(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】Fe-Si-B系急冷凝固合金およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 45/02 20060101AFI20241111BHJP
B22D 11/06 20060101ALI20241111BHJP
B22D 41/01 20060101ALI20241111BHJP
B22D 11/01 20060101ALI20241111BHJP
H01F 1/153 20060101ALI20241111BHJP
C21D 6/00 20060101ALN20241111BHJP
【FI】
C22C45/02 A
B22D11/06 370B
B22D11/06 360B
B22D11/06 380A
B22D41/01
B22D11/01 B
H01F1/153 108
C21D6/00 C
(21)【出願番号】P 2020099140
(22)【出願日】2020-06-08
【審査請求日】2023-05-30
(73)【特許権者】
【識別番号】523324292
【氏名又は名称】ネクストコアテクノロジーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001597
【氏名又は名称】弁理士法人アローレインターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】金清 裕和
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-164073(JP,A)
【文献】国際公開第2019/189813(WO,A1)
【文献】特開平05-329587(JP,A)
【文献】特開昭60-199553(JP,A)
【文献】特開平07-113151(JP,A)
【文献】特開2018-144084(JP,A)
【文献】特開2018-153828(JP,A)
【文献】米国特許第06103396(US,A)
【文献】特開2015-127436(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00,45/02
H01F 1/153
B22D 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe-Si-B系急冷凝固合金において、組成式T
100-x-y-zSi
x(B
1-mC
m)
yP
z(TはFe、Co及びNiからなる群から選択された少なくとも1種の元素であって、Feを必ず含む遷移金属元素)で表現され、組成比率x、y、zおよびmがそれぞれ、
1.0≦x≦4.5原子%、
11.0≦y≦14.0原子%、
0.0≦z≦2.0原子%、
0.0≦m≦0.3
を満足する組成を有し、厚みが40μm以上70μm以下であ
り、
表層に0.1体積%以上10体積%以下のα-Fe が析出し、残部がアモルファス組織からなり、
急冷凝固状態での磁気特性、または、急冷凝固状態から200℃以上450℃以下の一定温度にて熱処理を施した後の磁気特性が、飽和磁束密度Bs≧1.7T、保磁力Hc≦200A/mであるFe-Si-B系急冷凝固合金。
【請求項2】
組成式T
100-x-y-zSi
x(B
1-mC
m)
yP
z(TはFe、Co及びNiからなる群から選択された少なくとも1種の元素であって、Feを必ず含む遷移金属元素)で表現され、組成比率x、y、zおよびmがそれぞれ、
1.0≦x≦4.5原子%、
11.0≦y≦14.0原子%、
0.0≦z≦2.0原子%、
0.0≦m≦0.3
を満足する組成のFe-Si-B系の合金溶湯を用意する工程と、
純銅、銅合金、MoおよびWのいずれかを主原料とする冷却ロール上で前記合金溶湯を急冷凝固することにより
厚みが40μm以上70μm以下のFe-Si-B系急冷凝固合金を得る急冷凝固工程とを備え、
前記急冷凝固工程は、前記冷却ロールをロール表面速度15m/sec以上40m/sec以下で回転させながら、前記冷却ロールの表面に前記合金溶湯をノズルから噴射する工程を備えており、
前記ノズルは、直線状の開口部が2列以上4列以下で互いに平行に配置され
、
前記Fe-Si-B系急冷凝固合金は、表層に0.1体積%以上10体積%以下のα-Fe が析出し、残部がアモルファス組織からなり、急冷凝固状態での磁気特性、または、急冷凝固状態から200℃以上450℃以下の一定温度にて熱処理を施した後の磁気特性が、飽和磁束密度Bs≧1.7T、保磁力Hc≦200A/mであるFe-Si-B系急冷凝固合金の製造方法。
【請求項3】
前記各開口部は、前記冷却ロールの回転軸と平行に形成されている請求項
2に記載のFe-Si-B系急冷凝固合金の製造方法。
【請求項4】
