(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】移動速度の検出装置および検出方法
(51)【国際特許分類】
G01S 13/58 20060101AFI20241111BHJP
G01S 13/34 20060101ALI20241111BHJP
G01S 13/60 20060101ALI20241111BHJP
【FI】
G01S13/58 200
G01S13/34
G01S13/60
(21)【出願番号】P 2020152259
(22)【出願日】2020-09-10
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】318006365
【氏名又は名称】JRCモビリティ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(74)【代理人】
【識別番号】100141678
【氏名又は名称】佐藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】矢野 邦哲
(72)【発明者】
【氏名】時枝 幸伸
【審査官】安井 英己
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-184595(JP,A)
【文献】特開2004-069340(JP,A)
【文献】特開2010-038705(JP,A)
【文献】特開2007-322331(JP,A)
【文献】国際公開第2019/180551(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0130697(US,A1)
【文献】特開平10-253753(JP,A)
【文献】特開2020-003357(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0176162(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42,
G01S 13/00-13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信波を放射するとともに前記送信波が
周囲の静止物で反射して戻ってくる反射波を受信してレーダデータを出力する
車両のレーダ部と、
前記レーダデータの周波数解析を行い周波数スペクトルを生成して前記
周囲の静止物との距離および相対速度を計算する信号処理部と、
前記相対速度の値ごとに前記周波数スペクトルにおける受信強度を積算して前記相対速度の値別の受信強度積算値を算出する受信強度積算部と、
前記受信強度積算値の最大値に対応する前記相対速度の値(「相対速度値」と呼ぶ)を特定する移動速度特定部と、
前記相対速度の値ごとに前記受信強度の最大値を特定したうえで前記受信強度の前記最大値に対応する前記距離の値を特定して前記相対速度の値と前記距離の値との組み合わせデータを生成するとともに、前記距離の値が所定の範囲に入っている前記組み合わせデータのうち前記相対速度の値が前記相対速度値よりも小さい所定の範囲に入っている前記組み合わせデータの特性と前記相対速度の値が前記相対速度値よりも大きい所定の範囲に入っている前記組み合わせデータの特性とを比較して前記周波数解析において速度情報の回り込みが発生しているか否かを判定する回込み検出部と、
前記判定の結果に基づいて前記相対速度値を
前記車両の移動速度としてそのまま出力したり前記速度情報の回り込みを考慮した計算処理を施したうえで出力したりする移動速度出力部と、を有
し、
前記距離の値の前記所定の範囲とは、前記レーダ部の正面方向が俯角となるように前記レーダ部を前記車両に設置した上で、前記レーダ部の地面への正投影位置から前記正面方向と前記地面との交点までの地面の範囲のうちの前記レーダ部側の略半分の範囲に設定されるものであり、
前記相対速度の値が前記相対速度値よりも小さい前記所定の範囲と、前記相対速度の値が前記相対速度値よりも大きい前記所定の範囲とは、範囲の大きさが同じであるとともに、前記レーダ部の最大検知可能速度の略1/10の範囲に設定されるものである、
ことを特徴とする移動速度の検出装置。
【請求項2】
前記組み合わせデータの前記特性が、前記距離の値が前記所定の範囲に入っている前記
組み合わせデータのうち前記相対速度の値が前記相対速度値よりも小さい前記所定の範囲に入っている前記組み合わせデータの個数および前記相対速度値よりも大きい前記所定の範囲に入っている前記組み合わせデータの個数である、
ことを特徴とする請求項1に記載の移動速度の検出装置。
【請求項3】
前記組み合わせデータの前記特性が、前記距離の値が前記所定の範囲に入っている前記組み合わせデータのうち前記相対速度の値が前記相対速度値よりも小さい前記所定の範囲に入っている前記組み合わせデータの前記距離の平均値および前記相対速度値よりも大きい前記所定の範囲に入っている前記組み合わせデータの前記距離の平均値である、
ことを特徴とする請求項1に記載の移動速度の検出装置。
【請求項4】
送信波を放射するとともに前記送信波が
周囲の静止物で反射して戻ってくる反射波を受信する
車両のレーダ装置から出力されるレーダデータの周波数解析を行い周波数スペクトルを生成して前記
周囲の静止物との距離および相対速度を計算する処理と、
前記相対速度の値ごとに前記周波数スペクトルにおける受信強度を積算して前記相対速度の値別の受信強度積算値を算出する処理と、
前記受信強度積算値の最大値に対応する前記相対速度の値(「相対速度値」と呼ぶ)を特定する処理と、
前記相対速度の値ごとに前記受信強度の最大値を特定したうえで前記受信強度の前記最大値に対応する前記距離の値を特定して前記相対速度の値と前記距離の値との組み合わせデータを生成するとともに、前記距離の値が所定の範囲に入っている前記組み合わせデータのうち前記相対速度の値が前記相対速度値よりも小さい所定の範囲に入っている前記組み合わせデータの特性と前記相対速度の値が前記相対速度値よりも大きい所定の範囲に入っている前記組み合わせデータの特性とを比較して前記周波数解析において速度情報の回り込みが発生しているか否かを判定する処理と、
前記判定の結果に基づいて前記相対速度値を
前記車両の移動速度としてそのまま出力したり前記速度情報の回り込みを考慮した計算処理を施したうえで出力したりする処理と、を有
し、
前記距離の値の前記所定の範囲とは、前記レーダ装置の正面方向が俯角となるように前記レーダ装置を前記車両に設置した上で、前記レーダ装置の地面への正投影位置から前記正面方向と前記地面との交点までの地面の範囲のうちの前記レーダ装置側の略半分の範囲に設定されるものであり、
前記相対速度の値が前記相対速度値よりも小さい前記所定の範囲と、前記相対速度の値が前記相対速度値よりも大きい前記所定の範囲とは、範囲の大きさが同じであるとともに、前記レーダ装置の最大検知可能速度の略1/10の範囲に設定されるものである、
ことを特徴とする移動速度の検出方法。
【請求項5】
前記組み合わせデータの前記特性として、前記距離の値が前記所定の範囲に入っている前記組み合わせデータのうち前記相対速度の値が前記相対速度値よりも小さい前記所定の範囲に入っている前記組み合わせデータの個数を計数するとともに前記相対速度値よりも大きい前記所定の範囲に入っている前記組み合わせデータの個数を計数する、
ことを特徴とする請求項4に記載の移動速度の検出方法。
【請求項6】
前記組み合わせデータの前記特性として、前記距離の値が前記所定の範囲に入っている前記組み合わせデータのうち前記相対速度の値が前記相対速度値よりも小さい前記所定の範囲に入っている前記組み合わせデータの前記距離の平均値を算出するとともに前記相対速度値よりも大きい前記所定の範囲に入っている前記組み合わせデータの前記距離の平均値を算出する、
ことを特徴とする請求項4に記載の移動速度の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、移動速度の検出装置および検出方法に関し、特に、レーダから送信された電波が物体の表面で反射して戻ってくる反射波を処理して取得されるレーダデータに基づいてレーダ装置自身の移動速度を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
