって曲線的に(逆S字カーブを描くように)減少し、且つ高消衰係数材料の含有量(破線)が、キャッピング層3側から低反射部4の最表面側に向かって曲線的に(S字カーブを描くように)増加する形態であって、キャッピング層3側の領域及び最表面側の領域は、それぞれ組成が均一となっている形態を示している。
【0047】
上記形態であれば、EUV光に対して高い吸収性を持つ化合物材料(高消衰係数材料)の含有量がキャッピング層3側から低反射部4の最表面側に向かって増加し、且つ、キャッピング層3に含まれるルテニウム(Ru)の表面自由エネルギーに近い値を有する化合物材料(第1の材料群に属する材料、または第2の材料群に属する材料)の含有量がキャッピング層3側から低反射部4の最表面側に向かって減少している低反射部4を備えているため、シャドウイングが低減すると共に、キャッピング層3と低反射部4との密着性がより強固になる。その結果、ウェハ上へ転写されるパターンの寸法精度や形状精度が向上
し、且つ長期間使用可能なフォトマスクを作製することができる。
なお、本実施形態における第1の材料群に属する材料及び高消衰係数材料の各含有量の分布は、上述した分布に限定されるものではなく、それぞれを組み合わせた分布であってもよい。
【0048】
低反射部4を構成する材料は、例えば、ベリリウム(Be)、カルシウム(Ca)、スカンジウム(Sc)、バナジウム(V)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、銅(Cu)、ゲルマニウム(Ge)、ヒ素(As)、ストロンチウム(Sr)、テクネチウム(Tc)、ロジウム(Rh)、バリウム(Ba)、タングステン(W)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、金(Au)などを含有することで、ラフネス、面内寸法均一性、転写像の面内均一性が向上し、十分にアモルファスである材料とすることができる。
また、低反射部4を構成する材料は、例えば、銀(Ag)、コバルト(Co)、インジウム(In)、白金(Pt)、錫(Sn)、ニッケル(Ni)、テルル(Te)などを含有することで、消衰係数kが従来の主材料であるタンタル(Ta)より大きい材料とすることができる。
【0049】
また、低反射部4を構成する材料は、例えば、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)、ハフニウム(Hf)、ニオブ(Nb)、イットリウム(Y)、鉛(Pb)、ガリウム(Ga)などを含有することで、水素ラジカルとの反応が生じにくく、より水素ラジカル耐性のある材料とすることができる。
また、低反射部4を構成する材料は、例えば、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、バナジウム(V)、ハフニウム(Hf)などを含有することで、
図9に示すように、水素ラジカル耐性を有するような酸化皮膜6を、低反射部4の露出した表面を覆うように形成することができる。
【0050】
また、低反射部4を構成する材料は、例えば、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)などを含有することで、マスク洗浄に一般に使用されるSPMやAPMのような薬液に対し反応性が低く、より洗浄耐性のある材料とすることができる。
また、低反射部4を構成する材料は、例えば、窒化ケイ素(SiN)、酸化タンタル(TaO)などを含有することで、波長190nm~260nmの光吸収が高く検査光のコントラスト向上性のある材料とすることができる。
また、低反射部4を構成する材料は、例えば、コバルト(Co)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、金(Au)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、モリブデン(Mo)などを含有することで、13.5nmの波長に対する屈折率nが0.95未満であり位相シフト性を向上する材料とすることができる。
