(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】床シート施工用の工具
(51)【国際特許分類】
E04F 21/20 20060101AFI20241111BHJP
E04F 21/00 20060101ALI20241111BHJP
B26B 3/08 20060101ALI20241111BHJP
【FI】
E04F21/20 F
E04F21/00 Z
B26B3/08
(21)【出願番号】P 2024070244
(22)【出願日】2024-04-24
【審査請求日】2024-05-17
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和6年2月20日、インターネット通信販売サイトにて発表。 該当アドレス https://amzn.asia/d/0zwC1tT
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522453175
【氏名又は名称】株式会社Meister
(74)【代理人】
【識別番号】110000420
【氏名又は名称】弁理士法人MIP
(72)【発明者】
【氏名】井上 彰子
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】実公昭61-027722(JP,Y2)
【文献】特許第5495463(JP,B2)
【文献】特開2014-025202(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0115760(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 21/00 - 21/32
B26B 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
床シートを施工するための工具であって、前記工具は、
床シートに面する前部と、中間部と、後部と、前記後部から上側に延びて前記前部につながる把持部とを備えた本体部と、
前記本体部に着脱自在に固定され、前記前部よりも前記床シート側に突出して前記床シートの継ぎ目に溝を切るための第1の溝切り刃と、
前記工具の先端に配置され、前記継ぎ目に沿って前記工具をガイドするための平板状のガイド板と、
長手方向に延びた第1のスロットを通して前記後部に移動自在に固定され、前記溝に溶着された溶接棒をトリミングするための第1のブレードと
前記第1のブレードの前記床シート側に、第2のスロットを通して前記工具の長手方向に移動自在に固定され、前記トリミングの際には前記第1のブレードを残して前記工具の底部に待避されるスペーサと
を備える、工具。
【請求項2】
前記前部は前記第1の溝切り刃が前記床シートまで延びる開口部を備え、前記前部の先端に前記ガイド板が固定される、請求項1に記載の工具。
【請求項3】
前記前部には、前記第1の溝切り刃が前記床シートまで延びる開口部を備える前部プレートが着脱自在に固定され、前記前部プレートの先端に前記ガイド板が固定される、請求項1に記載の工具。
【請求項4】
前記第1のブレードは、前記床シート側に溝を横切る方向に延びる直線状の刃または前記第1のブレードの先端中央部に形成されたノッチ状の刃を備える、請求項1に記載の工具。
【請求項5】
前記第1のブレードは、前記床シート側が、前記床シートの反対側に向かって曲がる湾曲部を備え、前記湾曲部の中央部に形成されたノッチ状の刃を備える、請求項1に記載の工具。
【請求項6】
前記本体部に形成された先止まりスロットに収容され、前記床シートに対して傾斜して延び、前記本体部に固定するためのアパーチャを備
え、前記溝に溶着された溶接棒をトリミングするため前記第1のブレードに代えて使用される第2のブレードを備える、請求項1に記載の工具。
【請求項7】
前記把持部から前記後部を通して前記床シートまで延
び、前記後部側で溝切りするための第2の溝切り刃を備える、請求項3に記載の工具。
【請求項8】
前記把持部から前記後部を通して前記床シートまで延
び、前記後部側で溝切りするための第2の溝切り刃を備える、
請求項1に記載の工具。
【請求項9】
前記第2の溝切り刃は、前記第1の溝切り刃が切り残した壁際の溝切り、または前記第1の溝切り刃が形成した第1の溝内にさらに深い第2の溝を溝切りする、
請求項7または8に記載の工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床シートの施工技術に関し、より詳細には床シートの継ぎ目を施工するための工具に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の床は、木、モルタル、コンクリートなどのスラブ上に、リノリウム、ビニールシートといった床シートを接着剤などにより貼り合わせて形成される。床は一般に面積が広い。このため、長尺または大面積な床シートを、床スラブに貼り合わせる場合、床シートを床に適合するサイズに分割して、分割した床シートを床の上に貼り合わせて施工される。このため隣接した床シートの間には隙間が生じる。床シートの間の隙間をそのままにすると、隙間の間にごみがたまったり、場合によっては履物が突っかかったりしたりする不具合がある。このため、床シートの間の隙間は、溝切り施工され、生成された溝に沿って溶接棒が溶着される。
【0003】
溶接棒は一般に、溝の幅よりも太い丸棒または柔軟性のある紐の形状を有している。このため溝切りされた部分に入り込んだ部分よりも上の溶接棒は、床シートから突出する。溶接棒が床シートから突出したままだと、これはまたこれで、ごみがたまったり、履物を突っかけたりするなどの不具合が発生する。このため、溶接棒の突出部は溶着後に平坦化されなければならない。
【0004】
従来から床シートの間の隙間に溝切り施工を行うための工具が知られており、例えば特許第5495463号(特許文献1)には、直線および曲線の両方の長尺溝切り施工を行うための工具が記載されている。この工具は、継ぎ目を溝切りするための溝切り刃と、溝切り刃を固定し、使用者が把持して操作するための本体部とを備え、さらに本体後部に床シートを溝切りするための第2の溝切り刃を備える。また工具の前部の先端部にはガイド板を備えており、この前部の先端部が溝切り刃を取り囲むように保護する。また、前部に形成されたガイド板は、継ぎ目に沿って工具を誘導する機能を提供する。
【0005】