物標を検知して前記物標の相対速度を推定する仕組みを有するレーダ装置として、水平面内で回転しながら信号の送受信を繰り返すように構成されたレーダアンテナと、自装置周囲の物標の位置を示すレーダ映像を表示する表示器と、自装置からの電波の放射方向成分における自装置と物標との相対速度を推定する速度推定部と、を備えるレーダ装置が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電波センサ/レーダ装置が用いられて取得されるレーダデータに基づいてレーダ装置自身の移動速度を推定することができれば、電波センサ/レーダ装置を取り付けることによって種々の機材や機器あるいは車両や設備などの移動速度を知ることができ、有用である。
【0005】
そこでこの発明は、レーダデータに基づいてレーダ装置自身の移動速度を推定することが可能な移動速度の検出装置および検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、送信波を放射するとともに前記送信波が周囲の静止物で反射して戻ってくる反射波を受信してレーダデータを出力する車両のレーダ部と、前記レーダデータの周波数解析を行い周波数スペクトルを生成して前記周囲の静止物との距離および相対速度を計算する信号処理部と、前記相対速度の値ごとに前記周波数スペクトルにおける受信強度を積算して前記相対速度の値別の受信強度積算値を算出する受信強度積算部と、前記受信強度積算値の最大値に対応する前記相対速度の値(「相対速度値」と呼ぶ)を特定する移動速度特定部と、前記相対速度の値ごとに前記受信強度の最大値を特定したうえで前記受信強度の前記最大値に対応する前記距離の値を特定して前記相対速度の値と前記距離の値との組み合わせデータを生成するとともに、前記距離の値が所定の範囲に入っている前記組み合わせデータのうち前記相対速度の値が前記相対速度値よりも小さい所定の範囲に入っている前記組み合わせデータの特性と前記相対速度の値が前記相対速度値よりも大きい所定の範囲に入っている前記組み合わせデータの特性とを比較して前記周波数解析において速度情報の回り込みが発生しているか否かを判定する回込み検出部と、前記判定の結果に基づいて前記相対速度値を前記車両の移動速度としてそのまま出力したり前記速度情報の回り込みを考慮した計算処理を施したうえで出力したりする移動速度出力部と、を有し、前記距離の値の前記所定の範囲とは、前記レーダ部の正面方向が俯角となるように前記レーダ部を前記車両に設置した上で、前記レーダ部の地面への正投影位置から前記正面方向と前記地面との交点までの地面の範囲のうちの前記レーダ部側の略半分の範囲に設定されるものであり、前記相対速度の値が前記相対速度値よりも小さい前記所定の範囲と、前記相対速度の値が前記相対速度値よりも大きい前記所定の範囲とは、範囲の大きさが同じであるとともに、前記レーダ部の最大検知可能速度の略1/10の範囲に設定されるものである、ことを特徴とする移動速度の検出装置である。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の移動速度の検出装置において、前記組み合わせデータの前記特性が、前記距離の値が前記所定の範囲に入っている前記組み合わせデータのうち前記相対速度の値が前記相対速度値よりも小さい前記所定の範囲に入っている前記組み合わせデータの個数および前記相対速度値よりも大きい前記所定の範囲に入っている前記組み合わせデータの個数である、ことを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の移動速度の検出装置において、前記組み合わせデータの前記特性が、前記距離の値が前記所定の範囲に入っている前記組み合わせデータのうち前記相対速度の値が前記相対速度値よりも小さい前記所定の範囲に入っている前記組み合わせデータの前記距離の平均値および前記相対速度値よりも大きい前記所定の範囲に入っている前記組み合わせデータの前記距離の平均値である、ことを特徴とする。
ことを特徴とする。
【0009】
また、請求項4に記載の発明は、送信波を放射するとともに前記送信波が周囲の静止物で反射して戻ってくる反射波を受信する車両のレーダ装置から出力されるレーダデータの周波数解析を行い周波数スペクトルを生成して前記周囲の静止物との距離および相対速度を計算する処理と、前記相対速度の値ごとに前記周波数スペクトルにおける受信強度を積算して前記相対速度の値別の受信強度積算値を算出する処理と、前記受信強度積算値の最大値に対応する前記相対速度の値(「相対速度値」と呼ぶ)を特定する処理と、前記相対速度の値ごとに前記受信強度の最大値を特定したうえで前記受信強度の前記最大値に対応する前記距離の値を特定して前記相対速度の値と前記距離の値との組み合わせデータを生成するとともに、前記距離の値が所定の範囲に入っている前記組み合わせデータのうち前記相対速度の値が前記相対速度値よりも小さい所定の範囲に入っている前記組み合わせデータの特性と前記相対速度の値が前記相対速度値よりも大きい所定の範囲に入っている前記組み合わせデータの特性とを比較して前記周波数解析において速度情報の回り込みが発生しているか否かを判定する処理と、前記判定の結果に基づいて前記相対速度値を前記車両の移動速度としてそのまま出力したり前記速度情報の回り込みを考慮した計算処理を施したうえで出力したりする処理と、を有し、前記距離の値の前記所定の範囲とは、前記レーダ装置の正面方向が俯角となるように前記レーダ装置を前記車両に設置した上で、前記
レーダ装置の地面への正投影位置から前記正面方向と前記地面との交点までの地面の範囲のうちの前記レーダ装置側の略半分の範囲に設定されるものであり、前記相対速度の値が前記相対速度値よりも小さい前記所定の範囲と、前記相対速度の値が前記相対速度値よりも大きい前記所定の範囲とは、範囲の大きさが同じであるとともに、前記レーダ装置の最大検知可能速度の略1/10の範囲に設定されるものである、ことを特徴とする移動速度の検出方法である。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の移動速度の検出方法において、前記組み合わせデータの前記特性として、前記距離の値が前記所定の範囲に入っている前記組み合わせデータのうち前記相対速度の値が前記相対速度値よりも小さい前記所定の範囲に入っている前記組み合わせデータの個数を計数するとともに前記相対速度値よりも大きい前記所定の範囲に入っている前記組み合わせデータの個数を計数する、ことを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項4に記載の移動速度の検出方法において、前記組み合わせデータの前記特性として、前記距離の値が前記所定の範囲に入っている前記組み合わせデータのうち前記相対速度の値が前記相対速度値よりも小さい前記所定の範囲に入っている前記組み合わせデータの前記距離の平均値を算出するとともに前記相対速度値よりも大きい前記所定の範囲に入っている前記組み合わせデータの前記距離の平均値を算出する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明や請求項4に記載の発明によれば、レーダデータに基づいてレーダ装置自身の移動速度を推定することができるので、レーダ装置を取り付けることにより、受信アンテナ1系統の受信データのみから、種々の機材や機器あるいは車両や設備などの移動速度を知ることが可能となる。請求項1に記載の発明や請求項4に記載の発明によれば、特に、レーダデータの周波数解析において速度情報の回り込みが発生しているか否かを判定するようにしているので、レーダ装置のシステム設計速度以上の物体が検出されても正常な相対速度を検出することが可能となり、延いては、移動速度を推定する技術としての信頼性を向上させることが可能となる。
【0013】
