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特許7584766脳血管障害および認知症の治療のための医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】脳血管障害および認知症の治療のための医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/198 20060101AFI20241111BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20241111BHJP
   A61K 31/47 20060101ALI20241111BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20241111BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20241111BHJP
【FI】
A61K31/198
A23L33/10
A61K31/47
A61P9/10
A61P25/28
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020565210
(86)(22)【出願日】2020-01-09
(86)【国際出願番号】 JP2020000510
(87)【国際公開番号】W WO2020145359
(87)【国際公開日】2020-07-16
【審査請求日】2022-12-23
(31)【優先権主張番号】62/790,305
(32)【優先日】2019-01-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517154410
【氏名又は名称】山田 健一
(73)【特許権者】
【識別番号】000238201
【氏名又は名称】扶桑薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】山田 健一
(72)【発明者】
【氏名】山本 啓一
【審査官】原口 美和
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-533987(JP,A)
【文献】海老原昭夫,降圧薬開発の裏話 メチルドパ ,血圧,2006年,vol.13 no.8,917-920
【文献】PENG M. et al.,Blood pressure at age 60-65 versus age 70-75 and vascular dementia: a population based observational,BMC Geriatrics,2017年,vol.17,252
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/198
A23L 33/10
A61K 31/47
A61P 9/10
A61P 25/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処置を必要とする対象者における脳血管障害または血管性認知症を予防する、または疾患の進行を抑制するための、下記群からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物、および医薬的に許容し得る担体を含む、医薬組成物であって、
該処置を必要とする対象者は若年性認知症を患っており、
群:エトキシキン (6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン)、およびメチルドパ (メチルドーパ セスキ水和物)からなる群:
ここで、メチルドパまたはエトキシキンの有効量は、それぞれ、1日用量当たり0.001~50mg/体重kgである、
該医薬組成物。
【請求項2】
経口投与または腹腔内投与として用いられる、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
処置を必要とする対象者が哺乳類である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
処置を必要とする対象者がヒトである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
医薬組成物が経口投与または腹腔内投与によって投与される場合、メチルドパまたはエトキシキンの有効量が、それぞれ、1日用量当たり0.1~50mg/体重kgである、請求項1~4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
医薬組成物が、1日1回または複数回、または、数日~数週に1回または複数回、投与する、請求項1~5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
処置を必要とする対象者における脳血管障害または血管性認知症を予防するまたは疾患の進行を抑制するための医薬の製造における、エトキシキン (6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン)、およびメチルドパ (メチルドーパ セスキ水和物)からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物の使用であって、
該処置を必要とする対象者は若年性認知症を患っており、
ここで、メチルドパまたはエトキシキンの有効量は、それぞれ、1日用量当たり0.001~50mg/体重kgである、
該使用。
【請求項8】
エトキシキン (6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン)、およびメチルドパ (メチルドーパ セスキ水和物)からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物を含む、脳血管障害または血管性認知症を予防する、または疾患の進行を抑制するための飲食品であって、
該処置を必要とする対象者は若年性認知症を患っており、
ここで、メチルドパまたはエトキシキンの有効量は、それぞれ、1日用量当たり0.001~50mg/体重kgである、
該飲食品。
【請求項9】
健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、疾病リスク低減表示が付された食品、または病者用食品である、請求項8に記載の飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本特許出願は、米国仮出願62/790,305号(2019年1月9日出願)に基づくパリ条約上の優先権および利益を主張する者であり、ここに引用することによって、上記出願に記載された内容の全体が、本明細書中に組み込まれるものとする。
