(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】パワー半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/336 20060101AFI20241108BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20241108BHJP
H01L 21/263 20060101ALI20241108BHJP
H01L 21/268 20060101ALI20241108BHJP
H01L 21/329 20060101ALI20241108BHJP
H01L 29/868 20060101ALI20241108BHJP
H01L 29/872 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
H01L29/78 658A
H01L21/263 E
H01L21/268 F
H01L29/91 A
H01L29/86 301P
(21)【出願番号】P 2024539066
(86)(22)【出願日】2024-03-12
(86)【国際出願番号】 JP2024009540
【審査請求日】2024-06-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】清井 明
【審査官】戸川 匠
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/051973(WO,A1)
【文献】特開2023-062606(JP,A)
【文献】特開2022-035157(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/263
H01L 21/268
H01L 21/329
H01L 21/336
H01L 29/78
H01L 29/868
H01L 29/872
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1主面と前記第1主面とは反対側の第2主面とを有するシリコンウエハの、前記第2主面から予め定められた深さまでの領域である第1領域を少なくとも含む領域に水素を導入し、
前記シリコンウエハに電子線を貫通照射することにより、前記第1領域および前記第1領域と前記第1主面との間の第2領域に欠陥を形成し、
前記シリコンウエハを熱処理することにより、前記水素と前記欠陥とを反応させてドナーを形成し、
前記シリコンウエハの前記第1主面または前記第2主面からレーザーアニールを行うことにより、前記第2領域の前記ドナーを不活性化して前記第1領域をバッファ層とする、
パワー半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記水素の導入は、
前記シリコンウエハを水素雰囲気中でアニール処理すること、
前記シリコンウエハを水素プラズマ中でアニール処理すること、
前記シリコンウエハに水素を含有する膜を堆積させた状態で、前記シリコンウエハをアニール処理すること、
または前記シリコンウエハを酸性液体に浸漬すること、
のいずれかにより行われる、
請求項1に記載のパワー半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記レーザーアニールは、シリコンに吸収される波長帯の光を前記第1主面に照射することにより、前記第2領域を局所的に加熱する処理である、
請求項1または請求項2に記載のパワー半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記レーザーアニールは、シリコンに吸収されない波長帯の光を前記第2主面に照射し、焦点を前記シリコンウエハの第1主面から前記第2領域の底部まで深さ方向に走査することにより、前記第2領域を局所的に加熱する処理である、
請求項1または請求項2に記載のパワー半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記レーザーアニールにより前記第2領域は500℃以上に加熱される、
請求項1
または請求項
2に記載のパワー半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記レーザーアニールにより前記第2領域は500℃以上に加熱される、
請求項3に記載のパワー半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記レーザーアニールにより前記第2領域は500℃以上に加熱される、