請求項2、3に記載の発明や請求項5、6に記載の発明によれば、レーダデータの周波数解析において速度情報の回り込みが発生しているか否かを適切に判定することが可能となり、レーダ装置のシステム設計速度以上の物体が検出されても正常な相対速度を一層確実に検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】この発明の実施の形態1に係る移動速度の検出装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
【
図2】
図1の移動速度の検出装置における処理手順であるとともにこの発明の実施の形態1に係る移動速度の検出方法の処理手順を示すフローチャートである。
【
図3】移動速度の検出装置が約+15km/hで移動している場合のデータの例を示す図である。(A)は信号処理部から出力されるVRデータの例を示す図である。(B)は(A)のVRデータに関する相対速度と受信強度積算値との間の関係を表す図である。
【
図4】レーダ部によって検出される速度の内容を説明する図である。
【
図5】移動速度の検出装置が約+15km/hで移動している場合のデータの例を示す図である。(A)は信号処理部から出力されるVRデータの例を示す図である。(B)は(A)のVRデータに関する相対速度と最大強度距離値との間の関係を表す図である。
【
図6】
図5(B)の相対速度と最大強度距離値との間の関係におけるデータの個数の計数を説明する図である。(A)は最大強度距離データに対するデータ計数距離範囲の設定の例を示す図である。(B)は、(A)のデータ計数距離範囲の部分拡大図であり、最大強度距離データに対する左側速度範囲および右側速度範囲の設定の例を示す図である。
【
図7】データ計数距離範囲の設定の考え方を説明する図である。
【
図8】高速フーリエ変換処理における速度情報の回り込みが発生している場合のデータ(シミュレーションデータ)を示す図である。(A)はVRデータの例を示す図である。(B)は(A)のVRデータに関する相対速度と最大強度距離値との間の関係の、データ計数距離範囲を含む部分の拡大図である。
【
図9】移動速度の検出装置が約-15km/hで移動している場合のデータの例を示す図である。(A)は信号処理部から出力されるVRデータの例を示す図である。(B)は(A)のVRデータに関する相対速度と受信強度積算値との間の関係を表す図である。
【
図10】
図9(A)のVRデータに関する相対速度と最大強度距離値との間の関係におけるデータの個数の計数を説明する図である。(A)は
図9(A)のVRデータに関する最大強度距離データに対するデータ計数距離範囲の設定の例を示す図である。(B)は、(A)のデータ計数距離範囲の部分拡大図であり、最大強度距離データに対する左側速度範囲および右側速度範囲の設定の例を示す図である。
【
図11】この発明の実施の形態2に係る移動速度の検出装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
【
図12】
図11の移動速度の検出装置における処理手順であるとともにこの発明の実施の形態2に係る移動速度の検出方法の処理手順を示すフローチャートである。
【
図13】最大強度距離データの平均値算出距離範囲ならびに左側速度範囲および右側速度範囲の条件を満たす範囲を含む部分の拡大図であり、相対速度と最大強度距離値との間の関係における距離の平均値の算出を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0016】
(実施の形態1)
図1は、この発明の実施の形態1に係る移動速度の検出装置1の概略構成を示す機能ブロック図である。
図2は、移動速度の検出装置1における処理手順であるとともにこの発明の実施の形態1に係る移動速度の検出方法の処理手順を示すフローチャートである。
【0017】
移動速度の検出装置1は、レーダによって取得されるレーダデータに基づいて装置自身の移動速度を推定する仕組みであり、主として、制御部2と、レーダ部3と、信号処理部4と、受信強度積算部5と、移動速度特定部6と、回込み検出部7と、移動速度出力部8と、を備える。移動速度の検出装置1は、例えば、あくまで一例として挙げると、鉄道や自動車などの車両に搭載されて、移動速度の検出装置1自身の移動速度を推定することにより、前記車両の移動速度/走行速度を推定するために用いられる。
【0018】
制御部2は、移動速度の検出装置1の各部を制御するための機序であり、移動速度の検出に纏わる演算処理を行う中央処理装置21(CPU:Central Processing Unit の略)、読み出し可能な記憶装置であるROM22(ROM:Read Only Memory の略)、および、読み出し/書き込み可能な記憶装置であるRAM23(RAM:Random Access Memory の略)などを備える機序として構成される。
【0019】
制御部2は、ROM22に格納されている、移動速度の検出装置1の動作を制御するためのプログラムを中央処理装置21が実行することにより、RAM23を必要に応じて作業領域として使用しながら、前記プログラムに従って移動速度の検出装置1の各部の処理の開始、内容、および終了を統制して制御する。
【0020】
そして、実施の形態1に係る移動速度の検出装置1は、送信波を放射するとともに送信波が物体で反射して戻ってくる反射波を受信してレーダデータを出力するレーダ部3と、レーダデータの周波数解析を行い周波数スペクトルを生成して物体との距離Rおよび相対速度Vを計算する信号処理部4と、相対速度Vの値ごとに周波数スペクトルにおける受信強度Iを積算して相対速度Vの値別の受信強度積算値Isを算出する受信強度積算部5と、受信強度積算値Isの最大値Ismaxに対応する相対速度Vの値Vm(「相対速度値」と呼ぶ)を特定する移動速度特定部6と、相対速度Vの値ごとに受信強度Iの最大値Imaxを特定したうえで受信強度Iの最大値Imaxに対応する距離Rの値Rmを特定して相対速度Vの値と距離Rの値Rmとの組み合わせデータ(V,Rm)を生成するとともに、距離Rの値Rmが所定の範囲に入っている組み合わせデータ(V,Rm)のうち相対速度Vの値が相対速度値よりも小さい所定の範囲に入っている組み合わせデータ(V,Rm)の特性と相対速度Vの値が相対速度値よりも大きい所定の範囲に入っている組み合わせデータ(V,Rm)の特性とを比較して周波数解析において速度情報の回り込みが発生しているか否かを判定する回込み検出部7と、判定の結果に基づいて相対速度値を自装置の移動速度としてそのまま出力したり速度情報の回り込みを考慮した計算処理を施したうえで出力したりする移動速度出力部8と、を有する、ようにしている(
図1参照)。
【0021】
実施の形態1に係る移動速度の検出装置1は、さらに、組み合わせデータ(V,Rm)の特性が、距離Rの値Rmが所定の範囲に入っている組み合わせデータ(V,Rm)のうち相対速度Vの値が相対速度値よりも小さい所定の範囲に入っている組み合わせデータ(V,Rm)の個数および相対速度値よりも大きい所定の範囲に入っている組み合わせデータ(V,Rm)の個数である、ようにしている。
【0022】
また、実施の形態1に係る移動速度の検出方法は、送信波を放射するとともに送信波が物体で反射して戻ってくる反射波を受信するレーダ部3から出力されるレーダデータの周波数解析を行い周波数スペクトルを生成して物体との距離Rおよび相対速度Vを計算する処理(ステップS1~S4)と、相対速度Vの値ごとに周波数スペクトルにおける受信強度Iを積算して相対速度Vの値別の受信強度積算値Isを算出する処理(ステップS5)と、受信強度積算値Isの最大値Ismaxに対応する相対速度Vの値Vm(即ち、相対速度値)を特定する処理(ステップS6)と、相対速度Vの値ごとに受信強度Iの最大値Imaxを特定したうえで受信強度Iの最大値Imaxに対応する距離Rの値Rmを特定して相対速度Vの値と距離Rの値Rmとの組み合わせデータ(V,Rm)を生成するとともに、距離Rの値Rmが所定の範囲に入っている組み合わせデータ(V,Rm)のうち相対速度Vの値が相対速度値よりも小さい所定の範囲に入っている組み合わせデータ(V,Rm)の特性と相対速度Vの値が相対速度値よりも大きい所定の範囲に入っている組み合わせデータ(V,Rm)の特性とを比較して周波数解析において速度情報の回り込みが発生しているか否かを判定する処理(ステップS7~S9)と、判定の結果に基づいて相対速度値を自装置の移動速度としてそのまま出力したり速度情報の回り込みを考慮した計算処理を施したうえで出力したりする処理(ステップS10)と、を有する、ようにしている(
