(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】細菌、黄色ブドウ球菌又は大腸菌の増殖抑制剤、膣組織のバリア機能向上剤、乳酸菌生産物質及び製剤
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20241111BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20241111BHJP
C12P 1/04 20060101ALI20241111BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20241111BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241111BHJP
A61K 35/74 20150101ALI20241111BHJP
【FI】
C12N1/20 A ZNA
A23L33/135
C12P1/04 Z
A61P31/04
A61P43/00 111
A61K35/74 A
A61K35/74 G
C12N1/20 A
(21)【出願番号】P 2024104380
(22)【出願日】2024-06-27
【審査請求日】2024-07-18
【微生物の受託番号】NPMD NITE P-04115
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504095173
【氏名又は名称】株式会社バイオジェノミクス
(74)【代理人】
【識別番号】100106220
【氏名又は名称】大竹 正悟
(72)【発明者】
【氏名】本多 英俊
(72)【発明者】
【氏名】渕上 太郎
【審査官】松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2023/218408(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第115873764(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第117599154(CN,A)
【文献】特開2012-170377(JP,A)
【文献】ミルクサイエンス,2024年04月30日,vol.73, no.1,p.11-20
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黄色ブドウ球菌及び大腸菌の増殖を抑制し、膣組織のバリア機能に関連するCLD1、エラフィン、MUC1の3因子の遺伝子発現を上昇させる受託番号:NITE P-04115として寄託されたラクトバチルス・パラガセリ(
Lactobacillus paragasseri)種に属するBG-DL427株である細菌。
【請求項2】
培養上清が、黄色ブドウ球菌及び大腸菌の増殖を抑制し、膣組織のバリア機能に関連するCLD1、OCLN、エラフィン、MUC1、HAS1、HAS3の6因子の遺伝子発現を上昇させる受託番号:NITE P-04115として寄託されたラクトバチルス・パラガセリ(
Lactobacillus paragasseri)種に属するBG-DL427株である細菌。
【請求項3】
死菌体が、黄色ブドウ球菌及び大腸菌の増殖を抑制し、膣組織のバリア機能に関連するCLD1、エラフィン、MUC1の3因子の遺伝子発現を上昇させる受託番号:NITE P-04115として寄託されたラクトバチルス・パラガセリ(
Lactobacillus paragasseri)種に属するBG-DL427株である細菌。
【請求項4】
請求項1若しくは請求項2記載の細菌の培養上清又は請求項1若しくは請求項3記載の細菌の死菌体を有効成分として含有する、黄色ブドウ球菌又は大腸菌の増殖抑制剤。
【請求項5】
請求項1若しくは請求項2記載の細菌の培養上清又は請求項1若しくは請求項3記載の細菌の死菌体を有効成分として含有する膣組織のバリア機能向上剤。
【請求項6】
請求項1若しくは請求項2記載の細菌の培養上清又は請求項1若しくは請求項3記載の細菌の死菌体を有効成分として含有する乳酸菌生産物質。
【請求項7】
請求項1若しくは請求項2記載の細菌の培養上清又は請求項1若しくは請求項3記載の細菌の死菌体を有効成分として含有する製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラクトバチルス・パラガセリ種に属する細菌並びにその細菌の培養上清又は死菌体を利用した黄色ブドウ球菌又は大腸菌の増殖抑制剤、膣組織のバリア機能向上剤、乳酸菌生産物質及び製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
妊婦の出産の際には産道が傷つくことがあっても直ぐに修復される。そのため妊婦の産道には出産時に特異な機能を備えていると考えられる。本発明者らは膣内に存在する細菌がこうした機能の一役を担っているのではないかと推察し、これまでにも膣内由来の細菌からIL10遺伝子発現亢進剤の創出等、膣内由来の細菌に着目した技術を提供してきた。IL10遺伝子発現亢進剤に関する技術は特許第7076840号公報(特許文献1)に記載されている。
【0003】
こうした技術とは別に、良好な腸内環境の維持、向上の重要性が知られるようになり、近年の健康寿命に関心を持つ人々が増加し乳酸菌等のいわゆる善玉菌として機能する腸内細菌研究も盛んになってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明者らは、産道の修復において膣に悪い影響を与える原因となる細菌が少なく、その一要因としては膣の炎症や臭いを生じさせる原因菌の増殖を抑えることが重要と考えて、その原因を取り除く手段の検討を行った。また、膣のバリア機能を高めることも重要であると考え、そうした機能を高める手段を見出すための検討を行った。
