(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】抗微生物剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/555 20060101AFI20241111BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20241111BHJP
【FI】
A61K31/555
A61P31/04
(21)【出願番号】P 2021560223
(86)(22)【出願日】2020-04-02
(86)【国際出願番号】 GB2020050875
(87)【国際公開番号】W WO2020201754
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-03-29
(32)【優先日】2019-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】507330176
【氏名又は名称】ザ・ユニバーシティ・オブ・シェフィールド
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】トーマス,ジェームス アンソニー
(72)【発明者】
【氏名】シュミッテン,カースティ ローラ
【審査官】堂畑 厚志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/028874(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/032056(WO,A1)
【文献】LI, Fangfei et al,Chem. Soc. Rev,2015年, vol.44, no.8,pp.2529-2542
【文献】JARMAN, Paul J. et al.,J. Am. Chem. Soc.,2018年12月30日,vol.141, no.7,pp.2925-2937
【文献】ALATRASH, Nagham et al.,ChemMedChem,2017年,vol.12,pp.1055-1069
【文献】KirstyL. Smitten et al.,ACS Nano,2019年, vol.13, no.5,pp.5133-5146
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K9/00-33/44
A61K47/00-47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)または式(Ia)で示される化合物を含む抗微生物剤。
【化1】
式中、
X
1、X
2、X
3およびX
4はそれぞれNであり;
Y
1およびY
2は:NまたはC(Ra)からそれぞれ独立して選択され;
M
1およびM
2は、それぞれ金属中心であり、M
1およびM
2は、それぞれルテニウムであり;
R
1、R
2、R
3、R
4およびR
aは:水素、アルキル、アルケニル、アリール、ハロゲン、ハロアルキル、ハロアルケニル、ハロアリール、ヒドロキシ、アルコキシ、カルボン酸、アミノ、アミド、ニトロまたはこれらの組み合わせからそれぞれ独立して選択され;A
1、A
2、A
3およびA
4は、それぞれ二座配位子であり;
環D
1およびD
2は、それぞれ独立して、N、O、S、C(R
a)から選択される1つ以上のヘテロ原子を含み;
前記二座配位子が、式(III)
で示される構造を有する:
【化2】
式中、
Z
1およびZ
2はそれぞれNであり;
R
5、R
6、およびR
7は:水素、アルキル、アルケニル、アリール、ハロゲン、ハロアルキル、ハロアルケニル、ハロアリール、ヒドロキシ、アルコキシ、カルボン酸、アミノ、アミド、ニトロまたはこれらの組み合わせからそれぞれ独立して選択される。
【請求項2】
抗生物質としての使用のためのものである、請求項1に記載の
抗微生物剤。
【請求項3】
グラム陰性細菌に対する使用のためのものである、請求項2に記載の
抗微生物剤。
の化合物。
【請求項4】
Y
1およびY
2は、それぞれNである
、請求項
1~3のいずれか一項に記載の
抗微生物剤。
【請求項5】
R
1、R
2、R
3、R
4およびR
aは:水素、アルキルおよびアリールからそれぞれ独立して選択される
、請求項
1~4のいずれか一項に記載の
抗微生物剤。
【請求項6】
R
5、R
6、およびR
7は:水素、アルキルおよびアリールからそれぞれ独立して選択される、請求項
1~5のいずれか一項に記載の
抗微生物剤。
【請求項7】
A
1、A
2、A
3およびA
4は、それぞれ、(1)~(7)から独立して選択される二座配位子:
【化3】
またはこれらの組み合わせである
、請求項
1~6のいずれか一項に記載の
抗微生物剤。
【請求項8】
前記式(I)または式(Ia)で示される化合物が、式(IV)または(IVa):
【化4】
式中
R
8、R
8’、R
8’’、R
8’’’、R
9、R
9’、R
9’’、R
9’’’、R
10、R
10’、R
10’’、R
10’’’、R
11、R
11’、R
11’’、R
11’’’、R
12、R
12’、R
12’’、R
12’’’、R
13、R
13’、R
13’’およびR
13’’’は:水素、アルキル、アルコキシ、アルケニルおよびアリールからそれぞれ独立して選択され;
ただし、R
8、R
8’、R
8’’、R
8’’’、R
9、R
9’、R
9’’、R
9’’’、R
10、R
10’、R
10’’、R
10’’’、R
11、R
11’、R
11’’、R
11’’’、R
12、R
12’、R
12’’、R
12’’’、R
13、R
13’、R
13’’
およびR
13’’’のうちの少なくとも1つが:アルキル、アルコキシ、アルケニルおよびアリールから選択されることとし;
R
14、R
15、R
16、R
17、R
18、R
19、R
20およびR
21は:水素、アルキル、アルケニル、アリール、ハロゲン、ヒドロキシ、アルコキシまたはこれらの組み合わせからそれぞれ独立して選択される;
で示される
構造を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の抗微生物剤。
【請求項9】
R
8、R
8’、R
8’’およびR
8’’’が、同じであり;R
9、R
9’、R
9’’およびR
9’’’が、同じであり;R
10、R
10’、R
10’’およびR
10’’’が、同じであり;R
11、R
11’、R
11’’およびR
11’’’が、同じであり;R
12、R
12’、R
12’’およびR
12’’’が、同じであり;R
13、R
13’、R
13’’およびR
13’’’が、同じである、請求項
8に記載の
抗微生物剤。
【請求項10】
前記式(IV)または(IVa)で示される構造を有する化合物が、式(V)または式(Va):
【化5】
で示される構造を有する
化合物、またはその薬学的に許容される塩である、請求項
8または
9に記載の
抗微生物剤。
【請求項11】
抗細菌剤である、請求項1~10のいずれか一項に記載の抗微生物剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物感染、特に細菌感染の処置における使用のための化合物に関する。新規化合物、上記化合物を作製する方法、ならびに抗微生物感染によって引き起こされる疾患および障害を処置する方法も記載する。
【背景技術】
【0002】
ポリピリジルRu(II)錯体は、イメージングプローブおよび抗がん治療リードとして大いに研究されているが、初期の生物学的研究は、抗微生物剤としてのこれらの可能性に焦点を当てていた。その前の多くの方法での研究において、Dwyerグループは、メチル化フェニルリガンドを含有する[Ru(phen)3]2+(phen=1,10フェナントロリン)の親油性誘導体が、これらの構造体に対して耐性を生じることができない範囲の細菌、特に、グラム陽性種に対して活性を有することを実証した。これらの錯体の最小阻止濃度(MIC)は、同時代の商業用の抗菌剤と比較して相対的に高いことが分かっているが、この研究は、さらには発展されなかった。しかし、抗微生物剤耐性(AMR)の増加に起因して急速に出現した地球規模の健康危機という現代の背景において、かかる構造体の活性が再考されている。
【0003】
異なる長さの可撓性メチレン系リンカーを一緒に使用して[Ru(phen)3]2+単位を結合させると、大幅により高い活性(より低いMIC)を有する錯体を生じることが最近見出された。これらの化合物に関する活性のメカニズムは、依然として調査されている。これらがリボソームで蓄積してポリソームの濃縮を引き起こすと仮定されているが、このクラスの化合物の細胞取り込みおよび抗菌活性がそれらの膜貫通能に起因することも示唆されている。しかし、単核錯体を含む1つの顕著な例を除いて、これらの系は、グラム陰性種、例えば、大腸菌に対して、より低い活性を示す。実際、病原性グラム陰性種は、特に有害なAMRの問題がある。例えば、その最近の報告において、世界保健機関は、抗菌薬後の時代が、「21世紀では非常に現実に起こり得ること」であると宣言しており、確認されているグラム陰性緑膿菌、アシネトバクター・バウマニ、および腸内細菌のメンバーが、その「Priority Pathogens List For R&D」における3つの優先度の1(重大)病原体として重大な院内感染のESKAPE群の大部分を構成している。この状況の緊急性は、新しい治療リードの欠失によって深刻になっている:グラム陰性病原体の新しいクラスの抗生物質が50年超の間承認されておらず、2010年以降、唯1つの新しい化合物が、第I相試験を通って抗生物質パイプラインに入っている。この状況は、化学リードに関する検索において化学的多様性を増加させる機運を高めている。完全に新しい分子の「出発点リード」の欠失が、抗生物質の発見の最も大きな障害であることも示唆されている。
【0004】
特に、共焦点顕微鏡法における使用のための、細菌種のための造影剤としてのルテニウム錯体がいくつか調査されている(例えば、WO2009/050509を参照されたい)。しかし、これまで、新しいクラスの抗生物質および/または抗微生物剤の基礎を形成し得る実質的に有効なルテニウム錯体は発見されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【0006】
本発明は、この問題を解決する、または、少なくとも改善することが意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1A】
図1Aは、4
4+の取り込みおよび細胞死効果を示す。錯体4
4+は、in vitroでの大腸菌MG1655(上)及びEC958(下)プランクトン培養物の用量依存性死滅を誘発する。錯体を、GDMM中の4
4+がMIC、1.2μM(A)または1.6μM(B)を超えないおよびこれを超える種々の濃度で添加した。処理後6時間までの時間間隔でコロニー形成単位(CFU)の数/mLをモニタリングすることによって死滅を測定した。エラーバーは、3つの独立した生物学的繰り返し±標準偏差(SD)を表す。
【
図1B】
図1Bは、4
4+の細胞死取り込み効果を示す。4
4+にさらされた後のグルコースの非存在(左)下および存在(右)下での大腸菌EC958によるルテニウムの取り込みに関するICP-AESデータ。細胞当たりのRu(上の線)およびFe(下の線)のレベルは、細胞当たりの金属(g)で表記される。Feレベルを対照として算出した。条件:4
4+の濃度=0.8μM。細胞を0.5%(v/v)硝酸で洗浄し、結合していない錯体を除去した。エラーバーは、3つの独立した生物学的繰り返し±SDを表す。
【
図2】
図2は、5、20、60、および120分においてレーザー走査共焦点顕微鏡法(LSCM)および誘導放出抑制(STED)ナノ顕微鏡法を通して可視化した大腸菌EC958細胞中の4
4+の局在化を示す。上の列:白色レーザーおよび470nmノッチフィルタを用いた470nmでの励起における4