図2参照)。
【0023】
実施の形態1に係る移動速度の検出方法は、さらに、組み合わせデータ(V,Rm)の特性として、距離Rの値Rmが所定の範囲に入っている組み合わせデータ(V,Rm)のうち相対速度Vの値が相対速度値よりも小さい所定の範囲に入っている組み合わせデータ(V,Rm)の個数を計数するとともに相対速度値よりも大きい所定の範囲に入っている組み合わせデータ(V,Rm)の個数を計数する(ステップS8)、ようにしている(
図2参照)。
【0024】
レーダ部3は、送信部31と受信部32とを備えて電波を送信するとともに受信する機能を備え、レーダ方式としてFMCW(Frequency Modulated-Continuous Wave の略;周波数変調連続波)方式のレーダスキャンを行って取得されるレーダデータを出力する。付け加えると、レーダ部3は、複数の送信アンテナと複数の受信アンテナとを有するようなMIMO(Multiple Input Multiple Output の略)方式のレーダとして構成されるようにしてもよい。
【0025】
FMCW方式では、周波数変調した連続波(具体的には電波;送信信号に相当する)を送信波として送信するとともに物体の表面で反射して戻ってくる反射波(具体的には電波;受信信号に相当する)を受信し、送信波と受信波(即ち、反射波)との差分(言い換えると、送信波と受信波との間の周波数差)を解析することにより、レーダ部3と物体との間の距離が計算され、また、計算された距離の周波数の位相を連続波ごとに計測して解析することにより、レーダ部3と物体との相対速度が計算される。
【0026】
FMCW方式のレーダは、時間の経過に応じて周波数変調を行う連続発振レーダであり、複数のチャープを含むバースト波を生成して送信する(別言すると、出射する、放射する)。バースト波に含まれる各チャープは、周波数が時間的に掃引されて、時間の経過に伴って周波数が線形的に変化する(具体的には、上昇/下降する)ように生成される。なお、チャープの周波数の変調幅や変調の周期(即ち、チャープの繰返し周期)は適宜調節されるようにしてよい。
【0027】
ここで、複数のチャープが所定の時間周期で送信され、一連で1つの纏まりとして構成される複数のチャープのことを「チャープフレーム」と呼ぶ。1つのチャープフレームが1回のレーダスキャンに相当し、各チャープフレームは独立して処理される。
【0028】
レーダ部3の送信部31は、例えば、電圧発生器、電圧制御発振器、および送信アンテナなどを含む機序として構成される。
【0029】
電圧発生器は、時間軸上でレベルが次第に高くなる区間とレベルが次第に低くなる区間とが交互に連続して三角波状(または、鋸波状)に変化する制御電圧を生成して出力する。
【0030】
電圧制御発振器は、前記制御電圧に応じて時間軸上で周波数が次第に高くなる変調区間と周波数が次第に低くなる変調区間とが交互に連続して三角波状(または、鋸波状)に変化する送信信号を生成して出力する。
【0031】
送信アンテナは、前記送信信号に基づいて送信波を生成し、移動速度の検出装置1が搭載されている車両などの周辺の空間(「周辺空間」と呼ぶ;尚、前記車両などの進行方向に沿う空間を含む空間であることが好ましい)へと送信波として放射する。送信信号の一部は、所定の分配比で、ローカル信号として受信部32へも伝送される。
【0032】
送信部31は、例えば79GHz帯、76GHz帯、或いは60GHz帯の周波数を有する電波(尚、「ミリ波」とも呼ばれる)を生成して送信アンテナを介して周辺空間へと放射する。なお、この発明では、高周波数帯の電波を利用することが好ましい。
【0033】
レーダ部3の受信部32は、例えば、受信アンテナ、ミキサ、およびA/D変換器などを含む機序として構成される。
【0034】
受信アンテナは、送信部31の送信アンテナから放射された電波(即ち、送信波)が周辺空間に存在する物体の表面で反射して戻ってくる電波(即ち、反射波;「ドップラ反射波」とも呼ばれる)を含む電波を受信波として受信して、受信した受信波/反射波を受信信号へと変換して出力する。
【0035】
ミキサは、送信部31から分配されて伝送される電波(送信信号;即ち、ローカル信号)と受信アンテナから出力される電波(受信信号)とをミキシングして差分信号(尚、アナログ信号である)を生成して出力する。
【0036】
A/D変換器は、ミキサから出力される差分信号に対して所定のサンプリング周波数を用いてサンプリング処理(別言すると、アナログ-デジタル変換処理)を施して前記差分信号をデジタルデータに変換してデジタル信号化された差分信号を出力する。
【0037】
レーダスキャンが行われてレーダ部3から出力されるレーダデータとしての差分信号は、送信部31から分配されて伝送される電波(送信信号;即ち、ローカル信号)の周波数成分と受信アンテナから出力される電波(受信信号)の周波数成分との差の周波数成分を有する信号(つまり、ビート周波数を有する信号であり、「ビート信号」とも呼ばれる)である。
【0038】
レーダスキャンが行われるたびに、レーダ部3からレーダデータが出力されて、前記レーダデータが信号処理部4へと入力される(ステップS1)。
【0039】
信号処理部4は、レーダ部3から出力されるレーダデータの周波数解析を行うとともに、周波数解析結果を用いて送信波を反射させた物体に関する距離情報および運動情報を計算する。信号処理部4は、周波数解析部41、距離計算部42、および速度計算部43を含んで構成される。
【0040】
周波数解析部41は、レーダ部3(具体的には、受信部32のA/D変換器)から出力されるレーダデータ(別言すると、ビート波形データ)としての差分信号(ビート信号)の周波数解析を行う(ステップS2)。
【0041】
周波数解析部41は、具体的には、1回のレーダスキャンあたりのサンプリング時間幅(例えば、100ミリ秒間)ぶんのビート波形データ、具体的には差分信号(ビート信号)の振幅に対して高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform の略)処理を施して前記差分信号の振幅の周波数分布を示す周波数スペクトル(ビート周波数スペクトラム)を生成して出力する。周波数スペクトルは、差分信号に含まれる各周波数成分の振幅を示す。
【0042】
周波数スペクトルにおける振幅の大きさおよび周波数ビン(別言すると、FFTビン)は、物体からの反射波の受信強度およびビート周波数に相当する。そして、周波数スペクトルにおける受信強度およびビート周波数から、物体に関する距離情報や運動情報として、送信波を反射させた物体に関する相対距離および相対速度が求められる。
【0043】
距離計算部42は、周波数解析部41から出力される周波数スペクトルに基づいて、レーダ部3と物体との間の距離Rを計算して出力する(ステップS3)。距離Rは、ステップS2の処理における周波数解析の結果としての周波数スペクトルにおける周波数ビンごとに求められる。
【0044】
周波数スペクトルに基づく距離の計算の仕法は、公知の手法が存在し、また、この発明では特定の手法には限定されないので、ここでは詳細の説明は省略する。例えば、レーダ部3と送信波を反射する物体との間の距離は、送信波の周波数と受信波の周波数との差がレーダ部3と物体との間の距離に比例して増減する、ことを利用する手法などの公知の手法によって計算され得る。
【0045】
速度計算部43は、周波数解析部41から出力される周波数スペクトルに基づいて、レーダ部3と物体との相対速度V(具体的には、送信波が物体の表面で反射した時の瞬時の相対速度)を計算して出力する(ステップS4)。相対速度Vは、ステップS2の処理における周波数解析の結果としての周波数スペクトルにおける周波数ビンごとに求められる。
