(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】変形構造体およびアクチュエータ
(51)【国際特許分類】
H02N 11/00 20060101AFI20241111BHJP
C08L 27/06 20060101ALI20241111BHJP
【FI】
H02N11/00 Z
C08L27/06
(21)【出願番号】P 2021071712
(22)【出願日】2021-04-21
【審査請求日】2024-03-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518385899
【氏名又は名称】AssistMotion株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(72)【発明者】
【氏名】橋本 稔
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 彩
(72)【発明者】
【氏名】正村 欣生
【審査官】北川 大地
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-014819(JP,A)
【文献】特開2020-184815(JP,A)
【文献】特開2020-167923(JP,A)
【文献】特開2007-204682(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0153363(US,A1)
【文献】特表2012-523809(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ塩化ビニルおよび可塑剤を含有して誘電性を有すると共に常温においてゲル状態を呈するポリ塩化ビニル系材料を用いて変形可能な変形構造体であって、
立体的形状の陰極と、当該陰極の周囲を覆うように設けられた前記ポリ塩化ビニル系材料と、当該ポリ塩化ビニル系材料に接触して前記陰極の周囲を取り囲んで3次元方向に移動可能に配置された立体的形状の複数の陽極とで構成された単位構造体を複数備え、前記陰極および前記陽極を介して前記ポリ塩化ビニル系材料に対して電圧を印加したときの当該ポリ塩化ビニル系材料の変形によって3次元方向に変形可能に構成されている変形構造体。
【請求項2】
同一形状の複数の前記単位構造体が立体的に配置されて構成されている請求項
1記載の変形構造体。
【請求項3】
請求項1
または2記載の変形構造体と、当該変形構造体における任意の前記陽極に対する電圧印加を制御する制御部とを備えて、当該変形構造体における任意の部位を3次元方向に変形可能に構成されているアクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ塩化ビニル系材料を用いた変形構造体、およびその変形構造体を備えたアクチュエータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の変形構造体およびアクチュエータとして、下記特許文献1に開示されたゲルアクチュエータ、および下記特許文献2に開示された誘電アクチュエータが知られている。特許文献1に開示のゲルアクチュエータは、導電材で形成されたメッシュ体と、メッシュ体を挟んで対向配置された一対のゲルと、各ゲルのそれぞれの外面に配置された一対の電極とを備えて構成されている。このゲルアクチュエータは、各電極とメッシュ体との間に電圧を印加しない状態においては、各ゲルの対向面が離間し、各電極とメッシュ体との間に電圧を印加すると、各ゲルの一部がメッシュ体のメッシュ孔に入り込む。このように、このゲルアクチュエータは、電圧の印加操作によって厚さ方向に変形可能に構成されている。また、下記特許文献2に開示の誘電アクチュエータは、PVC(ポリ塩化ビニル)ゲルシートで形成された誘電体と、誘電体の両面に配置された一対の柔軟電極とを備えて構成されている。この誘電アクチュエータは、電極に電圧を印加したときに伸長し、電圧の印加を解除したときに初期状態に復帰する。このよう、この誘電アクチュエータは、平面方向に変形可能に構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-23843号公報
【文献】特開2017-108601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、従来の変形構造体およびアクチュエータには、解決すべき以下の課題がある。具体的には、上述した特許文献1に開示のゲルアクチュエータでは、変形方向が厚さ方向のみに限定され、上述した特許文献2に開示の誘電アクチュエータでは、変形方向が平面方向に限定される。つまり、従来のアクチュエータは、全ての方向(3次元方向)に変形することができないため、汎用性が低いという課題が存在する。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、3次元方向に変形可能な変形構造体およびアクチュエータを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成すべく請求項1記載の変形構造体は、ポリ塩化ビニルおよび可塑剤を含有して誘電性を有すると共に常温においてゲル状態を呈するポリ塩化ビニル系材料を用いて変形可能な変形構造体であって、立体的形状の陰極と、当該陰極の周囲を覆うように設けられた前記ポリ塩化ビニル系材料と、当該ポリ塩化ビニル系材料に接触して前記陰極の周囲を取り囲んで3次元方向に移動可能に配置された立体的形状の複数の陽極とで構成された単位構造体を複数備え、前記陰極および前記陽極を介して前記ポリ塩化ビニル系材料に対して電圧を印加したときの当該ポリ塩化ビニル系材料の変形によって3次元方向に変形可能に構成されている。