前記ノズルの材質は、石英(SiO2)、窒化硼素(BN)、炭化珪素素(SiC)およびアルミナ(Al2O3)のいずれかを主成分とし、
前記開口部の幅が、0.2mm以上0.7mm以下であり、
隣接する前記各開口部の間隔が、1.0mm以上5.0mm以下である請求項
2または3に記載のFe-Si-B系急冷凝固合金の製造方法。
【請求項5】
前記各開口部は、一方向に間隔をあけて配置された2孔以上4孔以下のオリフィスによって構成され、
前記オリフィスの径が、0.5mm以上2.0mm以下であり、
前記開口部を構成するオリフィスの間隔が、1.0mm以上5.0mm以下である請求項
2から4のいずれかに記載のFe-Si-B系急冷凝固合金の製造方法。
【請求項6】
前記冷却ロールの表面粗度は、算術平均粗さ(Ra)が0.01μm以上、0.6μm以下である請求項
2から5のいずれかに記載のFe-Si-B系急冷凝固合金の製造方法。
【請求項7】
前記ノズルから前記冷却ロールまでの距離は、0.2mm以上3.0mm以下である請求項
2から6のいずれかに記載のFe-Si-B系急冷凝固合金の製造方法。
【請求項8】
前記ノズルは、5kPa以上50kPa以下の圧力で前記合金溶湯を出湯する請求項
2から7のいずれかに記載のFe-Si-B系急冷凝固合金の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Fe-Si-B系急冷凝固合金およびその製造方法に関し、より詳しくは、積層コアへ適用可能なFe-Si-B系急冷凝固合金およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品として使用されるインダクタやリアクトルといった各種受動素子やトランス向けに鉄損が低く飽和磁束密度が高い材料が市場から求められており、透磁率が高く、鉄損が低い軟磁性材料として鉄基アモルファス材料や、同じく鉄基のナノ結晶材料といった鉄(Fe)、珪素(Si)、硼素(B)を主原料とする溶湯急冷凝固により作製される厚み17μmから22μm程度のFe-Si-B系急冷凝固合金薄帯が従来の珪素鋼板(Fe-Si)に代わる高性能高効率軟磁性材料として大型トランスやインダクタ向けへの需要が増えている。
【0003】
加えて上記Fe-Si-B系急冷凝固合金は、珪素鋼板に比べて低鉄損の特長を活かし、ブラシレス直流(BLDC)モータのロータコア及びステータコアに適用することでBLDCモータの高効率化が検討されており、特に10,000rpmを超えるような高速回転型のBLDCモータでは、軟磁性材料の動作域が1kHz以上の高周波帯域となるため数100Wクラスのモータにおいて従来にない高効率が得られることが確認されており、白物家電および電装向け補機モータへの展開が期待されている。
【0004】
一方、白物家電モータ以上に高効率化が求められている数10kW以上クラスのEV向け駆動用BLDCモータは回転数が10,000rpm未満であり、軟磁性材料の動作域が1kHz以下になる場合が多く、珪素鋼板並みの飽和磁束密度(Bs)を確保出来ていないとEV駆動用のBLDCモータとして必要なトルクが得られないため、最大でもBsが1.6T程度のFe-Si-B系アモルファス合金や1.4T程度の鉄基のナノ結晶材料では、Bs≧1.7T以上の珪素鋼板を代替することが難しく、これまでFe-Si-B系急冷凝固合金を適用したBLDCモータをEV市場へ投入した例はない。
【0005】
上記の数10kW以上クラスのEV駆動用BLDCモータは、これまで珪素鋼板のコア材と優れた永久磁石特性を発現する異方性希土類鉄硼素系焼結磁石を組み合わせ、マグネットトルクの活用による高効率が進められてきたが、透磁率の低い珪素鋼板では異方性希土類鉄硼素系焼結磁石の優れた磁気特性を十分活用出来ておらず、加えて珪素鋼板のコア材では低鉄損化が実現出来ず、永久磁石性能の有効活用、並びにコア材の低鉄損化の相乗効果を狙った自動車の省エネ化に貢献可能な高出力・高効率BLDCモータへのEV市場からの要求は極めて高い。
【0006】
なお、Fe-Si-B系アモルファス合金は、珪素鋼板に対して動作周波数帯を問わず鉄損を1/10程度まで低減可能であり、加えて透磁率も高いことから、珪素鋼板よりBsが低いと言う課題を克服出来れば、具体的にはBs≧1.7Tを実現することでEV駆動用BLDCモータに必要なモータ出力を確保出来ることから、珪素鋼板からの代替が可能なBs≧1.7Tが得られるFe-Si-B系アモルファス合金への期待は高い。
【0007】
但し、珪素鋼板は積層コアとしてBLDCモータのロータコア及びステータコアへ適用されているため、既存のFe-Si-B系アモルファス合金では合金厚みが20μm程度と薄いことが原因で打抜き加工が出来ない故に積層コアに適用出来ず、巻きコアとしての利用に限定されるためモータ用途での珪素鋼板の代替が難しい。また、Fe-Si-B系ナノ結晶材は割れ欠けし易く、巻きコアあるいは粉砕した上、粉末成形し圧粉コアとするしかなく、同じく積層コアの利用が出来ないため、積層コア化が可能な厚み40μm以上であり、かつBs≧1.7Tを確保可能なFe-Si-B系急冷凝固合金材料は現在見出されていない。