特許文献1により形成された溝には上述したように溶接棒が溶着され、その後、上に突出した溶接棒が、カッターにより削り取られて平坦化される。この施工に使用するカッターは、例えばUS2010/0266359号明細書(特許文献2)に記載されている。特許文献2に記載されたカッターは、溝切り工具とは別に用意される工具とされている。このため、使用者は、溝切り工具およびトリミングのためのカッターの両方を用意して溝切り施工を行う必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5495463号明細書
【文献】US2010/0266359号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記従来技術に鑑みて完成されたものであり、本発明は、1つの工具で床シートの溝切り施工およびトリミングを可能とする床シート施工用の工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、床シートを施工するための工具であって、前記工具は、
床シートに面する前部と、中間部と、後部と、前記後部から上側に延びて前記前部につながる把持部とを備えた本体部と、
前記本体部に着脱自在に固定され、前記前部よりも前記床シート側に突出して前記床シートの継ぎ目に溝を切るための第1の溝切り刃と、
前記工具の先端に配置され、前記継ぎ目に沿って前記工具をガイドするための平板状のガイド板と、
長手方向に延びた第1のスロットを通して前記後部に移動自在に固定され、前記溝に溶着された溶接棒をトリミングするための第1のブレードと
前記第1のブレードの前記床シート側に、第2のスロットを通して前記工具の長手方向に移動自在に固定され、前記トリミングの際には前記第1のブレードを残して前記工具の底部に待避されるスペーサと
を備える工具が提供される。
【0009】
前記前部は前記第1の溝切り刃が前記床シートまで延びる開口部を備え、前記前部の先端に前記ガイド板が固定されても良い。
【0010】
前記前部には、前記第1の溝切り刃が前記床シートまで延びる開口部を備える前部プレートが着脱自在に固定され、前記前部プレートの先端に前記ガイド板が固定されても良い。
【0012】
前記第1のブレードは、前記床シート側に溝を横切る方向に延びる直線状の刃または前記第1のブレードの先端中央部に形成されたノッチ状の刃を備えることができる。
【0013】
前記第1のブレードは、前記床シート側が、前記床シートの反対側に向かって曲がる湾曲部を備え、前記湾曲部の中央部に形成されたノッチ状の刃を備えることができる。
【0014】
前記本体部に形成された先止まりスロットに収容され、前記床シートに対して傾斜して延び、前記本体部に固定するためのアパーチャを備え、前記溝に溶着された溶接棒をトリミングするための前記第2のブレードを備えることができる。
【0015】
前記把持部から前記後部を通して前記床シートまで延び、前記後部側にある前記継ぎ目を溝切りするための第2の溝切り刃を備えることができる。
【0016】
前記把持部から前記後部を通して前記床シートまで延び、前記後部側にある前記継ぎ目を溝切りするための第2の溝切り刃を備えることができる。
【0017】
前記第2の溝切り刃は、前記第1の溝切り刃が切り残した壁際の溝切り、または前記第1の溝切り刃が形成した第1の溝内にさらに深い第2の溝を溝切りすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、溝切りおよび溶接後処理を含む床シートの継ぎ目施工を効率化することを可能とする床施工用の工具が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本実施形態の工具100の右側面図。
【
図2】
図2は、本実施形態の工具100の左側面図。
【
図7】
図7は、第2の実施形態の工具100-1を示す図。
【
図8】
図8は、第1のブレード115-1の工具110-1における後端部の構造を示す図。
【
図9】
図9は、本実施形態の第1の溝切り刃118と、第2の溝切り刃111の平面図。
【
図10】
図10は、本実施形態で使用する第2のブレード114、第1のブレード115、115-1およびスペーサ120の平面図。
【
図13】
図13は、本実施形態の工具100を使用して床シート200に対して溝を切った後、溶接棒202を溶着し、同様に本実施形態の工具100により溶接部分をフラットにする施工(トリミングカット)を説明する概略図。
【
図14】
図14は、本実施形態のトリミングで、溶接棒202を床シート200の表面のレベルまでフラットにする第2の施工の概略図。
【
図15】
図15は、第2の実施形態の工具100-1を使用してトリミングカットを行う施工の実施形態である。
【
図16】
図16は、本実施形態の工具100による溝切りを、真上から見下ろした場合の概略図。
【
図17】
図17は、本実施形態の溶接施工の実施形態を示す概略図。
【
図18】
図18は、本実施形態の工具100による床シート200の施工工程を工程毎に示す図。
【
図19】
図19は、本実施形態の第3の実施形態の工具を示す図。
【符号の説明】
【0020】
11 :第1のブレード
100 :工具
100-1 :工具
101 :把持部
101a :先止まりスロット
102 :前部
103 :中間部
104 :後部
105 :前部プレート
107 :後部プレート
108 :ガイド板
108a :傾斜面
109 :開口部
110 :固定ネジ
110-1 :工具
110a :固定部
111 :第2の溝切り刃
112 :先止まりネジ穴
113a :サイドガイドローラー
113b :サイドガイドローラー
114 :第2のブレード
114a :突出部
114b :連結部
114c :延長部
114d :アパーチャ
114e :刃
115 :第1のブレード(第1の実施形態)
115-1 :第1のブレード(第2の実施形態)
115-2 :第1のブレード(第3の実施形態)
116 :固定ネジ
117a :窪み部
117b :窪み部
118 :第1の溝切り刃
119 :スリーブ
120 :スペーサ
121 :止めネジ
122 :止めネジ
123 :長穴
124 :安定化部材
200 :床シート
201 :溝
202 :溶接棒
202a :切り屑
202b :残部
203 :継ぎ目
