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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】デジタル体細胞変異解析
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6809 20180101AFI20241111BHJP
   C12Q 1/6844 20180101ALI20241111BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20241111BHJP
   C12Q 1/6806 20180101ALI20241111BHJP
   C12Q 1/6886 20180101ALI20241111BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20241111BHJP
   G01N 35/08 20060101ALI20241111BHJP
【FI】
C12Q1/6809 Z
C12Q1/6844 Z
C12Q1/6869 Z
C12Q1/6806 Z
C12Q1/6886 Z
C12M1/00 A
G01N35/08 B
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2021516286
(86)(22)【出願日】2020-04-24
(86)【国際出願番号】 JP2020017793
(87)【国際公開番号】W WO2020218554
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2023-03-30
(31)【優先権主張番号】P 2019085837
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)海洋生物多様性および生態系の保全・再生に資する基盤技術の創出「シングルセルゲノム情報に基づいた海洋難培養微生物メタオミックス解析による環境リスク数理モデルの構築」委託研究、及び、平成27年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)統合1細胞解析の革新的技術基盤「組織内の細胞多様性を明らかにする超並列ゲノム解析技術の創成」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】519035229
【氏名又は名称】bitBiome株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【弁理士】
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(72)【発明者】
【氏名】細川 正人
(72)【発明者】
【氏名】竹山 春子
(72)【発明者】
【氏名】西川 洋平
【審査官】北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0068899(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0371525(US,A1)
【文献】HOSOKAWA M. et al.,Scientific Reports,2017年,Vol.7, 5199
【文献】KOGAWA M. et al.,Scientific Reports,2018年,Vol.8, 2059
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
C12M 1/00-3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織における変異を解析する方法であって、
該組織中の1つずつの細胞または細胞様構造物に由来する増幅核酸を含む試料から、細胞または細胞様構造物における変異を特定する工程を含む、方法であって、
該変異は参照配列と比較した配列の変化を伴わない変異を含み、
該1つずつの細胞または細胞様構造物に由来する増幅核酸
該組織を含む試料を用い、細胞または細胞様構造物を1細胞または構造物単位ずつ液滴中に封入する工程と、
該液滴をゲル化してゲルカプセルを生成する工程と、
該ゲルカプセルを1種以上の溶解用試薬に浸漬して該細胞を溶解する工程であって、該細胞のゲノムDNAまたはその部分を含むポリヌクレオチドが該ゲルカプセル内に溶出し該ゲノムDNAまたはその部分に結合する物質が除去された状態で該ゲルカプセル内に保持される、工程と、
該ポリヌクレオチドを増幅用試薬に接触させて該ポリヌクレオチドをゲルカプセル内で増幅する工程と
を含む、方法によって生成ことを含む
方法。
【請求項2】
前記細胞または細胞様構造物の懸濁液をマイクロ流路中に流動させ、オイルで前記懸濁液をせん断することにより前記細胞または細胞様構造物を封入した前記液滴が作製されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ゲルカプセルがアガロース、アクリルアミド、PEG、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、マトリゲル、コラーゲン又は光硬化性樹脂から形成されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記溶解用試薬がリゾチーム、ラビアーゼ、ヤタラーゼ、アクロモペプチダーゼ、プロテアーゼ、ヌクレアーゼ、ザイモリアーゼ、キチナーゼ、リソスタフィン、ムタノライシン、ドデシル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、フェノール、クロロホルム、グアニジン塩酸塩、尿素、2-メルカプトエタノール、ジチオトレイトール、TCEP-HCl、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、TritonX-100、Triton X-114、NP-40、Brij-35、Brij-58、Tween20、Tween 80、オクチルグルコシド、オクチルチオグルコシド、CHAPS、CHAPSO、ドデシル-β-D-マルトシド、NonidetP-40、およびZwittergent3-12からなる群から少なくとも1種選択されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記ゲルカプセルがヒドロゲルカプセルであることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ポリヌクレオチドをゲルカプセル内で増幅する工程が、10~60分間の恒温鎖置換増幅反応によって行われることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記1つずつの細胞または細胞様構造物に由来する増幅核酸を含む試料から、分析する増幅核酸を含む試料を選択する工程をさらに含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記1つずつの細胞または細胞様構造物に由来する増幅核酸を含む試料において、特定の配列を有する核酸を検出する工程を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記特定の配列を有する核酸を検出する工程が、特定の配列を有する核酸を増幅することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記変異が、参照配列と比較した配列の変化を伴う変異を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記変異が、塩基置換、挿入または欠失を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記1つずつの細胞または細胞様構造物に由来する増幅核酸を含む試料から、該1つずつの細胞または細胞様構造物のゲノム配列データを得る工程をさらに含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記1つずつの細胞または細胞様構造物のゲノム配列データから、分析するゲノム配列データを選択する工程をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記変異が、コピー数変異(CNV)を含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記ゲノム配列データを使用して、塩基置換、挿入または欠失を含む変異を特定することを含む、請求項12~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記組織が、腫瘍を含む組織である、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記組織が、ヒト組織である、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
組織における変異を解析するシステムであって、
該組織中の1つずつの細胞または細胞様構造物に由来する増幅核酸を含む試料を提供する増幅核酸試料提供部と、
細胞または細胞様構造物における変異を特定する変異特定部とを含む、システムであって、
該変異は参照配列と比較した配列の変化を伴わない変異を含み、
該増幅核酸試料提供部が、
該組織を含む試料を用い、細胞または細胞様構造物を1細胞または構造物単位ずつ液滴中に封入する液滴封入部と、
該液滴をゲル化してゲルカプセルを生成するゲルカプセル生成部と、
1種以上の溶解用試薬と、
細胞を溶解するための1種以上の溶解用試薬が格納された、該ゲルカプセルを1種以上の溶解用試薬に浸漬して該細胞を溶解する細胞溶解部であって、該細胞溶解部は、該細胞のゲノムDNAまたはその部分を含むポリヌクレオチドが該ゲルカプセル内に溶出し該ゲノムDNAまたはその部分に結合する物質が除去された状態で該ゲルカプセル内に保持されるように構成されている、細胞溶解部と、
該ポリヌクレオチドをゲルカプセル内で増幅するためのポリヌクレオチド増幅用試薬と
を含む、
システム。
【請求項19】
さらに組成評価部を含み、該組成評価部は、前記1つずつの細胞または細胞様構造物由来の増幅核酸を含む試料において特定の配列を有する核酸を検出するための検出試薬または検出装置を含む、請求項18に記載のシステム。
【請求項20】
前記検出試薬または検出装置が、核酸を増幅および配列解読するための核酸増幅配列決定装置を含む、請求項19に記載のシステム。
【請求項21】
さらに組成評価部を含み、該組成評価部は、前記1つずつの細胞または細胞様構造物由来の増幅核酸を含む試料から、該1つずつの細胞または細胞様構造物のゲノム配列データを取得するためのゲノム配列データ取得部を含む、請求項18に記載のシステム。
【請求項22】
前記組成評価部は、前記1つずつの細胞または細胞様構造物由来の増幅核酸を含む試料から、該1つずつの細胞または細胞様構造物のゲノム配列データを取得するためのゲノム配列データ取得部をさらに含む、請求項19または20に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、細胞集団の分析に関し、生物学的研究、医療、ヘルスケアなどの分野において利用可能である。
【背景技術】
【0002】
がんや脳組織、神経組織などはそれぞれ異なる系譜と機能を持つ多様な細胞種によって構成されている(非特許文献1=Woodruff, 1983)。特にがん組織は細胞が次々と新たなゲノム変異を獲得しながら増殖していくため、一つのがん組織に数多くの腫瘍サブクローンが含まれている。これらのサブクローンは遺伝情報やエピジェネティックな制御が異なることにより、その形態・増殖性・薬剤耐性などが異なる。例えば上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子の変異は肺がんを引き起こし、さらに遺伝子変異箇所の違いによってEGFR阻害剤であるゲフィチニブへの感受性が変化することが知られている(非特許文献2=Paezetal., 2004)。また、遺伝子変異の他にも、染色体倍数性の変化やコピー数多型など、生まれながらに多様性を持つ遺伝子領域も存在する。これらの遺伝子多様性を正確に検出することは、体組織の詳細な理解に不可欠である。
【0003】
しかしこれらの遺伝的特徴の中には、細胞集団をまとめて解析するだけでは検出されないものが数多く存在する。この正確な計測には、体組織を1細胞レベルで理解することが不可欠であるため(非特許文献3=Zonget al., 2012)、様々な領域においてシングルセル解析の必要性が謳われている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Woodruff, M.F. (1983). Cellular heterogeneity in tumours. British Journalof Cancer,47(5), 589-94.https://doi.org/10.1038/bjc.1983.96
【文献】Paez, J. G., Janne, P. A., Lee, J. C.,Tracy, S., Greulich, H.,Gabriel, S., … Meyerson, M. (2004). EGFR Mutations in Lung Cancer: Correlationwith Clinical Response to Gefitinib Therapy. Science,304(5676), 1497 LP-1500.Retrieved fromhttp://science.sciencemag.org/content/304/5676/1497.abstract
【文献】Zong, C., Lu, S., Chapman, A. R., & Xie, X. S. (2012).Genome-wide detection of single-nucleotide and copy-number variations of a singlehuman cell. Science, 338(6114), 1622-1626.