【0008】
非特許文献1ではFe-Si-B系のアモルファス合金は、従来、104~106 K/secといった非常に速い急冷凝固速度で厚み17μmから22μm程度の急冷凝固合金薄帯でなければアモルファス組織を得られなかったが、リン(P)を添加することで急冷凝固速度を低下させ厚み50μm以上の鉄基アモルファス合金薄帯が得られることが開示されているが、P添加は飽和磁束密度Bsの低下を招来するだけでなく、P添加系合金は合金溶解時にP成分が揮発し炉内汚染が著しいことから未だ産業分野での応用例は少ない。
【0009】
特許文献1、特許文献2および特許文献3は50μm以上といった厚みの急冷合金薄帯の作製方法が記載されているが、何れもEV駆動用BLDCモータ向け積層コアへの適用を想定したBs≧1.7Tを有するFe-Si-B系のアモルファス合金は実現されておらず、珪素鋼板に代わる軟磁性材料として鉄基のアモルファス合金が産業利用されている例は未だない。
【0010】
特許文献4では、移動する冷却基板上(回転する冷却ロール)に、その移動方向に対しほぼ直角に配列され、かつそれぞれが前記移動方向に対して10~80°の角度をもつ複数の開口部(多孔ノズル)から溶融金属を噴出させ、急冷凝固させることを特徴とする金属薄帯の製造方法を開示しているが、本特許文献5は幅の広い急冷薄帯を作製する際、幅方向における金属薄帯の厚みばらつきの低減を目的になされた発明である。また、10~80°の角度を持つ複数の細長い平行四辺形、台形または楕円形状の開口部を加工することは難しく、ノズル加工費が高騰するという問題もあり工業的に量産レベルでの利用は難しい。
【0011】
特許文献5では、厚み40μm以上のFe-Si-B系アモルファス合金の製造方法を開示しているがBs≧1.7Tを確保出来得る合金組成を開示しておらず、EV駆動用BLDCモータ向け軟磁性材料の提供を発明の目的としていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開平5-329587
【文献】特開平7-113151
【文献】特開平8-124731
【文献】特開昭63-220950
【文献】特開2018-153828
【非特許文献】
【0013】
【文献】高飽和磁束密度を有する新規バルク金属ガラス/アモルファス厚板の創製(東北大学・金属ガラス総合研究センター)牧野彰宏、久保田健、常春涛
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
トランスや各種モータ等向けに広く利用されている珪素鋼板に代わる高性能軟磁性材料として、珪素鋼板と同様に打抜き加工が可能であり、占積率≧85%を確保出来、積層コアとしての応用が可能な厚み≧40μmを保有する厚板状のFe-Si-B系アモルファス合金が期待されているが、現在、トランス向け等々に応用されているFe-Si-B系アモルファス合金は、厚み20μm前後と積層コアに適用可能な厚みレベルではなく、また、Fe-Si-B系アモルファス合金の厚板化を可能とする先行技術も軟磁気特性並びに高磁気特性の低下を招来する、もしくは生産性に問題があることから、Bs≧1.7Tを確保しつつ、Fe-Si-B系アモルファス合金の厚板化を実現した積層コアへ展開可能な高Bsを特長とするFe-Si-B系アモルファス合金がEV駆動用BLDCモータ向けコア材として自動車業界を中心に切望されている。
【0015】
厚み≧40μmを実現するには、合金溶湯を急冷凝固しアモルファス化する単ロール急冷法において、溶湯を急冷する純銅もしくは銅合金等の熱伝導に優れる材質で作製された冷却ロールのロール表面速度(Vs)を12m/sec前後以下に下げる必要があるが、Vsを下げると溶湯急冷速度が低下するためアモルファス組織が得られず、所望するFe-Si-B系アモルファス合金の軟磁気特性を得ることが出来ない。そこで、硼素リッチ組成並びにリン(P)を始めとするNb、Zr、V添加等のアモルファス形成能を上げる合金組成的な対策を取ることにより、低Vs域でもアモルファス組織を得ることは可能になるが、これら元素の添加はBsの低下を招来するため、Bs≧1.7Tを達成することが出来ない。
【0016】
そこで、本発明は、Bs≧1.7Tでかつ、厚み≧40μmの高Bsを特長とする積層コア化が可能なFe-Si-B系急冷凝固合金およびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明に係るFe-Si-B系急冷凝固合金は、組成式T100-x-y-zSix(B1-mCm)yPz(TはFe、Co及びNiからなる群から選択された少なくとも1種の元素であって、Feを必ず含む遷移金属元素)で表現され、組成比率x、y、zおよびmがそれぞれ、
