(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】情報の長期保存方法や長期保存用記憶媒体を目的とした大記憶容量化
(51)【国際特許分類】
G11B 7/00 20060101AFI20241111BHJP
C04B 41/91 20060101ALI20241111BHJP
G11B 7/24012 20130101ALI20241111BHJP
G11B 7/24088 20130101ALI20241111BHJP
G11B 7/253 20130101ALI20241111BHJP
G11B 7/0033 20060101ALI20241111BHJP
G11B 7/0045 20060101ALI20241111BHJP
【FI】
G11B7/00
C04B41/91 E
G11B7/24012
G11B7/24088
G11B7/253
G11B7/0033
G11B7/0045 A
(21)【出願番号】P 2022581539
(86)(22)【出願日】2020-07-03
(86)【国際出願番号】 EP2020068892
(87)【国際公開番号】W WO2022002418
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2023-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】522055832
【氏名又は名称】セラミック・データ・ソリューションズ・ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】CERAMIC DATA SOLUTIONS GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【氏名又は名称】中尾 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100220489
【氏名又は名称】笹沼 崇
(74)【代理人】
【識別番号】100187469
【氏名又は名称】藤原(橋詰) 由子
(74)【代理人】
【識別番号】100225026
【氏名又は名称】古後 亜紀
(72)【発明者】
【氏名】プフラウム・クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】クンツェ・マルティン
【審査官】川中 龍太
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-269219(JP,A)
【文献】国際公開第2013/179329(WO,A1)
【文献】特開2001-071451(JP,A)
【文献】特開2007-156384(JP,A)
【文献】特開2019-133724(JP,A)
【文献】特開2003-233932(JP,A)
【文献】特開平05-205276(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0293476(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 7/00
C04B 41/91
G11B 7/24012
G11B 7/24088
G11B 7/253
G11B 7/0033
G11B 7/0045
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック基板を用意する工程と、
レーザおよび/または集束粒子ビームを用いて前記セラミック基板の表面に複数の凹部を形成する工程であって、これにより、前記セラミック基板に情報を符号化する、工程と、
を備え、前記複数の凹部が異なる深さを有し、各深さが所定の情報ビットに対応している、情報の保存方法において、
各凹部が、前記レーザ及び/又は集束粒子ビームの1つ以上のパルスによって形成され、各凹部の前記深さが、前記パルスのエネルギー、前記パルスの長さ、前記レーザ及び/又は集束粒子ビームのパルス数、のパラメータのうちの1つ又は組合せによって制御される、方法。
【請求項2】
セラミック基板を用意する工程と、
前記セラミック基板を、当該セラミック基板の材料と異なる少なくとも1種の第2材料からなる第2材料層で被覆する工程と、
レーザおよび/または集束粒子ビームを用いて前記第2材料層の表面に複数の凹部を形成する工程であって、これにより、前記第2材料層に情報を符号化する、工程と、
を備え、前記複数の凹部が異なる深さを有し、各深さが所定の情報ビットに対応しており、
被覆された前記セラミック基板は、任意で、情報の符号化の前および/または後に、当該被覆されたセラミック基板の耐久性を向上させるテンパリング処理を施される、情報の保存方法。
【請求項3】
セラミック基板を用意する工程と、
前記セラミック基板を、当該セラミック基板の材料と異なる、相異なる第2材料による2層以上の副層からなる第2材料層で被覆する工程と、
レーザおよび/または集束粒子ビームを用いて前記第2材料層に複数の凹部を形成する工程であって、これにより、前記第2材料の前記層に情報を符号化する、工程と、
を備え、前記複数の凹部が、異なる深さを有して前記2層以上の副層のうちの相異なる副層に延びており、各深さが所定の情報ビットに対応しており、
被覆された前記セラミック基板は、任意で、情報の符号化の前および/または後に、当該被覆されたセラミック基板の耐久性を向上させるテンパリング処理を施される、情報の保存方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法において、前記2層以上の副層の各層厚は、1μm未満である、方法。
【請求項5】
請求項3または4に記載の方法において、前記2層以上の副層が、金属層および金属酸化物層を含み、前記金属層の金属元素と前記金属酸化物層の金属元素とが同一である、方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の方法において、前記複数の凹部が、少なくとも2種類の異なる深さを有し、各深さが所定の情報ビットに対応している、方法。
【請求項7】
請求項2から6のいずれか一項に記載の方法において、各凹部が、前記レーザ及び/又は集束粒子ビームの1つ以上のパルスによって形成され、各凹部の前記深さが、前記パルスのエネルギー、前記パルスの長さ、前記レーザ及び/又は集束粒子ビームのパルス数、のパラメータのうちの1つ又は組合せによって制御される、方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の方法において、前記複数の凹部同士の深さの差の最小値が、1nm以上であり、かつ/あるいは、前記複数の凹部同士の深さの差の最小値が、5μm以下である、方法。
【請求項9】
セラミック基板を用意する工程と、
前記セラミック基板を、当該セラミック基板の材料と異なる少なくとも1種の第2材料からなる第2材料層で被覆する工程と、
レーザおよび/または集束粒子ビームを用いて前記第2材料層の表面に複数のナノ構造を形成する工程であって、これにより、前記第2材料層に情報を符号化する、工程と、
を備え、前記複数のナノ構造が異なる光学的特性を有し、各光学的特性が所定の情報ビットに対応しており、
被覆された前記セラミック基板は、任意で、情報の符号化の前および/または後に、当該被覆されたセラミック基板の耐久性を向上させるテンパリング処理を施される、情報の保存方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法において、前記第2材料層が、相異なる第2材料による2層以上の副層からなる、方法。
【請求項11】
請求項9または10に記載の方法において、前記複数のナノ構造の前記異なる光学的特性が、ナノ周期構造の向き又は偏光、ナノ周期構造の周波数又は波長、ナノ周期構造の振幅のうちの1つ以上を含む、方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法において、前記複数のナノ周期構造が、少なくとも2種類の、異なる向き、偏光、周波数、波長または振幅を有し、各向き、偏光、周波数、波長または振幅が所定の情報ビットに対応している、方法。
【請求項13】
請求項9から12のいずれか一項に記載の方法において、前記セラミック基板が、酸化物セラミックスを含有しており、前記セラミック基板が、Al
2O
3、TiO
2、SiO
2、ZrO
2、ThO
2、MgO、Cr
2O
3、Zr
2O
3、V
2O
3、または他種の任意の酸化物セラミックス材料の、1種又は組合せを、90重量%以上含有している、方法。
【請求項14】
請求項9から13のいずれか一項に記載の方法において、前記セラミック基板が、非酸化物セラミックスを含有しており、前記セラミック基板が、金属窒化物、金属炭化物、金属ホウ化物、金属ケイ化物、または他種の任意の非酸化物セラミックス材料の、1種又は組合せを、90重量%以上含有している、方法。
【請求項15】
請求項9から14のいずれか一項に記載の方法において、前記セラミック基板が、Ni、Cr、Co、Fe、W、Mo、または融点が1,400℃を超える他種の金属の、1種又は組合せを含有している、方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法において、セラミックス材料と前記金属とが前記セラミック基板において、金属基複合材を形成している、方法。
【請求項17】
請求項15または16に記載の方法において、前記金属が、前記セラミック基板の5~30重量%になる、方法。
【請求項18】
請求項15から17のいずれか一項に記載の方法において、前記セラミック基板が、WC/Co-Ni-Moおよび/またはBN/Co-Ni-Moおよび/またはTiN/Co-Ni-Moおよび/またはSiC/Co-Ni-Moを含有している、方法。
【請求項19】
請求項9から18のいずれか一項に記載の方法において、前記第2材料が、金属、金属窒化物、金属炭化物、金属酸化物、金属ホウ化物、または金属ケイ化物を含有している、方法。
【請求項20】
請求項9から19のいずれか一項に記載の方法において、物理気相成長法、スパッタリング法、または化学気相成長法が、前記セラミック基板を前記第2材料層で被覆するのに用いられる、方法。
【請求項21】
請求項9から20のいずれか一項に記載の方法において、前記被覆されたセラミック基板へのテンパリング処理が、当該被覆されたセラミック基板を200℃~4,000℃の範囲内の温度に加熱することを含む、方法。
【請求項22】
請求項9から21のいずれか一項に記載の方法において、前記ナノ構造を形成する工程が、前記第2材料の融解温度および/または分解温度以上の温度に前記表面を局所的に加熱することを含む、方法。
【請求項23】
請求項9から22のいずれか一項に記載の方法において、前記ナノ構造を形成する工程が、前記被覆された基板の前記表面をフェムト秒レーザで処理することにより、クーロン爆発を発生させて材料のアブレーションにつなげることを含む、方法。
【請求項24】
請求項9から23のいずれか一項に記載の方法において、前記第2材料層は、その層厚が、5μm以下である、方法。
【請求項25】
請求項9から24のいずれか一項に記載の方法において、前記ナノ構造を形成する工程が、前記表面を局所的に加熱および/または分解および/または酸化および/またはアブレーションおよび/または気化させることを含む、方法。
【請求項26】
請求項9から25のいずれか一項に記載の方法において、前記被覆されたセラミック基板へのテンパリング処理が、当該セラミック基板と前記第2材料層との間に焼結界面を生成する、方法。
【請求項27】
請求項26に記載の方法において、前記焼結界面が、前記基板の材料と前記第2材料のそれぞれからの少なくとも1種の元素を含有している、方法。
【請求項28】
請求項9から27のいずれか一項に記載の方法において、前記被覆されたセラミック基板へのテンパリング処理を酸素雰囲気中で行うことにより、前記第2材料層の少なくとも最上部を酸化させる、方法。
【請求項29】
請求項9から28のいずれか一項に記載の方法において、前記レーザが、10nm~30μmの範囲内の波長のレーザ光を放射する、方法。
【請求項30】
請求項9から29のいずれか一項に記載の方法において、前記レーザ光または粒子ビームの最小焦点径が、50μm以下である、方法。
【請求項31】
請求項9から30のいずれか一項に記載の方法において、前記被覆されたセラミック基板が、面積1cm
2あたり1キロバイト以上の情報を含む、方法。
【請求項32】
少なくとも1種の第2材料からなる第2材料層で被覆されたセラミック基板と、前記セラミック基板と前記第2材料層との間の焼結界面と、を備える情報記憶媒体であって、前記第2材料は前記セラミック基板の材料と異なり、前記焼結界面は前記基板の材料と前記第2材料のそれぞれからの少なくとも1種の元素を含有しており、前記第2材料層は当該情報記憶媒体に情報を符号化する複数の凹部を有しており、当該複数の凹部は異なる深さを有し、各深さは所定の情報ビットに対応している、情報記憶媒体。
【請求項33】
請求項32に記載の情報記録媒体において、前記第2材料層は、相異なる第2材料による2層以上の副層からなり、該情報記録媒体は、少なくとも前記セラミック基板と前記2層以上の副層のうちの最下層との間に焼結界面を備え、前記焼結界面は前記基板の材料と前記最下層の材料のそれぞれからの少なくとも1種の元素を含有している、情報記憶媒体。
【請求項34】
請求項33に記載の情報記憶媒体において、前記2層以上の副層の各層厚が、1μm未満である、情報記憶媒体。
【請求項35】
請求項33または34に記載の情報記憶媒体において、前記2層以上の副層が、金属層および金属酸化物層を含み、前記金属層の金属元素と前記金属酸化物層の金属元素とが同一である、情報記憶媒体。
【請求項36】
請求項32から35のいずれか一項に記載の情報記憶媒体において、前記複数の凹部が、少なくとも2種類の異なる深さを有し、各深さが所定の情報ビットに対応している、情報記憶媒体。
【請求項37】
請求項32から36のいずれか一項に記載の情報記憶媒体において、前記複数の凹部同士の深さの差の最小値が、1nm以上であり、かつ/あるいは、前記複数の凹部同士の深さの差の最小値が、5μm以下である、情報記憶媒体。
