(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】筒型リニアモータ
(51)【国際特許分類】
H02K 41/03 20060101AFI20241111BHJP
【FI】
H02K41/03 A
(21)【出願番号】P 2021035113
(22)【出願日】2021-03-05
【審査請求日】2023-12-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】カヤバ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391002487
【氏名又は名称】学校法人大同学園
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】加納 善明
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩介
(72)【発明者】
【氏名】袴田 眞一郎
(72)【発明者】
【氏名】芝原 大智
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-290926(JP,A)
【文献】特開2005-237165(JP,A)
【文献】特開2007-312449(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105406684(CN,A)
【文献】米国特許第04965864(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 41/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻線を有する電機子と、
筒状であって電機子の内周側或いは外周側に軸方向へ移動可能に配置されて軸方向にN極の磁極とS極の磁極とが交互に配置される界磁とを備え、
前記界磁は、環状であって電機子に対向する周に環状の凹部を有して軸方向で異なる極が現れるように着磁され
るとともに同極同士が向き合うように積層させ
た複数の磁石のみで形成され、
前記磁石は、前記凹部を挟んで軸方向の両端で異なる極を有する
ことを特徴とする筒型リニアモータ。
【請求項2】
前記界磁は、電機子側の周に環状の凹部を備えた1種類の磁石を同極同士が隣り合うように軸方向に積層されて形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の筒型リニアモータ。
【請求項3】
前記凹部は、前記磁石の軸方向で中央を極の境に一致させて設けられている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の筒型リニアモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒型リニアモータに関する。
【背景技術】
【0002】
筒型リニアモータは、たとえば、筒状の強磁性体で形成された芯部材と、芯部材の外周に巻回された巻線とを有する電機子と、筒状であって内周側に配置される固定子に対して磁界を作用させる界磁とを備えている。
【0003】
界磁は、環状であって径方向に着磁されて磁化方向が反対向きになるように交互に積層される主磁極となる複数の永久磁石と、環状であって軸方向に着磁されて磁化方向が内外逆向きとなるように主磁極間に交互に介装される副磁極となる複数の永久磁石とを備えている。このように構成された界磁は、永久磁石で所謂ハルバッハ配列を構成しており、電機子側に磁界を集中させて筒型リニアモータの推力の向上を図っている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の筒型リニアモータでは、磁化方向が径方向であって主磁極を構成する2種類の永久磁石と、磁化方向が軸方向であって副磁極を構成する1種類の永久磁石、合計3種類の永久磁石をハルバッハ配列となるように積層する必要があり、界磁の構成が複雑であって製造も面倒であるためにコストが嵩んでしまう。
【0006】