1.0≦x≦4.5原子%、
11.0≦y≦14.0原子%、
0.0≦z≦2.0原子%、
0.0≦m≦0.3
を満足する組成を有し、厚みが40μm以上70μm以下であり、表層に0.1体積%以上10体積%以下のα-Fe が析出し、残部がアモルファス組織からなり、急冷凝固状態での磁気特性、または、急冷凝固状態から200℃以上450℃以下の一定温度にて熱処理を施した後の磁気特性が、飽和磁束密度Bs≧1.7T、保磁力Hc≦200A/mであることを特徴とする。
【0020】
また、本発明に係るFe-Si-B系急冷凝固合金の製造方法は、組成式T100-x-y-zSix(B1-mCm)yPz(TはFe、Co及びNiからなる群から選択された少なくとも1種の元素であって、Feを必ず含む遷移金属元素)で表現され、組成比率x、y、zおよびmがそれぞれ、
1.0≦x≦4.5原子%、
11.0≦y≦14.0原子%、
0.0≦z≦2.0原子%、
0.0≦m≦0.3
を満足する組成のFe-Si-B系の合金溶湯を用意する工程と、
純銅、銅合金、MoおよびWのいずれかを主原料とする冷却ロール上で前記合金溶湯を急冷凝固することにより厚みが40μm以上70μm以下のFe-Si-B系急冷凝固合金を得る急冷凝固工程とを備え、
前記急冷凝固工程は、前記冷却ロールをロール表面速度15m/sec以上40m/sec以下で回転させながら、前記冷却ロールの表面に前記合金溶湯をノズルから噴射する工程を備えており、
前記ノズルは、直線状の開口部が2列以上4列以下で互いに平行に配置され、
前記Fe-Si-B系急冷凝固合金は、表層に0.1体積%以上10体積%以下のα-Fe が析出し、残部がアモルファス組織からなり、急冷凝固状態での磁気特性、または、急冷凝固状態から200℃以上450℃以下の一定温度にて熱処理を施した後の磁気特性が、飽和磁束密度Bs≧1.7T、保磁力Hc≦200A/mであるFe-Si-B系急冷凝固合金の製造方法であることを特徴とする。
【0021】
前記各開口部は、前記冷却ロールの回転軸と平行に形成されていることが好ましい。
【0022】
前記ノズルの材質は、石英(SiO2)、窒化硼素(BN)、炭化珪素素(SiC)およびアルミナ(Al2O3)のいずれかを主成分とすることが好ましく、前記開口部の幅が、0.2mm以上0.7mm以下であり、隣接する前記各開口部の間隔が、1.0mm以上5.0mm以下であることが好ましい。
【0023】
前記各開口部は、一方向に間隔をあけて配置された2孔以上4孔以下のオリフィスによって構成することができ、この場合は、前記オリフィスの径が、0.5mm以上2.0mm以下であり、前記開口部を構成するオリフィスの間隔が、1.0mm以上5.0mm以下であることが好ましい。
【0024】
前記冷却ロールの表面粗度は、算術平均粗さ(Ra)が0.01μm以上、0.6μm以下であることが好ましい。
【0025】
前記ノズルから前記冷却ロールまでの距離(ギャップ)は、0.2mm以上3.0mm以下であることが好ましい。
【0026】
前記ノズルは、5kPa以上50kPa以下の圧力で前記合金溶湯を出湯することが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、Bs≧1.7Tでかつ、厚み≧40μmの高Bsを特長とする積層コア化が可能なFe-Si-B系急冷凝固合金およびその製造方法を提供することができる。
本発明のFe-Si-B系急冷凝固合金は、珪素鋼板に対して鉄損が1/10というモータにおける高効率化に寄与する鉄基アモルファス合金の特長を維持しながら、EV駆動用BLDCモータ向け珪素鋼板からの代替が可能となるBs≧1.7Tを確保し、かつ、厚み40μm~70μmの厚みを実現することで、EV駆動用BLDCモータへの応用に必須である積層コアへの展開が可能な機械的性質を有する。
発明者は、必須元素であるFe、Si、Bの三元組成域にて各元素の配合比率を綿密に調整することにより、Siが1原子%以上4.5原子%未満、Bが11原子%以上14原子%未満、残部Feの特異的な合金組成域にて合金溶湯の急冷凝固条件を急冷ロールの表面粗度を算術平均粗さ(Ra)が0.01μm以上0.6μm以下に限定、合金溶湯を急冷凝固する際のノズルと冷却ロールの距離を0.2mm以上3.0mm以下に限定、さらに出湯ノズルから急冷ロール上へ噴出される合金溶湯の出湯圧力を5kPa以上50kPa以下に限定し最適化を図ることで、Bs≧1.7Tが得られることを把握した上、合金溶湯の急冷凝固の際、前記の多重スリットノズルあるいは縦列多孔ノズルを採用することでアモルファス組織を損なうことなく、Bs≧1.7Tを確保しつつ、積層コアに展開可能な厚み40μm~70μmを有するFe-Si-B系急冷凝固合金が得られることを見出し、本願発明を想到するに至った。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】(a)は本発明によるFe-Si-B系急冷凝固合金薄帯の製造する際に使用する装置の全体構成例を示す断面図であり、(b)は急冷凝固が行われる部分の拡大図である。(c)は出湯ノズル底面の拡大図であり、(c-1)は多重スリットノズルを(c-2)は縦列多孔ノズルの一例を夫々示している。