本願の開示は、脳血管障害および認知症を予防もしくは治療するための、またはこれら疾患の進行を抑制するための、医薬および方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
脳血管障害とは、広義には脳出血(出血性脳血管障害)および脳梗塞(虚血性脳血管障害)の両方を包含する。また、認知症とは、ICD-10(世界保健機関による国際疾病分類第10版)よれば、「通常、慢性あるいは進行性の脳疾患によって生じ、記憶、思考、見当識、理解、計算、学習、言語、判断等、多数の高次脳機能の障害からなる症候群」と定義されており、そして、高次脳機能障害とは、脳の器質的障害に起因する認知機能障害全般を指す。また、認知機能障害には、各種認知症に進行し得る前駆段階である軽度認知機能障害を含む。
【0003】
血管性認知症(vascular dementia (VaD))は、脳血管障害、例えば脳出血または脳梗塞に起因する認知障害である。羅患率はアルツハイマー型認知症の次に高く、若年性認知症では最も高い。
本発明者等は、これまでに、蛍光ニトロキシドプローブ化合物を用いる、脂質過酸化抑制を検出および評価するためのアッセイ方法およびスクリーニング方法を見出し、また、そのスクリーニング方法を用いた脂質過酸化抑制の活性を示す候補化合物は、腹腔内投与によって、加齢黄斑変性症に対する治療活性を示すことを見出し、報告している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】PCT/JP2018/025496
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願の開示は、抗酸化性、特に抗脂質過酸化性質を有する特定の化合物を用いた、脳血管障害(例えば、脳出血、脳梗塞)、および/またはそれに起因する認知症(特に、血管性認知症)を予防もしくは治療する、または該疾患の進行を抑制するための、医薬および方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、特定の化合物、および医薬的に許容し得る担体を含む、脳血管障害および/または血管性認知症を予防もしくは治療するための、または疾患の進行を抑制するために有用であることを見出した。
【0007】
すなわち、本願の開示は以下の態様を提供するが、これらに限定されるものではない。
【0008】
[1] 処置を必要とする対象者における脳血管障害または血管性認知症を予防もしくは治療する、または疾患の進行を抑制するための、下記群からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物、および医薬的に許容し得る担体を含む、医薬組成物:
群:アポモルヒネ ((R)-(-)-アポモルヒネ 塩酸)、エセロリン ((-)-エセロリンフマル酸塩)、エトキシキン (6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン)、メチルドパ (メチルドーパ セスキ水和物)、オランザピン(2-メチル-4-(4-メチル-1-ピぺラジニル)-10H-チエノ[2,3-b][1,5]ベンゾジアゼピン)、3-アミノ-4-(フェニルアミノ)安息香酸メチル、3-アミノ-4-((4-メトキシフェニル)アミノ)安息香酸メチル、3-アミノ-4-((3-メトキシフェニル)アミノ)安息香酸メチル、3-アミノ-4-(ベンジルアミノ)安息香酸メチル、3-アミノ-4-((1-フェニルエチル)アミノ)安息香酸メチル、1-(4-(トリフルオロメトキシ)フェニル)インドリン-5-アミン、1-(3,5-ジメチルフェニル)-1H-インドール-6-アミン、1-(3,5-ジメチルフェニル)インドリン-6-アミン、1-(4-メトキシフェニル)-1H-インドール-6-アミン、1-(4-(メチルチオ)フェニル)-1H-インドール-6-アミン、1-(4-(トリフルオロメトキシ)フェニル)-1H-インドール-5-アミン、およびインダパミド (4-クロロ-N-[(2RS)-2-メチル-2,3-ジヒドロ-1H-インドール-1-イル]-3-スルファモイルベンズアミド)からなる群。
[2] 該化合物が、下記群から選ばれる少なくとも1つの化合物である、[1]に記載の医薬組成物:
エトキシキン(6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン)、およびメチルドパ(メチルドーパ セスキ水和物)からなる群。
[3] 経口投与または腹腔内投与として用いられる、[1]に記載の医薬組成物。
[4] 処置を必要とする対象者が哺乳類である、[1]に記載の医薬組成物。
[5] 処置を必要とする対象者がヒトである、[1]に記載の医薬組成物。
[6] 処置を必要とする対象者が若年性認知症を患っている、[1]に記載の医薬組成物。
[7] 治療学的に有効量の前記[1]に記載の化合物を、処置を必要とする対象者に投与することを特徴とする、脳血管障害または血管性認知症を予防もしくは治療する、または疾患の進行を抑制するための方法。
[8] 処置を必要とする対象者における脳血管障害または血管性認知症を予防もしくは治療するまたは疾患の進行を抑制するための医薬の製造における、前記[1]に記載の化合物の使用。
[9] 処置を必要とする対象者における脳血管障害または血管性認知症を予防もしくは治療するまたは疾患の進行の抑制に使用するための、前記[1]に記載の化合物。
[10] 前記[1]に記載の化合物を含む、脳血管障害または血管性認知症を予防もしくは治療する、または疾患の進行を抑制するための飲食品。
[11] 健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、疾病リスク低減表示が付された食品、または病者用食品である、前記[10]に記載の飲食品。
[12] 治療学的に有効量の前記[1]に記載の化合物を投与することによる、マトリックスメタロプロテアーゼ-9(MMP-9)によるミエリンベーシックタンパク質の減少に起因する疾患を治療する、または疾患の進行を抑制するための方法。
【発明の効果】
【0009】
本願に開示する、抗脂質過酸化性質を有する特定の化合物を含有する医薬組成物は、脳血管障害または血管性認知症を予防もしくは治療、または疾患の進行を抑制するのに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】血管性認知症疾患モデル(Bilateral common artery stenosis (BCAS) model)マウスへの化合物の投与を示す図面である。
図2】血液脳関門破壊抑制の試験結果を示す図面である。エトキシキン(化合物1)を投与した場合の試験結果(A)、およびメチルドパ(化合物2)を投与した場合の試験結果(B)を示す図面である。