4+の発光を使用して画像化した細胞。中央の列:同じ励起および発光設定によって画像化した細胞;STED効果が、775nmの枯渇レーザー(depletion laser)および780nmのボルテックス位相板(vortex phase plate)を用いて得られた。デコンボリューションによる回折限界画像(deconvoluted diffraction-limited images)(d-LSCM)および超解像度(d-STED)画像の両方を、市販のHuygensソフトウェア(SVI)を使用して処理した。矢印は、4
4+が優先的に蓄積している領域をハイライトしている。下の列:中央の列において示されている細胞の選択領域の頂部において引かれている白色実線に沿って正規化された発光強度プロファイル;黒色の実線はd-LSCMを表し、赤色の実線はd-STEDを表す。条件:0.8μM 4
4+による処理後、細胞を硝酸で洗浄し、その後、パラホルムアルデヒド(16%)によって固定した。
【
図3-1】
図3は、フルボリュームデコンボリューションによる回折限界の細胞(full-volume deconvoluted diffraction-limited cells)の断面を示す代表的な画像および超解像度画像(d-LSCMおよびd-3D STED)を示す。細胞の選択領域の頂部において引かれている白色実線の正規化された発光強度プロファイルがプロットされる。黒色の実線はd-LSCMを表し、赤色の実線はd-3D STEDを示す。各時点について引かれている破線の白色の方形の拡大エリアを、画像に隣接させて、ならびに軸毎(XY、XZ、およびYZ)の直交表現を示し、増加した解像度および4
4+のより良好な局在化を緑色で示す。10および20分時点は細胞膜内の特定の位置での蓄積を示しており;60分時点では、化合物は、領域(a、b、c、d)での拡大において分かるように、細胞極の断面で局在している。使用した条件は、
図2において用いたものと同一である。
【
図3-2】
図3は、フルボリュームデコンボリューションによる回折限界の細胞(full-volume deconvoluted diffraction-limited cells)の断面を示す代表的な画像および超解像度画像(d-LSCMおよびd-3D STED)を示す。細胞の選択領域の頂部において引かれている白色実線の正規化された発光強度プロファイルがプロットされる。黒色の実線はd-LSCMを表し、赤色の実線はd-3D STEDを示す。各時点について引かれている破線の白色の方形の拡大エリアを、画像に隣接させて、ならびに軸毎(XY、XZ、およびYZ)の直交表現を示し、増加した解像度および4
4+のより良好な局在化を緑色で示す。10および20分時点は細胞膜内の特定の位置での蓄積を示しており;60分時点では、化合物は、領域(a、b、c、d)での拡大において分かるように、細胞極の断面で局在している。使用した条件は、
図2において用いたものと同一である。
【
図3-3】
図3は、フルボリュームデコンボリューションによる回折限界の細胞(full-volume deconvoluted diffraction-limited cells)の断面を示す代表的な画像および超解像度画像(d-LSCMおよびd-3D STED)を示す。細胞の選択領域の頂部において引かれている白色実線の正規化された発光強度プロファイルがプロットされる。黒色の実線はd-LSCMを表し、赤色の実線はd-3D STEDを示す。各時点について引かれている破線の白色の方形の拡大エリアを、画像に隣接させて、ならびに軸毎(XY、XZ、およびYZ)の直交表現を示し、増加した解像度および4
4+のより良好な局在化を緑色で示す。10および20分時点は細胞膜内の特定の位置での蓄積を示しており;60分時点では、化合物は、領域(a、b、c、d)での拡大において分かるように、細胞極の断面で局在している。使用した条件は、
図2において用いたものと同一である。
【
図4A】
図4Aは、大腸菌EC958における膜損傷の証拠を示す。5分(左)および60分(右)においてSIMを通して可視化された、4
4+およびNHSエステル405の共局在化を示す。(i)0.8μM 4
4+で処理してパラホルムアルデヒド(16%)で固定した細胞。固定後、細胞を2.5μg/mLのNHSエステル405で処理した。上のパネル:4
4+の発光(A568フィルタ)、中央のパネル:405nmでのNHSエステル405発光(DAPIフィルタ)、下のパネル:統合画像。(ii)4
4+の非存在下でのNHSエステルによる染色。
【
図4B】
図4Bは、EC958細胞からの4
4+誘発ATP放出を示し、細胞外[ATP](nM)は、2時間にわたって、0(対照)、0.8および1.6μM(MIC)の4
4+さらしたサンプルについて照度計において測定した放出されたATPを用いて組み換え型ルシフェラーゼおよびD-ルシフェリンを用いて定量した。0および1MIC間で三つ星の有意差が観察されている、P値=0.0006。エラーバーは、3つの生物学的繰り返し±SDを表す。ATP陽性対照-ポリミキシン4μg/mL(挿入)。HEK293細胞および3つの細菌株でのIC
50/MIC比較。
【
図4C】
図4Cは、HEK293細胞および3つの細菌株でのIC
50/MIC比較を示す。
【
図4D】
図4Dは、ハチノスツヅリガ(Galleria mellonella)毒性スクリーニングのカプランマイヤー生存曲線を示し、細胞を0~80mg/kgの化合物4
4+で処理し、37.5℃で120時間インキュベートしている-水対照(黒)、化合物4
4+(赤)。
【
図5A】
図5Aは、MeCN中の[{Ru(3,4,7,8-テトラメチル-1,10-フェナントロリン)2}2(tpphz)]の濃度を増加させたときのモル吸光係数の変化を示す、UV-Vis吸収スペクトルを示す(Cary300UV/Vis分光光度計において27.5℃で行った)。
【
図5B】
図5Bは、水中の[{Ru(3,4,7,8-テトラメチル-1,10-フェナントロリン)2}2(tpphz)]の濃度を増加させたときのモル吸光係数の変化を示す、UV-Vis吸収スペクトルを示す(Cary300UV/Vis分光光度計において27.5℃で行った)。
【
図6A】
図6Aは、MeCN中の[{Ru(3,4,7,8-テトラメチル-1,10-フェナントロリン)
2}
2(tpphz)]の濃度を増加させたときの550~800nmの発光スペクトルを示す。Fluoromax3蛍光光度計において27.5℃で行った。
【
図6B】
図6Bは、水中の[{Ru(3,4,7,8-テトラメチル-1,10-フェナントロリン)
2}
2(tpphz)]の濃度を増加させたときの550~800nmの発光スペクトルを示す。Fluoromax3蛍光光度計において27.5℃で行った。
【
図7】
図7は、病原性大腸菌株EC958に対しての各錯体の、求めたLogP値と活性(MIC)との比較を示し、親油性の相対的増加と共に活性の増加を示している。LogPデータを、振とうフラスコ手順を使用して収集した。「Phen」は、フェナントロリンであり、「DMP」は、ジメチルフェナントロリンであり、「TMP」は、テトラメチルフェナントロリンであり、「DIP」は、ジフェニルフェナントロリンである。
【
図8】
図8は、EC958による4
4+の蓄積実験についてのCFU/mLのカウントを示し、溶液中の細菌の数が各時点間で一定に維持されていることを確認している。
【
図9】
図9は、4
4+についての、グルコースを用いた(+)およびグルコースを用いない(-)、各時点での細胞当たりのRu含有量(g)の差を示す。10および20分における、グルコース(+)サンプルにおけるルテニウムの蓄積の有意差を示している。細胞当たりのルテニウム含有量はICP-AESを介して求めた。
【
図10A】
図10Aは、Fluoromax3において行った、27℃におけるTris緩衝液中のCT-DNA及び4
4+の濃度の増加を使用したDNA結合滴定を示す。
【
図10B】
図10Bは、スキャッチャードプロットおよびMcGhee Von Hippelフィッティング(McGhee Von Hippel fit)を示し、4
4+の結合定数を見出している。
【
図11A】
図11Aおよび11Bは、大腸菌EC958細胞における膜電位の検出を示す。赤色/赤色+緑色/緑色蛍光を含む細胞(%)の集団の百分率が示される。細胞を、1.6μMの4
4+の存在下または非存在下で30分間、30μMのDi-OC2(3)によってインキュベートした。
【
図11B】
図11Aおよび11Bは、大腸菌EC958細胞における膜電位の検出を示す。赤色/赤色+緑色/緑色蛍光を含む細胞(%)の集団の百分率が示される。細胞を、1.6μMの4
4+の存在下または非存在下で30分間、30μMのDi-OC2(3)によってインキュベートした。
【
図12A】
図12Aおよび12Bは、赤色および緑色蛍光パラメータを使用したフローサイトメトリーデータの分析を示す。赤色対緑色蛍光ドットプロットを対数増幅によって収集した。
【
図12B】
図12Aおよび12Bは、赤色および緑色蛍光パラメータを使用したフローサイトメトリーデータの分析を示す。赤色対緑色蛍光ドットプロットを対数増幅によって収集した。
【
図13】
図13は、10分(左)および60分(右)におけるMIC濃度で4
4+によって染色したアシネトバクター・バウマニ(Acetinobacter baumannii)(AB184)を示し、外膜(10分)および内膜(60分)の画像化に相当する。細胞をPFA(4%)で固定しPBSで洗浄した。細胞を、488nmレーザーおよびA568フィルタを使用する構造化照明顕微鏡において画像化した。
【
図14】
図14は、20mg/kg(青色)および80mg/kg(赤色)を注入したハチノスツヅリガ(Galleria mellonella)のルテニウム血リンパ(hemolymph)含有量(μg/mL)を示す。Galleriaに、これらの左腹脚に10μLの4
4+/水を注入し、37.5℃で120時間インキュベートした。各時間間隔で、Galleriaを採点した:生/死、活性およびメラニン化。Ru含有量を、ICP-AESを介して求めた。
【
図15】
図15は、ハチノスツヅリガ(CFU10
5-左および10
6-右)毒性スクリーニングカプランマイヤー生存曲線を示し、細胞を0~80mg/kgの化合物4
4+で処理し、37.5℃で120時間インキュベートした-水対照(橙色)、細菌(緑色)および4
4+(紫色)。同時注入した幼虫に、これらの右腹脚に細菌を注入し、次いでこれらの左腹脚に4
4+を30分後に注入した。
【
図16A】
図16Aは、24および120時間で採取した抽出物を用いて、40mg/kgおよび80mg/kgの4
4+の存在下で120時間観察した、抽出した幼虫血リンパ(ハチノスツヅリガ)からの細菌CFUカウントを示す。初期細菌数10
5(左)および10
6(右)。幼虫を37.5℃でインキュベートした。
【
図16B】
図16Bは、
図16Aのプロットを決定し、24時間後の4
4+の0mg/kg、40mg/kgおよび80mg/kgの投薬を示すために使用される寒天プレートの写真を示す。完全なクリアランスは、単回投与による、40および80mg/kgの用量において、96時間で観察された。黒色のマークは、細菌コロニーではなく、メラニン化した血リンパである。
【
図17】
図17は、共焦点顕微鏡法を使用した、幼虫の血リンパ内のA.バウマニAB184細胞中の4
4+の局在化を示している。上の列:A568フィルタを使用する450nmでの励起において、4
4+の発光を使用して画像化した細胞。中央の列:位相コントラスト。下の列:合わせた画像。抽出した血リンパ細胞を硝酸で洗浄し、その後、パラホルムアルデヒド(16%)によって固定した。
【
図18A】
図18A~Cは、クリアランスしたハチノスツヅリガ幼虫の画像である。染色したA.バウマニAB184における錯体4
4+の発光を決定した(頭部A、尾部B)。細菌性細胞の血球含有領域IおよびIIをハイライトしている。A.バウマニを1.2μM 4
4+によって30分間染色し、次いで、PFA(4%)で固定した。幼虫に細胞を注入し、30分間インキュベートし、ジエチルエーテルで麻酔した幼虫をPFA(4%)において30分間インキュベートした後、CUBICプロトコルによってクリアランスした。画像は488nmレーザーおよび赤色発光フィルタを使用したNikon共焦点顕微鏡において撮影した。画像を、ImageJを使用して処理した。