以上、低反射部4に含有可能な材料の効果の一例を記述したが、各材料の効果は上記の例に限定されず、複数に該当してもよい。
【0051】
また、反射型フォトマスク20は、水素ラジカルや水素イオンなどの原子状水素が存在する環境下に曝されるため、原子状水素に対して層間の密着性の高い材料でなければ、長期の使用に耐えられない。本実施形態においては、0.36ミリバール(mbar)以下の真空中で、電力1kwのマイクロ波プラズマを使い水素プラズマを発生させ、水素ラジカルリッチな環境下に一定時間曝露した後に、反射型フォトマスク20を断裁し、キャッピング層3と低反射部4の断面をTEM(透過型電子顕微鏡)で観察することで、空孔が目視で観測されない材料を、原子状水素に対する層間の密着性が高い材料とする。
なお、後述する表1に示す空孔のTEM観察結果は、200nmのエリアを倍率600,000倍で複数回観測した結果、空孔が目視で観測されなかった場合を「○」と評価し、目視で観測された場合を「×」と評価した。
【0052】
以下、本発明に係る反射型フォトマスクブランク及び反射型フォトマスクの実施例について説明する。
[実施例1]
図10に示すように、低熱膨張特性を有する合成石英の基板11の上に、シリコン(Si)とモリブデン(Mo)を一対とする積層膜が40枚積層されて形成された多層反射膜12を形成する。多層反射膜12の膜厚は280nmであった。
次に、多層反射膜12上に、中間膜としてルテニウム(Ru)で形成されたキャッピング層13を、膜厚が2.5nmになるように成膜した。これにより、基板11上には多層反射膜12及びキャッピング層13を有する反射部16が形成されている。
【0053】
次に、キャッピング層13の上に、吸収層14を酸化錫(高消衰係数材料)と酸化タンタル(第1の材料群に属する材料)が75:25の比率で均質となる材料で、その膜厚が40nmとなるよう成膜した。錫(Sn)と酸素(O)の原子数比率は、EDX(エネルギー分散型X線分析)で測定したところ、1:2.5であった。また、吸収層14の結晶性をXRD(X線回析装置)で測定したところ、アモルファスであることがわかった。これにより、反射部16上には吸収層14が形成されている。
【0054】
次に、基板11の多層反射膜12が形成されていない側に窒化クロムで形成された裏面導電膜15を100nmの厚さで成膜し、実施例1の反射型フォトマスクブランク100を作製した。
基板11上へのそれぞれの膜の成膜には、多元スパッタリング装置を用いた。各々の膜の膜厚は、スパッタリング時間で制御した。
【0055】
次に、反射型フォトマスク200の作製方法について
図11から
図14を用いて説明する。
図11に示すように、反射型フォトマスクブランク100に備えられた吸収層14の上に、ポジ型化学増幅型レジスト(SEBP9012:信越化学社製)を120nmの膜厚にスピンコートで成膜し、110℃で10分間ベークし、レジスト膜17を形成した。
次いで、電子線描画機(JBX3030:日本電子社製)によってポジ型化学増幅型レジストで形成されたレジスト膜17に所定のパターンを描画した。その後、110℃、10分間ベーク処理を施し、次いでスプレー現像(SFG3000:シグマメルテック社製)した。これにより、
図12に示すように、レジストパターン17aを形成した。
【0056】
次に、塩素系ガスを主体としたドライエッチングにより吸収層14のパターニングを行い、低反射部パターンを形成した。これにより、
図13に示すように低反射部パターン14aを形成した。
次に、残ったレジストパターン17aの剥離を行い、
図14に示すように本実施例による反射型フォトマスク200を作製した。
次に、本実施例による反射型フォトマスク200を、80℃の硫酸に10分間浸漬し、その後アンモニアと30質量%過酸化水素水と水を1:1:20の割合で混合した洗浄液を満たした洗浄槽に、500Wのメガソニックを用いて10分間浸漬し、10分間流水し、洗浄を行った。その後、AFM(原子間力顕微鏡)で膜厚を測定し、成膜時の膜厚と比較したが、膜厚に変化は見られなかった。
