(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】導電材料、多孔質体、およびそれらの製造方法、ならびに、電極材料および蓄電装置
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20241111BHJP
H01G 11/42 20130101ALI20241111BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01G11/42
(21)【出願番号】P 2020103916
(22)【出願日】2020-06-16
【審査請求日】2023-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2019124890
(32)【優先日】2019-07-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年6月6日第17回木質炭化学会 研究発表会 講演要旨集 木質炭化学会で発表、令和1年6月14日山形大学米沢キャンパスにおいて開催されたThe 3rd ECS Yamagata University Student Chapter Symposium で発表
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】本間 格
(72)【発明者】
【氏名】中安 祐太
(72)【発明者】
【氏名】勝山 湧斗
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2014-0036506(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第107619033(CN,A)
【文献】特開平11-214005(JP,A)
【文献】特開2017-208444(JP,A)
【文献】特開2016-146365(JP,A)
【文献】特開平10-297912(JP,A)
【文献】特開昭49-001516(JP,A)
【文献】特開2007-287955(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
H01G 11/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木炭由来のハードカーボンから成
り、前記木炭は、ナラ、竹、カラマツ、杉、朴、または柳の白炭であることを特徴とする導電材料。
【請求項2】
200mAh/g乃至1200mAh/gの放電容量を有することを特徴とする請求項
1記載の導電材料。
【請求項3】
0.15V以上の放電容量が95mAh/g以上、0.15V以下の放電容量が95mAh/g以上であることを特徴とする請求項
2記載の導電材料。
【請求項4】
8m
2/g乃至70m
2/gのBET比表面積を有し、10S/m乃至150000S/mの電気伝導率を有することを特徴とする請求項1乃至
3のいずれか1項に記載の導電材料。
【請求項5】
粒径が100nm乃至500nmであることを特徴とする請求項1乃至
4のいずれか1項に記載の導電材料。
【請求項6】
木炭由来のハードカーボンから成
り、3nm~5nmの間に細孔径分布のピークを有し、前記木炭は、ナラ、竹、カラマツ、杉、朴、または柳の白炭であることを特徴とする多孔質体。
【請求項7】
500m
2/g乃至1500m
2/gのBET比表面積を有し、100S/m乃至500S/mの電気伝導率を有することを特徴とする請求項
6記載の多孔質体。
【請求項8】
ナラ、竹、カラマツ、杉、朴、または柳の白炭を、粒径が100nm乃至500nmになるよ
う粉砕して導電材料を得ることを特徴とする導電材料の製造方法。
【請求項9】
請求項
8記載の導電材料の製造方法で得られた前記導電材料に対して、賦活処理を行うことにより多孔質体を得ることを特徴とする多孔質体の製造方法。
【請求項10】
活物質と、
請求項1乃至
5のいずれか1項に記載の導電材料または請求項
6もしくは7記載の多孔質体とを、有することを特徴とする電極材料。
【請求項11】
請求項1乃至
5のいずれか1項に記載の導電材料または請求項
6もしくは7記載の多孔質体を、導電助剤として含むことを特徴とする電極材料。
【請求項12】
請求項
10または
11記載の電極材料を、正極または負極の少なくとも一方に含むことを特徴とする蓄電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電材料、多孔質体、およびそれらの製造方法、ならびに、電極材料および蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境に対する負荷や安全性などの観点から、有機系の材料を用いた二次電池やキャパシタなどのデバイスの開発が進められている。これらのデバイスとしては、例えば、キノンなどの活物質を有機系の多孔質体に担持させた材料から形成された電極を有する蓄電装置が、本発明者等により開発されている(例えば、特許文献1参照)。また、活物質を担持する多孔質体としては、活性炭やナノカーボン等が用いられ、例えば、比表面積が大きい活性炭の一種であるMaxsorb(登録商標)が使用されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
また、他の有機系の材料を用いたデバイスとして、粉末状の木炭を賦活処理して得られた、粒径が0.01~1.00mmの粉末状活性炭を使用して形成された電極を有する電気二重層キャパシタ(例えば、特許文献2参照)や、負極にハードカーボンを使用したリチウムイオンバッテリーも開発されている(例えば、非特許文献2参照)。これらのデバイスでは、特性を高めるために、電極材料として、大きい比表面積または高い導電性を有する活性炭やハードカーボンなどの、導電材料や多孔質体が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6158308号公報