図3】ミエリンベーシックタンパク質(myelin basic protein)の減少抑制の試験結果を示す図面である。
図4】新奇物体認識の試験結果を示す図面である。エトキシキン(化合物1)を投与した場合の試験結果(A)、およびメチルドパ(化合物2)を投与した場合の試験結果(B)を示す図面である。
図5】脳血液量への影響の試験結果を示す図面である。エトキシキン(化合物1)を投与した場合の試験結果(A)、およびメチルドパ(化合物2)を投与した場合の試験結果(B)を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(医薬用途)
脳血管障害とは、総称して脳の血管が障害を受けることによって生じる疾患を意味する。脳血管障害とは、脳出血(出血性脳血管障害)および脳梗塞(虚血性脳血管障害)とに大別される。本明細書中で使用する脳血管障害は、脳出血および脳梗塞の両方を包含し、脳梗塞が好ましい。脳出血は更に、血管を詰まらせる原因によって脳血栓および脳塞栓に分類される。本明細書中で使用される脳血管障害とは、これらの疾患または障害の1つ以上の症状を含む。
【0012】
認知症とは、主に血管性認知症(vascular dementia (VaD))とアルツハイマー型認知症とに大別されるが、本願に開示する「認知症」とは、血管性認知症である。血管性認知症は、上述の脳血管障害、例えば脳出血または脳梗塞に起因する認知障害である。認知症の中核症状および中核症状に伴って起こる周辺症状をも包含する。中核症状の例としては、当該分野において知られる症状を意味し、例えば記憶障害、実行機能障害、見当識障害、言語障害(失語)、理解・判断力の低下、および失行・失認などの認知機能の障害を含むが、これらに限定されるものではない。周辺症状は、認知症が中等度から重度に進行するに従い頻繁に出現するようになる症状である。周辺症状の例としては、妄想、睡眠障害、抑うつ、幻覚、攻撃的行動や興奮、意欲の低下、徘徊、介護への抵抗、多動による転倒、衝動的な盗食等による窒息などの飲み込みの障害などを含むが、これらに限定されるものではない。
【0013】
本願明細書中で使用する血管性認知症には、従来から言われてきた40歳から64歳までに発症した初老期認知症に加えて、18歳から39歳までに発症した若年期認知症を含めて総称する若年性認知症を包含する。
【0014】
ミエリンベーシックタンパク質とは、ミエリン(髄鞘)およびミエリン形成細胞であるオリゴデンドログリア細胞(中枢神経組織)やシュワン細胞(末梢神経組織)に局在する特徴的な主要タンパク質である。マトリックスメタロプロテアーゼ-9(MMP-9)は血液脳関門の破壊に関与することが知られ(例えば、Barr, TLら著、Stroke、2010, 41, e123-e128を参照)、そして、ミエリンベーシックタンパク質は、マトリックスメタロプロテアーゼ-9(MMP-9)等の因子によってその分解がみられ、よって、脳血管障害または血管性認知症の診断、治療、予防、または抑制を調べる指標として有用である。
【0015】
本明細書で使用される、脳血管障害および/または血管性認知症の「治療(する)」もしくは「予防(する)」、「進行の抑制(する)」とは、(1)上記脳血管障害および/または血管性認知症、例えば前記1つ以上の具体的な疾患、典型的には血管性認知症および1つ以上の関連症状を除去すること;(2)上記脳血管障害および/または血管性認知症、例えば前記1つ以上の具体的な疾患、典型的には血管性認知症および1つ以上の関連症状の重篤度を軽減または最少化すること;(3)上記脳血管障害および/または血管性認知症、例えば前記1つ以上の具体的な疾患、典型的には血管性認知症および1つ以上の関連症状の進行または発症を遅らせること;および、(4)上記脳血管障害および/または血管性認知症、例えば前記1つ以上の具体的な疾患、典型的には血管性認知症および1つ以上の関連症状の発生または頻度を低減、最小化、または排除すること;の1つ以上を包含する。
【0016】
本明細書で使用される治療等の処置を必要とする「対象者」は、哺乳類であって、ヒトまたは非ヒト動物を含むが、ヒトが好ましい。対象者は、60歳以上(例えば、65歳以上、または70歳以上)の高齢者、および前述の18歳以上から40歳未満までの若年者、および40歳以上から60歳未満の初老者を包含する。本明細書中で本発明による治療等の標的としての対象者とは、脳血管障害および/または血管性認知症の1つ以上の疾患もしくは障害、または関連症状の1つ以上を有する対象者を包含する。
【0017】
本発明は、処置を必要とする対象者における脳血管障害および/または血管性認知症を予防もしくは治療する、または疾患の進行を抑制するための、経口投与または腹腔内投与用の医薬組成物であって、活性薬物として、下記群:アポモルヒネ ((R)-(-)-アポモルヒネ 塩酸)、エセロリン ((-)-エセロリンフマル酸塩)、エトキシキン (6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン)、メチルドパ (メチルドーパ セスキ水和物)、オランザピン(2-メチル-4-(4-メチル-1-ピぺラジニル)-10H-チエノ[2,3-b][1,5]ベンゾジアゼピン)、3-アミノ-4-(フェニルアミノ)安息香酸メチル、3-アミノ-4-((4-メトキシフェニル)アミノ)安息香酸メチル、3-アミノ-4-((3-メトキシフェニル)アミノ)安息香酸メチル、3-アミノ-4-(ベンジルアミノ)安息香酸メチル、3-アミノ-4-((1-フェニルエチル)アミノ)安息香酸メチル、1-(4-(トリフルオロメトキシ)フェニル)インドリン-5-アミン、1-(3,5-ジメチルフェニル)-1H-インドール-6-アミン、1-(3,5-ジメチルフェニル)インドリン-6-アミン、1-(4-メトキシフェニル)-1H-インドール-6-アミン、1-(4-(メチルチオ)フェニル)-1H-インドール-6-アミン、1-(4-(トリフルオロメトキシ)フェニル)-1H-インドール-5-アミン、およびインダパミド (4-クロロ-N-[(2RS)-2-メチル-2,3-ジヒドロ-1H-インドール-1-イル]-3-スルファモイルベンズアミドからなる群、
から選ばれる少なくとも1つの化合物(以下、本明細書中、「本発明の活性薬物」または「本化合物」と呼称することがある)の有効量、および医薬的に許容し得る担体を含む、経口投与または腹腔内投与の医薬組成物(以下、本明細書中、「本発明の医薬組成物」と呼称することがある)、を提供する。
【0018】
ここで、上記化合物群に含まれる化合物は、本願の発明者等によるPCT/JP2018/025496にて、血液脳関門の透過性を示し、また、脂質過酸化抑制効果を示すことを見出した化合物である。これらの化合物の構造式を下記に示す。
・アポモルヒネ ((R)-(-)-アポモルヒネ 塩酸)
【化1】

