IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 川崎重工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ロボット及びワーク搬送方法 図1
  • 特許-ロボット及びワーク搬送方法 図2
  • 特許-ロボット及びワーク搬送方法 図3
  • 特許-ロボット及びワーク搬送方法 図4
  • 特許-ロボット及びワーク搬送方法 図5
  • 特許-ロボット及びワーク搬送方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】ロボット及びワーク搬送方法
(51)【国際特許分類】
   B25J 13/00 20060101AFI20241111BHJP
   H01L 21/677 20060101ALN20241111BHJP
【FI】
B25J13/00 Z
H01L21/68 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020148886
(22)【出願日】2020-09-04
(65)【公開番号】P2022043557
(43)【公開日】2022-03-16
【審査請求日】2023-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【弁理士】
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 雅行
【審査官】松浦 陽
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-006064(JP,A)
【文献】特開2002-289673(JP,A)
【文献】特開2000-216234(JP,A)
【文献】特開2018-167380(JP,A)
【文献】特開平11-312728(JP,A)
【文献】特開平11-138473(JP,A)
【文献】特開2003-020135(JP,A)
【文献】特開2020-109043(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 - 21/02
H01L 21/67- 21/687
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを搬送するためのロボットであって、
アーム部と、
前記アーム部に設けられ、前記ワークを上面側に保持して搬送するハンド部と、
前記ハンド部の姿勢を任意の向きで傾けることが可能なチルト機構と、
前記ハンド部によって前記ワークを保持して搬送する過程で当該ハンド部に加速度が生じる場合に、前記チルト機構によって、前記加速度の水平方向成分の向きと反対側が高くなるように前記ハンド部の姿勢を傾斜させるハンド姿勢制御部と、
を備え
前記ワークを搬送する経路の少なくとも一部がカーブしている場合に、前記チルト機構は、前記ワークが前記カーブを通過するとき、前記ワークに生じる遠心力の向きと同じ側が高くなるように前記ハンド部の姿勢を傾斜させることを特徴とするロボット。
【請求項2】
請求項に記載のロボットであって、
第1位置から、前記第1位置と平面視で異なる第2位置へ前記ワークを搬送する場合に、
前記ハンド姿勢制御部は、前記第1位置から前記ワークの搬送を開始した直後の状態において、搬送方向始端側が高くなるように前記ハンド部の姿勢を傾斜させ、
前記ハンド姿勢制御部は、前記第2位置に前記ワークが到達する直前の状態において、搬送方向終端側が高くなるように前記ハンド部の姿勢を傾斜させることを特徴とするロボット。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のロボットであって、
前記ハンド部は、前記ワークの下面にのみ作用することで、前記ワークを当該ハンド部の上面側に保持することを特徴とするロボット。
【請求項4】
アーム部と、
前記アーム部に設けられ、ワークを上面側に保持して搬送するハンド部と、
前記ハンド部の姿勢を任意の向きで傾けることが可能なチルト機構と、