【0057】
本実施例において、吸収層14に形成した低反射部パターン14aは、転写評価用の反射型フォトマスク200上で、線幅64nmLS(ラインアンドスペース)パターン、AFMを用いた吸収層14の膜厚測定用の線幅200nmLSパターン、EUV反射率測定用の4mm角の低反射部除去部を含んでいる。線幅64nmLSパターンは、EUVの斜め照射による射影効果の影響が見えやすくなるように、
図15に示すようにx方向とy方向それぞれに設計した。
【0058】
[実施例2]
図16に示すように、キャッピング層13上に、酸化タンタル(第1の材料群に属する材料)で形成される密着層241をその膜厚が2nmになるように成膜した。このときタンタル(Ta)と酸素(O)の原子数比率は、EDX(エネルギー分散型X線分析)で測定したところ、1:1.9となることが分かった。また、XRD(X線回析装置)で測定したところ、アモルファスであることがわかった。
次いで、キャッピング層13上に成膜した層の上に、酸化錫(高消衰係数材料)で形成される吸収層242をその膜厚が38nmになるように成膜した。その結果、低反射部24の膜厚は合計で40nmとなった。
ただし、低反射部24に関して酸化タンタルと酸化錫は上層下層で分かれており、連続的に組成が変化する膜ではない。
錫(Sn)と酸素(O)の原子数比率は、EDX(エネルギー分散型X線分析)で測定したところ、1:2.5であった。また、XRD(X線回析装置)で測定したところ、アモルファスであることがわかった。
なお、密着層241、吸収層242の成膜以外は、実施例1と同様の方法で、
図16及び
図17に示す実施例2の反射型フォトマスクブランク101及び低反射部パターン24aを備えた反射型フォトマスク201を作製した。
【0059】
[実施例3]
図18に示すように、キャッピング層13の上に、タンタル(Ta)と酸素(O)とを含む材料を膜厚が2nmになるように成膜した。タンタル(Ta)と酸素(O)の原子数比率は、EDX(エネルギー分散型X線分析)で測定したところ、1:1.9となることが分かった。また、XRD(X線回析装置)で測定したところ、アモルファスであることがわかった。
次いで、キャッピング層13上に成膜した層の上に、タンタル(Ta)、錫(Sn)、酸素(O)を含む材料を膜厚が38nmになるように成膜した。
このようにしてキャッピング層13上に吸収層34を成膜した。
吸収層34は成膜時に層の境界が発生しないよう、スパッタリングのターゲット電圧を連続的に変化させて成膜した。
【0060】
また、XPS(X線光電子分光)で組成分析を行ったところ、
図22のような組成変化が見られることが分かった。つまり、第1の材料群に属するタンタル(Ta)と酸素(O)の含有量(実線)は、吸収層34全体の原子数に対して25at%以上であって、キャッピング層13側から吸収層34の最表面側に向かって曲線的に(逆S字カーブを描くように)減少しており、且つ高消衰係数材料に属する錫(Sn)と酸素(O)の含有量(破線)は、吸収層34全体の原子数に対して40at%以上であって、キャッピング層13側から吸収層34の最表面側に向かって曲線的に(S字カーブを描くように)増加している。さらに、吸収層34のキャッピング層13側の領域及び最表面側の領域では、それぞれ組成が均一となっている。
ただし、今回実験に使用したXPSの深さ分解能は2nmであるため吸収層34のキャッピング層13側の膜厚2nmの範囲における深さ方向の組成変化は測定できていない。
【0061】
吸収層34のキャッピング層13側とは反対側(最表面側)では、タンタル(Ta)と錫(Sn)と酸素(O)の原子数比率は、EDX(エネルギー分散型X線分析)で測定したところ、0:1:1.25となることが分かった。また、XRD(X線回析装置)で測定したところ、アモルファスであることがわかった。
