(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】電動車両の電池制御装置
(51)【国際特許分類】
B60L 58/25 20190101AFI20241108BHJP
B60L 58/21 20190101ALI20241108BHJP
B60L 50/60 20190101ALI20241108BHJP
【FI】
B60L58/25
B60L58/21
B60L50/60
(21)【出願番号】P 2024516353
(86)(22)【出願日】2023-03-17
(86)【国際出願番号】 JP2023010660
【審査請求日】2024-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】菊池 淳
【審査官】武内 大志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/220915(WO,A1)
【文献】特開2004-222358(JP,A)
【文献】特開2021-118629(JP,A)
【文献】特開2016-25791(JP,A)
【文献】特開2017-175758(JP,A)
【文献】特開2018-152269(JP,A)
【文献】特開2009-81958(JP,A)
【文献】特開2017-73889(JP,A)
【文献】国際公開第2020/148599(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00-3/12
B60L 7/00-13/00
B60L 15/00-58/40
H02J 7/00-7/12
H02J 7/34-7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
並列接続された第1電池群及び第2電池群を含みかつ走行用の電力を蓄積するバッテリと、前記バッテリに電気的に接続された可変抵抗器とを備えた電動車両に搭載される電動車両の電池制御装置であって、
前記可変抵抗器を制御するコントローラを備え、
前記コントローラは、前記第1電池群の温度と前記第2電池群の温度との差に基づいて抵抗調整処理を実行し、
前記抵抗調整処理は、前記抵抗調整処理が非実行である場合よりも、前記第1電池群の単位容量当りの電流と前記第2電池群の単位容量当りの電流とが均等に近づくように、前記可変抵抗器を制御する処理であ
り、
前記コントローラは、前記バッテリから駆動電力が出力される駆動時には、前記抵抗調整処理を非実行とすることを特徴とする電動車両の電池制御装置。
【請求項2】
前記可変抵抗器は、前記第1電池群に直列接続された第1可変抵抗器と、前記第2電池群に直列接続された第2可変抵抗器と、を含み、
前記抵抗調整処理は、
前記第1電池群の温度が前記第2電池群の温度よりも高い場合に、
前記第1可変抵抗器の抵抗値を前記第2可変抵抗器の抵抗値よりも大きくし、
前記第1電池群の温度が前記第2電池群の温度よりも低い場合に、
前記第1可変抵抗器の抵抗値を前記第2可変抵抗器の抵抗値よりも小さくする処理であることを特徴とする請求項1記載の電動車両の電池制御装置。
【請求項3】
前記コントローラは、回生電力が前記バッテリへ送られる回生時に前記第1電池群の温度と前記第2電池群の温度との差がある場合に、
前記抵抗調整処理を実行することを特徴とする請求項1記載の電動車両の電池制御装置。
【請求項4】
前記コントローラは、前記第1電池群の温度及び前記第2電池群の温度の差が第1閾値以上である場合に、前記抵抗調整処理を開始し、
前記第1電池群の温度及び前記第2電池群の温度の差が第2閾値以下になったら前記抵抗調整処理を終了することを特徴とする請求項1記載の電動車両の電池制御装置。
【請求項5】
並列接続された第1電池群及び第2電池群を含みかつ走行用の電力を蓄積するバッテリと、前記バッテリに電気的に接続された可変抵抗器とを備えた電動車両に搭載される電動車両の電池制御装置であって、
前記可変抵抗器を制御するコントローラを備え、
前記コントローラは、前記第1電池群の温度と前記第2電池群の温度との差に基づいて抵抗調整処理を実行し、
前記抵抗調整処理は、前記抵抗調整処理が非実行である場合よりも、前記第1電池群の単位容量当りの電流と前記第2電池群の単位容量当りの電流とが均等に近づくように、前記可変抵抗器を制御する処理であ
り、
前記コントローラは、前記第1電池群の温度及び前記第2電池群の温度の差が第1閾値以上である場合に、前記抵抗調整処理を開始し、