【文献】特開2016-157836号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】T. Tomai, S. Mitani, D. Komatsu, Y. Kawaguchi, I. Honma, “Metal-free aqueous redox capacitor via proton rocking-chair system in an organic-based couple”, Scientific reports, 2014, vol. 4, p.3591
【文献】H. Zheng, Q. Qu, L. Zhang, G. Liu, V. S. Battaglia, “Hard carbon: a promising lithium-ion battery anode for high temperature a applications with ionic electrolyte”, RSC Advances, 2012, vol. 2, issue 11, p.4904-4912
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1に記載のMaxsorb(登録商標)等の活性炭は、BET比表面積が約3000m2/gであり、グラファイト(比表面積:約10m2/g)やカーボンブラック(比表面積:約15~65m2/g)と比べて、非常に大きい比表面積を有している。しかし、導電率(電気伝導率)が約80S/mであり、カーボンブラック(導電率:約250S/m)やグラファイト(約105S/m)と比べて、導電率が小さいという課題があった。なお、活性炭の中でも、Maxsorb(登録商標)は、石油コークスを原料として製造されているため、環境負荷が大きい。
【0007】
特許文献2に記載の木炭由来の活性炭は、粉末の粒径が0.01~1.00mmと大きいため、他の活性炭と比べて比表面積が小さいという課題があった。非特許文献2に記載のハードカーボンは、導電率が約104~105S/mであり、カーボンブラックより大きく、グラファイトと同等の優れた導電性を有している。また、比表面積が約10~100m2/gであり、活性炭と比べると小さいが、グラファイトやカーボンブラックと同程度である。しかし、特許文献2や非特許文献2に記載のような、従来の活性炭やハードカーボンは、特定の樹種のみから製造されているため、入手コスト等の製造コストが嵩むという課題があった。また、従来の活性炭やハードカーボンと比べて、さらに大きい比表面積と高い導電性とをバランス良く兼ね備えたものが望まれているという課題があった。
【0008】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、製造コストを低減可能な導電材料、大きい比表面積と高い導電性とをバランス良く兼ね備えた多孔質体、およびそれらの製造方法、ならびに、その導電材料または多孔質体を有する電極材料および蓄電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る導電材料は、木炭由来のハードカーボンから成ることを特徴とする。本発明に係る導電材料は、特に、粒径が100nm乃至500nmであることが好ましい。
【0010】
本発明に係る導電材料の製造方法は、粒径が100nm乃至500nmになるよう木炭を粉砕して導電材料を得ることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る導電材料の製造方法は、本発明に係る導電材料を好適に製造することができる。本発明に係る導電材料は、従来のハードカーボンと同様に、グラファイト構造のナノドメインを有しており、大きい比表面積および高い導電性を有している。本発明に係る導電材料および本発明に係る導電材料の製造方法は、例えば、木炭を、広葉樹から形成された炭、または、ナラ、竹、カラマツ、杉、朴、もしくは柳の白炭にすることにより、8m2/g乃至70m2/gのBET比表面積を有し、10S/m乃至150000S/mの電気伝導率を有することができる。これは、グラファイトやカーボンブラックと同程度の比表面積および導電性であり、大きい比表面積と高い導電性とを比較的バランス良く兼ね備えることができる。また、原料として、広葉樹、または、ナラ、竹、カラマツ、杉、朴、もしくは柳など、入手が容易な樹種を使用することができるため、製造コストを低減することができる。
【0012】
本発明に係る導電材料は、200mAh/g乃至1200mAh/gの放電容量を有し、そのうちの0.15V以上の放電容量が95mAh/g以上、0.15V以下の放電容量が95mAh/g以上であることが好ましい。本発明に係る導電材料の製造方法で、粉砕処理は、いかなる方法で木炭を粉砕してもよい。
【0013】
本発明に係る多孔質体は、木炭由来のハードカーボンから成ることを特徴とする。本発明に係る多孔質体は、特に、500m2/g乃至1500m2/gのBET比表面積を有し、100S/m乃至500S/mの電気伝導率を有することが好ましい。
【0014】
本発明に係る多孔質体の製造方法は、本発明に係る導電材料の製造方法で得られた前記導電材料に対して、賦活処理を行うことにより多孔質体を得ることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る多孔質体の製造方法は、本発明に係る多孔質体を好適に製造することができる。本発明に係る多孔質体は、従来のハードカーボンと同様に、グラファイト構造のナノドメインを有しており、大きい比表面積および高い導電性を有している。本発明に係る多孔質体は、500m2/g乃至1500m2/gのBET比表面積を有しており、活性炭と同等程度で、グラファイトやカーボンブラック、従来のハードカーボンよりも大きい比表面積を有している。また、100S/m乃至500S/mの電気伝導率を有しており、グラファイトや従来のハードカーボンほどではないが、カーボンブラックと同等程度で、活性炭よりも高い導電性を有している。このように、本発明に係る多孔質体は、大きい比表面積と高い導電性とをバランス良く兼ね備えている。
【0016】