また、ハルバッハ配列を採用した界磁では、永久磁石の反電機子側の周囲に筒状であって鉄製のヨークを設けて磁気抵抗を小さくしてより多くの磁束を電機子側へ通過させる必要があるため、筒型リニアモータの重量増加を招いてしまう。筒型リニアモータの重量増加は、筒型リニアモータの最大推力を筒型リニアモータの質量で割った数値である質量推力密度を悪化させるため、筒型リニアモータの軽量化が望まれる。質量推力密度は、筒型リニアモータの性能を示す一つの指標であって、数値が高い程、効率よく推力を発揮できることを示す。
【0007】
このように、従来の筒型リニアモータには、界磁の構造が複雑でコストが嵩むとともに重量増加という解決すべき課題がある。
【0008】
そこで、本発明は、界磁の構造が簡単でコストを低減できるとともに軽量化を実現できる筒型リニアモータの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明の筒型リニアモータは、巻線を有する電機子と、筒状であって電機子の内周側或いは外周側に軸方向へ移動可能に配置されて軸方向にN極の磁極とS極の磁極とが交互に配置される界磁とを備え、界磁は、環状であって電機子に対向する周に環状の凹部を有して軸方向で異なる極が現れるように着磁されるとともに同極同士が向き合うように積層させた複数の磁石のみで形成され、磁石は凹部を挟んで軸方向の両端で異なる極を有している。
【0010】
このように構成された筒型リニアモータによれば、環状の磁石が電機子側の周に環状の凹部を備えているので、磁石の磁力線は磁石内を通って磁石の電機子側の周面の凹部を挟むN極から発してS極へ向かうため、磁石が発生する磁界を電機子へ効率よく作用させ得る。また、筒型リニアモータによれば、環状の磁石が電機子側の周に環状の凹部を備えているので、磁石長が単なる環状の永久磁石に比較して長くなるとともに、磁石の反電機子側の空隙を磁力線が通過しないので、磁気抵抗も小さくなるため、バックヨークを設けずともに強い磁界を電機子へ作用させ得る。
【0011】
また、このように構成された筒型リニアモータでは、界磁が環状であって電機子側の周に環状の凹部を備えた1種類の磁石を同極同士が隣り合うように軸方向に積層する構成を採用しているため、3種類の永久磁石を磁化方向に気を付けながら交互に積層して製造しなければならないハルバッハ配列を採用した界磁を利用した筒型リニアモータに比較して界磁の構造が簡単となり製造も容易となってコストも低減できる。
【0012】
また、磁石における凹部が磁石の軸方向で中央をS極とN極の境に一致させて設けられていてもよい。つまり、凹部の軸方向の中央が磁石のS極とN極の境に一致してしていてもよい。このように構成された筒型リニアモータによれば、磁力線がバランスよく電機子を通るため、コギング推力を低減できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の筒型リニアモータによれば、界磁の構造が簡単でコストを低減できるとともに軽量化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一実施の形態における筒型リニアモータの縦断面図である。
【
図2】一実施の形態の筒型リニアモータの電機子と界磁の一部拡大縦断面図である。
【
図3】一実施の形態の筒型リニアモータの磁石の磁束の流れを示した図である。
【
図4】一実施の形態の筒型リニアモータの界磁における磁気回路の等価回路を示した図である。
【
図5】永久磁石をハルバッハ配列で積層して界磁を構成した場合の磁気回路の等価回路を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。一実施の形態における筒型リニアモータ1は、
図1に示すように、巻線4を有する電機子2と、筒状であって電機子の外周側に軸方向へ移動可能に配置されて軸方向にN極の磁極とS極の磁極とが交互に配置される界磁5とを備えて構成されている。
【0016】
以下、筒型リニアモータ1の各部について詳細に説明する。本実施の形態の筒型リニアモータ1における電機子2は、前述したように、コア3と巻線4とを備えている。コア3は、円筒状のコア本体3aと、環状であってコア本体3aの外周に軸方向に間隔を空けて設けられる複数のティース3bとを備えて、本実施の形態では筒型リニアモータ1において固定子とされている。
【0017】
コア本体3aは、前述の通り円筒状であって、その横断面積は、コア3の軸線を中心とする円筒でティース3bの内周から外周までのどこを切っても、ティース3bを前記円筒で切断した際にできる断面の面積以上となるように肉厚が確保されている。
