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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】冷却システム
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/48 20060101AFI20241111BHJP
【FI】
H01L23/48 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021518374
(86)(22)【出願日】2020-04-30
(86)【国際出願番号】 JP2020018220
(87)【国際公開番号】W WO2020226115
(87)【国際公開日】2020-11-12
【審査請求日】2023-03-15
(31)【優先権主張番号】P 2019089090
(32)【優先日】2019-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構NEDO先導研究プログラム/エネルギー・環境新技術先導研究プログラム/エクセルギー損失削減のための熱交換・熱制御技術/委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高田 保之
(72)【発明者】
【氏名】高橋 厚史
(72)【発明者】
【氏名】シェン ビャオ
(72)【発明者】
【氏名】布村 順司
(72)【発明者】
【氏名】戸次 洋一郎
(72)【発明者】
【氏名】深津 明弘
【審査官】庄司 一隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-058103(JP,A)
【文献】特開2008-039378(JP,A)
【文献】特開2004-044916(JP,A)
【文献】特表2011-530195(JP,A)
【文献】特開2015-059683(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝熱部材と、冷媒とを備えた冷却システムであって、
前記伝熱部材は、アルコールを冷媒とする冷却システムに用いられることができるように構成されているとともに、
発熱体からの熱を受けることができるように構成された受熱面と、
前記受熱面において受けた熱を前記冷媒に放熱することができるように構成された放熱面と、を有し、
前記放熱面は、平均孔径が5nm以上1000nm以下である複数の細孔を有しているとともに、
エタノールとの接触角が40°以下である親冷媒部と、
前記親冷媒部に隣接して配置され、エタノールとの接触角が90°以上である疎冷媒部を有しており、
前記冷却システムは、前記冷媒が沸騰し始める際の、前記放熱面上における前記冷媒の過熱度が20K以下となるように構成されている、冷却システム。
【請求項2】
前記細孔の平均深さは0.05μm以上10μm以下である、請求項1に記載の冷却システム。
【請求項3】
前記放熱面は、複数の前記疎冷媒部を有している、請求項1または2に記載の冷却システム。
【請求項4】
前記冷媒はエタノールである、請求項1~3のいずれか1項に記載の冷却システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝熱部材及び冷却システムに関する。
【背景技術】
【0002】
エアーコンディショナーやチラー、ボイラー、熱機関発電機等の発熱量の大きい機器には、沸騰冷却器などの冷媒の相変化を利用した冷却システムが組み込まれていることがある。近年では、この種の冷却システムが発熱密度の高い半導体部品やデータセンターに用いられる電子機器等の冷却に用いられることもある。冷却システムの冷却効率を向上させるためには、冷却システムが、その放熱面に接触した冷媒が沸騰を起こす温度領域で運転されることが望ましい。
【0003】
半導体部品や電子機器等を熱から保護するためには、半導体部品等の動作中の温度を低く保つことが求められる。そのため、沸騰伝熱を利用した半導体部品等の冷却システムには、水よりも低い沸点を備えたフッ化炭素が冷媒として用いられることが多い。しかし、フッ化炭素は、高い温暖化係数を有しているため、環境負荷の低減の観点から、フッ化炭素に代わる冷媒が求められている。
【0004】
かかる問題に対し、例えばエタノールのような、環境負荷が小さく、沸点の低い液体を冷媒として使用する技術が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-16277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、エタノール等のアルコールはフッ化炭素と比べてやや沸点が高いので、アルコールを冷媒として用いた沸騰冷却システムには従来のフッ化炭素を用いた沸騰冷却システムと比較して更なる改善が求められている。
【0007】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、環境負荷の低い冷媒を用いて冷却効率を高めることができる伝熱部材及び冷却システムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一参考態様は、アルコールを冷媒とする冷却システムに用いることができるように構成された伝熱部材であって、