本発明に係る導電材料および多孔質体は、木炭を原料としているため、木材の付加価値を高め、森林管理の促進による木の枯死被害の予防や、二酸化炭素吸収量の増加、萌芽更新成功率の向上、低炭素社会の実現などに寄与することができる。本発明に係る多孔質体の製造方法で、賦活処理は、塩化亜鉛やリン酸などを用いた薬品賦活であってもよく、水蒸気や二酸化炭素、空気、燃焼ガスなどを用いたガス賦活であってもよい。
【0017】
本発明に係る多孔質体で、前記木炭は、黒炭、白炭、オガ炭等の成形木炭など、いかなるものであってもよいが、広葉樹から形成された炭、または、ナラ、竹、カラマツ、杉、朴、もしくは柳の白炭であることが特に好ましい。この場合、特に良質である。また、ナラ枯れ被害等の予防に寄与することができる。また、本発明に係る多孔質体は、3nm~5nmの間に細孔径分布のピークを有することが好ましい。この場合、導電率を高めることができる。
【0018】
本発明に係る導電材料または多孔質体は、例えば、蓄電装置の電極材料、より具体的には電気二重層キャパシタや、レドックス・フロー電池、リチウムイオン電池、ナトリウムイオン電池、カリウムイオン電池などの二次電池の電極材料、電気分解用の電極材料、電極用の導電助剤として利用することができる。
【0019】
本発明に係る電極材料は、活物質と、本発明に係る導電材料または多孔質体とを有することを特徴とする。あるいは、本発明に係る電極材料は、本発明に係る導電材料または多孔質体を導電助剤として含んでいることを特徴とする。本発明に係る蓄電装置は、本発明に係る電極材料を、正極または負極の少なくとも一方に含むことを特徴とする。
【0020】
本発明に係る蓄電装置は、電極材料が活物質と本発明に係る導電材料または多孔質体とを有する場合、活物質の利用率を高めることができるため、また、電極材料が導電助剤として本発明に係る導電材料または多孔質体を有する場合、電極の抵抗を低減することができるため、優れたサイクル特性やレート特性を有している。また、本発明に係る蓄電装置は、キノン系の蓄電装置であることが好ましい。この場合、電極材料に含まれる多孔質体が、グラファイト構造のナノドメインを有しているため、このナノドメインの表面とキノンのベンゼン環との間に強力なπ-π相互作用を発生させることができる。これにより、キノン吸着能を高め、蓄電性能を向上させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、製造コストを低減可能な導電材料、大きい比表面積と高い導電性とをバランス良く兼ね備えた多孔質体、およびそれらの製造方法、ならびに、その導電材料または多孔質体を有する電極材料および蓄電装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】ハードカーボン試料(HC)および本発明の実施の形態の多孔質体の試料(A-HC)の、(a)X線回折(XRD)の測定結果を示すXRDスペクトル、(b)ラマン分光法の測定結果を示すラマンスペクトルである。
【
図2】(a)ハードカーボン試料(HC)示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真、(b)本発明の実施の形態の多孔質体の試料(A-HC)を示すTEM写真である。
【
図3】本発明の実施の形態の多孔質体の試料(A-HC)を示す(a)TEM写真、(b) (a)の一部を拡大したTEM写真である。
【
図4】(a)
図2(a)のハードカーボン試料(HC)の一部を拡大したTEM写真、(b)
図2(b)の本発明の実施の形態の多孔質体の試料(A-HC)の一部を拡大したTEM写真、(c) (a)にグラフェン層の層境界(白い細線)を記入したTEM写真、(d) (b)にグラフェン層の層境界(白い細線)を記入したTEM写真である。
【
図5】ハードカーボン試料(HC)、本発明の実施の形態の多孔質体の試料(A-HC)、および活性炭(AC)の、導電率の測定結果を示すグラフである。
【
図6】本発明の実施の形態の多孔質体の試料(A-HC)およびMaxsorb(登録商標)の、細孔径(Pore width)分布測定の結果を示すグラフである。
【
図7】本発明の実施の形態の多孔質体の試料(A-HC)の、X線光電子分光法(XPS)測定によるC1s(Cの1s軌道)ピーク付近のスペクトルである。
【
図8】クロラニルを担持した本発明の実施の形態の電極試料の、サイクリックボルタンメトリー法での測定結果を示すサイクリックボルタグラムである。
【
図9】クロラニルを担持した本発明の実施の形態の電極試料の、定電流充放電試験の結果を示すグラフである。
【
図10】クロラニル(chloranil)、AQ、DCAQを担持した本発明の実施の形態の電極試料の、ハーフセルバッテリーでの放電試験結果を示すグラフである。
【
図11】クロラニル(chloranil)、AQ、DCAQを担持した本発明の実施の形態の電極試料の、ハーフセルバッテリーでの定電流サイクル試験結果を示す(a)サイクル特性のグラフ、(b)レート特性のグラフである。
【
図12】クロラニルを担持した本発明の実施の形態の電極試料を正極(Positive)、DCAQを担持した本発明の実施の形態の電極試料を負極(Negative)としたフルセルバッテリーの、(a)5Cレートでの1サイクル目のバッテリー(Cell)の電圧(Potential)および各電極(Positive, Negative)の電圧(Terminal Voltage)を示すグラフ、(b)レート特性を示すグラフ、(c)サイクル特性を示すグラフである。
【
図13】クロラニルを担持した本発明の実施の形態の電極試料を正極(Positive)、AQを担持した本発明の実施の形態の電極試料を負極(Negative)としたフルセルバッテリーの、(a)1Cレートでの2サイクル目および50サイクル目のバッテリー(Cell)の電圧(Potential)および各電極(Positive, Negative)の電圧(Terminal Voltage)を示すグラフ、(b)レート特性を示すグラフである。
【
図14】本発明の実施の形態の導電材料試料を負極として用いたコインセルの、組み立て方法を示す分解斜視図である。