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意発明の結果、組織の細胞の組成を分析する方法であって、当該組織中の1つずつの細胞由来の増幅核酸を含む試料から、細胞の配列情報(例えば、変異)を評価する工程を含む、方法により、全ゲノム配列解読前の実行で、安く簡単に細胞組成の評価が可能で、全ゲノム配列解読後に、デジタル配列情報から、解析対象の情報を絞り込むことで、長い遺伝子配列で比較することなどが可能になり精度が高まることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
本開示は、多様な細胞を含む細胞集団(例えば、組織)から1細胞ごとに並列調整された増幅ポリヌクレオチドから、各細胞の特徴を同定する遺伝子配列を網羅的に読み取り、サンプル中の細胞を1細胞ずつデジタルカウントし、細胞組成を絶対量としてデジタルカウントした情報を提供することが可能である。
【0007】
本開示の実施形態の例として、以下のものが挙げられる。
(項目1) 組織における変異を解析する方法であって、
該組織中の1つずつの細胞または細胞様構造物に由来する増幅核酸を含む試料から、細胞または細胞様構造物における変異を特定する工程を含む、方法。
(項目A) 組織における変異を解析する方法であって、
該組織中の1つずつの細胞または細胞様構造物に由来する核酸配列を個別に入手する工程と、
該個別に入手した核酸配列の集合を用いて、分析する工程とを含む、方法。
(項目2) 前記1つずつの細胞または細胞様構造物に由来する増幅核酸が、
前記組織を含む試料を用い、細胞または細胞様構造物を1細胞または構造物単位ずつ液滴中に封入する工程と、
該液滴をゲル化してゲルカプセルを生成する工程と、
該ゲルカプセルを1種以上の溶解用試薬に浸漬して前記細胞を溶解する工程であって、該細胞のゲノムDNAまたはその部分を含むポリヌクレオチドが該ゲルカプセル内に溶出し該ゲノムDNAまたはその部分に結合する物質が除去された状態で前記ゲルカプセル内に保持される、工程と、
該ポリヌクレオチドを増幅用試薬に接触させて該ポリヌクレオチドをゲルカプセル内で増幅する工程と
を含む、方法によって生成されている、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目3) 前記細胞または細胞様構造物の懸濁液をマイクロ流路中に流動させ、オイルで前記懸濁液をせん断することにより前記細胞または細胞様構造物を封入した前記液滴が作製されることを特徴とする、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目4) 前記ゲルカプセルがアガロース、アクリルアミド、PEG、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、マトリゲル、コラーゲン又は光硬化性樹脂から形成されることを特徴とする、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目5) 前記溶解用試薬がリゾチーム、ラビアーゼ、ヤタラーゼ、アクロモペプチダーゼ、プロテアーゼ、ヌクレアーゼ、ザイモリアーゼ、キチナーゼ、リソスタフィン、ムタノライシン、ドデシル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、フェノール、クロロホルム、グアニジン塩酸塩、尿素、2-メルカプトエタノール、ジチオトレイトール、TCEP-HCl、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、TritonX-100、Triton X-114、NP-40、Brij-35、Brij-58、Tween20、Tween 80、オクチルグルコシド、オクチルチオグルコシド、CHAPS、CHAPSO、ドデシル-β-D-マルトシド、NonidetP-40、およびZwittergent3-12からなる群から少なくとも1種選択されることを特徴とする、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目6) 前記ゲルカプセルがヒドロゲルカプセルであることを特徴とする、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目7) 前記ポリヌクレオチドをゲルカプセル内で増幅する工程が、10~60分間の恒温鎖置換増幅反応によって行われることを特徴とする、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目8) 前記1つずつの細胞または細胞様構造物に由来する増幅核酸を含む試料から、分析する増幅核酸を含む試料を選択する工程をさらに含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目9) 前記1つずつの細胞または細胞様構造物に由来する増幅核酸を含む試料において、特定の配列を有する核酸を検出する工程を含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目10) 前記特定の配列を有する核酸を検出する工程が、特定の配列を有する核酸を増幅することを含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目11) 前記変異が、参照配列と比較した配列の変化を伴う変異を含む、項前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目12) 前記変異が、塩基置換、挿入または欠失を含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目13) 前記1つずつの細胞または細胞様構造物に由来する増幅核酸を含む試料から、該1つずつの細胞または細胞様構造物のゲノム配列データを得る工程をさらに含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目14) 前記1つずつの細胞または細胞様構造物のゲノム配列データから、分析するゲノム配列データを選択する工程をさらに含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目15) 前記変異が、参照配列と比較した配列の変化を伴わない変異を含む、項前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目16) 前記変異が、コピー数変異(CNV)を含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目17) 前記ゲノム配列データを使用して、塩基置換、挿入または欠失を含む変異を特定することを含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目18) 前記組織が、腫瘍を含む組織である、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目19) 前記組織が、ヒト組織である、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目20) 組織における変異を解析するシステムであって、
該組織中の1つずつの細胞または細胞様構造物に由来する増幅核酸を含む試料を提供する増幅核酸試料提供部と、
細胞または細胞様構造物における変異を特定する変異特定部とを含む、システム。
(項目21) 前記増幅核酸試料提供部が、
前記組織を含む試料を用い、細胞または細胞様構造物を1細胞または構造物単位ずつ液滴中に封入する液滴封入部と、
該液滴をゲル化してゲルカプセルを生成するゲルカプセル生成部と、
1種以上の溶解用試薬と、
細胞を溶解するための1種以上の溶解用試薬が格納された、該ゲルカプセルを1種以上の溶解用試薬に浸漬して前記細胞を溶解する細胞溶解部であって、該細胞溶解部は、該細胞のゲノムDNAまたはその部分を含むポリヌクレオチドが該ゲルカプセル内に溶出し該ゲノムDNAまたはその部分に結合する物質が除去された状態で前記ゲルカプセル内に保持されるように構成されている、細胞溶解部と、
該ポリヌクレオチドをゲルカプセル内で増幅するための該ポリヌクレオチド増幅用試薬と
を含む、項目20に記載のシステム。
(項目22) 前記組成評価部は、前記1つずつの細胞由来の増幅核酸を含む試料において特定の配列を有する核酸を検出するための検出試薬または検出装置を含む、項目20または21に記載のシステム。
(項目23) 前記検出試薬または検出装置が、核酸を増幅および配列解読するための核酸増幅配列決定装置を含む、項目22に記載のシステム。
(項目24) 前記組成評価部は、前記微生物叢中の1つずつの細胞由来の増幅核酸を含む試料から、該1つずつの細胞のゲノム配列データをゲノム配列データ取得部をさらに含む、項目20~23のいずれか一項に記載のシステム。
【0008】
本開示において、上記1又は複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供されうることが意図される。本開示のなおさらなる実施形態及び利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【発明の効果】
【0009】
本開示により、体組織の全ゲノム情報の簡便な取得と遺伝子変異の効率的な検出が可能になる。
【0010】
PCRによる遺伝子変異解析の場合には、増幅DNAサンプルの一部を使うことが可能であり、PCRを行った後に配列決定を行い、部分配列を決定することで、特定の遺伝子配列の情報から変異した細胞の個数などの組成を評価し、安く簡単な評価を行うことができる。デジタル配列データに基づく変異解析を行う場合、配列決定を行って得られたデジタル配列データを対象とし、遺伝子変異解析に利用する遺伝子配列を抽出して、組成データを作成することができる。この場合、配列の変化を伴う変異、例えば、塩基の置換や欠失などの変異(single-nucleotide variation(SNV))だけでなく、コピー数変異(CNV)をも評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、増幅DNAを調製するためのステップを行う模式図を示す。
図2図2は、ウェットの配列スクリーニングの模式図を示す。
図3図3は、選抜後の配列決定の模式図である。
図4図4は、ドライの配列スクリーニングステップを示す模式図である。
図5図5は、本開示における体細胞変異解析の全体的なフローを示す模式図である。
図6図6は、マイクロ流体デバイスの設計の例を示す模式図である。デバイスは2つの入口と1つの出口を有する。2つの入口はそれぞれ水溶液用とオイル用である。十字部分で水溶液が油で分割され、多数の液滴を形成する。
図7図7は、ゲル液滴への単一細胞の封入を示す図である。左図は、ハイスピードカメラで観察したGM12878細胞の封入であり、右図は、液滴に封入されたGM12878細胞を示している。
図8図8は、MDA(Multiple Displacement Amplification)増幅後の液滴の蛍光画像を示す。左図は、球状の形態を示すゲノム増幅陽性の液滴(緑色の蛍光)である。右図は、ゲノム増幅後の液滴の形状の崩壊を示す。
図9図9は、MDA前後でのゲノム増幅陽性の液滴の円形度を示す。
図10図10は、ゲノム増幅陽性または陰性液滴からの二次増幅産物のDNA収量の定量を示す。
図11図11は、従来の直接単細胞ゲノム増幅とゲル液滴ベースのシングルセルゲノム増幅とのゲノム増幅バイアスの比較を示す。各シングルセルゲノムの増幅のΔCt値は、各試料のCt値とバルク抽出DNA試料との比較によって測定した。
図12図12は、MDAの反応前(0分)、反応時間30分および60分の液滴の円形度を示す。
