IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社神島組の特許一覧

特許7584731割岩工具および当該工具を用いた破砕方法
<>
  • 特許-割岩工具および当該工具を用いた破砕方法 図1
  • 特許-割岩工具および当該工具を用いた破砕方法 図2
  • 特許-割岩工具および当該工具を用いた破砕方法 図3
  • 特許-割岩工具および当該工具を用いた破砕方法 図4
  • 特許-割岩工具および当該工具を用いた破砕方法 図5
  • 特許-割岩工具および当該工具を用いた破砕方法 図6
  • 特許-割岩工具および当該工具を用いた破砕方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】割岩工具および当該工具を用いた破砕方法
(51)【国際特許分類】
   E21C 37/02 20060101AFI20241111BHJP
   E21C 27/14 20060101ALI20241111BHJP
【FI】
E21C37/02
E21C27/14
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2024060331
(22)【出願日】2024-04-03
【審査請求日】2024-04-10
(73)【特許権者】
【識別番号】399048869
【氏名又は名称】株式会社神島組
(74)【代理人】
【識別番号】100105935
【弁理士】
【氏名又は名称】振角 正一
(74)【代理人】
【識別番号】100136836
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 一正
(72)【発明者】
【氏名】神島 昭男
(72)【発明者】
【氏名】神田 和親
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特許第5034001(JP,B1)
【文献】特許第4961574(JP,B1)
【文献】特許第6464396(JP,B1)
【文献】特許第5857375(JP,B1)
【文献】特許第6387505(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21C 25/00-51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被破砕物の自由面の近傍において前記被破砕物に対して削孔形成方向に予め形成された削孔から前記自由面に向かう被破砕領域に亀裂を導入する割岩工具であって、
前記削孔のうち前記自由面の反対側に位置する第1内部空間に対して第1先端部を挿脱可能な第1羽根部材と、
前記削孔のうち前記第1内部空間よりも前記自由面側でしかも前記自由面と平行でかつ前記削孔形成方向と直交する第1方向の一方側に位置する第2内部空間に対して挿脱可能な第2先端部を有する第2羽根部材と、
前記削孔のうち前記第1内部空間よりも前記自由面側でしかも前記第1方向の他方側に位置する第3内部空間に対して挿脱可能な第3先端部を有する第3羽根部材と、
前記削孔のうち前記第1先端部、前記第2先端部および前記第3先端部に挟まれた第4内部空間に対して挿脱可能な第4先端部を有する楔部材と、を備え、
前記第4先端部は、前記第1羽根部材、前記第2羽根部材および前記第3羽根部材にそれぞれ摺動可能な第1摺動面、第2摺動面および第3摺動面を有するとともに、前記削孔形成方向に進むにしたがって前記第2摺動面および前記第3摺動面が前記第1摺動面側に傾斜するような先細り形状を有し、
前記削孔形成方向の反対側から前記削孔を見たときに、前記楔部材の中心軸を通過して前記自由面と直交する仮想線に対し、前記第1方向の前記一方側に傾斜した方向を第2方向とし、前記第1方向の前記他方側に傾斜した方向を第3方向としたとき、
前記削孔に沿った前記削孔形成方向への前記楔部材の移動に伴い、前記第2羽根部材は前記楔部材の前記第2摺動面と摺動しながら前記第2方向に移動して前記削孔の内壁を押圧するとともに、前記第3羽根部材は前記楔部材の前記第3摺動面と摺動しながら前記第3方向に移動して前記削孔の内壁を押圧する、ことを特徴とする割岩工具。