【
図15】各樹種を原料として製造した、本発明の実施の形態の導電材料試料のXRDスペクトルである。
【
図16】各樹種の導電材料試料を用いた
図14に示すコインセル(対極がNa金属)による定電流充放電試験の結果を示すグラフである。
【
図17】(a)各樹種の
図16のプラトー容量と導電材料試料の結晶子体積との関係を示すグラフ、(b)各樹種の
図16のスロープ容量と導電材料試料のBET比表面積との関係を示すグラフである。
【
図18】各樹種の導電材料試料を用いた
図14に示すコインセル(対極がLi金属)による定電流充放電試験の、2サイクル目の充放電曲線を示すグラフである。
【
図19】ナラの白炭の導電材料試料を用いた
図14に示すコインセル(対極がLi金属)による定電流充放電試験の、各サイクルでの放電容量(Specific Energy Capacity)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、実施例等に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の実施の形態の導電材料および多孔質体は、木炭由来のハードカーボンから成っている。木炭は、いかなるものであってもよいが、広葉樹から形成された炭、または、ナラ、竹、カラマツ、杉、朴、もしくは柳の白炭であることが特に好ましい。本発明の実施の形態の導電材料は、10m2/g乃至30m2/gのBET比表面積を有し、10S/m乃至150000S/mの電気伝導率を有している。また、本発明の実施の形態の多孔質体は、500m2/g乃至1500m2/gのBET比表面積を有し、100S/m乃至500S/mの電気伝導率を有している。
【0024】
本発明の実施の形態の導電材料および多孔質体は、グラファイト構造のナノドメインを有しており、大きい比表面積および高い導電性を有している。本発明の実施の形態の導電材料は、グラファイトやカーボンブラックと同程度の比表面積および導電性を有しており、大きい比表面積と高い導電性とを比較的バランス良く兼ね備えている。また、本発明の実施の形態の多孔質体は、活性炭と同等程度で、グラファイトやカーボンブラック、従来のハードカーボンよりも大きい比表面積、および、グラファイトや従来のハードカーボンほどではないが、カーボンブラックと同等程度で、活性炭よりも高い導電性を有している。このように、本発明の実施の形態の多孔質体は、大きい比表面積と高い導電性とをバランス良く兼ね備えている。
【0025】
本発明の実施の形態の導電材料および多孔質体は、木炭を原料としているため、木材の付加価値を高め、森林管理の促進による木の枯死被害の予防や、二酸化炭素吸収量の増加、萌芽更新成功率の向上、低炭素社会の実現などに寄与することができる。特に木炭がナラ、竹、カラマツ、杉、朴、もしくは柳の白炭から成る場合、良質であり、ナラ枯れ被害等の予防に寄与することができる。
【0026】
本発明の実施の形態の導電材料および多孔質体は、例えば、蓄電装置の電極材料、より具体的には電気二重層キャパシタやレドックス・フロー電池などの二次電池の電極材料、電気分解用の電極材料、電極用の導電助剤として利用することができる。
【0027】
本発明の実施の形態の導電材料および多孔質体は、それぞれ本発明の実施の形態の導電材料の製造方法および多孔質体の製造方法により好適に製造される。すなわち、粒径が100nm乃至500nmになるよう木炭を粉砕することにより、本発明の実施の形態の導電材料を得ることができる。また、木炭を粉砕した後、賦活処理を行うことにより、本発明の実施の形態の多孔質体を得ることができる。木炭の粉砕処理は、いかなる方法であってもよい。また、賦活処理は、塩化亜鉛やリン酸などを用いた薬品賦活であってもよく、水蒸気や二酸化炭素、空気、燃焼ガスなどを用いたガス賦活であってもよい。
【0028】
本発明の実施の形態の電極材料は、活物質と、本発明の実施の形態の導電材料または多孔質体とを有していてもよく、本発明の実施の形態の導電材料または多孔質体を導電助剤として含んでいてもよい。また、本発明の実施の形態の蓄電装置は、本発明の実施の形態の電極材料を、正極または負極の少なくとも一方に含んでいる。
【0029】
本発明の実施の形態の蓄電装置は、電極材料が活物質と、本発明の実施の形態の導電材料または多孔質体とを有する場合、活物質の利用率を高めることができるため、また、電極材料が導電助剤として本発明の実施の形態の導電材料または多孔質体を有する場合、電極の抵抗を低減することができるため、優れたサイクル特性やレート特性を有している。本発明の実施の形態の蓄電装置は、キノン系の蓄電装置であることが好ましく、この場合、電極材料に含まれる多孔質体が、グラファイト構造のナノドメインを有しているため、このナノドメインの表面とキノンのベンゼン環との間に強力なπ-π相互作用を発生させることができる。これにより、キノン吸着能を高め、蓄電性能を向上させることができる。
【実施例1】
【0030】
[試料の製造]
本発明の実施の形態の導電材料および多孔質体の製造方法により、それぞれ導電材料および多孔質体を製造した。原料として、ナラ(オーク)から製造された市販の白炭(宮城県刈田郡七ヶ宿町「炭屋の暮らし」製)を用いた。まず、その白炭をハンマーで粉砕し、すり潰して導電材料のハードカーボン試料(以下、「HC」とも呼ぶ)を製造した。また、そのハードカーボン試料を、直径0.5mm、50mgのジルコニアボールを用いて、ボールミルで粉砕した。さらに、直径0.05mm、50mgのジルコニアボールを用いて、再度、ボールミルで粉砕した。各ボールミルでの粉砕処理では、回転数を600rpmとし、10分間の粉砕を24サイクル行った。こうして得られた粉末を、30分で900℃まで加熱し、900℃で70分間保持して賦活処理を行うことにより、多孔質体の試料(以下、「A-HC」とも呼ぶ)を製造した。賦活処理は、二酸化炭素を用いたガス賦活で行った。賦活処理による重量減少率は、約50%であった。
【0031】