図13図13は、10分のMDA反応と30分のMDA反応によるゲル液滴ベースの単一核ゲノム増幅間のゲノム増幅バイアスの比較を示す。各単一核ゲノムの増幅のΔCt値は、各サンプルのCt値とバルク抽出DNA試料との比較によって測定した。
図14図14は、FACSソーティングによる第二増幅産物のDNA収量の定量化を示す。全ての選別された増幅陰性液滴の収量は1000ng未満であった。53個の選別された増幅陽性液滴の収量は1000ng以上であった。
図15図15は、ゲル液滴由来の単一核アンプリコンから得られたEGFR ex19アンプリコンの電気泳動を示す。
図16図16は、ゲル液滴に由来する単一核アンプリコンから得られたEGFR ex20および21アンプリコンのサンガー配列分析結果を示す。(a)EGFR ex20アンプリコンの配列。(b)EGFR ex21アンプリコンの配列。上段:EGFR ex20および21に野生型の配列を有することが判明している単細胞ゲノムから取得された配列、下段:EGFR ex20および21に変異配列を有することが判明している単細胞ゲノムから取得された配列。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示を最良の形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語及び科学技術用語は、本開示の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0013】
本開示は、体細胞変異組成を分析する方法であって、体細胞中の1つずつの細胞由来の増幅核酸を含む試料から、体細胞変異を評価する工程を含む、方法に関するものである。
【0014】
(定義等)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義及び/又は基本的技術内容を適宜説明する。
【0015】
本明細書において、「細胞」とは、遺伝情報を有する分子を内包する粒子であって、(単独で可能かどうかにかかわらず)複製されることが可能である任意の粒子を指す。本明細書における「細胞」としては、単細胞生物の細胞、細菌、多細胞生物由来の細胞、真菌などが包含される。
【0016】
本明細書において、「細胞様構造物」とは、遺伝情報を有する分子を内包する任意の粒子を指す。本明細書における「細胞様構造物」としては、細胞内小器官、例えば、ミトコンドリア、細胞核、および葉緑体、ならびにウイルスなどが包含される。
【0017】
本明細書において、「生体分子」とは、任意の生物またはウイルスが有する分子を指す。生体内分子には、核酸、タンパク質、糖鎖または脂質などを含み得る。本明細書において、「生体分子の類似体」とは、生体分子の天然または非天然の変種を指す。生体内分子の類似体には、修飾核酸、修飾アミノ酸、修飾脂質または修飾糖鎖などを含み得る。
【0018】
本明細書において、「ゲル」とは、コロイド溶液(ゾル)において、高分子物質またはコロイド粒子がその相互作用により全体として網目構造をつくり,溶媒あるいは分散媒である液相を多量に含んだまま流動性を失った状態のことをいう。本明細書において、「ゲル化」とは、溶液を「ゲル」の状態に変化させることをいう。
【0019】
本明細書において、「ゲルカプセル」とは、その中に細胞または細胞様構造物を保持することが可能なゲル状の微粒子状構造体を指す。
【0020】
本明細書において、「遺伝子分析」とは生体サンプル中の核酸(DNA、RNA等)の状態を調べることをいう。1つの実施形態では、遺伝子分析は、核酸増幅反応を利用するものを挙げることができる。これらを含め、遺伝子分析の例としては、配列決定、遺伝子型判定・多型分析(SNP分析、コピー数多型、制限酵素断片長多型、リピート数多型)、発現解析、蛍光消光プローブ(Quenching Probe:Q-Probe)、SYBR green法、融解曲線分析、リアルタイムPCR、定量RT-PCR、デジタルPCRなどを挙げることができる。
【0021】
本明細書において、「シングルセルレベル」とは、1つの細胞または細胞様構造物に含まれる遺伝情報に対して、他の細胞または細胞様構造物に含まれる遺伝情報と区別した状態で処理を行うことをいう。例えば、「シングルセルレベル」でのポリヌクレオチドを増幅する場合、ある細胞中のポリヌクレオチドと、他の細胞中のポリヌクレオチドが区別可能な状態でそれぞれの増幅が行われる。
【0022】
本明細書において、「シングルセル解析」とは、1つの細胞または細胞様構造物に含まれる遺伝情報を、他の細胞または細胞様構造物に含まれる遺伝情報と区別した状態で解析することを指す。
【0023】
本明細書において、「核酸情報」とは、1つの細胞または細胞様構造物に含まれる核酸の情報を指し、特定の遺伝子配列の有無、特定の遺伝子の収量または全核酸収量を含む。
【0024】
本明細書において、「同一性」とは、2つの核酸分子間の配列類似性を指す。同一性は、比較のためにアライメントしうる各配列中の位置を比較することによって決定することができる。
【0025】
本明細書において、「組織」とは、一定の規則を以って三次元的に配列した細胞または細胞様構造物の集合を指す。複数の組織は、組み合わさって一定の働きを持つ器官を形成するが、本開示において、「組織」は、複数の組織を横断する領域であってもよい。組織には、細胞または細胞様構造物に加えて、細胞外基質などの他の成分が含まれ得る。
【0026】
本明細書において、細胞または細胞様構造物の「型」は、細胞または細胞用構造物の分類を示すパラメータである。ある細胞または細胞様構造物は、複数の分類によって複数の型に分類されることもある。例えば、細胞が、点変異Aを有するかどうかという視点では、点変異Aを有する型と、有しない型がある。加えて他の視点から、挿入変異Bを有するかどうかという視点では、Bを有する型と、有しない型がある。1つの細胞について、それぞれいずれの型であるかを特定することができる。
【0027】
本明細書において、「変異」とは、ある細胞または細胞様構造物が、遺伝情報の点で、他の細胞または細胞様構造物と異なっている部分を指す。「変異」としては、必須ではないが、ある生物種の細胞または細胞用構造物の遺伝情報の基準となる配列(リファレンス配列)に対する相違が挙げられる。
【0028】
本明細書において、「組成」とは、ある組織中のそれぞれの細胞がどのような型であるか(例えば、変異を含んでいるか)、または含まれている各々の型の細胞の量についての情報を指し、組織中に一部の型に該当する細胞が含まれるかについて、またはその量についての情報も包含する。
【0029】
(組織分析)
本開示の1つの局面において、組織における細胞の組成を解析する方法であって、当該組織中の1つずつの細胞または細胞様構造物に由来する増幅核酸を含む試料から、細胞または細胞様構造物における配列情報を特定する工程を含む、方法が提供され得る。組織は、不均質な細胞の集合であるところ、1つずつの細胞の型が特定されることで、組織におけるある性質の有無(0か1か)だけではなく、ある型を有する細胞の割合(連続的)などの情報を得ることが可能である。本開示において、組織として、ヒトの組織を対象とし得る。
【0030】
(変異分析)
本開示の1つの局面において、組織における変異を解析する方法であって、当該組織中の1つずつの細胞または細胞様構造物に由来する増幅核酸を含む試料から、細胞または細胞様構造物における変異を特定する工程を含む、方法が提供され得る。組織は、不均質な細胞の集合であるところ、1つずつの細胞における変異が特定されることで、組織における変異の有無(0か1か)だけではなく、変異を有する細胞の割合(連続的)などの情報を得ることが可能である。本開示において、組織として、ヒトの組織を対象とし得る。
【0031】
本開示の1つの局面において、組織における変異を解析する方法であって、当該組織中の1つずつの細胞または細胞様構造物に由来する核酸配列を個別に入手する工程と、当該個別に入手した核酸配列の集合を用いて、分析する工程を含む、方法が提供され得る。1細胞あたりの核酸は量が少なく、複数の細胞由来の核酸が混合された状態で分析する場合であったとしても、増幅反応を用いることが一般的であるが、ランダムプライマーを用いるなど、核酸を全体として増幅しようとした場合であっても、GC含量などにより、配列ごとに増幅の程度に偏りが生じることが知られている。増幅に偏りが生じる場合、組織中の特定配列を有する細胞の相対量の測定は困難である。
【0032】
(シングルセル解析)
本開示において、1つずつの細胞または細胞様構造物に由来する核酸配列は、任意の方法によって得てよい。シングルセル解析には様々な手法が存在するが、1細胞のゲノムはバクテリアで数フェムトグラム、動物細胞でも数ピコグラムの質量しか持たない(Gregory,T. R., Nicol,J. A., Tamm, H., Kullman, B., Kullman, K., Leitch, I. J., …Bennett, M. D. (2007). Eukaryotic genome size databases. Nucleic AcidsResearch, 35(Database issue), D332-8.https://doi.org/10.1093/nar/gkl828)ところ、次世代シーケンサーによるゲノム解析にはナノグラム単位のゲノムが必要であるため、複数のゲノム変異箇所の検出や全ゲノムシーケンスなどの解析のためには、PCRや全ゲノム増幅を行うことでゲノム量をナノグラム単位まで増幅することが一般的に必要である。全ゲノム増幅手法として、MDA(MultipleDisplacement Amplification)法は広く用いられている(非特許文献4=Zhang et al., 1992)。MDA法はphi29 DNAポリメラーゼとランダムプライマーを用いて連続的にゲノムを増幅する手法であり、優れた全ゲノム増幅の方法であることが知られている。1つずつの細胞または細胞様構造物に由来する核酸配列を得るにあたり、これらの全ゲノム増幅試薬やPCR試薬を個々のシングルセルに作用させ、ゲノムの増幅を行った上で、種々の解析に用いることができる。
【0033】
ゲノム増幅手法の進化やシーケンスコストの低下により、数十から数百のシングルセルに対し、全ゲノム増幅からの全ゲノムシーケンスやエクソームシーケンス、またはPCRによる特異的な増幅からのシーケンスにより、遺伝子変異やコピー数多型を検出することが可能になりつつある。
【0034】
シングルセルゲノムにゲノム増幅試薬を加えるプラットフォームとして最も基本的なものは、マイクロマニピュレーターやフローサイトメトリーを用いて1細胞をチューブに分取し、チューブ一つ一つに対して手動で溶解試薬や全ゲノム増幅試薬を添加する方法である(Babbe,H., Roers, A., Waisman, A., Lassmann, H., Goebels, N.,Hohlfeld, R., … Rajewsky,K. (2000). Clonal Expansions of Cd8 + T Cells Dominate the T CellInfiltrate in Active Multiple Sclerosis Lesions as Shown by Micromanipulationand Single Cell Polymerase Chain Reaction. The Journal of ExperimentalMedicine, 192(3), 393-404. https://doi.org/10.1084/jem.192.3.393)。この際、シングルセルゲノムに対して過剰に大きな反応場で全ゲノム増幅を行う場合は、大きな増幅バイアスが発生することが知られている(Ning,L.,Li, Z., Wang, G., Hu, W., Hou, Q., Tong, Y., … He, J. (2015). Quantitativeassessment of single-cell whole genome amplification methods for detecting copynumber variation using hippocampal neurons. Scientific Reports, 5,11415.Retrieved from https://doi.org/10.1038/srep11415)。全ゲノム増幅反応初期段階における複製の状況が増幅バイアスに大きな影響を与えることが明らかにされており、シングルセルゲノムのチューブへの吸着や、プライマーダイマーの存在が要因であると言われている。増幅バイアスが発生した結果、ゲノム解析に不十分なクオリティのサンプルが量産されるため、結果的に解析に使用出来るサンプル数が減り、高価な試薬の無駄な使用も増える。そのため、増幅バイアスを低減させたシングルセル解析手法を採用することが好ましい場合がある。適用できるサンプルが限られるが、含有ゲノム量の多い細胞分裂M期の細胞のみを分取し全ゲノム増幅を行うことも可能である。
