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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】複合基板
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/02 20060101AFI20241108BHJP
   B23K 20/00 20060101ALI20241108BHJP
   B23K 20/24 20060101ALI20241108BHJP
   H01L 21/302 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
H01L21/02 B
B23K20/00 310A
B23K20/24
H01L21/302 201B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024552105
(86)(22)【出願日】2024-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2024013065
【審査請求日】2024-08-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂井 淳二
【審査官】早川 朋一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-018996(JP,A)
【文献】特開2014-107393(JP,A)
【文献】特開2023-000500(JP,A)
【文献】国際公開第2014/077212(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/02
B23K 20/00
B23K 20/24
H01L 21/302
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
InPと、InPの結晶体上にエピタキシャル成長により形成可能な材料の結晶体と、の少なくとも一方を含んで構成される機能性基板と、
半導体材料からなり、前記機能性基板と接合されて前記機能性基板を支持する支持基板と、を有し、
前記機能性基板は、第1の層と、前記第1の層よりも前記支持基板に近い側に配置され、希ガス元素を含んだ非晶質体からなる第2の層と、を有し、
前記支持基板は、第1支持層と、前記第1支持層よりも前記機能性基板に近い側に配置され、前記希ガス元素を含んだ前記半導体材料の非晶質体からなる第2支持層と、前記機能性基板に接しており、前記半導体材料の非晶質体からなる接合層と、を有し、
前記機能性基板は、InPの結晶体からなる第1機能層と、InPの非晶質体からなる第2機能層と、を有し、
前記第1の層は前記第1機能層であり、
前記第2の層は前記第2機能層であり、
前記機能性基板は、前記第2の層と前記支持基板との間にInPの酸化膜を有する、複合基板。
【請求項2】
InPと、InPの結晶体上にエピタキシャル成長により形成可能な材料の結晶体と、の少なくとも一方を含んで構成される機能性基板と、
半導体材料からなり、前記機能性基板と接合されて前記機能性基板を支持する支持基板と、を有し、
前記機能性基板は、第1の層と、前記第1の層よりも前記支持基板に近い側に配置され、希ガス元素を含んだ非晶質体からなる第2の層と、を有し、
前記支持基板は、第1支持層と、前記第1支持層よりも前記機能性基板に近い側に配置され、前記希ガス元素を含んだ前記半導体材料の非晶質体からなる第2支持層と、前記機能性基板に接しており、前記半導体材料の非晶質体からなる接合層と、を有し、
前記機能性基板は、InPの結晶体からなる第1機能層と、前記第1機能層上にエピタキシャル成長により形成された前記材料の結晶体からなる第2機能層と、前記材料の非晶質体からなる第3機能層と、を有し、
前記第1の層は前記第1機能層および前記第2機能層であり、
前記第2の層は前記第3機能層であり、
前記機能性基板は、前記第2の層と前記支持基板との間に前記材料の酸化膜を有する、複合基板。
【請求項3】
InPと、InPの結晶体上にエピタキシャル成長により形成可能な材料の結晶体と、の少なくとも一方を含んで構成される機能性基板と、
半導体材料からなり、前記機能性基板と接合されて前記機能性基板を支持する支持基板と、を有し、
前記機能性基板は、第1の層と、前記第1の層よりも前記支持基板に近い側に配置され、希ガス元素を含んだ非晶質体からなる第2の層と、を有し、
前記支持基板は、第1支持層と、前記第1支持層よりも前記機能性基板に近い側に配置され、前記希ガス元素を含んだ前記半導体材料の非晶質体からなる第2支持層と、前記機能性基板に接しており、前記半導体材料の非晶質体からなる接合層と、を有し、
前記機能性基板は、前記材料の結晶体からなる第2機能層と、前記材料の非晶質体からなる第3機能層と、を有し、
前記第1の層は前記第2機能層であり、
前記第2の層は前記第3機能層であり
前記機能性基板は、前記第2の層と前記支持基板との間に前記材料の酸化膜を有する、複合基板。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の複合基板において、
前記酸化膜の厚みは1nm未満である、複合基板。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載の複合基板において、
前記希ガス元素の含有率は、前記第2の層と前記第2支持層とでそれぞれピークを有する、複合基板。
【請求項6】
請求項に記載の複合基板において、
前記半導体材料はSiCであり、
前記第2の層における前記ピークと前記第2支持層における前記ピークとの間の距離は、2.2nm以上6.1nm以下である、複合基板。
【請求項7】
請求項に記載の複合基板において、
前記半導体材料はSiであり、
前記第2の層における前記ピークと前記第2支持層における前記ピークとの間の距離は、2.5nm以上6.9nm以下である、複合基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、InP(リン化インジウム)を用いて構成された機能性基板と、SiやSiC等の半導体材料からなる支持基板とを接合することにより形成され、半導体レーザ、フォトダイオード、変調器等のフォトニクスデバイスや、HEMT(High Electron Mobility Transistor)、HBT(Heterojunction Bipolar Transistor)等の高周波トランジスタなどの用途に使用される複合基板が知られている。このような複合基板の作製方法として、機能性基板と支持基板の各接合面に対して高速原子ビーム(FAB:Fast Atom Beam)を照射することで活性化処理を行った後、これらの接合面同士を直接接合する方法が知られている。しかしながら、この方法ではInP基板側においてPが選択的にスパッタされ、表面にIn層が形成される。その結果、表面のIn層がInP基板から剥がれやすくなり、複合基板の接合強度が低下するという課題があった(非特許文献1参照)。
【0003】
そこで、上記課題を解決するものとして、特許文献1の技術が知られている。特許文献1には、InP基板上にインジウム酸化物のバリア層を形成し、このバリア層とシリコン基板とをアモルファス層を介して接合する方向が開示されている。この方法により、高速原子ビームがInP基板に直接照射されるのをバリア層で防いで表面へのIn層形成を抑制できるため、剥がれの生じない十分な接合強度を得られる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】M. M. R. Howlader, T. Watanabe, and T. Suga, "Characterization of the bonding strength and interface current of p-Si/n-InP wafers bonded by surface activated bonding method at room temperature", JOURNAL OF APPLIED PHYSICS, VOLUME 91, NUMBER 5,p. 3062-3066