【請求項38】
請求項32から37のいずれか一項に記載の情報記憶媒体において、前記複数の凹部が、少なくとも2種類の異なる深さを有し、各深さが所定の情報ビットに対応している、情報記憶媒体。
【請求項39】
請求項32から38いずれか一項に記載の情報記憶媒体において、前記複数の凹部同士の深さの差の最小値が、1nm以上である、情報記憶媒体。
【請求項40】
請求項32から39のいずれか一項に記載の情報記憶媒体において、前記複数の凹部同士の深さの差の最小値が、5μm以下である、情報記憶媒体。
【請求項41】
少なくとも1種の第2材料からなる第2材料層で被覆されたセラミック基板と、前記セラミック基板と前記第2材料層との間の焼結界面と、を備える情報記憶媒体であって、前記第2材料は前記セラミック基板の材料と異なり、前記焼結界面は前記基板の材料と前記第2材料のそれぞれからの少なくとも1種の元素を含有しており、前記第2材料層の表面は複数のナノ構造を有しており、当該複数のナノ構造が異なる光学的特性を有し、各光学的特性が所定の情報ビットに対応している、情報記憶媒体。
【請求項42】
請求項41に記載の情報記憶媒体において、前記第2材料層は、相異なる第2材料による2層以上の副層からなり、該情報記憶媒体は少なくとも前記セラミック基板と前記2層以上の副層のうちの最下層との間に焼結界面を備え、前記焼結界面は前記基板の材料と前記最下層の材料のそれぞれからの少なくとも1種の元素を含有している、情報記憶媒体。
【請求項43】
請求項41または42に記載の情報記憶媒体において、前記複数のナノ構造の前記異なる光学的特性が、ナノ周期構造の向き又は偏光、ナノ周期構造の周波数又は波長、ナノ周期構造の振幅のうちの1つ以上を含む、情報記憶媒体。
【請求項44】
請求項43に記載の情報記憶媒体において、前記複数のナノ周期構造が、少なくとも2種類の、異なる向きを有し、各向き、偏光、周波数、波長または振幅が所定の情報ビットに対応している、情報記憶媒体。
【請求項45】
請求項32から44のいずれか一項に記載の情報記憶媒体において、前記セラミック基板が、酸化物セラミックスを含有しており、前記セラミック基板が、Al
2O
3、TiO
2、SiO
2、ZrO
2、ThO
2、MgO、Cr
2O
3、Zr
2O
3、V
2O
3、または他種の任意の酸化物セラミックス材料の、1種又は組合せを、90重量%以上含有している、情報記憶媒体。
【請求項46】
請求項32から44のいずれか一項に記載の情報記憶媒体において、前記セラミック基板が、非酸化物セラミックスを含有しており、前記セラミック基板が、金属窒化物、金属炭化物、金属ホウ化物、金属ケイ化物、または他種の任意の非酸化物セラミックス材料の、1種又は組合せを、90重量%以上含有している、情報記憶媒体。
【請求項47】
請求項32から46のいずれか一項に記載の情報記憶媒体において、前記セラミック基板が、Ni、Cr、Co、Fe、W、Mo、または融点が1,400℃を超える他種の金属の、1種又は組合せを含有している、情報記憶媒体。
【請求項48】
請求項47に記載の情報記憶媒体において、セラミックス材料と前記金属とが、前記セラミック基板において、金属基複合材を形成している、情報記憶媒体。
【請求項49】
請求項47または48に記載の情報記憶媒体において、前記金属が、前記セラミック基板の5~30重量%になる、情報記憶媒体。
【請求項50】
請求項47から
49のいずれか一項に記載の情報記憶媒体において、前記セラミック基板が、WC/Co-Ni-Moおよび/またはBN/Co-Ni-Moおよび/またはTiN/Co-Ni-Moおよび/またはSiC/Co-Ni-Moを含有している、情報記憶媒体。
【請求項51】
請求項32から50のいずれか一項に記載の情報記憶媒体において、前記第2材料が、金属、金属窒化物、金属炭化物、金属酸化物、金属ホウ化物、または、金属ケイ化物を含有している、情報記憶媒体。
【請求項52】
請求項32から51のいずれか一項に記載の情報記憶媒体において、さらに、前記第2材料層の上に酸化物層、を備え、第2材料層上の該酸化物層が、前記第2材料層の最上部の材料の1種以上の酸化物を含有している、情報記憶媒体。
【請求項53】
請求項32から52のいずれか一項に記載の情報記憶媒体において、前記第2材料層は、その層厚が、10μm以下である、情報記憶媒体。
【請求項54】
請求項32から53のいずれか一項に記載の情報記憶媒体において、当該情報記憶媒体が、面積1cm
2あたり1キロバイト以上の情報を含む、情報記憶媒体。
【請求項55】
請求項32から54のいずれか一項に記載の情報記憶媒体において、前記セラミック基板、前記焼結界面、および、前記第2材料層は、その融解温度が、1,000℃超である、情報記憶媒体。
【請求項56】
請求項32から55のいずれか一項に記載の情報記憶媒体において、前記セラミック基板の融解温度は、前記第2材料層の融解温度以上である、情報記憶媒体。
【請求項57】
請求項32から56のいずれか一項に記載の情報記憶媒体の、情報の長期保存のための使用であって、好ましくは、前記情報記憶媒体が、10年以上の期間に亘って保管される、使用。
【請求項58】
請求項32から56のいずれか一項に記載の情報記憶媒体に符号化された情報を復号化する方法であって、
請求項32~56のいずれか一項に記載の、複数の凹部または複数のナノ構造を含む第2材料層を有する情報記憶媒体を用意する工程と、
前記複数の凹部のうちの少なくとも一部の凹部の深さ、または前記複数のナノ構造のうちの少なくとも一部のナノ構造の光学的特性を測定する工程と、
測定された前記深さまたは測定された前記光学的特性に対応する情報ビットを復号化する工程と、
を備える、方法。
【請求項59】
請求項58に記載の方法において、前記深さまたは前記光学的特性を測定する工程が、レーザビーム、および/または集束粒子ビームを用いて行われる、方法。
【請求項60】
請求項58に記載の方法において、前記深さを測定する工程が、干渉、反射、吸収、偏光解析法、周波数コム技術、蛍光顕微鏡法、光コヒーレンストモグラフィ、走査型電子顕微鏡法、デジタル顕微鏡法の、1つ又は組合せに基づいたものである、方法。
【請求項61】
請求項58に記載の方法において、前記光学的特性を測定する工程が、吸収、透過、反射、偏光、非コヒーレント光及び/又はレーザ光の干渉の、1つ又は組合せに基づいたものである、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報の長期保存方法および長期保存用情報記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、情報保存は多種多様な選択肢の中から選ぶことが可能である。デジタル時代の到来とともに、安価で効率的な情報保存システムが強く求められ、多くの新技術が登場している。しかし、情報保存の仕組みが増える一方、予期せぬ結果も一部生じた。今日の情報保存システムは、極めて脆弱で破損しやすい。ハードドライブや光ディスクなどの記憶媒体の寿命はたったの数年で、しかも、これは適切に保管・維持された場合のみである。紙やマイクロフィルムなどの古い技術でも、最良の状況下で数百年の寿命しかない。これらの情報保存技術はいずれも熱、水分、酸などに弱いため、簡単に劣化する可能性があり、情報の損失につながる。
【0003】
データ保存の需要が飛躍的に高まるのに対し、データ保存に用いる方法はますます破壊され易く且つ時間の経過の影響を受け易くなっている。しかしながら、数多の種類の情報は、世代を超えて確実に引き継がれいていくためにも、自然劣化から守られなければならない。例えば、太陽からの強力な電磁波などの自然災害が発生した場合、膨大な量のデータが破損したり破壊されたりする可能性がある。そのため、環境劣化に強く、情報の長期保存が可能な情報保存技術が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、情報の長期保存方法および媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的は、独立請求項の構成によって達成される。従属請求項は、好適な実施形態を指している。
【0006】
第1の態様において、本発明は、情報の保存方法に関する。同方法は:セラミック基板を用意する工程と;レーザおよび/または集束粒子ビームを用いて前記セラミック基板の表面に複数の凹部を形成する工程であって、これにより、前記セラミック基板に情報を符号化する、工程と;を備える。前記複数の凹部は異なる深さを有し、各深さは所定の情報ビットに対応している。
【0007】
第2の態様において、本発明は、情報の保存方法に関する。同方法は:セラミック基板を用意する工程と;前記セラミック基板を、当該セラミック基板の材料と異なる第2材料の層で被覆する工程と;任意で、被覆された前記セラミック基板にテンパリング処理を施す工程であって、これにより、書込み可能なプレート体を形成する、工程と;レーザおよび/または集束粒子ビームを用いて前記第2材料の表面に複数の凹部を形成する工程であって、これにより、前記第2材料に情報を符号化する、工程と;を備える。前記複数の凹部は異なる深さを有し、各深さは所定の情報ビットに対応している。
【0008】
前記被覆されたセラミック基板は、任意で、情報の符号化の前および/または後に、符号化された当該情報を含んでいる当該被覆されたセラミック基板の耐久性を向上させるテンパリング処理を施され得る。具体的に述べると、このようなテンパリング処理は、情報の超長期保存(例えば、1,000年を超える)の場合および/または高湿度や酸性環境などの極めて厳しい条件下での保存の場合に好ましい。一般的に、被覆後の基板に対し、テンパリング処理を施してから情報の符号化を行うという構成は、書込み可能なプレート体の形態である被覆済みの最終的な基板を顧客やエンドユーザに提供してしまえば、当該顧客やエンドユーザはそのプレート体に情報を刻み込むだけでよいので好ましい。しかし、材料の組合せおよび/または使用する刻込技術次第では、最初に複数の凹部を形成してから、符号化された情報を含んだ被覆済みセラミック基板にテンパリング処理を施すのが好ましい場合もある。テンパリング処理をこのように最後に施した場合、テンパリング処理前の前記第2材料はテンパリング処理後の前記第2材料ほど耐久性がないことから、例えば出力を抑えたレーザ源を使用する等して、前記凹部をより簡単に生成することが可能となる。
【0009】
後述する全ての態様及び実施形態に適用可能な別の変形例となるが、テンパリング処理は、情報の符号化の前および/または後の独立した方法の工程として実施されなくてもよい。むしろ、高温PVD(物理気相成長法)、CVD(化学気相成長法)、PECVD(プラズマ援用化学気相成長法)、ALD(原子層堆積法)などの特定の被膜技術を、被膜の最中にin situ(その場)でテンパリング処理が達成される十分な高温で実施するようにしてもよい。
【0010】
第3の態様において、本発明は、情報の保存方法に関する。同方法は:セラミック基板を用意する工程と;前記セラミック基板を、当該セラミック基板の材料と異なる、相異なる第2材料による2層以上の層で被覆する工程と;レーザおよび/または集束粒子ビームを用いて第2材料の前記層に複数の凹部を形成する工程であって、これにより、第2材料の前記層に情報を符号化する、工程と;を備える。前記複数の凹部は、異なる深さを有して前記2層以上の層のうちの相異なる層に延びており、各深さが所定の情報ビットに対応している。
【0011】
前記被覆されたセラミック基板は、任意で、情報の符号化の前および/または後に、符号化された当該情報を含んでいる当該被覆されたセラミック基板の耐久性を向上させるテンパリング処理を施され得る。具体的に述べると、このようなテンパリング処理は、情報の超長期保存(例えば、1,000年を超える)の場合および/または高湿度や酸性環境などの極めて厳しい条件下での保存の場合に好ましい。一般的に、被覆後の基板に対し、テンパリング処理を施してから情報の符号化を行うという構成は、書込み可能なプレート体の形態である被覆済みの最終的な基板を顧客やエンドユーザに提供してしまえば、当該顧客やエンドユーザはそのプレート体に情報を刻み込むだけでよいので好ましい。しかし、材料の組合せおよび/または使用する刻込技術次第では、最初に複数の凹部を形成してから、符号化された情報を含んだ被覆済みセラミック基板にテンパリング処理を施すのが好ましい場合もある。テンパリング処理をこのように最後に施した場合、テンパリング処理前の前記第2材料はテンパリング処理後の前記第2材料ほど頑強性がないことから、例えば出力を抑えたレーザ源を使用する等して、前記凹部をより簡単に生成することが可能となる。
【0012】
2層以上の層がある場合、例えば、前記セラミック基板を別の材料の第1層で被覆する等した後、部分的に被覆された当該基板にテンパリング処理を施してから、別の材料による1層以上のさらなる層を適用するのが好ましい場合もある。
【0013】
換言すると、第1~第3の態様の根底にある発明は、深さによる符号化(depth encoding)を、極めて耐久性が高く安定した基板および/または層状構造と組み合わせて利用するという思想に基づいたものである。様々な実験により、このような素材には、レーザおよび/または集束粒子ビームによって種々の所定の深さの凹部を反復形成することが可能であると判明した。これらの深さは、復号化工程で後から測定することも可能なので、被覆後の基板の表面のうちの、前記凹部の(前記基板の表面に平行な)断面積に相当する面積を有するある特定の箇所について、様々なビットを符号化させることが容易となり得る。例えば、第1深さd1はビット00を符号化でき、2×d1に相当する第2深さはビット01を符号化でき、3×d1に相当する第3深さはビット10を符号化でき、4×d1に相当する第4深さはビット11を符号化できる。当然ながら、5種類以上の深さを使って、同一箇所にさらに多くのビットを符号化させるようにしてもよい。符号化(encoding)および復号化(decoding)の安定化のためにも、続けざまの所定の深さ同士の差(本例では、d1に相当する)の最小値は、前記凹部の形成中に得られる標準偏差:深さd1よりもはるかに大きくなる、好ましくは5倍になる、より好ましくは10倍になる、のが好ましい。