【0046】
周波数スペクトルに基づく相対速度の計算の仕法は、公知の手法が存在し、また、この発明では特定の手法には限定されないので、ここでは詳細の説明は省略する。例えば、レーダ部3と物体との相対速度は、レーダ部3と送信波を反射する物体とが相対的に移動しているときの前記物体の表面で反射して受信アンテナによって受信される電波(即ち、受信波)の周波数は、送信アンテナから送信される電波(即ち、送信波)の周波数に対して、前記物体の表面で反射した際に電波がレーダ部3との相対速度による影響を受け、ドップラ効果により、レーダ部3と前記物体との間の相対速度に応じてシフトする、ことを利用する手法などの公知の手法によって計算され得る。
【0047】
信号処理部4は、上記の処理により、レーダ部3から出力されるレーダデータに基づく、周波数解析の結果としての周波数スペクトルにおける周波数ビンごとに計算される、レーダ部3と物体との相対速度V(単位:km/h)と、レーダ部3と物体との間の距離R(単位:m)と、前記周波数ビンごとの振幅の絶対値である受信強度Iとの組み合わせからなるデータ(V,R,I)を出力する。信号処理部4から出力されるデータ(V,R,I)のことを「VRデータ」と呼ぶ。
【0048】
なお、周波数スペクトルにおける周波数ビンごとに距離Rおよび相対速度Vを計算して、距離Rの値と相対速度Vの値とが同じ組み合わせが複数存在する場合には、距離Rの値と相対速度Vの値とが同じ組み合わせ各々の受信強度Iの値の合計値を当該の距離Rの値と相対速度Vの値との組み合わせの受信強度Iの値とする。
【0049】
信号処理部4による処理は、所定の時間周期(別言すると、サンプリング時間幅)のレーダスキャンごとに行われる。すなわち、1回のレーダスキャンが行われるたびに、当該のレーダスキャンに関する、VRデータ(V,R,I)の集合が生成されて出力される。
【0050】
VRデータ(V,R,I)の例を
図3(A)に示す。
図3(A)では、横軸を相対速度Vとするとともに縦軸を距離Rとしたうえで、(V,R)の組み合わせに対応する受信強
度Iの値を、前記値の大きさに応じて色を変えて表示している。
図3(A)では、受信強度Iの値が小さい場合に暗く表示され、受信強度Iの値が大きくなるにしたがって明るくなるように表示されている。
【0051】
ここで、移動速度の検出装置1(具体的には、送信アンテナ,受信アンテナ)が移動すると、周囲の静止物(例えば、地面/路面や構造物、また、地面/土地に対して固定的に設置されている設備)からの反射波に関して、
図3(A)に示すような、移動速度の検出装置1自身の移動速度に対応する(別言すると、相当する)速度成分をもつスペクトラムが現れる。この発明では、周囲の静止物からの反射波に着目して、移動速度の検出装置1自身の移動速度を推定する。この発明では、つまり、周囲の静止物を基準とする自装置の相対速度を割り出すことにより、移動速度の検出装置1自身の移動速度を推定する。
【0052】
具体的には、
図3(A)において上向きの矢印で指し示す、距離の全般にわたって受信強度Iの値が大きくなっている位置における相対速度が、当該のVRデータが取得された際の移動速度の検出装置1自身の実際の移動速度(尚、約+15km/hである)に対応する(別言すると、相当する)速度成分である。なお、移動速度の検出装置1自身の移動速度が0である(即ち、移動速度の検出装置1が停止している)場合には、相対速度の値が0の位置において受信強度Iの値が大きくなる。
【0053】
図3(A)に関連して、レーダ部3の送信アンテナから送信される電波(即ち、送信波)を地面にあてると、レーダ部3に対する方向によって様々な相対速度が検出される(
図4参照)。具体的には、レーダ部3(具体的には、送信アンテナ,受信アンテナ)の正面で反射して戻ってくる電波に対応する相対速度が最大であり、真値に近い相対速度である。一方で、レーダ部3の正面から外れるほど、レーダ部3で検出される見かけの相対速度は小さくなる。そして、アンテナ利得はレーダ部3の正面が最大であるので、最大である相対速度が最も遠くまで見える(言い換えると、距離Rの全般にわたって受信強度Iの値が大きくなる)。
【0054】
受信強度積算部5は、信号処理部4から出力されるVRデータ(V,R,I)の集合について、相対速度の値別の受信強度積算値を算出する(ステップS5)。
【0055】
受信強度積算部5は、VRデータ(V,R,I)の集合を用いて、相対速度Vの値ごとに受信強度Iの値を積算して相対速度Vの値別の受信強度積算値Isを算出する。受信強度積算値Isは、すなわち、VRデータ(V,R,I)の集合によって構成される
図3(A)に示すようなVR平面における、相対速度Vの値ごとの、距離Rの方向についての受信強度Iの積算値である。なお、受信強度積算部5は、必要に応じて、相対速度Vの値を所定の幅で区切って速度ランク(別言すると、速度ビン)ごとに受信強度Iの値を積算するようにしてもよい。実施の形態の説明では、「相対速度Vの値」は「速度ビン」の意味も含んで用いられる。
【0056】
受信強度積算部5は、相対速度Vと受信強度積算値Isとの組み合わせからなるデータ(V,Is)の集合を出力する。受信強度積算部5から出力されるデータ(V,Is)のことを「受信強度積算値データ」と呼ぶ。
【0057】
図3(A)に示すVRデータ(V,R,I)の集合を用いて算出される受信強度積算値データ(V,Is)の集合を
図3(B)に示す。
図3(B)では、横軸を相対速度Vとするとともに縦軸を受信強度積算値Isとして表示している。
図3(B)について、当該のデータが取得された際の移動速度の検出装置1自身の実際の移動速度(即ち、約+15km/h)に対応する(別言すると、相当する)速度成分の位置において、受信強度積算値Isの値が最大になっていることが確認できる。
【0058】
なお、受信強度積算値Isを計算する際には、ステップS3の処理において計算される距離Rの全範囲を対象として相対速度Vの値ごとに受信強度Iの値を積算するようにしてもよく、或いは、計算される距離Rのうちの特定の範囲に限定して相対速度Vの値ごとに受信強度Iの値を積算するようにしてもよい。
【0059】
受信強度積算値Isを計算する際には、また、例えば車両の構造の一部がレーダ部3(特に、送信アンテナ,受信アンテナ)の近傍に存在して送信アンテナから放射される送信波を反射する場合には、レーダ部3と前記構造の一部との間の距離が考慮されるなどしたうえで、距離Rがレーダ部3の近傍に該当し且つ相対速度Vが0に近い組み合わせのVRデータ(V,R,I)を除いて相対速度Vの値ごとに受信強度Iの値を積算するようにしてもよい。
【0060】
移動速度特定部6は、受信強度積算部5から出力される受信強度積算値データ(V,Is)の集合を用いて、受信強度積算値が最大である相対速度の値を特定する(ステップS6)。
【0061】
移動速度特定部6は、受信強度積算値データ(V,Is)の集合の中から、受信強度積算値Isの最大値Ismaxを特定し、特定された受信強度積算値Isの最大値Ismaxと組み合わされている相対速度Vの値Vm(即ち、相対速度値)を特定して出力する。
【0062】
ここで、FMCW方式のレーダでは、システム設計(具体的には特に、チャープ間隔)によって最大検知可能速度が決定される。このため、設計された速度以上を検出することはできない。また、FMCW方式のレーダを用いて相対速度が計算される際には、高速フーリエ変換処理が行われる。そして、高速フーリエ変換処理では、設計速度以上の物体が検出されると、速度情報の回り込み(「折り返し」とも呼ばれる)が発生し、正常な相対速度を検出することができなくなる。
【0063】
そこで、移動速度の検出装置1は、検出された相対速度の値そのもの以外の情報に着目して前記相対速度が正しいか否かを判断するための仕組みとして、回込み検出部7を有するようにしている。
【0064】
回込み検出部7は、移動速度特定部6から出力される相対速度Vの値Vmに関連するデータの特性に基づいて、高速フーリエ変換処理における速度情報の回り込みが発生しているか否かを判定する。回込み検出部7は、最大強度特定部71、データ数計数部72、および回込み判定部73を含んで構成される。