請求項4に記載のパワー半導体装置の製造方法。
【請求項8】
第1主面と前記第1主面とは反対側の第2主面とを有するシリコンウエハの、前記第2主面から予め定められた深さまでの領域である第1領域を少なくとも含む領域に水素を導入し、
前記シリコンウエハに電子線を貫通照射することにより、前記第1領域および前記第1領域と前記第1主面との間の第2領域に欠陥を形成し、
前記第2主面から前記シリコンウエハをレーザーアニールすることにより、前記第1領域において局所的に前記水素と前記欠陥とを反応させてドナーを形成
し、
前記水素の導入は、
前記シリコンウエハを水素雰囲気中でアニール処理すること、
前記シリコンウエハを水素プラズマ中でアニール処理すること、
前記シリコンウエハに水素を含有する膜を堆積させた状態で、前記シリコンウエハをアニール処理すること、
または前記シリコンウエハを酸性液体に浸漬すること、
のいずれかにより行われる、
パワー半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記レーザーアニールは、シリコンに吸収される波長帯の光を前記第2主面に照射することにより、前記第1領域を局所的に加熱する処理である、
請求項
8に記載のパワー半導体装置の製造方法。
【請求項10】
前記レーザーアニールにより前記第1領域は250℃以上に加熱される、
請求項
8または請求項
9に記載のパワー半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、パワー半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
縦型IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)は、表面側から順に、MOS(Metal Oxide Semiconductor)構造、n型のドリフト層、n型のバッファ層およびp型のコレクタ層を含む領域で構成される。縦型ダイオードは、表面側から順に、p型のアノード部、n型のドリフト層、n型のバッファ層およびn型のカソード層で構成される。特許文献1には縦構造を有するIGBTが開示されている。IGBTおよびダイオードの薄板化は損失低減に有効であるが、電圧スナップオフに対する余裕度が低下する悪影響もある。その対策として、幅広のn型バッファ層が採用されている。
【0003】
特許文献1には、プロトン(水素イオン)の照射または注入(以下、両者をあわせて照射と記載する)とアニール処理とを用いて、バッファ層を製造する方法が記載されている。この方法によれば、1回のプロトン照射で作ることのできるバッファ層の幅は限られる。デバイス裏面に所望の厚みのバッファ層を形成するためには、プロトンの照射飛程を変えた多数回の照射が必要となる。
【0004】
特許文献2,3には、プロトン照射によらずにバッファ層を製造する方法が記載されている。特許文献2には、濃度の異なるウエハの貼り合わる方法が記載されている。特許文献3には、多段エピ成長によりバッファ層を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6090329号公報
【文献】特許第2878488号公報
【文献】特許第3113156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
IGBTまたはダイオードに幅広のn型バッファ層を形成する際、特許文献1から特許文献3に記載の方法では、以下の問題がある。特許文献1に記載のプロトン多段照射では、照射回数が多くなるため、シリコンウエハに余分なダメージが蓄積する。また、各照射によりドナーが形成される領域の間で界面が発生するという問題もある。特許文献2に記載の貼り合わせによれば、必然的に貼り合わせ界面が発生するという問題がある。特許文献3に記載の多段エピ成長は、気相成長であるため本質的に製造に時間がかかる。
【0007】
本開示は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、幅広のバッファ層をダメージの蓄積が少なく、かつ界面がないように形成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のパワー半導体装置の製造方法は、第1主面と第1主面とは反対側の第2主面とを有するシリコンウエハの、第2主面から予め定められた深さまでの領域である第1領域を少なくとも含む領域に水素を導入し、シリコンウエハに電子線を貫通照射することにより、第1領域および第1領域と第1主面との間の第2領域に欠陥を形成し、シリコンウエハを熱処理することにより、水素と欠陥とを反応させてドナーを形成し、シリコンウエハの第1主面または第2主面からレーザーアニールを行うことにより、第2領域のドナーを不活性化して第1領域をバッファ層とする。