【請求項2】
請求項1に記載の割岩工具であって、
前記第4先端部は、前記削孔形成方向に進むにしたがって前記第1摺動面が前記自由面側に傾斜するように仕上げられた、割岩工具。
【請求項3】
請求項1に記載の割岩工具であって、
前記第4先端部は、前記第1摺動面が前記削孔形成方向と平行な平面となるように仕上げられた、割岩工具。
【請求項4】
請求項2または3に記載の割岩工具であって、
前記第1摺動面、前記第2摺動面および前記第3摺動面は相互に接続され、前記第4先端部は三角錐形状または三角錐台形状に仕上げられた、割岩工具。
【請求項5】
被破砕物の自由面の近傍において前記被破砕物に対して削孔形成方向に予め形成された削孔から前記自由面に向かう被破砕領域を破砕する破砕方法であって、
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の割岩工具を準備する工程と、
前記第1羽根部材の前記第1先端部、前記第2羽根部材の前記第2先端部、前記第3羽根部材の前記第3先端部および前記楔部材の前記第4先端部をそれぞれ前記削孔の前記第1内部空間、前記第2内部空間、前記第3内部空間および前記第4内部空間に挿入する工程と、
前記第1摺動面、第2摺動面および第3摺動面をそれぞれ前記第1羽根部材の前記第1先端部、前記第2羽根部材の前記第2先端部、前記第3羽根部材の前記第3先端部に摺接させたまま前記楔部材の後端部に外力を加えながら前記楔部材を前記削孔形成方向に押し込むことによって前記第2羽根部材の前記第2先端部および前記第3羽根部材の前記第3先端部を前記削孔の内壁を押圧して割岩する工程と、
を備えることを特徴とする破砕方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、岩盤、岩石、コンクリート構造物などの被破砕物を割岩する割岩工具および当該工具を用いて被破砕物を破砕する破砕技術に関するものであり、特に被破砕物の自由面の近傍に形成された削孔から自由面に向かう被破砕領域に亀裂を導入して被破砕領域を破砕する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自由面を有する被破砕物を効率的に破砕する破砕方法として、本願出願人は、被破砕物の自由面の近傍に複数の削孔を自由面と平行となるように列状に形成した後で、各削孔に対して特許文献1ないし特許文献3に記載された割岩工具により削孔から自由面に向かう被破砕領域に亀裂を与え、破砕する工法を実施している(非特許文献1)。
【0003】
上記割岩工具は、削孔内に楔部材(矢)と2枚の羽根部材(羽根)を組み合わせたものである。削孔のうち自由面の反対側の内部空間に1枚の羽根部材の先端部が挿入されるとともに自由面の反対側の内部空間にもう1枚の羽根部材の先端部が挿入される。これらの羽根部材の間に楔部材の先端部が摺動自在に挿入される。そして、楔部材の後端部をブレーカで打撃して楔部材を圧入することで楔部材の先端部に形成される傾斜面に対して2枚の羽根部材が相対的に摺動しながら削孔の径方向外側に移動される。このとき、削孔の内壁が羽根部材により押圧され、被破砕領域が割岩される。こうして、被破砕物のうち被破砕領域が破砕される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5857375号
【文献】特許第6387505号
【文献】特許第6464396号
【非特許文献】
【0005】
【文献】「スーパーくさび君」、神島組ホームページ、[online ]、[令和6年4月1日検索]、インターネット<URL:http://kamishimagumi.co.jp/technique/kusabikun/kusabikun.htm>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
