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特許7584856無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサン、前記無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサンを含む付加硬化型シリコーン組成物、及びそれらの使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサン、前記無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサンを含む付加硬化型シリコーン組成物、及びそれらの使用
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/21 20060101AFI20241111BHJP
   C08L 83/06 20060101ALI20241111BHJP
   C08L 83/07 20060101ALI20241111BHJP
   C09J 183/04 20060101ALI20241111BHJP
   C09J 183/05 20060101ALI20241111BHJP
   C09J 183/07 20060101ALI20241111BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20241111BHJP
【FI】
C07F7/21 CSP
C08L83/06
C08L83/07
C09J183/04
C09J183/05
C09J183/07
C07B61/00 300
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020070455
(22)【出願日】2020-04-09
(65)【公開番号】P2021167282
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2023-04-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000221111
【氏名又は名称】モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】谷川 英二
(72)【発明者】
【氏名】高梨 正則
(72)【発明者】
【氏名】宮田 浩司
【審査官】谷尾 忍
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-204287(JP,A)
【文献】特開平11-012471(JP,A)
【文献】国際公開第2020/053357(WO,A1)
【文献】特開2016-079129(JP,A)
【文献】特開2021-167283(JP,A)
【文献】特開2013-032498(JP,A)
【文献】特開2008-169386(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 7/21
C07F 7/18
C08L 83/07
C08L 83/06
C09J 183/04
C09J 183/07
C09J 183/05
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサン。
【化24】

(式中、
は、独立して、フッ素原子を含有しない1価の炭化水素基であり、
は、独立して、炭素数2~10の2価の炭化水素基であり、
は、独立して、炭素数2の2価の炭化水素基であるか、基:
【化25】

であり、ここで、
は、dで括られたシロキサン単位中のケイ素原子とエステル結合との間に2個以上の炭素原子を有する炭素鎖を形成する、直鎖状又は分岐状のアルキレン基を表し、
は、酸素原子とSiR 3-n(ORとの間に3個以上の炭素原子を有する炭素鎖を形成する、直鎖状又は分岐状のアルキレン基を表し、
及びRは、それぞれ独立して、炭素原子数1~4のアルキル基であり、
nは、1~3の整数であり、
aは、0又は1以上の整数であり、
bは、1又は2の整数であり、
cは、1の整数であり、
dは、1以上の整数である)
【請求項2】
a+b+c+dが3~8の整数である、請求項1に記載の無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサン。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサンを用いた、接着助剤。
【請求項4】
(A)ケイ素原子に結合したアルケニル基を、分子中に2個以上有するポリオルガノシロキサン;
(C)白金系触媒;及び
(D)請求項1又は2に記載の無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサン;
を含み、任意として、(B)ケイ素原子に直接結合した水素原子を、分子中に3個以上有するポリオルガノハイドロジェンシロキサンを含む、付加硬化型シリコーン組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の付加硬化型シリコーン組成物を用いた、接着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサン、前記無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサンを含む付加硬化型シリコーン組成物、及びそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
付加硬化型のシリコーン接着剤組成物は、室温又は、必要に応じて加熱することで硬化して各種被着体に対する接着性を発現する。そして、付加型シリコーンは車載電子部品等の接着剤、ポッティング剤として使用されている。また、基材への接着性を向上させるために、接着助剤を用いることが行われている。特許文献1には、含フッ素接着剤の接着助剤として、ヒドロシリル基(ケイ素原子に直接結合した水素原子)を含有し、かつ、ビスフェノールAを骨格に有する有機ケイ素化合物が提案されている。また、特許文献2には、オルガノシロキサン組成物の接着助剤として、加水分解性シリル基と2個以上の無水コハク酸基とを有する環状オルガノシロキサンが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-114793号公報
【文献】特開2013-32498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アルミニウム、アルミダイキャスト等の金属、及びPPS、PBT、PETのようなエンジニアリングプラスチックを付加硬化型シリコーン接着剤組成物で接着させる要求が高まっている。本発明者らの知見によれば、特許文献1及び2に記載された接着助剤は、接着助剤としての機能が十分ではなかった。即ち、特許文献1及び2に記載された接着助剤を含むシリコーン組成物は、PPSを含む各種エンジニアリングプラスチックや金属に対する接着性が十分でないという問題があった。
【0005】
本発明は、様々な基材に対する接着性に優れ、外観が良好な硬化物を与える接着付与剤として機能する環状オルガノシロキサンを提供することを目的とする。また、本発明は、前記環状オルガノシロキサンを含む、様々な基材に対する接着性に優れ、外観が良好な硬化物を与える付加硬化型シリコーン組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の[1]~[5]に関する。
[1]下記一般式(1)で示される無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサン。
【化1】

(式中、
は、独立して、フッ素原子を含有しない1価の炭化水素基であり、
は、独立して、炭素数2~10の2価の炭化水素基であり、
は、独立して、Rと同義であるか、下記一般式(2)で示される基:
【化2】

であり、ここで、
は、dで括られたシロキサン単位中のケイ素原子とエステル結合との間に2個以上の炭素原子を有する炭素鎖を形成する、直鎖状又は分岐状のアルキレン基を表し、
は、酸素原子とSiR 3-n(ORとの間に3個以上の炭素原子を有する炭素鎖を形成する、直鎖状又は分岐状のアルキレン基を表し、
及びRは、それぞれ独立して、炭素原子数1~4のアルキル基であり、
nは、1~3の整数であり、
aは、0又は1以上の整数であり、
bは、1以上の整数であり、
cは、1の整数であり、
dは、1以上の整数である)
[2]a+b+c+dが3~8の整数である、[1]の無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサン。
[3][1]又は[2]の無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサンを用いた、接着助剤。
[4](A)ケイ素原子に結合したアルケニル基を、分子中に2個以上有するポリオルガノシロキサン;
(C)白金系触媒;及び
(D)[1]又は[2]の無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサン;
を含み、任意として、(B)ケイ素原子に直接結合した水素原子を、分子中に3個以上有するポリオルガノハイドロジェンシロキサンを含む、付加硬化型シリコーン組成物。