・エセロリン ((-)-エセロリンフマル酸塩)
【化2】

・エトキシキン (6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン)
【化3】

・メチルドパ (メチルドーパ セスキ水和物)
【化4】

・オランザピン(2-メチル-4-(4-メチル-1-ピぺラジニル)-10H-チエノ[2,3-b][1,5]ベンゾジアゼピン)
【化5】

・3-アミノ-4-(フェニルアミノ)安息香酸メチル
【化6】

・3-アミノ-4-((4-メトキシフェニル)アミノ)安息香酸メチル
【化7】

・3-アミノ-4-(ベンジルアミノ)安息香酸メチル
【化8】

・3-アミノ-4-((1-フェニルエチル)アミノ)安息香酸メチル
【化9】

・1-(4-(トリフルオロメトキシ)フェニル)インドリン-5-アミン
【化10】

・1-(3,5-ジメチルフェニル)-1H-インドール-6-アミン
【化11】

・1-(3,5-ジメチルフェニル)インドリン-6-アミン
【化12】

・1-(4-メトキシフェニル)-1H-インドール-6-アミン
【化13】

・1-(4-(メチルチオ)フェニル)-1H-インドール-6-アミン
【化14】

・1-(4-(トリフルオロメトキシ)フェニル)-1H-インドール-5-アミン
【化15】

・インダパミド(4-クロロ-N-[(2RS)-2-メチル-2,3-ジヒドロ-1H-インドール-1-イル]-3-スルファモイルベンズアミド)
【化16】

活性薬物としての本化合物は、上記化合物およびその医薬的に許容し得る塩の形態を含む。また、本発明の活性薬物またはその医薬的に許容し得る塩は、その水和物または溶媒等の溶媒和物を含む。更に、本発明は、本発明の活性薬物のあらゆる形態の結晶体を含む。
【0019】
医薬的に許容し得る塩としては、例えば有機塩基(例えば、ジエタノールアミン塩、エチレンジアミン塩)との塩、並びに無機塩基(例えば、アルカリ金属(例えば、ナトリウム、カリウム)との塩、およびアルカリ土類金属(例えば、カルシウム、またはマグネシウム)との塩)との塩を含む。
【0020】
1実施態様によれば、活性薬物としての化合物は、下記群:
群:アポモルヒネ((R)-(-)-アポモルヒネ 塩酸)、エセロリン((-)-エセロリンフマル酸塩)、エトキシキン(6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン)、メチルドパ(メチルドーパ セスキ水和物)、オランザピン(2-メチル-4-(4-メチル-1-ピぺラジニル)-10H-チエノ[2,3-b][1,5]ベンゾジアゼピン)、およびインダパミド (4-クロロ-N-[(2RS)-2-メチル-2,3-ジヒドロ-1H-インドール-1-イル]-3-スルファモイルベンズアミド
からなる群、
から選ばれる少なくとも1つの化合物であることが好ましい。
【0021】
1実施態様によれば、活性薬物としての化合物は、下記群:
群:エトキシキン(6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン)、およびメチルドパ(メチルドーパ セスキ水和物)からなる群、
から選ばれる少なくとも1つの化合物であることがより好ましい。
【0022】
本明細書で使用される「有効量」とは、所望の効果、すなわち、本明細書に記載される脳血管障害または血管性認知症の治療もしくは予防、または疾患の進行の抑制、を提供するのに十分な活性薬物の量を意味する。また、本発明の活性薬物または医薬組成物は、所望する疾患または関連する症状についての公知の活性薬物または医薬組成物と組み合わせて使用してもよい。
【0023】
1実施態様によれば、本発明における有効量とは、活性薬物としての本化合物を投与するとき、脳血管障害または血管性認知症の発症を予防する、疾患の症状を治療する、または疾患の症状の進行を抑制する(改善する)ことができる用量であればいかなる用量でもよい。経口投与する場合には、経口的な有効量であればよく、また、腹腔内投与する場合には、腹腔内的な有効量であればよい。
【0024】
有効量の用量域は、使用する化合物の選択、投与経路(例えば、経口投与または腹腔内投与)、製剤の性質、対象者の種類、年齢、体重もしくは性別、または症状の性質もしくは重篤度などの条件に応じて適宜調節することができる。
【0025】
本化合物の有効量は、例えば、経口投与用医薬組成物または腹腔用投与用医薬組成物の重量当たり、約80重量%以下、より好ましくは約50重量%以下が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
本化合物の有効量としては、例えば、1日用量として約0.001~約50mg/体重kgが挙げられる。例えば、経口投与または腹腔内投与の場合は、1日用量として約0.1~約50mg/kgであり、通常約0.2~約10mg/kg、好ましくは約0.3~約2mg/kg、より好ましくは約0.4~約1mg/kgが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0027】