製造したA-HCと有機活物質とを用いて、試験用の電極試料を作製した。有機活物質は、正極の試料にはクロラニル(chloranil)を用い、負極の試料にはアントラキノン(AQ)または1,5-ジクロロアントラキノン(DCAQ)を用いた。各電極試料の作製では、まず、30mgの有機活物質を、30mLのアセトンに溶解し、そこに70mgのA-HCを加えて分散させた。その後、アセトンを蒸発させ、得られた粉末を真空中で乾燥させた。これにより、A-HCに、クロラニル、AQまたはDCAQが担持される。乾燥後の粉末に、結合剤としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を加えて混合し、成形して各電極試料を作製した。各電極試料の有機活物質とA-HCとPTFEの含有率は、wt%で、27:63:10である。
【0032】
[試験について]
製造したハードカーボン試料(HC)や多孔質体試料(A-HC)に対して、X線回折(XRD)、ラマン分光法による測定、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察、4端子法による導電率測定、表面積・細孔径分析装置を用いたBET比表面積測定および細孔径分布測定、X線光電子分光法(XPS)による測定を行った。また、各電極試料に対して、電気化学測定として、サイクリックボルタンメトリー(CV)、定電流充放電試験を行った。
【0033】
また、ハーフセルバッテリーおよびフルセルバッテリーを用いて、電気化学測定を行った。ハーフセルバッテリーのとき、作用極として各電極試料を用い、参照極としてAg/AgCl(飽和KCl)を用いた。また、対極として、Maxsorb(登録商標)とカーボンブラックとPTFEとを、wt%で、8:1:1の割合で含む電極を用いた。また、電気化学測定では、電解液として、0.5M H2SO4(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いた。測定は室温で行い、電解液中の溶存酸素を除去するために、測定中はN2ガスで常時バブリングを行った。なお、フルセルバッテリーのとき、クロラニルはテトラクロロハイドロキノン(TCHQ)に戻されていなければならない。このため、クロラニルを担持した電極試料を、ハーフセルバッテリーにて、1Cレートで、0.8V vs. Ag/AgClに充電し、0V vs. Ag/AgClまで放電することにより、クロラニルをTCHQに戻している。
【0034】
[X線回折およびラマン分光法]
HCおよびA-HCのX線回折(XRD)およびラマン分光法による測定結果を、それぞれ
図1(a)および(b)に示す。なお、
図1(a)には、比較のため、グラファイト(Graphite)のXRDパターンも示す。
図1(a)に示すように、HCの(002)および(100)のピークが、それぞれ約23.6°および43.5°であることが確認された。また、A-HCの(002)および(100)のピークは、HCの各ピークよりも小さいことが確認された。なお、グラファイトの(002)のピークは、26.6°である。また、
図1(b)に示すように、HCおよびA-HCのラマンスペクトルは、1600cm
-1、1350cm
-1および2900cm
-1付近に、それぞれGバンド、Dバンドおよび2Dバンドのピークが確認された。
【0035】
ラマンスペクトルのGバンドは、グラファイトのsp
2C-Cボンドによるものであり、Dバンドは、グラファイト構造の欠陥に起因するものであり、2Dバンドは、グラフェンの層数に起因するものである。このことから、HCおよびA-HC共に、グラファイト構造のナノドメインを有していると考えられる。また、
図1(a)に示すA-HCの(002)および(100)のピークが、HCの各ピークよりも小さいことや、
図1(b)に示すA-HCのGバンドのピークが、HCのピークよりもやや小さいことから、賦活処理により、A-HCのグラファイト構造のナノドメインに欠陥が生じていると考えられる。しかし、
図1(b)に示すA-HCのGバンドが明確に認められることから、A-HCはやや欠陥を有しているものの、グラファイト構造のナノドメインを保持していると考えられる。
【0036】
また、
図1(a)に示す(002)のピークから、HCおよびA-HCのグラファイト構造の層間距離は約3.78オングストロームであり、グラファイトの層間距離の約3.35オングストロームよりも長くなっていることが確認された。このことからも、HCおよびA-HCは、グラファイト構造のナノドメインを有するハードカーボンの特徴を有していることが確認された。
【0037】
[TEM観察]
HCおよびA-HCの透過型電子顕微鏡(TEM)による観察結果を、
図2~
図4に示す。
図2および
図3に示すように、シート状の多孔グラファイト構造が確認された。また、A-HCは、HCと比べてシート状の多孔グラファイト構造が細かくなっており、エッジ部分が粗くなっていることが確認された。これは、賦活処理により粒子が細かく粉砕されたためであると考えられる。
【0038】
また、
図4に示すように、HCおよびA-HC共に、グラファイト構造のナノドメイン(
図4(c)および(d)中の白い細線参照)が明瞭に確認された。HCではグラフェン層が10層程度であるのに対し、A-HCではグラフェン層が6層程度で、ナノドメインが小さく、グラフェン層も曲がっており、グラファイト構造のナノドメインに欠陥が生じていることが確認された。
【0039】
[導電率測定]
HCおよびA-HCの、4端子法による導電率(Conductivity)測定の結果を、
図5に示す。
図5には、比較のため、市販の活性炭(以下、「AC」とも呼ぶ)での測定結果も示す。なお、A-HCおよびACは、結合剤としてPTFEを10wt%加えたもので測定を行っている。
図5に示すように、HCの導電率は、75000S/mと非常に大きく、グラファイト(導電率:約10
5S/m)と同程度であることが確認された。これは、グラファイト構造のナノドメインによるものと考えられる。また、A-HCの導電率は、低導電率のPTFE(導電率:5.1×10
-17S/m)を加えているにもかかわらず、240S/mであり、同じくPTFEを加えたACの導電率(30~60S/m)よりも1桁大きいことが確認された。