【
図18B】
図18A~Cは、クリアランスしたハチノスツヅリガ幼虫の画像である。染色したA.バウマニAB184における錯体4
4+の発光を決定した(頭部A、尾部B)。細菌性細胞の血球含有領域IおよびIIをハイライトしている。A.バウマニを1.2μM 4
4+によって30分間染色し、次いで、PFA(4%)で固定した。幼虫に細胞を注入し、30分間インキュベートし、ジエチルエーテルで麻酔した幼虫をPFA(4%)において30分間インキュベートした後、CUBICプロトコルによってクリアランスした。画像は488nmレーザーおよび赤色発光フィルタを使用したNikon共焦点顕微鏡において撮影した。画像を、ImageJを使用して処理した。
【
図18C】
図18A~Cは、クリアランスしたハチノスツヅリガ幼虫の画像である。染色したA.バウマニAB184における錯体4
4+の発光を決定した(頭部A、尾部B)。細菌性細胞の血球含有領域IおよびIIをハイライトしている。A.バウマニを1.2μM 4
4+によって30分間染色し、次いで、PFA(4%)で固定した。幼虫に細胞を注入し、30分間インキュベートし、ジエチルエーテルで麻酔した幼虫をPFA(4%)において30分間インキュベートした後、CUBICプロトコルによってクリアランスした。画像は488nmレーザーおよび赤色発光フィルタを使用したNikon共焦点顕微鏡において撮影した。画像を、ImageJを使用して処理した。
【
図19】
図19は、A.バウマニ、AB184を感染させ、NHSエステル488-0.5mg/mL(A)または錯体4
4+-1.2μM(B)で染色した、クリアランスしたハチノスツヅリガ幼虫の一連の画像を提供する。細胞の断面を同定し(i)、拡大し(AII、AIII、BII)、血球細胞内のA.バウマニを示す。3D表面プロット(AIV、BIII)を示し、ピーク発光強度を示している。条件は、
図18の画像を蛍光実体顕微鏡:490nm ex/520nm em(NHSエステル488)、565nm ex/640nmにおいて撮影したときと同じである。画像を、ImageJを使用して処理した。
【
図20】
図20は、異なる濃度の4
4+に供したときの、大腸菌ST131、EC958のバイオフィルム形成を示す。N≧3±SEM。バイオフィルムは、24ウェルプレートにおける37℃での19時間にわたるインキュベーションで形成した。ST131は、ルテニウムなしおよび0.156μM(MICの10%)においてバイオフィルム形成を示す。
【
図21】
図21は、既存のバイオフィルムを15.6μM、78μMおよび156μMの4
4+に供したときに大腸菌ST131によって生じるバイオフィルムCFU/mLを示す。N≧3±SEM。MHAを毎日変化させて37℃でフィルタ膜において4日バイオフィルムを成長させた。4日目に化合物をバイオフィルム上に直接ピペッティングし、24時間インキュベートした。CFU/mlは、ミスラ法を使用して算出した。一元配置ANOVAは、テューキーの多重比較試験によって実施した。
【
図22A】
図22Aおよび22Bは、らせん状DNA結合を示すEC958における4
2+およびさらにDNA結合を示すSH1000におけるモノ-TMPを示す。
【
図22B】
図22Aおよび22Bは、らせん状DNA結合を示すEC958における4
2+およびさらにDNA結合を示すSH1000におけるモノ-TMPを示す。
【
図23】
図23は、4
2+の細胞死取り込み効果を示す。4
2+へさらされた後のグルコースの非存在(a)下および存在(b)下での大腸菌EC958によるルテニウムの取り込みに関するICP-AESデータ。細胞当たりのRu(上の線)およびFe(下の線)のレベルは、細胞当たりの金属(g)で表記される。Feレベルを対照として算出した。条件:4
2+の濃度=0.8μM。細胞を0.5%(v/v)硝酸で洗浄し、結合していない錯体を除去した。エラーバーは、3つの独立した生物学的繰り返し±SDを表す。
【
図24】
図24は、4
2+についての、グルコースを用いた(+)およびグルコースを用いない(-)、各時点での細胞当たりのRu含有量(g)の差を示す。10分における、グルコース(+)サンプルにおけるルテニウムの蓄積の有意差を示している。細胞当たりのルテニウム含有量はICP-AESを介して求めた。
【
図25】
図25は、
図1Bおよび23の結果に基づく、4
2+および4
4+についてのRuの取り込みの相対速度を示す。
【
図26A】
図26A~Cは、60分、120分および24時間においてレーザー走査共焦点顕微鏡法(LSCM)および誘導放出抑制(STED)ナノ顕微鏡法を通して可視化した大腸菌EC958細胞中の4
2+の局在化を示す。細胞を、白色レーザーおよび470nmノッチフィルタを用いた470nmでの励起における4
2+の発光を使用して画像化し、デコンボリューションによる回折限界画像(d-LSCM)および超解像度(d-STED)画像を、市販のHuygensソフトウェア(SVI)を使用して処理した。条件:0.8μM 4
2+による処理後、細胞を硝酸で洗浄し、その後、パラホルムアルデヒド(16%)によって固定した。
【
図26B】
図26A~Cは、60分、120分および24時間においてレーザー走査共焦点顕微鏡法(LSCM)および誘導放出抑制(STED)ナノ顕微鏡法を通して可視化した大腸菌EC958細胞中の4
2+の局在化を示す。細胞を、白色レーザーおよび470nmノッチフィルタを用いた470nmでの励起における4
2+の発光を使用して画像化し、デコンボリューションによる回折限界画像(d-LSCM)および超解像度(d-STED)画像を、市販のHuygensソフトウェア(SVI)を使用して処理した。条件:0.8μM 4
2+による処理後、細胞を硝酸で洗浄し、その後、パラホルムアルデヒド(16%)によって固定した。
【
図26C】
図26A~Cは、60分、120分および24時間においてレーザー走査共焦点顕微鏡法(LSCM)および誘導放出抑制(STED)ナノ顕微鏡法を通して可視化した大腸菌EC958細胞中の4
2+の局在化を示す。細胞を、白色レーザーおよび470nmノッチフィルタを用いた470nmでの励起における4
2+の発光を使用して画像化し、デコンボリューションによる回折限界画像(d-LSCM)および超解像度(d-STED)画像を、市販のHuygensソフトウェア(SVI)を使用して処理した。条件:0.8μM 4
2+による処理後、細胞を硝酸で洗浄し、その後、パラホルムアルデヒド(16%)によって固定した。
【
図27】
図27は、DNA共染色実験の結果を示す。4
2+によって染色した黄色ブドウ球菌(上およびCI)、DNA染色DAPIによって染色した黄色ブドウ球菌(CII)、画像のオーバーレイ(CIII)、3D表面プロットのオーバーレイ(CIV)。画像は、DAPIおよびモノ-TMPの直接のオーバーレイを示し、>0.9のピアソンの共局在化定数を算出している。
【
図28】
図28は、4
2+の存在下での大腸菌のAmes変異原性アッセイの結果を示す。突然変異率を、0(自然の突然変異誘発対照)、0.5、1.0および2.0×で4
2+によって大腸菌(25%一晩中培養、75%培地)細胞を処理することによって測定した。ブロモクレゾールパープル指示薬を添加し、48時間のインキュベーション後の紫色から黄色への色の変化の百分率を測定した。UV光を照射した細胞による陽性対照を比較のために加えた。
【
図29】
図29は、4
2+の存在下での大腸菌のTEM画像を示す。
【
図30】
図30は、大腸菌EC958細胞からの4
2+誘発ATP放出を示し、細胞外[ATP](nM)は、4時間にわたって、0(対照)、0.5 MICおよび1.0 MICの4
2+にさらしたサンプルについて照度計において測定したポリミキシンを用いて定量している。エラーバーは、3つの生物学的繰り返し±SDを表す。ポリミキシン4μg/mL。
【
図31】
図31は、ハチノスツヅリガ毒性スクリーニングカプランマイヤー生存曲線を示し、細胞を0~80mg/kgの4
2+で処理し、37.5℃で120時間インキュベートした-水対照(黒色)、化合物(赤色)。
【
図32】
図32は、A.バウマニAB184毒性スクリーニングカプランマイヤー生存曲線(初期細菌数10
4-左および10
5-右)を示し、細胞を40または80mg/kgの4
2+で処理し、37.5℃で120時間インキュベートした-水対照(赤色)、化合物(緑色)。
【
図33A】
図33Aは、40mg/kgおよび80mg/kgの4
2+の存在下で120時間観察した、抽出した幼虫血リンパ(A.バウマニAB184)からの細菌CFUカウントを示す。初期細菌数10
4(左)および10
5(右)。
【
図33B】
図33Bは、80mg/kgの投薬の4
2+に関して
図33Aのプロットを求めるために使用した寒天プレートの写真を示す。黒色のマークは、細菌コロニーではなく、メラニン化した血リンパである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の一態様において、式(I)または式(Ia)で示される化合物であって、
【化1】
式中、
X
1、X
2、X
3およびX
4は:N、O、Sからそれぞれ独立して選択され;
Y
1およびY
2は:N、O、S、C(R
a)からそれぞれ独立して選択され;
M
1およびM
2は、それぞれ金属中心であり;
R
1、R
2、R
3、R
4およびR
aは:水素、アルキル、アルケニル、アリール、ハロゲン、ヒドロキシ、アルコキシ、カルボン酸、アミノ、アミド、ニトロまたはこれらの組み合わせからそれぞれ独立して選択され;
A
1、A
2、A
3およびA
4は、それぞれ二座配位子であり;
環D
1およびD
2は、それぞれ独立して、1つ以上のヘテロ原子を含んでいてよく;
上記化合物は、抗微生物剤としての使用のためのものである;
化合物が提供される。
【0009】
式(I)または式(Ia)で示される二座官能性錯体は、有効な造影剤として機能し得るだけでなく、顕著な抗微生物性を提供し得ることが本発明者らによって見出された。理論によって拘束されることなく、これらの化合物は、最初に細胞膜を損傷して、外膜および内膜の両方を攻撃する(それぞれ引き離し「ブレブ形成(blebbing)」)とい
う仮説が立てられる。また、式(I)の化合物は、内膜のs-フラップにおける二重の負に帯電した脂質であるカルジオリピンと相互作用するとされている。
【0010】
式(Ia)の化合物に関して、また理論によって拘束されることなく、これらの化合物は、DNAを標的とするとされている。
【0011】
本発明の第1態様の上記化合物は、抗生物質としての使用のためのものであるである場合が典型的には多い。これらの化合物は、広範な微生物を処理するのに使用され得るが、本発明の第1態様による化合物は、驚くべきことに、細菌に対して有効であることが見出された。このことは、本発明の第1態様の化合物が特に有効であるグラム陰性細菌に関して特に当てはまる。しかし、特許請求の範囲の化合物は、グラム陽性細菌に対して有用であり得ることも予測される。
【0012】
本発明の化合物が展開され得る細菌について特に制限はない。しかし、本発明の第1態様の化合物は:大腸菌(E. coli)、A.バウマニ(A. baumannii)、バークホルデリア・セノセパシア(B. cenocepacia)、緑膿菌(P. aureginosa)、黄色ブドウ球菌(S. aureus)、エンテロコッカス・フェカリス(E. faecalis)および連鎖球菌(streptocccus);から選択される1つ以上の細菌種を処理するのに使用される場合が典型的には多い。
【0013】