【0065】
最大強度特定部71は、信号処理部4から出力されるVRデータ(V,R,I)の集合について、相対速度の値別に、受信強度が最大である距離の値を特定する(ステップS7)。
【0066】
最大強度特定部71は、VRデータ(V,R,I)の集合を用いて、相対速度Vの値ごとに受信強度Iの最大値Imaxを特定し、特定された受信強度Iの最大値Imaxと組み合わされている距離Rの値Rmを特定する。最大強度特定部71によって特定される距離Rの値Rmのことを「最大強度距離値」と呼ぶ。
【0067】
最大強度特定部71は、相対速度Vと最大強度距離値Rmとの組み合わせからなるデータ(V,Rm)の集合を出力する。最大強度特定部71から出力されるデータ(V,Rm)のことを「最大強度距離データ」と呼ぶ。
【0068】
図5(A)に示すVRデータ(V,R,I)の集合を用いて算出される最大強度距離データ(V,Rm)の集合を
図5(B)に示す。
図5(B)では、横軸を相対速度Vとするとともに縦軸を最大強度距離値Rmとして表示している。
図5(B)中の〇印が、最大強度距離データ(V,Rm)の各組合せに対応するプロットである。なお、
図5(A)に示すVRデータ(V,R,I)は、
図3(A)に示すVRデータ(V,R,I)と同一のデータである。
【0069】
データ数計数部72は、最大強度特定部71から出力される最大強度距離データ(V,Rm)の集合について、所定の条件を満たすデータの個数を計数する(ステップS8)。
【0070】
データ数計数部72は、最大強度距離データ(V,Rm)の集合を用いて、最大強度距離値Rmが所定の範囲に入っており且つ相対速度Vの値が所定の範囲に入っているデータの個数を計数する。
【0071】
具体的には、まず、データの個数を計数する際の最大強度距離値Rmの範囲について、下限と上限とが設定される。なお、下限は0mに設定されるようにしてもよい。データの個数を計数する際の最大強度距離値Rmの範囲のことを「データ計数距離範囲」と呼ぶ。
【0072】
データ計数距離範囲は、特定の範囲に限定されるものではなく、例えばレーダ部3として用いられるレーダ系設備の仕様/性能(具体的には例えば、照射範囲)が考慮されるなどしたうえで適当な範囲に適宜設定される。
【0073】
データ計数距離範囲は、例えば、
図7に示すように、レーダ部3(具体的には、送信アンテナ,受信アンテナ)の地面Gへの正投影位置Gpからレーダ部3の正面方向Dfと地面Gとの交点Giまでの地面Gp-iに、レーダ部3の送信アンテナから放射された電波(即ち、送信波)の反射点および反射範囲が存在することを前提とし、レーダ部3の正投影位置Gpからレーダ部3の正面方向Dfと地面Gとの交点Giまでの地面Gp-iの範囲のうちのレーダ部3側の半分程度の範囲に設定されることが考えられる。具体的には例えば、レーダ部3の正投影位置Gpからレーダ部3の正面方向Dfと地面Gとの交点Giまでの地面Gp-i上の距離が10mであるときは、データ計数距離範囲の下限が0mに設定され得るとともに上限が5mに設定され得る。すなわち、データ計数距離範囲は、0≦Rm≦5 に設定され得る。なお、
図7に示す例のように、レーダ部3の正面方向Dfが俯角となるように調整されてレーダ部3が設置される(即ち、車両などに取り付けられる)ことが好ましい。
【0074】
図5(B)に示す最大強度距離データ(V,Rm)の集合に対するデータ計数距離範囲の設定の例を
図6(A)に示す(図中の破線で囲まれている範囲がデータ計数距離範囲である)。
図6の表示の仕方は、
図5(B)と同様である。
図6に示す例では、あくまで一例として、データ計数距離範囲の下限が0mに設定されているとともに上限が5mに設定されて、データ計数距離範囲が 0≦Rm≦5 に設定されている。
【0075】
また、データの個数を計数する際の相対速度Vの範囲は、移動速度特定部6から出力される相対速度Vの値Vm(即ち、相対速度値)よりも小さい範囲と、前記相対速度Vの値Vm(即ち、相対速度値)よりも大きい範囲とのそれぞれに設定される(
図6(B)参照)。データの個数を計数する際の、相対速度Vの値Vmよりも小さい範囲に設定される相対速度Vの範囲のことを「左側速度範囲」と呼び、相対速度Vの値Vmよりも大きい範囲に設定される相対速度Vの範囲のことを「右側速度範囲」と呼ぶ。
【0076】
左側速度範囲および右側速度範囲は、特定の範囲に限定されるものではなく、例えばレーダ部3として用いられるレーダ系設備の仕様/性能(具体的には例えば、最大検知可能速度)が考慮されるなどしたうえで適当な範囲に適宜設定される。なお、左側速度範囲と右側速度範囲とは、各々の範囲/幅の大きさが同じであるように設定される。
【0077】
左側速度範囲および右側速度範囲は、それぞれ、例えば、レーダ部3の最大検知可能速度の1/10程度の範囲に設定されることが考えられる。具体的には例えば、レーダ部3の最大検知可能速度が±100km/hであり、移動速度特定部6から出力される相対速度Vの値Vmが+15km/hであるときは、左側速度範囲が+5~+15km/hの範囲に設定され得るとともに右側速度範囲が+15~+25km/hの範囲に設定され得る。すなわち、左側速度範囲は +5≦V<+15 に設定され得るとともに、右側速度範囲は +15<V≦+25 に設定され得る。
【0078】
なお、移動速度の検出装置1自身の移動速度(即ち、相対速度Vの値Vm)がレーダ部3の最大検知可能速度の境界の近傍である場合は、左側速度範囲や右側速度範囲として設定される幅の大きさによっては、左側速度範囲または右側速度範囲は、速度情報の回り込みに対応するように折り返される範囲として設定される。
【0079】
データ数計数部72は、最大強度距離データ(V,Rm)の集合について、最大強度距離値Rmがデータ計数距離範囲に入っており且つ相対速度Vの値が左側速度範囲に入っているデータの個数を計数する。データ計数距離範囲内かつ左側速度範囲内のデータの個数のことを「左側データ数」と呼ぶ。
【0080】
データ数計数部72は、最大強度距離データ(V,Rm)の集合について、また、最大強度距離値Rmがデータ計数距離範囲に入っており且つ相対速度Vの値が右側速度範囲に入っているデータの個数を計数する。データ計数距離範囲内かつ右側速度範囲内のデータの個数のことを「右側データ数」と呼ぶ。
【0081】
回込み判定部73は、データ数計数部72から出力される左側データ数および右側データ数に基づいて、高速フーリエ変換処理における速度情報の回り込みが発生しているか否かを判定する(ステップS9)。
【0082】
回込み判定部73は、左側データ数と右側データ数とを比較して、これらの大小関係に基づいて、周波数解析部41による高速フーリエ変換処理において速度情報の回り込みが発生しているか否かを判定する。
【0083】
具体的には、左側データ数と右側データ数とを比較して、相対速度Vの値Vmの位置を基準として相対速度Vの値が0の位置からみて近い側の範囲のデータの個数(
図6(B)に示す例では、左側速度範囲内の左側データ数)の方が多い場合には、回込み判定部73は、速度情報の回り込みは発生していないと判定する。
【0084】
一方で、左側データ数と右側データ数とを比較して、相対速度Vの値Vmの位置を基準として相対速度Vの値が0の位置からみて遠い側の範囲のデータの個数(
図6(B)に示す例では、右側速度範囲内の右側データ数)の方が多い場合には、回込み判定部73は、速度情報の回り込みが発生していると判定する。
【0085】
例えば、
図6(B)に示す例では、左側データ数が80個であるとともに右側データ数が35個であり、相対速度Vの値Vm(即ち、約+15km/h)の位置を基準として相対速度Vの値が0の位置からみて近い側の範囲(即ち、左側速度範囲)のデータの個数である左側データ数の方が多いので、回込み判定部73は、速度情報の回り込みは発生していないと判定する。
【0086】
また、相対速度Vの値Vmの位置を基準として相対速度Vの値が0の位置からみて遠い側の範囲のデータ数の方が多い場合の例を
図8に示す。
図8に示す例は、シミュレーションデータである。