前記第1電池群の温度及び前記第2電池群の温度の差が第2閾値以下になったら前記抵抗調整処理を終了することを特徴とする電動車両の電池制御装置。
【請求項6】
前記可変抵抗器は、前記第1電池群に直列接続された第1可変抵抗器と、前記第2電池群に直列接続された第2可変抵抗器と、を含み、
前記抵抗調整処理は、
前記第1電池群の温度が前記第2電池群の温度よりも高い場合に、
前記第1可変抵抗器の抵抗値を前記第2可変抵抗器の抵抗値よりも大きくし、
前記第1電池群の温度が前記第2電池群の温度よりも低い場合に、
前記第1可変抵抗器の抵抗値を前記第2可変抵抗器の抵抗値よりも小さくする処理であることを特徴とする請求項
5記載の電動車両の電池制御装置。
【請求項7】
前記コントローラは、回生電力が前記バッテリへ送られる回生時に前記第1電池群の温度と前記第2電池群の温度との差がある場合に、
前記抵抗調整処理を実行することを特徴とする請求項5記載の電動車両の電池制御装置。
【請求項8】
並列接続された第1電池群及び第2電池群を含みかつ走行用の電力を蓄積するバッテリと、前記バッテリに電気的に接続された可変抵抗器とを備えた電動車両に搭載される電動車両の電池制御装置であって、
前記可変抵抗器を制御するコントローラを備え、
前記コントローラは、
回生電力が前記バッテリへ送られる回生時に前記第1電池群の温度と前記第2電池群の温度との差
がある場合に、抵抗調整処理を実行し、
前記抵抗調整処理は、前記抵抗調整処理が非実行である場合よりも、前記第1電池群の単位容量当りの電流と前記第2電池群の単位容量当りの電流とが均等に近づくように、前記可変抵抗器を制御する処理であることを特徴とする電動車両の電池制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両の電池制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両に搭載される蓄電システムにおいて、2つの電池群に可変抵抗回路が接続された構成が示さている。可変抵抗回路は、SOCが小さい電池群ほど小さな放電電流が流れるように設定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電動車両に搭載されるバッテリにおいて、複数の電池群に温度の差が生じた場合に、温度差が拡大し、本来のバッテリの性能が発揮できない場合が生じえることを、本発明者らは見出した。
【0005】
本発明は、複数の電池群の温度差に起因してバッテリの性能が一時的に劣化することを低減できる電動車両の電池制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)
本発明に係る一態様の電動車両の電池制御装置は、
並列接続された第1電池群及び第2電池群を含みかつ走行用の電力を蓄積するバッテリと、前記バッテリに電気的に接続された可変抵抗器とを備えた電動車両に搭載される電動車両の電池制御装置であって、
前記可変抵抗器を制御するコントローラを備え、
前記コントローラは、前記第1電池群の温度と前記第2電池群の温度との差に基づいて抵抗調整処理を実行し、
前記抵抗調整処理は、前記抵抗調整処理が非実行である場合よりも、前記第1電池群の単位容量当りの電流と前記第2電池群の単位容量当りの電流とが均等に近づくように、前記可変抵抗器を制御する処理であり、
前記コントローラは、前記バッテリから駆動電力が出力される駆動時には、前記抵抗調整処理を非実行とすることを特徴とする。
(2)
本発明に係るもう一つの態様の電動車両の電池制御装置は、
並列接続された第1電池群及び第2電池群を含みかつ走行用の電力を蓄積するバッテリと、前記バッテリに電気的に接続された可変抵抗器とを備えた電動車両に搭載される電動車両の電池制御装置であって、
前記可変抵抗器を制御するコントローラを備え、
前記コントローラは、前記第1電池群の温度と前記第2電池群の温度との差に基づいて抵抗調整処理を実行し、
前記抵抗調整処理は、前記抵抗調整処理が非実行である場合よりも、前記第1電池群の単位容量当りの電流と前記第2電池群の単位容量当りの電流とが均等に近づくように、前記可変抵抗器を制御する処理であり、
前記コントローラは、前記第1電池群の温度及び前記第2電池群の温度の差が第1閾値以上である場合に、前記抵抗調整処理を開始し、
前記第1電池群の温度及び前記第2電池群の温度の差が第2閾値以下になったら前記抵抗調整処理を終了することを特徴とする。
(3)
本発明に係るもう一つの態様の電動車両の電池制御装置は、