なお、吸収層34の成膜以外は、実施例1と同様の方法で、
図18及び
図19に示す実施例3の反射型フォトマスクブランク102及び低反射部パターン34aを備えた反射型フォトマスク202を作製した。
【0062】
[実施例4]
酸化タンタル(第1の材料群に属する材料)を、酸化ジルコニウム(第2の材料群に属する材料)に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、
図10及び
図14に示す実施例4の反射型フォトマスクブランク100及び低反射部パターン14aを備えた反射型フォトマスク200を作製した。
なお、キャッピング層13の上に形成された吸収層14における酸化錫(高消衰係数材料)と酸化ジルコニウム(第2の材料群に属する材料)の比率は、75:25であった。また、錫(Sn)と酸素(O)の原子数比率は、EDX(エネルギー分散型X線分析)で測定したところ、1:2.5であった。また、吸収層14の結晶性をXRD(X線回析装置)で測定したところ、アモルファスであることがわかった。
【0063】
[実施例5]
酸化タンタル(第1の材料群に属する材料)を、酸化ジルコニウム(第2の材料群に属する材料)に変更した以外は、実施例2と同様の方法で、
図16及び
図17に示す実施例5の反射型フォトマスクブランク101及び低反射部パターン24aを備えた反射型フォトマスク201を作製した。
なお、キャッピング層13の上に形成された層におけるジルコニウム(Zr)と酸素(O)の原子数比率は、EDX(エネルギー分散型X線分析)で測定したところ、1:1.9となることが分かった。また、XRD(X線回析装置)で測定したところ、アモルファスであることがわかった。
次いで、キャッピング層13上に成膜した層の上に酸化錫(高消衰係数材料)で形成される吸収層242をその膜厚が38nmになるように成膜した。その結果、低反射部24の膜厚は合計で40nmとなった。
ただし、低反射部24に関して酸化ジルコニウムと酸化錫は上層下層で分かれており、連続的に組成が変化する膜ではない。
なお、錫(Sn)と酸素(O)の原子数比率は、EDX(エネルギー分散型X線分析)で測定したところ、1:2.5であった。また、XRD(X線回析装置)で測定したところ、アモルファスであることがわかった。
【0064】
[実施例6]
酸化タンタル(第1の材料群に属する材料)を、酸化ジルコニウム(第2の材料群に属する材料)に変更した以外は、実施例3と同様の方法で、
図18及び
図19に示す実施例6の反射型フォトマスクブランク102及び低反射部パターン34aを備えた反射型フォトマスク202を作製した。
なお、キャッピング層13の上に形成された層におけるジルコニウム(Zr)と酸素(O)の原子数比率は、EDX(エネルギー分散型X線分析)で測定したところ、1:1.9となることが分かった。また、XRD(X線回析装置)で測定したところ、アモルファスであることがわかった。
また、吸収層34のキャッピング層13側とは反対側(最表面側)では、ジルコニウム(Zr)と錫(Sn)と酸素(O)の原子数比率は、EDX(エネルギー分散型X線分析)で測定したところ、0:1:1.25となることが分かった。また、XRD(X線回析装置)で測定したところ、アモルファスであることがわかった。
【0065】
[実施例7]
酸化タンタル(第1の材料群に属する材料)で形成され、且つ膜厚を2nmとした密着層241を、酸化ジルコニウム(第2の材料群に属する材料)で形成され、且つ膜厚を20nmとした密着層241に変更した以外は、実施例2と同様の方法で、
図16及び
図17に示す実施例2の反射型フォトマスクブランク101及び低反射部パターン24aを備えた反射型フォトマスク201を作製した。
【0066】
[比較例1]
キャッピング層13の上に、吸収層14を酸化錫(高消衰係数材料)と酸化タンタル(第1の材料群に属する材料)が90:10の比率で均質となる材料で、その膜厚が40nmとなるよう成膜した。錫(Sn)と酸素(O)の原子数比率は、EDX(エネルギー分散型X線分析)で測定したところ、1:2.5であった。また、吸収層14の結晶性をXRD(X線回析装置)で測定したところ、アモルファスであることがわかった。