前記伝熱部材は、
発熱体からの熱を受けることができるように構成された受熱面と、
前記受熱面において受けた熱を前記冷媒に放熱することができるように構成された放熱面と、を有し、
前記放熱面は、平均孔径が5nm以上1000nm以下である複数の細孔を有している、伝熱部材にある。
【0009】
本発明の他の態様は、前記の態様の伝熱部材と、前記冷媒とを備えた冷却システムであって、
前記伝熱部材の前記放熱面は、エタノールとの接触角が40°以下である親冷媒部と、
前記親冷媒部に隣接して配置され、エタノールとの接触角が90°以上である疎冷媒部を有しており、
前記冷却システムは、前記冷媒が沸騰し始める際の、前記放熱面上における前記冷媒の過熱度が20K以下となるように構成されている、冷却システムにある。
にある。
【発明の効果】
【0010】
前記伝熱部材は、前記冷媒と熱交換を行う放熱面に、平均孔径が5nm以上1000nm以下である複数の細孔を有している。このように、放熱面に細孔を設けることにより、伝熱部材と冷媒とが接触する面積を広くすることができる。
【0011】
特に、放熱面に設けられた細孔の平均孔径は、前記特定の冷媒に対して最適な範囲となっている。そのため、前記伝熱部材は、冷媒が過熱状態に置かれた際に、細孔内に多数の気泡を形成することができ、更には、細孔内で成長した気泡を早期に細孔から脱離させることができる。それ故、前記伝熱部材は、冷媒が沸騰した後すぐに、細孔から多数の微細な気泡を発生させることができる。その結果、放熱面における熱伝達率を向上させ、ひいては冷却性能を向上させることができる。
【0012】
以上のように、前記伝熱部材によれば、環境負荷の低い冷媒を用いて冷却効率を高めることができる伝熱部材及び冷却システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施例1における伝熱部材の斜視図である。
図2図2は、実施例1の伝熱部材における放熱面の模式図である。
図3図3は、実施例1において使用するサブクールプール沸騰実験用の実験装置の要部を示す断面図である。
図4図4は、実施例1の伝熱部材を用いたサブクールプール沸騰実験における沸騰曲線である。
図5図5は、実施例2の伝熱部材を用いたサブクールプール沸騰実験における沸騰曲線である。
図6図6は、実施例3における伝熱部材の放熱面の平面図である。
図7図7は、実施例3の伝熱部材を用いたサブクールプール沸騰実験における沸騰曲線である。
図8図8は、実施例4及び実施例5の伝熱部材を用いたサブクールプール沸騰実験における沸騰曲線である。
図9図9は、実施例6及び実施例7の伝熱部材を用いたサブクールプール沸騰実験における沸騰曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
前記伝熱部材は、例えば、ヒートパイプに用いられるパイプやヒートシンク等として構成することができる。伝熱部材の材質は特に限定されることはないが、冷却性能をより向上させる観点から、伝熱部材は、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金等の熱伝導率の高い物質から構成されていることが好ましい。
【0015】
伝熱部材は、発熱体からの熱を受けることができるように構成された受熱面と、冷媒と接触し、受熱面において受けた熱を冷媒に放熱することができるように構成された放熱面と、を有している。また、放熱面には、前記特定の範囲の平均孔径を備えた複数の細孔が設けられている。細孔は、放熱面の全面に設けられていてもよいし、一部の領域にのみ設けられていてもよい。伝熱部材の冷却性能を向上させる観点から、放熱面は、受熱面の背面に配置されていることが好ましい。
【0016】
細孔の平均孔径は、5nm以上1000nm以下である。細孔の平均孔径を前記特定の範囲とすることにより、前記特定の冷媒が沸騰している間、細孔内において容易に気泡を形成することができる。更に、細孔の平均孔径を前記特定の範囲とすることにより、細孔内において発生した気泡が過度に成長することを抑制し、気泡の大きさが比較的小さい段階で細孔から気泡を脱離させることができる。
【0017】
そして、細孔内で形成された気泡を早期に脱離させることにより、細孔内に冷媒を供給し、次の気泡を形成することができる。これらの結果、細孔から多数の微細な気泡を発生させ、沸騰時の熱伝達率を向上させ、ひいては冷却性能を向上させることができる。
【0018】
かかる作用効果をより高める観点からは、細孔の平均孔径は10nm以上1000nm以下であることが好ましく、10nm以上700nm以下であることがより好ましく、10nm以上500nm以下であることがさらに好ましく、10nm以上200nm以下であることが特に好ましい。
【0019】