【0006】
その一方で、腸内由来の乳酸菌等の善玉菌となる細菌の活用の重要性に鑑み、こうした細菌の有効利用を検討する過程で腸内細菌の中には元来排便から生きたまま得られ難いことから、善玉菌の有効利用が図れる方法についての検討を行った。本発明はこうした研究の成果として生まれたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1の態様は、黄色ブドウ球菌及び大腸菌の増殖を抑制し、膣組織のバリア機能に関連するCLD1、エラフィン、MUC1の3因子の遺伝子発現を上昇させる受託番号:NITE P-04115として寄託されたラクトバチルス・パラガセリ(Lactobacillus paragasseri)種に属するBG-DL427株である細菌である。
【0008】
本開示の第1の態様は、黄色ブドウ球菌及び大腸菌の増殖を抑制し、膣組織のバリア機能に関連するCLD1、エラフィン、MUC1の3因子の遺伝子発現を上昇させる受託番号:NITE P-04115として寄託されたラクトバチルス・パラガセリ(Lactobacillus paragasseri)種に属するBG-DL427株である細菌としたため、ヒトの産道から取得できるラクトバチルス・パラガセリ種に属する細菌の死菌体が、黄色ブドウ球菌及び大腸菌の増殖を抑制し、膣組織のバリア機能に関連するCLD1、エラフィン、MUC1の3因子の遺伝子発現を上昇させることができる。
【0009】
本開示の第2の態様は、培養上清が、黄色ブドウ球菌及び大腸菌の増殖を抑制し、膣組織のバリア機能に関連するCLD1、OCLN、エラフィン、MUC1、HAS1、HAS3の6因子の遺伝子発現を上昇させる受託番号:NITE P-04115として寄託されたラクトバチルス・パラガセリ(Lactobacillus paragasseri)種に属するBG-DL427株である細菌である。
【0010】
本開示の第2の態様は、培養上清が、黄色ブドウ球菌及び大腸菌の増殖を抑制し、膣組織のバリア機能に関連するCLD1、OCLN、エラフィン、MUC1、HAS1、HAS3の6因子の遺伝子発現を上昇させる受託番号:NITE P-04115として寄託されたラクトバチルス・パラガセリ(Lactobacillus paragasseri)種に属するBG-DL427株である細菌としたため、ヒトの産道から取得できるラクトバチルス・パラガセリ種に属する細菌の培養上清が、黄色ブドウ球菌及び大腸菌の増殖を抑制し、膣組織のバリア機能に関連するCLD1、OCLN、エラフィン、MUC1、HAS1、HAS3の6因子の遺伝子発現を上昇させることができる。
【0011】
本開示の第3の態様は、死菌体が、黄色ブドウ球菌及び大腸菌の増殖を抑制し、膣組織のバリア機能に関連するCLD1、エラフィン、MUC1の3因子の遺伝子発現を上昇させる受託番号:NITE P-04115として寄託されたラクトバチルス・パラガセリ(Lactobacillus paragasseri)種に属するBG-DL427株である細菌である。
【0012】
本開示の第3の態様は、死菌体が、黄色ブドウ球菌及び大腸菌の増殖を抑制し、膣組織のバリア機能に関連するCLD1、エラフィン、MUC1の3因子の遺伝子発現を上昇させる受託番号:NITE P-04115として寄託されたラクトバチルス・パラガセリ(Lactobacillus paragasseri)種に属するBG-DL427株である細菌としたため、ヒトの産道から取得できるラクトバチルス・パラガセリ種に属する細菌の死菌体が、黄色ブドウ球菌及び大腸菌の増殖を抑制し、膣組織のバリア機能に関連するCLD1、エラフィン、MUC1の3因子の遺伝子発現を上昇させることができる。
【0013】
本開示の第4の態様は、上記細菌の培養上清又は上記細菌の死菌体を有効成分として含有する、黄色ブドウ球菌又は大腸菌の増殖抑制剤である。
【0014】
本開示の第4の態様は、上記細菌の培養上清又は上記細菌の死菌体を有効成分として含有する、黄色ブドウ球菌又は大腸菌の増殖抑制剤としたため、黄色ブドウ球菌又は大腸菌の増殖を抑制することができる。
【0015】
本開示の第5の態様は、前記細菌の培養上清又は前記細菌の死菌体を有効成分として含有する膣組織のバリア機能向上剤である。
【0016】
本開示の第5の態様は、前記細菌の培養上清又は前記細菌の死菌体を有効成分として含有する膣組織のバリア機能向上剤としたため、膣組織のバリア機能を向上させることができる。
【0017】
本開示の第6の態様は、前記細菌の培養上清又は前記細菌の死菌体を有効成分として含有する乳酸菌生産物質である。
【0018】
本開示の第6の態様は、前記細菌の培養上清又は前記細菌の死菌体を有効成分として含有する乳酸菌生産物質としたため、BG-DL427株に由来する産生物質を含むことができ、良好な腸内細菌叢の維持、悪化した腸内細菌叢の改善に役立つ乳酸菌生産物質とすることができる。
【0019】
本開示の第7の態様は、前記細菌の培養上清又は前記細菌の死菌体を有効成分として含有する製剤である。
【0020】
本開示の第7の態様は、前記細菌の培養上清又は前記細菌の死菌体を有効成分として含有する製剤としたため、液状、固形状、粉末状、ゼリー状、ゲル状等の種々の態様を採ることができ、膣内及び膣付近のデリケートゾーンの他、顔や手等の表皮のバリア機能を維持、改善する基礎化粧品、スキンケア製品等のクリーム製品、化粧液等として、あるいは、腸内環境の維持、向上のために服用する錠剤、顆粒剤、ドリンク等として利用することができる。
【発明の効果】
【0021】
本開示の一態様によれば、黄色ブドウ球菌及び大腸菌の増殖を抑制することができる。
【0022】
本開示の一態様によれば、膣組織のバリア機能に関連するCLD1、OCLN、エラフィン、MUC1、HAS1、HAS3の6因子の遺伝子発現を上昇させることができる。
【0023】
本開示の一態様によれば、膣組織のバリア機能に関連するCLD1、エラフィン、MUC1の3因子の遺伝子発現を上昇させることができる。