【発明の効果】
【0009】
本開示のパワー半導体装置の製造方法によれば、水素の導入と、電子線の貫通照射と、熱処理と、レーザーアニールとにより、第1領域にのみドナーを残し、第1領域をバッファ層として形成することができる。従って、幅広のバッファ層をダメージの蓄積が少なく、かつ界面がないように形成することができる。本開示の目的、特徴、態様、および利点は、以下の詳細な説明と添付図面とによって、より明白となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態1に係るパワー半導体装置の製造方法を示すフローチャートである。
【
図2】実施の形態1に係るパワー半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【
図3】実施の形態1に係るパワー半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【
図4】実施の形態1に係るパワー半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【
図5】実施の形態1に係るパワー半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【
図6】実施の形態1に係るパワー半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【
図7】実施の形態1に係るパワー半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【
図8】実施の形態1に係るパワー半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【
図9】実施の形態1に係るパワー半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【
図10】実施の形態1に係るパワー半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【
図11】実施の形態1に係るパワー半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【
図12】ドナーの面密度の温度依存性を示す図である。
【
図13】実施の形態1に係るパワー半導体装置における水素濃度分布を示す図である。
【
図14】実施の形態2に係るパワー半導体装置の製造方法を示すフローチャートである。
【
図15】実施の形態2に係るパワー半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【
図16】実施の形態2に係るパワー半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【
図17】実施の形態2に係るパワー半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【
図18】実施の形態2に係るパワー半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【
図19】実施の形態2に係るパワー半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【
図20】実施の形態2に係るパワー半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【
図21】実施の形態2に係るパワー半導体装置における水素濃度分布を示す図である。
【
図22】実施の形態3に係るパワー半導体装置の製造方法を示すフローチャートである。
【
図23】実施の形態3に係るパワー半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<A.前提技術>
まず、本開示の技術の前提技術として、プロトン照射によるバッファ層の形成方法について説明する。
【0012】