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特開2023-500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、InPを用いた複合基板により構成されるフォトニクスデバイスや高周波トランジスタなどでは、微細化、高集積化、高出力化が求められており、それに伴って単位面積あたりの発熱密度がますます増大している。これらのデバイスでは、動作中にInP温度が上昇しすぎると、所望の性能を発揮することができず、また信頼性や寿命の低下にもつながる。そのため、デバイスの熱を効率よく逃がせる構造とする必要がある。しかしながら、特許文献1の複合基板の構造では、接合界面に熱伝導率が低いバリア層が存在するため、InP基板で発生した熱を効率よく支持基板側に逃がすことが難しい。
【0007】
また近年では、InPの結晶体上にエピタキシャル成長により形成された半導体材料を含む基板と支持基板とを接合した複合基板上に、フォトニクスデバイスや高周波トランジスタなどのデバイスを構成したものも実用化されている。このような構造の複合基板においても同様に、デバイスの熱を支持基板側に効率よく逃がせる構造とする必要がある。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、InPやInPの結晶体上にエピタキシャル成長により形成可能な材料の結晶体を含む機能性基板と支持基板とが接合層を介して接合された複合基板において、機能性基板の熱を効率よく支持基板側に逃がすことが可能な複合基板およびその製造方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様による複合基板は、InPと、InPの結晶体上にエピタキシャル成長により形成可能な材料の結晶体と、の少なくとも一方を含んで構成される機能性基板と、半導体材料からなり、前記機能性基板と接合されて前記機能性基板を支持する支持基板と、を有し、前記機能性基板は、第1の層と、前記第1の層よりも前記支持基板に近い側に配置され、希ガス元素を含んだ非晶質体からなる第2の層と、を有し、前記支持基板は、第1支持層と、前記第1支持層よりも前記機能性基板に近い側に配置され、前記希ガス元素を含んだ前記半導体材料の非晶質体からなる第2支持層と、前記機能性基板に接しており、前記半導体材料の非晶質体からなる接合層と、を有し、前記機能性基板は、InPの結晶体からなる第1機能層と、InPの非晶質体からなる第2機能層と、を有し、前記第1の層は前記第1機能層であり、前記第2の層は前記第2機能層であり、前記機能性基板は、前記第2の層と前記支持基板との間にInPの酸化膜を有する
本発明の第2の態様による複合基板は、InPと、InPの結晶体上にエピタキシャル成長により形成可能な材料の結晶体と、の少なくとも一方を含んで構成される機能性基板と、半導体材料からなり、前記機能性基板と接合されて前記機能性基板を支持する支持基板と、を有し、前記機能性基板は、第1の層と、前記第1の層よりも前記支持基板に近い側に配置され、希ガス元素を含んだ非晶質体からなる第2の層と、を有し、前記支持基板は、第1支持層と、前記第1支持層よりも前記機能性基板に近い側に配置され、前記希ガス元素を含んだ前記半導体材料の非晶質体からなる第2支持層と、前記機能性基板に接しており、前記半導体材料の非晶質体からなる接合層と、を有し、前記機能性基板は、InPの結晶体からなる第1機能層と、前記第1機能層上にエピタキシャル成長により形成された前記材料の結晶体からなる第2機能層と、前記材料の非晶質体からなる第3機能層と、を有し、前記第1の層は前記第1機能層および前記第2機能層であり、前記第2の層は前記第3機能層であり、前記機能性基板は、前記第2の層と前記支持基板との間に前記材料の酸化膜を有する。
本発明の第3の態様による複合基板は、InPと、InPの結晶体上にエピタキシャル成長により形成可能な材料の結晶体と、の少なくとも一方を含んで構成される機能性基板と、半導体材料からなり、前記機能性基板と接合されて前記機能性基板を支持する支持基板と、を有し、前記機能性基板は、第1の層と、前記第1の層よりも前記支持基板に近い側に配置され、希ガス元素を含んだ非晶質体からなる第2の層と、を有し、前記支持基板は、第1支持層と、前記第1支持層よりも前記機能性基板に近い側に配置され、前記希ガス元素を含んだ前記半導体材料の非晶質体からなる第2支持層と、前記機能性基板に接しており、前記半導体材料の非晶質体からなる接合層と、を有し、前記機能性基板は、前記材料の結晶体からなる第2機能層と、前記材料の非晶質体からなる第3機能層と、を有し、前記第1の層は前記第2機能層であり、前記第2の層は前記第3機能層であり、前記機能性基板は、前記第2の層と前記支持基板との間に前記材料の酸化膜を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、InPやInPの結晶体上にエピタキシャル成長により形成可能な材料の結晶体を含む機能性基板と支持基板とが接合層を介して接合された複合基板において、機能性基板の熱を効率よく支持基板側に逃がすことが可能な複合基板およびその製造方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1の実施形態に係る複合基板の概略構成を示す模式的な断面図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係る複合基板の製造工程の一例を示す図である。
図3】本発明の第1の実施形態に係る複合基板の製造工程の一例を示す図である。
図4】本発明の第2の実施形態に係る複合基板の概略構成を示す模式的な断面図である。
図5】本発明の第2の実施形態に係る複合基板の製造工程の一例を示す図である。
図6】本発明の第2の実施形態に係る複合基板の製造工程の一例を示す図である。
図7】本発明の第3の実施形態に係る複合基板の概略構成を示す模式的な断面図である。
図8】本発明の第4の実施形態に係る複合基板の概略構成を示す模式的な断面図である。
図9】実施例と比較例の観察写真を示す図である。
図10】実施例と比較例のそれぞれにおけるFAB照射時間、加工時の接合界面の剥がれの有無、酸化膜の厚みおよびArピーク間の距離をまとめた表である。
図11】支持基板がSiCで構成される場合の機能性基板へのFAB照射時間とArピーク間距離の関係を示すグラフである。
図12】支持基板がSiで構成される場合の機能性基板へのFAB照射時間とArピーク間距離の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。また、図面は説明をより明確にするため、実施の形態に比べ、各部の幅、厚み、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。
【0013】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る複合基板の概略構成を示す模式的な断面図である。本実施形態における複合基板100は、例えば半導体レーザ、フォトダイオード、変調器等のフォトニクスデバイスや、HEMT、HBT等の高周波トランジスタなど、様々な用途に利用されるものであり、InP層10と酸化膜20を有する機能性基板1が支持基板30に接合された構造を有している。
【0014】
機能性基板1の材料には、例えばInPの結晶体が用いられる。InP層10における結晶構造の一部は、複合基板100の製造工程中に非晶質体に変化し、非晶質体の状態でInP層10に含まれている。この点については後述する。
【0015】
酸化膜20は、機能性基板1が支持基板30に接合される前に、InP層10を構成するInPの一部が空気中で自然酸化することによりInP層10の表面に形成された酸化物の層であり、複合基板100においてInP層10と支持基板30の間に配置される。
【0016】
支持基板30は、InP層10と酸化膜20を含む機能性基板1を支持する。支持基板30としては、任意の適切な基板が用いられ得る。支持基板30は、単結晶体で構成されてもよく、多結晶体で構成されてもよい。機能性基板1の酸化膜20と支持基板30は、互いに直接接合されている。
【0017】
支持基板30を構成する材料には、例えばSiCやSiなどの半導体材料を用いることができる。あるいは、AlNやダイヤモンド、SOI(Silicon on Insulator)などを用いて支持基板30を構成してもよい。SOIを支持基板30として用いる場合、このSOI基板(支持基板30)がSiで構成された光回路や電気回路等を含んでいてもよい。支持基板30の厚みとしては、例えば0.2~1mmであるが、これ以外にも任意の適切な厚みが採用され得る。
【0018】
なお図示しないが、複合基板100は、任意の層をさらに有していてもよい。このような層の種類・機能、数、組み合わせ、配置等は、目的に応じて適切に設定され得る。
【0019】