【0024】
本開示の一態様によれば、膣組織のバリア機能を向上させることができる。
【0025】
本開示の一態様によれば、乳酸菌生産物質、製剤等として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】黄色ブドウ球菌の増殖抑制比と大腸菌の増殖抑制比の散布図である。
【
図2】DL株に対するバリア機能関連6因子の遺伝子発現上昇程度を示すヒートマップである。
【
図3】各菌株の培養上清処理に対するエラフィン遺伝子の相対発現頻度を表すグラフである。
【
図4】各菌株の培養上清処理に対するCLD1遺伝子の相対発現頻度を表すグラフである。
【
図5】各菌株の培養上清処理に対するOCLN遺伝子の相対発現頻度を表すグラフである。
【
図6】各菌株の培養上清処理に対するMUC1遺伝子の相対発現頻度を表すグラフである。
【
図7】各菌株の死菌体処理に対するエラフィン遺伝子の相対発現頻度を表すグラフである。
【
図8】各菌株の死菌体処理に対するCLD1遺伝子の相対発現頻度を表すグラフである。
【
図9】各菌株の死菌体処理に対するOCLN遺伝子の相対発現頻度を表すグラフである。
【
図10】各菌株の死菌体処理に対するMUC1遺伝子の相対発現頻度を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本開示の一態様について、例示される実施形態に基づき説明する。以下の実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0028】
本開示に含む全ての実施形態及び選択可能な実施形態は、互いに組み合わせて新たな実施形態を形成してもよい。また、本開示に含む全ての技術的特徴及び選択可能な技術的特徴は、互いに組み合わせることにより新たな技術的特徴を形成できる。
【0029】
本開示で使用する用語「又は」は包括的な用語として使用される。例えば、「A又はB」は「A、B、又はAとBの両方」を意味する。「A」、「B」、「AとBの両方」は、何れもそれぞれが「A又はB」を満たす。
【0030】
本明細書及び特許請求の範囲で使用される「約」、「およそ」、「ほぼ」、「実質的に」との用語によって修飾される数値又は要素については、その数値とその数値を中心とする前後の数値を含むものとして、またその要素と、その要素と同じと言えるものとを含むものとして理解される。例えば「約3」と記載する場合、本開示で主張する技術的特徴、技術的意義が異ならなければ、「3」とそれに連続する数値も「約3」に含まれ得る。また、「Aと実質的に同一のB」という場合、BはAと完全同一である場合のほか、本開示で主張する技術的特徴、技術的意義が共通する限り、相違点を有していても「実質的」の範囲に含み得る。
【0031】
本明細書及び特許請求の範囲で使用される記号「~」は、特段の説明の無い限り、下限値と上限値とを含み、且つ、下限値と上限値との間の値を含むものとして理解される。例えば「3~5」という場合は「3以上5以下」を意味し、「2.5~6g」という場合は「2.5g以上6g以下」を意味するものとして理解される。
【0032】
以下に黄色ブドウ球菌及び大腸菌の増殖を抑制し、膣組織のバリア機能に関連するCLD1、OCLN、エラフィン、MUC1、HAS1、HAS3の6因子の遺伝子発現を上昇させることに関与する細菌に関係する技術について詳しく説明する。より具体的には、培養上清が、黄色ブドウ球菌及び大腸菌の増殖を抑制し、膣組織のバリア機能に関連するCLD1、OCLN、エラフィン、MUC1、HAS1、HAS3の6因子の遺伝子発現を上昇させる細菌、死菌体が、黄色ブドウ球菌及び大腸菌の増殖を抑制し、膣組織のバリア機能に関連するCLD1、エラフィン、MUC1の3因子の遺伝子発現を上昇させる細菌と、この細菌の培養上清、又はこの細菌の生菌、死菌、生菌と死菌の両方、若しくはこれらと前記培養上清とを含む混合液と、こうした培養上清又は混合液を用いたサプリメント、乳酸菌生産物質、皮膚外用剤等の製剤である。
【0033】
好適な実施形態において、培養上清が、黄色ブドウ球菌及び大腸菌の増殖を抑制し、膣組織のバリア機能に関連するCLD1、OCLN、エラフィン、MUC1、HAS1、HAS3の6因子の遺伝子発現を上昇させ、死菌体が、黄色ブドウ球菌及び大腸菌の増殖を抑制し、膣組織のバリア機能に関連するCLD1、エラフィン、MUC1の3因子の遺伝子発現を上昇させる細菌は、ラクトバチルス・パラガセリ(Lactobacillus paragasseri)種に属する細菌であり、特にBG-DL427(又は「DL427」ともいう)株がより好適に挙げられる。このBG-DL427株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に、受託番号:NITE P-04115、受託日:2024年5月15日、識別の表示:BG-DL427として寄託されている。また、この菌株の16S rRNA塩基配列を配列番号1として配列表に示す。
【0034】
BG-DL427株については、その16S rRNA遺伝子の塩基配列をデータベース上の配列と相同性検索を行って種を同定したところ、相同値が100%であったラクトバチルス・パラガセリ種に属する菌株であることがわかった。なお、BG-DL427株の菌学的特徴は、ラクトバチルス・パラガセリの菌学的特徴と同じである。
【0035】
BG-DL427株の菌体は、以下に説明する手法によって培養することができ、培養物からの遠心分離等の手段によって分離、精製した死菌体及び培養上清を利用することができる。
また、BG-DL427株の菌体から調製した培養上清、若しくは死菌体の混合物、又はこの培養上清と死菌体との混合物は、これを有効成分とする乳酸菌生産物質として調製することができる。この乳酸菌生産物質は、液状、ゲル状、ゼリー状等の形態とすることができる。
【0036】