[5][4]の付加硬化型シリコーン組成物を用いた、接着剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明によって、様々な基材に対する接着性に優れ、外観が良好な硬化物を与える接着付与剤として機能する環状オルガノシロキサンが提供される。また、本発明によって、前記環状オルガノシロキサンを含み、様々な基材に対する接着性に優れる付加硬化型シリコーン組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[用語の定義]
シロキサン化合物の構造単位を、以下のような略号によって記載することがある(以下、これらの構造単位をそれぞれ「M単位」「D単位」等ということがある)。
:Si(CH1/2
:SiH(CH1/2
Vi:Si(CH=CH)(CH1/2
:Si(CH2/2
:SiH(CH)O2/2
Vi:Si(CH=CH)(CH)O2/2
:Si(CH)O3/2
:SiO4/2(四官能性)
【0009】
本明細書において、基の具体例は以下のとおりである。
1価の炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基及びアルケニル基が挙げられる。脂肪族不飽和結合を有しない1価の炭化水素基としては、アルケニル基以外の前記した1価の炭化水素基が挙げられる。
【0010】
アルキル基は、炭素原子数1~18の直鎖又は分岐状の基であり、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基及びオクタデシル基等が挙げられる。
シクロアルキル基は、炭素原子数3~20の単環又は多環の基であり、シクロペンチル基及びシクロヘキシル基等が挙げられる。
アリール基は、炭素原子数6~20の単環又は多環の基を含む芳香族基であり、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
アラルキル基は、アリール基で置換されたアルキル基であり、2-フェニルエチル基、2-フェニルプロピル基等が挙げられる。
アルケニル基は、炭素原子数2~6の直鎖又は分岐状の基であり、ビニル基、アリル基、3-ブテニル基及び5-ヘキセニル基等が挙げられる。
1価の炭化水素基は、非置換又は置換基で置換されていてもよい。置換基としては、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子;シアノ基等が挙げられる。ハロゲン原子で置換された1価の炭化水素基としては、クロロメチル基、クロロフェニル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基等が挙げられる。シアノ基で置換された1価の炭化水素基としては2-シアノエチル基等が挙げられる。
【0011】
フッ素原子を含有しない1価の炭化水素基としては、非置換又は前記した置換基(ただし、フッ素原子を除く)で置換された、前記した1価の炭化水素基が挙げられる。
【0012】
2価の炭化水素基としては、前記した1価の炭化水素基から水素原子を除いた基であり、アルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基、アラルキレン基及びアルケニレン基が挙げられる。
アルキレン基は、炭素原子数1~18の直鎖又は分岐状の基であり、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、2-メチルエチレン基、テトラメチレン基等が挙げられる。
2価の炭化水素基は、非置換又は前記した置換基で置換されていてもよいが、フッ素原子を含有しないことが好ましい。
【0013】
[無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサン]
無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサン(以下、「環状オルガノシロキサン」ともいう。)は、下記一般式(1)で示される。
【化3】

(式中、R、R、R、R、R、a、b、c、d及びnは、前記したとおりである)
【0014】
無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサンは、特に、150℃1時間又は100℃2時間の硬化条件において、様々な基材に対する接着性に優れ、外観が良好な硬化物を与える、付加硬化型シリコーン組成物のための接着付与剤として機能する。また、無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサンは、特に、150℃1時間の硬化条件において、外観が良好な硬化物を与える接着付与剤として機能する。即ち、無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサンからなる接着助剤を含む、付加硬化型シリコーン組成物の硬化物は、表面が平滑であり、かつ表面に液体の滲みだしがない。また、無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサンは、加熱後においても外観が良好な硬化物を与える接着付与剤としても機能する。即ち、無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサンからなる接着助剤を含む、付加硬化型シリコーン組成物の硬化物を、更に加熱した場合においても、黄変が抑えられた外観を有する。
【0015】
無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサンは、ランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよく、それらの組み合わせであってもよい。式(1)中、a~dは、a~dで定義された各単位が存在する数を示すものである。式(1)中、a~dで定義された単位はそれぞれ同一又は異なっていてもよい。
【0016】
は、独立して、フッ素原子を含有しない1価の炭化水素基である。Rは、フッ素原子を含有しないアルキル基であることが好ましく、非置換のアルキル基であることがより好ましく、非置換の炭素原子数1~4のアルキル基であることが更に好ましく、メチル基であることが特に好ましい。
【0017】
は、独立して、炭素数2~10の2価の炭化水素基である。Rは、アルキレン基であることが好ましく、エチレン基、トリメチレン基、2-メチルエチレン基であることが特に好ましい。
【0018】
は、Rと同義であるか、下記一般式(2)で示される基である。
【化4】

は、dで括られたシロキサン単位中のケイ素原子とエステル結合との間に2個以上の炭素原子を有する炭素鎖を形成する、直鎖状又は分岐状のアルキレン基を表し、Qは、酸素原子とSiR 3-n(ORとの間に3個以上の炭素原子を有する炭素鎖を形成する、直鎖状又は分岐状のアルキレン基を表す。
【0019】
は、合成及び取扱いが容易である点から、エチレン基(-CHCH-)及び2-メチルエチレン基(-CHCH(CH)-)が好ましい。Qは、合成及び取扱いが容易なことから、トリメチレン基(-CHCHCH-)であることが好ましい。
【0020】
及びRは、それぞれ独立して、炭素原子数1~4のアルキル基である。Rは、合成が容易である点から、メチル基及びエチル基であることが好ましく、メチル基であることが特に好ましい。Rは、良好な接着性を与え、かつ加水分解によって生じるアルコールが揮発しやすい点から、メチル基及びエチル基であることが好ましく、メチル基であることが特に好ましい。
【0021】
は、Rと同義であることが好ましく、アルキレン基であることが特に好ましい。Rが前記好ましい選択肢である場合、付加硬化型シリコーン組成物の接着助剤として用いた場合に、シリコーン組成物に含まれる不飽和基を有するポリオルガノシロキサンが、ケイ素原子に直接結合した水素原子へ付加反応がし易くなる。
【0022】
nは、1~3の整数である。nは、良好な接着性を与える点から、2~3の整数であることが好ましい。
【0023】
aは、0又は1以上の整数である。aは、合成及び取扱いが容易である点から、0又は1~3の整数であることが好ましく、0又は1~2の整数であることが特に好ましい。
【0024】
bは、1以上の整数である。bが1以上の整数であることで、無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサンは、付加反応に関与するヒドロシリル基(ケイ素原子に直接結合した水素原子)を有する。bは、接着性を付与する成分としてシリコーン組成物と各種接着させる部材との橋渡しとして作用する点、場合によっては、環状オルガノシロキサン成分単体でシリコーン組成物の架橋点になる点から、1~5の整数であることが好ましく、1~3の整数であることが特に好ましい。bが0である場合、橋渡しの効果がなく、接着性が乏しくなる。即ち、そのような含有環状オルガノシロキサンは、接着助剤としての機能が劣る。一方、bが5以下の整数である無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサンを含むシリコーン組成物は、ゴムの弾性に優れる硬化物が得られる。
【0025】
cは、1の整数である。cが1の整数であることで、環状オルガノシロキサンは、無水コハク酸基を含有する。cが2以上の整数であると、無水コハク酸基の数が多くなりすぎるためシリコーン組成物への相溶性が悪くなり分離等による貯蔵安定性が悪くなる、またそのような無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサンを含むシリコーン組成物は、様々な基材に対する接着性に劣る硬化物が得られる。即ち、そのような含有環状オルガノシロキサンは、接着助剤としての機能が劣る。
【0026】