【0040】
[比表面積および細孔径分布測定]
表面積・細孔径分析装置(Quantachrome Instruments社製「QUADRASORB evo」)を用いて、HCおよびA-HCのBET比表面積(S
BET)測定、ならびに、A-HCおよび比較としてのMaxsorb(登録商標)の細孔径(Pore width)分布測定を行った。細孔径分布測定の結果を、
図6に示す。HCのS
BETは、10m
2/gであるのに対し、賦活処理を行ったA-HCのS
BETは、1126m
2/gであり、賦活処理により比表面積が大きくなっていることが確認された。
【0041】
また、
図6に示すように、活性炭のMaxsorb(登録商標)の細孔径分布は、2.00nmにピークを有しており、1nm以下のマイクロ孔も多く存在しているのに対し、A-HCの細孔径分布は、3.70nmにピークを有しており、1nm以下のマイクロ孔が少なく、3nm~5nmの大きさの孔が多いことが確認された。このように、A-HCは、Maxsorb(登録商標)よりも孔のサイズが大きいことから、Maxsorb(登録商標)と比べて、孔内での接触面積が大きくなり、導電性も高くなると考えられる(
図5参照)。
【0042】
[XPS測定]
X線光電子分光法(XPS)測定によるA-HCのC1s(Cの1s軌道)ピーク付近のスペクトルを、
図7に示す。
図7に示すように、C-C結合が支配的であるが、C-O結合、C=O結合、COO
-結合も存在していることが確認された。このことから、A-HCの表面には、セルロース、セロビオーズ、グルコース、リグニンなどの含酸素官能基が存在していると考えられる。
【0043】
[サイクリックボルタンメトリー]
クロラニルを担持したA-HCの電極試料を用いたサイクリックボルタンメトリー法での測定結果を、
図8に示す。なお、サイクリックボルタンメトリー法でのスキャンレートは、10mV/sとした。
図8に示すように、得られたサイクリックボルタグラムは、キャパシタのような矩形状を成し、0~0.5V(vs. Ag/AgCl)の範囲で、酸化還元電位(redox potential)を有していることが確認された。この酸化還元電位は、A-HCの原料である木由来のセルロース、セロビオーズ、グルコース、リグニンなどの含酸素官能基によるものと考えられる。
【0044】
[定電流充放電試験]
クロラニルを担持したA-HCの電極試料を用い、0~0.8Vの範囲で定電流充放電試験を行った結果を、
図9に示す。
図9から、酸化還元容量は、34.6mAh/g
A-HCとなる。
【0045】
[ハーフセルバッテリーによる電気化学測定]
ハーフセルバッテリーによる電気化学測定として、放電試験、定電流サイクル試験を行った。まず、クロラニル、AQ、DCAQを担持したA-HCの電極試料を用いた、1Cレートでの放電試験結果を、
図10に示す。
図10に示すように、クロラニル(chloranil)、AQ、DCAQの各電極試料は、それぞれ0.45V、-0.10V、-0.22Vの酸化還元電位を示すことが確認された。
図10の結果から、クロラニル、AQ、DCAQの各電極試料の酸化還元容量および利用率は、それぞれ163.2mAh/g
chloranilおよび74.9%、251.0mAh/g
AQおよび97.6%、183.4mAh/g
DCAQおよび94.0%となる。AQおよびDCAQの電極試料の利用率は、Maxsorb(登録商標)の利用率(77%)よりも高くなっている。これは、
図6に示すように、A-HCの方が、Maxsorb(登録商標)よりも孔のサイズが大きく、活物質(AQやDCAQ)の吸着量が多くなるためであると考えられる。
【0046】
次に、クロラニル(chloranil)、AQ、DCAQを担持したA-HCの電極試料を用いた定電流サイクル試験のサイクル特性およびレート特性の結果を、それぞれ
図11(a)および(b)に示す。
図11(a)に示すように、クロラニル、AQ、DCAQの各電極試料の、1Cレートで100サイクル後の全放電容量の保持率(Retention Rate)は、それぞれ96.6%、61.7%、97.6%であり、クロラニルおよびDCAQの電極試料で優れた耐久性を有していることが確認された。これは、電子吸引基であるクロロ基がベンゼン環に導入されることにより、炭素表面とのπ-π相互作用が強力になるためであると考えられる。
【0047】
また、
図11(b)に示すように、クロラニル、AQ、DCAQの各電極試料の、5Cレートでの放電容量(specific discharge capacities)は、1Cレートでの放電容量と比べて、それぞれ94.3%(49.3mAh/g
electrode)、93.5%(53.4mAh/g
electrode)、80.8%(46.9mAh/g
electrode)であることが確認された。また、100Cレートでは、クロラニルおよびAQの各電極試料は、それぞれ45.5%、58.0%を保持しているのに対し、DCAQの電極試料では、0.006%しか保持されていないことが確認された。
【0048】
[フルセルバッテリーによる電気化学測定]
ハーフセルバッテリーでクロラニル(chloranil)からテトラクロロハイドロキノン(TCHQ)に戻した電極試料を正極(Positive)、DCAQの電極試料を負極(Negative)としたフルセルバッテリーを用いて、電気化学測定として、定電流サイクル試験を行った。
【0049】
5Cレートでの1サイクル目のバッテリー(Cell)の電圧(Potential)および各電極(Positive, Negative)の電圧(Terminal Voltage)、0.5C~100Cレートでのレート特性、ならびに、サイクル特性を、それぞれ
図12(a)~(c)に示す。
図12(b)に示すように、1Cレート、5Cレート、100Cレートでの充電可能なエネルギー密度(Energy Density)は、それぞれ13.8Wh/kg、12.6Wh/kg、8.3Wh/kgであり、電流密度(Current Density)が大きくなるに従って、エネルギー密度が僅かに小さくなっていくことが確認された。また、