【0009】
また、請求項2記載の変形構造体は、請求項1記載の変形構造体において、同一形状の複数の前記単位構造体が立体的に配置されて構成されている。
【0010】
また、請求項3記載のアクチュエータは、請求項1または2記載の変形構造体と、当該変形構造体における任意の前記陽極に対する電圧印加を制御する制御部とを備えて、当該変形構造体における任意の部位を3次元方向に変形可能に構成されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る変形構造体によれば、誘電性を有すると共に常温においてゲル状態を呈するポリ塩化ビニル系材料と、ポリ塩化ビニル系材料に接触して3次元方向に移動可能に配置された陰極および陽極とを備えたことにより、陰極および陽極を介してポリ塩化ビニル系材料に対して電圧を印加したときのポリ塩化ビニル系材料の変形によって変形構造体を3次元方向に変形させることができる。このため、この変形構造体によれば、平面方向や厚み方向にのみ、すなわち2次元方向にのみ変形する従来の構成と比較して、汎用性を十分に高めることができる。
【0012】
また、本発明に係る変形構造体によれば、陰極および陽極を立体的形状に形成し、陰極の周囲を覆うようにポリ塩化ビニル系材料を設けたことにより、陰極に対する陽極の配置位置を任意に規定することができるため、陽極の配置位置を調整することで、変形構造体の変形方向を任意に規定することができる。
【0013】
また、本発明に係る変形構造体によれば、ポリ塩化ビニル系材料によって周囲が覆われた陰極の周囲を取り囲むように複数の陽極を配置した単位構造体で変形構造体を構成したことにより、単位構造体を組み合わせることで、3次元方向に変形可能な任意の形状の変形構造体を容易に作製することができる。
【0014】
また、本発明に係る変形構造体によれば、同一形状の複数の単位構造体を立体的に配置して構成したことにより、各単位構造体を同一形状とすることで、変形構造体の製造コストを低減することができる。
【0015】
また、本発明に係るアクチュエータによれば、変形構造体における各陽極のうちの任意の陽極に対する電圧印加を制御する制御部を備えたことにより、変形構造体における任意の部位を3次元方向に変形させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】アクチュエータ1の構成を示す構成図である。
【
図4】単位構造体11の動作を説明する説明図である。
【
図5】変形構造体10の動作を説明する第1の説明図である。
【
図6】変形構造体10の動作を説明する第2の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る変形構造体およびアクチュエータの実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0018】
最初に、
図1に示すアクチュエータ1の構成について説明する。アクチュエータ1は、本発明に係るアクチュエータの一例であって、変形構造体10、電源部20および制御部30を備えて構成されている。
【0019】
変形構造体10は、本発明に係る変形構造体の一例であって、ポリ塩化ビニル系材料(PVCゲル)を用いて3次元方向に変形可能に構成されている。具体的には、変形構造体10は、
図1に示すように、複数の単位構造体11で構成されている。
【0020】
単位構造体11は、
図2に示すように、陰極21、PVCゲル膜22および8個の陽極23で構成されている。
【0021】
陰極21は、
図2に破線で示すように、金属等の導電性を有する材料によって球状(立体的形状の一例)に形成されている。
【0022】
PVCゲル膜22は、ポリ塩化ビニル系材料の一例であって、ポリ塩化ビニル(PVC)および可塑剤を含有して誘電性を有すると共に常温においてゲル状態を呈し、
図2に示すように、陰極21の周囲を覆うように配置されている。本実施例では、PVCゲル膜22は、アジピン酸ジエチル(DEA)、アジピン酸ジオクチル(DOA)、セバシン酸ジエチル(DESeb)、セバシン酸ジオクチル(DOSeb)、コハク酸ジエチル(DESU)、およびフタル酸ジブチル(DBP)のうちの1種類または複数種類を、ポリ塩化ビニル100重量部に対して合計で100~1000重量部含有している。
【0023】
陽極23は、
図2に示すように、金属等の導電性を有する材料によって球状(立体的形状の一例)に形成されている。また、各陽極23は、陰極21を覆っているPVCゲル膜22に接触して陰極21の周囲を取り囲むように配置されている。
【0024】
本実施例では、
図1に示すように、複数の単位構造体11が全体として直方体をなすように(立体的に)配置されて(積み重ねられて)変形構造体10が構成されている。この変形構造体10は、単位構造体11を構成する陰極21および陽極23を介してPVCゲル膜22に対して電圧が印加されたときのPVCゲル膜22の変形によって3次元方向に変形する。