dは、1以上の整数である。dが1以上の整数であることで、無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサンは、加水分解反応に関与する加水分解性シリル基を有する。dは、特に金属・セラミックス等の無機部材への接着性付与の点から、1~5の整数であることが好ましく、1~3の整数であることが特に好ましい。dが前記範囲である無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサンを含むシリコーン組成物は、適切な硬さを有する硬化物が得られる。また、シリコーン組成物への相溶性が良く分離等を起こしにくく貯蔵安定性に優れる。
【0027】
また、a+b+c+dは、3以上の整数である。a+b+c+dが3以上の整数であることで、主骨格が環状オルガノシロキサンとなる。a+b+c+dは、合成が容易である観点から、3~8の整数であることが好ましく、3~6の整数であることが特に好ましい。即ち、a+b+c+dが3以上の整数である場合、原料となり得るD 8-aの環状体自体の合成が容易である。a+b+c+dが8以下の整数である場合、原料となり得るD 8-aを単離する際に、これに近い環状物(7員環や9員環)等の混合物から、目的物(D 8-a)を分離精製することが容易になる。これにより、純度が高い環状オルガノシロキサンを得ることができる。
【0028】
(無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサンの用途)
無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサンは、付加硬化型シリコーン組成物の接着性を向上させるための接着助剤として用いることができる。このような付加硬化型シリコーン組成物は、後述するとおりである。
【0029】
(無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサンの製造方法)
無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサンは、当業者に公知の方法又は類似の方法を利用することで調製することができる。無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサンの具体例としては、ケイ素原子に直接結合した水素原子を3つ以上有する環状シロキサンとビニルトリメトキシシラン又は3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランのような不飽和結合を有するアルコキシシランとを反応させ、次いで不飽和結合を有するコハク酸無水物と反応させることで、一般式(1)で示される構造のシロキサンを得る方法、又は、ケイ素原子に直接結合した水素原子を3つ以上有する環状シロキサンと不飽和結合を有するコハク酸無水物とを反応させ、次いでビニルトリメトキシシラン又は3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランのような不飽和結合を有するアルコキシシランとを反応させることで、一般式(1)で示される構造のシロキサンを得る方法が挙げられる。反応条件、精製方法等は当業者であれば適宜選択が可能である。高い純度の生成物が容易に得られる観点から、原材料であるケイ素原子に直接結合した水素原子を含有した環状体の合成や精製が容易である点から4員環であって、ケイ素原子に直接結合した水素原子を3つ有する環状シロキサンを用いた、aが1であり、a+b+c+dが4である、あるいは4つを有する環状シロキサンを用いたaが0であり、a+b+c+dが4である無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサンの製造方法であることが好ましい。
【0030】
[付加硬化型シリコーン組成物]
付加硬化型シリコーン組成物(以下、単に「シリコーン組成物」ともいう。)は、前記した無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサンを含む。シリコーン組成物が無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサンを含むため、様々な基材、特に金属(アルミニウム、アルミダイキャスト等)、及びエンジニアリングプラスチック(ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)、ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS樹脂)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)等)に対する優れた接着性を達成できる。
【0031】
シリコーン組成物は、ケイ素原子に結合したアルケニル基と、ケイ素原子に直接結合した水素原子との付加反応を利用して、架橋構造を形成できるシリコーン組成物であれば、特に限定されない。具体的には、シリコーン組成物は、以下の成分:
(A)ケイ素原子に結合したアルケニル基を、分子中に2個以上有するポリオルガノシロキサン;
(C)白金系触媒;及び
(D)前記の無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサン;
を含み、任意として、(B)ケイ素原子に直接結合した水素原子を、分子中に3個以上有するポリオルガノハイドロジェンシロキサン(但し、(D)成分を除く)を含む。
【0032】
本明細書において、「(A)ケイ素原子に結合したアルケニル基を、分子中に2個以上有するポリオルガノシロキサン」を「(A)成分」ともいう。「(C)白金系触媒」等についても同様である。
【0033】
(A)成分、(C)成分及び(D)成分を含み、任意として(B)成分を含むシリコーン組成物において、(D)成分が有するヒドロシリル基の数(即ち、b)及び(A)成分が有するアルケニル基の数に応じて、付加硬化型のシリコーン組成物とすることができる。具体的には、以下のとおりである。
(i)(A)成分が有するアルケニル基の数が2個以上である場合は、シリコーン組成物が更に(B)成分を含むことで、付加硬化型のシリコーン組成物とすることができる。この場合、(D)成分におけるbの値は1以上であることができる。
(ii)(A)成分が有するアルケニル基の数が2個を超える場合は、bの値が2以上である(D)成分を含むことで、付加硬化型のシリコーン組成物とすることができる。この場合、シリコーン組成物は、更に(B)成分を含んでいてもよく、bの値が1である(D)成分を含んでいてもよい。
(iii)(A)成分が有するアルケニル基の数が2個である場合は、bの値が3以上である(D)成分を含むことで、付加硬化型のシリコーン組成物とすることができる。この場合、シリコーン組成物は、更に(B)成分を含んでいてもよく、bの値が1又は2である(D)成分を含んでいてもよい。
このようなシリコーン組成物として、以下の第1、第2又は第3のシリコーン組成物が挙げられる。
【0034】
(第1のシリコーン組成物)
第1のシリコーン組成物は、bが1の整数である、無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサンを含む。この場合、第1のシリコーン組成物は、(A1)ケイ素原子に結合したアルケニル基を、分子中に2個以上有するポリオルガノシロキサン;(B)ケイ素原子に直接結合した水素原子を、分子中に3個以上有するポリオルガノハイドロジェンシロキサン;(C)白金系触媒;及び(D1)bが1の整数である、無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサンを含む。
【0035】
第1のシリコーン組成物は、(B)成分が、ケイ素原子に直接結合した水素原子を分子中に3個以上有するため、(D1)成分におけるbが1の整数であっても、(A1)成分及び(B)成分の架橋反応によって、硬化物を形成できる。なお、第1のシリコーン組成物は、bが2以上の整数である、(D)無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサンを含んでいてもよい。
【0036】
(第2のシリコーン組成物)
第2のシリコーン組成物は、bが2の整数である、無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサンを含む。この場合、第2のシリコーン組成物は、(A2)ケイ素原子に結合したアルケニル基を、分子中に2個を超える数で有するポリオルガノシロキサン;(C)白金系触媒;及び(D2)bが2の整数である、無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサンを含む。
【0037】
第2のシリコーン組成物は、(A2)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基の数が、分子中に2個を超えるため、bが2の整数であっても、架橋反応によって、硬化物を形成できる。なお、第2のシリコーン組成物は、更に、bが1又は3以上の整数である、(D)無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサンを含んでいてもよい。また、第2のシリコーン組成物は、更に、(B)ケイ素原子に直接結合した水素原子を、分子中に3個以上有するポリオルガノハイドロジェンシロキサンを含んでいてもよい。
【0038】
(第3のシリコーン組成物)