複合基板100は、任意の適切な形状で製造され得る。1つの実施形態においては、いわゆるウェハの形態で複合基板100が製造され得る。また、複合基板100のサイズは、例えばウェハ(基板)の直径が50mm~150mmなど、目的に応じて適切に設定され得る。
【0020】
図2および図3は、本発明の第1の実施形態に係る複合基板の製造工程の一例を示す図である。
【0021】
図2(a)は、複合基板100の製造工程のうち準備工程を示している。この工程では、所定厚みのInP結晶体からなる機能性基板1を用意する。この機能性基板1は、InPの結晶体からなるInP層10と、InP層10の表面に形成された自然酸化によるInPの酸化膜20とを有している。
【0022】
図2(b)は、複合基板100の製造工程のうち酸化膜除去・活性化工程を示している。この工程では、例えば所定厚みの半導体材料からなる半導体基板30Aを用意し、図2(a)の準備工程で用意した機能性基板1と、半導体基板30Aとに対して、それぞれの表面にAr等の希ガスを原子種に用いた高速原子ビーム(以下、FABと称する)を所定時間照射する。これにより、機能性基板1における酸化膜20の一部を除去して薄くするとともに、機能性基板1および半導体基板30Aの表面を活性化する。このときのFABの照射時間は、例えば5秒~12秒程度が好ましい。
【0023】
図2(c)は、複合基板100の製造工程のうちスパッタリング工程を示している。この工程では、図2(b)の酸化膜除去・活性化工程で機能性基板1と半導体基板30Aにそれぞれ照射されたFABのうち、機能性基板1側のFAB照射を停止し、半導体基板30A側のFAB照射をさらに所定時間継続する。このときのFABの照射時間は、例えば30秒~600秒程度が好ましい。これにより、半導体基板30Aを構成する半導体材料をスパッタして機能性基板1(酸化膜20)の表面に付着させ、機能性基板1側に半導体基板30Aと同じ半導体材料からなるスパッタ膜30Bを形成する。
【0024】
図3(d)は、複合基板100の製造工程のうち接合工程を示している。この工程では、図2(c)のスパッタリング工程でスパッタ膜30Bが形成された機能性基板1と半導体基板30Aとを接合する。これにより、半導体基板30Aとスパッタ膜30Bが一体化して支持基板30が形成され、機能性基板1と支持基板30の接合体が得られる。
【0025】
図3(e)は、図3(d)の接合工程後に得られる接合体を示している。図3(d)の接合工程により、上記のように半導体基板30Aとスパッタ膜30Bが一体化することで、これらの接合界面40を内部に有する支持基板30が形成され、図3(e)のような接合体が得られる。
【0026】
図3(e)の接合体において、機能性基板1のInP層10には、第1機能層11と、第1機能層11よりも支持基板30側に配置された第2機能層12と、が形成される。第1機能層11は主にInPの結晶体で構成され、第2機能層12は主にInPの非晶質体で構成される。第2機能層12は、図2(b)の酸化膜除去・活性化工程でFABとして照射されたAr等の希ガス原子を含む層である。
【0027】
また、図3(e)の接合体において、支持基板30には、接合界面40に接しない第1支持層31と、第1支持層31よりも機能性基板1側に配置されて接合界面40に接する第2支持層32と、第2支持層32よりも機能性基板1側に配置されて接合界面40に接する接合層33と、が形成される。第2支持層32は、主に半導体材料の非晶質体で構成され、図2(b)の酸化膜除去・活性化工程や図2(c)のスパッタリング工程でFABとして照射されたAr等の希ガス原子を含む層である。接合層33は、接合前のスパッタ膜30Bに相当し、機能性基板1との接合部分を形成する層である。
【0028】
なお、機能性基板1における第2機能層12や、支持基板30における第2支持層32および接合層33は、図2(c)のスパッタリング工程でこれらの層に混入した他の原子種、例えば、半導体基板30Aの固定に用いられる治具や台座部分を構成するFe原子やAl原子などを含有する場合がある。
【0029】
図3(f)は、複合基板100の製造工程のうち薄板加工工程を示している。この工程では、図3(e)に示した接合体に対して、機能性基板1のInP層10を所定の厚みまで研磨して薄板化する。例えば、研削加工、CMP(Chemical Mechanical Polish)加工、ガスクラスターイオンビームを用いた表面平坦化加工などを用いて、InP層10を研磨して薄板化することができる。
【0030】
以上の各工程により、図1に示した構造の複合基板100が製造される。
【0031】
なお、図3(d)の接合工程と図3(f)の薄板加工工程との間に、接合体を所定温度に加熱するアニーリング工程を実施してもよい。このときの加熱温度は、例えば75~250℃程度が好ましく、より好ましくは100~250℃である。これにより、複合基板100の接合強度を向上することができる。
【0032】
(第2の実施形態)
図4は、本発明の第2の実施形態に係る複合基板の概略構成を示す模式的な断面図である。本実施形態における複合基板110は、第1の実施形態で説明した図1の複合基板100に対して、InP層10と支持基板30の間に酸化膜20が配置されていない構造を有している。すなわち、複合基板110は、複合基板100における機能性基板1に替えて、InP層10で構成されて酸化膜20を含まない機能性基板1aを有している。
【0033】
なお本実施形態でも前述の第1の実施形態と同様に、複合基板110は、任意の層をさらに有していてもよい。このような層の種類・機能、数、組み合わせ、配置等は、目的に応じて適切に設定され得る。また、複合基板110は、目的に応じて任意の適切な形状で製造され得る。
【0034】
図5および図6は、本発明の第2の実施形態に係る複合基板の製造工程の一例を示す図である。
【0035】
図5(a)は、複合基板110の製造工程のうち準備工程を示している。この工程では、第1の実施形態で説明した図2(a)の工程と同様に、所定厚みのInP結晶体からなる機能性基板1を用意する。この機能性基板1は、InPの結晶体からなるInP層10と、InP層10の表面に形成された自然酸化によるInPの酸化膜20とを有している。
【0036】
図5(b)は、複合基板110の製造工程のうち酸化膜除去・活性化工程を示している。この工程では、第1の実施形態で説明した図2(b)の工程と同様に、例えば所定厚みの半導体材料からなる半導体基板30Aを用意し、図5(a)の準備工程で用意した機能性基板1と、半導体基板30Aとに対して、それぞれの表面にAr等の希ガスを原子種に用いたFABを所定時間照射する。本実施形態では、機能性基板1において酸化膜20が全て除去されてInP層10が表面に露出されるまで、酸化膜20へのFAB照射を継続する。このときのFABの照射時間は、例えば13秒~24秒程度が好ましい。これにより、InP層10と酸化膜20を有する機能性基板1から、InP層10のみを有して酸化膜20を含まない機能性基板1aが形成される。
【0037】
図5(c)は、複合基板110の製造工程のうちスパッタリング工程を示している。この工程では、第1の実施形態で説明した図2(c)の工程と同様に、図5(b)の酸化膜除去・活性化工程で機能性基板1と半導体基板30Aにそれぞれ照射されたFABのうち、機能性基板1側のFAB照射を停止し、半導体基板30A側のFAB照射をさらに所定時間継続する。これにより、半導体基板30Aを構成する半導体材料をスパッタして酸化膜20が完全に除去された機能性基板1aの表面、すなわちInP層10の表面に付着させ、機能性基板1a側に半導体基板30Aと同じ半導体材料からなるスパッタ膜30Bを形成する。
【0038】
図6(d)は、複合基板110の製造工程のうち接合工程を示している。この工程では、第1の実施形態で説明した図3(d)の工程と同様に、図5(c)のスパッタリング工程でスパッタ膜30Bが形成された機能性基板1aと半導体基板30Aとを接合する。これにより、半導体基板30Aとスパッタ膜30Bが接合されて一体化して支持基板30が形成され、機能性基板1aと支持基板30の接合体が得られる。
【0039】
図6(e)は、図6(d)の接合工程後に得られる接合体を示している。図6(d)の接合工程により、上記のように半導体基板30Aとスパッタ膜30Bが一体化することで、これらの接合界面40を内部に有する支持基板30が形成され、図6(e)のような接合体が得られる。
【0040】