【0014】
用いる深さや深さの違いが極めて小さくなる場合には、絶対的な位置(例えば、各凹部の底等)を利用対象とする(rely on)ことが難しくなり得る。これは、当該絶対的な位置が前記基板の厚さのばらつき及び/又は任意の他層の厚さのばらつきにも左右され得るからである。よって、ビット情報は、絶対的な深さではなく相対的な深さで符号化したほうが好ましい場合がある。例えば、各凹部を2種類の異なる深さ(基準深さと符号化深さ)による段差が付いたものとしてもよいし、基準深さを含む双子の凹部(twin recess)を各凹部に設けるようにしてもよい。その場合の前記ビットは、例えば、符号化深さと基準深さとの差分で符号化することが可能である。これにより、基板や任意の追加層の作製精度が低くなってもよくなると共に、製造コストを減らすことが可能になる。当然ながら、この原理は、2種類以上の符号化深さについて、同一の基準深さをその測定基準とするように拡張されてもよい。例えば、3×3や5×5行列の全ての凹部について、中央の1つの基準深さを基準とする(rely on)ようにしてもよい。
【0015】
前記基板は、情報を記憶するのに適した形状や寸法であれば、どのような形状や寸法のものであってもよい。例えば、前記基板は、長方形状や正方形状(quadratic)や円形状であってもよいし、多角形やその他の形状を有するものであってもよい。同寸法は、1cm2~1m2、好ましくは10cm2~1,000cm2、より好ましくは50cm2~250cm2の範囲内であり(vary between)得る。
【0016】
好ましくは、前記第2材料の前記層または相異なる第2材料による前記2層以上の層は、テンパリング処理中に前記セラミック基板と前記第2材料の当該層との間に強力な接合が達成されるように、前記セラミック基板上を直接、すなわち、間に層が存在することなく被覆する。しかしながら、テンパリング処理により、前記セラミック基板と前記第2材料の前記層または相異なる第2材料による前記2層以上の層のうちの最下層との間に、焼結界面が生じる場合がある。隣合う2層のうちの片方からの1種以上の元素が当該隣合う2層のうちの他方の層に拡散し得ることで、当該焼結界面は、前記基板の材料、および前記第2材料または相異なる第2材料の前記2層以上の層のうちの最下層の材料のそれぞれからの少なくとも1種の元素を含有するものとなり得る。前記焼結界面が存在することにより、前記セラミック基板と前記第2材料の前記層または相異なる第2材料による前記2層以上の層のうちの最下層との間の接合は、さらに強化され得る。相異なる第2材料による各種層の間にも、隣合う層のそれぞれからの少なくとも1種の元素をそれぞれ含有し得る、さらなる焼結層が存在している場合がある。
【0017】
好ましくは、第2材料の前記層または相異なる第2材料による前記2層以上の層が途切れなく続き、かつ、好ましくは、当該層が前記セラミック基板全体の大部分(例えば、80%以上、90%以上等)、より好ましくは全体にわたって延在している。好ましくは、前記第2材料または相異なる第2材料による前記2層以上の層は、前記セラミック基板の材料と異なり、すなわち、前記第2材料が前記セラミック基板の材料と異なる元素組成であり得るか、あるいは、前記第2材料と前記セラミック基板が微視的構造、例えば結晶化状態等の点で異なり得る。
【0018】
テンパリング処理とは、セラミックスや金属などの特定の材料に対し、その材料の根本的な物理的特性や化学的特性を変化させて耐久性を向上させるように実施され得る処理のことである。テンパリング処理は、前記第2材料または相異なる第2材料による前記2層以上の層のうちの最下層の材料が前記セラミック基板に恒久的に固着されるのを支援し得る。場合によっては、前記第2材料の層の一部または相異なる第2材料による前記2層以上の層のうちの最下層の一部が、例えば金属間結合(inter-metallic bonding)、セラミックス間結合(inter-ceramic bonding)等の化学結合を、その下にある前記セラミック基板との間で形成することもある。テンパリング処理は、基板と第2材料または相異なる第2材料による前記2層以上の層のうちの最下層の材料との間の付着性(adhesion)を向上させるだけでなく、第2材料の前記層の硬度または相異なる第2材料による前記2層以上の層のうちの最下層の硬度を5%以上、好ましくは10%以上向上させる場合がある。また、テンパリング処理により、前述したような焼結界面が形成され得る。相異なる第2材料による前記2層以上の層間でも、同様の効果が得られ得る:隣合う層間の付着性が向上し得るだけでなく、これらの各層の硬度が上昇し得る。テンパリング処理は、酸素有りでも酸素なしでも行われてよい。
【0019】
酸素を含む雰囲気中でテンパリング処理を行った場合、前記第2材料による1層以上の層のうちの酸素に曝された表面または最上副層(topmost sublayer)が、少なくとも部分的に酸化し得る。そのため、前記第2材料による前記1層以上の層のうちの頂部には、金属酸化物層が形成され得る。これにより、硬度及び/又は融点及び/又は腐食環境に対する耐性がさらに向上し得る。
【0020】
本明細書で説明するように、第2材料の層で被覆したセラミック基板を設けた書込み可能なプレート体とすることで、水分、電場/磁場、酸性、腐食性物質などに対して極めて高い耐性を示す情報保存が可能となり、同書込み可能なプレート体に符号化を行った際には、一般的に使用されている他種の情報記憶媒体では得られない耐久性がもたらされることになる。
【0021】
好ましくは、第3の態様における前記2層以上の層の各層厚は、1μm未満、好ましくは100nm未満、より好ましくは10nm未満である。
【0022】
好ましくは、前記2層以上の層は、互いに隣合う金属層と金属酸化物層とを含み、好ましくは、前記金属層の金属元素と前記金属酸化物層の金属元素とが同一である。金属層の表面と金属酸化物層の表面の深度差については、広帯域の白色光を照射すると広い電磁スペクトルの選択的反射が起こるし、ほかにも、狭帯域のレーザビームを照射すると反射率が高くなる(
図6と比較)ことから、干渉を利用すれば測定が極めて容易であることが判明した。しかも、金属層と金属酸化物層との間の界面を活用するというこのような方式は、それ以上の酸化をもたらす傾向を持たないので、層の安定性が高まって極めて有利である。よって、この特定の実施形態では、相異なる深さのうちの1つの深さを金属層の表面が露出する深さとし、相異なる深さのうちの別の深さを金属酸化物層の表面が露出する深さとすれば、これらの表面間の光学的な差異が復号化時に活用されて(benefit from)好ましい。
【0023】
また、これらの材料を組み合わせることによる色彩効果も可能である。典型的に、可視スペクトルのうちの種々の部分が金属や同金属に対応する酸化物によって反射及び/又は吸収されることから、被覆された前記基板の表面の見かけ上の色は、各凹部の深さで変えることができる(depends on)。よって、様々な金属/金属酸化物の組合せを用いることにより、凹部の様々な深さを利用して、多くの相異なる色を符号化することが可能になる。これにより、多色性のセラミックス製マイクロフィルムが製造され得る。しかも、この場合の復号化は、前記プレート体に白色光を照射して色応答を測定するだけでよいので極めて簡単である。当然ながら、(黒色、灰色と白色の陰等の同じ一つの色応答に相当する)同じ一つの材料層の中で、色による情報の符号化アプローチと深さによる追加情報の符号化アプローチという、相異なるアプローチが組み合わされてもよい。
【0024】
当然ながら、上記以外の材料の組合せの場合にも、各種層の異なる材料による光学的特性が復号化時に利用されてよい。例えば、n種類の異なる材料によるn個の層を用いて、これらn個の各層1つ1つにn種類の相異なる深さを割り当てることにより、log2(n)個のビットの情報を符号化することが可能となり得る。復号化の際には、実際の深さを測定するのではなく、材料の光学的応答を測定することによって、深さが求められ得る。
【0025】
好ましくは、前記複数の凹部は、少なくとも2種類、好ましくは少なくとも3種類、より好ましくは少なくとも4種類、さらに好ましくは少なくとも5種類、さらに好ましくは少なくとも6種類、さらに好ましくは少なくとも7種類、さらに好ましくは少なくとも8種類、さらに好ましくは少なくとも16種類、最も好ましくは少なくとも32種類の異なる深さを有し、各深さが所定の情報ビットに対応している。
【0026】
好ましくは、各凹部が、前記レーザ及び/又は集束粒子ビームの1つ以上のパルスによって形成され、各凹部の前記深さが、前記パルスのエネルギー、前記パルスの長さ、前記レーザ及び/又は集束粒子ビームのパルス数、のパラメータのうちの1つ又は組合せによって制御される。
【0027】
好ましくは、前記複数の凹部同士の深さの差の最小値が、1nm以上、より好ましくは10nm以上、より好ましくは30nm以上、より好ましくは50nm以上、さらに好ましくは70nm以上、最も好ましくは100nm以上である。好ましくは、前記複数の凹部同士の深さの差の最小値が、5μm以下、より好ましくは1μm以下、より好ましくは500nm以下、より好ましくは300nm以下、さらに好ましくは200nm以下、最も好ましくは100nm以下である。
【0028】
好ましくは、各凹部の断面積は、100μm2未満、好ましくは1μm2未満、より好ましくは100nm2未満、さらに好ましくは10nm2未満である。
【0029】
第4の態様において、本発明は、情報の保存方法に関する。同方法は:セラミック基板を用意する工程と;前記セラミック基板を、当該セラミック基板の材料と異なる第2材料の層で被覆する工程と;レーザおよび/または集束粒子ビームを用いて前記第2材料の表面に複数のナノ構造を形成する工程であって、これにより、前記第2材料に情報を符号化する、工程と;を備える。前記複数のナノ構造は異なる光学的特性を有し、各光学的特性は所定の情報ビットに対応している。
【0030】
ここでも、被覆された前記セラミック基板は、任意で、情報の符号化の前および/または後に、符号化された当該情報を含んでいる当該被覆されたセラミック基板の耐久性を向上させるテンパリング処理を施され得る。
【0031】
換言すると、この第4の態様の根底にある発明は、表面の改変による符号化(surface modification encoding)を、極めて耐久性が高く安定した基板および/または層状構造と組み合わせて利用するという思想に基づいたものである。様々な実験により、レーザおよび/または集束粒子ビームを用いて、様々な光学的特性を具備した、ナノ周期構造(nanoripples)などのナノ構造を反復形成することが可能であると判明した。これらの光学的特性は、復号化工程で後から測定することも可能なので、被覆後の基板の表面のうちの或る特定の箇所について、様々なビットを符号化させることが容易となり得る。例えば、第1向き(orientation)のナノ周期構造はビット00を符号化でき、第2向きのナノ周期構造はビット01を符号化でき、第3向きのナノ周期構造はビット10を符号化でき、第4向きのナノ周期構造はビット11を符号化できる。当然ながら、5種類以上の向きのナノ周期構造を使って、同一箇所にさらに多くのビットを符号化させるようにしてもよい。
【0032】
好ましくは、前記複数のナノ構造の前記異なる光学的特性が、ナノ周期構造の向き又は偏光、ナノ周期構造の周波数又は波長、ナノ周期構造の振幅のうちの1つ以上を含む。好ましくは、前記複数のナノ周期構造は、少なくとも2種類、好ましくは少なくとも3種類、より好ましくは少なくとも4種類、さらに好ましくは少なくとも5種類、さらに好ましくは少なくとも6種類、さらに好ましくは少なくとも7種類、さらに好ましくは少なくとも8種類、さらに好ましくは少なくとも16種類、最も好ましくは少なくとも32種類の、異なる向き、偏光、周波数、波長または振幅を有し、各向き、偏光、周波数、波長または振幅が所定の情報ビットに対応している。
【0033】
後述する好適な各構成は、特記しない限り、先述した4種類のどの態様にも適用されることが可能である。
【0034】
好ましくは、情報保存の前記方法における前記セラミック基板は、酸化物セラミックスを含有しており、より好ましくは、前記セラミック基板が、Al2O3、TiO2、SiO2、ZrO2、ThO2、MgO、Cr2O3、Zr2O3、V2O3、または他種の任意の酸化物セラミックス材料の、1種又は組合せを、90重量%以上、最も好ましくは95重量%以上含有している。これらの材料は、様々な状況下で極めて耐久性があり、かつ/あるいは、環境劣化に強いことが知られている。したがって、これらの材料は、様々な条件下での長期保存に極めて適している。極めて好ましくは、前記セラミック基板は、Al2O3及び/又はZrO2及び/又はThO2及び/又はSiO2及び/又はMgOの、1種又は組合せを含有している。好ましくは、本発明における「セラミックス材料」という用語は、非晶質相と1つ以上の結晶相とを含む結晶化ガラスを包含する。また、上記のセラミックス材料は、多結晶体または単結晶体の形態で存在していてもよい。例えば、単結晶の酸化アルミニウム(すなわち、サファイア)は、極めて高い融点と極めて高いモース硬度を有することから、耐久性の観点から基板の材料として極めて適している。
【0035】
好ましくは、前記セラミック基板は、非酸化物セラミックスを含有しており、より好ましくは、前記セラミック基板が、CrN、CrAlN、TiN、TiCN、TiAlN、ZrN、AlN、VN、Si3N4、ThN、HfN、BNなどの金属窒化物、TiC、CrC、Al4C3、VC、ZrC、HfC、ThC、B4C、SiCなどの金属炭化物、TiB2、ZrB2、CrB2、VB2、SiB6、ThB2、HfB2、WB2、WB4などの金属ホウ化物、TiSi2、ZrSi2、MoSi2、MoSi、WSi2、PtSi、Mg2Siなどの金属ケイ化物、または他種の任意の非酸化物セラミックス材料の、1種又は組合せを、90重量%以上、最も好ましくは95重量%以上含有している。これらの材料は、様々な状況下で極めて耐久性があり、かつ/あるいは、環境劣化に強いことが知られている。したがって、これらの材料は、様々な条件下での長期保存に極めて適している。極めて好ましくは、前記セラミック基板は、BN及び/又はCrSi2及び/又はSiC及び/又はSiB6の、1種又は組合せを含有している。