なお、吸収層14の成膜以外は、実施例1と同様の方法で、
図10及び
図14に示す比較例1の反射型フォトマスクブランク100及び反射型フォトマスク200を作製した。
【0067】
[比較例2]
キャッピング層13上に、酸化タンタルで形成される密着層241をその膜厚が16nmになるように成膜した。このときタンタル(Ta)と酸素(O)の原子数比率は、EDX(エネルギー分散型X線分析)で測定したところ、1:1.9となることが分かった。また、XRD(X線回析装置)で測定したところ、アモルファスであることがわかった。
次いで、キャッピング層13上に成膜した層の上に、酸化錫で形成される吸収層242をその膜厚が36nmになるように成膜した。その結果、低反射部24の合計膜厚は合計で52nmとなった。
ただし、低反射部24に関して酸化タンタルと酸化錫は上層下層で分かれており、連続的に組成が変化する膜ではない。
錫(Sn)と酸素(O)の原子数比率は、EDX(エネルギー分散型X線分析)で測定したところ、1:2.5であった。また、XRD(X線回析装置)で測定したところ、アモルファスであることがわかった。
なお、密着層241、吸収層242の成膜以外は、実施例1と同様の方法で、
図16及び
図17に示す比較例2の反射型フォトマスクブランク101及び反射型フォトマスク201を作製した。
【0068】
[比較例3]
キャッピング層13の上に、タンタル(Ta)、錫(Sn)、酸素(O)を含む材料を膜厚が2nmになるように成膜した。タンタル(Ta)と錫(Sn)と酸素(O)の原子数比率は、EDX(エネルギー分散型X線分析)で測定したところ、3.5:25.7:70.8となることが分かった。また、XRD(X線回析装置)で測定したところ、アモルファスであることがわかった。
次いで、キャッピング層13上に成膜した層の上に、タンタル(Ta)、錫(Sn)、酸素(O)を膜厚が38nmになるように成膜した。
このようにしてキャッピング層13上に吸収層34を成膜した。
吸収層34は成膜時に層の境界が発生しないよう、スパッタリングのターゲット電圧を連続的に変化させて成膜した。
【0069】
また、XPS(X線光電子分光)で組成分析を行ったところ、
図23のような組成変化が見られることが分かった。つまり、第1の材料群に属するタンタル(Ta)と酸素(O)の含有量(実線)は、吸収層34全体の原子数に対して25at%以下である。なお、吸収層34の基板11側の領域及び最表面側の領域では、それぞれ組成が均一となっている。
ただし、今回実験に使用したXPSの深さ分解能は2nmであるため吸収層34のキャッピング層13側の膜厚2nmの範囲における深さ方向の組成変化は測定できていない。
吸収層34のキャッピング層13側とは反対側(最表面側)では、タンタル(Ta)と錫(Sn)と酸素(O)の原子数比率は、EDX(エネルギー分散型X線分析)で測定したところ、0:1:1.25となることが分かった。また、XRD(X線回析装置)で測定したところ、アモルファスであることがわかった。
なお、吸収層34の成膜以外は、実施例1と同様の方法で、
図18及び
図19に示す比較例3の反射型フォトマスクブランク102及び反射型フォトマスク202を作製した。
【0070】
[比較例4]
図20に示すように、吸収層441を窒化タンタルで形成し、その膜厚が58nmになるよう成膜した。また、最表層442は酸化タンタルで形成し、その膜厚が2nmになるよう成膜した。本比較例は、従来のタンタルを主成分とした既存膜の反射型フォトマスクを想定したものである。
ただし、窒化タンタルと酸化タンタルは上層下層で分かれており、連続的に組成が変化する膜ではない。
なお、吸収層441、最表層442の成膜以外は、実施例1と同様の方法で、
図20及び