細孔の平均孔径は、以下の方法により算出することができる。まず、走査型電子顕微鏡(つまり、SEM)を用いて放熱面を観察し、細孔のSEM像を取得する。SEMの倍率は特に限定されることはないが、視野内に複数の細孔が含まれるように設定することが好ましい。次に、得られたSEM像に存在する個々の細孔の円相当径を算出する。そして、これらの円相当径の算術平均値を細孔の平均孔径とすればよい。細孔の平均孔径を算出するために用いる細孔の数は特に限定されることはないが、例えば、10個以上であればよい。
【0020】
細孔の形成方法は、特に限定されることはない。例えば、細孔は、フォトリソグラフィやイオンエッチング、ナノインプリントなどの技術を利用して形成することができる。また、例えば、伝熱部材がアルミニウムやアルミニウム合金から構成されている場合には、陽極酸化処理を行うことにより、伝熱部材の表面に容易に細孔を形成することができる。
【0021】
細孔の平均深さは0.05μm以上10μm以下であることが好ましい。細孔の平均深さを0.05μm以上とすることにより、細孔による気泡の形成を促進する効果をより高めることができる。また、細孔の平均深さを10μm以下とすることにより、気泡が脱離した後に、冷媒を細孔内により迅速に供給することができる。これらの結果、細孔の深さを前記特定の範囲とすることにより、冷却性能をより向上させることができる。前述した作用効果をより高める観点からは、細孔の平均深さは0.1μm以上10μm以下であることが好ましい。
【0022】
細孔の平均深さは、以下の方法により算出することができる。まず、伝熱部材における、放熱面と垂直な断面を露出させる。断面を露出させる方法は特に限定されることはない。例えば、伝熱部材をV字曲げすることによりクラックを入れて前記断面を露出させることができる。
【0023】
SEMを用いてこの断面を斜め方向から観察し、SEM像を取得する。SEMの倍率は特に限定されることはないが、視野内に複数の細孔が含まれるように設定することが好ましい。次に、得られたSEM像に存在する個々の細孔の深さ、つまり、放熱面から細孔の底までの距離を算出する。そして、これらの細孔の距離の算術平均値を細孔の平均深さとすればよい。細孔の平均深さを算出するために用いる細孔の数は特に限定されることはないが、例えば、3個以上であればよい。
【0024】
前記放熱面は、エタノールとの接触角が40°以下である親冷媒部を有している。そのため、冷媒としてのアルコールが親冷媒部に接触しやすくなるため、親冷媒部において冷媒をより効率よく加熱することができる。その結果、気泡の発生をより促進し、冷却効率を向上させることができる。
【0025】
放熱面における親冷媒部の配置の態様は、種々の態様をとり得る。例えば、放熱面の全面が親冷媒部であってもよいし、放熱面の一部が親冷媒部であってもよい。放熱面における親冷媒部の数は、1か所であってもよいし、2か所以上であってもよい。親冷媒部は、放熱面における細孔を有する部分に配置されていてもよいし、細孔を有しない部分に配置されていてもよい。気泡の発生を促進する効果を確実に奏する観点からは、親冷媒部は、放熱面における細孔を有する部分に配置されていることが好ましい。
【0026】
前記放熱面は、前記親冷媒部に隣接して配置され、エタノールとの接触角が親冷媒部よりも大きい疎冷媒部を更に有している。冷媒としてのアルコールが沸騰している場合、放熱面上には、液相のアルコールに接触している部分と、気泡、つまり、アルコールの蒸気に接触している部分とが存在している。アルコールは水酸基を有しているため、液相のアルコールは、疎冷媒部よりも親冷媒部に対する濡れ性が高い。
【0027】
それ故、放熱面に親冷媒部を設けることにより、前述したように液相のアルコールが親冷媒部に接触しやすくなり、親冷媒部における気泡の発生を促進する効果を期待することができる。
【0028】
一方、疎冷媒部は、親冷媒部に比べて液相のアルコールの濡れ性が低いため、親冷媒部において発生した気泡が疎冷媒部へ導かれやすくなる。それ故、放熱面に親冷媒部と疎冷媒部との両方を設けることにより、主に親冷媒部において気泡を発生させ、主に疎冷媒部において気泡を脱離させることができると考えられる。その結果、沸騰の開始温度を低下させ、低い過熱度でより伝熱効率が高い沸騰伝熱へ移行する効果が期待できる。
【0029】
更に、疎冷媒部から気泡が脱離すると、疎冷媒部上に、気泡の上昇に伴う液相の冷媒の流れを形成することができる。その結果、液相の冷媒の対流を促進し、放熱面に液相の冷媒を効率よく供給することが期待できる。
【0030】
このように、放熱面上に親冷媒部と疎冷媒部とを設けることにより、気泡の形成と脱離とをより効率よく行うと共に、冷媒の対流を促進する効果が期待できる。その結果、より低い過熱度で冷媒の沸騰を開始させ、冷却性能をより向上させることができると考えられる。
【0031】
前述した冷却性能の向上効果をより高める観点からは、疎冷媒部のエタノールとの接触角は90°以上であることが好ましい。
【0032】
前記放熱面における疎冷媒部の配置の態様は、種々の態様をとり得る。例えば、放熱面における疎冷媒部の数は、1か所であってもよいし、2か所以上であってもよい。疎冷媒部は、放熱面における細孔を有する部分に配置されていてもよいし、細孔を有しない部分に配置されていてもよい。前述した作用効果を確実に奏する観点からは、放熱面は、複数の疎冷媒部を有していることが好ましい。また、前記放熱面は、1cm2当たり2か所以上の前記疎冷媒部を有していることが好ましい。更に、個々の前記疎冷媒部の面積は0.1mm2以上であることが好ましく、0.5mm2以上であることがより好ましい。