バッファ層の形成に寄与するドナーは、シリコンウエハに存在する点欠陥および水素を複合化することによって形成される。点欠陥は、結晶格子の局所的な乱れであり、空孔タイプ(vacancy)と格子間原子タイプ(interstitial silicon)とに分けられる。一般的に点欠陥と水素とが複合化すると、点欠陥のダングリングボンドが水素に遮蔽されて、バンド内準位を示さない。しかし、ダングリングボンドの遮蔽効果が不十分であると、浅いドナー型準位が形成される場合がある。この物理現象を利用して、シリコンウエハに形成されるドナーを制御することによってキャリア濃度を制御し、パワー半導体装置にバッファ層を形成することが可能になる。この結果、パワー半導体装置のスイッチング波形がソフトになり、スナップオフまたは発振の防止が可能となる。大抵、ドナーはプロトン照射を用いてシリコンウエハに形成されるが、ヘリウムイオン照射と何らかの水素とを導入させる処理を組み合わせることによっても形成可能である。
【0013】
シリコンウエハにバッファ層を形成する際、プロトン照射後に適切なアニール処理が必要である。なぜなら、アニール処理を行うことで、ドナー発生領域がシリコンウエハの裏面側に広がり、デバイス裏面に所望の厚みのバッファ層を形成させることが可能だからである。この広がり幅が小さいと、デバイス裏面に高抵抗領域が残り、その結果としてパワー半導体装置の特性が悪化する。しかし、幅広のバッファ層を得るべく多段照射を行うと、シリコン中に不要なダメージが蓄積されてしまう。そこで、以下に示す実施の形態では、多段照射を用いずに所望の幅のバッファ層を形成する方法について説明する。
【0014】
<B.実施の形態1>
図1は、実施の形態1に係るパワー半導体装置の製造方法を示すフローチャートである。
図2から
図11は、実施の形態1に係るパワー半導体装置の製造工程を示す断面図である。以下、これらの図を参照して、実施の形態1に係るパワー半導体装置の製造方法を説明する。なお、ここでは一例として、n型またはn-型のシリコンウエハから、縦型IGBTまたは縦型ダイオードを製造する方法について説明する。
【0015】
図1のフローを開始する前に、
図2に示すシリコンウエハ1を準備する。シリコンウエハ1はインゴットから切り出されたものであり、表面である第1主面S1と、第1主面S1と逆側の裏面である第2主面S2とを有している。シリコンウエハ1の水素濃度は、例えば1×10
13cm
-3以下である。この段階でのシリコンウエハ1の厚みはW1である。
【0016】
図1のステップS101において、シリコンウエハ1の水素濃度を制御する水素導入工程を行う。水素導入工程では、水素ガスおよび水素プラズマのいずれかの雰囲気において、シリコンウエハ1にアニール処理を行う。例えば、シリコンウエハ1を水素雰囲気に曝した状態で、1000℃以上1300℃以下(627K以上1027K以下)の温度範囲で縦型炉等の炉中でアニール処理を行う。例えば、1100℃で5時間のアニールを行うと、シリコン中の水素の侵入深さは1.7cmである。従って、パワー半導体用のシリコンウエハ1の深さ方向全域において水素を含侵させることができる。
図3には、この状態のシリコンウエハ1が示されており、水素が導入された領域が梨地のハッチングで示されている。
【0017】
シリコンウエハ1のうち、後工程でバッファ層となる領域を第1領域とし、後工程でドリフト層およびアノード層またはMOS構造となる領域を第2領域とする。上記の水素導入工程では、シリコンウエハ1の深さ方向全体、すなわち第1領域と第2領域の両方に水素が導入されたが、少なくとも第1領域に水素が導入されればよい。
【0018】
次に、
図1のステップS102において、シリコンウエハ1の第2主面S2から電子線を照射する電子線照射工程を行う。ここでは、加速器を用いて、数100KeV以上数10MeV以下に加速された電子をシリコンウエハ1の第2主面S2に照射する。これにより、電子線がパワー半導体用途のシリコンウエハ1を貫通し、
図4に示されるように、シリコンウエハ1の厚み方向全体において、点欠陥2が形成される。すなわち、第1領域と第2領域の両方に点欠陥2が形成される。
【0019】
電子線のドーズ量は、形成したい点欠陥の量によるが、例えば1×1012以上1×1016cm-2以下である。なお、シリコンウエハ1の第2主面S2に、電子線の代わりにプロトンまたはヘリウムイオンを照射し、シリコンウエハの局所部分に点欠陥2を形成してもよい。
【0020】
次に、
図1のステップS103において、ドナー3を形成するためのドナー活性化アニール工程を行う。具体的には、シリコンウエハ1を窒素などの不活性ガス雰囲気に曝し、200℃以上500℃以下でアニールを行う。この処理により、シリコンウエハ1中の水素と点欠陥2とが反応して、
図5に示されるようにシリコンウエハ1の厚み方向の全体にドナー3が形成される。
【0021】
図12は、ドナーの面密度(cm
-2)の温度依存性を示している。