を備えるロボットによって、前記ワークを搬送するワーク搬送方法であって、
前記ハンド部によって前記ワークを保持して搬送する過程で当該ハンド部に加速度が生じる場合に、前記チルト機構によって、前記加速度の水平方向成分の向きと反対側が高くなるように前記ハンド部の姿勢を傾斜させ
前記ワークを搬送する経路の少なくとも一部がカーブしている場合に、前記チルト機構は、前記ワークが前記カーブを通過するとき、前記ワークに生じる遠心力の向きと同じ側が高くなるように前記ハンド部の姿勢を傾斜させることを特徴とするワーク搬送方法。
【請求項5】
ワークを搬送するためのロボットであって、
アーム部と、
前記アーム部に設けられ、前記ワークを下面側に保持して搬送するハンド部と、
前記ハンド部の姿勢を任意の向きで傾けることが可能なチルト機構と、
前記ハンド部によって前記ワークを保持して搬送する過程で当該ハンド部に加速度が生じる場合に、前記チルト機構によって、前記加速度の水平方向成分の向きと同じ側が高くなるように前記ハンド部の姿勢を傾斜させるハンド姿勢制御部と、
を備え
前記ワークを搬送する経路の少なくとも一部がカーブしている場合に、前記チルト機構は、前記ワークが前記カーブを通過するとき、前記ワークに生じる遠心力の向きと反対側が高くなるように前記ハンド部の姿勢を傾斜させることを特徴とするロボット。
【請求項6】
アーム部と、
前記アーム部に設けられ、ワークを下面側に保持して搬送するハンド部と、
前記ハンド部の姿勢を任意の向きで傾けることが可能なチルト機構と、
を備えるロボットによって、前記ワークを搬送するワーク搬送方法であって、
前記ハンド部によって前記ワークを保持して搬送する過程で当該ハンド部に加速度が生じる場合に、前記チルト機構によって、前記加速度の水平方向成分の向きと同じ側が高くなるように前記ハンド部の姿勢を傾斜させ
前記ワークを搬送する経路の少なくとも一部がカーブしている場合に、前記チルト機構は、前記ワークが前記カーブを通過するとき、前記ワークに生じる遠心力の向きと反対側が高くなるように前記ハンド部の姿勢を傾斜させることを特徴とするワーク搬送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、半導体ウエハやプリント基板等のワークを搬送するためのロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ワークを搬送するための搬送ロボットが知られている。特許文献1は、この種の搬送ロボットを備える搬送装置を開示する。
【0003】
特許文献1の搬送ロボットは、胴体部と、アーム体と、を備える。アーム体は、胴体部の上部に設けられている。搬送ロボットは、アーム体を伸縮動作させることで基板(ワーク)をカセットと各種処理装置との間などで搬送する。アーム体の端部には、基板を保持するエンドエフェクタが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-120861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1の構成のような搬送ロボットにおいては、エンドエフェクタが基板を保持する場合に、基板がエンドエフェクタに置かれた後、基板の搬送のためにエンドエフェクタがアーム体により移動を開始させられるとき、エンドエフェクタ上の基板が慣性の影響を受け、エンドエフェクタに対する基板の位置ズレが生じるおそれがあった。この位置ズレが生じると、例えば、搬送ロボットがカセットに収容されていた基板を各種処理装置に正確に渡すことができないことがあり、改善が望まれていた。
【0006】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、搬送時にワークの位置ズレが生じることを抑制可能なロボットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0008】