本化合物または本発明の医薬組成物を、1日1回、または複数回(例えば、経口投与または腹腔内投与の場合には2もしくは3回に分けて投与することができる。また、数日~数週に1回または複数回投与することもできる。
【0028】
本明細書で使用される用語「投与(する)」とは、対象者の個体に本化合物もしくはそれを含有する医薬組成物を提供すること、および/または処方すること、あるいは該個体が本化合物もしくは医薬組成物を受けること、等を含む。本化合物もしくは医薬組成物の投与経路は、経口投与経路または腹腔内投与経路のいずれかであり得て、例えば所望する疾患、症状、または被験者の年齢、体重、性別などにより変わり得るが、投与の容易さおよび用量の低減の観点等から、経口投与経路が好ましい。
【0029】
本発明の医薬組成物は、経口投与経路または腹腔内投与経路によって対象者に投与することができる。
【0030】
本発明の医薬組成物は、経口投与用の医薬組成物または腹腔内投与用の医薬組成物として、従来公知の技術を用いて調製され、医薬分野において通常使用される無毒性かつ不活性な担体もしくは添加剤(以下、「医薬的に許容し得る担体」と呼称する)を含有することができる。例えば、経口投与のための医薬組成物(経口剤)としては、例えば、錠剤、細粒剤、カプセル剤、丸剤、顆粒剤、散剤、液剤、懸濁剤などの剤型に製剤化されるが、これらに限定されるものではない。また、腹腔内投与のための医薬組成物としては、注射剤などの剤型に製剤化される。
【0031】
本明細書で使用される「医薬的に許容し得る担体」としては、薬理効果等を妨げない限り、活性薬物としての本化合物に加えて、投与経路および剤形などの各種用途に応じて、種々の活性成分または薬効成分(薬理活性成分および生理活性成分を含む)や添加剤(例えば、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、乳化剤、安定剤、矯味矯臭剤、希釈剤、等張化剤、緩衝化剤、pH調整剤、可溶化剤、増粘剤、分散剤、保存剤(防腐剤))を組み合わせて含有してもよい。このような成分は、刺激等の問題がない濃度範囲内で適宜配合することができ、成分の種類は特に制限されるものではない。
【0032】
本化合物または本発明の医薬組成物を、経口投与用医薬組成物として使用する場合には、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、乳化剤、安定化剤、矯味矯臭剤、または希釈剤などの医薬的に許容し得る担体を含み得る。
【0033】
賦形剤の例としては、有機系賦形剤または無機系賦形剤が挙げられる。有機系賦形剤の例としては、糖誘導体(例えば、乳糖、ショ糖、ブドウ糖、マンニトール、またはソルビトール)、デンプン誘導体(例えば、トウモロコシデンプン、馬鈴れいデンプン、α-デンプン、またはデキストリン)、セルロース誘導体(例えば、結晶セルロース)、アラビアゴム、デキストラン、またはプロラン等から選ばれる1つ以上の化合物が挙げられる。無機系賦形剤の例としては、軽質無水ケイ酸、または硫酸塩(例えば、硫酸カルシウム)から選ばれる1つ以上の化合物が挙げられる。
【0034】
滑沢剤の例としては、ステアリン酸、ステアリン酸金属塩(例えば、ステアリン酸カルシウム、またはステアリン酸マグネシウム)、タルク、コロイドシリカ、ワックス類(例えば、ビーズワックス)、アジピン酸、硫酸塩(例えば、硫酸ナトリウム)、グリコール、フマル酸、安息香酸ナトリウム、D,L-ロイシン、ラウリル硫酸ナトリウム、ケイ類類(例えば、無水ケイ酸、ケイ酸水和物)、または上記の賦形剤において記載するデンプン誘導体から選ばれる1つ以上の化合物が挙げられる。
【0035】
結合剤の例としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール、または上記の賦形剤において記載する化合物から選ばれる1つ以上の化合物が挙げられる。
【0036】
崩壊剤の例としては、セルロース誘導体(例えば、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、または内部架橋カルボキシメチルセルロースカルシウム)、または化学修飾されたデンプンもしくはセルロース誘導体(例えば、カルボキシメチルスターチ、またはカルボキシメチルスターチナトリウム)から選ばれる1つ以上の化合物が挙げられる。
【0037】
乳化剤の例としては、コロイド性粘土(例えば、ベントナイト、またはビーガム)、陰イオン性界面活性剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)、陽イオン性界面活性剤(例えば、塩化ベンザルコニウム)、または非イオン性界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、またはショ糖脂肪酸エステル)から選ばれる1つ以上の化合物が挙げられる。