誤解を避けるために、用語「アルキル」は、その通常の意味を持つことが意図されており、C1~C30の範囲の炭素長を有する線状、分岐状および環状の飽和炭化水素をカバーする。多くの場合、アルキル基は、線状または分岐状、典型的には線状である。アルキル基の正確な長さは変動し得るが、アルキル基は、C1~C20、より典型的にはC1~C12、より典型的にはC1~C8、最も典型的にはC1~C6の範囲の炭素長を有することが典型的には多い。典型的なアルキル基は、限定されないが:メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチルまたはtert-ブチルから選択される。同様に、用語「アルコキシ」は、その通常の意味を持つことが意図されており、すなわち、この用語は、上記アルキル基が(当業者によく知られているように)酸素原子を介して共有結合していることを除いて上記に記載されている「アルキル」と同じである。
【0014】
誤解を避けるために、用語「アルケニル」は、その通常の意味を持つことが意図されており、C2~C30の範囲の炭素長を有する線状、分岐状および環状の部分飽和炭化水素をカバーする。用語「部分飽和」は、構造内の少なくとも1つのC=C結合の存在を指す。多くの場合、アルケニル基は、線状または分岐状、典型的には線状である。アルケニル基の正確な長さは変動し得るが、アルケニル基は、C2~C20、より典型的にはC2~C12、より典型的にはC2~C8、最も典型的にはC2~C6の範囲の炭素長を有することが典型的には多い。典型的なアルケニル基は、限定されないが:ビニル、プロペニル、イソプロペニルまたはブテニルから選択される。
【0015】
誤解を避けるために、上記に列挙されている「アルキル」および「アルケニル」基は、それぞれ、任意選択的に置換されていてよい。1つ以上の任意選択的な置換基が存在していてよく、典型的な任意選択的な置換基は:ハロゲン、ヒドロキシ、カルボン酸、アミン、アミド、ニトロまたはこれらの組み合わせ;から選択される。最も典型的には、任意選択的な置換基は、ハロゲンまたはヒドロキシ基である。いくつかの実施形態において、1つ以上の水素原子が、ハロゲンによって置き換えられていてよい。
【0016】
誤解を避けるために、用語「アリール」は、その通常の意味を持つことが意図されており、1つ以上の芳香族環種の基をカバーする。上記芳香族環として、8員環、7員環、6員環、および5員環を挙げることができる。より典型的には、環は、6員環または5員環
であり、最も典型的には、環は、6員環である。また、1つ以上のヘテロ原子は、上記環内に含まれて、ヘテロアリール種を形成していてよい。典型的なヘテロ原子として、N、OおよびS、より典型的にはNおよびO、最も典型的にはNが挙げられる。ヘテロアリール基が使用される場合、唯1つのヘテロ原子が存在することが通例である。アリール基は:フェニル、シクロペンタジエニル、ピリジルおよびフリル;から選択される場合が多い。
【0017】
誤解を避けるために、上記に列挙されている「アリール」基は、任意選択的に置換されていてよい。1つ以上の任意選択的な置換基が存在していてよく、典型的な任意選択的な置換基は:アルキル、アルコキシ、アルケニル、ハロゲン、ヒドロキシ、カルボン酸、アミン、アミド、ニトロまたはこれらの組み合わせから選択される。より典型的には、任意選択的な置換基は、アルキル、アルコキシ、ハロゲンまたはヒドロキシ基であり、なおより典型的には、任意選択的な置換基は、アルキルまたはアルコキシ(通常アルキル)である。いくつかの実施形態において、1つ以上の任意の水素原子が、ハロゲンによって置き換えられていてよい。
【0018】
誤解を避けるために、用語「ハロゲン」は、その通常の意味を持つことが意図されており、多くの場合、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素を包含する。より典型的には、ハロゲンは、フッ素、塩素または臭素;なおより典型的にはフッ素または塩素;最も典型的にはフッ素である。
【0019】
また、用語「金属中心」は、その周りで好適なリガンドと組み合わせて錯体が形成され得る金属原子(典型的には、金属イオン)を指すことが意図される。金属の選択については特に制限されないが、金属中心は、典型的には、六角形状を有する錯体を形成することが可能であり、すなわち、6個の結合を形成することが可能である。典型的には、金属中心(複数可)は遷移金属である。
【0020】
X1、X2、X3およびX4(すなわち、N、OまたはSが用いられる)の同一性は、大部分において、式(I)または式(Ia)の化合物において使用される金属中心の選択、すなわち、それぞれ「M1およびM2」ならびに「M1」によって決定される。認識されるように、異なる金属は、異なるドナー原子について異なる親和性を有する。しかし、X1、X2、X3およびX4は、それぞれ独立してNまたはOである場合が多い。通常、X1、X2、X3およびX4のうちの少なくとも1つがNであり、より典型的には、X1、X2、X3およびX4のうちの少なくとも2つがNであり、なおより典型的には、X1、X2、X3およびX4のうちの少なくとも3つがNである。しかし、最も典型的に、X1、X2、X3およびX4が、それぞれNである。
【0021】
加えて、Y1およびY2の同一性については実際の限定はなく、すなわち、N、O、S、またはC(Ra)が使用されるが、Y1およびY2は、N、O、C(Ra)からそれぞれ独立して選択され、より典型的には、NまたはC(Ra)からそれぞれ独立して選択される場合が多い。通常、Y1およびY2のうちの少なくとも1つがNである。しかし、Y1およびY2の両方がNである場合が最も多い。
【0022】
式(Ia)で示される化合物に関して、環D
1およびD
2は、それぞれ、上記のX
3およびX
4のように典型的に定義されている1つ以上のヘテロ原子をそれぞれ独立して含んでいてよい。特に、X
3および/またはX
4は、C、NおよびO、より典型的にはCおよびN、最も典型的にはNから選択されてよい。2つ以上のヘテロ原子が環D
1および/またはD
2内に存在する場合があり得る。典型的には、化合物は、式(Ib)で示される構造を有し:
【化2】
式中、
A
1、A
2、M
1、R
1~R
4、Y
1、Y
2、およびX
1~X
4は、上記に定義されている通りである。
【0023】
式(I)および式(Ia)の化合物において使用されている金属中心、M1およびM2は、特に限定されず、ただし、これらは、式(I)および式(Ia)のリガンドと共に安定な錯体を形成することが可能であることとする。金属中心の典型的な例として、限定されないが:ルテニウム、イリジウム、オスミウム、鉄、白金、ロジウム、またはこれらの組み合わせ;が挙げられる。多くの場合、M1およびM2は:ルテニウム、イリジウムおよびオスミウム;から選択される。典型的には、M1およびM2のうちの少なくとも1つがルテニウムまたはイリジウム;より典型的にはルテニウムである。M1およびM2の両方がルテニウムである場合があり得る。いくつかの実施形態において、1つまたは両方の金属中心、M1およびM2がイリジウムであってよい。
【0024】
典型的には、R
1、R
2、R
3およびR
4は、それぞれが:水素、アルキル、アルケニル、アリール、ハロゲン、ヒドロキシ、アルコキシ、カルボン酸、アミノ、アミド、ニトロまたはこれらの組み合わせから独立して選択される。R
1、R
2、R
3およびR
4は、それぞれが、当業者によく知られているように、すなわち、式(II)または式(IIa)に示されるように、結合している芳香族環に付着している1~3つの基で表される:
【化3】
【0025】
R1、R2、R3およびR4は:水素、アルキル、アルケニル、アリール、ハロゲン、ヒドロキシ、アルコキシまたはこれらの組み合わせ;からそれぞれ独立して選択される場合が典型的である。より典型的には、R1、R2、R3およびR4は:水素、アルキル、アルケニル、アリールまたはこれらの組み合わせ;からそれぞれ独立して選択される。最も典型的には、R1、R2、R3およびR4は:水素、アルキル、アリールまたはこれらの組み合わせ;からそれぞれ独立して選択される。通常、R1、R2、R3およびR4のうちの少なくとも1つが水素であり;より多くの場合において、R1、R2、R3およびR4のうちの少なくとも2つが水素であり;より典型的には、なお、R1、R2、R3およびR4のうちの少なくとも3つが水素であり;最も典型的には、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ、水素である。
【0026】
また、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20およびR21は:水素、アルキル、アルケニル、アリール、ハロゲン、ヒドロキシ、アルコキシまたはこれらの組み合わせ;からそれぞれ独立して選択される。より典型的には、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20およびR21は:水素、アルキル、アルケニル、アリールまたはこれらの組み合わせ;からそれぞれ独立して選択される。最も典型的には
、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20およびR21は:水素、アルキル、アリールまたはこれらの組み合わせ;からそれぞれ独立して選択される。通常、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20およびR21のうちの少なくとも1つが水素であり;より多くの場合において、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20およびR21のうちの少なくとも2つが水素であり;より典型的には、なお、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20およびR21のうちの少なくとも3つが水素であり;なおより典型的には、なお、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20およびR21のうちの少なくとも4つが水素であり;最も典型的には、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20およびR21のうちの少なくとも5つが水素である。通常、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20およびR21は、それぞれ水素である。認識されるように、X3またはX4がヘテロ原子(例えば、窒素または酸素)であるとき、R17およびR18はそれぞれ省略される場合があり得る。
【0027】
当業者によって認識されるように、R1、R2、R3およびR4(例えば;R4に関してはR4’、R4’’およびR4’’’)のそれぞれに関連する3つの置換基は、同一である必要はない。
【0028】
典型的には、Raは:水素、アルキル、アルケニル、アリール、ハロゲン、ヒドロキシ、アルコキシ、カルボン酸、アミノ、アミド、ニトロまたはこれらの組み合わせから選択される。多くの場合、Raは:水素、アルキル、アリール、ハロゲン、ヒドロキシまたはアルコキシ;より典型的には、水素、アルキル、またはアルコキシ;より典型的には、なお、水素またはアルキルから選択され;最も典型的には、Raは、水素である。
【0029】
本発明者らは、二座配位子(A
1~A
4)を用いた式(I)および式(Ia)の化合物が、様々な微生物に対して驚くべき効能を実証することを見出した。特に、二座配位子の選択について特に制限はないが、式(III)で示される化合物が特に有効であることが分かった。かかる二座配位子を以下に示す:
【化4】
式中、
Z
1およびZ
2は:N、O、Sからそれぞれ独立して選択され;
R
5、R
6、およびR
7は:水素、アルキル、アルケニル、アリール、ハロゲン、ハロアルキル、ハロアルケニル、ハロアリール、ヒドロキシ、アルコキシ、カルボン酸、アミノ、アミド、ニトロまたはこれらの組み合わせからそれぞれ独立して選択される。
【0030】
理論によって拘束されることなく、4位および5位に2つのドナー原子を含む、一般構
造式(III)の化合物の使用は、驚くべき抗微生物効能を有する化合物を結果として生じさせるとされている。それぞれのドナー原子、Z1およびZ2は異なっていてよいが、Z1およびZ2は、同じである場合が多い。また、Z1およびZ2は、それぞれが、独立して、NまたはOから選択されてよい。最も典型的には、Z1およびZ2のうちの少なくとも1つが窒素であり、多くの場合、Z1およびZ2のそれぞれが窒素である。そのため、A1、A2、A3およびA4は、それぞれ独立してフェナントロリンまたはこれらの誘導体である場合が典型的には多い。