図6(e)の接合体においても、第1の実施形態で説明した図3(e)の接合体と同様に、機能性基板1a(InP層10)には、第1機能層11と、第1機能層11よりも支持基板30側に配置された第2機能層12と、が形成される。また、支持基板30には、接合界面40に接しない第1支持層31と、第1支持層31よりも機能性基板1a側に配置されて接合界面40に接する第2支持層32と、第2支持層32よりも機能性基板1a側に配置されて接合界面40に接する接合層33と、が形成される。
【0041】
図6(f)は、複合基板110の製造工程のうち薄板加工工程を示している。この工程では、第1の実施形態で説明した図3(f)の工程と同様に、図6(e)に示した接合体に対して、機能性基板1a(InP層10)を所定の厚みまで研磨して薄板化する。
【0042】
以上の各工程により、図4に示した構造の複合基板110が製造される。
【0043】
なお、本実施形態でも第1の実施形態と同様に、図6(d)の接合工程と図6(f)の薄板加工工程との間に、接合体を所定温度に加熱するアニーリング工程を実施してもよい。
【0044】
(第3の実施形態)
図7は、本発明の第3の実施形態に係る複合基板の概略構成を示す模式的な断面図である。本実施形態において、図7(a)に示す複合基板120の機能性基板1bは、InPの結晶体からなるInP層10と、エピタキシャル層50と、酸化膜60とを有している。また、図7(b)に示す複合基板121は、図7(a)の複合基板120からInP層10を除去することで形成されたものである。
【0045】
エピタキシャル層50は、InP層10上にエピタキシャル成長により形成可能な各種材料(例えば、InP、BeZnSeTe、BeZnCdSe、MgZnCdSe、InGaAsP、InGaAlAs、InGaAs、InAs、AlAsSb、InAlAs等、以下「エピタキシャル材料」と称する)の結晶体からなる層である。これらの材料の結晶体からなる層をエピタキシャル成長によってInP層10上に形成することで、エピタキシャル層50が形成される。なお、エピタキシャル層50において複数種類のエピタキシャル材料が混在していてもよい。
【0046】
酸化膜60は、機能性基板1bが支持基板30に接合される前に、エピタキシャル層50を構成ずるエピタキシャル材料の一部が空気中で自然酸化することによりエピタキシャル層50の表面に形成された酸化物の層であり、エピタキシャル層50と支持基板30の間に配置される。
【0047】
本実施形態の複合基板120は、第1の実施形態で説明した図2(a)~図3(f)の各工程と同様の工程で製造される。すなわち、InP層10、エピタキシャル層50および酸化膜60を有する所定厚みの機能性基板1bを用意し、この機能性基板1bに対して図2(b)の酸化膜除去・活性化工程を行うことで、酸化膜60の一部を除去して薄くするとともに、機能性基板1bおよび半導体基板30Aの表面を活性化する。その後、図2(c)のスパッタリング工程と図3(d)の接合工程を実施することで、機能性基板1bと支持基板30との接合体を形成し、この接合体に対して図3(f)の薄板加工工程を実施することで、図7(a)に示した構造の複合基板120が製造される。
【0048】
複合基板120において、機能性基板1bは、InPの結晶体からなるInP層10で構成される第1機能層51と、エピタキシャル層50内に形成された第2機能層52および第3機能層53と、を有する。第2機能層52は主にエピタキシャル材料の結晶体で構成され、第3機能層53は主にエピタキシャル材料の非晶質体で構成される。なお、第3機能層53は、酸化膜除去・活性化工程でFABとして照射されたAr等の希ガス原子を含む層であり、第2機能層52よりも支持基板30側に配置されている。
【0049】
また、複合基板120において、支持基板30内には、第1、第2の実施形態でそれぞれ説明した複合基板100,110と同様に、接合界面40と、第1支持層31、第2支持層32および接合層33とが形成されている。これらは、前述の接合工程で得られる接合体において形成されるものである。
【0050】
さらに、複合基板120からInP層10を除去することで、図7(b)に示した構造の複合基板121が製造される。InP層10の除去は、例えばウェットエッチングにより行うことができる。この複合基板121において、機能性基板1bは、エピタキシャル層50内に形成された第2機能層52および第3機能層53を有する。第2機能層52は主にエピタキシャル材料の結晶体で構成され、第3機能層53は主にエピタキシャル材料の非晶質体で構成される。支持基板30の構造は、複合基板120と同様である。
【0051】
(第4の実施形態)
図8は、本発明の第4の実施形態に係る複合基板の概略構成を示す模式的な断面図である。本実施形態において、図8(a)に示す複合基板130は、第3の実施形態で説明した図7(a)の複合基板120に対して、エピタキシャル層50と支持基板30の間に酸化膜60が配置されていない構造を有している。すなわち、複合基板130は、複合基板120における機能性基板1bに替えて、InP層10およびエピタキシャル層50で構成されて酸化膜60を含まない機能性基板1cを有している。また、図8(b)に示す複合基板131は、図8(a)の複合基板130からInP層10を除去することで形成されたものである。
【0052】
本実施形態の複合基板130は、第2の実施形態で説明した図5(a)~図6(f)の各工程と同様の工程で製造される。すなわち、InP層10、エピタキシャル層50および酸化膜60を有する所定厚みの機能性基板1bを用意し、この機能性基板1bに対して図5(b)の酸化膜除去・活性化工程を行うことで、酸化膜60を全て除去して機能性基板1cを形成するとともに、機能性基板1cおよび半導体基板30Aの表面を活性化する。その後、図5(c)のスパッタリング工程と図6(d)の接合工程を実施することで、機能性基板1cと支持基板30との接合体を形成し、この接合体に対して図6(f)の薄板加工工程を実施することで、図8(a)に示した構造の複合基板130が製造される。
【0053】
なお、本実施形態の複合基板130においても、第3の実施形態で説明した複合基板120と同様に、機能性基板1cは、InPの結晶体からなるInP層10で構成される第1機能層51と、エピタキシャル層50内に形成された第2機能層52および第3機能層53と、を有する。また、支持基板30内には、接合界面40と、第1支持層31、第2支持層32および接合層33とが形成されている。
【0054】
さらに、複合基板130からInP層10を除去することで、図8(b)に示した構造の複合基板131が製造される。第3の実施形態と同様に、InP層10の除去は、例えばウェットエッチングにより行うことができる。この複合基板131において、機能性基板1cは、エピタキシャル層50内に形成された第2機能層52および第3機能層53を有する。第2機能層52は主にエピタキシャル材料の結晶体で構成され、第3機能層53は主にエピタキシャル材料の非晶質体で構成される。支持基板30の構造は、複合基板130と同様である。
【実施例
【0055】
以下、本発明による複合基板の構造を検証するための実施例を具体的に説明する。なお、特に明記しない限り、下記の手順は室温にて行った。
【0056】
(実施例1)
図2および図3を参照しつつ説明した製造工程に従って、接合体を作製した。具体的には、所定サイズのInPウェハとSiCウェハを用意し、InPウェハを機能性基板1、SiCウェハを半導体基板30Aとしてそれぞれ使用した。
【0057】
そして、機能性基板1と半導体基板30Aの表面をそれぞれ洗浄した後、上下に向けてFABガンがそれぞれ設置された真空チャンバー内において、これらの基板が各FABガンの照射範囲内にそれぞれ位置し、かつ、両基板の表面同士が互いに対向する向きとなるように、機能性基板1および半導体基板30Aを配置した。この状態で真空チャンバー内を10-6Pa台まで真空引きし、各FABガンから機能性基板1と半導体基板30Aの表面に向けて、Arガスを用いたFAB(加速電圧0.9kV、電流100mA)を同時に1.5秒間照射した。その結果、機能性基板1の表面に形成されている酸化膜20の一部が除去され、元の厚さよりも薄くなった。
【0058】
その後、機能性基板1側のFAB照射を停止する一方、半導体基板30A側のFAB照射をさらに180秒間(合計で181.5秒間)継続した。なお、このとき機能性基板1側のFAB照射の停止前後で真空チャンバーの内圧が変化しないようにするため、機能性基板1側のFABガンへのArガスの供給を継続した状態で、当該FABガンから機能性基板1の表面へのFAB照射を停止するようにした。その結果、機能性基板1(酸化膜20)の表面にスパッタ膜30Bが形成された。
【0059】