【0035】
細胞の溶解や全ゲノム増幅を、多数のシングルセルに対して小さな反応場で効率的に行うことができる手法を用いることが好ましい場合がある。シングルセル解析において、マイクロフルイディクスを利用することが可能である。マイクロフルイディクスは、微小流路や微小容器を要するマイクロ流体デバイス内において、マイクロ・ナノリットル単位の溶液を自在に操作する技術である。一例として、ドロップレットマイクロフルイディクスが挙げられる。ドロップレットマイクロフルイディクスは従来のチューブでの操作と比較して、精密な操作と自動化が可能であることが利点である。マイクロ流体デバイス内に設けられたμmサイズの流路において、液層が油層によってせん断され、pLサイズのドロップレットが1秒間に1000個単位で連続的に生成される。ドロップレットはそれぞれが独立の反応場として働くため、細胞を含む溶液をマイクロ流体デバイス内でドロップレットにすることで、細胞が一つずつドロップレット内に封入され、個々の細胞に対して独立に反応を行うことができる。さらに、ドロップレットの操作技術の発達により、ゲノム封入ドロップレットとPCRなどの反応試薬封入ドロップレットの融合を始め、ドロップレットの分割・ソーティングなどの複雑な反応を個別に行うことが可能である(Brouzes,E., Medkova, M., Savenelli, N., Marran, D., Twardowski, M.,Hutchison, J. B., …Samuels,M. L. (2009). Droplet microfluidic technology for single-cell high-throughputscreening. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United Statesof America, 106(34), 14195-200. https://doi.org/10.1073/pnas.0903542106)。ドロップレットマイクロフルイディクスは、ドロップレットを作成して細胞を封入することによって、細胞に対して様々な操作を高スループットで行うことができ、本開示において好ましい場合がある。
【0036】
本開示の一部の実施形態において、ドロップレットマイクロフルイディクスを用いたシングルセル解析技術を用いることが可能であり、例えば、電荷をかけることなくドロップレットどうしを融合させ、超並列的にシングルセル全ゲノム増幅産物を取得する技術を利用可能である。これらの手法は、多様なサンプルに対して高精度なシングルセル解析を高速で行うことを可能にするものであり、細胞集団全体のシングルセルゲノム取得と網羅的なゲノム変異解析に非常に有用であると言える。
【0037】
さらに、本開示においては、スループット性と簡便性を同時に確保したシングルセル解析技術を用いることが好ましい場合がある。例えば、バーコードや増幅試薬を添加するために電気的な負荷をかける装置は非常に微細であり、かつそれぞれの研究室が異なる機構を用いているため、限られた研究室しか利用することができない。電荷をかけない融合機構も、技術の習得に時間がかかる。加えて、ドロップレットはオイルにせん断されることで作製され、オイルに浮いた状態で回収されるため、フローサイトメトリーなどによる自動的な分取に応用することができない。また、これらの手法では一度加えた試薬をチューブから除去することができない。溶解試薬の中には全ゲノム増幅を阻害する効果を持つものも知られており、またプライマーダイマーが増幅バイアスを増長させるため、反応ごとに試薬を除去し、次の試薬を加えるというステップが高精度な全ゲノム増幅を行う際に好ましい場合がある。
【0038】
多くの研究室でのシングルセル解析を可能にすることを目的とした、市販のシングルセル解析装置を使用してもよい。これらの解析装置は、一箇所のみのゲノム変異を解析する場合、全ゲノム増幅を行わずPCRにより目的箇所を増幅することで可能である。しかしながら、一つの細胞から多くの変異情報やゲノム全長の情報を取得するためには、全ゲノム増幅を行うことができる手法を採用することが好ましい場合がある。
【0039】
本開示の1つの好ましい実施形態において、多数の細胞から簡便に1つずつの細胞由来の核酸ごとの情報を得るためには、組織を含む試料を用い、細胞を1細胞ずつ液滴中に封入する工程と、当該液滴をゲル化してゲルカプセルを生成する工程と、当該ゲルカプセルを1種以上の溶解用試薬に浸漬して細胞を溶解する工程であって、当該細胞のゲノムDNAまたはその部分を含むポリヌクレオチドが当該ゲルカプセル内に溶出し当該ゲノムDNAまたはその部分に結合する物質が除去された状態で当該ゲルカプセル内に保持される、工程と、当該ポリヌクレオチドを増幅用試薬に接触させて当該ポリヌクレオチドをゲルカプセル内で増幅する工程とを含む、方法によって1つずつの細胞由来の核酸を得ることができる。
【0040】
本開示の一実施形態において、当該ポリヌクレオチドを増幅用試薬に接触させて当該ポリヌクレオチドをゲルカプセル内で増幅する工程は、当該ポリヌクレオチドをゲルカプセル内でゲル状態を保ちながら増幅することもできる。
【0041】
1つの実施形態において、液滴は、1つの細胞をマイクロ流路中に流動させ、オイルで懸濁液をせん断することにより1つの細胞を封入することで作製され得る。一部の実施形態において、ゲルカプセルはヒドロゲルカプセルであってもよい。
【0042】
ゲルカプセルの材料は、アガロース、アクリルアミド、光硬化性樹脂(例えば、PEG-DA)、PEG、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、マトリゲル、コラーゲンなどを含み得る。液滴のゲル化は、液滴にゲルカプセルの材料が含まれるように構成し、作製した液滴を冷却することによって行うことができる。あるいは、液滴に対して光等の刺激を与えることによってゲル化を行うこともできる。液滴にゲルカプセルの材料が含まれるようにするには、例えば、細胞または細胞様構造物の懸濁液にゲルカプセルの材料を含めておくことによって行うことができる。
【0043】
ゲルカプセルは、ヒドロゲルカプセルであってよい。本明細書において、「ヒドロゲル」とは、高分子物質またはコロイド粒子の網目構造によって保持されている溶媒あるいは分散媒が水であるものを指す。
【0044】
溶解用試薬は、リゾチーム、ラビアーゼ、ヤタラーゼ、アクロモペプチダーゼ、プロテアーゼ、ヌクレアーゼ、ザイモリアーゼ、キチナーゼ、リソスタフィン、ムタノライシン、ドデシル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、フェノール、クロロホルム、グアニジン塩酸塩、尿素、2-メルカプトエタノール、ジチオトレイトール、TCEP-HCl、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、Triton X-100、Triton X-114、NP-40、Brij-35、Brij-58、Tween20、Tween80、オクチルグルコシド、オクチルチオグルコシド、CHAPS、CHAPSO、ドデシル-β-D-マルトシド、Nonidet P-40、およびZwittergent3-12からなる群から少なくとも1種選択され得る。
【0045】
本開示の変異分析で対象としうる細胞または細胞様構造物は、2つ以上の任意の数字であり、例えば、10個以上、50個以上、100個以上、500個以上、1000個以上、5000個以上、1万個以上、5万個以上、10万個以上、50万個以上、100万個以上、500万個以上、1000万個以上であり得る。本開示の変異分析は、従来のシングルセル反応系、例えば、0.2mL、1.5mLマイクロチューブ反応系を用いるよりも多数の細胞からの、1つずつの細胞由来の核酸の情報を用い得る。
【0046】
本開示の1つの実施形態では、アガロース溶液を用いてドロップレットを作製するゲルドロップレット技術を採用することができる。これにより、スループット性や精度を落とさないまま、多くの研究室で解析を行うことができる。アガロースを用いたドロップレットを作製し、内部にシングルセルを包埋することで、ドロップレット内でシングルセルの単離培養やPCRなどを行うことができる。本開示において、ゲルドロップレットを、1細胞もしくは1細胞核を包埋した網目構造の反応場と捉え、網目構造をくぐらせるように溶解試薬や全ゲノム増幅試薬を作用させることで、容易にドロップレット内で全ゲノム増幅と試薬の除去を行うことが可能である。労力がかかるシングルセルゲノム包埋ドロップレットの分取を、市販のフローサイトメトリーで自動化して行ってもよい。
【0047】
(ゲノム配列解読前の分析)
本開示において、個々の細胞または細胞様構造物の配列情報の総体に対する解析(例えば、ゲノム配列解読)を行う前に、多様な細胞または細胞様構造物から並列調製された核酸またはその他の生体分子の構造や配列から、その構造や配列を参照して個別の細胞特異的に検出し、選抜することを行ってよい。すなわち、方法は、1つずつの細胞または細胞様構造物由来の増幅核酸を含む試料から、分析する増幅核酸を含む試料を選択する工程を含み得る。
【0048】
1つの実施形態において、選択は、特定の遺伝子配列の有無、特定の遺伝子の収量または全核酸収量に基づいて行い得る。一部の実施形態において、特定の遺伝子配列がある場合に選択してもよく、特定の遺伝子配列が無い場合に選択してもよい。一部の実施形態において、特定の遺伝子の収量が基準となる収量より多い場合選択してもよく、低い場合に選択してもよい。一部の実施形態において、全核酸収量が、基準となる収量より多い場合に選択してもよく、低い場合に選択してもよい。
【0049】
特定の実施形態において、特定の遺伝子配列の有無を、特定の遺伝子配列を特異的に検出する試薬、アガロースゲル電気泳動、マイクロチップ電気泳動、PCR、qPCR、遺伝子配列決定(サンガーシーケンシング、NGS)からなる群から選択される手段により検出する。一部の実施形態において、特定の遺伝子配列を特異的に検出する試薬として、抗体、プローブ、DNA結合性蛍光色素、蛍光色素結合ヌクレオチドが挙げられる。
【0050】
特定の実施形態において、特定の遺伝子の収量または全核酸収量を吸光度測定、蛍光光度測定、アガロースゲル電気泳動、マイクロチップ電気泳動により測定することができる。方法は、1つずつの細胞由来の増幅核酸を含む試料において、特定の配列を有する核酸を検出する工程を含み得る。特定の配列を有する核酸を検出する工程は、特定の配列を有する核酸を増幅および配列解読することを含み得る。
【0051】
変異の組成の評価は、組織中の各種細胞の絶対数を特定することを含み得る。1つずつの細胞由来の増幅核酸のそれぞれについて、変異の型を特定することによって、各種の変異を有する細胞の絶対数が特定され得る。細胞の型の特定は、例えば、特定の遺伝子配列の有無を特定することによって行うことができる。
【0052】