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を例示的な実施形態を使用して説明するが、本発明は説明する例示的な実施形態に限定されることはない。なお、本明細書における用語“トリミング”とは、床シートの間に形成された継ぎ目に溶着された溶接棒を概ね床シートの表面のレベルまで平坦化する施工を言う。ただし、平坦化とは、トリミングの後に床シートと溶接材とを完全に面一とすることを意味するものではなく、床シートに凹凸がある場合、概ね凸部の上面レベルにまで溶接材を平坦化することを意味する。また、本実施形態では、溝を溶接するための材料を溶接棒として表現するが、その剛性および形状は、床シート施工に使用される熱可塑性材料であれば特に限定はない。
【0022】
本実施形態における用語「トリミングカット」とは、床シートの上に飛び出た溶接棒を、カットする処理を意味する。また、本実施形態における「2度切りカット」とは、トリミングカットされた後にまだ床シートから突き出た溶接棒がある場合に、突き出た部分を床シートのレベルにまでカットするトリミングの施工を言う。なお、トリミングカットは床シートの性状に関わらず行われる必要があるが、2度切りカットは、ノンスリップシートや凹凸のある床シートではなく、床シートが平坦でゴミ溜まりなどを防止することが要求される施工に好ましく適用される。
【0023】
図1は、本実施形態の工具100の右側面図を示す。
図1に示す工具100は、本体部が金属、例えば一定以上の強度・剛性を有するアルミ鋳造体として製造される。本体部は、複数の部分を備えており、紙面反時計回りに、把持部101と、床シートに接触する後部104と、中間部103と、床シートに接触する前部102とを備える。
【0024】
後部104および前部102は床シートに接触するが、中間部103は、床シートには接触しないようにわずかに床シートから見て上側に窪んで形成されている。前部102、中間部103および後部104が長手方向に連続して、本体部の底部を形成する。なお、中間部103を窪んで形成するのは、床シートに接触する面積を小さくして抵抗を下げると共に、床シートの不陸による影響を小さくするためである。
【0025】
前部102の先端部には、前部プレート105が配置されており、前部プレート105の先端部中央には、板状のガイド板108が溶接またはネジ止めされている。ガイド板108は、床シートの継ぎ目に入り込み、工具100の進行方向を定める機能を提供する。
図1に示した先端部は、本体の先端から突出する前部プレート105として形成され、前部プレート105は、本体の前部の底部にネジ止めされる。
【0026】
さらに
図1を用いて工具100を反時計回りに説明する。工具100は前部から延びて高く隆起した第1の溝切り刃(図示せず)の固定部110aを備えている。固定部110aには、固定ネジ110がネジ込まれている。固定ネジ110は、第1の溝切り刃(図示せず)を、床シートに溝切りできる位置にその先端で固定する。溝切り刃は、その先端が前部プレート105内の開口部109を通して床シートまで延びて溝切り施工を可能とする。
【0027】
さらに反時計回りに説明すると、固定部110aは、上側で把持部101に向かって低くなって、把持部101に連続する。把持部101は、上に向かって凸の形状をとりながら工具100の後部で底部に連続する。本体部の底部と、把持部101との間は、把持部101を使用者が握りやすい太さとなるような大きさで解放されていている。本体部の後ろ側には、第1の溝切り刃(不図示)よりも細径の第2の溝切り刃111が把持部101の内側まで突出している。第2の溝切り刃111は、先止まりネジ穴112に螺合する六角穴付きネジで本体部に固定されている。第2の溝切り刃111は、使用しない場合には、その先端が本体部の後ろ側に傾斜して形成された通孔に収容される。また第2の溝切り刃111は、その使用時にはその先端の刃を後部104から突き出した状態でネジ止めされ、床シートが溝切りされる。
【0028】
後部に配置された第2の溝切り刃111は、壁近くの切り残しを溝切りしたり、また、形成した長尺の直線または曲線を含む既設の溝をさらに深く、または狭い第2の溝を形成したりするために使用することができる。
【0029】
以上説明した本体部の概略構成は、特許文献1に記載された溝切り用の工具100の構成と同一である。以下、本実施形態の工具の新規な構成を説明する。
図1の工具100の把持部101の下側には、後部104から、中間部103~前部102にわたって形成された窪み部117a付近にまで傾斜して延びる先止まりスロット101aが形成されている。なお、窪み部117aは、紙面反対側に形成された同様の形状の窪み部117bと共に使用者が親指および人差し指などで工具100先端に力を加えるための受け部として形成されている。
【0030】
先止まりスロット101aの紙面奥側も先止まりに形成されていて、紙面反対側の本体部で本体全体の強度を保持している。先止まりスロット101aの内部には、溝切り後に溶接された溶接棒をトリミングカットするための第2のブレード114が収容されている。把持部101の下側の解放空間には、第2のブレード114を固定するための固定ネジ116が配置されている。固定ネジ116は、第2のブレード114の適切な位置に形成されたアパーチャ114dにその先端が入り込み、先止まりスロットの床側の面に先端を押し付けて第2のブレード114を固定する。
【0031】
なお、第2のブレード114が固定される位置は、固定時に第2のブレード114の後部側先端が床シートに接することができる位置とされればよく、突出長さに特に限定はない。なお、
図1では、第2のブレード114が先止まりスロット内に収容されて、不使用時の位置として示されている。
【0032】
さらに、先止まりスロット101aの下側の底部には、紙面垂直方向に延びたローラー軸(図示せず)を介して一対のサイドガイドローラー113a、113bが取り付けられている。サイドガイドローラー113a、113bは、工具100の横方向の傾き安定性を提供する。また、底部の床シート側には、本体部の後部104から本体部の中間部103の間で本体の底面に接する位置に、床シートをトリミングカットするための第1のブレード115が配置されている。
【0033】
第1のブレード115は、中間部103に相当する位置で後部プレート107から露出し、後部104に相当する位置で、後部104に配置された後部プレート107を介して止めネジ(図示せず)により移動自在に固定されている。また、後部プレート107側にはスペーサ(図示せず)が配置されていて、後部プレート107を介して止めネジにより移動自在に固定されている。
【0034】
図2に本実施形態の工具100の左側面図を示す。
図2に示すとおり、本体左側には、先止まりスロット101aは延びておらず、工具100に剛性を提供する。また、
