(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
C08J 5/04 20060101AFI20241111BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20241111BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20241111BHJP
【FI】
C08J5/04 CFG
C08J5/24 CFC
F16F15/02 Q
(21)【出願番号】P 2024516652
(86)(22)【出願日】2023-06-08
(86)【国際出願番号】 JP2023021354
(87)【国際公開番号】W WO2023243531
(87)【国際公開日】2023-12-21
【審査請求日】2024-03-14
(31)【優先権主張番号】P 2022095040
(32)【優先日】2022-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】391059399
【氏名又は名称】株式会社アイ.エス.テイ
(74)【代理人】
【識別番号】100136319
【氏名又は名称】北原 宏修
(74)【代理人】
【識別番号】100143498
【氏名又は名称】中西 健
(72)【発明者】
【氏名】大庭 圭一朗
(72)【発明者】
【氏名】上原 聡
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109503960(CN,A)
【文献】特開2004-324007(JP,A)
【文献】特開2004-051853(JP,A)
【文献】特開2017-186718(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104231348(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111548488(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16;15/08-15/14
C08J 5/04-5/10;5/24
B29C 70/00-70/88
F16F 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配向されるポリイミド繊維と、
樹脂(ゴムを除く)と
を備え、
前記ポリイミド繊維の繊維径は10.0μm以上18.0μm以下であり、
前記ポリイミド繊維の体積含有率は40%以上70%以下であり、
測定温度23℃の6400Hz以下の固有振動数における振動減衰の損失係数が0.005以上0.050以下の範囲内である
繊維強化樹脂成形体。
【請求項2】
前記ポリイミド繊維の繊維配向方向における引張強度が0.5GPa以上2.1GPa以下の範囲内である
請求項1に記載の繊維強化樹脂成形体。
【請求項3】
前記ポリイミド繊維の引張強度は2.5GPa以上3.5GPa以下の範囲内である
請求項1に記載の繊維強化樹脂成形体。
【請求項4】
前記ポリイミド繊維の引張弾性率は100GPa以上170GPa以下の範囲内である
請求項1に記載の繊維強化樹脂成形体。
【請求項5】
前記ポリイミド繊維は、
3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物およびパラフェニレンジアミンを重合して得られるポリイミド前駆体を加熱して得られる
請求項1に記載の繊維強化樹脂成形体。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂成形体を備える製品。
【請求項7】
前記製品は、輸送機器、音響/映像機器、産業用機器、空調機器、自動車器材、建築構造材料、風力ブレード、無人機器、スポーツ用品および福祉用具より成る群から選択される
請求項6に記載の製品。
【請求項8】
前記スポーツ用品は、ゴルフクラブ、スキー板、スノーボード、テニスラケット、バトミントンラケット、スカッシュラケット、アイスホッケースティックおよびスポーツバイクより成る群から選択される
請求項7に記載の製品。
【請求項9】
前記無人機器は、ロボットアーム、ドローンおよびラジオコントロール機より成る群から選択される
請求項7に記載の製品。
【請求項10】