(ゲノム配列解読を伴う分析)
本開示の方法は、組織中の1つずつの細胞または細胞様構造物由来の増幅核酸を含む試料から、当該1つずつの細胞または細胞様構造物のゲノム配列データを得る工程を含み得る。ゲノム配列データを得ることによって、組織中の個々の細胞について、単に配列としての情報だけではなく、配列が果たす機能または特性という観点からの情報を得ることも可能である。
【0053】
1つずつの細胞のゲノム配列データから、分析するゲノム配列データを選択することが可能である。ゲノム配列データは情報量が多く、処理する量を限定することは、労力や時間の削減につながる。
【0054】
選択は、特定の遺伝子配列の有無および/または特定の遺伝子配列との同一性を評価することを含み得る。一部の実施形態において、特定の遺伝子配列との同一性は、BLAST等を用いることで評価することができる。特定の実施形態において、選択は、特定の遺伝子配列の有無に基づき、核酸情報を細胞ごとに選別してもよい。他の実施形態において、選択は、特定の遺伝子配列と、2つ以上の細胞に由来する核酸情報との同一性に基づき、核酸情報を細胞ごとに選別してもよい。一部の実施形態において、一定以上の同一性を有する場合に選択してもよく、一定以下の同一性の場合に選択してもよい。特定の実施形態において、同一性は、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、100%であってもよい。他の実施形態において、同一性は、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、9%以下、8%以下、7%以下、6%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、1%以下、または0%であってもよい。
【0055】
ゲノム配列データを得ている場合、変異の組成の評価は、各細胞における長い遺伝子配列を比較することによって行ってよい。長い配列は、例えば、de novoアセンブリデータより抽出した遺伝子配列であってよい。このような長い遺伝子配列の比較は、評価の制度を高めるだけでなく、組織における機能の評価も可能とし得る。例えば、配列情報のみでは、複数の型の細胞が存在することがわかってもそれぞれの役割や状態については個別の情報が無ければ、組織全体の状態を理解することができない場合があるが、遺伝子の情報に基づけば、組織内で、特定の活性(例えば、酵素活性、薬剤感受性、腫瘍原性)を有する細胞の量などについての情報を得ることができる。
【0056】
(変異)
本開示において、組織における、細胞または細胞様構造物のそれぞれが有する変異を特定することが可能である。変異としては、配列の変化を伴う変異と、配列の変化を伴わない変異が挙げられる。配列の変化を伴う変異としては、置換、挿入、欠失、逆位、または転座などが挙げられる。配列の変化を伴わない変異としては、コピー数多型などが挙げられる。変異の特定は、当技術分野で公知の方法に基づいて、配列同士を比較することによって行うことができる。
【0057】
シングルセル解析において、部分配列に基づく解析では、予め決めた部分の配列の変異の情報については得ることができるが、どの部分に変異が生じるかが未知である場合、配列情報の総体(ゲノム)に対する情報を得ることによって、未知の変異を特定することが可能であると考えられる。
【0058】
加えて、配列の変化を伴う変異については、配列情報に基づいて特定することが可能であるが、配列の変化を伴わない変異を特定する場合、同一の配列の存在量の比較が必要になる場合があり、細胞または細胞様構造物毎に核酸の均等な増幅が行われることが好ましい場合がある。このような増幅のため、本明細書における(シングルセル解析)の欄に記載される特徴を適宜採用することが可能である。
【0059】
本開示で解析の対象とし得る組織としては、腫瘍組織、神経組織、血液、骨髄液、精液、腹腔洗浄液などが挙げられる。組織は、形態的には一定の細胞から構成されている場合であっても、遺伝的には多様な細胞から構成されている場合があり、細胞集団から平均化したデータでは捉え切れない細胞個々の特徴や機能に基づく、組織ごとの性質の理解において、本開示の方法は有用である。
【0060】
本開示で解析の対象とし得る組織としては、任意の生物に由来するものであってよく、例えば、動物としては、ヒトもしくは非ヒト哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジー)、鳥類、爬虫類、両生類、魚類等の脊椎動物、無脊椎動物、例えば、昆虫、線形動物などを挙げることができる。植物としては、イネ、コムギ、トウモロコシ、ジャガイモ、オオムギ、サツマイモ、ソバ、シロイヌナズナ、ミヤコグサ、トマト、キュウリ、キャベツ、白菜、ナス、サトウキビ、ソルガム、リンゴ、ミカン、バナナ、桃、ポプラ、松、杉、被子植物、裸子植物、シダ、コケ、藻類などを挙げることができる。1つの実施形態では、ヒト組織が対象とされ得る。
【0061】
腫瘍組織において、腫瘍マーカー、腫瘍の悪性度の指標、腫瘍の薬剤感受性の指標、神経組織において、精神神経疾患の指標、末梢神経障害の指標、生殖細胞において、遺伝性疾患の指標、血液細胞において、急性骨髄性白血病の悪性度および薬剤感受性の指標、再生医療での安全性評価などとして利用できる変異を有する細胞の量を特定することが可能である。組織における変異の有無(0か1か)だけではなく、変異を有する細胞の割合(連続的)などの情報を得ることが可能である。
【0062】
得られた単一細胞ごとの変異情報は、腫瘍組織や血液悪性腫瘍であれば、遺伝的不均一性の解明による新規治療法・薬剤の開発研究などに利用できる他、がん患者の階層化、治療法の選択、病態のモニタリングの改善につながる。治療前後に合わせて、変異細胞の型を判定し、組成比を知ることができれば、薬剤を適切な適用条件で患者に与えることができる。例えば、本技術を応用して現行のがんパネルDNA解析を1細胞単位で行うことで、より精密な治療法選択が可能になる。
【0063】
脳神経細胞におけるゲノムは、体細胞分裂時に生じる変異の影響のほか、染色体数性やレトロトランスポゾン転移などの脳特異的なゲノム多型を持つ。また、これらのゲノム多型が精神疾患と関連することが示唆されている。
【0064】
従来は、組織から抽出したDNA全体の中での遺伝子多型が調べて来られたが、本開示で得られる単一細胞ごとに得られるゲノム情報を元にすれば、細胞としての神経中の変異細胞比や、細胞ごとの変異多型の判定が可能になる。この様な詳細情報は、神経細胞特有のゲノム多型発生のメカニズム解明や精神疾患の病態の理解・制御につながる。
【0065】
再生医療用でES細胞やiPS細胞などを用いた移植用組織の安全性・品質評価を行う際に、従来は、組織から抽出したDNA全体の中での遺伝子多型が調べて来られたが、本開示で得られる単一細胞ごとに得られるゲノム情報を元にすれば、細胞としての移植用組織中の変異細胞比や、細胞ごとの変異多型の判定が可能になる。この様な詳細情報は、移植用組織中のゲノム多型発生のメカニズム解明や安全性を保つため制御法開発、品質評価につながる。
【0066】
(システム)
本開示の別の局面において、組織における変異を分析するシステムが提供され得る。システムは、本明細書における他の項目において記載される任意の特徴を備える方法またはその工程を実装するための手段を備え得る。
【0067】
システムは、細胞中のポリヌクレオチドを増幅するための装置を含み得る。装置は、とりわけ、シングルセルレベルで細胞中のポリヌクレオチドを増幅することができるものであり得る。装置は、細胞または細胞様構造物を1細胞または構造物単位ずつ液滴中に封入する液滴作製部;液滴をゲル化してゲルカプセルを生成するゲルカプセル生成部;ゲルカプセルを溶解用試薬に浸漬する溶解用試薬浸漬部;ゲルカプセルから夾雑物質を除去する除去部;および/またはゲルカプセルを増幅用試薬に浸漬する増幅用試薬浸漬部を備え得る。システムまたは装置は、ゲルカプセルを選別し、ゲルカプセルを収容容器に収容する選別部をさらに備え得る。
【0068】
システムまたは装置は、必要に応じて、細胞または細胞様構造物を封入する媒体、ゲルカプセルの材料、溶解用試薬、増幅用試薬、核酸の配列決定に用いられる試薬(例えば、ポリメラーゼ、プライマーセット(バーコード配列が含まれることもある)など)などの試薬を備え得る。試薬としては、本明細書の他の箇所に記載されるものに加えて、当技術分野で公知のものを使用してもよい。
【0069】
装置またはシステムは、増幅用試薬浸漬部において増幅されたポリヌクレオチド中の核酸配列の配列決定を行う配列決定部をさらに備え得る。配列決定部は上記装置と一体として提供されてもよく、システム中の別の装置として提供されてもよい。配列決定部は、サンガー法、マクサム・ギルバード法、単一分子リアルタイムシーケンシング(例えば、Pacific Biosciences、Menlo Park、California)、イオン半導体シーケンシング(例えば、Ion Torrent、South San Francisco、California)、シーケンシングバイシンセシス、パイロシーケンシング(例えば、454、Branford、Connecticut)、ライゲーションによるシーケンシング(例えば、Life Technologies、Carlsbad、CaliforniaのSOLiDシーケンシング)、合成および可逆性ターミネーターによるシーケンシング(例えば、Illumina、San Diego、California)、透過型電子顕微鏡法などの核酸イメージング技術、ナノポアシーケンシングなどを実行するための機器であってよい。
【0070】
システムまたは装置は、増幅した遺伝子を検出・計測する手段を備え得る。例えば、ゲルルカプセルの形状を扱うのに好適である、フローサイトメトリー機器が、上記装置と一体として提供されてもよく、システム中の別の装置として提供されてもよい。増幅した遺伝子を検出・計測する手段としては、検出反応を行う手段(例えば、サーマルサイクラーおよび適当な試薬)、および/またはシグナルを検出する手段(光センサ、カメラ、および適当な分析用の手段)が含まれ得る。
【0071】
システムまたは装置は、本明細書の他の箇所に記載される任意の情報処理を行うように構成され得る、計算部を備え得る。計算部は、上記装置と一体として提供されてもよく、システム中の別の装置(コンピュータ)として提供されてもよい。本開示の別の局面では、計算部において、本明細書の他の箇所に記載される情報処理を行い、本開示の方法を実装させるためのプログラムおよびそれを記録した記憶媒体も提供され得る。計算部は、必要に応じて、かかるプログラムおよび/またはそれを記録した記憶媒体を備え得る。
【0072】
(キット)
本開示の1つの局面は、本開示の方法において用いられ得るキットを提供する。本開示において、組織における変異を分析するためのキットが提供され得る。キットは、ゲルカプセルの材料を含み得、ゲルカプセルを用いることは、本明細書の他の箇所に記載されるとおり、細胞または細胞様構造物中の核酸をシングルセルレベルで増幅することについて有利であり、組織における変異の解析に関して本明細書に記載されるとおり用いられ得る。キットは、例えば、ゲルカプセルの材料と、必要に応じて、1以上の試薬を含み得る。試薬としては、本明細書の他の箇所に記載されるものに加えて、当技術分野で公知のものを使用してもよい。
【0073】