【0036】
好ましくは、前記セラミック基板は、Ni、Cr、Co、Fe、W、Mo、または融点が1,400℃を超える他種の金属の、1種又は組合せを含有している。好ましくは、前記セラミックス材料と前記金属とは、当該セラミックス材料が当該金属又は金属合金中に分散した金属基複合材を形成している。好ましくは、前記金属は、前記セラミック基板、すなわち、前記金属基複合材の5~30重量%、好ましくは10~20重量%になる。極めて好ましい金属基複合材は、WC/Co-Ni-Moおよび/またはBN/Co-Ni-Moおよび/またはTiN/Co-Ni-Moおよび/またはSiC/Co-Ni-Moである。
【0037】
好ましくは、前記第2材料は、Cr、Co、Ni、Fe、Al、Ti、Si、W、Zr、Ta、Th、Nb、Mn、Mg、Hf、Mo、Vなどの金属;CrN、CrAlN、TiN、TiCN、TiAlN、ZrN、AlN、VN、Si3N4、ThN、HfN、BNなどの金属窒化物、TiC、CrC、Al4C3、VC、ZrC、HfC、ThC、B4C、SiCなどの金属炭化物、Al2O3、TiO2、SiO2、ZrO2、ThO2、MgO、Cr2O3、Zr2O3、V2O3などの金属酸化物、TiB2、ZrB2、CrB2、VB2、SiB6、ThB2、HfB2、WB2、WB4などの金属ホウ化物、TiSi2、ZrSi2、MoSi2、MoSi、WSi2、PtSi、Mg2Siなどの金属ケイ化物といったセラミックス材料、または他種の任意のセラミックス材料の、少なくとも1種を含有しており、好ましくは、前記第2材料が、CrNおよび/またはCr2O3および/またはCrAlNを含有している。これらの材料は、十分な硬度と環境劣化への耐性をもたらす。また、同材料は、その下にある前記セラミック基板との十分な視覚的コントラストをもたらすことができる。さらに、同材料は、例えばPVD(物理気相成長法)、スパッタリング法、CVD(化学気相成長法)、PECVD(プラズマ援用化学気相成長法)、ALD(原子層堆積法)等で被覆を行った際に、前述の基板に強く接合されることが実験で立証されている。また、酸素有り又は酸素なしのテンパリング処理を追加で施すことにより、このような接合の強度をさらに向上させることができる。これにより、被覆層と前記基板との間の接続が、耐久性のある恒久的な接続となり得る。極めて好ましくは、前記第2材料は、Coおよび/またはNiおよび/またはB4Cおよび/またはHfCおよび/またはCr2O3および/またはZrB2および/またはCrB2および/またはSiB6および/またはSi3N4および/またはThNおよび/またはCrNおよび/またはCr2O3および/またはCrAlNの、1種又は組合せを含有している。
【0038】
本発明の文脈では、様々な材料特性が重要な役割を果たし得る。一つには、前記基板nと被覆層の両方の材料が、十分な耐久性、安定性および耐性を有するものでなければならない。また、被覆層と前記基板の材料との間の接合または接続が強力なものでなければならない。これらの制約をすべて考慮すると、次のような材料の組合せ:Al2O3/CrN、SiO2/Cr、SiO2/CrN、Al2O3/Co、ZrO2/ZrB2、Al2O3/SiC、SiB6/Cr2O3、SiC/HfC、BN/ZrB2、BN/ZrB2、BN/B4C、BN/ThNおよびCrSi2/Si3N4が極めて好ましい。
【0039】
一般的には、前記セラミック基板を前記第2材料の前記層または相異なる第2材料による前記2層以上の層で被覆するのに、薄い被膜を得るのに適したあらゆる技術、例えば、物理気相成長法、スパッタリング法、化学気相成長法、他種の任意の薄膜被覆方法等が用いられてよい。好ましくは、前記セラミック基板を前記第2材料の前記層または相異なる第2材料による前記2層以上の層で被覆するのに、物理気相成長法が用いられる。これにより、特に、前記基板を途切れなく、符号化された情報と誤認される可能性のある欠陥を生じずに被膜させて、極めて薄い被覆層を確実に付与することが可能となる。上記の材料の一部では、PVDを用いることが難しい場合がある。そのため、物理気相成長法の際には、前記セラミック基板が、前記第2材料もしくは相異なる第2材料による前記2層以上の層の材料の材料源と導電性プレート及び/又はワイヤ格子との間に位置しているのが好ましい。前記セラミック基板の背後にプレートや格子を配置することにより、第2材料の蒸気は、(非導電性の)当該セラミック基板に付着するように導かれることになる。
【0040】
好ましくは、第2材料の前記層または相異なる第2材料による前記2層以上の層は、その層厚が、10μm以下、より好ましくは5μm以下、さらに好ましくは1μm以下、さらに好ましくは100nm以下、さらに好ましくは10nm以下である。
【0041】
前記第2材料の層を薄い層とすることにより、前記レーザや粒子ビームで、前記第2材料の局所的な領域がより迅速かつ効果的に除去され得る。しかも、第2材料の層が薄ければ薄いほど、遥かに小さい局所的な領域への改変作業がより高精度なものとなり得る。これにより、同じ面積あたりの情報量が向上し得る。
【0042】
好ましくは、前記被覆されたセラミック基板へのテンパリング処理は、当該被覆されたセラミック基板を200℃~4,000℃の範囲内、より好ましくは1,000℃~2,000℃の範囲内の温度に加熱することを含む。テンパリング処理を施す同工程は、1時間あたり10K以上の温度上昇を伴う加熱段階と、ピーク温度による1分間以上のプラトー段階と、最後に1時間あたり10K以上の温度低下を伴う冷却段階とを有し得る。同テンパリング処理により、前記セラミック基板の硬化および/または前記セラミック基板との前記第2材料の恒久的な接合が支援され得る。
【0043】
好ましくは、書込み/符号化処理として、前記被覆された基板の局所的な領域が、前記第2材料の融解温度および/または分解温度以上に加熱され、つまり、第2材料による当該局所的な領域が、3,000℃以上、さらに好ましくは3,200℃以上、最も好ましくは3,500℃以上、最も好ましくは4,000℃以上の温度に加熱される。例えば、CrNは約1,500℃の温度でCr(固体)とN(気体)に分解するが、Crの融解温度は約1,900℃にならないと到達しない。もっとも、Cr(銀色)とCrN(灰色状)は目に見えて異なる。変形例として、前記被覆された基板の前記表面を、例えばフェムト秒レーザ等で処理することにより、低温のいわゆるクーロン爆発を招いて材料のアブレーションにつなげるようにしてもよい。
【0044】
好ましくは、前記レーザは、10nm~30μmの範囲内、好ましくは100nm~2,000nmの範囲内、より好ましくは200nm~1,500nmの範囲内の波長のレーザ光を生成するように構成されている。
【0045】
好ましくは、前記レーザから放射されるレーザ光の最小焦点径は、50μm以下、より好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下、より好ましくは1μm以下、より好ましくは500nm以下、より好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下、より好ましくは10nm以下である。焦点径を小さくすることにより、書込み可能なプレート体に符号化される情報の密度をより高密度にすることが可能になる。
【0046】
好ましくは、超短パルスレーザ(ピコ秒、フェムト秒またはアト秒のパルス)が、情報を符号化するのに用いられる。これにより、10μm以下の最小焦点径、および5μm以下、より好ましくは1μm以下、より好ましくは500nm以下、より好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下、より好ましくは10nm以下の幅の構造を実現することができる。
【0047】
好ましくは、前記レーザのビームは、例えばガルバノメトリックスキャナ、ポリゴンスキャナ、デジタルマイクロミラー素子、空間光変調器等の適切な走査技術で前記被覆された基板の表面上の所定の箇所に照射される(directed)ことにより、そのような所定の箇所にビットを符号化させる。さらに、適切な光学系が関与していてもよい。例えば、前記レーザのビームを顕微鏡の対物レンズを通して導くことにより、位置決めが高精度なものとなり得る。この際には、油、水、および高屈折率のその他の流体を用いて、同光学系を浸漬させるようにしてもよい。
【0048】
好ましくは、集束粒子ビーム機器から放射される粒子ビームの最小焦点径は、5μm以下、より好ましくは1μm以下、より好ましくは100nm以下、より好ましくは10nm以下である。焦点径を極小にすることにより、書込み可能なプレート体に符号化される情報の密度をより超高密度にすることが可能になる。
【0049】
好ましくは、前記方法は、さらに、前記書込み可能なプレート体に符号化された情報を読み取る工程、より好ましくは、デジタルスキャナ、デジタル顕微鏡、レーザ走査型顕微鏡、光コヒーレンストモグラフィまたは走査型電子顕微鏡を用いて読み取る工程、を備える。
【0050】
好ましくは、前記被覆された基板は、面積1cm2あたり1メガバイト以上の情報、より好ましくは1cm2あたり10メガバイト以上の情報、さらに好ましくは1cm2あたり100メガバイト以上の情報、さらに好ましくは1cm2あたり1ギガバイト以上の情報、さらに好ましくは1cm2あたり10ギガバイト以上の情報を含む。情報記憶密度が高ければ高いほど、大量の情報を保存することが可能となる。
【0051】
第5の態様において、本発明は、情報記憶媒体に関する。同情報記憶媒体は、セラミック基板を備え、当該セラミック基板の表面が、同情報記憶媒体に情報を符号化する複数の凹部を有しており、当該複数の凹部が異なる深さを有し、各深さは所定の情報ビットに対応している。
【0052】
第6の態様において、本発明は、情報記憶媒体に関する。同情報記憶媒体は、第2材料の層で被覆されたセラミック基板と、前記セラミック基板と前記第2材料の前記層との間の焼結界面と、を備え、前記第2材料は前記セラミック基板の材料と異なり、前記焼結界面は前記基板の材料と前記第2材料のそれぞれからの少なくとも1種の元素を含有しており、前記第2材料の前記層は同情報記憶媒体に情報を符号化する複数の凹部を有しており、当該複数の凹部は異なる深さを有し、各深さは所定の情報ビットに対応している。
【0053】
第7の態様において、本発明は、情報記憶媒体に関する。同情報記憶媒体は、相異なる第2材料による2層以上の層で被覆されたセラミック基板と、少なくとも前記セラミック基板と前記2層以上の層のうちの最下層との間の焼結界面と、を備え、前記第2材料は前記セラミック基板の材料と異なり、前記焼結界面は前記基板の材料と前記最下層の材料のそれぞれからの少なくとも1種の元素を含有しており、同情報記憶媒体は、さらに、同情報記憶媒体に情報を符号化する複数の凹部、を備え、当該複数の凹部は異なる深さを有し、各深さは所定の情報ビットに対応している。
【0054】
好ましくは、前記2層以上の層の各層厚は、1μm未満、好ましくは100nm未満、より好ましくは10nm未満である。
【0055】
好ましくは、前記2層以上の層は、金属層と金属酸化物層とを含み、好ましくは、前記金属層の金属元素と前記金属酸化物層の金属元素とが同一である。
【0056】
好ましくは、前記複数の凹部は、少なくとも2種類、好ましくは少なくとも3種類、より好ましくは少なくとも4種類、より好ましくは少なくとも5種類、さらに好ましくは少なくとも6種類、より好ましくは少なくとも7種類、さらに好ましくは少なくとも8種類、さらに好ましくは少なくとも16種類、最も好ましくは少なくとも32種類の異なる深さを有し、各深さが所定の情報ビットに対応している。
【0057】
好ましくは、前記複数の凹部同士の深さの差の最小値が、1nm以上、より好ましくは10nm以上、より好ましくは30nm以上、より好ましくは50nm以上、さらに好ましくは70nm以上、最も好ましくは100nm以上である。好ましくは、前記複数の凹部同士の深さの差の最小値が、5μm以下、より好ましくは1μm以下、より好ましくは500nm以下、より好ましくは300nm以下、さらに好ましくは200nm以下、最も好ましくは100nm以下である。
【0058】
第8の態様において、本発明は、情報記憶媒体に関する。同情報記憶媒体は、第2材料の層で被覆されたセラミック基板と、前記セラミック基板と前記第2材料の前記層との間の焼結界面と、を備え、前記第2材料は前記セラミック基板の材料と異なり、前記焼結界面は前記基板の材料と前記第2材料のそれぞれからの少なくとも1種の元素を含有しており、前記第2材料の前記層の表面は複数のナノ構造を有しており、当該複数のナノ構造が異なる光学的特性を有し、各光学的特性が所定の情報ビットに対応している。
【0059】
好ましくは、前記複数のナノ構造の前記異なる光学的特性は、ナノ周期構造の向き又は偏光、ナノ周期構造の周波数又は波長、ナノ周期構造の振幅のうちの1つ以上を含む。好ましくは、前記複数のナノ周期構造は、少なくとも2種類、好ましくは少なくとも3種類、より好ましくは少なくとも4種類、より好ましくは少なくとも5種類、より好ましくは少なくとも6種類、より好ましくは少なくとも7種類、さらに好ましくは少なくとも8種類、より好ましくは少なくとも16種類、最も好ましくは少なくとも32種類の、異なる向き、偏光、周波数、波長または振幅を有し、各向き、偏光、周波数、波長または振幅が所定の情報ビットに対応している。
【0060】
後述する好適な各構成は、特記しない限り、先述した第5~第8のどの態様にも適用されることが可能である。
【0061】
好ましくは、前記情報記憶媒体の前記セラミック基板は、酸化物セラミックスを含有しており、より好ましくは、前記セラミック基板が、Al2O3、TiO2、SiO2、ZrO2、ThO2、MgO、Cr2O3、Zr2O3、V2O3、または他種の任意の酸化物セラミックス材料の、1種又は組合せを、90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上含有している。
【0062】