並列接続された第1電池群及び第2電池群を含みかつ走行用の電力を蓄積するバッテリと、前記バッテリに電気的に接続された可変抵抗器とを備えた電動車両に搭載される電動車両の電池制御装置であって、
前記可変抵抗器を制御するコントローラを備え、
前記コントローラは、回生電力が前記バッテリへ送られる回生時に前記第1電池群の温度と前記第2電池群の温度との差がある場合に、抵抗調整処理を実行し、
前記抵抗調整処理は、前記抵抗調整処理が非実行である場合よりも、前記第1電池群の単位容量当りの電流と前記第2電池群の単位容量当りの電流とが均等に近づくように、前記可変抵抗器を制御する処理であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、第1電池群と第2電池群との温度バラツキに起因してバッテリの性能が一時的に劣化してしまうことを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係る電池制御装置を搭載した電動車両を示すブロック図である。
【
図2】バッテリの過放電を抑制する制御の一例を示すタイムチャートである。
【
図5A】放電時における各電池群のSOCと温度の変化例を示す図である。
【
図5B】充電時における各電池群のSOCと温度の変化例を示す図である。
【
図6】電池制御装置のコントローラにより実行される電池制御処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0010】
<電動車両>
図1は、本発明の実施形態に係る電池制御装置を搭載した電動車両を示すブロック図である。
図1の電動車両1は、駆動輪2と、摩擦により制動力を発生させる制動装置3と、駆動輪2を駆動する電動モータ20と、走行用の電力を蓄積するバッテリ11を含んだバッテリシステム10と、走行用の操作が行われる操作部26と、走行の制御を行う車両コントローラ22と、電動モータ20を駆動するインバータ24と、バッテリシステム10を制御する電池制御装置40とを備える。
【0011】
操作部26は、電動車両1を走行させるために運転者が操作する機構である。操作部26は、加速の指令を伝えるためのアクセル操作部(例えばアクセルペダル)26aと、制動の指令を伝えるためのブレーキ操作部(例えばブレーキペダル)26bと、操舵を行うための操舵操作部(例えばステアリングハンドル)26cとを含む。なお、操作部26は、自動運転装置が操作する構成であってもよく、アクセル操作部26a及びブレーキ操作部26bはソフトウェア構成であってもよい。
【0012】
車両コントローラ22は、操作部26から操作信号を受け、操作に応じた加速又は減速が得られるように、インバータ24を制御することで、電動モータ20を力行運転又は回生運転させる。回生運転時には、回生電力がバッテリ11へ送られる。車両コントローラ22は、制御プログラムに従って動作するマイクロコンピュータである。
【0013】
車両コントローラ22は、さらに、電池制御装置40と情報をやり取りすることでバッテリ11の放電能力及び充電能力を確認する。バッテリ11の放電能力は、例えば放電可能電力Woutで表わされる。バッテリ11の充電能力は、例えば充電可能電力Winで表わされる。放電可能電力Woutは、その時点における放電可能な電力の上限を表わす。充電可能電力Winは、その時点における充電可能な電力の上限を表わす。
【0014】
そして、車両コントローラ22は、電動モータ20の力行運転のパワーがバッテリ11の放電能力を超えないように、電動モータの駆動トルクを調整する。同様に、車両コントローラ22は、電動モータ20の回生運転による充電パワーがバッテリ11の充電能力を超えないように、電動モータ20の回生トルクを調整する。バッテリ11の充電能力が低くなって、電動車両1に要求される制動力が電動モータ20の回生制動のみで得られない場合が生じえる。このような場合、車両コントローラ22は、電動モータ20の回生運転に加えて、制動装置3を動作させることで、要求された制動力を発生させる。
【0015】
車両コントローラ22は、さらに、バッテリ11の過放電を抑制する制御を行う。すなわち、車両コントローラ22は、バッテリ11の放電能力が著しく低下した場合に、バッテリ11の放電を停止する制御を行う。
【0016】
図2は、バッテリの過放電を抑制する制御の一例を示すタイムチャートである。