図12に示されるように、200℃よりも低い温度のアニールは、ドナーの形成効率が低下するため好ましくない。また、500℃よりも高い温度のアニールは、ドナーの消滅が顕著になるため好ましくない。したがって、ドナー活性化のためのアニール温度は200℃以上500℃以下が望ましい。なお、ドナー3の濃度はアニール時間によっても調整可能である。
【0022】
次に、
図1のステップS104において、シリコンウエハ1の第2領域に形成されたドナー3を局所的に不活性化するドナー局所不活性化アニール工程を行う。具体的には、
図6に示されるように、シリコンに吸収される波長帯の光をシリコンウエハ1の第1主面S1に照射する。これにより、シリコンウエハ1の第1主面S1付近で局所的に温度が上昇し、熱が第1主面S1から第2主面S2に向かう方向に伝導する。
図12に示されるように、シリコンの温度が500℃以上に上昇した領域で、ドナー3は不活性化する。
【0023】
本工程での光の照射には、例えばレーザーアニール装置またはランプアニール装置が用いられる。シリコンウエハ1の第1領域のドナー3が不活性化しないよう、光の波長、パワー密度、および照射時間が調整される。シリコンウエハ1の第2領域のドナー3のみがアニールアウトすることで、ドナー3が不活性化せず残った第1領域がバッファ層11となる。このバッファ層11を第1バッファ層とも称する。
【0024】
次に、
図1のステップS105において、シリコンウエハ1の第1主面S1側にデバイスの表面構造を形成する表面構造形成工程を行う。表面構造を第1主面構造とも称する。ダイオードを製造する場合、表面構造形成工程では、
図7に示されるように、シリコンウエハ1の第1主面S1にp+型のアノード層14を形成し、アノード層14上にアノード電極15を形成する。IGBTを製造する場合、シリコンウエハ1の表面にp型のベース領域を形成し、n型のソース領域を形成し、シリコンウエハ1をドライエッチングしてトレンチゲートを形成し、ゲート酸化膜を形成し、ポリシリコン等のゲート電極を形成し、TEOS等の層間絶縁膜を形成し、ソース電極を形成する。
【0025】
次に、
図1のステップS106において、第2主面S2を研削し、シリコンウエハ1を所望の厚みにするウエハ研削工程を行う。例えば、第1主面構造を保護した後、シリコンウエハ1の第2主面S2をCMP(Chemical Mechanical Polish)等の研削手段を用いて研削する。以下、研削後のシリコンウエハ1を半導体領域と称する。また、研削後のシリコンウエハ1の厚みをW2とする。
【0026】
次に、
図1のステップS107において、シリコンウエハ1の第2主面S2に第2バッファ層を形成する第2バッファ層形成工程を行う。例えば
図9に示されるように、第2主面S2にリン等のn型ドーパントイオンを注入することにより、n型の第2バッファ層12を形成する。なお、第2バッファ層12は複数回のイオン注入により形成されてもよい。また、第2バッファ層12を第1バッファ層11で代用し、省略してもよい。
【0027】
次に、
図1のステップS108において、シリコンウエハ1の第2主面S2にデバイスの裏面構造を形成する裏面構造形成工程を行う。以下、デバイスの裏面構造を第2主面構造とも称する。ダイオードを製造する場合、裏面構造形成工程では、
図10に示されるように、シリコンウエハ1の第2主面S2にn+型のカソード層16を形成する。RFC(Relaxed Field of Cathode)ダイオードを製造する場合、n+型のカソード層に加えてp+型のカソード層を部分的に形成する。IGBTを製造する場合、シリコンウエハ1の裏面にp+型のコレクタ層を形成する。RC(Revers Conductive)IGBTを製造する場合、コレクタ層に加えてn+カソード層を部分的に形成する。
【0028】
次に、
図1のステップS109において、シリコンウエハ1の第2主面S2に裏面電極を形成する。ダイオードを製造する場合、裏面電極は
図11に示されるカソード電極17である。IGBTを製造する場合、裏面電極はコレクタ電極である。以上が、実施の形態1に係るパワー半導体装置の製造方法である。
【0029】
図13は、実施の形態1に係るパワー半導体装置の水素濃度分布を模式的に示している。実線は、200℃以上500℃以下の範囲でアニール温度が高く、またはアニール時間が長い場合の水素濃度を示している。破線は、200℃以上500℃以下の範囲で実線に比べてアニール温度が低く、またはアニール時間が短い場合の水素濃度を示している。
【0030】
実施の形態1に係るパワー半導体装置の製造方法によれば、水素導入工程、電子線照射工程、ドナー活性化アニール工程、およびドナー局所不活性化アニール工程により、内部に界面を持たない幅広の第1バッファ層11を、シリコンウエハ1にダメージを蓄積させることなく、短時間で形成することが可能である。