【0031】
置換基R
5、R
6およびR
7は、それぞれが、式(III)の一般構造を構成する環に付着しているこれらの基を表す。R
5およびR
7は、最大3つの置換基を指し、R
6は、式(IIIa)に示されている最大2つの置換基を指す:
【化5】
【0032】
R5、R6およびR7は、それぞれ、同じであっても異なっていてもよく;これらの各置換基が、同じであっても異なっていてもよい。例えば、R5がアルキル基であるとき;R5’、R5’’およびR5’’’のうちの1、2または3つがアルキル基であってよい。R5、R6、およびR7は:水素、アルキル、アルコキシ、アリールまたはこれらの組み合わせ;からそれぞれ独立して選択される場合が多い。R5、R6、およびR7のうちの少なくとも1つが水素である場合が多く;R5、R6、およびR7のうちの少なくとも2つが水素である場合が多く;いくつかの場合において、R5、R6、およびR7のそれぞれが水素である。
【0033】
代替の実施形態において、R5、R6、およびR7のうちの少なくとも1つがアルキルである場合が多く;R5、R6、およびR7のうちの少なくとも2つがアルキルである場合が多く;いくつかの場合において、R5、R6、およびR7は、それぞれがアルキルである。いくつかの場合において、R5、R6、およびR7のうちの2つが、アルキルである。典型的には、R5、R6、およびR7のうちの2つが、アルキルであるとき、R5およびR7が、アルキルである。典型的なアルキル基は、上記に定義されている通りである。しかし、R5、R6、またはR7がアルキル基であるときには、上記アルキル基は:メチル、エチルまたはプロピル;から選択される場合が多い。典型的には、上記アルキル基は、メチルまたはエチルであり、より典型的には、上記アルキル基はメチルである。
【0034】
さらなる代替の実施形態において、R5、R6、およびR7のうちの少なくとも1つがアリールである場合が多く;R5、R6、およびR7のうちの少なくとも2つがアリールである場合が多く;いくつかの場合において、R5、R6、およびR7は、それぞれがアリールである。いくつかの場合において、R5、R6、およびR7のうちの2つがアリールである。典型的には、R5、R6、およびR7のうちの2つがアリールであるとき、R
5およびR7が、アリールである。典型的なアリール基は、上記に定義されている通りである。しかし、R5、R6、またはR7がアリール基であるときには、上記アリール基は:フェニル、ピリジルまたはフリル;から選択される場合が多い。典型的には、上記アリール基は、フェニルまたはピリジルであり、より典型的には、上記アリール基はフェニルである。
【0035】
R5およびR7は、同じである場合があり得る。さらに、二座配位子は対称であり、すなわち、式(IIIa)の構造についての置換パターンは対称であり、例えば、R5’およびR7’がメチル基であり、全ての他の置換基が水素である場合が多い。
【0036】
典型的な二座配位子は、以下に示す化合物(1)~(7)である:
【化6】
【0037】
A1、A2、A3およびA4のうちの少なくとも2つが、同じである場合が多い。多くの場合、A1、A2、A3およびA4のうちの少なくとも3つが同じであり;A1、A2、A3およびA4のうちの4つ全てが同じである場合があり得る。いくつかの実施形態に
おいて、A1、A2、A3およびA4は、それぞれ異なっている。A1、A2、A3およびA4は、それぞれが、独立して、化合物(1)~(7)から選択されてよい。多くの場合、A1、A2、A3およびA4は、化合物(1)、(2)、(3)、(5)、(6)および(7)からそれぞれ独立して選択され;より典型的にはA1、A2、A3およびA4は、化合物(1)、(2)および(3)からそれぞれ独立して選択され;さらにより典型的には、A1、A2、A3およびA4は、化合物(2)および(3)からそれぞれ独立して選択され;最も典型的にはA1、A2、A3およびA4は、化合物(1)および(2)からそれぞれ独立して選択される。A1、A2、A3およびA4は、全てが、化合物(3)によって表される場合があり得る。
【0038】
式(IIa)の化合物の場合において、A1およびA2は、それぞれが、独立して、化合物(1)~(7)から選択されてよい。多くの場合、A1およびA2は、化合物(1)、(2)、(3)、(5)、(6)および(7)からそれぞれ独立して選択され;より典型的にはA1およびA2は、化合物(1)、(2)および(3)からそれぞれ独立して選択され;さらにより典型的には、A1およびA2は、化合物(2)および(3)からそれぞれ独立して選択され;最も典型的にはA1およびA2は、化合物(1)および(2)からそれぞれ独立して選択される。A1およびA2は、両方が、化合物(3)によって表される場合があり得る。
【0039】
本発明の第1態様の化合物は、正電荷、通常は式(I)の化合物についての4+電荷および式(Ia)の化合物についての2+電荷を保有する場合が典型的には多い。この電荷を平衡化するために様々な対イオンが付与され得る。対イオンの選択について特に制限はないが、典型的には:塩化物、フッ化物、臭化物、水酸化物、硝酸塩、ヘキサフルオロリン酸塩、またはこれらの組み合わせ;から選択されてよい。典型的には、対イオンは、塩化物または硝酸塩、通常は塩化物である。誤解を避けるために、本明細書における化合物への言及は、その薬学的に許容可能な塩への言及も包含することも意図される。
【0040】
本発明の第2態様において、本発明の第1態様による化合物を含む組成物も提供される。組成物の含有量については特に制限されない。組成物は、当業者によく知られている、組成物の物理的または化学的特性を修飾するための1つ以上の賦形剤を含んでいてよい。組成物は、経口送達用の錠剤として、体に適用可能な局所製剤として、または、当業者によく知られている静脈もしくは皮下送達に適合される組成物として製剤化されてよい。
【0041】
組成物は、1つ以上のさらなる抗微生物剤、典型的には1つ以上のさらなる抗生物質を含めた1つ以上のさらなる医薬品有効成分を含んでいてよい。組成物は、本発明の第1態様の化合物の投薬量の範囲で調製されてもよい。
【0042】
本発明の第1態様による化合物および本発明の第2態様による組成物は、微生物によって引き起こされる1つ以上の疾患または障害の処置のためのものであってよい。より典型的には、本発明の第1態様による化合物および本発明の第2態様による組成物は、細菌、特に、グラム陰性細菌によって引き起こされる1つ以上の疾患または障害の処置に使用される。典型的な疾患として、限定されないが:肺炎、結核、コレラ、梅毒、腸チフス、破傷風、院内感染(病院内感染による)、尿路感染、血液感染またはこれらの組み合わせ;が挙げられる。
【0043】
本発明の第3態様において、微生物疾患または障害を処置する方法であって、本発明の第1態様の化合物または本発明の第2態様の組成物を患者に投与することを含む、方法も提供される。典型的には、微生物疾患または障害は、グラム陰性細菌によって通常引き起こされる細菌性疾患または障害である。典型的な例として、限定されないが:肺炎、結核、コレラ、梅毒、腸チフス、破傷風、院内感染(病院内感染による)、尿路感染、血液感
染、またはこれらの組み合わせ;が挙げられる。
【0044】
本発明の第4態様において、式(IV)または(IVa)で示される化合物が提供される:
【化7】
式中、
R
8、R
8’、R
8’’、R
8’’’、R
9、R
9’、R
9’’、R
9’’’、R
10、
R
10’、R
10’’、R
10’’’、R
11、R
11’、R
11’’、R
11’’’、R
12、R
12’、R
12’’、R
12’’’、R
13、R
13’、R
13’’およびR
13’’’は:水素、アルキル、アルコキシ、アルケニルおよびアリールからそれぞれ独立して選択され;
ただし、R
8、R
8’、R
8’’、R
8’’’、R
9、R
9’、R
9’’、R
9’’’、R
10、R
10’、R
10’’、R
10’’’、R
11、R
11’、R
11’’、R
11’’’、R
12、R
12’、R
12’’、R
12’’’、R
13、R
13’、R
13’’およびR
13’’’のうちの少なくとも1つが:アルキル、アルコキシ、アルケニルおよびアリール(アルキル、アルコキシ、アルケニルおよびアリール基は、それぞれ、上記に記載されている通りである)から選択されることとし;R
14~R
16およびR
18~R
21は、上記に記載されている通りである。
【0045】
R8、R8’、R8’’およびR8’’’のうちの2、3または4つ全てが、同じである場合が多い。R9、R9’、R9’’およびR9’’’のうちの2、3または4つ全てが、同じである場合も多い。いくつかの実施形態において、R10、R10’、R10’’およびR10’’’のうちの2、3または4つ全てが、同じであってよく、また、典型的には、R11、R11’、R11’’およびR11’’’のうちの2、3または4つ全てが同じである。また、R12、R12’、R12’’およびR12’’’のうちの2、3または4つ全てが、典型的には同じであり、R13、R13’、R13’’およびR13’’’のうちの2、3または4つ全てが、同じである場合が多い。理解されるように、ルテニウム金属中心についての置換パターンを信頼性のある方法で正確に制御することは難しくあり得るため、異なる二座配位子の組み合わせを使用するよりもむしろ、同じ二座配位子、および、理想的には全て4つ同一の二座配位子を使用して錯体を製造することがより容易である場合が多い。多くの場合、一貫した「混合」リガンド錯体を得るために分離技術が必要とされる。
【0046】
同様に、式(IVa)に関して、R8およびR8’は、同じである場合が多い。また、R9およびR9’は、同じである場合が多い。いくつかの実施形態において、R10およびR10’は、同じであってよく、典型的にはR11およびR11’もまた、同じである。また、R12およびR12’は、典型的には同じであり、R13およびR13’は、同じである場合が多い。
【0047】
本発明の一実施形態において、R8~R13のうちの少なくとも1つがアルキルであり;より典型的には、R8~R13のうちの少なくとも2つがアルキルであり;なおより典型的には、R8~R13のうちの少なくとも3つがアルキルであり;より典型的には、なお、R8~R13のうちの少なくとも4つがアルキルであり;さらにより典型的には、なお、R8~R13のうちの少なくとも5つがアルキルであり;最も典型的には、R8~R13のそれぞれがアルキルである。上記アルキル基は、メチル、エチルおよびプロピルから典型的には選択され、最も典型的にはメチルまたはエチルであり、通常はメチルである。アルキルではないこれらの置換基R8~R13は、典型的には水素である。二座配位子の周りの置換パターンは対称である場合が多い(例えば、R8、R9およびR10は、それぞれR13、R12およびR11と同一である)。多くの場合、R8~R13のうちの2つがアルキルであり、より典型的には、R8~R13のうちの4つがアルキルであり、いくつかの場合において、R8~R13のうちの6つ全てが、アルキルである。
【0048】
多くの場合、R8およびR13はアルキル(通常メチル)である場合があり;典型的には、かかる状況において、R9~R12は水素である。代替的には、R9~R12はアルキル(通常メチル)である場合があり得;典型的には、かかる状況において、R8およびR13は、水素である。さらに、R9およびR12はアルキル(通常メチル)である場合があり得;典型的には、かかる状況において、R8、R10、R11およびR13は、水
素である。代替的には、R10およびR11はアルキル(通常メチル)である場合があり得;典型的には、かかる状況において、R8、R9、R12およびR13は、水素である。
【0049】