本発明の第1の観点によれば、以下の構成のロボットが提供される。即ち、ワークを搬送するためのロボットは、アーム部と、ハンド部と、チルト機構と、ハンド姿勢制御部と、を備える。前記ハンド部は、前記アーム部に設けられ、前記ワークを上面側に保持して搬送する。前記チルト機構は、前記ハンド部の姿勢を任意の向きで傾けることが可能である。前記ハンド姿勢制御部は、前記ハンド部によって前記ワークを保持して搬送する過程で当該ハンド部に加速度が生じる場合に、前記チルト機構によって、前記加速度の水平方向成分の向きと反対側が高くなるように前記ハンド部の姿勢を傾斜させる。前記ワークを搬送する経路の少なくとも一部がカーブしている場合に、前記チルト機構は、前記ワークが前記カーブを通過するとき、前記ワークに生じる遠心力の向きと同じ側が高くなるように前記ハンド部の姿勢を傾斜させる。
【0009】
本発明の第2の観点によれば、以下のワーク搬送方法が提供される。即ち、このワーク搬送方法は、アーム部と、ハンド部と、チルト機構と、を備えるロボットによって、ワークを搬送する。前記ハンド部は、前記アーム部に設けられ、前記ワークを上面側に保持して搬送する。前記チルト機構は、前記ハンド部の姿勢を任意の向きで傾けることが可能である。前記ハンド部によって前記ワークを保持して搬送する過程で当該ハンド部に加速度が生じる場合に、前記チルト機構によって、前記加速度の水平方向成分の向きと反対側が高くなるように前記ハンド部の姿勢を傾斜させる。前記ワークを搬送する経路の少なくとも一部がカーブしている場合に、前記チルト機構は、前記ワークが前記カーブを通過するとき、前記ワークに生じる遠心力の向きと同じ側が高くなるように前記ハンド部の姿勢を傾斜させる。
【0010】
本発明の第3の観点によれば、以下の構成のロボットが提供される。即ち、ワークを搬送するためのロボットは、アーム部と、ハンド部と、チルト機構と、ハンド姿勢制御部と、を備える。前記ハンド部は、前記アーム部に設けられ、前記ワークを下面側に保持して搬送する。前記チルト機構は、前記ハンド部の姿勢を任意の向きで傾けることが可能である。前記ハンド姿勢制御部は、前記ハンド部によって前記ワークを保持して搬送する過程で当該ハンド部に加速度が生じる場合に、前記チルト機構によって、前記加速度の水平方向成分の向きと同じ側が高くなるように前記ハンド部の姿勢を傾斜させる。前記ワークを搬送する経路の少なくとも一部がカーブしている場合に、前記チルト機構は、前記ワークが前記カーブを通過するとき、前記ワークに生じる遠心力の向きと反対側が高くなるように前記ハンド部の姿勢を傾斜させる。
【0011】
本発明の第4の観点によれば、以下のワーク搬送方法が提供される。即ち、このワーク搬送方法は、アーム部と、ハンド部と、チルト機構と、を備えるロボットによって、ワークを搬送する。前記ハンド部は、前記アーム部に設けられ、前記ワークを下面側に保持して搬送する。前記チルト機構は、前記ハンド部の姿勢を任意の向きで傾けることが可能である。前記ハンド部によって前記ワークを保持して搬送する過程で当該ハンド部に加速度が生じる場合に、前記チルト機構によって、前記加速度の水平方向成分の向きと同じ側が高くなるように前記ハンド部の姿勢を傾斜させる。前記ワークを搬送する経路の少なくとも一部がカーブしている場合に、前記チルト機構は、前記ワークが前記カーブを通過するとき、前記ワークに生じる遠心力の向きと反対側が高くなるように前記ハンド部の姿勢を傾斜させる。
【0012】
これにより、ハンド部の加速度運動に伴ってワークに生じる慣性力の一部を、傾斜させた姿勢の当該ハンド部によって受け止めることができる。従って、ワークを高速で搬送した場合でも、ハンド部に対するワークの位置ズレが生じにくくなり、円滑な搬送を実現することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、搬送時にワークの位置ズレが生じることを抑制可能な基板搬送ロボットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1実施形態に係るロボットの全体的な構成を示す斜視図。
図2】(a)チルト機構の一例を示す斜視図。(b)チルト機構の一例を示す断面図。
図3】ガイド部の詳細な構成を示す拡大斜視図。
図4】ロボットハンドの加速度運動と当該ロボットハンドの姿勢との関係を示す斜視図。