2枚の羽根部材のうち自由面側の羽根部材が楔部材の中心軸から自由面に向かう一方向(後で説明する図面中の(+Y方向)に相当)に移動し、削孔の内壁面に押圧力を与える。したがって、削孔の深さ方向(後で説明する図面中の(Z方向)に相当)および上記一方向の両方に直交する幅方向(後で説明する図面中の(X方向)に相当)において亀裂が導入される範囲は比較的狭い。このため、削孔の間隔を比較的狭く設定する必要がある。そこで、破砕作業の効率化を図るためには、削孔の列方向、つまり幅方向における亀裂導入範囲を広げることができる割岩工具が望まれる。
【0007】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、削孔から自由面に向かう被破砕領域に対して亀裂を広範囲に導入することができる割岩工具および当該工具を用いた破砕方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の第1の態様は、被破砕物の自由面の近傍において被破砕物に対して削孔形成方向に予め形成された削孔から自由面に向かう被破砕領域に亀裂を導入する割岩工具であって、削孔のうち自由面の反対側に位置する第1内部空間に対して第1先端部を挿脱可能な第1羽根部材と、削孔のうち第1内部空間よりも自由面側でしかも自由面と平行でかつ削孔形成方向と直交する第1方向の一方側に位置する第2内部空間に対して挿脱可能な第2先端部を有する第2羽根部材と、削孔のうち第1内部空間よりも自由面側でしかも第1方向の他方側に位置する第3内部空間に対して挿脱可能な第3先端部を有する第3羽根部材と、削孔のうち第1先端部、第2先端部および第3先端部に挟まれた第4内部空間に対して挿脱可能な第4先端部を有する楔部材と、を備え、第4先端部は、第1羽根部材、第2羽根部材および第3羽根部材にそれぞれ摺動可能な第1摺動面、第2摺動面および第3摺動面を有するとともに、削孔形成方向に進むにしたがって第2摺動面および第3摺動面が第1摺動面側に傾斜するような先細り形状を有し、削孔形成方向の反対側から削孔を見たときに、楔部材の中心軸を通過して自由面と直交する仮想線に対し、第1方向の一方側に傾斜した方向を第2方向とし、第1方向の他方側に傾斜した方向を第3方向としたとき、削孔に沿った削孔形成方向への楔部材の移動に伴い、第2羽根部材は楔部材の第2摺動面と摺動しながら第2方向に移動して削孔の内壁を押圧するとともに、第3羽根部材は楔部材の第3摺動面と摺動しながら第3方向に移動して削孔の内壁を押圧する、ことを特徴としている。
【0009】
また、この発明の第2の態様は、被破砕物の自由面の近傍において被破砕物に対して削孔形成方向に予め形成された削孔から自由面に向かう被破砕領域を破砕する破砕方法であって、上記割岩工具を準備する工程と、第1羽根部材の第1先端部、第2羽根部材の第2先端部、第3羽根部材の第3先端部および楔部材の第4先端部をそれぞれ削孔の第1内部空間、第2内部空間、第3内部空間および第4内部空間に挿入する工程と、第1摺動面、第2摺動面および第3摺動面をそれぞれ第1羽根部材の第1先端部、第2羽根部材の第2先端部、第3羽根部材の第3先端部に摺接させたまま楔部材の後端部に外力を加えながら楔部材を削孔形成方向に押し込むことによって第2羽根部材の第2先端部および第3羽根部材の第3先端部を削孔の内壁を押圧して割岩する工程と、を備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明によれば、削孔形成方向への楔部材の移動に伴って、第2羽根部材が第2方向に移動して削孔の内壁を押圧するとともに第3羽根部材が第3方向に移動して削孔の内壁を押圧する。このように、自由面側の削孔内壁面を互いに異なる2つの方向(=第2方向+第3方向)から押圧することで、削孔から自由面に向かう被破砕領域に亀裂を導入している。したがって、被破砕領域に対して亀裂を広範囲に導入することができ、その結果、割岩効率および破砕効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明にかかる破砕方法の一実施形態を実行する際に用いられる割岩工具およびブレーカを示す図である。
図2】本発明にかかる破砕方法の一実施形態を実行する際に用いられる割岩工具の構成を示す斜視図である。