さらに、BG-DL427株の菌体から調製した培養上清、若しくは死菌体の混合物、又はこの培養上清と死菌体との混合物は、賦形剤、崩壊剤、結合剤、安定化剤、湿潤剤等と適宜混合して、BG-DL427株の菌体から調製した培養上清、若しくは死菌体の混合物、又はこの培養上清と死菌体との混合物を有効成分とする製剤として調製することができる。この製剤は、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、液剤、乳剤、クリーム剤、ゲル状剤、ゼリー状剤等の形態とすることができる。
【0037】
そしてまた、BG-DL427株の菌体から調製した培養上清又はこの培養上清と死菌体の混合物を有効成分として含有するものは、黄色ブドウ球菌及び大腸菌の増殖を抑制する増殖抑制剤とし、膣組織のバリア機能に関連するCLD1、OCLN、エラフィン、MUC1、HAS1、HAS3の6因子の遺伝子発現上昇剤又は膣組織のバリア機能向上剤とすることができる。あるいはまた、BG-DL427株の死菌体の混合物を有効成分として含有するものは、黄色ブドウ球菌及び大腸菌の増殖を抑制する増殖抑制剤とし、膣組織のバリア機能に関連するCLD1、エラフィン、MUC1の3因子の遺伝子発現上昇剤又は膣組織のバリア機能向上剤とすることができる。
【0038】
そしてこれらの増殖抑制剤は、黄色ブドウ球菌及び大腸菌の増殖を抑制することができる。また、これらの遺伝子発現上昇剤又は膣組織のバリア機能向上剤は、膣組織のバリア機能に関連するCLD1、OCLN、エラフィン、MUC1、HAS1、HAS3の6因子、又は膣組織のバリア機能に関連するCLD1、エラフィン、MUC1の3因子の遺伝子発現を上昇させ、膣組織のバリア機能を向上させることができる。そしてまた膣組織だけでなく皮膚などの表皮に対するバリア機能向上をも期待できる。
【実施例】
【0039】
実験1:<産道からの細菌の取得>
健常妊婦の産道内から採取した採取液をBL寒天培地にて嫌気培養(37℃、2日間)し、形成された代表的なコロニーを乳酸桿菌用のMRS液体培地に移してさらに嫌気培養(37℃、2日間)した後、-80℃下でグリセロールストックした。
【0040】
次に、上記グリセロールストックした各菌株からDNAを抽出し、シーケンス解析に供した。より具体的には、各菌株から形成されるコロニーをピペットチップで掻き取り、dH2O:50μLに懸濁し、100mMのNaOHを50μL添加して、混合後、95℃で15分間処理を行なった。その後、1MTris-HCl(pH7.0)を11μL添加し、遠心後、培養上清を回収してDNA液とした。得られたDNA液をテンプレートに、Bacterial 16S rDNA PCR Kit(タカラバイオ社製)を用いて、メーカーのプロトコールに従って、シーケンス解析に供するPCR増幅産物を得た。
【0041】
PCR増幅産物の一部をアガロースゲル電気泳動(100V、30分間)に供し、目的とする増幅産物が得られているのかを確認した後、QIAquick PCR Purificatiuon Kit(QIAGEN社製)によってメーカーのプロトコールに従って、PCR反応液からPCR増幅産物の精製を行なった。
【0042】
PCR増幅産物のシーケンス解析から得られた塩基配列を、配列編集ソフトのApEを用いて編集を行い、各コロニーの16S rRNA遺伝子の塩基配列をデータベース上の配列と相同性検索を行って種を同定した。データベースとしては、NCBI BLAST(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)とDDBJ(http://blast.ddbj.nig.ac.jp/top-j.hyml)の2つのデータベースを用いた。結果として、ラクトバチルス・クリスパタス(Lactobacillus crispatus)、ラクトバチルス・ジェンセニイ(Lactobacillus jensenii)、ラクトバチルス・ヴァギナリス(Lactobacillus vaginalis)、ラクトバチルス・フェカリス(Lactobacillus faecalis)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス・プランタラム (Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス・コレオホミニス(Lactobacillus coleohominis)、その他未同定のラクトバチルス属に属する細菌が認められた。
【0043】
実験2:<黄色ブドウ球菌(S.aureus)及び大腸菌(E.coli)の増殖抑制作用を示す菌株のスクリーニング>
実験1で得られた細菌のうち、ラクトバチルス属と認められた133株の上記グリセロールストックをMRS液体培地:10mLに最終濃度が1%となるよう植菌し、35℃、好気条件下で24時間培養した。これによって得られた菌液は、遠心(14,000×g、10分)後、培養上清を回収して0.22μmシリンジフィルターで濾過滅菌を行い、4℃で保存した。これを上記133株の各DL培養上清液とした。
【0044】
一方、黄色ブドウ球菌は、グリセロールストックをTS液体培地:10mLに最終濃度が1%となるよう植菌し、37℃、好気条件下で48時間培養した。また、大腸菌は、グリセロールストックをLB液体培地:10mLに最終濃度が1%となるよう植菌し、37℃、好気条件下で24時間培養した。これによって得られた各菌液は、それぞれの液体培地でOD620値が0.20~0.25程度になるよう希釈し、96ウェルプレートへ200μLずつ分注した。
【0045】
上記96ウェルプレートに、各DL培養上清液を最終濃度が10%となるように添加し、軽く攪拌後、37℃、好気条件下で24時間培養し、プレートリーダでOD620値を測定し、未処理条件を基準とした相対値を算出した。これを3回繰り返し、3回の実験から得られた相対値の平均を算出して、その値で黄色ブドウ球菌及び大腸菌への増殖抑制作用を評価した。