図5】2つの地点の間で基板を搬送する場合のロボットハンドの姿勢制御を説明する斜視図。
図6】本発明の第2実施形態に係るロボットにおけるロボットハンドの構成を示す拡大斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係るロボット100の全体的な構成を示す斜視図である。
【0016】
図1に示すロボット100は、例えば、半導体ウエハ、プリント基板等のワークWの製造工場、倉庫等に設置される。ロボット100は、複数の位置の間でワークWを搬送するために用いられる。ワークWは、基板である場合には、基板の原料、加工中の半完成品、加工済の完成品のうち何れであっても良い。ワークWの形状は、本実施形態では円板状であるが、これに限定されない。また、ワークWは食器、トレー等の他の物品であっても良い。
【0017】
このロボット100は、主として、基台1と、ロボットアーム(アーム部)2と、ロボットハンド(ハンド部)3と、チルト機構4と、ロボット制御部(ハンド姿勢制御部)9と、を備える。
【0018】
基台1は、工場の床面等に固定される。しかし、これに限定されず、基台1は、例えば、適宜の処理設備に固定されても良い。また、基台1は、水平方向に移動可能な部材に取り付けられても良い。
【0019】
ロボットアーム2は、図1に示すように、上下方向に移動可能な昇降軸11を介して基台1に取り付けられている。ロボットアーム2は、昇降軸11に対して回転可能である。
【0020】
ロボットアーム2は、水平多関節型のロボットアームから構成される。ロボットアーム2は、第1アーム21と、第2アーム22と、を備える。
【0021】
第1アーム21は、水平な直線状に延びる細長い部材として構成される。第1アーム21の長手方向の一端が、昇降軸11の上端部に取り付けられている。第1アーム21は、昇降軸11の軸線(鉛直軸)を中心として回転可能に支持されている。第1アーム21の長手方向の他端には、第2アーム22が取り付けられている。
【0022】
第2アーム22は、水平な直線状に延びる細長い部材として構成される。第2アーム22の長手方向の一端が、第1アーム21の先端に取り付けられている。第2アーム22は、昇降軸11と平行な軸線(鉛直軸)を中心として回転可能に支持されている。第2アーム22の長手方向の他端には、ロボットハンド3が取り付けられている。
【0023】
昇降軸11、第1アーム21及び第2アーム22のそれぞれは、図示しない適宜のアクチュエータにより駆動される。このアクチュエータは、例えば電動モータとすることができる。
【0024】
昇降軸11と第1アーム21との間、第1アーム21と第2アーム22との間、及び第2アーム22とロボットハンド3との間に位置するアーム関節部には、第1アーム21、第2アーム22、及びロボットハンド3のそれぞれの回転位置を検出する図略のエンコーダが取り付けられている。また、ロボット100の適宜の位置には、高さ方向における第1アーム21の位置変化(即ち昇降軸11の昇降量)を検出するエンコーダも設けられている。
【0025】
ロボット制御部9は、各エンコーダにより検出された第1アーム21、第2アーム22、又はロボットハンド3の回転位置又は高さ位置を含む位置情報に基づいて、昇降軸11、第1アーム21、第2アーム22、及びロボットハンド3のそれぞれを駆動する電動モータの動作を制御する。なお、以下の説明においては、エンコーダにより検出された「位置情報」という場合、ロボット100の姿勢を表す、それぞれのエンコーダにより検出された位置情報の組合せを意味する。
【0026】
ロボットハンド3は、図1に示すように、手首部31と、ハンド本体部32と、を備える。
【0027】
手首部31は、チルト機構4を介して、第2アーム22の先端に取り付けられている。手首部31は、昇降軸11と平行な軸線(鉛直軸)を中心として回転可能に支持されている。ただし、チルト機構4によって、手首部31の回転軸を、昇降軸11と平行な直線に対して傾けることができる。チルト機構4の詳細な構成は後述する。手首部31は、図示しない適宜のアクチュエータにより回転駆動される。このアクチュエータは、例えば電動モータとすることができる。手首部31には、ハンド本体部32が連結されている。手首部31及びハンド本体部32は一体的に形成されても良い。
