IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱電機株式会社の特許一覧

特許7584714振動抑制装置、ロボットシステム、および振動抑制方法
<>
  • 特許-振動抑制装置、ロボットシステム、および振動抑制方法 図1
  • 特許-振動抑制装置、ロボットシステム、および振動抑制方法 図2
  • 特許-振動抑制装置、ロボットシステム、および振動抑制方法 図3
  • 特許-振動抑制装置、ロボットシステム、および振動抑制方法 図4
  • 特許-振動抑制装置、ロボットシステム、および振動抑制方法 図5
  • 特許-振動抑制装置、ロボットシステム、および振動抑制方法 図6
  • 特許-振動抑制装置、ロボットシステム、および振動抑制方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】振動抑制装置、ロボットシステム、および振動抑制方法
(51)【国際特許分類】
   B25J 13/08 20060101AFI20241108BHJP
【FI】
B25J13/08 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2024539086
(86)(22)【出願日】2024-01-30
(86)【国際出願番号】 JP2024002881
【審査請求日】2024-06-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】安藤 玄
【審査官】臼井 卓巳
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-299778(JP,A)
【文献】特開平07-328969(JP,A)
【文献】特開2001-293638(JP,A)
【文献】特開2003-340755(JP,A)
【文献】特開2018-155683(JP,A)
【文献】登録実用新案第3200252(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2006/0116783(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0346717(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 9/10-13/08
G06T 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットの状態を検出するセンサと、前記センサにより出力される状態検出値と設定された動作手順とに基づいて動作指令を出力するロボットコントローラと、前記動作指令に従って前記ロボットの機構を動作させるアクチュエータとを有する前記ロボットの振動を抑制する振動抑制装置であって、
前記機構の特性であるシステム特性を同定する際における前記機構の動作についての指令である同定指令を生成し、前記同定指令を前記ロボットコントローラへ出力する同定指令生成器と、
前記同定指令と、前記同定指令に従って前記機構が動作した際に前記センサにより出力された前記状態検出値とに基づいて、前記システム特性を同定するシステム特性同定器と、
同定された前記システム特性を、時間によって変化する変動特性と時間によって変化しない非変動特性とに分け、正規化された前記変動特性である正規化変動特性の情報と正規化された前記非変動特性である正規化非変動特性の情報とを出力する変動特性演算器と、
前記機構のパラメトリック共振により前記機構の動作が不安定となるときの前記機構の動作周期である不安定動作周期を、前記正規化変動特性と前記正規化非変動特性とに基づいて推定する不安定動作周期推定器と、
推定された前記不安定動作周期が回避された安定指令を生成する安定指令生成器と、を備え、
記安定指令を前記ロボットコントローラへ出力することによって前記機構の振動を抑制する
ことを特徴とする振動抑制装置。
【請求項2】
前記同定指令生成器は、前記機構の動作の速度を、前記パラメトリック共振が生じるときの速度よりも低下させる前記同定指令を生成する
ことを特徴とする請求項に記載の振動抑制装置。
【請求項3】
前記システム特性同定器は、前記機構が有する複数の軸の各々についての運動方程式であって慣性に関して正規化された正規化運動方程式における1次微分項の係数およびゼロ次微分項の係数を、前記システム特性として同定する
ことを特徴とする請求項に記載の振動抑制装置。
【請求項4】
減衰固有周波数をω0、前記正規化変動特性である第1正規化変動特性および第2正規化変動特性の各々をg(t)およびh(t)、ならびに前記正規化非変動特性をbとして、
前記1次微分項の係数であるβ(t)は、次の式(1)により表され、
前記ゼロ次微分項の係数であるω2(t)は、次の式(2)により表される
ことを特徴とする請求項に記載の振動抑制装置。
【数1】
【数2】
【請求項5】
前記不安定動作周期推定器は、前記パラメトリック共振の周波数であるポンプ周波数が条件式を満足するか否かを判定し、前記条件式を満足しない前記ポンプ周波数を求めることによって前記不安定動作周期を算出する
ことを特徴とする請求項に記載の振動抑制装置。
【請求項6】
Xを複素数とした場合における前記Xの実部をRe(X)、次の式(4)および次の式(5)により表されるHにおける第i固有値をsi、減衰固有周波数をω0、前記正規化非変動特性をb、前記正規化変動特性である第1正規化変動特性をg(t)、前記g(t)の最小値をgmin、前記ポンプ周波数をωp、座標変換後の前記正規化運動方程式における固有周波数をωn、および、座標変換後の前記正規化運動方程式の前記ゼロ次微分項の係数における変動部分のうちの第kスペクトル振幅をfkとして、
前記条件式は、次の式(3)により表される