組織における変異を分析するためのキットは、溶解用試薬を含み得る。溶解用試薬は、リゾチーム、ラビアーゼ、ヤタラーゼ、アクロモペプチダーゼ、プロテアーゼ、ヌクレアーゼ、ザイモリアーゼ、キチナーゼ、リソスタフィン、ムタノライシン、ドデシル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、フェノール、クロロホルム、グアニジン塩酸塩、尿素、2-メルカプトエタノール、ジチオトレイトール、TCEP-HCl、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、Triton X-100、Triton X-114、NP-40、Brij-35、Brij-58、Tween 20、Tween 80、オクチルグルコシド、オクチルチオグルコシド、CHAPS、CHAPSO、ドデシル-β-D-マルトシド、Nonidet P-40、Zwittergent 3-12からなる群から選択される少なくとも1つを含み得る。溶解用試薬は、シングルセルレベルでの増幅ポリヌクレオチド、特に、ゲノム全域にわたる増幅産物を得るのに有用である。
【0074】
キットは、核酸の増幅用試薬を含み得る。増幅用試薬としては、例えば、ポリメラーゼ、プライマーセット(バーコード配列が含まれることもある)、塩基ミックス、好適なバッファーなどが挙げられる。キットは、核酸の配列決定に用いられる試薬(例えば、ポリメラーゼ、プライマーセット(バーコード配列が含まれることもある)など)などの試薬を備え得る。例えば、サンガーシーケンスやNGSにて特定の遺伝子を増幅・解読するための試薬(ポリメラーゼ、プライマーセット(バーコード配列が含まれることもある)ほか)が含まれ得る。また、キットは、特定の配列の検出・計測に用いられ得る試薬、例えば、核酸結合色素、蛍光標識プローブなどを含み得る。これらの試薬を用いて、増幅した遺伝子を検出・計測する機器(フローサイトメトリーなど)によって特定の配列の有無を測定することができる。
【0075】
(好ましい実施形態)
本開示では、アガロースを用いて作製されたゲルドロップレットに着目し、透過性の高い微小反応場とすることで簡便・高精度かつ超並列的な全ゲノム増幅手法の開発を行った。ゲルドロップレット内に動物細胞を封入し、反応試薬を添加することで、ゲルドロップレット内でシングルセルの全ゲノム増幅を行った。これにより、増幅バイアスの少ない高精度な全ゲノム増幅産物を高速で取得することができた。また、実際に増幅産物を用い、複数箇所のゲノム変異の検出をシングルセルレベルで高精度に行うことができた。本手法により、数万個単位のシングルセル全ゲノム増幅産物取得し、ゲノム変異を検出することで、細胞集団内のゲノム変異の検出と目的変異を持つ細胞の選択が高速・低コストで行えることとなった。本手法は、体組織が持つゲノム変異の包括的な理解と目的変異を持つ細胞の詳細な理解、それに伴う細胞系譜・疾患の獲得機序の発明や臨床診断に役立つことが期待される。
【0076】
(システム)
組織中の1つずつの細胞または細胞様構造物に由来する増幅核酸を含む試料を提供する増幅核酸試料提供部と、細胞または細胞様構造物における変異を特定する変異特定部とを含む、組織における変異を解析するシステムによって、ゲルドロップレット内でシングルセルの全ゲノム増幅を行うことができる。この場合、増幅核酸試料提供部が、前記組織を含む試料を用い、細胞または細胞様構造物を1細胞または構造物単位ずつ液滴中に封入する液滴封入部と、該液滴をゲル化してゲルカプセルを生成するゲルカプセル生成部と、1種以上の溶解用試薬と、細胞を溶解するための1種以上の溶解用試薬が格納された、該ゲルカプセルを1種以上の溶解用試薬に浸漬して前記細胞を溶解する細胞溶解部であって、該細胞溶解部は、該細胞のゲノムDNAまたはその部分を含むポリヌクレオチドが該ゲルカプセル内に溶出し該ゲノムDNAまたはその部分に結合する物質が除去された状態で前記ゲルカプセル内に保持されるように構成されている、細胞溶解部と、該ポリヌクレオチドをゲルカプセル内で増幅するための該ポリヌクレオチド増幅用試薬とを含むことが好ましい。また組成評価部が、前記1つずつの細胞由来の増幅核酸を含む試料において特定の配列を有する核酸を検出するための検出試薬または検出装置を含み、検出試薬または検出装置が、核酸を増幅および配列解読するための核酸増幅配列決定装置を含むことで、増幅バイアスの少ない高精度な全ゲノム増幅産物を高速で取得することができた。またこのシステムにより、複数箇所のゲノム変異の検出をシングルセルレベルで高精度に行うことができる。
【0077】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0078】
以上、本開示を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本開示を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本開示を限定する目的で提供したものではない。したがって、本開示の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例
【0079】
以下、本開示の実施例を記載する。
試薬類は具体的には実施例中に記載した製品を使用したが、他メーカー(Sigma-Aldrich、和光純薬、ナカライ、R&D Systems、USCN Life Science INC等)の同等品でも代用可能である。
【0080】
(実施例1:アガロースゲルドロップレットの作製)
(マイクロ流体デバイスの作製)
製図ソフトのAUTOCADを用い、流路内の十字構造において、水溶液がオイルによってせん断されドロップレットを作製するマイクロ流体デバイスを設計した(図6)。デバイス内部の流路幅は、100μm、十字構造部ではキャリアオイル側17μm、水溶液側8.5または17μmと設計した。フォトマスクを用いてネガ型のレジスト(SU-8 3050, MicroChem Corp., Newton, MA)をコーティングしたガラス基板に流路を転写し、デバイス作製用のモールドを作製した。ガラス基板へのレジストのコーティングにはスピンコーター(MS-B150, Mikasa, Japan)を用いた。十字構造水溶液側流路幅が17μmのデバイスの流路の高さを50μm、8.5μmのデバイスの流路の高さを30μmとした。マイクロ流体デバイスの作製にはポリジメチルシロキサン(PDMS;Sylgard 184:Dow Corning Corp., Midland, MI)を用いた。作製したポリジメチルシロキサン製のマイクロ流路をドロップレットの作製に用いた。
【0081】
(マイクロ流体デバイスを用いたアガロースゲルドロップレットの作製)
アガロース(SIGMA-ALDRICH, St.Louis, MO)を用い、1.5%のアガロース溶液を調製した。ドロップレット作製用のオイルにはPico-Surf1(2% in Novec7500)(以下、「オイル」という)を用いた。オイルを圧力制御型ポンプ(Mitos P-pump, Dolomite, Royston, UK)に設置し、マイクロ流路のインレットに接続した。オイルとアガロース溶液をポンプで流動させてデバイスの流路内に導入した。アガロース溶液が十字路においてオイルによってせん断され、ドロップレットが作製される様子をハイスピードカメラ(FHS-33, Flovel, Tokyo, Japan)を用いて観察した(図7 左図)。作製されたドロップレットを、1.5mLチューブに回収した。回収したドロップレットの一部を顕微鏡(BZ-X710, KEYENCE, Osaka, Japan)を用いて観察した(図7 右図)。回収したゲルドロップレットを氷上で15分静置し、ゲルドロップレットのゲル化を行った。
【0082】
(ゲルドロップレットの水層置換と形状観察)
作製したゲルドロップレットはオイルに浮いている状態であり、溶解試薬や全ゲノム増幅試薬を加える上で、オイル層から水層に置換する必要がある。まずドロップレットを水層に置換するために、チューブ内のオイルを可能な限り除去した。続いて1H,1H,2H,2H-Perfluoro-1-octanol(SIGMA-ALDRICH, St.Louis, MO)とNovec7500の1:9混合溶液を200μL加え、タッピングによりドロップレットと混合させ、ドロップレットに吸着していたオイルを除去した。卓上遠心機(プチチェンジ, WAKENBTECH CO., Kyoto, Japan)で1秒遠心し、上清を除去した後に、同様に1H,1H,2H,2H-Perfluoro-1-octanolとNovec7500の1:9混合溶液を混合し、卓上遠心機で1秒遠心し、上清を除去した。続いてアセトン(FUJIFILM Wako Pure Chemical Corporation, Osaka, Japan)を500μL加え、ボルテックスミキサー(Nissinrika Co., Tokyo, Japan)により混合したのち卓上遠心機で30秒遠心し、上清を除去した。その後2-プロパノール(FUJIFILM Wako Pure Chemical Corporation, Osaka, Japan)を加え、同様に混合・除去操作を行い、最後に500μLのDPBSに懸濁した。ドロップレット懸濁液を混合し、遠心により除去するという過程を3回行うことでゲルドロップレットの水層への置換を行った。
【0083】
(実施例2:ゲルドロップレット内での全ゲノム増幅と増幅バイアス評価)
(モデル動物細胞のゲルドロップレットへの封入)
ヒトリンパ芽球細胞であるGM12878をモデル細胞として用いた。Advanced RPMI 1640 (Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA)にFBS(Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA)とPenicillin-Streptomycin Solution(FUJIFILM Wako Pure Chemical Corporation, Osaka, Japan)の混合物を添加し、フラスコ(NIPPON Genetics Co., Ltd, Tokyo, Japan)内で液体培養した。培養後48時間後、90%コンフルエントの動物細胞を250×g、3分、4℃で遠心することにより回収し、DPBSに懸濁し、細胞濃度を測定した。続いてSYBR Green(invitrogen, Carlsbad, CA)を用いて細胞を染色した。測定結果に従い、細胞懸濁液の濃度を3,000 cells/μLに調製した後、予め調製した3%のアガロース溶液と1:1で混合し、混合後の溶液のアガロース濃度は1.5%、細胞濃度は1,500cells/μL、粒径50μmのドロップレットを作製した場合の封入比率を1cell/dropとした。調製した溶液を用い、マイクロ流体デバイスを用いてドロップレットを作製した。回収したゲルドロップレットを氷上で15分静置し、ゲルドロップレットのゲル化を行った。
【0084】
(MDA法によるゲルドロップレット内での全ゲノム増幅)
上述の手法でGM12878を封入し、50μmと70μmの2種類の粒径のドロップレットを作製した。条件はアガロース濃度1.5%・封入比率0.1cell/dropである。作製後、上述の方法で水層置換した。その後ドロップレット懸濁液に、Repli-g Single Cell Kit(QIAGEN, Valencia, CA)に含まれるBuffer D2(1M DTTとBuffer DLB)を調製し、40度で10分間反応させることでDNAの1本鎖化を行った。反応後のチューブに対して同様にキットに含まれている試薬を混合し、30度で3時間反応させることで全ゲノム増幅を行った。全ゲノム増幅後のドロップレットに100μLのDPBS加え1分遠心し、上清を除く作業を2回繰り返すことで洗浄を行った。その後SYBR Greenを用いてDNAを染色し、再度100μLのDPBSで3回洗浄作業を行った。ゲノム増幅によってDNA増幅陽性ドロップレットの一部が変形していたため、蛍光画像を用いて蛍光ありドロップレットの円形度をImageJで測定した(図8および図9)。
【0085】
(実施例3:シングルセル全ゲノム増幅産物の増幅バイアス評価)