図3】本発明に係る割岩工具の第1実施形態における楔部材および羽根部材の先端部の構成を示す図である。
図4】本発明に係る割岩工具の第2実施形態における楔部材および羽根部材の先端部の構成を示す図である。
図5】本発明に係る割岩工具の第3実施形態の構成を示す斜視図である。
図6】本発明に係る割岩工具の第3実施形態における楔部材および羽根部材の先端部の構成を示す図である。
図7】本発明に係る割岩工具の第4実施形態の構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は本発明にかかる破砕方法の一実施形態を実行する際に用いられる割岩工具およびブレーカを示す図である。割岩工具1は、3枚の羽根部材11~13と、羽根部材11~13の間に対して先端部を挿脱可能に形成された楔部材14と有している。この明細書では、被破砕物2に対して削孔21が形成される方向Zを「削孔形成方向」と称する。また、被破砕物2の自由面22と平行でかつ削孔形成方向Zと直交する方向を「第1方向X」と称し、この第1方向Xの一方側および他方側をそれぞれ「+X方向」および「-X方向」と称する。さらに、削孔形成方向Zおよび第1方向Xの両方に直交する方向、つまり削孔21から自由面22に向かう方向を「自由面方向(+Y)」と称し、自由面22の反対側方向を「反自由面方向(-Y)」と称する。
【0013】
図1には、削孔21の開口付近を削孔形成方向Zの反対側から見た部分拡大図が含まれている。この部分拡大図に示すように、削孔21は4つの内部空間を有している。つまり、削孔21は、自由面22の反対側、つまり反自由面方向(-Y)側に位置する第1内部空間211と、第1内部空間211よりも自由面方向(+Y)側でしかも第1方向Xの一方側、つまり(+X)方向側に位置する第2内部空間212と、第1内部空間211よりも自由面方向(+Y)側でしかも第1方向Xの他方側、つまり(-X)方向側に位置する第3内部空間213とを有している。これら3つの内部空間211~213に対し、羽根部材11~13の先端部11a~13aがそれぞれ挿脱自在となっている。そして、削孔21のうち挿入された先端部11a~13aに挟まれた空間が第4内部空間214に相当し、当該第4内部空間214に対し、楔部材14の先端部14aが挿脱自在となっている。
【0014】
図2は本発明にかかる破砕方法の一実施形態を実行する際に用いられる割岩工具の構成を示す斜視図である。また、図3は割岩工具の楔部材および羽根部材の先端部の構成を示す図である。これらの図面に記載された割岩工具1は、本発明に係る割岩工具の第1実施形態に相当する。これらの図面のうち図3において、(a)楔部材14が削孔形成方向Zに押し込まれた状態を示し、(b-1)~(b-4)は削孔形成方向Zにおいて互いに異なる位置での楔部材および羽根部材の断面図である。この割岩工具1では、羽根部材12、13は、楔部材14の中心軸14c(図1)を通過して自由面22と直交する仮想線VL(図1)を含むXZ平面に対して対称な形状を有している。そこで、羽根部材11の構成を説明するのに続いて、羽根部材12の構成を以下に説明する一方で、羽根部材13の各部については相当符号を付して説明を省略する。
【0015】
羽根部材11は、フランジ部11bと、フランジ部11bの下面から削孔形成方向Zと平行な方向に延びる先端部11aとを有している。図2に示すように、フランジ部11bは先端部11aよりも十分に大きな平面サイズを有している。より具体的には、フランジ部11bは削孔21の表面周囲に係合可能な平面サイズを有するのに対し、先端部11aは削孔21よりも小さな平面サイズを有している。この点については、後で説明する羽根部材12、13についても同様である。
【0016】
先端部11aのうち削孔21の内壁と対向する面、つまり反自由面方向(-Y)側の面は、削孔形成方向Zに沿った円弧面を基本形状として構成されており、後述するように削孔21の内壁を押圧する押圧面として機能する。なお、ここでの円弧面とはその断面が厳密に円の一部である必要はなく、断面が楕円の一部であるような場合も含むものとする。また、先端部11aでは円弧面(押圧面)と反対側、つまり羽根部材12、13と対向する側に傾斜面が形成されている。この傾斜面は削孔形成方向Zに進むにしたがって羽根部材12、13に近づくように仕上げられている。