図12(c)に示すように、5Cレートで1000サイクル後の全放電容量の保持率(Retention Rate)は、91.0%であり、優れた耐久性を有していることが確認された。
【0050】
次に、クロラニル(chloranil)の電極試料を正極(Positive)、AQの電極試料を負極(Negative)としたフルセルバッテリーを用いて、電気化学測定として、定電流サイクル試験を行った。1Cレートでの2サイクル目および50サイクル目のバッテリー(Cell)の電圧(Potential)および各電極(Positive, Negative)の電圧(Terminal Voltage)、ならびに、1C~168Cレートでのレート特性を、それぞれ
図13(a)および(b)に示す。
図13(a)に示すように、1Cレートで50サイクル後の全放電容量の保持率は、85.2%であることが確認された。また、2サイクル目に比べて、50サイクル目の放電時間が短くなっていることも確認された。
【0051】
また、
図13(b)に示すように、電流密度(Current Density)が0.034A/gのときのエネルギー密度(Energy Density)は、19.0Wh/kgであり、
図12(b)と比べて大きくなっていることが確認された。これは、AQの電極試料は、DCAQの電極試料と比べて、酸化還元電圧が小さく、酸化還元容量が大きいためであると考えられる。また、
図13(b)に示すように、電流密度が0.34A/gおよび3.4A/gのときのエネルギー密度は、それぞれ14.9Wh/kg、6.8Wh/kgであり、電流密度が大きくなるに従って、エネルギー密度が小さくなっていくことが確認された。
【実施例2】
【0052】
[試料の製造]
本発明の実施の形態の導電材料の製造方法により、導電材料を製造した。原料として、ナラ、竹、カラマツ、杉、朴、柳からそれぞれ製造された市販の白炭(宮城県刈田郡七ヶ宿町「炭屋の暮らし」製)を用いた。カラマツ、杉は、針葉樹であり、ナラ、朴、柳は、広葉樹である。まず、各白炭をハンマーで粉砕し、乳鉢で10分間すり潰して、導電材料試料(HC)とした。
【0053】
次に、柳を除いた各導電材料試料を、ボールミル装置を用いて粉砕処理した後、アセトンから成る有機溶媒および2M塩酸水溶液で洗浄したものを用いて、試験用の電極試料を作製した。まず、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)250μLに、PDVF(ポリフッ化ビニリデン)28.57 mgを投入して溶解させ、そこに洗浄後の各導電材料試料100.00 mgとアセチレンブラック14.29 mgとを投入して混合した。得られた黒色ペーストを、厚さ約48μmの銅箔に、厚さが100μmで塗布して乾燥させた。乾燥後、10φのポンチでくり抜いて電極(炭素負極)とした。
【0054】
また、得られた炭素負極を用いて、試験用の電池として、
図14に示すコインセルを組み立てた。コインセルには、CR2032を用い、セパレーターには、ガラスファイバー(株式会社アドバンテック製「GA-55」)を用い、対極には、12φに切り抜いたNa金属を用いた。また、電解液には、プロピレンカーボネートの溶媒に、電解質として1 MのNaPF6を溶解したものを用いた。
【0055】
[X線回折]
X線回折装置(BRUKER社製「D8 ADVANCE」)を用いて、柳を除いた各導電材料試料のXRD分析を行った。各導電材料試料のXRDスペクトルを、
図15に示す。
図15に示すように、樹種によらず、黒鉛結晶の(002)および(001)面に由来するピークが、それぞれ23°付近および43°付近に確認された。
図15に示すスペクトルから、各導電材料試料の結晶特性を求め、表1に示す。
【0056】
【0057】
表1に示すように、各導電材料試料の層間距離d002が約0.375nm~0.395nmであり、グラファイトの層間距離の約3.35オングストロームよりも長くなっていることが確認された。このことから、各導電材料試料は、グラファイト構造のナノドメインを有するハードカーボンの特徴を有しているといえる。また、各導電材料試料の結晶サイズのLaが2.4nm~3.1nmであり、Lcが1.05nm~1.2nmであることが確認された。
【0058】
[電気伝導率測定]
各導電材料試料に対して、2端子法により電気伝導率(導電率)の測定を行った。電気伝導率は、樹種ごとに3つの導電材料試料のサンプルで測定を行い、その平均値を求めた。各サンプルの測定値と、樹種ごとの平均値を、表2に示す。
【0059】
【0060】
表2に示すように、杉、カラマツ、ナラの導電材料試料の平均電気伝導率は、200S/m~400S/mであり、グラファイト(約105S/m)よりは小さいが、カーボンブラック(約250S/m)と同程度であることが確認された。これは、グラファイト構造のナノドメインを含んでいるためであると考えられる。また、朴の平均電気伝導率は、やや小さく、50S/m~100S/mであり、竹、柳の平均電気伝導率は、10S/m~50S/mであることが確認された。
【0061】
[比表面積測定]
柳を除いた各導電材料試料に対して、BET比表面積の測定を行った。BET比表面積の測定結果を、表3に示す。表3に示すように、竹の導電材料試料のBET比表面積は、非常に大きく、約70m2/gであり、カラマツ、杉、朴、ナラの導電材料試料のBET比表面積は、約8m2/g~35m2/gであり、比較的大きいことが確認された。
【0062】
【0063】
各導電材料試料を賦活処理して得られた多孔質体試料(A-HC)に対して、BET比表面積の測定を行った。賦活処理は、二酸化炭素を用いたガス賦活で行い、30分で900℃まで加熱し、900℃で70分間保持することにより行った。各多孔質体試料の賦活度およびBET比表面積の測定結果を、表4に示す。表4に示すように、賦活後の全ての樹種の多孔質体試料で、BET比表面積が約800m2/g~1200m2/gであり、賦活処理により比表面積が大きくなっていることが確認された。
【0064】
【0065】
[定電流充放電試験]