図2には、中間部103にまで引き込まれて、本体部の後部から突出しない状態にあるスペーサ120が示されている。スペーサ120の上側には、第1のブレード115が配置される。スペーサ120は、滑り止めなどの目的で形成された凹凸などがある場合に床シートをスムーズにトリミングカットする機能を提供する。また、スペーサ120は、リノリウムなどのフラットな床シートの継ぎ目をフラット化するための2度切りカットにおいて、溶接棒を床シート上に残しておくためにも使用される。この理由は、溶接棒を溶着した直後、プラスチック材料などで製造されている溶接棒の温度は高い。そのままの状態で平坦化すると、事後的な収縮により継ぎ目が凹状に凹んでしまい、平坦化ができない。このため、溶接棒の溶着直後にある程度床シート上に溶接棒を残しておくための間隔を、第1のブレード115と、床シートの間に確保することが必要となるためである。
【0035】
第1のブレード115が溶接棒の突出部をトリミングカットする際には、第1のブレード115および必要に応じてスペーサ120が本体の後部底面付近から突出して、溶接棒のトリミングカットを行う。
【0036】
図3は、本実施形態の工具100の上面図を示す。
図3の上面図において、本体部の左手側が把持部101に相当し、それよりも前の部分が第1の溝切り刃118の固定部110aおよび前部プレート105などを備える溝切り機能部130に相当する。第1の溝切り刃118は、本体部の溝切り機能部130の中央付近に形成された固定部110aのスロット内に収容され、固定ネジ110により固定される。先端がU字形状となった刃が第1の溝切り刃118の先端部に形成されていて、この刃が、床シートの継ぎ目に食い込んで溝切りする。第1の溝切り刃118により溝切りされた床シートは、工具100の溝切り機能部130から紙面左手側へと、切り屑となって左右に広がりながら排出されて、溝切り施工の視界を確保する。
【0037】
図4は、工具100の底面図を示す。
図4には、工具100の底部に配置された第1のブレード115、スペーサ120および第2の溝切り刃111の構成が示されている。まず、工具100の後部104の後部プレート107から中間部103の構成を説明する。
【0038】
本実施形態では後部プレート107が工具100の後部104に取り付けられており、後部プレート107は、止めネジ122により本体の底部にネジ止めされている。後部プレート107と、本体底部との間には、第1のブレード115と、スペーサ120とが挟まれており、第1のブレード115およびスペーサ120に共通する位置に形成されたスロットを通して、止めネジ122が本体にネジ止めされる。後部プレート107と、本体底部と、止めネジ122とが第1のブレード115と、スペーサ120とを固定しつつ、その長手方向の引き出し位置を調節可能とする。
【0039】
また、後部プレート107の後端には、U字形状のノッチ125aが形成されており、そのノッチ125aを通して第2の溝切り刃111が、床シートまで延びて溝切りを可能とする。なお、第2の溝切り刃111の床シートへの侵入量は、要求される施工に応じて、六角穴付きネジの調整することで設定することができる。また、工具100の把持部101の下側本体にはローラー軸(図示せず)が挿通されて、その両端にサイドガイドローラー113a、113bがネジ止めされる。ローラー軸はさらに安定化部材124の中心に形成された開口を通って安定化部材124を回転自在に保持している。
【0040】
一方、後部プレート107の安定化部材124に相当する部分には、安定化部材124の径よりも短い長穴123が形成されていて、安定化部材124の円弧状の外周が長穴123から突出する。安定化部材124は、第1の溝切り刃118により形成された溝に嵌まり込んで、工具100の直進安定性を向上する。
【0041】
中間部103は、床シートに接触しないように僅かに引き込まれた位置に底面が形成されており、床シートと本体底面との間に第1のブレード115と、スペーサ120とを収容する。第1のブレード115およびスペーサ120の位置調整を容易にするため、互いに反対側の位置に突出部(操作つまみ)が配置されていて、止めネジ122を緩めた状態で図中、左右にスライドしトリミングカットする位置および
図4に示す使用しない位置へと移動自在に固定される。
【0042】
次に前部102の構成を説明する。工具100の前部102には、前部プレート105が長手方向に移動自在に固定されている。前部プレート105の内側には、長手方向に延びたスロットが形成され、そのスロット内に第1の溝切り刃118が突出して、床シートの溝切りを行う。また前部プレート105の前端部は、長手方向に突き出す曲線として形成され、その前端部には傾斜した傾斜面108aが形成されている。
【0043】
この傾斜面108aは、床シートに形成された不陸を乗り越えて円滑な溝切りを可能とすると共に、曲線の溝切りを行う際には、安定化部材124を溝から解放するためのスイッチ機能を提供する。また傾斜面108aの中心には、平板状のガイド板108が取り付けられており、床シートに形成された継ぎ目に沿って溝切りを可能とする。本実施形態の工具100は、直線から曲線の溝切りまで部品・部材の交換を行うこと無くスムーズな溝切り施工を可能とする。
【0044】
前部プレート105には本体部からの突出量を調整することができるように止めネジ121のネジ部の通過を許容する連続したネジ受け穴が形成されており、止めネジ121が、ネジ受け穴を通して本体部の対応する位置に形成されたネジ穴へとネジ込まれることにより、前部プレート105が本体部に固定される。
【0045】
図5は、本実施形態の工具100の正面図である。
図5の正面図は、本実施形態の工具100の前部プレート105、第1の溝切り刃118、ガイド板108の構成を詳細に示す。施工上の要請にもよるが、第1の溝切り刃118は、ガイド板108の後に延びて、ガイド板108の後から溝切りを開始する配置とすることができる。また、第1の溝切り刃118は、その径が複数用意されており、径が細い場合には、スリーブ119に収容されて工具100の前部に固定される。太径の溝切り刃118は、そのまま固定部110aのスロットに収容され、固定ネジ110により固定される。
【0046】
また、把持部101は、使用者の掌への負担を軽減するように曲線で角のない形状とされている。サイドガイドローラー113a、113bは、安定化部材124が溝に嵌まり込んだ位置で、床シートに接触する高さ位置に保持される。
【0047】