【0031】
本実施の形態において、表面構造形成工程、ウエハ研削工程、第2バッファ形成工程、裏面構造形成工程、裏面電極形成工程には、上記の例に限らず他の一般的なIGBTまたはダイオードの製造方法が適用可能である。
【0032】
<C.実施の形態2>
実施の形態1では、第1バッファ層(
図1のステップS101からステップS104)をデバイス構造(
図1のステップS105からステップS109)より先に形成した。
【0033】
これに対して、実施の形態2では、第1バッファ層の形成工程をデバイス構造より後に形成する。ところで、シリコンウエハ1にデバイス構造が形成されると、デバイス構造により、その後のアニール温度およびアニール時間に制限が生じる。また、一般的にパワーデバイスの表面電極には金属電極が用いられるため、表面構造の形成後には、表面側から光を照射してシリコンウエハ1に入熱することができない。そこで、実施の形態2に係るパワー半導体装置の製造方法では、裏面側から光を照射してシリコンウエハ1に入熱する。
【0034】
図14は、実施の形態2に係るパワー半導体装置の製造方法を示すフローチャートである。以下、
図14のフローに沿って実施の形態2に係るパワー半導体装置の製造方法を説明する。なお、ここでは一例として、n型またはn-型のシリコンウエハから、縦型IGBTまたは縦型ダイオードを製造する方法について説明する。
【0035】
図14のフローを開始する前、実施の形態1と同様に厚みW1のシリコンウエハ1を準備する。そして、
図14のステップS201において、シリコンウエハ1の第1主面S1にデバイスの表面構造を形成する。ダイオードを製造する場合、表面構造形成工程では、
図15に示されるように、シリコンウエハ1の第1主面S1にp+型のアノード層14を形成し、アノード層14上にアノード電極15を形成する。シリコンウエハ1のうちアノード層14以外の領域をドリフト層13とする。本ステップは
図1のステップS105と同様である。
【0036】
次に、ステップS202において、第2主面S2を研削し、シリコンウエハ1を所望の厚みにするウエハ研削工程を行う。本ステップは
図1のステップS106と同様である。本工程により、シリコンウエハ1の厚みはW2となる。
【0037】
その後、ステップS203において、シリコンウエハ1の第2主面S2に第2バッファ層12を形成する第2バッファ層形成工程を行う。本ステップは
図1のステップS107と同様である。
【0038】
次に、ステップS204において、シリコンウエハ1の第2主面S2にデバイスの裏面構造を形成する裏面構造形成工程を行う。ダイオードを製造する場合、裏面構造形成工程では、
図17に示されるように、シリコンウエハ1の第2主面S2にn+型のカソード層16を形成する。本ステップは
図1のステップS108と同様である。
【0039】
その後、ステップS205において、シリコンウエハ1の水素濃度を制御する水素導入工程を行う。本ステップは
図1のステップS101と同様であるが、アニール温度の上限は表面構造が破壊されない条件、例えば500℃以下となる。本ステップでは、シリコンウエハ1の少なくとも第1領域に水素が導入されればよい。
【0040】
次に、ステップS206において、シリコンウエハ1の第2主面S2から電子線を照射して点欠陥2を形成する電子線照射工程を行う。本ステップは
図1のステップS102と同様である。
図18は、本工程により点欠陥2が形成された状態のシリコンウエハ1を示している。
【0041】
その後、ステップS207において、ドナー3を形成するためのドナー活性化アニール工程を行う。本ステップは
図1のステップS103と同様である。
図19は、本工程によりドナー3が形成された状態のシリコンウエハ1を示している。
【0042】
次に、ステップS208において、シリコンウエハ1の第2領域に形成されたドナー3を局所的に不活性化するドナー局所不活性化アニール工程を行う。実施の形態1では、シリコンに吸収される波長帯の光を第1主面S1に照射したが、本実施の形態では、シリコンに吸収されない波長帯のパルスレーザー光を第2主面S2に照射する。この際、光パワーが強いと非線形光学効果により、入射光の焦点位置でのみ局所的な光吸収を発生させることができる。すなわち、シリコンウエハ1の第2主面S2を加熱することなく、深部のみを500℃以上に上昇させることができる。こうして、ドナー活性化アニール工程で発生したドナー3の一部を不活性化させる。パルスレーザーの焦点を第1主面S1から第2領域の底部に亘って走査することで、第2領域におけるドナー3を不活性化させることができる。こうして、