図21に示す比較例4の反射型フォトマスクブランク103及び低反射部パターン44aを備えた反射型フォトマスク203を作製した。
【0071】
前述の実施例及び比較例において作製した反射型フォトマスクの反射部領域の反射率Rmと低反射部領域の反射率RaとをEUV光による反射率測定装置で測定した。反射率Rmの測定は4mm角の低反射部除去部で行った。その測定結果から、上述した式(1)を用いてOD値を算出した。
【0072】
(ウェハ露光評価)
EUV露光装置(NXE3300B:ASML社製)を用いて、EUVポジ型化学増幅型レジストを塗布した半導体ウェハ上に、実施例及び比較例で作製した反射型フォトマスクの低反射部パターン14a、24a、34a、44aを転写露光した。このとき、露光量は、
図15のx方向のLSパターンが設計通りに転写するように調節した。その後、電子線寸法測定機により転写されたレジストパターンの観察及び線幅測定を実施し、解像性の確認を行った。
このとき、HV-バイアスは既存膜の6.1nmを「△」、6.1nm未満であれば「○」、4.9nm以下であれば「◎」とし、OD値は1.5以上であれば「○」、2以上であれば「◎」とした。なお、HV-バイアスについては、「△」以上の評価であれば、使用上何ら問題はないため、合格とした。また、OD値については、「○」以上の評価であれば、使用上何ら問題はないため、合格とした。
これらの評価結果を表1に示した。
【0073】
【0074】
表1において、比較例4では、吸収層441が窒化タンタルで膜厚58nm、最表層442が酸化タンタルで膜厚2nmの、Ta系既存膜におけるフォトマスクのウェハ上のレジストパターン寸法とマスク特性とを示している。比較例4の反射型フォトマスク203のとき、マスク断面のTEM観察結果より目視観測された空孔は存在せず、層間密着性は良好な結果となった。OD値は1.5でパターン転写可能なコントラストが得られた。EUV光によるパターニングの結果、H-Vバイアス(水平-垂直寸法差)は6.1nmとなり、解像するがシャドウイング効果の影響が大きく、転写性の低い結果となった。
【0075】
表1において、実施例1では、吸収層14が酸化錫と酸化タンタルからなる材料(混合比75:25)で膜厚が40nmのフォトマスクにおけるウェハ上のレジストパターン寸
法とマスク特性とを示している。実施例1の反射型フォトマスク200のとき、マスク断面のTEM観察結果より目視観測された空孔は存在せず、層間密着性は良好な結果となった。OD値は2.4でパターン転写可能なコントラストが得られた。EUV光によるパターニングの結果、H-Vバイアスは5.3nmとなり、比較例4と比べて優れたパターン転写性が得られた。
【0076】
表1において、実施例2では、吸収層242が酸化錫で膜厚が38nm、密着層241が酸化タンタルで膜厚が2nmのフォトマスクにおけるウェハ上のレジストパターン寸法とマスク特性とを示している。実施例2の反射型フォトマスク201のとき、マスク断面のTEM観察結果より目視観測された空孔は存在せず、層間密着性は良好な結果となった。OD値は2.7でパターン転写可能なコントラストが得られた。EUV光によるパターニングの結果、H-Vバイアスは5.4nmとなり、比較例4と比べて優れたパターン転写性が得られた。
【0077】
表1において、実施例3では、キャッピング層13の上に酸化タンタルで膜厚が2nmの層を成膜し、キャッピング層13上に成膜した層の上に、タンタル(Ta)、錫(Sn)、酸素(O)を含む材料で膜厚が38nmの層を、スパッタリングのターゲット電圧を連続的に変化させて成膜することで、キャッピング層13上に合計膜厚40nmの吸収層34を成膜したフォトマスクにおけるウェハ上のレジストパターン寸法とマスク特性とを示している。実施例3の反射型フォトマスク202のとき、マスク断面のTEM観察結果より目視観測された空孔は存在せず、層間密着性は良好な結果となった。OD値は2.1でパターン転写可能なコントラストが得られた。EUV光によるパターニングの結果、H-Vバイアスは4.9nmとなり、比較例4と比べて優れたパターン転写性が得られた。