ことを特徴とする請求項に記載の振動抑制装置。
【数3】
【数4】
【数5】
【請求項7】
前記ポンプ周波数を、前記機構の励振周波数とする
ことを特徴とする請求項に記載の振動抑制装置。
【請求項8】
前記安定指令生成器は、前記機構が有する複数の軸の各々について推定された前記不安定動作周期の和集合を基に、複数の前記軸の各々についての前記安定指令を生成する
ことを特徴とする請求項に記載の振動抑制装置。
【請求項9】
ロボットと、
前記ロボットの振動を抑制する振動抑制装置と、を備え、
前記ロボットは、前記ロボットの状態を検出するセンサと、前記センサにより出力される状態検出値と設定された動作手順とに基づいて動作指令を出力するロボットコントローラと、前記動作指令に従って前記ロボットの機構を動作させるアクチュエータと、を有し、
前記振動抑制装置は
前記機構の特性であるシステム特性を同定する際における前記機構の動作についての指令である同定指令を生成し、前記同定指令を前記ロボットコントローラへ出力する同定指令生成器と、
前記同定指令と、前記同定指令に従って前記機構が動作した際に前記センサにより出力された前記状態検出値とに基づいて、前記システム特性を同定するシステム特性同定器と、
同定された前記システム特性を、時間によって変化する変動特性と時間によって変化しない非変動特性とに分け、正規化された前記変動特性である正規化変動特性の情報と正規化された前記非変動特性である正規化非変動特性の情報とを出力する変動特性演算器と、
前記機構のパラメトリック共振により前記機構の動作が不安定となるときの前記機構の動作周期である不安定動作周期を、前記正規化変動特性と前記正規化非変動特性とに基づいて推定する不安定動作周期推定器と、
推定された前記不安定動作周期が回避された安定指令を生成する安定指令生成器と、を備え、
前記振動抑制装置は、前記安定指令を前記ロボットコントローラへ出力することによって前記機構の振動を抑制する
ことを特徴とするロボットシステム。
【請求項10】
ロボットの状態を検出するセンサと、前記センサにより出力される状態検出値と設定された動作手順とに基づいて動作指令を出力するロボットコントローラと、前記動作指令に従って前記ロボットの機構を動作させるアクチュエータとを有する前記ロボットの振動を抑制する振動抑制方法であって、
前記機構の特性であるシステム特性を同定する際における前記機構の動作についての指令である同定指令を生成し、前記ロボットコントローラへ前記同定指令を出力するステップと、
前記同定指令と、前記同定指令に従って前記機構が動作した際に前記センサにより出力された前記状態検出値とに基づいて、前記システム特性を同定するステップと、
同定された前記システム特性を、時間によって変化する変動特性と時間によって変化しない非変動特性とに分け、正規化された前記変動特性である正規化変動特性と正規化された前記非変動特性である正規化非変動特性とを求めるステップと、
前記機構のパラメトリック共振により前記機構の動作が不安定となるときの前記機構の動作周期である不安定動作周期を、前記正規化変動特性と前記正規化非変動特性とに基づいて推定するステップと、
推定された前記不安定動作周期が回避された安定指令を生成し、前記安定指令を前記ロボットコントローラへ出力することによって前記機構の振動を抑制するステップと、を含む
ことを特徴とする振動抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ロボットの振動を抑制する振動抑制装置、ロボットシステム、および振動抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用ロボットなどのロボットは、ロボットの設置の容易さ、またはロボットの保守の容易さといった観点から、軽量化のニーズがある。ロボットの機構を軽量化させると、機構の剛性が低下することにより機構が振動し易くなることが問題となる。軽量化と振動の低減との両立のために、振動の発生源となり得る減速機などの設計変更が行われる場合がある。また、ロボットの動作指令を修正することにより振動を励起させにくくする振動抑制装置が適用されることがある。
【0003】
特許文献1には、バイクワッドノッチフィルタの適用によって動作指令を修正することで、事前に設定された周波数での振動が伝わらないようにして振動を減少させる振動抑制装置が開示されている。特許文献1に係る振動抑制装置は、ロボットの励振周波数をバイクワッドノッチフィルタのノッチ周波数に設定することで、ロボットの振動を抑制させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6254180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ロボットの減速機などに起因するパラメトリック共振の場合、パラメトリック共振の周波数であるポンプ周波数は動作指令の周波数とは異なる。特許文献1の技術によると、ロボットを動作させて振動を発生させなければ、ノッチ周波数を決定することができない。ロボットに振動が発生すること、すなわち、ロボットに不安定な動作を行わせることによって、ロボットの振動による不具合が生じる場合がある。このように、特許文献1に開示されている従来の技術によると、ロボットの振動を抑制させるための準備において不安定な動作をロボットに行わせる必要があるという問題があった。