図20に示されるように、ドリフト層13のうちドナー3が残った領域がバッファ層11となる。
【0043】
その後、ステップS209において、シリコンウエハ1の第2主面S2に裏面電極を形成する。本ステップは
図1のステップS109と同様である。以上が、実施の形態2に係るパワー半導体装置の製造方法である。
【0044】
図21は、実施の形態2に係るパワー半導体装置の水素濃度分布を模式的に示している。
図21において、W3は第1バッファ層11、第2バッファ層12および裏面構造の合計厚みである。
図21は、ステップS205において、主にシリコンウエハ1の第1領域に水素が導入された場合を示している。
【0045】
実施の形態2に係るパワー半導体装置の製造方法によれば、水素導入工程、電子線照射工程、ドナー活性化アニール工程、およびドナー局所不活性化アニール工程により、内部に界面を持たない幅広の第1バッファ層11を、シリコンウエハ1にダメージを蓄積させることなく、短時間で形成することが可能である。
【0046】
本実施の形態において、表面構造形成工程、ウエハ研削工程、第2バッファ形成工程、裏面構造形成工程、裏面電極形成工程には、上記の例に限らず他の一般的なIGBTまたはダイオードの製造方法が適用可能である。
【0047】
<D.実施の形態3>
実施の形態3に係るパワー半導体装置の製造方法では、シリコンウエハ1の第1領域および第2領域にドナー3を形成した後、第2領域において局所的にドナー3を不活性化させることで、第1領域にのみドナー3を形成した。
【0048】
これに対して実施の形態3に係るパワー半導体装置の製造方法では、光を用いたアニールにより、シリコンウエハ1の第1領域において局所的にドナー3を形成する。
【0049】
図22は、実施の形態3に係るパワー半導体装置の製造方法を示すフローチャートである。以下、
図22のフローに沿って実施の形態3に係るパワー半導体装置の製造方法を説明する。なお、ここでは一例として、n型またはn-型のシリコンウエハから、縦型IGBTまたは縦型ダイオードを製造する方法について説明する。
【0050】
図22のフローを開始する前、実施の形態1,2と同様に厚みW1のシリコンウエハ1を準備する。その後の、ステップS301からステップS306の処理は、
図14のステップS201からステップS206と同様であり、
図15から
図18に示す処理が行われる。
【0051】
ステップS306の後、ステップS307において、半導体領域内の点欠陥2を局所的にドナー化するドナー局所活性化アニール工程を行う。例えば、
図23に示されるように、シリコンウエハ1の第2主面S2にレーザーアニールまたはランプアニールなどの光を照射するアニール処理を行う。これにより、シリコンウエハ1の第1領域の温度をドナー形成温度以上、例えば200℃以上とし、第1領域に局所的にドナー3を形成する。
【0052】
アニール温度が200℃未満である場合、
図12に示される通り、ドナーの形成効率が低下する。また、アニール温度が500℃より高い場合、ドナーの消滅が顕著になる。従って、本工程のアニール温度は、200℃以上500℃以下であることが望ましい。光の強度および照射時間は、ドナー濃度が所望の値となるように調整される。本工程により、電子線照射によりシリコンウエハ1中に形成された点欠陥2のうち、第1領域に存在する点欠陥2だけがドナー3に変換され、第1領域が第1バッファ層11となる。
【0053】
次に、ステップS308において、シリコンウエハ1の第2主面S2にデバイスの裏面構造を形成する裏面構造形成工程を行う。本ステップは
図1のステップS108および
図14のステップS204と同様である。以上が、実施の形態3に係るパワー半導体装置の製造方法である。
【0054】
実施の形態3に係るパワー半導体装置の水素濃度分布は
図21に示される通りである。
【0055】
実施の形態3に係るパワー半導体装置の製造方法によれば、水素導入工程、電子線照射工程、およびドナー局所活性化アニール工程により、内部に界面を持たない幅広の第1バッファ層11を、シリコンウエハ1にダメージを蓄積させることなく、短時間で形成することが可能である。
【0056】
本実施の形態において、表面構造形成工程、ウエハ研削工程、第2バッファ形成工程、裏面構造形成工程、裏面電極形成工程には、上記の例に限らず他の一般的なIGBTまたはダイオードの製造方法が適用可能である。
【0057】
<E.変形例>
実施の形態1,2,3では、電子線照射工程が行われた。しかし、シリコンウエハ1に点欠陥が元来存在する場合には、電子線照射工程は必須ではない。