【0033】
前記伝熱部材の前記放熱面に冷媒を接触させることにより冷却システムを構成することができる。より具体的には、例えば前記伝熱部材がパイプである場合、伝熱部材の外表面を受熱面、内表面を放熱面とし、伝熱部材の管内に冷媒等を封入することにより、冷却システムとしてのヒートパイプを構成することができる。また、例えば前記伝熱部材がヒートシンクである場合、前記受熱面上に半導体素子等の発熱体を搭載し、前記放熱面を冷媒流路上に配置して冷媒を流すことにより、冷媒流路と、冷媒流路内を流れる冷媒と、放熱面において冷媒と接触する伝熱部材と、を備えた冷却システムを構成することができる。
【0034】
冷媒としては、エタノールやプロパノール、イソプロパノールなどのアルコールを使用することができる。冷媒としては、これらのアルコールのうち、沸点が100℃未満であるアルコールを使用することが好ましく、エタノールを使用することが特に好ましい。この場合には、半導体素子や電子機器の温度が過度に上昇して動作不良となる前の段階で冷媒が沸騰し、半導体素子や電子機器の温度の更なる上昇を抑制することができる。それ故、エタノールを冷媒として使用することにより、半導体素子や電子機器の冷却に好適な冷却システムを得ることができる。
【0035】
冷却システムは、前記冷媒が沸騰し始める際の、前記放熱面上における前記冷媒の過熱度が20K以下となるように構成されている。そのため、放熱面上の冷媒をより早期に沸騰させ、発熱体の温度が過度に上昇する前に効率よく冷却を行うことができる。
【0036】
特に、沸騰伝熱を用いた冷却システムにおいて、半導体等の電子デバイスを保護する上で、放熱面上に親冷媒部と疎冷媒部とを設けた伝熱部材を用いることにより、前記冷媒が沸騰し始める際の前記放熱面上の冷媒の過熱度を20K以下にすることができると考えられる。これにより、水より沸点の低い冷媒を使用した明確な効果が得られる。
【実施例
【0037】
(実施例1)
前記伝熱部材の実施例を、図1図4を用いて説明する。本例の伝熱部材1は、図1に示すように、発熱体からの熱を受けることができるように構成された受熱面11と、受熱面11において受けた熱を冷媒に放熱することができるように構成された放熱面12と、を有している。放熱面12は、図2に示すように、平均孔径が5nm以上1000nm以下である複数の細孔121を有している。
【0038】
本例の伝熱部材1は、より具体的には、図1に示すように、円柱状を呈するロッド部13と、ロッド部13の一端から径方向外方に延出したフィン部14と、を有している。受熱面11は、ロッド部13におけるフィン部14を有しない側の端部131に配置されている。また、放熱面12は、伝熱部材1におけるフィン部14を有する側の端面、つまり、ロッド部13の他方の端面132と、端面132の周囲に配置されたフィン部14とから構成されている。伝熱部材1は、アルミニウム合金から構成されている。ロッド部13の直径は30mmであり、フィン部14の直径は50mmである。
【0039】
本例の伝熱部材1は、例えば以下の方法により作製することができる。まず、アルミニウム合金製の円柱を準備し、切削加工により、ロッド部13及びフィン部14を形成する。次いで、放熱面12以外を保護材により被覆する。この状態で伝熱部材1に陽極酸化処理を行うことにより、放熱面12に多数の細孔121を備えたアルマイト皮膜を形成する。以上により、伝熱部材1を得ることができる。
【0040】
本例における陽極酸化処理は、具体的には、リン酸直流アルマイト処理である。伝熱部材1の放熱面12における細孔121の平均孔径は、200nmである。また、伝熱部材1の放熱面12における細孔121の平均深さは、10μmである。なお、細孔121の平均孔径及び平均深さの算出方法は前述した通りである。
【0041】
伝熱部材1の冷却性能は、サブクールプール沸騰実験における熱伝達率に基づいて評価することができる。
【0042】
図3に示すように、サブクールプール沸騰実験に用いる実験装置2は、断熱材料からなり筒状を呈する断熱部21と、断熱部21の筒内に配置された冷媒プール22と、冷媒プール22内に配置され、伝熱部材1を加熱する熱源部23と、冷媒プール22内の冷媒Cを脱気するための真空ポンプ24と、を有している。
【0043】
冷媒プール22は、断熱部21に対面して配置された側壁部221と、側壁部221の上端を閉鎖する頂壁部223と、側壁部221の下端を閉鎖する底壁部222と、を有しており、側壁部221、頂壁部223及び底壁部222によって囲まれる内部空間に冷媒Cを貯留することができるように構成されている。
【0044】
頂壁部223上には、凝縮器224が取り付けられている。凝縮器224は、冷媒プール22内の冷媒Cの蒸気を凝縮させ、液相の冷媒Cとして冷媒プール22内へ戻すことができるように構成されている。また、頂壁部223には、冷媒Cの温度を測定するための熱電対225が取り付けられている。熱電対225は、頂壁部223を貫通して配置されている。