【0006】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、ロボットの振動を抑制させるための準備において不安定な動作をロボットに行わせることを回避可能とする振動抑制装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係る振動抑制装置は、ロボットの状態を検出するセンサと、センサにより出力される状態検出値と設定された動作手順とに基づいて動作指令を出力するロボットコントローラと、動作指令に従ってロボットの機構を動作させるアクチュエータとを有するロボットの振動を抑制する振動抑制装置である。本開示に係る振動抑制装置は、機構の特性であるシステム特性を同定する際における機構の動作についての指令である同定指令を生成し、同定指令をロボットコントローラへ出力する同定指令生成器と、同定指令と、同定指令に従って機構が動作した際にセンサにより出力された状態検出値とに基づいて、システム特性を同定するシステム特性同定器と、同定されたシステム特性を、時間によって変化する変動特性と時間によって変化しない非変動特性とに分け、正規化された変動特性である正規化変動特性の情報と正規化された非変動特性である正規化非変動特性の情報とを出力する変動特性演算器と、機構のパラメトリック共振により機構の動作が不安定となるときの機構の動作周期である不安定動作周期を、正規化変動特性と正規化非変動特性とに基づいて推定する不安定動作周期推定器と、推定された不安定動作周期が回避された安定指令を生成する安定指令生成器と、を備える。本開示に係る振動抑制装置は、安定指令をロボットコントローラへ出力することによって機構の振動を抑制する。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係る振動抑制装置は、ロボットの振動を抑制させるための準備において不安定な動作をロボットに行わせることを回避できる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1に係るロボットシステムの構成例を示す図
図2】実施の形態1に係る振動抑制装置の動作手順の例を示すフローチャート
図3】実施の形態1に係る振動抑制装置によるシミュレーションにおいて使用されるパラメータの例を示す図
図4】実施の形態1に係る振動抑制装置によるシミュレーションの結果の例を示す第1の図
図5】実施の形態1に係る振動抑制装置によるシミュレーションの結果の例を示す第2の図
図6】実施の形態1に係るハードウェア回路の構成例を示す図
図7】実施の形態1に係る制御回路の構成例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、実施の形態に係る振動抑制装置、ロボットシステム、および振動抑制方法を図面に基づいて詳細に説明する。
【0011】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係るロボットシステム1の構成例を示す図である。ロボットシステム1は、振動抑制装置2とロボット3とを備える。振動抑制装置2は、ロボット3の振動を抑制する。ロボット3は、例えば産業用ロボットである。なお、振動抑制装置2には、さまざまな機能およびさまざまな手段が内蔵されているが、実施の形態1では、本開示に係る振動抑制装置2の特徴的な処理に関係する機能および手段のみについて説明する。
【0012】
ロボット3は、ロボットコントローラ21と、アクチュエータ22と、機構23と、センサ24とを備える。ロボットコントローラ21は、アクチュエータ22へ動作指令を出力することにより、ロボット3の動作を制御する。アクチュエータ22は、アクチュエータ22へ入力される動作指令に従って機構23を動作させる。アクチュエータ22は、駆動源であるサーボモータと、減速機とを備える。機構23は、複数の関節を有するアームと、アームの先端部に取り付けられたエンドエフェクタとを備える。サーボモータ、減速機、アーム、およびエンドエフェクタの図示は省略する。
【0013】
センサ24は、ロボット3の状態を検出する。具体的には、センサ24は、ロボット3の姿勢またはロボット3が設置されている環境に関する物理量を検出する。ロボット3の姿勢に関する物理量を検出するセンサ24の例は、変位センサ、速度センサ、加速度センサ、または角速度センサである。ロボット3の姿勢に関する物理量の例は、位置、速度、または加速度である。ロボット3が設置されている環境に関する物理量を検出するセンサ24の例は、温度センサである。ロボット3が設置されている環境に関する物理量の例は、温度である。センサ24は、物理量の検出値である状態検出値をロボットコントローラ21へ出力する。ロボットコントローラ21は、センサ24により出力される状態検出値と設定された動作手順とに基づいて動作指令を出力する。設定された動作手順とは、あらかじめプログラムされた動作手順である。なお、センサ24により検出される物理量は、上記の物理量に限られないものとする。
【0014】
振動抑制装置2とロボット3とは、互いに通信可能に接続されている。振動抑制装置2は、同定指令生成器11と、システム特性同定器12と、変動特性演算器13と、不安定動作周期推定器14と、安定指令生成器15とを備える。
【0015】
同定指令生成器11は、同定指令を生成する。同定指令は、機構23の特性であるシステム特性を同定する際における機構23の動作についての指令である。同定指令生成器11は、システム特性同定器12とロボットコントローラ21との各々へ同定指令を出力する。
【0016】
ロボットコントローラ21は、ロボットコントローラ21へ入力された同定指令をアクチュエータ22へ出力する。アクチュエータ22は、同定指令に従って機構23を動作させる。センサ24は、同定指令に従って機構23を動作させた際に検出された状態検出値をシステム特性同定器12へ出力する。
【0017】
システム特性同定器12は、システム特性同定器12へ入力された同定指令と、同定指令に従って機構23が動作した際にセンサ24により出力された状態検出値とに基づいて、システム特性を同定する。システム特性同定器12は、システム特性の情報を変動特性演算器13へ出力する。
【0018】