【0046】
黄色ブドウ球菌に対する増殖抑制比をy軸に、大腸菌への増殖抑制比をx軸とした散布図を作成し、
図1とした。増殖抑制比の強弱は、黄色ブドウ球菌に対しては濃淡で、大腸菌に対してはプロットの大きさで表して、黄色ブドウ球菌及び大腸菌への増殖抑制作用が高いDL培養上清液を探索した。
【0047】
この散布図から、プロットが小さく(大腸菌増殖抑制が高い)、色が薄い(黄色ブドウ球菌増殖抑制が高い)ものが133株の中から16株見出された。これらのDL培養上清液は黄色ブドウ球菌と大腸菌を共に増殖を抑制させ、膣内の炎症や臭いを防ぐ可能性がある。見出された16株は、DL56、DL57、DL166、DL181、DL184、DL200、DL201、DL286、DL325、DL352、DL376、DL423、DL424、BG-DL427(DL427)、DL428、DL430と名付けた菌株であった。これらの菌株を総称し、又は個々の菌株を「DL株」と称する。
【0048】
黄色ブドウ球菌及び大腸菌は、膣の炎症や臭いの原因となる細菌であることから、上記16株は、膣内の炎症や臭いを生じさせ難くし良好に保つために有益に機能する菌株であると考えられる。
また、上記DL株は何れもラクトバチルス属に属する細菌であり、腸内由来のラクトバチルス属に属する乳酸菌等の代替菌としての利用に期待が持てる。即ち、上記DL菌は生菌として取得できた菌体であり、膣内が腸内とは異なる環境であることから腸内細菌よりも何らかの異なる特性をもつ細菌が得られる可能性がある。
【0049】
実験3:<DL株である16株の菌種同定>
上記実験1及び実験2を通じて得られた16株について、以下の方法により菌種の同定を行った。
DL16株(DL56、DL57、DL166、DL181、DL184、DL200、DL201、DL286、DL325、DL352、DL376、DL423、DL424、BG-DL427(DL427)、DL428、DL430)のグリセロールストックをMRS液体培地:4mLに最終濃度が1%となるよう植菌し、35℃、好気条件下で24時間培養した。これによって得られた菌液から1.0mLを回収し、遠心(9,000×g、10分、4℃)後、培養上清を破棄して、菌体ペレットを得た。菌体ペレットをdH2O:50μLで溶解し、100mMのNaOH:50μLを添加して混合した後、95℃で15分間処理した。その後、1MのTris-HCL(pH8.5):11μLを加え、軽く混合後、遠心(11,000×g、3分、4℃)し、培養上清を回収してDNA液を作製した。
【0050】
得られたDNA液をテンプレートに、プライマーセットは27F/1492Rとし、PCR酵素はKAPA HiFi HS ReadyMix(KAPABIOSYSTEMS社)を用いて、PCR法で16S rRNA遺伝子の増幅を行った。反応組成はKAPA HiFi HS ReadyMix:12.5μL、27Fプライマー(10μM):0.75μL、1492Rプライマー(10μM):0.75μL、テンプレートDNA:1.0μL、dH2O:11μLとし、反応条件は95℃、3分間の初期変性ステップ後、変性ステップ98℃、20秒、アニーリングステップ60℃、15秒、伸長ステップ72℃、30秒の3ステップを1サイクルとして30サイクルで反応させた後、72℃、90秒の最終伸長ステップで反応させた。
【0051】
得られたPCR増幅産物は、FastGene(商標)GeL/PCR Extraction Kit(日本ジェネティクス社)を用いて、メーカーのプロトコールに従って精製し、シーケンス解析に供した。シーケンス解析はプライマーセットを518F/800Rとして、株式会社ファスマックに委託して行った。なお、本実験に用いたプライマーの配列情報を次の表1に示す。
【0052】
【0053】
シーケンス解析から得られた配列情報と波長情報は、配列編集ソフトのApEを用いて編集し、各DL株の16S rRNA遺伝子の塩基配列をNCBIに登録されている配列と相同性検索を行うことで種を同定した。
相同性検索から同定された16株それぞれの菌種を表2に示す。結果として、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス・パラガセリ(Lactobacillus paragasseri)、ラクチプランティバチルス・プランタラム(Lactiplantibacillus plantarum)、ラクトバチルス・ムリエリス(Lactobacillus mulieris)のラクトバチルス属に属する4菌種が認められた。
【0054】
【0055】
実験4:<バリア機能関連遺伝子を発現させるDL株の探索>
ヒト子宮頸部上皮NCE16IIA細胞を用いて、実験2で得た上記DL16株のDL培養上清液を添加処理した際のバリア機能関連遺伝子である次の6遺伝子、即ち、細胞接着分子の関連因子であるCLD1とOCLN、抗菌ペプチドであるエラフィン、液性成分のMUC1、ヒアルロン酸合成酵素であるHAS1とHAS3の各遺伝子発現を解析した。
【0056】
エラフィンは、腸や膣などの粘膜組織において、抗菌ペプチドでもあるエラスターゼインヒビターであり、炎症細胞の浸潤や活性化に対して抑制的に働くことや、創傷治癒の促進、細胞間接着の促進などに働く多面的なメディエーターである。OCLNとCLD1は、表皮細胞のタイトジャンクションの形成に必須のタンパク質であり、皮膚の正常なバリア機能に必要である。ムチンの1種であるMUC1は、接着タンパク質して働くと同時に、細菌や酵素から上皮細胞を保護する役割を持つ。HAS1とHAS3はヒアルロン酸合成に必須の酵素で、細胞外マトリックスの主要成分であり、細胞の接着、移動及び分化を制御する。よって、これら6つの因子に着目することで、広義での生体バリア機能についての直接的あるいは間接的な関与を調べることができる。
【0057】