請求項1から5のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂成形体を製造するために使用される、ポリイミド繊維と、樹脂もしくは樹脂前駆体とを備えるプリプレグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた機械的特性と制振性とを兼ね備える繊維強化樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂に強化繊維を含有させた繊維強化複合樹脂材料は、輸送機械および家庭用電気機器などの部材、建築部材などに広く用いられている。一般に、柔らかい材料からなる部材は、制振性が高い。このため、樹脂として、柔らかい樹脂や、ゴムを含ませた樹脂を用いると、制振性を高めることができる。しかしながら、樹脂として、そのような樹脂を用いると、剛性や強度が著しく低下してしまう。
【0003】
そのため、制振性を維持しながら良好な剛性や強度等を有する繊維強化樹脂成形体を提供することを目的として、エポキシ樹脂などの樹脂をガラス繊維や炭素繊維などの強化繊維で強化した繊維強化樹脂成形体が提案されている。このような繊維強化樹脂成形体は、軽量で剛性が高く、また強度にも優れることから輸送機械および家庭用電気機器などの部材、建築部材に加えてスポーツ用品、自動車産業、航空機産業などで幅広く用いられている。
【0004】
また、最近、テニスラケットやゴルフクラブにおける打球時の感触、フィーリングを良好なものとするためにテニスラケットやゴルフクラブに制振性が求められている。また、ロケットの構造部材には、より高い強度のみならず、打ち上げ時の電子機器の共振破壊を抑えるために制振性が求められている。壁、屋根等の建材においても、主に防音の観点から振動制御は重要な課題であり、また耐震構造を得るためにも制振性は欠かせない観点である。さらに、近年、風力エネルギーを利用するため、風車ブレードを繊維強化樹脂成形体とすることが増えているが、風車ブレードの振動による騒音がしばしば問題となっており、風車ブレードにおいても制振性が求められている。
【0005】
ところで、特許文献1には、繊維強化樹脂製のシャフトの長手方向の少なくとも一部に、金属繊維の編組でできた振動減衰層を有するゴルフクラブシャフトが開示されている。また、特許文献2には、繊維強化樹脂層間または繊維強化樹脂層の最内層の内面に、ポリエステルフィルムを1層以上有するゴルフクラブシャフトが開示されている。
【0006】
また、特許文献3には、特定のエポキシ樹脂と、そのエポキシ樹脂に非相溶なゴム粒子と、ポリビニルホルマールとを含むエポキシ樹脂組成物をマトリックス樹脂として使用した繊維強化複合材料製のテニスラケットが開示されている。この繊維強化複合材料では、エポキシ樹脂に非相溶なゴム粒子が、強化繊維束内部にまで入り込むと同時に、強化繊維によってある程度のゴム粒子が濾過され、プリプレグの内部より表面により多くのゴム成分が存在する。すなわち、積層後はプリプレグの層間に多くのゴム成分を存在させることができる。このテニスラケットは、エポキシ樹脂に可溶なゴム微粒子を用いて均一にゴム成分が存在した繊維強化複合材料で作製される場合に比べて、より高い制振性を示し、打撃感に優れる。しかし、この繊維強化複合材料では強化繊維束内部にまでエポキシ樹脂に比べて弾性率の低いゴム粒子が入り込んでしまう。このため、強化繊維束中のマトリックス樹脂弾性率が低下して、テニスラケットの剛性や強度が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2009-261473号公報
【文献】特開2008-237373号公報
【文献】特開2003-012889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述した背景技術における問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は、優れた機械的特性と制振性とを兼ね備えた制振性繊維強化樹脂成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1局面に係る繊維強化樹脂成形体は、ポリイミド繊維および樹脂を備える。ポリイミド繊維の繊維径は10.0μm以上18.0μm以下の範囲内である。繊維強化樹脂成形体におけるポリイミド繊維の体積含有率は40%以上70%以下の範囲内である。測定温度23℃での繊維強化樹脂成形体の6400Hz以下の固有振動数における振動減衰の損失係数は0.005以上である。
【0010】
なお、本発明の第1局面に係る繊維強化樹脂成形体において、ポリイミド繊維の引張強度は2.5GPa以上3.5GPa以下の範囲内であることが好ましい。
【0011】
また、本発明の第1局面に係る繊維強化樹脂成形体において、ポリイミド繊維引張弾性率は100GPa以上170GPa以下の範囲内であることが好ましい。