【0018】
本実施の形態では、
図1に示すように、コア本体3aの外周に10個のティース3bが、軸方向に等間隔に並べて設けられており、ティース3b,3b間に巻線4が装着される空隙でなるスロット3cが形成されている。なお、本実施の形態では、ティース3bは、断面形状を台形にして外周における幅よりも内周における幅を大きくして内周側の磁路断面積を大きく確保しているが、内周から外周まで軸方向長さ(幅)が等しい矩形の断面形状をしていてもよい。
【0019】
また、本実施の形態では、
図1中で隣り合うティース3b,3b同士の間には、空隙でなるスロット3cが合計で9個設けられている。そして、このスロット3cには、巻線4が巻き回されて装着されている。巻線4は、U相、V相およびW相の三相巻線とされている。9個のスロット3cには、
図1中左側から順に、W相とU相、U相、U相、U相とV相、V相、V相、V相とW相、W相、W相の巻線4が装着されている。
【0020】
そして、このように構成された電機子2は、出力軸である非磁性体で形成されたロッド11の外周に装着されている。具体的には、電機子2は、その
図1中で左端と右端とがロッド11の
図1中右端側となる先端側の外周に固定される環状のスライダ12,13によって挟持されて、ロッド11に固定されている。なお、電機子2を保持したロッド11は、界磁5内に軸方向移動自在に挿入されている。ロッド11の
図1中左端は、界磁5の外周を覆うバレル8の
図1中左端に装着された環状のヘッドキャップ15内を通じてバレル8から外方へ突出している。また、ロッド11の
図1中左端側となる基端側は、筒型リニアモータ1が設置される機器等への取り付けを可能とするブラケット16が取り付けられている。
【0021】
なお、各スロット3cに装着された同相の巻線4同士は、図示しない渡り線によって直列に接続されており、直列接続された各相の一端の巻線4同士が電機子2の
図1中右端側で結線されている。さらに、直列接続された各相の他端の巻線4から引き出されたリード線Lは、ロッド11とロッド11の外周を覆う筒状のカバー14との間の環状隙間内を通じてロッド11の
図1中左端となる基端側から筒型リニアモータ1の外方へと引き出されて図示しない筒型リニアモータ1の駆動回路を介して電源に接続される。
【0022】
他方、界磁5は、本実施の形態では、円筒状の非磁性体で形成される筒状のバレル8とバレル8内に挿入される円筒状の非磁性体のインナーチューブ9との間に形成される環状隙間に収容されている。界磁5は、バレル8およびインナーチューブ9とともに筒型リニアモータ1において可動子を構成しており、インナーチューブ9内に挿入される固定子である電機子2に対して軸方向へ移動可能となっている。
【0023】
界磁5は、環状であって電機子2に対向する内周に環状の凹部7を有して軸方向で異なる極が現れるように着磁された複数の磁石6を同極同士が向き合うように積層させて形成されている。磁石6は、環状の永久磁石であって、電機子2に対向している内周に全周に亘って形成される環状の凹部7を備えており、軸方向の一方にS極が備えるとともに軸方向の他方にN極を備えている。なお、本実施の形態では、凹部7は、磁石6の内周に全周に亘って連続する溝で形成されていればよく、磁石6の周方向に対して傾きをもって設けられてもよい。
【0024】
また、磁石6は、
図2に示すように、磁化方向が凹部7に沿って電機子側面となる内周面の凹部7を挟んで一方側にN極が、他方側にS極が現れるよう着磁されている。
【0025】
このように構成された磁石6は、軸方向に積層されて界磁5を形成するが、同極同士が互いに軸方向で向き合うようにして積層される。つまり、
図2に示すように、隣り合う磁石6は、S極同士或いはN極同士が隣接するように互いに反対向きにして交互に積層される。よって、
図2に示したところでは、
図1中左端の磁石6の磁極がN極である場合、左端の磁石6の磁極は軸方向で左からN極、S極の順となるように配置され、左から2番目の磁石6の磁極は軸方向でS極、N極の順となるように配置され、以降、これを繰り返すパターンで磁石6が軸方向に積層される。そして、界磁5において磁石6が前述したように積層されるので、界磁5の全体としては軸方向に交互にS極とN極が現れる。
【0026】
このように積層された磁石6の磁束は、
