(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】シアノバクテリアを用いたカーラクトンの生産方法
(51)【国際特許分類】
C12P 23/00 20060101AFI20241111BHJP
C12N 1/21 20060101ALN20241111BHJP
C12N 15/74 20060101ALN20241111BHJP
C12N 15/53 20060101ALN20241111BHJP
C12N 15/61 20060101ALN20241111BHJP
【FI】
C12P23/00
C12N1/21 ZNA
C12N15/74 Z
C12N15/53
C12N15/61
(21)【出願番号】P 2020022999
(22)【出願日】2020-02-14
【審査請求日】2023-02-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2019年3月6日に公開された「第13回日本ゲノム微生物学会年会要旨集」にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】598096991
【氏名又は名称】学校法人東京農業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100122574
【氏名又は名称】吉永 貴大
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 智
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 晋作
(72)【発明者】
【氏名】坂巻 裕
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】坂巻 裕 ほか,シアノバクテリアを用いたストリゴラクトン生産系構築の試み,第12回日本ゲノム微生物学会年会,2018年03月06日,2P-21
【文献】Alder, A. et al.,"The path from β-carotene to carlactone, a strigolactone-like plant hormone",Science,2012年,Vol. 335,pp. 1348-1351,Supporting Online Material
【文献】KAKEN, [オンライン],2018年度 実績報告書,シアノバクテリアを用いたストリゴラクトン高効率生産系構築と新規類縁体の創成,2019年12月27日,[検索日2024.01.12],インターネット, <URL: https://kaken.nii.ac.jp/report/KAKENHI-PUBLICLY-17H05451/17H054512018jisseki/>
【文献】Zhang, Y. et al.,"Rice cytochrome P450 MAX1 homologs catalyze distinct steps in strigolactone biosynthesis",Nat. Chem. Biol.,2014年,Vol. 10,pp. 1028-1033
【文献】KAKEN, [オンライン],,2018年度 実績報告書,シアノバクテリアを用いたストリゴラクトン高効率生産系構築と新規類縁体の創成,2019年12月27日,[検索日2024.01.12],インターネット, <URL: https://kaken.nii.ac.jp/report/KAKENHI-PUBLICLY-17H05451/17H054512018jisseki/>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
C12P 1/00-41/00
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換えシアノバクテリア
を培養する工程を含む、シアノバクテリアを用いたカーラクトンの生産方法であって、
前記組換えシアノバクテリアが、
カロテノイド酸化型開裂酵素遺伝子およびβ-カロテン-9-イソメラーゼ遺伝子を有し、
前記カロテノイド酸化型開裂酵素遺伝子がCCD7遺伝子およびCCD8遺伝子であり、
前記β-カロテン-9-イソメラーゼ遺伝子がD27遺伝子であり、
前記CCD7遺伝子と、前記CCD8遺伝子と、前記D27遺伝子がクローニングされたp24EXプラスミドが導入され
た組換えシアノバクテリア
である、
シアノバクテリアを用いたカーラクトンの生産方法。
【請求項2】
前記培養工程の後に、培養上清からカーラクトンを回収する工程を含む、