【
図2】実施例2で得られたFe-Si-B系急冷凝固合金薄帯の自由面側(冷却ロールの接触面と反対側)のX線回折プロファイルである。
【
図3】実施例7で得られたFe-Si-B系急冷凝固合金薄帯の自由面(冷却ロールの接触面と反対側)のX線回折プロファイルである。
【
図4】比較例9で得られたFe-Si-B系急冷凝固合金薄帯の自由面(冷却ロールの接触面と反対側)のX線回折プロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[合金組成]
Feを必須元素として含む遷移金属Tは、上述の元素の含有残余を占める。Feの一部をFeと同じく強磁性元素であるCo及びNiの一種または二種で置換しても、所望の硬磁気特性を得ることができる。ただし、Feに対する置換量が30%を超えると、磁束密度の大幅な低下を招来するため、置換量は0%~30%の範囲に限定される。なお、Coは添加であれば、磁化の向上に寄与するだけでなく溶湯粘性を低下させ、溶湯急冷時のノズルからに出湯レートを安定化する効果があるためCo置換量は0.5%以上30%以下であることが好ましく、費用対効果の観点からCoの置換量は0.5%以上10%以下であることがさらに好ましい。
【0030】
本願発明においてSiはアモルファス(非晶質)組織を得るための必須元素であるだけでなく、優れた軟磁気特性を発現するためにも重要な働きをする。Siが1.0原子%以下となると印加磁界1kOe時の最大透磁率が200以下まで悪化するだけでなく、5kHz、0.5T時の鉄損(Pcm)が0.1w/g以上となるため、珪素鋼板と比較して高透磁率、低鉄損であるという鉄基アモルファス合金の特長が減じられる。また、4.5原子%を超えると磁化を担うFeの存在比率が低下しBs≧1.7Tを得ることが出来ないため、Si濃度xは、1.0原子%以上4.5原子%以下とする。好ましくは、1.5原子%以上4.0原子%以下が良く、さらに好ましくは、2.0原子%以上3.5原子%以下が良い。
【0031】
B+Cの組成比率yが11.0原子%未満になると、合金のアモルファス生成能が大きく低下するため、溶湯急冷凝固の際にα-Feが析出するため低鉄損等の鉄基アモルファス合金としての性能が損なわれる。
また、B+Cの組成比率yが14.0原子%を超えると磁化を担うFeの存在比率が低下しBs≧1.7Tを得ることが出来ないため、組成比率yは、11.0原子%以上14.0原子%以下の範囲とし、11.5原子%以上13.0原子%以下であることが好ましく、12.0原子%以上13.0原子%以下であることがさらに好ましい。
【0032】
Bの一部をCで置換することにより合金溶湯の融点が低下し、急冷凝固条件が緩和され作り易くなるが、Bに対するCの置換率mが30%を超えるとアモルファス生成能が大きく低下するため好ましくなく、mは0%~30%に限定する。
なお、高Bs特性を維持する観点から好ましくは0%~20%が良く、さらに好ましくは5%~15%が良い。
【0033】
本発明においてPは、必須ではないものの添加することにより合金のアモルファス生成能が向上するため、急冷凝固条件が緩和され作り易くなるが、Pの組成比率zが2.0原子%を超えるとBsの低下を招来するだけでなく、合金溶解時にP成分が揮発し炉内汚染が著しく量産が出来ない。好ましくは、0原子%以上1.7原子%が良く。さらに好ましくは、0原子%以上1.5原子%が良い。
【0034】
本発明において、Al、Si、V、Ti、Mn、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ag、Hf、Ta、W、Pt、AuおよびPbからなる群から選択された1種以上添加元素を加えることも可能であるが、添加濃度が2.0原子%を超えるとBs≧1.7Tが得られないため好ましくなく、不純物としての混在も含め2.0原子%以内であれば許容される。
【0035】
[金属組織]
本発明により得られるFe-Si-B系急冷凝固合金薄帯は、規則的な結晶構造を有さない鉄基のアモルファス(非晶質)組織を有していることを特徴するが、合金溶湯を回転する冷却ロール上で急冷凝固する際、得られたFe-Si-B系急冷凝固合金薄帯の表層には不均一核生成が原因と思われるα-Feの析出が見られる場合がある。但し、α-Fe の析出はFe-Si-B系急冷凝固合金薄帯において10.0体積%以下であれば、100%アモルファス組織からなるFe-Si-B系急冷凝固合金薄帯と比較して透磁率、鉄損共に大きな差異は認められず許容される。