好ましくは、前記情報記憶媒体の前記セラミック基板は、非酸化物セラミックスを含有しており、より好ましくは、前記セラミック基板が、CrN、CrAlN、TiN、TiCN、TiAlN、ZrN、AlN、VN、Si3N4、ThN、HfN、BNなどの金属窒化物、TiC、CrC、Al4C3、VC、ZrC、HfC、ThC、B4C、SiCなどの金属炭化物、TiB2、ZrB2、CrB2、VB2、SiB6、ThB2、HfB2、WB2、WB4などの金属ホウ化物、TiSi2、ZrSi2、MoSi2、MoSi、WSi2、PtSi、Mg2Siなどの金属ケイ化物、または他種の任意の非酸化物セラミックス材料の、1種又は組合せを、90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上含有している。
【0063】
極めて好ましくは、前記セラミック基板は、BN及び/又はCrSi2及び/又はSiC及び/又はSiB6の、1種又は組合せを含有している。
【0064】
好ましくは、前記セラミック基板は、Ni、Cr、Co、Fe、W、Mo、または融点が1,400℃を超える他種の金属の、1種又は組合せを含有している。好ましくは、前記セラミックス材料と前記金属とは、当該セラミックス材料が当該金属又は金属合金中に分散した金属基複合材を形成している。好ましくは、前記金属は、前記セラミック基板、すなわち、前記金属基複合材の5~30重量%、好ましくは10~20重量%になる。極めて好ましい金属基複合材は、WC/Co-Ni-Moおよび/またはBN/Co-Ni-Moおよび/またはTiN/Co-Ni-Moおよび/またはSiC/Co-Ni-Moである。
【0065】
好ましくは、前記情報記憶媒体の前記第2材料は、Cr、Co、Ni、Fe、Al、Ti、Si、W、Zr、Ta、Th、Nb、Mn、Mg、Hf、Mo、Vなどの金属、CrN、CrAlN、TiN、TiCN、TiAlN、ZrN、AlN、VN、Si3N4、ThN、HfN、BNなどの金属窒化物、TiC、CrC、Al4C3、VC、ZrC、HfC、ThC、B4C、SiCなどの金属炭化物、Al2O3、TiO2、SiO2、ZrO2、ThO2、MgO、Cr2O3、Zr2O3、V2O3などの金属酸化物、TiB2、ZrB2、CrB2、VB2、SiB6、ThB2、HfB2、WB2、WB4などの金属ホウ化物、TiSi2、ZrSi2、MoSi2、MoSi、WSi2、PtSi、Mg2Siなどの金属ケイ化物、または他種の任意のセラミックス材料の、少なくとも1種を含有しており、好ましくは、前記第2材料が、CrNおよび/またはCr2O3および/またはCrAlNを含有している。
【0066】
好ましくは、第2材料の前記層は、その層厚が、10μm以下、より好ましくは5μm以下、さらに好ましくは1μm以下、さらに好ましくは100nm以下、さらに好ましくは10nm以下である。
【0067】
好ましくは、前記被覆された基板は、面積1cm2あたり1キロバイト以上の情報、より好ましくは1cm2あたり10キロバイト以上の情報、さらに好ましくは1cm2あたり100キロバイト以上の情報、さらに好ましくは1cm2あたり1メガバイト以上の情報、さらに好ましくは1cm2あたり10メガバイト以上の情報、さらに好ましくは1cm2あたり100メガバイト以上の情報、さらに好ましくは1cm2あたり1ギガバイト以上の情報、さらに好ましくは1cm2あたり10ギガバイト以上の情報を含む。前記被覆された基板上の情報密度が高くなることにより、プレート体毎に記憶される情報を増やすことが出来ると共に、生産コストを下げることが可能になる。
【0068】
好ましくは、前記セラミック基板は、タブレットの形状またはコンピュータ読取り可能なディスクの形状をしている。タブレットの形状またはコンピュータ読取り可能ディスクの形状にすることにより、コンピュータやデジタルスキャナが符号化された前記情報を容易に読み取ることが出来るだけでなく、既存の走査システムとの互換性も可能になり得る。
【0069】
本発明は、さらに、前記情報記憶媒体の、情報の長期保存のための使用に関する。
【0070】
好ましくは、使用時の前記情報記憶媒体は、10年以上、より好ましくは100年以上、より好ましくは1,000年以上、より好ましくは1万年以上、さらに好ましくは10万年以上の期間に亘って保管される。
【0071】
本発明は、さらに、前述の情報記憶媒体に符号化された情報を復号化する方法に関する。同方法は:前述の情報記憶媒体を用意する工程と;前記複数の凹部のうちの少なくとも一部の凹部の前記深さ、または前記複数のナノ構造のうちの少なくとも一部のナノ構造の前記光学的特性を測定する工程と;測定された前記深さまたは測定された前記光学的特性に対応する前記情報ビットを復号化する工程と;を備える。
【0072】
好ましくは、前記深さまたは前記光学的特性を測定する工程が、レーザビーム、および/または電子ビームなどの集束粒子ビームを用いて行われる。
【0073】
好ましくは、前記深さを測定する工程は、干渉、反射、吸収、偏光解析法、周波数コム技術、STED、STORMなどの蛍光顕微鏡法、光コヒーレンストモグラフィ、走査型電子顕微鏡法、(反射光又は透過光を用いた)デジタル(浸漬)顕微鏡法の、1つ又は組合せに基づいたものである。
【0074】
好ましくは、前記光学的特性を測定する工程は、吸収、透過、反射、偏光、非コヒーレント光及び/又はレーザ光の干渉の、1つ又は組合せに基づいたものである。
【0075】
なお、これまでに述べた方法のほとんどは、レーザや粒子ビームを用いた材料の直接的アブレーションを利用した(rely on)ものであるが、被覆物に種々の深さの凹部を形成する方法としては、別のものも知られており、これまでに述べた直接的アブレーション手法の代わりに利用するようにしてもよい。例えば、前記被覆された基板をフォトレジストの追加層で被覆するようにしてもよく、これに光やその他の照射線を照射することで、特定のパターンが生成され得る。露光済みの同フォトレジストを現像した後、同フォトレジストと共に前記被覆された基板をエッチングすることにより、前記基板のうちの現像済みフォトレジストが存在しない場所の材料、例えば、前記第2材料の前記層の材料がアブレーション(除去)され得る。これにより、凹部のパターンが形成される。異なる深さの凹部を形成するには、この工程を複数回反復させる必要があり、ある特定の場所に対するエッチングは、同場所での当該凹部の深さに対応したエッチング回数で行われる。このようなエッチング工程に用いる適切な技術は当技術分野で知られており、例えば、Handbook of Semiconductor Manufacturing Technology, Second Edition, edited by Robert Doering and Yoshio Nishi, CRC Press等に記載されている。例えば、クロムは、硝酸第二セリウムアンモニウムと過塩素酸や酢酸や硝酸や塩酸などの(that include)所定の酸とでウェットエッチングされ得る。
【0076】
以下では、本発明の主題について、添付の図面に示した例示的な好ましい実施形態を参照しながら詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【
図1】本発明の好ましい一実施形態における、情報記憶媒体の概略断面図である。
【
図2】物理気相成長法によるセラミック基板の被覆工程の一例を示す概略図である。
【
図3】書込み可能なプレート体に情報をレーザで符号化する一例を示す概略斜視図である。
【
図4】本発明の好ましい一実施形態における、情報記憶媒体の概略断面図である。
【
図5】金属/金属酸化物層系の場合の干渉の原理を模式的に示した図である。
【
図6】金属/金属酸化物層系の場合の反射率-対-波長を示したグラフである。
【
図7】本発明の好ましい一実施形態における、情報記憶媒体の概略断面図である。
【
図8】(a)は符号化の一例(a)を示す、ある倍率での顕微鏡写真であり、(b)は符号化の同例を示す、別の倍率での顕微鏡写真であり、(c)は(b)の顕微鏡写真の断面を3次元視覚化したものであり、(d)は(a)の顕微鏡写真の断面高さプロファイルを示す図である。
【
図9】(a)は符号化の一例を示す、ある倍率での顕微鏡写真であり、(b)は符号化の同例を示す、別の倍率での顕微鏡写真である。
【
図10】符号化の一例から撮影したSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0078】
原則として、図面では、同一の部分に同一の参照符号を付している。
【0079】
図1は、本発明の好ましい一実施形態における、情報の長期保存に適した情報記憶媒体の概略断面図である。同情報記憶媒体は、第2材料170の層で被覆されたセラミック基板150を備える。第2材料170は、セラミック基板150の材料と異なる。前述したように、セラミック基板150と第2材料170の層との間には、任意のテンパリング処理による焼結界面(図示せず)が存在し得る。第2材料170の層は、異なる深さを有する複数の凹部10(同図には4つ例示されている)を含み、各深さは、所定の情報ビットに対応している。
図1に示す実施形態では、4ビットの情報が符号化され得る。例えば、凹部10のうちの最も小さい深さ(変形例として、凹部のない表面)が、符号「0000」に相当し得る。例えば、凹部10のうちの、第2層170から基板150に至るまで延びる最も大きい深さは、符号「1111」に相当し得る。同じく、それらの間の各深さも、特定の予め定められた情報ビットに対応している。
図1では、続けざまの符号同士の深さの差が一定に描かれているが、これは必ずしもそうである必要はない。
【0080】
当然ながら、
図1に示す4ビット符号は一つの具体例に過ぎない。第2層170の層厚および各種凹部10同士の深さの差を、符号化用に確実に作製し且つ復号化用に確実に測定することができる限り、符号化するビットが増えても減ってもよい。
【0081】
このような情報記憶媒体を製造する目的で、本明細書では、情報の記憶方法について触れる。初めに、セラミック基板150が用意される。次に、セラミック基板150は、
図2で概略的に示すように、第2材料170の層で被覆される。好ましくは、第2材料170の層の層厚が、50μm以下である。セラミック基板150と第2材料170の層とを備えた書込み可能なプレート体110は、そのまま使用時まで保管されてもよいし、次に例えばレーザ、集束粒子ビーム190等を使った情報120の符号化が行われてもよい。レーザ又は集束粒子ビーム190は、第2材料170の層に照射される(directed toward)ことで、例えば、第2材料170のうちの、当該レーザ又は集束粒子ビームの焦点内に入った局所的な領域が加熱されることにより、当該局所的な領域に凹部が形成される。以下では、この方法についてさらに詳しく説明する。
【0082】
初めに用意されるセラミック基板150は、書込み可能なプレート体110の材料の大部分の重量を構成し得る。セラミック基板150には、複数の相異なる材料が使用されていてもよい。一部の構成では、セラミック基板150が、Al2O3、TiO2、SiO2、ZrO2、ThO2、MgO、Cr2O3、Zr2O3、V2O3または他種の任意の酸化物セラミックス材料の、少なくとも1種を含む酸化物セラミックスを含有している。変形例として、前記セラミック基板は、CrN、CrAlN、TiN、TiCN、TiAlN、ZrN、AlN、VN、Si3N4、ThN、HfN、BNなどの金属窒化物、TiC、CrC、Al4C3、VC、ZrC、HfC、ThC、B4C、SiCなどの金属炭化物、TiB2、ZrB2、CrB2、VB2、SiB6、ThB2、HfB2、WB2、WB4などの金属ホウ化物、TiSi2、ZrSi2、MoSi2、MoSi、WSi2、PtSi、Mg2Siなどの金属ケイ化物、または他種の任意の非酸化物セラミックスス材料の、少なくとも1種を含む非酸化物セラミックスを含有していてもよい。酸化物または非酸化物セラミックススの配合量は、様々なものであってよい。好ましくは、酸化物または非酸化物セラミックスの量は、セラミック基板150の90重量%以上を構成する。より好ましくは、酸化物または非酸化物セラミックス基材の量は、セラミック基板150の95重量%以上を構成している。好ましい一構成として、セラミック基板150は、90重量%以上のAl2O3またはSiO2を含有している。
【0083】
第2材料170は、セラミック基板150上の層として形成されている。第2材料170の層は、セラミック基板150の厚さに比べて薄い層である(
図1は縮尺どおりでない)。好ましくは、第2層170の層厚は、50μm以下である。第2材料170は、主成分として(principally)、Cr、Co、Ni、Fe、Al、Ti、Si、W、Zr、Ta,Th、Nb、Mn、Mg、Hf、Mo、Vなどの金属、CrN、CrAlN、TiN、TiCN、TiAlN、ZrN、AlN、VN、Si
3N
4、ThN、HfN、BNなどの金属窒化物、TiC、CrC、Al
4C
3、VC、ZrC、HfC、ThC、B
4C、SiCなどの金属炭化物、Al
2O
3、TiO
2、SiO
2、ZrO
2、ThO
2、MgO、Cr
2O
3、Zr
2O
3、V
2O
3などの金属酸化物、TiB
2、ZrB
2、CrB
2、VB
2、SiB
6、ThB
2、HfB
2、WB
2、WB
4などの金属ホウ化物、TiSi
2、ZrSi
2、MoSi
2、MoSi、WSi
2、PtSi、Mg
2Siなどの金属ケイ化物、または他種の任意のセラミックス材料の、少なくとも1種を含有し得る。好ましくは、前記第2材料は、CrNおよび/またはCr
2O
3および/またはCrAlNを含有している。
【0084】
好ましい一構成として、第2材料170の層は、主成分として、CrNおよび/またはCr2O3および/またはCrAlNを含有している。
【0085】
図2に、セラミック基板150への物理気相成長法(PVD)による第2材料170の被覆方法の一例を示す。PVD工程では、セラミック基板150が、第2材料162の材料源160と共に物理気相成長チャンバ内に位置している。前記物理気相成長チャンバは真空引きされ、第2材料の材料源160は、前記物理気相成長チャンバ内に収められた第2材料162の大部分が気化または昇華するまで加熱される。すると、第2材料の空中粒子164は前記物理気相成長チャンバ全体に拡散し、セラミック基板150の表面152と接触して付着する。