変動特性演算器13は、システム特性同定器12によって同定されたシステム特性を、時間によって変化する変動特性と時間によって変化しない非変動特性とに分ける。変動特性演算器13は、正規化された変動特性である正規化変動特性と、正規化された非変動特性である正規化非変動特性とを算出する。変動特性演算器13は、正規化変動特性の情報と正規化非変動特性の情報とを不安定動作周期推定器14へ出力する。
【0019】
不安定動作周期推定器14は、機構23のパラメトリック共振により機構23の動作が不安定となるときの機構23の動作周期である不安定動作周期を、正規化変動特性と正規化非変動特性とに基づいて推定する。不安定動作周期推定器14は、不安定動作周期の情報を安定指令生成器15へ出力する。なお、実施の形態1において、動作周期とは、ロボット3が繰り返し動作を行う場合において、繰り返される各動作の開始から完了までの時間であるものとする。
【0020】
安定指令生成器15は、不安定動作周期推定器14により推定された不安定動作周期が回避された安定指令を生成する。安定指令生成器15は、ロボットコントローラ21へ安定指令を出力する。ロボットコントローラ21は、ロボットコントローラ21へ入力された安定指令をアクチュエータ22へ出力する。アクチュエータ22は、安定指令に従って機構23を動作させる。安定指令は、安定した動作を機構23に行わせるための動作指令とも言える。
【0021】
このようにして、振動抑制装置2は、機構23の特性であるシステム特性を同定する際における機構23の動作についての指令である同定指令をロボットコントローラ21へ出力する。振動抑制装置2は、同定指令に従って機構23が動作した際にセンサ24により出力された状態検出値を基に同定されたシステム特性に基づいて、機構23の動作が不安定となるときの機構23の動作周期である不安定動作周期が回避された安定指令を生成する。振動抑制装置2は、安定指令をロボットコントローラ21へ出力することによって機構23の振動を抑制する。
【0022】
次に、実施の形態1に係る振動抑制装置2の動作原理について詳細に説明する。次の式(1)は、機構23の1つの軸において慣性モーメントで正規化した運動方程式である。
【0023】
【数1】
【0024】
ただし、xは、機構23が有する関節の角度である関節角度を表す。xの単位はradである。β(t)は、1次微分項の係数を表す。β(t)の単位はrad/sである。ω2(t)はゼロ次微分項の係数を表す。ω2(t)の単位はrad2/s2である。
【0025】
ここで、次の式(2)により表される座標変換が導入される。以下、q(t)を変換後座標と称する。
【0026】
【数2】
【0027】
式(2)におけるD(t)は、次の式(3)により表される。
【0028】
【数3】
【0029】
同定指令生成器11は、機構23の動作の速度を、パラメトリック共振が生じるときの速度よりも低下させる同定指令を生成する。これにより、振動抑制装置2は、システム特性を同定する際における機構23の動作を、パラメトリック共振が発生しないような動作とさせることができる。
【0030】
システム特性同定器12は、機構23が有する複数の軸の各々についての運動方程式であって慣性に関して正規化された正規化運動方程式における1次微分項の係数およびゼロ次微分項の係数を、システム特性として同定する。すなわち、システム特性同定器12は、式(1)に示されるβ(t)およびω2(t)を、システム特性として同定する。システム特性同定器12は、状態検出値に基づいてβ(t)とω2(t)とを同定する。なお、システム特性同定器12において状態検出値に基づいてβ(t)とω2(t)とを同定する方法は、任意であるものとする。
【0031】
式(2)を使って式(1)を座標変換すると、次の式(4)が得られる。
【0032】
【数4】
【0033】
ただし、Ω2(t)は、次の式(5)により表される。
【0034】
【数5】
【0035】
β(t)は、次の式(6)のように表すことができる。ω2(t)は、次の式(7)のように表すことができる。
【0036】
【数6】
【0037】
【数7】
【0038】
ただし、ω0は、減衰固有周波数を表す。bは、正規化非変動特性を表す。g(t)は、第1正規化変動特性を表す。h(t)は、第2正規化変動特性を表す。
【0039】
式(5)に示されるΩ2(t)は、次の式(8)のように表すことができる。
【0040】
【数8】
【0041】
ただし、f(t)は、第3正規化変動特性を表す。ωn 2は、式(5)と式(8)との比較により、次の式(9)により表される。ωnは、座標変換後の正規化運動方程式における固有周波数を表す。
【0042】
【数9】
【0043】
変動特性演算器13は、正規化変動特性である、第1正規化変動特性、第2正規化変動特性、および第3正規化変動特性と、正規化非変動特性とを算出する。すなわち、変動特性演算器13は、g(t)、h(t)、f(t)、およびbを算出する。
【0044】
式(5)から式(8)により、f(t)は、次の式(10)により表される。
【0045】
【数10】
【0046】
式(4)へ式(8)を代入することにより、次の式(11)が得られる。
【0047】
【数11】
【0048】
式(11)は、次の式(12)へ書き換えることができる。
【0049】
【数12】
【0050】
機構23に発生するパラメトリック共振が、減速機に起因するものであるとする。この場合、減速機が有する歯同士が接触する点の数が周期的に変化する。第1正規化変動特性であるg(t)と第2正規化変動特性であるh(t)とは、周期が互いに同じ、かつ、位相が互いに同じである矩形波に近似できる。したがって、式(10)より、第3正規化変動特性であるf(t)は、励起周期と同じ周期をもち、かつ、矩形波と、式(10)における1次微分項であるインパルスとから構成される周期関数となる。