図6は、本実施形態の工具100の背面図であり、本実施形態の工具100がトリミングを行うための第1のブレード115、第2のブレード114およびスペーサ120を収容するための構成が示されている。
図6の工具100の後部104は、説明の明確化のため、第2の溝切り刃111が引き込まれた位置として示しす。第1のブレード115と、スペーサ120とは、工具100の底面と、後部プレート107との間に、スペーサ120が床シート側になるように挟まれる。
【0048】
第1のブレード115およびスペーサ120は止めネジ122の締め付けまたは緩めに対応して、固定または引き出し位置の位置調整が可能である。第2の溝切り刃111は、後部プレート107に形成されたノッチ125aと、本体に形成されたノッチ125bとの間の空間を通して床シートにまで収納自在に延び、溝切りを行う。
【0049】
また、工具100の後端部の上側から、先止まりスロット101aの後部開口部を通して第2のブレード114が突出可能とされている。第2のブレード114は、溶接棒の溶着の後、第2のブレード114単独でトリミングカットを行うために用いられる。トリミングは、上述したように、施工状況に応じて1段階または2段階で行われる。
【0050】
1度のトリミングカットは、スペーサ120を使用しなくても良い床シートを第1のブレード115、115-1、115-2、または第2のブレード114でトリミングカットする場合に相当する。また、2度切りカットは、第1のブレード115、115-1、115-2と、スペーサ120との組み合わせで溶接棒の突出部の上側部分をトリミングカットし、その後、溶接材を第1のブレード115、115-1、115-2、または第2のブレード114で床シートのレベルに平坦化するために行われる。
【0051】
なお、第2のブレード114によるトリミングおよび第1のブレード115または後述する第1のブレード115-1または115-2によるトリミングは、使用する工具の形状や施工状況に応じて適宜選択することができる。ただし、床シートの性状によってはトリミングカットの際にスペーサ120を引き出さず、第1のブレード115、115-1または115-2だけでトリミングカットする態様も想定される。
【0052】
図7は、第2の実施形態の工具100-1を示す。第2の実施形態の工具100-1は、第1の実施形態の工具100に形成されていた先止まりスロット101aは形成されていない。その代わり、第1のブレード115、115-1または115-2のいずれかを工具100-1の底部後ろ側に備える。その他は、第1の実施形態の工具100と同様の構成とされている。なお、
図7の例示的な実施形態では、工具100-1には、明確化のため、第1のブレード115-2が使用された態様を示す。
【0053】
第1のブレード115-2は、トリミングカットができるようにその床シートに面した端部が上側に湾曲した湾曲部を備えており、第1のブレード115-2の幅手方向中央部に溶接棒を平坦カットするための刃が形成されている。なお、第2の実施形態の工具100-1は、第1のブレード115、115-1および115-2のいずれでも組み合わせて使用することができる。なお、第1のブレード115および115-1は、第1の実施形態の工具100との組み合わせで使用されても良い。
【0054】
第1のブレード115-2が備える湾曲部は、上側に傾斜しながら床シートに当接するため、床シートの不陸やデザイン上の凹凸をスムーズに乗り越えてトリミングカットを可能とする。また、溶接棒は、第1のブレード115-2の中央部に形成された刃により切り取られて、トリミングカットが行われる。
【0055】
図8は、工具100-1で第1のブレード115-2を含む後端部の構造を示す。第1のブレードとして第1のブレード115-2を使用する場合、先端の湾曲部が工具100-1の後端部から紙面上側へと僅かに突出し、これが
図8の破線で示されている。また、第1のブレード115-2も第1のブレード115、115-1-と同様に、後部プレート107と、本体との間に挟持される点は、工具100と同様である。
【0056】
第1のブレード115-1は、第1のブレード115と同様の形状を備える。ただし、第1のブレード115のように直線状に延びた刃ではなく、中央部にノッチ上に形成された刃を備える。このため、溶接棒が溶接された直後のトリミングカットは、溶接棒にノッチの奥で刃が接触する態様となる。
【0057】
第2の実施形態の工具100-1は、第2のブレード114無しに、第1のブレード115、115-1または115-2で溶接棒の突出部を平坦化することができるので、より効率的な施工が可能となる。
【0058】
図9は、本実施形態の第1の溝切り刃118および第2の溝切り刃111の例示的な平面図である。第1の溝切り刃118および第2の溝切り刃111は、径が異なるが、概ね同様の構成とされている。第1の溝切り刃118の先端部は、床シートを溝切り加工するための刃が付けられていて、床シートの継ぎ目を溝切りする。また、第2の溝切り刃111は、2種類の用途のために使用される。第1の用途は、第1の溝切り刃118が前部プレート105のために切り残した壁側に溝を切ることである。また、第2の用途は、第1の溝切り刃118で形成した溝の内部にさらに深い第2の溝を切る用途である。
【0059】
第2の溝を切る場合、工具100または100-1を反対側にして第1の溝切り刃118で形成した溝に沿って深い第2の溝を切ることができ、例えば、リノリウムといった材料の床シートを溶接する場合に溝断面積を増やす施工の用途である。なお、工具100を反対側にせず、第1の溝切り刃118で切った溝に沿って第2の溝切り刃111を引き戻すことによっても、第2の溝を切ることもできる。
【0060】
本実施形態の工具100または100-1で第2の溝を切る場合、第1の溝が溝切りガイドの役目を果たすので、前部プレート105に形成されるガイド板108が無くとも、直線だけではなく曲線に沿った溝切りも効率的に行うことができる。
【0061】
図10は、本実施形態で使用する第2のブレード114、第1のブレード115、115-1およびスペーサ120の平面図である。
図10の下方向がトリミングカットを行う方向に対応するように各部材を並べている。
図10(a)が、第2のブレード114であり、
図10(b)が第1のブレード115であり、
図10(c)が、他の実施形態の第1のブレード115-1であり、
図10(d)がスペーサ120である。
【0062】
ここで、各ブレードの構造を説明する前に、それらの使用態様を簡単に説明する。第2のブレード114は、第1の実施形態の工具100の先止まりスロット101a内に収容され、専ら第1の実施形態の工具100において使用される。