図2に示すように、過放電を抑制する制御は、例えば、バッテリ11の電圧に基づき行われてもよい。すなわち、車両コントローラ22は、バッテリ11の電圧が下限電圧Vlowに達したら(タイミングt1)、バッテリ11の放電電流を停止する。図示は省略するが、車両コントローラ22は、バッテリ11の出力電圧が下限電圧Vlowに近づいた場合に、徐々にバッテリ11の放電を減少させる制御を併せて行ってもよい。ここで、バッテリ11の出力電圧は、電池制御装置40によって監視され、出力電圧が下限電圧Vlowに近づいたこと、並びに、下限電圧Vlowに達したことの情報は、電池制御装置40から車両コントローラ22に送られてもよい。
【0017】
あるいは、車両コントローラ22は、出力電圧の代わりに、バッテリ11の放電可能電力Woutの情報に基づいて、同様の制御を行ってもよい。この場合、車両コントローラ22は、放電可能電力Woutがゼロになったら、バッテリ11の放電が停止するようにインバータ24を制御する。車両コントローラ22は、放電可能電力Woutがゼロに近づくにつれて、徐々にバッテリ11の放電を減少させる制御を併用してもよい。
【0018】
<バッテリシステム及び電池制御装置>
バッテリ11は、
図1に示すように、複数のバッテリセルを有する第1電池群11Aと、複数のバッテリセルを有する第2電池群11Bとを含む。第1電池群11Aは、複数のバッテリセルが直列接続されたバッテリセル列であってもよいし、複数のバッテリセル列が並列接続された構成であってもよい。第2電池群11Bも同様である。第1電池群11Aと第2電池群11Bとは並列接続されている。複数のバッテリセルは、例えばリチウムイオン二次電池、又は、ニッケル水素二次電池などである。
【0019】
以下では、第1電池群11Aの蓄電容量と、第2電池群11Bの蓄電容量とが同一である場合について説明する。この場合、第1電池群11Aの電流と第2電池群11Bの電流とが同一のとき、第1電池群11Aの単位容量あたりの電流と、第2電池群11Bの単位容量あたりの電流とが同一であることを意味する。単位容量とは単位蓄電容量を意味する。
【0020】
バッテリシステム10は、さらに、バッテリ11に電気的に接続された可変抵抗器12と、第1電池群11Aの温度を推定するための第1温度センサ13aと、第2電池群11Bの温度を推定するための第2温度センサ13bとを有する。
【0021】
可変抵抗器12は、複数の電気抵抗と、複数の電気抵抗の接続を切り替える複数のスイッチとを含み、複数のスイッチの切替えによって電流経路上の抵抗値が変化する回路である。なお、可変抵抗器12は、制御によって抵抗値を変えることができれば、様々な回路構成が適用されてもよい。可変抵抗器12は、第1電池群11Aに直列接続された第1可変抵抗器12Aと、第2電池群11Bに直列接続された第2可変抵抗器12Bとを含む。
、
【0022】
第1温度センサ13aは、第1電池群11Aの温度を直接的に検出してもよいし、第1電池群11Aと温度が相関する箇所の温度を検出し、当該検出の結果に基づいてコントローラ41が第1電池群11Aの温度を推定する構成であってもよい。第2温度センサ13bは、第2電池群11Bの温度を直接的に検出してもよいし、第2電池群11Bと温度が相関する箇所の温度を検出し、当該検出の結果に基づいてコントローラ41が第2電池群11Bの温度を推定する構成であってもよい。温度を推定する場合には、コントローラ41に、検出の結果と温度とを関連づけるデータテーブルを予め与えられる。コントローラ41は、データテーブルと検出の結果から温度を推定することができる。
【0023】
電池制御装置40は、可変抵抗器12を制御するコントローラ41を備える。コントローラ41は、制御プログラムに従って動作するマイクロコンピュータである。コントローラ41には、第1温度センサ13aの検出結果、並びに、第2温度センサ13bの検出結果が送られる。さらに、コントローラ41には、アクセル操作部26aの操作量の情報と、ブレーキ操作部26bの操作量の情報とが送られる。当該操作量の情報は、車両コントローラ22を介してコントローラ41に送られてもよい。
【0024】
<バッテリ特性>
図3は、一般的なバッテリの出力性能(すなわち放電可能電力Wout)を説明する図である。
図3のマップM1は、バッテリの温度及びSOCから放電可能電力Woutを算出する一般的なマップである。マップM1に示すように、放電可能電力Woutは、電池温度とSOCとに依存して値が変化する。バッテリが使用可能な温度範囲において、放電可能電力Woutは、電池温度が高くなるに従って大きくなり、また、SOCが大きくなるに従って大きくなる、という傾向を有する。図示は省略するが、同様に、充電可能電力Winは、バッテリ11が使用可能な温度範囲において、電池温度が高くなるに従って大きくなり、かつ、SOCが小さくなるに従って大きくなる、という傾向を有する。