【0051】
変換後座標であるq(t)は、次の式(13)のように近似される。
【0052】
【数13】
【0053】
第3正規化変動特性であるf(t)は、次の式(14)のように表すことができる。式(14)に示すfk(t)は、次の式(15)により表される。
【0054】
【数14】
【0055】
【数15】
【0056】
ただし、fk(t)は、f(t)の第k周波数成分を表す。fk-(t)は、f(t)のうち第k周波数成分以外の項を表す。fkは、座標変換後の正規化運動方程式のゼロ次微分項の係数における変動部分のうちの第kスペクトル振幅を表す。ωpは、パラメトリック共振の周波数であるポンプ周波数を表す。実施の形態1では、ポンプ周波数を、機構23の励振周波数であるωeとする。実施の形態1において、ポンプ周波数とは、パラメトリック励振の周波数ともいえる。
【0057】
式(13)より、変換後座標の、時間に関する2階微分であるq..(t)を求めると、次の式(16)が得られる。なお、「q..」は、「q」の上に「..」が付された記号を表す。
【0058】
【数16】
【0059】
式(14)から式(16)を式(11)へ代入することにより、次の式(17)が得られる。
【0060】
【数17】
【0061】
ただし、l(t)は、次の式(18)により表される。
【0062】
【数18】
【0063】
式(17)において、周波数がωpである余弦項および正弦項の係数比較を行うことにより、次の式(19)および式(20)が導き出される。なお、周波数がωpである余弦項および正弦項の各々には、ωk-ωp=ωpである項が含まれるものとする。
【0064】
【数19】
【0065】
【数20】
【0066】
式(19)および式(20)は、次の式(21)のように書き換えることができる。
【0067】
【数21】
【0068】
式(21)におけるベクトルと行列とは、次の式(22)のように表される。
【0069】
【数22】
【0070】
式(21)は、式(22)を使うことにより、次の式(23)のように書き換えることができる。
【0071】
【数23】
【0072】
式(22)は、次の式(24)である状態方程式に書き換えることができる。
【0073】
【数24】
【0074】
後述するsiは、次の式(25)により表されるHの第i固有値とする。
【0075】
【数25】
【0076】
次の式(26)が成立するように励振周波数であるωeが選択されることによって、式(1)により表される機構23の動作を安定化させることができる。なお、ωe=ωpであるものとする。
【0077】
【数26】
【0078】
ただし、Re(X)は、Xを複素数とした場合におけるXの実部を表す。D.は、次の式(27)を満たす。なお、「D.」は、「D」の上に「.」が付された符号を表す。
【0079】
【数27】
【0080】
ただし、gminは、第1正規化変動特性であるg(t)の最小値を表す。
【0081】
式(26)および式(27)を使うことにより、式(28)に示される十分安定条件が導き出される。実施の形態1において、十分安定条件とは、機構23の動作を安定化させるための十分条件であるものとする。
【0082】
【数28】
【0083】
ただし、式(28)の左辺は、減衰率を表す。
【0084】
式(1)により表される機構23の動作を安定化させるためには、式(28)を満足するようなωe(=ωp)が選択されれば良い。
【0085】
不安定動作周期推定器14は、ωe(=ωp)を変化させながら上記演算を繰り返し、複数のωeの各々について、安定ポンプ周波数と不安定ポンプ周波数とのいずれに該当するかを判定する。安定ポンプ周波数は、十分安定条件を満足するポンプ周波数である。不安定ポンプ周波数は、十分安定条件を満足しないポンプ周波数である。不安定動作周期推定器14は、式(28)を満足しないときのTeを、不安定動作周期であるものと推定する。Teは、励振周期を表す。Te=2・π/ωeが成立する。
【0086】
このように、不安定動作周期推定器14は、パラメトリック共振の周波数であるポンプ周波数が、式(28)である条件式を満足するか否かを判定し、条件式を満足しないポンプ周波数を求めることによって不安定動作周期を算出する。不安定動作周期推定器14は、不安定動作周期の情報を安定指令生成器15へ出力する。
【0087】
安定指令生成器15は、不安定動作周期推定器14によって推定された不安定動作周期を回避するように調整された動作を表す安定指令を生成する。安定指令生成器15は、生成された安定指令をロボットコントローラ21へ出力する。ロボットコントローラ21は、アクチュエータ22へ安定指令を出力する。アクチュエータ22は、安定指令に従って機構23を動作させる。これにより、パラメトリック共振を発生させること無く、ロボット3のユーザが所望する動作を機構23に行わせることができる。
【0088】
次に、実施の形態1に係る振動抑制装置2の動作手順について説明する。図2は、実施の形態1に係る振動抑制装置2の動作手順の例を示すフローチャートである。
【0089】
ステップS1において、同定指令生成器11は、同定指令を生成し、同定指令を出力する。同定指令生成器11は、ロボット3を実際に使用する際における動作指令による動作速度に比べて低い速度で機構23を動作させるような同定指令を生成する。これにより、同定指令生成器11は、パラメトリック共振を発生させないような動作を機構23に行わせる同定指令を生成する。
【0090】
ステップS2において、システム特性同定器12は、ステップS1により生成された同定指令と、同定指令に従って機構23が動作した際にセンサ24により出力された状態検出値とに基づいて、システム特性を同定する。システム特性同定器12は、式(1)に示されるβ(t)およびω2(t)を同定する。
【0091】