【0017】
羽根部材12は、フランジ部12bと、フランジ部12bの下面から削孔形成方向Zと平行な方向に延びる先端部12aとを有している。先端部12aのうち削孔21の内壁と対向する面、つまり自由面方向(+Y)側の面は、削孔形成方向Zに沿った円弧面を基本形状として構成されており、後述するように削孔21の内壁を押圧する押圧面として機能する。また、先端部12aでは円弧面(押圧面)と反対側、つまり羽根部材11と対向する側に傾斜面が形成されている。この傾斜面は削孔形成方向Zに進むにしたがって羽根部材11に近づくように仕上げられている。羽根部材13も羽根部材12と同様に構成されている。ただし、羽根部材12、13では、その先端部12a、13の円弧面は先端部11aの円弧面の半分となっている。そして、割岩処理時には、羽根部材12、13の傾斜面が先端部11aの傾斜面と向かい合うように配置された状態で、羽根部材11~13の先端部11a~13aがそれぞれ削孔21の第1内部空間211ないし第3内部空間213に挿入される。また、こうして羽根部材11~13の先端部11a~13aが削孔21に挿入されることで、削孔形成方向Zに向けて先細り形状、より具体的には倒立三角錐台形状の第4内部空間214が形成される。
【0018】
この先細り形状の第4空間214に、この第4空間214に嵌まり込むように倒立三角錐台形状に仕上げられた楔部材14が圧入される。この楔部材14の先端部14aは、Z方向に直交する断面において三角形状を有し、先端に向かうにしたがって楔部材14の中心軸14c(図1)に沿って上記三角形状は一定の割合で縮小している。より詳しくは、図3に示すように、先端部14aは、それぞれ羽根部材11~13にそれぞれ摺動可能な3つの摺動面141~143を有するとともに、削孔形成方向Zに進むにしたがって摺動面141が自由面側に傾斜するとともに摺動面142、143が摺動面141側に傾斜するように仕上げられている。このため、削孔形成方向Zへの楔部材14の移動に伴い、羽根部材11はその位置を移動させることなく楔部材14の摺動面141と相対的に摺動しながら羽根部材11で削孔21の内壁を(-Y)方向に押圧する。また、羽根部材12は楔部材14の摺動面142と摺動しながら第2方向D2に移動して削孔21の内壁を第2方向D2に押圧するとともに、羽根部材13は楔部材14の第3摺動面143と摺動しながら第3方向D3に移動して削孔21の内壁を第3方向D3に押圧する。ここで、第2方向D2とは、図1の部分拡大図に示すように、削孔形成方向Zの反対側から削孔21を見たときに、仮想線VLに対し、第1方向Xの一方側(+X)に所定角度θだけ傾斜した方向を意味している。また、第3方向D3とは、図1の部分拡大図に示すように、削孔形成方向Zの反対側から削孔21を見たときに、仮想線VLに対し、第1方向Xの他方側(-X)に所定角度θだけ傾斜した方向を意味している。なお、角度θは楔部材14に設けられた摺動面141~143およびそれらに摺接する傾斜面の設定に対応している。また、本実施形態では、仮想線VL(図1)を含むXZ平面に対して対称な形状を有する羽根部材12、13を用いているため、角度θの大きさは同一であるが、形状を相互に相違させることで、第2方向D2および第3方向D3を調整してもよいことはいうまでもない。
【0019】
上記楔部材14の圧入を行うためのブレーカ3は、図1に示すように油圧パワーショベル等の建設車両5のアーム51にブラケット52を介して取り付けられている。このため、オペレータが建設車両5の操作レバーなどを操作してアーム51の位置や角度などを制御することでブレーカ3の位置および姿勢に制御可能となっている。
【0020】