【0045】
熱源部23は、冷媒プール22の底壁部222上に配置されている。熱源部23は、ケース231と、ケース231内に配置されたヒーター232と、を有している。ヒーター232は、有底筒状を呈しており、伝熱部材1のロッド部13を挿入することができるように構成されている。ケース231とヒーター232との間には、断熱材料233が介在している。また、断熱材料233は、伝熱部材1のロッド部13がヒーター232内に挿入された状態において、ケース231とロッド部13との間に介在するように配置されている。
【0046】
ケース231は、その頂面に開口234を有している。ケース231の開口234内には、伝熱部材1のフィン部14が配置される。
【0047】
熱源部23の周囲には、冷媒Cを加熱するための下部冷媒ヒーター235が配置されている。また、熱源部23の上方には、冷媒Cを加熱するための上部冷媒ヒーター236と、冷媒Cを冷却するための冷媒クーラー237とが配置されている。下部冷媒ヒーター235、上部冷媒ヒーター236及び冷媒クーラー237は、図示しない温度調整装置に接続されており、冷媒Cの温度を調整することができるように構成されている。
【0048】
真空ポンプ24は、冷媒プール22の外部に配置されており、頂壁部223に取り付けられた配管241及び真空バルブ242を介して冷媒プール22に接続されている。
【0049】
次に、サブクールプール沸騰実験の実験方法を説明する。まず、伝熱部材1を十分に乾燥させた後、ロッド部13に、複数の熱電対238を上下方向に間隔をおいて取り付ける。これらの熱電対238は、図示しないデータ処理装置に接続される。データ処理装置は、熱電対238により測定されたロッド部13の温度に基づき、放熱面12の温度及び放熱面12から冷媒Cへ流れ出す熱流束を算出するように構成されている。
【0050】
次に、フィン部14の外周にステンレスリング(図示略)を取り付ける。そして、伝熱部材1のロッド部13をヒーター232内に挿入し、放熱面12がケース231の開口234から露出するように伝熱部材1を配置する。次いで、放熱面12からの液面の高さが120mmとなるように、冷媒プール22内に冷媒C(エタノール、純度99.5%)を注ぎ入れる。
【0051】
次に、以下の手順により、冷媒Cの脱気を行う。まず、下部冷媒ヒーター235、上部冷媒ヒーター236及び冷媒クーラー237により冷媒Cの温度を飽和温度となるように調節する。次いで、ヒーター232により伝熱部材1を加熱し、放熱面12上において冷媒Cを沸騰させる。この状態を30分間保持した後、ヒーター232による加熱を停止する。その後、真空ポンプ24によって冷媒プール22内を減圧し、冷媒Cを脱気する。そして、伝熱部材1に取り付けられた複数の熱電対238のうち最も放熱面12に近い熱電対の温度が冷媒Cの飽和温度以下となった時点で冷媒Cの脱気を完了し、冷媒プール22内を大気圧まで復圧する。
【0052】
以上のようにして測定の準備を行った後、下部冷媒ヒーター235、上部冷媒ヒーター236及び冷媒クーラー237により冷媒Cの温度を飽和温度となるように再度調節する。そして、ヒーター232により、受熱面11への入熱量が段階的に増加するように伝熱部材1を加熱する。ヒーター232から受熱面11への入熱量を増加させるタイミングは、放熱面12及び冷媒Cの温度が定常状態に達してから2分後とする。
【0053】
図4に、伝熱部材1の沸騰曲線を示す。なお、図4における横軸は放熱面12上の冷媒Cの過熱度、即ち、放熱面12の温度から冷媒Cの沸点を差し引いた値である。また、図4における縦軸は、伝熱部材1及び冷媒Cの温度が定常状態に達した時点から2分間に放熱面12から冷媒Cへ流れ出す熱流束の値の平均値である。なお、図4の縦軸及び横軸は、いずれも対数目盛で表示されている。また、符号Bが付された点は、後述するように未沸騰状態から沸騰状態へ遷移する点であるため、沸騰開始前後で伝熱部材1及び冷媒Cの温度が変化する。そのため、この点については、沸騰開始前の30秒間の熱流束の平均値を示す。
【0054】
図4には、伝熱部材1の沸騰曲線との比較のため、Rohsenowの式(下記式(1))に基づいて予測した、放熱面12を平滑面と仮定した場合における核沸騰の熱流束を実線Lで示す。なお、下記式(1)におけるCpは定積比熱[J kg-1-1]であり、ΔTは過熱度[K]であり、Llvは蒸発潜熱[J kg-1]であり、qは熱流束[J kg-1]であり、μは動粘度[m2-1]であり、σは表面張力[N m-1]であり、ρは液相の冷媒の密度[kg-1-1]であり、ρgは冷媒の蒸気の密度[kg-1-1]であり、kは冷媒の熱伝導率[W m-1-1]である。また、Csf及びnは、冷媒と伝熱部材の材質との組み合わせに依存するパラメータである。本例におけるCsfの値は0.0008とし、nの値は1.18とした。これらの値は、文献(I.L.Pioro et al 1999)から引用した値である。
【0055】
【数1】
【0056】