【0086】
物理気相成長法は、金属基板の被覆に一般的に用いられる手法であるが、セラミック基板の被覆は、粒子の付着が困難な場合がある。したがって、前記セラミック基板の表面152への第2材料の粒子164の付着性を向上させるために、導電性のワイヤメッシュまたは導電性の金属プレート180が、セラミック基板150を当該ワイヤメッシュ180と第2材料162の材料源160との間に位置させるようにセラミック基板150を越えた側に設けられ得る。このような導電性のメッシュ/プレート180は、通電されることで第2材料164のイオン化粒子を吸引し、当該イオン化粒子をセラミック基板150の表面152に衝突させて同表面152に押し付けることで当該イオン化粒子を同セラミック基板の同表面152に付着させ得る。後でさらに説明するが、この被覆工程は、前記セラミック基板の複数の異なる表面を被覆するように繰返し行われてもよい。
【0087】
セラミック基板150への第2材料170の層の成膜は、スパッタリング法や昇華サンドイッチ被覆法などの他の被覆手法を用いて行われてもよい。本質的に、第2材料170の層を形成することが可能な手法であれば、どのような手法が用いられてもよい。第2材料170は、必ずしもセラミック基板150の全体を覆うものでなくてもよい。むしろ、セラミック基板150の一部またはセラミック基板150の片側152のみが第2材料170で被覆されてもよい。
【0088】
好ましくは、セラミック基板150への第2材料170の被覆が済むと、被覆されたセラミック基板に、任意のテンパリング処理が施される。テンパリング処理とは、一般的に、材料の強度および/またはその他の性質を向上させる処理であると考えられる。セラミックスの場合のテンパリング処理は、セラミック物品を加熱することによって、同セラミック品の化学成分が化学的および/または物理的変化を生じさせて同物品の固着または硬化をもたらすものであり得る。被覆されたセラミック基板150へのテンパリング処理は、当該被覆されたセラミック基板を200℃~4,000℃の範囲内、好ましくは1,000℃~2,000℃の範囲内の温度に加熱することを含み得る。同テンパリング処理は、1時間あたり10K以上の温度上昇を伴う加熱段階と、ピーク温度による1分間以上のプラトー段階と、最後に1時間あたり10K以上の温度低下を伴う冷却段階とを有し得る。同テンパリング処理により、セラミック基板150への第2材料170の恒久的な固着が支援され得る。場合によっては、前記第2材料の層170の一部が、その下のセラミック基板150との間で化学結合を形成することもある。第2材料170を具備したセラミック基板150をテンパリング処理することにより、書込み可能なプレート体110が形成される。書込み可能なプレート体110の特性は、当該書込み可能なプレート体110内にどのような材料が使われているかによって決まる。書込み可能なプレート体110は、そのまま保管されてもよいし、直に情報120が符号化されてもよい。前述したように、前記被覆された基板は、これに加えて又はこれに代えて、情報の符号化の前および/または後にテンパリング処理を施すようにしてもよい。
【0089】
図3は、書込み可能なプレート体110に情報を符号化する様子を示した図である。符号化の際には、レーザまたは集束粒子ビーム190により、コリメートされたレーザ光または集束粒子ビームが書込み可能なプレート体110における第2材料170の層に照射される(directs)。当該レーザ又は集束粒子ビームは、第2材料170のうちの局所的な領域175内の部分を、周囲の第2材料170と(例えば、光学的に)区別可能なものになるように改変する。なお、
図3ではレーザまたは集束粒子ビームによって文字が印字された様子を概略的に示しているが、本発明によると、情報のデジタル符号化には複数ビットによる符号化が最も適している。しかしながら、それ以外にも、別々の深さを利用して色彩効果を実現するようにしてもよく、これにより、書込み可能なプレート体110に対して色付き文字や色付き画像が付与され得る。
【0090】
好ましくは、前記レーザまたは集束粒子ビームは、第2材料170の局所的な領域175を、第2材料170の融解温度および/または分解温度以上に加熱する。第2材料170の融点は、当該第2材料170の化学組成に依存する。好ましくは、局所的な領域175の融点を超えた加熱は、当該局所的な領域を3,000℃以上、より好ましくは3,200℃以上、さらに好ましくは3,500℃以上、最も好ましくは4,000℃以上の温度に加熱することを伴い得る。このような局所的な領域に上記のような高温を付与することにより、当該局所的な領域175内の第2材料170が、急激に膨張し得る。この急激な膨張により、局所的な領域175内の第2材料170はアブレーションおよび/または気化し得る。
【0091】
レーザによる符号化手法に適したレーザ波長は、10nm~30μmの範囲内、好ましくは100nm~2,000nmの範囲内、より好ましくは150nm~1,500nmの範囲内の波長からなり得る。その他に重要なのは、前記レーザ光または集束粒子ビームの最小焦点径である。これにより、各凹部の最小寸法が決まる。好ましくは、レーザ源または集束粒子源190は、前記レーザ光または集束粒子ビームを50μm以下、好ましくは15μm以下、好ましくは5μm以下、好ましくは1μm以下、好ましくは100nm以下、より好ましくは10nm以下の最小焦点径に集束させることが可能である。
【0092】
書込み可能なプレート体110の形は、ユーザの希望や符号化される情報120の種類によって決まり得る。一部の場合では、書込み可能なプレート体110が、好ましくは200mm×200mm以下、より好ましくは100mm×100mm以下、より好ましくは10mm×10mm以下の、保存用タブレット形状に形成され得る。その他にも、直径30cm以下、より好ましくは12cm以下、より好ましくは8cm以下のコンピュータ読取り可能ディスク形状が好ましい場合がある。
【0093】
本発明に係る情報記憶媒体110は、環境劣化に強い。好ましくは、情報記憶媒体110は、情報を失うことなく-273℃(0°K)~1200℃の温度に耐えることが可能である。また、情報記憶媒体100は、電磁パルス及び/又は水濡れ及び/又は腐食及び/又は酸類及び/又はその他の化学物質にも耐え得るものである。本明細書の情報記憶媒体100は、10年以上、好ましくは100年以上、好ましくは1,000年以上、より好ましくは1万年以上、より好ましくは10万年以上の期間に亘って情報120を保持することが可能であると考えられる。地下の岩塩ドーム内に情報記憶媒体100を保存するなどの(including)保管条件によっては、同情報記憶媒体が、100万年以上に亘って情報を保持することのできる場合もある。
【0094】
図4は、本発明の好ましいさらなる実施形態における、情報の長期保存に適した情報記憶媒体の概略断面図である。同情報記憶媒体は、相異なる第2材料による4つの層171~174で被覆されたセラミック基板150を備え、当該相異なる第2材料は、セラミック基板150の材料と異なる。ここでも、少なくともセラミック基板150と前記4つの層のうちの最下層171との間には、焼結界面(図示せず)が存在し得る。同焼結界面は、前記基板の材料と最下層171の材料のそれぞれからの少なくとも1種の元素を含有し得る。
図1に示す実施形態と同じく、
図4に示す実施形態の情報記憶媒体は、当該情報記憶媒体に情報を符号化する複数の凹部10を備えており、当該複数の凹部10は異なる深さを有し、各深さは所定の情報ビットに対応している。
図4においても、4ビット符号に対応した16種類の異なる深さが描かれている。
【0095】
ただし、
図1に示す実施形態と異なり、
図4に示す実施形態の場合には、4つの各層171~174のなかで、(相異なる深さによる)4種類の相異なるビットが符号化されている。4つの層171~174が相異なる材料からなる場合、各層の光学的応答は異なるものになり得る。これにより、得られる深さ情報が例えば光学的応答等と相関し得ることから、復号化時の精度を高くすることが可能となる。
【0096】
当然ながら、符号化したいビット数に応じて、相異なる第2材料による層数が4層から増やされても減らされてもよい。
【0097】
図4に示す多層被覆法の極めて好ましい一例として、基板150上に金属層171を被覆し、金属層171上に(同じ金属の)金属酸化物層172を被覆するという二層被覆法が挙げられる。このような二層からなる被覆物に、
図5で概略的に示すように白色入射光を照射すると、入射光1の一部が酸化物層で反射(2)し、入射光1の別の一部が酸化物層内で屈折(3)して酸化物/金属の界面で反射(4)される。酸化物層で反射された光ビームと金属層で反射された光ビームが同位相であると可視色となることができ、位相がずれていると当該色は可視化されない。つまり、(酸化物層と金属層の両方の屈折率と酸化物層の層厚に依存した)特定の色が、酸化物層の存在する箇所では可視化される一方、その箇所の特定の凹部の深さが相対的干渉を招くものであった場合には可視化されない。
【0098】
図6は、TiO
2層の層厚を異ならせた(17nm、24nm、28nm、31nm、40nmおよび46nm)場合のTi/TiO
2二重層によるレーザ光の反射率を、波長別に示したグラフの一例である。
図6に見て取れるように、反射率の最小値は、層厚に強く依存し、約400nm(厚さ17nm)から約700nm(厚さ46nm)まで移り変わって、色彩の印象を黄色から青色まで変化させる。したがって、それぞれの反射率の最小値に対応した種々の深さの複数の凹部により、色スペクトルの全体が符号化され得る。
【0099】
つまり、金属/金属酸化物層系を利用し、かつ、凹部の種々の深さによって異なる色を符号化することで、多色性のマイクロフィルムの作製が原則として可能になる。
【0100】
図7は、本発明の好ましいさらなる実施形態における、情報の長期保存に適した情報記憶媒体の概略断面図である。同情報記憶媒体は、第2材料170の層で被覆されたセラミック基板150を備える。ここでも、セラミック基板150と第2材料170の前記層との間には、焼結界面(図示せず)が存在し得る。同焼結界面は、前記基板の材料と前記第2材料のそれぞれからの少なくとも1種の元素を含有している。第2材料170の前記層の表面は、異なる光学的特性を有する複数のナノ構造20を含み、各光学的特性は所定の情報ビットに対応している。
図7に示す具体例では、複数のナノ構造20の前記異なる光学的特性が、いわゆるナノ周期構造の異なる向きに相当する。図示の例では、そのようなナノ周期構造の4種類の異なる向きが、2ビット符号に対応している様子が描かれている。異なる向きを有するこのようなナノ周期構造は、次のようにして作製することが可能である:フェムト秒レーザで、セラミックス(例えば、CrN等)や金属(Cr)の表面に、ナノ周期構造と称される波状のナノ構造が形成され得る。アブレーション閾値を遥かに下回るエネルギー流量による数十から数百の直線偏光フェムト秒レーザパルスで、偏光方向と平行に前述のナノ周期構造が生成される。
【0101】
以下では、幾つかの実施例について説明する。
【実施例】
【0102】
第1の実施例では、CeramTec GmbH(ドイツ)社から入手可能な、Rubalit708s(Al2O3の含有量:96%以上)製のセラミック基板(寸法:20cm×20cm)を原料に用いた。
【0103】
同セラミック基板の板状片(寸法:10cm×10cm、厚さ:1mm)に、物理気相成長法法でCrN層を被覆させた。この目的にあたっては、同セラミックの板状片を、鋼製の導電性プレート(寸法:10cm×10cm)上に取り付けた。同セラミックの板状片を、当該導電性プレートと共に、OerlikonBalzers AG(リヒテンシュタイン)社から入手可能な物理気相成長機内に収めた。
【0104】
そして、Oerlikon Balzers AG社のエンハンスドスパッタリングBALI-NIT(登録商標)CNIにより、250℃未満の処理温度で物理気相成長法を実施した。
【0105】
成膜後、前記セラミック基板の片側(前記導電性プレートとは反対側)には、一定厚(厚さ:5μm)のCrN層が存在していた。
【0106】
次に、Nabertherm GmbH社から入手可能なバッチ炉モデル「N150/H」内で、被覆済みの前記セラミック基板にテンパリング処理を施した。テンパリング処理にあたっては、2時間以内で室温(20℃)から1,000℃へと温度を漸増させた後、1,000℃から1,200℃まで100K/hの速度で昇温させて、この最高温度1,200℃を5分間維持した。その後、6時間かけて-200K/hの速度で前記基板を冷却させた。
【0107】
テンパリング処理後の材料積層体は、Rubalit 708s(Al2O3の含有量:96%以上)製のセラミック基板、CrNの被覆層(層厚:約5μm)、およびCr2O3のさらなる金属酸化物層(層厚:約1μm)で構成されていた。同様の金属酸化物層については、Z.B. Qi et al. (Thin Solid Films 544 (2013), 515-520)に記載のとおりである。
【0108】
前記金属酸化物の表面は、黒に近い薄暗い緑色をしていた。
【0109】
前記材料積層体の表面に、Light Conversion社から入手可能なフェムト秒レーザ「CARBIDE」により、幅10~20μmの細線を様々な深さで刻み込んだ。刻み込みに用いた前記レーザのパラメータは、パルス幅:230fs、波長:515nm、繰返し周波数:60kHzおよび100kHzであった。
【0110】
前記レーザにより、適用したパルス数に応じて、4~10μmの数種類の深さレベルで凹所を形成した。
図8(a)及び
図8(b)は、キーエンス社製の高分解能4K顕微鏡であるVHX-7000を用いて別々の倍率で撮影した、前記プローブ表面の顕微鏡写真(2枚の顕微鏡写真の右下の帯部分は、それぞれ、1,000.00μm、100.00μmに相当)であり、左から右に向かって深さ(および幅)が小さくなっている。
【0111】
図8(c)は、