実施例2で作製した直径70μmの全ゲノム増幅産物封入ドロップレットをマイクロマニピュレーター(Microdispenser, Drummond Scientific Company, Broomall, PA)を用いて顕微鏡下で一つずつ吸引し、PCRチューブに移した(以後この作業をピックと呼ぶ)。DNA増幅陽性・陰性のドロップレットをそれぞれ20個ずつピックし、Buffer D2を加え、40度10分で反応させた後、アルカリ試薬以外の試薬を加え30度で2時間反応させ、ドロップレット内のDNAをテンプレートとした2回目の全ゲノム増幅を行った(二次増幅)。二次増幅後に65度3分の反応により増幅反応を停止させた後、Qubit フルオロメーター(Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA)を用いて増幅ゲノムの定量を行った(図10)。次に、先行研究(Leung et al., 2015)(Hosono et al., 2003)を参考に、1番から22番の染色体上の遺伝子座をターゲットとしたプライマー(表1)を設計した。
【表1-1】

【表1-2】
【0086】
定量後のシングルセルゲノム9個を用い、10ngのゲノムをテンプレートとし、酵素にPower Up SYBR Green Master Mix(Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA)を用い、表2に示す組成でqPCRを行った。qPCRの条件は50℃ 2分, 95℃ 2分, 40 cycle (95℃ 3秒, 60℃ 30秒)であり、StepOnePlus リアルタイムPCRシステム(Applied Byosystems, City of Foster City, CA)を用いた。
【表2】
【0087】
また、ドロップレット内で全ゲノム増幅を行ったサンプルに対するコントロールとして、9個のGM12878細胞をドロップレットに封入せず直接ピックし、PCRチューブ内で全ゲノム増幅し、増幅バイアスの評価を行った。さらに、ゲノム抽出キット(DNeasy, QIAGEN, Valencia, CA)を用いることでGM12878細胞集団より非増幅ゲノムを取得し、同様にqPCRを行うことで、リファレンスとした。得られた各シングルセルゲノムのCt値と抽出ゲノムとのCt値の差の絶対値を計算し、ボックスプロットを作成することで、ゲルドロップレット内でのMDAによって得られたシングルセルゲノムと、ドロップレットに封入せずMDAを行ったゲノムの増幅バイアスを比較した(図11)。
【0088】
(実施例4:細胞核のゲルドロップレット全ゲノム増幅とFACSによる分取)
(培養動物細胞からの細胞核の調製とゲルドロップレットへの封入)
実施例2で用いたGM12878細胞から、細胞の核化処理を行った。まず培養細胞を回収し、1mLのDPBSを用いて3回洗浄作業を行った。洗浄後、細胞ペレットに対して溶解試薬を500μL加え、氷上で5分間反応させることで、細胞膜を溶解した。溶解試薬の組成は、10mM Tris-HCl(invitrogen, Carlsbad, CA)、10mM NaCl(SIGMA-ALDRICH, St.Louis, MO)、3mM MgCl2(SIGMA-ALDRICH, St.Louis, MO)、0.1% NonidetTM P40(Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA)である。その後、1%量のBovine Serum Albumin (SIGMA-ALDRICH, St.Louis, MO)入りのDPBSを500μL加え、500×g、5分、4℃で遠心することにより細胞核のみを回収した。1%BSA入りのDPBSで同様に3回洗浄し、動物細胞カウンターにより細胞濃度を測定した。14,000cell/μLとなるように細胞核濃度を調製し、3%アガロース溶液と1:1で混合することで、粒径30μmのドロップレットを作製した際に0.1cell/dropとなる濃度とした。調製した溶液から、30μmのゲルドロップレットの作製と細胞の封入を行った。
【0089】
(細胞核包埋ドロップレットの全ゲノム増幅時間検討)
ゲルドロップレット内でのMDAにおけるドロップレットの変形が細胞溶解度合いによって変化するかを確認するため、作製した核包埋ドロップレットに対し、全ゲノム増幅を行った。まず、可能な限り核内の成分を除去するため、0.1mg/mL Proteinase K(Promega, Madison, WI)と0.05% Sodium Dodecyl Sulfate(Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA)を加え、40度で10分反応させた後、500μLのDPBSで5回洗浄してからMDAを行った。10分と30分反応させたサンプルのDNA増幅陽性ドロップレットを4個ずつピックし、二次増幅の後に実施例3と同様にqPCRにより増幅バイアスを測定した(図13)。
【0090】
(動物細胞全ゲノム増幅産物包埋ゲルドロップレットのFACSによる分取)
上述の方法で作製しMDA反応を30分間行ったゲルドロップレットをFACS Melodyに導入した。そして一つのチューブに一つのドロップレットが分取されるように、DNA増幅陽性ドロップレットを58個、DNA増幅陰性ドロップレットを14個分取した。分取後に二次増幅を行い、Qubitを用いてゲノムの定量を行った。
【0091】
(ヒト肺がん細胞のゲルドロップレット全ゲノム増幅とゲノム変異検出)
EGFR遺伝子のex19~21領域に遺伝子変異を持つ3種類のヒト肺がん細胞NCI-H358、H1975、H1650をモデル細胞として用いた(表3)。実施例2と同様に培養し、培養後48時間後、90%コンフルエントの動物細胞に対し、培地を除去した後にGibcoTM TrypLE Express Enzyme(Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA)を500μL加え、37度で5分間インキュベートすることでフラスコに接着している細胞を剥がした。洗浄操作とセルカウントの後、3種類の細胞の濃度を均一にし、1:1:1で混合することで3種類の細胞が等量で含まれている細胞懸濁液を調製した。3%アガロース溶液を調製し、混合細胞懸濁液と1:1で混合し、直径70μmのドロップレット内に0.1cell/dropとなるように封入した。水層置換の後にMDAを行い、洗浄と染色の後に102個のDNA増幅陽性ドロップレットをピックした。表3に示した3か所の遺伝子変異を含むように3種類のプライマーを設計し(表4)、シングルセル全ゲノム増幅産物に対し、3種類のプライマーでPCRを行った。使用した酵素はPyroMark PCR Master Mix(QIAGEN, Valencia, CA)である。PCRの条件は95℃ 15分, 40cycle(94℃ 30秒、62℃ 30秒、72℃ 30秒)、72℃ 10分である。ex19の欠失変異を対象としたPCR産物に対しアガロース電気泳動を行うことで、各シングルセルゲノムの欠失変異の有無を検出した。また、ex20と21のSNPを対象としたPCR産物を株式会社fasmacに送付し、サンガーシーケンス法によりPCR産物の塩基配列を取得することで、シングルセルゲノムの2か所のSNPsの有無を検出した。
【0092】
【表3】

【表4】
【0093】
(ゲルドロップレット内での動物細胞全ゲノム増幅)
ゲルドロップレットに封入したGM12878細胞にアルカリ試薬とMDA試薬を順次反応させ、シングルセルの溶解と全ゲノム増幅反応をゲルドロップレット内で行うことを検証した。結果、DNA増幅陽性ゲルドロップレット(緑色蛍光)が封入比率と同じ割合(10%)で観測された(図8 左図)。DNA増幅陽性ゲルドロップレットは明瞭な輝度を提示しており、遠心やvortexによる洗浄の操作を繰り返しても、増幅DNAがドロップレット内部に保持されていることが示唆された。しかし、DNA増幅陽性ゲルドロップレットの一部では、ドロップレットの輪郭が崩れ、内部のDNAあるいは細胞成分が漏出しているように観察された(図8 右図)。そこで、2種類の粒径(50μmと70μm)において、DNA増幅反応を行い、DNA増幅反応後の円形度を測定した(図9)。ドロップレットサイズが大きい場合(70μm)、円形度の変動は少なく、形状が比較的安定しているが、元のサイズが小さい(50μm)と大きく形状が崩れることが示された。このドロップレット輪郭が崩れる減少は、ゲノム増幅反応後に初めて観察されるため、増幅したDNA成分等の影響が考えられた。前述の通り、増幅有無は蛍光観察により容易に見分けられるため、ドロップレット形状が崩れていても、顕微鏡下で手作業で増幅陽性ドロップレットを選別することは可能である。しかし、FACSでの分取を試みる場合はドロップレットサイズの不均一化がソートに影響を及ぼすことが予想されるため、ドロップレット形状の崩壊は可能な限り低減させる必要がある。
【0094】
次に、ゲルドロップレットの形状崩壊による増幅DNAのクロスコンタミネーションを評価するため、DNA増幅陽性・陰性ドロップレットをそれぞれ20個ずつ手作業でピックし、二次増幅を行い、増幅DNA量を定量した(図10)。この結果、DNA増幅陽性ドロップレットからは、5945±1623ngの最終DNA増幅産物が得られた。一方、DNA増幅陰性ドロップレットからは、11.85ng±10.7ngの最終DNA増幅産物が得られた。最終的なDNA収量の差は明確であり、増幅DNAのクロスコンタミネーションは無視できる量であると考えられた。また、蛍光を指標としてDNA増幅陽性ドロップレットを回収することで、シングルセルゲノム増幅物を確実に回収できることが示された。
【0095】
(実施例5:ゲルドロップレット全ゲノム増幅産物の増幅バイアス評価)
ゲルドロップレットから得られたシングルセルゲノムが遺伝子解析サンプルとして充分なクオリティを有しているかを確認するため、1番~22番の各染色体上の遺伝子座をターゲットとしたqPCRを行い、増幅バイアスの程度を評価した。比較対象として細胞集団から抽出した非増幅ゲノムを用い、シングルセルゲノム増幅物のqPCR時のCt値の差を増幅バイアスの大きさとして評価した(図11)。従来法のように、ゲルドロップレットに封入せずに1細胞から直接1チューブでMDA反応を行ったサンプルでは、増幅バイアスが大きく、全ての染色体部位においてCt値の最大と最小の差が3以上であり、15か所では6以上であった。これは全ての部位においてシングルセルゲノム間の増幅度合いに10倍以上の差が生じており、15箇所では100倍以上のばらつきが生じていたことを意味する。一方、ゲルドロップレットを用いて調製したシングルセルゲノム増幅物サンプルではCt値の差が3を超えていた箇所は7か所のみであり、6を超えていた箇所は0か所であった。これより、15か所ではゲノム増幅のばらつきが10倍以下であったことが確認できた。この結果から、シングルセルをゲルドロップレット環境に一時的に封入し、微小環境内で一時的に増幅反応を行うことが、最終的な増幅産物上のバイアスを大幅に抑制することが示唆された。既存の研究から、全ゲノム増幅反応では、反応初期のプライミングや複製の状況がその後のバイアス規模に大きな影響を与えることが知られている。特に、従来のPCRチューブ反応では、大容量の反応液中で1細胞を扱うことから、チューブへの吸着やプライマーダイマーの影響が大きくなる。一方、ゲルドロップレットではDNAがゲル内に保持され拡散が制限されている、またプライマーダイマーに由来する成分はゲル外に主に存在し、これらは洗浄除去された。これらの影響により、従来の反応で課題となっていたバイアス要因を排除出来ていると考えられた。よって、初期のゲノム増幅反応がゲル内で完遂して一定容量に達してから分取し二次増幅を行っていることで、バイアス抑制の効果が得られた。
【0096】
(実施例6:核封入ゲルドロップレットの全ゲノム増幅と増幅バイアス評価)