本発明の別の実施形態において、R8~R13のうちの少なくとも1つがアリールであり;より典型的には、R8~R13のうちの少なくとも2つが、アリールである。上記アリール基は、フェニル、ピリジルおよびフリルから典型的には選択され;最も典型的にはフェニルである。アリールではないこれらの置換基R8~R13は、典型的には水素である。二座配位子についての置換パターンは対称である場合が多い(例えば、R8、R9およびR10は、それぞれR13、R12およびR11と同一である)。多くの場合、R8~R13のうちの2つがアリールであり、いくつかの場合において、R8~R13のうちの4つがアリールである。
【0050】
多くの場合、R10およびR11は、アリール(通常フェニル)であり;典型的には、かかる状況において、R8、R9、R12およびR13は、水素である場合がある。代替的には、R9~R12は、アリール(通常フェニル)である場合があり得;典型的には、かかる状況において、R8、R10、R11およびR13は、水素である。
【0051】
化合物は、式(V)または式(Va)によって表され:
【化8】
またはその薬学的に許容可能な塩である場合があり得る。使用され得る対イオンの選択については特に制限されず、例示的な対イオンは上記に記載されている。
【0052】
本発明の第5態様において、本発明の第4態様による化合物を含む組成物も提供される。組成物の含有量については特に制限されない。組成物は、当業者によく知られている、組成物の物理的または化学的特性を修飾するための1つ以上の賦形剤を含んでいてよい。組成物は、経口送達用の錠剤として、体に適用可能な局所製剤として、または、当業者によく知られている静脈もしくは皮下送達に適合される組成物として製剤化されてよい。
【0053】
組成物は、1つ以上の抗微生物剤、典型的には1つ以上の抗生物質を含めた1つ以上のさらなる医薬品有効成分を含んでいてよい。組成物は、本発明の第1態様の化合物の投薬
量の範囲で調製されてもよい。
【0054】
本発明の第4態様による化合物および本発明の第5態様による組成物は、微生物によって引き起こされる1つ以上の疾患または障害の処置のためのものであってよい。より典型的には、本発明の第4態様による化合物および本発明の第5態様による組成物は、細菌、特に、グラム陰性細菌によって引き起こされる1つ以上の疾患または障害の処置に使用されてよい。典型的な疾患として、限定されないが:肺炎、結核、コレラ、梅毒、腸チフス、破傷風、院内感染(病院内感染による)、尿路感染、血液感染、またはこれらの組み合わせ;が挙げられる。
【0055】
本発明の第6態様において、微生物疾患または障害を処置する方法であって、本発明の第4態様の化合物または本発明の第5態様の組成物を患者に投与することを含む、方法も提供される。典型的には、微生物疾患または障害は、グラム陰性細菌によって通常引き起こされる細菌性疾患または障害である。典型的な例として、限定されないが:肺炎、結核、コレラ、梅毒、腸チフス、破傷風、院内感染(病院内感染による)、尿路感染、血液感染、またはこれらの組み合わせ;が挙げられる。
【0056】
純粋に理解を助けるために、本発明は同封の図を参照して説明される。
【0057】
本発明をここで具体的な例に関して説明する。これらの例は、限定的であると解釈されるべきではなく、本発明の理解を深めるために提供される。
【実施例】
【0058】
二核錯体の合成
錯体1
4+および2
4+(スキーム1を参照されたい)を以下に概説する手順を使用して合成した。
【化9】
【0059】
1,10-フェナントロリン-5,6-ジオン(化合物14+)
1,10-フェナントロリン(18.02g、100mmol)を60%H2SO4(125mL)に溶解した。一定の撹拌をしながら、臭素酸カリウム(66.81g、400.1mmol)をゆっくり添加して、反応が激しくなりすぎないようにした。反応により、臭素ガスの褐色の煙が放散した。全ての臭素酸カリウムを添加した後、反応混合物を放置して室温まで冷却した。混合物を、砕いた氷(100g)を添加して氷浴に置くことによってさらに冷却した。溶液をNaOH(20M)の滴加によってpH5~6に中和し、中和の間に混合物が熱くなり、これを、氷浴において冷たく保つようにして行わなければならなかった。黄色沈殿物をシンターで濾過し、水(1L)およびジエチルエーテル(100mL)で洗浄した。生成物を真空中で乾燥した。粗生成物を水/メタノール(1:50)中での再結晶を介して精製し、鮮やかな黄色結晶を、真空濾過を介して収集した。質量=16.04g(76.31mmol、76.3%)黄色固体。1HNMR(CDCl3)δ(分裂統合);7.61(dd,2H),8.52(dd,2H),9.13(dd,2H).MS;m/z:210.1(100)[M+].
【0060】
テトラピリド[3,2-a:2’,3’-c:3’-c:3’’,2’’-h:2’’’,3’’’-j]フェナジン(TPPHZ)
酢酸アンモニウム(15g、194.6mmol)、dip(2.90g、13.8mmol)および亜ジチオン酸ナトリウム(300mg、1.72mmol)を、窒素下、180℃で2時間、還流下で沸騰させた。反応混合物を時折撹拌した。反応が完了した後、混合物を放置して室温まで冷却し、次いで蒸留水(20mL)を添加した。形成した黄色沈殿物を収集し、真空下で濾過し、水、メタノールおよびアセトン(3×20mL)で洗浄した。得られた粗生成物を還流エタノール(100mL)においてトリチュレートし
、不純物を除き、熱いうちに濾過し、真空中で乾燥した。質量=(0.92g、2.39mmol、34.6%)黄色固体。生成物は、大部分の溶媒に難溶性であった。1HNMR(CDCl3)δ(分裂統合)7.94(dd,4H),9.41(dd,4H),9.83(dd,4H).1HNMR(d-TFA)δ(分裂統合)8.62(dd,4H),9.56(dd,4H),10.52(dd,4H).MS;m/z(42.6%):385.1(100)[M+].
【0061】
[Ru(N-N)2Cl2]
4つの化合物を以下の方法によって合成した。N-Nは、置換フェナントロリン補助リガンドを表す。RuCl3.3H2O、N-NおよびLiClを還流下DMF中で8時間加熱した。反応混合物を室温まで冷却し、アセトンを添加した。これを4℃で16時間保存した。暗紫色沈殿物を水およびエタノールで洗浄し、真空中で乾燥した。
【0062】
[Ru(1,10-フェナントロリン)2Cl2]
RuCl3.3H2O(1.56g、6mmol)、LiCl(1.55g、36.9mmol)、phen(2.5g、13.9mmol)、DMF(20mL)およびアセトン(100mL)。質量=2.41g(4.59mmol、収率66.1%)。ES-MSm/z(%):497(70)[M-Cl]+、525(100)[M-Cl]++CO。
【0063】
[{Ru(N-N)2}2(tpphz)][PF6]4
4つの化合物を以下の一般的な手順によって合成した。[Ru(N-N)2Cl2]および(tpphz)をエタノールおよび水の1:1溶液に添加した。溶液を、窒素下、還流で12時間加熱した。完了後、反応混合物を室温まで冷却し、4℃で16時間保存した。赤色溶液を濾過し、エタノールを回転蒸発によって除去した。飽和量のNH4PF6を添加し;これにより、暗赤色沈殿物が形成された。沈殿物を濾過によって収集し、水で洗浄し、ジエチルエーテルの添加によってアセトニトリル中で再結晶化した。生成物を真空中で乾燥し、以下の溶媒系:95% MeCN、3% dH2Oおよび2% KNO3;を使用してアルミナカラムにおいて精製した。
【0064】
[{Ru(1,10-フェナントロリン)
2}
2(tpphz)][PF
6]
4
Tpphz(0.263g、0.68mmol)、[Ru(phen)
2Cl
2](1g、1.89mmol)およびエタノール/水(50mL)。質量=1.1g(0.58mmol、収率85.6%)。
1H NMR(MeCN-d
6)δ(分裂統合):7.71(m,8H),7.94(dd,4H),8.09(d,4H),8.29(dd,8H),8.33(s,8H),8.69(dd,8H),10.01(dd,4H).ES-MS;m/z(%):799(10)[M-2PF
6]
2+,484(15)[M-3PF
6]
3+,321(50)[M-4PF
6]
4+,正確な質量分析:C
72H
28N
14[
102Ru]
2
4+、計算値321.1110.実測値321.1112。
錯体3
4+および4
4+を、同様の方法を使用して、関連するメチル化二座配位子を用いて合成した。3
4+および4
4+の両方が、それぞれ670nmおよび700nmを中心として、MeCN中、予期された強いRu
II→tpphzベースの
3MLCT発光を示す(
図5および6)。これら4つの錯体のそれぞれの生物学的特性を、アニオンメタセシスによって得られる塩化物塩を使用して検討した。
【0065】
二核錯体の特性
親油性および親水性のバランスは、生物活性基質の生細胞取り込みに重要であるとされている。全4つの錯体のLogPを、振とうフラスコ手順を使用してオクタノール-水分配を通して決定した。結果は以下の通りであった:14+=1.77、24+=1.03、34+=1.38および44+=1.13。これらのデータは、24+が最も親油性の
錯体であることを明らかにしている。さらに、相対的な親油性は、これらの錯体の補助リガンドに付着しているメチル基の数によって増加すると思われる。
【0066】
これらの化合物の生物活性を、大腸菌の野生型K12誘導MG1655および尿路病原性多剤耐性EC958 ST131株に関して調査した。別のグラム陽性細菌、ESKAPE細菌-大便連鎖球菌(Enterococcus faecalis)の病原性胃腸株、V583(ATCC700802)-主要な日和見感染病原体である(および尿路感染の主因)もまた、化合物に関して試験した。4つの錯体の最小阻止濃度、MICを、グルコース限定最小培地(GDMM)および栄養リッチなMueller-Hinton-II(MH-II)において得た(
図7)。表1におけるデータによって実証されているように、全4つの錯体が、GDMMにおいてより高い活性を示している。
【表1】
【0067】
最も親油性の化合物、24+は-水性媒体へのそのより低い溶解性におそらく起因して-最も少ない活性を示すが、親油性シリーズは、親油性の増加およびそれに伴う活性の増加を示し、44+は、細菌の全3つの株に対して最も高い活性を有している。とりわけ、14+、34+および44+は、大腸菌のβ-ラクタム耐性株およびエンテロコッカス・
フェカリスのバンコマイシン耐性株に対して相当な活性を示し;錯体44+は、さらに、大腸菌の野生型株に対してアンピシリンよりも高い活性を示す。14+~44+に関しての最小殺菌濃度、MBCの推定値も得られ、表1にまとめた。これらのデータは、MICデータに関しては、GDMMおよびMH-II間のMBC値の増加が観察されることを示している。また、44+は最も活性を有し、GDMMにおいては、そのMBC値がアンピシリンよりも低く、これは、全ての細菌株に関して、従来の抗生物質よりも活性を有することを示している。さらに、全3つの株に対してのMBC値が、少なくとも4倍、MICよりも高いため、全ての化合物が静菌性の抗微生物剤として機能する。
【0068】
錯体4
4+が最も有望な殺菌性を有することを確立したため、時間殺菌動力学アッセイ(time-kill kinetics assay)を、37℃における最少培地中で、増加する濃度の錯体に6時間さらした際の両方の大腸菌株について実施した(
図1Aおよび8を参照されたい)。MICよりも低い濃度では、細菌が成長し続けるにつれてコロニー形成単位(CFU)が徐々に増加した。両方の株において、MICの濃度以上では、化合物が細菌増殖を停止させ、生存している細菌性細胞の数を低減させることが明らかである。EC958については、4
4+への最も高い暴露において、コロニーが形成されず、系内の全ての細菌が死滅されたことを示した。MBC値と時間殺菌アッセイとの間の相違は、異なる実験条件から生じると考えられ、MBCアッセイは、16~18時間にわたる静止インキュベーションを含み、時間殺菌アッセイは、90%通気および6時間にわたる回転によって実施される。
【0069】
大腸菌細胞による4
4+の取り込みを調査するために、ICP-AES研究を実施した。4
4+による取り込み研究をグルコースの存在下および非存在下で実施した(