次いで、スパッタ膜30Bが形成された機能性基板1と半導体基板30Aとを直接接合した。具体的には、両基板のビーム照射面を重ね合わせ、常温において10000Nで2分間加圧して両基板を接合し、接合体を得た。これにより、図1に示した構造の複合基板100を得た。
【0060】
(実施例2)
図2および図3を参照しつつ説明した製造工程に従い、実施例1よりも機能性基板1へのFAB照射時間を長くして接合体を作製した。具体的には、実施例1と同様の機能性基板1および半導体基板30Aを真空チャンバー内にそれぞれ配置し、真空チャンバー内を10-6Pa台まで真空引きした状態で、各FABガンから機能性基板1と半導体基板30Aの表面に向けて、実施例1と同様の条件にて、Arガスを用いたFABを同時に6.5秒間照射した。その結果、機能性基板1の表面に形成されている酸化膜20の一部が除去され、元の厚さよりも薄く、かつ実施例1よりもさらに薄くなった。
【0061】
その後、機能性基板1側のFAB照射を停止する一方、半導体基板30A側のFAB照射をさらに180秒間(合計で186.5秒間)継続した。なお、このとき実施例1と同様に、機能性基板1側のFAB照射の停止前後で真空チャンバーの内圧が変化しないようにするため、機能性基板1側のFABガンへのArガスの供給を継続した状態で、当該FABガンから機能性基板1の表面へのFAB照射を停止するようにした。その結果、機能性基板1(酸化膜20)の表面にスパッタ膜30Bが形成された。
【0062】
次いで、実施例1と同様に、スパッタ膜30Bが形成された機能性基板1と半導体基板30Aとを直接接合することで、図1に示した構造の複合基板100を得た。
【0063】
(実施例3)
図2および図3を参照しつつ説明した製造工程に従い、実施例1,2よりも機能性基板1へのFAB照射時間を長くして接合体を作製した。具体的には、実施例1と同様の機能性基板1および半導体基板30Aを真空チャンバー内にそれぞれ配置し、真空チャンバー内を10-6Pa台まで真空引きした状態で、各FABガンから機能性基板1と半導体基板30Aの表面に向けて、実施例1と同様の条件にて、Arガスを用いたFABを同時に10.5秒間照射した。その結果、機能性基板1の表面に形成されている酸化膜20の一部が除去され、元の厚さよりも薄く、かつ実施例2よりもさらに薄くなった。
【0064】
その後、機能性基板1側のFAB照射を停止する一方、半導体基板30A側のFAB照射をさらに180秒間(合計で190.5秒間)継続した。なお、このとき実施例1,2と同様に、機能性基板1側のFAB照射の停止前後で真空チャンバーの内圧が変化しないようにするため、機能性基板1側のFABガンへのArガスの供給を継続した状態で、当該FABガンから機能性基板1の表面へのFAB照射を停止するようにした。その結果、機能性基板1(酸化膜20)の表面にスパッタ膜30Bが形成された。
【0065】
次いで、実施例1,2と同様に、スパッタ膜30Bが形成された機能性基板1と半導体基板30Aとを直接接合することで、図1に示した構造の複合基板100を得た。
【0066】
(実施例4)
図5および図6を参照しつつ説明した製造工程に従って、接合体を作製した。具体的には、実施例1と同様の機能性基板1および半導体基板30Aを真空チャンバー内にそれぞれ配置し、真空チャンバー内を10-6Pa台まで真空引きした状態で、各FABガンから機能性基板1と半導体基板30Aの表面に向けて、実施例1と同様の条件にて、Arガスを用いたFABを同時に14.5秒間照射した。その結果、機能性基板1の表面に形成されている酸化膜20が全て除去され、InP層10のみを有して酸化膜20を含まない機能性基板1aが形成された。
【0067】
その後、機能性基板1a側のFAB照射を停止する一方、半導体基板30A側のFAB照射をさらに180秒間(合計で194.5秒間)継続した。なお、このとき実施例1~3と同様に、機能性基板1a側のFAB照射の停止前後で真空チャンバーの内圧が変化しないようにするため、機能性基板1a側のFABガンへのArガスの供給を継続した状態で、当該FABガンから機能性基板1aの表面へのFAB照射を停止するようにした。その結果、機能性基板1aの表面にスパッタ膜30Bが形成された。
【0068】
次いで、実施例1~3と同様に、スパッタ膜30Bが形成された機能性基板1aと半導体基板30Aとを直接接合することで、図4に示した構造の複合基板110を得た。
【0069】
(実施例5)
図5および図6を参照しつつ説明した製造工程に従い、実施例4よりも機能性基板1へのFAB照射時間を長くして接合体を作製した。具体的には、実施例1と同様の機能性基板1および半導体基板30Aを真空チャンバー内にそれぞれ配置し、真空チャンバー内を10-6Pa台まで真空引きした状態で、各FABガンから機能性基板1と半導体基板30Aの表面に向けて、実施例1と同様の条件にて、Arガスを用いたFABを同時に18.5秒間照射した。その結果、機能性基板1の表面に形成されている酸化膜20が全て除去され、InP層10のみを有して酸化膜20を含まない機能性基板1aが形成された。
【0070】
その後、機能性基板1a側のFAB照射を停止する一方、半導体基板30A側のFAB照射をさらに180秒間(合計で198.5秒間)継続した。なお、このとき実施例1~4と同様に、機能性基板1a側のFAB照射の停止前後で真空チャンバーの内圧が変化しないようにするため、機能性基板1a側のFABガンへのArガスの供給を継続した状態で、当該FABガンから機能性基板1aの表面へのFAB照射を停止するようにした。その結果、機能性基板1aの表面にスパッタ膜30Bが形成された。
【0071】
次いで、実施例1~4と同様に、スパッタ膜30Bが形成された機能性基板1aと半導体基板30Aとを直接接合することで、図4に示した構造の複合基板110を得た。
【0072】
なお、上記実施例1~5では、FABガンから機能性基板1,1aおよび半導体基板30AへのFAB照射を所定時間行った後、機能性基板1,1a側のFAB照射を先に止めることとした。これにより、スパッタ膜30Bの形成に要する時間を、機能性基板1,1aを冷却する時間に充てることが可能となるため、接合後の複合基板100,110における反りの影響を小さくすることができる。特に、機能性基板1,1aが半導体基板30Aよりも大きな熱膨張係数を有する場合には、機能性基板1,1a側のFAB照射を先に止めることで、接合後の反りの軽減に関してより高い効果を発揮することが可能となる。
【0073】
(比較例1)
本発明の効果を確認するために、比較例1として、実施例1~5と同様の機能性基板1および半導体基板30Aを真空チャンバー内にそれぞれ配置し、真空チャンバー内を10-6Pa台まで真空引きした状態で、機能性基板1側のFAB照射を行わずに、半導体基板30A側のFAB照射のみを180秒間実施した。このときの半導体基板30A側のFAB照射条件は、実施例1~5と同様とした。その結果、機能性基板1の表面にスパッタ膜30Bが形成された。
【0074】
次いで、実施例1~5と同様に、スパッタ膜30Bが形成された機能性基板1と半導体基板30Aとを直接接合することで、図1に示した構造の複合基板100を得た。
【0075】
(比較例2)
さらに、比較例2として、実施例1~5と同様の機能性基板1および半導体基板30Aを真空チャンバー内にそれぞれ配置し、真空チャンバー内を10-6Pa台まで真空引きした状態で、機能性基板1と半導体基板30Aの両方に対してFAB照射を24.5秒間実施し、その後、機能性基板1側のFAB照射を停止する一方、半導体基板30A側のFAB照射をさらに180秒間(合計で204.5秒間)継続した。このときの半導体基板30A側のFAB照射条件は、実施例1~5と同様とした。その結果、機能性基板1の表面に形成されている酸化膜20が全て除去され、InP層10のみを有して酸化膜20を含まない機能性基板1aが形成されるとともに、機能性基板1aの表面にスパッタ膜30Bが形成された。
【0076】
次いで、実施例1~5と同様に、スパッタ膜30Bが形成された機能性基板1aと半導体基板30Aとを直接接合することで、図4に示した構造の複合基板110を得た。この比較例2の複合基板110では、薄板加工工程において接合界面40に剥がれが生じた。これは、半導体基板30A側のFAB照射時間が長すぎることで、接合界面40の表面粗さが増大して接合強度が低下したためと考えられる。
【0077】
(積層構造の確認)