このように構成された割岩工具1では、図1に示すように、羽根部材11~13の先端部11a~13aが削孔21に挿入されるとともに、楔部材14の先端部14aが羽根部材11~13の傾斜面で囲まれた第4内部空間214に挿入される。これによって割岩処理の準備が完了する。その後で、ブレーカ3のピストンで楔部材14の後端部が打撃されて楔部材14の先端部が削孔形成方向Zに圧入される。すると、図3に示すように、楔部材14が削孔21に沿って挿入移動される。これに伴って羽根部材12、13が、同図中の矢印AR2、AR3に示すように、それぞれ削孔21内で第2方向D2および第3方向D3に移動して削孔21の内壁を押圧する。これによって、第1方向Xにおいて広範囲にわたって亀裂が導入され、削孔21から自由面22に向かう被破砕領域Rを効率的に割岩することができる。上記割岩工具1を用いることで非特許文献1に記載された破砕方法の効率を高めることができる。
【0021】
このよう構成された割岩工具1において、羽根部材11およびその先端部11aがそれぞれ本発明の「第1羽根部材」および「第1先端部」の一例に相当している。羽根部材12およびその先端部12aがそれぞれ本発明の「第2羽根部材」および「第2先端部」の一例に相当している。羽根部材13およびその先端部13aがそれぞれ本発明の「第3羽根部材」および「第3先端部」の一例に相当している。楔部材14の先端部14aが本発明の「第4先端部」の一例に相当し、その摺動面141~143がそれぞれ本発明の「第1摺動面」、「第2摺動面」および「第3摺動面」の一例に相当している。
【0022】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば上記実施形態では、倒立三角錐台形状に仕上げられた楔部材14を用いているが、楔部材14の形状は倒立三角錐形状であってもよい。
【0023】
また、上記実施形態では、本発明の「第1摺動面」に相当する摺動面141が削孔形成方向Zに進むにしたがって自由面22側に近づくように傾斜した傾斜面となっているが、楔部材14が削孔形成方向Zに押し込まれたとき、羽根部材11はその位置に止まったまま、羽根部材12、13が自由面22側に移動する。したがって、図4に示すように、摺動面141が削孔形成方向Zと平行な平面に仕上げてもよい(割岩工具の第2実施形態)。この点については、後で説明する第3実施形態においても同様である。
【0024】
また、上記割岩工具1では、摺動面141~143は相互に接続され、楔部材14の先端部14aは三角錐形状または三角錐台形状に仕上げられているが、楔部材14の先端部14aの形状はこれに限定されるものではなく、削孔形成方向Zに進むにしたがって摺動面142および第3摺動面143が摺動面141側に傾斜するような先細り形状に仕上げてもよい(第3実施形態)。
【0025】
図5は本発明に係る割岩工具の第3実施形態の構成を示す斜視図である。また、図6図5に示す割岩工具の楔部材および羽根部材の先端部の構成を示す図である。第3実施形態に係る割岩工具1は、以下の2点で特許文献1ないし特許文献3に記載の割岩工具(以下「従来工具」という)と相違している。第1点目は、第1実施形態および第2実施形態と同様に、3つの羽根部材11~13が設けられている点である。そして、楔部材14の削孔形成方向Zへの圧入に伴って羽根部材12、13をそれぞれ第2方向D2および第3方向D3に移動させために、特許文献1ないし特許文献3に記載の割岩工具で採用した楔部材に対して摺動面142、143を設けられている点である。なお、その他の構成は基本的に従来工具と同一である。
【0026】
このような構成上の相違点を有する第3実施形態では、図6中の矢印AR2、AR3に示すように、削孔21に沿った削孔形成方向Zへの楔部材14の移動に伴い、羽根部材12が楔部材14の摺動面142と摺動しながら第2方向D2に移動して削孔21の内壁を押圧するとともに、羽根部材13が楔部材14の摺動面143と摺動しながら第3方向D3に移動して削孔21の内壁を押圧する。このため、第1実施形態および第2実施形態と同様に、第1方向Xにおいて広範囲にわたって亀裂が導入され、削孔21から自由面22に向かう被破砕領域Rを効率的に割岩することができる。上記割岩工具1を用いることで非特許文献1に記載された破砕方法の効率を高めることができる。
【0027】