図8(b)の顕微鏡写真の断面を3次元視覚化したものである。同図から汲み取れ得るように、各凹所は、その長さに沿って幅および深さが略一定となっている。
図8(d)は、
図8(a)の顕微鏡写真の断面断高さプロファイルを示す図である。ここでも、左から右に行くにつれて、深さは明らかに減少している。明らかに見て取れることであるが、刻み込みに用いるパルス数(1回のパルス毎に500~1,000nmの深さが形成される)により、各凹所の深さを制御することが可能である。
【0112】
興味深いことに、超短パルスによる低温アブレーション効果(クーロン爆発)により、刻み込み部の縁には被覆物質(CrNおよびCr2O3)が溶融した痕跡が見られない。
【0113】
第2の実施例として、第1の実施例で説明したものと同じ材料積層体を作製した。
【0114】
同材料積層体の表面に、Spectra Physics社製のフェムト秒レーザであるSpirit-1040HE30(1040nm;400fs未満;最大120μJ)により、幅1.92μmの細線を様々な深さで刻み込んだ(焦点距離:56mm)。1回のレーザパルス毎に、深さ1μmの線状凹部が彫り込まれた。同一箇所に対する続けざまのパルス毎に、深さが約1μm深くなった。これにより、5種類の異なる深さ1μm、2μm、3μm、4μmおよび5μmの線状凹部(幅:1.92μm)を得ることができた。
図9(a)及び
図9(b)は、キーエンス社製の高分解能4K顕微鏡であるVHX-7000を用いて別々の倍率で撮影した、前記プローブ表面の顕微鏡写真(2枚の顕微鏡写真の左上の帯部分は20μmに相当)であり、左から右に向かって深さが大きくなっている。
【0115】
本発明は、図面及び前述の説明において詳細に図示及び説明されているが、このような図示及び説明は、例示的又は例示的であり、非制限的であるとみなされるべきである;したがって、本発明は、開示された実施形態に限定されるものではない。開示された実施形態に対する変形は、図面、開示、および添付の請求項の検討から、当業者および請求項の発明を実施する者によって理解および実施されることが可能である。特許請求の範囲において、単語「comprising」は、他の要素またはステップを除外せず、不定冠詞「a」または「an」は、複数を除外せず、「少なくとも1つ」を意味することができる。
本発明は以下の態様を包含してもよい。
〔態様1〕
セラミック基板を用意する工程と、
レーザおよび/または集束粒子ビームを用いて前記セラミック基板の表面に複数の凹部を形成する工程であって、これにより、前記セラミック基板に情報を符号化する、工程と、
を備え、前記複数の凹部が異なる深さを有し、各深さが所定の情報ビットに対応している、情報の保存方法。
〔態様2〕
セラミック基板を用意する工程と、
前記セラミック基板を、当該セラミック基板の材料と異なる第2材料の層で被覆する工程と、
レーザおよび/または集束粒子ビームを用いて前記第2材料の前記層の表面に複数の凹部を形成する工程であって、これにより、前記第2材料の前記層に情報を符号化する、工程と、
を備え、前記複数の凹部が異なる深さを有し、各深さが所定の情報ビットに対応しており、
被覆された前記セラミック基板は、任意で、情報の符号化の前および/または後に、当該被覆されたセラミック基板の耐久性を向上させるテンパリング処理を施される、情報の保存方法。
〔態様3〕
セラミック基板を用意する工程と、
前記セラミック基板を、当該セラミック基板の材料と異なる、相異なる第2材料による2層以上の層で被覆する工程と、
レーザおよび/または集束粒子ビームを用いて前記第2材料の前記層に複数の凹部を形成する工程であって、これにより、前記第2材料の前記層に情報を符号化する、工程と、
を備え、前記複数の凹部が、異なる深さを有して前記2層以上の層のうちの相異なる層に延びており、各深さが所定の情報ビットに対応しており、
被覆された前記セラミック基板は、任意で、情報の符号化の前および/または後に、当該被覆されたセラミック基板の耐久性を向上させるテンパリング処理を施される、情報の保存方法。
〔態様4〕
態様3に記載の方法において、前記2層以上の層の各層厚は、1μm未満、好ましくは100nm未満、より好ましくは10nm未満である、方法。
〔態様5〕
態様3または4に記載の方法において、前記2層以上の層が、金属層および金属酸化物層を含み、好ましくは、前記金属層の金属元素と前記金属酸化物層の金属元素とが同一である、方法。
〔態様6〕
態様1から5のいずれか一態様に記載の方法において、前記複数の凹部が、少なくとも2種類、より好ましくは少なくとも3種類、より好ましくは少なくとも4種類、さらに好ましくは少なくとも5種類、より好ましくは少なくとも6種類、より好ましくは少なくとも7種類、さらに好ましくは少なくとも8種類、さらに好ましくは少なくとも16種類、最も好ましくは少なくとも32種類の異なる深さを有し、各深さが所定の情報ビットに対応している、方法。
〔態様7〕
態様1から6のいずれか一態様に記載の方法において、各凹部が、前記レーザ及び/又は集束粒子ビームの1つ以上のパルスによって形成され、各凹部の前記深さが、前記パルスのエネルギー、前記パルスの長さ、前記レーザ及び/又は集束粒子ビームのパルス数、のパラメータのうちの1つ又は組合せによって制御される、方法。
〔態様8〕
態様1から7のいずれか一態様に記載の方法において、前記複数の凹部同士の深さの差の最小値が、1nm以上、好ましくは10nm以上、より好ましくは30nm以上、より好ましくは50nm以上、さらに好ましくは70nm以上、最も好ましくは100nm以上であり、かつ/あるいは、前記複数の凹部同士の深さの差の最小値が、5μm以下、好ましくは1μm以下、より好ましくは500nm以下、より好ましくは300nm以下、さらに好ましくは200nm以下、最も好ましくは100nm以下である、方法。
〔態様9〕
セラミック基板を用意する工程と、
前記セラミック基板を、当該セラミック基板の材料と異なる第2材料の層で被覆する工程と、
レーザおよび/または集束粒子ビームを用いて前記第2材料の前記層の表面に複数のナノ構造を形成する工程であって、これにより、前記第2材料の前記層に情報を符号化する、工程と、
を備え、前記複数のナノ構造が異なる光学的特性を有し、各光学的特性が所定の情報ビットに対応しており、
被覆された前記セラミック基板は、任意で、情報の符号化の前および/または後に、当該被覆されたセラミック基板の耐久性を向上させるテンパリング処理を施される、情報の保存方法。
〔態様10〕
態様9に記載の方法において、前記複数のナノ構造の前記異なる光学的特性が、ナノ周期構造の向き又は偏光、ナノ周期構造の周波数又は波長、ナノ周期構造の振幅のうちの1つ以上を含む、方法。
〔態様11〕
態様10に記載の方法において、前記複数のナノ周期構造が、少なくとも2種類、好ましくは少なくとも3種類、より好ましくは少なくとも4種類、より好ましくは少なくとも5種類、より好ましくは少なくとも6種類、より好ましくは少なくとも7種類、さらに好ましくは少なくとも8種類、さらに好ましくは少なくとも16種類、最も好ましくは少なくとも32種類の、異なる向き、偏光、周波数、波長または振幅を有し、各向き、偏光、周波数、波長または振幅が所定の情報ビットに対応している、方法。
〔態様12〕
態様1から11のいずれか一態様に記載の方法において、前記セラミック基板が、酸化物セラミックスを含有しており、好ましくは、前記セラミック基板が、Al
2
O
3
、TiO
2
、SiO
2
、ZrO
2
、ThO
2
、MgO、Cr
2
O
3
、Zr
2
O
3
、V
2
O
3
、または他種の任意の酸化物セラミックス材料の、1種又は組合せを、90重量%以上、好ましくは95重量%以上含有している、方法。
〔態様13〕
態様1から12のいずれか一態様に記載の方法において、前記セラミック基板が、非酸化物セラミックスを含有しており、好ましくは、前記セラミック基板が、CrN、CrAlN、TiN、TiCN、TiAlN、ZrN、AlN、VN、Si
3
N
4
、ThN、HfN、BNなどの金属窒化物、TiC、CrC、Al
4
C
3
、VC、ZrC、HfC、ThC、B
4
C、SiCなどの金属炭化物、TiB
2
、ZrB
2
、CrB
2
、VB
2
、SiB
6
、ThB
2
、HfB
2
、WB
2
、WB
4
などの金属ホウ化物、TiSi
2
、ZrSi
2
、MoSi
2
、MoSi、WSi
2
、PtSi、Mg
2
Siなどの金属ケイ化物、または他種の任意の非酸化物セラミックス材料の、1種又は組合せを、90重量%以上、好ましくは95重量%以上含有している、方法。
〔態様14〕
態様1から13のいずれか一態様に記載の方法において、前記セラミック基板が、Ni、Cr、Co、Fe、W、Mo、または融点が1,400℃を超える他種の金属の、1種又は組合せを含有している、方法。
〔態様15〕
態様14に記載の方法において、前記セラミックス材料と前記金属とが、金属基複合材を形成している、方法。
〔態様16〕
態様14または15に記載の方法において、前記金属が、前記セラミック基板の5~30重量%、好ましくは10~20重量%になる、方法。
〔態様17〕
態様14から16のいずれか一態様に記載の方法において、前記セラミック基板が、WC/Co-Ni-Moおよび/またはBN/Co-Ni-Moおよび/またはTiN/Co-Ni-Moおよび/またはSiC/Co-Ni-Moを含有している、方法。
〔態様18〕
態様1から17のいずれか一態様に記載の方法において、前記第2材料が、Cr、Co、Ni、Fe、Al、Ti、Si、W、Zr、Ta、Th、Nb、Mn、Mg、Hf、Mo、Vなどの金属、CrN、CrAlN、TiN、TiCN、TiAlN、ZrN、AlN、VN、Si
3
N
4
、ThN、HfN、BNなどの金属窒化物、TiC、CrC、Al
4
C
3
、VC、ZrC、HfC、ThC、B
4
C、SiCなどの金属炭化物、Al
2
O
3
、TiO
2
、SiO
2
、ZrO
2
、ThO
2、
MgO、Cr
2
O
3
、Zr
2
O
3
、V
2
O
3
などの金属酸化物、TiB
2
、ZrB
2
、CrB
2
、VB
2
、SiB
6
、ThB
2
、HfB
2
、WB
2
、WB
4
などの金属ホウ化物、TiSi
2
、ZrSi
2
、MoSi
2
、MoSi、WSi
2
、PtSi、Mg
2
Siなどの金属ケイ化物といったセラミックス材料、または他種の任意のセラミックス材料の、少なくとも1種を含有しており、好ましくは、前記第2材料が、CrNおよび/またはCr
2
O
3
および/またはCrAlNを含有している、方法。
〔態様19〕
態様1から18のいずれか一態様に記載の方法において、物理気相成長法、スパッタリング法、化学気相成長法、または他種の任意の薄膜被覆法が、前記セラミック基板を前記第2材料の前記層で被覆するのに用いられ、好ましくは、物理気相成長法の際に、前記セラミック基板が、前記第2材料の材料源と導電性プレート及び/又はワイヤ格子との間に位置している、方法。
〔態様20〕
態様1から19のいずれか一態様に記載の方法において、前記被覆されたセラミック基板へのテンパリング処理が、当該被覆されたセラミック基板を200℃~4,000℃の範囲内、好ましくは500℃~3,000℃の範囲内、より好ましくは1,000℃~2,000℃の範囲内の温度に加熱することを含む、方法。
〔態様21〕
態様1から20のいずれか一態様に記載の方法において、前記凹部を形成する工程が、前記第2材料の融解温度および/または分解温度以上、好ましくは3,000℃以上、好ましくは3,200℃以上、より好ましくは3,500℃以上、最も好ましくは4,000℃以上の温度に前記表面を局所的に加熱することを含む、方法。
〔態様22〕
態様1から21のいずれか一態様に記載の方法において、前記凹部を形成する工程が、前記被覆された基板の前記表面をフェムト秒レーザで処理することにより、クーロン爆発を発生させて材料のアブレーションにつなげることを含む、方法。
〔態様23〕
態様1から22のいずれか一態様に記載の方法において、前記第2材料の前記層および/または相異なる第2材料による前記2層以上の層は、その層厚が、5μm以下、好ましくは2μm以下、より好ましくは1μm以下、さらに好ましくは100nm以下、最も好ましくは10nm以下である、方法。
〔態様24〕
態様1から23のいずれか一態様に記載の方法において、前記凹部を形成する工程が、前記表面を局所的に加熱および/または分解および/または酸化および/またはアブレーションおよび/または気化させることを含む、方法。
〔態様25〕
態様1から24のいずれか一態様に記載の方法において、前記被覆されたセラミック基板へのテンパリング処理が、当該セラミック基板と前記第2材料の前記層又は相異なる第2材料による前記2層以上の層との間に焼結界面を生成する、方法。
〔態様26〕
態様25に記載の方法において、前記焼結界面が、前記基板の材料と前記第2材料のそれぞれからの少なくとも1種の元素を含有している、方法。
〔態様27〕
態様1から26のいずれか一態様に記載の方法において、前記被覆されたセラミック基板へのテンパリング処理を酸素雰囲気中で行うことにより、前記第2材料の前記層のうちの少なくとも最上副層を酸化させる、方法。
〔態様28〕
態様1から27のいずれか一態様に記載の方法において、前記レーザが、10nm~30μmの範囲内、好ましくは100nm~2,000nmの範囲内、より好ましくは200nm~1,500nmの範囲内の波長のレーザ光を放射する、方法。
〔態様29〕
態様1から28のいずれか一態様に記載の方法において、前記レーザ光または粒子ビームの最小焦点径が、50μm以下、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下、より好ましくは1μm以下、さらに好ましくは100nm以下、さらに好ましくは10nm以下である、方法。
〔態様30〕
態様1から29のいずれか一態様に記載の方法において、前記被覆されたセラミック基板が、面積1cm
2
あたり1キロバイト以上の情報、好ましくは1cm
2
あたり10キロバイト以上の情報、より好ましくは1cm
2
あたり100キロバイト以上の情報、さらに好ましくは1cm
2
あたり1メガバイト以上の情報、さらに好ましくは1cm
2
あたり10メガバイト以上の情報、さらに好ましくは1cm