【0012】
本発明の第2局面に係る製品は、上述の繊維強化樹脂成形体を備える。
【0013】
なお、本発明の第2局面に係る製品は、輸送機器、音響/映像機器、産業用機器、空調機器、自動車器材、建築構造材料、風力ブレード、無人機器、スポーツ用品および福祉用具より成る群から選択されることが好ましい。上述のスポーツ用品は、ゴルフクラブ、スキー板、スノーボード、テニスラケット、バトミントンラケット、スカッシュラケット、アイスホッケースティックおよびスポーツバイクより成る群から選択されることが好ましい。また、上述の無人機器は、ロボットアーム、ドローンおよびラジオコントロール機より成る群から選択されることが好ましい。
【0014】
本発明の第3局面に係るプリプレグは、上述の繊維強化樹脂成形体を製造するために使用される。そして、このプリプレグは、ポリイミド繊維と、樹脂もしくは樹脂前駆体を備える。なお、ここにいう「樹脂前駆体」とは、硬化前の単量体組成物(架橋剤などを含む場合がある。)や、ポリマー前駆体などである。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る繊維強化樹脂成形体は、ポリイミド繊維を特定量含んでいることによって、従来の炭素繊維強化樹脂成形体やガラス繊維強化樹脂成形体よりも、振動減衰特性が向上し制振性に優れているだけでなく、十分な機械的特性も兼ね備えている。本発明に係る繊維強化樹脂成形体は、振動減衰性が高く、剛性および強度を低下させることなく制振性を向上させることができるため、輸送機器の振動軽減、音響機器の高振動減衰、ゴルフクラブの打球感改善、テニスラケットの衝撃吸収性向上、釣り竿の魚信感度向上、建築物の耐震性向上、電子機械の共振破壊の抑制等に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<本発明の実施の形態に係る繊維強化樹脂成形体の構成>
本発明の実施の形態に係る繊維強化樹脂成形体は、主に、ポリイミド繊維および樹脂から成っている。
【0017】
上述のポリイミド繊維は、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンの重合反応により得られることが好ましい。芳香族テトラカルボン酸二無水物は、ピロメリット酸二無水物および3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の少なくとも一方であることが好ましい。芳香族ジアミンは、4,4′-ジアミノジフェニルエーテルおよびパラフェニレンジアミンの少なくとも一方であることが好ましい。
【0018】
また、上述のポリイミド繊維は、長繊維であってもよいし、任意の長さにカットされた短繊維であってもよい。また、上述のポリイミド繊維は、得られる繊維強化樹脂成形体の機械強度を高く維持する観点から、10.0μm以上18.0μm以下の範囲内の繊維径を有する。また、ポリイミド繊維の引張強度が2.5GPa以上3.5GPa以下の範囲内であることで機械強度が高く維持される。なお、ポリイミド繊維の引張強度は、3.0GPa以上3.5GPa以下の範囲内であることがより好ましい。また、ポリイミド繊維の引張弾性率が100GPa以上170GPa以下の範囲内であることで繊維強化樹脂成形体の制振特性を高く維持することができる。なお、ポリイミド繊維の引張弾性率は、100GPa以上150GPa以下の範囲内であることがより好ましい。
【0019】
本発明の実施の形態に係る繊維強化樹脂成形体におけるポリイミド繊維の体積含有率が40%以上70%以下の範囲内であることで、制振特性が高く、機械強度も高く維持される。ポリイミド繊維の体積含有率は、40%以上65%以下の範囲内であることがより好ましく、45%以上65%以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0020】