なお、積層コアに適用するには量産適用を想定した場合、ロータコアおよびステータコア等の形状に本発明のFe-Si-B系急冷凝固合金薄帯をプレスにて連続的に打抜き加工する必要があるが、100%アモルファス組織では急冷凝固合金薄帯に靭性(粘り)があるため、打抜く際に刃物が逃げ易く、安定して打ち抜き加工が継続出来ない。しかしながら前記の通りFe-Si-B系急冷凝固合金薄帯の表層に10.0体積%以下のα-Feが析出し、残部がアモルファス組織の場合、Fe-Si-B系急冷凝固合金薄帯の靭性が抑制され、打抜き時に刃物が逃げることなく連続打抜き加工が可能となる。但し、α-Feの析出が 10.0体積%を超えると打抜き加工時、Fe-Si-B系急冷凝固合金薄帯にバリや欠けが発生するため、急冷凝固合金の表層に析出するα-Feの析出は0.1体積%以上10体積以下%が良く、安定した加工性の観点から、0.5体積%以上7.0体積%以下が好ましく、0.5体積%以上5.0体積%以下がさらに好ましい。
【0036】
[磁気特性]
本発明にて得られるFe-Si-B系急冷凝固合金薄帯は、急冷凝固直後の状態(as-spun)、あるいはas-spunの状態から歪除去を目的とした200℃以上450℃未満の温度にて熱処理を施した後の軟磁気特性が飽和磁束密度Bs≧1.7T、Hc≦200A/mを得ることが出来るが、30kW以上のEV駆動用のBLDCモータの適用を想定した場合、Bs≧1.72Tが好ましく、Bs≧1.75Tがさらに好ましい。一方、Hcが200A/mを超えると透磁率の低下を招来する。好ましくはHc≦150A/mが良い。
【0037】
[溶湯急冷]
本発明の急冷凝固工程において合金溶湯を噴射するノズルとしては、直線状の開口部が2列以上4列以下で互いに平行に配置されたものを使用する。開口部が1列の場合は、40μm以上の急冷合金薄帯を得ることが出来ず、開口部が5列以上の場合は、α-Feの析出が10体積%を超えるため、目的とする軟磁気特性が得られない。開口部は、2列または3列であることがより好ましい。
各開口部は、スリット状に形成することができ、ノズルを多重スリットノズルとすることができる。あるいは、各開口部は、一方向に間隔をあけて配置された2孔以上4孔以下のオリフィスによって構成することもでき、ノズルを縦列多孔ノズルとすることができる。開口部を構成するオリフィスが1孔の場合は、40μm以上の急冷合金薄帯を得ることが出来ず、開口部を構成するオリフィスが5孔以上の場合は、α-Feの析出が10体積%を超えるため、目的とする軟磁気特性が得られない。開口部を構成するオリフィスは、2孔または3孔である ことがより好ましい。
各開口部は、冷却ロールの回転軸と平行に形成されていることが好ましい。本実施形態においては、
図1(c-1)および(c-2)に示すように、冷却ロールの回転方向14と直交するように2列の開口部を配置し、多重スリットノズル12または縦列多孔ノズル13が構成される。上記の縦列多孔ノズルの場合には、各開口部は、冷却ロールの回転軸に対して垂直に形成してもよく、この場合は、冷却ロールの回転方向に沿って各開口部が配置される。
【0038】
所定の合金組成になるよう準備した素原料を溶解した後、上記の多重スリットノズルを使用して前記溶湯を急冷凝固する際は、ノズルの各開口部における幅と長さを適宜設定することで、冷却ロールへ供給される出湯レートを調整する。開口部の幅0.2mmがより小さい場合には、溶湯が閉塞し易く、加えて形成が困難なため、開口部の幅は0.2mm以上であることが好ましい。一方、開口部の幅が0.7mmより大きい場合には、出湯レートが過剰となり回転ロールでの抜熱が間に合わず、冷却ロールに急冷合金が張り付き、安定した溶湯急冷凝固を継続出来ないばかりかα-Feの析出が10体積%(残部、アモルファス組織)を超えるため、所望とする軟磁気特性を得にくいことから、開口部の幅は、0.2mm以上0.7mm以下であることが好ましい。なお、0.3mm以上0.6mm以下が好ましく、0.3mm以上0.5mm以下がさらに好ましい。
また、隣接する各開口部の間隔が1.0mmより小さい場合は、溶湯出湯時に各開口部の間が溶湯の流れにより脱落し易い一方、各開口部の間隔が5mmより大きいとα-Feの析出が10体積%(残部、アモルファス組織)を超えるため、所望とする軟磁気特性を得にくいことから、各開口部の間隔は1.0mm以上5.0mm以下であることが好ましい。好ましくは2.0mm以上5.0mm以下がよく、2.0mm以上4.0mm以下がさらに好ましい。
【0039】
また、所定の合金組成になるよう準備した素原料を溶解した後、上記の縦列多孔ノズルを使用して前記溶湯を急冷凝固する場合には、各オリフィスの径が0.5mmより小さい場合には、1孔当たりの平均出湯レートが200g/min以下となり生産性に劣り、2mmより大きい場合には平均出湯レートが2000g/min以上となるため、急冷凝固合金の組織におけるα-Feの体積比率が10体積%を超えるため、目的とする軟磁気特性を得にくいことから、オリフィス径は、0.5mm以上2.0mm以下であることが好ましい。なお、好ましくは0.5mm以上1.5mm未満が良く、0.6mm以上1.2mm未満がさらに良い。