図4に示すように、本例の伝熱部材1を用いる場合、過熱度が約6Kとなるまでは冷媒Cが沸騰せず、過熱度の上昇とともに、熱流束の値が緩やかに増大する。そして、過熱度が約8Kとなった時点で放熱面12上の冷媒が沸騰し始める(符号B参照)。沸騰を開始した後は、冷媒Cの気化熱によって放熱面12の温度が低下するため、冷媒Cの過熱度が一旦低下すると同時に、冷媒Cの蒸発によって放熱面12から冷媒Cへ流れ出す熱流束が増大する。その後、更に加熱を継続すると、過熱度の上昇とともに、熱流束の値が増大する。また、沸騰後における沸騰曲線の傾きは、沸騰前における沸騰曲線の傾きよりも大きい。
【0057】
図4に示すように、本例の伝熱部材1のように、放熱面12に前記特定の範囲の平均孔径を備えた細孔121を設けることにより、平滑な放熱面に比べて熱流束を5倍以上大きくし、冷却性能を格段に向上させることができる。
【0058】
(実施例2)
本例は、放熱面12の表面状態を変更した例である。なお、本例以降の例において用いる符号のうち、既出の例において用いた符号と同一のものは、特に説明のない限り既出の例における構成要素と同様の構成要素等を示す。
【0059】
本例では、予め放熱面12をエタノールで濡らした伝熱部材1を熱源部23に取り付けた以外は、実施例1と同様の方法によりサブクールプール沸騰実験を行い、沸騰曲線を取得する。図5に、本例の沸騰曲線を示す。なお、図5における横軸は放熱面12上の冷媒Cの過熱度である。また、図5における縦軸は、伝熱部材1及び冷媒Cの温度が定常状態に達した時点から2分間に放熱面12から冷媒Cへ流れ出す熱流束の値の平均値である。符号Bが付されたプロット点は、後述するように未沸騰状態から沸騰状態へ遷移する点であるため、この点については、図4と同様に沸騰開始前の30秒間の熱流束の平均値を示す。
【0060】
図5に示すように、本例の伝熱部材1を用いる場合、放熱面12上の冷媒Cの過熱度が約50Kとなるまでは冷媒Cが沸騰せず、過熱度の上昇とともに、熱流束の値が緩やかに増大する。そして、過熱度が約50Kとなった時点で放熱面12上の冷媒が沸騰し始める(符号B参照)。沸騰を開始した後は、実施例1と同様に、過熱度の上昇とともに熱流束の値が増大する。また、沸騰後における沸騰曲線の傾きは、沸騰前における沸騰曲線の傾きよりも大きい。更に、本例における沸騰後の沸騰曲線の傾きは、実施例1における沸騰後の沸騰曲線の傾きと同程度の値となる。
【0061】
本例の伝熱部材1は、放熱面12がエタノールで濡れたまま冷媒プール22内に配置されたため、放熱面12の細孔121内にもエタノールが存在していると考えられる。そのため、実施例1に比べて細孔121内への沸騰の開始が大幅に遅れ、冷媒が沸騰し始める際の過熱度が過度に高くなるおそれがある。一方、一旦沸騰が開始した後は、実施例1と同様に、細孔121の効果により平滑な放熱面に比べて熱流束を大きくし、冷却性能を格段に向上させることができる。
【0062】
(実施例3)
本例は、放熱面12に、親冷媒部122としてのアルマイト皮膜123と、疎冷媒部124としての塗膜125とを設けた伝熱部材103(図6参照)の例である。図には示さないが、本例の伝熱部材103は、実施例1の伝熱部材1と同一の形状を有している。伝熱部材103の放熱面12は、ロッド部13における受熱面(図示略)とは反対側の端面132と、端面132の周囲に配置されたフィン部14とに設けられている。
【0063】
放熱面12には、複数の細孔(図示略)を備えたアルマイト皮膜123が設けられている。アルマイト皮膜123における細孔の平均孔径は200nmであり、細孔の平均深さは10μmである。また、アルマイト皮膜123とエタノールとの接触角は12°である。本例のアルマイト皮膜123は、リン酸直流アルマイト処理によって形成されている。本例におけるリン酸直流アルマイト処理の処理条件は、リン酸濃度0.3mol/dm3、電解液温度:20℃、電流密度5mA/cm2、保持時間60分である。
【0064】
アルマイト皮膜123上には、図6に示すように縦方向及び横方向に等間隔に並んだ複数の塗膜125が設けられている。塗膜125は直径2mmの円形を呈しており、隣り合う塗膜125同士の間隔は3mmである。また、塗膜125とエタノールとの接触角は95°である。
【0065】
図7に、実施例2と同様に、予め放熱面12を冷媒で濡らした伝熱部材103を用いてサブクールプール沸騰実験を行うことにより得られる沸騰曲線を示す。なお、本例におけるサブクールプール沸騰実験の実験条件は、実施例1と同様である。また、図7における縦軸、横軸、符号B及び直線Lの表示は、図4と同様である。
【0066】
図7に示すように、伝熱部材103を用いてサブクールプール沸騰実験を行うと、過熱度が約9Kとなった時点で放熱面12上の冷媒が沸騰し始める(符号B参照)。沸騰を開始した後は、冷媒の気化熱によって放熱面12の温度が低下するため、冷媒の過熱度が一旦低下すると同時に、冷媒の蒸発によって放熱面12から冷媒へ流れ出す熱流束が増大する。沸騰を開始した後は、過熱度の上昇とともに熱流束の値が増大する。
【0067】
図7に示す沸騰曲線における沸騰後の部分は、直線Lよりも上方に位置している。沸騰後の沸騰曲線と直線Lとの比較から、伝熱部材103は、冷媒の沸騰後において、平滑な放熱面を有する伝熱部材に比べて過熱度が同一である場合の熱流束を大きくし、平滑な放熱面を有する伝熱部材よりも冷却性能を向上できることが理解できる。