上述の樹脂としては、熱硬化性樹脂であることが好ましい。熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂、ウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、シアネートエステル樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。なお、熱硬化性樹脂は、共重合体、変性体、あるいは2種以上の樹脂を混合した樹脂であってもよい。一方、上述の樹脂は熱可塑性樹脂であってもよい。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオキシメチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアクリレート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、フッ素系樹脂、上記のエラストマー樹脂等が挙げられる。なお、熱可塑性樹脂は、共重合体、変性体、あるいは2種以上の樹脂を混合した樹脂であってもよい。上述の樹脂の中でも、接着性の良好なバランスの観点から、エポキシ樹脂やポリイミド樹脂がより好ましい。また、本発明の主旨を損なわない範囲で、樹脂中に、難燃剤、耐光剤、紫外線吸収剤、平滑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、離型剤、可塑剤、着色剤、抗菌剤、顔料、導電剤、シランカップリング剤、無機系コーティング剤など機能剤が添加されてもよい。
【0021】
上述のエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、およびこれらのエポキシ樹脂構造体中の水素原子の一部をハロゲン化することにより難燃化したエポキシ樹脂等が挙げられる。また、このエポキシ樹脂の硬化剤としては、例えば、ジシアンジアミドや脂肪族ポリアミド等のアミド系硬化剤、ジアミノジフェニルメタンやトリエチレンジアミン等のアミン系硬化剤、フェノールノボラック樹脂やビスフェノールA型ノボラック樹脂等のフェノール系硬化剤、酸無水物系化合物、メルカプタン系化合物、フェノール樹脂、アミノ樹脂類等が挙げられる。
【0022】
また、上述のポリイミド樹脂としては、例えば、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンからなるポリイミド樹脂が挙げられる。芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、2,2-ビス[3,4-(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物(BPADA)、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、オキシジフタル酸無水物(ODPA)、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホキシド二無水物、チオジフタル酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8-フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物や9,9-ビス[4-(3,4’-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]フルオレン二無水物等の芳香族テトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,4,5-テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、3,4-ジカルボキシ-1-シクロヘキシルコハク酸二無水物、3,4-ジカルボキシ-1,2,3,4-テトラヒドロ-1-ナフタレンコハク酸二無水物等が挙げられる。芳香族ジアミンとしては、例えば、4,4′-ジアミノジフェニルエーテル、パラフェニレンジアミン(PPD)、メタフェニレンジアミン(MPDA)、2,5-ジアミノトルエン、2,6-ジアミノトルエン、4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2-ビス(トリフルオロメチル)-4、4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン(MDA)、2,2-ビス-(4-アミノフェニル)プロパン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン(33DDS)、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン(44DDS)、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル(34ODA)、1,5-ジアミノナフタレン、4,4’-ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’-ジアミノジフェニルシラン、4,4’-ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