請求項1に記載のシアノバクテリアを用いたカーラクトンの生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーラクトン生産能を有するシアノバクテリアおよびそれを用いたカーラクトンの生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ストリゴラクトン(strigolactones)は、植物から得られる一群のラクトン構造を有するカロテノイド誘導体であり、植物体内において分枝を抑制する機能を有することが知られている。ストリゴラクトンは、植物の生長調節剤や根寄生植物に対する防除法の開発など、食糧問題解決へ向けた重要な知見をもたらす可能性がある。しかしながら、植物から回収できるストリゴラクトンの量は限られている。
【0003】
ここでストリゴラクトンの植物体内における生合成には、カロテノイドを基質とした、2種のカロテノイド酸化型開裂酵素およびβ-カロテン-9-イソメラーゼが関与していることが知られている。
非特許文献1は、カロテノイド酸化型開裂酵素であるCCD7、CCD8、およびβ-カロテン-9-イソメラーゼであるD27の機能解析を行い、カロテノイドを基質に3つの酵素が連続的に作用することにより、カーラクトン(carlactone)と名づけられた化合物が生成することを報告している。また、カーラクトンはストリゴラクトンの化学構造に特有のブテノライド環を有しており、ストリゴラクトン同様の生理活性も有することが示され、ストリゴラクトンの生合成中間体であることが示唆されている。
非特許文献2は、カーラクトンが実際に植物の代謝物として存在することに加え、13C標識カーラクトンをイネのストリゴラクトン生合成変異体に投与することにより、植物体内でカーラクトンがストリゴラクトンに変換されることを報告している。
【0004】
上記のようにカーラクトンは植物ホルモンの一つであるストリゴラクトンおよびその前駆物質であり、カーラクトンおよびストリゴラクトンは根寄生植物の駆除に有効である。しかしながら現時点において、カーラクトンおよびストリゴラクトンを大量生産可能な方法の確立については報告がない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Adrian Alder et al.,“The Path from β-Carotene to Carlactone,a Strigolactone-Like Plant Hormone”,Science 16 Mar 2012:Vol.335,Issue 6074,pp.1348-1351,DOI:10.1126/science.1218094
【文献】Yoshiya Seto et al.,“Carlactone is an endogenous biosynthetic precursor for strigolactones”,PNAS January 28,2014 111 (4) 1640-1645;https://doi.org/10.1073/pnas.1314805111
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ストリゴラクトンを大量生産するアプローチの一つの方法は、工業レベルの物質生産ホストにおいてストリゴラクトンの生合成経路の基質となるカーラクトンの生産方法を確立することである。そこで本発明は、カーラクトンを生産可能な新たな微生物の提供および当該微生物を用いたカーラクトンの生産方法の確立を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明者らは、植物細胞内においてストリゴラクトンは葉緑体で作られるという点に着目し、葉緑体に似た細胞内環境を持つシアノバクテリアを物質生産のホストとしたカーラクトンの生産系構築を検討した。また本発明者らは、シアノバクテリアはカーラクトン・ストリゴラクトン代謝の出発物質であるβ-カロテンを高蓄積しており、細胞内において植物型P450が機能することが保証されている点も有利であると考えた。具体的には、シアノバクテリアに対してカロテノイド酸化型開裂酵素遺伝子およびβ-カロテン-9-イソメラーゼ遺伝子の発現を試みたところ、得られた形質転換体はカーラクトンを生産することができ、菌体外へカーラクトンを分泌することを確認した。
本発明は上記知見に基づき完成されたものであり、以下の態様を含む:
本発明は、カーラクトンを生産する組換えシアノバクテリアであって、
〔1〕カロテノイド酸化型開裂酵素遺伝子およびβ-カロテン-9-イソメラーゼ遺伝子を有する、組換えシアノバクテリアに関する。
また、本発明の組換えシアノバクテリアは一実施の形態において、
〔2〕上記〔1〕に記載の組換えシアノバクテリアであって、
前記カロテノイド酸化型開裂酵素遺伝子がCCD7遺伝子およびCCD8遺伝子であることを特徴とする。
また、本発明の組換えシアノバクテリアは一実施の形態において、
〔3〕上記〔1〕または〔2〕に記載の組換えシアノバクテリアであって、
前記β-カロテン-9-イソメラーゼ遺伝子がD27遺伝子であることを特徴とする。
また、本発明は別の態様において、
〔4〕カーラクトンを生産する方法であって、
上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の組換えシアノバクテリアを培養する工程を含む、生産方法に関する。
