(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】スパッタリング装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/40 20060101AFI20241111BHJP
H05H 1/46 20060101ALI20241111BHJP
【FI】
C23C14/40
H05H1/46 A
(21)【出願番号】P 2020044107
(22)【出願日】2020-03-13
【審査請求日】2023-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【氏名又は名称】上村 喜永
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】安東 靖典
(72)【発明者】
【氏名】東 大介
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-201971(JP,A)
【文献】特開2019-206750(JP,A)
【文献】特開2001-192805(JP,A)
【文献】特開2000-294395(JP,A)
【文献】国際公開第2014/064768(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/40
H05H 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマを用いてターゲットをスパッタリングして被処理物に成膜するスパッタリング装置であって、
真空排気される真空容器と、
前記真空容器の外部に設けられたアンテナと、
前記真空容器の外壁における前記アンテナに臨む位置に設けられた誘電体板と、
前記ターゲットを前記真空容器内に保持するターゲット保持部と、
前記真空容器内において、前記誘電体板と対向するように前記被処理物を保持する被処理物保持部とを備え、
前記誘電体板は、前記アンテナと前記被処理物とが対向する対向方向と直交する直交方向に沿って形成されており、
前記ターゲットが、
前記対向方向において前記誘電体板と前記被処理物との間に配置されるとともに、前記直交方向において前記誘電体板を挟み込む位置の一方又は両方に設けられており、そのスパッタ面が、前記誘電体板に対して前記アンテナとは反対側に向かって斜めに延びており、
前記直交方向において前記誘電体板から離れるにつれて
、前記対向方向において前記被処理物に近づくように傾いて
おり、
前記ターゲットのスパッタ面の前記誘電体板に対する傾斜角度が、10度以上45度以下である、スパッタリング装置。
【請求項2】
前記ターゲットが、前記誘電体板を挟み込む位置の両方に設けられており、それらのターゲットのスパッタ面それぞれが、前記誘電体板に対して前記アンテナとは反対側に向かって斜めに延びている、請求項1記載のスパッタリング装置。
【請求項3】
前記誘電体板が、複数のスリットが形成されてなるスリット板に載置されている、請求項
1又は2に記載のスパッタリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマを用いてターゲットをスパッタリングして被処理物に成膜するスパッタリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のスパッタリング装置としては、特許文献1に示すように、アンテナを真空容器の外部に配置し、このアンテナから生じた高周波磁場を真空容器の外壁に設けた誘電体板を介して真空容器内に透過させ、これにより真空容器内にプラズマを発生させることで、ターゲットをスパッタリングして被処理物に成膜するものがある。
【0003】
このようにアンテナを真空容器の外部に配置する構成は、アンテナを真空容器の内部に配置する構成に比べて、ターゲットを被処理物に近づけることができ、成膜速度の向上や処理効率の向上を図れる。また、アンテナを真空容器の外部に配置することで、アンテナにスパッタ粒子が付着しないので、汚れや寿命の低減を抑制することができるし、さらにはアンテナの取り付け構造の簡素化を図れるなどといった種々の作用効果を奏し得る。
【0004】
しかしながら、アンテナを真空容器の外部に配置する場合、
図5(A)に示すように、アンテナをターゲットのスパッタ面よりも後方に配置すると、アンテナから拡がる高周波磁場をスパッタ面に効率良く導くことができず、スパッタ効率が悪くなる。
【0005】
そこで、本発明者は、アンテナを真空容器の外部に配置しつつもスパッタ効率の向上を図るべく、