ヒト子宮頸部上皮NCE16IIA細胞(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所;NIBIOHN)は、5μg/mL:インスリン、0.5μg/mL:ヒドロコルチゾン、10μg/mL:トランスフェリン、0.1mM:ホスホリルエタノールアミン、0.1mM:エタノールアミン、10ng/mL:EGF(上皮成長因子)、50μg/mL:ウシ脳下垂体抽出物(BPE: Bovine Pituitary Extract)を加えたMCDB153 medium(機能性ペプチド研究所)中で培養した。次に、1ウェルあたり1×105セルとなるように24ウェルプレートに播種し、90%コンフルエンシーになるまで培養した。そして新しい培養液に交換後、上記各DL培養上清液が最終濃度10%(v/v)となるように添加して24時間暴露し、その後、培養液を取り除いて、RNAの抽出を行った。
【0058】
上記DL培養上清液で処理した細胞からのRNA抽出はISOGEN II(日本ジーン社)を用いて、メーカーのプロトコールに従って実施した。抽出したRNAはdH2Oで溶解後、DNase I(Sigma社)によってゲノムDNAを除去し、これをテンプレートにReverTra(商標) Ace qPCR Master Mix(TOYOBO社)で逆転写を行なってcDNAを合成した。
【0059】
定量的遺伝子発現解析は、THUNDERBIRD SYBR Next qPCR Mix(TOYOBO社)を用いて、メーカーのプロトコールに従って、CFX Connect(商標) ReaL-Time Detection System(Bio-Rad社)で実施した。CLD1、エラフィン、HAS1、HAS3、MUC1、OCLN、そして、リファレンス遺伝子であるβ-アクチンのプライマー配列を表3に示す。
【0060】
【0061】
遺伝子発現量は未処理条件をコントロールとしたΔΔCt法で評価した。これを3回繰り返し、3回の実験から得られた相対値の平均を算出して、得られたデータはR version 4.2.2で解析し、各遺伝子の発現量を平均0、分散1となるようにスケーリング(z score)を行った後、‘ComplexHeatmap’packageを用いたクラスター解析及びヒートマップによって菌種及び菌株間でのバリア機能関連遺伝子の発現に対する影響を調べた。その結果を
図2に示す(なお、
図2において「BG-DL427」を「DL427」と表記している)。
【0062】
図2で示されたように、同一の菌種は類似の挙動を示す傾向にあるようだがバリア機能関連遺伝子である6遺伝子それぞれ発現量は菌株によって異なっていた。そうした中でラクトバチルス・パラガセリのBG-DL427株がバリア機能関連遺伝子6つ全ての発現量を有意に上昇させたことがわかった。
BG-DL427株は、CLD1やOCLNのような細胞間接着因子の発現に加えて、抗菌ペプチドでもあるエラスターゼインヒビターのエラフィンの劇的な発現上昇も誘導させたことから、膣内における炎症、病原体の侵入、細菌性膣炎などに対して有効に働くものと考えられる。そして、BG-DL427株の培養上清が黄色ブドウ球菌と大腸菌の増殖抑制を有することも踏まえると、両株の培養上清は膣トラブルの解決やそれを予防する製品に応用できると考えられる。
【0063】
実験5:<腸内由来ラクトバチルス・パラガセリ標準株と膣由来ラクトバチルス・パラガセリ単離株間の膣バリア機能関連遺伝子の発現比較>
実験4で、膣細胞におけるバリア機能関連遺伝子を有意に発現上昇させることがわかったBG-DL427株と、ヒト腸由来ラクトバチルス・パラガセリのJCM株であるJCM1130株とJCM5343株の2株について、バリア関連遺伝子発現について比較した。
【0064】
実験2で得たDL培養上清液と同様にしてJCM2株についても培養上清液を得た。即ち、JCM2株それぞれのグリセロールストックをMRS液体培地:10mLに最終濃度が1%となるよう植菌し、35℃、好気条件下で24時間培養した。これによって得られた菌液は、遠心(14,000×g、10分)後、培養上清を回収して0.22μmシリンジフィルターで濾過滅菌を行い、4℃で保存した。これをJCM2株それぞれの培養上清液とした。
【0065】
ヒト子宮頸部上皮NCE16IIA細胞(NIBIOHNより譲渡)は、実験4と同様の方法で培養後、実験4で上記DL株の培養上清液が最終濃度10%(v/v)となるように添加したように、JCM2株の培養上清液が最終濃度10%(v/v)となるように添加して24時間暴露し、その後、培養液を取り除いて、RNAの抽出を行った。また、上記DL培養上清液や上記JCM培養上清液で処理した細胞からのRNA抽出、cDNAの合成、定量的遺伝子発現解析も実験4と同様にして行った。
そして、遺伝子発現量の評価は未処理条件をコントロールとしたΔΔCt法で行い、有意差はTukey’s testによる多重比較検定で判定した(n=6)。
【0066】
こうした遺伝子発現解析の結果を
図3~
図6に示す(なお、
図3~
図6において「BG-DL427」を「DL427」と表記している)。腸内由来のJCM5343株がMUC1の遺伝子発現上昇効果に優れていたもののエラフィン、CLD1、OCLNについてはそれほどでもなく、JCM1130株も含めてJCM2株は、バリア機能に関連遺伝子である6遺伝子の全てを有意に上昇させることはなかった。
【0067】
BG-DL427株の培養上清は、黄色ブドウ球菌と大腸菌の増殖抑制効果を有することから、正常な状態において膣の炎症や臭いの発生を抑える機能を有している。これに加え、抗菌ペプチドでもあるエラスターゼインヒビターのエラフィンの劇的な発現上昇を誘導することから、炎症を生じさせ、膣炎などの病気を発生させた場合でもその病原菌に対する攻撃、殺菌作用を有している。そしてCLD1やOCLNのような細胞間接着因子の遺伝子発現をも上昇させることから病原体などが体内に侵入するのを防ぐバリア機能にも優れた効果を発揮する。さらにMUC1、HAS1、HAS3の遺伝子発現上昇により粘膜の保護等に機能することが想定される。それゆえこれらの因子の遺伝子発現を上昇させる培養上清は、膣内だけでなく皮膚表面等の体外や、腸内等の体内においても、組織の正常状態の予防、維持、又は疾病状態等のトラブルの治療、又は回復後の保護にも機能する製品に応用できると考えられる。