【0025】
電源部20は、変形構造体10に印加する電圧を供給する。制御部30は、変形構造体10の各単位構造体11を構成する各陽極23のうちの任意の陽極23に対する電圧印加を制御する。この構成により、変形構造体10における任意の部位を3次元方向に変形させることが可能となっている。
【0026】
次に、アクチュエータ1の動作について図面を参照して説明する。始めに、アクチュエータ1の動作原理について説明する。このアクチュエータ1では、変形構造体10の各単位構造体11を構成する陰極21および陽極23を介して陰極21の周囲を覆っているPVCゲル膜22に対して電圧が印加されたとき、
図3に示すように、PVCゲル膜22が陽極23側に引っ張られるように変形するクリープ変形が発生する。このPVCゲル膜22のクリープ変形により、同図に示すように陰極21と陽極23とが接近し、両者間の距離Lが短縮する。
【0027】
この場合、例えば、変形構造体10の全ての単位構造体11における陰極21と陽極23との間に電圧を印加したときには、各単位構造体11における陰極21と各陽極23との間の距離Lが短縮して、
図4に示すように、各単位構造体11が縮小する。この結果、
図5に示すように、変形構造体10が全体として縮小する(変形構造体10の体積が減少する)。
【0028】
また、変形構造体10の一部(
図6における右側)の単位構造体11における陰極21と陽極23との間にのみ電圧を印加したときには、それらの単位構造体11のみが縮小する結果、
図6に示すように、変形構造体10が部分的に歪むように変形する。
【0029】
このように、この変形構造体10およびアクチュエータ1によれば、誘電性を有すると共に常温においてゲル状態を呈するPVCゲル膜22と、PVCゲル膜22に接触して3次元方向に移動可能に配置された陰極21および陽極23とを備えたことにより、陰極21および陽極23を介してPVCゲル膜22に対して電圧を印加したときのPVCゲル膜22の変形によって変形構造体10を3次元方向に変形させることができる。このため、この変形構造体10およびアクチュエータ1によれば、平面方向や厚み方向にのみ、すなわち2次元方向にのみ変形する従来の構成と比較して、汎用性を十分に高めることができる。
【0030】
また、この変形構造体10およびアクチュエータ1によれば、陰極21および陽極23を立体的形状に形成し、陰極21の周囲を覆うようにPVCゲル膜22を設けたことにより、陰極21に対する陽極23の配置位置を任意に規定することができるため、陽極23の配置位置を調整することで、変形構造体10の変形方向を任意に規定することができる。
【0031】
また、この変形構造体10およびアクチュエータ1によれば、PVCゲル膜22によって周囲が覆われた陰極21の周囲を取り囲むように複数の陽極23を配置した単位構造体11で変形構造体10を構成したことにより、単位構造体11を組み合わせることで、3次元方向に変形可能な任意の形状の変形構造体10を容易に作製することができる。
【0032】
また、この変形構造体10およびアクチュエータ1によれば、同一形状の複数の単位構造体11を立体的に配置して構成したことにより、各単位構造体11を同一形状とすることで、変形構造体10およびアクチュエータ1の製造コストを低減することができる。
【0033】
また、このアクチュエータ1によれば、変形構造体10における各陽極23のうちの任意の陽極23に対する電圧印加を制御する制御部30を備えたことにより、変形構造体10における任意の部位を3次元方向に変形させることができる。
【0034】
なお、上述した変形構造体10およびアクチュエータ1は、本発明に係る変形構造体およびアクチュエータの一例であって、適宜変更した構成を採用することができる。例えば、上述した変形構造体10では、立体的形状としての球状に形成した陰極21および陽極23を用いているが、他の立体的形状(例えば、多面体形状)に形成した陰極21および陽極23を採用することもできる。また、陰極21および陽極23の一方または双方を面的な形状に形成する構成を採用することもできる。
【0035】
また、上述した変形構造体10では、陰極21の周囲を覆うようにPVCゲル膜22を配置しているが、陰極21の一部(陽極23との対向部位)のみを覆うようにPVCゲル膜22を配置する構成を採用することもできる。また、陰極21を面的な形状に形成したときには、陰極21の一面(陽極23との対向する面)のみを覆うようにPVCゲル膜22を配置する構成を採用することもできる。
【0036】
また、上述した単位構造体11では、PVCゲル膜22で覆われた1つの陰極21の周囲を取り囲むように8個の陽極23が配置されているが、単位構造体11を構成する陽極23の数は、任意に規定することができる。
【0037】
また、上述した変形構造体10は、複数の単位構造体11を積み重ねて、全体として直方体状に形成されているが、変形構造体10の形状は、任意に規定することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 アクチュエータ
10 変形構造体
11 単位構造体
21 陰極
22 PVCゲル膜
23 陽極
30 制御部