ステップS3において、変動特性演算器13は、ステップS2により同定されたシステム特性に基づいて、正規化変動特性と正規化非変動特性とを算出する。変動特性演算器13は、ステップS2により同定されたシステム特性を変動特性と非変動特性とに分け、正規化変動特性と正規化非変動特性とを求める。変動特性演算器13は、正規化変動特性であるg(t)、h(t)、およびf(t)と、正規化非変動特性であるbとを算出する。
【0092】
ステップS4およびステップS5は、ステップS3において求めた正規化変動特性と正規化非変動特性とに基づいて不安定動作周期を推定するステップである。ステップS4において、不安定動作周期推定器14は、十分安定条件に基づいて、安定ポンプ周波数と不安定ポンプ周波数とを判定する。不安定動作周期推定器14は、ωe(=ωp)を変化させるごとに十分安定条件を満足するか否かを判定することによって、安定ポンプ周波数と不安定ポンプ周波数とを判定する。
【0093】
ステップS5において、不安定動作周期推定器14は、不安定動作周期を算出する。不安定動作周期推定器14は、式(28)を満足しないときのTeを、不安定動作周期であるものと推定することによって、不安定動作周期を算出する。
【0094】
ステップS6において、安定指令生成器15は、安定指令を生成し、安定指令を出力する。安定指令生成器15は、ステップS5により算出された不安定動作周期を回避するように調整された動作を表す安定指令を生成する。安定指令生成器15は、生成された安定指令をロボットコントローラ21へ出力する。以上により、振動抑制装置2は、図2に示す手順による動作を終了する。
【0095】
次に、実施の形態1に係る振動抑制装置2による不安定動作周期の算出例について説明する。以下、振動抑制装置2により不安定動作周期を算出することを、振動抑制装置2によるシミュレーションと称する。以下の説明では、ロボット3は1つの軸のみを動作させることを仮定している。
【0096】
図3は、実施の形態1に係る振動抑制装置2によるシミュレーションにおいて使用されるパラメータの例を示す図である。図3には、パラメータを表す記号と、パラメータの意味と、パラメータの値の例とを示している。
【0097】
図3において、パラメータである「g」は、第1正規化変動特性であるg(t)を表す。図3に示す例によると、g(t)は、周波数が100ωpである矩形波により表される。すなわち、g(t)の周波数は、ポンプ周波数であるωpの100倍である。図3において、パラメータである「h」は、第2正規化変動特性であるh(t)を表す。図3に示す例により、h(t)は、周波数が500ωpである矩形波により表される。すなわち、h(t)の周波数は、ポンプ周波数であるωpの500倍である。
【0098】
図4は、実施の形態1に係る振動抑制装置2によるシミュレーションの結果の例を示す第1の図である。図4には、第3正規化変動特性であるf(t)の第kスペクトル振幅と励振周波数との関係を表すグラフを示している。図4に示すグラフの縦軸は、f(t)の第kスペクトル振幅を表す。図4に示すグラフの横軸は、励振周波数を表す。
【0099】
図4において、f(t)の第kスペクトル振幅、すなわちfkは、励振周波数であるωeが0.4[Hz]であるときにピークとなる。これは、式(12)の右辺が0.4[Hz]であるとき、すなわち、励振周期が2.5[s]であるときに、fkが増大することを示している。
【0100】
図5は、実施の形態1に係る振動抑制装置2によるシミュレーションの結果の例を示す第2の図である。図5には、減衰率と励振周期との関係を表すグラフを示している。図5に示すグラフの縦軸は、減衰率を表す。減衰率は、式(28)の左辺により表される。図5に示すグラフの横軸は、励振周期を表す。
【0101】
図5において、励振周期であるTeが、1.4[s]、1.5[s]、2.5[s]、および4.2[s]の各々の近傍であるときに、減衰率は正数となる。減衰率が正数であるとき、機構23の動作は不安定となる。安定指令生成器15は、機構23の動作が不安定となるときの励振周期を回避するように励振周波数が調整された安定指令を生成する。
【0102】
なお、上記では、説明を簡易にするために、g(t)とh(t)との各々は矩形波により表されるものとした。g(t)とh(t)との各々は、矩形波以外により表されるものでも良い。例えば、g(t)とh(t)との各々を表す波形は、ロボット3に所望される動作のパターンに応じた任意の階段形の波形であっても良い。g(t)とh(t)との各々が矩形波以外により表されるものである場合も、振動抑制装置2による上記処理を適用することができる。
【0103】
上記では、機構23に発生するパラメトリック共振が、減速機に起因するものとした。パラメトリック共振は、減速機以外の、時間により変化するシステム特性に起因するものであっても良い。この場合において、g(t)とh(t)との各々が矩形波以外により表されるものである場合も、振動抑制装置2による上記処理を適用することができる。
【0104】
上記では、ロボット3が1つの軸のみを動作させることを仮定した。振動抑制装置2は、機構23が有する複数の軸を動かす場合、上記手法を全ての軸に適用する。その際に、安定指令生成器15は、機構23が有する複数の軸の各々について推定された不安定動作周期の和集合を基に、複数の軸の各々についての安定指令を生成する。振動抑制装置2は、全ての軸について算出された不安定動作周期の和集合に対して各軸の安定指令を生成することで、複数の軸を動かす場合における振動を抑制することができる。
【0105】