【0068】
実験6:<死菌体処理によるバリア機能関連遺伝子の発現比較>
上記ヒト腸内由来JCM2株及び上記BG-DL427株の死菌体をヒト子宮頸部上皮NCE16IIA細胞に作用させた際における細胞接着分子の関連因子であるCLD1とOCLN、抗菌ペプチドであるエラフィン、液性成分のMUC1の遺伝子発現について調べた。
【0069】
上記JCM2株及び上記BG-DL427株それぞれのグリセロールストックをMRS液体培地:10mLに最終濃度が1%となるよう植菌し、35℃、好気条件下で24時間培養した。これによって得られた菌液から1.0mLを回収し、遠心(9,000×g、10分、4℃)後、培養上清を破棄して、菌体ペレットを得た。菌体ペレットはPBS(-)で溶解し、軽く混合後、遠心(9,000×g、10分、4℃)して培養上清を廃棄し、PBS(-)で再溶解した。これを95℃で30分間熱処理を行い、遠心(9,000×g、10分、4℃)後、培養上清を廃棄し、各株の死菌体を準備した。得られた死菌体は-80℃で保管した。
【0070】
ヒト子宮頸部上皮NCE16IIA細胞(NIBIOHNより譲渡)は、5μg/mL:インスリン、0.5μg/mL:ヒドロコルチゾン、10μg/mL:トランスフェリン、0.1mM:ホスホリルエタノールアミン、0.1mM:エタノールアミン、10ng/mL:EGF、50μg/mL:ウシ脳下垂体抽出物(BPE: Bovine Pituitary Extract)を加えたMCDB153 medium(機能性ペプチド研究所)中で培養した。1ウェルあたり2×105セルとなるように24ウェルプレートに播種し、90%コンフルエンシーになるまで培養した。新しい培養液に交換後、1×105セル/mLとなるように調製した上記死菌体を添加し、24時間暴露させた。その後、培養液を取り除いて、RNAの抽出を行った。
【0071】
上記死菌体で処理した細胞からのRNA抽出、cDNAの合成、及び定量的遺伝子発現解析は実験4と同様にして行った。遺伝子発現量は未処理条件をコントロールとしたΔΔCt法で評価し、有意差はTukey’s testによる多重比較検定で判定した(n=3)。
【0072】
遺伝子発現解析の結果を
図7~
図10に示す(なお、
図7~
図10において「BG-DL427」を「DL427」と表記している)。BG-DL427株はOCLNの遺伝子発現に変動は見られなかったが、CLD1、エラフィン及びMUC1の遺伝子の発現上昇が観察された。但し、これらの遺伝子発現についてJCM株との有意な差異は認められなかった。これらの結果から、培養上清で処理した場合と異なる挙動を示すことがわかった。また、BG-DL427株の死菌体ではCLD1、エラフィン及びMUC1遺伝子の発現上昇が認められたことから、培養上清ほどではないとしても、死菌体でも膣内における炎症、病原体の侵入、細菌性膣炎などに対して有益的に働き、膣トラブルの解決やそれを予防する製品に応用できるのではないかと考えられる。
【0073】
実験7:<BG-DL427培養上清原液の製造>
凍結保管したBG-DL427株を解凍して得た菌液を植菌重量が培地重量の0.1wt%となるように豆乳様培地(グルコース0.6%、酵母エキス0.5%、脱脂粉乳2.8%、大豆粉7.7%、消泡剤0.01%、残部水(各重量%))に加えて72時間培養し、pH4.5~5.5とした。そして得られた培養液を遠心し、培養上清を回収後、清澄化し、さらに限外濾過して5倍濃縮液を製造し、その後の各種製剤を製造するためのBG-DL427培養上清原液とした。
【0074】
実験8:<BG-DL427培養上清原液からの各種製剤の製造>
1-1.液状製剤又はローション状製剤の製造(1)
80wt%の蒸留水、10wt%のアルコール、数wt%のグリセリンに香料、乳化剤、防腐剤を配合した希釈液に、上記BG-DL427培養上清原液を加えて、その合計量のうちBG-DL427培養上清原液が4wt%となるようにしてローション状製剤を得た。また、グリセリン成分を蒸留水で代替して液状製剤を得た。
このローション状製剤又は液状製剤は、そのままローション又は化粧水として用いることで、肌用、デリケートゾーン周辺用のケア製剤として適用できる。
【0075】
1-2.液状製剤又はローション状製剤の製造(2)
95wt%の豆乳に、甘味料、砂糖等を配合した希釈液に、上記BG-DL427培養上清原液を加えて、その合計量のうちBG-DL427培養上清原液が4wt%となるようにしてドリンク剤を得た。
このドリンク剤は飲料として、健康な腸内環境を維持し、又は健康な腸内環境とするための健康補助ドリンクとして適用できる。
【0076】
2.クリーム製剤の製造
ワセリン、オリーブオイル、エタノール、顔料に香料、乳化剤、防腐剤を配合したクリームに、上記BG-DL427培養上清原液を加えて、その合計量のうちBG-DL427培養上清原液が4wt%となるようにしてクリーム状製剤を得た。このクリーム状製剤は、そのままクリーム製品として、肌用、デリケートゾーン周辺用のケア製剤として適用できる。また、炎症部位に塗布する抗炎症剤として適用できる。
【0077】
3.錠剤の製造
デンプン及びデンプン糊に上記BG-DL427培養上清原液を加えて、その合計量のうちBG-DL427培養上清原液が4wt%となるようにし成形し錠剤を得た。この錠剤は経口剤として、アトピー等の皮膚病に対するケア製剤、外傷や消化器官内等に対する抗炎症製剤として適用できる。
【0078】
4.カプセル剤の製造
上記液状製剤、ローション状製剤、クリーム製剤は、カプセルに詰めてカプセル化することで、膣内への挿入剤として日常のケア又は膣が炎症を起こした際の膣ケア製剤として適用できる。また、経口剤としても適用できる。