【0028】
ハンド本体部32は、ワークWを保持するために作用する部分である。ハンド本体部32は、Y字状(又はU字状)に形成された板状の部材から構成される。ハンド本体部32は、手首部31に連結される側と反対側(言い換えれば、先端側)が2股に分かれた形状となっている。以下の説明においては、分岐されたそれぞれの部分を第1指部32a及び第2指部32bと称することがある。
【0029】
第1指部32a及び第2指部32bは、互いに対称となるように形成されている。図3等に示すように、第1指部32a及び第2指部32bの先端部分の間に適宜の間隔が形成されている。
【0030】
本実施形態のハンド本体部32の先端側及び基端側のそれぞれに、ワークWを保持するためのガイド部33が複数設けられている。それぞれのガイド部33は、例えばゴム等から構成される。ガイド部33は、板状のハンド本体部32から上側に突出するように設けられている。ガイド部33は、例えば、図1に示すように、第1指部32a及び第2指部32bのそれぞれに1つずつ設けられ、ハンド本体部32の基端側に2つ設けられる。
【0031】
図3に示すように、ガイド部33は、ロボットハンド3に載置されたワークWの周縁近傍における下面に接触して、ワークWを保持する。ガイド部33は、ワークWの下面に接触して、ワークWを下から支えるだけである。言い換えれば、ガイド部33は、ワークWの縁部を径方向外側から拘束しない。ワークWは、ガイド部33と接触している部分に生じる静止摩擦力によって、ロボットハンド3と平行な向きでズレないように保持される。
【0032】
ロボットハンド3がワークWを保持する構成は、上述の構成に限定されない。ロボットハンド3は、例えば、ワークWの下面を負圧で吸着する構造等によってワークWを保持しても良い。例えば公知のベルヌーイチャックをロボットハンド3に備えることで、非接触式でワークWを保持しても良い。
【0033】
チルト機構4は、第2アーム22の先端側(第1アーム21に連結される側と反対側)に取り付けられている。
【0034】
チルト機構4は、図2に示すように、下板部41と、上板部42と、を備える。下板部41は、第2アーム22の上面に固定されている。上板部42には、ロボットハンド3の手首部31が回転可能に支持されている。下板部41と上板部42の間には、高さ調整機構5が配置されている。チルト機構4は、この高さ調整機構5を用いて、上板部42の下板部41に対する傾斜角度及び傾斜方向を調整する。
【0035】
この高さ調整機構5は、例えば、図2に示すように、下板部41及び上板部42の間の異なる位置に設けられた3つの支持部51,52,53を備える。支持部51,52,53は、説明の便宜上、図2(b)においては直線的に並べて描かれているが、実際は図2(a)に示すように、平面視で3角形をなすように配置されている。
【0036】
3つのうち2つの支持部51,52は、オネジ56と、メネジ57と、球面軸受58と、を備える。オネジ56のネジ軸は、下板部41に、軸線を上下方向に向けて回転可能に支持されている。このネジ軸は、図略のアクチュエータ(例えば、電動モータ)によって、2つの支持部51,52で独立して回転させることができる。メネジ57はオネジ56のネジ軸にネジ結合されている。ネジ軸を回転させると、メネジ57が上下方向に移動する。このネジ送りにより、支持部51,52が上板部42を支持する高さを変更することができる。メネジ57と上板部42との間には、球面軸受58が配置されている。
【0037】
残りの支持部53には、球面軸受58が配置されている。この支持部53は、ネジ送りによる支持高さ変更機能を有していない。
【0038】
電動モータを駆動し、下板部41に対する上板部42の高さを複数の支持部51,52で独立して変更することで、上板部42の下板部41に対する傾斜角度及び傾斜方向を変更することができる。この結果、ロボットハンド3の第2アーム22に対する姿勢(傾斜角度及び傾斜方向)を調整することができる。なお、高さ調整機構5(ひいてはチルト機構4)はこの構成に限定されない。