【0087】
図8(A)は、VRデータ(V,R,I)の集合の例である。
図8(A)の表示の仕方は
図3(A)と同様である。
【0088】
図8(A)に示すVRデータ(V,R,I)の集合を用いて受信強度積算値データ(V,Is)の集合が算出され、前記受信強度積算値データ(V,Is)の集合の中から受信強度積算値Isの最大値Ismaxが特定され、特定された受信強度積算値Isの最大値Ismaxと組み合わされている相対速度Vの値Vmが+70km/hであると特定される。
【0089】
また、
図8(A)に示すVRデータ(V,R,I)の集合を用いて最大強度距離データ(V,Rm)の集合が生成され、前記最大強度距離データ(V,Rm)の集合に対してデータ計数距離範囲が設定されるとともに左側速度範囲および右側速度範囲が設定されてそれぞれのデータの個数が計数され、左側データ数が8個であるとともに右側データ数が51個であると計数される。
【0090】
なお、
図8に示す例では、レーダ部3の正投影位置Gpからレーダ部3の正面方向Dfと地面Gとの交点Giまでの地面Gp-i上の距離が10mであり、データ計数距離範囲の下限が0mに設定されているとともに上限が5mに設定されている。すなわち、データ計数距離範囲は 0≦Rm≦5 に設定されている。
【0091】
図8に示す例では、また、レーダ部3の最大検知可能速度が±113.6km/hであるとともに相対速度Vの値Vmが+70km/hであり、左側速度範囲が+58.64~+70km/hの範囲に設定されているとともに右側速度範囲が+70~+81.36km/hの範囲に設定されている。すなわち、左側速度範囲は +58.64≦V<+70 に設定され得るとともに、右側速度範囲は +70<V≦+81.36 に設定され得る。
【0092】
図8(B)に示す例では、左側データ数と右側データ数とを比較すると、左側データ数が8個であるとともに右側データ数が51個であり、相対速度Vの値Vm(即ち、+70km/h)の位置を基準として相対速度Vの値が0の位置からみて遠い側の範囲(即ち、右側速度範囲)のデータの個数である右側データ数の方が多いので、回込み判定部73は、速度情報の回り込みが発生していると判定する。
【0093】
また、
図3、
図5、および
図6は移動速度の検出装置1自身が約+15km/hで移動している場合のデータの例であるのに対し、移動速度の検出装置1自身が約-15km/hで移動している場合のデータの例を
図9および
図10に示す。
【0094】
図9(A)は、移動速度の検出装置1自身が約-15km/hで移動している場合の、信号処理部4から出力されるVRデータ(V,R,I)の集合の例である。
図9(A)の表示の仕方は
図3(A)と同様である。
【0095】
図9(B)は、受信強度積算部5により、
図9(A)に示すVRデータ(V,R,I)の集合を用いて算出される受信強度積算値データ(V,Is)の集合である。
図9(B)の表示の仕方は
図3(B)と同様である。
図9(B)について、当該のデータが取得された際の移動速度の検出装置1自身の実際の移動速度(即ち、約-15km/h)に対応する(別言すると、相当する)速度成分の位置において、受信強度積算値Isの値が最大になっていることが確認できる。
【0096】
図10(A)は、
図9(A)に示すVRデータ(V,R,I)の集合を用いて算出される最大強度距離データ(V,Rm)の集合に対するデータ計数距離範囲の設定の例を示す図である(図中の破線で囲まれている範囲がデータ計数距離範囲である)。
図10(A)の表示の仕方は、
図5(B)と同様である。
図10に示す例では、あくまで一例として、データ計数距離範囲の下限が0mに設定されているとともに上限が5mに設定されて、データ計数距離範囲が 0≦Rm≦5 に設定されている。
【0097】
図10(B)は、
図10(A)のうちのデータ計数距離範囲の部分拡大図であり、最大強度距離データ(V,Rm)の集合に対する左側速度範囲および右側速度範囲の設定の例を示す図である。
【0098】
図9および
図10に示す例では、左側データ数が18個であるとともに右側データ数が78個であり、相対速度Vの値Vm(即ち、約-15km/h)の位置を基準として相対速度Vの値が0の位置からみて近い側の範囲(即ち、右側速度範囲)のデータの個数である右側データ数の方が多いので、回込み判定部73は、速度情報の回り込みは発生していないと判定する。
【0099】
一方で、仮に、相対速度Vの値Vmの位置を基準として相対速度Vの値が0の位置からみて遠い側の範囲のデータ数(
図10(B)に示す例では、左側速度範囲の左側データ数)の方が多い場合には、回込み判定部73は、速度情報の回り込みが発生していると判定する。
【0100】
回込み判定部73は、速度情報の回り込みは発生していないと判定した場合には回り込みは発生していない旨を、また、速度情報の回り込みが発生していると判定した場合には回り込みが発生している旨を、回り込みの発生の有無の判定結果として出力する。
【0101】
移動速度出力部8は、移動速度特定部6から出力される相対速度Vの値Vmと回込み検出部7から出力される回り込みの発生の有無の判定結果とに基づいて、移動速度の検出装置1の移動速度を出力する(ステップS10)。
【0102】
速度情報の回り込みは発生していない旨の判定結果が回込み検出部7から出力される場合には、移動速度出力部8は、移動速度特定部6から出力される相対速度Vの値Vmをそのまま移動速度の検出装置1の移動速度として出力する。
【0103】
一方、速度情報の回り込みが発生している旨の判定結果が回込み検出部7から出力される場合には、移動速度出力部8は、移動速度特定部6から出力される相対速度Vの値Vmについて速度情報の回り込みを考慮した計算処理を施したうえで移動速度の検出装置1の移動速度として出力する。
【0104】
速度情報の回り込みが発生している場合には、移動速度出力部8は、具体的には、レーダ部3の最大検知可能速度を±Vr(km/h)とすると、下記の数式1Aまたは数式1Bによって算出される速度Vm'(km/h)を移動速度の検出装置1の移動速度として出力する。なお、速度情報の回り込みが発生していて且つ相対速度Vの値Vmが0より大きい場合(即ち、Vm>0のとき)は、計算上は、速度Vm'はマイナスの値として算出される。
(数1A) Vm' = -Vr-(Vr-Vm) (Vm>0のとき)
(数1B) Vm' = +Vr+(Vr-Vm) (Vm<0のとき)
【0105】
図8に示す例では、具体的には、レーダ部3の最大検知可能速度±Vrが±113.6km/hであり、また、相対速度Vの値Vmが+70km/hであり(即ち、Vm>0である)、速度情報の回り込みが発生している場合であるので、上記の数式1Aに数値を当てはめた下記の数式2によって算出される速度Vm'(km/h)の絶対値が移動速度の検出装置1の移動速度として出力される。
(数2) Vm' = -113.6-(113.6-70) = -157.2
【0106】
なお、移動速度特定部6から出力される相対速度Vの値Vmが0であるときは、移動速度出力部8は移動速度の検出装置1の移動速度として0を出力する。
【0107】
(実施の形態2)
図11は、この発明の実施の形態2に係る移動速度の検出装置1の概略構成を示す機能ブロック図である。
図12は、移動速度の検出装置1における処理手順であるとともにこの発明の実施の形態2に係る移動速度の検出方法の処理手順を示すフローチャートである。
【0108】
この実施の形態では、高速フーリエ変換処理における速度情報の回り込みが発生しているか否かの判定の仕方が実施の形態1と異なり、具体的には回込み検出部7がデータ数計数部72の代わりに平均距離算出部74を含む点で異なるとともにステップS8およびステップS9の処理の内容が異なる一方で他の構成や処理の内容は実施の形態1と同様であるので、実施の形態1と同等の構成や処理の内容については、同一符号を付することでその説明を省略する。
【0109】
この実施の形態について、まず、レーダ部3、信号処理部4、受信強度積算部5、移動速度特定部6、および回込み検出部7の最大強度特定部71によるステップS1からステップS7までの処理は実施の形態1と同様である。