柳を除いた各樹種を用いて製造された、
図14に示すコインセルに対して、ポテンショスタット(Biologic社製「VMP3」)を用いて、定電流充放電試験を行った。試験では、電流密度を20 mA/g
活物質、電位を0.001~2 Vとし、各電極でのNa
+貯蔵容量を測定した。測定結果を、
図16に示す。また、
図16から、0.15 V以下をプラトー(Plateau)領域、0.15 V以上をスロープ(Slope)領域として、各領域の容量を求め、表5に示す。なお、プラトー領域は、Na
+の黒鉛層間のへのインターカレーション反応に対応し、スロープ領域は、Na
+の炭素表面への吸脱着反応や細孔への金属析出に由来していると考えられる。
【0066】
【0067】
図16および表5に示すように、各樹種とも、200mAh/g以上の比較的高い放電容量を有していることが確認された。特に、ナラ、竹、カラマツは、250mAh/g前後の非常に高い放電容量を有していることが確認された。また、例えば負極性能の向上には、プラトー領域での容量の増大が要求されるが、そのプラトー容量は、朴では100mAh/g程度、他の樹種では120mAh/g~160mAh/gと、比較的高いことが確認された。
【0068】
各樹種のプラトー容量と、表1から求めた結晶子体積Vc(=La×La×Lc)との関係を、
図17(a)に示す。また、各樹種のスロープ容量と、表3に示すナラ、カラマツ、杉、朴の各導電材料試料のBET比表面積との関係を、
図17(b)に示す。なお、竹の導電材料試料は、BET比表面積が1桁小さいため、
図17(b)からは除外している。
図17(a)に示すように、プラトー容量と結晶子体積Vcとの間には、正の相関があることが確認された。また、
図17(b)に示すように、スロープ容量とBET比表面積との間にも、正の相関があることが確認された。これらの結果は、プラトー領域が、Na
+のインターカレーション反応に対応し、スロープ領域が、Na
+の炭素表面への吸脱着反応や細孔への金属析出に対応していることを示すものであると考えられる。
【実施例3】
【0069】
[試料の製造]
本発明の実施の形態の導電材料の製造方法により製造した導電材料を、リチウムイオン電池の負極材料に用いて定電流充放電試験を行った。導電材料は、原料として、ナラ、竹、杉、朴からそれぞれ製造された市販の白炭(宮城県刈田郡七ヶ宿町「炭屋の暮らし」製)を用いた。まず、各白炭をハンマーで粉砕し、乳鉢で10分間すり潰して、導電材料試料(HC)とした。
【0070】
次に、各導電材料試料を、ボールミル装置を用いて粉砕処理した後、アセトンから成る有機溶媒および2M塩酸水溶液で洗浄した。洗浄後の各導電材料試料100.00 mgを、結着剤であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)11.11 mgと混錬し、得られた黒色ペーストを10φのポンチでくり抜いて、厚さ約48μmの銅箔に圧着させた。それを乾燥させた後、電極(炭素負極)として使用した。
【0071】
得られた炭素負極を用いて、試験用の電池として、
図14に示すコインセルを組み立てた。コインセルには、CR2032を用い、セパレーターには、ポリエチレン・ポリプロピレン膜(株式会社CELGARD製「Celgard2400」)を用い、対極には、12φに切り抜いたLi金属を用いた。また、電解液には、エチレンカーボネート:ジメチルカーボネート=1:1(体積比)の混合溶媒に、電解質として1 MのLiPF6を溶解したものを用いた。
【0072】
各樹種を用いて製造されたコインセルに対して、ポテンショスタット(Biologic社製「VMP3」)を用いて、定電流充放電試験を行った。試験では、電流密度を100 mA/g
活物質、電位を0.001~3 Vとし、各電極でのLi
+貯蔵容量を測定した。2サイクル目の充放電曲線を、
図18に、2サイクル目の放電容量を、表6に示す。
【0073】
【0074】
図18および表6に示すように、各樹種とも、250mAh/g以上の比較的高い放電容量を有していることが確認された。特に、杉では約400mAh/g、竹では約500mAh/gの非常に高い放電容量を有していることが確認された。
【0075】
次に、ナラの白炭の導電材料試料を、ボールミル装置を用いて粉砕処理した後、アセトンから成る有機溶媒および2M塩酸水溶液で洗浄したものを用いて、サイクル特性測定用の電極試料を作製した。まず、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)3 mLに、PDVF(ポリフッ化ビニリデン)200 mgを投入して溶解させ、そこに洗浄後の導電材料試料800 mgとアセチレンブラック100 mgとを投入して混合した。得られた黒色ペーストを、厚さ約48μmの銅箔に、厚さが100μmで塗布して乾燥させた。乾燥後、10φのポンチでくり抜いて電極(炭素負極)とした。
【0076】
得られた炭素負極を用いて、試験用の電池として、
図14に示すコインセルを組み立てた。コインセルには、CR2032を用い、セパレーターには、ポリエチレン・ポリプロピレン膜(株式会社CELGARD製「Celgard2400」)を用い、対極には、12φに切り抜いたLi金属を用いた。また、電解液には、エチレンカーボネート:ジメチルカーボネート=1:1(体積比)の混合溶媒に、電解質として1 MのLiPF6を溶解したものを用いた。
【0077】
製造されたコインセルに対して、ポテンショスタット(Biologic社製「VMP3」)を用いて、定電流充放電試験を行った。試験では、電流密度を500 mA/g
活物質、電位を0.001~3 Vとし、各電極でのLi
+貯蔵容量を測定した。各サイクルでの放電容量(Specific Energy Capacity)を、
図19に、1、2、10、50、100サイクル目の放電容量を、表7に示す。
【0078】
【0079】
図19および表7に示すように、10サイクル目前後で放電容量が300mAh/g程度まで低下した後は、少なくとも100サイクルまではほぼ均一な放電容量を維持しており、優れた耐久性を有していることが確認された。