【0063】
第1のブレード115、第1のブレード115-1、詳細には
図11において後述するさらに他の実施形態の第1のブレード115-2は、第1の実施形態の工具100および第2の実施形態の工具100-1の両方の態様において、トリミングカットのために使用される。また、第1のブレード115、第1のブレード115-1、詳細には
図11において後述する第1のブレード115-2は、適宜スペーサ120と共に使用することができる。スペーサ120は、床シートに凹凸がある場合やノンスリップ加工されているなど、トリミングするべき床シートの表面性状に応じて使用されない場合もある。
【0064】
まず、第2のブレード114から説明すると、第2のブレード114は、概ね長方形の外形を備え、その中央には長手方向に延びたスロットが形成されている。このスロットは、工具100に挿入される側が開き、工具100から出る方向に連結部114bにより画定される端部を備えている。連結部114bの中央部には、ノッチ状の刃114eが形成され、このノッチ状の刃114eは、紙面上側に向かって厚みを増す形状である。このノッチ状の刃114eは、床シートから突出した溶接棒をノッチ内に捉え、効率的に溶接棒のカットを可能とすると共に、ずれなく継ぎ目に沿ったトリミングカットを可能とする。
【0065】
第2のブレード114の図面右手側の延長部114cの開放端側には円形のアパーチャ114dが形成されている。円形のアパーチャ114dは、工具100から延びる固定ネジ116のネジ部の先端を収容し、トリミングカットの際のストッパ機能を提供する。また、延長部114cの下方には、第2のブレード114の工具100外部からの出し入れを可能とするための突出部114aが形成されている。この突出部114aは、工具100の先止まりスロットの開放部分から突出して、第2のブレード114の工具100の長手方向の位置調整を可能とする。
【0066】
また第2のブレード114の延長部114cの両方を連結する連結部114bの中央のノッチ状の刃114eは、工具100から突出した状態で溶接棒に当接して、当接部分の溶接棒をカットする。長手方向に延びたスロットの反対側には、第2の延長部114cが延びて、第2のブレード114はコの字を形成する。第2のブレード114は、床シートに対して傾斜して押しつけられて曲がり、また力が除かれると下の平坦な形状に戻る弾性体から形成することができる。
【0067】
図10(b)第1のブレード115の平面図である。第1のブレード115も概ね第2のブレード114と同様にコの字形状とされている。また第1のブレード115の連結部115bに相当する部分には、その延長方向に沿って連続する刃115eが形成されている。この刃115eは、床シートから飛び出した溶接材に向かって切り込む方向(紙面上側に向かって厚くなる)に形成されている。その切り込み深さは、スペーサ120により調整できる。
【0068】
また、第1のブレード115の両方の延長部115cには、刃115eの突出量を規定するための位置決めノッチ115dが形成されている。先端部分に近い方の位置決めノッチ115dは、第1のブレードの先端部に適切な弾性を付与する機能も備える。
【0069】
図10(c)は、他の実施形態の第1のブレード115-1である。第1のブレード115-1は、第2のブレード114と同様に、連結部115-1bの先端中央部にノッチ状の刃115-1eが形成されている。ただし、その使用態様は、
図10(b)に示す第1のブレード115と同様である。第1のブレード115-1は、スペーサ120で捉えた溶接棒の突出部に対してノッチ状の刃115-1eで選択的に剪断力を加えることができる。このため第1のブレード115-1は、力の利用効率が良く、所謂「切れ味」が良い、言い換えれば、「より楽に」、溶接棒の箇所以外を傷つける可能性を低減しつつトリミングカットを行うことを可能とする。また、ノッチ状の刃115-1eは、第2のブレード114のノッチ状の刃114eと同様に、床シートから突出した溶接棒をノッチ内に捉え、ずれなく継ぎ目に沿ったトリミングカットを可能とする。
【0070】
図10(d)は、本実施形態におけるスペーサ120の正面図である。
図10(d)に示すスペーサ120は、第2のブレード114、第1のブレード115、115-1と同様、中心に長手方向に延びたスロットを有する形状とされている点では共通する。一方、スペーサ120は、本体の後部から突出する側の端部120eが第2のスロットにより解放され、本体奥側に収容される側に連結部120bが形成された形状とされている。この第2のスロットは、止めネジ122を挟んで延び、止めネジ122をガイドとしてスペーサ120を移動自在とする。
【0071】
右手側の延長部120cの本体奥側となる部分には突出部120aが第1のブレード115、115-1の調整動作に邪魔にならない位置に形成されている。また左右の延長部120cの第2のスロット側の適切な位置に、位置決めノッチ120dが形成されていて、第1のブレード115、115-1、115-2との相対的な位置が一定となる相対位置で、第1のブレード115、115-1、115-2およびスペーサ120を固定することができるようにされている。
【0072】
図11は、さらに他の実施形態の第1のブレード115-2の平面図である。第1のブレード115-2は、第1のブレード115と概ね同様の形状を備えており、スロットを挟んで両側に延びる延長部115-2cと、左右の延長部115-2cを幅方向に連結する連結部115-2bとを備える。連結部115-2bの中央部にはノッチ状の刃115-2dが設けられており、溶接棒を跨いで刃115-2dが溶接棒に当接してカットを行う。刃115-2dの傾斜は、溶接棒に向かって入り込む方向、すなわち、紙面下側から上側に向かって厚くなるように傾斜する。ノッチ状の刃115-2dは、上述した第1のブレード115-1および第2のブレード114のノッチ状の刃115-1e、114eと同様に、床シートから突出した溶接棒をノッチ内に捉え、効率的に溶接棒のカットを可能とすると共に、ずれなく継ぎ目に沿ったトリミングカットを可能とする。ノッチ状の刃115-2eは、特に制限はないが工具後部に形成された
図4に示すノッチ125eと同程度の大きさ、または第2の溝切り刃111が出し入れ自在になる大きさとすることができる。
【0073】