【0078】
表1において、実施例4では、吸収層14が酸化錫と酸化ジルコニウムからなる材料(混合比75:25)で膜厚が40nmのフォトマスクにおけるウェハ上のレジストパターン寸法とマスク特性とを示している。実施例4の反射型フォトマスク200のとき、マスク断面のTEM観察結果より目視観測された空孔は存在せず、層間密着性は良好な結果となった。OD値は1.7でパターン転写可能なコントラストが得られた。EUV光によるパターニングの結果、H-Vバイアスは4.5nmとなり、比較例4と比べて優れたパターン転写性が得られた。
【0079】
表1において、実施例5では、吸収層242が酸化錫で膜厚が38nm、密着層241が酸化ジルコニウムで膜厚が2nmのフォトマスクにおけるウェハ上のレジストパターン寸法とマスク特性とを示している。実施例5の反射型フォトマスク201のとき、マスク断面のTEM観察結果より目視観測された空孔は存在せず、層間密着性は良好な結果となった。OD値は2.6でパターン転写可能なコントラストが得られた。EUV光によるパターニングの結果、H-Vバイアスは5.5nmとなり、比較例4と比べて優れたパターン転写性が得られた。
【0080】
表1において、実施例6では、キャッピング層13の上に酸化ジルコニウムで膜厚が2nmの層を成膜し、キャッピング層13上に成膜した層の上に、ジルコニウム(Zr)、錫(Sn)、酸素(O)を含む材料で膜厚が38nmの層を、スパッタリングのターゲット電圧を連続的に変化させて成膜することで、キャッピング層13上に合計膜厚40nmの吸収層34を成膜したフォトマスクにおけるウェハ上のレジストパターン寸法とマスク特性とを示している。実施例6の反射型フォトマスク202のとき、マスク断面のTEM観察結果より目視観測された空孔は存在せず、層間密着性は良好な結果となった。OD値は1.6でパターン転写可能なコントラストが得られた。EUV光によるパターニングの結果、H-Vバイアスは4.5nmとなり、比較例4と比べて優れたパターン転写性が得られた。
【0081】
表1において、実施例7では、吸収層242が酸化錫で膜厚が20nm、密着層241が酸化ジルコニウムで膜厚が20nmのフォトマスクにおけるウェハ上のレジストパターン寸法とマスク特性とを示している。実施例7の反射型フォトマスク201のとき、マスク断面のTEM観察結果より目視観測された空孔は存在せず、層間密着性は良好な結果となった。OD値は1.7でパターン転写可能なコントラストが得られた。EUV光によるパターニングの結果、H-Vバイアスは4.6nmとなり、比較例4と比べて優れたパターン転写性が得られた。
【0082】
表1において、比較例1では、吸収層14が酸化錫と酸化タンタルからなる材料(混合比90:10)で膜厚が40nmのフォトマスクにおけるウェハ上のレジストパターン寸法とマスク特性とを示している。比較例1の反射型フォトマスク200のとき、マスク断面のTEM観察結果より目視観測された空孔は存在し、層間密着性は好ましくない結果となった。OD値は2.4でパターン転写可能なコントラストが得られた。EUV光によるパターニングの結果、H-Vバイアスは5.4nmとなり、比較例4と比べて優れたパターン転写性が得られた。
【0083】
表1において、比較例2では、吸収層242が酸化錫で膜厚が36nm、密着層241が酸化タンタルで膜厚が16nmのフォトマスクにおけるウェハ上のレジストパターン寸法とマスク特性とを示している。比較例2の反射型フォトマスク201のとき、マスク断面のTEM観察結果より目視観測された空孔は存在せず、層間密着性は良好な結果となった。OD値は2.0でパターン転写可能なコントラストが得られた。EUV光によるパターニングの結果、H-Vバイアスは7.6nmとなり、比較例4と比べて劣るパターン転写性が得られた。
【0084】