【0025】
電池制御装置40は、バッテリ11の温度、電圧及び電流を計測し、バッテリ11のSOC、放電可能電力Wout、及び、充電可能電力Winを管理する。
【0026】
<温度バラツキに基づく影響>
ここで、比較例のバッテリ81において複数の電池群に温度バラツキが生じた場合の影響について説明する。
図4は、比較例のバッテリ81の一例を示す図である。
図5Aは、放電時における各電池群のSOCと温度の変化例を示す図である。
図5Bは、充電時における各電池群のSOCと温度の変化例を示す図である。比較例のバッテリ81は、第1電池群11A及び第2電池群11Bが並列接続された構成であり、本実施形態の可変抵抗器12を有さない。第1電池群11A及び第2電池群11Bには、それぞれ内部抵抗R1、R2が存在する。
【0027】
まず、初期状態として、第1電池群11Aと第2電池群11Bとに温度バラツキがあり、SOCが互いに同一である状態を想定する。(
図5A及び
図5Bの「初期状態」を参照)。温度バラツキは、第1電池群11Aの温度0℃が、第2電池群11Bの温度5℃よりも低いものとする。
【0028】
第1電池群11A及び第2電池群11Bは、温度が低いほど内部抵抗R1、R2が高くなるという特性を有する。このため、上記の初期状態の温度バラツキがあるときには、
図4に示すように、第1電池群11Aの内部抵抗R1が、第2電池群11Bの内部抵抗R2よりも大きくなる。この状態で、バッテリ81に電流Iが流れると、内部抵抗R1、R2の差異に起因して、第1電池群11Aの電流I1よりも、第2電池群11Bの電流I2のほうが小さくなる。さらに、電流と内部抵抗との差に起因して、第1電池群11Aの発熱量W1よりも第2電池群11Bの発熱量W2の方が大きくなる。
【0029】
したがって、放電電流が生じた場合、
図5Aの「放電後」に示すように、第1電池群11Aと第2電池群11Bとの温度差は広がる。さらに、温度の高い第2電池群11BのSOCが早く減り、第1電池群11Aと第2電池群11BとでSOCに差異が生じる。
【0030】
また、充電電流が生じた場合、
図5Bの「充電後」に示すように、第1電池群11Aと第2電池群11Bとの温度差が広がる。さらに、温度の低い第1電池群11AのSOCの増加量が低くなり、第1電池群11Aと第2電池群11BとでSOCに差異が生じる。
【0031】
すなわち、第1電池群11A及び第2電池群11Bに温度差があると、電流が流れることで、温度差が更に大きくなってしまう。温度差が大きくなると、例えば第1電池群11A及び第2電池群11Bのうち一方に比べて他方が非常に低い温度となる場合が生じえる。この場合、低い温度になった一方の電池群に充電電流が流れると、内部電極に金属リチウムが析出すること等により、電池群の劣化が進んでしまう恐れがある。また、温度差が大きくなると、第1電池群11A及び第2電池群11Bのうち一方のみが非常に高い温度になる場合が生じえる。この場合、高い温度になった一方の電池群でセル内の材料分解、並びに、構造劣化が進んでしまう恐れがある。その結果、第1電池群11Aと第2電池群11Bとで劣化に偏りが生じてしまうという影響がある。
【0032】
さらに、第1電池群11A及び第2電池群11Bに温度バラツキがあると、
図5A及び
図5Bに示すように、電流が流れることで、SOCにも差異が生じてしまう。SOCに差異があると、第1電池群11A及び第2電池群11Bのうちの一方に放電又は充電の余裕が有っても、他方の余裕がなくなって、バッテリ81からの放電又は充電に制限が発生してしまうという影響がある。
【0033】
さらに、
図5Bに示すように、充電後においては、温度差が広がることに加えて、温度の低い第1電池群11AのSOCが、温度の高い第2電池群11BのSOCよりも低い値になってしまう。先に説明したように放電可能電力Woutは、温度が低くなるに従って低下し、かつ、SOCが低くなるに従って低下する傾向がある。したがって、第1電池群11Aにおいて温度とSOCとの両方が低くなることにより、第1電池群11Aの放電可能電力Woutが、第2電池群11Bの放電可能電力Woutに比べて低い値になってしまう。この場合、第2電池群11Bに余力があっても、第1電池群11Aの放電可能電力Woutが低い値(例えばゼロ)になることで、バッテリ81に出力制限が生じてしまう。特に、放電可能電力Woutの値が小さくなる低温時(10℃以下など)において、上記のような出力制限が生じる可能性が高くなる。