【0068】
さらに、図5図7との比較から、リン酸直流アルマイト処理によって形成されたアルマイト皮膜123上に塗膜125を設けた伝熱部材103は、予め冷媒で濡らした状態で使用する場合、塗膜125を有しない伝熱部材1に比べて沸騰開始時の過熱度を低くできることが理解できる。
【0069】
(実施例4)
本例は、放熱面に硫酸直流アルマイト処理によって形成したアルマイト皮膜を設けた伝熱部材(図示略)の例である。本例の伝熱部材の作製方法は、陽極酸化処理として、リン酸直流アルマイト処理に替えて硫酸直流アルマイト処理を行う以外は、実施例1と同様である。なお、硫酸直流アルマイト処理の処理条件は、硫酸濃度:1.5mol/dm3、電解液温度:20℃、電流密度:10mA/cm2、保持時間:30分である。
【0070】
本例の伝熱部材の放熱面における細孔の平均孔径は10nmであり、細孔の平均深さは10μmである。なお、細孔の平均孔径及び平均深さの算出方法は前述した通りである。本例の伝熱部材におけるアルマイト皮膜とエタノールとの接触角は、エタノールがアルマイト皮膜上で液滴を形成せず、いわゆる拡張濡れの状態となるため測定することができない。
【0071】
図8に、実施例2と同様に、予め放熱面を冷媒で濡らした本例の伝熱部材を用いてサブクールプール沸騰実験を行うことにより得られる沸騰曲線を示す。なお、本例におけるサブクールプール沸騰実験の実験条件は、実施例1と同様である。また、図8における縦軸、横軸、符号B及び直線Lの表示は、図4と同様である。
【0072】
図8に示すように、本例の伝熱部材を用いてサブクールプール沸騰実験を行うと、過熱度が約56Kとなるまでは冷媒が沸騰せず、過熱度の上昇とともに、熱流束の値が緩やかに増大する。そして、過熱度が約56Kとなった時点で放熱面上の冷媒が沸騰し始める(符号B参照)。沸騰を開始した後は、冷媒の気化熱によって放熱面の温度が低下するため、冷媒の過熱度が一旦低下すると同時に、冷媒Cの蒸発によって放熱面から冷媒へ流れ出す熱流束が増大する。沸騰を開始した後は、過熱度の上昇とともに熱流束の値が増大する。また、沸騰後における沸騰曲線の傾きは、沸騰前における沸騰曲線の傾きよりも大きい。
【0073】
また、図8に示す沸騰曲線における沸騰後の部分は、直線Lよりも上方に位置している。沸騰後の沸騰曲線と直線Lとの比較から、本例の伝熱部材は、冷媒の沸騰後において、平滑な放熱面を有する伝熱部材に比べて過熱度が同一である場合の熱流束を大きくし、平滑な放熱面を有する伝熱部材よりも冷却性能を向上できることが理解できる。
【0074】
(実施例5)
本例は、実施例4の伝熱部材における放熱面に、疎冷媒部としての塗膜を設けた伝熱部材(図示略)の例である。本例においては、まず、実施例4と同様の方法により、ロッド部とフィン部とを有するとともに、放熱面に親冷媒部としてのアルマイト皮膜が設けられた伝熱部材を作製する。得られた伝熱部材のアルマイト皮膜上に、実施例3と同様に複数の塗膜を形成する。以上により、本例の伝熱部材を得ることができる。本例の伝熱部材における塗膜とエタノールとの接触角は110°である。
【0075】
図8に、実施例2と同様に、予め放熱面を冷媒で濡らした本例の伝熱部材を用いてサブクールプール沸騰実験を行うことにより得られる沸騰曲線を示す。なお、本例におけるサブクールプール沸騰実験の実験条件は、実施例1と同様である。また、図8における縦軸、横軸、符号B及び直線Lの表示は、図4と同様である。
【0076】
図8に示すように、本例の伝熱部材を用いてサブクールプール沸騰実験を行うと、過熱度が約8Kとなった時点で放熱面上の冷媒が沸騰し始める(符号B参照)。沸騰を開始した後は、冷媒の気化熱によって放熱面の温度が低下するため、冷媒の過熱度が一旦低下すると同時に、冷媒の蒸発によって放熱面から冷媒へ流れ出す熱流束が増大する。沸騰を開始した後は、過熱度の上昇とともに熱流束の値が増大する。
【0077】
図8に示す沸騰曲線における沸騰後の部分は、直線Lよりも上方に位置している。沸騰後の沸騰曲線と直線Lとの比較から、本例の伝熱部材は、冷媒の沸騰後において、平滑な放熱面を有する伝熱部材に比べて過熱度が同一である場合の熱流束を大きくし、平滑な放熱面を有する伝熱部材よりも冷却性能を向上できることが理解できる。
【0078】
さらに、図8に示す実施例4の伝熱部材と実施例5の伝熱部材との比較から、硫酸直流アルマイト処理によって形成されたアルマイト皮膜上に塗膜を設けた伝熱部材(実施例5)は、予め冷媒で濡らした状態で使用する場合、塗膜を有しない伝熱部材(実施例4)に比べて沸騰開始時の過熱度を低くできることが理解できる。
【0079】
(実施例6)
本例は、放熱面に交流アルマイト処理によって形成したアルマイト皮膜を設けた伝熱部材の例である。本例の伝熱部材の作製方法は、陽極酸化処理として、リン酸直流アルマイト処理に替えてアルカリ電解液を用いた交流アルマイト処理を行う以外は、実施例1と同様である。なお、交流アルマイト処理の処理条件は、電解質:ピロリン酸ナトリウムを主成分とする水溶液、電解質濃度:0.1mol/dm3、電解液温度:60℃、電流密度:60mA/cm2、周波数:50Hz、保持時間:30秒である。