実施の形態1によると、振動抑制装置2は、同定指令を出力することによって機構23を動作させてシステム特性を同定し、同定されたシステム特性に基づいて、不安定動作周期が回避された安定指令を生成する。同定指令により機構23を動作させる際に、パラメトリック共振を発生させる必要は無い。ロボット3の振動を抑制させるための調整を行う際において、ロボット3には静かで安定した動作を行わせることができる。すなわち、振動抑制装置2は、ロボット3に振動を発生させなくても、ロボット3の振動を抑制させるための安定指令を生成することができる。このため、振動抑制装置2は、ロボット3の振動を抑制させるための準備において、不安定な動作をロボット3に行わせることを回避することができる。振動抑制装置2は、ロボット3に不安定な動作を行わせることによって生じる不具合を回避することが可能となる。
【0106】
また、振動抑制装置2は、複数の信号の畳み込み演算を行う場合などに比べて短時間での処理によって、安定指令を出力することができる。振動抑制装置2は、パラメータが高速に変化する場合に、パラメータの変化に合うような安定指令を生成することができる。振動抑制装置2は、高速に変化するパラメータに起因するパラメトリック共振を抑制することができる。振動抑制装置2は、ロボット3の各軸における、慣性、摩擦または剛性の時間変化がある場合であっても、パラメトリック共振を抑制することができる。
【0107】
上記では、ロボット3は産業用ロボットであるものとしたが、これに限られない。ロボット3は、サービスロボット、救助ロボット、医療ロボット、介護ロボット、エンタテインメントロボット、林業ロボット、または農業ロボットなどであっても良い。さらに、振動抑制装置2は、状態検出値と設定された動作手順とに基づいて動作指令を出力するコントローラと動作手順に従って機構を動作させるアクチュエータとを備える装置全般についての振動抑制に応用可能である。実施の形態1に係るロボット3には、このような装置全般も含まれるものとする。
【0108】
次に、振動抑制装置2を実現するハードウェアについて説明する。振動抑制装置2は、処理回路の使用により実現される。処理回路は、専用の回路であっても良く、プロセッサがソフトウェアを実行する回路であっても良い。
【0109】
処理回路が専用の回路である場合、振動抑制装置2は、例えば、図6に示すハードウェア回路により実現される。図6は、実施の形態1に係るハードウェア回路30の構成例を示す図である。ハードウェア回路30は、入力部31と、処理回路32と、出力部33とを備える。
【0110】
入力部31は、ハードウェア回路30の外部から入力されたデータを受信して処理回路32に与えるインターフェース回路である。出力部33は、処理回路32からのデータをハードウェア回路30の外部へ送るインターフェース回路である。
【0111】
振動抑制装置2の処理部である、同定指令生成器11、システム特性同定器12、変動特性演算器13、不安定動作周期推定器14、および安定指令生成器15は、専用の回路である処理回路32により実現される。処理回路32は、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、またはこれらを組み合わせた回路である。振動抑制装置2の処理部を機能別に処理回路32で実現しても良いし、各機能をまとめて処理回路32で実現しても良い。
【0112】
処理回路がソフトウェアにより実現される場合、処理回路は、例えば、図7に示す制御回路である。図7は、実施の形態1に係る制御回路34の構成例を示す図である。制御回路34は、入力部31、出力部33、プロセッサ35、およびメモリ36を備える。制御回路34の入力部31は、制御回路34の外部から入力されたデータを受信してプロセッサ35に与えるインターフェース回路である。制御回路34の出力部33は、プロセッサ35またはメモリ36からのデータを制御回路34の外部へ送るインターフェース回路である。
【0113】
処理回路が図7に示す制御回路34である場合、振動抑制装置2の処理部は、ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェアまたはファームウェアはプログラムとして記述され、メモリ36に格納される。処理回路は、メモリ36に記憶されたプログラムをプロセッサ35が読み出して実行することにより、振動抑制装置2の処理部の機能を実現する。すなわち、処理回路は、振動抑制装置2の処理が結果的に実行されることになるプログラムを格納するためのメモリ36を備える。また、これらのプログラムは、振動抑制装置2の手順および方法をコンピュータに実行させるものであるともいえる。
【0114】
プロセッサ35は、CPU(Central Processing Unit)である。プロセッサ35は、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、プロセッサ、またはDSP(Digital Signal Processor)でも良い。メモリ36は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(登録商標)(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)等の、不揮発性または揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスクまたはDVD(Digital Versatile Disc)等が該当する。なお、振動抑制装置2の処理部は、制御回路34と図6に示す処理回路32とが組み合わされて実現されても良い。
【0115】
メモリ36に格納されるプログラムは、例えば、CD(Compact Disc)-ROM、DVD-ROMなどの記録媒体に格納された状態で提供されても良く、通信回線を介して提供されても良い。
【0116】