図5(B)に示すように、真空容器の外壁を外側に凹ませて、その底部にターゲットを配置するとともに、その側壁部の誘電体板に臨むようにアンテナを配置する構成を、本発明に到る途中に中間的に考えた。このような構成であれば、ターゲットのスパッタ面よりも前方にアンテナを位置させることができ、スパッタ効率の向上を図れる。
【0006】
ところが、この
図5(B)に示す構成は、ターゲットから被処理物までの距離が長くなるので、成膜速度や処理効率が低下してしまい、アンテナを真空容器の外部に配置したことによるメリットが希薄化される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、上記問題点を一挙に解決すべくなされたものであり、真空容器の外部にアンテナを配置してターゲットから被処理物までの距離を短くすることで、成膜速度や処理効率の向上を図りつつ、ターゲットを効率良くスパッタできるようにすることをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明に係るスパッタリング装置は、プラズマを用いてターゲットをスパッタリングして被処理物に成膜するスパッタリング装置であって、真空排気される真空容器と、前記真空容器の外部に設けられたアンテナと、前記真空容器の外壁における前記アンテナに臨む位置に設けられた誘電体板と、前記ターゲットを前記真空容器内に保持するターゲット保持部とを備え、前記ターゲットが、前記誘電体板を挟み込む位置の一方又は両方に設けられており、そのスパッタ面が、前記誘電体板に対して前記アンテナとは反対側に向かって斜めに延びていることを特徴とするものである。
【0010】
このように構成されたスパッタリング装置によれば、ターゲットのスパッタ面が誘電体板に対してアンテナとは反対側に向かって斜めに延びているので、アンテナから拡がる高周波磁場をスパッタ面に効率良く導くことができる。
これにより、真空容器の外部にアンテナを設けた構成において、被処理物までの距離を短くすることで、成膜速度や処理効率の向上を図りつつ、ターゲットを効率良くスパッタすることができる。
さらに、スパッタ面を斜めにすることで、被処理物に対するスパッタ粒子の拡がりを抑えることができ、スパッタ源を利用率の高いものにすることができる。
【0011】
成膜速度や処理効率のさらなる向上を図るためには、前記ターゲットが、前記誘電体板を挟み込む位置の両方に設けられており、それらのターゲットのスパッタ面それぞれが、前記誘電体板に対して前記アンテナとは反対側に向かって斜めに延びていることが好ましい。
【0012】
上述した作用効果をより顕著に発揮させるためには、前記ターゲットのスパッタ面の前記誘電体板に対する傾斜角度が、10度以上45度以下であることが好ましい。
【0013】
前記誘電体板が、複数のスリットが形成されてなるスリット板に載置されていることが好ましい。
このような構成であれば、スリット板と誘電体板とを重ね合わせて磁場透過窓が形成されるので、誘電体板のみに磁場透過窓としての機能を担わせる場合に比べて磁場透過窓の厚みを小さくすることができる。これにより、アンテナから真空容器内までの距離を短くすることができ、アンテナから生じた高周波磁場を効率良く真空容器内に供給することができる。
【発明の効果】
【0014】
このように構成した本発明によれば、真空容器の外部にアンテナを配置してターゲットから被処理物までの距離を短くすることで、成膜速度や処理効率の向上を図りつつ、ターゲットを効率良くスパッタすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態のスパッタリング装置の構成を示す模式図。
【
図2】本実施形態のスパッタリング装置のターゲットの配置を示す模式図。
【
図3】その他の実施形態におけるスパッタリング装置の構成を示す模式図。
【
図4】その他の実施形態におけるスパッタリング装置の構成を示す模式図。
【
図5】本発明に到る途中に中間的に検討した構成を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明に係るスパッタリング装置の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0017】
<装置構成>
本実施形態のスパッタリング装置100は、誘導結合型のプラズマPを用いてターゲットTをスパッタリングして基板等の被処理物Wに成膜するものである。ここで、被処理物Wは、例えば、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ(FPD)用の基板、フレキシブルディスプレイ用のフレキシブル基板等である。