第1のブレード115-2の刃115-2eの両側の連結部115-2bの前端付近は、床シートに対して上側に曲がった湾曲面を備えている。この湾曲面は、トリミングを行う際に床シートに対して鈍角で当接する面を提供するので、床シートの不陸やデザインまたは機能上の上の凹凸に拘わらず、スムーズなトリミングを可能とする。また、左手側の延長部115-cの本体部奥側には突出部115-2aが形成されていて、本体の横側からの位置決めを容易にする。
【0074】
図12は、本実施形態のさらに他の第1のブレード115-2の正面図(
図12(a))および側面図(
図12(b))を示す。
図12(a)は、
図11で説明したと同様なので、詳細な説明は省略する。
図12(b)を使用してさらに他の実施形態の第1のブレード115-2の先端部にある湾曲面を説明する。以上、
図10~
図12に示した突出部115a、115-1a、115-2aおよび120aは、その前端部側の縁部が後部104と中間部103との間に形成された段差に契合し、奥側の位置決めノッチを止めネジ122の位置に整合させて固定性を向上させるとともに、反復するトリミングカットの品質を安定化する。
【0075】
この湾曲面は、上述したとおり第1のブレード115-2が、床シートに対して鈍角で当接すると共に、不陸および床シート表面に形成されたデザイン上または機能上の凹凸を乗り越えることを目的として形成されている。幅手方向の中央には、曲面を長手方向に横断するように延びたノッチ状の刃115-2eが形成されている。この刃115-2eが溶接棒の突出部を切り込み、トリミング施工を可能とする。また、湾曲面により床シート上にある不陸や凹凸は押さえ込まれるため、1回のトリミングカットでも目的に適合する度合いで平坦化を行うことができる。
【0076】
図10および
図11に示した第1のブレード115、115-1、または115-2と、スペーサ120とを使用するトリミングカットは、以下のとおりである。溶接棒は、スペーサ120の厚さを残して第1のブレード115、115-1、115-2で溶接棒に沿ってトリミングカットされる。なお、2度切りカットは、トリミングカットの際にスペーサ120を使用しない場合には適用されなくともよい。
【0077】
この飛び出しがあると、ゴミなどが溜まったり、履き物に引っかかったりするなどの不具合があるので、その後に、第2のブレード114、第1のブレード115、115-1または115-2による2度切りカットが行われる。第1のブレード115、115-1、または115-2を使用した2度切りカットを行う場合には、スペーサ120は、本体部に収容された位置とされる。
【0078】
図13は、本実施形態の工具100を使用して床シート200に対して溝を切った後、溶接棒202を溶着し、同様に本実施形態の工具100により溶接部分をトリミングカットする概略図である。なお、
図13に示した実施形態は、例示的に溶接棒202を2度切りカットする実施形態として示す。床シート200の継ぎ目には、破線で示す位置まで本実施形態の工具100により溝201が切られており、溝に溶接棒202が溶着されている。
【0079】
工具100の後部からスペーサ120と、第1のブレード115とが突き出ている。工具100は、床シート200に対して上側に向かって傾斜され、スペーサ120が床シート表面に接触している。第1のブレード115がスペーサ120の上側に当接して配置されている。スペーサ120上の第1のブレード115は、スペーサ120の厚さで規定される所定の高さを残して溶接棒202をトリミングカットする。
【0080】
工具100の後部に配置された後部プレート107の後端側は、工具100を傾斜しても床シート200の表面の不陸や凹凸に対応できるように上側に向かって傾斜するテーパー面が形成されている。このため、工具100はスムーズに床シート200の表面を滑る。トリミングカットでは、傾斜された状態でスペーサ120は、その中央に形成されたスロットに溶接棒202を挟み込み、溶接棒に沿って工具100をガイドする。なお、
図13において、第1のブレード115を、第1のブレード115-1とすることもできる。
【0081】
工具100の後端縁から突出した第1のブレード115または115-1およびスペーサ120が、溶接棒202に沿って移動すると、カットされた床シートが切り屑202aとしてシートから分離する。
図13に示した実施形態は、トリミングを2度切りカットで行う態様なので、溶接棒202の床シート200に近い側に切り残しされた溶接棒が飛び出しているのが示されている。
【0082】
図14は、本実施形態において溶接棒202を床シート200の表面のレベルまでフラットにする2度切りカットの概略図である。2度切りカットは、
図1に示した先止まりスロット内に収容された第2のブレード114を工具100の後端から突出させて行われる。第2のブレード114は、鋭角的に工具100の後端から突出する。第2のブレード114は、溶接棒の残部202bを第2のブレードの中央部に形成されたノッチ状の刃114eによりトリミングし、その前進とともに溶接棒202の残部を切り取って床シート200を平坦化する。
【0083】
第2のブレード114は、第1の溝切り刃118、第2の溝切り刃111のように堅い棒ではなく、弾性を有する板材で形成されているので、床シート200の多少の不陸に対しても対応することができる。
【0084】
なお、本実施形態の第1の実施形態の工具100および第2の実施形態の工具100-1は、床シートの性状に応じて第1のブレード115、115-1または115-2だけで、床シートレベルまでのトリミングカットが可能である。
【0085】
図15は、第2の実施形態の工具100-1を使用し、第1のブレード115-2により一度でトリミングカットする実施形態である。
【0086】
第2の実施形態の工具100-1を使用してトリミングカットを行う場合、工具100-1は、床シートから僅かに傾斜した位置とされ、第1のブレード115-2が溶接棒に対して上から力を加えるように配置される。第1のブレード115-2の床シート200に接触する位置付近にノッチ状の刃115-2eが接触する。
【0087】
図15の実施形態ではスペーサ120を使用しないので、1度のトリミングカットで溶接棒の平坦化が行われる。なお、施工状況によっては、第1のブレード115-2の下側にスペーサ120を配置して、2度切りカットを行うこともできる。この組み合わせを使用する場合には、2度切りカットは、スペーサ120を本体下部へと待避させ、第1のブレード115-2で2度切りカットが行われる。なお、