第3のシリコーン組成物は、bが3以上の整数である、無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサンを含む。この場合、第3のシリコーン組成物は、(A1)ケイ素原子に結合したアルケニル基を、分子中に2個以上有するポリオルガノシロキサン;(C)白金系触媒;及び(D3)bが3以上の整数である、無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサンを含む。
【0039】
第3のシリコーン組成物は、(D3)成分中のケイ素原子に直接結合した水素原子の数が、分子中に3個以上であるため、(A1)成分及び(D3)成分の架橋反応によって、硬化物を形成できる。なお、第3のシリコーン組成物は、bが1又は2である、(D)無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサンを含んでいてもよい。また、第3のシリコーン組成物は、(B)ケイ素原子に直接結合した水素原子を、分子中に3個以上有するポリオルガノハイドロジェンシロキサンを含んでいてもよい。
【0040】
第1、第2又は第3のシリコーン組成物に含まれる成分は、以下のとおりである。
【0041】
<(A1)ケイ素原子に結合したアルケニル基を、分子中に2個以上有するポリオルガノシロキサン>
(A1)ケイ素原子に結合したアルケニル基を、分子中に2個以上有するポリオルガノシロキサン(以下、「(A1)アルケニル基含有ポリオルガノシロキサン」ともいう。)は、シリコーン組成物において、ベースポリマーとなる成分である。(A1)成分のアルケニル基と(B)成分又は(D)成分のヒドロシリル基(ケイ素原子に直接結合した水素原子)との付加反応により、シリコーン組成物の硬化物において、網状構造が形成される。(A1)成分は、(B)成分及び/又は(D)成分と一緒に、前記網状構造を形成することができるものであれば、特に限定されない。(A)成分は、代表的には、一般式(I):
(R11(R12SiO(4-e-f)/2 (I)
(式中、
11は、アルケニル基であり、
12は、脂肪族不飽和結合を有しない1価の炭化水素基であり、
eは、1~3の整数であり、
fは、0~2の整数であり、ただし、e+fは1~3である)
で示されるアルケニル基含有シロキサン単位を、分子中に2個以上有する。(A1)におけるケイ素原子に結合したアルケニル基の数は、分子中に、2~100個であることが好ましく、2~50個であることがより好ましい。
【0042】
11は、合成が容易であり、また硬化前のシリコーン組成物の流動性の点から、ビニル基であることが好ましい。eは、合成が容易である点から、1であることが好ましい。R12は、合成が容易であって、機械的強度及び硬化前の流動性などの特性のバランスが優れているという点から、メチル基又はフェニル基であることが好ましく、メチル基であることが特に好ましい。また、硬化前のシリコーン組成物を基材に塗布する際に、流動性・チクソ性を制御できる観点から、メチル基のみを有するポリオルガノシロキサンとフェニル基及びメチル基を有するポリシロキサンを併用することができる。
【0043】
(A1)成分中の他のシロキサン単位のケイ素原子に結合した有機基としては、脂肪族不飽和結合を有しない1価の炭化水素基が挙げられる。前記有機基は、R12と同様の理由から、メチル基又はフェニル基であることが好ましく、メチル基であることが特に好ましい。
【0044】
11は、(A1)成分の分子鎖の末端又は途中のいずれに存在してもよく、その両方に存在してもよい。
【0045】
(A1)成分のシロキサン骨格は、直鎖状又は分岐状であることができる。即ち、(A)成分は、(A1-1)直鎖状のポリオルガノシロキサン又は(A1-2)分岐状のポリオルガノシロキサンであることができる。
【0046】
(A1-1)直鎖状のポリオルガノシロキサンとしては、両末端がRSiO1/2単位で封鎖され、中間単位がR12 SiO2/2単位である直鎖状ポリオルガノシロキサン(ここで、RはR11又はR12であり、R11は、アルケニル基であり、R12は、脂肪族不飽和結合を有しない1価の炭化水素基であり、分子中に2個以上のR11を含有する)が挙げられる。(A1-1)成分におけるRSiO1/2単位は、R1112 SiO1/2単位、R11 12SiO1/2単位又はR11 SiO1/2単位であることが好ましく、R1112 SiO1/2単位であることが特に好ましい。
【0047】
(A1-2)分岐状のポリオルガノシロキサンとしては、必須の単位としてSiO4/2単位とRSiO1/2単位を含み、並びに任意の単位としてRSiO2/2単位及び/又はRSiO3/2単位を含む、分岐状のポリオルガノシロキサンが挙げられる。ここで、RはR11又はR12であるが、R中、1分子あたり2個以上がR11である。硬化反応において架橋点となるように、R中、1分子あたり少なくとも3個のRがR11であり、残余がR12であることが好ましい。シリコーン組成物の硬化物が、優れた機械的強度を有する観点から、RSiO1/2単位とSiO4/2単位の比率は、モル比として、1:0.8~1:3の範囲の、常温で固体ないし粘稠な半固体の樹脂状のものが好ましい。
【0048】
(A1-2)成分において、R11は、RSiO1/2単位のRとして存在してもよく、RSiO単位又はRSiO3/2単位のRとして存在してもよい。
【0049】
(A1)成分の粘度は、23℃において、0.1~500Pa・sであることが好ましく、0.3~300Pa・sであることがより好ましく、0.5~200Pa・sであることが特に好ましい。(A1)成分の粘度が前記の範囲であると、効率的に様々な基材に対する接着性をより高めることができ、未硬化状態のシリコーン組成物が、良好な流動性を示して、注型やポッティングの際に優れた作業性を示し、シリコーン組成物の硬化物が、優れた機械的強度、及び適度の弾性と硬さを示す。また、室温でも接着性をより高める点から、(A1)成分の粘度は高いことが好ましい。ここで、(A1)成分が、2種以上の組合せである場合、(A1)成分の粘度とは、混合されたアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンの粘度を意味する。本明細書において、粘度は、JIS K 6249に準拠して、回転粘度計を用いて、スピンドル番号及び回転数を適宜設定し、23℃の条件で測定した値である。
【0050】
(A1)成分は、1種又は2種以上の組合せであってもよい。例えば、(A1)成分は、2種以上の(A1-1)直鎖状のアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンであってもよく、1種以上の(A1-1)直鎖状のアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンと1種以上の(A1-2)分岐状のアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンとの混合物であってもよい。
【0051】
(A1)成分としては、両末端がR1112 SiO1/2単位で封鎖され、中間単位がR12 SiO2/2単位であり、23℃における粘度が、0.1~500Pa・sである直鎖状ポリオルガノシロキサン(上記各式中、Rは、R11又はR12であり、R11は、アルケニル基であり、R12は、脂肪族不飽和結合を有しない1価の炭化水素基であり、分子中に2個以上のR11を含有する)と、必須の単位としてSiO4/2単位とRSiO1/2単位とを含み、及び任意の単位としてRSiO2/2単位及びRSiO3/2単位を含む、分岐状のポリオルガノシロキサン(RはR11又はR12であるが、R中、1分子あたり少なくとも3個のRがR11であり、残余がR12である)との組み合わせであることが好ましい。また、(A1)成分としては、両末端がMvi単位(ジメチルビニルシロキサン単位)で閉塞され、中間単位がD単位(ジメチルシロキサン単位)のみからなる直鎖状のポリオルガノシロキサンであることが特に好ましい。
【0052】
(A1)成分は、(D)成分に該当する成分ではない。(A)成分は、ケイ素に結合するアルケニル基以外の接着付与性官能基を有さないことが好ましい。また、(A1)成分は、エポキシ基、ケイ素に結合するアルコキシ基、及び、ケイ素に結合する水素原子から選択される1種以上の基を有さないことが特に好ましい。
【0053】
<(A2)ケイ素原子に結合したアルケニル基を、分子中に2個を超える数で有するポリオルガノシロキサン>
(A2)ケイ素原子に結合したアルケニル基を、分子中に2個を超える数で有するポリオルガノシロキサンは、ケイ素原子に結合したアルケニル基を、分子中に2個を超える数で有すること以外は、好ましいものを含め(A1)成分で前記した通りである。(A2)成分は、ケイ素原子に結合したアルケニル基を、分子中に3個以上有するポリオルガノシロキサンとケイ素原子に結合したアルケニル基を、分子中に2個有するポリオルガノシロキサンとの混合物であってもよい。
【0054】
<(B)ケイ素原子に直接結合した水素原子を、分子中に3個以上有するポリオルガノハイドロジェンシロキサン>
(B)ケイ素原子に直接結合した水素原子を、分子中に3個以上有するポリオルガノハイドロジェンシロキサン(但し、(D)成分を除く)(以下、「(B)ポリオルガノハイドロジェンシロキサン」ともいう。)は、(A)成分の架橋剤として機能するものであれば特に限定されない。
【0055】
(B)成分は、代表的には、一般式(II):
(R13SiO(4-g-h)/2 (II)
(式中、
13は、脂肪族不飽和結合を有しない1価の炭化水素基であり、
gは、0~2の整数であり、
hは、1~3の整数であり、ただし、g+hは1~3の整数である)