【0018】
具体的にスパッタリング装置100は、
図1及び
図2に示すように、真空排気され且つガスが導入される処理室Sを形成する真空容器1と、処理室S内で被処理物Wを保持する基板保持部2と、処理室S内にターゲットTを保持するターゲット保持部3と、ターゲットTにバイアス電圧を印加するターゲットバイアス電源4と、真空容器1の外部に設けられたアンテナ5と、真空容器1の外壁におけるアンテナに臨む位置に設けられた誘電体板6と、アンテナ5に高周波を印加する高周波電源7と、を備えている。かかる構成により、アンテナ5に高周波電源7から高周波を印加することにより複数のアンテナ5には高周波電流が流れて、真空容器1内に誘導電界が発生して誘導結合型のプラズマPが生成される。
【0019】
真空容器1は、例えば金属製の容器であり、その内部は真空排気装置8によって真空排気される。真空容器1はこの例では電気的に接地されている。
【0020】
真空容器1内に、例えば流量調整器(図示省略)等を有するガス供給機構9からガス導入口10を経由して、スパッタ用ガス又は反応性ガスが導入される。スパッタ用ガス及び反応性ガスは、被処理物Wに施す処理内容に応じたものにすれば良い。スパッタ用ガスとしては、例えばアルゴン(Ar)等の不活性ガスであり、反応性ガスとしては、例えば酸素(O2)や窒素(N2)等である。
【0021】
基板保持部2は、真空容器1において平板状をなす被処理物Wを例えば水平状態となるように保持するホルダである。このホルダはこの例では電気的に接地されている。
【0022】
ターゲット保持部3は、基板保持部2に保持された被処理物Wと対向してターゲットTを保持するものである。本実施形態のターゲットTは、平面視において矩形状をなす平板状のものである。このターゲット保持部3は、真空容器1を形成する外壁(例えば上壁)1aに設けられている。また、ターゲット保持部3と真空容器1の上壁1aとの間には、真空シール機能を有する絶縁部31が設けられている。
【0023】
本実施形態では、ターゲット保持部3が複数設けられており、具体的には一対のターゲット保持部3が、後述するアンテナ5を挟み込む位置に設けられている。
【0024】
ターゲットバイアス電源4は、ターゲット保持部3を介してターゲットT接続されており、ターゲットTに対してバイアス電圧を印加する。このバイアス電圧は、プラズマP中のイオンをターゲットTに引き込んでスパッタさせる電圧である。なお、ここでは一対のターゲットTに共通のターゲットバイアス電源4が接続されているが、それぞれのターゲットTに別々のターゲットバイアス電源4を接続しても良い。
【0025】
アンテナ5は、処理室S内にプラズマPを生成するためのものであり、例えば長さが数十cm以上の直線状のものである。本実施形態では、
図1に示すように、一対のターゲットTの間に1本のアンテナ5が配置されている。ここでは、アンテナ5の長手方向と各ターゲットTの長手方向とは同一方向であり、アンテナ5は各々のターゲットTからの距離が等しくなるように配置されている。
【0026】
また、各アンテナ5の材質は、例えば、銅、アルミニウム、これらの合金、ステンレス等であるが、これに限られるものではない。なお、アンテナ5を中空にして、その中に冷却水等の冷媒を流し、アンテナ5を冷却するようにしても良い。
【0027】
アンテナ5の長手方向一端部には、整合回路71を介して高周波電源7が接続されており、長手方向他端部は直接接地されている。なお、アンテナ5の一端部又は他端部に、可変コンデンサ又は可変リアクトル等のインピーダンス調整回路を設けて、各アンテナ5のインピーダンスを調整するように構成しても良い。このように各アンテナ5のインピーダンスを調整することによって、アンテナ5の長手方向におけるプラズマPの密度分布を均一化することができ、アンテナ5の長手方向の膜厚を均一化することができる。
【0028】
上記構成によって、高周波電源7から、整合回路71を介して、アンテナ5に高周波電流を流すことができる。高周波の周波数は、例えば、一般的な13.56MHzであるが、これに限られるものではない。
【0029】
誘電体板6は、アンテナ5から生じた高周波磁場を処理室S内に透過させる磁場透過窓を構成するものであり、真空容器1の外壁(ここでは上壁)1aに形成された開口を塞ぐように設けられている。
【0030】
ここでの誘電体板6は、アンテナ5側から視て矩形状であり、その長手方向が各ターゲットTの長手方向とは同一方向となるように配置されている。なお、誘電体板6を構成する材料としては、アルミナ、炭化ケイ素、窒化ケイ素等のセラミックス、石英ガラス、無アルカリガラス等の無機材料、フッ素樹脂(例えばテフロン)等の樹脂材料等を挙げることができる。