【0039】
ロボット制御部9は、ロボットハンド3の姿勢に対応するエンコーダの検出結果をロボットハンド3の姿勢情報として記憶する。これにより、ロボット制御部9は、ロボットハンド3の姿勢を検出するエンコーダの検出結果が、記憶している姿勢情報と一致するように、ロボット100の各部(昇降軸11、第1アーム21、第2アーム22、ロボットハンド3等)を駆動する電動モータを制御することで、ロボットハンド3の姿勢を再現することができる。
【0040】
ロボット制御部9は、図1に示すように、基台1とは別に設けられている。ただし、ロボット制御部9は、基台1の内部に配置されても良い。ロボット制御部9は、公知のコンピュータとして構成されており、マイクロコントローラ、CPU、MPU、PLC、DSP、ASIC又はFPGA等の演算処理部と、ROM、RAM、HDD等の記憶部と、外部装置と通信可能な通信部と、を備える。記憶部には、演算処理部が実行するプログラム、各種の設定閾値等が記憶されている。通信部は、各種センサ(例えば、マッピングセンサ6、エンコーダ等)の検出結果を外部装置へ送信可能に、また、外部装置からワークWに関する情報等を受信可能に構成されている。
【0041】
ロボット制御部9は、昇降軸11、ロボットアーム2、ロボットハンド3を制御するとともに、チルト機構4を制御することができる。
【0042】
ロボット100は、ロボットハンド3の上面側にワークWを保持して搬送する。ロボットハンド3が異なる位置の間でワークWを搬送するとき、ロボットハンド3に加速度が生じることが避けられない。加速度運動している座標系において、物体には加速度と逆向きに慣性力が働くことは良く知られている。ロボットハンド3が水平であり、かつ水平方向に加速度運動しているとき、上述の慣性力は、ロボットハンド3に対してワークWの位置を水平方向にズラすように働く。
【0043】
近年の高速搬送のニーズにより、ロボットハンド3に生じる加速度は大きくなっており、これに応じて、ワークWに働く慣性力も大きくなっている。また、ガイド部33はワークWに下面から接触して、摩擦力でワークWを保持しているだけなので、その保持力は必ずしも強くない。従って、ロボットハンド3に対してワークWの位置ズレが生じ易くなっている。
【0044】
この点、本実施形態では、ロボットハンド3が加速度運動する場合に、ロボット制御部9がチルト機構4を制御して、当該加速度の向き(詳しく言えば、加速度の水平方向成分の向き)と反対側が高くなるようにロボットハンド3の姿勢を傾斜させている。図4(a)及び図4(b)には、ロボットハンド3の加速度と、それに応じたロボットハンド3の傾斜と、の関係の例が示されている。チルト機構4はロボットハンド3を任意の向きで傾斜可能であるので、ロボットハンド3に生じ得る様々な向きの加速度に対応することができる。
【0045】
このように、加速度運動に伴う姿勢制御を行うことで、ワークWに生じる慣性力の一部をロボットハンド3で受け止めることができる。この結果、ワークWの位置ズレを効果的に防止することができる。
【0046】
ロボットハンド3の加速度が大きい場合は、小さい場合に比べて、ロボットハンド3の傾斜を大きくすることが好ましい。慣性力の大きさに応じて、当該慣性力をロボットハンド3が受け止める度合いを強めることで、ワークWの位置ズレを過不足なく防止することができる。
【0047】
なお、ワークWの位置ズレをより過不足なく防止するためには、ワークWの摩擦係数が小さい場合は、大きい場合に比べて、ロボットハンド3の傾斜を大きくすることが好ましい。このような構成においては、ロボット制御部9は、事前に、ワークWの摩擦係数を外部装置から通信部を介して取得し、記憶部に記憶する。そして、ロボット制御部9は、ロボットハンド3の制御時に、ワークWの摩擦係数に応じてロボットハンド3の傾斜量を変更する。
【0048】