実施例1~5と比較例1でそれぞれ作製した複合基板100,110の接合界面40を含む断面に対して、透過電子顕微鏡(TEM)観察を行うことにより、複合基板100,110の積層構造を確認した。図9(a)は比較例1、図9(b)は実施例1、図9(c)は実施例2、図9(d)は実施例3、図9(e)は実施例4、図9(f)は実施例5の観察写真をそれぞれ示している。なお、図9(a)~図9(d)に示した比較例1および実施例1~3は、接合後の機能性基板1が酸化膜20を有する複合基板100にそれぞれ該当し、図9(e),図9(f)に示した実施例4,5は、接合後の機能性基板1aが酸化膜20を有しない複合基板110にそれぞれ該当する。
【0078】
図9(b),図9(c),図9(d)に示す実施例1~3の観察写真から、機能性基板1において、InP層10の内部には2つの層が形成されていることが分かる。これらの層を支持基板30に遠い側から順に、第1機能層11、第2機能層12とする。また、支持基板30の内部には3つの層が形成されていることが分かる。これらの層を機能性基板1に遠い側から順に、第1支持層31、第2支持層32、接合層33とする。接合層33は、機能性基板1の酸化膜20に接しており、第2支持層32と接合層33の間には、前述の接合工程で形成された接合界面40が存在している。すなわち、接合工程において、接合前の半導体基板30Aにおける第2支持層32の表面と、接合前の機能性基板1において酸化膜20上に形成されたスパッタ膜30Bの表面とが互いに接合されることで、スパッタ膜30Bが接合層33となり、接合界面40を支持基板30の内部に有する機能性基板1と支持基板30の接合体が形成される。
【0079】
同様に、図9(e),図9(f)に示す実施例4,5の観察写真からも、機能性基板1a(InP層10)の内部には第1機能層11と第2機能層12が形成され、支持基板30の内部には第1支持層31、第2支持層32および接合層33が形成されるとともに、第2支持層32と接合層33の間に接合界面40が存在していることが分かる。
【0080】
また、図9(b)~図9(f)の観察写真から、InPの結晶体からなる第1機能層11に対して、第2機能層12は結晶構造を有しておらず、InPの非晶質体により構成されていることが分かる。すなわち実施例1~5では、接合前の機能性基板1,1aにおいて酸化膜除去・活性化工程でFABが照射された表面から所定深さまでの部分に相当する第2機能層12は、機能性基板1,1aの材料であるInPが非晶質化した層として形成されていることが分かる。
【0081】
同様に、図9(b)~図9(f)の観察写真から、SiCの結晶体からなる第1支持層31に対して、第2支持層32や接合層33では結晶構造を有しておらず、SiCの非晶質体により構成されていることが分かる。すなわち実施例1~5では、接合前の半導体基板30Aにおいて酸化膜除去・活性化工程およびスパッタリング工程でFABが照射された表面から所定深さまでの部分に相当する第2支持層32と、スパッタリング工程で機能性基板1,1aの表面に形成されたスパッタ膜30Bに相当する接合層33とは、支持基板30の材料であるSiCが非晶質化した層としてそれぞれ形成されていることが分かる。
【0082】
一方、図9(a)に示す比較例1の観察写真では、機能性基板1においてInP層10が結晶構造を有する第1機能層11のみで構成されており、実施例1~5のような第2機能層12がInP層10に形成されていない。すなわち比較例1では、接合前の機能性基板1には酸化膜除去・活性化工程が実施されないため、InPの非晶質膜からなる第2機能層12が形成されていないことが分かる。
【0083】
(酸化膜の厚み)
実施例1~3でそれぞれ作製した複合基板100について、図9(b),図9(c),図9(d)の観察写真から酸化膜20の厚みをそれぞれ計測したところ、実施例1では0.9nm、実施例2,3では0.6nmであった。一方、比較例1では、図9(a)の観察写真から酸化膜20の厚みを計測したところ、1nmであった。すなわち、実施例1~3では、酸化膜除去・活性化工程において酸化膜20の一部がFAB照射によって除去されることにより、元の酸化膜20よりも厚みが少なくなっていることが分かる。なお、実施例4,5では、酸化膜除去・活性化工程において酸化膜20が全て除去されているため、酸化膜20の厚みは0である。
【0084】
(接合層の厚み)
比較例1および実施例1~5でそれぞれ作製した複合基板100,110について、図9(a)~図9(d)の観察写真から接合層33の厚みをそれぞれ計測したところ、比較例1では0.4nmであり、実施例1では0.8nmであり、実施例2~4では0.6nmであり、実施例5では0.7nmであった。
【0085】
比較例1および実施例1~5では、機能性基板1,1a側のFAB照射を停止した後のスパッタリング工程での半導体基板30A側へのFAB照射時間は、いずれの場合も180秒間である。前述のように接合層33は、スパッタリング工程において機能性基板1,1a側に形成される接合前のスパッタ膜30Bに相当する部分であるため、接合層33の厚みは、半導体基板30A側へのFAB照射時間によって定まると考えられる。したがって、測定誤差等を考慮すると、比較例1,2および実施例1~5における実際の接合層33の厚みは略等しく、0.6nm程度と考えられる。
【0086】
(Arピーク間距離)
実施例1~5および比較例2でそれぞれ作製した複合基板100,110の接合界面40を含む断面に対してEDX分析を行うことにより、複合基板100,110の構造分析を実施した。その結果、FAB照射に用いられた希ガスの元素であるArの含有率は、機能性基板1,1a側では第2機能層12、支持基板30側では第2支持層32において、それぞれピークを有していることが分かった。このピーク間の距離は、実施例1では2.2nm、実施例2では2.8nm、実施例3では3.2nm、実施例4では3.5nm、実施例5では4.0nm、比較例2では4.6nmであった。
【0087】
なお、比較例1で作製した複合基板100では、機能性基板1側のFAB照射を行っていないため、FAB照射に用いられた希ガスの元素であるArの含有率は、支持基板30側の第2支持層32においてのみピークを有し、機能性基板1側にはピークが存在しない。
【0088】
図10は、実施例1~5および比較例1,2のそれぞれにおけるFAB照射時間、加工時の接合界面40の剥がれの有無、酸化膜20の厚みおよびArピーク間の距離をまとめた表である。図10の表から、機能性基板1,1aへのFAB照射時間が長くなるほど、Arピーク間距離が増大していることが分かる。
【0089】
(FAB照射時間とArピーク間距離の関係)
図11は、支持基板30がSiCで構成される場合の機能性基板1,1aへのFAB照射時間とArピーク間距離の関係を示すグラフである。図11において、横軸は機能性基板1,1aへのFAB照射時間を表し、縦軸はArピーク間距離を表している。また、黒丸で示した各プロット点71a~71fは、各実施例および各比較例で得られたFAB照射時間とArピーク間距離の値の組み合わせを示している。具体的には、プロット点71aは実施例1、プロット点71bは実施例2、プロット点71cは実施例3、プロット点71dは実施例4、プロット点71eは実施例5、プロット点71fは比較例2のFAB照射時間とArピーク間距離の値の組み合わせをそれぞれ示している。ただし、前述のように比較例1では機能性基板1側にピークが存在しないため、図11において比較例1はプロット対象から除外されており、これに対応するプロット点は存在しない。
【0090】
プロット点71a~71fを線形補間すると、直線71が得られる。この直線71は、接合層33の厚みが0.6nmの場合における機能性基板1,1aへのFAB照射時間とArピーク間距離の関係を表している。
【0091】
前述のように、接合層33の厚みは、スパッタリング工程での半導体基板30A側へのFAB照射時間によって定まり、この接合層33の厚みに応じてArピーク間距離も変化する。すなわち、接合層33の厚みが増減すると、その分だけArピーク間距離も増減すると考えられる。また、複合基板100,110では、接合層33の厚みが大きいほど機能性基板1,1aと支持基板30の接合強度が高くなる。一方、熱伝導性や光伝搬性などを考慮すると、接合層33の厚みはなるべく小さいことが好ましい。これらの条件から、支持基板30がSiCで構成される場合には、複合基板100,110における接合層33の厚みは、0.6nm~2.7nm程度の範囲内にあることが望ましい。
【0092】
図11において、白丸で示した各プロット点72a~72fは、プロット点71a~71fをそれぞれグラフの縦軸方向に沿って、Arピーク間距離の値が2.1nm増加するようにスライドさせたときのFAB照射時間とArピーク間距離の値の組み合わせを示している。これらのプロット点72a~72fを線形補間すると、直線72が得られる。この直線72は、接合層33の厚みが0.6+2.1=2.7nmの場合における機能性基板1,1aへのFAB照射時間とArピーク間距離の関係を表している。