【0034】
<制御動作>
電池制御装置40のコントローラ41は、上述した温度バラツキに基づく影響を改善するために、次のような制御動作を行う。
【0035】
すなわち、まず、コントローラ41は、第1温度センサ13aと第2温度センサ13bとの出力に基づいて、第1電池群11Aの温度、並びに、第2電池群11Bの温度を推定する。なお、温度を推定できれば、コントローラ41は、温度センサの出力を用いずに他の条件から上記の温度を推定してもよい。
【0036】
そして、コントローラ41は、第1電池群11Aと第2電池群11Bとに温度差がある場合に、抵抗調整処理を行う。抵抗調整処理は、第1電池群11Aに流れる電流と、第2電池群11Bに流れる電流とが、抵抗調整処理が実行されない場合と比較して、均等に近づくように可変抵抗器12の抵抗値を制御する処理である。
【0037】
抵抗調整処理が実行されることで、第1電池群11Aと第2電池群11Bとに温度差が生じても、両方の電流が均等に近づくので、第1電池群11Aと第2電池群11Bとの自己発熱の熱量が均等に近づくか、大小が逆転する。よって、第1電池群11Aと第2電池群11Bとの間で温度差が拡大してしまうことを低減できる。したがって、前述した温度差が広がることで生じる影響を抑制することができる。
【0038】
抵抗調整処理において、具体的には、コントローラ41は、第1電池群11Aの温度が第2電池群11Bの温度よりも高い場合に、第1可変抵抗器12Aの抵抗値を第2可変抵抗器12Bの抵抗値よりも大きくする。同様に、コントローラ41は、第1電池群11Aの温度が第2電池群11Bの温度よりも低い場合に、第1可変抵抗器12Aの抵抗値を第2可変抵抗器12Bの抵抗値よりも小さくする。このような制御によって、第1電池群11Aの電流と第2電池群11Bの電流とを均等に近づけることができる。
【0039】
コントローラ41は、特に、バッテリ11に充電電流が送られる回生運転時において、上記の条件で抵抗調整処理を行うように構成されてもよい。充電電流が送られるときに抵抗調整処理が行われることで、
図5Bの「充電後」に示したような状況の発生を低減できる。当該状況とは、第1電池群11A及び第2電池群11Bのうち一方において温度とSOCの両方が低くなり、他方と比べて放電可能電力Woutが低下していまうという状況である。したがって、充電電流が送られるときに抵抗調整処理が行われることで、一方の放電可能電力Woutが先に小さくなって、バッテリ11全体で出力制限が生じてしまうという現象を減らすことができる。
【0040】
さらに、コントローラ41は、バッテリ11から放電電流が出力される駆動時には、抵抗調整処理を非実行とするように構成されてもよい。電動車両1では、制動時よりも加速時のほうがバッテリ11に大きな電流が流れる傾向がある。なぜならば、電動車両1の制動は、回生制動と制動装置3による制動との複合により実現される。一方、電動車両1の加速は電動モータ20の力行運転で主に実現されるからである。したがって、上記のように、抵抗調整処理が駆動時に非実行とされることで、大きな電流が流れるときに抵抗調整処理が非実行とされる確率が多くなる。よって、温度バラツキによる影響が少ない駆動時の期間においては、可変抵抗器12で生じる電力損失を抑制することができる。
【0041】
加えて、駆動時に抵抗調整処理を非実行とすることで、第1電池群11A及び第2電池群11Bのうち温度が低い方の放電電流が少なくなるので、温度が低い方の電池群においてSOCの低下を抑制できる。したがって、一方の電池群において温度とSOCの両方が低下してしまうことを抑制できる。よって、一方の電池群の放電可能電力Woutが他方よりも先に小さくなって、バッテリ11全体で出力制限が生じてしまうという現象を減らすことができる。
【0042】
なお、コントローラ41は、充電電流が送られる回生運転時であるか否か、あるいは、バッテリ11から駆動電力が出力される駆動時か否かを、ブレーキ操作部26bの操作量の情報とアクセル操作部26aの操作量の情報とに基づいて判別してもよい。あるいは、コントローラ41は、バッテリ11に接続された電力線に流れる電流を検出して、充電電流が送られている期間か、放電電流が出力されている期間かを判別してもよい。
【0043】