【0080】
交流アルマイト処理に用いられる電解質としては、ピロリン酸ナトリウムの他に、例えば、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、ピロリン酸カリウムおよびメタリン酸ナトリウム等のリン酸塩;水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム等の炭酸塩;水酸化アンモニウム等を使用することができる。これらの電解質は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0081】
本例の伝熱部材の放熱面における細孔の平均孔径は、20nmであり、細孔の平均深さは0.2μmである。なお、細孔の平均孔径及び平均深さの算出方法は前述した通りである。本例の伝熱部材におけるアルマイト皮膜とエタノールとの接触角は0°である。
【0082】
図9に、実施例2と同様に、予め放熱面を冷媒で濡らした本例の伝熱部材を用いてサブクールプール沸騰実験を行うことにより得られる沸騰曲線を示す。なお、本例におけるサブクールプール沸騰実験の実験条件は、実施例1と同様である。また、図9における縦軸、横軸及び直線Lの表示は、図4と同様である。
【0083】
図9に示すように、本例の伝熱部材を用いてサブクールプール沸騰実験を行うと、過熱度が約27Kとなるまでは冷媒が沸騰せず、過熱度の上昇とともに、熱流束の値が緩やかに増大する。そして、過熱度が約27Kとなった時点で放熱面上の冷媒が沸騰し始める(符号B参照)。沸騰を開始した後は、冷媒の気化熱によって放熱面の温度が低下するため、冷媒の過熱度が一旦低下すると同時に、冷媒の蒸発によって放熱面から冷媒へ流れ出す熱流束が増大する。沸騰を開始した後は、過熱度の上昇とともに熱流束の値が増大する。
【0084】
図9に示す沸騰曲線における沸騰後の部分は、直線Lよりも上方に位置している。沸騰後の沸騰曲線と直線Lとの比較から、本例の伝熱部材は、冷媒の沸騰後において、平滑な放熱面を有する伝熱部材に比べて過熱度が同一である場合の熱流束を大きくし、平滑な放熱面を有する伝熱部材よりも冷却性能を向上できることが理解できる。
【0085】
(実施例7)
本例は、実施例6の伝熱部材における放熱面に、疎冷媒部としての塗膜を設けた伝熱部材(図示略)の例である。本例においては、まず、実施例6と同様の方法により、ロッド部とフィン部とを有するとともに、放熱面に親冷媒部としてのアルマイト皮膜が設けられた伝熱部材を作製する。得られた伝熱部材のアルマイト皮膜上に、実施例3と同様に複数の塗膜を形成する。以上により、本例の伝熱部材を得ることができる。本例の伝熱部材における塗膜とエタノールとの接触角は110°である。
【0086】
図9に、実施例2と同様に、予め放熱面を冷媒で濡らした本例の伝熱部材を用いてサブクールプール沸騰実験を行うことにより得られる沸騰曲線を示す。なお、本例におけるサブクールプール沸騰実験の実験条件は、実施例1と同様である。また、図9における縦軸、横軸及び直線Lの表示は、図4と同様である。
【0087】
図9に示すように、本例の伝熱部材を用いてサブクールプール沸騰実験を行うと、過熱度が約8Kとなった時点で放熱面上の冷媒が沸騰し始める(符号B参照)。沸騰を開始した後は、過熱度の上昇とともに、放熱面上における冷媒が沸騰する領域が徐々に拡大する。これに伴い、熱流束の値が緩やかに増大する。そして、過熱度が約10Kとなった時点で沸騰曲線の傾きが大きくなる。
【0088】
図9に示す沸騰曲線における沸騰後の部分は、直線Lよりも上方に位置している。沸騰後の沸騰曲線と直線Lとの比較から、本例の伝熱部材は、冷媒の沸騰後において、平滑な放熱面を有する伝熱部材に比べて過熱度が同一である場合の熱流束を大きくし、平滑な放熱面を有する伝熱部材よりも冷却性能を向上できることが理解できる。
【0089】
さらに、図9に示す実施例6と実施例7との比較から、交流アルマイト処理によって形成されたアルマイト皮膜上に塗膜を設けた伝熱部材(実施例7)は、予め冷媒で濡らした状態で使用する場合、塗膜を有しない伝熱部材(実施例6)に比べて沸騰開始時の過熱度を低くできることが理解できる。
【0090】
本発明に係る伝熱部材及び冷却システムの具体的な態様は、前述した実施例1~7に記載された態様に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜構成を変更することができる。
【0091】
例えば、本例のように、疎冷媒部124を塗膜によって形成する場合、塗膜は細孔121を覆うように形成されていてもよいし、細孔121の内部まで塗膜が進入していてもよい。細孔121の内部まで塗膜が進入している場合には、塗膜と放熱面12との密着性がより向上し、塗膜がより剥離しにくくなる。これにより、疎冷媒部124が形成された状態をより長期間にわたって維持し、優れた冷却性能をより長期間にわたって発揮させることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9