図3に示すように、磁石6内を通ってN極から電機子2側となる内周側を通ってS極へ向かうため、界磁5の内周の電機子2へ磁界を集中させ得る。なお、
図3では、バレル8とインナーチューブ9の記載を省略している。
【0027】
界磁5における磁石6の磁気回路の等価回路は、
図4に示したモデルとなる。なお、
図4に示した磁気回路では、説明を簡単にするため、電機子2におけるコア3の磁気抵抗を無視している。よって、界磁5における磁石6の磁束をΦgとし、磁石6の内周側(電機子2側)の空隙を通過するエアギャップの磁気抵抗をRgとし、磁石6内の磁気抵抗をRmとし、磁石6の保磁力をHcとし、磁石長をLmとすると、磁束Φgは、次式のΦg=(Hc×Lm)/(Rm+Rg)で求めることができる。
【0028】
これに対して、磁化方向が軸方向に着磁された環状の永久磁石と径方向に着磁された環状の永久磁石とをハルバッハ配列で積層して界磁を構成し、バックヨークを設けない場合の磁気回路の等価回路は、
図5に示したモデルとなる。
図5に示した磁気回路では、
図4に示した磁気回路と同様に、説明を簡単にするため、電機子2におけるコア3の磁気抵抗を無視している。この場合、磁束が界磁の内周側だけではなく界磁の外周側の空隙を通過するため、
図5の等価回路では、磁気回路中に界磁の外周側のエアギャップの磁気抵抗Rairが界磁の内周側のエアギャップの磁気抵抗Rghと永久磁石の磁気抵抗Rmhとに直列に接続された回路となる。永久磁石の保磁力をHchとし、磁石長をLmhとすると、ハルバッハ配列の永久磁石による磁束Φghの大きさは、次式のΦgh=(Hch×Lmh)/(Rmh+Rgh+Rair)で求めることができる。
【0029】
ここで、磁石6は、内周に凹部7を備えている関係上、ハルバッハ配列の主磁極を構成する径方向着磁の永久磁石と軸方向長さが同じであっても、磁石6の磁石長Lmはハルバッハ配列の永久磁石の磁石長Lmhよりも長くなる。保磁力Hcと保磁力Hch、磁石内部の磁気抵抗RmとRmh、エアギャップの磁気抵抗Rg、RghおよびRairがそれぞれ等しいとすると、(Hc×Lm)>(Hch×Lmh)且つ(Rm+Rg)<(Rmh+Rgh+Rair)となる。よって、Φg>>Φghの関係となる。
【0030】
本実施の形態の筒型リニアモータ1の界磁5が電機子2へ作用させ磁界の強さは前述の磁束Φgに比例し、ハルバッハ配列で積層した永久磁石による界磁が内周側の電機子へ作用させ得る磁界の強さは前述の磁束Φghに比例する。以上より、本実施の形態の筒型リニアモータ1の界磁5が電機子2へ作用させ得る磁界は、バックヨークを設けずにハルバッハ配列で積層した永久磁石による界磁が電機子へ作用させ得る磁界よりも非常に強くなることが分かる。このことから、ハルバッハ配列で積層した永久磁石による界磁で電機子に強い磁界を作用させるにはバックヨークを設けて磁気抵抗Rairを小さくするほかなく、換言すれば永久磁石をハルバッハ配列で積層して界磁を構成する場合にはバックヨークが必要不可欠となる。
【0031】
これに対して、本実施の形態の筒型リニアモータ1の界磁5では、バックヨークを設けずとも十分に大きな磁束Φgが電機子2を通過するようになるので、ハルバッハ配列で積層して界磁を構成する場合に比較した場合、バックヨークを省略でき、その分、筒型リニアモータ1の質量を軽量にし得る。
【0032】
つづいて、インナーチューブ9は、筒状であって非磁性体で形成されており、界磁5の内周に嵌合されている。さらに、インナーチューブ9の
図1中左端には、環状の内径がインナーチューブ9の内径よりも小径で外径がインナーチューブ9の外径よりも大径なヘッドキャップ15が一体に設けられている。また、インナーチューブ9の内周には、スライダ12,13が摺接しており、スライダ12,13によって電機子2はロッド11とともに界磁5に対して偏心せずに軸方向へスムーズに移動できる。インナーチューブ9は、コア3の外周と界磁5の内周との間の環状の隙間を形成するとともに、スライダ12,13と協働して電機子2の軸方向移動を案内する役割を果たしている。なお、インナーチューブ9は、非磁性体で形成されればよいが、合成樹脂で形成されると筒型リニアモータ1の質量推力密度向上効果が高くなる。また、インナーチューブ9は、電機子2を界磁5に挿入する際に、コア3の界磁5への吸着を防ぐので、良好な組立性を実現できる。このように、インナーチューブ9を設ける利点は多々あるが、インナーチューブ9の省略も可能である。