また、各開口部を構成するオリフィスの間隔が1.0mmより小さい場合は、溶湯出湯時、オリフィス同士の間が溶湯の流れにより脱落し易い一方、オリフィスの間隔が5mmを超えるとα-Feの析出が10体積%(残部、アモルファス組織)を超えるため、所望とする軟磁気特性を得にくいことから、オリフィスの間隔は1.0mm以上5.0mm以下であることが好ましい。好ましくは2.0mm以上5.0mm以下が良く、2.0mm以上4.0mm以下がさらに好ましい。
【0040】
前記の多重スリットノズルおよび縦列多孔ノズルを用い、銅、銅合金、MoおよびWのいずれかを主原料とする冷却ロールの表面上に噴射することで、厚み40μm以上70μm以下のFe-Si-B系急冷凝固合金薄帯を得ることが出来るが、ロール表面速度15m/secより小さい場合には、α-Feの析出が10体積%を超えるため目的とする軟磁気特性を得にくく、ロール表面速度が40m/secより大きい場合には厚み40μm以上の急冷合金薄帯を得にくいことから、ロール表面速度は、15m/sec以上40m/sec以下であることが好ましい。なお、好ましくは18m/sec以上35m/sec以下が良く、さらに好ましくは20m/sec以上30m/sec以下が良い。
【0041】
前記の合金溶湯を急冷ロール表面上へ噴出するノズルの材質は、石英(SiO2)、窒化硼素(BN)、炭化珪素素(SiC)およびアルミナ(Al2O3)のいずれかを主成分とすることが好ましい。
【0042】
前記の急冷凝固合金を作製する際は、合金溶湯と冷却ロールの密着性が重要であり、本溶湯密着性はロールの表面粗度に大きく依存するため溶湯密着性を確保し、安定した溶湯急冷状態を維持するために冷却ロールの表面粗度を算術平均粗さ(Ra)0.01μm以上0.6μm以下とすることが好ましい。Raが0.01μmより小さいと、冷却ロールの表面上で合金溶湯が滑るため十分な冷却が出来ず、Raが0.6μmより大きい場合は急冷合金が冷却ロールに張り付くおそれがある。なお、Raは、0.05μm以上0.55μm以下が好ましく。0.1μm以上0.5μm以下がさらに好ましい。
【0043】
急冷凝固合金の作製工程において合金溶湯を超急冷する冷却ロールの材質は、銅、もしくはモリブデン、タングステンまたは同型の合金から形成された基材を有していることが好ましい。これらの基材は熱伝導性や耐久性に優れるからである。また、冷却ロールの基材表面にクロム、ニッケル。またはそれらを組み合わせためっきを施すことでロール表面の耐熱性および硬度を増し、急冷凝固時におけるロール表面の溶融や劣化を抑制することができる。
なお、急冷ロールの直径は例えばΦ200mm~Φ20000mmであり、急冷凝固時間が10sec以下の短時間であれば冷却ロールを水冷する必要は必ずしも無いが、急冷凝固時間が10sec以上におよぶ場合は、冷却ロール内部に冷却水を流し、冷却ロール基材の温度上場を抑制することが好ましく、冷却ロールの水冷能力は単位時間あたりの凝固潜熱と出湯レートに応じて算出され適宜最適調整されることがさらに好ましい。
【0044】
[熱処理]
好ましい実施形態では、鉄基硼素系合金もしくは前記鉄基硼素合金を200℃以上450℃以下の一定温度にて熱処理することにより急冷凝固合金中の歪除去が可能となり、さらに低鉄損が実現できる。200℃より低いと、歪除去の効果が少なく、450℃より高いと、結晶化が進行し、急冷凝固合金の脆性が増し、打ち抜き加工時に急冷凝固合金が割れるため、本発明におけるFe-Si-B系急冷凝固合金薄帯の熱処理は200℃以上450℃以下が好ましい。さらに好ましくは300℃以上400℃以下が良い。なお、上記熱処理雰囲気については真空中もしくは不活性ガス中の熱処理が好ましいが、大気中での熱処理も許容される。
【0045】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0046】
(実施例)
表1に示す各合金組成となるよう、純度99.5%以上のSi、B、C、PおよびFeの各元素を配合した素原料100kgをアルミナ製坩堝へ挿入した後、高周波誘導加熱により溶解し合金溶湯を用意した後、表1に記載のBN製の多重スリットノズル(スリット長さ×幅、スリットの間隔、列数を表1に記載)および縦列多孔ノズル(孔径、縦列孔間隔、横列孔数、列数を表1に記載)を底部に配した内径200mm×高さ400mmのアルミナ製貯湯容器へ前記合金溶湯50kgを注いだ。なお、出湯ノズル直下には表1に記載のノズル/ロール間ギャップにてクロムジルコン銅製の冷却ロール(外径600mm×幅200mm)が配置されている。
【0047】