図15の実施形態では第1のブレード115-2に代えて他の実施形態の第1のブレード115-1を使用してもよい。第1のブレード115-1は、中央部にノッチ状の刃115-1eが形成されているため、溶接棒の突出部に選択的に接触し、溶接棒の周囲の床シートを傷つけず、多少の凹凸などがある床シートでも小さな力で効率的なトリミング施工を可能とする。
【0088】
図16は、本実施形態の工具100による溝切りを、真上から見下ろした場合の概略図である。工具100は床シート200に形成された継ぎ目203に沿って、第1の溝切り刃118の先端部に形成された刃により溝201を形成する。第1の溝切り刃118により切り取られた床シート200の切り屑204は、工具100の開口部109から上側に向かって押し出され、手元に残らないようにされている。
【0089】
また、曲線の溝切りをする際には工具100を僅かに溝切り方向に傾斜させて、安定化部材124を溝から持ち上げて工具の進行方向を解放する。その後、曲線に沿って工具100を曲げながら曲線に沿って連続的な溝切りを行う。
【0090】
図17は、本実施形態の溶接施工の実施形態を示す概略図である。工具100により床シート200に形成された溝201に沿って溶接棒202が溶着されてゆく。溶接棒202の溶着は、ガスバーナなどに使用される携帯型ボンベを使用する、例えば「ガスウェル」(商標)として知られた溶接装置210を使用することができる。溶接装置210はガスボンベから排出される可燃性ガスをその内部で連続燃焼させ、セラミックス・ハニカムを加熱して熱気を生成する。
【0091】
生成された熱気は、溶接装置210のノズルの先端を加熱し、ノズルの先端に通された熱可塑性材料で形成された溶接棒202を軟化・溶融させる。軟化・溶融した溶接棒202は、ノズルの先端に形成された平坦部が紙面左手側に後退してゆくにつれて溝201内に圧入され、継ぎ目の両側を跨いで溶着する。この溶着工程により、床シート200が一体化される。
【0092】
溶接棒202は、完全に溶融される訳ではなく、接着力を発生できる程度に軟化されて溝201内に圧入されるので、溝201から一部が飛び出す。この溶接棒202の飛び出した部分にトリミングカットが適用される。トリミングカットの詳細な説明は、
図13~15を使用して説明したとおりである。
【0093】
図18は、本実施形態の工具100による床シート200の施工工程を工程毎に示す。
図18(a)では、床スラブ上に床シート200が継ぎ目203を残して設置される。その後
図18(b)のように本実施形態の工具100により溝切りが行われる。その後、
図18(c)のように溶接棒202が溶着される。なお、溶接棒の一部は、継ぎ目203の間にまで侵入する場合もある。
【0094】
その後、本実施形態の工具100の第1のブレード115およびスペーサ120を使用して第1のフラット化工程(トリミングカット)が行われる。この段階では溶接棒の残部202bは、
図18(d)に示すように床シート200よりも上に飛び出している。この残部202bは、第1のブレード115を使用した第2のフラット化工程(2度切りカット)により切り取られ、
図18(e)のように床シート200の表面のレベルまでフラットにされる。なお、スペーサ120を使用せず、1回のトリミングカットで済む場合には、
図18(d)の工程をスキップして、
図18(e)の状態となる。なお、
図18(e)の状態は、床シートに微少な凹凸がある場合やデザイン上の凹凸がある場合には、床シートの上面は、凹凸の上部のレベルに相当することは理解されるであろう。
【0095】
以上のとおり、本実施形態の工具100、100-1によれば、床シートの溝切りから溶接施工による溶接棒のトリミングまで1つの工具で対応することができ、床シート施工の効率を改善することができる。
【0096】
ここで、本実施形態の第3の実施形態の工具を、
図19を使用して説明する、
図19に示す工具1900は、第1および第2の工具よりも小型に形成されており、把持部1901と、後部と、中間部と、前部とが一体として底部部材1905とされ、底部が把持部1901に連続して形成されている。底部部材1905の先端部には、ガイド板1908が着脱自在に固定されている。また、底部部材1905の上側で、把持部1901の下側は解放されていて、使用者が工具1900を握りやすくしている。溝切り刃1918は、固定部1910aに固定ネジ1910により固定されている。溝切り刃1918は、本体部の前方部分に形成された収容溝を介して底部部材1905の先端に形成された空間内から床シートにまで突出し、溝切りを可能とする。なお、溝切り刃1919は、固定部1910aに通された固定ネジ1910により本体部に固定されるのは、第1および第2の実施形態の工具100、100-1と同様である。
【0097】
工具1900の後部には、止めネジ1924がネジ込まれており、工具100-1の第1のブレード115、115-1または115-2に対応する形状で、工具1900に適合するサイズの他の実施形態の第1のブレード1920-2が取り付けられている。
図19では、第1のブレード1920-2は、第1のブレード115-2と同様の形状のとされ、その先端が工具1900の後端から突出している態様が示されている。第1のブレード1920-2は工具1900が小型の分、それ見合いに小さく形成されている。なお、第1のブレード1920-1として、
図10(c)に示した第1のブレード115-1にように中央にノッチ状の刃を形成し、工具1900に適合するように適切なサイズに縮小されたものも使用することができる。
【0098】
図19に示す工具1900も床シートに形成された継ぎ目の溝切りから溶接の事後処理まで単一の工具で行うことができるので、床シート施工の効率化および低コスト化を可能とする。
【産業上の利用可能性】
【0099】
以上のとおり、本実施形態によれば、溝切りおよび溶接後処理を含む床シートの継ぎ目施工を効率化することを可能とする床施工用の多目的工具が提供できる。
【要約】 (修正有)
【課題】1つの工具で床シートの溝切り施工およびトリミングを可能とする床シート施工用の工具を提供する。
【解決手段】床シートを施工するための工具100は、床シートに面する前部102と、中間部103と、後部104と、後部104から上側に延びて前部102につながる把持部101とを備えた本体部と、本体部に着脱自在に固定され、前部102よりも床シート側に突出して床シートの継ぎ目に溝を切るための第1の溝切り刃と、工具100の先端に配置され、継ぎ目に沿って工具100をガイドするための平板状のガイド板108と、後部104に移動自在に固定され、溝に溶着された溶接棒をトリミングするための第1のブレード115を備える。
【選択図】
図1