【0038】
安定化剤の例としては、パラヒドロキシ安息香酸エステル類(例えば、メチルパラベン、またはプロピルパラベン)、アルコール類(例えば、クロロブタノール、ベンジルアルコール、またはフェニルエチルアルコール)、フェノール類(例えば、フェノール、またはクレゾール)、チメロサール、無水酢酸、またはソルビン酸から選ばれる1つ以上の化合物が挙げられる。
【0039】
矯味矯臭剤の例としては、甘味料(例えば、サッカリンナトリウム、またはアスパルテーム)、酸味料(例えば、クエン酸、リンゴ酸、または酒石酸)、または、香料(例えば、メントール、フルーツエキス(例えば、オレンジエキス))から選ばれる1つ以上の化合物が挙げられる。
【0040】
希釈剤の例としては、乳糖、マンニトール、ブドウ糖、ショ糖、硫酸カルシウム、ヒドロキシプロピルセルロース、微結晶性セルロース、水、エタノール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール、デンプン、またはポリビニルピロリドンから選ばれる1つ以上の化合物が挙げられる。
【0041】
本化合物または本発明の医薬組成物を、腹腔用投与用医薬組成物として使用する場合には、注射剤として一般的に配合される担体を含み得る。担体の例としては、溶剤、溶解補助剤、保存剤、安定化剤、乳化剤または懸濁化剤、等張化剤または緩衝剤、pH調節剤、賦形剤、および着色剤などの医薬的に許容し得る担体を含み得る。
【0042】
溶剤の例としては、水性溶剤および非水性溶剤のいずれかであってもよいが、水性溶剤が好ましい。水性溶剤の例としては、水溶液が挙げられ、具体的には薬局方に規定された注射用蒸留水、生理食塩水、またはリンゲル液などから選ばれる1つ以上の化合物が挙げられる。非水性溶剤の例としては、医薬的に許容し得る植物油(例えば、精製した落花生油、ゴマ油、トウモロコシ油、オリーブ油、および綿実油)を挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
溶解補助剤の例としては、安息香酸ナトリウム誘導体(例えば、カフェインの安息香酸ナトリウム)、アミノフィリン誘導体(例えば、アミノフィリンのエチレンジアミン)、またはメグルミン誘導体(例えば、アジピオンメグルミン)などから選ばれる1つ以上の化合物が挙げられる。
【0044】
保存剤の例としては、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、パラオキシ安息香酸メチル、またはフェノールなどから選ばれる1つ以上の化合物が挙げられる。
【0045】
安定化剤の例としては、経口投与用組成物に用いられるものと同じであってよいが、例えば、亜硝酸塩、ピロ亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸、必要に応じてエデト酸ナトリウム(EDTA)、またはチオグリコール酸などから選ばれる1つ以上の化合物が挙げられる。
【0046】
乳化剤または懸濁化剤の例としては、経口投与組成物に用いられるものと同じであってもよいが、例えば、非イオン性界面活性剤、レシチン、またはプルロニックなどから選ばれる1つ以上の化合物が挙げられる。
【0047】
等張化剤の例としては、グリセリン、プロピレングリコール、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、ソルビトール、またはマンニトールから選ばれる1つ以上の化合物が挙げられる。
【0048】
緩衝剤の例としては、リン酸、リン酸塩、クエン酸、酢酸、またはε-アミノカプロン酸から選ばれる1つ以上の化合物が挙げられる。
【0049】
pH調節剤の例としては、塩酸、クエン酸、リン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、ホウ酸、ホウ砂、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、または炭酸水素ナトリウムから選ばれる1つ以上の化合物が挙げられる。
【0050】
賦形剤の例としては、ソルビトール等が挙げられる。
【0051】
着色剤の例としては、医薬的に許容し得る添加剤が挙げられる。
【0052】
本発明の医薬組成物、経口投与剤、または腹腔用投与剤は、それぞれの効力を増加させるための1つまたはそれ以上の化合物を更に含んでもよい。該化合物としては、抗生物質、ステロイド、抗炎症剤、鎮痛剤、界面活性剤、キレート剤、もしくはアジュバント、またはそれらの2つ以上の組み合わせを挙げることができるが、それらに限定されるものではない。
【0053】
本発明に係る飲食品には、本発明に係る有効成分をそのまま、または必要に応じて他の添加剤と混合されてなる組成物の形態で、飲食品に配合してもよい。例えば、本発明に係る飲食品は、本発明に係る有効成分に安定剤等の慣用の添加成分を加えて飲食品として調製したもの、各種タンパク質、糖類、脂肪、微量元素、ビタミン類等を、それらにさらに配合して調製したもの、液状、半液体状もしくは固体状にしたもの、ペースト状にしたもの、または、一般の飲食品へ有効成分を添加したものであってもよい。