また、本発明のカーラクトンを生産する方法は一実施の形態において、
〔5〕上記〔4〕に記載のカーラクトンを生産する方法であって、
前記培養工程の後に、培養上清からカーラクトンを回収する工程を含むことを特徴とする。
また、本発明は別の態様において、
〔6〕上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の組換えシアノバクテリアを培養することにより得られる、カーラクトンを含む培養物またはその精製物に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る組換えシアノバクテリアをホストとして用いることで、カーラクトンを大量に生産することができた。また、シアノバクテリアで生産されたカーラクトンは細胞外に分泌されることが示され、培養上清を回収すればカーラクトンを得ることができ、培養後の細胞はカーラクトン生産に再利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1はカロテノイド酸化型開裂酵素遺伝子およびβ-カロテン-9-イソメラーゼ遺伝子を導入したシアノバクテリア培養物より調製した菌体試料の抽出クロマトグラムを示す。
【
図2】
図2はカロテノイド酸化型開裂酵素遺伝子およびβ-カロテン-9-イソメラーゼ遺伝子を導入したシアノバクテリア培養物より調製した菌体試料より得られたカーラクトンを含む画分のマススペクトルデータを示す。
【
図3】
図3はカロテノイド酸化型開裂酵素遺伝子およびβ-カロテン-9-イソメラーゼ遺伝子を導入したシアノバクテリア培養物より調製した培養上清試料の抽出クロマトグラムを示す。
【
図4】
図4はカロテノイド酸化型開裂酵素遺伝子およびβ-カロテン-9-イソメラーゼ遺伝子を導入したシアノバクテリア培養物より調製した培養上清試料より得られたカーラクトンを含む画分のマススペクトルデータを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(組換えシアノバクテリア)
本発明の一態様は、カーラクトンを生産する組換えシアノバクテリアであって、カロテノイド酸化型開裂酵素遺伝子およびβ-カロテン-9-イソメラーゼ遺伝子を有する、組換えシアノバクテリアを提供する。
本発明に用いることのできるシアノバクテリアの種類には、特に制限はなく、あらゆる種類のものが挙げられる。好ましくは、以下に限定されないが、シネコシスティス属(Synechocystis)、シネココッカス属(Synechococcus)、サーモシネココッカス属(Thermosynechococcus)、トリコデスミウム属(Trichodesmium)、アカリオクロリス属(Acaryochloris)、クロコスファエラ属(Crocosphaera)、及びアナベナ属(Anabaena)に属するシアノバクテリアであり、より好ましくは、シネコシスティス属(Synechocystis)、シネココッカス属(Synechococcus)、サーモシネココッカス属(Thermosynechococcus)、又はアナベナ属(Anabaena)に属するシアノバクテリアを挙げることができる。より好ましくは、シネコシスティス・エスピーPCC6803、シネコシスティス・エスピーPCC7509、シネコシスティス・エスピーPCC6714、シネココッカス・エロンガタスPCC7942、シネココッカス・エロンガタスUTEX 2973、シネココッカス・エスピーPCC7002、サーモシネココッカス・エロンガタスBP-1、トリコデスミウム・エリスラエウムIMS101、アカリオクロリス・マリアナMBIC11017、クロコスファエラ・ワトソニーWH8501、及びアナベナ・エスピーPCC7120を挙げることができる。
【0011】
β-カロテン-9-イソメラーゼとは、全トランス-β-カロテン(All-trans-β-carotene)を9-シス-β-カロテンへ変換を触媒する酵素である。本発明の組換えシアノバクテリアは当該酵素を発現するように、β-カロテン-9-イソメラーゼ遺伝子を有する。β-カロテン-9-イソメラーゼ遺伝子としては、シアノバクテリア内のトランス-β-カロテンを9-シス-β-カロテンへ変換可能な酵素を発現する限りにおいて限定されない。