(133APB)、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(134APB)、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPSM)、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPS)、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、2,2-ビス(3-アミノフェニル)1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン等が挙げられる。
【0023】
本発明の実施の形態に係る繊維強化樹脂成形体は、測定温度23℃での6400Hz以下の固有振動数における振動減衰の損失係数が0.005以上であることが好ましく、0.005以上0.050以下の範囲内であることがより好ましく、0.006以上0.050以下の範囲内であることがさらに好ましい。なお、ここで、測定温度23℃における固有振動数は、5200Hz以下であってもよいし、5150Hz以下であってもよいし、5100Hz以下であってもよいし、5050Hz以下であってもよいし、5000Hz以下であってもよいし、4950Hz以下であってもよい。
【0024】
さらに、本発明の実施の形態に係る繊維強化樹脂成形体は、例えば、繊維方向が全て同一方向であるとすると、繊維方向(繊維の長手方向)の引張強度が0.5GPa以上2.1GPa以下の範囲内であることが好ましい。このような繊維強化樹脂成形体は、建築材等として使用した場合、耐震性を示すのみならず、軽量で高い強度を示す。
【0025】
本発明の実施の形態に係る繊維強化樹脂成形体は、制振性を要する製品やその部品に応用することができる。そのような製品としては、例えば、輸送機器、音響/映像機器、産業用機器、空調機器、自動車器材、建築構造材料、風力発電機、無人機器、スポーツ用品、福祉用具などが挙げられる。部品としては、例えば、風力発電機のブレードなどが挙げられる。なお、ここで、スポーツ用品としては、例えば、ゴルフクラブ、スキー板、スノーボード、テニスラケット、バトミントンラケット、スカッシュラケット、アイスホッケースティック、スポーツバイクなどが挙げられる。なお、ゴルフクラブでは、その部品であるゴルフシャフトに本発明の実施の形態に係る繊維強化樹脂成形体が応用され得る。スポーツバイクでは、その部品であるフレームに本発明の実施の形態に係る繊維強化樹脂成形体が応用され得る。また、無人機器としては、例えば、ロボットアーム、ドローン、ラジオコントロール機などが挙げられる。なお、これらの無人機器では、その部品である筐体などに本発明の実施の形態に係る繊維強化樹脂成形体が応用され得る。また、福祉用具としては、例えば、義肢、杖、車椅子などが挙げられる。なお、これらの車椅子では、その部品であるフレームなどに本発明の実施の形態に係る繊維強化樹脂成形体が応用され得る。
【0026】
<本発明の実施の形態に係る繊維強化樹脂成形体の製造方法>
本発明の実施の形態に係る繊維強化樹脂成形は公知の方法で行うことができる。かかる方法としては、例えば、ハンドレイアップ法、レジンインジェクション法、BMC材料やSMC材料を用いたプレス法や射出成型法、連続引き抜き成形(プルトルージョン)法、オートクレーブ成形法などが挙げられる。なお、これらの方法は、目的とする形状や、マトリックス樹脂の種類(例えば、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂など)に応じて選択され得るが、上述の方法の中でも特にオートクレーブ成形法が好ましい。
【0027】
例えば、一方向引き揃えプリプレグシート(以下、「UDプリプレグ」と称する)を用いて繊維強化樹脂成形体を製造しようとする場合は、次の方法によって繊維強化樹脂成形体を製造することができる。まず、熱硬化樹脂と硬化剤とを混合して混合物を得た後に、その混合物を塗付した第1離型紙を、混合物の塗布面が上側を向くようにしてあらかじめ巻きつけたドラムワインダーに、ポリイミド繊維を所望の目付となるように巻きつけた後、さらにその上から上述の混合物を塗布した第2離型紙を、混合物の塗布面が下側を向くようにして貼り合せる。次に、これを中間硬化状態まで加熱乾燥させてUDプリプレグを製造する。なお、UDプリプレグの製造方法は、例えば、(a)フィラメントワインディング法、(b)繊維基材に樹脂を含浸させた後、加熱乾燥させるディッピング法、(c)樹脂を塗布したシートに引き揃えた繊維を加熱加圧するホットメルト法などであってもよい。また、一方向引き揃えプリプレグシートを製造する際、ポリイミド繊維以外の強化繊維がポリイミド繊維に混合されてもよい。最後に、用途に則した設計に応じてUDプリプレグを積層し、その積層物を真空下で加熱加圧することによって、繊維強化樹脂成形体が製造される。