【0093】
図11に示すグラフ上で、プロット点71a,71b,71c,72a,72bおよび72cで囲まれた範囲73は、例えば実施例1~3のように、酸化膜除去・活性化工程でのFAB照射により酸化膜20が元の厚みよりも薄く加工された複合基板100について、FAB照射時間とArピーク間距離の値の組み合わせが取り得る範囲を示している。また、プロット点71d,71e,72dおよび72eで囲まれた範囲74は、例えば実施例4,5のように、酸化膜除去・活性化工程でのFAB照射により酸化膜20が全て除去された複合基板110について、接合強度を保持しつつ、FAB照射時間とArピーク間距離の値の組み合わせが取り得る範囲を示している。なお、範囲73と範囲74の間の範囲では、複合基板100または複合基板110のいずれかに対応している。
【0094】
以上説明したように、支持基板30がSiCで構成される場合には、実施例1~5に代表される本発明の第1,第2の実施形態に係る複合基板100,110では、FAB照射時間とArピーク間距離の値の組み合わせが、範囲73,74およびこれらの間の範囲のいずれかに含まれている。すなわち、第1,第2の実施形態に係る複合基板100,110では、機能性基板1,1a側の第2機能層12と支持基板30側の第2支持層32におけるArピーク間距離の値が、プロット点71aからプロット点72eまでの範囲、具体的には2.2nm以上6.1nm以下になっている。したがって、支持基板30において用いられる半導体材料がSiCの場合、Arピーク間距離は2.2nm以上6.1nm以下であることが好ましい。
【0095】
なお、図11では支持基板30がSiCで構成される場合のFAB照射時間とArピーク間距離の値の組み合わせを示しているが、支持基板30が他の半導体材料、例えばSiで構成されている場合においても、これらの間には同様の関係が成り立つ。ただし、SiCとSiとでは、FAB照射時に支持基板30内にArが入り込む深さが異なるため、この深さの違いを考慮して、FAB照射時間ごとのArピーク間距離の値を補正する必要がある。
【0096】
図12は、支持基板30がSiで構成される場合の機能性基板1,1aへのFAB照射時間とArピーク間距離の関係を示すグラフである。図12でも図11と同様に、横軸は機能性基板1,1aへのFAB照射時間を表し、縦軸はArピーク間距離を表している。また、黒丸で示した各プロット点81a~81fは、前述の各実施例および各比較例で得られたFAB照射時間とArピーク間距離の値の組み合わせからそれぞれ計算した、支持基板30がSiの場合のFAB照射時間とArピーク間距離の値の組み合わせを示している。これらのプロット点81a~81fは、図11のプロット点71a~71fにそれぞれ対応している。同様に、白丸で示した各プロット点82a~82fも、支持基板30がSiの場合のFAB照射時間とArピーク間距離の値の組み合わせを示している。これらのプロット点82a~82fは、図11のプロット点72a~72fにそれぞれ対応している。
【0097】
支持基板30がSiの場合、前述の条件から、複合基板100,110における接合層33の厚みは、0.3nm~3nm程度の範囲内にあることが望ましい。図12において、プロット点81a~81fを線形補間すると、直線81が得られる。この直線81は、接合層33の厚みが0.3nmの場合における機能性基板1,1aへのFAB照射時間とArピーク間距離の関係を表している。同様に、プロット点82a~82fを線形補間すると、直線82が得られる。この直線82は、接合層33の厚みが3nmの場合における機能性基板1,1aへのFAB照射時間とArピーク間距離の関係を表している。
【0098】
図12に示すグラフ上で、プロット点81a,81b,81c,82a,82bおよび82cで囲まれた範囲83は、図11の範囲73と同様に、酸化膜除去・活性化工程でのFAB照射により酸化膜20が元の厚みよりも薄く加工された複合基板100について、FAB照射時間とArピーク間距離の値の組み合わせが取り得る範囲を示している。また、プロット点81d,81e,82dおよび82eで囲まれた範囲84は、図11の範囲83と同様に、酸化膜除去・活性化工程でのFAB照射により酸化膜20が全て除去された複合基板110について、接合強度を保持しつつ、FAB照射時間とArピーク間距離の値の組み合わせが取り得る範囲を示している。なお、範囲83と範囲84の間の範囲では、複合基板100または複合基板110のいずれかに対応している。
【0099】
以上説明したように、支持基板30がSiで構成される場合には、本発明の第1,第2の実施形態に係る複合基板100,110では、FAB照射時間とArピーク間距離の値の組み合わせが、範囲83,84およびこれらの間の範囲のいずれかに含まれている。すなわち、第1,第2の実施形態に係る複合基板100,110では、機能性基板1,1a側の第2機能層12と支持基板30側の第2支持層32におけるArピーク間距離の値が、プロット点81bからプロット点82eまでの範囲、具体的には2.5nm以上6.9nm以下になっている。したがって、支持基板30において用いられる半導体材料がSiの場合、Arピーク間距離は2.5nm以上6.9nm以下であることが好ましい。
【0100】
なお、上記ではInPの結晶体を材料として構成される機能性基板1,1aを有する複合基板100,110について、FAB照射時間とArピーク間距離の関係を説明したが、第3,第4の実施形態で説明したように、InP層10上にエピタキシャル材料からなるエピタキシャル層50が形成された機能性基板1b,1cを有する複合基板120,121,130,131についても、FAB照射時間とArピーク間距離の間に同様の関係が成り立つ。すなわち、図11,12のグラフでそれぞれ示したFAB照射時間とArピーク間距離の関係は、支持基板30がSiCまたはSiで構成される複合基板120,121,130,131についても適用可能である。
【0101】
以上説明した本発明の実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
【0102】
(1)複合基板100~131は、InPと、InPの結晶体上にエピタキシャル成長により形成可能な材料の結晶体と、の少なくとも一方を含んで構成される機能性基板1,1a,1b,1cと、半導体材料からなり、機能性基板1,1a,1b,1cと接合されて機能性基板1,1a,1b,1cを支持する支持基板30と、を有する。機能性基板1,1a,1b,1cは、第1の層(第1機能層11、または第1機能層51および第2機能層52)と、第1の層よりも支持基板30に近い側に配置され、希ガス元素を含んだ非晶質体からなる第2の層(第2機能層12または第3機能層53)と、を有する。支持基板30は、第1支持層31と、第1支持層31よりも機能性基板1,1a,1b,1cに近い側に配置され、希ガス元素を含んだ半導体材料の非晶質体からなる第2支持層32と、機能性基板1,1a,1b,1cに接しており、半導体材料の非晶質体からなる接合層33と、を有する。このようにしたので、InPやInPの結晶体上にエピタキシャル成長により形成可能な材料の結晶体を含む機能性基板1,1a,1b,1cと支持基板30とが接合層33を介して接合された複合基板100~131において、機能性基板1,1a,1b,1cの熱を効率よく支持基板30側に逃がすことが可能な複合基板100~131を実現することができる。
【0103】
また、フォトニクス分野では、Siからなる光回路を含むSOI基板とInP基板とを直接接合し、この光回路上にInPを用いた半導体レーザ等のデバイスを作成して光トランシーバーを形成することで、デバイスの小型化を図る技術も開発されている。このような構造のフォトニクスデバイスでは、SOI基板とInP基板の接合界面を光が伝搬することから、この界面には他の物質が何も挟まれていないか、または何らかの物質が挟まれていたとしても、当該物質には使用する波長帯においてエネルギーロスが小さいことが求められる。そのため、前述の特許文献1に記載された複合基板のように、接合界面にインジウム酸化物等のバリア層が存在することは望ましくない。この点に関して、複合基板100~131では酸化膜20が除去されているか、または厚みが薄くなっているため、上記の要求を容易に達成可能である。
【0104】