図1Bおよび9を参照されたい)。1時間にわたる大腸菌EC958中でのルテニウムの蓄積を調査する実験を、高濃度で、時間殺菌アッセイとして行い、細菌の99.9%が4
4+への最初の暴露時間内に死滅されたことを示した。これらの実験において、鉄の濃度(全細胞中の微量の元素)もまた対照として定量した。4
4+による処理では、鉄分が一定で残存することが分かり;さらに、CFU/mLの無視できるほどの変化もあり、このことは、細胞が蓄積実験の際に溶解しなかったことを実証した。
【0070】
グルコース不含条件では、蓄積は2段階を示し:暴露における最初の増加後、低いルテニウムレベルが約20分間維持され、この後、取り込み量は徐々に倍になり、最終的な数字が細胞当たり1.1×10-16gとなる。平均細胞容積を1μm3とすると、これは、>1mMの細胞内濃度と等しい。対照的に、グルコースの存在下では-最終的に蓄積するルテニウムの量が実験誤差内で同一であるが-錯体の取り込みは迅速であり、ルテニウムの最大細胞内濃度が20分以内に達成される。グルコースおよびグルコース不含条件間の有意差は10および20分で見られる。
【0071】
4
4+の取り込みおよび4
4+への暴露への細胞応答も金属錯体を使用した超解像度において分析した。改良した解像度(約100nm)において4
4+の内在化を画像化するために構造化照明顕微鏡法を使用したが、本発明者らはまた、最も高いサブ回折限界解像度を提供するために、誘導放出抑制(STED)ナノ顕微鏡法も用いた。経時的(5~120分)に撮影した例のSTED画像を
図2に示す。
【0072】
細胞形態の変化が暴露の最初の5~20分内に起こるか否かを調査するために、蓄積実験において使用した同じ時点および同一の条件で画像を撮影した。これらの画像は、44+が大腸菌の病原性株によって容易かつ迅速に取り込まれることを確認した。興味深いことに、最大20分で、錯体は大部分が細胞膜に蓄積し、概して細胞コンパートメント内に分散される。しかし、この期間の後、細胞極に次第に優先的に位置する。
【0073】
詳細な3Dセクショニング実験(3D STED)ではSTED顕微鏡法も用いた。XY面およびZ軸に分裂したデュアルSTEDビームを用いることによって、それぞれ画像化された面において、可能な限り高い3D解像度を促した;細菌の細胞寸法を与える重要な因子。この手順を使用して、各面における50nmの、およびZ軸において120nm付近の、3D STED解像度を得た。
図3は、4
4+へさらした後の特定の時点において撮影した画像を示す。最初の10分の間に、プローブが、独特の分布パターンを形成して細胞膜内に蓄積する。20分後、染料の再分配が開始し、極における蓄積が次第に現れる。
【0074】
画像化研究により、ICP-AESデータと一緒に、およそ20分後の取り込み量の変化および錯体の細胞内分布を示す。さらに、4
4+の分子量は、ポーリン介在取り込みについての上限(約600Da)よりもかなり大きいため、このメカニズムは無視されてよい。膜損傷の可能性を調査するために、プローブAlexa Fluor NHSエステル405による第2の共染色実験を実施した(
図4Aを参照されたい)。
【0075】
Alexa Fluor NHSエステル405は、非易感染性細菌細胞膜(non-compromised bacterial membranes)に不浸透性であるため、細胞膜を局在化および画像化する。44+へさらした5分後、NHSエステル405の局在化は、細菌の細胞膜に限定された。しかし、錯体へさらした60分後、両方の染料が大腸菌に内在化していることが分かる。対照的に、60分後であっても、NHSエステル405によって単に染色した細胞は、膜染色を専ら表し続ける。膜染色が44+による処理後にのみ内在化されるという事実は、錯体が細菌細胞膜の構造を破壊しているという証拠をさらに提示する。この現象をより定量的に調査するために、濃度依存性ATP細胞漏出アッセイを実施した。特定の濃度の44+による処理の後、細菌細胞膜に損傷から放出される細胞外ATPの存在を、組み換え型蛍ルシフェラーゼおよびD-ルシフェリン間のATP依存性反応から生じるルミネセンスを使用して検出した。
【0076】
図4Bにまとめられている、[ATP]のルミネセンスベースの定量から得られるデータにより、細菌細胞膜が、4
4+への暴露において濃度依存的に損なわれることが確認される。この効果を考慮すると、膜損傷は内在化した4
4+のレベルが高濃度に上昇し得る前に最初に起こらなければならないため、グルコース不含条件における錯体の取り込みは二相性であると思われる。この膜損傷は錯体に関する治療作用の唯一のメカニズムである可能性がある;しかし-内在化された後-錯体が局在化し、第2の細胞標的を示唆する細胞の特定の領域で結合する。病原性の、治療耐性の大腸菌の株が依然として錯体に敏感であることを考慮すると、4
4+の膜破壊効果は、より複雑な一連の相互作用および細胞応答の単に一面に過ぎないと思われる。
【表2】
【表3】
【0077】
4
4+が高い抗微生物活性を示し、膜を標的とするため、非がん性真核細胞における化合物の効力を測定して、抗微生物セラノスティックリードとしてのその可能性をさらに調査した。ヒト胚腎臓株、HEK293におけるMTTアッセイでは、135μMの平均IC
50値を示し、これは、細菌およびHEK293細胞に対する阻害濃度において少なくとも80倍の大きさの差があることを示している(
図4Cを参照されたい)。
【0078】
IC
50およびMIC値間の有望な比較を考慮して、動物モデルスクリーニングを実施した。ハチノスツヅリガ(Galleria mellonella)幼虫の生理学の多くの態様、特にこれらの免疫系は、哺乳動物と非常に類似しているため、毒性スクリーニングを含めた、in vivoモデルとしてよく用いられ、一般的に使用される哺乳動物モデルに匹敵する結果を得ている。毒性スクリーニングを、4
4+を用いて行い、カプランマイヤー生存曲線をプロットした(
図4Dを参照されたい)。使用した全ての濃度がEC958に対する4
4+についてのMICを超えており、抗微生物剤について臨床において使用される1日用量範囲内であった。ログランク試験から、4
4+によって処置したGalleriaによる生存百分率と、全ての化合物濃度での対照との間に有意差がないと判断した。加えて、活性及びメラニン化スコアは、4
4+にさらしたGalleriaに対する有意な陰性効果はないことを示しており、この化合物がMICを優に上回る濃度でも毒性はないことを確認した。
【表4】
【表5】
【0079】
図11および12に示すように、膜電位および4
4+のフローサイトメトリーの挙動を求めた。さらに、MIC濃度の4
4+がアシネトバクター・バウマニ(AB184)を浸透し得ることが示されている(
図13)。10分で外膜を、60で内膜を、画像化することができる。幼虫の血リンパ内のA.バウマニAB184細胞における4
4+の局在化を
図17に示す。
【0080】
ルテニウムの血リンパ含有量(μg/mL)を、4
4+を注入したハチノスツヅリガについて求めた(
図14)。予期されるように、より高い用量では、ルテニウム含有量が血リンパにおいてより高いが、これは、実験の継続期間にわたって大部分が一定のままである。カプランマイヤー感染モデル(
図15)は、対照(水)と比較して4
4+の両方の濃度(40mg/kgおよび80mg/kg)において良好な生存率を示している。さらに、
図16Aおよび16Bは、抽出した幼虫血リンパ(Galleria細菌)からの細菌CFUカウントを示している。これらのプロットから、48時間後、両方の処理濃度(40または80mg/kgの4
4+)下で、コロニーがクリアランスされたことが明らかである。このクリアランスは、単回の化合物投与から達成した。これに対し、4
4+の非存在下では、細菌成長の指数関数的増加が観察された。
【0081】
ハチノスツヅリガ幼虫を、CUBICクリアリングプロトコルを使用して、さらなる研究用に選択した。
図18は、クリアランスしたハチノスツヅリガ幼虫を通して撮影した画像を示す。4
4+の発光は、ハチノスツヅリガの頭部(A)および尾部(B)におけるA.バウマニ細胞を染色した。A.バウマニ細胞の領域をハイライトしている(I,II)。Galleriaの血リンパ細胞における免疫応答の開始が観察されている(C)。画像は、4
4+で染色したA.バウマニを幼虫の血球細胞によって取り込み、貪食したことを示している。これは、4
4+が細菌を死滅させるだけでなく、幼虫の免疫反応を上方調節して、感染をクリアランスさせることを示している。
図19はまた、NHSエステル488(A)または4
4+(B)によって染色した、A.バウマニ、AB184を感染させ
た、クリアランスした幼虫の画像も示す。細胞の断面を同定し(i)、拡大して(AII、AIII、BII)、血球細胞内のA.バウマニを示す。ピーク発光強度を示すのに3D表面プロット(AIV、BIII)を与えた。
【0082】
図20において、錯体4
4+に供されたときの大腸菌ST131、EC958のバイオフィルム形成の研究を提示する。ST131は、10%のMICにおいて、4
4+の非存在下でバイオフィルムを形成した。ウェルチのT検定は、これらの群の間に有意差を示さなかった(P=0.687)。0.390および0.781の濃度は、それぞれ0.003および0.005の小さなネガティブな値を有するバイオフィルムが形成しないことを示した。そのため、4
4+は、0.390μMの低い濃度でバイオフィルムを形成することを防止する。
図21は、前形成したバイオフィルムによる研究を示す。バイオフィルムを15.6μM、78μMおよび156μMの4
4+に供した。対照(0μM)と156μMサンプルとの間に一つ星の有意差が観察され(p値=0.0015)、対照(0μM)と15.6μMサンプルとの間に二つ星の有意差が観察された(p値=0.0086)。そのため、4
4+は、バイオフィルム形成を防止し、かつ、既存のバイオフィルムに浸透する能力を有する。
【0083】
単核錯体の合成
錯体1
2+および2
2+(スキーム2を参照されたい)を以下に概説する手順を使用して合成した。
【化10】
【0084】
[Ru(N-N)2Cl2]
4つの化合物を以下の方法によって合成した。N-Nは、置換フェナントロリン補助リガンドを表す。RuCl3.3H2O、N-NおよびLiClを還流下で8時間、DMF中で加熱した。反応混合物を室温まで冷却し、アセトンを添加した。これを4℃で16時間保存した。暗紫色沈殿物を水およびエタノールで洗浄し、真空中で乾燥した。
【0085】
[Ru(3,4,7,8-テトラメチル-1,10-フェナントロリン)2Cl2]
RuCl3.3H2O(1.14g、5.50mmol)、TMP(2.4g、10.16mmol)、LiCl(1.47g、34.68mmol)、DMF(19mL)およびアセトン(100mL)。質量=2.07g(3.21mmol、63.2%)紫色固体。MS m/z(%):609.1(62)[M-Cl]+、637.1(100)[M]+667.1.(44)[M+Na]+。一酸化炭素が塩素のうちの1つに置き換わった。
【0086】
[Ru(N-N)2(DPQ)][PF6]2
4つの化合物を以下の一般的な手順によって合成した。[Ru(N-N)2Cl2]およびDPQをEtOH:H2Oの1:1溶液に懸濁した。懸濁液をアルゴン下12時間還流し、室温に冷却し、濾過した。NH4PF6を添加して褐色のヘキサフルオロホスフェ
ート塩を形成した。
【0087】
[Ru(3,4,7,8-テトラメチル-1,10-フェナントロリン)(DPQ)][PF6]2
[Ru(TMP)2Cl2](1.01g、1.57mmol)、DPQ(0.495g、2.36mmol)およびEtOH:H2O(50mL)。質量=0.861g(0.801mmol、51%)。MS(TOF MS LD+)m/z(%):784(51)[M-2PF6]2+、929(100)[M-PF6]+。1 HNMR(DMSO-d6)δ(分裂統合):2.23(6H,s),2.39(6H,s),2.79(6H,s),2.85(6H,s),7.46(2H,dd),7.85(2H,d),7.65(2H,s),7.95(2H,s),8.41(4H,d),8.48(2H,d).