その後、貯湯容器の周囲に設置された高周波加熱用コイルへ通電することで、前記合金溶湯50kgをさらに加熱し、溶湯温度が配合組成合金の融点よりおよそ100℃以上の溶湯温度に到達した後、出湯ノズル上部に配したアルミナ製溶湯ストッパーを引き抜き、出湯ノズル底部に配した多重スリットノズルおよび縦列多孔ノズルから合金溶湯を表2に記載の噴射圧にて、同じく表2に記載のロール表面速度にて回転している冷却ロールの表面上へ噴出した。なお、冷却ロールの表面粗度は急冷凝固工程前に予め表2に記載の算術平均粗さ(Ra)になるよう調節した。
【0048】
前記冷却ロールの表面へ噴出されロール上に押し付けられた前記合金溶湯は冷却ロール表面上にて湯だまり(パドル)を形成、パドルと冷却ロールの界面にて急冷凝固され、表3に示す平均厚みおよび平均幅を持つ薄帯状の急冷凝固合金を得た。表3に急冷凝固合金の生産効率を表す平均出湯レート示す。
【0049】
粉末X線回折(XRD)および透過型電子顕微鏡(TEM)による急冷凝固合金薄帯の表層からの評価により、得られた急冷凝固合金はアモルファス組織に加え、急冷凝固合金薄帯の表層にα-Feからなる結晶相を有することが判った。表3に急冷凝固合金薄帯の表層に析出したα-Feの体積%(TEMの明視野像よりアモルファス相と結晶相の存在比率を判定)を示す。代表例として
図2に実施例2、
図3に実施例7の夫々急冷凝固合金薄帯の自由面側から評価したX線回折プロファイルを示す。
図2、
図3共にα-Feの(200)の回折ピークが65度の位置に見られ、アモルファスに僅かなα-Feが混在した組織であることが判る。
【0050】
本実施例に得られた急冷凝固合金薄帯のas-spun、並びに一部の実施例では表4に記載の熱処理条件にて熱処理を施した後のBs、HcおよびPcmを表4に示す。
なお、Bsは東映工業製の振動式試料磁力計、Hcは東北特殊鋼製Hcメータ、Pcm(5kHz、0.5T時)は岩崎通信機製BHアナライザ―を用いて夫々測定した。
【0051】
(比較例)
表1に示す各合金組成となるよう、純度99.5%以上のSi、B、C、PおよびFeの各元素を配合した素原料100kgをアルミナ製坩堝へ挿入した後、高周波誘導加熱により溶解し合金溶湯を用意した後、表1に記載のBN製の多重スリットノズル(スリット長さ×幅、スリットの間隔、列数を表1に記載)および縦列多孔ノズル(孔径、縦列孔間隔、横列孔数、列数を表1に記載)を底部に配した内径200mm×高さ400mmのアルミナ製貯湯容器へ前記合金溶湯50kgを注いだ。なお、出湯ノズル直下には表1に記載のノズル/ロール間ギャップにてクロムジルコン銅製の冷却ロール(外径600mm×幅200mm)が配置されている。
【0052】
その後、貯湯容器の周囲に設置された高周波加熱用コイルへ通電することで、前記合金溶湯50kgをさらに加熱し、溶湯温度が配合組成合金の融点よりおよそ100℃以上の溶湯温度に到達した後、出湯ノズル上部に配したアルミナ製溶湯ストッパーを引き抜き、出湯ノズル底部に配した多重スリットノズルおよび縦列多孔ノズルから合金溶湯を表2に記載の噴射圧にて、同じく表2に記載のロール表面速度にて回転している冷却ロールの表面上へ噴出した。なお、冷却ロールの表面粗度は急冷凝固工程前に予め表2に記載の算術平均粗さ(Ra)になるよう調節した。
【0053】
前記冷却ロールの表面へ噴出されロール上に押し付けられた前記合金溶湯は冷却ロール表面上にて湯だまり(パドル)を形成、パドルと冷却ロールの界面にて急冷凝固され、表3に示す平均厚みおよび平均幅を持つ薄帯状の急冷凝固合金を得た。表3に急冷凝固合金の生産効率を表す平均出湯レート示す。
【0054】
粉末X線回折(XRD)および透過型電子顕微鏡(TEM)による急冷凝固合金薄帯の表層からの評価により、得られた急冷凝固合金はアモルファス単相の金属組織であることが判った。表3に急冷凝固合金薄帯の表層に析出したα-Feの体積%(TEMの明視野像よりアモルファス相と結晶相の存在比率を判定)を示す。代表例として
図4に比較例9の急冷凝固合金薄帯の自由面側から評価したX線回折プロファイルを示す。
図4より比較例9はアモルファス単相組織であることが判る。
【0055】
本実施例に得られた急冷凝固合金薄帯のas-spun、並びに一部の実施例では表4に記載の熱処理条件にて熱処理を施した後のBs、HcおよびPcmを表4に示す。
なお、Bsは東映工業製の振動式試料磁力計、Hcは東北特殊鋼製Hcメータ、Pcm(5kHz、0.5T時)は岩崎通信機製BHアナライザ―を用いて夫々測定した。
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【符号の説明】
【0060】
l 溶解坩堝
2 溶解用誘導加熱コイル(ワークコイル)
3 溶解坩堝傾動軸
4 貯湯容器(タンデッシュ)
5 貯湯容器誘導加熱コイル(ワークコイル)
6 出湯ノズル
7 ストッパー
8 合金溶湯
9 冷却ロール
10 急冷凝固合金
12 多重スリットノズル
13 縦列多孔ノズル
14 冷却ロール回転方向