(2)複合基板100,110において、機能性基板1,1aは、InPの結晶体からなる第1機能層11と、InPの非晶質体からなる第2機能層12と、を有する。この構成において、第1の層は第1機能層11であり、第2の層は第2機能層12である。このようにしたので、InPの結晶体を材料に用いて構成された機能性基板1,1aと支持基板30を直接接合した場合でも、十分な接合強度を得ることが可能な複合基板100,110を実現することができる。
【0105】
(3)複合基板100において、機能性基板1は、第2の層(第2機能層12)と支持基板30との間にInPの酸化膜20を有する。このようにしたので、InPの自然酸化により形成された酸化膜20を残しつつ、機能性基板1の熱を効率よく支持基板30側に逃がすことが可能な複合基板100を実現できる。
【0106】
(4)複合基板120,130において、機能性基板1b,1cは、InPの結晶体からなる第1機能層51と、第1機能層51上にエピタキシャル成長により形成された材料の結晶体からなる第2機能層52と、この材料の非晶質体からなる第3機能層53と、を有する。この構成において、第1の層は第1機能層51および第2機能層52であり、第2の層は第3機能層53である。このようにしたので、InPの結晶体からなるInP層10上にエピタキシャル成長により形成された各種エピタキシャル材料からなるエピタキシャル層50を有する機能性基板1b,1cと支持基板30を直接接合した場合でも、十分な接合強度を得ることが可能な複合基板120,130を実現することができる。
【0107】
(5)複合基板120において、機能性基板1bは、第2の層(第3機能層53)と支持基板30との間にエピタキシャル材料の酸化膜60を有する。このようにしたので、エピタキシャル材料の自然酸化により形成された酸化膜60を残しつつ、機能性基板1bの熱を効率よく支持基板30側に逃がすことが可能な複合基板120を実現できる。
【0108】
(6)複合基板121,131において、機能性基板1b,1cは、InPの結晶体上にエピタキシャル成長により形成可能な材料の結晶体からなる第2機能層52と、この材料の非晶質体からなる第3機能層53と、を有する。この構成において、第1の層は第2機能層52であり、第2の層は第3機能層53である。このようにしたので、複合基板120,130からInP層10をそれぞれ除去して形成される複合基板121,131においても同様に、機能性基板1b,1cと支持基板30との間に十分な接合強度を得ることができる。
【0109】
(7)複合基板121において、機能性基板1bは、第2の層(第3機能層53)と支持基板30との間にエピタキシャル材料の酸化膜60を有する。このようにしたので、複合基板120と同様に、エピタキシャル材料の自然酸化により形成された酸化膜60を残しつつ、機能性基板1bの熱を効率よく支持基板30側に逃がすことができる。
【0110】
(8)複合基板100,120,121において、酸化膜20,60の厚みは1nm未満であることが好ましい。このようにすれば、接合前の機能性基板1,1bにおいて自然酸化により形成された酸化膜20,60の一部を除去して薄くし、機能性基板1,1bから支持基板30への熱伝導性を向上させることができる。
【0111】
(9)複合基板100~131において、希ガス元素であるArの含有率は、第2の層(第2機能層12または第3機能層53)と第2支持層32とでそれぞれピークを有する。支持基板30において用いられる半導体材料がSiCである場合には、これらのピーク間の距離は、2.2nm以上6.1nm以下であることが好ましい。また、支持基板30において用いられる半導体材料がSiである場合には、これらのピーク間の距離は、2.5nm以上6.9nm以下であることが好ましい。このようにすれば、接合強度を十分に保持しつつ、機能性基板1,1a,1b,1cの熱を効率よく支持基板30側に逃がすことが可能な複合基板100~131を実現できる。
【0112】
(10)InPからなる機能性基板1,1aと、半導体材料から構成されて機能性基板1,1aを支持する支持基板30と、を含んで構成される複合基板100,110の製造方法は、機能性基板1の表面に形成されたInPの酸化膜20と、半導体材料からなる半導体基板30Aの表面とにFABをそれぞれ照射して、酸化膜20の少なくとも一部を除去するとともに、機能性基板1,1aおよび半導体基板30Aの表面を活性化するする酸化膜除去・活性化工程(図2(b)、図5(b))と、酸化膜除去・活性化工程に続いて実施され、機能性基板1,1aの表面に対するFABの照射を停止した後、半導体基板30Aの表面に対するFABの照射を継続して、機能性基板1,1aの表面に半導体材料をスパッタリングするスパッタリング工程(図2(c)、図5(c))と、スパッタリング工程により半導体材料がスパッタリングされた機能性基板1,1aと半導体基板30Aとを接合して接合体を得る接合工程(図3(d)、図6(d))と、を含む。このようにしたので、半導体基板30Aとスパッタ膜30Bとを一体化することで支持基板30を形成し、複合基板100,110を作製することができる。
【0113】
(11)InPの結晶体上にエピタキシャル成長により形成された材料を有する機能性基板1b,1cと、半導体材料から構成されて機能性基板1b,1cを支持する支持基板30と、を含んで構成される複合基板120,130の製造方法は、機能性基板1bの表面に形成されたエピタキシャル材料の酸化膜60と、半導体材料からなる半導体基板30Aの表面とにFABをそれぞれ照射して、酸化膜60の少なくとも一部を除去するとともに、機能性基板1b,1cおよび半導体基板30Aの表面を活性化するする酸化膜除去・活性化工程と、酸化膜除去・活性化工程に続いて実施され、機能性基板1b,1cの表面に対するFABの照射を停止した後、半導体基板30Aの表面に対するFABの照射を継続して、機能性基板1b,1cの表面に半導体材料をスパッタリングするスパッタリング工程と、スパッタリング工程により半導体材料がスパッタリングされた機能性基板1b,1cと半導体基板30Aとを接合して接合体を得る接合工程と、を含む。このようにしたので、半導体基板30Aとスパッタ膜30Bとを一体化することで支持基板30を形成し、複合基板120,130を作製することができる。
【0114】
なお、以上説明した本発明の各実施形態では、酸化膜除去・活性化工程において、第1のFABガンから機能性基板1,1bの表面へのFABの照射と、第2のFABガンから半導体基板30Aの表面へのFABの照射と、を同時に行っている。これにより、半導体基板30Aの表面に形成されている酸化膜などの不純物が、機能性基板1,1a,1b,1cの表面に付着してしまうことを抑制できる。しかしながら、本発明はこれに限らない。例えば、先に第1のFABガンから機能性基板1,1b側へのFAB照射を開始し、それより所定時間だけ遅らせて第2のFABガンから半導体基板30A側へのFAB照射を開始して、その後に機能性基板1,1a,1b,1c側のFAB照射を先に止めるという方法を採用してもよい。このようにしても、前述と同様な効果が得られる。
【0115】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で、任意の構成要素を用いて実施可能である。
【0116】
上記の実施形態や変形例はあくまで一例であり、発明の特徴が損なわれない限り、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。また、上記では種々の実施形態や変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0117】
1,1a,1b,1c:機能性基板
10:InP層
11:第1機能層
12:第2機能層
20:酸化膜
30:支持基板
30A:半導体基板
30B:スパッタ膜
31:第1支持層
32:第2支持層
33:接合層
40:接合界面
50:エピタキシャル層
51:第1機能層
52:第2機能層
53:第3機能層
60:酸化膜
100,110,120,121,130,131:複合基板
【要約】
複合基板は、InPと、InPの結晶体上にエピタキシャル成長により形成可能な材料の結晶体と、の少なくとも一方を含んで構成される機能性基板と、半導体材料からなり、機能性基板と接合されて機能性基板を支持する支持基板と、を有する。機能性基板は、第1の層と、第1の層よりも支持基板に近い側に配置され、希ガス元素を含んだ非晶質体からなる第2の層と、を有する。支持基板は、第1支持層と、第1支持層よりも機能性基板に近い側に配置され、希ガス元素を含んだ半導体材料の非晶質体からなる第2支持層と、機能性基板に接しており、半導体材料の非晶質体からなる接合層と、を有する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12