2
あたり100メガバイト以上の情報、さらに好ましくは1cm
2
あたり1ギガバイト以上の情報、さらに好ましくは1cm
2
あたり10ギガバイト以上の情報を含む、方法。
〔態様31〕
セラミック基板を備える情報記憶媒体であって、前記セラミック基板の表面が、当該情報記憶媒体に情報を符号化する複数の凹部を有しており、当該複数の凹部が異なる深さを有し、各深さは所定の情報ビットに対応している、情報記憶媒体。
〔態様32〕
第2材料の層で被覆されたセラミック基板と、前記セラミック基板と前記第2材料の前記層との間の焼結界面と、を備える情報記憶媒体であって、前記第2材料は前記セラミック基板の材料と異なり、前記焼結界面は前記基板の材料と前記第2材料のそれぞれからの少なくとも1種の元素を含有しており、前記第2材料の前記層は当該情報記憶媒体に情報を符号化する複数の凹部を有しており、当該複数の凹部は異なる深さを有し、各深さは所定の情報ビットに対応している、情報記憶媒体。
〔態様33〕
相異なる第2材料による2層以上の層で被覆されたセラミック基板と、少なくとも前記セラミック基板と前記2層以上の層のうちの最下層との間の焼結界面と、を備える情報記憶媒体であって、前記第2材料は前記セラミック基板の材料と異なり、前記焼結界面は前記基板の材料と前記最下層の材料のそれぞれからの少なくとも1種の元素を含有しており、当該情報記憶媒体は、さらに、当該情報記憶媒体に情報を符号化する複数の凹部を備え、当該複数の凹部は異なる深さを有し、各深さは所定の情報ビットに対応している、情報記憶媒体。
〔態様34〕
態様33に記載の情報記憶媒体において、前記2層以上の層の各層厚が、1μm未満、好ましくは100nm未満、より好ましくは10nm未満である、情報記憶媒体。
〔態様35〕
態様33または34に記載の情報記憶媒体において、前記2層以上の層が、金属層および金属酸化物層を含み、好ましくは、前記金属層の金属元素と前記金属酸化物層の金属元素とが同一である、情報記憶媒体。
〔態様36〕
態様31から35のいずれか一態様に記載の情報記憶媒体において、前記複数の凹部が、少なくとも2種類、好ましくは少なくとも3種類、より好ましくは少なくとも4種類、さらに好ましくは少なくとも5種類、さらに好ましくは少なくとも6種類、さらに好ましくは少なくとも7種類、さらに好ましくは少なくとも8種類、さらに好ましくは少なくとも16種類、最も好ましくは少なくとも32種類の異なる深さを有し、各深さが所定の情報ビットに対応している、情報記憶媒体。
〔態様37〕
態様31から36のいずれか一態様に記載の情報記憶媒体において、前記複数の凹部同士の深さの差の最小値が、1nm以上、好ましくは10nm以上、より好ましくは30nm以上、より好ましくは50nm以上、さらに好ましくは70nm以上、最も好ましくは100nm以上であり、かつ/あるいは、前記複数の凹部同士の深さの差の最小値が、5μm以下、好ましくは1μm以下、より好ましくは500nm以下、より好ましくは300nm以下、さらに好ましくは200nm以下、最も好ましくは100nm以下である、情報記憶媒体。
〔態様38〕
第2材料の層で被覆されたセラミック基板と、前記セラミック基板と前記第2材料の前記層との間の焼結界面と、を備える情報記憶媒体であって、前記第2材料は前記セラミック基板の材料と異なり、前記焼結界面は前記基板の材料と前記第2材料のそれぞれからの少なくとも1種の元素を含有しており、前記第2材料の前記層の表面は複数のナノ構造を有しており、当該複数のナノ構造が異なる光学的特性を有し、各光学的特性が所定の情報ビットに対応している、情報記憶媒体。
〔態様39〕
態様38に記載の情報記憶媒体において、前記複数のナノ構造の前記異なる光学的特性が、ナノ周期構造の向き又は偏光、ナノ周期構造の周波数又は波長、ナノ周期構造の振幅のうちの1つ以上を含む、情報記憶媒体。
〔態様40〕
態様39に記載の情報記憶媒体において、前記複数のナノ周期構造が、少なくとも2種類、好ましくは少なくとも3種類、より好ましくは少なくとも4種類、さらに好ましくは少なくとも5種類、より好ましくは少なくとも6種類、より好ましくは少なくとも7種類、さらに好ましくは少なくとも8種類、さらに好ましくは少なくとも16種類、最も好ましくは少なくとも32種類の、異なる向きを有し、各向き、偏光、周波数、波長または振幅が所定の情報ビットに対応している、情報記憶媒体。
〔態様41〕
態様31から40のいずれか一態様に記載の情報記憶媒体において、前記セラミック基板が、酸化物セラミックスを含有しており、好ましくは、前記セラミック基板が、Al
2
O
3
、TiO
2
、SiO
2
、ZrO
2
、ThO
2
、MgO、Cr
2
O
3
、Zr
2
O
3
、V
2
O
3
、または他種の任意の酸化物セラミックス材料の、1種又は組合せを、90重量%以上、好ましくは95重量%以上含有している、情報記憶媒体。
〔態様42〕
態様31から40のいずれか一態様に記載の情報記憶媒体において、前記セラミック基板が、非酸化物セラミックスを含有しており、好ましくは、前記セラミック基板が、CrN、CrAlN、TiN、TiCN、TiAlN、ZrN、AlN、VN、Si
3
N
4
、ThN、HfN、BNなどの金属窒化物、TiC、CrC、Al
4
C
3
、VC、ZrC、HfC、ThC、B
4
C、SiCなどの金属炭化物、TiB
2
、ZrB
2
、CrB
2
、VB
2
、SiB
6
、ThB、HfB
2
、WB
2
、WB
4
などの金属ホウ化物、TiSi
2
、ZrSi
2
、MoSi
2
、MoSi、WSi
2
、PtSi、Mg
2
Siなどの金属ケイ化物、または他種の任意の非酸化物セラミックス材料の、1種又は組合せを、90重量%以上、好ましくは95重量%以上含有している、情報記憶媒体。
〔態様43〕
態様31から42のいずれか一態様に記載の情報記憶媒体において、前記セラミック基板が、Ni、Cr、Co、Fe、W、Mo、または融点が1,400℃を超える他種の金属の、1種又は組合せを含有している、情報記憶媒体。
〔態様44〕
態様43に記載の情報記憶媒体において、前記セラミックス材料と前記金属とが、金属基複合材を形成している、情報記憶媒体。
〔態様45〕
態様43または44に記載の情報記憶媒体において、前記金属が、前記セラミック基板の5~30重量%、好ましくは10~20重量%になる、情報記憶媒体。
〔態様46〕
態様43から45のいずれか一態様に記載の情報記憶媒体において、前記セラミック基板が、WC/Co-Ni-Moおよび/またはBN/Co-Ni-Moおよび/またはTiN/Co-Ni-Moおよび/またはSiC/Co-Ni-Moを含有している、情報記憶媒体。
〔態様47〕
態様31から46のいずれか一態様に記載の情報記憶媒体において、前記第2材料が、Cr、Co、Ni、Fe、Al、Ti、Si、W、Zr、Ta、Th、Nb、Mn、Mg、Hf、Mo、Vなどの金属、または、CrN、CrAlN、TiN、TiCN、TiAlN、ZrN、AlN、VN、Si
3
N
4
、ThN、HfN、BNなどの金属窒化物、TiC、CrC、Al
4
C
3
、VC、ZrC、HfC、ThC、B
4
C、SiCなどの金属炭化物、Al
2
O
3
、TiO
2
、SiO
2
、ZrO
2
、ThO
2、
MgO、Cr
2
O
3
、Zr
2
O
3
、V
2
O
3
などの金属酸化物、TiB
2
、ZrB
2
、CrB
2
、VB
2
、SiB
6
、ThB
2
、HfB
2
、WB
2
、WB
4
などの金属ホウ化物、TiSi
2
、ZrSi
2
、MoSi
2
、MoSi、WSi
2
、PtSi、Mg
2
Siなどの金属ケイ化物といったセラミックス材料の、少なくとも1種を含有しており、好ましくは、前記第2材料が、CrNおよび/またはCr
2
O
3
および/またはCrAlNを含有している、情報記憶媒体。
〔態様48〕
態様31から47のいずれか一態様に記載の情報記憶媒体において、さらに、前記第2材料の前記層の上または相異なる第2材料による前記2層以上の層のうちの最上層の上に酸化物層、を備え、好ましくは、前記酸化物層が、前記第2材料の1種以上の酸化物、または相異なる第2材料による前記2層以上の層のうちの前記最上層の材料の1種以上の酸化物を含有している、情報記憶媒体。
〔態様49〕
態様31から48のいずれか一態様に記載の情報記憶媒体において、前記第2材料の前記層は、その層厚が、10μm以下、好ましくは3μm以下、さらに好ましくは1μm以下、さらに好ましくは100nm以下、さらに好ましくは10nm以下である、情報記憶媒体。
〔態様50〕
態様31から49のいずれか一態様に記載の情報記憶媒体において、当該情報記憶媒体が、面積1cm
2
あたり1キロバイト以上の情報、より好ましくは1cm
2
あたり10キロバイト以上の情報、さらに好ましくは1cm
2
あたり100キロバイト以上の情報、さらに好ましくは1cm
2
あたり1メガバイト以上の情報、さらに好ましくは1cm
2
あたり10メガバイト以上の情報、さらに好ましくは1cm
2
あたり100メガバイト以上の情報、さらに好ましくは1cm
2
あたり1ギガバイト以上の情報、さらに好ましくは1cm
2
あたり10ギガバイト以上の情報を含む、情報記憶媒体。
〔態様51〕
態様31から50のいずれか一態様に記載の情報記憶媒体において、前記セラミック基板、前記焼結層、および、前記第2材料の前記層又は相異なる第2材料による前記2層以上の層は、その融解温度が、1,000℃超、好ましくは1,200℃超、より好ましくは1,300℃超である、情報記憶媒体。
〔態様52〕
態様31から51のいずれか一態様に記載の情報記憶媒体において、前記セラミック基板の融解温度は、前記第2材料の前記層または相異なる第2材料による前記2層以上の層の融解温度以上である、情報記憶媒体。
〔態様53〕
態様31から52のいずれか一態様に記載の情報記憶媒体において、前記複数の凹部が、少なくとも2種類、好ましくは少なくとも3種類、より好ましくは少なくとも4種類、さらに好ましくは少なくとも5種類、さらに好ましくは少なくとも6種類、さらに好ましくは少なくとも7種類、さらに好ましくは少なくとも8種類、さらに好ましくは少なくとも16種類、最も好ましくは少なくとも32種類の異なる深さを有し、各深さが所定の情報ビットに対応している、情報記憶媒体。
〔態様54〕
態様31から53のいずれか一態様に記載の情報記憶媒体において、前記複数の凹部同士の深さの差の最小値が、1nm以上、好ましくは10nm以上、より好ましくは30nm以上、より好ましくは50nm以上、さらに好ましくは70nm以上、最も好ましくは100nm以上である、情報記憶媒体。
〔態様55〕
態様31から54のいずれか一態様に記載の情報記憶媒体において、前記複数の凹部同士の深さの差の最小値が、5μm以下、好ましくは1μm以下、より好ましくは500nm以下、より好ましくは300nm以下、さらに好ましくは200nm以下、最も好ましくは100nm以下である、情報記憶媒体。
〔態様56〕
態様31から55のいずれか一態様に記載の情報記憶媒体の、情報の長期保存のための使用であって、好ましくは、前記情報記憶媒体が、10年以上、好ましくは100年以上、より好ましくは1,000年以上、より好ましくは1万年以上、さらに好ましくは10万年以上の期間に亘って保管される、使用。
〔態様57〕
態様31から55のいずれか一態様に記載の情報記憶媒体に符号化された情報を復号化する方法であって、
態様31~55のいずれか一態様に記載の情報記憶媒体を用意する工程と、
前記複数の凹部のうちの少なくとも一部の凹部の前記深さ、または前記複数のナノ構造のうちの少なくとも一部のナノ構造の前記光学的特性を測定する工程と、
測定された前記深さまたは測定された前記光学的特性に対応する前記情報ビットを復号化する工程と、
を備える、方法。
〔態様58〕
態様57に記載の方法において、前記深さまたは前記光学的特性を測定する工程が、レーザビーム、および/または電子ビームなどの集束粒子ビームを用いて行われる、方法。〔態様59〕
態様57または58に記載の方法において、前記深さを測定する工程が、干渉、反射、吸収、偏光解析法、周波数コム技術、STED、STORMなどの蛍光顕微鏡法、光コヒーレンストモグラフィ、走査型電子顕微鏡法、(反射光又は透過光を用いた)デジタル(浸漬)顕微鏡法の、1つ又は組合せに基づいたものである、方法。
〔態様60〕
態様57または58に記載の方法において、前記光学的特性を測定する工程が、吸収、透過、反射、偏光、非コヒーレント光及び/又はレーザ光の干渉の、1つ又は組合せに基づいたものである、方法。
【0116】
前記プローブ表面に対し、FEI Quanta200 3D DFIB(Gaイオン源を装備した集束イオンビーム(FIB)ワークステーション)(6.667nC/μm
3、0.1nA、30kV(2×1014J/m
3または0.2mJ/μm
3に相当))により、幅30nmの細線を様々な深さで刻み込んだ。同イオンビームは、11.5nmのスポットサイズにまで集束させた。集束イオンビームの最初の通過により、深さ50nmの彫り込みが生じた。その後、イオンビームをさらに続けざまに通過させて刻み込むごとに、深さが約50nmずつ深くなっていった。これにより、10種類の異なる深さ50nm、100nm、150nm、200nm、250nm…などの線状凹部(幅:30nm)を得ることができた。
図10は、FEIQuanta 250 FEG(電界放出型走査電子顕微鏡(FEGSEM))で撮影した前記プローブ表面のSEM画像であり、左から右に向かって深さが大きくなっている。同SEM画像内で2つの矢印を使って示している間隔は、30.0nmに相当する。
【0117】
本発明は、図面及び前述の説明において詳細に図示及び説明されているが、このような図示及び説明は、例示的又は例示的であり、非制限的であるとみなされるべきである;したがって、本発明は、開示された実施形態に限定されるものではない。開示された実施形態に対する変形は、図面、開示、および添付の請求項の検討から、当業者および請求項の発明を実施する者によって理解および実施されることが可能である。特許請求の範囲において、単語「comprising」は、他の要素またはステップを除外せず、不定冠詞「a」または「an」は、複数を除外せず、「少なくとも1つ」を意味することができる。