で示される単位を分子中に3個以上有する。
【0056】
13は、合成が容易である点から、メチル基であることが好ましい。また、hは、合成が容易である点から、1であることが好ましい。
【0057】
合成が容易である点から、(B)成分は、3個以上のシロキサン単位を有することが好ましい。また、硬化温度に加熱しても揮発せず、かつ流動性に優れて(A)成分と混合しやすい点から、(B)成分のシロキサン単位の数は、6~200個であることが好ましく、10~150個であることが特に好ましい。
【0058】
(B)成分におけるシロキサン骨格は、直鎖状、分岐状又は環状のいずれであってもよく、直鎖状が好ましい。
【0059】
(B)成分は、(B1)両末端が、それぞれ独立して、R14 SiO1/2単位で閉塞され、中間単位がR14 SiO2/2単位のみからなる、直鎖状ポリオルガノハイドロジェンシロキサン、及び、(B2)R14 SiO1/2単位とSiO4/2単位のみからなる、ポリオルガノハイドロジェンシロキサン(上記各式中、R14は、それぞれ独立して、水素原子又は脂肪族不飽和結合を有しない1価の炭化水素基であるが、ただし、R14のうち、少なくとも3つは水素原子である)であることが好ましい。(B1)成分及び(B2)成分の場合において、R14 SiO1/2単位としては、HR15 SiO1/2単位及びR15 SiO1/2単位が挙げられ、R14 SiO2/2単位としては、HR15SiO2/2単位及びR15 SiO2/2単位(上記各式中、R15は、脂肪族不飽和結合を有しない1価の炭化水素基である)が挙げられる。(B1)成分の場合において、ケイ素原子に結合する水素原子は、末端に存在していても、中間単位に存在していてもよいが、中間単位に存在することが好ましい。
【0060】
(B)成分としては、(B1-1)両末端がM単位(トリメチルシロキサン単位)で閉塞され、中間単位がD単位(メチルハイドロジェンシロキサン単位)のみからなる直鎖状ポリメチルハイドロジェンシロキサン、(B1-2)両末端がM単位(トリメチルシロキサン単位)で閉塞され、中間単位がD単位(ジメチルシロキサン単位)及びD単位(メチルハイドロジェンシロキサン単位)のみからなり、ジメチルシロキサン単位1モルに対して、メチルハイドロジェンシロキサン単位が0.1~3.0モルである直鎖状ポリメチルハイドロジェンシロキサン、(B1-3)両末端がM単位(ジメチルハイドロジェンシロキサン単位)で閉塞され、中間単位がD単位(メチルハイドロジェンシロキサン単位)のみからなる直鎖状ポリメチルハイドロジェンシロキサン、(B1-4)両末端がM単位(ジメチルハイドロジェンシロキサン単位)で閉塞され、中間単位がD単位(ジメチルシロキサン単位)及びD単位(メチルハイドロジェンシロキサン単位)のみからなり、ジメチルシロキサン単位1モルに対して、メチルハイドロジェンシロキサン単位が0.1~3.0モルである直鎖状ポリメチルハイドロジェンシロキサン、並びに、(B2-1)M単位(ジメチルハイドロジェンシロキサン単位)及びQ単位(SiO2/2単位)のみからなるポリメチルハイドロジェンシロキサンがより好ましい。また、(B)成分は、(B-1)成分及び/又は(B-2)成分を含むことが特に好ましい。
(B)成分は、1種又は2種以上の組合せであってもよい。
【0061】
(B)成分は、(D)成分に該当する成分ではなく、無水コハク酸基を有さないことが好ましい。また、(B)成分は、エステル結合を有さないか、並びに/又は、脂肪族不飽和炭化水素基、エポキシ基及びケイ素原子に結合したアルコキシ基から選択される1種以上の基を有さないことが好ましい。
【0062】
<(C)白金系触媒>
(C)白金系触媒は、シリコーン組成物中のアルケニル基と、ヒドロシリル基との間の付加反応を促進させるための触媒である。
【0063】
(C)成分としては、塩化白金酸、塩化白金酸とアルコールの反応生成物(例えば、ラモローの触媒(白金-オクタノール錯体、米国特許第3220972号明細書))、白金-オレフィン錯体、白金-ビニルシロキサン錯体、白金-ケトン錯体、白金-ホスフィン錯体のような白金化合物等が挙げられる。これらのうち、触媒活性が良好な点から、塩化白金酸とアルコールの反応生成物、白金-ビニルシロキサン錯体が好ましく、使用目的に応じて、適宜選択される。
(C)成分は、1種又は2種以上の組合せであってもよい。
【0064】
<(D)無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサン>
(D)無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサンは、bの数に応じて、以下の(D1)、(D2)及び(D3)が挙げられる。
(D1)bが1の整数である、無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサン
(D2)bが2の整数である、無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサン
(D3)bが3以上の整数である、無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサン
(D1)成分、(D2)及び(D3)成分は、bの数が異なること以外は、好ましい態様を含め、前記した通りである。(D)成分は、それぞれ、1種又は2種以上の組合せであってもよい。
【0065】
<(E)更なる成分>
シリコーン組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、(A)成分~(D)成分以外の(E)更なる成分を含むことができる。このような成分として、(E1)無機フィラー、及び(E2)反応抑制剤、(E3)各種の添加剤等が挙げられる。(E)更なる成分は、それぞれ、1種又は2種以上の組合せであってもよい。
【0066】
<<(E1)無機フィラー>>
シリコーン組成物が(E1)無機フィラーを含むことで、シリコーン組成物の硬化物に、高い機械的強度が付与される。(E1)無機フィラーとしては、煙霧質シリカ、焼成シリカ、シリカエアロゲル、沈殿シリカ、及び煙霧質酸化チタンのような補強性フィラー;並びにけいそう土、粉砕シリカ、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、アルミノケイ酸、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、ケイ酸カルシウム、タルク、及び酸化第二鉄のような非補強性フィラーが挙げられ、押出し作業性と、シリコーン組成物の硬化物に要求される物性に応じて選択される。(E1)無機フィラーとしては、補強性フィラーが好ましく、煙霧質シリカ、焼成シリカ、シリカエアロゲル及び沈殿シリカ等のシリカがより好ましく、煙霧質シリカが特に好ましい。
【0067】
(E1)無機フィラーが煙霧質シリカの場合、無機フィラーのBET比表面積は、50~500m/gであることが好ましく、80~400m/gであることがより好ましく、100~300m/gであることが特に好ましい。
【0068】
(E1)無機フィラーは、表面処理剤で処理されていてもよい。このような表面処理剤としては、オルガノアルコキシシラン、オルガノハロシラン、シロキサンオリゴマー類、オルガノシラザンが挙げられる。
【0069】
<<(E2)反応抑制剤>>
(E2)反応抑制剤は、シリコーン組成物の硬化反応速度を抑制して、取扱いの作業性、及び接着性の発現と硬化速度とのバランスの向上に寄与する成分である。(E2)反応抑制剤としては、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルメチルイソシアヌレート、ジアリルエチルイソシアヌレート、トリブテニルイソシアヌレート及びジアリルフェニルイソシアヌレート等の脂肪族不飽和炭化水素基を有し、かつ、ケイ素原子に結合したアルコキシ基を有さないイソシアヌレート類;マレイン酸ジアリル等の分子中に極性基を有する有機化合物;3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール等のアセチレンアルコール類やその誘導体等の不飽和結合を有する有機化合物;等が挙げられる。
【0070】
<<(E3)各種の添加剤>>
シリコーン組成物は、目的に応じて、更に、(E3-1)接着性付与剤、(E3-2)ケイ素原子に直接結合した水素原子を2個有するポリオルガノハイドロジェンシロキサン、有機溶媒、無機顔料、有機顔料、チクソトロピー性付与剤、押出し作業性を改良するための粘度調整剤、紫外線防止剤、防かび剤、耐熱性向上剤、難燃化剤等の(E3)各種の添加剤を含むことができる。(E3)各種の添加剤は、それぞれ、1種又は2種以上の組合せであってもよい。
【0071】
(E3-1)接着性付与剤は、脂肪族不飽和炭化水素基、エポキシ基、カルボニル基やイソシアヌル基等の極性基、ケイ素原子に結合したアルコキシ基及びケイ素原子に直接結合した水素原子から選ばれる接着性付与官能基を2個以上有する。(E3-1)成分は、組成物に様々な基材に対する接着性を付与する成分であり、シリコーン組成物に適用できる公知の接着性付与剤から適宜選択することができる。但し、(E3-1)接着性付与剤は、(A)成分~(D)成分、(E2)成分及び後述する(E3-2)成分ではない。
【0072】