【0088】
[Ru(N-N)2(tpphz)][PF6]2
4つの化合物を以下の一般的な手順によって合成した。5,6-ジアミノ-1,10-フェナントロリンを熱メタノールに溶解し、これを、[Ru(N-N)2DPQ][PF6]2の、アセトニトリル中の沸騰溶液に添加した。反応混合物を加熱して80℃で6時間還流した。溶液を室温まで冷却し、濾過した。NH4PF6を添加して赤色ヘキサフルオロホスフェート塩を形成した。粗生成物を水、エタノールおよびジエチルエーテルで洗浄した。これを次いでアセトニトリル/水/KNO3によるグレードIアルミナカラムにおいて精製した。赤色バンドを収集し、溶媒を減圧下で除去し、赤色固体を真空中で乾燥した。
【0089】
[Ru(3,4,7,8-テトラメチル-1,10-フェナントロリン)(tpphz)][PF6]2
5,6-ジアミノ-1,10-フェナントロリン(88.2mg、0.42mmol)、熱メタノール(17mL)、[Ru(TMP)2DPQ][PF6]2(606mg、0.56mmol)、アセトニトリル(30mL)。質量=0.272g(0.389mmol、45%)、1 HNMR(CD3CN-d6)δ(分裂統合):2.29(6H,s),2.32(6H,s),2.80(6H,s),2.86(6H,s),7.71-7.78(4H,m),7.84(4H,s,),8.15(4H,d),9.30(4H,d),9.59(4H,d).MS;m/z(%):479[M-2(PF6)]2+.正確な質量分析:C56H44N10[102Ru]2+、計算値479.1391.実測値479.1405。
【0090】
単核錯体の特性
上記で使用したものと同じパラメータおよび条件により、化合物1
4+~4
4+に関してのMICおよびMBC値を求め、これらを、錯体1
2+~4
2+のMICおよびMBC値を試験するために用いた。
【表6】
【表7】
【0091】
表6および7から分かるように、抗微生物活性を化合物12+~42+のそれぞれから決定した。また、化合物42+は、既存の抗生物質、例えば、アンピシリンよりも良好な特性で、抗生物質として驚くべき効能を示すことが分かった。誤解を避けるために;SH1000は黄色ブドウ球菌であり;AB184は、アシネトバクター・バウマニであり;PA2017は、緑膿菌である。
【0092】
錯体4
2+が最も有望な殺菌性を有することを確立したため、DNA結合(
図22)および時間殺菌動力学アッセイを、37℃における最少培地中で増加する濃度の錯体へさらした際に、大腸菌について実施した(
図23を参照されたい)。グルコースの存在下で、流出メカニズムを観察したところ、錯体が細胞の内外に活発に輸送され得ることを明らかに示している。
図24は、
図23での時間間隔における細胞当たりのRu含有量(g)の差を示しており、Ru含有量は、5、10および20分においてグルコースの存在下で概
してより高く、有意差が10分後に観察されている。
【0093】
1、2および24時間においてMIC濃度で4
2+によって処理した大腸菌細胞は、4
2+が存在するときに多核の細胞フィラメンテーションの開始を示した(
図26A~Cおよび
図27)。これは、細胞死が、この錯体の存在下でDNA損傷によって引き起こされることを示している。
図27において、DAPIおよび4
2+の直接のオーバーレイは、>0.9のピアソンの共局在化定数を与える。この定数は、4
2+を確認する強い共局在化が黄色ブドウ球菌DNAを標的化することを示している。
図26および27における観察を裏付けるために、大腸菌における4
2+の変異原性を、自然の突然変異誘発およびUV照射と比較して、Ames変異原性アッセイ(
図28)を使用して求めた。4
2+のMICレベル以上では、有意なDNA突然変異誘発が観察され、MICの2倍では、これがUV照射で観察されるレベルに近く、このことは、4
2+が、
図26に示すフィラメンテーションにおいて観察されるように、細菌細胞DNAへの損傷を引き起こすことを示している。
図29は、4
2+による処理後の大腸菌のTEM画像を示しており、細胞膜は無傷のままであり、細胞死が膜損傷を通して起こり、膜溶解では起こらないというさらなる証拠を付与している。しかし、死滅細胞における原形質分離を示しており(例えば、IIIにおいて観察される内細胞漏出)、これは、4
2+がまた、細胞に浸透性損傷も引き起こし得ることを示している。DNA損傷モデルは、
図30の膜損傷アッセイによってさらに裏付けられる。このアッセイは、異なる4
2+濃度による処理後の細胞外ATPを定量し、ポリミキシン対照と比較して、4
2+によって処理した細胞はATPを保持する。このことは、損傷したDNAを修復するために細胞内に過剰なレベルのATPを必要とすることに起因するとされている。
【0094】
4
2+(
図31)についての毒性スクリーニングを、4
4+(
図4D)について上記で記載されているように完了した。4
2+は、最大80mg/kg(抗生物質に関する最大臨床1日用量)まで、ハチノスツヅリガに対して毒性がない。4
4+と同様に、マンテルコックスログランク試験は、いずれの濃度においても、対照および化合物処置幼虫についての生存百分率間の統計的差異がなかったことを示した。
図32は、このときはA.バウマニAB184による、さらなる毒性スクリーニングデータを提供し、これらの試験において、4
2+によって処置していない幼虫は生存していないのに対し、全ての処置した幼虫が実験の120時間の継続期間の間生存していることから、4
2+の存在はコロニーをクリアランスすることが明らかである。マンテルコックスログランク研究は、未処置の感染した幼虫と処置した幼虫との間の生存百分率の一つ星の有意差を示した。さらに、
図33Aおよび33Bは、抽出した幼虫血リンパ(A.バウマニAB184細菌)からの細菌CFUカウントを示している。これらのプロットから、48時間後、両方の処理濃度(40または80mg/kgの4
2+)下で、コロニーがクリアランスされたことが明らかである。このクリアランスは、単回の化合物投与から達成した。これに対し、4
2+の非存在下では、細菌成長の指数関数的増加が観察された。
【0095】
単および二核錯体の特性の比較
化合物1
4+~4
4+および化合物1
2+~4
2+の抗微生物活性をさらに考慮するために、化合物4
4+および4
2+を広範な微生物による研究のために選択した。結果を以下の表8に示す。MICおよびMBC値を上記のように決定した。
【表8-1】
【表8-2】
【0096】
以上のように、特許請求の範囲の錯体は、広範な細菌株ライブラリに対して活性を示す。特に、両方の錯体が、優先度1:重大としてWHOによって同定されているカルバペネム耐性株を含めた全ての細菌にわたって高い活性を示す。
【0097】
表9~11は、錯体4
4+および4
2+の活性を臨床標準ゲンタマイシンおよびシスプラチンとさらに比較する。
【表9】
【0098】
以上のように、両方の化合物が、試験したグラム陰性バイオフィルムに対して活性を有し-バイオフィルムに浸透および破壊することを示している。二核錯体、4
4+による活性は、4
2+または臨床標準抗生物質ゲンタマイシンのいずれかよりも高い。
【表10】
【0099】
表10は、化合物のMICのものを超える濃度では、錯体が未処理の対照(自然の突然変異誘発)の範囲で変異頻度を示すことが見出されたことを示している。変異頻度は、シスプラチンによって観察されるよりも低かった。ゆえに、化合物が、哺乳動物DNAに対して非変異原性であることが確認される。
【表11】
【0100】
表11の哺乳動物細胞毒性データは、両方の化合物がシスプラチンよりも毒性が低く、二核44+が、この周知の薬物よりも、健康な真核細胞に対して10倍を超えて毒性が低いことを示している。加えて、44+については>60、42+については約6の平均治療指数が観察されている。これに対し、シスプラチンは、2の治療指数を有する。
【0101】
錯体4
2+および4
4+の相対取り込み速度。
図25に示されるように、錯体4
4+と比較して初期取り込み速度の増加が観察され、、これは、単核錯体のより低い分子量に起因するとされる。
【0102】
表12は、錯体4
2+および4
4+の動的溶解度を試験し、これらが、可溶性の陽性対照薬物(ニカルジピン)に匹敵したことを示している。両方の化合物が、最適な溶解度及び動的安定性を有して、DMPK分析に合格した。
【表12】