このような遺伝子としては例えば、以下の植物または藻類:イネ(Oryza sativa,Oryza brachyantha);ソルガム(Sorghum bicolor);アワ(Setaria italica);ミナトカモジグサ(Brachypodium distachyon);タルホコムギ(Aegilops tauschii);トウモロコシ(Zea mays);アスバラガス(Asparagus officinalis);マレーヤマバショウ(Musa acuminata);ギニアアブラヤシ(Elaeis guineensis);ナツメヤシ(Phoenix dactylifera);タバコ(Nicotiana tabacum);シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana);ミヤマハタザオ(Arabidopsis lyrata);セイヨウアブラナ(Brassica napus);アマナズナ(Camelina sativa);タルウマゴヤシ(Medicago truncatula);ヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens);クラミドモナス(Chlamydomonas reinhardtii);ドナリエラ(Dunaliella Bardawil);モノラフィディウム(Monoraphidium neglectum);ボルボックス(Volvox carteri);コッコミクサ(Coccomyxa subellipsoidea)に由来するD27遺伝子を挙げることができる。
【0012】
本発明においてカロテノイド酸化型開裂酵素は、(i)β-カロテン-9-イソメラーゼにより生成された9-シス-β-カロテンが9-シス-β-アポ-10’-カロテノール(9-cis-β-Apo-10’-cartenol)へ変換することを触媒する酵素、及び/又は、(ii)9-シス-β-カロテンが9-シス-β-アポ-10’-カロテノールをカーラクトン((Z)-(R)-Carlactone)へ変換することを触媒する酵素である。本発明の組換えシアノバクテリアは当該酵素を発現するように、カロテノイド酸化型開裂酵素遺伝子を有する。カロテノイド酸化型開裂酵素遺伝子としては、シアノバクテリア内の9-シス-β-カロテンをカーラクトンへ変換可能な酵素を発現する限りにおいて限定されない。このような遺伝子としては例えば、以下の植物または藻類:イネ(Oryza sativa,Oryza brachyantha);ソルガム(Sorghum bicolor);アワ(Setaria italica);ミナトカモジグサ(Brachypodium distachyon);タルホコムギ(Aegilops tauschii);トウモロコシ(Zea mays);アスバラガス(Asparagus officinalis);マレーヤマバショウ(Musa acuminata);ギニアアブラヤシ(Elaeis guineensis);ナツメヤシ(Phoenix dactylifera);タバコ(Nicotiana tabacum);シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana);ミヤマハタザオ(Arabidopsis lyrata);セイヨウアブラナ(Brassica napus);アマナズナ(Camelina sativa);タルウマゴヤシ(Medicago truncatula);ヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens);クラミドモナス(Chlamydomonas reinhardtii);ドナリエラ(Dunaliella Bardawil);モノラフィディウム(Monoraphidium neglectum);ボルボックス(Volvox carteri);コッコミクサ(Coccomyxa subellipsoidea)に由来するCCD7遺伝子及びCCD8遺伝子を挙げることができる。なお、CCD7遺伝子は、そのオーソログ遺伝子としてMAX3遺伝子、D17遺伝子、RMS5遺伝子、DAD3遺伝子などが知られており、これらを含むオーソログ遺伝子もカロテノイド酸化型開裂酵素遺伝子として本発明に用いることができる。またCCD8遺伝子は、そのオーソログ遺伝子としてMAX4遺伝子、D10遺伝子、RMS1遺伝子、DAD1遺伝子などが知られており、これらを含むオーソログ遺伝子もカロテノイド酸化型開裂酵素遺伝子として本発明に用いることができる。
【0013】
好ましい一実施の形態において本発明の組換えシアノバクテリアは、カロテノイド酸化型開裂酵素として、(i)9-シス-β-カロテンが9-シス-β-アポ-10’-カロテノールへ変換することを触媒する酵素をコードする遺伝子、及び、(ii)9-シス-β-カロテンが9-シス-β-アポ-10’-カロテノールをカーラクトン((Z)-(R)-Carlactone)へ変換することを触媒する酵素をコードする遺伝子の両方を有する。
なお、β-カロテン-9-イソメラーゼ遺伝子、および、カロテノイド酸化型開裂酵素遺伝子によりコードされる各酵素は、上記する触媒反応を有する限り、そのアミノ酸配列において1つまたは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されていてもよい。
【0014】