図5には、第1位置P1から別の位置である第2位置P2まで、直線経路に沿ってワークWを搬送する場合のロボットハンド3の姿勢の変化が示されている。図5の例では、第1位置P1と第2位置P2とは、平面視で互いに異なっているが、高さは同じである。ワークWは、第1位置P1から第2位置P2まで、実質的に水平な経路に沿って搬送される。従って、ロボットハンド3の加速度は、水平な向きにだけ生じる。
【0049】
第1位置P1を出発した直後は、ロボットハンド3に、第1位置P1から第2位置P2に向かう加速度が生じる。この加速区間では、ロボット制御部9は、ロボットハンド3を、搬送方向始端側が高くなるように傾斜させる。従って、ワークWについて、ロボットハンド3から取り残される向きの位置ズレが生じるのを防止できる。
【0050】
ロボットハンド3の速度が所定の速度となると、等速区間となる。この等速区間では、ロボット制御部9は、ロボットハンド3を水平な姿勢とする。
【0051】
ロボットハンド3が第2位置P2に近づくと、ロボットハンド3に、第2位置P2から第1位置P1に向かう加速度が生じる。この減速区間では、ロボット制御部9は、ロボットハンド3を、搬送方向終端側が高くなるように傾斜させる。従って、ワークWについて、ロボットハンド3に対して行き過ぎる向きの位置ズレが生じるのを防止できる。
【0052】
このように、本実施形態では、ワークWのロボットハンド3に対する位置ズレが搬送の過程で生じるのを防止できる。この結果、ワークWの安定した搬送を実現することができる。
【0053】
以上に説明したように、本実施形態において、ワークWを搬送するためのロボット100は、ロボットアーム2と、ロボットハンド3と、チルト機構4と、ロボット制御部9と、を備える。ロボットハンド3は、ロボットアーム2に設けられ、ワークWを上面側に保持して搬送する。チルト機構4は、ロボットハンド3の姿勢を任意の方向に傾けることが可能である。ロボット制御部9は、ロボットハンド3によってワークWを保持して搬送する過程でロボットハンド3に加速度が生じる場合に、チルト機構4によって、加速度の水平方向成分の向きと反対側が高くなるようにロボットハンド3の姿勢を傾斜させる。
【0054】
これにより、ロボットハンド3の加速度運動に伴ってワークWに生じる慣性力の一部を、傾斜させた姿勢のロボットハンド3によって受け止めることができる。従って、ワークWを高速で搬送した場合でも、ロボットハンド3に対するワークWの位置ズレが生じにくくなり、円滑な搬送を実現することができる。
【0055】
また、本実施形態のロボット100において、ロボット制御部9は、ロボットハンド3に生じる加速度の水平方向成分が大きい場合は、小さい場合に比べて、ロボットハンド3の姿勢の傾斜を大きくする。
【0056】
これにより、ワークWに生じる慣性力の大きさに応じてロボットハンド3の傾斜の大きさを調整することで、ワークWの位置ズレを適切に防止することができる。
【0057】
また、本実施形態では、第1位置P1から、第1位置P1と平面視で異なる第2位置P2へワークWを搬送する場合に、ロボット制御部9は、第1位置P1からワークWの搬送を開始した直後の状態において、搬送方向始端側が高くなるようにロボットハンド3の姿勢を傾斜させる。ロボット制御部9は、第2位置P2に到達する直前の状態において、搬送方向終端側が高くなるようにロボットハンド3の姿勢を傾斜させる。
【0058】
これにより、第1位置P1からの出発時、及び、第2位置P2への到着時において、ワークWがロボットハンド3に対して位置ズレすることなく、当該ワークWを円滑に搬送することができる。
【0059】
また、本実施形態のロボット100において、ロボットハンド3は、ワークWの下面にのみ作用することで、ワークWをロボットハンド3の上面側に保持する。
【0060】
即ち、ロボットハンド3の傾斜によりワークWの慣性力の一部を受け止める本実施形態の構成は、ロボットハンド3がワークWの下面にだけ保持力を作用させる構成(言い換えれば、ロボットハンド3と平行な向きでワークWを強く拘束することが困難な構成)に好適である。
【0061】
次に、第2実施形態のロボットについて説明する。なお、第2実施形態の説明においては、前述の実施形態と同一又は類似の部材には図面に同一の符号を付し、説明を省略する場合がある。
【0062】