【0058】
実施の形態1では、水素導入工程、電子線照射工程、ドナー活性化アニール工程、およびドナー局所不活性アニール工程が、表面構造形成工程の前に行われた。水素導入工程を表面構造形成工程の前に行うことで、水素導入工程の処理温度を高くすることができるという利点がある。しかし、水素導入工程、電子線照射工程、ドナー活性化アニール工程、およびドナー局所不活性化アニール工程を、表面構造形成工程の後に適宜、組み入れてもよい。また、水素導入工程と電子線照射工程の順番を入れ替えてもよい。すなわち、水素導入工程と電子線照射工程を行った後に、順にドナー活性化アニール工程、ドナー局所不活性化アニール工程を行い、その後に500℃(より望ましくは400℃)よりもシリコンが高温になることがなければ、各工程の順番は適宜変更することができる。
【0059】
同様に、実施の形態2では、水素導入工程、電子線照射工程、ドナー活性化アニール工程、およびドナー局所不活性化アニール工程が、裏面構造形成工程の後に行われたが、これらの工程を表面構造形成工程の後、裏面構造形成工程の前に適宜、組み入れてもよい。また、水素導入工程と電子線照射工程の順番を入れ替えてもよい。すなわち、水素導入工程と電子線照射工程を行った後に、順にドナー活性化アニール工程、ドナー局所不活性化アニール工程を行い、その後に500℃(より望ましくは400℃)よりもシリコンが高温になることがなければ、各工程の順番は適宜変更することができる。
【0060】
同様に、実施の形態3では、水素導入工程、電子線照射工程、およびドナー局所活性化アニール工程が、裏面構造形成工程の後に行われたが、これらの工程を表面構造形成工程の後、裏面構造形成工程の前に適宜、組み入れてもよい。また、水素導入工程と電子線照射工程の順番を入れ替えてもよい。すなわち、水素導入工程と電子線照射工程を行った後に、ドナー局所活性化アニール工程を行い、その後に500℃(より望ましくは400℃)よりもシリコンが高温になることがなければ、各工程の順番は適宜変更することができる。
【0061】
また、実施の形態1,2,3では、シリコンウエハの表面に水素導入工程が行われたが、表面だけでなく側面などに水素導入工程が行われてもよい。
【0062】
また、実施の形態1,2,3では、水素導入工程として、シリコンウエハ1を水素ガスおよび水素プラズマのいずれかの雰囲気においてアニール処理することをあげた。しかし、シリコンウエハ1に水素を含有する膜を堆積させた状態でシリコンウエハ1をアニール処理すること、またはシリコンウエハ1を、水素を含む薬液、すなわち酸性液体に浸漬することによっても、シリコンウエハ1に水素を導入することができる。
【0063】
また、以上の説明では、電極の材料、成膜方法、およびp型またはn型の各領域の濃度等について特段の説明を行っていない。これらについては、用途に合わせて、一般的なパワー半導体装置の設計条件が適用されてもよい。
【0064】
また、以上の説明では、各実施の形態に係る製造方法により製造されるパワー半導体装置としてダイオードまたはIGBTを挙げたが、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)、SBD(Schottky Barrier Diode)、Thyristorなどが形成されてもよい。
【0065】
なお、各実施の形態を自由に組み合わせたり、各実施の形態を適宜、変形、省略したりすることが可能である。上記の説明は、すべての態様において、例示である。例示されていない無数の変形例が想定され得るものと解される。
【符号の説明】
【0066】
1 シリコンウエハ、2 点欠陥、3 ドナー、11 第1バッファ層、12 第2バッファ層、13 ドリフト層、14 アノード層、15 アノード電極、16 カソード層、17 カソード電極、S1 第1主面、S2 第2主面。
【要約】
本開示は、幅広のバッファ層をダメージの蓄積が少なく、かつ界面がないように形成することを目的とする。本開示に係るパワー半導体装置の製造方法は、第1主面(S1)と第1主面(S1)とは反対側の第2主面(S2)とを有するシリコンウエハ(1)の、第2主面(S2)から予め定められた深さまでの領域である第1領域を少なくとも含む領域に水素を導入し、シリコンウエハ(1)に電子線を貫通照射することにより、第1領域および第1領域と第1主面との間の第2領域に欠陥を形成し、シリコンウエハ(1)を熱処理することにより、水素と欠陥とを反応させてドナーを形成し、シリコンウエハ(1)の第1主面(S1)または第2主面(S2)からレーザーアニールを行うことにより、第2領域のドナーを不活性化して第1領域をバッファ層(11)とする。