表1において、比較例3では、キャッピング層13の上にタンタル(Ta)、錫(Sn)、酸素(O)を含む材料(3.5:25.7:70.8)で膜厚が2nmの層を成膜し、キャッピング層13上に成膜した層の上に、タンタル(Ta)、錫(Sn)、酸素(O)を含む材料で膜厚が38nmの層を、スパッタリングのターゲット電圧を連続的に変化させて成膜することで、キャッピング層13上に合計膜厚40nmの吸収層34を成膜したフォトマスクにおけるウェハ上のレジストパターン寸法とマスク特性とを示している。比較例3の反射型フォトマスク202のとき、マスク断面のTEM観察結果より目視観測された空孔が存在し、層間密着性は好ましくない結果となった。OD値は2.5でパターン転写可能なコントラストが得られた。EUV光によるパターニングの結果、H-Vバイアスは5.4nmとなり、比較例4と比べて優れたパターン転写性が得られた。
【0085】
実施例1~7と既存膜(比較例4)とを比較すると、実施例1~7の各反射型フォトマスクの密着性は、既存膜を用いた反射型フォトマスクと同等であり、パターン転写性は向上することができた。なお、実施例1~7の各反射型フォトマスクは、密着性とパターン転写性の両方が既存膜(比較例4)のそれよりも優れているため、判定結果を「〇」、「◎」と表記し「合格」として取り扱った。また、比較例1~3の各反射型フォトマスクは、密着性とパターン転写性のいずれかが既存膜(比較例4)のそれよりも劣っているため、判定結果を「×」と表記し「不合格」として取り扱った。
【0086】
これにより、少なくともルテニウム(Ru)を含むキャッピング層上に、高いk値を有する材料などで構成された吸収層を含んで構成される低反射部が存在し、低反射部のキャッピング層側から少なくとも厚さ2nmの領域にはルテニウム(Ru)と近い表面自由エネルギー値を持つ材料を有する反射型フォトマスクは、転写性、照射耐性に優れており、射影効果を低減し、且つ長寿命で転写性能の高いフォトマスクである結果となった。つまり、少なくともルテニウム(Ru)を含むキャッピング層上に、高いk値を有する材料な
どで構成された吸収層を含む低反射部が存在し、低反射部のキャッピング層側から少なくとも厚さ2nmの領域にはルテニウム(Ru)と近い表面自由エネルギー値を持つ材料を有する反射型フォトマスクであれば、射影効果を抑制または軽減し、且つキャッピング層と低反射部の層間密着性を強固にするという性質を有する。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明に係る反射型フォトマスクブランク及び反射型フォトマスクは、半導体集積回路などの製造工程において、EUV露光によって微細なパターンを形成するために好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0088】
1・・・・・基板
2・・・・・多層反射膜
3・・・・・キャッピング層
4・・・・・低反射部
4a・・・・低反射部パターン(吸収パターン)
5・・・・・反射部
6・・・・・酸化被膜
10・・・・反射型フォトマスクブランク
20・・・・反射型フォトマスク
11・・・・基板
12・・・・多層反射膜
13・・・・キャッピング層
14・・・・吸収層(低反射部)
14a・・・低反射部パターン(吸収パターン)
24・・・・低反射部
241・・・密着層
242・・・吸収層
24a・・・低反射部パターン
34・・・・吸収層(低反射部)
34a・・・低反射部パターン(吸収パターン)
44・・・・低反射部
441・・・吸収層
442・・・最表層
44a・・・低反射部パターン
54・・・・低反射部
541・・・密着層
542・・・吸収層
54a・・・低反射部パターン
15・・・・裏面導電膜
16・・・・反射部
17・・・・レジスト膜
17a・・・レジストパターン
100・・・反射型フォトマスクブランク
200・・・反射型フォトマスク
101・・・反射型フォトマスクブランク
201・・・反射型フォトマスク
102・・・反射型フォトマスクブランク
202・・・反射型フォトマスク
103・・・反射型フォトマスクブランク
203・・・反射型フォトマスク