(E3-2)ケイ素原子に直接結合した水素原子を2個有するポリオルガノハイドロジェンシロキサンは、ケイ素原子に直接結合した水素原子が2個であること以外は、(B)成分において前記したとおりである。(E3-2)成分としては、両末端がM単位(ジメチルハイドロジェンシロキサン単位)で閉塞され、中間単位がD単位(ジメチルシロキサン単位)のみからなる直鎖状ポリメチルハイドロジェンシロキサンが好ましい。(E3-2)成分は、(D)成分に該当する成分ではなく、無水コハク酸基を有さないことが好ましい。また、(E3-2)成分は、エステル結合を有さないか、並びに/又は、脂肪族不飽和炭化水素基、エポキシ基及びケイ素原子に結合したアルコキシ基から選択される1種以上の基を有さないことが好ましい。
【0073】
[含有量]
シリコーン組成物中の各成分の含有量は、以下のとおりであることが好ましい。
(B)成分及び(D)成分の含有量は、シリコーン組成物が硬化するような量であれば特に限定されないが、(A)成分のアルケニル基の個数Viに対する、(B)成分のケイ素原子に直接結合した水素原子の個数H及び(D)成分のケイ素原子に直接結合した水素原子の個数Hの合計の比{(H+H)/Vi}が、0.1以上10未満であるような量が好ましく、0.2~8.0であるような量がより好ましく、0.3~5.0であるような量が特に好ましい。組成物における{(H+H)/Vi}が、0.1以上であると、硬化物の機械的強度が優れ、10未満であると、組成物の各種部材に対する接着性が向上する。なお、シリコーン組成物が(B)成分を含まない場合は、{(H+H)/Vi}は(H/Vi)となる。
【0074】
また、(D)成分の含有量は、上記した{(H+H)/Vi}を満足する範囲であることに加えて、(A)成分100質量部に対して、0.1~20質量部であることがより好ましく、0.5~10質量部であることが更に好ましく、1~5質量部であることが特に好ましい。(A)成分100質量部に対して、(D)成分の含有量が0.1質量部以上であると、各種部材に対する接着性がより高まり、20質量部以下であると効率的に接着性を向上させることができ、かつ、耐熱性を向上させることができる。
【0075】
(C)成分の含有量は、シリコーン組成物の全量に対して、触媒量である。具体的には、(C)成分の含有量は、組成物の合計100質量部に対して、白金金属原子換算で0.1~1,000質量ppmであることが好ましく、0.5~200質量ppmであることが特に好ましい。(C)成分の含有量が前記範囲であると、硬化性が十分である。
【0076】
(E1)無機フィラーの含有量は、(A)成分の100質量部に対して、0.1~60質量部であることが好ましく、1~45質量部であることが特に好ましい。このような含有量であれば、押出し作業性に優れ、及び、得られる硬化物が機械的強度に優れる。表面処理剤の含有量は、(E1)無機フィラーの比表面積及び表面処理の程度に応じて、適宜決定できる。
【0077】
(E2)反応抑制剤の含有量は、(A)成分の100質量部に対して0.001~20質量部であることが好ましく、0.01~10質量部であることが特に好ましい。このような範囲であれば、効率的に、反応抑制剤の効果を発揮することができる。
(E1)成分及び(E2)成分以外の(E)更なる成分の含有量は、シリコーン組成物の使用目的を損なわないかぎり特に限定されない。
【0078】
(シリコーン組成物の製造方法)
シリコーン組成物は、必須成分である(A)成分、(C)成分、(D)成分、並びに、任意成分である(B)成分及び/又は(E)成分を、万能混練機、ニーダーなどの混合手段によって均一に混練して製造することができる。
【0079】
(組成物の好ましい態様)
安定に長期間貯蔵するために、(B)成分及び(D)成分に対して、(C)成分が別の容器になるように、適宜、2個以上の容器に配分して保存しておき、使用直前に混合して使用に供してもよい。
【0080】
(シリコーン組成物の用途)
シリコーン組成物は、様々な基材に対する接着性に優れることから、様々な基材に対する接着剤として用いることができる。
【0081】
<接着方法>
シリコーン組成物は、接着すべき部位に注入、滴下、流延、注型、容器からの押出しなどの方法により、又はトランスファー成形や射出成形による一体成形によって、接着対象物に付着させ、硬化させることにより、同時に接着対象物に接着させることができる。硬化条件(即ち、加熱温度及び加熱時間)は、シリコーン組成物が適用される部材の耐熱温度に合わせて適宜調整することができる。加熱温度は、接着させる部材の耐熱性や操作性の観点から、80~180℃であることが好ましく、80~150℃であることがより好ましく、100℃超150℃以下であることが特に好ましい。加熱時間は、硬化工程の簡便さの観点から、1分~24時間であることが好ましく、1分~12時間であることがより好ましく、1分~8時間であることが特に好ましい。
【0082】
接着対象物の材質は、特に限定されず、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル、鉄、銅等の金属又はそれらの合金(例えば、アルミニウムダイキャスト)、及び、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂)、ポリカーボネート樹脂、PBT(ポリブチレンテレフタレート樹脂)、PPS(ポリフェニレンスルフィド樹脂)等のポリマー等が挙げられる。
【0083】
(用途)
組成物は、自動車用及び電気電子用の部品の実装又は封止、半導体又は汎用プラスチックの接着等に用いることができる。具体的には、組成物は、自動車用部品用のシーリング材又はポッティング材等に用いることができる。
【実施例
【0084】
以下、実施例及び比較例によって、本発明を更に詳細に説明する。これらの例において、部は質量部を示し、粘度は23℃における粘度を示す。本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0085】
(使用成分)
実施例及び比較例にて用いた成分は、以下のとおりである。
【0086】
(A)アルケニル基含有ポリオルガノシロキサン
A-1及びA-2の混合物(ケイ素原子に結合したアルケニル基の量0.25mmol/g)。A-1:A-2=75:25(重量比)。
A-1:両末端がM単位で封鎖され、中間単位がD単位のみからなり、23℃における粘度が100Pa・sである直鎖状ポリメチルビニルシロキサン
A-2:M単位、Dvi単位及びQ単位のみからなり、モル単位比がMviで示される分岐状ポリメチルビニルシロキサン(重量平均分子量5,000、1分子当たり平均約5個のビニル基)
なお、重量平均分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)で測定したスチレン換算の値である。重量平均分子量の測定に用いた装置は、日本ウォーターズ社製、RI(示差屈折計)モデル 2414(移動相トルエン)である。
【0087】
(B)ポリオルガノハイドロジェンシロキサン
B:両末端がM単位で封鎖され、中間単位がD単位及びD単位のみからなり、23℃における粘度が20mPa・sである直鎖状ポリメチルハイドロジェンシロキサン(ケイ素原子に直接結合した水素原子の量8.8mmol/g)
【0088】
(C)白金系触媒
C:白金-オクタノール錯体(塩化白金酸をオクタノールと加熱することによって得られる白金含有量が4.0重量%である錯体)
【0089】
(D)無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサン
以下に示される無水コハク酸基含有環状シロキサンを用いた。なお、(D)成分及び(D’)成分の分子量は、原料の構造式に基づいて求めた。
【0090】
【化5】
【0091】
【化6】
【0092】
【化7】
【0093】
【化8】
【0094】
[実施合成例1]
(D-1)の環状シロキサン化合物
窒素ガス導入管とコンデンサーを備えた300mlのフラスコに、トルエン23.5gと3-(トリメトキシシリル)プロピル=2-メチル-3-(2,4,6,6,8-ペンタメチルシクロテトラシロキサン-2-イル)プロパノアート81.6g(0.143mol)とアルミナ担持白金触媒0.05gを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら120℃まで昇温した。アリルコハク酸無水物(東京化成製)20g(0.143mol)を約30分かけて滴下した。120℃で10時間反応させて、反応溶液を得た。得られた反応溶液を、室温(23℃)に冷却し、活性炭を添加してアルミナ担持白金触媒を吸着させた後に、ろ過により活性炭を除去した。次に、得られた反応溶液を減圧下で、加熱ストリッピングし、トルエンを除去して、目的の環状シロキサン化合物98gを得た。収率は97%であった。H-NMRで分析したところ、以下のとおりであり、目標の化合物であることが確認された。
【0095】
【化9】
【0096】
[実施合成例2]
(D-2)の環状シロキサン化合物
窒素ガス導入管とコンデンサーを備えた1Lのフラスコに、トルエン113.3gと2,4,6,8-テトラメチル-シクロテトラシロキサン377.5g(1.57mol)とアルミナ担持白金触媒3.2gを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら120℃まで昇温した。ビニルトリメトキシシラン155.1g(1.046mol)を約2時間かけて滴下した。120℃で2時間反応させて、反応溶液を得た。得られた反応溶液を、室温(23℃)に冷却し、ろ過によりアルミナ担持白金触媒を除去した。得られた反応溶液を減圧下で、加熱ストリッピングし、トルエン及び未反応の成分を除去して、352.5gの反応生成物を得た。次に、その反応生成物を減圧蒸留して、191.4gの環状シロキサンにビニルトリメトキシシランが付加した化合物を得た。
【0097】