【0054】
本発明において、「飲食品」は、医薬以外のものであって、哺乳動物が経口摂取可能な形態のものであれば特に制限はなく、その形態も液状物(溶液、懸濁液、乳濁液など)、半液体状物、粉末、または固体成形物のいずれのものであってもよい。このため飲食品は、例えば飲料の形態であってもよく、また、いわゆるサプリメントのような栄養補助食品の錠剤形態であってもよい。
【0055】
飲食品として具体的には、例えば、即席麺、レトルト食品、缶詰、電子レンジ食品、即席スープ・みそ汁類、フリーズドライ食品などの即席食品類;清涼飲料、果汁飲料、野菜飲料、豆乳飲料、コーヒー飲料、茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、栄養飲料、アルコール飲料などの飲料類;パン、パスタ、麺、ケーキミックス、唐揚げ粉、パン粉などの小麦粉製品;飴、キャラメル、チューイングガム、チョコレート、クッキー、ビスケット、ケーキ、パイ、スナック、クラッカー、和菓子、デザート菓子などの菓子類;ソース、トマト加工調味料、風味調味料、調理ミックス、たれ類、ドレッシング類、つゆ類、カレー・シチューの素類などの調味料;加工油脂、バター、マーガリン、マヨネーズなどの油脂類;乳飲料、ヨーグルト類、乳酸菌飲料、アイスクリーム類、クリーム類などの乳製品;魚肉ハム・ソーセージ、水産練り製品などの水産加工品;畜肉ハム・ソーセージなどの畜産加工品;農産缶詰、ジャム・マーマレード類、漬け物、煮豆、シリアルなどの農産加工品;冷凍食品;栄養食品などが挙げられる。
【0056】
本発明に係る飲食品は、上述したような脳血管障害や認知症の予防、治療、または疾患の進行の抑制を欲している者に対して好適に使用することができる。
【0057】
本発明において「飲食品」には、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、疾病リスク低減表示が付された食品、または、病者用食品のような分類のものも包含される。さらに「飲食品」という用語は、ヒト以外の哺乳動物を対象として使用される場合には、飼料を含む意味で用いられうる。ここでいう特定保健用食品とは、所望の効果の発現を目的として食品の製造または販売等を行う場合に、保健上の観点から、各国(例えば我が国)において法上の何らかの制限を受けることがある食品をいう。このような食品は、食品が疾病リスクを低減する可能性があることを表示した食品、すなわち、疾病リスク低減表示を付した食品であってもよい。ここで、疾病リスク低減表示とは、疾病リスクを低減する可能性のある食品の表示であって、FAO/WHO合同食品規格委員会(コーデックス委員会)の定める規格に基づいて、またはその規格を参考にして、定められた表示または認められた表示でありうる。
【0058】
本発明の飲食品においては、上述した有効成分に加えて、他の機能を有する成分をさらに添加してもよい。また例えば、日常生活で摂取する食品、健康食品、機能性食品、サプリメント(例えば、カルシウム、マグネシウム等のミネラル類、ビタミンK等のビタミン類を1種以上含有する食品)に本発明の有効成分を配合することにより、本発明による効果に加えて、他の成分に基づく機能を併せ持つ飲食品を提供することができる。
【0059】
本発明に係る飲食品の製造にあたっては、通常の飲食品の処方設計に用いられている糖類、香料、果汁、食品添加剤、安定剤などを適宜添加することができる。飲食品の製造は、当該技術分野に公知の製造技術を参照して実施することができる。本発明に係る飲食品は様々な形態を取ることができ、公知の医薬品の製造技術に準じて本発明に係る飲食品を製造してもよい。その場合には、本発明に係る剤や医薬品の製造の項目において述べたような担体や添加剤を用いて製造することができる。また、製造段階において、本発明における機能以外の機能を発揮する他の成分または他の機能性食品と組み合わせることによって、多機能性の飲食品としてもよい。
【0060】
本願に開示する実施態様において、有効成分としてエトキシキンまたはメチルドパを経口投与または腹腔内投与により、血管性認知症疾患モデルのマウスへ投与した場合の、血液脳関門破壊抑制、ミエリンベーシックタンパク質の減少抑制、および脳血流の影響、を調べた結果、血管性認知症の治療等の活性を示すことが示唆された。
【実施例
【0061】
以下に製剤例および試験例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例に使用した化合物、マウスまたは試薬等は、市販のものを入手するか、あるいは公知の方法に従って製造した。
【0062】
製剤例
本発明の医薬組成物の製剤例を以下に示すが、これらに限定されるものではない。
【0063】
(製剤例1)
錠剤
【表1】