第1電池群11A及び第2電池群11Bのうち、一方の放電可能電力Woutが先に小さくなって、バッテリ11全体で出力制限が生じてしまうという現象は、低温時において発生する可能性が高くなる。したがって、コントローラ41は、抵抗調整処理を実行する条件に、低温時であるという条件を加えてもよい。低温時とは、25℃以下としてもよいし、10℃以下としてもよいし、0℃以下としてもよい。また、低温時とは、SOCが10%のときに放電可能電力Woutが最大値の20%以下となる温度と定義されてもよい。
【0044】
コントローラ41は、第1電池群11Aと第2電池群11Bとの温度差が第1閾値以上である場合に、抵抗調整処理を開始し、上記温度差が第2閾値未満になったら抵抗調整処理を終了するように構成されてもよい。第1閾値としては、特に制限されないが、例えば5℃~15℃の範囲内の値を設定できる。第2閾値としては、特に制限されないが、0℃~15℃の値で第1閾値よりも低い値を設定できる。このような構成により、抵抗調整処理の利点のほうが、抵抗調整処理の欠点(例えば電力損失の発生等)を上回るような適切なタイミングで抵抗調整処理を実行することが容易となる。
【0045】
<電池制御処理>
続いて、電池制御装置のコントローラにより実行される電池制御処理の一例についてフローチャートを参照しながら説明する。
図6は、電池制御処理の一例を示すフローチャートである。当該電池制御処理は、電動車両1が起動している間、繰り返し実行される。
【0046】
電池制御処理が開始されると、コントローラ41は、第1温度センサ13a及び第2温度センサ13bの出力に基づいて、第1電池群11Aと第2電池群11Bの温度差を推定する(ステップS1)。
【0047】
次に、コントローラ41は、第1電池群11Aと第2電池群11Bとの温度差が、第1閾値Tth1以上であるかを判別する(ステップS2)。温度差は、両温度の差の絶対値を意味する。そして、判別結果がNoであれば、コントローラ41は、1回の電池制御処理を終了する。
【0048】
一方、ステップS2の判別結果がYESであれば、コントローラ41は、第1電池群11Aと第2電池群11Bとのどちらが低い温度か判別する(ステップS3)。そして、第1電池群11Aの方が低温であれば、コントローラ41は、第1可変抵抗器12Aよりも第2可変抵抗器12Bの方が抵抗値が高くなる第1切替状態の設定準備を行う(ステップS4)。一方、第2電池群11Bの方が低温であれば、コントローラ41は、第1可変抵抗器12Aの方が第2可変抵抗器12Bよりも抵抗値が高くなる第2切替状態の設定準備を行う(ステップS5)。第1切替状態と第2切替状態との各々は、予め一つに定められた可変抵抗器12の切替状態であってもよい。あるいは、第1切替状態と第2切替状態の各々は、温度差に応じて抵抗値が変わる切替状態であってもよい。いずれにおいても、第1切替状態または第2切替状態に設定されることで、当該設定がない場合と比較して、第1電池群11Aと第2電池群11Bとに流れる電流が均等に近くなる。
【0049】
次に、コントローラ41は、充電電流の発生時(例えば回生電力が発生する回生時)であるか判別する(ステップS6)。具体的には、コントローラ41は、アクセル操作部26aの操作量が減少しているか、或いは、ブレーキ操作部26bの操作量がゼロより大きいかを判別することにより、電動モータ20の回生運転される回生時であるか否かを判別する。
【0050】
その結果、充電電流の発生時(例えば回生運転時)であれば、コントローラ41は、ステップS4又はS5で設定準備した第1切替状態又は第2切替状態に、可変抵抗器12を切り替える(ステップS7)。一方、充電電流の発生時でなければ、コントローラ41は、可変抵抗器12の切り替えを解除する(ステップS8)。切り替えを解除とは、第1可変抵抗器12Aの抵抗値及び第2可変抵抗器12Bの抵抗値をともにゼロにすることを意味する。あるいは、可変抵抗器12の切り替えを解除とは、第1可変抵抗器12Aの抵抗値及び第2可変抵抗器12Bの抵抗値を所定値(例えば等しい所定値)にすることを意味してもよい。
【0051】
さらに、コントローラ41は、ステップS6~S9のループ処理の経過時間を計数し、予め設定された時間(例えば10秒)が経過したか判別する(ステップS9)。その結果、まだ経過していなければ、コントローラ41は、ステップS6に処理を戻し、ステップS6~S9のループ処理を続行する。
【0052】
一方、ステップS9で時間が経過したと判別したら、コントローラ41は、第1温度センサ13a及び第2温度センサ13bの出力に基づいて、第1電池群11Aと第2電池群11Bの温度差を推定する(ステップS10)。
【0053】