【0033】
また、インナーチューブ9を非磁性体の金属としてもよいが、非磁性体の金属である場合、電機子2が軸方向へ移動する際にインナーチューブ9の内部に渦電流が生じて、電機子2の移動を妨げる力が発生してしまう。これに対して、インナーチューブ9を合成樹脂とすれば渦電流が生じないので筒型リニアモータ1の推力をより効果的に向上できるとともに、筒型リニアモータ1の質量を低減できる。なお、インナーチューブ9を合成樹脂とする場合、フッ素樹脂で製造すればスライダ12,13との間の摩擦および摩耗を低減できる。また、インナーチューブ9を他の合成樹脂で形成してもよく、また、摩擦および摩耗を低減するべく他の合成樹脂で形成されたインナーチューブ9の内周をフッ素樹脂でコーティングしてもよい。
【0034】
バレル8は、非磁性体で形成されており、界磁5の磁力によってバレル8の外周に砂鉄等のコンタミナントの付着が防止されている。そして、バレル8およびインナーチューブ9の
図1中右端は、バレル8に螺子締結されるキャップ17によって閉塞されており、バレル8の
図1中左端は、インナーチューブ9の左端に設けられてバレル8の内周に螺子締結されるヘッドキャップ15によって閉塞されている。また、本実施の形態では、インナーチューブ9とヘッドキャップ15とが一体とされて一部品として構成されているが、インナーチューブ9とヘッドキャップ15とは別部品として構成されてもよい。さらに、バレル8とヘッドキャップ15およびキャップ17の固定に際しては、螺子締結以外にもボルトやナットによる締結や溶接といった他の固定方法を採用してもよい。
【0035】
なお、ヘッドキャップ15は、内周に挿入されるロッド11を覆うカバー14の軸回りをシールするシール部材15aを備えており、筒型リニアモータ1内へのダストや水などの侵入を防止している。また、バレル8およびインナーチューブ9の軸方向長さは、電機子2とスライダ12,13との合計の軸方向長さよりも長く、電機子2は、界磁5内の軸方向長さの範囲で
図1中左右へストロークできる。
【0036】
なお、界磁5は、前述したように、11個の磁石6を積層して構成されており、バレル8の両端を閉塞するヘッドキャップ15とキャップ17とで挟持されてバレル8に固定される。なお、界磁5の
図1中左端とヘッドキャップ15との間、および、界磁5の
図1中右端とキャップ17との間には、それぞれ環状のスペーサ18,19が介装されており、これらスペーサ18,19によって界磁5のバレル8に対する軸方向の位置が調整されている。スペーサ18,19は、界磁5の位置調整が不要であれば、省略できる。また、スペーサ18,19は、それぞれ複数のワッシャを積層して構成されてもよい。
【0037】
キャップ17は、
図1中右端に筒型リニアモータ1を機器等への取り付け可能なブラケット17aを備えている。筒型リニアモータ1は、固定子側となるロッド11の基端に取り付けられたブラケット16と、可動子側となるバレル8の端部を閉塞するキャップ17に設けられたブラケット17aを利用して機器等へ取り付けられて使用される。
【0038】
筒型リニアモータ1は、電機子2と界磁5とが互いに軸方向へ相対移動でき、巻線4への通電によって可動子である界磁5を軸方向に駆動して前記機器等へ推力を与えることができる。そして、たとえば、巻線4に対する界磁5の電気角をセンシングし、前記電気角に基づいて通電位相切換を行うとともにPWM制御により、各巻線4の電流量を制御すれば、筒型リニアモータ1における推力と可動子である界磁5の移動方向とを制御できる。なお、前述の制御方法は、一例でありこれに限られない。このように、本実施の形態の筒型リニアモータ1では、電機子2が固定子であり、界磁5は可動子として振る舞う。また、電機子2と界磁5とを軸方向に相対変位させる外力が作用する場合、巻線4への通電、あるいは、巻線4に発生する誘導起電力によって、前記相対変位を抑制する推力を発生させて筒型リニアモータ1に前記外力による機器の振動や運動をダンピングさせ得るし、外力から電力を生むエネルギ回生も可能である。
【0039】
以上のように、本実施の形態の筒型リニアモータ1は、巻線4を有する電機子2と、筒状であって電機子2の外周側に軸方向へ移動可能に配置されて軸方向にN極の磁極とS極の磁極とが交互に配置される界磁5とを備え、界磁5は、環状であって電機子2に対向する内周に環状の凹部7を有して軸方向で異なる極が現れるように着磁された複数の磁石6を同極同士が向き合うように積層させて形成されている。