また、上記実施形態では、3つの羽根部材11~13が相互に独立しているが、例えば図7に示すように、特許文献1ないし特許文献3と同様、連結機構15によって羽根部材11~13を相互に連結してもよい。より詳しくは、羽根部材11に対してバネ部材151、152により羽根部材12、13をそれぞれ連結するとともに、羽根部材12、13をバネ部材153により相互に連結してもよい(第4実施形態)。なお、図7に示す割岩工具1では、特許文献1や特許文献3に記載の従来工具と同様に、各バネ部材151~153は1段構成であるが、特許文献2に記載の従来工具と同様に、上下2段構成のバネ部材151~153により連結してもよい。より詳しくは、羽根部材11に対し、削孔形成方向Zにおいて上下に配置された2つのバネ部材151により羽根部材12を相互に連結し、削孔形成方向Zにおいて上下に配置された2つのバネ部材152により羽根部材13を相互に連結し、さらに削孔形成方向Zにおいて上下に配置された2つのバネ部材153により羽根部材12、13を相互に連結してもよい。
【0028】
また、上記実施形態では、楔部材14の後端部に外力(図3図4図6中の白抜き矢印)を与えて楔部材14を削孔形成方向Zに移動させるために、ブレーカ3のピストンで楔部材14の後端部を打撃しているが、外力の印加手段としては、これに限定されず、例えば油圧シリンダを用いることができる。つまり、油圧シリンダにより楔部材14を削孔形成方向Zに押圧するように構成してもよい。
【0029】
さらに、上記実施形態では、第1内部空間211に第1羽根部材11に配置する一方、削孔21のうち第1内部空間211よりも自由面側、つまり(+Y)方向側に2つの羽根部材12、13を配置しているが、第1内部空間211よりも自由面側に3つ以上の羽根部材を配置し、全羽根部材に囲まれた第4内部空間に楔部材14の先端部141を圧入することで、自由面側の羽根部材が互いに異なる方向に移動し、削孔21の内壁を押圧するように構成してもよい。例えば羽根部材12、13の間に別の羽根部材を追加し、先端部141の圧入によって羽根部材12、13および別の羽根部材がそれぞれ第2方向D2、第3方向D3および(+Y)方向に移動して被破砕領域Rに亀裂を導入するように構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0030】
この発明は、岩盤、岩石、コンクリート構造物などの被破砕物を割岩する割岩工具全般および当該工具を用いて被破砕物を破砕する破砕技術全般に適用することができる。
【符号の説明】
【0031】
1…割岩工具
2…被破砕物
11…(第1)羽根部材
11a…(第1)先端部
12…(第2)羽根部材
12a…(第2)先端部
13…(第3)羽根部材
13a…(第3)先端部
14…楔部材
21…削孔
22…自由面
141…(第1)摺動面
142…(第2)摺動面
143…(第3)摺動面
211…第1内部空間
212…第2内部空間
213…第3内部空間
214…第4内部空間
D2…第2方向
D3…第3方向
R…被破砕領域
VL…仮想線
X…第1方向
Z…削孔形成方向
【要約】
【課題】削孔から自由面に向かう被破砕領域に対して亀裂を広範囲に導入する。
【解決手段】削孔に挿入された第1羽根部材ないし第3羽根部材に挟まれた第4内部空間に対して楔部材の第4先端部が挿入される。第4先端部は、それぞれ第1羽根部材、第2羽根部材および第3羽根部材に摺動可能な第1摺動面、第2摺動面および第3摺動面を有するとともに、削孔形成方向に進むにしたがって第2摺動面および第3摺動面が第1摺動面側に傾斜するような先細り形状を有する。削孔に沿った削孔形成方向への楔部材の移動に伴い、第2羽根部材は楔部材の第2摺動面と摺動しながら第2方向に移動して削孔の内壁を押圧するとともに、第3羽根部材は楔部材の第3摺動面と摺動しながら第3方向に移動して削孔の内壁を押圧する。このように自由面側の削孔内壁面を互いに異なる2つの方向から押圧することで、削孔から自由面に向かう被破砕領域に亀裂が導入される。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7