【0079】
実験9:<BG-DL427菌体含有液の製造>
凍結保管したBG-DL427株を解凍して得た菌液を植菌重量が培地重量の0.1wt%となるようにMRS液体培地に加えて72時間培養し、OD600値を4.5~5.0とした。
そして得られた培養液を遠心し、培養上清を廃棄し、菌体ペレットを得た。そして、この菌体ペレットをPBS(-)で希釈して、その後の各種製剤を製造するためのBG-DL427菌体含有液とした。このBG-DL427菌体含有液中には、BG-DL427株の生菌が含まれる。
【0080】
実験10:<BG-DL427菌体含有液からの各種製剤の製造>
1-1.液状製剤又はローション状製剤の製造(1)
80wt%の蒸留水、10wt%のアルコール、数wt%のグリセリンに香料、乳化剤、防腐剤を配合した希釈液に、上記BG-DL427菌体含有液を加えて、その合計量1gのうちBG-DL427株の菌体が1×108~5×109個含まれるようにしてローション状製剤を得た。また、グリセリンの含量を蒸留水で代替して液状製剤を得た。
【0081】
このローション状製剤又は液状製剤は、そのままローション又は化粧水として用いることで、肌用、デリケートゾーン周辺用のケア製剤として適用できる。
【0082】
1-2.液状製剤又はローション状製剤の製造(2)
95wt%の豆乳に、甘味料、砂糖等を配合した希釈液に、上記BG-DL427培養上清原液を加えて、その合計量のうちBG-DL427培養上清原液が4wt%となるようにしてドリンク剤を得た。
このドリンク剤は飲料として、健康な腸内細菌叢を維持し、又は健康な腸内細菌叢とするための健康補助ドリンクとして適用できる。
【0083】
2.クリーム製剤の製造
ワセリン、オリーブオイル、エタノール、顔料に香料、乳化剤、防腐剤を配合したクリームに、上記BG-DL427菌体含有液を加えて、その合計量1gのうちBG-DL427株の菌体が1×108~5×109個含まれるようにしてクリーム状製剤を得た。このクリーム状製剤は、そのままクリーム製品として、肌用、デリケートゾーン周辺用のケア製剤として適用できる。また、炎症部位に塗布する抗炎症剤として適用できる。
【0084】
3.錠剤の製造
デンプン及びデンプン糊に上記BG-DL427菌体含有液を加えて、その合計量1gのうちBG-DL427株の菌体が1×108~5×109個含まれるようにして成形し錠剤を得た。この錠剤は経口剤として、アトピー等の皮膚病に対するケア製剤、外傷や消化器官内等に対する抗炎症製剤として適用できる。
【0085】
4.カプセル剤の製造
上記液状製剤、ローション状製剤、クリーム製剤は、カプセルに詰めてカプセル化することで、膣内への挿入剤として日常のケア又は膣が炎症を起こした際の膣ケア製剤として適用できる。また、経口剤としても適用できる。
【0086】
実験11:<BG-DL427培養上清原液及びBG-DL427菌体含有液からの各種製剤の製造>
上記BG-DL427培養上清原液及び上記BG-DL427菌体含有液を適当量混合し、上記有効量を含むようにした以外は、上記各種製剤の製造方法と同様にして、液状製剤、ローション状製剤、錠剤、カプセル剤を製造した。より具体的には、BG-DL427培養上清原液と上記BG-DL427菌体含有液の寄与割合を決定し、その寄与割合に応じてそれぞれの有効成分量を決定して配合するように調製した。
【0087】
実験12:<乳酸菌生産物質の製造>
ラクトバチルス属、ラクトコッカス属、エンテロコッカス属に属する一般的な乳酸菌の複数種、及びBG-DL427株のそれぞれを、MRS培地に植菌し、好気環境下において34℃で単独培養し、OD660値=約1.3となるまで単離培養し、それらの中から組合せが好適であると知られている乳酸菌を組み合わせたグループを作り、それぞれのグループ毎にグループに属する乳酸菌を豆乳培地に加えて混合した後、好気環境下において32℃~36℃で約1日培養した。BG-DL427株は、ラクトバチルス属の他の乳酸菌と同じグループに含めた。その後、全ての乳酸菌の培養物を混合して豆乳培地でさらに25~30時間培養した。得られた培養物を、ホモジナイザーを用いて粉砕処理し均一な懸濁液を得た。次にこの懸濁液をろ過布袋でろ過し、ろ過液と発酵残差とを得た。このうちのろ過液をフィルターろ過することで乳酸菌生産物質を得た。この乳酸菌生産物質中には乳酸菌及びBG-DL427株の死菌由来の菌体成分、乳酸菌及びBG-DL427株による生成物、培地の原料である大豆や豆乳に由来する液状成分が含まれている。
【0088】
上記乳酸菌生産物質は酢酸成分を多く含むことから、脂肪の合成抑制と内臓脂肪の減少、高血圧の予防、食後の血糖値の上昇抑制といった効果を期待することができる。
また、膣内由来のラクトバチルス属菌からの培養上清又は死菌体を有効成分として含むことから、組織に対するバリア機能を向上させる、腸内細菌とはまた異なる作用効果に対する期待をもつことができる。
【要約】
【課題】黄色ブドウ球菌及び大腸菌の増殖を抑制し、膣組織のバリア機能に関連するCLD1、OCLN、エラフィン、MUC1、HAS1、HAS3の6因子の遺伝子発現を上昇させることに関与する細菌と、その細菌から得られる培養上清又は死菌体を利用した製剤等を得ること。
【解決手段】 培養上清が、黄色ブドウ球菌及び大腸菌の増殖を抑制し、膣組織のバリア機能に関連するCLD1、OCLN、エラフィン、MUC1、HAS1、HAS3の6因子の遺伝子発現を上昇させる受託番号:NITE P-04115として寄託されたラクトバチルス・パラガセリ(
Lactobacillus paragasseri)種に属するBG-DL427株である細菌を提供する。この細菌の培養上清又は死菌体を利用した製剤は、黄色ブドウ球菌又は大腸菌の増殖抑制剤として、膣組織のバリア機能向上剤として利用することができる。
【選択図】
図2
【配列表】