【0110】
この実施の形態では、回込み検出部7は、最大強度特定部71、平均距離算出部74、および回込み判定部73を含んで構成される。
【0111】
そして、実施の形態2に係る移動速度の検出装置1は、最大強度距離データ(V,Rm)の特性が、距離Rの値Rmが所定の範囲に入っている最大強度距離データ(V,Rm)のうち相対速度Vの値が相対速度値よりも小さい所定の範囲に入っている最大強度距離データ(V,Rm)の最大強度距離値Rmの平均値および相対速度値よりも大きい所定の範囲に入っている最大強度距離データ(V,Rm)の最大強度距離値Rmの平均値である、ようにしている。
【0112】
また、実施の形態2に係る移動速度の検出方法は、最大強度距離データ(V,Rm)の特性として、距離Rの値Rmが所定の範囲に入っている最大強度距離データ(V,Rm)のうち相対速度Vの値が相対速度値よりも小さい所定の範囲に入っている最大強度距離データ(V,Rm)の最大強度距離値Rmの平均値を算出するとともに相対速度値よりも大きい所定の範囲に入っている最大強度距離データ(V,Rm)の最大強度距離値Rmの平均値を算出する(ステップS8)、ようにしている。
【0113】
平均距離算出部74は、最大強度特定部71から出力される最大強度距離データ(V,Rm)の集合について、最大強度距離値Rmの平均値を算出する(ステップS8)。
【0114】
平均距離算出部74は、最大強度距離データ(V,Rm)の集合を用いて、最大強度距離値Rmが平均値算出距離範囲に入っており且つ相対速度Vの値が左側速度範囲に入っているデータについて、最大強度距離値Rmの平均値を算出する。平均値算出距離範囲内かつ左側速度範囲内のデータ群について算出される最大強度距離値Rmの平均値のことを「左側距離平均値」と呼ぶ。
【0115】
平均距離算出部74は、最大強度距離データ(V,Rm)の集合を用いて、また、最大強度距離値Rmが平均値算出距離範囲に入っており且つ相対速度Vの値が右側速度範囲に入っているデータについて、最大強度距離値Rmの平均値を算出する。平均値算出距離範囲内かつ右側速度範囲内のデータ群について算出される最大強度距離値Rmの平均値のことを「右側距離平均値」と呼ぶ。
【0116】
平均値算出距離範囲の設定の考え方は、実施の形態1におけるデータ計数距離範囲の設定の考え方と同様である。また、左側速度範囲および右側速度範囲は、実施の形態1と同様である。
【0117】
左側距離平均値および右側距離平均値の算出の例を
図13に示す。
図13の表示の仕方は
図5(B)と同様であり、
図13は平均値算出距離範囲ならびに左側速度範囲および右側速度範囲の条件を満たす範囲を含む部分を拡大して表示している。
【0118】
図13に示すデータが取得される際に使用されたレーダ部3の仕様/性能は、レーダ部3の正投影位置Gpからレーダ部3の正面方向Dfと地面Gとの交点Giまでの地面Gp-i上の距離が10mであり、最大検知可能速度が±113.6km/hである。また、移動速度特定部6によって特定された相対速度Vの値Vmが-15.7631km/hである。
【0119】
図13に示す例では、平均値算出距離範囲の下限が0mに設定されているとともに上限が5mに設定されている。
図13に示す例では、また、左側速度範囲が-27.1231~-15.7631km/hに設定されているとともに右側速度範囲が-15.7631~-4.4031km/hに設定されている。
【0120】
そして、
図13に示す例では、左側距離平均値が4.0071mと算出されるとともに右側距離平均値が2.3989mと算出される。
【0121】
回込み判定部73は、この実施の形態では、平均距離算出部74から出力される左側距離平均値および右側距離平均値に基づいて、高速フーリエ変換処理における速度情報の回り込みが発生しているか否かを判定する(ステップS9)。
【0122】
回込み判定部73は、左側距離平均値と右側距離平均値とを比較して、これらの大小関係に基づいて、周波数解析部41による高速フーリエ変換処理において速度情報の回り込みが発生しているか否かを判定する。
【0123】
具体的には、左側距離平均値と右側距離平均値とを比較して、相対速度Vの値Vmの位置を基準として相対速度Vの値が0の位置からみて近い側の範囲の距離の平均値(
図13に示す例では、右側速度範囲の右側距離平均値)の方が小さい場合には、回込み判定部73は、速度情報の回り込みは発生していないと判定する。
【0124】
一方で、左側距離平均値と右側距離平均値とを比較して、相対速度Vの値Vmの位置を基準として相対速度Vの値が0の位置からみて遠い側の範囲の距離の平均値(
図13に示す例では、左側速度範囲の左側距離平均値)の方が小さい場合には、回込み判定部73は、速度情報の回り込みが発生していると判定する。
【0125】
例えば、
図13に示す例では、左側距離平均値が4.0071mであるとともに右側距離平均値が2.3989mであり、相対速度Vの値Vm(即ち、-15.7631km/h)の位置を基準として相対速度Vの値が0の位置からみて近い側の範囲(即ち、右側速度範囲)の距離の平均値である右側距離平均値の方が小さいので、回込み判定部73は、速度情報の回り込みは発生していないと判定する。
【0126】
回込み判定部73は、速度情報の回り込みは発生していないと判定した場合には回り込みは発生していない旨を、また、速度情報の回り込みが発生していると判定した場合には回り込みが発生している旨を、回り込みの発生の有無の判定結果として出力する。
【0127】
移動速度出力部8は、移動速度特定部6から出力される相対速度Vの値Vmと回込み検出部7から出力される回り込みの発生の有無の判定結果とに基づいて、移動速度の検出装置1の移動速度を出力する(ステップS10)。
【0128】
移動速度出力部8によるステップS10の処理の内容は実施の形態1と同様である。
【0129】
上記のような移動速度の検出装置1や移動速度の検出方法によれば、レーダデータに基づいてレーダ装置(レーダ部3)自身の移動速度を推定することができるので、レーダ装置を取り付けることにより、受信アンテナ1系統の受信データのみから、種々の機材や機器あるいは車両や設備などの移動速度を知ることが可能となる。
【0130】
上記のような移動速度の検出装置1や移動速度の検出方法によれば、特に、レーダデータの周波数解析において速度情報の回り込みが発生しているか否かを判定するようにしているので、レーダ装置のシステム設計速度以上の物体が検出されても正常な相対速度を検出することが可能となり、延いては、移動速度を推定する技術としての信頼性を向上させることが可能となる。
【0131】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。
【0132】
具体的には、上記の実施の形態1では最大強度距離データ(V,Rm)の集合を用いて計数される左側データ数および右側データ数に基づいて、また、上記の実施の形態2では最大強度距離データ(V,Rm)の集合を用いて算出される左側距離平均値および右側距離平均値に基づいて、高速フーリエ変換処理における速度情報の回り込みが発生しているか否かを判定するようにしているが、回り込みの発生有無を判定するための指標はデータの個数や距離の平均値には限定されない。すなわち、最大強度距離データ(V,Rm)の集合について、データ計数距離範囲/平均値算出距離範囲内の最大強度距離データのうち、左側速度範囲に含まれる最大強度距離データの特性と右側速度範囲に含まれる最大強度距離データの特性との違いが現れるような指標であればどのような指標であってもよい。
【符号の説明】
【0133】
1 移動速度の検出装置
2 制御部
21 中央処理装置
22 ROM
23 RAM
3 レーダ部
31 送信部
32 受信部
4 信号処理部
41 周波数解析部
42 距離計算部
43 速度計算部
5 受信強度積算部
6 移動速度特定部
7 回込み検出部
71 最大強度特定部
72 データ数計数部(実施の形態1)
73 回込み判定部
74 平均距離算出部(実施の形態2)
8 移動速度出力部