【0028】
<実施例および比較例>
以下、具体的に実施例および比較例について説明するが、本発明は、これら実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0029】
1.ポリイミド繊維の作製
136gのパラフェニレンジアミン(PPD)と、N-メチルピロリドン2,224gとを反応容器に投入し、PPDをN-メチルピロリドンに溶解させた。次に、259.0gの3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)と、82.30gのピロメリット酸二無水物(PMDA)とを上述の反応容器に投入して、室温でPMDAとPPDを重合させた。その結果、濃度が17.7質量%のポリイミド前駆体溶液が得られた。次に、このポリイミド前駆体溶液に、1,3-ジアゾール21.41gをN-メチルピロリドン40.41gに溶解させた溶液を加え、紡糸用ポリイミド前駆体溶液を調製した。次いで、紡糸用吐出機を用いて、この紡糸用ポリイミド前駆体溶液を、水を主成分として含む凝固浴中に吐出させてポリイミド前駆体繊維を得た。続いてこのポリイミド前駆体繊維を水洗した後に延伸、加熱してポリイミド繊維を得た。
【0030】
得られたポリイミド繊維の繊維径および引張物性を以下の方法で測定した。
【0031】
(1)繊維径
サーチ株式会社製のオートバイブロ式繊度測定器DC21を用いて、上述の通りにして得られたポリイミド繊維の繊度を測定した。測定された繊度とポリイミド繊維の比重からポリイミド繊維の繊維径を求めたところその値は14μmであった。
【0032】
(2)引張物性
「JISR7607」に準拠した方法で、上述の通りにして得られたポリイミド繊維の引張弾性率(cN/dtex)および引張強度(cN/dtex)を測定した。そして、弾性率(cN/dtex)×比重÷10の換算式より、同ポリイミド繊維の引張弾性率(GPa)を求めた。一方、強度(cN/dtex)×比重÷10の換算式より、同ポリイミド繊維の引張強度(GPa)を求めた。その結果、ポリイミド繊維の引張弾性率は137GPaであり、引張強度は3.1GPaであった。
【0033】
2.繊維強化樹脂成形体の作製
上述の通りにして得られたポリイミド繊維を繊維目付116g/m2となるように一定方向に引き揃えた後、その引き揃えられたポリイミド繊維に、エポキシ主剤(三菱ケミカル株式会社製のJER828)100質量部と硬化剤(株式会社ADEKA製のADEKAハードナーEH-3636AS)8質量部を混合したエポキシ樹脂組成物を含浸させ、その組成物含浸ポリイミド繊維を恒温槽にて120℃で30分加熱することでUDプリプレグを作製した。次に、得られたUDプリプレグを繊維方向が同一になるよう15枚積層した後に、その積層物をプレート状金型に挟んで真空バギングし、その積層物をオートクレーブにおいて130℃で90分、6気圧で加熱加圧することで繊維強化樹脂成形体を得た。なお、この際、オートクレーブの昇降温速度は2℃/分であった。得られた繊維強化樹脂成形体の厚みは1.93mmであり、ポリイミド繊維の体積含有率は60%であった。
【0034】
なお、ポリイミド繊維の体積含有率Vfは下式(1)により求めた。
Vf=Faw×N/ρ/T/10・・・(1)
なお、ここで、Fawはポリイミド繊維の目付(g/m2)であり、NはUDプリプレグの積層枚数であり、ρはポリイミド繊維の密度(g/cm3)であり、Tは繊維強化樹脂成形体の厚み(mm)である。ここで、ポリイミド繊維の密度は1.5g/cm3である。
【0035】
得られた繊維強化樹脂成形体の振動減衰の損失係数および引張物性を以下の方法で測定した。
【0036】
(1)振動減衰の損失係数の測定
JIS K7391に準拠した方法を用いて、損失係数測定(中央加振法)により繊維強化樹脂成形体の振動減衰の損失係数を測定した。より具体的には、ブリュエル・ケアー社製のPULSEアナライザ(ハードウェア:LAN-XI、ソフトウェア:PULSE Labshop、MS18143)を用いて、測定温度を23℃に設定すると共に、測定上限周波数を6400Hzに設定して、繊維強化樹脂成形体の固有振動数(周波数)における損失係数を測定した。
【0037】