遺伝子の導入には、例えば、プラスミドベクターなどのベクターを用いることができる。ベクターは、発現ベクターが好ましい。例えば、異種カロテノイド酸化型開裂酵素遺伝子およびβ-カロテン-9-イソメラーゼ遺伝子のDNA断片及びそれを発現させるためのプロモーターを含む発現ベクターを構築する。プロモーターとしては、lac、tac若しくはtrcプロモーター、イソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)の添加によって誘導可能な誘導体に関するプロモーター、又はRubiscoオペロン(rbc)、PSI反応中心タンパク質(psaAB)、PSIIのD1タンパク質(psbA)などのシアノバクテリアから単離されたプロモーター利用できるが、これらに限定されるわけではなく、シアノバクテリアにおいて機能する多様なプロモーターを利用することができる。また上記発現ベクターには、当該ベクターが適切に導入された宿主を選択するためのマーカー遺伝子、(例えば、カナマイシン、クロラムフェニコール、スペクチノマイシン、エリスロマイシンなどの薬剤の耐性遺伝子)がさらに組み込まれていてもよい。上記発現ベクターを、公知の手段で親シアノバクテリア又は本発明の改変シアノバクテリアに導入し、形質転換する。シアノバクテリアへのベクターの導入法としては、自然形質転換法、エレクトロポレーション法、接合法などの一般的な方法を用いることができる。形質転換処理後のシアノバクテリアを選択培地、例えば、抗生物質含有培地で培養すれば、所望の形質を有する形質転換体を選択することができる。
【0015】
本発明の組換えシアノバクテリアは、カーラクトン生産能を有する。また本発明の組換えシアノバクテリアはカーラクトンを細胞外へ分泌する。したがって、本発明の組換えシアノバクテリアを適切な条件で培養し、次いで分泌されたカーラクトンを回収すれば、効率のよいカーラクトン生産を実施することができる。
【0016】
(培養方法)
シアノバクテリアの培養は、一般に、BG-11培地(J Gen Microbiol., 1979, 111:1-61)を用いた液体培養又はその変法に基づいて実施することができる。カーラクトン生産には、細胞の代謝が活性化し十分にカロテノイドが細胞に蓄積するまで培養することが好ましく、例えば、1~7日間、通気攪拌培養又は振とう培養することが好適である。またIPTG添加等により導入遺伝子の発現を誘導する場合、誘導時期としては以下に限定されないが、例えば、培養開始より1~3日間後に添加することが好ましい。
【0017】
(回収方法)
上記培養により、シアノバクテリアはカーラクトンを生産し、当該カーラクトンを培養物中に分泌する。分泌されたカーラクトンを回収する場合、培養物からろ過、遠心分離等により細胞等の固形分を除去し、残った液体成分を回収した後、酢酸エチル抽出法、エタノール抽出法、クロロホルム/メタノール抽出法、ヘキサン抽出法等によりカーラクトンを回収又は精製すればよい。また、大規模な生産の場合は、細胞を除去した後の培養物より油分を圧搾又は抽出により回収後、脱ガム、脱酸、脱色、脱蝋、脱臭等の一般的な精製を行い、カーラクトンを含む精製物またはカーラクトン自体を得ることができる。本発明によるカーラクトン生産方法では、カーラクトンがシアノバクテリアの細胞外に分泌されるので、カーラクトン回収のために細胞を破壊する必要がない。カーラクトン回収後に残った細胞は、繰り返しカーラクトン生産に使用することができる。
一実施の形態として本発明の組換えシアノバクテリアを用いてカーラクトンを生産したところ、BG11液体培地で三日間培養した菌体および培養上清において、植物の根に含まれるカーラクトンの約250倍のカーラクトン(80 ng/gFW)を生産することができた。
【0018】
以下、具体的な実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【実施例】
【0019】
1.プラスミド構築および形質転換体の作製
以下3つの遺伝子(DbD27遺伝子、OsCCD7遺伝子、および、AtCCD8遺伝子)をPrimeStar DNA polymerase (TaKaRa)を用いたPCRにより増幅した。PCRの条件は、PrimeStar DNA polymerase (TaKaRa)の指示書に準じて行った。
DbD27遺伝子断片は、ドナリエラのD27遺伝子(Davidi and Pick, Plant Cell Rep 2017)をシネココッカス・エロンガタスPCC7942用にあわせてコドン最適化したDNAを準備し、これを鋳型として、DbD27-f1およびSD-DbD27-r2のプライマーセットを用いて増幅した。OsCCD7遺伝子断片はイネのCCD7遺伝子 (NCBI-ProteinID: XP_015637185) のcDNAクローンを鋳型としてSD-OsCCD7-f3およびSD-OsCCD7-r4のプライマーセットを用いて増幅した。AtCCD8遺伝子断片はシロイヌナズナのCCD8遺伝子 (NCBI-ProteinID: NP_195007) のcDNAクローンを鋳型としてSD-AtCCD8-f5およびAtCCD8-r6のプライマーセットを用いて増幅した。各プライマー情報を下記表に示す。
【0020】
【0021】