本実施形態のロボットは、ロボットハンド3の下面側にワークWを保持して搬送する点で、第1実施形態のロボット100と相違する。
【0063】
図6に示すように、ロボットハンド3の下面側に、公知のベルヌーイチャック61が取り付けられる。これにより、ワークWがロボットハンド3の下面側に非接触式で保持され、その保持状態がワークWの搬送時にも維持される。なお、ロボットハンド3の下面側にワークWを保持するための構成は、特に限定されるものではなく、ワークWに所定の吸引力を作用させる等の手段で当該ワークWを保持可能な構成であれば良い。
【0064】
そして、ワークWがロボットハンド3の下面側に保持された状態で、ロボットハンド3が加速度運動する場合、ロボット制御部9がチルト機構4を制御して、当該加速度の向き(詳しく言えば、加速度の水平方向成分の向き)と同じ側が高くなるようにロボットハンド3の姿勢を傾斜させる。即ち、本実施形態では、第1実施形態と比べてロボットハンド3によるワークWの保持位置が上下逆であるので、加速度の向きに対し第1実施形態の場合とは逆側が高くなるようにロボットハンド3の姿勢が傾斜させられる。
【0065】
以上に説明したように、本実施形態のロボットは、ロボットアーム2と、ロボットハンド3と、チルト機構4と、ロボット制御部9と、を備える。ロボットハンド3は、ロボットアーム2に設けられ、ワークWを下面側に保持して搬送する。チルト機構4は、ロボットハンド3の姿勢を傾けることが可能である。ロボット制御部9は、ロボットハンド3によってワークWを保持して搬送する過程でロボットハンド3に加速度が生じる場合に、チルト機構4によって、加速度の水平方向成分の向きと同じ側が高くなるようにロボットハンド3の姿勢を傾斜させる。
【0066】
これにより、ロボットハンド3の加速度運動に伴ってワークWに生じる慣性力の一部を、傾斜させた姿勢のロボットハンド3によって受け止めることができる。従って、ワークWを高速で搬送した場合でも、ロボットハンド3に対するワークWの位置ズレが生じにくくなり、円滑な搬送を実現することができる。
【0067】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0068】
図5の例ではワークWは水平方向に搬送されているが、第1位置P1と第2位置P2の間で高さが異なっていても良い。この場合、ロボットハンド3の加速度に鉛直方向成分が生じることになるが、ロボットハンド3の姿勢の制御は、ロボットハンド3の加速度の水平方向成分に着目して行えば良い。
【0069】
図5に示すような直線状の経路でなく、例えば少なくとも一部がカーブした経路に沿って、ワークWを搬送することもできる。この場合、一定の速度で搬送していても、経路のカーブ区間では、慣性力(言い換えれば、遠心力)を受け止めるように、必要に応じてロボットハンド3の姿勢を傾斜させることが好ましい。
【0070】
ロボット100は、ワークWを直接保持して搬送する代わりに、ワークWを収容するトレイ等を保持してワークWを間接的に搬送しても良い。
【0071】
ロボットハンド3のハンド本体部32は、チルト機構4の上板部42と一体的に形成されても良い。
【0072】
チルト機構4は、基台1と昇降軸11の間に配置されても良いし、昇降軸11と第1アーム21の間に配置されても良いし、第1アーム21と第2アーム22の間に配置されても良い。
【0073】
上述の教示を考慮すれば、本発明が多くの変更形態及び変形形態をとり得ることは明らかである。従って、本発明が、添付の特許請求の範囲内において、本明細書に記載された以外の方法で実施され得ることを理解されたい。
【符号の説明】
【0074】
1 基台
11 昇降軸
2 ロボットアーム(アーム部)
21 第1アーム
22 第2アーム
3 ロボットハンド(ハンド部)
31 手首部
32 ハンド本体部
32a 第1指部
32b 第2指部
4 チルト機構
41 下板部
42 上板部
5 高さ調整機構
51,52,53 支持部
56 オネジ
57 メネジ
58 球面軸受
61 ベルヌーイチャック
9 ロボット制御部(ハンド姿勢制御部)
100 ロボット
図1
図2
図3
図4
図5
図6