次に窒素ガス導入管とコンデンサーを備えた300mlのフラスコに、アリルコハク酸無水物(東京化成製)33.2g(0.237mol)、上記の環状シロキサンにビニルトリメトキシシランが付加した化合物92.1g(0.237mol)とアルミナ担持白金触媒0.05gを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら120℃まで昇温した。120℃で13時間反応させて、反応溶液を得た。得られた反応溶液を、室温(23℃)に冷却し、活性炭を添加してアルミナ担持白金触媒を吸着させた後、ろ過により活性炭を除去して、目的の環状シロキサン化合物102.6gを得た。収率は82%であった。H-NMRで分析したところ、以下のとおりであり、目標の化合物であることが確認された。
【0098】
【化10】
【0099】
[実施合成例3]
(D-3)の環状シロキサン化合物
窒素ガス導入管とコンデンサーを備えた2Lのフラスコに、トルエン133gと2,2,4,6,8-ペンタメチル-シクロテトラシロキサン515.2g(2.024mol)とアルミナ担持白金触媒4gを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら120℃まで昇温した。ビニルトリメトキシシラン150g(1.012mol)を約2時間かけて滴下した。120℃で2時間反応させて、反応溶液を得た。得られた反応溶液を、室温(23℃)に冷却し、ろ過によりアルミナ担持白金触媒活を除去した。得られた反応溶液を減圧下で、加熱ストリッピングし、トルエン及び未反応の成分を除去して、434.5gの反応生成物を得た。次に、その反応生成物を減圧蒸留して、128.4gの環状シロキサンにビニルトリメトキシシランが付加した化合物を得た。
【0100】
次に窒素ガス導入管とコンデンサーを備えた300mlのフラスコに、アリルコハク酸無水物(東京化成製)32.5g(0.232mol)、上記の環状シロキサンにビニルトリメトキシシランが付加した化合物93.4g(0.232mol)とアルミナ担持白金触媒0.05gを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら120℃まで昇温した。120℃で13時間反応させて、反応溶液を得た。得られた反応溶液を、室温(23℃)に冷却し、活性炭を添加してアルミナ担持白金触媒を吸着させた後、ろ過により活性炭を除去して、目的の環状シロキサン化合物103.5gを得た。収率は82%であった。H-NMRで分析したところ、以下のとおりであり、目標の化合物であることが確認された。
【0101】
【化11】
【0102】
[実施合成例4]
(D-4)の環状シロキサン化合物
窒素ガス導入管とコンデンサーを備えた500mLのフラスコに、トルエン63.3gと2,4,6,8-テトラメチル-シクロテトラシロキサン288.3g(1.2mol)とアルミナ担持白金触媒3gを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら120℃まで昇温した。アリルコハク酸無水物(東京化成製)28g(0.2mol)を約1時間かけて滴下した。120℃で16時間反応させて、反応溶液を得た。得られた反応溶液を、室温(23℃)に冷却し、活性炭を添加してアルミナ担持白金触媒を吸着させた後、ろ過により活性炭を除去した。得られた反応溶液を減圧下で、加熱ストリッピングし、トルエン及び未反応の成分を除去して、76.2gの環状シロキサンにアリルコハク酸無水物が付加した化合物を得た。
【0103】
次に窒素ガス導入管とコンデンサーを備えた300mlのフラスコに、トルエン 60gと、上記の環状シロキサンにアリルコハク酸無水物が付加した化合物76.2g(0.2mol)とアルミナ担持白金触媒1.2gを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら120℃まで昇温した。ビニルトリメトキシシラン 59.3g(0.4mol)を約2時間かけて滴下した。120℃で5時間反応させて、反応溶液を得た。得られた反応溶液を、室温(23℃)に冷却し、活性炭を添加してアルミナ担持白金触媒を吸着させた後、ろ過により活性炭を除去した。次に、得られた反応溶液を減圧下で、加熱ストリッピングし、トルエンを除去して、目的の環状シロキサン化合物132.4gを得た。収率は98%であった。H-NMRで分析したところ、以下のとおりであり、目標の化合物であることが確認された。
【0104】
【化12】
【0105】
(D’)比較のための化合物
以下に示される化合物を用いた。ここで、(D’-5)は、東京化成製の[3-(トリメトキシシリル)プロピル]コハク酸無水物を使用した。
【0106】
【化13】
【0107】
【化14】
【0108】
【化15】
【0109】
【化16】
【0110】
【化17】
【0111】
【化18】
【0112】
[比較合成例1]
(D’-1)の合成
窒素ガス導入管とコンデンサーを備えた5Lのフラスコに、トルエン440gと2,2,4,6,6,8-ヘキサメチル-シクロテトラシロキサン1991.9g(7.42mol)、アルミナ担持白金触媒17.7gを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら120℃まで昇温した。ビニルトリメトキシシラン1100g(7.42mol)を約1時間かけて滴下した。120℃で約3時間反応させた。得られた反応溶液を、室温(23℃)に冷却し、ろ過によりアルミナ担持白金触媒を除去した。得られた反応溶液を減圧下で、加熱ストリッピングし、トルエン及び未反応の成分を除去した。次にその反応物を減圧蒸留して400gの目的の環状シロキサン化合物を得た。収率は13%であった。H-NMRで分析したところ、以下のとおりであり、目標の化合物であることが確認された。
【0113】
【化19】
【0114】
[比較合成例2]
(D’-2)の合成
窒素ガス導入管とコンデンサーを備えた500mlのフラスコに、トルエン42gと2,2,4,6,8-ペンタメチル-シクロテトラシロキサン190.7g(0.749mol)とアルミナ担持白金触媒0.1gとを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら120℃まで昇温した。アリルコハク酸無水物(東京化成製)17.5g(0.125mol)を約1時間かけて滴下した。次に、120℃で12時間反応させて、反応溶液を得た。得られた反応溶液を、室温(23℃)に冷却し、活性炭を添加してアルミナ担持白金触媒を吸着させた後、ろ過により活性炭を除去した。次に、得られた反応溶液を減圧下で加熱ストリッピングし、トルエン及び未反応の成分を除去して、50gの反応物を得た。
【0115】
次に、窒素ガス導入管とコンデンサーを備えた500mlのフラスコに、トルエン50gとビニルトリメトキシシラン68.3g(0.461mol)とアルミナ担持白金触媒1.5gとを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら120℃まで昇温した。上記の反応物49.5g(0.125mol)を約2時間かけて滴下した。次に、120℃で10時間反応させて、反応溶液を得た。得られた反応溶液を、室温(23℃)に冷却し、活性炭を添加してアルミナ担持白金触媒を吸着させた後、ろ過により活性炭を除去した。得られた反応溶液を減圧下で、加熱ストリッピングし、トルエン及び未反応の成分を除去して、84.8gの目的の環状シロキサン化合物を得た。収率は98%であった。H-NMRで分析したところ、以下のとおりであり、目標の化合物であることが確認された。
【0116】
【化20】
【0117】
[比較合成例3]
(D’-3)の合成
窒素ガス導入管とコンデンサーを備えた300mlのフラスコに、2,4,6,8-テトラメチル-シクロテトラシロキサン39g(0.162mol)、トルエン40gとアルミナ担持白金触媒1gとを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら120℃まで昇温した。アリルコハク酸無水物(東京化成製)45.45g(0.324mol)を約1時間かけて滴下した。120℃で約5時間反応させた。更にビニルトリメトキシシラン96.2g(0.649mol)を約3時間かけて滴下した。120℃で16時間反応させて、反応溶液を得た。得られた反応溶液を、室温(23℃)に冷却し、活性炭を添加してアルミナ担持白金触媒を吸着させた後、ろ過により活性炭を除去した。得られた反応溶液を減圧下で、加熱ストリッピングし、トルエン及び未反応の成分を除去して、127.6gの目的の環状シロキサン化合物を得た。収率は96%であった。H-NMRで分析したところ、以下のとおりであり、目標の化合物であることが確認された。
【0118】
【化21】
【0119】
[比較合成例4]
(D’-4)の合成
窒素ガス導入管とコンデンサーを備えた200mlのフラスコに、2,4,6,8-テトラメチル-シクロテトラシロキサン38.8g(0.161mol)とアルミナ担持白金触媒0.8gとを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら120℃まで昇温した。ビニルトリメトキシシラン23.9g(0.161mol)を約1時間かけて滴下した。更にアリルコハク酸無水物(東京化成製)45.2g(0.322mol)を約2時間かけて滴下した。120℃で24時間反応させて、反応溶液を得た。得られた反応溶液を、室温(23℃)に冷却し、活性炭を添加してアルミナ担持白金触媒を吸着させた後、ろ過により活性炭を除去して、64.3gの目的の環状シロキサン化合物を得た。収率は60%であった。H-NMRで分析したところ、以下のとおりであり、目標の化合物であることが確認された。