次に、図1に示すロボットコントローラ21を実現するハードウェアについて説明する。ロボットコントローラ21は、振動抑制装置2と同様に、処理回路の使用により実現される。ロボットコントローラ21は、図6に示すハードウェア回路30の構成を備えるか、または、図7に示す制御回路34と同様の構成を備える。ロボットコントローラ21の機能は、図6に示す処理回路32と同様の構成と、図7に示す制御回路34と同様の構成が組み合わされて実現されても良い。
【0117】
なお、振動抑制装置2は、ネットワークを介してロボット3に接続されても良い。ネットワークは、例えば、インターネットなどのWAN(Wide Area Network)であるが、LAN(Local Area Network)であっても良い。振動抑制装置2は、クラウド環境に構築されたサーバによって構成されても良い。
【0118】
実施の形態1によると、振動抑制装置2は、同定指令をロボットコントローラ21へ出力し、同定指令に従って機構23が動作した際にセンサ24により出力された状態検出値を基に同定されたシステム特性に基づいて、機構23の動作が不安定となるときの機構23の動作周期である不安定動作周期が回避された安定指令を生成し、ロボットコントローラ21へ安定指令を出力することによって機構23の振動を抑制する。振動抑制装置2は、準備動作においてロボット3に振動を発生させなくても、ロボット3の振動を抑制させるための安定指令を生成することができる。これにより、振動抑制装置2は、ロボット3の振動を抑制させるための準備において不安定な動作をロボット3に行わせることを回避することが可能となる。
【0119】
また、振動抑制装置2は、同定指令を生成する同定指令生成器11と、同定指令と同定指令に従って機構23が動作した際にセンサ24により出力された状態検出値とに基づいて、システム特性を同定するシステム特性同定器12と、同定されたシステム特性を変動特性と非変動特性とに分け、正規化変動特性の情報と正規化非変動特性の情報とを出力する変動特性演算器13と、正規化変動特性と正規化非変動特性とに基づいて不安定動作周期を推定する不安定動作周期推定器14と、推定された不安定動作周期が回避された安定指令を生成する安定指令生成器15と、を備える。これにより、振動抑制装置2は、準備動作においてロボット3に振動を発生させなくても、ロボット3の振動を抑制させるための安定指令を生成することができる。また、振動抑制装置2は、高速に変化するパラメータに起因するパラメトリック共振を抑制することができる。
【0120】
また、同定指令生成器11は、パラメトリック共振が生じ得る速度よりも機構23の動作の速度を低下させる同定指令を生成する。これにより、振動抑制装置2は、ロボット3の振動を抑制させるための準備において、パラメトリック共振の発生を回避することができる。
【0121】
また、システム特性同定器12は、機構23が有する複数の軸の各々についての運動方程式であって慣性に関して正規化された正規化運動方程式における1次微分項の係数およびゼロ次微分項の係数を、システム特性として同定する。また、1次微分項の係数であるβ(t)は、上記の式(6)により表される。ゼロ次微分項の係数であるω2(t)は、上記の式(7)により表される。これにより、振動抑制装置2は、ロボット3の各軸における、慣性、摩擦または剛性の時間変化がある場合であっても、パラメトリック共振を抑制することができる。
【0122】
また、不安定動作周期推定器14は、パラメトリック共振の周波数であるポンプ周波数が条件式を満足するか否かを判定し、条件式を満足しないポンプ周波数を求めることによって不安定動作周期を算出する。また、条件式は、上記の式(28)により表される。これにより、振動抑制装置2は、正規化変動特性と正規化非変動特性とに基づいて不安定動作周期を推定することができる。
【0123】
また、ポンプ周波数を、機構23の励振周波数とする。これにより、振動抑制装置2は、不安定動作周期が回避された安定指令を生成することができる。
【0124】
また、安定指令生成器15は、機構23が有する複数の軸の各々について推定された不安定動作周期の和集合を基に、複数の軸の各々についての安定指令を生成する。これにより、振動抑制装置2は、機構23が有する複数の軸を動かす場合における振動を抑制することができる。
【0125】
以上の実施の形態に示した構成は、本開示の内容の一例を示すものである。実施の形態の構成は、別の公知の技術と組み合わせることが可能である。本開示の要旨を逸脱しない範囲で、実施の形態の構成の一部を省略または変更することが可能である。
【符号の説明】
【0126】
1 ロボットシステム、2 振動抑制装置、3 ロボット、11 同定指令生成器、12 システム特性同定器、13 変動特性演算器、14 不安定動作周期推定器、15 安定指令生成器、21 ロボットコントローラ、22 アクチュエータ、23 機構、24 センサ、30 ハードウェア回路、31 入力部、32 処理回路、33 出力部、34 制御回路、35 プロセッサ、36 メモリ。
【要約】
振動抑制装置(2)は、ロボット(3)の状態を検出するセンサ(24)と、センサ(24)により出力される状態検出値と設定された動作手順とに基づいて動作指令を出力するロボットコントローラ(21)と、動作指令に従って機構(23)を動作させるアクチュエータ(22)とを有するロボット(3)の振動を抑制する。振動抑制装置(2)は、機構(23)の特性であるシステム特性を同定する際における機構(23)の動作についての指令である同定指令をロボットコントローラ(21)へ出力し、同定指令に従って機構(23)が動作した際にセンサ(24)により出力された状態検出値を基に同定されたシステム特性に基づいて、機構(23)の動作が不安定となるときの機構(23)の動作周期である不安定動作周期が回避された安定指令を生成し、安定指令をロボットコントローラ(21)へ出力することによって機構(23)の振動を抑制する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7