そして、コントローラ41は、第1電池群11Aと第2電池群11Bとの温度差が、第2閾値Tth2未満であるかを判別する(ステップS11)。そして、判別結果がNoであれば、コントローラ41は、ステップS6の処理を戻して、ステップS6~S11のループ処理を継続する。一方、ステップS11の判別結果がYESであれば、コントローラ41は1回の電池制御処理を終了する。
【0054】
以上の電池制御処理によって、前述したバッテリシステム10の制御動作の一例を実現できる。
【0055】
なお、ステップS4、S5に移行する条件、あるいは、ステップS7に移行する条件には、バッテリ11が低温時であるという条件が加えられてもよい。低温時か否かは、バッテリ11の温度(平均温度、最大温度、最小温度など)、あるいは、バッテリ11の環境温度(気温、冷却液温度など)に基づき、コントローラ41が判断してもよい。低温時とは前述した通りである。当該構成によれば、温度バラツキに起因する影響が少ない高温時には、可変抵抗器12の切り替えが低減される。したがって、温度バラツキに起因する影響が少ないときに、可変抵抗器12の抵抗により損失が発生することを低減できる。
【0056】
上記の電池制御処理のプログラムは、コントローラ41に内蔵された非一過性の記憶媒体(non transitory computer readable medium)41aに記憶されている。コントローラ41は、可搬型の非一過性の記録媒体に記憶されたプログラムを読み込み、当該プログラムを実行するように構成されてもよい。上記の可搬型の非一過性の記憶媒体は、上述した電池制御処理のプログラムを記憶していてもよい。
【0057】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限られない。例えば、上記実施形態においては、第1電池群11Aと第2電池群11Bとが同一の蓄電容量である場合について説明した。しかし、第1電池群11Aの蓄電容量と第2電池群11Bの蓄電容量とが異なってもよい。その場合、[発明を実施するための形態]の項の説明において、第1電池群11A又は第2電池群11Bに流れる電流(すなわち放電電流及び充電電流)を、単位容量当りの電流と読み替えればよい。また、第1可変抵抗器12A又は第2可変抵抗器12Bの抵抗値は、単位容量当りの抵抗値と読み替えればよい。さらに、第1電池群11A又は第2電池群11Bの発熱量は、単位容量当りの発熱量と読み替えればよい。
【0058】
また、上記実施形態においては、バッテリ11が第1電池群11Aと第2電池群11Bとの2つの電池群を有する例を示したが、バッテリ11は、互いに並列に接続された3つ以上の電池群を有していてもよい。その場合、いずれか一つの電池群を第1電池群と見なし、もう一つの電池群を第2電池群と見なせばよい。
【0059】
また、上記実施形態においては、電動車両として内燃機関を有さないEV(Electric Vehicle)を示したが、電動車両は、HEV(Hybrid Electric Vehicle)であってもよいし、PHEV(Plug-in Hybrid Electric Vehicle)であってもよい。その他、実施形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、電動車両の電池制御装置に利用できる。
【符号の説明】
【0061】
1 電動車両
2 駆動輪
3 制動装置
10 バッテリシステム
11 バッテリ
11A 第1電池群
11B 第2電池群
12 可変抵抗器
12A 第1可変抵抗器
12B 第2可変抵抗器
13a 第1温度センサ
13b 第2温度センサ
20 電動モータ
22 車両コントローラ
24 インバータ
26 操作部
26a アクセル操作部
26b ブレーキ操作部
40 電池制御装置
41 コントローラ
41a 記憶媒体
【要約】
複数の電池群の温度差に起因してバッテリの性能が一時的に劣化することを低減できる電動車両の電池制御装置を提供する。電動車両の電池制御装置は、並列接続された第1電池群及び第2電池群を含みかつ走行用の電力を蓄積するバッテリと、バッテリに電気的に接続された可変抵抗器とを備えた電動車両に搭載される電動車両の電池制御装置であって、可変抵抗器を制御するコントローラを備え、コントローラは、第1電池群の温度と第2電池群の温度との差に基づいて抵抗調整処理を実行し、抵抗調整処理は、抵抗調整処理が非実行である場合よりも、第1電池群の単位容量当りの電流と第2電池群の単位容量当りの電流とが均等に近づくように、可変抵抗器を制御する処理である。