【0040】
このように構成された筒型リニアモータ1によれば、環状の磁石6が電機子側の周に環状の凹部7を備えているので、磁石6の磁力線は磁石6内を通って磁石6の電機子側の周面の凹部7を挟むN極から発してS極へ向かうため、磁石6が発生する磁界を電機子2へ効率よく作用させ得る。つまり、磁石6の電機子側を向く周面に凹部7を挟んでN極とS極とを配置させているので、前記周面のN極からS極へ向かう多くの磁力線が電機子2を横切るようになるので、強い磁界を電機子2へ作用させる。
【0041】
また、筒型リニアモータ1によれば、環状の磁石6が電機子側の周に環状の凹部7を備えているので、磁石長Lmが単なる環状の永久磁石に比較して長くなるとともに、磁石6の反電機子側の空隙を磁力線が通過しないので、磁気抵抗も小さくなるため、バックヨークを設けずとも強い磁界を電機子2へ作用させ得る。このように、本実施の形態の筒型リニアモータ1では、バックヨークを備える必要がないので、その分、軽量化できる。
【0042】
本実施の形態の筒型リニアモータ1では、界磁5が環状であって電機子側の周に環状の凹部7を備えた1種類の磁石6を同極同士が隣り合うように軸方向に積層する構成を採用しているため、3種類の永久磁石を磁化方向に気を付けながら交互に積層して製造しなければならないハルバッハ配列を採用した界磁を利用した筒型リニアモータに比較して界磁5の構造が簡単であって製造も容易となってコストも低減できる。
【0043】
以上より、本実施の形態の筒型リニアモータ1によれば、界磁5の構造が簡単でコストを低減できるとともに筒型リニアモータ1の軽量化を実現できる。また、本実施の形態の筒型リニアモータ1によれば、バックヨークが不要となって質量を軽量化できるため、質量推力密度を向上させ得る。
【0044】
なお、本実施の形態の筒型リニアモータ1では、電機子2の外周側に筒状の界磁5を配置する構造を採用しているが、コア3の内周側にティース3bを設けてコア3の内周側に巻線4が装着されるスロット3cを形成して、電機子2の内側に界磁5を挿入する構造を採用してもよい。このように、
図1の筒型リニアモータ1の電機子2と界磁5の配置を内と外を逆転させて、電機子2の内周に界磁5を挿入する構造を採用する場合、界磁5における磁石6の外周に全周に亘って形成される環状の凹部7を設ければよい。このようにしても、磁束は、磁石6内を通って電機子2を通過するようになるため、磁石6の反電機子側となる内周側にバックヨークを設ける必要がなく、界磁5の構造が簡単でコストを低減できるとともに筒型リニアモータ1の軽量化を実現できる。以上のように、電機子2と界磁5の内外の配置関係によらず、界磁5における磁石6は、常に電機子側の周に環状の凹部7を備えていればよいことが理解できよう。さらに、本実施の形態の筒型リニアモータ1は、筒状のコア3と、コア3に装着される巻線4とを備えた電機子2を備えているが、コア3を廃止して巻線4を樹脂モールドして形成される電機子を備えたコアレスモータとされもよい。このように筒型リニアモータ1をコアレスモータとすることで、コアによる磁気抵抗のない磁気回路を構成できる点で有利となる。
【0045】
なお、磁石6は、図示したところでは、断面矩形の円環の電機子側の周に環状の断面U字状の凹部7を設けた形状となっているが、凹部7の断面形状はU字状に限られず円弧、三角形、矩形等、任意に変更可能である。また、磁石6の反電機子側の形状は、磁路断面積が確保できていれば、任意に変更できる。よって、磁石6の凹部7を含んだ断面形状は、山型、C字型、U字型、コの字型等、任意に設計変更できる。
【0046】
また、本実施の形態の筒型リニアモータ1では、凹部7が磁石6の軸方向で中央をS極とN極の境に一致させて設けられている。つまり、
図2中の線Cで示した凹部7の軸方向の中央は、磁石6のS極とN極の境に一致しており、磁力線がバランスよく電機子2を通るため、コギング推力を低減できる。 以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。
【符号の説明】
【0047】
1・・・筒型リニアモータ、2・・・電機子、3・・・コア、4・・・巻線、5・・・界磁、6・・・磁石、7・・・凹部