【0031】
そして、本実施形態のスパッタリング装置100は、
図1及び
図2に示すように、ターゲットTのスパッタ面Taが、誘電体板6に対してアンテナ5とは反対側に向かって斜めに延びていることを特徴とするものである。
【0032】
より詳細に説明すると、ターゲットTのスパッタ面Taは、誘電体板6から離れるに連れて、基板保持部2に保持されている被処理物Wに近づくように傾いており、具体的には
図2に示すように、ターゲットTのスパッタ面Taの誘電体板6に対する傾斜角度θが、10度以上45度以下である。なお、ここでの傾斜角度θは、スパッタ面Taが誘電体板6から離れるに連れて被処理物Wに近づく構成において、スパッタ面Taと誘電体板6の被処理物Wを向く面61との交差角度のうちの鋭角である。
【0033】
本実施形態では、一対のターゲットTのスパッタ面Taそれぞれが、誘電体板6に対してアンテナ5とは反対側に向かって斜めに延びている。これら一対のターゲットTは、誘電体板6に対して線対称に配置されており、具体的には誘電体板6側から被処理物W側に向かって拡がるハ字状に配置されている。すなわち、これら一対のターゲットTは、それぞれのスパッタ面Taが互いに向き合う方向に傾斜しつつ、それらのスパッタ面Taが被処理物Wの表面を向くように配置されている。
【0034】
<本実施形態の効果>
このように構成した本実施形態のスパッタリング装置100によれば、ターゲットTのスパッタ面Taが誘電体板6に対してアンテナ5とは反対側に向かって斜めに延びているので、アンテナ5から拡がる高周波磁場をスパッタ面Taに効率良く導くことができる。
これにより、真空容器1の外部にアンテナ5を設けた構成において、被処理物Wまでの距離を短くすることで、成膜速度や処理効率の向上を図りつつ、ターゲットTを効率良くスパッタすることができる。
さらに、スパッタ面Taを斜めにすることで、被処理物Wに対するスパッタ粒子の拡がりを抑えることができ、スパッタ源を利用率の高いものにすることができる。
【0035】
また、誘電体板6を挟む位置の両方にターゲットTが保持されているので、成膜速度や処理効率のさらなる向上を図れる。
【0036】
<その他の変形実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0037】
例えば、前記実施形態では、ターゲットTが誘電体板6を挟み込む位置の両方に設けられていたが、誘電体板6を挟み込む位置の一方にのみターゲットTを設けても良い。
【0038】
また、前記実施形態のスパッタリング装置100は、1本のアンテナ5と一対のターゲットTを備えるものであったが、例えば互いに平行に設けられた複数本のアンテナ5を備えても良いし、これらのアンテナ5に対応させて一対のターゲットTを複数組備えていてもよい。
【0039】
さらに、前記実施形態では、誘電体板6により磁場透過窓を形成していたが、
図3に示すように、複数のスリット11sが形成されてなるスリット板11に誘電体板6を載置して、これらのスリット板11及び誘電体板6により磁場透過窓を形成しても良い。
このような構成であれば、スリット板11と誘電体板6とを重ね合わせて磁場透過窓が形成されるので、誘電体板6のみに磁場透過窓としての機能を担わせる場合に比べて磁場透過窓の厚みを小さくすることができる。これにより、アンテナ5から真空容器1内までの距離を短くすることができ、アンテナ5から生じた高周波磁場を効率良く真空容器1内に供給することができる。
【0040】
加えて、スパッタリング装置100としては、被処理物Wを真空容器1内に搬送する或いは真空容器1内で揺動させる移動機構を備えていても良い。
【0041】
また、スパッタリング装置100としては、
図4に示すように、例えば真空容器1を筒状のものとして、処理中の被処理物Wを真空容器1の軸方向と平行な軸周りに回転移動させる移動機構12を備えるものであっても良い。
かかる構成であれば、例えば工具等の被処理物Wとすることができ、工具等の表面に成膜することで寿命の向上等を図れる。
【0042】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0043】
100・・・スパッタリング装置
W ・・・被処理物
T ・・・ターゲット
Ta ・・・スパッタ面
1 ・・・真空容器
3 ・・・ターゲット保持部
5 ・・・アンテナ
6 ・・・誘電体板
θ ・・・傾斜角度
S ・・・スリット
11 ・・・スリット板