実施例4でゲルドロップレットの一部がMDA反応により歪むように変形する現象が確認されたため、FACSによるソーティングに適用するために、MDA反応時間を増幅バイアスとドロップレット変形度合いの2つの観点から評価した。初めに、細胞内成分の溶解による拡散が原因であると考え、予め細胞質成分を取り除き、細胞核としてドロップレットに封入して以後の反応を進める方法を検証した。
【0097】
核封入後、ゲノムDNA以外の成分を可能な限り除去するために、アルカリ処理の前にProteinase KとSDSによる細胞溶解を行い、10分、30分、60分のMDA反応を行った。反応前、反応時間30分、60分のドロップレットの円形度を測定した結果、反応時間を延ばすにつれ変形が進行することを確認した(図12)。続いて、MDA反応を10分と30分行ったDNA増幅陽性ドロップレットを4個ずつピックし、qPCRによるバイアスチェックを行った(図13)。MDA反応時間が10分であったドロップレットでは大きな増幅バイアスが確認されたが、MDA反応時間を30分にしたドロップレットでは実施例5で測定したゲルドロップレットMDA産物と同程度の増幅バイアスであり、均質に増幅できていることを確認した。以上より、増幅バイアス抑制効果があり、かつゲルドロップレットの変形度合いが小さくなる条件として、以後の核封入ゲルドロップレットMDAは、30分の反応時間で行うこととした。
【0098】
(実施例7:ゲルドロップレット全ゲノム増幅産物のFACS分取検証)
(ゲルドロップレットのFACS分取検証)
(核封入ゲルドロップレットMDA産物のFACS分取)
MDA反応を30分行った30μmの核封入ゲルドロップレットをFACSに導入し、DNA増幅陽性ドロップレットとDNA増幅陰性ドロップレットをチューブに一つずつ分取し、二次増幅の後に定量を行った(図14)。DNA増幅陰性ドロップレットをソートしたチューブの収量は全て1000ng以下であった。1000ngを基準とし、DNA増幅陽性ドロップレットのソート効率を計算すると、1000ng以上のゲノム増幅が確認されたチューブは53個であり、ソート効率は91%となった。以上の実験により、細胞核ゲルドロップレットMDA産物のFACSによるソーティングが90%以上の効率で可能であると示された。
【0099】
(モデル細胞を用いた体細胞ゲノム変異の1細胞レベルでの検出)
ゲルドロップレットMDAを用い、複数種類のゲノム変異を100個程度のシングルセルゲノムで検出することを試みた。H358、H1975、H1650の3種類の肺がん細胞を1:1:1の比率でゲルドロップレットに封入し、MDA反応を行い、DNA増幅陽性ゲルドロップレットのピックの後に、二次増幅とゲノムの定量を行った。102個のシングルセルゲノムの定量を行った結果、96個において1000ng以上のゲノムが確認された。6個のチューブではピック時の手技の問題により、DNA増幅陽性ドロップレットがピックされず、充分な増幅がかからなかったと考えられる。1000ng以上の収量が得られた96個のシングルセルゲノムそれぞれに対し、ex19、20、21の変異箇所をターゲットとしたPCRを行った。PCR後のアガロースゲル電気泳動の結果の一部を図15に示す。先行研究(Kawada et al., 2008)により、EGFR ex19にヘテロな欠失が入っているゲノムの電気泳動では、バンドが2本検出されることが確認されている。アガロースゲル電気泳動の結果、24個の増幅産物で2本のバンドが検出され、72個の増幅産物で1本のPCRバンドが検出された。この結果より、24個のゲノムはEGFR ex19に欠失変異が入っている細胞から取得されたものとわかる。
【0100】
続いて、サンガーシーケンス法によりEGFR ex20と21領域増幅産物の塩基配列を取得した。実験の結果、まず192か所の領域のうち191か所の塩基配列が取得できた。Ex19領域の増幅結果と合わせ、取得できた96シングルセルゲノムの3領域(計288か所)のうち、増幅できなかった箇所は1か所のみであった。この結果は、ゲルドロップレットMDA産物の増幅バイアスによる遺伝子情報の欠損が0.4%以下の頻度でしか起こらなかったことを意味し、増幅バイアスが充分に少なかったことを再度証明する結果となった。続いて得られた塩基配列波形より、SNP変異の検出を行った。Ex20のT790M変異では一箇所のグアニンがアデニンに、ex21のL858R変異では一箇所のアデニンがシトシンに置換されていた。サンガーシーケンス法によりヘテロなSNPを解析する場合、先行研究より野生型の塩基と変異型の塩基の2つの波形が重なった図が得られることが確認されている(Pao et al., 2005)。得られた塩基配列を確認すると、34個のシングルセルゲノムからT790MとL858Rの変異が同時に観測され、61個のシングルセルゲノムから野生型のゲノムが観測された。塩基配列の一部を図16に示す。ex20と21に変異が観測された34個のシングルセルゲノムは、アガロースゲル電気泳動によりex19に変異が観測された24個のシングルセルゲノムとは異なるサンプルであった。以上まとめると、検出された各変異の割合は想定通り3つのタイプに分類された(表5)。Ex19~21の3か所の変異が同時に観測されたゲノムが存在しなかったことより、H1650とH1975のゲノムを同時に含んでいるゲルドロップレットは96個の中には存在しなかったことがわかった。これは、ダブレットが理論値通りに充分に少ない割合(20分の1、H1650とH1975のダブレットは120分の1)でしか存在しなかったことを意味している。以上の実験より、複数の細胞種が存在する細胞集団をゲルドロップレットに封入し、簡便かつ高精度な全ゲノム増幅を行った後に、1細胞レベルでのゲノム変異解析を高効率で実行できることが示された。
【0101】
【表5】
【0102】
参考文献
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【0103】
(実施例8:がんの診断)
(1)腫瘍サンプルの採取
腫瘍組織サンプルをバイオプシーにより採取する。組織を酵素処理し、細胞核を取り出す。必要に応じて、目的の細胞群をフローサイトメトリー等で濃縮する。血液悪性腫瘍の場合は、採血を行い、末梢血単核球画分を精製し、必要に応じて目的の細胞群をフローサイトメトリー等で濃縮する。
(2)シングルセルゲノム情報の入手
本明細書の実施例1~2に記載される手順に従い、シングルセルをゲルカプセルへ封入する。ゲルカプセルで増幅ポリヌクレオチドを調製する。増幅ポリヌクレオチドを含むゲルカプセルを回収する。増幅ポリヌクレオチドの遺伝子分析によりシングルセルゲノム情報を入手する。
(3)情報の分析
分子標的薬の薬剤抵抗性等に関わる遺伝子領域を評価し、適切な薬剤処方を選択する。本法では、細胞のゲノム多型を1細胞毎に判定できるため、腫瘍中での存在度の低い変異細胞などを検出でき、組織中の採取した場所や採取の時期によって、どのように変異細胞比が異なり、変遷していくのかをモニタリングすることもできる。この方法により、治療方法を患者別の腫瘍構成の状態に合わせて、随時調整することが可能になる。
【0104】
本開示のシングルセル技術により、癌の非侵襲的なモニタリングと早期発見も可能となる。例えば循環腫瘍細胞は血液サンプルから採取できるものの、一人の患者からは1~50個の細胞を得ることしかできないところ、例えば胃癌患者の場合、バイオプシーそのものが生命への危険にかかわるため、本開示のシングルセル技術が非侵襲的なモニタリング手法として利用できる。また癌を構成する癌細胞と非癌性細胞との不均一性の度合いを判定できるため、生存率との相関を見出すことも可能である。
【0105】
さらに、本開示のシングルセル技術では、極微量の癌細胞も解析できるため、転移との関連や化学療法に対する稀な変異も検出することができる。
【0106】
(実施例9:再生医療での安全性・品質保証)
(1)移植組織サンプルを採取
ES細胞やiPS細胞などから作成した移植組織サンプルから一部を採取する。組織を酵素処理し、細胞核を取り出す。必要に応じて、目的の細胞群をフローサイトメトリー等で濃縮する。
(2)シングルセルゲノム情報の入手
本明細書の実施例1~2に記載される手順に従い、シングルセルをゲルカプセルへ封入する。ゲルカプセルで増幅ポリヌクレオチドを調製する。増幅ポリヌクレオチドを含むゲルカプセルを回収する。増幅ポリヌクレオチドの遺伝子分析によりシングルセルゲノム情報を入手する。
(3)情報の分析
造腫瘍性に関わるゲノム変化としてSNPやCNVを評価する。本法では、細胞のゲノム多型を1細胞毎に判定できるため、組織中での存在度の低い変異細胞などを検出でき、幹細胞からの分化誘導や純化法によって、どのように変異細胞比が異なり、変遷していくのかをモニタリングすることができる。この方法により、移植に用いる組織の安全性や品質保証が可能になる。
【0107】
(実施例10:生殖系列細胞における染色体異常の検出、着床前診断、出生前診断)
(1)胚組織サンプルを採取
初期胚 胚盤胞の一部を採集する。胎児有核赤血球を対象とする場合には、母体血液より、胎児有核赤血球を採集する。
(2)シングルセルゲノム情報の入手
本明細書の実施例1~2に記載される手順に従い、シングルセルをゲルカプセルへ封入する。ゲルカプセルで増幅ポリヌクレオチドを調製する。増幅ポリヌクレオチドを含むゲルカプセルを回収する。増幅ポリヌクレオチドの遺伝子分析によりシングルセルゲノム情報を入手する。
(3)情報の分析
着床前遺伝子診断などに利用して、重篤な変異のない細胞を選抜することに利用する。重篤な遺伝病に関わるゲノム変化としてSNPやCNVを評価する。本法では、細胞のゲノム多型を1細胞毎に判定できるため、存在度の低い変異細胞などを検出できる。この方法により、胚の着床前ゲノムスクリーニングや出生前診断が可能になる。
【0108】
(実施例11:種々の組織を用いた解析)
Leung, M. L.,Wang, Y., Waters, J., & Navin, N. E. (2015). SNES: Singlenucleus exome sequencing. Genome Biology, 16(1).などに記載の手法により、種々の組織を1つずつの細胞単位に分散させる。この手順で調製された試料を用いて、実施例4に記載した手法により、核化した細胞を調製し、ゲルドロップレットの作製と細胞の封入をおこなう。
【0109】
ゲルドロップレットに封入した種々の組織由来の細胞を用いて、実施例4と同様に、全ゲノム増幅とゲノム変異検出とを行うことができる。
【0110】
(注記)
以上のように、本開示の好ましい実施形態を用いて本開示を例示してきたが、本開示は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本開示は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本開示の具体的な好ましい実施形態の記載から、本開示の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。本願は、日本国特許庁に2019年4月26日に出願された特許出願2019-85837に対して優先権主張をするものであり、同出願の内容自体は具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本開示は、生物学的研究、医療、ヘルスケアなどの分野において利用可能である。
【配列表フリーテキスト】
【0112】
配列番号1~44:表1に記載されたプライマー
配列番号45~50:表4に記載されたプライマー
図1
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図3
図4
図5
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【配列表】
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