一般的に知られる錠剤の製剤化の方法に従って、錠剤を製造する。具体的には、本化合物としてのメチルドパ、トウモロコシデンプン、および乳糖を混合機中で混合し、その混合物にカルボキシメチルセルロースカルシウム、およびヒドロキシプロピルセルロースを加えて造粒し、得られた顆粒を乾燥後整粒し、その整粒した顆粒に、ステアリン酸マグネシウムを加えて混合し、打錠機で打錠する。また、本化合物の添加量を変えることにより、100mgの錠剤中の所望する含有量(例えば、10mg、25mg、または50mg)の錠剤を製造することができる。
【0064】
試験例
本発明の化合物の脳血管障害または血管性認知症の処置などの効力を調べた試験を記載する。
【0065】
(試験例1)
血管性認知症疾患モデルマウスの作製
まず、一般的な血管性認知症疾患モデルマウスの作製方法(例えば、Shibata M, Ohtani R, Ihara M, et al., Stroke 35: 2598-2603, 2004、またはIhara M, Taguchi A, Maki T, et al., Methods Mol Biol 1135: 95-102, 2014)に従って、マウスには、右総頸動脈に0.18mm、および左総頸動脈に0.16mmの微小コイルを装着させた。
次に、血管性認知症疾患モデルマウス(Bilateral common artery stenosis (BCAS) modelと称する)を図1に示す下記のスケジュールに従って作製した。
エトキシキンまたはメチルドパを、100μモル/kgの用量で経口投与または腹腔内投与により、3回/週の割合で試験終了時まで(例えば、1~4週間)投与した。なお、コントロールとして健常マウスを用いた場合の試験結果をあわせて示す。
【0066】
(試験例2)
血液脳関門破壊抑制の試験
試験例1で調製した血管性認知症疾患モデルマウスを手術7日目に安楽死させた。マウス(N(匹数)=4匹)の海馬および線条体組織は、ベンジルスルホニルフルオリド(benzylsulfonyl fluoride)とプロテアーゼインヒビターカクテル(protease inhibitor cocktail)およびオルトバナジン酸ナトリウム(sodium orthovanadate)を含む20 倍量の溶解バッファー(lysis buffer)中にてホモジネートを作成した。ホモジネートを氷上で冷却しながら超音波で破砕し、遠心分離後、上清をビシンコニン酸(BCA)法により蛋白質を定量した。その後、調整した蛋白質サンプルは、一般的に知られる方法に準じて、マトリックスメタロプロテアーゼ-9(MMP-9)に対する抗体を用いたウェスタンブロットの方法に従って、血液脳関門破壊抑制に対する影響を評価した。
Mean + S.D., (n=4), **p<0.01 v.s. ctrl, ##p<0.01, v.s. BCAS
試験結果を図2に示す。化合物1(エトキシキン)(A)および化合物2(メチルドパ)(B)は、血液脳関門破壊の抑制効果を示唆した。
【0067】
(試験例3)
ミエリンベーシックタンパク質(MBP)の減少抑制の試験
試験例1で調製した血管性認知症疾患モデルマウスを手術28日目に安楽死させた。マウス(N(匹数)=6~8匹)の脳の凍結切片を冷アセトンにて10分固定し、PBSで5分間(×3回)洗浄した。0.3%過酸化水素溶液で10分間内因性ペルオキシダーゼのブロッキングを行い、抗MBPポリクローナル抗体にて1日反応させた。その後、PBSで5分間(×3回)洗浄し、2次抗体に60分間反応させた。その後、4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DPI)含有固定細胞用のProLong褪色防止用封入剤(ProLong(登録商標) Gold antifade reagent with DAPI)(インビトロ社製)にて封入し、共焦点レーザースキャン顕微鏡(例えば、LSM700)にて観察、撮像した。
試験結果を図3に示す。化合物1(エトキシキン)および化合物2(メチルドパ)は、ミエリンベーシックタンパク質の減少抑制の効果を示唆した。
【0068】
(試験例4)
新奇物体認識試験
新奇性を好むというげっ歯類の特性を利用した新奇物体認識試験を行った。予め観察箱に馴化させておいた試験例1で調製した血管性認知症疾患モデルマウス(N(匹数)=8-10匹)を、2時間後同一の観察箱に入れ、2個の同一物体を10分間自由に探索させた(獲得試行)。一定時間経過後、片方の物体を新規の物体に変え、再度動物を観察箱に入れ、物体の探索時間を10分間測定した(テスト試行)。新規物体、学習済み物体の探索時間をそれぞれN、Fとし、下記式:総探索時間(Exploration time)= N+F、弁別指数(Discrimination Index)= (N-F)/(N+F)として算出した。
Mean + S.D., (n=8-10), *p<0.05 v.s. ctrl(control), #p<0.05 v.s.BCAS
試験結果を図4に示す。化合物1(エトキシキン)(A)および化合物2(メチルドパ)(B)は、長期的空間記憶における認知機能障害の改善を示した。
【0069】
(試験例5)
脳血流の影響の試験
試験例1で調製するための血管性認知症疾患モデルマウス(N(匹数)=6~8匹)について、中大脳動脈と前大脳動脈の境界部(Blegma)の脳血流量を、虚血手術直前、直後、1日後、4日後、7日後、14日後に測定した。脳血流量は、レーザドップラー(Laser-Doppler)血流計プローブを頭蓋骨に固定し測定し、脳血流は虚血直前の血流量に対する比率で評価した。
エトキシキンまたはメチルドパを、50、75、あるいは100μモル/kgの用量で経口投与により、3回/週の割合で試験終了時まで(例えば、1~4週間)投与した。
試験結果を図5に示す。化合物1(エトキシキン)(A)および化合物2(メチルドパ)(B)は、脳血流に影響を及ぼさないことを示唆した。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本化合物または本発明の医薬組成物は、脳血管障害または血管性認知症の治療等のための、経口投与または腹腔内投与用の医薬として有用である。
図1
図2
図3
図4
図5