3つのDNA断片はPrimeStar GXL polymerase (TaKaRa)ならびにDbD27-f1およびAtCCD8-r6のプライマーセットを用いて再結合した。得られたDNA断片はIn-Fusion cloning kit (TaKaRa)を用いてpHRA-lacI-Plac-Ptrcベクター中にクローニングし、pHRA-SL3と名付けた。lacI-trc promoter-DbD27-OsCCD7-AtCCD8を含むDNA断片をp24-B0015ter-f およびB0011-Cm-rのプライマーセットを用いて増幅し、In-Fusion cloning kitを用いてp24EXプラスミドベクター中にクローニングした。得られたプラスミドをp24EX-SL3と名付けた。各プライマー情報を下記表に示す。
【0022】
【0023】
p24EX-SL3はシネココッカス・エロンガタスPCC7942の形質転換に用いた。対数増殖期まで培養した培養液20 mLを0.5 mLに濃縮し、1 μgのp24EX-SL3を加えた。一晩暗所で転倒攪拌した後、明所で1時間転倒撹拌した。形質転換体は、10 μg/μlのクロラムフェニコールを含むBG11寒天培地上に塗布し選択した。得られた形質転換体は以下のカーラクトン解析用サンプルとして用いた。
【0024】
2.カーラクトン解析用サンプル調製
得られた形質転換体(菌体)はOD750=0.05となる濃度で、10 μg/mLのクロラムフェニコールを含むBG11 培地80 mLに植菌した。培養48時間後IPTG(終濃度1 mM)を添加した。IPTG添加より24時間後に菌体を回収した(以降の操作は氷上にて行った)。回収した菌体を含む培養液を2本に分け、6000× gで5分間、遠心処理した。遠心処理後、沈降した菌体を含む培養液15 mLを回収し、別のチューブへ移した。この際に湿重量を測定した。菌体入りチューブに酢酸エチル5 mLを添加した。また、内部標準としてd6-5-デオキシストリゴールを50 μL入れた。その後、30秒間の超音波処理を6回繰り返し、LC/MS/MSによる解析まで低温(4℃)で保存した(菌体試料)。
また、遠心処理後の菌体回収により残った培養上清は40 mLずつ2つに分けて、それぞれに酢酸エチル7 mLを添加した。その後ボルテックスにより混合し、LC/MS/MSによる解析まで低温(4℃)で保存した(上清試料)。
【0025】
3.液体クロマトグラフィー質量分析法によるカーラクトン産生解析
上記2.カーラクトン解析用サンプル調製により得られた菌体試料および上清試料は、下記のようにして液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS/MS)に供した。まず、それぞれのサンプルを6000×gで5分間遠心処理した。遠心処理後、酢酸エチル層を新しいチューブへ移し、飽和NaCl を5 mLを入れ、強く振って静置した。静置後、二層に分離したチューブ中より酢酸エチル層をさらに新しいチューブへ回収した。水が残っているチューブに酢酸エチル3 mL 入れ、強く振って静置した。静置後、酢酸エチル層を回収した。酢酸エチル層へ無水硫酸ナトリウムを大さじ2杯添加後、綿栓ろ過し、エバポレーターにより溶媒を減圧留去した後、順相カラムクロマトグラフィーに供した。
【0026】
順相カラム(Part No. WAT023595、Sep-Pak(登録商標)カートリッジ、Waters Corp.)はヘキサンで平衡化した。上記3で減圧留去したサンプルを1 mLのヘキサンで溶解し、充填した。その後ヘキサン3 mLで洗浄を行った。次いで溶出液(ヘキサン:酢酸エチル=65:35)3 mLを順相カラムへ加え、溶出液を回収した。得られた溶出液をエバポレーターにより溶媒を除去後、50%アセトニトリルに溶解し、LC/MS/MSに供した。LC/MS/MSは、Acquity UPLC BEH-C18カラム(2.1*50mm, 1.7μm (Waters社)およびUPLC装置(Nexera (Shimadzu社))ならびMS装置(TripleTOF(登録商標)5600system (Sciex社))の組み合わせを用い、以下の条件で行った。流速0.3 mL/min、移動層A0.5%ギ酸水、Bアセトニトリル、カラムオープン40度として0分B20%、4分B40%、7分B70%、9分B99%、11分B99%となるようにグラジエントをかけて行った。カーラクトンはポジティブイオンモードにてm/z=303.2>97.0で検出を行った。また内部標準であるd
6-5-デオキシストリゴールはポジティブイオンモードにてm/z=337.2>222.1で検出した。
LC/MS/MSの結果、菌体試料中のみならず、上清試料中にもカーラクトンを検出することができた。菌体試料の抽出クロマトグラムの結果を
図1に示し、約10.1分に回収したピークのマススペクトルデータを
図2に示す。また上清試料の抽出クロマトグラムの結果を
図3に示し、約9.9分に回収したピークのマススペクトルデータを
図4に示す。
図2、
図4に示すマススペクトルデータの結果は、以前に報告されていたカーラクトンのマススペクトルデータ(非特許文献2)と一致していた。
【配列表】