その結果、156Hzの固有振動数(周波数)における振動減衰の損失係数は0.00747であり、953Hzの固有振動数(周波数)における振動減衰の損失係数は0.00910であり、2598Hzの固有振動数(周波数)における振動減衰の損失係数は0.00933であり、4930Hzの固有振動数(周波数)における振動減衰の損失係数は0.00959であった。
【0038】
(2)引張物性
万能材料試験機(島津製作所製、AG-50kNXplus)を用いて、ASTM-D3039に準拠した方法で、得られた繊維強化樹脂成形体の引張試験を行った。その結果、繊維強化樹脂成形体の繊維方向(繊維の長手方向)の引張強度は1.55GPaであり、引張弾性率は44.8GPaであった。
【実施例2】
【0039】
実施例1で得られたポリイミド繊維を繊維目付117g/m2となるように一定方向に引き揃えた後、その引き揃えられたポリイミド繊維に、エポキシ主剤(三菱ケミカル株式会社製のJER828)100質量部と硬化剤(三菱ケミカル株式会社製のJERキュアW)25質量部を混合したエポキシ樹脂組成物を含浸させ、その組成物含浸ポリイミド繊維を恒温槽にて150℃で15分加熱することでUDプリプレグを作製した。次に、得られたUDプリプレグを繊維方向が同一になるよう15枚積層した後に、その積層物をプレート状金型に挟んで真空バギングし、その積層体を試験用小型プレス機(東洋精機製作所製、MINI TEST PRESS-10)を用いて175℃で4時間、10気圧で加熱加圧することで繊維強化樹脂成形体を得た。得られた繊維強化樹脂成形体の厚みは1.93mmであり、ポリイミド繊維の体積含有率は61%であった。
【0040】
上述の通りにして得られた繊維強化樹脂成形体の振動減衰の損失係数を実施例1に示される方法と同様の方法で測定したところ、162Hzの固有振動数(周波数)における振動減衰の損失係数は0.00665であり、1003Hzの固有振動数(周波数)における振動減衰の損失係数は0.00825であり、2736Hzの固有振動数(周波数)における振動減衰の損失係数は0.01022であり、5141Hzの固有振動数(周波数)における振動減衰の損失係数は0.01248であった。また、同繊維強化樹脂成形体の引張物性を実施例1に示される方法と同様の方法で測定したところ、引張弾性率は1.58GPaであり、引張強度は45.5GPaであった。
【0041】
(比較例1)
ポリイミド繊維をガラス繊維(日東紡績株式会社製のECG150 1/0)に代えた以外は、実施例2に示される方法と同様の方法で繊維強化樹脂成形体を得た。得られた繊維強化樹脂成形体の厚みは1.94mmであり、ガラス繊維の体積含有率は61%であった。また、同繊維強化樹脂成形体の振動減衰の損失係数および引張物性を実施例1に示される方法と同様の方法で測定した結果、93Hzの固有振動数(周波数)における振動減衰の損失係数は0.00228であり、583Hzの固有振動数(周波数)における振動減衰の損失係数は0.00252であり、1623Hzの固有振動数(周波数)における振動減衰の損失係数は0.00328であり、3158Hzの固有振動数(周波数)における振動減衰の損失係数は0.00461であり、引張強度は1.56GPaであり、引張弾性率は36.6GPaであった。
【0042】
(比較例2)
一方向材である炭素繊維プリプレグ(東レ株式会社製のP3252S-17)を12枚積層し、実施例1に示される方法と同様の方法でその積層体を加熱加圧して繊維強化樹脂成形体を得た。得られた繊維強化樹脂成形体の厚みは1.93mmであり、炭素繊維の体積含有率は60%であった。また、同繊維強化樹脂成形体の振動減衰の損失係数および引張物性を実施例1に示される方法と同様の方法で測定した結果、174Hzの固有振動数(周波数)における振動減衰の損失係数は0.00108であり、1087Hzの固有振動数(周波数)における振動減衰の損失係数は0.00082であり、3005Hzの固有振動数(周波数)における振動減衰の損失係数は0.00148であり、5778Hzの固有振動数(周波数)における振動減衰の損失係数は0.00257であり、引張強度は2.4GPaであり、引張弾性率は110.4GPaであった。
【0043】
本発明は、上述した形態および各実施例に限定されるものではない。本発明に係る繊維強化樹脂成形体は、優れた制振特性を顕在化させたものであって、輸送機器、音響/映像機器、産業用機器、空調機器、自動車器材、建築構造材料、風力ブレード、無人機器、スポーツ用品、福祉用具の群から選択される製品に応用することができる。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。