【0120】
【化22】
【0121】
[比較合成例5]
(D’-6)の合成
窒素ガス導入管とコンデンサーを備えた200mlのフラスコに、2,4,6,8-テトラメチル-シクロテトラシロキサン41g(0.17mol)に白金の1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体を白金金属が2.5ppmになるように加えて、ビスフェノールAビスアリルエーテル10g(0.032mol)と反応させた。未反応の2,4,6,8-テトラメチルシクロテトラシロキサンをストリッピングで除去して、21gの目的の環状シロキサン化合物を得た。H-NMRで分析したところ、以下のとおりであり、目標の化合物であることが確認された。
【0122】
【化23】
【0123】
(E1)無機フィラー
E1-1:石英粉(クリスタライト VX-S、株式会社龍森製)
【0124】
(E2)反応抑制剤
E2-1:トリアリルイソシアヌレート
E2-2:3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール
【0125】
実施例1
(1)ベースポリマー(1)の調製
表1に示す組成で、(A)アルケニル基含有ポリオルガノシロキサン及び(E1)無機フィラー(E1-1)を万能混練機に投入して、150℃で減圧下に3時間撹拌した。室温(23℃)まで冷却した後、(E2)反応抑制剤(E2-1及びE2-2)及び(C)白金系触媒を添加して、15分間撹拌して、ベースポリマー(1)を調製した。
(2)付加硬化型シリコーン組成物の調製
表2~表4に示す組成で、ベースポリマー(1)に、(B)ポリオルガノハイドロジェンシロキサン及び/又は(D)無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサン若しくは(D’)比較のための化合物を添加して、撹拌することで、付加硬化型シリコーン組成物を調製した。
【0126】
【表1】

(C)は、ベースポリマー中の白金量を12ppmとなる量である。
【0127】
(評価方法)
<硬さ>
6mm厚のテフロン(登録商標)コートした金型に付加硬化型シリコーン組成物を流し込み、同様にテフロン(登録商標)コートした金属の蓋をして150℃で1時間、熱風循環式乾燥機中で硬化させて、室温(23℃)に冷却した後、JIS K6249に準拠して測定した。
【0128】
<変色(黄色)の有無>
上記の「硬さ」の測定で使用した硬化物を、更に150℃で72時間、熱風循環式乾燥機中で加熱して、外観(黄変の程度)を観察して、以下の基準で、変色(黄色)の有無及び程度を評価した。
◎:初期と変化なし
〇:初期に比べると若干黄変が見られた
×:明らかに黄変が見られた
【0129】
<表面状態>
2mm厚のテフロン(登録商標)コートした金型に付加硬化型シリコーン組成物を流し込み、150℃で1時間、熱風循環式乾燥機中で硬化させて、室温(23℃)に冷却し24時間後、表面状態を観察した。
良好:表面が平滑で、触診しても表面に液体の滲みだしがなかった
ブリード:硬化物表面に液体の滲みだしが見られた
【0130】
<せん断接着強さ>
試験の詳細については、JIS K 6249に従った。シリコーン組成物を一方の試験片端部に塗布して均一に延ばした後、接着厚さ1mm、幅方向に25mm、長さ方向(重ねしろ)に10mmの接着面になるようにもう一方の試験片端部を貼り合わせて、試験片を得た。治具で固定した状態で硬化条件の温度に調整されたオーブン内に試験片を置いて、「150℃で1時間」又は「100℃で2時間」の条件で、熱風循環式乾燥機中で硬化させて、室温(23℃)に冷却して、試験片を得た。試験片を引張り試験機により引張速度10mm/minにて測定し、「引張せん断接着強さ」(MPa)とした。
【0131】
<凝集破壊率>
凝集破壊率は、せん断接着強さ試験において、対面する被着体の界面で剥離せずに、シリコーン層が破壊される割合である。凝集破壊率が100%であることは、接着強度(接着性)が十分に維持されていることを示している。上記の「せん断接着強さ」の記載に従ってせん断接着強さを測定した後、各種被着体に接着したシリコーン層の面積を塗布面積で割った値を凝集破壊率(面積%)とした。
【0132】
<接着性試験>
所定の部材に、シリコーン組成物を厚さ2mmになるように塗布し、100℃で2時間の硬化条件で、硬化させた。部材と硬化させたシリコーン組成物の界面にナイフで切り込みを入れ、部材を180度方向に引っ張った。接着状態を確認して、以下の基準で、接着性を評価した。
◎:凝集破壊
△:凝集破壊と界面剥離が混在した
×:界面剥離
【0133】
結果を表2、表3及び表4にまとめる。なお、表における「(H+H)/Vi」は、(B)成分、(D)成分及び(D’)成分の有無により変動する。即ち、実施例1では、「(H+H)/Vi」が「H/Vi」となる。実施例2等では、「(H+H)/Vi」が「(H+H)/Vi」となる。比較例1では、「(H+H)/Vi」が「H/Vi」となる。比較例2等では、「(H+H)/Vi」が「(H+HD’)/Vi」となる。また、(D)成分及び(D’)成分における「D単位(a)」の値は、構造式当たりのD単位の個数を意味する。他の基についても同様である。
【0134】
【表2】
【0135】
【表3】
【0136】
【表4】
【0137】
表における略語は以下のとおりである。
アルミニウム:A1050P(JIS H 4000):アルミニウム純度が99.5%以上である純アルミニウム
アルミダイキャスト:ADC-12(JIS H 5302:2006):Al-Si-Cu系合金
PBT:ポリブチレンテレフタレート樹脂(ポリプラスチックス製、ジュラネックス2002)
PPS:ポリフェニレンスルフィド樹脂(東ソー製、サスティール GS-40%)
【0138】
表2~4から明らかなように、実施例のシリコーン組成物は、150℃1時間又は100℃2時間の硬化条件で、様々な基材に対する優れた接着性を示した。また、実施例のシリコーン組成物は、150℃1時間の硬化条件で、外観の良好な硬化物を与え、当該硬化物を、更に150℃で72時間加熱した後での黄変が抑えられていた。更に、実施例の接着助剤は、150℃1時間又は100℃2時間の硬化条件で、シリコーン組成物の硬化により、様々な基材に対する接着性が向上させることができた。特に、実施例の接着助剤を含むシリコーン組成物は、100℃2時間の硬化条件でのPPS、アルミニウム及びアルミニウムダイキャストに対する凝集破壊率が特に優れていた。したがって、一般式(1)で示される無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサンは、接着助剤として優れていることがわかる。
【0139】
実施例2及び3と実施例4及び5との比較により、Rがアルキレン基であるRである場合は、様々な基材に対する接着性がより優れていた。
実施例2~7の比較により、(D)成分の含有量が少ない場合は、150℃1時間の条件で硬化させた硬化物を、更に150℃で72時間加熱した後での黄変がより抑えられており、加熱後の硬化物の外観も良好であった。
実施例1~6と実施例7との比較により、dが1である場合は、特に、100℃2時間の硬化条件でのPBT及びPPSに対する接着強さがより優れていた。
【0140】
一方、比較例1~7の組成物は、(D)成分を含まないため、比較例1~7の組成物は、様々な基材に対する接着性が劣っているか、外観が良好な硬化物が得られなかった。特に、比較例1~7の組成物は、100℃2時間の硬化条件でのPPS、アルミニウム及びアルミニウムダイキャストに対する凝集破壊率が劣っていた。
比較例1の組成物は、ケイ素原子に直接結合した水素原子を有する成分として、架橋剤である(B)成分のみを含む。そのため、比較例1の組成物は、接着性が劣っていた。
比較例2の組成物は、接着助剤として、ヒドロシリル基を含有し、かつ、無水コハク酸基を含有しない環状オルガノシロキサンを含む。そのため、比較例2の組成物は、接着性が劣っていた。
比較例3の組成物は、接着助剤として、ヒドロシリル基を有さない、無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサンを含む。そのため、比較例3の接着助剤を含む組成物の硬化物は、150℃1時間の硬化条件でブリードが確認された。また、比較例3の接着助剤を含む組成物の硬化物は、特に、100℃2時間の硬化条件でのせん断接着強度に劣っていた。
比較例4の組成物は、接着助剤として、2個のコハク酸無水物基を有する、無水コハク酸基含有環状オルガノシロキサンを含む。そのため、比較例4の接着助剤を含む組成物の硬化物は、150℃1時間の硬化条件でブリードが確認された。比較例4の接着助剤を含む組成物の硬化物は、特に、100℃2時間の硬化条件でのせん断接着強度に劣っていた。
比較例6の組成物は、接着助剤として、ヒドロシリル基を有さず、かつ、環状シロキサン構造を有さない、無水コハク酸基含シラン化合物を含む。そのため、比較例6の接着助剤を含む組成物の硬化物は、ブリードが確認された。また、比較例6の接着助剤を含む組成物の硬化物は、様々な基材に対する接着性に劣っていた。
比較例7の組成物は、接着助剤として、ヒドロシリル基を含有し、かつ、ビスフェノールAを骨格に有する有機ケイ素化合物を含む。そのため、比較例7の接着助剤を含む組成物の硬化物は、様々な基材(特に、アルミニウム)に対するせん断接着強度に劣っていた。
また、比較例4~7の組成物は、150℃1時間の条件で硬化させた硬化物を、更に150℃で72時間加熱した後での黄変が顕著であり、加熱後の硬化物の外観が劣っていた。